説明

電磁ブレーキの油付着防止構造

【課題】潤滑油密封型の軸受けから油が万一流出した場合でも、油付着による電磁ブレーキの制動力低下を防止すること。
【解決手段】電動機1のモータ軸2が潤滑油密封型の軸受け11を介して回転自在に支承されており、電磁ブレーキ4のブレーキ取付板18が電動機1に取り付けられ、潤滑油密封型の軸受け11とブレーキ取付板18との間のモータ軸2の外周部に、軸受け11内から流出してモータ軸2に付着した油をブレーキ取付板18の手前で堰き止めるための油堰止め部13を設けると共に、ブレーキ取付板18側に油堰止め部13で堰き止められた油を電磁ブレーキ4の外部に逃がすための油逃がし通路15を設けた電磁ブレーキの油付着防止構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機に用いられる電磁ブレーキの油付着を防止する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両等に用いられる電動ブレーキ付き電動機において、モータ軸を回転自在に支承する軸受けとして、再給油の必要性がないグリース密封型のものを使用することが一般的に知られている(例えば特許文献1参照)、
しかしながら、万一、ベアリングシール部の寿命及び損傷などが原因でグリースの漏れが発生した場合は、モータ軸を伝う油量はごく少量であるが、電磁ブレーキ内部に浸入してブレーキ制動面に付着した場合は、制動力を低下させることが予想される。
【0003】
特に、車両やエレベータ等のような安全性が問われる電磁ブレーキ付き電動機については、電磁ブレーキへの油付着による制動力の低下が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−71018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、潤滑油密封型の軸受けから潤滑油が万一流出した場合でも、簡易な構成で油がモータ軸を伝って電磁ブレーキのブレーキ制動面に浸入することを防止でき、油付着による制動力低下のない安全性の高い電磁ブレーキの油付着防止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明は、電動機1のモータ軸2が潤滑油密封型の軸受け11を介して回転自在に支承されており、電動機1の外部に、電動機1側に取り付けられるブレーキ取付板18と、上記電動機1からブレーキ取付板18の内側に突出するモータ軸2の端部に固定されるブレーキディスク5とを備えると共に無励磁状態でブレーキディスク5を拘束してブレーキをかけると共に励磁状態ではブレーキを開放する電磁ブレーキ4を配設した構造であって、上記潤滑油密封型の軸受け11とブレーキ取付板18との間のモータ軸2の外周部に、軸受け11内から流出してモータ軸2に付着した油をブレーキ取付板18の手前で堰き止めるための油堰止め部13を設けると共に、ブレーキ取付板18側に上記油堰止め部13で堰き止められた油を電磁ブレーキ4の外部に逃がすための油逃がし通路15を設けてなることを特徴としている。
【0007】
このような構成とすることで、電動機1のモータ軸2の軸受け11から万一、油が漏れてモータ軸2を伝って電磁ブレーキ4側に流れた場合でも、その油はモータ軸2の外周部の油堰止め部13で堰き止められ、さらにブレーキ取付板18側に設けられた油逃がし通路15に沿って電磁ブレーキ4外部に逃されるので、電磁ブレーキ4内への油の浸入を確実に防止できる。しかも、油逃がし専用の部品を別途用いることなく、既存のモータ軸2とブレーキ取付板18とを利用して油逃がし通路15を簡易に形成できるようになる。
【0008】
また、上記油逃がし通路15は、ブレーキ取付板18における油堰止め部13の下方に対向する部位に形成されて、油堰止め部13から離れる程徐々に低くなるように傾斜した傾斜面16を有するのが好ましく、この場合、油堰止め部13から滴下する油を傾斜面16に沿ってスムーズにブレーキ取付板18の外側に逃がすことができるようになる。
【0009】
また、上記ブレーキ取付板18の外側面18aに、一端が上記傾斜面16の下端と連通し、他端がブレーキ取付板18の下端部まで達する油流出用溝17を形成するのが好ましく、この場合、油漏れの点検は、油流出用溝17の下端部を手で触診するだけでよく、容易に点検することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、潤滑油密封型の軸受けから万一潤滑油が漏れてモータ軸に付着した場合でも、モータ軸に設けた油堰止め部及びブレーキ取付板の油逃がし通路を利用して、漏れた油が電磁ブレーキ内に浸入してブレーキ制動面へ付着することがなく、結果、簡易な構成で電磁ブレーキの制動力低下を未然に防止できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の電磁ブレーキの油付着防止構造を説明する断面図である。
【図2】同上の電磁ブレーキを2個備えた電磁ブレーキ装置の一例であり、(a)はブレーキ動作状態の説明図であり、(b)はブレーキ開放状態の説明図である。
【図3】同上の電磁ブレーキ装置を備える電動機の一部破断した側面図である。
【図4】同上の電磁ブレーキ装置の斜視図である。
【図5】同上の電磁ブレーキ装置を備えた電動機をエレベータの巻上機に用いる場合のエレベータシステム全体の斜視図である。
【図6】同上のエレベータシステムの下部付近を後方から見た斜視図である。
【図7】同上のエレベータシステムの下部に設けられる巻上機の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明する。
【0013】
図2(a)(b)は、本実施形態の電磁ブレーキ装置3に内蔵される2個の電磁ブレーキ4,4のブレーキ動作状態とブレーキ開放状態の一例を示しており、図3は電磁ブレーキ装置3を備える電動機1の一例を示しており、図4は電磁ブレーキ装置3の外観斜視図を示している。
【0014】
この電磁ブレーキ装置3は、例えばエレベータの巻上機23用の二重系ブレーキとして使用されるもので、電動機1のモータ軸2の軸方向Cに沿って並列配置される2個の電磁ブレーキ4,4を内蔵している。これらの電磁ブレーキ4,4は機械的に独立したものであり、個々にブレーキ動作及びブレーキ開放の機能を有している。
【0015】
電動機1に近い一方の電磁ブレーキ4(図2(a)の左側)を説明すると、電動機1のモータハウジング24から外部に突出するモータ軸2に対してブレーキディスク5が固定されている。ブレーキディスク5の片面側には、モータハウジング24の外壁面に取り付けられる後述のブレーキ取付板18を兼ねる固定制動板6が配置されており、固定制動板6のブレーキ制動面6aをブレーキディスク5の片面側のブレーキ制動面5aに対向させてある。
【0016】
ブレーキディスク5の他面側には、可動制動板7が対向配置されている。可動制動板7のブレーキ制動面7aをブレーキディスク5のブレーキ制動面5bに対向させてある。可動制動板7は、ガイド部材26を介して電磁ブレーキ4のケーシング25側に支持されている。ガイド部材26は、ケーシング25に取り付けられるガイドシャフト26aとガイドシャフト26aに沿って移動自在なガイド板26bとからなり、ガイド板26bに可動制動板7を取り付けることで、可動制動板7はモータ軸2の軸方向Cに移動自在に支持された状態となっている。
【0017】
上記可動制動板7のブレーキディスク5側とは反対側の面には、モータ軸2を周回する位置に円筒形のヨーク10が配置されている。ヨーク10は上記電磁ブレーキ4のケーシング25に対して固定されており、ヨーク10と可動制動板7との間にはシャフト50(図3)に装着されたブレーキ動作用のバネ8が介在されており、このバネ8によって可動制動板7はブレーキディスク5側に向けて常時付勢されている。なお、バネ8は円筒形のヨーク10の周方向に間隔をあけて例えば6個設けられており、各バネ8が働くブレーキ動作状態(図2(a))では可動制動板7とヨーク10間のギャップGは例えば0.2〜0.35mm程度とされる。
【0018】
上記円筒形のヨーク10の内部には電磁コイル9が巻回されて電磁石が構成されており、電磁コイル9への通電時に可動制動板7をバネ8の付勢力に抗して電磁吸引してブレーキ開放状態とするものである。
【0019】
電動機1から遠い他方の電磁ブレーキ4(図2(a)の右側)は、前記一方の電磁ブレーキ4と同じ構造をしており、対応する部位には同一の符号を付しておく。なお本例では、一方の電磁ブレーキ4のヨーク10の外側面に、他方の電磁ブレーキ4のブレーキディスク5に接触可能なブレーキ制動面6aが取り付けられており、これにより、一方の電磁ブレーキ4のヨーク10が他方の電磁ブレーキ4の固定制動板6を兼用している。
【0020】
さらに、電磁ブレーキ4のケーシング25の外側面には、図3に示すように、モータ軸2の回転角を磁気的に検出するエンコーダ27が取り付けられている。エンコーダ27は軸受け11´を介してモータ軸2に支承されている。
【0021】
さらに、モータ軸2には、上記エンコーダ27の軸受け11´以外に、図2に示すように、電磁ブレーキ装置3のモータハウジング24に回転自在に支承される軸受け11が設けられている。これら軸受け11(11´も同様)は、例えば4.86cm程度のグリースが密封された接触シール式のグリース密封型軸受けが用いられる。なお図2中の11は外輪、11bは内輪、11cはローラーである。
【0022】
上記構成の独立した2個の電磁ブレーキ4,4の非通電時には、可動制動板7がバネ8によって図2(a)の矢印方向eに付勢されてブレーキが動作状態となり、一方、2個の電磁ブレーキ4,4への同時通電時には可動制動板7が図2(b)の矢印方向dに電磁吸引されてブレーキが開放状態となる。
【0023】
ここで、本発明においては、電動機1の外部に隣接して配置される電磁ブレーキ装置3は、電動機1側に取り付けられるブレーキ取付板18を備えている。本例ではブレーキ取付板18の内面が固定制動板6を兼ねる構造となっている。
【0024】
また、上記潤滑油密封型の軸受け11とブレーキ取付板18との間のモータ軸2の外周部には、図1に示すように、ハブ14を取り付けるための段差が設けられている。ハブ14はブレーキディスク5を固定する機能に加えて、軸受け11内から流出してモータ軸2に付着した油をブレーキ取付板18の手前で堰き止めるための油堰止め部13としての機能も有している。
【0025】
また、上記ブレーキ取付板18には、油堰止め部13で堰き止められた油を電磁ブレーキ4の外部に逃がすための油逃がし通路15が設けられている。
【0026】
本例の油逃がし通路15は、ブレーキ取付板18に設けられる傾斜面16と、ブレーキ取付板18の外側面18aに設けられる油流出用溝17とで構成される。ブレーキ取付板18の中心側の内周面18bは、軸方向Cの一端側(ブレーキ取付板18の内側面側)の開口寸法よりも軸方向の他端側(ブレーキ取付板18の外側面18a側)の開口寸法が大きくなるように喇叭状に拡開しており、これにより油堰止め部13の下方に位置する内周面18b部分が、油堰止め部13から離れる方向(ブレーキ取付板18の外側面18a側)に向かう程徐々に低くなるように傾斜した傾斜面16となっている。さらにブレーキ取付板18の外側面18aにはその中心部から下端部に向かって上下方向に直線状に延びる油流出用溝17が形成されており、油流出用溝17の一端が上記傾斜面16の下端と連通し、他端がブレーキ取付板18の最下端まで達している。これにより、軸受け11→モータ軸2→油堰止め部13→傾斜面16→油流出用溝17へと連なる油逃がし経路G1〜G4が形成されている。
【0027】
しかして、上記潤滑油密封型の軸受け11内から万一、油が漏れ出したときは、モータ軸2を伝って電磁ブレーキ4側に浸入しようとするが、モータ軸2の外周部に設けた油堰止め部13によってそれ以上電磁ブレーキ4内へ浸入することがない。さらにこの油堰止め部13で堰き止められた油は、油堰止め部13の下方に位置するブレーキ取付板18の傾斜面16に滴下し、傾斜面16を伝ってブレーキ取付板18の外側へと導かれ、さらにブレーキ取付板18の外側面18aに上下方向に形成された油流出用溝17内を伝って電磁ブレーキ4外部へと導かれる。従って、電磁ブレーキ4内のブレーキ制動面5a,5b,6a,7aへの油付着がなく、電磁ブレーキ4の制動力低下を未然に防止することができる。また本例の2個の電磁ブレーキ4はブレーキ制動面5a,5b,6a,7aを4面備えているため、4面同時に油で汚される可能性はきわめて少ないものである。仮りに電動機1近傍に位置するブレーキ制動面5a,6aが汚損されても、他の3面によってブレーキ力及びモータ軸2の拘束力を十分に維持できるものである。
【0028】
また、油漏れの点検は、ブレーキ取付板18の油流出用溝17の下端部を触診するだけでよく、容易に点検することができる。従って、触診段階では電動機1を分解する必要がなく、メンテナンスを容易に行うことができる。
【0029】
図5〜図7は、本発明の油付着防止機能を備えた電磁ブレーキ装置3を、エレベータの巻上機23の電動機1に用いた場合の一例を示している。このエレベータは、エレベータかご20に主ロープ21を連結し、該主ロープ21を巻上機23により上下動させて該エレベータかご20を昇降路22に沿って垂直方向に昇降移動させるものである。本例の巻上機23は、昇降路22の下端部に配置されており、図7に示すように、2個の電磁ブレーキ4,4を内蔵する電磁ブレーキ装置3を備えた電動機1と、電動機1のモータ回転数をウォームギアで下げて目的のトルクを得る減速機30と、電動機1に減速機30を介して接続される駆動ドラム31とを備えている。なお図5中の32は乗場扉開閉装置、33はかご扉開閉装置、34は通常走行制御用電源制御盤、35は巻上機23の電動機1を入切りする電磁接触器である。
【0030】
しかして、前記実施形態と同様に、潤滑油密封型の軸受け11から万一潤滑油が漏れてもブレーキ制動面へ付着することがなく、電磁ブレーキ4の制動力低下を未然に防止できる効果に加えて、2個の電磁ブレーキ4,4を内蔵する電磁ブレーキ装置3をエレベータの巻上機23の電動機1に用いることにより、法的に義務付けられた二重系ブレーキを装備した安全性の高いエレベータの巻上機23を実現できる効果がある。
【0031】
本発明の電磁ブレーキの油付着防止構造は、エレベータ巻上機の電磁ブレーキ4に適用される以外に、車両や各種電動機1に用いられる電磁ブレーキ4に広く適用される。
【0032】
また電磁ブレーキ4の数は2個に限定されず、1個あるいは、3個以上であってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 電動機
2 モータ軸
3 電磁ブレーキ装置
4 電磁ブレーキ
5 ブレーキディスク
11 軸受け
13 油堰止め部
15 油逃がし通路
16 傾斜面
17 油流出用溝
18 ブレーキ取付板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機のモータ軸が潤滑油密封型の軸受けを介して回転自在に支承されており、電動機の外部に、電動機側に取り付けられるブレーキ取付板と、上記電動機からブレーキ取付板の内側に突出するモータ軸の端部に固定されるブレーキディスクとを備えると共に無励磁状態でブレーキディスクを拘束してブレーキをかけると共に励磁状態ではブレーキを開放する電磁ブレーキを配設した構造であって、上記潤滑油密封型の軸受けとブレーキ取付板との間のモータ軸の外周部に、軸受け内から流出してモータ軸に付着した油をブレーキ取付板の手前で堰き止めるための油堰止め部を設けると共に、ブレーキ取付板側に上記油堰止め部で堰き止められた油を電磁ブレーキの外部に逃がすための油逃がし通路を設けてなることを特徴とする電磁ブレーキの油付着防止構造。
【請求項2】
上記油逃がし通路は、ブレーキ取付板における油堰止め部の下方に対向する部位に形成されて、油堰止め部から離れる程徐々に低くなるように傾斜した傾斜面を有することを特徴とする請求項1記載の電磁ブレーキの油付着防止構造。
【請求項3】
上記ブレーキ取付板の外側面に、一端が上記傾斜面の下端と連通し、他端がブレーキ取付板の下端部まで達する油流出用溝を形成したことを特徴とする請求項2記載の電磁ブレーキの油付着防止構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−27234(P2011−27234A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175872(P2009−175872)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(505356468)パナソニック ホームエレベーター株式会社 (23)
【Fターム(参考)】