説明

電磁弁及び電磁弁の製造方法

【課題】大型化を招くことなく、シリンダを容易に加工することができるとともにその強度を確保することができる電磁弁及び電磁弁の製造方法を提供する。
【解決手段】電磁弁1は、弁室23を構成するシリンダ21の筒部22外周に設けられたコイル71を有し、該コイル71への通電によってシリンダ21内に設けられたプランジャ72を移動させることにより弁体52を弁座51に対して接離させるソレノイド部26を備えた。そして、ターミナル94によりコイル71に所定の張力が作用した状態を保持し、弁室23に導入された高圧ガスに抗する応力をシリンダ21に対して予め付与した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁弁及び電磁弁の製造方法に係り、特に高圧ガスの供給を制御するための電磁弁及び電磁弁の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば燃料電池車に搭載された水素タンクから高圧の水素ガスを取り出す場合等、高圧ガスの供給を制御するための電磁弁として、例えば特許文献1に記載されているものが知られている。この種の電磁弁は、内部に弁室が形成されたシリンダと、シリンダの内外を連通し、高圧ガス(水素ガス)を弁室に導入する導入路及び導入された高圧ガスを弁室から導出する導出路を含むガス流路とを備えている。そして、シリンダの外周に巻回状態で配されたコイルへ通電することにより、プランジャが弁室内を移動し、これにより弁体がガス流路を開閉する構成となっている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−240148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような電磁弁を水素タンクの外側に配設する場合には、シリンダの外側は大気圧と略等しくなる一方、シリンダ内(弁室)には高圧の水素ガスが供給されて高圧となるため、シリンダ内外での圧力差が大きくなる。そして、この圧力差に起因してシリンダには、その内側から外側に向かう大きな膨張力が作用することとなる。そのため、シリンダの変形を防止すべく、同シリンダの肉厚を厚く形成することで強度(耐圧性能)を確保する必要があり、この厚肉化に伴って電磁弁が大型化するという問題があった。
【0005】
そこで、シリンダを強度の高い材料により構成することで薄肉化を図り、電磁弁の大型化を防ぐことが考えられるが、一般にシリンダは切削加工により形成されるものであるため、強度の高い材料を用いると、その加工が困難になるという問題が生じる。
【0006】
なお、このような問題は、水素ガスの供給を制御する場合に限らず、その他の高圧ガスの供給を制御する電磁弁においても、同様に生じ得る。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、高強度の材料を用いたりシリンダを厚肉化させたりすることなく、高圧ガスによるシリンダの変形を防止可能な電磁弁及び電磁弁の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、内部に弁室が形成されたシリンダと、前記シリンダの内外を連通し高圧ガスを前記弁室に導入する導入路及び導入された高圧ガスを前記弁室から導出する導出路を含むガス流路と、前記シリンダの外周に巻回状態で配されたコイルと、前記コイルへの通電により前記弁室内を移動するプランジャと、前記プランジャの移動により前記ガス流路を開閉する弁体と、前記コイルに所定の張力が作用した状態を保持する保持手段と、を備え、前記弁室に導入された高圧ガスに抗する応力を前記シリンダに対して予め付与した要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、保持手段によってコイルに所定の張力を作用させた状態が保持されることにより、弁室に導入された高圧ガスに抗する応力がシリンダに対して予め付与される。従って、シリンダの内側から外側に向かう膨張力によりシリンダを変形させるには、コイル(導線)から付与された応力に抗して同コイルを一緒に変形させる必要があるため、シリンダは変形し難くなっている。このため、高強度の材料を用いたり、シリンダを厚肉化させたりすることなく、高圧ガスによるシリンダの変形を防止できる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電磁弁において、前記保持手段は、外部に接続されて前記コイルに駆動電流を供給するための端子であることを要旨とする。
上記構成によれば、接続端部が端子に固定されることによりコイルに作用する張力が保持されるため、別途接続端部を固定する専用の部材を設ける場合に比べ、部品点数の増大を抑制できる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、内部に弁室が形成されたシリンダと、前記シリンダの内外を連通し高圧ガスを前記弁室に導入する導入路及び導入された高圧ガスを前記弁室から導出する導出路を含むガス流路と、前記シリンダの外周に巻回状態で配されたコイルと、前記コイルへの通電により前記弁室内を移動するプランジャと、前記プランジャの移動により前記ガス流路を開閉する弁体と、前記コイルに所定の張力が作用した状態を保持する保持手段と、を備え、前記弁室に導入された高圧ガスに抗する応力を前記シリンダに対して予め付与した電磁弁の製造方法であって、前記コイルは、導線を前記シリンダの外周面に張力をかけながら巻回することにより形成されたことを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、シリンダの外周面に張力をかけながら導線を巻回することによりコイルが形成されるため、同コイルに作用させる張力を精度良く調整することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シリンダを厚肉化させる必要がないため、装置の大型化を防止することができる。また、高強度の材料を用いる必要がないため、シリンダの切削加工が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】電磁弁の概略構成を示す断面図。
【図2】電磁弁の概略構成を示す拡大断面図。
【図3】パイロット流路が開いた状態の電磁弁を示す拡大断面図。
【図4】導出路が開いた状態の電磁弁を示す拡大断面図。
【図5】シリンダに作用する膨張力を示す説明図。
【図6】コイルの接続端部のターミナルに対する接続を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を燃料電池車用水素ガスの供給を制御するための電磁弁に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、電磁弁1は、略円柱状に形成されたバルブボディ11を備えている。このバルブボディ11には、その側面に開口する断面円形状の流入ポート12、及びその軸方向一端側(図1における左側)に開口する断面円形状の流出ポート13が形成されている。また、バルブボディ11には、流出ポート13に連続する嵌合孔14が該流出ポート13と同軸上に形成されている。この嵌合孔14は、流出ポート13よりも大径に形成されており、その内周面には流入ポート12の内側端部が開口している。さらに、バルブボディ11には、嵌合孔14に連続するとともに同バルブボディ11の軸方向他端側(図1における右側)に開口し、該嵌合孔14よりも大径の収容孔15が形成されている。そして、流入ポート12には、高圧の水素ガスが充填された水素タンク(図示略)が接続されて、高圧ガスとしての水素ガスが流入する一方、流出ポート13には、燃料電池(図示略)が接続されて、流入ポート12から流入した水素ガスを流出するようになっている。
【0015】
また、電磁弁1は、バルブボディ11の内部に固定される略有底円筒状のシリンダ21を備えており、該シリンダ21における筒部22の内側に流入ポート12及び流出ポート13に連通した弁室23が形成されるようになっている。さらに、電磁弁1は、流出ポート13と弁室23とを連通する導出路24を開閉するバルブ部25と、バルブ部25を駆動して導出路24を開閉させるソレノイド部26とを備え、導出路24の開閉に応じて水素ガスの供給を制御する構成となっている。
【0016】
先ず、シリンダ21及びその周辺構成について説明する。
シリンダ21には、その底部31から軸方向一端側に突出する円柱状の突出部32が筒部22と同軸上に形成されている。また、底部31及び筒部22の外径はバルブボディ11の嵌合孔14の内径と略等しく形成されるとともに、突出部32の外径は流出ポート13の内径と略等しく形成されている。そして、突出部32が流出ポート13に嵌合するとともに、底部31が嵌合孔14に嵌合することで、バルブボディ11にシリンダ21が固定されている。なお、バルブボディ11の軸方向他端側には、円板状の蓋部材33が固定されており、収容孔15の開口端が閉塞されている。また、シリンダ21は、底部31の外底面31aと、流出ポート13と嵌合孔14との間の段差面34とが離間した状態でバルブボディ11に固定されており、嵌合孔14と突出部32との間に上記流入ポート12と連通した作用空間35が形成されている。
【0017】
そして、本実施形態のシリンダ21には、流出ポート13と弁室23とを連通する上記導出路24が形成されている。具体的には、導出路24は、底部31の内底面31b及び突出部32の先端面32aに開口するとともに、シリンダ21の軸心と同軸上に形成されている。この導出路24により、流出ポート13と弁室23とが連通されている。また、シリンダ21には、弁室23と作用空間35、すなわち弁室23と流入ポート12とを連通する導入路36が形成されている。この導入路36は、底部31の内底面31b及び外底面31aに開口するとともに、シリンダ21の軸心から偏心した位置に形成されている。そして、これら導出路24及び導入路36によりシリンダ21の内外を連通するガス流路が構成されている。なお、シリンダ21は、水素脆化に対して耐性を有し、比較的加工の容易なアルミ合金(例えばA6061−T6(JIS規格)等)や、ステンレス綱(例えばSUS316L(JIS規格)等)により構成されている。
【0018】
なお、底部31と嵌合孔14との間には、Oリング41が設けられるとともに、該Oリング41の収容孔15側には、そのはみ出しを防止するためのバックアップリング42が設けられており、底部31と嵌合孔14との間が気密にシールされている。また、突出部32と流出ポート13との間には、Oリング43が設けられるとともに、該Oリング43の流出ポート13側には、そのはみ出しを防止するためのバックアップリング44が設けられており、突出部32と流出ポート13との間が気密にシールされている。
【0019】
次に、バルブ部25の構成について説明する。
バルブ部25は、導出路24における弁室23側(図1における右側)に設けられる弁座51、及び該弁座51に対して接離する方向(シリンダ21の軸方向)に移動可能に設けられる弁体52を備えている。
【0020】
図2に示すように、この弁座51は環状に形成されており、導出路24と同軸上に配置されてシリンダ21に固定されている。具体的には、シリンダ21の底部31における内底面31b側には、導出路24よりも大径の収容凹部53が該導出路24と同軸上に形成されており、弁座51は収容凹部53内に収容されてシリンダ21に固定されている。なお、弁座51は、ポリイミド樹脂やポリエーテルエーテルケトン樹脂等の弾性変形可能な材料により構成されている。また、弁体52は、略円柱状の本体部54と、該本体部54の軸方向一端側から突出して上記弁座51に当接する当接部55とから構成されている。なお、当接部55は、本体部54よりも小径で、且つ弁座51の内径よりも大径に形成されている。そして、弁体52が弁座51に着座する、すなわち弁体52の当接部55が弁座51に当接することで導出路24が閉じた状態となり、流入ポート12から流出ポート13へ水素ガスが供給されないようになっている。一方、弁体52が弁座51から離座する、すなわち弁体52の当接部55が弁座51に離間することで導出路24が開いた状態となり、流入ポート12から流出ポート13へ水素ガスが供給されるようになっている。このように、本実施形態では、弁体52により導出路24(ガス流路)が開閉される構成となっている。
【0021】
また、本実施形態では、弁体52には、弁座51に着座した状態で導出路24に開口するパイロット流路61が形成されている。そして、弁室23には、パイロット流路61を開閉するためのパイロットバルブ部62が設けられている。
【0022】
詳述すると、パイロット流路61は、弁体52における当接部55の先端側に開口するとともに、本体部54の軸方向他端側に開口し、弁体52の軸心と同軸上に形成されている。また、パイロット流路61の断面積は、導出路24の断面積よりも小さく形成されている。
【0023】
パイロットバルブ部62は、パイロット流路61における導出路24と反対側に設けられたパイロット弁座63と、該パイロット弁座63に対して接離することにより該パイロット流路61を開閉するパイロット弁体64とを備えている。このパイロット弁座63は、円環状に形成されており、パイロット流路61と同軸上に配置されて弁体52に固定されている。具体的には、本体部54の軸方向他端部(図2における右側)には、パイロット流路61よりも大径の収容凹部65が該パイロット流路61と同軸上に形成されており、パイロット弁座63は収容凹部65内に収容されて弁体52に固定されている。なお、パイロット弁座63は、ポリイミド樹脂やポリエーテルエーテルケトン樹脂等の弾性変形可能な材料により構成されている。また、パイロット弁体64は、球形状に形成されるとともに、パイロット弁座63に着座した状態では弁体52の本体部54と、該パイロット弁体64との間に隙間ができるように形成されている。そして、パイロット弁体64がパイロット弁座63に着座することでパイロット流路61が閉じた状態となる一方、パイロット弁体64がパイロット弁座63から離座することでパイロット流路61が開いた状態となり、該パイロット流路61を介して導出路24に水素ガスが供給されるようになっている。
【0024】
次に、ソレノイド部26の構成について説明する。
図1及び図2に示すように、ソレノイド部26は、シリンダ21における筒部22の外周に巻回状態で配されたコイル71と、シリンダ21内(弁室23)に移動可能に設けられたプランジャ72と、シリンダ21の軸方向においてプランジャ72と対向するステータ73とを備えている。そして、コイル71への通電により、プランジャ72がステータ73に吸引されることで弁体52が弁座51から離座する。より詳しくは、パイロット弁体64がパイロット弁座63から離座してパイロット流路61が開いた後に、弁体52が弁座51から離座して導出路24が開くようになっている。このように、弁体52はプランジャ72の移動により導出路24(ガス流路)を開閉するようになっている。
【0025】
詳述すると、プランジャ72は略円柱状に形成されるとともに、軸方向一方側に開口した摺動孔75が形成されている。この摺動孔75は、弁体52の外径よりも僅かに大径に形成されており、該摺動孔75内に弁体52がプランジャ72と相対摺動可能に収容されている。また、摺動孔75の開口端部には、該摺動孔75よりも大径の拡径部75aが形成されるとともにこの拡径部75aには、環状の係止部材76が固定されている。この係止部材76の内径は、弁体52の本体部54よりも小径、且つその当接部55よりも大径に形成されている。そして、プランジャ72が吸引されて係止部材76が本体部54に係止されることで、プランジャ72と弁体52とが一体で移動するようになっている。
【0026】
また、プランジャ72には、摺動孔75に連続するとともに、その軸方向他端側に開口する貫通孔77が該摺動孔75と同軸上に形成されている。この貫通孔77における摺動孔75側には、パイロット弁体64が圧入固定されており、該パイロット弁体64とプランジャ72とが一体で移動するようになっている。そして、弁体52が弁座51に着座するとともにパイロット弁体64がパイロット弁座63に着座した状態で、弁体52は係止部材76との間に所定距離を空けて設けられるようになっている。なお、所定距離とは、パイロット弁体64がパイロット弁座63から離間可能な距離である。これにより、パイロット弁体64がプランジャ72と一体で、パイロット弁座63から離間する方向(軸方向他端側)に所定距離だけ移動して、弁体52に係止部材76が係止するまでの間、プランジャ72と弁体52とが相対移動可能に構成されている。そして、弁体52に係止部材76が係止した状態では、プランジャ72と弁体52及びパイロット弁体64とが一体で軸方向他端側に移動するように構成されている。
【0027】
さらに、プランジャ72の外周面には、その軸方向に沿った連通溝78が形成されるとともに、該連通溝78及び摺動孔75における弁体52とパイロット弁体64との間に開口する第1側孔79が形成されており、この第1側孔79を介してパイロット流路61に水素ガスが供給されるようになっている。また、連通溝78により、弁室23に流入した水素ガスがプランジャ72の軸方向他端側まで供給される。これにより、水素ガスの圧力がプランジャ72の軸方向一端側にのみ作用することを防止して、該プランジャ72が水素ガスの圧力によって移動しないようになっている。
【0028】
一方、ステータ73は、略円柱状に形成されるとともにシリンダ21の筒部22に圧入固定されている。このステータ73とプランジャ72との間には、該プランジャ72の移動によって弁体52が弁座51から離座するために必要な距離が空けられている。また、ステータ73には、プランジャ72の貫通孔77と対向する位置に収容穴81が形成されており、この収容穴81及び貫通孔77には、コイルスプリング等の付勢部材82が収容されている。そして、この付勢部材82は、貫通孔77に固定された固定板83を介してプランジャ72を軸方向一方側に付勢している。また、プランジャ72には、貫通孔77及び連通溝78に開口する第2側孔84が形成されており、この第2側孔84により、プランジャ72がステータ73に当接した状態でも、収容穴81及び貫通孔77内が弁室23と連通した状態となるように構成されている。
【0029】
なお、ステータ73の外周面と筒部22の内周面との間には、Oリング86が設けられており、これらの間が気密にシールされている。そして、同Oリング86、上記した底部31と嵌合孔14との間のOリング41、及び突出部32と流出ポート13との間のOリング43(図1参照)により、シリンダ21内(弁室23)の気密が確保されている。
【0030】
図1に示すように、コイル71は、シリンダ21の外周面に設けられた一対のヨーク91a,91b間に、絶縁性を有する絶縁紙等の絶縁部材92を介して設けられている。このヨーク91aは、シリンダ21における底部31の近傍に配置されるとともに、ヨーク91bは筒部22の開口端部に配置されている。なお、コイル71の周囲は、射出成形等により形成される樹脂モールド部93によって被覆されている。また、コイル71は、外部に接続される端子としての一対のターミナル94(図1では1つのみ示す)と電気的に接続されており、該各ターミナル94を介して駆動電流が供給されるようになっている。このターミナル94は、導体材料により構成されるとともに、ヨーク91bに対してビス95(図6参照)により固定された樹脂材料からなる端子台96に支持されており、その一部がバルブボディ11の収容孔15に形成された開口部98から外部に露出された状態となっている。そして、コイル71に駆動電流が供給されることにより、磁気回路が形成されてステータ73がプランジャ72を吸引するようになっている。
【0031】
次に、電磁弁1の動作について説明する。
上記のように構成された電磁弁1では、コイル71に駆動電流が供給されていないと、付勢部材82によりプランジャ72が軸方向一端側に付勢されて、パイロット弁体64がパイロット弁座63に着座するとともに、弁体52が弁座51に着座することで、導出路24は閉じている(図1及び図2参照)。この状態では、流入ポート12から流入した水素ガスは、作用空間35及び導入路36を介して弁室23まで供給されるが、流出ポート13には供給されない。
【0032】
ここで、コイル71への通電によりプランジャ72がステータ73に吸引されると、同プランジャ72は付勢部材82の付勢力に抗して軸方向他端側に移動する。このとき、上記のように係止部材76が弁体52に係止するまでは、弁体52は摺動孔75内に導入される水素ガスの背圧によって軸方向一端側に押圧されるため、パイロット弁体64のみがプランジャ72と一体で移動する。これにより、図3に示すように、パイロット弁体64がパイロット弁座63から離座し、パイロット流路61が開いた状態となるため、該パイロット流路61を介して導出路24に水素ガスが供給され、導出路24と弁室23との差圧が小さくなる。
【0033】
そして、図4に示すように、係止部材76が弁体52に係止することで弁体52とプランジャ72とが一体で軸方向他端側に移動し、弁体52が弁座51から離座すると、導出路24が開いた状態となる。これにより、流入ポート12から流入した水素ガスは、作用空間35、導入路36、弁室23及び導出路24を介して流出ポート13に供給されるようになる。
【0034】
一方、コイル71への駆動電流の供給が停止されると、付勢部材82の付勢力により、プランジャ72が軸方向一端側に移動して、パイロット弁体64がパイロット弁座63に着座するとともに弁体52が弁座51に着座して、流入ポート12から流出ポート13への水素ガスの供給が停止する。
【0035】
以上のようにして、電磁弁1により水素タンクから燃料電池への水素ガスの供給が制御される構成となっている。
(シリンダの補強構造)
ところで、上述したように電磁弁1が水素タンクの外側に配設される場合には、シリンダ21における筒部22の外側は大気圧と略等しくなる一方、シリンダ21内(弁室23)には高圧の水素ガスが供給されて高圧(例えば70MPa程度)となるため、シリンダ内外での圧力差が大きくなる。これにより、図5に示すように、シリンダ21の筒部22にその内側から外側に向かう大きな膨張力Fが作用するため、筒部22の肉厚を厚く形成して強度(耐圧性能)を確保することが考えられるが、この場合には電磁弁1が大型化するといった問題が生じる。
【0036】
この点を踏まえ、本実施形態のコイル71は、導線(エナメル線)101をシリンダ21の筒部22における外周面22aに張力(例えば100Mpa程度)をかけながら巻回することにより構成されており、シリンダ21にはコイル71(導線101)により上記膨張力Fに抗する応力が予め付与されている。そして、本実施形態では、このようなコイル71(導線101)に所定の張力が作用した状態を保持して導線101が緩むのを防止する保持手段としてターミナル94が用いられている。
【0037】
詳述すると、図6に示すように、一対のターミナル94には、コイル71の巻始め及び巻終わりの各接続端部102が、これらに張力が作用した状態でそれぞれヒュージング等の接合方法により接合されている。なお、ヒュージングとは、導線101とターミナル94とを互いに接触させた状態で、これらを加圧しながら加熱することにより、導線101表面の絶縁被膜を溶融させて剥離すると同時に、導線101の導体部分(芯線)とターミナル94とを接合させる接合方法である。また、本実施形態では、接続端部102は、該各接続端部102におけるヒュージングによりターミナル94と接合された接合部103よりも、シリンダ21に巻回されている基端側の部分が該ターミナル94に巻き付けられている。
【0038】
各ターミナル94は、端子台96に固定される略長方形板状の基部111と、該基部111におけるコイル71と反対側の端部(図6における上端部)からコイル71の径方向外側に延びる棒状の端子部112と、コイル71の接続端部102が接続される取着部113とをそれぞれ備えている。なお、各ターミナル94は、互いに対称な形状に形成されている。
【0039】
取着部113は、端子部112との間に隙間を有して基部111の上端に設けられており、取着部113と端子部112との間には第1溝115が形成されている。また、取着部113のコイル側端部(図6における下端部)には、基部111との間に隙間を空けてコイル71側に延びる延出部116が形成されており、この延出部116と基部111との間に第2溝117が形成されている。さらに、取着部113の上端には、周方向における端子部112と反対側に延出されるとともに折り返されて接続端部102を挟持する固定部118が形成され、固定部118と延出部116との間には第3溝119が形成されている。
【0040】
コイル71の接続端部102は、基部111の裏面側(図6における紙面奥側)を通って第1溝115から該基部111の表面側(図6における紙面手前側)に引き出され、第2溝117を介して取着部113の裏面側に引き回されている。すなわち接続端部102は、基部111と取着部113との接続部120に巻き付けられている。なお、本実施形態では、接続端部102は、接続部120に1周だけ巻回されている。そして、接続端部102は、取着部113の裏面側から第3溝119を介して該取着部113の表面側に引き出され、折り返された固定部118に対してヒュージングにより接合されている。従って、接続端部102は、その接合部103よりもシリンダ21に巻回されている基端側の部分が接続部120に巻き付けられている。そして、このように、巻始め及び巻終わりの各接続端部102がターミナル94に対して接続されることにより、コイル71に所定の張力が作用した状態を保持されて、導線101が緩むのが防止されている。これにより、シリンダ21には、コイル71(導線101)により上記膨張力Fに抗する応力が予め付与されている。
【0041】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)電磁弁1は、弁室23を構成するシリンダ21の筒部22外周に設けられたコイル71を有し、該コイル71への通電によってシリンダ21内に設けられたプランジャ72を移動させることにより弁体52を弁座51に対して接離させるソレノイド部26を備えた。そして、ターミナル94によりコイル71に所定の張力が作用した状態を保持し、弁室23に導入された高圧ガスに抗する応力をシリンダ21に対して予め付与した。
【0042】
上記構成によれば、膨張力Fにより筒部22を変形させるには、コイル71(導線101)から付与された応力に抗して同コイル71を一緒に変形させる必要があるため、シリンダ21の筒部22は変形し難くなっている。このため、高強度の材料を用いたりシリンダ21の筒部22を厚肉化させたりすることなく、高圧ガスによるシリンダ21の変形を防止できる。このようにシリンダ21を厚肉化させる必要がないため、装置の大型化を防止することができる。また、高強度の材料を用いる必要がないため、シリンダ21の切削加工が容易になる。
【0043】
(2)コイル71の巻始め及び巻終わりの各接続端部102を、ターミナル94に対して接合したことで、コイル71に作用する張力を保持するようにした。上記構成によれば、別途接続端部102を固定する専用の部材を設ける場合に比べ、部品点数の増大を抑制できる。
【0044】
(3)接続端部102を、ターミナル94の接続部120に対して巻き付けたため、該接続端部102がターミナル94に係止することによってもコイル71に張力が作用した状態が保持されるため、コイル71に作用する張力を確実に保持することができる。
【0045】
(4)接続端部102における接合部103よりもシリンダ21に巻回されている基端側の部分をターミナル94の接続部120に巻き付けたため、同部分がターミナル94に係止することで、接合部103に張力が直接作用しなくなり、ターミナル94から接続端部102が脱落することを防いで、電磁弁1の信頼性を向上させることができる。
【0046】
(5)弁体52に、導出路24に開口するとともに該導出路24よりも断面積が小さなパイロット流路61を形成した。また、パイロット流路61に設けられたパイロット弁座63に対して接離することにより該パイロット流路61を開閉するパイロット弁体64を設けた。そして、プランジャ72に、パイロット弁体64を固定するとともに、該パイロット弁体64がパイロット弁座63から離間可能な所定距離以上、弁体52を相対移動可能に設けることにより、パイロット流路61が開いた後に導出路24が開いた状態となるようにした。上記構成によれば、パイロット流路61の断面積は導出路24の断面積よりも小さいため、直接的に弁体52を移動させる場合に比べ、小さな吸引力でもプランジャ72(パイロット弁体64)を移動させてパイロット流路61を開くことができる。また、パイロット流路61が開いた後は、該パイロット流路61を介して導出路24に高圧ガスが供給されることで、導出路24と弁室23との差圧が小さくなるため、導出路24の断面積を大きく形成していても、小さな力で弁体52を移動させて導出路24を開くことができる。このように、大きな駆動電流をコイル71に供給せずとも弁体52を移動させて導出路24を開くことができるため、消費電力の増大を抑制しつつ、導出路24の断面積を大きくして流入ポート12から流出ポート13へ供給される水素ガスの流量を確保できる。
【0047】
(6)コイル71を、シリンダ21の外周面22aに張力をかけながら導線101を巻回することにより形成したため、同コイル71に作用させる張力を精度良く調整することができる。
【0048】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、コイル71とシリンダ21の筒部22との間に絶縁部材92を介在させたが、これに限らず、コイル71とシリンダ21との間の絶縁を確保することができれば、絶縁部材92を介在させなくともよい。
【0049】
・上記実施形態では、電磁弁1にパイロットバルブ部62を設けたが、これに限らず、パイロットバルブ部62を設けず、コイル71への通電により導出路24を直接的に開閉するようにしてもよい。
【0050】
・上記実施形態では、弁体52により導出路24が開閉されるようにしたが、これに限らず、弁体52により導入路36が開閉されるようにしてもよい。
・上記実施形態では、接続端部102の接合部103よりもコイル71側を接続部120に巻き付けたが、これに限らず、接続端部102を先にターミナル94の固定部118に引き回してヒュージングにより接合し、該接合部103よりも先端側(コイル71と反対側)を接続部120に巻き付けるようにしてもよい。
【0051】
・上記実施形態では、接続端部102を接続部120に1周だけ巻回したが、これに限らず、2周以上巻回してもよい。
・上記実施形態では、接続端部102をターミナル94の接続部120に巻き付けたが、これに限らず、接続端部102を接続部120に巻き付けず、固定部118にヒュージングにより接合されることのみで、コイル71に作用する張力を保持するようにしてもよい。
【0052】
・上記実施形態では、接続端部102を、該接続端部102に張力が作用した状態でターミナル94に対して接合することでコイル71に作用する張力を保持したが、これに限らず、別途接続端部102を固定するための専用の部材を設けてもよい。また、例えば導線をシリンダ21の筒部22に巻回する際に、該導線に溶融樹脂を塗布しながら筒部22に巻回し、溶融樹脂を硬化させることでコイル71に作用する張力を保持するようにしてもよい。
【0053】
・上記実施形態では、シリンダ21の外周面22aに、張力をかけながら導線101を巻回してコイル71を形成することにより、同コイル71に所定の張力を作用させるようにした。しかし、これに限らず、例えば冷却したシリンダ21に巻回状態のコイルを配し、同シリンダ21を熱膨張させることによってコイル71に所定の張力を発生させるようにしてもよい。また、巻回状態のコイル71を加熱した状態でシリンダ21に配し、コイル71が熱収縮することによってコイル71に所定の張力を発生させるようにしてもよい。その他、コイル71に所定の張力を発生(作用)させることができれば、どのような方法でシリンダ21の外周に巻回状態のコイル71を配してもよい。
【0054】
・上記実施形態では、水素ガスの供給を制御するための電磁弁1に本発明を適用したが、これに限らず、その他の高圧ガスを供給するための電磁弁に適用してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…電磁弁、11…バルブボディ、12…流入ポート、13…流出ポート、21…シリンダ、22…筒部、22a…外周面、23…弁室、24…導出路、25…バルブ部、26…ソレノイド部、36…導入路、51…弁座、52…弁体、61…パイロット流路、62…パイロットバルブ部、63…パイロット弁座、64…パイロット弁体、71…コイル、72…プランジャ、73…ステータ、82…付勢部材、91a,91b…ヨーク、92…絶縁部材、93…樹脂モールド部、94…ターミナル、101…導線、102…接続端部、103…接合部、120…接続部、F…膨張力。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に弁室が形成されたシリンダと、
前記シリンダの内外を連通し高圧ガスを前記弁室に導入する導入路及び導入された高圧ガスを前記弁室から導出する導出路を含むガス流路と、
前記シリンダの外周に巻回状態で配されたコイルと、
前記コイルへの通電により前記弁室内を移動するプランジャと、
前記プランジャの移動により前記ガス流路を開閉する弁体と、
前記コイルに所定の張力が作用した状態を保持する保持手段と、を備え、
前記弁室に導入された高圧ガスに抗する応力を前記シリンダに対して予め付与したことを特徴とする電磁弁。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁弁において、
前記保持手段は、外部に接続されて前記コイルに駆動電流を供給するための端子であることを特徴とする電磁弁。
【請求項3】
内部に弁室が形成されたシリンダと、
前記シリンダの内外を連通し高圧ガスを前記弁室に導入する導入路及び導入された高圧ガスを前記弁室から導出する導出路を含むガス流路と、
前記シリンダの外周に巻回状態で配されたコイルと、
前記コイルへの通電により前記弁室内を移動するプランジャと、
前記プランジャの移動により前記ガス流路を開閉する弁体と、
前記コイルに所定の張力が作用した状態を保持する保持手段と、を備え、
前記弁室に導入された高圧ガスに抗する応力を前記シリンダに対して予め付与した電磁弁の製造方法であって、
前記コイルは、導線を前記シリンダの外周面に張力をかけながら巻回することにより形成されたことを特徴とする電磁弁の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−226537(P2011−226537A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95836(P2010−95836)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】