説明

電界放出素子の製造方法、及び、電界放出素子

【課題】カソードから効率的に電子放出することができ、かつ、耐久性の高い電界放出素子を得る。
【解決手段】基板6に繊維状の電子放出材料7を固定してカソードを得た後((a))、電子放出材料7を覆う接着層9を基板6上に形成し((b))、基板6から接着層9を剥離して電子放出材料7を起毛する((c))。(b)の工程において、0.1MPa以上に加圧しながら電子放出材料7に接着材料を接着させて、基板6に対して180度の剥離角度で剥離した時の剥離強さが0.6g/mm以上の接着層9を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界放出素子の製造方法、及び、電界放出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電子放出素子の製造方法としては、特許文献1〜5記載のものがある。
【0003】
特許文献1には、カーボンナノチューブ(CNT)を含むペーストからなるパターンを基板上に形成し、パターン表面にレーザを照射することにより、ペーストからCNT以外の炭素成分を選択的に除去してCNTより電子を放出する電子放出源の製造方法が記載されている。特許文献1では、耐性がありより多くの電子を放出させることができる電子放出源をより容易に作製できるとされている。
【0004】
特許文献2には、エミッタとして複数のCNTを含むCNT膜を形成する工程と、0.002N/mmを超え且つ0.2N/mm未満の粘着力を有する粘着シートをCNT膜上に付着させ、次いで該粘着シートを引き剥がすことによってCNTを直立配向させることを特徴とするエミッタの製造方法が記載されている。特許文献2では、これにより、CNT膜を用いながら均一で安定な放出電流を発生させ、良好なエミッション特性を得ることができるとされている。
【0005】
特許文献3には、CNTを混合したペーストの印刷でカソードを形成し、印刷表面に固形微粒子を吹き付けて多数の微小クレータを形成すると共にCNTを起毛させる工程を含む、電界放出型の表示装置等の自発光平面型表示装置の製造方法が記載されている。特許文献3では、この方法により、非接触でCNTを起毛させて十分な電子放出を得ることを可能にするとされている。
【0006】
特許文献4には、CNTを含む電子放出源である第1膜と第2膜とをカソード上に積層する工程と、第2膜表面に0.5〜10N/cmの粘着力を示す粘着材料を付着する工程と、粘着材料を剥離することによりCNTを突出させる工程とを含む電子放出源の製造方法が記載されている。特許文献4では、この方法により、表面の凹凸が少なく、針状炭素が均一に突出した電子放出源を得ることが可能であり、電子放出源からの電子放出特性を著しく向上させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−36243号公報
【特許文献2】特開2002−157953号公報
【特許文献3】特開2005−5079号公報
【特許文献4】特開2009−205943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記文献記載のCNTを用いた電界放出素子の製造技術では、以下の課題がある。
起毛前のカソードについては、CNT同士の接触・絡まり状態やCNTと基板との接触状態に応じて、電子放出材料の基板への密着性にばらつきがある。特に、CNTをペーストやインクにして印刷する場合、CNTはランダムに存在するため、このばらつきを抑制することは難しい。こうしたカソードに対して、上記文献記載の技術では、起毛後に基板上に残るCNTの基板への密着性を制御できないため、基板への密着性が低いCNTを残してしまう、という課題がある。基板への密着性が低いと、CNTは、電界によって剥離したり、接触抵抗による発熱で燃焼等の損傷を受けたりして電子放出能が低下する。また、このような問題は、CNT以外の繊維状の電子放出材料を用いた場合も同様に生じてしまう。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、カソードから効率的に電子放出することができ、かつ、耐久性の高い電界放出素子の製造方法、及び同製造方法で製造された電界放出素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、
基板に繊維状の電子放出材料を固定してカソードを得る工程と、
前記電子放出材料を覆う接着層を前記基板上に形成する工程と、
前記基板から前記接着層を剥離して前記電子放出材料を起毛する工程と、
を含み、
前記接着層を形成する前記工程において、0.1MPa以上に加圧しながら前記電子放出材料に接着材料を接着させ、前記基板に対して180度の剥離角度で剥離した時の剥離強さが0.6g/mm以上の前記接着層を形成する、電界放出素子の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、上記の方法によって製造された、電界放出素子が提供される。
【0012】
さらに、本発明によれば、上記の電界放出素子を備える、照明装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カソードから効率的に電子放出することができ、かつ、耐久性の高い電界放出素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態に係る電界放出素子の製造方法を説明する図である。
【図2】実施の形態に係る電界放出素子の製造方法で製造される電界放出素子を示す図である。
【図3】実施例の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0016】
図1は、本実施の形態の電界放出素子の製造方法を説明する図である。本実施の形態の方法は、基板6に繊維状の電子放出材料7を固定してカソードを得る工程と(図1(a))、電子放出材料7を覆う接着層9を基板6上に形成する工程と(図1(b))、基板6から接着層9を剥離して電子放出材料7を起毛する工程と(図1(c))を含む。図1(b)の工程において、0.1MPa以上に加圧しながら電子放出材料7に接着材料を接着させて、基板6に対して180度の剥離角度で剥離した時の剥離強さが0.6g/mm以上の接着層9を形成する。
【0017】
本実施の形態の方法で製造される電界放出素子の一例を図2に示す。電界放出素子には、カソード1及びアノード2を配置する。これらはそれぞれカソード基板3及びアノード基板4の上に形成することができる。カソード1には電子輸送部1Aと電子放出部1Bとを形成することができ、アノード2には電子輸送部2Aと電子衝突部2Bとを形成することができる。カソード1とアノード2との間にスペーサを配置し封着する等の方法で、これらの間を真空に保つことができる。電圧源5によって電圧を印加することで、電子放出部1Bから電子を放出させることができる。また、図示してはいないが、カソード1とアノード2との間に電子引き出し用のゲート電極など、追加の電極を1つまたは2つ以上加えることもできる。
【0018】
カソード1の電子輸送部1Aには、アルミニウム(Al)、銅(Cu)などの金属電極、ITO(酸化インジウムスズ)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)などの金属酸化物電極、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンなどの炭素電極を用いることができる。電子放出部1Bは、図1の電子放出層8に対応し、繊維状の電子放出材料7を含有する。電子放出材料7は、図1で示す方法によりカソード基板3に対して直立方向に起立させることができる。電子放出材料7自身が十分に導電性を有する場合や、電子放出材料7にさらに導電性材料を混ぜる場合は、電子輸送部1Aは必ずしも必要ではない。したがって、図1で示す基板6は、図2で示すカソード基板3であってもよいし、カソード基板3上に電子輸送部1Aを積層した積層体であってもよい。
【0019】
アノード2の電子輸送部2Aには、ITO、ZnO、TiOなどの金属酸化物、あるいはカーボンナノチューブ、カーボンナノホーンなどの炭素電極、といった透明電極を用いることができる。電子衝突部2Bは、電子線励起蛍光体とすることができる。以上の材料では発光素子を形成可能であるが、X線管・増幅素子など発光素子以外の用途においては、電子輸送部2AにAl、Cuなどの透明でない電極も用いることができ、また電子衝突部2Bに蛍光体以外も用いることができ、さらに電子衝突部2Bは必ずしも必要ではない。
【0020】
カソード基板3及びアノード基板4には、ガラス基板や石英基板、非ドープのシリコン基板など、電気的に絶縁性を有するものを用いることができる。カソード1とアノード2との間隔は0.1mmから300mmであることが好ましく、より好適には1mmから10mmである。カソード1とアノード2との間の空間は、1.0×10−3Pa以下、より好適には1.0×10−4Pa以下の真空度とすることが好ましい。
【0021】
図1に示す工程についてさらに詳細に説明する。まず基板6に電子放出材料として繊維状の電子放出材料7を固着させ、電子放出材料7を含有する電子放出層8を形成する(図1(a))。
【0022】
基板6には導電性を持つ金属や金属酸化物を用いてもよいが、電子放出層8が十分に導電性を持つ場合はガラスや石英、非ドープシリコンなどの絶縁体を用いることも可能である。
【0023】
繊維状の電子放出材料7としては、電界集中が起こる程度にアスペクト比が高く、かつ、導電性を有するものを用いることができ、例えば、炭素材料、金属ナノワイヤー、スピント型エミッタを用いることができる。炭素材料としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノチューブ・カーボンナノホーン複合体、カーボンファイバー、カーボンスティック、あるいはこれらの混合物を用いることができる。
【0024】
カーボンナノチューブは、ナノメートル程度の直径を持つ炭素の筒状構造体であるが、特にアスペクト比が高く、耐電流密度性が高いために好ましい。カーボンナノチューブとしては、単層、二層、三層以上の多層のいずれのカーボンナノチューブを用いることもできる。特に低電圧で電子を放出させる場合は単層が好ましく、また特に耐久性をより上げたい場合は多層とすることが好ましく、低電圧で電子を放出させ、かつ耐久性も上げたい場合は二層をとすることができる。
【0025】
また、繊維状の電子放出材料7として、例えば、金属ナノワイヤーや金属ナノチューブを用いることもできる。金属ナノワイヤーに含まれる金属材料としては、Ni、Co、Fe、Auが挙げられるが、これらに限定されない。また、金属ナノチューブに含まれる金属材料としては、Au、Ag、Pt、Rh、Irが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
電子放出材料7を含むペーストやインクを基板6に印刷することで、電子放出材料7を基板6に固着し、電子放出層8を形成させることができる。印刷法は、大面積化が容易であり、また、コストを削減できるため好ましい。ペースト中にはエチルセルロースなどの有機バインダーや、テルピネオールなどの溶媒を混合することもできる。さらに、電子放出材料7の固着を補助するため、ガラスフリットや金属、金属酸化物なども含有させることができる。金属は導電性を増大させる効果も持つ。印刷後には、焼成処理を行ってもよい。焼成環境は、例えば、大気などの酸素含有雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空とすることができる。
【0027】
また、電子放出層8は、電子放出材料7を基板6上に直接合成することもできる。例えば、カーボンナノチューブの場合、化学気相成長法によって直接合成することができる。この場合、まず、Fe、Ni、Co、Moなどのカーボンナノチューブ成長触媒を基板6上に配置する。その後、エチレン、アセチレンなどのガスやエタノール、メタノール、ベンゼン、トルエンなどの蒸気を炭素源として基材上に流し、高温にさらすことでカーボンナノチューブを成長させることができる。この際、希釈ガスとしてアルゴン、窒素、水素などを用いることができる。
【0028】
次に、電子放出材料7の表面を覆うように接着材料を接着させて、接着層9を形成する(図1(b))。このとき、電子放出材料7の表面の全面を覆うように接着材料を接着させると好ましい。接着層9を形成する接着材料は、塩化ビニル系、アクリル系、シリコーン系、ポリイミド系などの接着材料であっても良いが、これらに限られない。特に、プロセスの簡便性からは、感圧型接着材料あるいは粘着材が有用である。接着材料は、液状であっても、シート状であってもよいが、シート状の接着材料であれば、電子放出層8に容易に接着層9を形成することができる。このとき、接着材料を支持する基材があれば、接着の工程の制御がしやすくなるためより好ましい。また、接着層9に基材が設けられることで(図示せず)、剥離の工程も制御しやすくなるためより好ましい。
【0029】
ここで、電子放出層8と接着層9との界面の剥離強さが0.6g/mm以上となるように接着層9を形成することが好ましい。ここでいう剥離強さとは、基板6に対して剥離角度180度で接着層9を剥離する時、接着層9の剥離に要する力を接着層9と電子放出層8との界面の幅で割った値とする。例えば、上記0.6g/mmとは、剥離界面が20mm幅である場合に12gの力が必要であることを示す。剥離強さ0.6g/mm以上にすることで、密着性の低い電子放出材料7を基板6から取り除き、密着性の高い電子放出材料7のみ起毛した状態にて基板6に残すことができる。すなわち、電場による剥離や接触抵抗による発熱が少ない電子放出材料7を有する、耐久性の高い電界放出素子を得ることができる。また、剥離強さが1.1g/mm以上であれば、さらに密着性の高い電子放出材料7のみ残り、より耐久性の高い電子放出素子を得ることができるので、より好ましい。また、剥離強さ100g/mm以下にすることで、基板6に損傷を与えることなく、また、良好な密着性を有する電子放出材料7を基板6に残すことができる。なお、剥離角度とは、接着層9のうち電子放出層8に接着している領域と、電子放出層8から剥離した領域とがなす角度である。
【0030】
上記剥離強さを生じせしめるため、本実施の形態では、0.1MPa以上に加圧しながら接着材料を電子放出材料7に接着させるが、0.6MPa以上加圧するとより好ましい。このとき、100℃以上に加熱しながら接着材料を電子放出層8に接着させるとより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。また、接着強度が大きな、任意の接着材料を用いてもよいし、接着強度が増大する他の任意の条件を採用することもできる。加圧及び加熱の手段は特に限定されないが、シート状の接着材料を用いた場合は、このシート状の接着材料を電子放出層8に載置し、接着材料上に重しを載せて加圧することができる。また、接着材料の表面からロールを用いて加圧加熱してもよい。
【0031】
最後に、接着層9を剥離し、繊維状の電子放出材料7を起毛させる(図1(c))。接着層9が柔軟性を持つ場合、任意の角度で接着層9を剥離することができる。剥離角度180度で剥離することは制御性の良さから好ましいが、これに限られるものではない。接着層9を直線的に引っ張ることで剥離することもできるし、あるいはローラーに巻き取るように剥離することもできる。
【0032】
また、剥離は凝集破壊でないこと、すなわち、接着層9の内部での剥離が起きないことが好ましい。剥離が接着層9内部で起きてしまうと、接着層9の一部が電子放出層8に付着したまま残ってしまい、電子放出を妨げたりガス放出源となってしまったりする。剥離のそのほかの条件は任意とすることができるが、温度20〜30℃、剥離速度0.1〜8mm/秒とすることができる。
【0033】
本実施の形態において、繊維状の電子放出材料7が起毛した状態としては、繊維状の電子放出材料7が基板6に対して実質的に直立配向していればよく、具体的には、基板6に対して、10度〜170度の範囲に配向していることが好ましく、45度〜135度の範囲で配向しているとより好ましく、60度〜120度の範囲で配向しているとさらに好ましい。
【0034】
このようにして、カソード基板3又は電子輸送部1A上に、繊維状の電子放出材料7が起毛されたカソード1と、任意の方法により用意されたアノード2とを対向配置させ、電圧源5を介して接続し、電界放出素子を得る。
【0035】
本実施の形態の方法で得られる電界放出素子は、カソード1とアノード2との間を真空状態にし、電界を印加することで、起毛した繊維状の電子放出材料7の先端に電界が集中し、電子を放出させることができる。
【0036】
この電界放出素子には、アノード2に電子線励起発光蛍光体を配置して、発光素子を形成してもよい。こうすることで、放出された電子を電界によって加速し、同蛍光体に衝突させ、発光を得ることができる。本実施の形態で得られる電界放出素子を利用した、フィールドエミッションディスプレイやフィールドエミッションランプによれば、省電力で、かつ、平面で高輝度な発光素子が形成可能である。
【0037】
また、本実施の形態で得られる電界放出素子は、電子を衝突させるターゲットを適切に選んだり、ゲート電極を追加したりすることで、X線源や増幅素子などを形成してもよい。
【0038】
また、電界放出素子はさらに、通常の照明装置に必要なその他の部品を備えることにより、照明装置を構成することもできる。
【0039】
つづいて、本実施の形態の効果について図1を用いつつ説明する。本実施の形態の方法によれば、0.1MPa以上に加圧しながら接着材料を繊維状の電子放出材料7に接着させて、基板6に対して180度の剥離角度で剥離した時の剥離強さが0.6g/mm以上の接着層9を形成する。これにより、十分に大きな剥離強さで接着層9を起毛することができ、密着性の低い電子放出材料7を基板6表面から取り除き、密着性の高い電子放出材料7のみ起毛した状態にて基板6表面に残すことができる。これにより、起毛した電子放出材料7により良好な電界集中特性が得られ、かつ、電場による剥離や接触抵抗に起因する損傷を受けにくい電子放出層8とすることができる。したがって、カソードが効率的に電子放出でき、かつ、耐久性の高い電界放出素子を得ることができる。
【0040】
カーボンナノチューブを含め、電子放出材料を含有したペーストを印刷してカソードを形成する場合、電子放出材料が基板に対しておおよそ平行に向いてしまうことが多い。また他のカソード形成方法を採る場合でも電子放出材料が基板に平行に向くことが考えられる。しかし、電子放出材料の先端に電界を集中させるためには、電子放出材料を基板に対しておおよそ垂直に起毛させる必要がある。その方法としては、接着材料の剥離、レーザ照射、プラズマ照射、ドライアイスブラストといった方法が知られている。特に、接着材料の剥離は、簡便で量産性に優れるために一般的な方法である。
【0041】
しかしながら、起毛前のカソードについては、電子放出材料同士の接触・絡まり状態や電子放出材料と基板の接触状態に応じて、電子放出材料の基板への密着性にばらつきがある。特に電子放出材料をペーストやインクにして印刷する場合、電子放出材料はランダムに存在するため、このばらつきを抑制することは難しい。基板への密着性が低いと、電子放出材料は、電界によって剥離したり、接触抵抗による発熱で燃焼等の損傷を受けたりしてしまう。
【0042】
一方、本実施の形態の方法では、電子放出材料の基板6への密着性を制御することができるため、密着性の低い電子放出材料をカソード1から取り除き、密着性の高い電子放出材料のみ起毛した状態にてカソード1に残すことができる。したがって、電場による剥離や接触抵抗に起因する損傷が少ない電子放出材料を有する、耐久性の高い電界放出素子を得ることができる。
【0043】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0044】
具体的な実施例を用いて、本発明の電界放出素子の製造方法を説明する。
実施例1
電子放出材料としてカーボンナノチューブを用い、カーボンナノチューブ含有ペーストを印刷する方法によってカソードを形成した。ペーストの組成は、カーボンナノチューブ600mg、セルロース系有機バインダー120mg、ガラスフリット420mg、αテルピネオール6mlとした。これらを混合後、7時間機械的混練を行った。ペーストを、ITO付きガラス基板上にスクリーン印刷した。その後、有機バインダー及びαテルピネオールを除去するために、乾燥空気中480℃で1時間焼成し、さらに窒素中500℃で1時間焼成した。以上の工程で、カソードを備えたガラス基板を作製した。次に、圧力をかけずに粘着テープ(テクニテープT4、株式会社テクニスコ社製)をカソードに載せた後、ローラーで約0.6MPaの圧力、及び、約130℃の温度をかけて粘着テープをカソードに接着させた。その後、7.4mm/秒の速さ、180度の剥離角度、25℃でテープを剥離することでカーボンナノチューブの起毛を行った。このときの剥離強さを室温(25℃)で測定した。具体的には、万能試験機(静的引張試験機)(Instron社製、型番5567)を使用し、粘着テープとカソード基板とをそれぞれ万力で固定し、粘着テープ側にはロードセル(荷重センサ)を付け、粘着テープとカソード基板とが180度の角度をなすように引き離した。ロードセルが検出した剥離に要した力(単位:g)をテープの幅(単位:mm)で割り、剥離強さを求めた。得られた剥離強さは、1.1g/mmであった。最後に、カソードに対向する形でアノード(図2に示す構成において、電子衝突部2Bが蛍光体P22(白色)、電子輸送部2AがITOとしたもの)を設置して電圧源を介して接続し、電界放出素子を作製した。
【0045】
なお、剥離強さは0.1〜8mm/秒の範囲で剥離速度にあまり依存しなかった。また、電子顕微鏡で観察すると、カソードへの粘着材料の残留は見られず、凝集破壊は起きていないことが示唆された。さらに、粘着テープの幅を10mmとした場合に比べて20mmとした場合は、剥離強さは2倍程度となり、剥離強さは剥離界面の幅に比例していることがわかった。
【0046】
実施例2
実施例1において、粘着テープをカソードに接着させるときの温度を25℃に変えた以外は同様にし、電界放出素子を作製した。剥離強さを実施例1と同様に測定したところ、0.6g/mmであった。
【0047】
比較例1
実施例1において、圧力をかけずに粘着テープをカソードに載せた後、室温(25℃)で、重りを載せることで0.001MPaの圧力を1分間印加して接着させた以外は同様にし、電界放出素子を作製した。剥離強さを実施例1と同様に測定したところ、0.2g/mmであった。
【0048】
[評価]
実施例1、2、比較例1のそれぞれの電界放出素子に、10μA/cm程度の比較的小さな電流を2.5〜3時間流し、排気を行って、真空状態(1〜7×10−6Pa)にした。次に、25μA/cmに電流を上げ、定電圧下での電流の時間変化を評価した。電圧は6〜8kVであった。結果を図3に示す。
【0049】
なお、電圧を半分に変えて評価しても電流の時間変化変わらなかった。また電流の初期値を半分に変えても電流の時間変化は変わらなかった。電流はおおむね時間の経過とともに減少したが、実施例1、実施例2、比較例1の順に電流の減少率は小さかった。100時間後に外挿したときの電流の維持率は、それぞれ約100%、約80%、約30%であった。すなわち、粘着テープの剥離強さが大きいほどカソードの耐久性が高く、剥離強さはおおむね0.6g/mm以上が好ましく、さらに1.1g/mm以上がより好ましいことがわかった。
【0050】
実施例1、2比較例1における粘着シートの接着条件、及び、評価結果を表1にまとめた。
【0051】
【表1】

【符号の説明】
【0052】
1 カソード
1A 電子輸送部
1B 電子放出部
2 アノード
2A 電子輸送部
2B 電子衝突部
3 カソード基板
4 アノード基板
5 電圧源
6 基板
7 電子放出材料
8 電子放出層
9 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に繊維状の電子放出材料を固定してカソードを得る工程と、
前記電子放出材料を覆う接着層を前記基板上に形成する工程と、
前記基板から前記接着層を剥離して前記電子放出材料を起毛する工程と、
を含み、
前記接着層を形成する前記工程において、0.1MPa以上に加圧しながら前記電子放出材料に接着材料を接着させ、前記基板に対して180度の剥離角度で剥離した時の剥離強さが0.6g/mm以上の前記接着層を形成する、電界放出素子の製造方法。
【請求項2】
前記接着層を形成する前記工程において、100℃以上に加熱しながら前記電子放出材料に前記接着材料を接着させる、請求項1に記載の電界放出素子の製造方法。
【請求項3】
前記接着層を形成する前記工程において、前記電子放出材料の全面を前記接着材料で覆うようにして前記接着層を形成する、請求項1又は2に記載の電界放出素子の製造方法。
【請求項4】
前記接着材料が感圧型接着剤である、請求項1乃至3いずれか1項に記載の電界放出素子の製造方法。
【請求項5】
前記電子放出材料が、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、又は、これらの混合体若しくは複合体である、請求項1乃至4いずれか1項に記載の電界放出素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか1項の方法によって製造された、電界放出素子。
【請求項7】
請求項6に記載の電界放出素子を備える、照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−174461(P2012−174461A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34800(P2011−34800)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】