説明

電磁誘導式電動走行車

【課題】走行路に沿って敷設された誘導線から発生する磁界を検出して舵取り制御を行う電磁誘導式電動走行車が走行路から外れたときに、走行路への復帰を自動的に行わせる。
【解決手段】車体の誘導線からの位置ずれ量が、舵取り制御が可能な範囲を越えたときに脱線したとの判定を行う脱線判定手段31Eと、脱線が判定されたときに駆動輪3及び舵取り輪2に制動をかけて車体を停止させる脱線時制動制御手段31Fと、脱線判定時に舵が切られていた方向と同じ側に一杯に舵を切った状態で、停止させられた車体を舵取り制御が可能になる位置まで後退させて停止させるように舵取り装置4と電動駆動装置29と制動装置23とを制御する脱線復帰制御手段31Gとを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行路に沿って敷設された誘導線が発生する磁界を検出して舵取り制御を行いながら、走行路に沿って自動走行を行う電磁誘導式電動走行車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴルフコースに沿って設置された走行路上を走行するゴルフカートのように、決められた走行路上を走行する車両として、電磁誘導式の電動走行車が用いられている。この種の電動走行車は、舵取り輪と駆動輪とを含む車輪を備えた車体と、モータを動力源として駆動輪を駆動する電動駆動装置と、車輪に制動をかける制動装置と、舵取りモータを駆動源として舵取り輪を操作する舵取り装置と、走行路に沿って敷設された誘導線が発生する磁界を車体側で誘導線の左側及び右側からそれぞれ検出して誘導線との間の距離の情報を含む検出信号を出力する左誘導センサ及び右誘導センサと、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差を許容範囲内に収めるように舵取りモータを制御することにより車輪を走行路上に位置させた状態に保つ舵取り制御を行う舵取り制御手段を有するコントローラとを備えている。
【0003】
上記誘導センサとしては、一般に、誘導線が発生する磁界を誘導線の左側及び右側でそれぞれ検出して誘導線との間の距離の情報を含む検出信号を出力する左誘導センサ及び右誘導センサが用いられる。舵取り制御手段は、これらの誘導センサの出力の偏差を設定値以下に保つように(好ましくは最小にするように)舵取りモータを制御することにより、車輪を走行路上に位置させた状態を保つように舵取り輪の向きを制御する舵取り制御を行って、常に左右の誘導センサ間の中央に誘導線を位置させた状態を保ちつつ車体を走行路に沿って走行させる。この種の電動走行車は、例えば、特許文献1に示されている。
【0004】
なお本明細書において、「走行路」は、電動走行車の走行方向に伸びていて、電動走行車が自動走行する際に走行する部分である。走行路は、コンクリートやアスファルトにより形成されるが、その形態は任意である。走行路は、電動走行車を走行させるために必要な幅を有する帯状の形態に形成される場合もあり、特許文献2に示されているように、電動走行車の左右の車輪をそれぞれ個別に保持するために必要な幅寸法を持って、進行方向に平行に伸びる複数の部分(軌道)からなる場合もある。また走行路は、電動走行車を走行させるために必要な幅寸法を持って、道路の一部(例えば端)に設定された帯状の領域であってもよい。いずれにしても、走行路には、その長手方向に沿って伸びる誘導線が敷設されている。誘導線は通常は、走行路上を走行する電動走行車の車体の幅方向の中央に位置するように敷設されており、誘導センサにより検出される交流磁界を発生させるために、誘導線には、所定の周波数の交流電流が通電される。
【0005】
上記のような舵取り制御を行う電動走行車においては、左誘導センサと誘導線との間の距離が右誘導センサと誘導線との間の距離よりも長くなったときに左誘導センサを誘導線に近づける方向に舵取り輪を変位させ、左誘導センサと誘導線との間の距離が右誘導センサと誘導線との間の距離よりも短くなったときに左誘導センサを誘導線から遠ざける方向に舵取り輪を変位させるように、舵取り装置を制御することにより、常に左右の誘導センサの間のほぼ中央に誘導線を位置させた状態を維持するように舵取り制御を行っている。
【0006】
このような制御は、左誘導センサ及び右誘導センサがそれぞれ誘導線の左側及び右側に位置した状態にあれば正常に行わせることができるが、左誘導センサ及び右誘導センサが共に誘導線に対して同じ側に位置した状態になると、誘導線に近い位置にある誘導センサを誘導線から遠ざける方向に制御が行われるため、左右の誘導センサが共に誘導線から遠ざかる方向に制御が行われることになり、舵取り制御を正しく行うことができなくなる。左右の誘導センサがそれぞれ誘導センサの左側及び右側に位置した状態にある場合でも、設定された制御特性によっては、左右の誘導センサの出力の偏差が過大になったときに制御が間に合わなくなって、舵取り制御を正しく行うことができなくなることがある。本明細書では、舵取り制御を正しく行うことができない状態を「脱線」と呼ぶ。
【0007】
走行路上を走行する電動走行車は、車体に外力が加えられたり、車輪がスリップしたりしたときに、車体の向きが正規の走行方向から大きくずれたり、車体の位置が走行路の幅方向に大きくずれたりして「脱線」状態になることがある。このような状態を放置すると、車体が予期せぬ方向に走行するおそれがあり、好ましくない。電動走行車が脱線した場合には、車両を一旦停止させて正常な状態に戻した後、再発進させることが必要である。
【0008】
特許文献3には、追い越しなどで一旦走行路から外れた電動車両(ゴルフカート)を走行路上に戻す際の操作を容易にする技術が開示されている。特許文献3に示された発明では、車両の中央の前部に配置された前誘導検知器と、前誘導検知器よりも後方に位置させて車両の左側及び右側にそれぞれ配置された左誘導検知器及び右誘導検知器と、車両の中央でかつ左右の誘導検知器付近また左右の誘導検知器よりも後方に配置された中誘導検知器とからなる合計4つの誘導検知器を用いて、走行路から外れた車両を走行路に戻す際に、これら4つの誘導検知器が誘導線から発生する磁界を検出する順序から車両を進行させる方向を判断し、その判断結果に基づいて車両を所定の方向に前進または後退させて走行路に導くようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−5832号公報
【特許文献2】実開昭62−103804号公報
【特許文献3】特開平8−161041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電動走行車が脱線した場合には、車体を停止させた後、正常な状態に復帰させる動作を自動的に行わせることが望ましいが、脱線した状態では、左右の誘導センサの出力に基づく舵取り制御を正しく行うことができないため、車体を正常な状態に復帰させる動作を自動的に行わせるためには工夫が必要である。
【0011】
特許文献3に示された発明によれば、脱線した車両を正常な状態に復帰させることが可能であるが、同特許文献に示された発明では、走行路から外れた車両を走行路上に誘導することを可能にするために4つの誘導センサを設けているため、構造が複雑になる上に制御が複雑になり、コストが高くなるのを避けられなかった。
【0012】
本発明の目的は、必要以上に多くの誘導センサを用いることなく、脱線した車両を走行路上に復帰させる動作を自動的に行わせることができるようにした電磁誘導式電動走行車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願の請求項1に記載された発明は、舵取り輪と駆動輪とを含む車輪を備えた車体と、駆動輪を駆動する電動駆動装置と、車輪に制動をかける制動装置と、舵取り輪を操作する舵取り装置と、走行路にに沿って敷設された誘導線が発生する磁界を車体側で誘導線の左側及び右側からそれぞれ検出して誘導線との間の距離の情報を含む検出信号を出力する左誘導センサ及び右誘導センサと、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力とに基づいて舵取り装置を制御することにより各車輪を走行路上に位置させた状態に保つ舵取り制御を行う舵取り制御手段を有するコントローラとを備えた電磁誘導式電動走行車を対象とする。
【0014】
本発明においては、上記コントローラが、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力とに基づく舵取り制御を正常に行うことができなくなる状態を脱線状態として、該脱線状態が生じたか否かの判定と脱線方向の判定とを行う脱線判定手段と、脱線判定手段により脱線状態が生じたと判定されたときに車体を停止させるように制動装置を制御する脱線時制動制御手段と、脱線時制動制御手段により停止させられた車体を、脱線判定手段により判定された脱線方向と同じ側に舵を切った状態で、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力とに基づく舵取り制御を正常に行うことができる位置まで後退させるように舵取り装置と電動駆動装置と制動装置とを制御する脱線復帰制御を行う脱線復帰制御手段とを備えていることを特徴としている。
【0015】
本発明においては、脱線判定手段により走行車が脱線したとの判定が行われたときに、脱線時制動制御手段により制動装置を制御して車体を停止させるので、車体が脱線したときに走行路から外れて予期せぬ方向に走行するのを防ぐことができる。
【0016】
本発明においてはまた、脱線復帰制御手段により、舵取り装置と電動駆動装置と制動装置とを制御することにより、脱線して停止させられた車体を、脱線判定手段により判定された脱線方向と同じ側に舵を切った状態で、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力とに基づく舵取り制御を正常に行うことができる位置まで後退させるように舵取り装置と電動駆動装置と制動装置とを制御するので、脱線した車体を正常な状態に自動的に復帰させることができる。
【0017】
本発明によれば、左右の誘導センサを用いるだけで、脱線した車体を正常な状態に復帰させる制御を行わせることができるため、特許文献3に記載された発明のように4つの誘導センサを用いる場合に比べて制御を簡単にすることができる。また本発明によれば、誘導センサの数を増やす必要がないため、コストの上昇を招くことなく、脱線状態から正常な状態に自動的に復帰する機能を持たせることができる。
【0018】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、舵取り制御手段が、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差を設定値以下に保つように舵取り装置を制御することにより舵取り制御を行うように構成され、脱線判定手段は、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差が上記設定値以上に設定された脱線判定値を超えたときに脱線状態が生じたとの判定を行うように構成されていることを特徴とする。
【0019】
舵取り制御手段が上記のように構成されている場合、電動走行車が走行路上を正しく走行している状態では、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差が設定値以下に保たれているが、車体の向きが大きくずれて左右の誘導センサの出力に基づく舵取り制御によっては正常な状態に復帰することができなくなったとき(脱線したか、或いはまもなく脱線することが確実な状態になったとき)には、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差が設定値を超えた状態になる。従って、左右の誘導センサの出力の偏差が設定値以上に設定された脱線判定値を超えているか否かを判定することにより、走行車が走行路から脱線したか否かを判定することができる。
【0020】
請求項3に記載された発明は、請求項2に記載された発明において、脱線判定値が、左誘導センサ及び右誘導センサの一方が誘導線の真上に位置したときに左右誘導センサの出力の間に生じる偏差に相当する値以下で、かつ前記設定値を超える値に設定されていることを特徴とする。
【0021】
舵取り制御における車体位置の制御幅が狭く設定されている場合には、左右の誘導センサの一方が誘導線の真上に達する状態になるまで位置ずれ量が大きくなる前に、舵取り制御を正常に行うことができなくなるが、舵取り制御における車体位置の制御幅が広く設定されている場合には、左右の誘導センサの一方が誘導線の真上に達する状態になるまでは舵取り制御を行うことができる。従って、上記脱線判定値は、左誘導センサ及び右誘導センサの一方が誘導線の真上に位置したときに左右誘導センサの出力の間に生じる偏差に相当する値以下で、かつ前記設定値を超える値に設定することができる。
【0022】
請求項4に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、舵取り制御手段が、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差を設定値以下に保つように舵取り装置を制御することにより舵取り制御を行うように構成されていること、及び脱線判定手段が、舵取り制御を行いながら車体が走行している状態で左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差が設定された時間内に設定値以下に収まらない状態が生じたときに脱線状態が生じたとの判定を行うように構成されることを特徴とする。
【0023】
舵取り制御を行いながら車体が走行していて、舵取り制御が正常に行われている状態では、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差が設定された時間内に設定値以下に収束する。従って、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差が設定された時間内に設定値以下に収まるときには、舵取り制御が正常に行われていると判定することができ、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差が設定された時間内に設定値以下に収まらない状態が生じたときに、脱線状態が生じたと判定することができる。
【0024】
請求項5に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、舵取り制御手段が、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差を設定値以下に保つように舵取り装置を制御することにより舵取り制御を行うように構成されていること、及び脱線判定手段が、左誘導センサ及び右誘導センサのいずれかの出力が、それぞれの誘導センサが誘導線の真上に位置したときに発生する出力のピーク値に等しいか又は該ピーク値よりも僅かに小さい値に設定された判定値に達した時に脱線状態が生じたと判定するように構成されていることを特徴とする。
【0025】
請求項6に記載された発明は、請求項2,3,4又は5に記載された発明において、脱線状態が生じたとの判定がされた状態で左誘導センサの出力が右誘導センサの出力よりも大きいとき及び脱線状態が生じたとの判定がされた状態で右誘導センサの出力が左誘導センサの出力よりも大きいときにそれぞれ車体が右方向に脱線したとの判定及び左方向に脱線したとの判定を行うように脱線判定手段が構成されていることを特徴とする。
【0026】
走行車が誘導線に対して左側に脱線したときには右誘導センサの出力が左誘導センサの出力よりも大きくなり、走行車が右側に脱線したときには左誘導センサの出力が右誘導センサの出力よりも大きくなるため、左右の誘導センサの出力を比較することにより、走行車が左側に脱線したのか右側に脱線したのかを判定することができる。
【0027】
請求項7に記載された発明は、請求項2又は3に記載された発明において、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差が設定値以下になったときに舵取り制御を正常に行うことができる位置まで後退したとして前記車体を停止させるように脱線復帰制御手段が構成されていることを特徴とする。
【0028】
請求項8に記載された発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載された発明において、コントローラが、脱線判定手段が脱線したとの判定を行ってから脱線時制動制御手段により車体が停止させられるまでの間に車体が走行した距離を脱線時制動距離として計測する脱線時制動距離計測手段と、脱線復帰制御が行われているときの車体の後退距離を計測する脱線復帰時後退距離計測手段とを更に備えていること、及び脱線復帰時後退距離計測手段により計測される後退距離が脱線時制動距離または予め設定された許容最大後退距離のうちの短い方を越えたときに車体を強制的に停止させるように脱線復帰制御手段が構成されていることを特徴とする。
【0029】
上記のように、脱線復帰時後退距離計測手段により計測される後退距離が脱線時制動距離または予め設定された許容最大後退距離のうちの短い方を越えたときに車体を強制的に停止させるように構成しておくと、誤動作により舵を切る方向を誤った場合等に車体が走行路から大きくずれるのを防ぐことができる。
【0030】
請求項9に記載された発明は、請求項1ないし8のいずれかに記載された発明において、脱線復帰制御手段が、脱線復帰制御を行う際に、舵取り輪の舵を、脱線判定手段により判定された脱線方向と同じ側に一杯に切った状態に固定した状態で車体を後退させるように構成されていることを特徴としている。
【0031】
上記のように、脱線した車体を停止させた後、脱線方向と同じ側に舵を一杯に切った状態に固定した状態で車体を後退させると、車体を正常な位置に復帰させるために必要な後退距離を脱線時制動距離以下にすることができ、殆どの場合、脱線時制動距離よりも短い距離後退させるだけで、車体を正常な状態に復帰させることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力とに基づく舵取り制御を正常に行うことができなくなる状態を脱線状態として、該脱線状態が生じたか否かの判定と脱線方向の判定とを行う脱線判定手段を設けて、脱線状態が生じているとの判定が行われたときに、脱線時制動制御手段により制動装置を制御して車体を停止させるようにしたので、車体が脱線したときに走行路から外れて暴走するのを防ぐことができる。
【0033】
また本発明によれば、脱線復帰制御手段により、舵取り装置と電動駆動装置と制動装置とを制御することにより、脱線して停止させられた車体を脱線判定手段により判定された脱線方向と同じ側に舵を切った状態で、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力とに基づく舵取り制御を正常に行うことができる位置まで車体を後退させる制御を行わせるので、脱線した車体を正常な状態に自動的に復帰させることができる。
【0034】
本発明によればまた、左右の誘導センサを用いるだけで、脱線した車体を正常な状態に復帰させる制御を行わせることができるため、4つの誘導センサを用いる従来技術による場合に比べて信号処理を簡単にすることができる。また本発明によれば、誘導センサの数を増やす必要がないため、コストの上昇を招くことなく、脱線状態から正常な状態に自動復帰する機能を持たせることができる。
【0035】
また請求項8に記載された発明によれば、脱線復帰時後退距離計測手段により計測される後退距離が脱線時制動距離または予め設定された許容最大後退距離のうちの短い方を越えたときに車体を強制的に停止させるように脱線復帰制御手段を構成したので、誤動作等により復帰制御時に舵が誤った方向に切られた場合に車体が走行路から大きくずれるのを防ぐことができ、安全性を高めることができる。
【0036】
また請求項9に記載された発明によれば、脱線した車体を停止させた後、正常な状態に復帰する制御を行う際に、脱線方向と同じ側に舵を一杯に切った状態に固定して車体を後退させるので、車体を正常な状態に復帰させるために必要な後退距離を、脱線時制動距離以下にすることができ、殆どの場合、車体を脱線時制動距離よりも短い距離後退させるだけで、正常な状態に復帰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係わる電動走行車の全体的な構成を示した構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係わる電動走行車の要部の構成を示したブロック図である。
【図3】脱線した電動走行車を正常な状態に復帰させる際の動作を説明する説明図である。
【図4】誘導センサの出力電圧と、誘導センサと誘導線との間の距離との関係の一例を示したグラフである。
【図5】(A)は走行車が進行方向に対して右側に脱線したときに左誘導センサ及び右誘導センサの出力が示す変化の一例を示したグラフである。(B)は走行車が進行方向に対して左側に脱線したときに左誘導センサ及び右誘導センサの出力が示す変化の一例を示したグラフである。
【図6】本発明の一実施形態においてコントローラを構成するコンピュータが実行する処理のアルゴリズムの一例を示したフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態において脱線判定手段を構成するためにコントローラが行う脱線方向判定処理のアルゴリズムの一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1を参照すると、本発明を適用する電動走行車の一例として、乗用のゴルフカート1の構成例が示されている。同図において、2,2は図示しない車体に取り付けられた左右の舵取り輪、3,3は左右の駆動輪である。本実施形態では舵取り輪2,2が前輪であり、駆動輪3,3が後輪である。舵取り輪2,2を操作するため、舵取り装置4が設けられている。
【0039】
図示の舵取り装置4は、ステアリングモータドライバ5から駆動電流が与えられて動作するステアリングモータ6と、ステアリングモータ6から歯車伝達機構7とステアリングシャフト8とを通して与えられる回転を直線運動に変換してロッカーアーム9に伝達するラックアンドピニオン機構やボールネジ機構等の変位変換機構10と、ロッカーアーム9の変位を舵取り輪2,2に伝達するナックルアーム11,11と、手動運転する際に操作されるステアリングホイール12とを備えている。
【0040】
車体の前端には、センサ取付板13が取り付けられている。センサ取付板13は、舵取り輪2,2に連動して、舵取り輪と同じ方向に向くように設けられていて、このセンサ取付板に左誘導センサ14a及び右誘導センサ14bが取り付けられている。左右の誘導センサ14a及び14bは、図示しない走行路に沿って敷設された誘導線15から発生する交流磁界を検出して、検出した磁界の強度に比例した電気信号を発生するセンサである。誘導センサ14a,14bとしては、サーチコイル、ホールセンサ、磁気抵抗素子など、磁気を電気信号に変換して検出するものを用いることができるが、本実施形態では、左右の誘導センサ14a及び14bとしてサーチコイルを用いている。
【0041】
誘導線15は、舵取り輪2,2及び駆動輪3,3が走行路上に正しく載った状態にあるときに車体の幅方向の中央の下方を走行路の長手方向(走行方向)に沿って伸びるように敷設されている。左誘導センサ14a及び右誘導センサ14bはそれぞれ、車体の前進方向に対して左側及び右側に位置させた状態で配置されていて、走行路上における車体の位置が正常な範囲にあるときに、走行路に沿って敷設された誘導線15から発生する交流磁界を、誘導線15の左側及び右側から検出するように設けられている。誘導線15には低周波数(例えば1500Hz)の交流電流が流されている。
【0042】
舵取り輪2,2及び駆動輪3,3には、油圧シリンダ17から操作力が与えられることによりブレーキ力を発生するブレーキ18が取り付けられている。油圧シリンダ17は、ブレーキペダル19から与えられる力によりそのピストンが押されたとき、及びブレーキモータドライバ20から駆動電流が与えられて動作するブレーキモータ21の回転によりギア22を介してピストンが駆動されたときに、各ブレーキ18に操作力を与えて各ブレーキからブレーキ力を発生させる。この例では、ブレーキ18と、ブレーキペダル19と、油圧シリンダ17と、ブレーキモータドライバ20と、ブレーキモータ21と、ギア22と、ブレーキペダル19と油圧シリンダ17との間を接続する配管と、油圧シリンダ17と各ブレーキ18との間を接続する配管とにより、舵取り輪2及び駆動輪3に制動をかける制動装置23が構成されている。
【0043】
車体にはまたモータドライバ24から駆動電流が与えられる走行用モータ25と、このモータの回転を駆動輪3,3に伝達するトランスミッション26とが取り付けられている。トランスミッション26には、走行用モータ25の回転軸を拘束してその回転にブレーキをかける電磁クラッチブレーキ27と、モータ25が微小角度回転する毎にパルスを発生する回転センサ28とが取り付けられている。電磁クラッチブレーキ27は、走行用モータ25の回転軸を拘束する拘束手段と、この拘束手段を操作するソレノイドとを備えていて、ソレノイドに通電されているときに拘束手段による走行用モータ25の回転軸の拘束を解いてその回転を許容し、ソレノイドに通電されていないときに、拘束手段により走行用モータ25の回転軸を拘束してその回転を阻止する。この例では、モータドライバ24と、走行用モータ25と、トランスミッション26とにより、モータ25を動力源として駆動輪3に回転トルクを与える電動駆動装置29が構成されている。
【0044】
車体にはまたバッテリ30が搭載され、このバッテリから各部に電力が供給される。各部を制御するため、コンピュータに所定のプログラムを実行させることにより各種の制御手段を構成するコントローラ31が設けられている。
【0045】
コントローラ31には、誘導センサ14a,14bの出力信号Sha,Shbと、アクセル装置32が発生するアクセル信号Saと、ブレーキペダル18が踏まれたときに動作するブレーキスイッチから与えられるブレーキ信号Sbと、回転センサ28が発生するパルス信号Spと、発進/停止スイッチ33が発生する発進/停止指令信号S1と、リモコン34が発生する発進/停止指令を受信する受信器35が発生する発進/停止指令信号S2と、手動運転/自動運転切換スイッチ36から与えられる発進/停止指令信号S3と、車体の傾斜角を検出する傾斜センサ37が発生する傾斜角検出信号S4と、走行車に走行速度等の指令を与えるために走行路に埋設された永久磁石を検出するマグネットセンサ38が発生する速度指令信号S5とが入力されている。
【0046】
ゴルフコースに設けられる走行路は、平坦な直線路、急傾斜の登り坂または降り坂、或いは急カーブを有しているため、自動走行時の安全性や走行性を確保するためには、走行路の状態に応じて走行速度を調整することが必要である。そのため、本実施形態では、カーブの手前、坂の手前などの走行路の要所要所に、地表に向いた磁極の配列パターンにより走行速度を指示する複数の永久磁石を埋め込んであり、これらの永久磁石の磁極の配列パターンをマグネットセンサ38で検出することにより、走行路の各所で最適な走行速度の指令を受けるようにしている。また坂道でのブレーキ力を的確に制御するために、走行車が走行している坂道の傾斜角を傾斜センサ37により検出するようにしている。
【0047】
図2に示されているように、コントローラ31は、コンピュータに所定のプログラムを実行させることにより、電磁クラッチブレーキ27を制御する電磁クラッチブレーキ制御手段31Aと、走行用モータ25を制御する走行用モータ制御手段31Bと、通常運転時にブレーキ17を制御する通常運転時制動制御手段31Cと、舵取り装置4を制御する舵取り制御手段31Dとを含む各種の制御手段を構成する。
【0048】
電磁クラッチブレーキ制御手段31Aは、アクセル装置32のアクセルペダルが踏まれてモータ25への駆動電流の供給が開始されたときに電磁クラッチブレーキ27に通電して走行用モータ25の回転軸の拘束を解き、回転センサ28が発生するパルスの周期から検出されるモータ25の回転速度が設定値以下になったことが検出されたときに電磁クラッチブレーキ27への通電を停止して走行用モータ25の回転軸を拘束するように電磁クラッチブレーキ27を制御する。
【0049】
走行用モータ制御手段31Bは、手動運転/自動運転切換スイッチ36により手動運転モードが選択されている状態でアクセル装置32のアクセルペダルが踏まれたときに、走行用モータ25への駆動電流の供給を開始して、アクセルペダルの踏み込み量に応じた回転速度で走行用モータ25を回転させるようにモータ25に駆動電流を供給し、アクセルペダルが戻されたときに走行用モータ25への駆動電流の供給を停止するとともにモータ25からドライバ24を通して制動電流を流すようにモータドライバ24を制御する。
【0050】
走行用モータ制御手段31Bはまた、手動運転/自動運転切換スイッチ36により自動運転モードが選択されている状態で発進/停止スイッチ33から発進指令が与えられたとき、又はリモコン34から発進指令が与えられたときに、マグネットセンサ38から与えられる指示速度と、回転センサ28が出力するパルスの発生間隔から検出されるモータの回転速度から求めた車速との偏差を零にするように走行用モータ25に供給する駆動電流の大きさを制御して、走行車を指示速度で走行させるように制御し、乗員が危険を感じてブレーキを踏んだとき、または発進/停止スイッチ33が停止指令を発生したときには、走行用モータ25への駆動電流の供給を停止するとともに、モータ25からドライバ24を通して制動電流を流すようにモータドライバ24を制御する。
【0051】
通常運転時制動制御手段31Cは、自動運転モードが選択されているときに、速度センサ28により検出される車両の速度や、傾斜センサ37により検出される走行路の傾斜角などに応じて、ブレーキ18から所定のブレーキ力を発生させるように、ブレーキモータドライバ20を制御する。
【0052】
舵取り制御手段31Dは、手動運転/自動運転切換スイッチ36により自動運転モードが選択されているときに、左誘導センサ14aの出力と右誘導センサ14bの出力とに基づいて舵取り装置4を制御することにより各車輪を走行路上に位置させた状態に保つ舵取り制御を行う。
【0053】
舵取り制御手段31Dは、左誘導センサ14aの出力電圧と右誘導センサ14bの出力電圧との偏差を設定値以下に保つように(好ましくは最小にするように)舵取り装置4のステアリングモータ6を制御することにより舵取り制御を行う。左誘導センサ14aの出力電圧の大きさは、左誘導センサ14aと誘導線15との間の距離にほぼ反比例し、右誘導センサ14bの出力電圧の大きさは、右誘導センサ14bと誘導線との間の距離にほぼ反比例する。従って上記のような舵取り制御を行うと、誘導線15を左誘導センサ14aと右誘導センサ14bとの間のほぼ中央に位置させた状態を保つようにステアリングモータ6を制御して、車両を走行路に沿って走行させることができる。
【0054】
上記電磁クラッチブレーキ制御手段31A、走行用モータ制御手段31B、通常運転時制動制御手段31C及び舵取り制御手段31Dは、従来のゴルフカートにも設けられていたが、本実施形態では、これらの制御手段に加えて更に、脱線判定手段31Eと、脱線時制動制御手段31Fと、脱線復帰制御手段31Gと、脱線時制動距離計測手段31Hと、脱線復帰時後退距離計測手段31Iとがコントローラに設けられている。
【0055】
脱線判定手段31Eは、左誘導センサ14aの出力と右誘導センサ14bの出力とに基づく舵取り制御を正常に行うことができなくなる状態を脱線状態として、該脱線状態が生じたか否かの判定と脱線方向の判定とを行う手段である。本実施形態では、左誘導センサ14aの出力電圧と右誘導センサ14bの出力電圧との偏差が設定値以上に設定された脱線判定値を超えたときに脱線状態が生じたとの判定を行い、脱線状態が生じたとの判定が行われた状態で、左誘導センサ14aの出力電圧が右誘導センサ14bの出力電圧よりも大きいとき及び右誘導センサ14bの出力電圧が左誘導センサ14aの出力電圧よりも大きいときにそれぞれ車体が右方向に脱線したとの判定及び左方向に脱線したとの判定を行うように脱線判定手段が構成されている。
【0056】
図4は、サーチコイルからなる誘導センサが出力する電圧Vと誘導センサと誘導線との間の距離Xとの間の関係を示している。図示のように、誘導センサの出力電圧Vは誘導センサと誘導線との間の距離Xにほぼ反比例して変化する。図4において、X1は左誘導センサ14a及び右誘導センサ14bが誘導線15から等距離の位置にあるとき(誘導線15が左右の誘導センサの間の中央に位置しているとき)の各誘導センサと誘導線15との間の距離であり、Vrefは、各誘導センサと誘導線との間の距離がX1であるときに各誘導センサが出力する電圧信号である。
【0057】
理想的な舵取り制御が行われているときには、左誘導センサ14aの出力電圧及び右誘導センサ14bの出力電圧が共にVref(左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との間の偏差が零)となっている。実際には、制御の遅れ等から、舵取り制御において多少の位置ずれが生じるのは避けられないため、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との間の偏差が設定値以下に保たれるように制御が行われる。
【0058】
このような制御を行っている過程で左右の誘導センサの誘導線に対するずれ量が過大になって、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との間の偏差が設定値を超える状態になると正常な舵取り制御を行うことができなくなることがある。また、車体の向きまたは位置の正規な状態からのずれ量が大きくなって、左右の誘導センサの内の一方が誘導線の真上の位置を越えて更に変位し、左右の誘導センサの双方が誘導線に対して同じ側(左側または右側)に位置した状態になると、誘導線に近い位置にある誘導センサを誘導線から遠ざける方向に制御が行われるため、左右の誘導センサが共に誘導線から遠ざかる方向に制御が行われることになり、舵取り制御を正しく行うことができなくなる。
【0059】
本発明では、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力とに基づく舵取り制御を正常に行うことができなくなる状態を脱線状態として、該脱線状態が生じたか否かの判定と脱線方向の判定とを行い、脱線状態が生じたと判定されたときには、車輪に制動をかけて車体を停止させた後、舵取り輪の舵を脱線状態が生じたと判定されたときの向きと同じ側に切った状態に固定した状態で、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力とに基づく舵取り制御を正常に行うことができる位置まで後退させる脱線復帰制御を行う。
【0060】
車両が右方向に脱線したときには、左誘導センサ14aと誘導線15との間の距離が右誘導センサ14bと誘導線15との間の距離よりも長くなり、左誘導センサ14aの出力電圧が右誘導センサ14bの出力電圧よりも大きくなる。また車両が左方向に脱線したときには、右誘導センサ14bと誘導線15との間の距離が左誘導センサ14aと誘導線15との間の距離よりも長くなり、右誘導センサ14bの出力電圧が左誘導センサ14aの出力電圧よりも大きくなる。
【0061】
従って、時刻t1で右方向に脱線したときに左誘導センサ14a及び右誘導センサ14bからそれぞれ得られる出力電圧は図5(A)に示すように変化し、時刻t1で左方向に脱線したときに左誘導センサ14a及び右誘導センサ14bからそれぞれ得られる出力電圧は図5(B)に示すように変化する。図5(A)及び(B)から明らかなように、車体が右方向に脱線したときには左誘導センサの出力電圧が右誘導センサの出力電圧よりも高くなり、車体が左方向に脱線したときには、右誘導センサの出力電圧が左誘導センサの出力電圧よりも高くなる。
【0062】
本実施形態の脱線判定手段31Eは、左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差が設定値以上に設定された脱線判定値を超えたときに脱線状態が生じたとの判定を行い、左誘導センサの出力が右誘導センサの出力よりも大きいとき及び右誘導センサの出力が左誘導センサの出力よりも大きいときにそれぞれ車体が右方向に脱線したとの判定及び左方向に脱線したとの判定を行うように構成されている。
【0063】
上記脱線判定値は、脱線状態を的確に検出することができる値に設定する。舵取り制御における車体位置の制御幅が狭く設定されている場合には、左右の誘導センサの一方が誘導線の真上に達する状態になるまで位置ずれ量が大きくなる前に、舵取り制御を正常に行うことができなくなるが、舵取り制御における車体位置の制御幅が広く設定されている場合には、左右の誘導センサの一方が誘導線の真上に達する状態になるまでは舵取り制御を行うことができる。従って、上記脱線判定値は、左誘導センサ14a及び右誘導センサ14bの一方が誘導線15の真上に位置したときに両誘導センサの出力の間に生じる偏差に相当する値以下で、かつ前記設定値を超える値に設定することができる。なお脱線判定値は、脱線状態が生じたか否かの判定を確実に行うことができるように、実験結果に基づいて適正な値に決定することが好ましい。
【0064】
脱線時制動制御手段31Fは、脱線判定手段31Eにより脱線状態が生じたと判定されたときに舵取り輪2及び駆動輪3に制動をかけて車体を停止させるように制動装置23を制御する手段である。
【0065】
また脱線復帰制御手段31Gは、脱線時制動制御手段31Fにより停止させられた車体を、脱線判定手段31Eにより判定された脱線方向と同じ側に舵を切った状態で、左誘導センサ14aの出力と右誘導センサ14bの出力とから舵取り制御が可能な状態になったことが確認される位置まで後退させて停止させるように舵取り装置4と電動駆動装置29と制動装置23とを制御する脱線復帰制御を行う手段である。
【0066】
脱線復帰制御を行う際の舵取り方向は、脱線が生じたとの判定が行われたときの舵取り方向と同じでもよいが、脱線復帰制御時の後退距離を短くして速やかに脱線状態から正常な状態に復帰させるようにするためには、脱線方向と同じ側に舵を一杯に切った状態に固定して脱線復帰制御を行うのが好ましい。
【0067】
脱線復帰制御において、舵取り制御を正常に行うことができる状態に復帰したか否かを判定する方法は種々考えられるが、本実施形態では、左誘導センサ14aの出力と右誘導センサ14bの出力との偏差が前記設定値以下になったときに、舵取り制御を正常に行い得る状態になったことを判定するようにしている。
【0068】
本実施形態ではまた、脱線復帰制御を行う際の後退距離が過大になるのを防ぐために、脱線時制動距離計測手段31Hと、脱線復帰時後退距離計測手段31Iとが設けられている。脱線時制動距離計測手段31Hは、脱線判定手段31Eが脱線したとの判定を行ってから脱線時制動制御手段31Fにより車体が停止させられるまでの間に車体が走行した距離を脱線時制動距離として計測する手段であり、脱線復帰時後退距離計測手段31Iは、脱線復帰制御が行われているときの車体の後退距離を逐次計測する手段である。
【0069】
脱線判定手段31Eが脱線したとの判定を行ってから脱線時制動制御手段31Fにより車体が停止させられるまでの間に車体が走行した距離は、例えば、脱線したとの判定が行われてから車体が停止するまでの間に回転センサ28が発生するパルスを計数して、その計数値に1パルス当たりの走行距離を乗じることにより求めることができる。また脱線復帰制御が行われているときの車体の後退距離は、脱線復帰制御が行われているときに回転センサ28が発生するパルスを計数して、その計数値に1パルス当たりの走行距離を乗じることにより求めることができる。
【0070】
本実施形態の脱線復帰制御手段31Gは、脱線時制動制御手段31Fにより停止させられた車体を、脱線判定手段31Eにより判定された脱線方向と同じ側に舵を一杯に切った状態に固定した状態で後退させて、左誘導センサ14aの出力と右誘導センサ14bの出力との偏差が設定値以下になったこと(舵取り制御を正常に行うことが可能になったこと)が確認されたときに車体を停止させるが、車体を後退させている過程で、脱線復帰時後退距離計測手段31Iにより逐次計測される後退距離が、脱線時制動距離または予め設定された許容最大後退距離のうちの短い方を越えたときには、車体を強制的に停止させるように構成されている。許容最大後退距離は例えば1mに設定する。
【0071】
図6は、コントローラ31を構成するコンピュータに実行させる処理の要部のアルゴリズムを示すフローチャートである。このアルゴリズムに従う場合には、ステップ101で左右の誘導センサ14a,14bの出力電圧を読み込んで記憶し、ステップ102で左右の誘導センサの出力電圧の偏差が脱線判定値以下であるか否かを見ることにより、脱線の有無を判定する。左右の誘導センサの出力電圧の偏差が脱線判定値以下であるときには脱線が生じていないとしてステップ101に戻る。ステップ102で左右の誘導センサの出力電圧の偏差が脱線判定値を超えていると判定されたときには、脱線が発生したと判定してステップ103に移行して車輪に制動をかけ、制動距離を測定する。ステップ104で車輪が停止したか否かを判定し、車両が停止していないときにはステップ103に戻って制動距離の測定を継続する。
【0072】
ステップ102で脱線が生じたとの判定が行われたときには、図7に示す脱線方向判定処理を行う。図7の脱線方向判定処理では、ステップ201で左右の誘導センサの出力を比較し、左誘導センサの出力が右誘導センサの出力よりも大きいときにステップ202で右側に脱線したことを記憶させ、右誘導センサの出力が左誘導センサの出力よりも大きいときにステップ203で左側に脱線したことを記憶させる。
【0073】
図6のステップ104で車体が停止したと判定されたときには、ステップ105で、図7の脱線方向判定処理で判定された脱線方向が左側であるか右側であるかを判定する。その結果、左側に脱線していると判定されたときには、ステップ106で舵を左側に一杯に切り、右側に脱線していると判定されたときには、ステップ107で舵を右側に一杯に切る。
【0074】
ステップ106または107を行って舵を左側または右側に一杯に切った後、ステップ108に移行して、舵を一杯に切ったままの状態で駆動輪を後退方向に低速で回転させるように走行用モータ25を制御して、車体を低速で後退させる。このとき脱線復帰時後退距離計測手段31Iにより回転センサ28の出力パルスを計数して車両の後退距離を計測する。車体の低速での後退を開始した後、ステップ109で左右の誘導センサの出力の偏差が設定値以下であるか否かを判定し、ステップ109で左右の誘導センサの出力の偏差が設定値以下でないと判定されたときにはステップ110に移行して走行距離が脱線時制動距離または予め設定された許容最大後退距離(この例では1m)のうちの短い方を越えたか否かを判定する。その結果、走行距離が脱線時制動距離または予め設定された許容最大後退距離のうちの短い方を越えていないと判定されたときには、ステップ108に戻る。走行距離が脱線時制動距離または予め設定された許容最大後退距離のうちの短い方を越えたと判定された時には、ステップ111に移行して走行用モータ25の駆動を停止するとともに、ブレーキモータ21を駆動して車輪に制動をかけることにより車体を停止させる。次いでステップ112で左右の誘導センサの出力の偏差が設定値以下であるか否かを判定する。その判定の結果、偏差が設定値以下であると判定された場合にはステップ113で再発進が可能であると判定し、偏差が設定値を超えている場合には、ステップ114で再発進が不可であると判定してこの処理を終了する。
【0075】
図6及び図7に示したアルゴリズムによる場合には、ステップ101,102及び図7の脱線方向判定処理により脱線判定手段31Eが構成される。また図6のステップ103及び104により、脱線時制動制御手段31Fが構成され、ステップ106ないし114により、脱線復帰制御手段31Gが構成される。
【0076】
図3は、上記の実施形態において、電動走行車が脱線状態になった場合の復帰動作を示している。電動走行車1の向きが誘導線15に対して右側にずれた場合には、車輪に制動をかけて停止させる。この場合走行車1は、図3(A)に示すように誘導線15に対して右側に傾いた状態で停止する。この状態から、舵を脱線方向に一杯に切った状態で走行車1を図示の矢印B1方向に後退させ、図3(C)に示すように左右の誘導センサ14a,14bの出力の間の偏差が設定値以下になって、誘導線15が左右の誘導センサの間のほぼ中央に位置する状態になったときに走行車1を停止させる。
【0077】
また電動走行車1の向きが誘導線15に対して左側にずれた場合には、車輪に制動をかけて、図3(B)に示すように走行車を停止させる。この状態から、舵を脱線方向に一杯に切った状態で走行車1を図示の矢印B2方向に後退させ、図3(C)に示すように左右の誘導センサ14a,14bの出力の間の偏差が設定値以下になって、誘導線15が左右の誘導センサの間のほぼ中央に位置する状態になったときに走行車1を停止させる。
【0078】
上記の実施形態では、左誘導センサ14aの出力と右誘導センサ14bの出力との偏差が舵取り制御の制御幅(許容する変動幅)を決める設定値以上に設定された脱線判定値を超えたときに脱線状態が生じたとの判定を行うようにしているが、左誘導センサ14a及び右誘導センサ14bのいずれかの出力が、それぞれの誘導センサが誘導線15の真上に位置したときに発生する出力のピーク値に等しいか又は該ピーク値よりも僅かに小さい値に設定された判定値に達した時に脱線状態が生じたと判定するように脱線判定手段31Eを構成してもよい。
【0079】
脱線判定手段はまた、舵取り制御を行いながら車体が走行している状態で左誘導センサ14aの出力と右誘導センサ14bの出力との偏差が設定された時間内に設定値以下に収まらないときに脱線状態が生じたとの判定を行うように構成することもできる。
【0080】
上記の実施形態では、ゴルフカートを例にとったが、本発明は、ゴルフカートに限らず、誘導線が敷設された定められた走行路に沿って自動走行させられる電動走行車に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 電磁誘導式電動走行車
2 舵取り輪
3 駆動輪
4 舵取り装置
5 ステアリングモータドライバ
6 ステアリングモータ
8 ステアリングシャフト
12 ステアリングホイール
13 センサ取付板
14a 左誘導センサ
14b 右誘導センサ
15 誘導線
17 油圧シリンダ
18 ブレーキ
19 ブレーキペダル
20 ブレーキモータドライバ
21 ブレーキモータ
23 制動装置
24 モータドライバ
25 走行用モータ
26 トランスミッション
27 電磁クラッチブレーキ
28 回転センサ
29 電動駆動装置
31 コントローラ
31A 電磁クラッチブレーキ制御手段
31B 走行用モータ制御手段
31C 通常運転時制動制御手段
31D 舵取り制御手段
31E 脱線判定手段
31F 脱線時制動制御手段
31H 脱線時制動距離計測手段
31I 脱線復帰時後退距離計測手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
舵取り輪と駆動輪とを含む車輪を備えた車体と、前記駆動輪を駆動する電動駆動装置と、前記車輪に制動をかける制動装置と、前記舵取り輪を操作する舵取り装置と、走行路にに沿って敷設された誘導線が発生する磁界を前記車体側で前記誘導線の左側及び右側からそれぞれ検出して前記誘導線との間の距離の情報を含む検出信号を出力する左誘導センサ及び右誘導センサと、前記左誘導センサの出力と右誘導センサの出力とに基づいて前記舵取り装置を制御することにより各車輪を走行路上に位置させた状態に保つ舵取り制御を行う舵取り制御手段を有するコントローラとを備えた電磁誘導式電動走行車において、
前記コントローラは、
前記左誘導センサの出力と右誘導センサの出力とに基づく前記舵取り制御を正常に行うことができなくなる状態を脱線状態として、該脱線状態が生じたか否かの判定と脱線方向の判定とを行う脱線判定手段と、
前記脱線判定手段により脱線状態が生じたと判定されたときに前記車体を停止させるように前記制動装置を制御する脱線時制動制御手段と、
前記脱線時制動制御手段により停止させられた車体を、前記脱線判定手段により判定された脱線方向と同じ側に舵を切った状態で、前記左誘導センサの出力と右誘導センサの出力とに基づく舵取り制御を正常に行うことができる位置まで後退させるように前記舵取り装置と電動駆動装置と制動装置とを制御する脱線復帰制御を行う脱線復帰制御手段と、
を備えていることを特徴とする電磁誘導式電動走行車。
【請求項2】
前記舵取り制御手段は、前記左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差を設定値以下に保つように前記舵取り装置を制御することにより前記舵取り制御を行うように構成され、
前記脱線判定手段は、前記左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差が前記設定値以上に設定された脱線判定値を超えたときに前記脱線状態が生じたとの判定を行うように構成されていること、
を特徴とする請求項1に記載の電磁誘導式電動走行車。
【請求項3】
前記脱線判定値は、前記左誘導センサ及び右誘導センサの一方が前記誘導線の真上に位置したときに左右誘導センサの出力の間に生じる偏差に相当する値以下で、かつ前記設定値を超える値に設定されていること、
を特徴とする請求項2に記載の電磁誘導式電動走行車。
【請求項4】
前記舵取り制御手段は、前記左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差を設定値以下に保つように前記舵取り装置を制御することにより前記舵取り制御を行うように構成され、
前記脱線判定手段は、前記舵取り制御を行いながら車体が走行している状態で前記左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差が設定された時間内に前記設定値以下に収まらないときに前記脱線状態が生じたとの判定を行うように構成されていること、
を特徴とする請求項1に記載の電磁誘導式電動走行車。
【請求項5】
前記舵取り制御手段は、前記左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差を設定値以下に保つように前記舵取り装置を制御することにより前記舵取り制御を行うように構成され、
前記脱線判定手段は、前記左誘導センサ及び右誘導センサのいずれかの出力が、それぞれの誘導センサが前記誘導線の真上に位置したときに発生する出力のピーク値に等しいか又は該ピーク値よりも僅かに小さい値に設定された判定値に達した時に脱線状態が生じたと判定するように構成されていること、
を特徴とする請求項1に記載の電磁誘導式電動走行車。
【請求項6】
前記脱線判定手段は、前記脱線状態が生じたとの判定がされた状態で前記左誘導センサの出力が右誘導センサの出力よりも大きいとき及び前記脱線状態が生じたとの判定がされた状態で前記右誘導センサの出力が左誘導センサの出力よりも大きいときにそれぞれ車体が右方向に脱線したとの判定及び左方向に脱線したとの判定を行うように構成されていること、
を特徴とする請求項2,3,4又は5に記載の電磁誘導式電動走行車。
【請求項7】
前記脱線復帰制御手段は、前記左誘導センサの出力と右誘導センサの出力との偏差が前記設定値以下になったときに前記舵取り制御を正常に行うことができる位置まで後退したとして前記車体を停止させるように構成されていること、
を特徴とする請求項2又は3に記載の電磁誘導式電動走行車。
【請求項8】
前記コントローラは、前記脱線判定手段が脱線したとの判定を行ってから前記脱線時制動制御手段により前記車体が停止させられるまでの間に前記車体が走行した距離を脱線時制動距離として計測する脱線時制動距離計測手段と、前記脱線復帰制御が行われているときの前記車体の後退距離を計測する脱線復帰時後退距離計測手段とを更に備え、
前記脱線復帰制御手段は、前記脱線復帰時後退距離計測手段により計測される後退距離が前記脱線時制動距離または予め設定された許容最大後退距離のうちの短い方を越えたときに前記車体を強制的に停止させるように構成されていること、
を特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の電磁誘導式電動走行車。
【請求項9】
前記脱線復帰制御手段は、前記脱線復帰制御を行う際に、前記舵取り輪の舵を、前記脱線判定手段により判定された脱線方向と同じ側に一杯に切った状態に固定した状態で前記車体を後退させるように構成されていること、
を特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の電磁誘導式電動走行車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−48776(P2011−48776A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198618(P2009−198618)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】