説明

電磁超音波法による測定装置及び測定方法

【課題】レーザ超音波法に比較して安価な構成で実現できる電磁超音波法を用いて、材料の音速と同時に板厚を測定する。
【解決手段】本発明の電磁超音波法による測定装置は、電磁超音波を送信する送信センサTと送信センサTから送信された後、反射してきた超音波を受信する受信センサRを備え、受信センサRに電磁超音波が到達した時刻を基に材料の板厚を測定するものであって、1つの送信センサTと、送信センサと同一平面上に配備された少なくとも3つ以上の受信センサR1,R2,R3と、各受信センサR1,R2,R3への電磁超音波の到着時刻t1,t2,t3と受信センサR1,R2,R3の位置情報とに基づいて、材料の内部の音速と材料厚さHとを測定する測定部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料厚さの非接触測定装置及び方法に関し、特に、熱間圧延ラインで高速移動中の鋼板の板厚を非接触で測定する場合に好適な、材料厚さを電磁超音波法により測定する装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧延板等の材料の厚さを測定するのに、超音波を用いた方法が多く用いられている。材料に超音波を導入し、表面と裏面との間で往復反射する超音波エコーの時間間隔を測定し、その材料固有の音速を乗じることで板厚を測定する方法である。この方法は、材料の片側からの測定により、材料の厚さを測定できるというメリットがある。
一般に、市販されている超音波を用いて板厚を測定する測定器(超音波板厚計)は、圧電素子を水やグリセリンなどの接触媒質を介して材料表面に接触させる方法である。この手法は簡便で安価であるが、材料に接触しなければならない点で圧延中の板などのオンラインへの適用は困難である。
【0003】
そこで、圧延板等の板厚測定には、レーザ励起又は電磁力励起による非接触超音波法が用いられる。特に、レーザ超音波法による板厚測定は、リフトオフが大きくとれるために盛んに開発されているが、装置が大がかりになるという問題点と、材料に少なからず損傷(アブレーション跡)を残してしまうという問題点とがある。
一方、電磁超音波法による板厚測定は、感度が低いためにリフトオフが数mm程度しかとれないという制約があるものの、非接触非損傷で圧延中の材料にも適用できるというメリットがある。この電磁超音波法による送信センサは、材料に近接させて永久磁石等によりバイアス磁場を印加し、その直下に同じく材料に近接して配置したコイルにパルス電流を流すことで、材料内に渦電流を発生させ、バイアス磁場と渦電流によるローレンツ力が生じ、これにより材料内に超音波が発生させる構成となっている。受信センサは、これと全く逆の過程で、コイル内に誘導起電圧が生じるので、それをアンプで増幅して受信信号とする。例えば、このような送信・受信センサとして、レーストラック型コイルと材料表面に垂直方向にバイアス磁場を印可する永久磁石とから構成されるセンサが、電磁超音波法の中では最も一般的なセンサであり、材料表面に垂直な方向に横波超音波を導入することができる。
【0004】
上記した超音波による板厚測定における1つの問題点は、材料中の音速を与える必要があることである。一般に材料中を伝播する超音波の音速は、温度とともに大きく変化し、決して一定ではない。特に、熱間圧延プロセス中の材料のような高温に熱されている状態では、材料温度もばらつき、また、内部と表面とでもその温度は異なっている。放射温度計などで表面温度を計測し、別途求めた温度と音速との関連テーブルから音速を与えたとしても内部の温度までは計測できないため、大きな誤差を生じることとなる。
材料の音速が変動して不確定であるといった問題を解決するために、音速と板厚とを同時に測定する方法も提案されている。例えば特開2001−194137号公報(特許文献1)には、レーザ超音波による音速と板厚との同時計測方法が開示されている。この特許文献1に開示された材料厚さの非接触測定方法は、被測定物の表面上の2つの位置PL、PSに相異なるタイミングでレーザビームを照射し、第1の位置に照射したレーザによって被測定物中に超音波縦波を発生させると共に、第2の位置に照射したレーザによって被測定物中に超音波横波を発生させ、超音波検出用のレーザ及び光学干渉計からなる非接触超音波検出器によって、これらの超音波を検出し、被測定物中の超音波縦波及び超音波横波の伝搬時間tL及びtSを測定し、予め求めておいたtL及びtSと被測定物中の超音波音速との関係式及び2つの位置PLとPSとの距離を用いて、tLとtSとから被測定物中の超音波音速を求め、この音速と測定した超音波伝搬時間から被測定物の厚さを算出することを特徴とする。
【0005】
この材料厚さの非接触測定方法によると、被測定物の温度が変化するような環境下でも、非接触で材料の厚さを測定することができる。
【特許文献1】特開2001−194137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術を実際の現場に適用しようとした際には、上記したように、レーザ使用に伴うに難点(装置が大がかりになる、材料に少なからず損傷を残す等)が回避できない。
そこで、特許文献1に開示された非接触測定方法の原理を、電磁超音波法にも適用することも考えられるが、以下の問題が発生する。
レーザ超音波の場合には、レーザの入射点を絞ることができ、被測定物の表面上の2つの位置PLとPSとの間隔δを明確に定義することが可能である。一方、電磁超音波の場合には、センサ自身の大きさがある程度の大きさ(例えば、数cm程度)を備えており、超音波発生はそのセンサの直下のエリア全体で発生しており、超音波発生点を定義することが困難である。従って、特許文献1の非接触測定方法の原理に基づけば、計測誤差が非常に大きなものとなる。
【0007】
加えて、電磁超音波法の送信センサにより発生する超音波は、3〜4波が連続して発生した波群(バースト波)であり、超音波の発生時刻を厳密に定義することが困難なことが多い。ゆえに、伝搬時間tL及びtSの正確な測定が難しい。
本発明は、上記課題を解決すべく、電磁超音波法により材料に非接触で超音波を導入して、音速と板厚とを同時に高精度で測定することができる電磁超音波法による測定装置及び測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明にかかる電磁超音波法による測定装置は、材料内に電磁超音波を送信する送信センサと、該送信センサから送信された電磁超音波の反射波を受信する受信センサとを備えた測定装置であって、1つの送信センサと、前記送信センサと同一平面上に配備された少なくとも3つ以上の受信センサと、各受信センサへの反射波の到着時刻と各受信センサの位置情報とに基づいて、前記材料の内部の音速と材料厚さとを測定する測定部と、を有することを特徴とする。
【0009】
電磁超音波を利用した測定装置においては、上述したように、超音波の発生が点ではなく、センサ直下全体のエリアに広がっているため、超音波の伝搬距離を明確に定義することが難しい。加えて、超音波の発生時刻を厳密に知ることも難しい。そこで、3つ以上の受信センサを平面上に既知の間隔をあけて配置する。これにより、それらの位置情報(伝搬距離の差)と受信信号の伝搬時間差との関係を2つ以上の方程式により定義できて、計測対象である材料の音速及び板厚を精度高く求めることができる。
好ましくは、前記送信センサと少なくとも3つ以上の前記受信センサとが、平面視で同一直線上に配備されているとよい。
【0010】
また、本発明にかかる電磁超音波法による測定装置は、材料内に電磁超音波を送信する送信センサと、該送信センサから送信された電磁超音波の反射波を受信する受信センサとを備えた測定装置であって、1つの送信センサと、前記送信センサと同一平面上に配備され、前記送信センサからの距離が可変となるように移動可能となっている1つの受信センサと、前記受信センサが異なる3つ以上の位置に移動した際の、各位置における受信センサへの反射波の到着時刻と前記受信センサの位置情報とに基づいて、前記材料の内部の音速と材料厚さとを測定する測定部と、を有することを特徴としてもよい。
【0011】
この測定装置においては、3カ所以上の場所において受信センサが、材料の底部で反射してきた電磁超音波を受信することとなる。それにより、それらの位置情報(伝搬距離の差)と受信信号の伝搬時間差との関係を2つ以上の方程式により定義できて、計測対象である材料の音速及び板厚を精度高く求めることができる。
なお好ましくは、前記受信センサは、平面視で同一直線上を移動するとよい。
本発明にかかる電磁超音波法による測定方法は、材料内に送信された電磁超音波の反射波を受信することで材料の板厚を測定する測定方法であって、前記電磁超音波を送信する送信点と同一平面上に配備された少なくとも3つ以上の受信点において、反射波の到着時刻を計測し、各受信点で計測された到着時刻と各受信点の位置情報とに基づいて、前記材料の内部の音速と材料厚さとを測定することを特徴とする。
【0012】
この方法によれば、3つ以上の異なる受信点で、材料の底部で反射してきた超音波を受信することとなる。それにより、それらの位置情報(伝搬距離の差)と受信信号の伝搬時間差との関係を2つ以上の方程式により定義できて、計測対象である材料の音速及び板厚を精度高く求めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、レーザ超音波法に比較して安価な構成で実現できる電磁超音波法を用いて、材料の音速と同時に板厚を測定可能な装置及び方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図を基に説明する。
なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
図1は、本実施形態の測定装置(板厚・音速測定装置)に好適な電磁超音波センサ1の模式的な側面図である。なお、図1のコイルの巻数(ターン数)は一例であって、本発明がこの図のターン数のコイルに限定されるものではない。
図1に示す電磁超音波センサ1は、ローレンツ型横波発生用センサである。このローレンツ型の電磁超音波センサ1の動作原理は、被測定材料10(例えば、熱間圧延された圧延材)の表面上に永久磁石と、被測定材料10の表面と平行な面内に巻回されたコイルとを配置し、コイルに電流を流す。これにより、被測定材料10内に誘起される渦電流と磁界との相互作用により発生するローレンツ力が音源となって被測定材料10内に電磁超音波を発生させる。
【0015】
発生した電磁超音波(以降、単に超音波と呼ぶこともある)は、被測定材料10の一方側から材料厚方向に進み、他方側(底部)で反射して、再度一方側へ戻ってくる。戻ってきた超音波は、上記原理の逆の現象を利用して受信される。
より具体的なセンサ構成についてさらに説明する。
図1に示すように、電磁超音波センサ1は、静磁場発生用の永久磁石2及び永久磁石3と、被測定材料10の表面側の内部に渦電流6を発生するための送信コイル5又は反射した超音波を受信するための受信コイル4とから構成される。以下においては、送信コイル5を備えた電磁超音波センサを送信センサTと、受信コイル4を備えた電磁超音波センサを受信センサRとして説明する。なお、図1の丸印の中に点を備えた印は、紙面裏側から紙面表側への電流の流れを示す記号である。丸印の中に×を備えた印は、紙面表側から紙面裏側への電流の流れを示す記号である。
【0016】
図2は、送信センサTからいろいろな方向に送信される超音波が被測定材料10の底面で反射され、平面の直線上に配置された3つの受信センサ(R1、R2、R3)に受信されている様子を模式的に示したものである。
それぞれの受信センサに、反射してきた超音波(反射波、エコー)が到着した時刻をt1、t2、t3とすると、電磁超音波の場合に高精度に測定できるものは、これらの相対的な時間差である(t2−t1)及び(t3−t1)の2項目のみである。なぜならば、図3に示す如く、受信センサの送信開始時刻には、電磁気的な直接カップリングで非常に大きな信号(バースト波)が観測され、送信開始を特定することは困難であるためである。また、受信波形も明確なパルスとは限らず、数波から構成されるなだらかな波形になる場合が多い。このような場合、送信開始時刻から受信波到着時刻t1、t2及びt3を高精度に測定することは困難である。高精度の計測可能な項目は、受信センサ間の受信時刻差(t2−t1)及び(t3−t1)の2項目のみである。
【0017】
この(t2−t1)及び(t3−t1)の2項目と受信センサRの位置情報d1、d2、d3とを用いて音速Vと板厚Hとの関係を以下の連立方程式から求めることができる。なお、位置情報は、本実施形態の場合、電磁超音波センサTと各受信センサRとの中心間距離としているが、それに限定されるものではない。
具体的には、図2に示す3つの三角形に着目して各三角形に三平方の定理を適用して、式(1)〜式(3)が導かれる。
【0018】
【数1】

【0019】
これらの式(1)〜式(3)を変形して、式(4),式(5)が導かれる。
【0020】
【数2】

【0021】
図3には、電磁超音波センサ1からの出力が示されている。この図において、符号B1に対応する信号が受信センサR1が受信した反射超音波(エコー)であり、符号B2に対応する信号が受信センサR2が受信したエコー、符号B3に対応する信号が受信センサR3が受信したエコーである。
図3から明らかなように、送信センサTが超音波を送信した時刻Tは、バースト波の影響により、正確には求めがたいものとなっている。言い換えるならば、受信センサへの到着時刻の差(t2−t1)、(t3−t1)、送信センサT1と受信センサR1との距離d1、送信センサT1と受信センサR2との距離d2、送信センサT1と受信センサR3が明らかな値としてわかっている。この時、未知数は、被測定材料10の板厚Hと被測定材料10内の音速Vとの2個だけであるから、2つの連立方程式式(式(4)及び式(5))から、板厚Hと音速Vとを求めることができる。
【0022】
以上の処理は、電磁超音波センサ1の信号を処理する測定部(図示せず)内で行われる。測定部は、上述の如く、各受信センサへの電磁超音波の到着時刻と受信センサ間の距離とに基づいて、材料の内部の音速と材料厚さとを測定するものであり、例えば、コンピュータ内のプログラムとして実現されているものである。
以上のようにして、本実施形態に係る電磁超音波法による測定装置及び測定方法によると、レーザ超音波法に比較して安価な構成で実現できる電磁超音波法に用いて、材料の音速と同時に板厚を測定することが可能な装置を提供できる。なお、材料内の音速が計測できると、材料内部の温度情報まで計測できる可能性があり、圧延中の材料評価には好都合である。
【0023】
上述した実施形態においては、3つの受信センサを一直線上に配置した例を示したが、本発明は以下に示す態様であっても構わない。
図4に示すように、1つの送信センサTの位置を固定し、1つの受信センサRを直線上に3カ所に亘り移動させながら、その移動距離とともに受信時刻とを測定する。これにより、上述した実施形態と同様に、受信センサ3カ所における受信時刻t1,t2,t3、受信位置(距離)d1,d2,d3を得ることができ、板厚Hと音速Vとを求めることが可能である。
【0024】
さらに、上述した実施形態において受信センサRを3個より多くして、測定可能データ数を多くし、最小自乗法などにより高精度に板厚Hと音速Vとを求めることも可能である。
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る電磁超音波センサの模式図である。
【図2】本発明の実施形態を示す図である。
【図3】受信センサで受信される信号波形の一例を示す図である。
【図4】本発明の他の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 電磁超音波センサ
2 永久磁石
4 受信コイル
5 送信コイル
6 渦電流
10 被測定材料
T 送信センサ
R 受信センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料内に電磁超音波を送信する送信センサと、該送信センサから送信された電磁超音波の反射波を受信する受信センサとを備えた測定装置であって、
1つの送信センサと、
前記送信センサと同一平面上に配備された少なくとも3つ以上の受信センサと、
各受信センサへの反射波の到着時刻と各受信センサの位置情報とに基づいて、前記材料の内部の音速と材料厚さとを測定する測定部と、
を有することを特徴とする電磁超音波法による測定装置。
【請求項2】
前記送信センサと少なくとも3つ以上の前記受信センサとが、平面視で同一直線上に配備されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁超音波法による測定装置。
【請求項3】
材料内に電磁超音波を送信する送信センサと、該送信センサから送信された電磁超音波の反射波を受信する受信センサとを備えた測定装置であって、
1つの送信センサと、
前記送信センサと同一平面上に配備され、前記送信センサからの距離が可変となるように移動可能となっている1つの受信センサと、
前記受信センサが異なる3つ以上の位置に移動した際の、各位置における受信センサへの反射波の到着時刻と前記受信センサの位置情報とに基づいて、前記材料の内部の音速と材料厚さとを測定する測定部と、
を有することを特徴とする電磁超音波法による測定装置。
【請求項4】
前記受信センサは、平面視で同一直線上を移動することを特徴とする請求項3に記載の電磁超音波法による測定装置。
【請求項5】
材料内に送信された電磁超音波の反射波を受信することで材料の板厚を測定する測定方法であって、
前記電磁超音波を送信する送信点と同一平面上に配備された少なくとも3つ以上の受信点において、反射波の到着時刻を計測し、
各受信点で計測された到着時刻と各受信点の位置情報とに基づいて、前記材料の内部の音速と材料厚さとを測定することを特徴とする電磁超音波法による測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−96703(P2010−96703A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269668(P2008−269668)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】