説明

電磁波吸収体

薄く、軽く、かつ柔らかい、施工性に優れた電磁波吸収体を提供する。第1導体素子層(6)の第1導体素子群(12)は、整列配置される十文字導体素子(30)と、十文字導体素子(30)に囲まれる領域に方形導体素子(31)とからなる。第1導体素子層(6)側から入射される電磁波を、各素子(30)、(31)で受信し、内部で多重反射させ、第1損失材層によって電磁波を吸収する。第1導体素子群(12)を、十文字導体素子(30)と方形導体素子(31)とによって実現することで、受信効果を高くして、電磁波を高い収集効率で収集することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、たとえばオフィスなどの空間の電磁波環境を改善するために用いられる電磁波吸収体に関する。
【背景技術】
現在、コンピューターネットワークのLAN(Local Area Network)構築においてマイクロ波を利用した無線LANなどが利用され、よりフレキシブルでモバイル性の高い通信システムが発達している。また、WPAN(Wireless Personal Area Network)の代表とされるBluetoothと呼ばれる近距離無線技術が有線ケーブルの代替品として利用されている。これらの技術を相互に多数使用する環境では、同じ帯域の電磁波を使用する結果生じる電磁波干渉の問題、および反射波などによる伝送の誤りの問題(マルチパスの問題)が生じる。具体的には、上記の無線技術を搭載した機器間の伝送速度の低下、BER(Bit Error Rate)の劣化であり、最悪の事態では、機器の誤動作が生じるおそれがある。
これらの問題を解決するために、従来から、電磁波吸収材料としてフェライトに代表される磁性損失材料やカーボンブラックに代表される誘電損失材料等が用いられてきた。これらの電磁波吸収材料を供するために所定の複素比誘電率、複素比透磁率を有している電磁波吸収体が開発されている。この先行技術では、たとえば無線LAN等の2.45GHz帯において、フェライトを構成材料として電磁波吸収体を実現する場合、スネークの限界による制約を受け、通常4mm以下の薄さに電磁波吸収材料の厚みを薄くできないという問題がある。
他の先行技術として、特開平6−164184、特許第3076473(特開平6−244583)、特許第3209456(特開平6−140787)、特許第3209453(特開平6−45782)、特開平6−252582、特開平6−224568および特開平9−148782には、パターン層を含む多層型電磁波吸収体が示され、特開平10−224075には、導体ループ構造によるパターン層を有する電磁波吸収体が開示されている。さらに、特開平11−204984および特開平11−195890には、複数の共振型周波数選択性電磁波遮断性面状体に関する記載がある。さらに特開2003−243876には、パターン形状などの設計手法が示されている。
特開平6−164184には、金属パターン層を用いた電波反射防止体を示されている。この電波反射防止体は、成型シート層に空隙を残すことを目的としており、紙、布、不織布または多孔質シートを用い、そこにフェライト、カーボン等が含有する塗料を含浸させる構成になっており、これらの被含浸体を使用しない構成となる本発明とは異なるものである。同様の構成が特開平6−252582および特開平6−224568でもパターン樹脂層として述べられているが、同じく本発明の構成と異なるものである。
特許第3076473(特開平6−244583)には、パターン層および樹脂層から成る構成を1単位として、これを複数繰り返す電波吸収体が示されている。この電波吸収体は、パターン層に1層以上塗膜を使うとしており、金属製素子を用いる場合および導電率に制限を設けた本発明とは異なる。
特許第3209456(特開平6−140787)には、パターン層と樹脂層の積層体が示されている。この積層体は、パターン構造を重層構造としており、本発明の素子形状とは異なる。同様の構成が特許第3209453(特開平6−45782)にも示されているが、同じく本発明の素子形状とは異なる。
特開平9−148782、特開平10−224075、特開平11−204984および特開平11−195890には、パターン層と空間でも良いとする絶縁性スペーサ材の積層構造が示されている。この積層構造の構成には、誘電損失材や磁性損失材等の熱変換による損失成分が用いられておらず、本発明とは異なる。パターン形状とスペーサ間隔のみで吸収周波数を制御するため、電波の入射角度によりスペーサの厚さが変わってしまうと、斜入射特性に劣ることになる。
特開2003−243876には、パターン形状や電波吸収体の構成材料をFDTD法による近似解析を行うことによる理論的な設計手法が示されている。ただし、計算する因子が多様で実際にたとえば建築内装材として使われている複素比誘電率の異なる材料と組み合わせる場合の設計変更が複雑となる。
このような特開平6−164184、特許第3076473(特開平6−244583)、特許第3209456(特開平6−140787)、特許第3209453(特開平6−45782)、特開平6−252582、特開平6−224568、特開平9−148782、特開平10−224075、特開平11−204984、特開平11−195890および特開2003−243876に示されるように、薄型化および軽量化が可能な電波吸収体として、パターン層が設けられるパターン電波吸収体があり、遠方界電磁波の吸収体として実用化されている。ただし電波吸収性能と、薄型化および強度とは、相反する関係にあり、高吸収性能を保ったまま、薄くかつ高強度を維持することは難しく、特に1〜3GHzなどの低周波数の電波を吸収するための電磁波吸収体ほど、吸収体層の厚みが必要であるので、薄型化、これによる軽量化、柔らかさ、現場裁断加工性の実現が困難となる。
建築関係の内装材、たとえば天井材、壁材、衝立などに、電磁波吸収性能を付与する場合、施工性およびコスト面の要求仕様が重視されるので、できるだけ薄く、軽く、かつ柔らかい安価な電磁波吸収体であることが必要になる。とくに実際に無線LANを使用する場合、従来からある金属製の棚、柱、エアコン等が電磁波反射層として働き、無線環境の劣る場所がスポット的に発生することがあった。この場合、無線通信環境に影響を及ぼす部位に電磁波吸収材を被覆することが通信改善に効果的であるが、従来の技術では、高電波吸収性能を有しながら、薄く、軽く、柔らかく、かつ強度的および施工性に優れた電波吸収体を得ることができない。
【発明の開示】
本発明の目的は、高い電磁波吸収性能を有しながら、薄く、軽く、柔らかく、かつ強度的および施工性に優れた電磁波吸収体を提供することである。
本発明は、受信動作が異なる複数種類の導体素子を含み、予め定める共振周波数を有する複数の導体素子を備え、各導体素子が、相互に分離される状態で、電磁波入射方向と交差する方向に並べて配置される素子受信手段と、
素子受信手段に近接して設けられ、電磁波のエネルギを損失させる損失材とを含むことを特徴とする電磁波吸収体である。
本発明に従えば、複数の導体素子が電磁波入射方向と交差する方向に並べられて素子受信手段が構成され、この素子受信手段によって、各導体素子の共振周波数と同一の周波数の電磁波を、効率よく受信することができる。この素子受信手段に近接して、損失材が設けられており、素子受信手段によって受信される電磁波のエネルギが損失される。言い換えるならば電磁波のエネルギを熱エネルギに変換して吸収することができる。このように素子受信手段を用いることによって電磁波を効率よく受信して吸収することができる。さらに1種類の導体素子ではなく、複数種類の導体素子を有するので、それぞれの特性を生かして、電磁波を効率よく受信し、効率よく吸収することができる。このように電磁波の吸収効率を高くすることができるので、高い電磁波吸収性能を得ることができ、薄型化および軽量化を図ることができ、さらに損失材の材質の選択の自由度が高くなって、柔軟でかつ強度的に優れ、施工性に優れた電磁波吸収体を得ることができる。損失材は、たとえば、誘電性損失材であってもよいし、磁性損失材であってもよいし、またこれを積層するなどして組合せてもよい。
電磁波吸収体は、電磁波が入射される側と反対側の表面部に導電性材料から成る電磁波反射手段が設けられる構成でもよいし、前記反対側の表面部が導電性材料から成る構造物(導電性反射層として機能)に接触させる状態で用いてもよい。各導体素子の共振周波数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。全ての導体素子の共振周波数が同一である場合、その共振周波数と同一の周波数の電磁波の吸収効率を高くすることができる。またたとえば導体素子の種類毎に共振周波数が異なるなど、導体素子の共振周波数が異なる場合、複数の周波数の電磁波を吸収することができ、広帯域化を実現することができる。
ここで本発明と先行技術との違いを説明する。先行技術のパターン層を用いる電波吸収体の吸収原理は、(1)誘電損失または磁性損失を有する吸収層による電波の熱への変換、(2)表面パターンから反射する電波と導電性反射板から反射する電波の位相差を利用した干渉効果による電波消滅、によるものとしている。
原理的には伝送線路のモデルで等価回路をつくり、入力インピーダンスを377Ωに近づけて、電磁波吸収性を発現させるという従来からの設計方法であるが、パターンという異物が電磁波入力面にある結果、等価回路的に吸収体の厚さを薄くするのと同じ効果を得ることができるとしてパターンの形状を決めている。この場合、パターン形状が単純な場合は等価回路としてモデル化が容易にできるが、複雑な形状になると等価回路を出すことが理論的に難しくなり、パターン形状の最適化を図ることは困難となる。
本発明が先行文献と異なるのは、この表面素子の形状決定に受信素子設計原理による最適化手法を用いたことにある。つまり本発明では、単なるパターンではなく、予め定める周波数に対して効率的に共振する受信素子として動作する形状に設計して、導体素子とすることで、より効率的な電磁波の受信を実現する。
汎用の受信素子設計では受信素子の指向性を確保するため、パッチアンテナにて近接した導電性反射層を用いる場合を除き、一般に自由空間にある受信素子として設計するため、近傍に損失性を有する材料を用いることはなく、また近接して導電性反射層を設けることもない。特に導電性反射層を近接設置すると、導体素子と導電性反射層との間で容量の大きいコンデンサーが形成され、これが共振周波数に影響することになり、この影響を除去することは非常に難しいからである。
これに対して電磁波吸収体では、導電性反射層がなければ、たとえば建物内装材の上に(積層して)電波吸収材を設置する場合など、その建物内装材、具体的には、天井材、壁材、床材、衝立等のそれぞれの誘電率の違いの影響を受ける結果、共振周波数が変わってしまう。つまり設置場所毎に、各受信素子の共振周波数が異なり、設計時に想定した周波数に対応する電磁波吸収体として用いることができなくなる。したがって前述のように、電磁波吸収体は、電磁波が入射され側と反対側の表面部に導電性材料から成る電磁波反射手段が設けられる構成とするか、前記反対側の表面部が導電性材料から成る構造物(導電性反射層として機能)に接触させる状態で用いることが好ましい。これによって安定した共振周波数を確保することができる。つまり本発明では、このように導電性反射層を設けることを前提として導体素子を形成している。
電磁波吸収体の薄型化を目指す場合、導体素子と導電性反射板の距離が接近し、しかも導体素子に受信された電磁波を熱に変換するために特定周波数に対応した損失材が導体素子に近接する条件で、それらの影響を考慮して受信素子としての最適化設計を施すことが、本発明の設計手法である。
本発明の電磁波吸収体の構成で、(磁性)損失材層を限りなく薄くできる理由は、次の理論的根拠とそれを例証する後記実施例で示す実験的裏付けに基づいている。
前記、背景技術で記したように、従来種々の形状の導体素子を(磁性)損失材(電磁波吸収体)に付与して電磁波吸収特性を実現する方法が、これまで多く提案されている。
これに対し、本発明は、想起し得る数ある導体素子形状の中から、本発明の構成の電磁波吸収体を見込む入力インピーダンス特性を、FDTD解析法を駆使して詳細に検討し、(磁性)損失材層の表面とその裏面に設ける導体素子の相関関係から、通常の透磁率特性を有する磁性材料を(磁性)損失材として用いても薄型化できるという、従来のものとは全く相違する新しい導体素子構成を見いだしたものである。すなわち本構成の電磁波吸収体は、十文字導体素子と方形導体素子をなす導体素子を所定の間隔で周期的に配列して、電磁波吸収体の電磁波入射側の表面に付着させ、かつ(磁性)損失材の背面に表面と同一、もしくは異なる形状の導体素子を付着させた構成で、その(磁性)損失材を限りなく薄型化している。
本発明の上記構成で、導体素子の寸法を大きくしていくと、電磁波入射側から電磁波吸収体を見た入力アドミッタンスは、アドミッタンスのサセプタンス成分が増加し、かつ整合周波数は低周波数側に移る。この結果より電磁波吸収体を薄く構成できる。しかし、以下の手段によって、従来のものより(磁性)損失材をより薄く、すなわち限りなく薄くできる技術を発明している。
以下、本発明の導体素子構成による電磁波吸収体による構成原理を従来の十文字形状のみからなる導体素子を表面に付着させ、その背面に正方形導体パターンを付着したものを例にとって説明する。十文字導体素子のみの場合、導体素子の寸法を大きくすると電磁波入射側から電磁波吸収体を見た入力アドミッタンスの変化をスミス図上で見ると、サセプタンス成分が増加する割合が大きく、またこの場合周波数が高周波数側へ変化するにつれコンダクタンス分がコンダクタンス1の円に対して増加する方向へ移動する傾向を示す。これに対し、本発明の十文字導体素子および方形導体素子からなる場合は、これらの導体素子を同時に大きくしても、十文字構造、すなわち他の導体素子に比べ、入力アドミッタンスのサセプタンス成分の変化割合が少なく、かつ周波数の高周波数側への変化に対してコンダクタンス成分が、コンダクタンス1の円に対して増加する割合が少ない。すなわち、本発明の場合、周波数の高周波数側への変化に対して、正規化コンダクタンス値1の円周上からコンダクタンス値が大きく逸脱することなく安定している特性を有する。このコンダクタンスが1の円周上に踏みとどまるという安定性の発見こそが、本発明の導体素子構成にて(磁性)損失材を薄型化できる根拠となっている。
このように、コンダクタンス値の安定性を確保した上で、この場合のサセプタンス分調整の一手段として(磁性)損失材背面に付着させた導体素子の寸法調整、導体素子の形状の選択で対処している。つまり、低周波数側で整合を取るために導体素子寸法を大きくすることによるサセプタンスの増加分を(磁性)損失材背面に付着させた導体素子で減少させている。すなわち、この(磁性)損失材背面に付着させた導体素子で、コンダクタンス1の円周上でサセプタンス値が、周波数が高くなるにつれ増加する分を元に引き戻して、低周波数で整合が取れるように調整役となる役割を持たせている。したがって、サセプタンス値を制御する必要がない場合は、(磁性)損失材背面の導体素子は必ずしも必要でない。
また本発明は、各導体素子は、電磁波入射方向と交差する方向に加えて、電磁波入射方向にも並べて配置されることを特徴とする。
本発明に従えば、導体素子が電磁波入射方向にも並んで設けられている。このように導体素子が、3次元的に、つまり立体的に配置されるので、電磁波吸収体に形成される静電容量が大きくなり、みかけの誘電率を上げることができる。これにより各導体素子における共振周波数を低周波数側にシフトすることができ、この結果、電磁波吸収体の全体厚みをさらに薄くすることができる。つまり、電磁波吸収体では、吸収すべき電磁波が低周波(波長が長い)になるにつれて、厚みを大きくしなければならない、という周波数と厚みとの間の相関関係を有する。これに対して、本発明では、共振周波数の低周波数側へのシフトが可能であるので、全体の厚みを薄く保ったままで、周波数の低い電磁波の吸収が可能になる。導体素子の3次元配置は、導体素子の有する共振周波数の低周波数化効果を得るための具体的な手段の1つである。
また本発明は、素子受信手段に対して電磁波入射側とは反対側に配置され、電磁波を反射する電磁波反射手段をさらに含むことを特徴とする。
本発明に従えば、導電性反射層が設けられ、電磁波吸収体の設置場所の影響を受けて、導体素子の共振周波数が変化することが防がれる。たとえば電磁波吸収体を、建物内装材に設けても、その内装材の誘電率などの影響を受けて、導体素子の共振周波数が変化してしまうことを防ぐことができる。
また本発明は、導体素子の導電率が10,000S/m以上であることを特徴とする。
本発明に従えば、導体素子の導電率を高くし、受信効率を高くすることができる。導体素子としては、金属および導電性インク等各種のものが使えるものの、その導電率に制限があり、1,000S/mに満たないものは本発明でいう導体素子として機能しないことになる。
また本発明は、導体素子が金属から成ることを特徴とする。
本発明に従えば、導体素子が金属から成り、カーボンや黒鉛による導電インクでは上述の10,000S/m以上の導電率を安定して得られない。金属で構成させる導体素子が最も好ましい。
また本発明は、厚さが、0.1mm以上4mm以下であるシート状に形成されることを特徴とする。
本発明に従えば、厚さが、0.1mm以上4mm以下である。厚さが4mmを越えると、薄型および軽量化の点で問題があるうえ、柔軟性が低くなってしまう。厚さが、0.1mm未満になると、強度が低くなってしまう。これに対して、厚さが、0.1mm以上4mm以下であるので、薄型および軽量で、柔軟性が高く、かつ強度的に優れた電磁波吸収体を実現することができる。したがって取扱を容易に、施工性に優れ、かつ設置場所の制限の少ない電磁波吸収体を実現することができる。
また本発明は、単位面積あたりの質量が、0.2kg/m以上5kg/m以下であるシート状に形成されることを特徴とする。
本発明に従えば、質量が、0.2kg/m以上5kg/mである。質量が5kg/mを越えると、薄型および軽量化の点で問題があるうえ、厚さが大きくなって柔軟性が低くなってしまう。質量が、0.2kg/m未満になると、厚さが小さくなり過ぎて強度が低くなってしまう。これに対して、質量が0.2kg/m以上5kg/mであるので、薄型および軽量で、柔軟性が高く、かつ強度的に優れた電磁波吸収体を実現することができる。したがって取扱を容易に、施工性に優れ、かつ設置場所の制限の少ない電磁波吸収体を実現することができる。
また本発明は、複数種類の導体素子のうち、一種類の導体素子は、十文字形状に形成される十文字導体素子であり、他の種類の導体素子は、面状に形成される方形導体素子であり、
十文字導体素子と方形導体素子とは、電磁波入射方向と交差する方向に並べて設けられ、
各十文字導体素子は、電磁波入射方向と交差する方向に整列して配置され、
各方形導体素子は、十文字導体素子に囲まれる領域に、その領域を塗潰すように配置されることを特徴とする。
本発明に従えば、十文字形状に形成され、相互に間隔をあけて整列して設けられる十文字導体素子と、十文字導体素子に囲まれる領域に、十文字導体素子から間隔をあけて配置され、十文字導体素子に囲まれる領域を塗潰すように設けられる方形導体素子とを有する。十文字導体素子は、素子長が吸収すべき電磁波に対して共振するように最適化され、方形導体素子は、方形導体素子の外周長が吸収すべき電磁波に対して共振するように最適化されている。このようにして、効率よく電磁波を受信する素子受信手段を実現することができる。
十文字導体素子と方形導体素子は共に共振型の受信素子であり、基本モードと高次モードで共振するものである。導体素子の共振モードが異なることも本発明にいう受信動作が異なることに含まれる。十文字導体素子は、十文字状で構成されるが、その構成を線分に分割して、独立の線分を配置する形状でも同様の効果を得られる。十文字導体素子との組み合わせる受信素子は方形状に限らず、ループ状その他でも使用可能である。
また本発明は、十文字導体素子は、放射状に延びる部分を相互に突合せるように配置され、方形導体素子は、十文字導体素子に囲まれる領域に対応する形状に形成されることを特徴とする。
本発明に従えば、十文字導体素子は、放射状に延びる部分を相互に突合せるように配置され、方形導体素子は、十文字導体素子に囲まれる領域に対応する形状に形成される。このような配置は、十文字導体素子と方形導体素子の組み合わせで、受信効率が最適(高くなる)組み合わせである。したがって吸収効率の高い、電磁波吸収体を実現することができる。
また本発明は、各導体素子間の間隔寸法は、各導体素子が有する共振周波数を低くするように決定されることを特徴とする。
本発明に従えば、各導体素子の共振周波数の低周波数側へのシフトが可能であるので、全体の厚みを薄く保ったままで、周波数の低い電磁波の吸収が可能になる。したがって電磁波吸収体をより薄くすることができる。これは導体素子の有する共振周波数の低周波数化効果を得るためのさらなる具体的な手段である。
また本発明は、各導体素子の形状は、略多角形状であり、少なくとも1つの角部分が、前記共振周波数に応じた曲率半径の弧状であることを特徴とする。
本発明に従えば、角部分を弧状に形成することによって、対応する共振周波数と同一の周波数の電磁波の吸収効率を高くすることができる。したがって厚みが薄くかつ吸収効率の高い電磁波吸収体を実現することができる。
また本発明は、損失材の特性値は、各導体素子が有する共振周波数に基づいて、前記共振周波数と等しい周波数の電磁波の吸収効率が高くなるように決定されることを特徴とする。
本発明に従えば、電磁波の吸収効率の高い電磁波吸収体を得ることができる。
また本発明は、難燃性、準不燃性または不燃性が付与されることを特徴とする。
本発明に従えば、難燃性、凖不燃性または不燃性が得られる。建築内装材またはそれに積層して用いる場合には、建築内装材に要求される難燃性、準不燃性、または不燃性を同様に満たす必要がある。これによって建物内装材またはそれに積層して好適に用いることができる。難燃性、準不燃性または不燃性を付与するにあたっては、たとえば難燃剤または難燃助剤などを配合するようにしてもよい。
また本発明は、前記電磁波吸収体を用いることによる電磁波吸収方法である。
本発明に従えば、電磁波吸収体を用いて、高い吸収効率で電磁波を吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
本発明とこれらの目的とそれ以外の目的と、特色と利点とは、下記の詳細な説明と図面とから一層明確になるであろう。
図1は、本発明の実施の一形態の電磁波吸収体1の正面図である。
図2は、電磁波吸収体1を構成する第1導体素子層6を示す斜視図である。
図3は、第1導体素子層6の一部を拡大して示す斜視図である。
図4は、電磁波吸収体1を構成する第2導体素子層4の正面図である。
図5は、第2導体素子層4の一部を拡大して示す斜視図である。
図6は、導体素子の導電率の違いと電磁波吸収性能の関係(計算値)を示すグラフである。
図7は、二種類の導体素子の位置関係と電磁波吸収性能の関係(計算値)を示すグラフである。
図8は、本実施の他の形態の導体素子30,31を示す正面図である。
図9は、本発明のさらに他の形態の導体素子30,31を示す正面図である。
図10は、本発明のさらに他の形態の導体素子30,31を示す正面図である。
図11は、導体素子の形状と電磁波吸収性能の関係(計算値)を示すグラフである。
図12は、導体素子の角部分の曲率半径と電磁波吸収性能の関係(計算値)を示すグラフである。
図13は、十文字導体素子30の各形状部分14,15の長さa2x,a2yと電磁波吸収性能の関係(計算値)を示すグラフである。
図14は、本発明のさらに他の形態の導体素子30,31を示す正面図である。
図15は、実施例1の電磁波吸収体1の電磁波吸収特性(計算値)を示すグラフである。
図16は、実施例1の電磁波吸収体1の電磁波吸収特性(実測値)を示すグラフである。
図17は、実施例2の電磁波吸収体1の電磁波吸収特性(実測値)を示すグラフである。
図18は、実施例3の電磁波吸収体1の電磁波吸収特性(実測値)を示すグラフである。
図19は、実施例4の電磁波吸収体1の電磁波吸収特性(計算値)を示すグラフである。
図20は、比較例1の電磁波吸収体1の電磁波吸収特性(実測値)を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う電磁波吸収体の好適な実施形態について説明する。図1は、本発明の実施の一形態の電磁波吸収体1の断面図である。この電磁波吸収体1は、厚み方向(積層方向)一方である図1の上方側である電磁波入射側から、第1導体素子層6と、第1損失材層5と、電磁波反射層である電磁波反射板2とが、この順序で積層した構成される。第1の導体素子層6には、後述するように二種類の複数の金属製導体素子30,31を含む第1導体素子群12が形成されており、各導体素子30,31の相間関係を最適化することによって、第1損失材層5を薄くし、電磁波吸収体1の厚みを小さくすることができる。第1導体素子層6の電磁波入射側(図1の上方)には、さらに電磁波を反射する層でない表面層7が形成されてもよい。
電磁波吸収体1は、さらに第2導体素子層4と、第2損失材層3とをさらに有する。各層2〜6は、電磁波入射側から、第1導体素子層6、第1損失材層5、第2導体素子層4、第2損失材3および電磁波反射板2の順序で積層され、このような積層構造で電磁波吸収体1が構成される。第2導体素子層4には、後述する複数の金属製導体素子19を含む第2導体素子群18が形成される。各導体素子19,30,31の相間関係を最適化することによって、第1損失材層5はもちろん、第2損失材層3を薄くすることができ、電磁波吸収体1の厚みを小さくすることができる。
第1および第2損失材層3,5は、それぞれ電磁波のエネルギを損失させる損失材であり、ともに誘電性損失材(以下「誘電損失材」という場合がある)であってもよいし、ともに磁性損失材であってもよいし、いずれか一方が誘電性損失材でいずれか他方が磁性損失材であってもよい。本実施の形態では、第1損失材層5は、磁性損失材であり、第2損失材層3は、誘電性損失材である。
本発明の実施の他の形態では、電磁波吸収体は、図1の実施の形態における電磁波反射板2を含まず、このような電磁波反射板2を含まない電磁波吸収体が、第2損失材層3の電磁波入射側(図1の上方)とは反対側(図1の下方)の表面部で、電磁波遮蔽性能を有する物体の面上に設置されるように構成されてもよい。電磁波遮蔽性能を有する物体は、たとえば導電性反射板2と同様な構成を有してもよく、たとえば金属板などによって実現されてもよい。導電性反射板2が設けられる構成と同様の効果を達成する。
図2は、図1に示される本発明の実施の一形態の電磁波吸収体1を構成する第1導体素子層6を示す正面図である。図3は、図1および図2に示される実施の形態における導体素子層6の一部を拡大して示す斜視図である。この第1導体素子層6は、板状基材11の電磁波入射側の表面上に、金属製の第1導体素子群12が形成される。板状基材11は、たとえば合成樹脂である誘電体から成っており、この板状基材11もまた誘電性の損失材である。第1導体素子群12は、十文字導体素子(以下「十文字素子」という場合がある)30と、方形導体素子(以下「方形素子」という場合がある)31とを有する。
十文字素子30は、十文字形状に形成され、複数の十文字素子30が、相互に間隔(以下「十文字素子間隔」という)c2x,c2yをあけて設けられる。さらに詳細には、十文字素子30は、放射状に延びる部分32を、相互に突合せるようにし、互いに突合わされる放射状に延びる部分32が、十文字素子間隔c2x,c2yあけている。さらに具体的に述べると、たとえばこの実施の形態では、十文字素子30は、相互に垂直なx方向およびy方向に沿う放射状である十字状に形成され、x方向に十文字素子間隔c2xをあけ、y方向に十文字素子間隔c2yをあけて、行列状に規則正しく配置されてもよい。
十文字素子30は、x方向に細長く延びる長方形の形状部分14と、y方向に細長く延びる長方形の形状部分15とが、それらの各形状部分14,15の図心を重ねて、交差部分16で直角に交差する形状である。各形状部分14,15は、交差部分16において垂直な軸線まわりに90度ずれており、同一形状を有する。各形状部分14,15の幅a1y,a1xは、等しく、たとえば2.5mmであり、各形状部分14,15の長さa2x,a2yは、等しく、たとえば16mmである。十文字導体素子30の十文字素子間隔は、x方向の間隔c2xとy方向の間隔c2yが、等しく、たとえば1.0mmである。
方形導体素子31は、十文字導体素子30に囲まれる領域に、十文字導体素子30から間隔(以下「放射方形間隔」という)c1x,c1yをあけて配置され、十文字導体素子30に囲まれる領域を塗潰すように設けられる。さらに詳細には、十文字パターン部に囲まれる領域に対応する形状に形成される。さらに具体的に述べると、たとえばこの実施の形態では、十文字導体素子部30が前述のような十字状であり、十文字導体素子30に囲まれる領域は長方形であり、これに対応する形状、つまり放射方形間隔c1x,c1yが全周にわたって同一となる形状に形成される。各形状部分14,15が前述のように同一形状である場合、十文字導体素子30に囲まれる領域は、正方形となり、方形導体素子31は、正方形となる。方形導体素子31は、縁辺部が、x方向およびy方向のいずれかに延びるように配置されている。
方形導体素子31は、x方向の寸法b1xとy方向の寸法b1yとが、等しく、たとえば12.5mmである。十文字導体素子30と方形導体素子31との放射方形間隔は、x方向の間隔c1xとy方向の間隔c1yとが、等しく、たとえば1.0mmである。
十文字素子30は、多角形状であり、各形状部分14,15の両端部の各角部分80、および交差部16の角部分81が、先鋭状、つまり角を成してエッジ状に形成される。また方形素子31は、多角形、具体的には正方形であり、各角部分82が、先鋭状、つまり角を成してエッジ状に形成される。このように各導体素子30,31は、全ての角部分80,81,82が、角を成してエッジ状に形成される。
図4は、図1〜図3に示される実施の形態における電磁波吸収体1を構成する第2導体素子層4の正面図である。図5は、図4に示される第2導体素子層4の一部を拡大して示す斜視図である。第2導体素子層4は、板状基材17の電磁波入射側の表面に金属製の第2導体素子群18が形成されて、構成される。板状基材17は、たとえば合成樹脂である誘電体から成っており、この板状基材11もまた誘電性の損失材である。第2導体素子18は、単一種類の幾何学模様の導体素子(以下「中間導体素子」という場合がある)19が、x方向およびy方向に間隔(以下「第2の導体素子間隔」という)d1x,d1yをあけて行列状に規則正しく配置されて構成される。
各金属製導体素子部19は、正方形状であり、x方向の長さe1xとy方向の長さe1yとは等しく、たとえば8.0mmである。またx方向およびy方向に隣接する各形状19の相互の間隔である第2の導体素子間隔は、x方向の間隔d1xとy方向の間隔d1yとが、等しく、たとえば9.0mmである。
第1導体素子群12における各導体素子30,31のx方向およびy方向の配置間隔(ピッチ)と、第2導体素子群18における各導体素子19のx方向およびy方向の配置間隔(ピッチ)とは、等しい。第1導体素子層6と、第2導体素子層4とは、第1導体素子群12の方形導体素子31の図心と、第2導体素子群18の各導体素子19の図心とが、図3に仮想線70で示すように、x方向およびy方向に関して一致するように設けられる。
第1導体素子群12の十文字導体素子30は、十文字導体素子であり、第1導体素子群12の方形導体素子31と第2導体素子群18の中間導体素子19は、方形導体素子である。このように電磁波吸収体1では、受信動作が異なる複数種類の導体素子を含む複数の導体素子19,30,31が、相互に分離される状態で、電磁波入射方向と交差する方向に、さらに加えて電磁波入射方向に並べて配置される。各導体素子19,30,31を含んで素子受信手段100が構成される。これらの各導体素子19,30,31に近接して、損失材3,5,11,17が設けられる。
このように電磁波吸収体1では、素子受信手段100によって、各導体素子19,30,31の共振周波数と同一の周波数の電磁波を、効率よく受信することができる。この素子受信手段100に近接して、損失材3,5,11,17が設けられており、素子受信手段100によって受信される電磁波のエネルギが損失される。言い換えるならば電磁波のエネルギを熱エネルギに変換して吸収することができる。このように素子受信手段100を用いることによって電磁波を効率よく受信して吸収することができる。さらに1種類の導体素子ではなく、複数種類、本実施の形態では十文字状と方形状の導体素子を有するので、それぞれの特性を生かして、電磁波を効率よく受信し、効率よく吸収することができる。
このように電磁波の吸収効率を高くすることができるので、高い電磁波吸収性能を得ることができ、薄型化および軽量化を図ることができ、さらに損失材の材質の選択の自由度が高くなって、柔軟でかつ強度的に優れ、施工性に優れた電磁波吸収体を得ることができる。たとえば本実施の形態では、電磁波吸収体1は、全体の厚さが、0.1mm以上4mm以下であり、単位面積あたりの質量が、0.2kg/m以上5kg/m以下であるシート状に形成される。
図6は、導体素子の導電率(σ)の違いと電磁波吸収性能の関係を示すシミュレーション結果(計算値)のグラフである。導体素子の導電率を上げると、初期は受信素子として機能するよりも表面層の誘電率を向上させる効果があり、ある周波数で整合がとれ、吸収特性が増すもののその吸収周波数の低周波数化の効果は見られない。この段階では薄型化の効果は小さい。さらに導体素子の導電率を上げると、具体的には10,000S/m以上にすると、受信素子として効果的に機能し、低周波数化および高吸収特性の実現がみられる。一般に電磁波吸収体は、その厚みを厚くすると吸収周波数は低周波数側にシフトし、逆に薄くすると吸収周波数は高周波数側に動く傾向がある。つまり吸収周波数を固定したまま薄くするためには、厚み以外の因子が必要であり、たとえば本発明の導体素子の様に低周波数化効果を有するものを使用することが好ましいといえる。
各導体素子19,31は、方形受信素子の外周長が吸収すべき電磁波に対して共振するように最適化されて、前述の寸法に決定されている。したがって前記寸法は、一例であり、吸収すべき電磁波の周波数に基づいて、その周波数と共振周波数が一致するように決定される。また各導体素子19,30,31間の間隔もまた、吸収すべき電磁波の周波数に基づいて、受信効率が高くなるように決定されている。また損失材3,5,11,17の特性、具体的には材質などに基づく複素比誘電率または複素比透磁率、厚みなどは、吸収すべき電磁波の周波数に基づいて、受信効率が高くなるように決定されている。このように導体素子19,30,31の寸法および間隔寸法が決定され、また損失材3,5,11,17が構成され、電磁波を効率よく受信することができる。
このとき各導体素子19,30,31全ての共振周波数が同一になるようにして、その周波数の電磁波を極めて高い受信効率で受信できるようにしてもよい。また各導体素子19,30,31毎に共振周波数が異なるようにして、その吸収可能な電磁波の広域を図るようにしてもよい。
また電磁波反射板2を設ける構成、また電磁波反射板2を設けない場合には、電磁波遮蔽性能を有する物体の面上に設置するよう構成する。これによって、素子受信手段100の形状および寸法などの決定、つまり設計が容易に成る。また電磁波反射板2を用いる構成では、電磁波吸収体1の設置場所の影響を受けて、導体素子19,30,31の共振周波数が変化することが防がれる。たとえば電磁波吸収体1を、建物内装材に設けても、その内装材の複素比誘電率などの影響を受けて、導体素子の共振周波数が変化してしまうことを防ぐことができる。
また第1の導体素子群12において、十文字導体素子30は、前述のように放射状に延びる部分を相互に突合せるように配置され、方形導体素子31は、十文字導体素子30に囲まれる領域に対応する形状に形成される。このような配置は、十文字導体素子30と方形導体素子31の組み合わせで、受信効率が最適(高くなる)組み合わせである。したがって吸収効率の高い、電磁波吸収体を実現することができる。また十文字導体素子30がx方向およびy方向に沿って放射する配置であるとともに方形導体素子31の縁辺部がx方向およびy方向に延びるように配置されており、x方向およびy方向に偏波する電磁波の受信効率が高くすることができる。
図7は、二種類の導体素子の位置関係と電磁波吸収性能の関係(計算値)を示すグラフである。図7では、放射方形間隔c1x,c1yを、「Δ」で示す。図7から明らかなように、本発明の二種類の導体素子30,31の位置関係効果および形状効果は以下のように確認している。位置関係については、c1x=c1yにおいて、c1xを0.5、1.0、1.5および2.0とした場合、素子同士が近接すると、吸収量は多少低下するが、吸収ピークが低周波数側にシフトする。この放射方形間隔c1x,c1yの選択は、吸収ピーク位置の制御方法として使用できる。したがって放射方形間隔c1x,c1yの選択によって、電磁波吸収体1の厚みを薄く保ったまま、吸収周波数の低周波数化を図ることができる。
図8は、本発明の他の形態の第1導体素子層の導体素子30,31を示す正面図である。本実施の形態は、図1〜図7の実施の形態と類似しており、第1導体素子層の導体素子30,31の形状が異なる点以外は、同様の構成であり、同一の符号を用いる。図1〜図7では、各導体素子30,31は、多角形状であり、各角部分が先鋭状に形成されたけれども、本実施の形態の十文字導体素子30および方形導体素子31は、略多角形状であり、少なくとも1つ、具体的には、全ての角部分80,81,82が、吸収すべき電磁波の周波数に応じた曲率半径の弧状に形成されている。このような形状であってもよく、図1〜図7の構成と同様の効果を達成する。
図9は、本発明のさらに他の形態の導体素子30,31を示す正面図である。本実施の形態は、図1〜図7の実施の形態と類似しており、第1導体素子層の導体素子30,31の形状が異なる点以外は、同様の構成であり、同一の符号を用いる。本実施の形態の十文字素子30および方形素子31は、略多角形状であり、少なくとも1つの角部分が、吸収すべき電磁波の周波数に応じた曲率半径の弧状に形成されている。
具体的に述べると、方形素子31の全ての角部分82が弧状に形成されるとともに、十文字素子30の各形状部分14,15の交差部の角部分81が弧状に形成される。この交差部16の角部分における曲率半径R81は、各形状部分14,15の交差部16からの突出量と同一である。各形状部分14,15の両端部の角部分80は、先鋭状に形成されている。つまり十文字素子30は、エッジを有する。このような形状であってもよく、図1〜図7の構成と同様の効果を達成する。
図10は、本発明のさらに他の形態の導体素子30,31を示す正面図である。本実施の形態は、図1〜図7の実施の形態と類似しており、第1導体素子層の導体素子30,31の形状が異なる点以外は、同様の構成であり、同一の符号を用いる。本実施の形態の十文字素子30および方形素子31は、図10に示す形状と類似している。図10の構成では、十文字素子30の各形状部分14,15の両端部の角部分80は、先鋭状に形成されたが、本実施の形態では、弧状に形成される。その他は、同様である。このような形状であってもよく、図1〜図7の構成と同様の効果を達成する。
図11は、導体素子の形状と電磁波吸収性能の関係(計算値)を示すグラフである。図11には、十文字素子30の各形状部分14,15の両端部の角部分80だけが弧状に形成され、その曲率半径Rが異なる場合の電磁波吸収特性を示す。この導体素子の形状効果については、図11のとおり、角部分80の曲率半径R=1.25の場合がRのない形状(図1〜図7)の場合より高性能を示す。曲率を付与するとQ値の低下が起こり、吸収量が下がると予測されたが、逆の結果となる。これは共振する電流経路が円滑化し、電流が連続的に流れることになったためである。このように導体素子30,31の角部分を、吸収すべき電磁波の周波数に応じて、換言すれば導体素子30,31の全体的な形状おおよび寸法に応じて決定することによって、電磁波の吸収効率を高くすることができる。また図9から明らかなように、角部分の曲率半径によって吸収する電磁波の周波数、つまり吸収ピークが変化するので、この角部分の曲率半径の選択によって、吸収する周波数の調整が可能である。
図12は、導体素子の角部分の曲率半径と電磁波吸収性能の関係(計算値)を示すグラフである。Defaultは、図1〜図7に示す導体素子30,31であって、全ての角部分80〜82が先鋭状に、つまりエッジ状に形成される場合を示し、パターンエッジなしは、全ての角部分80〜82が弧状に形成される場合を示し、パターンエッジありは、十文字導体素子30の各形状部分14,15の両端部の角部分80がエッジ状に形成され、他の角部分81,82が弧状に形成される場合を示す。また角部分82の曲率半径R82が1.25mmの場合と、角部分82の曲率半径R82が最大の場合とを示す。方形導体素子31における角部分82の曲率半径R82は、十文字導体素子30との間隔が一定(一様)になるように、十文字導体素子30の交差部16における角部分81の曲率半径R81に依存して決定される。十文字導体素子30の交差部16における角部分81の曲率半径R81の最大値は、各形状部分14,15の交差部16からの突出量であり、この場合の方形導体素子31の角部分82の曲率半径R82の値が、その角部分82の曲率半径R82の最大値である。図12からも明らかなように、図11の結果と同様に、全ての角部分80〜82をエッジ状に形成する場合に比べて、角部分80〜82を弧状に形成する場合の方が、電磁波の吸収効率が高くなることがわかる。
図13は、十文字導体素子30の各形状部分14,15の長さa2x,a2yと電磁波吸収性能の関係(計算値)を示すグラフである。Default、パターンエッジなしおよびパターンエッジありは、図12と同様の意味である。Lengthは、各形状部分14,15の長さa2x,a2yを意味し、単位はmmである。図13から明らかなように、方形導体素子31の角部分82を弧状に形成することによって、吸収ピークが高周波数側にシフトするが、吸収効率を高くできることがわかる。また各形状部分14,15の長さa2x,a2yが大きくなるにつれて、吸収ピークが低周波数側にシフトすることがわかる。さらに方形導体素子31の角部分82を弧状にし、これによる吸収ピークの高周波数側へのシフト分を補正するように、各形状部分14,15の長さa2x,a2yを大きくして低周波数化を図ることによって、方形導体素子31の角部分82をエッジ状とする場合に比べて、吸収効率を高くできることがわかる。
図14は、本発明のさらに他の形態の導体素子30,31を示す正面図である。本発明の実施の他の形態として、たとえば方形導体素子31および中間導体素子19の少なくともいずれか一方を、十文字導体素子30に対して角変位させ、縁辺部がx方向およびy方向と交差する方向に延びるように配置してもよい。たとえば図14に示すように、図8に示す各角部分80〜82が弧状に形成される構成において、方形導体素子31を各縁辺部がx方向およびy方向に対して45度傾斜するように配置してもよい。またたとえば図3に仮想線71で示すように、各角部分80〜82がエッジ状に形成される構成において、方形導体素子31を各縁辺部がx方向およびy方向に対して45度傾斜するように配置してもよい。いずれの場合にも、方形導体素子31を角変位させることによって、偏波方向による受信効率の差の発生を抑制することができる。
また本発明の実施のさらに他の形態として、電磁波吸収体は、たとえば難燃剤または難燃助剤が、損失材層3,5などに添加されて、難燃性、準不燃性または不燃性が付与されている。これによって建物内装材として好適に用いることができる。
難燃剤としては特に限定されることはなく、リン化合物、ホウ素化合物、臭素系難燃剤、亜鉛系難燃剤、窒素系難燃剤、水酸化物系難燃剤等が適宜量使用できる。リン化合物としては、リン酸エステル、リン酸チタンなどが挙げられる。ほう素化合物としては、ホウ酸亜鉛などが挙げられる。臭素系難燃剤としては、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモベンジルフェニルエーテル、デカブロモベンジルフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノール、臭化アンモニウムなどが挙げられる。亜鉛系難燃剤としては、炭酸亜鉛、酸化亜鉛若しくはホウ酸亜鉛等が挙げられる。窒素系難燃剤としては、たとえばトリアジン化合物、ヒンダードアミン化合物、若しくはメラミンシアヌレート、メラミングアニジン化合物といったようなメラミン系化合物などが挙げられる。水酸化物系難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。
本発明の構成材料のうち、第1損失層5は、ポリマー、木材、石膏材等の誘電材で、複素比誘電率を有するものであれば使用可能である。実部比誘電率が上がると虚部比誘電率も上がり、誘電損失性が大きくなる。複素比誘電率を上げるためにポリマー等に充填される誘電損失材料としては、たとえばファーネスブラックやチャンネルブラックなどのカーボンブラック、ステンレス鋼や銅やアルミニウム等の導電粒子、グラファイト、カーボン繊維、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム等を用いることができる。本発明で好ましく使用する誘電損失材料は、カーボンブラックであり、特に窒素吸着比表面積(ASTM(American Society for Testing and Materials) D3037−93)が100〜1000m/g、DBP吸油量(ASTM D2414−96)が100〜500cm/100gであるカーボンブラックが好適である。
DBP吸油量というのは、可塑剤の一種であるDBP(dibutyl phthalateの略)の吸収量(単位cm/100g)である。たとえば昭和キャボット社製の商品名IP1000およびライオン・アクゾ社製商品名ケッチェンブラックECなどを使用している。窒素吸着比表面積が100m/g以下の場合は充分な複素比誘電率が得られず、1000m/g以上の場合は誘電損失材料の分散性が著しく悪くなる。DBP吸油量が100cm/100g以下の場合は充分な複素比誘電率が得られず、500cm/100g以上の場合は加工性が著しく悪くなる。
虚部比誘電率が大きくなると導電性が発現してきて、結果として電磁波吸収性能が著しく損なわれる。誘電損失効果を上げるには限界があり、複素比透磁率との関係で最適化することになる。
第1損失材層5は、誘電損失材と併用して、あるいは独立に磁性損失材を用いることができる。磁性損失性(高虚部比透磁率)を付与するためには、ポリマー、石膏、セメント等に磁性損失材料を充填して作成することができる。充填される磁性損失材料としては、たとえばフェライト、鉄合金、純鉄、酸化鉄などの強磁性材料の粒子が挙げられる。本発明で好ましく用いるフェライトとしては、低コストで複素比透磁率の高いソフトフェライト系材料であるMn−Znフェライト(比重=5)である。フェライトの寸法としては、0.1〜100μmの平均粒径のものが好適であり、より好ましくは1〜10μmである。平均粒径が0.1μm未満であるものは分散性に劣り、100μmを超すと加工性が悪くなる。
本発明においては、上述の磁性損失材料を用いたが、これに限定されることはなく、他の種類および形状の磁性損失材料を用いることも、または併用することも可能である。
本発明の電磁波吸収層とも呼ばれる第1損失材層5に複素比透磁率を付与するために、磁性損失材料を用いることを条件としているが、磁性損失材料は重く、多量に配合すると電磁波吸収体の重量を著しく増加することになる。そこで磁性損失材料の添加量を最小限とし、適宜の量の誘電損失材料を併用するという配合を用いてもよい。具体的には、本発明ではカーボンブラックとMn−Znフェライトの併用、そしてグラファイトとMn−Znフェライトの併用を用いている。
第1損失材層5に使用されるポリマー材料(ビヒクル)としては、合成樹脂、ゴム、および熱可塑性エラストマーを使用している。たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、およびこれらの共重合体、ポリブタジエンおよびこれらの共重合体等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、エポキシ樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂やビチュメン、電子線またはUV架橋ポリマー等が挙げられる。
前記ゴムとしては、たとえば天然ゴムのほか、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、塩素化ポリエチレンゴム、水素添加ニトリルゴム、シリコンゴムなどの各種合成ゴム単独、もしくはこれらのゴムを各種変性処理にて改質したものが使用できる。
熱可塑性エラストマーとしては、たとえば塩素化ポリエチレン、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系などの各種熱可塑性エラストマーを用いることができる。
これらのポリマーは単独で使用するほか、複数をブレンドして用いることができる。樹脂および熱可塑性エラストマー材料には、必要に応じて可塑剤、さらには、安定剤、補強用充填剤、流動性改良剤、難燃剤などを適宜添加した樹脂組成物として使用することができる。ゴム材料には、加硫剤のほか、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、充填剤、着色剤、難燃剤などを配合することができる。
第1損失材層5は、前記ポリマー以外の、石膏材、セメント材等から成ってもよく、充填材を配合することが可能な材料を適宜選択することもできる。
磁性損失材料および誘電損失材料のポリマー材料への配合量は、導体素子層を付与した構成で、所望の特定周波数帯域において高い吸収性能(高い受信効率)が得られるように決定すればよい。すなわち、磁性損失材料および誘電損失材料の配合量が適正量よりも少ない場合は、材料の複素比誘電率および複素比透磁率が実部、虚部共に低くなりすぎて、各金属製導体素子層6,4によっても、対象とする電磁波の周波数に整合できなくなり、逆に、磁性損失材料および誘電損失材料の配合量が適正量よりも多い場合は、材料の複素比誘電率および複素比透磁率が実部、虚部ともに高くなりすぎて、対象とする電磁波の周波数に整合できなくなる。これらの配合量を調節して、広帯域にわたり電磁波を吸収できる電磁波吸収体1を実現することによって、要求される高い厚み精度の問題を回避し、より容易に電磁波吸収体1を製造することができる。
第2損失材層3についても、第1損失材層5と同様の損失材を用いることができ、同一の損失材であってもよいし、異なる損失材であってもよい。用途に合わせ、塩化ビニル樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、木材、石膏、セメント、セラミックス、不織布、発泡樹脂、断熱材、難燃紙を含む紙、ガラスクロス等の導電性を有さない誘電材料であれば使用できる。もちろん誘電損失材や磁性損失材を適宜配合することもできる。
電磁波反射板2は、金、白金、銀、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、亜鉛、鉛、タングステン、鉄などの金属であってもよく、樹脂に上記金属の粉末、導電性カーボンブラックの混入された樹脂混合物、あるいは導電性樹脂のフィルム等であってもよい。上記金属等が、板、シート、フィルム、不織布、クロス等に加工されたものであってもよい。また金属箔とガラスクロスを組み合わせた形態でもよい。あるいはまた合成樹脂性フィルム上に、膜厚たとえば600Åの金属層が形成された構成を有してもよい。また、導電インク(導電率が10,000S/m以上)を基板上に塗布した構成であってもよい。
上述の電磁波反射板2の構成材料を用いて、導体素子層6および導体素子層4の第1および第2の金属製導体素子を形成することができる。第1および第2の金属製導体素子は、フィルム上にアルミニウムなどの蒸着、エッチング処理もしくはスクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット等の方法で形成されてもよい。しかしこれらに限定されることはなく、たとえば第1および第2導体素子群の各素子模様を電磁波吸収層5もしくは誘電体層3に直接蒸着、印刷、および塗工させ、基材となるフィルムを用いずに、利用することも可能である。
以下に本件発明者の実験結果を述べる。
【実施例1】
電磁波反射板2は、たとえばアルミニウム蒸着ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。第2損失材層3は、ポリエチレン樹脂の発泡体を使用し、その複素比誘電率(実部)εは、1.25(2.4GHz)であり、厚さは1.5mmである。第1損失材層5は、クロロプレンゴム100重量部と、誘電損失材料としてケッチェンブラックEC(ライオン・アクゾ製商品名)8重量部、磁性損失材料としてフェライト(戸田工業製商品名KNS−415)粉末100重量部とを混練し、シート状(1mm厚)に加硫成型して用いる。
この時点で、加硫ゴムシートの複素比誘電率および複素比透磁率を同軸管法(Sパラメータ法)により測定した。その結果と電磁波吸収体1の積層条件を考慮し、電磁波解析により整合をとるための最適値条件を求めた。この計算結果に基づいて第1導体素子層6および第2導体素子層4の金属製導体素子12,18の寸法を決定し、それらの各導体素子層6,4を作成した。
第1導体素子層6は、膜厚12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム基材11上に厚み600Åのアルミニウムで構成した。第1導体素子群12の各素子30,31の寸法は、各形状部分14,15の幅a1y,a1xは、2.5mmであり、十文字素子間隔c2x,c2yは、1mmであり、したがって第1導体素子群12は、各形状部分14,15の長さb2x,b2yに1mmを加算した配置間隔で形成される。方形導体素子31のx方向およびy方向の寸法(一辺の寸法)b1x,b1yは、12.5mmである。放射方形間隔c1x,c1yは、1mmである。
第1導体素子層6は、膜厚12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム基材17上に厚み600Åのアルミニウムで構成した。第2導体素子群18は、各導体素子19のx方向およびy方向の寸法(一辺の寸法)e1x,e1yは、各形状部分14,15の長さa2x,a2yの2分の1である。第2導体素子群18は、各形状部分14,15の長さb2x,b2yに1mmを加算した配置間隔で形成される。積層の際、第1導体素子群12と第2導体素子群18とは、前述のように配置されて積層される。
さらに第1導体素子層6、第1損失材層5、第2導体素子層4、第2損失材層3(PET)、電磁波反射板2の順に積層して電磁波吸収体1を、図1のように構成した。電磁波吸収体1の総厚み(表面誘電体層7を除く)は約2.5mmである。この実施例では、厚さ1.8mmの表面層7を設けており、その複素比誘電率(実部)εは、4(2.4GHz)である。つまりこの例では、表面層7もまた、損失材である。
図15は、実施例1の電磁波吸収体1の電磁波吸収特性を示すグラフである。図9において、横軸は電磁波の周波数であり、縦軸は電磁波の吸収性能を表す反射特性を示す。図9は、各形状部分14,15の長さb2x,b2yを変化させるとともに、これに依存する諸元を変化させた場合の垂直入射の場合のシミュレーション結果(電磁界解析ソフトMicro−stripes(登録商標)使用)である。図9では、各形状部分14,15の長さb2x,b2yが等しいので、「b2」として示す。
この結果より、電磁波吸収体1の総厚みを約2.5mmと薄くして、垂直入射で15dB以上の吸収特性、換言すれば−15dB以下の反射係数の電磁波吸収体1を得ることができる。
図16(1)および図16(2)は、にフリースペース法による実測結果を示すグラフである。電磁波吸収性能はフリースペース法による。フリースペース法は、自由空間に置かれた測定試料である電磁波吸収体1に平面波を照射し、そのときの反射係数および透過係数を、周波数、入射角度、偏波を変化させた測定し、材料の複素比誘電率および複素比透磁率を得る方法であり、こうして得られた複素比誘電率および複素比透磁率とから、電磁波吸収体1の電磁波吸収量を計算して求める。このときTE波とTM波での測定を行っている。使用した機器は、ネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製商品名HP8722D)であり、アンテナはダブルリジッドアンテナである。電波吸収体である測定試料の長方形の各辺のサイズは、500×500(mm)および1000×1000(mm)である。
このように十文字導体素子30と方形導体素子31とを含む第1導体素子群12を有する素子受信手段100、異なる観点から見れば第1導体素子群12を有する第1導体素子層6を設けることによって、従来の技術(特開平6−164184、特許第3076473(特開平6−244583)、特許第3209456(特開平6−140787)、特許第3209453(特開平6−45782)、特開平6−252582、特開平6−224568、特開平9−148782、特開平10−224075、特開平11−204984、特開平11−195890および特開2003−243876)のパターン、十字状部だけのパターンおよび閉ループ(□)だけのパターンでは、垂直入射で15dB以上の吸収特性を達成するために4mm以下にすることができなかった2.4GHz帯用電磁波吸収体1の総厚みを約2.5mmと小さくすることができた。
この電磁波吸収体1は、無線LANで用いられる周波数(2.4GHz)に対しても10dB以上の吸収特性を達成することが明らかであり、有用である。しかも前述のように薄く成形でき、重量も3.6kg/mと軽量化を達成している。さらに総厚みを小さくすることができるので、現場での簡単な工具による裁断加工が可能であり、加工性にも優れている。さらに引き裂き強度が78N/mm(JIS K 6254)と優れている。
【実施例2】
実施例2は、導体素子の形状の実施例1と同じ第1導体素子層6を用い、第2導体素子層4を用いない構成である。図17は、第2導体素子層4のない構成での結果を示すグラフである。第1損失材層5は二層で構成され、第1導体素子層6に近い層がフェライトおよびカーボンブラックを添加したPVC(塩化ビニル樹脂)0.5mm厚とフェライトを添加しないPET2mm厚からなる総厚2.5mm厚の電磁波吸収体1である。PVC層の誘電率は実部が16、虚部が3(2.4GHz)、透磁率は実部が1.43、虚部が0.5(2.4GHz)であり、PETの誘電率は3.1(2.4GHz)、透磁率は実部が1、虚部が0(2.4GHz)である。
この結果より、電磁波吸収体1の総厚みを約2.5mmと薄くして、垂直入射で10dB以上の吸収特性、換言すれば−10dB以下の反射係数の電磁波吸収体1を得ることができる。
以上のように薄く成形でき、重量も3.3kg/mと軽量化を達成している。また現場での簡単な工具による裁断加工が可能であり、加工性にも優れている。さらに引き裂き強度が59N/mm(JIS K 6254)と優れている。
【実施例3】
実施例3は、導体素子の形状の実施例1と同じ第1導体素子層6を用い、第2導体素子層4を用いない構成である。図18は、第2導体素子層4のない構成での結果を示すグラフである。第1損失材層5は二層で構成され、第1導体素子層6に近い層がフェライトおよびカーボンブラックを添加したPVC(塩化ビニル樹脂)0.5mm厚とフェライトを添加しないPVC1mm厚からなる総厚1.5mm厚の電磁波吸収体1である。PVC層の誘電率は実部が16、虚部が3(2.4GHz)、透磁率は実部が1、虚部が0(2.4GHz)であり、PETの誘電率は3.1(2.4GHz)、透磁率は実部が1、虚部が0(2.4GHz)である。
この結果より、電磁波吸収体1の総厚みを約1.5mmと薄くして、垂直入射で10dB以上の吸収特性、換言すれば−10dB以下の反射係数の電磁波吸収体1を得ることができる。
以上のように薄く成形でき、重量も2.3kg/mと軽量化を達成している。また現場での簡単な工具による裁断加工が可能であり、加工性にも優れている。さらに引き裂き強度が53N/mm(JIS K 6254)と優れている。
【実施例4】
実施例4は、導体素子を実施例1および2と同じ形状とした第1導体素子層6を用い、第2導体素子層4を用いない構成である。図19は、第2導体素子層4のない構成でのシミュレーション結果を示すグラフである。第1損失材層5は1層で構成され、フェライトを添加しないEVA樹脂2.5mm厚からなる総厚2.5mm厚の電磁波吸収体1である。EVA樹脂層の誘電率は2.5(2.4GHz)、透磁率は1(2.4GHz)であり
この結果より、電磁波吸収体1の総厚みを約2.5mmと薄くして、垂直入射で10dB以上の吸収特性、換言すれば−10dB以下の反射係数の電磁波吸収体1を得ることができる。
以上のように薄く成形でき、重量も2.9kg/mと軽量化を達成している。また現場での簡単な工具による裁断加工が可能であり、加工性にも優れている。さらに引き裂き強度が56N/mm(JIS K 6254)と優れている。
比較例1
ループ構造のパターンを用い、これを第1導体素子層6に代えて用いた。ループ(正方形)のサイズは、外周部の一辺a5=b6=10mm、閉ループの導体部である形状部分24,25の線幅b5=a6=1mm、各ループの間隔c5=c6=12mmである。さらに第1損失材層5は一層で、磁性ゴム(クロロプレンゴム100重量部と、誘電損失材料としてケッチェンブラックEC(ライオン・アクゾ製商品名)8重量部、磁性損失材料としてフェライト(戸田工業製商品名KNS−415)粉末100重量部とを混練し、シート状に加硫成型して作成)3mm厚を用いる。(磁性ゴムの同軸管法(Sパラメータ法)により求められた実部複素比誘電率が14,虚部複素比誘電率が2である。)損失材層3として発泡ポリエチレンの厚み1.5mmを用いた。
この比較例においても高吸収性能を示すが(図20)、電磁波吸収体1の総厚さが4.5mmと厚く、重量も7kg/mと重く、その結果柔軟性にも欠け、施工性にも劣るものであった。
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。したがって、前述の実施形態は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、本発明の範囲は、請求の範囲に示すものであって、明細書本文には何ら拘束されない。
さらに、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、受信効果の高い素子受信手段を用いて電磁波を受信するようにして、従来の技術(特開平6−164184、特許第3076473(特開平6−244583)、特許第3209456(特開平6−140787)、特許第3209453(特開平6−45782)、特開平6−252582、特開平6−224568、特開平9−148782、特開平10−224075、特開平11−204984、特開平11−195890および特開2003−243876)に示されるパターン層を用いる電波吸収体よりも高い収集効率で、電磁波を収集することができる。したがって電磁波吸収性能を高くし、高電磁波吸収性能を有しながら、薄く、軽く、かつ柔らかく、かつ強度的および施工性に優れた電磁波吸収体を実現することができる。パターンを受信素子として捉えることによって、建物内装用の材料等の異種材料と組み合わせて、電磁波吸収性能を有する設計が可能になり、内装材などとしての設計および製造が容易になる。
また本発明によれば、FDTD解析法による計算により導体素子の新規な組合せを提案し、この結果従来からあるパターンを用いた電磁波吸収体よりも(磁性)損失材層を薄くでき、電磁波吸収体の全体厚みをさらに薄くすることができる。
また本発明によれば、電磁波吸収体の設置場所の影響を受けて、導体素子の共振周波数が変化することが防ぐことができる。
また本発明によれば、導体素子の導電率を高くし、受信効率を高くすることができる。
また本発明によれば、導体素子における10,000S/m以上の導電率を安定して得られる。
また本発明によれば、厚さが、0.1mm以上4mm以下であるので、薄型および軽量で、柔軟性が高く、かつ強度的に優れた電磁波吸収体を実現することができ、取扱を容易に、施工性に優れ、かつ設置場所の制限の少ない電磁波吸収体を実現することができる。
また本発明によれば、質量が、0.2kg/m以上5kg/mであるので、薄型および軽量で、柔軟性が高く、かつ強度的に優れた電磁波吸収体を実現することができ、取扱を容易に、施工性に優れ、かつ設置場所の制限の少ない電磁波吸収体を実現することができる。
また本発明によれば、十文字導体素子と、方形導体素子とを有し、各導体素子の寸法が吸収すべき電磁波に対して共振するように最適化されている。したがって効率よく電磁波を受信する素子受信手段を実現することができる。
また本発明によれば、十文字導体素子と方形導体素子の組み合わせで、受信効率が最適(高くなる)組み合わせである。したがって吸収効率の高い、電磁波吸収体を実現することができる。
また本発明によれば、各導体素子間の間隔寸法の調整によって、共振周波数の低周波数化が可能であり、電磁波吸収体の全体の厚みを薄くすることができる。
また本発明によれば、角部分を弧状に形成することによって、対応する共振周波数と同一の周波数の電磁波の吸収効率を高くすることができる。したがって厚みが薄くかつ吸収効率の高い電磁波吸収体を実現することができる。
また本発明によれば、損失材の特性値が、電磁波の吸収効率が高くなるように決定されており、電磁波を効率よく吸収することができる。
また本発明によれば、難燃性、準不燃性または不燃性が付与されており、建物内装材またはそれに積層して好適に用いることができる。
また本発明によれば、電磁波吸収体を用いて、高い吸収効率で、電磁波を吸収することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信動作が異なる複数種類の導体素子を含み、予め定める共振周波数を有する複数の導体素子を備え、各導体素子が、相互に分離される状態で、電磁波入射方向と交差する方向に並べて配置される素子受信手段と、
素子受信手段に近接して設けられ、電磁波のエネルギを損失させる損失材とを含むことを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項2】
各導体素子は、電磁波入射方向と交差する方向に加えて、電磁波入射方向にも並べて配置されることを特徴とする請求項1記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
素子受信手段に対して電磁波入射側とは反対側に配置され、電磁波を反射する電磁波反射手段をさらに含むことを特徴とする請求項1または2記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
導体素子の導電率が10,000S/m以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
導体素子が金属から成ることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の電磁波吸収体。
【請求項6】
厚さが、0.1mm以上4mm以下であるシート状に形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の電磁波吸収体。
【請求項7】
単位面積あたりの質量が、0.2kg/m以上5kg/m以下であるシート状に形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の電磁波吸収体。
【請求項8】
複数種類の導体素子のうち、一種類の導体素子は、十文字形状に形成される十文字導体素子であり、他の種類の導体素子は、面状に形成される方形導体素子であり、
十文字導体素子と方形導体素子とは、電磁波入射方向と交差する方向に並べて設けられ、
各十文字導体素子は、電磁波入射方向と交差する方向に整列して配置され、
各方形導体素子は、十文字導体素子に囲まれる領域に、その領域を塗潰すように配置されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の電磁波吸収体。
【請求項9】
十文字導体素子は、放射状に延びる部分を相互に突合せるように配置され、方形導体素子は、十文字導体素子に囲まれる領域に対応する形状に形成されることを特徴とする請求項8記載の電磁波吸収体。
【請求項10】
各導体素子間の間隔寸法は、各導体素子が有する共振周波数を低くするように決定されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の電磁波吸収体。
【請求項11】
各導体素子の形状は、略多角形状であり、少なくとも1つの角部分が、前記共振周波数に応じた曲率半径の弧状であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の電磁波吸収体。
【請求項12】
損失材の特性値は、各導体素子が有する共振周波数に基づいて、前記共振周波数と等しい周波数の電磁波の吸収効率が高くなるように決定されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1つに記載の電磁波吸収体。
【請求項13】
難燃性、準不燃性または不燃性が付与されることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つに記載の電磁波吸収体。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1つに記載の電磁波吸収体を用いることによる電磁波吸収方法。

【国際公開番号】WO2005/084096
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510370(P2006−510370)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002503
【国際出願日】平成16年3月1日(2004.3.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】