説明

電磁波シールド成形体

【課題】 薄肉部を有する電磁波シールド成形体において、高周波領域における電磁波シールド性に優れるとともに、薄肉部の機械的特性に優れた電磁波シールド成形体の提供を課題とする。
【解決手段】 ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物を射出成形して得られる電磁波シールド成形体であって、前記ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物は繊維の表面がニッケルで被覆されてなるニッケル被覆繊維(A)とフレーク状ニッケル(B)とを含有し、且つ、前記ニッケル被覆繊維(A)の繊維を被覆しているニッケルの割合がニッケル被覆繊維(A)中20〜60質量%であることを特徴とする電磁波シールド成形体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド成形体に関する。更に詳しくは、携帯電話などの携帯機器用筐体など、高周波領域における電磁波シールド性が要求され、更に、薄肉成形性及び薄肉部における優れた機械的特性が要求される用途に好適に用いられる電磁波シールド成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノート型パソコン、PDAなどの電子機器には、その内部から発生する電磁波が外部に漏洩して周囲の電子機器などに悪影響を与えないようにするために、その筐体として電磁波シールド性を有する筐体が用いられている。
【0003】
そして、近年では、各種電子機器の高周波化に伴い、高周波領域における高い電磁波シールド性が求められている。
【0004】
一方、前記筐体には、高周波領域における電磁波シールド性とともに、各種電子機器の軽量・小型化を実現するためにその筐体自身の薄肉化が求められており、薄肉であって、且つ、薄肉部の高剛性・高弾性を備える電磁波シールド性の筐体が求められている。
【0005】
従来から、筐体に電磁波シールド性を付与するために、熱可塑性樹脂からなる成形体の表面に金属メッキ、蒸着を施して導電性を付与した筐体などが知られているが、成形体表面に金属メッキを施す方法ではメッキ処理工程が必要であるために製造工程が煩雑となり、また複雑な形状の成形体の場合にはメッキ処理が困難であるという問題があった。
【0006】
前記メッキ処理工程の煩雑さを解消するために、金属フレーク、金属繊維、炭素繊維あるいは金属被覆炭素繊維などの導電性材料を配合した樹脂組成物を成形して得られる電磁波シールド性を有する成形体が提案されている。
【0007】
例えば、下記特許文献1には金属コート炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂成形体であって、金属コート炭素繊維の含有量が13〜35重量%で、且つ全金属コート炭素繊維中における繊維長が270〜800μmの範囲にある繊維が成形体中の8重量%以上を占めることを特徴とする電磁波シールド用樹脂成形体が開示されている。
【0008】
また、下記特許文献2には 熱可塑性樹脂(ゴム強化スチレン系樹脂またはゴム強化スチレン系樹脂と他の熱可塑性樹脂との混合物)(A)100重量部に対し、金属被覆繊維(B)5〜30重量部、酸化亜鉛ウィスカー(C)3〜20重量部および酸化チタン(D)0.5〜10重量部を配合してなる電磁波シールド用樹脂組成物が開示されている。
【0009】
しかしながら、前記特許文献1又は特許文献2に記載されたような成形体は高周波領域における電磁波シールド性が充分でなかった。また成形材料の薄肉成形性が乏しいために成形体の薄肉化が困難であり、また、薄肉部を有する場合における薄肉部の機械的特性、例えば薄肉部に樹脂爪を用いて電子部品等を固定する方式であるスナップフィット構造を採用した場合には成形体に割れやクラックが発生するなど、機械的特性が乏しいという問題があった。
【特許文献1】特許第2735748号公報
【非特許文献1】特開2000−129148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、高周波領域における電磁波シールド性に優れ、且つ、薄肉部のスナップフィット性などの機械的特性に優れた電磁波シールド成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明はゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物を射出成形して得られる電磁波シールド成形体であって、前記ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物は繊維の表面がニッケルで被覆されてなるニッケル被覆繊維(A)とフレーク状ニッケル(B)とを含有し、且つ、前記ニッケル被覆繊維(A)の繊維を被覆しているニッケルの割合がニッケル被覆繊維(A)中20〜60質量%であることを特徴とする電磁波シールド成形体である。
【0012】
また、請求項2の発明は、前記ニッケル被覆繊維(A)が少なくともニッケル被覆炭素繊維又はニッケル被覆アラミド繊維を含有する請求項1に記載の電磁波シールド成形体である。
【0013】
また、請求項3の発明は、前記ニッケル被覆繊維(A)の平均繊維長が200〜500μmである請求項1又は請求項2に記載の電磁波シールド成形体である。
【0014】
また、請求項4の発明は、前記ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物が更にポリカーボネート系樹脂を含有する請求項1〜3の何れか1項に記載の電磁波シールド成形体である。
【0015】
そして、請求項5の発明は、前記電磁波シールド成形体が0.5mm厚以下の薄肉部を有する携帯機器用筐体またはその内部機構部品である請求項1〜4の何れか1項に記載の電磁波シールド成形体である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の電磁波シールド成形体によれば、成形体に侵入してきた電磁波をフレーク状ニッケル(B)によりシールドし、また、ニッケル被覆繊維(A)を通じて伝導させて、外部に電磁波が漏洩することを効率よく防止することができる高周波領域の電磁波シールド性に優れた成形体を得ることができる。また、前記成形体が薄肉部を有する場合においては、薄肉部の機械的特性、特にスナップフィット構造を採用する場合に割れやクラックの発生等を抑制することができる機械的特性に優れた電磁波シールド成形体を得ることができる。
【0017】
また、請求項2の電磁波シールド成形体によれば、ニッケル被覆繊維(A)が少なくともニッケル被覆炭素繊維又はニッケル被覆アラミド繊維を含有することにより、請求項1の効果を更に高く発現することができる。
【0018】
また、請求項3の電磁波シールド成形体によれば、成形体に侵入してきた電磁波をフレーク状ニッケル(B)によりシールドし、また、適度な長さのニッケル被覆繊維(A)を通じて伝導させて、外部に電磁波が漏洩することを更に効率よく防止できる。また、ニッケル被覆繊維(A)が適度な長さであるために、前記スナップフィット性を更に高めることもできる。
【0019】
また、請求項4の電磁波シールド成形体によれば、特に、前記スナップフィット性に優れた成形体が得られる。
【0020】
そして、請求項5の電磁波シールド成形体は、薄肉部のスナップフィット性に優れるとともに、高周波領域における電磁波シールド性に優れる成形体であり、携帯電話、ノート型パソコン、PDAなどの特に軽量・小型化が求められている電子機器の筐体に好ましく用いられるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の電磁波シールド成形体は、ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物を射出成形して得られる電磁波シールド成形体であって、前記ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物は繊維の表面がニッケルで被覆されてなるニッケル被覆繊維(A)とフレーク状ニッケル(B)とを含有し、且つ、前記ニッケル被覆繊維(A)を被覆しているニッケル割合がニッケル被覆繊維(A)中20〜60質量%であることを特徴とするものである。
【0022】
本発明におけるゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂とは、アクリロニトリル、ブタジエン及びスチレンを主成分とする熱可塑性樹脂であるABS系樹脂、メタクリル酸メチル、ブタジエン及びスチレンを主成分とするMBS系樹脂及びそれらのマレイン酸変性樹脂など、ブタジエンなどのゴム成分により耐衝撃性が付与されたスチレン系樹脂が挙げられる。
【0023】
前記ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂の中では、ABS系樹脂が特に好ましい。
【0024】
また、ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂としては、ポリブタジエン成分を15〜35質量%、更には20〜30質量%含有するものが好ましい。前記割合が少なすぎる場合には弾性が低くなり薄肉部のスナップフィット構造のために形成される樹脂爪(以下、樹脂爪ともいう)を用いて携帯機器などの筐体に各種部品などを係合させる場合に割れなどを生じるおそれがある。また、多すぎる場合には成形体の剛性が低くなるためにスナップフィットの保持力が低くなり、更に耐熱性も低下する傾向がある。
【0025】
なお、ポリブタジエン成分を15質量%以上含有することにより、射出成形時に固化するまでの時間が長くなるとともに、高い圧縮性を得ることができるために薄肉成形性にも優れることになる。前記ポリブタジエン成分の含有割合は、ABS樹脂などをポリブタジエン成分のみを溶解させない溶媒でポリブタジエン成分のみを分離して、重量を測定することなどにより算出される。なお、ポリブタジエン成分としてはブタジエンの単独重合体のみではなく、ブタジエンと共重合可能な成分との共重合体も含まれる。
【0026】
ABS系樹脂などの製法としては、特に限定されず、グラフト法、ブレンド法、グラフト−ブレンド法などが挙げられる。その中では、特に、グラフト−ブレンド法で得られるABS樹脂などはポリブタジエン成分のドメインサイズが小さく均質な特性をもつ樹脂であるため、ニッケル被覆繊維(A)及びフレーク状ニッケル(B)との密着性に優れている点から好ましい。グラフト−ブレンド法は乳化重合法でポリブタジエン成分の多いABS樹脂などのベースポリマーを製造し、更にこのベースポリマーを乳化重合法、塊状重合法、塊状懸濁重合法で得られたAS樹脂で希釈して製造する方法である。
【0027】
ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂としては、昇温速度10℃/分、温度300℃において質量減少率が3質量%以下であることが好ましい。前記質量減少率が3質量%を超えるものであると、成形体表面にモールドデポジットを生じる傾向がある。従って、質量減少率はより小さいことが好ましい。
【0028】
また、ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂としては、荷重たわみ温度(ASTM D648、荷重1.82MPa)において、85℃以上のものが薄肉部を有する携帯用途の部品などには、機器の信頼性の点で好ましい。更に、ABS系樹脂とMBS系樹脂とを併用する場合には成形性及び脱型性を向上させることができる点から好ましい。
【0029】
本発明におけるゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂としては、例えば日本エイアンドエル(株)製の「クララスチック」や「サンタック」、UMGABS(株)製の「サイコラック」、東レ(株)製の「トヨラック」などのABS樹脂の他、UMGABS(株)製の「バルクサム」などのマレイミド系変性ABS樹脂、三菱レイヨン(株)製のメタブレン(商品名)などのMBS樹脂が挙げられる。これらは1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物には、前記ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂以外の樹脂成分を含有してもよい。具体的には、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。ポリカーボネート系樹脂を含有する場合には成形体の機械的特性を向上させ、特に、スナップフィット性を向上させることができる。
【0031】
ポリカーボネート系樹脂はジヒドロキシジアリールアルカンから得られるものであり、任意に枝分かれしていてもよい。このポリカーボネート系樹脂は公知の方法により製造されるが、一般的にはヒドロキシ及び/又はポリヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることにより製造される。ポリカーボネート系樹脂としては−30℃におけるアイゾット衝撃強度が100J/m以上のものを用いた場合には、得られる電磁波シールド成形体は低温環境においても高い衝撃性を有し、スナップフィットの樹脂爪付近においてクラックの発生を抑制する。
【0032】
また、ポリカーボネート系樹脂としては、MFR(メルトフローレート;JISK7210)値が280℃、荷重2.1kgの測定条件で10g/分以上のものが樹脂組成物の流動性が低下することがないために薄肉の成形体を容易に成形することができる点から好ましい。
【0033】
ポリカーボネート系樹脂としては、例えば、住友ダウ(株)製の「カリバー」、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製の「ユーピロン」、帝人化成(株)製の「パンライト」などが挙げられる。これらは1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
ポリカーボネート系樹脂を用いる場合の配合割合としては、ゴム強化スチレン系樹脂組成物中20〜60質量%であることが成形流動性を低下させずに機械的特性を向上させる点から好ましい。
【0035】
本発明におけるゴム強化スチレン系樹脂組成物は電磁波シールド成分及び補強成分として、繊維の表面がニッケルで被覆されてなるニッケル被覆繊維(A)を含有する。ニッケル被覆繊維(A)を含むことにより、フレーク状ニッケル(B)によりシールドされた成形体に侵入してきた電磁波をニッケル被覆繊維(A)を通じて伝導させて、外部に電磁波が漏洩することを効率よく防止することができると考えられる。また、スナップフィット性の向上にも寄与する。
【0036】
本発明におけるニッケル被覆繊維(A)は有機繊維又は無機繊維の表面をニッケルで被覆して得られるものであり、前記繊維を被覆しているニッケル割合がニッケル被覆繊維(A)全量中20〜60質量%であるものである。
【0037】
前記繊維を被覆しているニッケルの割合としてはニッケル被覆繊維(A)全量中の前記ニッケルの割合が20質量%未満の場合には、電磁波シールド効果が不充分になり、また、60質量%をこえる場合には得られる電磁波シールド成形品の比重が高くなりすぎるため好ましくない。
【0038】
前記ニッケル被覆繊維(A)の製造に用いられる有機繊維又は無機繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維や液晶ポリマー繊維等の有機繊維、炭化硅素ウイスカ、チタン酸カリウムウイスカ、アルミナ繊維、ガラス繊維、ウオラストナイト繊維等の無機繊維が挙げられる。これらの中では、炭素繊維又はアラミド繊維が特性バランスに優れている点から特に好ましい。
【0039】
ニッケル被覆繊維(A)としてはシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤などで表面処理したものも好ましく用いられる。またオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂などで集束処理したものが製造上好ましく、特にエポキシ系樹脂やウレタン系樹脂で集束処理したものが好ましい。
【0040】
本発明の電磁波シールド成形体中における前記ニッケル被覆繊維(A)の平均繊維長としては200〜500μmであることが好ましい。前記平均繊維長が短すぎる場合には、電磁波シールド成形体内でフレーク状ニッケル(B)によりシールドされた電磁波を効率よく伝導させることができず、また、長すぎる場合には薄肉成形体を得ることが困難になる傾向がある。
【0041】
また、ニッケル被覆繊維(A)の繊維径としては、3〜20μm、さらには、4〜15μm程度であることが電磁波シールド性と各種機械的特性のバランスに優れている点から好ましい。
【0042】
ニッケル被覆繊維(A)のゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物中の含有割合としては10〜35質量%、更には15〜30質量%程度であることが好ましい。前記割合で含有することにより、電磁波シールド性を保持しながら、薄肉成形体の成形を容易にすることができ、また、得られる成形体の薄肉部の機械的特性を高めることができる。
【0043】
一方、本発明におけるゴム強化スチレン系樹脂組成物はフレーク状ニッケル(B)を含有する。
【0044】
前記フレーク状ニッケル(B)とは、厚みが0.5〜2μm程度の板状フィラーであり、アスペクト比が10〜30程度のものである。
【0045】
前記アスペクト比が小さすぎる場合には、電磁波シールド性改良効果が充分に発揮されず、また、大きすぎる場合には、薄肉成形する際の流動性が乏しくなる傾向がある。
【0046】
前記フレーク状ニッケル(B)の含有割合としては、ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物中に1〜30質量%であることが好ましい。
【0047】
前記含有割合が少なすぎる場合には、電磁波シールド性改良効果が充分に発揮されず、また、多すぎる場合には、薄肉成形する際の流動性が乏しくなる傾向がある。
【0048】
なお、前記フレーク状ニッケル(B)と前記ニッケル被覆繊維(A)とを組み合わせて含有させる場合における、それらの電磁波シールド性に寄与するメカニズムは現時点では解明できていないが、フレーク状ニッケル(B)は板状であるために、成形体内に侵入してきた電磁波をそれぞれの断片の表面で反射し、また、その反射の過程で前記ニッケル被覆繊維(A)に電磁波を伝導させるのではないかと考えている。
【0049】
また、フレーク状ニッケル(B)も前記ニッケル被覆繊維(A)もニッケルを構成要素とし、伝導度が同じであるために、電磁波の伝導性に特に優れていると考えられる。
【0050】
本発明におけるゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的とする所望の特性を阻害しない範囲で従来公知の添加剤、例えば難燃剤、難燃助剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、離型剤、流動改質剤、着色剤、滑剤、発泡剤などを必要に応じて添加してもよい。また、カーボンブラック、金属粉、及び強化材や充填材、例えばガラス繊維、ガラスフレーク、ウィスカー、アラミド繊維、タルク、マイカ、ワラストナイト、クレー、シリカ、ガラス粉などを用いてもよい。
【0051】
前記各種成分を含有するゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物は、通常の熱可塑性樹脂組成物の調製方法に従い調製することができる。
【0052】
具体的には、例えば、予め前記各種成分を均一になるように予備混合して混合物を得、そして、前記混合物を単軸又は二軸押出機などを用いて溶融混練して、その後ペレット化するなどの調製方法が用いられる。
【0053】
このようにして得られるゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物を射出成形することにより本発明の電磁波シールド成形体が得られる。
【0054】
射出成形法としては、成形性に優れる高速射出成形又は射出圧縮成形を用いることが好ましい。
【0055】
但し、0.5mm以下の薄肉部を有する成形体を良好に成形するためには射出速度を250〜3000mm/sec、好ましくは700〜1500mm/sec程度に設定することが好ましい。射出速度が速いほど0.5mm以下のような薄肉部を有する成形体を容易に成形するのに適しているが、3000mm/sec以上となると樹脂焼けが発生するおそれがある。
【0056】
更に、成形体の配向を抑制し、また、0.5mm厚以下の部分にニッケル被覆繊維を存在させるためには射出圧縮成形法を用いるのことが好ましい。通常の射出成形においても、射出条件を選ぶことによって、薄肉部分にもニッケル被覆繊維(A)及びフレーク状ニッケル(B)を存在させることができるが、極めて薄い部分を有し、かつその部分の流動長が長い場合には通常の射出成形では薄い部分にニッケル被覆繊維(A)及びフレーク状ニッケル(B)を充分に存在させられなかったり、分布が不均一になるおそれがあるが、このような場合には射出圧縮成形法を用いることが好ましい。
【0057】
すなわち、射出圧縮成形法は、射出成形の金型を目的とする成形体の厚み寸法よりも少し開いた状態で、溶融樹脂を射出することにより薄肉部分に樹脂組成物を充填した後、型締めすることにより目的とする成形体を得る公知の射出成形法であるが、射出圧縮成形法を用いた場合には、予め金型を成形体の実際の厚みよりも開いたままで射出するために、成形体が0.5mm以下のような極めて薄い厚みの部分にも、ニッケル被覆繊維(A)及びフレーク状ニッケル(B)を充分存在させることができる。
【0058】
従って、本発明においては特に、射出圧縮成形を用いることにより、極めて薄い部分にもニッケル被覆繊維(A)及びフレーク状ニッケル(B)を存在させ、電磁波シールド性及びスナップフィット性等の機械的特性を高めることができるために好ましい。
【0059】
このようにして、得られる本発明の電磁波シールド成形体は、例えば、800MHz以上のような高周波領域における電磁波シールド性及びスナップフィット性を必要とし、かつ、0.5mm厚以下のような極めて薄い部分を有する電磁波シールド成形体の各種用途、具体的には、例えば、携帯機器用筐体または携帯機器用の各種内部機構部品、メモリーカードケースなどに好ましく用いられる。
【実施例】
【0060】
[実施例1〜12及び比較例1〜4]
以下に本実施例で用いた熱可塑性樹脂及び充填材の詳細を示す。
・ABS樹脂:UMGABS(株)製のABS樹脂(グラフト−ブレンド法,ポリブタジエン量21質量%、300℃での質量減少−1.56質量%)
・ポリカーボネート樹脂:住友ダウ(株)製のポリカーボネート樹脂(品番301-22)
・ニッケル被覆炭素繊維I:ニッケル割合が20質量%で、繊維径が7.6μm、固有抵抗率が0.075μΩcmであるニッケル被覆炭素繊維。
・ニッケル被覆炭素繊維II:ニッケル割合が55質量%で、繊維径が7.6μm、固有抵抗率が0.075μΩcmであるニッケル被覆炭素繊維。
・ニッケル被覆アラミド繊維:ニッケル割合が20質量%で、繊維径が7.6μm、固有抵抗率が0.075μΩcmであるニッケル被覆アラミド繊維。
・フレーク状ニッケル:(HCA1 インコ社製、厚さ1μm、アスペクト比20)
・球状ニッケル:(CNS10 インコ社製、平均粒径10μm)
【0061】
表1に示す所定組成の各樹脂を含有する熱可塑性樹脂及び充填材を配合量(質量部)を変えてドライブレンドした後、スクリュウ径30mmのベント付2軸押出機により、シリンダー温度250℃で溶融混練し、ストランドカットによりペレットを調整した。
【0062】
上記のように調整した各組成物を用いて、以下に示す方法により各測定用の試料を成形して評価を行った。
【0063】
(電磁波シールド性及び接触抵抗)
各ペレットを120℃で5時間熱風循環式乾燥機により乾燥した後、シリンダー温度250℃、金型温度80℃で一辺50mm、厚み1mmの方形状の外周部の中央部に一辺40mm、厚み0.5mmの薄肉部を有する方形状の成形体を射出成形により作製した。この成形体を用いてKEC法(関西電子工業振興センター法)により電界及び磁界についてそれぞれ800MHz及び1000MHzのときの電磁波シールド性を測定した。
【0064】
また、接触抵抗は一辺50mm、厚み1mmの方形状の成形体を射出成形により作製した。そして、成形体の両表面にカーボンペーパー(東レ(株)製TGP-H-M、090M、厚み0.28mm)を配置し、更にその上下に銅板を配置した後、1MPaの圧力で加圧した。そして、2枚のカーボンペーパー間の抵抗を測定した。
【0065】
(成形品中の平均繊維長)
前記電磁波シールド性の測定で用いた方形状の成形体を溶媒浸漬して樹脂成分を溶解し、樹脂成分を除去した後、ニッケル被覆繊維を光学顕微鏡で観察して200本の繊維長を測定し、数平均繊維長を求めた。
【0066】
(スナップフィット性)
図1に示す係合部であるバネ13,13間の最大幅が6mm、各バネの最薄肉部の厚さが0.5mmの成形体を射出成形により評価用試料14として作製した。成形するに当たり、それぞれの樹脂組成物に応じた条件を変更して行った。
【0067】
上記のようにして作製した各試料80個を図1に示す樹脂製の幅5mmの挿入部を有する嵌合体15に挿入し、挿入によって試料に割れやクラックの生じたものの数をカウントして評価した。
【0068】
(成形性)
前記一辺50mm、厚み1mmの方形状の外周部の中央部に一辺40mm、厚み0.5mmの薄肉部を有する方形状の成形体を日精樹脂工業(株)製のES600を用いて樹脂温度250℃、金型温度80℃で80ショット成形した。
【0069】
そして、得られた80個の成形体を観察し未充填部を有する成形体の数を目視で数えた。
【0070】
前記評価結果を表1及び表2に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
表1及び表2の結果において、ニッケル割合が20質量%のニッケル被覆炭素繊維とフレーク状ニッケルとを含有する樹脂組成物から得られる実施例1の成形体とフレーク状ニッケルの代わりに球状ニッケルを用いた比較例2の成形体の電磁波シールド性を比較すると、実施例1の電磁波シールド性は大幅に高いことがわかる。また、比較例2においては成形不良が5個/80個の割合で発生したのに対し、実施例1においては成形不良が1個/80個であった。このことより、本発明の電磁波シールド成形品は、薄肉化が可能であり、かつ、電磁波シールド性に優れていることがわかる。
【0074】
また、ニッケル被覆アラミド繊維とフレーク状ニッケルとを含有する樹脂組成物から得られる実施例10の成形体とフレーク状ニッケルを含有しない比較例4の成形体の電磁波シールド性を比較すると、フレーク状ニッケルを用いた実施例10の成形体の電磁波シールド性、特に、高周波の1000MHzにおける電磁波シールド性は大幅に優れていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実施例で用いたスナップフィット性評価試験片及びスナップフィット性評価試験片を挿入するための嵌合体を示す模式図である。
【符号の説明】
【0076】
13 バネ部
14 スナップフィット性試験片
15 嵌合体1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物を射出成形して得られる電磁波シールド成形体であって、前記ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物は繊維の表面がニッケルで被覆されてなるニッケル被覆繊維(A)とフレーク状ニッケル(B)とを含有し、且つ、前記ニッケル被覆繊維(A)の繊維を被覆しているニッケルの割合がニッケル被覆繊維(A)中20〜60質量%であることを特徴とする電磁波シールド成形体。
【請求項2】
前記ニッケル被覆繊維(A)が少なくともニッケル被覆炭素繊維又はニッケル被覆アラミド繊維を含有する請求項1に記載の電磁波シールド成形体。
【請求項3】
前記ニッケル被覆繊維(A)の平均繊維長が200〜500μmである請求項1又は請求項2に記載の電磁波シールド成形体。
【請求項4】
前記ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物が更にポリカーボネート系樹脂を含有する請求項1〜3の何れか1項に記載の電磁波シールド成形体。
【請求項5】
前記電磁波シールド成形体が0.5mm厚以下の薄肉部を有する携帯機器用筐体またはその内部機構部品である請求項1〜4の何れか1項に記載の電磁波シールド成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2007−59835(P2007−59835A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246693(P2005−246693)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】