説明

露光装置、及びそれを用いたデバイスの製造方法

【課題】投影光学系内のミラーにおいて、ミラーの熱変形を効率良く防ぎ、かつ、ミラーの表面近傍での露光光の揺らぎを抑制することで、安定した像性能を得ることのできる露光装置を提供する。
【解決手段】露光光を反射する円形ミラー13と、該円形ミラー13を温調する気体供給装置14とを備えた投影光学系を有する露光装置であって、円形ミラー13は、円弧状の照射領域17を有し、気体供給装置14は、照射領域17を回避しつつ、円形ミラー13の表面の中心領域に位置する送風部19を備え、送風部19は、円形ミラー13の表面に向かう面が塞がれた円筒部材で形成され、温調エア18を、円形ミラー13の表面上を沿うように、円筒部材の側面の全面から円形ミラー13の外周領域に向けて放射状に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置、及びそれを用いたデバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
露光装置は、半導体デバイスや液晶表示装置等の製造工程であるリソグラフィ工程において、原版(レチクル、又はマスク)のパターンを、投影光学系を介して感光性の基板(表面にレジスト層が形成されたウエハやガラスプレート等)に転写する装置である。例えば、液晶表示装置の製造に使用される露光装置は、露光光を反射させて、被処理基板に対して照射するための複数のミラーを備えた投影光学系を有する。しかしながら、この露光装置を長時間稼動させると、投影光学系内のミラーは、露光熱の吸収に起因して熱変形を起こす場合がある。そこで、この露光熱の吸収によるミラーの熱変形を抑制する方法として、例えば、特許文献1は、ミラーに対して冷却媒体を噴出するノズルを有する冷却機構を備え、露光動作を行っていないときにミラー表面を冷却する露光装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−39905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示す露光装置は、ノズルから冷却媒体を噴出する局所的な冷却方法であるため、ミラー上の露光光の照射領域に対して均一に温度調整することが難しい。その結果、ミラーの局所的な部位に熱変形が生じ、露光性能を悪化させる可能性がある。また、上記露光装置は、ノズルから噴出された冷却媒体が周囲の空気を巻き込み、ミラー近傍の雰囲気の温度環境を乱す可能性がある。この場合、ミラー近傍の雰囲気で露光光に揺らぎが生じ、結果的に露光性能が悪化する。
【0005】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、投影光学系内のミラーにおいて、ミラーの熱変形を効率良く低減し、ミラーの表面近傍での露光光の揺らぎを低減することで、安定した像性能を得ることのできる露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、露光光を反射する円形ミラーと、該円形ミラーを温調する気体供給装置とを備えた投影光学系を有する露光装置であって、円形ミラーは、円弧状の照射領域を有し、気体供給装置は、照射領域を回避しつつ、円形ミラーの表面の中心領域に位置する送風部を備え、送風部は、円形ミラーの表面に向かう面が塞がれた円筒部材で形成され、温調エアを、円形ミラーの表面上を沿うように、円筒部材の側面の全面から円形ミラーの外周領域に向けて放射状に供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、円形ミラーを均一に温調することができるので、円形ミラーの熱変形を低減し、かつ、円形ミラー表面近傍での露光光のゆらぎを低減し、安定した像性能を得ることのできる露光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係る露光装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る気体供給装置の構成を示す概略図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る気体供給装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照して説明する。
【0010】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態に係る露光装置の構成について説明する。本発明の露光装置は、ステップ・アンド・スキャン方式やステップ・アンド・リピート方式でマスク(原版)のパターンを被処理基板であるガラスプレート(基板)に露光する装置である。本発明では、露光方式は、特に限定するものではない。露光装置1は、まず、恒温チャンバ2に収容された露光装置本体である露光ユニット3と、該露光ユニット3へ露光光を照射する照明光学系4とを備える。恒温チャンバ2は、空調機械室5と、空調エア供給部6とを備え、露光ユニット3を取り巻く周囲の環境を一定に保つための装置である。露光ユニット3は、照明光学系4からの露光光を所定の光束に変換する結像光学系7と、パターンが形成されたマスクを保持する原版ステージ8と、投影光学系9と、感光剤が塗布されたガラスプレートを位置決めする基板ステージ10とを備える。投影光学系9は、マスクのパターンをガラスプレートに所定の倍率で縮小投影するものである。この投影光学系9は、露光光を反射させる台形ミラー11と、凸面ミラー12と、円形(凹面)ミラー13と、更に、円形ミラー13に対して温調エアを供給するための気体供給装置14とを備える。なお、マスクステージ8及び投影光学系9は、共にフレーム15に支持されている。
【0011】
次に、本実施形態の露光装置1による露光処理について概説する。まず、照明光学系4は、光源(超高圧水銀ランプ等の放電灯)16から、照明光を導入し、結像光学系7により所定の光束に変換した後、原版ステージ8上のマスクを上方から照明する。次に、照明されたマスク上のパターンは、投影光学系9により基板ステージ10上のガラスプレート表面に塗布されたレジストを感光させ、露光処理を行う。
【0012】
次に、本発明の特徴である気体供給装置14の構成について説明する。図2は、本実施形態に係る気体供給装置14の構成を示す概略図であり、図2(a)は、円形ミラー13を含む平面図であり、図2(b)は、図2(a)に対応する断面図である。気体供給装置14は、図2(a)に示すように、露光光の円弧状の照射領域17を回避しつつ、円形ミラー13の表面近傍に設置された温調エア18の供給手段である。気体供給装置14は、円形ミラー13の表面中心に位置する送風部19と、該送風部19に対して温調エア18を供給する供給路20と、温調エア18を回収する導風部21と、温調エア18の温度を調節する、不図示の温調制御部とを備える。
【0013】
送風部19は、円形ミラー13の表面の中心領域に位置し、整流板22で円形ミラー13の表面側を塞ぎつつ、円筒部材で形成された送風手段である。送風部19は、円筒状側面において全面に渡り、温調エア18を円形ミラー13の中心から外周領域に向かって放射状に均一に送風するための整流フィルタ23を備える。整流フィルタ23としては、ULPAフィルタ等の除塵フィルタ、若しくは薄いメッシュフィルタ等が採用可能である。この場合、除塵フィルタは、風速の均一性に優れており、一方、メッシュフィルタは、省スペース化で優れている。なお、整流フィルタ23に代えて、パンチングメタル等の複数の穴が貫設されたプレートを採用する構成もあり得る。整流板22は、図2(b)に示すように、温調エア18が円形ミラー13の表面に沿って好適に流れるように、円錐形状を有することが望ましい。
【0014】
供給路20は、不図示のエア供給装置に接続され、送風部19に対して均一に温調エア18を供給するために、対向する2つの経路を有する管路である。但し、管路は、円管でも良いし、矩形の断面を有するものでも良く、特に限定するものではない。また、供給路20の両端部は、円形ミラー13に振動が伝わらないように、防振ゴム等の除振部材24を介して固定することが望ましい。
【0015】
導風部21は、円形ミラー13の側面及び底面を囲むように設置された温調エア18の回収手段である。この場合、導風部21における円形ミラー13の側面近傍には、外周部全面に渡り、円形ミラー13の表面に沿って流れてきた温調エア18を効率良く内部に回収するための回収口28を備える。また、導風部21における円形ミラー13の底部近傍には、温調エア18をエア供給装置に回収するための排気路25を備える。
【0016】
温調制御部は、エア供給装置に接続され、所定の設定温度と、送風部19内に設置された温度センサ26との値に基づいて、温調エア18の温度を計測し制御する制御手段である。温度センサ26としては、熱電対等、応答性の速いものを採用することが望ましい。なお、図2(b)に示すように、円形ミラー13の外周部に温度センサ27を少なくとも1箇所設置することにより、円形ミラー13自体の温度を計測して、温調エア18の温度制御を実施しても良い。また、この場合、温調制御部は、温度センサ27の値が所定の値となるように温調エア18の供給量を変化させて、円形ミラー13の温度を均一化させることもあり得る。これにより、非露光時等、円形ミラー13の温度上昇が少ないときは、温調エア18の供給量を少なくする等の対処が可能であるので、省エネルギー化に寄与する。この場合の温度センサ27としては、サーミスタや熱電対等の接触式に限らず、非接触式の放射温度計等も採用可能である。
【0017】
次に、気体供給装置14の作用及び効果について説明する。一般に、円形ミラー13の表面には、所定の露光性能を得るために、各種の膜がコーティングされている。この円形ミラー13は、露光光を反射すると、膜によって露光光の一部を吸収し、発熱する。この発熱に起因して、円形ミラー13は、内部に熱が伝わって熱変形を起こし、更には、近傍空間の空気を暖めてしまうことにより、空気の屈折変化を生じさせる。そこで、本実施形態の気体供給装置14は、整流された温調エア18を円形ミラー13の表面に沿うように供給することで、円形ミラー13を温調する。本実施形態のように、ガラスプレートに対する露光装置では、円状の露光光から所定の露光性能を得るために、露光光を円弧状に切り出す。このように円弧状の露光光が円形ミラー13に照射される場合では、図2(a)に示すように円弧状の照射領域17に対して均一な温調が求められる。そこで、更に、気体供給装置14は、円弧の中心部から半径方向に放射状に温調エア18を供給するので、円形ミラー13を均一に効率良く温調することができる。
【0018】
また、気体供給装置14は、送風部19に整流フィルタ23を備え、粉塵を除去した温調エア18を供給するので、雰囲気中に存在する粉塵が反射面に付着することを防ぎ、反射面の汚染による露光性能の悪化を抑制できる。更に、気体供給装置14は、円形ミラー13を囲む導風部21を備え、円形ミラー13の表面上を流れた温調エア18を回収するので、円形ミラー13の表面のみならず、全体を更に効率良く温調することができる。
【0019】
以上のように、本発明の露光装置1によれば、円形ミラー13の熱変形を防ぎ、かつ、円形ミラー13の表面近傍での空気の気圧変化、及び温度変化を低減させて露光光の揺らぎを抑制することで、安定した像性能を得ることができる。
【0020】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る露光装置の構成について説明する。図3は、第2実施形態に係る露光装置における気体供給装置の構成を示す概略図であり、図2(b)の気体供給装置14に対応した断面図である。なお、図3において、図2の構成と同一のものには同一の符号を付し、説明を省略する。本実施形態の気体供給装置30の特徴は、送風部19に、供給路20に代えて、送風ファン31と、ケミカルフィルタ32と、熱交換器33とを備える点にある。送風ファン31は、雰囲気の空気を取り込み、円形ミラー13に供給する送風手段である。送風ファン31としては、インバータ制御でファン回転数を制御し、送風量を変化させるものが望ましい。また、ケミカルフィルタ32は、送風ファン31の一次側に設置されたフィルタであり、送風ファン31で取り込まれた空気中のケミカル成分を除去し、空気を清浄化する。ケミカルフィルタ32としては、酸性ガス、やアルカリ性ガス等を除去するイオン交換タイプや、有機ガスを除去する活性炭フィルタ等が採用可能であり、状況に応じて使い分けても良い。このケミカルフィルタ32により、円形ミラー13の表面へのケミカル成分の付着を防止できるので、反射面の曇りによる露光性能の悪化を抑制できる。更に、熱交換器33は、送風ファン31の二次側に設置された熱交換手段であり、送風ファン31自体の発熱を処理するとともに、取り込んだ空気を温調する。この場合、熱交換器33用の冷媒は、送風部19を支持する支持部材34を通して供給する。また、この場合の温調は、ある所定の設定温度と、温度センサ26の値とに基づいて、冷媒の流量を変えることにより実施する。なお、本実施形態の気体供給装置30においても、温度センサ27の値に基づいて、送風ファン31の回転数を制御し、温調エア18の量を変化させることで、円形ミラー13の温度を均一化させても良い。これらの構成により、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0021】
(デバイスの製造方法)
次に、本発明の一実施形態のデバイス(半導体デバイス、液晶表示デバイス等)の製造方法について説明する。半導体デバイスは、ウエハに集積回路を作る前工程と、前工程で作られたウエハ上の集積回路チップを製品として完成させる後工程を経ることにより製造される。前工程は、前述の露光装置を使用して感光剤が塗布されたウエハを露光する工程と、ウエハを現像する工程を含む。後工程は、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)と、パッケージング工程(封入)を含む。液晶表示デバイスは、透明電極を形成する工程を経ることにより製造される。透明電極を形成する工程は、透明導電膜が蒸着されたガラス基板に感光剤を塗布する工程と、前述の露光装置を使用して感光剤が塗布されたガラス基板を露光する工程と、ガラス基板を現像する工程を含む。本実施形態のデバイス製造方法によれば、従来よりも高品位のデバイスを製造することができる。
【0022】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0023】
上記実施形態では、円形ミラー13の形状が凹面として説明したが、本発明は、これに限定するものではなく、円形であれば、平面ミラー、若しくは凸面ミラーにも適用可能である。また、上記実施形態では、円形ミラー13の表面中心に設置した送風部19から温調エア18を供給する構成としているが、例えば、逆に、円形ミラー13の外周部から温調エア18を供給し、円形ミラー13の表面中心で回収する構成としても良い。この場合も、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0024】
1 露光装置
3 投影光学系
13 円形ミラー
14 気体供給装置
18 温調エア
19 送風部
20 供給路
21 導風部
22 整流板
23 整流フィルタ
26 温度センサ
27 温度センサ
30 気体供給装置
31 送風ファン
32 熱交換器
33 ケミカルフィルタ
34 支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
露光光を反射する円形ミラーと、該円形ミラーを温調する気体供給装置とを備えた投影光学系を有する露光装置であって、
前記円形ミラーは、円弧状の照射領域を有し、
前記気体供給装置は、前記照射領域を回避しつつ、前記円形ミラーの表面の中心領域に位置する送風部を備え、
前記送風部は、前記円形ミラーの表面に向かう面が塞がれた円筒部材で形成され、温調エアを、前記円形ミラーの表面上を沿うように、前記円筒部材の側面の全面から前記円形ミラーの外周領域に向けて放射状に供給することを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記気体供給装置は、更に、前記温調エアを供給するエア供給装置を備え、
前記温調エアは、前記照射領域を回避しつつ設置された供給路を介して前記送風部に供給されることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記送風部は、前記照射領域を回避しつつ設置された支持部材に支持され、送風ファンと、熱交換器と、フィルタとを備えることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項4】
前記送風部は、前記温調エアの流れを整流するための、フィルタ、又は整流板を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項5】
前記気体供給装置は、前記円形ミラーの側面、及び底面を囲むように設置された前記温調エアの回収手段を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項6】
前記送風部は、前記温調エアの温度を計測する温度センサを有し、
前記気体供給装置は、前記温度センサの値に基づいて、前記温調エアの温度を制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項7】
前記気体供給装置は、前記円形ミラーの表面の温度を計測する温度センサを有し、
前記温度センサが計測した前記円形ミラーの温度に基づいて、前記温調エアの温度を制御することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項8】
前記気体供給装置は、前記円形ミラーの表面の温度を計測する温度センサを有し、
前記温度センサが計測した前記円形ミラーの温度に基づいて、前記温調エアの供給量を制御することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項9】
請求項8に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
露光された基板を現像する工程と、
を備えることを特徴とするデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−114001(P2011−114001A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266103(P2009−266103)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】