説明

電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法

【課題】鍛造工程で、ボス部内周のベアリング座面及びその端部、並びに円筒状コア部の外周両端の鍔部を作成することで材料の低減を図り、かつ同心度向上によりボス部内周、円筒状コア部外周及び摩擦面の内面切削の機械加工量の低減を図る。
【解決手段】素材1の絞り、しごき、後方押出の同時加工で円盤状の摩擦面2a、ボス部2b及円筒状コア部2cからなる一次成形品2を成形し、そのボス部2bの内周及び円筒状コア部2cの外周をしごいて、ボス部3bの内周下端に座面端3btを有するベアリング座面3bbを成形し、円筒状コア部3cの外周下端に鍔部3cfを突出残存させて二次成形品3を成形し、これを、摩擦面3a、ボス部3bと円筒状コア部3cとの間の空間及び円筒状コア部3cの上端部を除く外周を放射方向から拘束して位置決めの上、円筒状コア部3cの外端外周部をすえ込み加工して円筒状コア部4cの上端側外周に鍔部4cfを張り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーエアコンに使用される電磁クラッチ用ローターについて、冷間鍛造技術により、その円筒状コア部の外周両端の鍔部及びボス部内周のベアリング座面と摩擦面側のその端部まで加工することとする電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法に関するものである。
電磁クラッチ用コア鍔付ローターは、本来、励磁用コイル及びベアリングを備えた物をそのように称するが、ここでは、便宜的に、それらを備えていない成形品をそのように称することとする。
【背景技術】
【0002】
カーエアコンに使用される電磁クラッチ用ローターは、現在、円盤状の素材を鋼板から打ち抜き、得られた該円盤状素材のボス成形部内径打抜き加工時に発生する加工硬化部を部分焼鈍処理により硬化を除く焼鈍処理を施し、更にショットブラストにより酸化皮膜を除去し、かつ固形潤滑剤による潤滑処理であるボンデ処理を施した上で、冷間鍛造により、図6に示すように、外周両端に鍔部を備えない円筒状コア部20及び内周にベアリング座面を備えないボス部30を成形し、その後、その成形品を、旋削加工等の機械加工により、ボス部30の内周及び円筒状コア部20の外周を加工し、更に摩擦面40の機械加工等を行って作成するものである。当社ではこれまでこのような作成方法を採用してきた。
【0003】
特許文献1は、円筒状コア部の外周側にVベルトを掛けるためのV溝を構成するものであるが、これは、鍛造成形により、円筒状コアの更に外周側に一定間隔をあけて環状壁を作成し、これを外周側から転造加工しその底部が円筒状コア部に当接状態となるV溝を成形するものである。これによって切削ないし旋削工程等の機械加工工程は少なくなると思われるが、円盤状の素材からボス部、円筒状コア部及びその外周側の環状壁を成形する工程と、その後のV溝を作成する工程とはいずれも鍛造工程ではあるが、その動作態様が全く異なり、利用できる設備もそれぞれ全く異なる。
【0004】
特許文献2は、円盤状の摩擦壁の内周端にこれと直交する向きに突出形成した内周壁(ボス部)及び該摩擦壁の外周端にこれと直交する向きに形成した外周壁(円筒状コア部)を鍛造工程で成形した後、外周壁の外周面に別に作成した多連V溝を備えたプーリ部を溶接接合するものである。
【0005】
特許文献3、4は、特許文献2と同様に別に作成した多連V溝を備えたプーリ部を同様の部位に溶接接合するものである。
【0006】
特許文献5は、電磁クラッチの構造が示され、そのローターの内周には、ベアリングが配置され、該ローターの外周には多連V溝を備えたプーリ部が構成されている。またローターの内側の環状空間には励磁コイルが配されている。しかしそのローターの製造工程に関しては何も示されていない。
【0007】
特許文献6は、ロータ部にプーリ部を一体に構成しようとする観点からチャッキングに工夫を凝らしたものである。
これは、ベルトが掛けられるプーリ溝を有するプーリ部と、前記プーリ部と一体に回転すると共に、磁路を構成するロータ部と、前記ロータ部に吸引されるアーマチュアとを有し、前記ロータ部のうち前記アーマチュアに面する部位に、その肉厚方向に貫通する貫通穴からなる磁気遮断部が形成された電磁クラッチに適用される、
前記プーリ部と前記ロータ部とが一体形成されたプーリ一体型ロータの製造方法であって、
板材を所定形状に塑性加工し、前記ロータ部及び前記貫通穴に相当する凹部を形成するロータ部形成工程と、前記凹部にジグを挿入し、前記ロータ部形成工程にて形成されたワークをチャッキングするチャッキング工程と、前記チャッキング工程後、転造加工にて前記ワークに前記プーリ溝を形成するプーリ部形成工程とを備えるプーリ一体型ロータの製造方法、若しくはそのようにして作成したプーリ一体型ロータである。
【0008】
これは、プーリ部をロータの外周に一体に構成するもので、その工程が、殆ど鍛造工程のみで行われるものであり、歩留まりの良好なものであることは予測できる。しかしその鍛造工程中の、ロータ部の作成工程とプーリ部の作成工程とは、前記特許文献1のそれと全く同様に、その性質が全く異なり、使用する設備も全く異なる。またこの特許文献6の技術はそれぞれの工程が複雑にもなっている。
【0009】
【特許文献1】特公昭61−34896号公報
【特許文献2】特開平08−42602号公報
【特許文献3】特開平06−74257号公報
【特許文献4】特開平07−145832号公報
【特許文献5】実開平07−44360号公報
【特許文献6】特開平11−51088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような従来技術の問題点を解消し、鍛造工程で、ボス部内周にベアリング座面を、円筒状のロータコア部の外周両端に鍔部を、それぞれ作成するようにすることにより材料の使用量の低減を図り、かつこれによって、後工程の機械加工に於けるその部位の加工を不要とすることにより機械加工量の削減を同時に図ると共に、製造工程を簡明にし、トータルとして製造コストを低減し得る電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法を提供することを解決の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1は、中央穴を有する円盤状の素材を、該中央穴にマンドレルを貫通させて位置決めした上で、絞り、しごき、後方押出の同時加工により、円盤状の摩擦面、該円盤状の摩擦面の内周端から背後方向に突出するボス部及び該円盤状の摩擦面の外周端から背後方向に突出する円筒状コア部からなる一次成形品を成形する第1工程と、
該一次成形品を、その摩擦面に当接する下型及びボス部と円筒状コア部との間に挿入する上型で位置決めした上で、ボス部内周及び円筒状コア部外周をしごいて、該ボス部及び該円筒状コア部を延伸させながら、該ボス部内周にはその摩擦面側の端部に残存突出する座面端を有するベアリング座面を形成し、該円筒状コア部の外周にはその摩擦面側の端部に鍔部を突出状態に残存させて、二次成形品を成形する第2工程と、
該二次成形品を、その摩擦面に当接する当接面及びボス部の内側に挿入するマンドレルを有する下型、ボス部と円筒状コア部との間に装入する円筒部を有する上型、円筒状コア部の外端部を除いてその外周を放射方向から拘束する複数のセグメント型に分割した分割拘束型であって、該各セグメント型が放射方向に進退移動する分割拘束型、並びに該円筒状コア部をその外周側から拘束している分割拘束型をその状態に拘束する拘束上型で位置決めした上で、該円筒状コア部の外端を内周側の一部を除いてすえ込み加工して該円筒状コア部の外端側外周に鍔部を張り出させて、最終成形品を成形する第3工程と、
を順次実行する電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法である。
【0012】
本発明の2は、本発明の1の電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法に於いて、前記第3工程に於ける分割拘束型の複数のセグメント型の放射方向への進退移動を、各セグメント型に付設したシリンダ装置によって行うように構成したものである。
【0013】
本発明の3は、本発明の1又は2の電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法に於いて、前記第1工程に於ける素材として、深絞り用鋼板を採用したものである。
【0014】
本発明の4は、本発明の1、2又は3の電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法に於いて、前記第3工程に於ける拘束上型を、前記分割拘束型の上端の外周側部分及び外周側を拘束するように構成したものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の1の電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法によれば、簡明な工程を経ることで、容易かつ正確に、円筒状コア部の外周両端に鍔部を作成し、ボス部内周にベアリング座面を構成し、かつ摩擦面側端部に突出した座面端を作成した電磁クラッチ用コア鍔付ローターを作成することができる。このように鍛造工程でこれを成形する結果、材料の使用量を低減することができ、更に第2工程で、ボス部と円筒状コア部との間に挿入する上型で位置決めした上で、ボス部内周及び円筒状コア部外周をしごくため、ボス部と円筒状コア部の同心度の精度が向上することとなり、それ故、その後のボス部内周面、円筒状コア部外周面、及び摩擦面の内面の切削ないし旋削加工が省け、トータルとして製造コストを低減し得ることとなるものである。
【0016】
また円筒状コア部の外端にすえ込み加工を施して、その外周側に鍔部を張り出させる第3工程では、該円筒状コア部の鍔部を張り出させる外端部を除いて、その外周を放射方向から拘束する必要があるが、その拘束用の型を二つに分け、一つを該円筒状コア部の外周に向かって放射方向に進退する複数のセグメント型からなる分割拘束型に構成し、これでまず該円筒状コア部の外周部の前記所定部位を拘束し、もう一つを、該円筒状コア部を拘束する状態になっている分割拘束型のその状態を拘束すべく昇降する拘束上型に構成したため、加工対象の確実な拘束を確保しながら、型相互の干渉を生じさせずに、スピーディな動作を実現したものでもある。
【0017】
本発明の2の電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法によれば、分割拘束型を構成するセグメント型を、大きなスペースを取らずに、他の型との干渉を回避しながら、放射方向にスムーズかつスピーディに動作させることが可能になる。
【0018】
本発明の3の電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法によれば、冷間鍛造により、少ない工程で必要かつ十分な成形を行うことが可能になる。
【0019】
本発明の4の電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法によれば、分割拘束型を適切に拘束することが可能になるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施する最良の形態を図面を参照しながら実施例に基づいて説明する。
【0021】
この実施例の電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法は、基本的に、図1〜図5に示すように、第1工程で、中央穴1hを有する円盤状の素材1を、該中央穴1hを利用して位置決めした上で、絞り、しごき、後方押出の同時加工により、円盤状の摩擦面2a、該円盤状の摩擦面2aの内周端から背後方向に突出するボス部2b及び該円盤状の摩擦面2aの外周端から背後方向に突出する円筒状コア部2cからなる一次成形品2を成形し、
第2工程で、前記一次成形品2を、その摩擦面2a、ボス部2bと円筒状コア部2cとの間の空間(励磁コイルの装入空間)を利用して位置決めした上で、該ボス部2bの内周及び該円筒状コア部2cの外周をしごいて、該ボス部2b及び該円筒状コア部2cを後方に延伸させながら、背後方向に延伸したボス部3bの内周にはその摩擦面3a側の端部に残存突出させた座面端3btを有するベアリング座面3bbを形成し、同様に背後方向に延伸した円筒状コア部3cには、その摩擦面3a側の端部に鍔部3cfを突出状態に残存させて二次成形品3を成形し、
第3工程では、前記二次成形品3を、その摩擦面3a、ボス部3bと円筒状コア部3cとの間の空間及び円筒状コア部3cの外端部(上端部)を除くその外周を放射方向から拘束することで位置決めした上で、該円筒状コア部3cの外端部(上端部)を内周側の一部を除いてすえ込み加工して該円筒状コア部4cの外端側(上端側)外周に鍔部4cfを張り出させることにより最終成形品4を成形するものである。
【0022】
以下、以上に示した電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法を順次詳しく説明する。
【0023】
前記第1工程の素材1は、先に述べ、図5(a)に示すように、中央穴1hを有する円盤状部材であるが、これには、深絞り用鋼板等の十分な展延性を有する材料を使用すべきである。また、これは、最終的に電磁クラッチ用ローターを構成するものであるから、当然、優良な磁性材料である必要もある。この実施例では、素材1の材質としてSPHCを採用した。
【0024】
前記素材1は、前記したように、中央穴1hを備えた円盤状部材であるが、これは、前記材質の鋼板をブランキングして作成し、更にブランキングの加工硬化による割れと後工程での割れ防止のために焼鈍処理を行い、加えて固形潤滑剤処理であるボンデ処理を施しておくものとする。
【0025】
第1工程は、図1に示すように、中央のマンドレル11aと、これを中央に配したダイブロック11bと、これを囲む状態に配したメ型ダイス11cと、上パンチ11dとで構成した鍛造装置を使用して行う。
【0026】
前記マンドレル11aは、図1に示すように、その上部に前記素材1の中央穴1hより僅かに小径の小径部11a1を構成してあり、該小径部11a1の最下部を前記メ型ダイス11cの上面と一致する位置関係に構成してある。また該マンドレル11aには、該小径部11a1の最下部から下方に向かって徐々に大径になるテーパ状部11a2を構成し、該テーパ状部11a2の最下部以下を、前記一次成形品2のボス部2bの内径に対応する寸法の大径部11a3としてある。該テーパ状部11a2の最下部は、該一次成形品2の摩擦面2aがダイブロック11bの上面に当接している状態で、ボス部2b及び円筒状コア部2cのいずれの外端(上端)よりも高い位置に位置するように構成する。このマンドレル11aは、ボス部2bの内周部を成形するものである。
【0027】
前記ダイブロック11bは、図1に示すように、以上に述べた高さ位置関係で、前記マンドレル11aに外装状態となり、前記メ型ダイス11cに内装状態となるように配した円筒状部材である。そして該ダイブロック11bは、一次成形品2の成形後には上昇してこれを型外に排出する動作をするように構成したものでもある。
【0028】
前記メ型ダイス11cは、図1に示すように、その上端の周縁にアール部が構成してあり、絞り加工の際に材料がその内部に移動しやすくしてある。該メ型ダイス11cは、一次成形品2の円筒状コア部2cの外周を成形するものである。また円筒状コア部のしごき加工をする趣旨でもある。
【0029】
前記上パンチ11dは、図1に示すように、その内周側部材11d1を一次成形品2のボス部2bの外周と円筒状コア部2cの内周及び摩擦面2aの裏面を成形する円筒状部材に構成してあり、その外周側部材11d2は、その下端を該円筒状コア部2cの後方への延びを抑制する当接部とする円筒状部材に構成したものである。
【0030】
従ってこの第1工程では、上パンチ11dを上昇させた状態で、まず、前記素材1を、その中央穴1hを前記マンドレル11aの小径部11a1に嵌挿させ、かつその外周付近を前記メ型ダイス11cの上面周縁付近に載せて装置にセットし、次いで、前記上パンチ11dを下降させる。こうして、該素材1は該上パンチ11dの内周側部材11d1の下端で押し下げられ、絞り加工が行われる。更に該上パンチ11dを下降させると、下方に向かって徐々に狭まるように構成されているマンドレル11aと上パンチ11dの間、及びメ形ダイス11cと上パンチ11dの間で絞りしごき加工が行われ、該素材1の下面がダイブロック11bに当接するに至ると、これが圧縮され、後方押出加工が行われることになる。こうして、図1に示すように、絞り、しごき及び後方押出加工により、同心度の精度の高い、内周側のボス部2b、外周側の円筒状コア部2c及び前面側(下端側)の摩擦面2aが成形されることになる。なお、該上パンチ11dの外周側部材11d2の下端で円筒状コア部2cの後方への一定以上の延びが抑制されるため、ボス部2b側の必要な延びが確保されることになる。円筒状コア部2cの方がその厚み寸法を大きく設定してあるので、放置すると、該円筒状コア部2cの方が必要以上に延びる傾向を生じる。該上パンチ11dの外周側部材11d2の下端で円筒状コア部2cの上端を抑えるのは、これを抑制する趣旨である。
【0031】
この後、上パンチ11dを上昇させ、更にダイブロック11bも上昇させ、成形した一次成形品2を型内から排出させる。この一次成形品2は、図5(b)に示す通りのものとなっている。
【0032】
次いで、該一次成形品2には、第2工程の鍛造加工を、図2に示すように、その摩擦面2aを上端に載置する円筒状のダイブロック12aと、該一次成形品2のボス部2bと円筒状コア部2cとの間の円環状空間に上方から挿入してこれを正確に該摩擦面2a上に位置決めする円筒状の上パンチ12bと、該上パンチ12bの内部を一次成形品2のボス部2b内周をしごきながら下降してベアリング座面3bbを成形すると共に、その最下部、即ち、摩擦面2a側の端部内周に座面端3btを残存成形させる内径しごき上型12cと、前記上パンチ12bと同心状でその外方に位置し、一次成形品2の円筒状コア部2cの外周をしごきながら下降してその最下部、即ち、摩擦面2a側の端部外周に鍔部3cfを残存成形させる外径しごき上型12dとからなる鍛造装置を使用して実行し、第3次成形品3を作成するものである。
【0033】
前記内径しごき上型12cは、前記のように動作するものであり、図2に示すように、最下部を除いてベアリング座面3bbに対応する寸法の大径部12c1に、最下部は該ベアリング座面3bbの座面端3btに対応する小寸法の径である小径部12c2に構成してある。
【0034】
前記外径しごき上型12dは、前記のように動作するものであり、図2に示すように、その最下部内周を除いては、前記円筒状コア部2cを適切にしごくために小径部12d1に構成し、最下部内周は、該円筒状コア部3cの摩擦面3a側の鍔部3cfの径に対応する大径部12d2に構成してあるものである。
【0035】
従ってこの第2工程では、上パンチ12b、内径しごき上型12c及び外径しごき上型12dを上昇させた状態で、まず前記一次成形品2を、その摩擦面2aを下向きにしてダイブロック12aの上端に載せ、次いで、上パンチ12bを下降させ、その下部をボス部2bと円筒状コア部2cの間の空間(励磁コイル挿入空間)に挿入し、該一次成形品2を該ダイブロック12aの上端上に正確に位置決めする。次いで、前記内径しごき上型12c及び外径しごき上型12dを同時に下降させ、前者では、ボス部3bの内周部をしごいて肉厚を薄くすると共に後方に延伸して、ベアリング座面3bbを成形し、更に最下部には該ベアリング座面3bbの座面端3btを突出状態に残存させ、後者では、円筒状コア部3cの外周部をしごいて肉厚を薄くすると共に後方に延伸し、該円筒状コア部3cの下端(摩擦面3a近傍)直前には鍔部3cfを張出状態に残存させる。こうして図5(c)に示すような二次成形品3を成形する。
【0036】
この二次成形品3は、内径しごき上型12c、外径しごき上型12d及び上パンチ12bを上昇させて、型から取り出す。
【0037】
更に、以上の二次成形品3は、第3工程の鍛造加工を経て、前記円筒状コア部3cの外端(上端:摩擦面3aと反対側の端部)を内周側の一部を除いてすえ込み加工して外端側外周に鍔部4cfを張り出させ、円筒状コア部4cの外周両端に鍔部4cf、4cfを備え、ボス部4bの内周にベアリング座面4bbを備えると共に、摩擦面4a側の端部に突出したその座面端4btを構成した最終成形品4を鍛造成形する。
【0038】
この第3工程は、図3に示すように、二次成形品3の摩擦面3aに当接する当接面及びその中央に立設したマンドレル13a1を有する下型13aと、摩擦面3aを下向きにして該下型13a上に配した二次成形品3のボス部3bと円筒状コア部3cとの間に下部の円筒部13b1を挿入して位置決めを行う芯出し用上型13bと、円筒状コア部3cの外端部(上端部)を除いてその外周を放射方向から拘束する4個のセグメント型13c1、13c1…からなり、該各セグメント型13c1、13c1…が放射方向に進退移動するようになっている分割拘束型13cと、該円筒状コア部3cをその外周側から拘束している分割拘束型13cをその状態に拘束する拘束上型13dと、該円筒状コア部3cの外端(上端)外周側をすえ込み加工して外周方向に鍔部4cfを張り出させるすえ込み型13eとで構成した鍛造装置を使用して行う。
【0039】
前記下型13aのマンドレル13a1は、その外径を二次成形品3のボス部3bの内周の内、前記座面端4btに対応するようにその寸法を設定する。
【0040】
前記分割拘束型13cは、この実施例では、図4に示すように、その中心間の角度間隔を90度に設定した4個のセグメント型13c1、13c1…で構成したが、これに限定されない。中心間の角度間隔を120度に設定した3個のセグメント型で構成することも可能である。或いはそれらより多数のセグメント型で構成することも可能である。なお、この実施例のそれぞれのセグメント型13c1、13c1…の内周下部には、円筒状コア部3cの摩擦板3a側端に形成してある鍔部3cfとの干渉を回避するように相当する切欠部を形成しておく。また、前記したように、それぞれのセグメント型13c1、13c1…は、該円筒状コア部3cの外周外端(外周上端)については拘束しないように、所定高さ分だけ高さを低く構成してある。
【0041】
該分割拘束型13cの各セグメント型13c1、13c1…の放射方向の進退移動は、図3及び図4に示すように、この実施例では、それぞれにシリンダ装置14を付設し、これによって行うように構成したものである。シリンダ装置14、14…としては、この実施例では、エアシリンダを採用した。当然油圧シリンダを採用しても不都合ではない。この他に進退動作をする他の種々の機構を採用することも、云うまでもなく、可能である。
【0042】
前記拘束上型13dは、図3に示すように、最下部内周に大内径部13d1を形成してあり、この大内径部13d1で、円筒状コア部3cを拘束状態の分割拘束型13cを外装状態にして拘束し、また該大内径部13d1と上部の小径部との段差部で該分割拘束型13cの上端の外部側を拘束する。またこの拘束上型13dは、この実施例では、分割拘束型13cの個々のセグメント型13c1、13c1…に付設したシリンダ装置14、14…のロッド通過用の切欠13dg、13dg…を下部の対応部位に構成してある。
【0043】
また前記すえ込み型13eは、図3に示すように、芯出し用上型13bと拘束上型13dの間をスライド昇降するものであるが、その最下部内周を切り欠いて、その下端が、二次成形品3の円筒状コア部3cの外端(上端)の内周側の一部(概ね内周側の半分程度)には、当接しないように構成したものである。これによって外端(上端)の外側の一部(概ね半分)にすえ込み加工を施すようにしようとする趣旨である。
【0044】
従ってこの第3工程では、芯出し用上型13b、すえ込み型13e及び拘束上型13dを上昇させ、分割拘束型13cの4個のセグメント型13c1、13c1…を放射外方に後退させた状態で、下型13aに二次成形品3をセットする。具体的には、該下型13aのマンドレル13a1にボス部3bを嵌挿し、かつ摩擦面3aを該下型13aの当接面に当接状態とすることで、該二次成形品3を該下型13aに載置状態とする。
【0045】
次いで、前記分割拘束型13cの4個のセグメント型13c1、13c1…を、それぞれ付設してあるシリンダ装置14、14…に伸長動作させて、図4中実線で示してあるように、放射内方に移動させ、下型13a上に載置状態にしてある二次成形品3の円筒状コア部3cを抱えるような状態で拘束する。引き続いて、前記芯出し用上型13bを下降させて、その下部の円筒部13b1を該二次成形品3のボス部3bと円筒状コア部3cとの間に挿入して位置決めを行う。こうして該二次成形品3は、下型13a上で正確に位置決めされる。この後、前記拘束上型13dを下降動作させ、その下部の大内径部13d1で、円筒状コア部3cを拘束状態にしている前記分割拘束型13cを外装状態にして拘束し、更に該大内径部13d1と上部の小径部との段差部で該分割拘束型13cの上端の外部側を拘束する。
【0046】
このようにして二次成形品3を確実に拘束することにより、正確に位置決めし、かつすえ込み加工を施す円筒状コア部3cの上端及びそれによる不要な部位の膨出を避けるべくその上端外周部を除いて確実に抑えた上で、前記すえ込み型13eを下降させる。これによって、該すえ込み型13eは、その下端が、図3に示すように、該二次成形品3の円筒状コア部3cの外端(上端)の外側半分ほどにすえ込み加工を施すことになり、この部位の材料の一部を該円筒状コア部3cの拘束されていない上端外周部に流動させてこの部位に鍔部4cfを張り出させ、他の一部を上端内周側に流動させてその部位を若干延ばすことになる。
【0047】
こうして最終成形品4の成形が完了し、順次、すえ込み型13e、拘束上型13d及び芯出し用上型13bを上昇させ、更に分割拘束型13cのセグメント型13c1、13c1…を放射外方に後退させて、成形の完了した最終成形品4を型から取り出す。
【0048】
この最終成形品4は、図3及び図5(d)、(e)に示すように、予定形状に成形された摩擦面4aと、内周面に、ベアリング用座面4bb、その摩擦面4a側の端部に突出状態に残存する座面端4btを備えたボス部4bと、外周面の両端に鍔部4cf、4cfを張り出させた円筒状コア部4cとを備えたものとなっている。
【0049】
次に、以上の実施例で作成した最終成形品4と、これを使用して作成する電磁クラッチ用ローターと全く同一の電磁クラッチ用ローターを作成するための従来成形品(図6参照)の使用材料を示してその重量を比較検討する。
(1)この実施例の最終成形品4を作成する材料
材質 : SPHC
素材寸法 : 10.25t × φ122.5 × φ21.0
(外径) (内径)
投入重量 : 1.260kg
重量構成 : 1.260kg = 0.921kg + 0.339kg
(最終成形品重量) (スクラップ重量)
(2)従来成形品を作成する材料
材質 : SPHC
素材寸法 : 12.3t × φ123.5 × φ32.0
(外径) (内径)
投入重量 : 1.580kg
重量構成 : 1.580kg = 1.080kg + 0.50kg
(最終成形品重量) (スクラップ重量)
以上に於いて、投入重量は、素材寸法に示した寸法形状の素材を取ることができる最小寸法の正方形の材料板材の重量である。
【0050】
次に前記(1)の材料と(2)の材料との使用材料の重量比較を行う。使用材料の重量比較は、それぞれを作成するために必要な最小限の材料重量で比較するのが適当であると考えるので、(1)この実施例の最終成形品を作成する材料と(2)従来成形品を作成する材料とについて前記投入重量の比較、即ち、投入重量比を算出する。
投入重量比 = (1)材料の投入重量/(2)材料の投入重量
= 1.260kg/1.580kg
= 0.797
従って(1)この実施例の最終成形品を作成する材料は、(2)従来成形品を作成する材料に対して重量で約20.3%の低減が得られた、と云うことができる。
【0051】
それ故この実施例の電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法によれば、先に述べた発明の効果を悉く確保し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】鍛造装置で一次成形体を加工する第1工程を示す断面図。
【図2】鍛造装置で二次成形体を加工する第2工程を示す断面図。
【図3】鍛造装置で最終成形体を加工する第3工程を示す断面図。
【図4】分割拘束型とこれに付設したシリンダ装置を示す平面説明図。
【図5】(a)は実施例の一次成形体を作成するための円盤状の素材の断面図、(b)は一次成形体の断面図、(c)は二次成形体の断面図、(d)は最終成形体の断面図、(e)は最終成形体の背面図。
【図6】従来例の最終成形品である電磁クラッチ用ローターの機械加工用成形品。
【符号の説明】
【0053】
1 素材
1h 中央穴
2 一次成形品
2a 摩擦面
2b ボス部
2c 円筒状コア部
3 二次成形品
3a 摩擦面
3b ボス部
3bb ベアリング座面
3bt 座面端
3c 円筒状コア部
3cf 鍔部
4 最終成形品
4a 摩擦面
4b ボス部
4bb ベアリング座面
4bt 座面端
4c 円筒状コア部
4cf 鍔部
11a マンドレル
11a1 小径部
11a2 テーパ状部
11a3 大径部
11b ダイブロック
11c メ型ダイス
11d 上パンチ
11d1 内周側部材
11d2 外周側部材
12a ダイブロック
12b 円筒状の上パンチ12b
12c 内径しごき上型
12c1 内径しごき上型の大径部
12c2 内径しごき上型の小径部
12d 外径しごき上型
12d1 外径しごき上型の小径部
12d2 外径しごき上型の大径部
13a 第3工程用の下型
13a1 第3工程用の下型に立設したマンドレル
13b 芯出し用上型
13b1 芯出し用上型の円筒部
13c 分割拘束型
13c1 セグメント型
13d 拘束上型
13d1 拘束上型の大内径部
13dg 拘束上型の切欠
13e すえ込み型
14 シリンダ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央穴を有する円盤状の素材を、該中央穴にマンドレルを貫通させて位置決めした上で、絞り、しごき、後方押出の同時加工により、円盤状の摩擦面、該円盤状の摩擦面の内周端から背後方向に突出するボス部及び該円盤状の摩擦面の外周端から背後方向に突出する円筒状コア部からなる一次成形品を成形する第1工程と、
該一次成形品を、その摩擦面に当接する下型及びボス部と円筒状コア部との間に挿入する上型で位置決めした上で、ボス部内周及び円筒状コア部外周をしごいて、該ボス部及び該円筒状コア部を延伸させながら、該ボス部内周にはその摩擦面側の端部に残存突出する座面端を有するベアリング座面を形成し、該円筒状コア部の外周にはその摩擦面側の端部に鍔部を突出状態に残存させて、二次成形品を成形する第2工程と、
該二次成形品を、その摩擦面に当接する当接面及びボス部の内側に挿入するマンドレルを有する下型、ボス部と円筒状コア部との間に装入する円筒部を有する上型、円筒状コア部の外端部を除いてその外周を放射方向から拘束する複数のセグメント型に分割した分割拘束型であって、該各セグメント型が放射方向に進退移動する分割拘束型、並びに該円筒状コア部をその外周側から拘束している分割拘束型をその状態に拘束する拘束上型で位置決めした上で、該円筒状コア部の外端を内周側の一部を除いてすえ込み加工して該円筒状コア部の外端側外周に鍔部を張り出させて、最終成形品を成形する第3工程と、
を順次実行する電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法。
【請求項2】
前記第3工程に於ける分割拘束型の複数のセグメント型の放射方向への進退移動を、各セグメント型に付設したシリンダ装置によって行うように構成した請求項1の電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法。
【請求項3】
前記第1工程に於ける素材として、深絞り用鋼板を採用した請求項1又は2の電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法。
【請求項4】
前記第3工程に於ける拘束上型を、前記分割拘束型の上端の外周側部分及び外周側を拘束するように構成した請求項1、2又は3の電磁クラッチ用コア鍔付ローターの冷間鍛造成形法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−137261(P2010−137261A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316911(P2008−316911)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(301049593)茨城スチールセンター株式会社 (3)
【Fターム(参考)】