説明

電磁比例絞り弁

【課題】最大流量がプランジャやベース等の磁路部材の寸法公差に影響されない電磁比例絞り弁を提供すること。
【解決手段】コイル12に発生する磁界によってプランジャ4を駆動し、このプランジャ4に結合されたシャフト5を軸方向に移動させて弁開度が調整される電磁比例絞り弁1であって、作動油が流通するバルブシート37と、このバルブシート37との間で作動油の流れを絞るポペット17と、このポペット17がシャフト5と共に開弁方向(図において右方向)に変位するときにポペット17の一部を当接させてポペット17のバルブシート37に対するストロークを規制するストローク規制手段とを備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励磁電流に応じて可変絞り部の開口面積を調整して作動流体の流量を制御する電磁比例絞り弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両に設けられるパワーステアリング装置の作動を電気制御するのに電磁比例絞り弁(電磁比例流量制御弁)がひろく用いられている。
【0003】
従来、この種の電磁比例絞り弁は、圧力源側と負荷側を連通するバルブ穴と、このバルブ穴に対して軸方向に変位可能に支持されるシャフトと、このシャフトを軸方向に付勢するスプリングと、ソレノイド推力によってスプリングに抗してシャフトを駆動するコイルとを備え、シャフトの変位に伴ってバルブ穴に画成される可変絞り部の開口面積が変えられる。
【0004】
特許文献1に開示されたものは、バルブ穴との間に可変絞り部を画成するポペットがシャフトと別体で形成されている。
【0005】
これによると、要求される最大制御流量に応じて、ポペットの外径およびバルブ穴の開口径を大きく設定して、可変絞り部の開口面積が拡大される。ポペットがシャフトと別体で形成されることにより、ポペットの外径を大きくしても、シャフトおよびその軸受をはじめとする各部で径方向の寸法を大きくする必要がなく、電磁弁の大型化を避けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−147642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような従来の電磁比例絞り弁が最大弁開度となるとき、シャフトが移動してプランジャがベース等の部材に当接し、可変絞り部の開口面積がそれ以上に拡大しない構成となっている。
【0008】
しかしながら、従来の電磁比例絞り弁にあっては、最大弁開度がポペット、シャフト、プランジャやベース等からなる多数の部品の寸法によって決まる構成のため、最大弁開度で得られる最大流量の精度を確保するうえでこれらの各部品の寸法公差を厳しく管理する必要があり、製品のコストアップを招くという問題点があった。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、最大流量がプランジャやベース等の磁路部材の寸法公差に影響されない電磁比例絞り弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、コイルに発生する磁界によってプランジャを駆動し、このプランジャに結合されたシャフトを軸方向に移動させて弁開度が調整される電磁比例絞り弁であって、作動油が流通するバルブシートと、このバルブシートとの間で作動油の流れを絞るポペットと、このポペットがシャフトと共に開弁方向に変位するときにポペットの一部を当接させてポペットのバルブシートに対するストロークを規制するストローク規制手段とを備える構成としたことを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、最大弁開度を決める部品が主としてポペットとバルブシートであるため、従来装置のようにシャフト等の部品の寸法精度に影響されることがなく、製品毎に生じる最大流量のバラツキを小さく抑えられ、品質の向上がはかられる。そして、ベース、シャフト等の他の部品は、最大弁開度に影響しないため、シャフトの中心軸方向の寸法公差を大きく設定することが可能となり、製品のコストダウンがはかれる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態を示す電磁比例絞り弁の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0014】
図1に示す電磁比例絞り弁(電磁比例流量制御弁)1は、図示しない油圧機器の母機に取り付けられ、母機に備えられるポンプから吐出される作動油(作動流体)の流れを絞り、負荷側に導かれる作動油の流量を調節するものである。
【0015】
なお、作動油としてオイルの代わりに例えば水溶性代替液等の作動流体を用いても良い。
【0016】
電磁比例絞り弁1は、その構成部品として、ケース9、ベース2、プランジャ4、シャフト5、第一、第二軸受7、8、コイルアッシ10等を備える。
【0017】
コイルアッシ10は、プランジャ4のまわりに配置される電磁コイル12を備え、このコイル12に発生する磁界によってプランジャ(可動鉄心)4を駆動する電磁アクチュエータを構成する。
【0018】
コイルアッシ10は、両端に鍔部を有する円筒状のボビン11と、このボビン11にマグネットワイヤが巻回して形成されるコイル12と、このコイル12のマグネットワイヤの両端部に結合される対のターミナル13と、コイル12を包囲するモールド樹脂14とを備える。
【0019】
モールド樹脂14は、ボビン11及びコイル12が収まる円筒状の抱囲部16と、この抱囲部16の一端から突出してターミナル13が臨むコネクタ部15を有する。このコネクタ部15に図示しない相手コネクタが差し込まれる。この相手コネクタを介してコイル12が通電されると、コイル12のまわりに磁界が発生する。これに限らず、リード線を介してコイル12が通電される構成としてもよい。
【0020】
コイル12の磁束を導く磁路構成部材として、ケース9、ベース2、プランジャ4を備え、これらがそれぞれ磁性材によって形成される。
【0021】
ケース9は、有底円筒状に形成され、その開口端部から突出する複数のフランジ部91を有し、このフランジ部91にはボルト穴98が開口する。ケース9は、各ボルト穴98を挿通する図示しないボルトによって母機の取付座に締結される。
【0022】
ケース9の内側にコイルアッシ10が収容される。ケース9の側面に開口する切り欠き部97が形成される。コネクタ部15は、この切り欠き部97からケース9の外側に突出する。
【0023】
図において、Oはシャフト5の中心線である。コネクタ部15に収容されるターミナル13は、中心線Oと同方向に延び、相手コネクタが中心線Oと同方向に挿抜される。これに限らず、ターミナル13が延びる方向は、電磁比例絞り弁1が取り付けられる母機の形状に対応して任意に配置される。
【0024】
ケース9の奥側に円筒状のスリーブ3が一体的に形成される。なお、これに限らず、スリーブ3はケース9と別体で形成してもよい。
【0025】
ベース2はケース9の開口端側に配置され、スリーブ3はケース9の奥側に配置される。円筒状のベース2及びスリーブ3は、ケース9の内側に並んで中心線Oと同軸上に配置され、それぞれの内側にシャフト5及びプランジャ4が配置される。
【0026】
スリーブ3は、その外周面31がボビン11の内周面に嵌合して組み付けられる。ベース2は、その外周面25がボビン11の内周面に嵌合する。
【0027】
シャフト5は、非磁性材からなり、中空の円筒状に形成される。シャフト5は、スリーブ3及びベース2を貫通し、第一、第二軸受7、8を介して中心線O方向に摺動可能に支持される。
【0028】
プランジャ4は、磁性材からなり、中空の円筒状に形成される。プランジャ4は、その内周面がシャフト5の外周面に嵌合し、シャフト5に溶接またはカシメ等によって結合される。プランジャ4は、第一、第二軸受7、8の間に配置される。
【0029】
スリーブ3は、その内周に小径のスリーブ内周面34と大径のスリーブ内周面33とを有する。
【0030】
小径のスリーブ内周面34に第二軸受8の外周面81が嵌合して取り付けられる。
【0031】
大径のスリーブ内周面33とプランジャ外周面41と間に環状の間隙55が形成される。
【0032】
ベース2は、その内周にそれぞれの径が異なるベース内周面26〜29を有する。
【0033】
径が2番目に小さいベース内周面26に第一軸受7の外周面71が嵌合して取り付けられる。
【0034】
ベース内周面27、28は、シャフト5の外周面51との間に間隙56を画成する。
【0035】
径が最も大きいベース内周面29は、プランジャ外周面41と間に環状の間隙55を画成する。
【0036】
ベース2とプランジャ4の間にはコイル状のスプリング24が圧縮して介装される。スプリング24の一端は、ベース内周面27とベース内周面28の間に形成される環状段部に当接する。スプリング24の他端は、プランジャ4の前端面47に当接する。スプリング24は、プランジャ4を図において右方向(開弁方向)に付勢し、シャフト5を引き込む。
【0037】
ベース2にはプランジャ4を磁力により吸着するベース吸着面46が形成される。このベース吸着面46は、ベース内周面28とベース内周面29の間に環状段部として形成される。ベース吸着面46は中心線Oと直交する平面状に形成され、プランジャ前端面47に平行に対峙する。
【0038】
ベース2は、中心線Oに対して傾斜する環状テーパ端面45を有する。この環状テーパ端面45の位置及び形状(中心線Oに対する傾斜角度)を任意に設定し、ベース2からプランジャ4に向かう磁束密度を調整する。
【0039】
一方、スリーブ3は、中心線Oに対して直交する環状端面35を有する。なお、環状端面35は中心線Oに対して直交させず、傾斜させてもよい。
【0040】
第一、第二軸受7、8は非磁性材によって形成される。
【0041】
コイル12の内側に生じる磁束は、ケース9、ベース2、プランジャ4、スリーブ3によって導かれる。ベース2とスリーブ3との間を通る磁束は、磁気ギャプによって遮られるため、プランジャ4を経由して導かれ、ベース2からプランジャ4に向かう。
【0042】
ベース2からプランジャ4に向かう磁束密度は、磁気ギャプの形状、位置によってかわる。磁気ギャプの形状、位置は、プランジャ4が中心線O方向に移動するストロークに応じたソレノイド推力が得られるように、任意に設定される。
【0043】
電磁比例絞り弁1は、シャフト5、プランジャ4のまわりに、プランジャ前室74、プランジャ背後室75、第二軸受背後室76が設けられ、これらに母機からの作動油が導かれる。
【0044】
プランジャ前室74は、第一軸受7とプランジャ前端面47の間に画成される。
【0045】
第一軸受7は、これを貫通する流路を持たず、母機に対してプランジャ前室74の連通する最短経路を遮断する機能を果たす。
【0046】
プランジャ背後室75は、プランジャ4の端面48と第二軸受8との間に画成される。
【0047】
プランジャ前室74とプランジャ背後室75との間にプランジャ4が介在する。プランジャ外周面41のまわりに環状の間隙55が画成され、スリーブ3とプランジャ4の磁気吸着を防止する。この間隙55は、プランジャ前室74とプランジャ背後室75とを連通するプランジャ外周路63を構成する。
【0048】
プランジャ外周路63として、プランジャ外周面41には複数の溝42が形成される。作動油は、これらの溝42を通ってプランジャ前室74とプランジャ背後室75との間を流れるように構成される。
【0049】
複数の溝42によってプランジャ外周路63を画成することにより、間隙55のクリアランスを小さくすることが可能になる。間隙55のクリアランスを小さくすることによって、プランジャ4を駆動する磁気効率が高めれらる。
【0050】
第二軸受背後室76は、第二軸受8の背後に設けられ、第二軸受8とケース9の底面93との間に画成される。
【0051】
プランジャ背後室75と第二軸受背後室76との間に第二軸受8が介在する。第二軸受8の外周面81には複数の溝82が形成される。これらの溝82によっては、プランジャ背後室75と第二軸受背後室76とを連通する第二軸受貫通路64を構成する。
【0052】
シャフト5を中心線O方向に貫通する縦貫通孔53と、シャフト5を中心線Oと直交する径方向に貫通する横貫通孔54とが形成される。この縦貫通孔53と横貫通孔54とによって弁室61と第二軸受背後室76とを連通するシャフト貫通路65が構成される。
【0053】
スリーブ3とケース9の外周に渡って嵌合するフィラーリング6が設けられる。フィラーリング6は、非磁性材からなる薄肉円筒状に形成される。フィラーリング6は、ベース2とスリーブ3間の磁気ギャプを覆い、スリーブ3とケース9とによってプランジャ4とシャフト5を収容する圧力容器を構成する。電磁比例絞り弁1は、母機からシャフト貫通路65を通って作動油が流入するが、スリーブ3とフィラーリング6とケース9とによって構成される圧力容器によってこの作動油が電磁比例絞り弁1の外部に洩れ出すことが防止される。
【0054】
電磁比例絞り弁1は、母機に備えられるポンプから吐出される作動油の流れを絞る部位として、バルブ穴38が開口するバルブシート37と、シャフト5の先端部に取り付けられるポペット17とを備える。
【0055】
ポペット17は、シャフト5と別体として有底円筒状に形成され、シャフト5の先端部に嵌合して取り付けられる。シャフト貫通路65の一端は、ポペット17によって閉塞される。シャフト貫通路65の他端は、第二軸受背後室76に連通している。
【0056】
ポペット17は、ベース2側に対峙する基端面19を有し、この基端面19が中心線Oと直交する平面状に形成される。
【0057】
ポペット17の内周に環状の凹部59が形成されるとともに、この凹部59とポペット基端面19に渡って開口する複数の切り欠き部60が形成される。この切り欠き部60は、弁室61とシャフト貫通路65とが連通するポペット内外連通路66を構成する。図示したように、ポペット基端面19がベース端面58に当接した全開状態にあっても、バルブシート37内の弁室61と切り欠き部60、凹部59を介して横貫通孔54とが連通され、作動油が弁室61とシャフト貫通路65との間で流通する。
【0058】
ポペット17は、その先端にバルブ穴38内に向けて突出するポペット先端面18が中心線Oを中心とする円錐面状に形成される。
【0059】
バルブシート37は、円筒状に形成され、ベース2に嵌合して取り付けられる。
【0060】
ベース2は、バルブシート37の外周面36を嵌合させるインロー部57と、バルブシート37の基端面43を当接させるベース端面58とを有する。インロー部57は、中心線Oを中心とする円筒面状に形成される。ベース端面58は、中心線Oと直交する平面状に形成される。
【0061】
バルブシート37は、バルブ穴38とポペット収容穴39とが中心線Oを中心として形成されるとともに、複数の通孔40が中心線Oと直交する方向に形成される。
【0062】
バルブシート37の内側にはバルブシート壁部79が環状の段部として形成される。バルブシート壁部79は、バルブ穴38とポペット収容穴39の間に中心線Oと直交する平面状に形成される。
【0063】
弁室61は、バルブシート壁部79とポペット収容穴39とによって画成され、ポペット17を収容する。
【0064】
ベース2の一端に円盤状のベース鍔部21とベース嵌合部22とが形成される。ベース2は、ベース鍔部21がケース9の開口端部に結合され、中心線Oと同軸上に配置される。
【0065】
ケース9の端面96は、図示しない母機の取付座に当接する。
【0066】
電磁比例絞り弁1が母機に組み付けられると、円筒状のベース嵌合部22が図示しない母機のインロー部に嵌合する。ベース嵌合部22の外周にはシールリング23が介装される。このシールリング23によって母機に対する電磁比例絞り弁1の取付部が密封され、母機の作動油が外部に洩れ出すことが防止される。
【0067】
電磁比例絞り弁1が母機に組み付けられた後、母機からの作動油が以下の経路を通って電磁比例絞り弁1内に充填される。
【0068】
・母機からの作動油は、弁室61、シャフト貫通路65(横貫通孔54、縦貫通孔53)を通って第二軸受背後室76に充填される。
【0069】
・第二軸受背後室76の作動油は、第二軸受貫通路64(溝82)を通ってプランジャ背後室75に充填される。
【0070】
・プランジャ背後室75の作動油は、プランジャ外周路63(間隙55、溝42)を通ってプランジャ前室74に充填される。
【0071】
電磁比例絞り弁1は、コイル12の磁力によってプランジャ4を駆動し、プランジャ4に結合されたシャフト5を軸方向に摺動させ、ポペット17を移動する。
【0072】
コイル12の非通電時、シャフト5は、スプリング24の付勢力によってポペット17の全開位置に保持される。
【0073】
コイル12の通電時、コイル12の内側に発生する磁界によりベース2のベース吸着面46にプランジャ4を吸着するソレノイド推力によって、プランジャ4をベース2に近づける方向に駆動し、シャフト5を前方(図において左方向)に摺動させ、ポペット17を閉方向に移動する。
【0074】
シャフト5が前方に摺動するとき、シャフト5が第二軸受背後室76から退出する体積分の作動油が、弁室61からシャフト貫通路65を通って第二軸受背後室76に流入する。
【0075】
このとき、プランジャ4が前方に移動することにより、プランジャ4の移動体積分の作動油が、収縮するプランジャ前室74からプランジャ外周路63を通って拡張するプランジャ背後室75に流入する。
【0076】
コイル12の通電が止められると、シャフト5は、スプリング24の付勢力によって後方(図において右方向)に摺動し、ポペット17が全開位置に移動する。
【0077】
シャフト5が後方に摺動するとき、シャフト5が第二軸受背後室76に入る体積分の作動油が、第二軸受背後室76からシャフト貫通路65、弁室61を通って母機に流出する。
【0078】
このとき、プランジャ4が後方に移動することにより、プランジャ4の移動体積分の作動油が、収縮するプランジャ背後室75からプランジャ外周路63を通って拡張するプランジャ前室74に流入する。
【0079】
ところで、母機から電磁比例絞り弁1に導かれる作動油は、母機内に発生する摩耗粉等からなるコンタミが含まれる。このコンタミのうち磁性を有する鉄粉等は、電磁比例絞り弁1のプランジャ前室74、プランジャ背後室75に入ると、ベース2とプランジャ4の端部との間にて磁束が集中する強磁界部Bに集まる。多くのコンタミが強磁界部Bを構成する磁性材(ベース2、プランジャ4)の表面に付着し、堆積すると、以下の不具合が生じる。
【0080】
・コイル12のまわりに発生する磁界によりベース2のベース吸着面46にプランジャ4を吸着するソレノイド推力が変化する。
【0081】
・プランジャ4の摺動抵抗が増え、電磁比例絞り弁1のヒステリシス特性が増大したり、プランジャ4が摺動するストローク範囲が狭まる。
【0082】
電磁比例絞り弁1は、これに対処して、第一軸受7によって弁室61とプランジャ前室74間の連通を遮断し、母機の作動油がシャフト貫通路65と第二軸受背後室76と第二軸受貫通路64を通ってプランジャ背後室75に導かれる構成とした。これにより、作動油のコンタミがプランジャ4まわりの強磁界部Bに到達する経路を長くして、コンタミが強磁界部Bを構成する磁性材(ベース2、プランジャ4)の表面に付着し、堆積することを抑えられる。これにより、作動油のコンタミに起因する電磁比例絞り弁1の作動不良を防止し、電磁比例絞り弁1が安定作動する可動時間を延長できる。
【0083】
また、シャフト5の摺動によって拡縮される第二軸受背後室76は、第二軸受貫通路64を介してプランジャ背後室75に連通しているため、母機からの圧力変動が第二軸受背後室76に伝わっても、第二軸受背後室76の圧力変動が第二軸受貫通路64を通ってプランジャ背後室75に伝わり、第二軸受8が第二軸受背後室76とプランジャ背後室75の圧力差によって移動(脱落)することを防止できる。
【0084】
プランジャ外周路63として、プランジャ外周面41のまわりに画成される環状の間隙55を備えて、スリーブ3とプランジャ4の磁気吸着を防止し、かつ、プランジャ外周面41に開口する複数の溝42を備えたので、プランジャ4が移動する際にプランジャ4まわりにおける作動油の流速が抑えられ、プランジャ4に付与される作動油の粘性抵抗を小さくし、電磁比例絞り弁1の作動応答性を高められる。こうしてプランジャ4が高速で移動することにより、プランジャ4に堆積したコンタミが払い落とされる。これにより、作動油のコンタミに起因する電磁比例絞り弁1の作動不良を防止できる。
【0085】
プランジャ外周路63として、プランジャ外周面41に形成される複数の溝42を備えたため、これらの溝42によってプランジャ外周路63の流路断面積が拡大される。これによって、プランジャ4が移動する際にプランジャ4まわりにおける作動油の流動が抑えられ、プランジャ4に付与される作動油の粘性抵抗を小さくし、電磁比例絞り弁1の作動応答性を高められる。
【0086】
母機に備えられるポンプから吐出される作動油は、図に矢印で示すように、電磁比例絞り弁1の通孔40、弁室61、可変絞り部30、バルブ穴38を通って、負荷側に導かれる。なお、これに限らず、図に矢印で示す方向と逆方向に流れる構成としてもよい。
【0087】
電磁比例絞り弁1は、作動油の流れを絞る可変絞り部30として、ポペット先端面18とバルブ穴38のバルブシート壁部79に対する環状の開口縁部(エッジ部)77との間に環状の間隙を画成する。電磁比例絞り弁1は、可変絞り部30がポンプから吐出される作動油の流れに抵抗を付与することによって、負荷側に導かれる作動油の流量を調節する。
【0088】
ポペット17が図において左方向に移動してポペット先端面18がバルブ穴38の開口縁部77に当接すると、可変絞り部30の開口面積が零となり、可変絞り部30が全閉(閉塞)される。
【0089】
ポペット17が図において右方向に移動すると、ポペット先端面18がバルブ穴38の開口縁部77から離れ、ポペット17のバルブシート37に対するストロークに応じて可変絞り部30の開口面積が次第に大きくなる。
【0090】
作動油が図に矢印で示すように流れる状態にて、ポペット17に働く力として以下の4つが挙げられる。
Fsol:プランジャ4に働くコイル12のソレノイド推力
Fk:スプリング24のバネ力
FΔP:可変絞り部30の前後差圧ΔPによる力
Ff:可変絞り部30に発生する流体力
【0091】
ポペット17に働く力の関係について、次式が成立する。
Fsol=Fk−FΔP−Ff …(1)
【0092】
上式が成立する位置にポペット17が移動し、これによって得られた可変絞り部30の開口面積Avおよび可変絞り部30の前後差圧ΔPに比例した制御流量Qcが流れる。
【0093】
要求される最大制御流量Qcmaxに応じてポペット17の外径およびバルブ穴38の開口径を大きく設定して可変絞り部30の開口面積Avが設定される。
【0094】
ポペット17がシャフト5と別体で形成されることにより、ポペット17の外径を大きくしても、シャフト5の外径を大きくする必要がなく、第一、第二軸受7、8をはじめとする各部で径方向の寸法が拡大することが回避され、電磁比例絞り弁1の大型化が避けられる。
【0095】
電磁比例絞り弁1は、ポペット17が開弁方向(図において右方向)に変位するときに、ポペット17の一部を当接させてポペット17のバルブシート37に対するストローク(変位量)を規制するストローク規制手段を備える。
【0096】
このストローク規制手段は、ポペット基端面19をベース2のベース端面58に当接させ、ポペット17がそれ以上に変位することを止める構成とする。
【0097】
電磁比例絞り弁1は、ポペット基端面19がベース2のベース端面58に当接し、ポペット17のバルブシート37に対するストロークが規制されることにより、可変絞り部30の開口面積が最大になる全開状態となる。
【0098】
電磁比例絞り弁1は、全開状態にてポペット17の基端面19がバルブシート37の基端面43とベース2のベース端面58上に並ぶ構成のため、可変絞り部30の最大開口面積が、ポペット17とバルブシート37の2つの部品の寸法精度によって決まる。
【0099】
これに対して、従来の電磁比例絞り弁が最大弁開度となるとき、シャフトが移動してプランジャがベース等の部材に当接し、可変絞り部の開口面積がそれ以上に拡大しない構成となっている。
【0100】
以上のとおり、本実施の形態では、コイル12に発生する磁界によってプランジャ4を駆動し、このプランジャ4に結合されたシャフト5を軸方向に移動させて弁開度が調整される電磁比例絞り弁1であって、作動油が流通するバルブシート37と、このバルブシート37との間で作動油の流れを絞るポペット17と、このポペット17がシャフト5と共に開弁方向(図において右方向)に変位するときにポペット17の一部を当接させてポペット17のバルブシート37に対するストロークを規制するストローク規制手段とを備える構成とした。
【0101】
上記構成に基づき、電磁比例絞り弁1は、最大弁開度を決める部品が主としてポペット17とバルブシート37であるため、従来装置のようにシャフト5等の部品の寸法精度に影響されることがなく、製品毎に生じる最大流量のバラツキを小さく抑えられ、品質の向上がはかられる。そして、ベース2、シャフト5等の他の部品は、最大弁開度に影響しないため、中心軸O方向の寸法公差を大きく設定することが可能となり、製品のコストダウンがはかれる。
【0102】
本実施形態では、バルブシート37とポペット17との間に画成される弁室61と、シャフト5をプランジャ4を挟んで摺動可能に支持する第一軸受7及び第二軸受8と、第一軸受7とプランジャ4との間に画成されるプランジャ前室74と、プランジャ4と第二軸受8との間に画成されるプランジャ背後室75と、プランジャ前室74とプランジャ背後室75とを連通するプランジャ外周路63と、第二軸受8の背後に画成されシャフト5の摺動によって拡縮される第二軸受背後室76と、第二軸受8を貫通してプランジャ背後室75と第二軸受背後室76とを連通する第二軸受貫通路64と、シャフト5を軸方向に貫通して弁室61と第二軸受背後室76とを連通するシャフト貫通路65とを備え、弁室61の作動油がシャフト貫通路65と第二軸受背後室76と第二軸受貫通路64を通ってプランジャ背後室75に導かれる構成とした。
【0103】
上記構成に基づき、作動油のコンタミがプランジャ4まわりの強磁界部Bに到達する経路を長くして、強磁界部Bを構成する磁性材(ベース2、プランジャ4)の表面に付着し、堆積することを抑えられる。これにより、電磁比例絞り弁1が安定作動する可動時間を延長できる。
【0104】
シャフト5の摺動によって拡縮される第二軸受背後室76は、第二軸受貫通路64を介してプランジャ背後室75に連通しているため、弁室61からの圧力変動が第二軸受背後室76に伝わっても、第二軸受背後室76の圧力変動が第二軸受貫通路64を通ってプランジャ背後室75に伝わり、第二軸受108が第二軸受背後室76とプランジャ背後室75の圧力差によって正規の位置から移動して脱落することを防止でき、電磁比例絞り弁1の耐圧性を高められる。
【0105】
プランジャ外周面41のまわりにプランジャ外周路63が環状の間隙55として画成されるため、プランジャ4に付与される作動油の粘性抵抗を小さくすることによって、プランジャ4が移動する速度を高められる。これにより、電磁比例絞り弁1の作動応答性を高められるとともに、プランジャ4が高速で移動することによって、プランジャ4に堆積したコンタミが払い落とされ、作動油のコンタミに起因する電磁比例絞り弁1の作動不良を防止できる。
【0106】
本実施形態では、コイル12の磁路を構成するベース2を備え、ストローク規制手段はポペット2の基端面19をベース2に当接させる構成とし、このポペット2の基端面19がベース2に当接した状態にて弁室61とシャフト貫通路65とが連通するポペット内外連通路66を備える構成とした。
【0107】
上記構成に基づき、ポペット2の基端面19がベース端面58に当接して最大弁開度になる状態にて、ポペット内外連通路66によってシャフト貫通路65が閉塞されることがなく、作動油が弁室61とシャフト貫通路65との間で流通し、シャフト5及びプランジャ4が円滑に移動し、電磁比例絞り弁1の作動性が維持される。
【0108】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の電磁比例絞り弁は、油圧機器、他の機械、設備に有用である。
【符号の説明】
【0110】
1 電磁比例絞り弁
2 ベース
3 スリーブ
4 プランジャ
5 シャフト
7 第一軸受
8 第二軸受
9 ケース
10 コイルアッシ
17 ポペット
18 ポペット先端面
19 ポペット基端面
24 スプリング
30 可変絞り部
37 バルブシート
38 バルブ穴
60 切り欠き部
61 弁室
63 プランジャ外周路
64 第二軸受貫通路
65 シャフト貫通路
66 ポペット内外連通路
74 プランジャ前室
75 プランジャ背後室
76 第二軸受背後室
77 開口縁部(エッジ部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルに発生する磁界によってプランジャを駆動し、
このプランジャに結合されたシャフトを軸方向に移動させて弁開度が調整される電磁比例絞り弁であって、
作動油が流通するバルブシートと、
このバルブシートとの間で作動油の流れを絞るポペットと、
このポペットが前記シャフトと共に開弁方向に変位するときに前記ポペットの一部を当接させて前記ポペットの前記バルブシートに対するストロークを規制するストローク規制手段と、
を備えたことを特徴とする電磁比例絞り弁。
【請求項2】
前記バルブシートと前記ポペットとの間に画成される弁室と、
前記シャフトを前記プランジャを挟んで摺動可能に支持する第一軸受及び第二軸受と、
前記第一軸受と前記プランジャとの間に画成されるプランジャ前室と、
前記プランジャと前記第二軸受との間に画成されるプランジャ背後室と、
前記プランジャ前室と前記プランジャ背後室とを連通するプランジャ外周路と、
前記第二軸受の背後に画成され前記シャフトの摺動によって拡縮される第二軸受背後室と、
前記第二軸受を貫通して前記プランジャ背後室と前記第二軸受背後室とを連通する第二軸受貫通路と、
前記シャフトを軸方向に貫通して前記弁室と前記第二軸受背後室とを連通するシャフト貫通路とを備え、
前記弁室の作動油が前記シャフト貫通路と前記第二軸受背後室と前記第二軸受貫通路を通って前記プランジャ背後室に導かれる構成としたことを特徴とする請求項1に記載の電磁比例絞り弁。
【請求項3】
前記コイルの磁路を構成するベースを備え、
前記ストローク規制手段は前記ポペットの基端面を前記ベースに当接させる構成とし、
前記ポペットの前記基端面がベースに当接した状態にて前記弁室と前記シャフト貫通路とが連通するポペット内外連通路を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の電磁比例絞り弁。

【図1】
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【公開番号】特開2011−163433(P2011−163433A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26287(P2010−26287)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】