説明

電磁誘導加熱方式定着装置と画像形成装置

【課題】 誘導加熱方式で非通紙領域の温度上昇を抑制するため磁束をキャンセルするキャンセルコイル方式を採用する定着装置において、熱源が点灯している時としていない時で発生する温度リップルを低減し、良好な画像が得られかつ省エネルギーの定着装置を提供する。
【解決手段】 定着部材と、該定着部材を電磁誘導により加熱する加熱コイルと、該加熱コイルにより発生する磁束を消磁するキャンセルコイルと、該キャンセルコイルのオン/オフを切り替える手段とを備える定着装置において、前記キャンセルコイルを動作する制御周期で加熱コイルをオフする時間分の電力を次に加熱コイルをオンするときに加算して補完する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真式の、複写機、プリンタ、ファクシミリなどの画像形成装置に関し、像担持体上に形成されたトナー像を記録媒体に定着させる定着装置、およびそれを用いた画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真式画像形成装置においては、像担持体から記録媒体に転写された未定着画像を加熱定着することにより複写物や記録物を得ている。定着に際しては、未定着画像を担持している記録媒体を狭持加圧しながら未定着画像を加熱することにより未定着画像中に含まれる現像剤、特にトナーの溶融軟化および記録媒体への浸透を行うことにより記録媒体に画像を定着する。
【0003】
この定着工程において近年、省エネウォームアップの観点から熱容量の小さい定着装置が次々と開発されている。特に電磁誘導加熱方式は昇温性能に優れる方式である。電磁誘導加熱方式は、導電層を有する定着部材に磁界発生手段によって発生させた交番磁界により渦電流を発生させて電磁誘導加熱を行うものである。この方式では、非通紙部の温度上昇を抑えるために工夫が凝らされており、例えば、特許文献1に開示されるように、磁束をキャンセルして発熱させないようにするキャンセルコイル方式がある。これは、電磁誘導加熱を行う励磁コイルのほかに、消磁性二次コイル(キャンセルコイル)を非通紙領域に対応した位置に配置し、励磁コイルが発生する磁束変化によって発生する消磁用二次コイルの誘導起電力と誘導電流によって非通紙領域の磁束を低減することで、非通紙部の温度上昇を抑えつつ、定着を行うものである。
【0004】
しかしキャンセルコイル方式では、メインコイル駆動時に発生する磁束がキャンセルコイルを通り抜けて定着部材を温めるようになっていて、キャンセルコイル非駆動時には磁束がそのまま定着部材まで届き定着部材を温め、キャンセルコイルを駆動する際には回路を閉じてメインコイルから発生する磁束を打ち消す向きにキャンセルコイル内に電流が流れて消磁する構成であって、キャンセルイコイルの回路を接続したり切断したりして消磁性能の強弱(磁束のキャンセル量)を調節するものであり、メインコイルを駆動したままキャンセルコイルの回路を接続/非接続するために直列につながれたリレーを動作させるとショートしてしまうので、回路接続/非接続する際にはメインコイルの駆動を一定時間オフする必要があり、温度リップルを増大させていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の目的は、誘導加熱方式で非通紙領域の温度上昇を抑制するため磁束をキャンセルするキャンセルコイル方式を採用する定着装置において(特に低熱容量の定着装置で)、加熱源が点灯している時としていない時で温度リップルが発生する問題に鑑み、この温度リップルを低減し、良好な画像が得られかつ省エネルギーの定着装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、定着部材と、該定着部材を電磁誘導により加熱する加熱コイルと、該加熱コイルにより発生する磁束を消磁するキャンセルコイルと、該キャンセルコイルのオン/オフを切り替える手段とを備える定着装置において、前記キャンセルコイルを動作する制御周期で加熱コイルをオフする時間分の電力を次に加熱コイルをオンするときに加算して(上乗せして)補完する。
【0007】
定着部材がローラ部材若しくはエンドレスベルト部材から構成され、キャンセルコイルをオンするために加熱コイルを駆動させない部分に対応するローラ部材若しくはエンドレスベルト部材の領域が改めて電磁誘導加熱部に到達する際に該領域に加算分を作用させるようになっていれば、好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電磁誘導により定着部材を加熱する加熱コイルにより発生する磁束を消磁するキャンセルコイルを動作する制御周期で加熱コイルをオフする時間分の電力を次に加熱コイルをオンするときに上乗せして出力することで、温度リップルを抑制することができる。
【0009】
定着部材がローラ部材若しくはエンドレスベルト部材から構成され、キャンセルコイルをオンするために加熱コイルを駆動させない部分に対応するローラ部材若しくはエンドレスベルト部材の領域が改めて電磁誘導加熱部に到達する際に該領域に加算分を作用させることで、温度リップルの抑制を一層効果的に果たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】画像形成装置の概略構成図である。
【図2】本発明に係る定着装置の概略構成図である。
【図3】キャンセルコイルと記録媒体の紙幅の関係を示す概念図である。
【図4】キャンセルコイル切り替え時の点灯パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の最良の形態を説明する。まず図1に、本発明に係る定着装置を備えた電子写真方式画像形成装置の一例であるカラープリンタ(以下、プリンタという)の概略構成を示す。
【0012】
本プリンタ1では、イエロー・シアン・マゼンタ・ブラックの4つの画像形成手段を横に並べて配置してタンデム画像形成部を構成している。個々のトナー像形成手段である画像形成手段では、潜像担持体としてのドラム状の感光体11Y,11M,11C,11K(以下、イエロー、マゼンダ、シアン、黒用であることを示すY,M,C,Kは省略する)の周りに、帯電装置12、現像装置13、感光体クリーニング装置15などを備えている。プリンタの上部には、イエロー、マゼンダ、シアン、黒の各色トナーが充填されたトナーボトル(図示せず)が配置され、これらトナーボトルから不図示の搬送経路を経て、所定の補給量だけ各色現像装置に各色トナーが補給される。
【0013】
また、タンデム画像形成部の下方には潜像形成手段としての光書込ユニット2が設けられている。この光書込ユニット2と電気接続した画像読取ユニット4がプリンタ上部に配されており、光源、ポリゴンミラー、f-θレンズ、反射ミラーなどを備えている。画像読取ユニット4で読み取られた画像データに基づいて、光書込ユニット2が各感光体11の表面にレーザ光を走査・照射する。
【0014】
また、タンデム画像形成部の直ぐ上には、中間転写体として無端ベルト状の中間転写ベルト17が設けられている。この中間転写ベルト17は、支持ローラに掛け回され、それら支持ローラのうち駆動ローラの回転軸には駆動源としての不図示の駆動モータが連結されている。この駆動モータを駆動させると、中間転写ベルト17が図中反時計回りに回転移動するとともに、従動可能な支持ローラが回転する。中間転写ベルト17の内側には、感光体11上に形成されたトナー像を中間転写ベルト17上に転写するための一次転写装置が配されている(図示せず)。
【0015】
また、これら一次転写装置より中間転写ベルト17の駆動方向下流側に二次転写装置としての二次転写ローラが設けられている。この二次転写ローラと中間転写ベルト17を挟んで反対側には、二次転写対向ローラ18が配置されており、押し部材としての機能を果たしている。プリンタ1には更に、給紙カセット7、給紙コロ8、レジストローラなどが備えられている。記録媒体Pの進行方向に関して二次転写ローラの下流側には、記録媒体P上の画像を定着する定着装置19、排紙ローラ9が備えられている。
【0016】
定着装置19は、図2に示すように、加熱手段を有し、温度検知手段62によって表面を所定温度に維持された定着スリーブ21、スポンジ部材22および芯金23からなる定着ローラ20と、このローラに対向し圧接される芯金32とゴム部材31からなる加圧ローラ30とを備えている。定着ローラ20と加圧ローラ30は、適当な面圧とニップ幅を有するように、ゴムのような弾性体かスポンジなどの発泡体を用いて形成されているもので、本例では定着ローラ20のスポンジ部材22を硬度35Hs程度、加圧ローラ30のゴム部材31は3mmほどの厚みで硬度60Hs程度のものを使用している。両ローラの径は共に40mm程度である。定着スリーブ21は発熱するための金属体15μmとシリコーンゴム200μmとPFA表層30μmからなる構成が代表的である。
【0017】
定着スリーブ21は端部に寄り防止のためのサイドガイドを有していて(図2に点線で示す)、定着スリーブ21が軸線方向のどちらかに寄ったときにサイドガイドが接触し、それ以上の寄りを規制する構造を有している。寄り自体が起きないように定着スリーブ21がスポンジ部材22に接着していてもよい。
【0018】
また定着ローラ20に対する加熱手段25は、加圧ローラ30と逆側で定着ローラ20の周囲に配置された誘導加熱方式(IH方式)加熱手段であり、IHコイル26を備え、定着スリーブ21を局部加熱する。そして本例では、IH方式加熱手段25にどれくらいの電力を入れるかを制御するための温度検知手段62として、サーモパイルを使用している。サーモパイルは熱電対を多数直列につないだ温接合部に対象物から放射される赤外線を集光することにより、冷接合部との温度差に応じた起電力を発生する、時間応答の良いセンサである。サーモパイル自身の温度(特に冷接合部の温度)変化を補うために雰囲気センサを有している。本例ではサーモパイルを1つとしているが、紙幅ごとに温度センサを有するなど、増やしてもよい。
【0019】
また加熱手段において、発熱させるためのメインコイルは軸方向の全てにわたって発熱するようになっており、小サイズの記録媒体の印刷時にそのまま記録媒体を通紙すると、記録媒体の通っていない端部域の温度が上昇するという問題がある。そこで小サイズ印刷時には非通紙部の温度上昇を抑えるため、メインコイルで発生し定着スリーブ21に入ってゆく磁束を打ち消すようにキャンセルするためのキャンセルコイルが備えられており、これを駆動させる。キャンセルコイル回路をつなぐとメインコイルの磁束を打ち消すように電流が発生し、キャンセルコイルに対応する部分の発熱を抑えることができる。
【0020】
複数の記録媒体サイズに対応するため、図3に示すように、例えば軸方向長さを変えたキャンセルコイルを3対(中央通紙基準の場合)備え、各サイズごとに駆動させるキャンセルコイルを指定して(LTサイズならキャンセルコイル1、A4Tサイズならキャンセルコイル2の如く)、それぞれ独立して駆動できるようになっているのが好ましい。様々な記録媒体サイズごとに一層正確に軸方向の発熱量を制限したい場合は、軸方向長さを変えた4対以上のキャンセルコイルを備えてもよい。
【0021】
次に、上記プリンタの動作を説明する。個々の画像形成手段でその感光体11を回転し、感光体11の回転とともに、まず帯電装置12で感光体11の表面を一様に帯電する。次いで画像データを光書込ユニット2からのレーザで光照射して感光体11上に静電潜像として形成する。その後、現像装置13によりトナーが付着され静電潜像を可視像化することで各感光体ドラム11上にそれぞれ、イエロー・マゼンダ・シアン・ブラックの単色画像を形成する。また、不図示の駆動モータで中間転写ベルト17に関する駆動ローラを回転駆動して他の従動ローラ、二次転写ローラを従動回転し、中間転写ベルト17を回転搬送して、各感光体の可視像を一次転写装置で中間転写ベルト17上に順次転写する。これによって中間転写ベルト17上に合成カラー画像を形成する。ちなみに画像転写後の感光体11の表面は感光体クリーニング装置で残留トナーを除去して清掃して再度の画像形成に備えられる。
【0022】
また、上記画像形成のタイミングに合わせて、給紙カセット7から記録媒体Pが給紙コロ8により繰り出され、レジストローラまで搬送され、一旦停止する。そして、上記画像形成動作とタイミングを取りながら、二次転写部に搬送される。ここで、中間転写ベルト17と二次転写対向ローラ18とは記録媒体Pを挟んで所謂二次転写ニップを形成し、二次転写ローラにて中間転写ベルト17上のトナー像を記録媒体P上に二次転写する。
【0023】
画像転写後の記録媒体Pは定着装置19へ送り込まれる。定着ローラ20と加圧ローラ30により形成される転写ニップ部に用紙を挟持搬送することで、記録媒体上のトナー像を加熱加圧し記録媒体に定着させる。定着ニップ部から排出される記録媒体は分離部材41により分離された後、排紙ローラ9から機外に排出される。一方、画像転写後の中間転写ベルト17は、中間転写体クリーニング装置16で、画像転写後に中間転写ベルト17上に残留した残留トナーを除去し、タンデム画像形成部による再度の画像形成に備える。
【0024】
以上のような構成を有する定着ユニットに対して、サーモパイルの出力に応じたIHヒータの点灯率を制御することにより、定着プロセスに必要な温度制御を行う。
ところがこのような局部加熱であって特に熱容量が小さく熱伝導率の小さい定着装置においては、入力した電力がそのまま温度として表れ、点灯率制御ではオフしている部分の温度が下がってしまうという問題を抱えている。消磁性能を有するキャンセルコイル回路の接続/切断の切り替えにスイッチング素子を用いており、キャンセルコイル切り替え時にメインコイルを消灯しなければならない場合には温度リップルが悪化する原因になる。
【0025】
PID制御などの温度制御プロセスで現在の温度を見ながら次の温度制御周期の電力を計算している場合には、長期的な視点で定着部材を或る一定温度に維持するのには優れているが、定着部材の周方向の温度ムラやキャンセルコイル切り替え時の電力減少分を検出して制御できるほど熱応答性が速くはないため、温度リップルをなくすには限界がある。つまり、温度をみてフィードバックするのでは反応が遅れる分ずれてしまい、キャンセルコイル切り替え時の電力減少分を補完するのが難しく、キャンセルコイル切り替え時の電力減少分は温度リップルとして表れてしまうため、温度をみてフィードバックするのよりも時間的に早く制御することが必要になる。
【0026】
そこで図4に示すように、キャンセルコイル接続/切断の切り替え時にメインコイルをオフした時間分の電力を次にメインコイルをオンするときに加算して出力する。これにより、メインコイルをオフした分の電力がキャンセルコイル接続/非接続動作と同じ制御周期内で補完され、メインコイルオフの電力不足による温度リップルを抑制できる。
【0027】
メインコイルがPWM駆動ならば、キャンセルコイル切り替え時にオフ時間分だけ長くDutyを入れるようにし、PAM制御ならばPID演算が要求している電力とキャンセルコイル切り替え時にオフ時間分だけの電力の積を次にメインコイルをオンするときに加算して出力する。
【0028】
局部加熱の定着装置で周方向の熱伝達がほとんどない場合には、キャンセルコイル切り替えのためにメインコイルをオフした分の電力を、定着部材が一周して再び加熱部に到達した一周後に加算するようにしてもよい。そうすればキャンセルコイル切り替えのためにメインコイルをオフし温められなかった部分を一周後に補完することができ、定着部材周方向の温度ムラを抑制することで温度リップルを低減することができる。
【0029】
このような制御を行うことにより、定着性良好でかつ最小限のエネルギーで定着工程を終了させることができる。
【符号の説明】
【0030】
19 定着装置
20 定着ローラ
21 定着スリーブ
22 スポンジ部材
23 芯金
25 加熱手段
26 IHコイル
30 加圧ローラ
31 ゴム部材
32 芯金
62 温度検知手段
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特開2008−185991

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着部材と、該定着部材を電磁誘導により加熱する加熱コイルと、該加熱コイルにより発生する磁束を消磁するキャンセルコイルと、該キャンセルコイルのオン/オフを切り替える手段とを備える定着装置において、
前記キャンセルコイルを動作する制御周期で加熱コイルをオフする時間分の電力を次に加熱コイルをオンするときに加算して補完することを特徴とする定着装置。
【請求項2】
定着部材がローラ部材若しくはエンドレスベルト部材から構成され、キャンセルコイルをオンするために加熱コイルを駆動させない部分に対応するローラ部材若しくはエンドレスベルト部材の領域が改めて電磁誘導加熱部に到達する際に該領域に加算分を作用させることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の定着装置を備えた画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−145685(P2012−145685A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2892(P2011−2892)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】