説明

電界放出型電子放出素子、電界放出型電子放出素子の製造方法及び電界放出型電子放出素子の製造方法に用いるエッチング液

【課題】 量産製造することに好適な電界放出型電子放出素子、電界放出型電子放出素子の製造方法及び電界放出型電子放出素子の製造方法に用いるエッチング液を提供する。
【解決手段】 酸化剤と反応しても水易溶性とはならない金属をゲート電極104として積層する。酸化剤と反応し、水易溶性の酸化物を形成する金属が電子放出材料としてゲート電極110側から蒸着されることによって、キャビティ114内に電子放出材料をエミッタ電極116として堆積する。ゲート電極110と、不要な電子放出材料118との溶解比が1対10以上のエッチング液160中に電界放出型電子放出素子100を浸した状態で、エミッタ電極116に防食電位を印加することによって、エミッタ電極116の溶解を抑制するとともに、不要な電子放出材料118を溶解し、除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界放出型電子放出素子、電界放出型電子放出素子の製造方法及び電界放出型電子放出素子の製造方法に用いるエッチング液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電界放出型電子放出素子(以下、「FE素子」とも略称する)は、絶縁層を介して交差するゲート電極とカソード電極との間に電圧を印加することにより、カソード電極の先鋭部に電界を集中させ、これによるトンネル効果によって電子が障壁を突き抜けて真空中に放出される現象、即ち電界放出(Field Emission)現象を利用して電子を放出する素子である。
【0003】
このようなFE素子を利用した平面型表示装置として、FED(Field Emission Display)が知られており、相対的に高輝度及び低消費電力であることから注目を集めている。
【0004】
また、このようなFE素子のカソード構造として、一般的にコーン型と称される円錐型(スピント型)のエミッタ電極が設けられているものが知られている。具体的な一例としては、図1に示すように、FE素子100には、ガラス基板などの支持体102上に、カソード電極104、抵抗層106、絶縁層108、ゲート電極110が順に積層されている。また、絶縁層108にはキャビティ114が形成され、ゲート電極110には開口部112が形成されている。このキャビティ114内に円錐形のエミッタ電極116が形成されている。一方、エミッタ電極116の先端部に対向するように、蛍光体122、アノード電極124、ガラス基板126が配設されている。また、このようなFE素子100は、エミッタ電極116と蛍光体122との間が真空状態となるように封止されている。
【0005】
そして、カソード電極104とアノード電極124との間に電圧(具体的には、図1中においては符号VCC1で表す)を印加するとともに、カソード電極104とゲート電極110との間に電圧(具体的には、図1中においては符号VCC2で表す)を印加することによって、エミッタ電極116の先端部からアノード電極124に向かって(例えば、図1における矢印Aで表す)電子が放出され、蛍光体122を励起し、ガラス基板126側に(例えば、図1における矢印Bで表す)光を透過させることとなる。
【0006】
このような構成のFE素子100を製造するにあたっては、まず、図2(A)に示すように、支持体102上に、カソード電極104、絶縁層108及びゲート電極110が順に積層される。そして、また、絶縁層108にはキャビティ114が形成され、ゲート電極110には開口部112が形成される。
【0007】
このようなゲート電極110としては、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、タングステン(W)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)などを用いることができる。
【0008】
続いて、図2(B)に示すように、ゲート電極110側から電子放出材料が蒸着される。このとき、ゲート電極110の開口部112では電子放出材料が横方向にも成長するため、不要な電子放出材料118の堆積とともに、開口部112による口径が徐々に小さくなり、最終的に完全に閉じられる。その結果、絶縁層108のキャビティ114内には、ゲート電極110上での口径の縮小にしたがって円錐型のエミッタ電極116が形成される。このように電子放出材料を堆積させることによって、図2(C)に示すように、開口部112内には、円錐状のエミッタ電極116が形成されるとともに、ゲート電極110の表面には、不要な電子放出材料118の残留物が堆積する。そして、図2(D)に示すように、ゲート電極110の表面に堆積された電子放出材料118を除去する。
【0009】
このような電子放出材料としては、例えば、モリブデンなどの高融点金属を用いることができる。また、モリブデン以外にも、例えば、上述したカソード電極104及びゲート電極110の電極材料として挙げた金属材料の中から、タングステンなどの高融点金属を適宜選択して用いることもできる。
【0010】
そして、図1に示すように、蛍光体122、アノード電極124、ガラス基板126などは、エミッタ電極116と蛍光体122との間が真空状態となるように封止される。
【0011】
また、近年、不要な電子放出材料118を除去する方法としては、リフトオフ方式が代表的であり、それ以外にも各種の方式が用いられている。
【0012】
リフトオフ方式の具体的な一例としては、例えば、特許文献1に示すように、図3(A)に示す電子放出材料を蒸着させる前に、図3(B)に示すように、支持体102を回転させながら、ゲート電極110に対して、斜め方向から剥離層となる材料を蒸着させることにより、ゲート電極110とその開口部112を覆う状態で剥離層128が形成される。そして、上述したように、図3(C)に示すように、電子放出材料を蒸着させることによって、キャビティ114内に円錐状のエミッタ電極116が堆積されるとともに、剥離層128上に不要な電子放出材料118が堆積される。そして、図3(D)に示すように、ゲート電極110上の不要な電子放出材料118を剥離層128とともに除去する。具体的には、剥離層128をエッチングするエッチング液により、剥離層128を溶解し、不要な電子放出材料118などを除去する。また、このようなエッチング液は、不要な電子放出材料118などを溶解しないため、開口部112やキャビティ114内の側壁等に付着している不要な電子放出材料118などの有機系や金属系の残留物を、絶縁層108の表層部とともにフッ酸処理によって洗浄し、除去する。以上の製造プロセスにより、円錐型のエミッタ電極を用いたFE素子が得られる。
【0013】
一方、リフトオフ方式を用いない方式の具体的な一例としては、例えば、特許文献2に示すように、剥離層128(図3参照)を蒸着させることなく、不要な電子放出材料118などを除去する方式がある。このような場合においては、図2(C)に示すように、開口部112に円錐状のエミッタ電極116が堆積されるとともに、ゲート電極110の表面上に不要な電子放出材料118を堆積する。そして、図4に示すように、エミッタ電極116などに防食電位を印加するとともに、不要な電子放出材料118などをエッチングすることによって、除去する。尚、所望のときに、スイッチSWの状態に応じて、ゲート電極110及び不要な電子放出材料108に防食電位が印加される。
【特許文献1】特開2003−151427号公報
【特許文献2】特表2002−511182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述した電界放出型電子放出素子の製造方法では、電界放出型電子放出素子を量産製造することを考慮に入れると、様々な弊害を生じるおそれがあり、好適な製造方法ではなかった。
【0015】
具体的な一例としては、上述した特許文献1に示すようなリフトオフ方式においては、酸素プラズマ、オゾンなどによる酸化処理を用いた洗浄によって、開口部112、キャビティ114内の側壁等に付着していた極めて小さい汚染物、極めて薄い汚染物を除去するには効果的ではあるが、薄片となってエッチング液中に浮遊し、再付着したような極めて小さくはない汚染物、極めて薄くはない汚染物などに対しては、十分な溶解除去効果を得ることができないおそれがあった。このため、短絡によるリーク電流の増大などを引き起こすおそれがあり、検査工程における不良率が高まり、量産製造を考慮に入れると、好適な製造方法ではなかった。
【0016】
一方、例えば、上述した特許文献2に示すような方式においては、剥離層128を蒸着させず、不要な電子放出材料118を溶解し、除去するため、リフトオフ方式における固有の課題を解決することができる。しかし、この方式においても、量産製造を考慮に入れると、例えば、エッチングが完全に実行されるエッチング実行時間の短縮、エッチング液の選択など、好適な製造方法を選択することが容易ではない。具体的な一例としては、ゲート電極110及び不要な電子放出材料108に防食電位を印加することなく、硝酸や過酸化水素などの酸化剤を含有するエッチング液を用いることによって、アルミニウムなどから形成されたゲート電極が極度にエッチングされてしまうなど、エッチング液の選択などによっては、ゲート電極110上に直接堆積された不要な電子放出材料118とともに、ゲート電極110をもエッチングしてしまうことがあった。これによって、開口部112の拡大や、局所的なゲート電極110の薄膜化を招くこととなるおそれがあり、電界放出性能が劣化してしまい、例えば、ゲート抵抗の増加による信号遅延などの各種の問題が生じさせるおそれがあった。また、例えば、ゲート電極110及び不要な電子放出材料108にエッチング(または腐食)電位が印加されることがあるが、このようなエッチング(または腐食)電位を用いた場合には、エッチング実行時間が長くなり、量産生産には好適ではない。特に、例えば、エッチングを実行しているエッチング実行時間を短縮するためにも、ゲート電極110及び不要な電子放出材料108へのエッチング(または腐食)電位の印加を抑制し、これに加えて、酸化力の強い酸化剤を用いても、開口部112の拡大や、局所的なゲート電極110の薄膜化を防止することができるものが望まれている。
【0017】
本発明では上記課題を解決することのできる電界放出型電子放出素子、電界放出型電子放出素子の製造方法及び電界放出型電子放出素子の製造方法に用いるエッチング液を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以上のような目的を達成するために、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0019】
すなわち、請求項1記載の本発明では、支持体上に、カソード電極と、第一の開口部が形成された絶縁層と、当該第一の開口部の上方に第二の開口部が形成されたゲート電極とが順次積層されており、前記第一の開口部内にエミッタ電極が設けられた電界放出型電子放出素子において、前記ゲート電極は、酸化剤と反応しても水易溶性とはならない金属で形成され、前記エミッタ電極は、酸化剤と反応し、水易溶性の酸化物を形成する金属を電子放出材料として前記ゲート電極側から蒸着させることによって、前記第一の開口部内に前記電子放出材料が堆積されて形成され、前記ゲート電極と、前記エミッタ電極を堆積する場合に前記ゲート電極上に堆積された不要な電子放出材料との溶解比が1対10以上であるエッチング液中に浸した状態で、前記エミッタ電極に防食電位が印加されることによって、前記エミッタ電極の溶解を抑制するとともに、前記不要な電子放出材料を溶解し、除去したことを特徴とする電界放出型電子放出素子とした。
【0020】
また、請求項2記載の本発明では、支持体上に、カソード電極と、第一の開口部が形成された絶縁層と、当該第一の開口部の上方に第二の開口部が形成されたゲート電極とが順次積層されており、前記第一の開口部内にエミッタ電極が設けられた電界放出型電子放出素子の製造方法において、酸化剤と反応しても水易溶性とはならない金属を前記ゲート電極として積層し、酸化剤と反応し、水易溶性の酸化物を形成する金属を電子放出材料として前記ゲート電極側から蒸着させることによって、前記第一の開口部内に前記電子放出材料を前記エミッタ電極として堆積し、前記ゲート電極と、前記エミッタ電極を堆積する場合に前記ゲート電極上に堆積された不要な電子放出材料との溶解比が1対10以上のエッチング液中に前記電界放出型電子放出素子を浸した状態で、前記エミッタ電極に防食電位を印加することによって、前記エミッタ電極の溶解を抑制するとともに、前記ゲート電極上における前記不要な電子放出材料を溶解し、除去することを特徴とする電界放出型電子放出素子の製造方法とした。
【0021】
また、請求項3記載の本発明では、請求項2に記載の電界放出型電子放出素子の製造方法において、前記電子放出材料は、モリブテン又はタングステンであり、前記ゲート電極及び前記カソード電極は、クロム、アルミニウム、タンタル、チタン又はニオブ、若しくはこれらのいずれかを主成分とした合金であることを特徴とする電界放出型電子放出素子の製造方法とした。
【0022】
また、請求項4記載の本発明では、請求項2又は3に記載の電界放出型電子放出素子の製造方法において、前記酸化剤の濃度が0.1重量パーセント以上35重量パーセント以下であることを特徴とする電界放出型電子放出素子の製造方法とした。
【0023】
また、請求項5記載の本発明では、請求項2から4のいずれかに記載の電界放出型電子放出素子の製造方法において、前記防食電位を、ポテンショスタットを用いて制御することを特徴とする電界放出型電子放出素子の製造方法とした。
【0024】
また、請求項6記載の本発明では、支持体上に、カソード電極と、第一の開口部が形成された絶縁層と、当該第一の開口部の上方に第二の開口部が形成されたゲート電極とが順次積層されており、前記第一の開口部内にエミッタ電極が設けられた電界放出型電子放出素子の製造方法に用いるエッチング液において、前記ゲート電極は、酸化剤と反応しても水易溶性とはならない金属で形成され、前記エミッタ電極は、酸化剤と反応し、水易溶性の酸化物を形成する金属を電子放出材料として前記ゲート電極側から蒸着させることによって、前記第一の開口部内に前記電子放出材料が堆積されて形成され、前記電界放出型電子放出素子を浸した状態で、前記エミッタ電極に防食電位が印加されることによって、前記エミッタ電極の溶解を抑制するとともに、前記エミッタ電極を堆積する場合に前記ゲート電極上に堆積された不要な電子放出材料を溶解し、除去し、前記ゲート電極と前記不要な電子放出材料との溶解比が1対10以上であることを特徴とする電界放出型電子放出素子の製造方法に用いるエッチング液とした。
【0025】
また、請求項7記載の本発明では、請求項6に記載の電界放出型電子放出素子の製造方法に用いるエッチング液において、前記酸化剤の濃度が0.1重量パーセント以上35重量パーセント以下であることを特徴とする電界放出型電子放出素子の製造方法に用いるエッチング液とした。
【発明の効果】
【0026】
請求項1から3、6のいずれかの発明によれば、ゲート電極の劣化を抑制することができるとともに、不要な電子放出材料の溶解速度を高めることができ、量産製造を考慮に入れた好適な製品や、好適な製造を実現することができる。
【0027】
請求項4又は7の発明によれば、エッチング速度の安定性を得るとともに、所望の電子放出材料のエッチング効果を得ることができる。
【0028】
請求項5の発明によれば、ポテンショスタットを用いて防食電位を制御するので、防食電位をより一層安定して供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明に係る好適な一実施形態に係る電界放出型電子放出素子及びその製造方法及びこの製造方法に用いるエッチング液の特徴について以下に説明する。
【0030】
本発明では、支持体上に、カソード電極と、第一の開口部が形成された絶縁層と、当該第一の開口部の上方に第二の開口部が形成されたゲート電極とが順次積層されており、前記第一の開口部内にエミッタ電極が設けられた電界放出型電子放出素子において、ゲート電極としては酸化剤と反応しても水易溶性とはならない金属を用い、エミッタ電極を形成するためにゲート電極上に積層させる電子放出材料としては酸化剤と反応して水易溶性の酸化物を形成する金属を用い、エミッタ電極の形成後にはゲート電極上の電子放出材料を所要のエッチング液でエッチングすることにより除去しているものである。
【0031】
電子放出材料のエッチング時には、エミッタ電極部分の電子放出材料がエッチングされることを防止するために、エミッタ電極には防食電位を印加し、エミッタ電極の溶解を抑制するとともに、ゲート電極上における不要な電子放出材料を溶解し、除去している。
【0032】
そして特に、ゲート電極を構成する金属と、エミッタ電極を構成する電子放出材料の金属とは、酸化剤を含有するエッチング液による溶解比が1対10以上となるようにしているものである。
【0033】
従って、例えば、過酸化水素等、強力な酸化剤を含有するエッチング液を用いた場合であっても、ゲート電極の劣化を抑制する一方で、不要な電子放出材料の溶解速度を高めることができ、量産製造を考慮に入れた好適な製品や、好適な製造を実現することができる。
【0034】
さらに、電子放出材料にはモリブテン又はタングステンを用い、ゲート電極及びカソード電極には、クロム、アルミニウム、タンタル、チタン又はニオブ、若しくはこれらのいずれかを主成分とした合金を用いることによって、ゲート電極の劣化を抑制する一方で、不要な電子放出材料の溶解速度を高めることができ、量産性をより向上させることができる。
【0035】
また、エッチング液における酸化剤の濃度を0.1重量パーセント以上35重量パーセント以下とした場合には、エッチング速度の安定性を向上させることができるとともに、所望の電子放出材料のエッチング効果を得ることができる。
【0036】
また、エミッタ電極に印加する防食電位をポテンショスタットを用いて制御した場合には、防食電位をより一層安定して供給することができ、エミッタ電極がエッチングされることを防止できる。
【0037】
以下に、本発明の好適な一実施形態について図面に基づいて説明する。
【0038】
[FE素子の構成]
本実施形態におけるFE素子について図5及び図6を用いて説明する。尚、図5は、後述する表示面12が正面に位置するように配置された図であり、図6は、表示面12が上方に位置するように配置された図である。
【0039】
FE素子は、図5に示すように、画像を表示する表示面12を有する平面型表示装置10に用いられる。特に、FE素子は、FED(Field Emission Display)に用いられる。
【0040】
このFEDの一部は、図6に示すように、表示面12を有するアノードパネル20と、表示面12とは逆の方向に位置するカソードパネル30とを含んでいる。アノードパネル20とカソードパネル30とは、その間が真空状態となるように封止されている。
【0041】
詳しくは後述するが、カソードパネル30に形成されたエミッタ電極116(図1参照)から、アノードパネル20に対して電子が放出される。また、アノードパネル20は、RGBの各色に分かれている。また、エミッタ電極116から放出される電子の量によって、表示面12からの発光量が異なることとなる。これによって、RGBの発光が所定の発光量で行われ、各種の画像が表示されることとなる。
【0042】
また、カソードパネル30においては、後述するカソード電極104(図1参照)を形成するカソード電極ライン40と、ゲート電極110(図1参照)を形成するゲート電極ライン50とが交差するように積層されている。
【0043】
本実施形態におけるFE素子の構成について図1を用いて説明する。尚、図1に示す断面図は、カソード電極ライン40と、ゲート電極ライン50とが絶縁層108を介して交差する箇所における断面図である。
【0044】
FE素子100は、図1に示すように、支持体102上に、カソード電極104、抵抗層106、絶縁層108、ゲート電極110が順に積層されている。
【0045】
支持体102の材料としては、例えば、無アルカリガラス、低アルカリガラス、アルカリガラス、石英ガラス等のほか、アルミナ等のセラミック系材料、更には、表面に保護層を設けたポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリサルフォンフィルム、ポリエーテルサルフォンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェノキシエーテルフィルム、ポリアリレートフィルム等のプラスチックフィルム等を用いることができる。
【0046】
カソード電極104及びゲート電極110の材料としては、不要な電子放出材料118のエッチングに際し、電子放出材料とのエッチング選択比を向上させるために、酸化剤との反応にて金属膜表面に安定な不動態を形成する金属が好適であり、具体的な例としては、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、若しくは、これらの一つを主成分とする合金からなる金属を用いることが好適である。
【0047】
絶縁層108の材料としては、酸化珪素、窒化珪素などを用いることができる。
【0048】
後述する不要な電子放出材料118のエッチングに際し、電子放出材料とのエッチング選択比を向上させるために、エミッタ電極116などを構成する電子放出材料としては、酸化剤との反応にて水易溶性の酸素酸を形成する金属が好適であり、具体的な例としては、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などが好適である。
【0049】
また、絶縁層108にはキャビティ114が形成され、ゲート電極110には開口部112が形成されている。このキャビティ114内に円錐形のエミッタ電極116が形成されている。これら開口部112、キャビティ114は、カソード電極ライン40と、ゲート電極ライン50とが交差する箇所に形成されている。
【0050】
一方、エミッタ電極116の先端部に対向するように、蛍光体122、アノード電極124、ガラス基板126が配設されている。また、このようなFE素子100は、エミッタ電極116と蛍光体122との間が真空状態となるように封止されている。
【0051】
そして、カソード電極104とアノード電極124との間に電圧(具体的には、図1中においては符号VCC1で表す)を印加するとともに、カソード電極104とゲート電極110との間に電圧(具体的には、図1中においては符号VCC2で表す)を印加することによって、エミッタ電極116の先端部からアノード電極124に向かって(例えば、図1における矢印Aで表す)電子が放出され、蛍光体122を励起し、ガラス基板126側に(例えば、図1における矢印Bで表す)光を透過させることとなる。
【0052】
[エッチング装置の構成]
主にエミッタ電極116を形成する際に余分に堆積される電子放出材料をエッチングするためのエッチング装置200について図7を用いて説明する。尚、図7においては、一つのFE素子100について説明するための図であり、理解を容易とするために、その他のFE素子については省略している。
【0053】
エッチング装置200は、主に、FE素子100における不要な電子放出材料118を、溶解し、除去する装置である。
【0054】
エッチング装置200は、対電極150、壁部152、電源170などから構成される。
【0055】
壁部152は、FE素子100を浸すエッチング液160を蓄えるための壁である。
【0056】
対電極150は、エッチング液160に接触させることによって、エッチング液160に正電位を与え、エッチング液160中に浸されたFE素子100のエッチング処理を行うためのものである。
【0057】
電源170は、対電極150とエミッタ電極116に電位(具体的には、図7中においては符号VCC3で表す)を印加するためのものである。また、言い換えると、電源170は、対電極150に対して正電位を与えるとともに、エミッタ電極116に、防食電位としての負電位を与えるためのものである。尚、本実施形態においては、電源170の負電極は、カソード電極104に接続されており、カソード電極104、抵抗層106を介して、エミッタ電極116に防食電位が印加されることとなるが、これに限らない。
【0058】
尚、このようなエッチング装置200は、ポテンショスタット式の制御システムを備えた構成となっている。
【0059】
このように、ポテンショスタットを用いて防食電位を制御するので、防食電位をより一層安定して供給することができる。
【0060】
尚、本実施形態においては、ゲート電極110に特別に負電位を供給することなく、エミッタ電極116などに負電位を供給する状態でエッチング処理を行う構成としたが、これに限らず、例えば、ゲート電極110の溶解をより一層抑制させ、ゲート電極110と不要な電子放出材料118との溶解比(エッチング選択比)を向上させるために、ゲート電極110に微弱な負電位を供給する状態でエッチング処理を行う構成としてもよい。もちろん、この微弱な負電位は、エッチング実行時間を著しく長引かせることないような電位であればよい。
【0061】
[エッチング液の成分]
このようなエッチング液160は、エミッタ電極116を形成する場合に、ゲート電極110上に堆積された不要な電子放出材料118をエッチングした後に、ゲート電極の厚さが、エッチング前の厚さの半分以下にならないこと、若しくは、ゲート電極110に形成された開口部112の直径が約1.5倍以上にならないことを達成するものである。もちろん、このような条件に加えて、ゲート電極110上に堆積された不要な電子放出材料118を完全に溶解、除去が可能なものであればよい。言い換えると、ゲート電極110の厚さ、開口部112の直径のサイズ、堆積された不要な電子放出材料118の高さなどを考慮すると、ゲート電極110と、不要な電子放出材料118との溶解比が1対10以上のエッチング液160を用いることによって、上述したような条件が満たされる。
【0062】
このようなエッチング液160の組成は、上述したような溶解比を得られるものであればよく、特別限定するものではないが、例えば、通常、どのような材料であっても実現可能としていた、ゲート電極110の材料、電子放出材料の選択によって、量産製造に適したエッチング液が選択可能となる。
【0063】
従来においては、ゲート電極110としては、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、タングステン(W)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)などを用いることができ、電子放出材料としては、例えば、モリブデンや、それ以外にも、上述したゲート電極110の材料として挙げた金属材料の中から、タングステンなどを用いることもできるとしていた。これらの材料は、例えば、積層しやすいこと、蒸着させやすいことなどを考慮していた。
【0064】
しかし、このようなゲート電極110の材料、電子放出材料によっては、ゲート電極110と不要な電子放出材料118との溶解比が1対10以上となるようなエッチング液、即ち、酸化剤を容易には選択することができず、ゲート電極110の劣化を招くことがあった。また、酸化剤によっては、不要な電子放出材料118を溶解する速度を速めることができなかった。
【0065】
また、例えば、ゲート電極の配線抵抗による電圧降下によりエッチング終了点が基板面内で大きく偏りができてしまうおそれがあり、開回路電位を与える側に近いゲート電極側でゲート電極劣化の問題が顕著になりやすく、今後平面型表示装置の大型化に伴う処理においては致命的な問題となるおそれもある。
【0066】
更には、エッチング液に含有された電解質によって印加可能な正電位が制限されるため、ゲート電極110と、不要な電子放出材料118との溶解比を向上させることは容易ではなく、平面型表示装置の大型化に伴う生産性の向上が望まれていた。
【0067】
そこで、上述したように、例えば、積層しやすいこと、蒸着させやすいことなどによって選択されていたゲート電極110の材料、電子放出材料を、エッチング液、即ち、酸化剤の選択を容易とするために、上述したような材料に選択するといった斬新な思考が行われた。尚、具体的な酸化剤の一例については詳しく後述する。
【0068】
具体的には、上述したように、ゲート電極110の材料としては、図8に示すように、酸化剤との反応にて金属膜表面に安定な不動態を形成する金属(例えば、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、若しくは、これらの一つを主成分とする合金からなる金属など)を選択し、電子放出材料としては、酸化剤との反応にて水易溶性の酸素酸を形成する金属(モリブデン(Mo)、タングステン(W)など)を選択した。
【0069】
これによって、ゲート電極の劣化を抑制することができるとともに、不要な電子放出材料の溶解速度を高めることができ、量産製造を考慮に入れた好適な製造を実現することができる。
【0070】
また、エミッタ電極116と対電極150との距離の差異によって発生するエミッタ電極のエッチング抑制の不均衡を防止するために、エッチング液に更に電解質を含有させ、エッチング液の導電率を向上させることが好ましい。尚、具体的な電解質の一例については詳しく後述する。
【0071】
更には、エッチング液を長時間使用する場合において酸化剤の安定性を向上させるために、必要に応じて、エッチング液に更にキレート剤を含有させることが好ましい。尚、具体的なキレート剤の一例については詳しく後述する。
【0072】
エッチング液160に含まれる酸化剤としては、図8に示すように、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、アセチルパーオキサイド、ter−プチルパ−オキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、イソプチリルパーオキサイド、ジ−sec−プリルパーオキシジカーボネイト、クミルパーオキシネオデカノエイト等のアシルパーオキサイド、ter−プチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等のヒドロパーオキサイド、アゾピスイソプチロニトリル等のアゾ化合物、テトラメチルチウラムジスルフィド等のアルキルチウムジスルフィド、過酢酸、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸等のペルオキソ酸及びその塩、過塩素酸、次亜塩素酸、過沃素酸、過マンガン酸、クロム酸及びその塩等が挙げられ、また、過酸化水素又はクメンヒドロパーオキシド/2価の鉄塩の併用、過酸化ベンゾイル/ジメチルアニリンの併用、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩/亜硫酸水素ナトリウムの併用、ter−プチルヒドロパーオキサイド/アスコルピン酸の併用等のレドックス系酸化剤、オゾン(水)が挙げられる。
【0073】
これらの酸化剤のなかで、上述したいずれの酸化剤も単独又は2種類以上の併用で使用することができるが、取り扱い及び廃液処理の簡便さなどの観点から、過酸化水素が最適である。
【0074】
また、上述した酸化剤の濃度は特に制限はないが、通常は0.1重量パーセント以上35重量パーセント以下、好ましくは0.5重量パーセント以上10重量パーセント以下である。その濃度が0.1重量パーセント未満では所望の電子放出材料のエッチング効果が得られず、35重量パーセントを超えるとエッチング液のエッチング速度の安定性を得ることが困難となる。
【0075】
つまり、酸化剤の濃度が0.1重量パーセント以上35重量パーセント以下である場合には、エッチング速度の安定性を得るとともに、所望の電子放出材料のエッチング効果を得ることができる。
【0076】
また、このようなエッチング液160に含まれる電解質としては、これを添加することにより、エッチング液160の導電率を向上させることができる塩であればよく、特に限定されるものではないが、通常は、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、塩素酸、過塩素酸、亜硫酸、チオ硫酸、パーオキシ硫酸、亜硝酸、亜リン酸、メタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸、トリポリリン酸、ピロリン酸などの無機酸のアンモニウム塩、アルカリ金属塩、有機アミン塩、若しくは、シュウ酸、クエン酸、酢酸、ヒドロキシ酢酸、酒石酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、ピメリン酸、レブリン酸、乳酸、グルタール酸、マロン酸、フマール酸、イタコン酸、プロバントリカルボン酸、蟻酸、酪酸、フミン酸、フィチン酸及び5−スルホサリチル酸などの有機酸のアンモニウム塩、アルカリ金属塩、有機アミン塩などが用いられる。特に、導電率が100μS/cm以上となるように電解質を選択することが好ましい。また、被エッチング膜種により、所望の溶解比(エッチング選択比)、エッチング速度を得るために、上述の酸と塩基との割合を故意に偏らせて、意図してpHを調整してもよい。
【0077】
更に、電子放出材料が溶け込んだ場合のエッチング液160の安定を向上させるために、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸(DHEDDA)、1,3−プロパンジアミン四酢酸(1,3−PDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTNA)、ニトリロ酸酢酸(NTA)又はヒドロキシエチルイミノニ酢酸(HIMDA)等のアミノポリカルボン酸系キレート剤、メチルジホスホン酸、アミノトリスメチレンホスホン酸、エチリデンジホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1、1−ジホスホン酸、1−ヒドロプロピリデン−1、1−ジホスホン酸、エチルアミノビスメチレンホスホン酸、ドデシルアミノビスメチレンホスホン酸、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、エチレンジアミンビスメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸、ヘキセンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、1,2−プロパンジアミンテトラメチレンホスホン酸等のホスホン酸系キレート剤、更に分子中にホスホン酸基又はその塩の1以上を含有するキレート剤、それらの酸化体として、これらホスホン酸系キレート剤のうち、その分子中に窒素原子を有するものが酸化されてN−オキシド体となっている酸性キレート剤などのアンモニウム塩、金属塩、有機アミン塩が用いられる。
【0078】
このようなエッチング液160中における電解質の濃度は、特に限りはないが、例えば、通常においては、0.001重量パーセント以上10重量パーセント以下が好ましい。これは、濃度が0.001重量パーセント未満では、所望の導電率が得られず、更には、濃度が10重量パーセントを超えると、エッチング液160の粘性が上がるおそれがあるためである。
【0079】
[電界放出型電子放出素子の製造方法]
上述したように構成されるFE素子100の製造方法について図2及び図7を用いて説明する。
【0080】
このような構成のFE素子100を製造するにあたっては、まず、支持体102の片面全面にカソード電極104となる金属膜を成膜した後、その金属膜をパターニングすることによって、複数列のカソード電極ライン40を形成する。
【0081】
そして、カソード電極ライン40上に抵抗層106を積層する。そして、抵抗層106側から、絶縁層108が積層される。
【0082】
更に、絶縁層108側からゲート電極110となる金属膜を成膜した後、その金属膜をパターニングすることによって、複数列のゲート電極ライン50を形成する。また、これら複数列のゲート電極ライン50は、上述した酸化剤と反応しても水易溶性とはならない金属で形成されることとなる。尚、これらカソード電極ライン40とゲート電極ライン50とがマトリクス状に配置されることとなる。
【0083】
そして、カソード電極ライン40とゲート電極ライン50とが交差している箇所において、絶縁層108にはキャビティ114が形成され、ゲート電極110には開口部112が形成される。
【0084】
これによって、図2(A)に示すように、支持体102上に、カソード電極104、抵抗層106、絶縁層108、ゲート電極110が順に積層され、絶縁層108にはキャビティ114が形成され、ゲート電極110には開口部112が形成される。
【0085】
続いて、図2(B)に示すように、ゲート電極110側から電子放出材料が蒸着される。このとき、ゲート電極110の開口部112では電子放出材料が横方向にも成長するため、不要な電子放出材料118の堆積とともに、開口部112による口径が徐々に小さくなり、最終的に完全に閉じられる。その結果、絶縁層108のキャビティ114内には、ゲート電極110上での口径の縮小にしたがって円錐型のエミッタ電極116が形成される。このように電子放出材料を堆積させることによって、図2(C)に示すように、開口部112内には、円錐状のエミッタ電極116が形成されるとともに、ゲート電極110の表面には、不要な電子放出材料118の残留物が堆積することとなる。また、この電子放出材料は、上述した酸化剤と反応し、水易溶性の酸化物を形成する金属である。
【0086】
そして、FE素子100は、図7に示すように、エッチング装置200によってエッチングする。
【0087】
具体的には、壁部152内に、上述したエッチング液160を蓄える。そして、不要な電子放出材料118をエッチング液160に接触するようにFE素子100をエッチング液160中に浸す。そして、対電極150をエッチング液160に接触させるとともに、負電極を全てのカソード電極ライン40に接続させる。そして、正電位を対電極150に印加するとともに、負電位を全てのカソード電極ライン40に印加する。
【0088】
これによって、カソード電極ライン40に印加されている防食電位としての負電位がエミッタ電極116にも印加されるため、エミッタ電極116の溶解は抑制される。
【0089】
また、上述したように、ゲート電極110の材料と、電子放出材料と、エッチング液の組成の組合せによって、ゲート電極110と、不要な電子放出材料118との溶解比が1対10以上となる。従って、ゲート電極110の溶解を抑制するとともに、不要な電子放出材料118を溶解し、除去することとなる。
【0090】
これによって、図2(D)に示すように、ゲート電極110の表面に堆積された電子放出材料118を除去する。
【0091】
続いて、アノードパネル20とカソードパネル30との間が真空状態となるように封止する。
【0092】
これによって、不要な電子放出材料をエッチングすることによって、良好なFE素子100を製造することができる。
[実験例]
次に、上述したような構成において実施される実施例について詳しく説明するが、これらの例に限ることはない。
【0093】
ゲート電極110上に不要な電子放出材料が堆積された状態のカソードパネル30の処理を行った場合の実施例を示す。このカソードパネル30は、縦約2cm、横約5cmのサイズである。
【0094】
また、本実施例においては、図9に示すように、不要な電子放出材料118の高さ(図9中においては符号Aで示す)を約400nm、ゲート電極110の高さ(図9中においては符号Bで示す)を約90nm、ゲート電極110に形成された開口部112の直径(図9中においては符号Cで示す)を約150nm、エミッタ電極116の底面の直径(図9中においては符号Dで示す)を約150nm、エミッタ電極116の高さ(図9中においては符号Eで示す)を約245nmとしたものである。
【0095】
全てのカソード電極104に負電位を供給するとともに、対電極150に正電位を供給するように電源170が接続されており、それら全てのカソード電極104と対電極150との間の極間電位が約100Vに設定された状態に設定される。
【0096】
また、5重量パーセントの過酸化水素、0.5重量パーセントの1,2−プロパンジアミンテトラメチレンホスホン酸のテトラメチルアンモニウム塩を含む導電率が2000μS/cmのエッチング液160に、カソードパネル30を浸し、全てのカソード電極104と対電極150との間に約2mAの極間電流が流れる状態にて、約10分間のエッチング処理が行われた。このエッチング処理時間はカソードパネルの大きさにはよらない。尚、上述した特許文献2に示す実施形態において、本実施例と同じような条件で実行した場合には、エッチング処理時間は面積に大きく依存し、例えば20インチ程度のカソードパネルの場合には、実際には、約1時間のエッチング処理が必要となったため、約6分の1のエッチング実行時間となり、約6倍のエッチング処理速度を有することとなる。
【0097】
このような状態において、カソード電極104、ゲート電極110、エミッタ電極116のエッチングを抑制しつつ、ゲート電極110上に堆積された不要な電子放出材料118が溶解され、除去され、エミッタ電極116からの良好な発光が観察された。
【0098】
これによって、ゲート電極の劣化を抑制することができるとともに、不要な電子放出材料の溶解速度を高めることができ、量産製造を考慮に入れた好適な製造を実現することができる。
【0099】
尚、上述した実施例の他にも、図9(B)に示す実施例2においても同じような結果が得られる。具体的には、本実施例2においては、不要な電子放出材料118の高さ(図9中においては符号Aで示す)を約1800nm、ゲート電極110の高さ(図9中においては符号Bで示す)を約400nm、ゲート電極110に形成された開口部112の直径(図9中においては符号Cで示す)を約900nm、エミッタ電極116の底面の直径(図9中においては符号Dで示す)を約900nm、エミッタ電極116の高さ(図9中においては符号Eで示す)を約1100nmとしたものである。このようなサイズが異なるFE素子であっても同じような材料の組み合わせによって、同じような結果が得ることができる。
【0100】
尚、上述した実施形態においては、カソード電極104とエミッタ電極116との間に抵抗層106を設けたが、これに限らず、例えば、カソード電極104とエミッタ電極116との間に抵抗層106を設けなくてもよい。
【0101】
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではない。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。また、本発明の実施形態に列記された材料(物質)については、所定の材料を除くような構成であっても問題ないことがある。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明における好適な一実施形態に係るFE素子の構成を示す説明図である。
【図2】本発明における好適な一実施形態に係るFE素子の製造工程を示す説明図である。
【図3】本発明における好適な一実施形態に係るFE素子のリフトオフ方式の製造工程を示す説明図である。
【図4】従来におけるFE素子のエッチング方式を示す説明図である。
【図5】本発明における好適な一実施形態に係るFE素子の構成を示す概略図である。
【図6】本発明における好適な一実施形態に係るFE素子の構成を示す概略図である。
【図7】本発明における好適な一実施形態に係るFE素子のエッチング方式を示す説明図である。
【図8】本発明における好適な一実施形態に係るFE素子の材料を示す説明図である。
【図9】本発明における好適な一実施形態に係るFE素子の実施例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0103】
10 平面型表示装置
12 表示面
20 アノードパネル
30 カソードパネル
40 カソード電極ライン
50 ゲート電極ライン
100 電界放出型電子放出素子
102 支持体
104 カソード電極
106 抵抗層
108 絶縁層
110 ゲート電極
112 開口部
114 キャビティ
116 エミッタ電極
118 不要な電子放出材料
122 蛍光体
124 アノード電極
126 ガラス基板
128 剥離層
150 対電極
152 壁部
160 エッチング液
170 電源
200 エッチング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、カソード電極と、第一の開口部が形成された絶縁層と、当該第一の開口部の上方に第二の開口部が形成されたゲート電極とが順次積層されており、前記第一の開口部内にエミッタ電極が設けられた電界放出型電子放出素子において、
前記ゲート電極は、酸化剤と反応しても水易溶性とはならない金属で形成され、
前記エミッタ電極は、酸化剤と反応し、水易溶性の酸化物を形成する金属を電子放出材料として前記ゲート電極側から蒸着させることによって、前記第一の開口部内に前記電子放出材料が堆積されて形成され、
前記ゲート電極と、前記エミッタ電極を堆積する場合に前記ゲート電極上に堆積された不要な電子放出材料との溶解比が1対10以上であるエッチング液中に浸した状態で、前記エミッタ電極に防食電位が印加されることによって、前記エミッタ電極の溶解を抑制するとともに、前記不要な電子放出材料を溶解し、除去したことを特徴とする電界放出型電子放出素子。
【請求項2】
支持体上に、カソード電極と、第一の開口部が形成された絶縁層と、当該第一の開口部の上方に第二の開口部が形成されたゲート電極とが順次積層されており、前記第一の開口部内にエミッタ電極が設けられた電界放出型電子放出素子の製造方法において、
酸化剤と反応しても水易溶性とはならない金属を前記ゲート電極として積層し、
酸化剤と反応し、水易溶性の酸化物を形成する金属を電子放出材料として前記ゲート電極側から蒸着させることによって、前記第一の開口部内に前記電子放出材料を前記エミッタ電極として堆積し、
前記ゲート電極と、前記エミッタ電極を堆積する場合に前記ゲート電極上に堆積された不要な電子放出材料との溶解比が1対10以上のエッチング液中に前記電界放出型電子放出素子を浸した状態で、前記エミッタ電極に防食電位を印加することによって、前記エミッタ電極の溶解を抑制するとともに、前記ゲート電極上における前記不要な電子放出材料を溶解し、除去することを特徴とする電界放出型電子放出素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の電界放出型電子放出素子の製造方法において、
前記電子放出材料は、モリブテン又はタングステンであり、
前記ゲート電極及び前記カソード電極は、クロム、アルミニウム、タンタル、チタン又はニオブ、若しくはこれらのいずれかを主成分とした合金であることを特徴とする電界放出型電子放出素子の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の電界放出型電子放出素子の製造方法において、
前記酸化剤の濃度が0.1重量パーセント以上35重量パーセント以下であることを特徴とする電界放出型電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
請求項2から4のいずれかに記載の電界放出型電子放出素子の製造方法において、
前記防食電位を、ポテンショスタットを用いて制御することを特徴とする電界放出型電子放出素子の製造方法。
【請求項6】
支持体上に、カソード電極と、第一の開口部が形成された絶縁層と、当該第一の開口部の上方に第二の開口部が形成されたゲート電極とが順次積層されており、前記第一の開口部内にエミッタ電極が設けられた電界放出型電子放出素子の製造方法に用いるエッチング液において、
前記ゲート電極は、酸化剤と反応しても水易溶性とはならない金属で形成され、
前記エミッタ電極は、酸化剤と反応し、水易溶性の酸化物を形成する金属を電子放出材料として前記ゲート電極側から蒸着させることによって、前記第一の開口部内に前記電子放出材料が堆積されて形成され、
前記電界放出型電子放出素子を浸した状態で、前記エミッタ電極に防食電位が印加されることによって、前記エミッタ電極の溶解を抑制するとともに、前記エミッタ電極を堆積する場合に前記ゲート電極上に堆積された不要な電子放出材料を溶解し、除去し、
前記ゲート電極と前記不要な電子放出材料との溶解比が1対10以上であることを特徴とする電界放出型電子放出素子の製造方法に用いるエッチング液。
【請求項7】
請求項6に記載の電界放出型電子放出素子の製造方法に用いるエッチング液において、
前記酸化剤の濃度が0.1重量パーセント以上35重量パーセント以下であることを特徴とする電界放出型電子放出素子の製造方法に用いるエッチング液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−164803(P2006−164803A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355877(P2004−355877)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】