電線用引留クランプ及び電線引留構造
【課題】引留作業の作業量を十分に低減することができるとともに、年月が経過したとしても電線の引留状態を維持することができ、さらに、絶縁被覆を剥ぐことなく電線の引き留めを行うことができる引留クランプ及び電線引留構造を提供すること。
【解決手段】電線200を電柱100に引き留めるための電線用引留クランプ10であって、電線200が延びる方向に長い形状を有する板状の本体12と、本体12に配置され、電線200を挟むことで固定する少なくとも1つの電線挟持装置とを有し、電線挟持装置は、本体12に固定される静止部と、本体12に固定された支点を中心に回転可能な偏心回転部とを有し、偏心回転部は、電線と接して回転することによって静止部との間隔が狭くなり、静止部との間に電線を挟むことで電線を固定するように構成されている。
【解決手段】電線200を電柱100に引き留めるための電線用引留クランプ10であって、電線200が延びる方向に長い形状を有する板状の本体12と、本体12に配置され、電線200を挟むことで固定する少なくとも1つの電線挟持装置とを有し、電線挟持装置は、本体12に固定される静止部と、本体12に固定された支点を中心に回転可能な偏心回転部とを有し、偏心回転部は、電線と接して回転することによって静止部との間隔が狭くなり、静止部との間に電線を挟むことで電線を固定するように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線を電柱に引き留めるための電線用引留クランプ及び電線引留構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線を電柱に引き留める場合、電柱上部に耐張碍子を介して引留クランプを接続し、引留クランプに電線を引き留めさせている。複数の電柱間において電線が垂れ下がることを防止するために、電線の引き留めはしっかりと行う必要がある。ところが、電線の引留作業は、電柱上部という高所で行われるため、作業量を軽減して施工を簡単にすることが要求される。
【0003】
これに対して、4つの部品を使用した引留クランプであって、楔を利用して電線を固定する技術が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平9−168222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の技術においては、作業者が4つの部品を操作する必要があり、作業量の低減が不十分である。また、電線の固定は、電線の重さに対抗するために、楔を利用して実現されているから、年月の経過とともに楔が抜ける危険があるとういう問題がある。さらに、ビニル被覆等の絶縁被覆は季節による温度変化により硬さが変化し、高温の日々が続く夏には被覆がやわらかくなるから、楔が抜けることを防止するためには特許文献1の技術においても、実際には、ビニル被覆を剥いで引き留めを行う必要があるという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、引留作業の作業量を十分に低減することができるとともに、年月が経過したとしても電線の引留状態を維持することができ、さらに、絶縁被覆を剥ぐことなく電線の引き留めを行うことができる引留クランプ及び電線引留構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
具体的には、本発明は以下のものを提供する。
(1) 電線を電柱に引き留めるための電線用引留クランプであって、前記電線が延びる方向に長い形状を有する板状の本体と、前記本体に配置され、前記電線を挟むことで固定する少なくとも1つの電線挟持装置とを有し、前記電線挟持装置は、前記本体に固定される静止部と、前記本体に固定された支点を中心に回転可能な偏心回転部とを有し、前記偏心回転部は前記電線と接して回転することによって前記静止部との間隔が狭くなり、前記偏心回転部と前記静止部との間に前記電線を挟むことで前記電線を固定するように構成されていることを特徴とする電線用引留クランプである。
【0007】
(1)の発明によれば、電線を電線挟持装置の静止部と偏心回転部の間に配置して電線が偏心回転部に接した状態において電線用引留クランプを引くことで偏心回転部と静止部との間隔が狭くなり、偏心回転部と静止部との間に電線を挟持することができるから、引留作業の作業量を十分に低減することができる。
【0008】
また、電線の重さは電線挟持装置に対して継続的に負荷となっているが、この負荷は電線を電柱から離れる方向へ牽引するから、偏心回転部と静止部との間隔を狭くするように作用する。言い換えると、電線挟持装置は、電線の重さに対抗するのではなくて、電線の重さを利用して電線の挟持を維持する。このため、年月が経過したとしても電線の引留状態を維持することができる。
【0009】
さらに、電線の絶縁被覆が裂けて裸線になった状態で、電線がその重さによって電柱から離れる方向へ牽引された場合には、偏心回転部が回転し、さらに静止部との間隔を狭くするから、電線を挟持し続けることができる。このため、絶縁被覆を剥ぐことなく電線の引き留めを行うことができる。
【0010】
(2) 前記静止部の前記電線と接する面が前記偏心回転部と離れる方向へ傾斜しており、及び/又は、前記偏心回転部の前記電線と接する面が前記静止部と離れる方向へ傾斜していることによって、前記電線挟持装置が前記電線を挟む方向とは垂直方向に前記電線が逃げる横逃げを防止するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電線用引留クランプである。
【0011】
(2)の構成によれば、静止部及び/又は偏心回転部の電線と接する面が傾斜しているから、偏心回転部が静止部に近づく方向とは垂直方向から電線を本体に対して押圧することができるから、電線の横逃げを防止することができる。
【0012】
(3)前記静止部の前記電線と接する面が凹状に形成されていることによって、前記電線挟持装置が前記電線を挟む方向とは垂直方向に前記電線が逃げる横逃げを防止するように構成されていることを特徴とする(1)に記載の電線用引留クランプである。
【0013】
(3)の構成によれば、静止部の電線と接する面が凹状に形成されているから、その凹状の部分で電線を囲い込むことができるから、電線の横逃げを防止することができる。
【0014】
(4) さらに、前記電線挟持装置が前記電線を挟む方向とは垂直方向に前記電線を前記本体に押圧固定して、前記電線の横逃げを確実に防止する横逃げ防止部材が前記本体に配置されていることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の電線用引留クランプである。
【0015】
(4)の構成によれば、横逃げ防止手段によって、電線の横逃げを確実に防止することができる。
【0016】
(5) 前記本体の形状に沿って、2つの前記電線挟持装置が並列配置され、2つの前記偏心回転部は共通レバーによって連結されており、前記共通レバーには、前記電線を押圧固定するための押圧部材が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電線用引留クランプである。
【0017】
(5)の構成によれば、電線挟持装置が2つ並列配置するから、確実に電線を挟持することができる。また、共通レバーによって2つの偏心回転部は連動して回転するから、効果的に電線を挟持することができる。また、押圧部材によって電線を共通レバーに固定することによって、2つの電線挟持装置の間の電線の張力を維持ことができ、電柱に近い方の電線挟持装置が遊んでしまうことを防止することができる。
【0018】
さらに、押圧部材によって電線を共通レバーに固定することによって、電線の挙動が迅速確実に共通レバーに伝わり、2つの偏心回転部を回転させることができる。このため、電線が静止部と偏心回転部との間を滑ったとしても、共通レバーによって偏心回転部が回転するから、迅速に電線を挟持する状態を回復することができる。
【0019】
(6) 前記本体の形状に沿って、1つの前記電線挟持装置が前記本体の一方の面に配置され、もう1つの前記電線挟持装置が前記本体の他方の面にそれぞれ配置されており、前記本体には、前記電線が前記本体の一方の面から他方の面へ通過するための切欠部が形成されていることを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載の電線用引留クランプである。
【0020】
(6)の構成によれば、電線を本体の両面を通過させるようになっているから、横逃げを一層確実に防止することができる。
【0021】
(7) 前記本体の形状に沿って、2つの前記電線挟持装置が並列配置され、一方の前記偏心回転部と他の前記偏心回転部がそれぞれ対応する前記静止部との間隔を狭くするための回転方向は、互いに逆になるように構成されていることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の電線用引留クランプである。
【0022】
(7)の構成によれば、電線が電柱から離れる方向へ牽引されても、近づく方向へ牽引されても、いずれか一方の電線挟持装置が電線の挟持を維持することができる。このため、いったん電線を挟持した後において、電線が台風等の風雨によって電柱に近づく方向へ牽引されても、電線を挟持することができる。
【0023】
(8) (1)から(7)のいずれかに記載の電線用引留クランプを使用して、耐張碍子を介して前記電柱に前記電線を引き留める電線引留構造である。
【0024】
(7)の発明によれば、引留作業の作業量を十分に低減することができるとともに、年月が経過したとしても電線の引留状態を維持することができる。さらに、絶縁被覆を剥がずに電線を引き留めることができるから絶縁対策を従来よりも軽減することができ、例えば、耐張碍子の数は1個でよいし、耐張碍子の大きさも従来よりも小さくてよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、引留作業の作業量を十分に低減することができるとともに、年月が経過したとしても電線の引留状態を維持することができ、さらに、絶縁被覆を剥ぐことなく電線の引き留めを行うことができる引留クランプ及び電線引留構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態の一例について、添付した図面を参照しながら、具体的に説明する。
【0027】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態の電線用引留クランプ10(以下、「クランプ10」と呼ぶ)を示す概略斜視図である。図2〜図7は、クランプ10の要部の概略図である。クランプ10は、電線を電柱に引き留めるための電線引留クランプである。クランプ10の各部は、例えば、SUS304等のステンレス鋼、アルミ合金又はこれらの組合せで形成されている。
【0028】
なお、本実施形態以降の説明では、同じ部材の場合には同じ符号を付すとともに、すでに説明した部材の説明は省略する。
【0029】
図1に示すように、クランプ10は、板状の本体12を有する。本体12は、矢印Y1で示される方向(電線が伸びる方向)に長い形状を有している。
【0030】
本体12には静止部14が固定されている。また、本体12には、係止ピン50によってカム基部16が回転可能に固定されている。ボルト52によってカム基部16に回転部18が固定されている。カム基部16は、係止ピン50を支点として、本体12に対して回転可能である。カム基部16の回転によって、回転部18は本体12に対して偏心状態で回転する。このため、図2(a)に示すように静止部14と回転部18との間隔が開いた状態から、回転部18が矢印X1方向に回転すると、図3に示すように静止部14と回転部18とが近接する。電線が回転部18の内側面18aに接した状態で、回転部18が矢印X1方向へ回転すると、回転部18と静止部14との間隔が狭くなる。このため、静止部14の内側面14aと回転部18の内側面18aとの間に、電線を挟むことで固定することができる。なお、内側面18aには、例えば、メッシュ状の滑り止め加工がなされており、電線200が内側面18aと接した状態で回転部18が効率良く回転することができるようになっている。
【0031】
カム基部16と回転部18は、偏心回転部として機能する。また、静止部14、カム基部16、回転部18、係止ピン50及びボルト52によって電源挟持装置を形成している。以下、静止部14、カム基部16、回転部18、係止ピン50及びボルト52で構成される電源挟持装置は、電線を一時的に把持する工具であるカムラー(例えば、特開2001−119825号公報参照)を応用した構造を有する。このため、静止部14、カム基部16、回転部18、係止ピン50及びボルト52で形成される電源挟持装置を、「第1カムラー」と呼ぶ。
【0032】
また、本体12には、静止部20が固定され、係止ピン56によってカム基部22が回転可能に固定され、ボルト58によってカム基部22に回転部24が固定されている。カム基部16と回転部18と同様に、カム基部22と回転部24は、偏心回転部として機能する。また、上述の第1カムラーと同様に、静止部20、カム基部22、回転部24、係止ピン56及びボルト58によって、電線挟持装置を形成している。静止部20、カム基部22、回転部24、係止ピン56及びボルト58で形成される電源挟持装置を、「第2カムラー」と呼ぶ。
【0033】
図2(b)は図2(a)に示す部分を矢印Y2方向から見た概略図である。図2及び図3に示すように、静止部14の電線と接する面である内側面14aは凹状に形成されており、図2(b)に示すようにその凹状の部分に電線200を囲い込むことができるから、電線の横逃げを防止することができる。なお、「横逃げ」とは、第1カムラー及び第2カムラーが電線を挟む方向とは垂直方向(紙面手前方向)に電線200が外れることを意味する。
【0034】
図1に示すように、第1カムラーと第2カムラーとは、本体12の形状に沿って並列配置されている。そして、第1カムラーのカム基部16及び第2カムラーのカム基部22は、それぞれ、係止ピン54及び60によって共通レバー26に回動可能な状態で連結されている。
【0035】
共通レバー26には、電線を押圧固定するための押圧部材30が配置されている。図4(a)に示すように、押圧部材30は、ボルト30b、ボルト30bと螺合するナット30a、及び移動部30cを有する。図4(a)及び(b)に示すように、押圧部材30は、共通レバー26に固定されている。具体的には、押圧部材30の基部30dが共通レバー26に固定されている。図4(a)に示す状態から、ナット30aを回転させて矢印X2方向へ移動させると、移動部30cは矢印Z1方向へ移動し、図4(b)に示すように、共通レバー26の上面26bと移動部30cの内面部30caとの間に電線200を挟んで固定することができる。なお、このときボルト30bは、移動部30cに形成された楕円形の断面を有する孔30ch内を図の左側から右側へ移動する。共通レバー26の上面16aと移動部30cとの間に電線200が固定されると、電線200の動きに連動して共通レバー26が動く。図1に示すように、共通レバー26には、耐張碍子と連結するための連結孔26aが形成されている。
【0036】
図1に示すように、本体12には、横逃げ防止部材32が配置されている。横逃げ防止部材32は、電線200を本体12に押圧固定して、電線200の横逃げを確実に防止するための構成である。
【0037】
図5(a)及び図5(b)に示すように、横逃げ防止部材32は、ナット32a、ボルト32b、上下移動部32c及び基部32dを有する。基部32dは本体12と一体に形成されている。図5(b)に示すように、ボルト32bはヘッド32baを有し、基部32dから抜けないようになっている。
【0038】
図6(a)の状態から、ナット32aを回して矢印X3方向に移動させると、上下移動部32cは矢印Z1方向へ移動し、図6(b)に示すように電線200を押圧固定することができる。このとき、ボルト32bは、上下移動部32cに形成された断面形状が楕円の孔内を図の右側から左側へ移動している。図5及び図6に示すように、上下移動部32cと基部32dとで形成される電線を押圧するための空間の断面形状は三角形を基本とした多角形であり、例えば、八角形に形成されている。これにより、断面が円の場合よりも電線を確実に押圧することができる。
【0039】
図1に示すように、上下移動部32cには、偏心部34と固定円柱部36が形成されている。偏心部34と固定円柱部36とは、電線の端部近傍を把持して、その方向を規制する把持部として機能する。図7(a)に示す状態から、偏心部34矢印X4方向へ回転すると、図7(b)に示すように、偏心部34の側面34aと固定円柱部36の側面36aが近接し、電線を把持することができるようになっている。偏心部34は、電線第1カムラー及び第2カムラーに挟持された後に、回転させられて電線を固定するようになっている。
【0040】
以上が、クランプ10の構成である。以下、図8、図9、図10及び図11を使用して、クランプ10を使用して電線を引き留める方法を説明する。
【0041】
図8、図9、図10及び図11は、電線を引き留める方法の一例を示す概略図である。
まず、図8に示すように、電線200を配置する。このとき、電線200の絶縁被覆は剥がす必要はない。図8の状態において、電線200は回転部18及び24に接している。図8において、静止部14及び20が配置されている方向が上空方向で、回転部18及び24が配置されている方向が地面方向であるから、電線200をクランプ10に配置すると、自然に電線200は回転部18及び24に接する。
【0042】
続いて、矢印X5方向に本体12が牽引されると、回転部18及び24が時計の反対回りに回転し、図9に示すように、静止部14と静止部20との間で電線200を挟んで固定する。このとき、カム基部16及び22に接続された共通レバー26は、上空方向へ移動する。
【0043】
図9の状態においては、第1カムラーと第2カムラーとの間に電線200がわずかに緩んでいる。ここで、押圧部材30によって電線200を押圧し、共通レバー26に固定することによって、図10に示すように、第1カムラーと第2カムラーとの間の電線200が緊張した状態になる。この後、偏心部34を回転させ、偏心部34と固定円柱部36との間で電線200を把持する。
【0044】
この後、電線200がその重さによって図10の矢印X5方向へ牽引されると、第1カムラーの回転部18は反時計方向に回転して回転部18と静止部14との間隔を狭め、電線200の挟持を維持する。このとき、共通レバー26を介して第2カムラーの回転部24も反時計方向に回転して回転部24と静止部20との間隔を狭め、電線200の挟持を維持する。
【0045】
図11は、クランプ10を使用して電柱100に電線200を引き留める電線引留構造を示している。図11に示すように、電柱100に固定された腕金102に耐張ストラップ104を取り付け、この耐張ストラップ104に耐張碍子108をピン106を介して接続させる。そして、クランプ10の連結孔26aに耐張碍子108の連結リンク110を通すことによって、電柱100に電線200を引き留める。電線200の絶縁被覆は剥がされていないから、従来の大きさよりも小さくてもよく、例えば、耐張碍子108は1個でもよい。
【0046】
上述のように、クランプ10によれば、電線200を第1カムラー及び第2カムラーの静止部14及び20と回転部18及び24の間に配置した状態で、本体12を電柱100から離れる方向へ牽引するだけで電線200を挟持することができるから、引留作業の作業量を十分に低減することができる。
【0047】
また、電線200の重さは第1カムラー及び第2カムラーに対して継続的に負荷となっているが、この負荷は電線200を電柱100から離れる方向へ牽引するから、回転部18及び24と静止部14及び20との間隔を狭くするように作用する。言い換えると、第1カムラー及び第2カムラーは、電線200の重さに対抗するのではなくて、電線200の重さを利用して電線200の挟持を継続する。このため、年月が経過したとしても電線200の引留状態を維持することができる。また、第1カムラー及び第2カムラーの2つの電線挟持装置が並列配置するから、確実に電線200を挟持することができる。
【0048】
さらに、電線200の絶縁被覆が裂けて裸線になった状態で、電線200がその重さによって電柱100から離れる方向へ牽引された場合には、回転部18及び24が回転し、さらに静止部14及び20との間隔を狭くするから、電線200を挟持し続けることができる。このため、絶縁被覆を剥ぐことなく電線200の引き留めを行うことができる。
【0049】
また、横逃げ防止部材32によって、電線の横逃げを確実に防止することができる。さらに、共通レバー26によって第1カムラー及び第2カムラーは連動して回転するから、効果的に電線200を挟持することができる。また、押圧部材30によって電線200を共通レバー26に固定することによって、第1カムラーと第2カムラーとの間の電線200の張力を維持することができ、電柱100に近い方の電線挟持装置である第2カムラーが遊んでしまうことを防止することができる。
【0050】
さらに、押圧部材30によって電線200を共通レバー26に固定することによって、電線200の挙動が迅速確実に共通レバー26に伝わり、2つの回転部18及び24を回転させることができる。このため、電線200が静止部14及び20と回転部18及び24との間を滑ったとしても、共通レバー26によって回転部18及び24が回転するから、迅速に電線200を挟持する状態を回復することができる。
【0051】
[第2実施形態]
図12を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
図12は、第2実施形態のクランプ10Aを示す概略斜視図等である。図12(a)は、クランプ10Aの概略斜視図である。図12(b)は、第1カムラー近傍の概略拡大図である。図12(c)は、第1カムラー近傍を図12(b)の矢印Y3方向から見た概略図である。
【0052】
図12(a)に示すように、クランプ10Aは、第1実施例のクランプ10とは異なり、第1カムラーだけが存在し、第2カムラーが配置されていない。引き留める電線の重さ等によっては、第1カムラーだけで十分な場合があるからである。
【0053】
図12(b)及び12(c)に示すように、静止部14Aの内側面14Aaと回転部18Aの内側面18Aaは、傾斜している。具体的には、静止部14Aの内側面14Aaは回転部18Aと離れる方向へ傾斜しており、回転部18Aの内側面18Aaは静止部14Aと離れる方向へ傾斜している。
【0054】
このため、回転部18Aが静止部14Aに近づく方向とは垂直方向から(すなわち、紙面手前から紙面奥の方向へ)電線200を本体12に対して押圧することができるから、電線200の横逃げを防止することができる。
【0055】
[第3実施形態]
図13及び図14を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。
図13及び図14は、第3実施形態のクランプ10Bを示す概略斜視図等である。
【0056】
図13(a)はクランプ10Bを示す概略斜視図であり、図13(b)は図13(a)のA−A線概略断面図である。図13(a)及び(b)に示すように、本体12の一方の面である裏面(図13の紙面裏側の面)に第1カムラーが配置され、本体12の他方の面である表面(図13の紙面表側の面)に第2カムラーがそれぞれ配置されている。そして、図13(a)に示すように、本体12には、本体12の第1カムラーが配置されている面と第2カムラーが配置されている面との間を、電線200が通過するための切欠部12aが形成されている。
【0057】
図14に示すように、電線200は、本体12の表面の第2カムラー、切欠部12a、及び本体12の裏面の第1カムラーを通過するように配置され、引き留められる。
【0058】
上述のように、クランプ10Bは、電線200を本体12の両面を通過させるようになっているから、横逃げを一層確実に防止することができる。
【0059】
[第4実施形態]
図15、図16及び図17を参照して、本発明の第4実施形態について説明する。
図15、図16及び図17は、第4実施形態のクランプ10Cを示す概略斜視図である。
【0060】
図15から図17に示すように、クランプ10Cは、第1実施形態のクランプ10とは異なり、共通レバー26を有さない。その代わりに、本体12Cの端部からアーム部12Caが本体12Cの延びる方向に延び、その先端に耐張碍子108に係止するための孔12Caaが形成されている。このため、第1カムラーと第2カムラーとは、連動せずに、別途独立に動作する。第1カムラーは静止部14とカム基部16Cと回転部18Cとを有し、第2カムラーは静止部20とカム基部22Cと回転部24Cとを有する。回転部18Cと回転部24Cとは、反対方向に回転する。具体的には、第1カムラーの回転部18Cは、電線200が矢印X6方向に牽引された場合にその方向へ回転して、図16に示すように電線200を回転部18Cと静止部14との間に挟持するようになっている。そして、第2カムラーの回転部24Cは、電線200が矢印X7方向に牽引された場合にその方向へ回転して、図17に示すように電線200を回転部24Cと静止部20との間に挟持するようになっている。すなわち、第1カムラーの静止部14と回転部18Cとの間隔が狭くなるための回転部18Cの回転方向と、第2カムラーの静止部20と回転部24Cとの間隔が狭くなるための回転部24Cの回転方向は、互いに逆になっている。
【0061】
偏心部34Cは、いずれの方向へ回転させても偏心部34Cと固定円柱部36との間で電線200を把持することができるように、楕円平面形状の中心に回転軸が配置されている。
【0062】
上述のように、クランプ10Cによれば、電線200が電柱から離れる方向へ牽引されても、近づく方向へ牽引されても、第1カムラー及び第2カムラーのいずれか一方の電線挟持装置が電線200を挟持することができる。このため、仮に、電線200が台風等の風雨によって電柱に近づく方向へ強く牽引される場合であっても、電線200を挟持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施形態の電線用引留クランプを示す概略斜視図である。
【図2】クランプの要部の概略図である。
【図3】クランプの要部の概略図である。
【図4】クランプの要部の概略図である。
【図5】クランプの要部の概略図である。
【図6】クランプの要部の概略図である。
【図7】クランプの要部の概略図である。
【図8】電線を引き留める方法の一例を示す概略図である。
【図9】電線を引き留める方法の一例を示す概略図である。
【図10】電線を引き留める方法の一例を示す概略図である。
【図11】電線を引き留める方法の一例を示す概略図である。
【図12】第2実施形態のクランプを示す概略斜視図等である。
【図13】第3実施形態のクランプを示す概略斜視図等である。
【図14】第3実施形態のクランプを示す概略斜視図等である。
【図15】第4実施形態のクランプを示す概略斜視図である。
【図16】第4実施形態のクランプを示す概略斜視図である。
【図17】第4実施形態のクランプを示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
10,10A,10B,10C・・・電線引留クランプ、12、12C・・・本体、14,20・・・静止部、16,22・・・カム基部、18,24・・・回転部、26・・・共通レバー、30・・・押圧部材、32・・・横逃げ防止部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線を電柱に引き留めるための電線用引留クランプ及び電線引留構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線を電柱に引き留める場合、電柱上部に耐張碍子を介して引留クランプを接続し、引留クランプに電線を引き留めさせている。複数の電柱間において電線が垂れ下がることを防止するために、電線の引き留めはしっかりと行う必要がある。ところが、電線の引留作業は、電柱上部という高所で行われるため、作業量を軽減して施工を簡単にすることが要求される。
【0003】
これに対して、4つの部品を使用した引留クランプであって、楔を利用して電線を固定する技術が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平9−168222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の技術においては、作業者が4つの部品を操作する必要があり、作業量の低減が不十分である。また、電線の固定は、電線の重さに対抗するために、楔を利用して実現されているから、年月の経過とともに楔が抜ける危険があるとういう問題がある。さらに、ビニル被覆等の絶縁被覆は季節による温度変化により硬さが変化し、高温の日々が続く夏には被覆がやわらかくなるから、楔が抜けることを防止するためには特許文献1の技術においても、実際には、ビニル被覆を剥いで引き留めを行う必要があるという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、引留作業の作業量を十分に低減することができるとともに、年月が経過したとしても電線の引留状態を維持することができ、さらに、絶縁被覆を剥ぐことなく電線の引き留めを行うことができる引留クランプ及び電線引留構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
具体的には、本発明は以下のものを提供する。
(1) 電線を電柱に引き留めるための電線用引留クランプであって、前記電線が延びる方向に長い形状を有する板状の本体と、前記本体に配置され、前記電線を挟むことで固定する少なくとも1つの電線挟持装置とを有し、前記電線挟持装置は、前記本体に固定される静止部と、前記本体に固定された支点を中心に回転可能な偏心回転部とを有し、前記偏心回転部は前記電線と接して回転することによって前記静止部との間隔が狭くなり、前記偏心回転部と前記静止部との間に前記電線を挟むことで前記電線を固定するように構成されていることを特徴とする電線用引留クランプである。
【0007】
(1)の発明によれば、電線を電線挟持装置の静止部と偏心回転部の間に配置して電線が偏心回転部に接した状態において電線用引留クランプを引くことで偏心回転部と静止部との間隔が狭くなり、偏心回転部と静止部との間に電線を挟持することができるから、引留作業の作業量を十分に低減することができる。
【0008】
また、電線の重さは電線挟持装置に対して継続的に負荷となっているが、この負荷は電線を電柱から離れる方向へ牽引するから、偏心回転部と静止部との間隔を狭くするように作用する。言い換えると、電線挟持装置は、電線の重さに対抗するのではなくて、電線の重さを利用して電線の挟持を維持する。このため、年月が経過したとしても電線の引留状態を維持することができる。
【0009】
さらに、電線の絶縁被覆が裂けて裸線になった状態で、電線がその重さによって電柱から離れる方向へ牽引された場合には、偏心回転部が回転し、さらに静止部との間隔を狭くするから、電線を挟持し続けることができる。このため、絶縁被覆を剥ぐことなく電線の引き留めを行うことができる。
【0010】
(2) 前記静止部の前記電線と接する面が前記偏心回転部と離れる方向へ傾斜しており、及び/又は、前記偏心回転部の前記電線と接する面が前記静止部と離れる方向へ傾斜していることによって、前記電線挟持装置が前記電線を挟む方向とは垂直方向に前記電線が逃げる横逃げを防止するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電線用引留クランプである。
【0011】
(2)の構成によれば、静止部及び/又は偏心回転部の電線と接する面が傾斜しているから、偏心回転部が静止部に近づく方向とは垂直方向から電線を本体に対して押圧することができるから、電線の横逃げを防止することができる。
【0012】
(3)前記静止部の前記電線と接する面が凹状に形成されていることによって、前記電線挟持装置が前記電線を挟む方向とは垂直方向に前記電線が逃げる横逃げを防止するように構成されていることを特徴とする(1)に記載の電線用引留クランプである。
【0013】
(3)の構成によれば、静止部の電線と接する面が凹状に形成されているから、その凹状の部分で電線を囲い込むことができるから、電線の横逃げを防止することができる。
【0014】
(4) さらに、前記電線挟持装置が前記電線を挟む方向とは垂直方向に前記電線を前記本体に押圧固定して、前記電線の横逃げを確実に防止する横逃げ防止部材が前記本体に配置されていることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の電線用引留クランプである。
【0015】
(4)の構成によれば、横逃げ防止手段によって、電線の横逃げを確実に防止することができる。
【0016】
(5) 前記本体の形状に沿って、2つの前記電線挟持装置が並列配置され、2つの前記偏心回転部は共通レバーによって連結されており、前記共通レバーには、前記電線を押圧固定するための押圧部材が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電線用引留クランプである。
【0017】
(5)の構成によれば、電線挟持装置が2つ並列配置するから、確実に電線を挟持することができる。また、共通レバーによって2つの偏心回転部は連動して回転するから、効果的に電線を挟持することができる。また、押圧部材によって電線を共通レバーに固定することによって、2つの電線挟持装置の間の電線の張力を維持ことができ、電柱に近い方の電線挟持装置が遊んでしまうことを防止することができる。
【0018】
さらに、押圧部材によって電線を共通レバーに固定することによって、電線の挙動が迅速確実に共通レバーに伝わり、2つの偏心回転部を回転させることができる。このため、電線が静止部と偏心回転部との間を滑ったとしても、共通レバーによって偏心回転部が回転するから、迅速に電線を挟持する状態を回復することができる。
【0019】
(6) 前記本体の形状に沿って、1つの前記電線挟持装置が前記本体の一方の面に配置され、もう1つの前記電線挟持装置が前記本体の他方の面にそれぞれ配置されており、前記本体には、前記電線が前記本体の一方の面から他方の面へ通過するための切欠部が形成されていることを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載の電線用引留クランプである。
【0020】
(6)の構成によれば、電線を本体の両面を通過させるようになっているから、横逃げを一層確実に防止することができる。
【0021】
(7) 前記本体の形状に沿って、2つの前記電線挟持装置が並列配置され、一方の前記偏心回転部と他の前記偏心回転部がそれぞれ対応する前記静止部との間隔を狭くするための回転方向は、互いに逆になるように構成されていることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の電線用引留クランプである。
【0022】
(7)の構成によれば、電線が電柱から離れる方向へ牽引されても、近づく方向へ牽引されても、いずれか一方の電線挟持装置が電線の挟持を維持することができる。このため、いったん電線を挟持した後において、電線が台風等の風雨によって電柱に近づく方向へ牽引されても、電線を挟持することができる。
【0023】
(8) (1)から(7)のいずれかに記載の電線用引留クランプを使用して、耐張碍子を介して前記電柱に前記電線を引き留める電線引留構造である。
【0024】
(7)の発明によれば、引留作業の作業量を十分に低減することができるとともに、年月が経過したとしても電線の引留状態を維持することができる。さらに、絶縁被覆を剥がずに電線を引き留めることができるから絶縁対策を従来よりも軽減することができ、例えば、耐張碍子の数は1個でよいし、耐張碍子の大きさも従来よりも小さくてよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、引留作業の作業量を十分に低減することができるとともに、年月が経過したとしても電線の引留状態を維持することができ、さらに、絶縁被覆を剥ぐことなく電線の引き留めを行うことができる引留クランプ及び電線引留構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態の一例について、添付した図面を参照しながら、具体的に説明する。
【0027】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態の電線用引留クランプ10(以下、「クランプ10」と呼ぶ)を示す概略斜視図である。図2〜図7は、クランプ10の要部の概略図である。クランプ10は、電線を電柱に引き留めるための電線引留クランプである。クランプ10の各部は、例えば、SUS304等のステンレス鋼、アルミ合金又はこれらの組合せで形成されている。
【0028】
なお、本実施形態以降の説明では、同じ部材の場合には同じ符号を付すとともに、すでに説明した部材の説明は省略する。
【0029】
図1に示すように、クランプ10は、板状の本体12を有する。本体12は、矢印Y1で示される方向(電線が伸びる方向)に長い形状を有している。
【0030】
本体12には静止部14が固定されている。また、本体12には、係止ピン50によってカム基部16が回転可能に固定されている。ボルト52によってカム基部16に回転部18が固定されている。カム基部16は、係止ピン50を支点として、本体12に対して回転可能である。カム基部16の回転によって、回転部18は本体12に対して偏心状態で回転する。このため、図2(a)に示すように静止部14と回転部18との間隔が開いた状態から、回転部18が矢印X1方向に回転すると、図3に示すように静止部14と回転部18とが近接する。電線が回転部18の内側面18aに接した状態で、回転部18が矢印X1方向へ回転すると、回転部18と静止部14との間隔が狭くなる。このため、静止部14の内側面14aと回転部18の内側面18aとの間に、電線を挟むことで固定することができる。なお、内側面18aには、例えば、メッシュ状の滑り止め加工がなされており、電線200が内側面18aと接した状態で回転部18が効率良く回転することができるようになっている。
【0031】
カム基部16と回転部18は、偏心回転部として機能する。また、静止部14、カム基部16、回転部18、係止ピン50及びボルト52によって電源挟持装置を形成している。以下、静止部14、カム基部16、回転部18、係止ピン50及びボルト52で構成される電源挟持装置は、電線を一時的に把持する工具であるカムラー(例えば、特開2001−119825号公報参照)を応用した構造を有する。このため、静止部14、カム基部16、回転部18、係止ピン50及びボルト52で形成される電源挟持装置を、「第1カムラー」と呼ぶ。
【0032】
また、本体12には、静止部20が固定され、係止ピン56によってカム基部22が回転可能に固定され、ボルト58によってカム基部22に回転部24が固定されている。カム基部16と回転部18と同様に、カム基部22と回転部24は、偏心回転部として機能する。また、上述の第1カムラーと同様に、静止部20、カム基部22、回転部24、係止ピン56及びボルト58によって、電線挟持装置を形成している。静止部20、カム基部22、回転部24、係止ピン56及びボルト58で形成される電源挟持装置を、「第2カムラー」と呼ぶ。
【0033】
図2(b)は図2(a)に示す部分を矢印Y2方向から見た概略図である。図2及び図3に示すように、静止部14の電線と接する面である内側面14aは凹状に形成されており、図2(b)に示すようにその凹状の部分に電線200を囲い込むことができるから、電線の横逃げを防止することができる。なお、「横逃げ」とは、第1カムラー及び第2カムラーが電線を挟む方向とは垂直方向(紙面手前方向)に電線200が外れることを意味する。
【0034】
図1に示すように、第1カムラーと第2カムラーとは、本体12の形状に沿って並列配置されている。そして、第1カムラーのカム基部16及び第2カムラーのカム基部22は、それぞれ、係止ピン54及び60によって共通レバー26に回動可能な状態で連結されている。
【0035】
共通レバー26には、電線を押圧固定するための押圧部材30が配置されている。図4(a)に示すように、押圧部材30は、ボルト30b、ボルト30bと螺合するナット30a、及び移動部30cを有する。図4(a)及び(b)に示すように、押圧部材30は、共通レバー26に固定されている。具体的には、押圧部材30の基部30dが共通レバー26に固定されている。図4(a)に示す状態から、ナット30aを回転させて矢印X2方向へ移動させると、移動部30cは矢印Z1方向へ移動し、図4(b)に示すように、共通レバー26の上面26bと移動部30cの内面部30caとの間に電線200を挟んで固定することができる。なお、このときボルト30bは、移動部30cに形成された楕円形の断面を有する孔30ch内を図の左側から右側へ移動する。共通レバー26の上面16aと移動部30cとの間に電線200が固定されると、電線200の動きに連動して共通レバー26が動く。図1に示すように、共通レバー26には、耐張碍子と連結するための連結孔26aが形成されている。
【0036】
図1に示すように、本体12には、横逃げ防止部材32が配置されている。横逃げ防止部材32は、電線200を本体12に押圧固定して、電線200の横逃げを確実に防止するための構成である。
【0037】
図5(a)及び図5(b)に示すように、横逃げ防止部材32は、ナット32a、ボルト32b、上下移動部32c及び基部32dを有する。基部32dは本体12と一体に形成されている。図5(b)に示すように、ボルト32bはヘッド32baを有し、基部32dから抜けないようになっている。
【0038】
図6(a)の状態から、ナット32aを回して矢印X3方向に移動させると、上下移動部32cは矢印Z1方向へ移動し、図6(b)に示すように電線200を押圧固定することができる。このとき、ボルト32bは、上下移動部32cに形成された断面形状が楕円の孔内を図の右側から左側へ移動している。図5及び図6に示すように、上下移動部32cと基部32dとで形成される電線を押圧するための空間の断面形状は三角形を基本とした多角形であり、例えば、八角形に形成されている。これにより、断面が円の場合よりも電線を確実に押圧することができる。
【0039】
図1に示すように、上下移動部32cには、偏心部34と固定円柱部36が形成されている。偏心部34と固定円柱部36とは、電線の端部近傍を把持して、その方向を規制する把持部として機能する。図7(a)に示す状態から、偏心部34矢印X4方向へ回転すると、図7(b)に示すように、偏心部34の側面34aと固定円柱部36の側面36aが近接し、電線を把持することができるようになっている。偏心部34は、電線第1カムラー及び第2カムラーに挟持された後に、回転させられて電線を固定するようになっている。
【0040】
以上が、クランプ10の構成である。以下、図8、図9、図10及び図11を使用して、クランプ10を使用して電線を引き留める方法を説明する。
【0041】
図8、図9、図10及び図11は、電線を引き留める方法の一例を示す概略図である。
まず、図8に示すように、電線200を配置する。このとき、電線200の絶縁被覆は剥がす必要はない。図8の状態において、電線200は回転部18及び24に接している。図8において、静止部14及び20が配置されている方向が上空方向で、回転部18及び24が配置されている方向が地面方向であるから、電線200をクランプ10に配置すると、自然に電線200は回転部18及び24に接する。
【0042】
続いて、矢印X5方向に本体12が牽引されると、回転部18及び24が時計の反対回りに回転し、図9に示すように、静止部14と静止部20との間で電線200を挟んで固定する。このとき、カム基部16及び22に接続された共通レバー26は、上空方向へ移動する。
【0043】
図9の状態においては、第1カムラーと第2カムラーとの間に電線200がわずかに緩んでいる。ここで、押圧部材30によって電線200を押圧し、共通レバー26に固定することによって、図10に示すように、第1カムラーと第2カムラーとの間の電線200が緊張した状態になる。この後、偏心部34を回転させ、偏心部34と固定円柱部36との間で電線200を把持する。
【0044】
この後、電線200がその重さによって図10の矢印X5方向へ牽引されると、第1カムラーの回転部18は反時計方向に回転して回転部18と静止部14との間隔を狭め、電線200の挟持を維持する。このとき、共通レバー26を介して第2カムラーの回転部24も反時計方向に回転して回転部24と静止部20との間隔を狭め、電線200の挟持を維持する。
【0045】
図11は、クランプ10を使用して電柱100に電線200を引き留める電線引留構造を示している。図11に示すように、電柱100に固定された腕金102に耐張ストラップ104を取り付け、この耐張ストラップ104に耐張碍子108をピン106を介して接続させる。そして、クランプ10の連結孔26aに耐張碍子108の連結リンク110を通すことによって、電柱100に電線200を引き留める。電線200の絶縁被覆は剥がされていないから、従来の大きさよりも小さくてもよく、例えば、耐張碍子108は1個でもよい。
【0046】
上述のように、クランプ10によれば、電線200を第1カムラー及び第2カムラーの静止部14及び20と回転部18及び24の間に配置した状態で、本体12を電柱100から離れる方向へ牽引するだけで電線200を挟持することができるから、引留作業の作業量を十分に低減することができる。
【0047】
また、電線200の重さは第1カムラー及び第2カムラーに対して継続的に負荷となっているが、この負荷は電線200を電柱100から離れる方向へ牽引するから、回転部18及び24と静止部14及び20との間隔を狭くするように作用する。言い換えると、第1カムラー及び第2カムラーは、電線200の重さに対抗するのではなくて、電線200の重さを利用して電線200の挟持を継続する。このため、年月が経過したとしても電線200の引留状態を維持することができる。また、第1カムラー及び第2カムラーの2つの電線挟持装置が並列配置するから、確実に電線200を挟持することができる。
【0048】
さらに、電線200の絶縁被覆が裂けて裸線になった状態で、電線200がその重さによって電柱100から離れる方向へ牽引された場合には、回転部18及び24が回転し、さらに静止部14及び20との間隔を狭くするから、電線200を挟持し続けることができる。このため、絶縁被覆を剥ぐことなく電線200の引き留めを行うことができる。
【0049】
また、横逃げ防止部材32によって、電線の横逃げを確実に防止することができる。さらに、共通レバー26によって第1カムラー及び第2カムラーは連動して回転するから、効果的に電線200を挟持することができる。また、押圧部材30によって電線200を共通レバー26に固定することによって、第1カムラーと第2カムラーとの間の電線200の張力を維持することができ、電柱100に近い方の電線挟持装置である第2カムラーが遊んでしまうことを防止することができる。
【0050】
さらに、押圧部材30によって電線200を共通レバー26に固定することによって、電線200の挙動が迅速確実に共通レバー26に伝わり、2つの回転部18及び24を回転させることができる。このため、電線200が静止部14及び20と回転部18及び24との間を滑ったとしても、共通レバー26によって回転部18及び24が回転するから、迅速に電線200を挟持する状態を回復することができる。
【0051】
[第2実施形態]
図12を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
図12は、第2実施形態のクランプ10Aを示す概略斜視図等である。図12(a)は、クランプ10Aの概略斜視図である。図12(b)は、第1カムラー近傍の概略拡大図である。図12(c)は、第1カムラー近傍を図12(b)の矢印Y3方向から見た概略図である。
【0052】
図12(a)に示すように、クランプ10Aは、第1実施例のクランプ10とは異なり、第1カムラーだけが存在し、第2カムラーが配置されていない。引き留める電線の重さ等によっては、第1カムラーだけで十分な場合があるからである。
【0053】
図12(b)及び12(c)に示すように、静止部14Aの内側面14Aaと回転部18Aの内側面18Aaは、傾斜している。具体的には、静止部14Aの内側面14Aaは回転部18Aと離れる方向へ傾斜しており、回転部18Aの内側面18Aaは静止部14Aと離れる方向へ傾斜している。
【0054】
このため、回転部18Aが静止部14Aに近づく方向とは垂直方向から(すなわち、紙面手前から紙面奥の方向へ)電線200を本体12に対して押圧することができるから、電線200の横逃げを防止することができる。
【0055】
[第3実施形態]
図13及び図14を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。
図13及び図14は、第3実施形態のクランプ10Bを示す概略斜視図等である。
【0056】
図13(a)はクランプ10Bを示す概略斜視図であり、図13(b)は図13(a)のA−A線概略断面図である。図13(a)及び(b)に示すように、本体12の一方の面である裏面(図13の紙面裏側の面)に第1カムラーが配置され、本体12の他方の面である表面(図13の紙面表側の面)に第2カムラーがそれぞれ配置されている。そして、図13(a)に示すように、本体12には、本体12の第1カムラーが配置されている面と第2カムラーが配置されている面との間を、電線200が通過するための切欠部12aが形成されている。
【0057】
図14に示すように、電線200は、本体12の表面の第2カムラー、切欠部12a、及び本体12の裏面の第1カムラーを通過するように配置され、引き留められる。
【0058】
上述のように、クランプ10Bは、電線200を本体12の両面を通過させるようになっているから、横逃げを一層確実に防止することができる。
【0059】
[第4実施形態]
図15、図16及び図17を参照して、本発明の第4実施形態について説明する。
図15、図16及び図17は、第4実施形態のクランプ10Cを示す概略斜視図である。
【0060】
図15から図17に示すように、クランプ10Cは、第1実施形態のクランプ10とは異なり、共通レバー26を有さない。その代わりに、本体12Cの端部からアーム部12Caが本体12Cの延びる方向に延び、その先端に耐張碍子108に係止するための孔12Caaが形成されている。このため、第1カムラーと第2カムラーとは、連動せずに、別途独立に動作する。第1カムラーは静止部14とカム基部16Cと回転部18Cとを有し、第2カムラーは静止部20とカム基部22Cと回転部24Cとを有する。回転部18Cと回転部24Cとは、反対方向に回転する。具体的には、第1カムラーの回転部18Cは、電線200が矢印X6方向に牽引された場合にその方向へ回転して、図16に示すように電線200を回転部18Cと静止部14との間に挟持するようになっている。そして、第2カムラーの回転部24Cは、電線200が矢印X7方向に牽引された場合にその方向へ回転して、図17に示すように電線200を回転部24Cと静止部20との間に挟持するようになっている。すなわち、第1カムラーの静止部14と回転部18Cとの間隔が狭くなるための回転部18Cの回転方向と、第2カムラーの静止部20と回転部24Cとの間隔が狭くなるための回転部24Cの回転方向は、互いに逆になっている。
【0061】
偏心部34Cは、いずれの方向へ回転させても偏心部34Cと固定円柱部36との間で電線200を把持することができるように、楕円平面形状の中心に回転軸が配置されている。
【0062】
上述のように、クランプ10Cによれば、電線200が電柱から離れる方向へ牽引されても、近づく方向へ牽引されても、第1カムラー及び第2カムラーのいずれか一方の電線挟持装置が電線200を挟持することができる。このため、仮に、電線200が台風等の風雨によって電柱に近づく方向へ強く牽引される場合であっても、電線200を挟持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施形態の電線用引留クランプを示す概略斜視図である。
【図2】クランプの要部の概略図である。
【図3】クランプの要部の概略図である。
【図4】クランプの要部の概略図である。
【図5】クランプの要部の概略図である。
【図6】クランプの要部の概略図である。
【図7】クランプの要部の概略図である。
【図8】電線を引き留める方法の一例を示す概略図である。
【図9】電線を引き留める方法の一例を示す概略図である。
【図10】電線を引き留める方法の一例を示す概略図である。
【図11】電線を引き留める方法の一例を示す概略図である。
【図12】第2実施形態のクランプを示す概略斜視図等である。
【図13】第3実施形態のクランプを示す概略斜視図等である。
【図14】第3実施形態のクランプを示す概略斜視図等である。
【図15】第4実施形態のクランプを示す概略斜視図である。
【図16】第4実施形態のクランプを示す概略斜視図である。
【図17】第4実施形態のクランプを示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
10,10A,10B,10C・・・電線引留クランプ、12、12C・・・本体、14,20・・・静止部、16,22・・・カム基部、18,24・・・回転部、26・・・共通レバー、30・・・押圧部材、32・・・横逃げ防止部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線を電柱に引き留めるための電線用引留クランプであって、
前記電線が延びる方向に長い形状を有する板状の本体と、
前記本体に配置され、前記電線を挟むことで固定する少なくとも1つの電線挟持装置とを有し、
前記電線挟持装置は、
前記本体に固定される静止部と、
前記本体に固定された支点を中心に回転可能な偏心回転部とを有し、
前記偏心回転部は前記電線と接して回転することによって前記静止部との間隔が狭くなり、前記偏心回転部と前記静止部との間に前記電線を挟むことで前記電線を固定するように構成されていることを特徴とする電線用引留クランプ。
【請求項2】
前記静止部の前記電線と接する面が前記偏心回転部と離れる方向へ傾斜しており、及び/又は、前記偏心回転部の前記電線と接する面が前記静止部と離れる方向へ傾斜していることによって、前記電線挟持装置が前記電線を挟む方向とは垂直方向に前記電線が逃げる横逃げを防止するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電線用引留クランプ。
【請求項3】
前記静止部の前記電線と接する面が凹状に形成されていることによって、前記電線挟持装置が前記電線を挟む方向とは垂直方向に前記電線が逃げる横逃げを防止するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電線用引留クランプ。
【請求項4】
さらに、前記電線挟持装置が前記電線を挟む方向とは垂直方向に前記電線を前記本体に押圧固定して、前記電線の横逃げを確実に防止する横逃げ防止部材が前記本体に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電線用引留クランプ。
【請求項5】
前記本体の形状に沿って、2つの前記電線挟持装置が並列配置され、
2つの前記偏心回転部は共通レバーによって連結されており、
前記共通レバーには、前記電線を押圧固定するための押圧部材が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電線用引留クランプ。
【請求項6】
前記本体の形状に沿って、1つの前記電線挟持装置が前記本体の一方の面に配置され、もう1つの前記電線挟持装置が前記本体の他方の面にそれぞれ配置されており、
前記本体には、前記電線が前記本体の一方の面から他方の面へ通過するための切欠部が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の電線用引留クランプ。
【請求項7】
前記本体の形状に沿って、2つの前記電線挟持装置が並列配置され、
一方の前記偏心回転部と他の前記偏心回転部がそれぞれ対応する前記静止部との間隔を狭くするための回転方向は、互いに逆になるように構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電線用引留クランプ。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の電線用引留クランプを使用して、耐張碍子を介して前記電柱に前記電線を引き留める電線引留構造。
【請求項1】
電線を電柱に引き留めるための電線用引留クランプであって、
前記電線が延びる方向に長い形状を有する板状の本体と、
前記本体に配置され、前記電線を挟むことで固定する少なくとも1つの電線挟持装置とを有し、
前記電線挟持装置は、
前記本体に固定される静止部と、
前記本体に固定された支点を中心に回転可能な偏心回転部とを有し、
前記偏心回転部は前記電線と接して回転することによって前記静止部との間隔が狭くなり、前記偏心回転部と前記静止部との間に前記電線を挟むことで前記電線を固定するように構成されていることを特徴とする電線用引留クランプ。
【請求項2】
前記静止部の前記電線と接する面が前記偏心回転部と離れる方向へ傾斜しており、及び/又は、前記偏心回転部の前記電線と接する面が前記静止部と離れる方向へ傾斜していることによって、前記電線挟持装置が前記電線を挟む方向とは垂直方向に前記電線が逃げる横逃げを防止するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電線用引留クランプ。
【請求項3】
前記静止部の前記電線と接する面が凹状に形成されていることによって、前記電線挟持装置が前記電線を挟む方向とは垂直方向に前記電線が逃げる横逃げを防止するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電線用引留クランプ。
【請求項4】
さらに、前記電線挟持装置が前記電線を挟む方向とは垂直方向に前記電線を前記本体に押圧固定して、前記電線の横逃げを確実に防止する横逃げ防止部材が前記本体に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電線用引留クランプ。
【請求項5】
前記本体の形状に沿って、2つの前記電線挟持装置が並列配置され、
2つの前記偏心回転部は共通レバーによって連結されており、
前記共通レバーには、前記電線を押圧固定するための押圧部材が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電線用引留クランプ。
【請求項6】
前記本体の形状に沿って、1つの前記電線挟持装置が前記本体の一方の面に配置され、もう1つの前記電線挟持装置が前記本体の他方の面にそれぞれ配置されており、
前記本体には、前記電線が前記本体の一方の面から他方の面へ通過するための切欠部が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の電線用引留クランプ。
【請求項7】
前記本体の形状に沿って、2つの前記電線挟持装置が並列配置され、
一方の前記偏心回転部と他の前記偏心回転部がそれぞれ対応する前記静止部との間隔を狭くするための回転方向は、互いに逆になるように構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電線用引留クランプ。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の電線用引留クランプを使用して、耐張碍子を介して前記電柱に前記電線を引き留める電線引留構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2008−141880(P2008−141880A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326489(P2006−326489)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】
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