説明

静電チャック装置

【課題】静電チャック部と温度調整用ベース部との間の絶縁破壊を防止し耐電圧性を向上させ、静電チャック部の板状試料の載置面の面内温度の均一性を向上させると共に、静電チャック部に設けられた加熱部材の耐電圧性を向上させることができる静電チャック装置を提供する。
【解決手段】本発明の静電チャック装置1は、表面を板状試料Wを載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極13を内蔵した静電チャック部2と、この静電チャック部2を所望の温度に調整する温度調整用ベース部3とを備え、この静電チャック部2の下面にシート状の接着材4を介してヒータエレメント5が接着され、このヒータエレメント5が接着された静電チャック部2と温度調整用ベース部3とは、有機系接着剤層8及びシート状の絶縁部材7を介して接着一体化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック装置に関し、さらに詳しくは、半導体ウエハ等の板状試料を静電気力により吸着固定する際に好適に用いられ、半導体製造プロセスにおける物理気相成長法(PVD)や化学気相成長法(CVD)による成膜処理、プラズマエッチング等のエッチング処理、露光処理等の各種工程においても、板状試料を載置する載置面における面内温度の均一性を高めることが可能であり、さらには、加熱部材の耐電圧性を高めることが可能な静電チャック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製造プロセスにおいては、素子の高集積化や高性能化に伴い、微細加工技術の更なる向上が求められている。この半導体製造プロセスの中でもエッチング技術は、微細加工技術の重要な一つであり、近年では、エッチング技術の内でも、高効率かつ大面積の微細加工が可能なプラズマエッチング技術が主流となっている。
このプラズマエッチング技術はドライエッチング技術の一種であり、加工対象となる固体材料の上にレジストでマスクパターンを形成し、この固体材料を真空中に支持した状態で、この真空中に反応性ガスを導入し、この反応性ガスに高周波の電界を印加することにより、加速された電子がガス分子と衝突してプラズマ状態となり、このプラズマから発生するラジカル(フリーラジカル)とイオンを固体材料と反応させて反応生成物として取り除くことにより、固体材料に微細パターンを形成する技術である。
【0003】
一方、原料ガスをプラズマの働きで化合させ、得られた化合物を基板の上に堆積させる薄膜成長技術の一つとしてプラズマCVD法がある。この方法は、原料分子を含むガスに高周波の電界を印加することによりプラズマ放電させ、このプラズマ放電にて加速された電子によって原料分子を分解させ、得られた化合物を堆積させる成膜方法である。低温では熱的励起だけでは起こらなかった反応も、プラズマ中では、系内のガスが相互に衝突し活性化されラジカルとなるので、可能となる。
プラズマエッチング装置、プラズマCVD装置等のプラズマを用いた半導体製造装置においては、従来から、試料台に簡単にウエハを取付け、固定するとともに、このウエハを所望の温度に維持する装置として静電チャック装置が使用されている。
【0004】
ところで、従来のプラズマエッチング装置では、静電チャック装置に固定されたウエハにプラズマを照射すると、このウエハの表面温度が上昇する。そこで、この表面温度の上昇を抑えるために、静電チャック装置の温度調整用ベース部に水等の冷却媒体を循環させてウエハを下側から冷却しているが、この際、ウエハの面内で温度分布が発生する。例えば、ウエハの中心部では温度が高くなり、縁辺部では温度が低くなる。
また、プラズマエッチング装置の構造や方式の違い等により、ウエハの面内温度分布に差が生じる。
【0005】
そこで、静電チャック部と温度調整用ベース部との間にヒータ部材を取り付けたヒータ機能付き静電チャック装置が提案されている(特許文献1)。
このヒータ機能付き静電チャック装置は、ウエハ内に局所的に温度分布を作ることができるので、ウエハの面内温度分布を膜堆積速度やプラズマエッチング速度に合わせて設定することにより、ウエハ上へのパターン形成などの局所的な膜形成や局所的なプラズマエッチングを効率よく行なうことができる。
【0006】
静電チャック装置にヒータを取り付ける方法としては、セラミック製の静電チャックにヒータを内蔵する方法、静電チャックの吸着面の裏側、すなわちセラミック板状体の裏面にスクリーン印刷法にてヒータ材料を所定のパターンにて塗布し加熱硬化させることにより、ヒータを取り付ける方法、あるいは、このセラミック板状体の裏面に金属箔やシート状導電材料を貼着することにより、ヒータを取り付ける方法、等がある。
そして、このヒータ内蔵あるいはヒータを取り付けた静電チャック部と温度調整用ベース部とを有機系接着剤を用いて接着一体化することで、ヒータ機能付き静電チャック装置が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−300491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した従来の静電チャックの吸着面の裏側、すなわちセラミック板状体の裏面にスクリーン印刷法にてヒータ材料を所定のパターンにて塗布し加熱硬化させることにより、ヒータを取り付ける方法、あるいは、このセラミック板状体の裏面に金属箔やシート状導電材料を貼着する方法によるヒータ機能付き静電チャック装置では、静電チャック部と温度調整用ベース部とを有機系接着剤を用いて接着一体化した場合、有機系接着剤層にポアと称する微細空孔が生じたり、あるいは有機系接着剤層と静電チャック部及び温度調整用ベース部との間にハジキと称する未接着部分が生じたりすると、ヒータに電圧を印加した場合に、静電チャック部と温度調整用ベース部とが導通(ショート不良)してしまい、絶縁破壊が生じる虞があるという問題点があった。
また、接着層の厚みにより絶縁性を確保する場合、この有機系接着剤層の厚みを薄くすることが難しく、しかも、この有機系接着剤層の厚みにばらつきが生じるために、静電チャック部のウエハを載置する面の面内温度を十分に均一にすることができないという問題点があった。
【0009】
また、金属箔やシート状導電材料を用いたヒータ機能付き静電チャック装置では、ヒータパタンとして金属箔やシート状導電材料が貼着された部分とヒータパタンが無い部分で段差を生じ、シート状接着材のみで冷却ベースと接着した場合、ヒータの凹凸をカバーすることができなくなり、接着層に空孔等が生じ易く、熱可塑性を有するシート状接着剤を用いた場合でもヒータがある部分と無い部分の境界において空孔を生じ、放電及び剥離の危険を有するとともに、ヒータと冷却ベース間の熱伝達のバラツキによる静電チャックの面内温度分布の制御性が低下するという問題点を有していた。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、静電チャック部と温度調整用ベース部との間の絶縁破壊を防止すると共に耐電圧性を向上させ、さらには、静電チャック部の板状試料の載置面の面内温度の均一性を向上させると共に、静電チャック部と温度調整用ベース部との間により均一に電圧が印加されることで、静電チャック部に設けられた加熱部材の耐電圧性を向上させることができる静電チャック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記の課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、静電チャック部の載置面と反対側の主面に、接着材を介して薄厚の加熱部材を接着し、温度調整用ベース部の静電チャック部側の面の全体または一部分をシート状またはフィルム状の絶縁材により被覆し、この静電チャック部と温度調整用ベース部とを液状接着剤を硬化してなる絶縁性の有機系接着剤層を介して接着一体化すれば、静電チャック部と温度調整用ベース部との間の絶縁破壊を防止すると共に耐電圧性を向上させることができ、さらには、この静電チャック部の載置面の面内温度の均一性を向上させることができ、この加熱部材の耐電圧性をも向上させることができることを知見し、本発明を完成するに到った。
【0012】
すなわち、本発明の静電チャック装置は、一主面を板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、この静電チャック部を所望の温度に調整する温度調整用ベース部とを備え、前記静電チャック部の前記載置面と反対側の主面には、接着材を介して加熱部材が接着され、前記温度調整用ベース部の前記静電チャック部側の面の全体または一部分は、シート状またはフィルム状の絶縁材により被覆され、これら加熱部材が接着された静電チャック部と、シート状またはフィルム状の絶縁材により被覆された温度調整用ベース部とは、液状接着剤を硬化してなる絶縁性の有機系接着剤層を介して接着一体化されていることを特徴とする。
【0013】
この静電チャック装置では、静電チャック部と記温度調整用ベース部とを、液状接着剤を硬化してなる絶縁性の有機系接着剤層を介して接着一体化したことにより、絶縁性の有機系接着剤層が静電チャック部と温度調整用ベース部との間の絶縁を良好に維持する。これにより、静電チャック部と温度調整用ベース部との間に導通(ショート不良)が生じる虞がなくなり、その結果、静電チャック部と温度調整用ベース部との間に絶縁破壊が生じる虞もなくなり、これらの間の耐電圧性が向上する。
【0014】
また、静電チャック部の載置面と反対側の主面に、接着材を介して加熱部材を接着するとともに、温度調整用ベース部の静電チャック部側の面の全体または一部分をシート状またはフィルム状の絶縁材により被覆したことにより、静電チャック部と加熱部材との間隔及び加熱部材と温度調整用ベース部との間隔が一定に保持され、静電チャック部の載置面における面内温度の均一性が高まると共に、この加熱部材と温度調整用ベース部の耐電圧性がより向上する。
【0015】
さらに、加熱部材が接着された静電チャック部と温度調整用ベース部との間に絶縁性の有機系接着剤層を介在させたことにより、載置される板状試料を急速に昇降温させた場合においても、この有機系接着剤層が静電チャック部に対して急激な膨張・収縮を緩和する緩衝層として機能し、静電チャック部にクラックや欠け等が発生するのを防止する。これにより、静電チャック部の耐久性が向上する。
【0016】
本発明の静電チャック装置において、前記シート状またはフィルム状の絶縁材は、シート状またはフィルム状の接着材により前記温度調整用ベース部に接着されていることを特徴とする。
この静電チャック装置では、シート状またはフィルム状の絶縁材を、シート状またはフィルム状の接着材を用いて温度調整用ベース部に接着したことにより、温度調整用ベース部の静電チャック部側の絶縁性が保たれるとともに、接着材の厚みが一定とされることとなり、静電チャック部の載置面における面内温度の均一性が高まる。
【0017】
本発明の静電チャック装置において、前記静電チャック部の厚みは、0.7mm以上かつ3.0mm以下であることを特徴とする。
この静電チャック装置では、静電チャック部の厚みを0.7mm以上かつ3.0mm以下とすることにより、この静電チャック部に十分な強度を付与するとともに、静電チャック部自体の熱容量が小さくなり、載置される板状試料との熱交換効率、熱応答性も優れたものとなる。
【0018】
本発明の静電チャック装置において、前記加熱部材は、厚みが0.2mm以下の非磁性金属からなる薄板状のヒータエレメントであることを特徴とする。
この静電チャック装置では、加熱部材を厚みが0.2mm以下の非磁性金属からなる薄板状のヒータエレメントとしたことにより、このヒータエレメントのパターンが板状試料に反映され難くなり、板状試料の面内温度を所望の温度パターンに維持し易くなる。
【0019】
本発明の静電チャック装置において、前記接着材は、シリコーン系またはアクリル系の接着材であることを特徴とする。
この静電チャック装置では、接着材を、シリコーン系またはアクリル系の接着材としたことにより、静電チャック部およびヒータ部の熱応力が軽減され、耐久性がさらに向上する。
【0020】
本発明の静電チャック装置において、前記接着材の厚みのばらつきは、10μm以下であることを特徴とする。
この静電チャック装置では、接着材の厚みのばらつきを10μm以下としたことにより、静電チャック部と加熱部材との間隔が10μm以下の精度で制御されることとなり、この加熱部材により加熱される板状試料の面内温度の均一性が向上する。
【0021】
本発明の静電チャック装置において、前記静電チャック部は、一主面を前記載置面とした載置板と、該載置板と一体化され該載置板を支持する支持板と、これら載置板と支持板との間に設けられた前記静電吸着用内部電極とを備え、前記載置板は、酸化アルミニウム−炭化ケイ素複合焼結体または酸化イットリウム焼結体からなることを特徴とする。
この静電チャック装置では、載置板を、酸化アルミニウム−炭化ケイ素複合焼結体または酸化イットリウム焼結体としたことにより、腐食性ガス及びそのプラズマに対する耐久性が向上し、機械的強度も保持される。
【0022】
本発明の静電チャック装置において、前記載置板の厚みは、0.3mm以上かつ2.0mm以下であることを特徴とする。
この静電チャック装置では、載置板の厚みを0.3mm以上かつ2.0mm以下としたことにより、板状試料を確実に吸着固定することができ、したがって、板状試料を十分に加熱することができ、静電吸着用内部電極に印加された電圧により放電する危険性もない。
【発明の効果】
【0023】
本発明の静電チャック装置によれば、静電チャック部の他の主面にシート状またはフィルム状の接着材を介して加熱部材を接着し、この加熱部材が接着された静電チャック部と絶縁性シートにより全面もしくは部分的に被覆された温度調整用ベースとを有機系接着剤層介して接着一体化したので、この絶縁部材により静電チャック部と温度調整用ベース部との間の絶縁を良好に維持することができ、その結果、絶縁破壊を防止することができる。よって、静電チャック部と温度調整用ベース部との間の耐電圧性を向上させることができる。
【0024】
また、静電チャック部の他の主面にシート状またはフィルム状の接着材を介して加熱部材を接着したので、静電チャック部と加熱部材との間隔を一定に保持することができ、静電チャック部の載置面における面内温度の均一性を向上させることができる。また、この加熱部材と温度調整用ベース部との間の耐電圧を向上させることができ、温度調整用ベース部をプラズ用電極として使用する場合においも、より高い電圧を温度調整用ベース部に印加することができる。
【0025】
また、静電チャック部と温度調整用ベース部との間に有機系接着剤層を介在させたので、この有機系接着剤層が静電チャック部に対して急激な膨張・収縮を緩和する緩衝層として機能することとなり、したがって、静電チャック部にクラックや欠け等が発生するのを防止することができ、静電チャック部の耐久性を向上させることができる。
【0026】
さらに、静電チャック部を構成する載置板を、酸化アルミニウム−炭化ケイ素複合焼結体または酸化イットリウム焼結体としたので、腐食性ガス及びそのプラズマに対する耐久性を向上させることができ、機械的強度も十分に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態の静電チャック装置を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の静電チャック装置のヒータエレメントのヒーターパターンの一例を示す平面図である。
【図3】実施例の静電チャック装置の冷却時のシリコンウエハの面内温度分布を示す図である。
【図4】実施例の静電チャック装置の50℃に保持した時のシリコンウエハの面内温度分布を示す図である。
【図5】実施例の静電チャック装置の昇温時のシリコンウエハの面内温度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の静電チャック装置を実施するための形態について、図面に基づき説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態の静電チャック装置を示す断面図であり、この静電チャック装置1は、円板状の静電チャック部2と、この静電チャック部2を所望の温度に調整する厚みのある円板状の温度調整用ベース部3と、静電チャック部2の下面(他の主面)に接着された所定のパターンを有する接着材4と、接着材4の下面に接着された該接着材4と同形状のパターンのヒータエレメント5と、温度調整用ベース部3の上面に接着材6を介して接着された絶縁部材7と、静電チャック部2の下面のヒータエレメント5と温度調整用ベース部3上の絶縁部材7とを対向させた状態でこれらを接着一体化する有機系接着剤層8とにより主として構成されている。
【0030】
静電チャック部2は、上面が半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面とされた載置板11と、この載置板11と一体化され該載置板11を支持する支持板12と、これら載置板11と支持板12との間に設けられた静電吸着用内部電極13及び静電吸着用内部電極13の周囲を絶縁する絶縁材層14と、支持板12を貫通するようにして設けられ静電吸着用内部電極13に直流電圧を印加する給電用端子15とにより構成されている。
【0031】
これら載置板11および支持板12は、重ね合わせた面の形状を同じくする円板状のもので、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al−SiC)複合焼結体、酸化アルミニウム(Al)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化イットリウム(Y)焼結体等の機械的な強度を有し、かつ腐食性ガス及びそのプラズマに対する耐久性を有する絶縁性のセラミックス焼結体からなるものである。
この載置板11の載置面には、直径が板状試料の厚みより小さい突起部16が複数個形成され、これらの突起部16が板状試料Wを支える構成になっている。
【0032】
これら載置板11、支持板12、静電吸着用内部電極13及び絶縁材層14の合計の厚み、即ち、静電チャック部2の厚みは0.7mm以上かつ3.0mm以下が好ましい。その理由は、静電チャック部2の厚みが0.7mmを下回ると、静電チャック部2の機械的強度を確保することができず、一方、静電チャック部2の厚みが3.0mmを上回ると、静電チャック部2の熱容量が大きくなり過ぎて、載置される板状試料Wの熱応答性が劣化し、さらには、静電チャック部の横方向の熱伝達の増加により、板状試料Wの面内温度を所望の温度パターンに維持することが困難になるからである。
【0033】
特に、載置板11の厚みは、0.3mm以上かつ2.0mm以下が好ましい。その理由は、載置板11の厚みが0.3mmを下回ると、静電吸着用内部電極13に印加された電圧により放電する危険性が高まり、一方、2.0mmを超えると、板状試料Wを十分に吸着固定することができず、したがって、板状試料Wを十分に加熱することが困難となるからである。
【0034】
静電吸着用内部電極13は、電荷を発生させて静電吸着力で板状試料を固定するための静電チャック用電極として用いられるもので、その用途によって、その形状や、大きさが適宜調整される。
この静電吸着用内部電極13は、酸化アルミニウム−炭化タンタル(Al−Ta)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム−タングステン(Al−W)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al−SiC)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム−タングステン(AlN−W)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム−タンタル(AlN−Ta)導電性複合焼結体、酸化イットリウム−モリブデン(Y−Mo)導電性複合焼結体等の導電性セラミックス、あるいは、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)等の高融点金属により形成されている。
【0035】
この静電吸着用内部電極13の厚みは、特に限定されるものではないが、0.1μm以上かつ100μm以下が好ましく、特に好ましくは5μm以上かつ20μm以下である。その理由は、厚みが0.1μmを下回ると、充分な導電性を確保することができず、一方、厚みが100μmを越えると、この静電吸着用内部電極13と載置板11及び支持板12との間の熱膨張率差に起因して、この静電吸着用内部電極13と載置板11及び支持板12との接合界面にクラックが入り易くなるからである。
このような厚みの静電吸着用内部電極13は、スパッタ法や蒸着法等の成膜法、あるいはスクリーン印刷法等の塗工法により容易に形成することができる。
【0036】
絶縁材層14は、静電吸着用内部電極13を囲繞して腐食性ガス及びそのプラズマから静電吸着用内部電極13を保護するとともに、載置板11と支持板12との境界部、すなわち静電吸着用内部電極13以外の外周部領域を接合一体化するものであり、載置板11及び支持板12を構成する材料と同一組成または主成分が同一の絶縁材料により構成されている。
【0037】
給電用端子15は、静電吸着用内部電極13に直流電圧を印加するために設けられた棒状のもので、この給電用端子15の材料としては、耐熱性に優れた導電性材料であれば特に制限されるものではないが、熱膨張係数が静電吸着用内部電極13及び支持板12の熱膨張係数に近似したものが好ましく、例えば、静電吸着用内部電極13を構成している導電性セラミックス、あるいは、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、コバール合金等の金属材料が好適に用いられる。
【0038】
この給電用端子15は、絶縁性を有する碍子17により温度調整用ベース部3に対して絶縁されている。
そして、この給電用端子15は支持板12に接合一体化され、さらに、載置板11と支持板12とは、静電吸着用内部電極13及び絶縁材層14により接合一体化されて静電チャック部2を構成している。
【0039】
温度調整用ベース部3は、静電チャック部2を所望の温度に調整するためのもので、厚みのある円板状のものである。
この温度調整用ベース部3としては、例えば、その内部に水を循環させる流路(図示略)が形成された水冷ベース等が好適である。
この温度調整用ベース部3を構成する材料としては、熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材であれば特に制限はなく、例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、ステンレス鋼(SUS) 等が好適に用いられる。この温度調整用ベース部3の少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理が施されているか、あるいはアルミナ等の絶縁膜が成膜されていることが好ましい。
【0040】
接着材4は、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の耐熱性及び絶縁性を有し後述するヒータエレメント5と同一のパターン形状のシート状またはフィルム状の接着性樹脂であり、厚みは5μm〜100μmが好ましく、より好ましくは10μm〜50μmである。この接着材4の面内の厚みのバラツキは10μm以内が好ましい。
ここで、接着材4の面内の厚みのバラツキが10μmを超えると、静電チャック部2とヒータエレメント5との面内間隔に10μmを超えるバラツキが生じ、その結果、ヒータエレメント5から静電チャック部2に伝達される熱の面内均一性が低下し、静電チャック部2の載置面における面内温度が不均一となるので、好ましくない。
【0041】
ヒータエレメント5は、支持板12の下面に接着材4を介して配設されたもので、例えば、図2に示すように、相互に独立した2つのヒータ、すなわち中心部に形成された内ヒータ5aと、この内ヒータ5aの周縁部外方に環状に形成された外ヒータ5bとにより構成され、これら内ヒータ5a及び外ヒータ5b各々の両端部の給電用端子との接続位置21それぞれには、図1に示す給電用端子22が接続され、この給電用端子22は、絶縁性を有する碍子23により温度調整用ベース部3に対して絶縁されている。
【0042】
これら内ヒータ5a及び外ヒータ5bは、それぞれが、幅の狭い帯状の金属材料を蛇行させたパターンを軸を中心として、この軸の回りに繰り返し配置し、かつ隣接するパターン同士を接続することで、1つの連続した帯状のヒーターパターンとされている。
このヒータエレメント5では、これら内ヒータ5a及び外ヒータ5bをそれぞれ独立に制御することにより、載置板11の載置面に静電吸着により固定されている板状試料Wの面内温度分布を精度良く制御するようになっている。
【0043】
このヒータエレメント5のヒーターパターンは、上記のように相互に独立した2つ以上のヒーターパターンにより構成してもよく、また、1つのヒーターパターンにより構成してもよいが、上記の内ヒータ5a及び外ヒータ5bのようにヒータエレメント5を相互に独立した2つ以上のヒーターパターンにより構成すると、これら相互に独立したヒーターパターンを個々に制御することにより、処理中の板状試料Wの温度を自由に制御することができるので、好ましい。
【0044】
このヒータエレメント5は、厚みが0.2mm以下、好ましくは0.1mm以下の一定の厚みを有する非磁性金属薄板、例えば、チタン(Ti)薄板、タングステン(W)薄板、モリブデン(Mo)薄板等をフォトリソグラフィー法により、所望のヒーターパターンにエッチング加工することで形成される。
ここで、ヒータエレメント5の厚みを0.2mm以下とした理由は、厚みが0.2mmを超えると、ヒータエレメント5のパターン形状が板状試料Wの温度分布として反映され、板状試料Wの面内温度を所望の温度パターンに維持することが困難になるからである。
【0045】
また、ヒータエレメント5を非磁性金属で形成すると、静電チャック装置1を高周波雰囲気中で用いてもヒータエレメントが高周波により自己発熱せず、したがって、板状試料Wの面内温度を所望の一定温度または一定の温度パターンに維持することが容易となるので好ましい。
また、一定の厚みの非磁性金属薄板を用いてヒータエレメント5を形成すると、ヒータエレメント5の厚みが加熱面全域で一定となり、さらに発熱量も加熱面全域で一定となるので、静電チャック部2の載置面における温度分布を均一化することができる。
【0046】
このヒータエレメント5では、これら内ヒータ5a及び外ヒータ5bをそれぞれ独立に制御することにより、このヒータエレメント5のヒーターパターンを板状試料Wに反映され難くすることができる。したがって、載置板11の載置面に静電吸着により固定されている板状試料Wの面内温度分布を所望の温度パターンに精度良く制御することができる。
【0047】
接着材6は、温度調整用ベース部3の上面に絶縁部材7を接着するためのもので、接着材4と同様、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の耐熱性及び絶縁性を有するシート状またはフィルム状の接着性樹脂であり、厚みは5μm〜100μmが好ましく、より好ましくは10μm〜50μmである。
この接着材6の面内の厚みのバラツキは10μm以内が好ましい。
ここで、接着材6の面内の厚みのバラツキが10μmを超えると、温度調整用ベース部3と絶縁部材7との間隔に10μmを超えるバラツキが生じ、その結果、温度調整用ベース部3による静電チャック部2の温度制御の面内均一性が低下し、静電チャック部2の載置面における面内温度が不均一となるので、好ましくない。
【0048】
絶縁部材7は、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の絶縁性及び耐電圧性を有するフィルム状またはシート状の樹脂であり、この絶縁部材7の面内の厚みのバラツキは10μm以内が好ましい。
ここで、絶縁部材7の面内の厚みのバラツキが10μmを超えると、厚みの大小により温度分布に高低の差が生じ、その結果、絶縁部材7の厚み調整による温度制御に悪影響を及ぼすので、好ましくない。
【0049】
この絶縁部材7の熱伝導率は、0.05W/mk以上かつ0.5W/mk以下が好ましく、より好ましくは0.1W/mk以上かつ0.25W/mk以下である。
ここで、熱伝導率が0.1W/mk未満であると、静電チャック部2から温度調整用ベース部への絶縁部材7を介しての熱伝達が難くなり、冷却速度が低下するので好ましくなく、一方、熱伝導率が1W/mkを超えると、ヒータ部から温度調整用ベース部3への絶縁部材7を介しての熱伝達が増加し、昇温速度が低下するので好ましくない。
【0050】
有機系接着剤層8は、静電チャック部2の下面に接着材4を介して接着されたヒータエレメント5と温度調整用ベース部3上に接着材6を介して接着された絶縁部材7とを対向させた状態で、これらを接着一体化するとともに、熱応力の緩和作用を有するもので、この有機系接着剤層8の厚みは50μm以上かつ500μm以下であることが好ましい。
【0051】
ここで、この有機系接着剤層8の厚みを上記の範囲とした理由は、この有機系接着剤層8の厚みが50μmを下回ると、静電チャック部2と温度調整用ベース部3との間の熱伝導性は良好となるものの、熱応力緩和が不充分となり、割れやクラックが生じ易くなるからであり、一方、有機系接着剤層8の厚みが500μmを超えると、静電チャック部2と温度調整用ベース部3との間の熱伝導性を十分確保することができなくなるからである。
【0052】
この有機系接着剤層8は、例えば、シリコーン系樹脂組成物を加熱硬化した硬化体またはアクリル樹脂で形成されている。
シリコーン系樹脂組成物は、耐熱性、弾性に優れた樹脂であり、シロキサン結合(Si−O−Si)を有するケイ素化合物である。このシリコーン系樹脂組成物は、例えば、下記の式(1)または式(2)の化学式で表すことができる。
【0053】
【化1】

但し、Rは、Hまたはアルキル基(C2n+1−:nは整数)である。
【0054】
【化2】

但し、Rは、Hまたはアルキル基(C2n+1−:nは整数)である。
【0055】
このようなシリコーン樹脂としては、特に、熱硬化温度が70℃〜140℃のシリコーン樹脂が好ましい。
ここで、熱硬化温度が70℃を下回ると、静電チャック部2の支持板12及びヒータエレメント5と、温度調整用ベース部3及び絶縁部材7とを対向させた状態で接合する際に、接合過程で硬化が始まってしまい、作業性に劣ることとなるので好ましくない。一方、熱硬化温度が140℃を超えると、静電チャック部2の支持板12及びヒータエレメント5と、温度調整用ベース部3及び絶縁部材7との熱膨張差が大きく、静電チャック部2の支持板12及びヒータエレメント5と、温度調整用ベース部3及び絶縁部材7との間の応力が増加し、これらの間で剥離が生じる虞があるので好ましくない。
【0056】
このシリコーン樹脂としては、硬化後のヤング率が8MPa以下の樹脂が好ましい。ここで、硬化後のヤング率が8MPaを超えると、有機系接着剤層8に昇温、降温の熱サイクルが負荷された際に、支持板12と温度調整用ベース部3との熱膨張差を吸収することができず、有機系接着剤層8の耐久性が低下するので、好ましくない。
【0057】
この有機系接着剤層8には、平均粒径が1μm以上かつ10μm以下の無機酸化物、無機窒化物、無機酸窒化物からなるフィラー、例えば、窒化アルミニウム(AlN)粒子の表面に酸化ケイ素(SiO)からなる被覆層が形成された表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子が含有されていることが好ましい。
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子は、シリコーン樹脂の熱伝導性を改善するために混入されたもので、その混入率を調整することにより、有機系接着剤層8の熱伝達率を制御することができる。
【0058】
すなわち、表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子の混入率を高めることにより、有機系接着剤層8を構成する有機系接着剤の熱伝達率を大きくすることができる。
また、窒化アルミニウム(AlN)粒子の表面に酸化ケイ素(SiO2)からなる被覆層が形成されているので、表面被覆が施されていない単なる窒化アルミニウム(AlN)粒子と比較して優れた耐水性を有している。したがって、シリコーン系樹脂組成物を主成分とする有機系接着剤層8の耐久性を確保することができ、その結果、静電チャック装置1の耐久性を飛躍的に向上させることができる。
【0059】
また、この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子は、窒化アルミニウム(AlN)粒子の表面が、優れた耐水性を有する酸化ケイ素(SiO2)からなる被覆層により被覆されているので、窒化アルミニウム(AlN)が大気中の水により加水分解される虞が無く、窒化アルミニウム(AlN)の熱伝達率が低下する虞もなく、有機系接着剤層8の耐久性が向上する。
なお、この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子は、半導体ウエハ等の板状試料Wへの汚染源となる虞もなく、この点からも好ましいフィラーということができる。
【0060】
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子は、被覆層中のSiとシリコーン系樹脂組成物とにより強固な結合状態を得ることが可能であるから、有機系接着剤層8の伸び性を向上させることが可能である。これにより、静電チャック部2の支持板12の熱膨張率と温度調整用ベース部3の熱膨張率との差に起因する熱応力を緩和することができ、静電チャック部2と温度調整用ベース部3とを精度よく、強固に接着することができる。また、使用時の熱サイクル負荷に対する耐久性が充分となるので、静電チャック装置1の耐久性が向上する。
【0061】
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子の平均粒径は、1μm以上かつ10μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以上かつ5μm以下である。
ここで、この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子の平均粒径が1μmを下回ると、粒子同士の接触が不十分となり、結果的に熱伝達率が低下する虞があり、また、粒径が細か過ぎると、取扱等の作業性の低下を招くこととなり、好ましくない。一方、平均粒径が10μmを越えると、接着層の厚みにばらつきが生じ易くなるので好ましくない。
【0062】
また、この有機系接着剤層8は、ヤング率が1GPa以下で、柔軟性(ショア硬さがA100以下)を有する熱硬化型アクリル樹脂接着剤で形成されていてもよい。この場合は、フィラーは含有していてもよく、含有していなくともよい。
【0063】
次に、この静電チャック装置1の製造方法について説明する。
まず、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al−SiC)複合焼結体または酸化イットリウム(Y)焼結体により板状の載置板11及び支持板12を作製する。この場合、炭化ケイ素粉末及び酸化アルミニウム粉末を含む混合粉末または酸化イットリウム粉末を所望の形状に成形し、その後、例えば1400℃〜2000℃の温度、非酸化性雰囲気、好ましくは不活性雰囲気下にて所定時間、焼成することにより、載置板11及び支持板12を得ることができる。
【0064】
次いで、支持板12に、給電用端子15を嵌め込み保持するための固定孔を複数個形成する。
次いで、給電用端子15を、支持板12の固定孔に密着固定し得る大きさ、形状となるように作製する。この給電用端子15の作製方法としては、例えば、給電用端子15を導電性複合焼結体とした場合、導電性セラミックス粉末を、所望の形状に成形して加圧焼成する方法等が挙げられる。
【0065】
このとき、給電用端子15に用いられる導電性セラミックス粉末としては、静電吸着用内部電極13と同様の材質からなる導電性セラミックス粉末が好ましい。
また、給電用端子15を金属とした場合、高融点金属を用い、研削法、粉末治金等の金属加工法等により形成する方法等が挙げられる。
【0066】
次いで、給電用端子15が嵌め込まれた支持板12の表面の所定領域に、給電用端子15に接触するように、上記の導電性セラミックス粉末等の導電材料を有機溶媒に分散した静電吸着用内部電極形成用塗布液を塗布し、乾燥して、静電吸着用内部電極形成層とする。
この塗布法としては、均一な厚さに塗布する必要があることから、スクリーン印刷法等を用いることが望ましい。また、他の方法としては、蒸着法あるいはスパッタリング法により上記の高融点金属の薄膜を成膜する方法、上記の導電性セラミックスあるいは高融点金属からなる薄板を配設して静電吸着用内部電極形成層とする方法等がある。
【0067】
また、支持板12上の静電吸着用内部電極形成層を形成した領域以外の領域に、絶縁性、耐腐食性、耐プラズマ性を向上させるために、載置板11及び支持板12と同一組成または主成分が同一の粉末材料を含む絶縁材層を形成する。この絶縁材層は、例えば、載置板11及び支持板12と同一組成または主成分が同一の絶縁材料粉末を有機溶媒に分散した塗布液を、上記所定領域にスクリーン印刷等で塗布し、乾燥することにより形成することができる。
【0068】
次いで、支持板12上の静電吸着用内部電極形成層及び絶縁材層の上に載置板11を重ね合わせ、次いで、これらを高温、高圧下にてホットプレスして一体化する。このホットプレスにおける雰囲気は、真空、あるいはAr、He、N等の不活性雰囲気が好ましい。また、ホットプレスにおける一軸加圧の際の圧力は5〜10MPaが好ましく、温度は1400℃〜1850℃が好ましい。
【0069】
このホットプレスにより、静電吸着用内部電極形成層は焼成されて導電性複合焼結体からなる静電吸着用内部電極13となる。同時に、支持板12及び載置板11は、絶縁材層14を介して接合一体化される。
また、給電用端子15は、高温、高圧下でのホットプレスで再焼成され、支持板12の固定孔に密着固定される。
そして、これら接合体の上下面、外周およびガス穴等を機械加工し、静電チャック部2とする。
【0070】
次いで、この静電チャック部2の支持板12の表面(下面)の所定の領域に、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の耐熱性及び絶縁性を有しかつヒータエレメント5と同一のパターン形状のシート状またはフィルム状の接着性樹脂を貼着し、接着材4とする。
この接着材4は、支持板12の表面(下面)に、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の耐熱性及び絶縁性を有する接着性樹脂シートまたは接着性樹脂フィルムを貼着し、このシートまたはフィルムにヒータエレメント5と同一のパターンを形成することによっても作製することができる。
【0071】
次いで、この接着材4上に、厚みが0.2mm以下、好ましくは0.1mm以下の一定の厚みを有する、例えば、チタン(Ti)薄板、タングステン(W)薄板、モリブデン(Mo)薄板等の非磁性金属薄板を貼着し、この非磁性金属薄板をフォトリソグラフィー法により、所望のヒーターパターンにエッチング加工し、ヒータエレメント5とする。
これにより、支持板12の表面(下面)に所望のヒーターパターンを有するヒータエレメント5が接着材4を介して形成されたヒータエレメント付き静電チャック部が得られる。
【0072】
次いで、所定の大きさ及び形状の給電用端子22を作製する。この給電用端子22の作製方法は、上述した給電用端子15の作製方法と同様、例えば、給電用端子22を導電性複合焼結体とした場合、導電性セラミックス粉末を、所望の形状に成形して加圧焼成する方法等が挙げられる。
また、給電用端子22を金属とした場合、高融点金属を用い、研削法、粉末治金等の金属加工法等により形成する方法等が挙げられる。
【0073】
一方、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、ステンレス鋼(SUS) 等からなる金属材料に機械加工を施し、必要に応じて、この金属材料の内部に水を循環させる流路等を形成し、さらに、給電用端子15及び碍子17を嵌め込み保持するための固定孔と、給電用端子22及び碍子23を嵌め込み保持するための固定孔とを形成し、温度調整用ベース部3とする。
この温度調整用ベース部3の少なくともプラズマに曝される面には、アルマイト処理を施すか、あるいはアルミナ等の絶縁膜を成膜することが好ましい。
【0074】
次いで、温度調整用ベース部3の静電チャック部2との接合面を、例えばアセトンを用いて脱脂、洗浄し、この接合面上の所定位置に、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の耐熱性及び絶縁性を有するシート状またはフィルム状の接着性樹脂を貼着し、接着材6とする。
次いで、この接着材6上に、この接着材6と同一の平面形状のポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の絶縁性及び耐電圧性を有するフィルム状またはシート状の樹脂を貼着し、絶縁部材7とする。
【0075】
次いで、接着材6及び絶縁部材7が積層された温度調整用ベース部3上の所定領域に、例えば、シリコーン系樹脂組成物からなる接着剤を塗布する。この接着剤の塗布量は、静電チャック部2と温度調整用ベース部3とがスペーサにより一定の間隔を保持した状態で接合一体化できるように、所定量の範囲内とする。
この接着剤の塗布方法としては、ヘラ等を用いて手動で塗布する他、バーコート法、スクリーン印刷法等が挙げられるが、温度調整用ベース部3上の所定領域に精度良く形成する必要があることから、スクリーン印刷法等を用いることが好ましい。
【0076】
塗布後、静電チャック部2と温度調整用ベース部3とを接着剤を介して重ね合わせる。この際、立設した給電用端子15及び碍子17と、給電用端子22及び碍子23を、温度調整用ベース部3中に穿孔された給電用端子収容孔(図示略)に挿入し嵌め込む。
次いで、静電チャック部2と温度調整用ベース部3との間隔がスペーサの厚みになるまで落し込み、押し出された余分な接着剤を除去する。
【0077】
以上により、静電チャック部2及び温度調整用ベース部3は、接着材6、絶縁部材7及び有機系接着剤層8を介して接合一体化され、本実施形態の静電チャック装置1が得られることとなる。
【0078】
このようにして得られた静電チャック装置1は、ヒータエレメント5がシート状またはフィルム状の接着材4を介して接着された静電チャック部2と、温度調整用ベース部3とを、有機系接着剤層8及びシート状またはフィルム状の絶縁部材7を介して接着一体化したので、静電チャック部2と温度調整用ベース部3との間の絶縁を良好に維持することができる。したがって、静電チャック部2と温度調整用ベース部3との間の耐電圧性を向上させることができる。
【0079】
また、静電チャック部2にシート状またはフィルム状の接着材4を介してヒータエレメント5を接着したので、静電チャック部2の載置面における面内温度の均一性を高めることができ、ヒータエレメント5の耐電圧性をより向上させることができる。
さらに、ヒータエレメント5が接着された静電チャック部2と温度調整用ベース部3との間に有機系接着剤層8を介在させたので、この有機系接着剤層8が静電チャック部2に対して急激な膨張・収縮を緩和する緩衝層として機能することで、静電チャック部2におけるクラックや欠け等を防止することができ、したがって、静電チャック部2の耐久性を向上させることができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0081】
「実施例1」
(静電チャック装置の作製)
公知の方法により、内部に厚み20μmの静電吸着用内部電極13が埋設された静電チャック部2を作製した。
この静電チャック部2の載置板11は、炭化ケイ素を8.5質量%含有する酸化アルミニウム−炭化ケイ素複合焼結体であり、直径は298mm、厚みは0.5mmの円板状であった。また、この載置板11の静電吸着面を、高さが40μmの多数の突起部16を形成することで凹凸面とし、これらの突起部16の頂面を板状試料Wの保持面とし、凹部と静電吸着された板状試料Wとの間に形成される溝に冷却ガスを流すことができるようにした。
【0082】
また、支持板12も載置板11と同様、炭化ケイ素を8.5質量%含有する酸化アルミニウム−炭化ケイ素複合焼結体であり、直径は298mm、厚みは2mmの円板状であった。
これら載置板11及び支持板12を接合一体化することにより、静電チャック部2の全体の厚みは2.5mmとなっていた。
【0083】
一方、直径350mm、高さ30mmのアルミニウム製の温度調整用ベース部3を、機械加工により作製した。この温度調整用ベース部3の内部には冷媒を循環させる流路(図示略)を形成した。
また、幅2000μm、長さ2000μm、高さ200μmの角形状のスペーサを、酸化アルミニウム焼結体にて作製した。
【0084】
次いで、この静電チャック部2の支持板12の表面(下面)を、アセトンを用いて脱脂、洗浄し、この表面の所定の領域に、厚み20μmのエポキシ樹脂からなるシート接着剤を貼着し、接着材4とした。
次いで、この接着材4上に、厚みが100μmのチタン(Ti)薄板を載置した。次いで、真空中、150℃にて加圧保持し、静電チャック部2とチタン(Ti)薄板とを接着固定した。
【0085】
次いで、チタン(Ti)薄板をフォトリソグラフィー法により、図2に示すヒータパターンにエッチング加工し、ヒータエレメント5とした。また、このヒータエレメント5に、チタン製の給電用端子22を溶接法を用いて立設した。
これにより、ヒータエレメント付き静電チャック部が得られた。
【0086】
次いで、温度調整用ベース部3の静電チャック部2との接合面を、アセトンを用いて脱脂、洗浄し、この接合面上の所定位置に、接着材6として厚み20μmのエポキシ樹脂からなるシート接着剤を貼着し、次いで、このシート接着剤上に、絶縁部材7として厚み50μmのポリイミドフィルムを貼着した。
【0087】
また、窒化アルミニウム(AlN)粉末に、シリコーン樹脂−窒化アルミニウム(AlN)粉末を上記の窒化アルミニウム(AlN)粉末に対して20vol%となるように混合し、この混合物に攪拌脱泡処理を施し、シリコーン系樹脂組成物を得た。
なお、窒化アルミニウム粉末は、湿式篩により選別した粒径が平均10〜20μmのものを用いた。
【0088】
次いで、シート接着剤及びポリイミドフィルムが積層された温度調整用ベース部上に、スクリーン印刷法によりシリコーン系樹脂組成物を塗布し、次いで、静電チャック部と温度調整用ベース部とをシリコーン系樹脂組成物を介して重ね合わせた。
次いで、静電チャック部のヒータエレメントと温度調整用ベース部との間隔が角形状のスペーサの高さ、すなわち200μmになるまで落し込んだのち、110℃にて12時間保持し、シリコーン系樹脂組成物を硬化させて静電チャック部と温度調整用ベース部とを接合させ、実施例1の静電チャック装置を作製した。
【0089】
(評価)
この静電チャック装置の(1)耐電圧性、(2)シリコンウエハの面内温度制御及び昇降温特性、(3)疑似プラズマ入熱下におけるシリコンウエハの面内温度制御、それぞれについて評価した。
【0090】
(1)耐電圧性
温度調整用ベース部3とヒータエレメント5との間に、1kVから1kVずつ段階的に上昇させ、最大値10kVの電圧を印加し、各電圧における漏れ電流を測定した。ここでは、温度調整用ベース部3とヒータエレメント5との間の有機系接着剤層8の厚みが100μm、200μm、300μmの3種類の静電チャック装置を作製し、それぞれの耐電圧性を評価した。
その結果、3種類の静電チャック装置共、10kVの電圧を印加した場合の漏れ電流は0.1μA以下であり、極めて良好な耐電圧性を示していた。
【0091】
(2)シリコンウエハの面内温度制御及び昇降温特性
a.静電チャック部2の載置面に直径300mmのシリコンウエハを静電吸着させ、温度調整用ベース部3の流路(図示略)に20℃の冷却水を循環させながら、シリコンウエハの中心温度が40℃となるようにヒータエレメント5の外ヒータ5b及び内ヒータ5aに通電し、このときのシリコンウエハの面内温度分布をサーモグラフィTVS−200EX(日本アビオニクス社製)を用いて測定した。その結果を図3に示す。図中、Aはシリコンウエハの一直径方向の面内温度分布を、Bはシリコンウエハの上記の一直径方向と直行する直径方向の面内温度分布を、それぞれ示している。
【0092】
次に、
b.ヒータエレメント5の外ヒータ5bの通電量を上げて、シリコンウエハ外周部の温度が60℃となるように昇温速度3.6℃/秒にて昇温させ、このときのシリコンウエハの面内温度分布をサーモグラフィTVS−200EX(日本アビオニクス社製)を用いて測定した。その結果を図4に示す。図中、Aはシリコンウエハの一直径方向の面内温度分布を、Bはシリコンウエハの上記の一直径方向と直行する直径方向の面内温度分布を、それぞれ示している。
【0093】
さらに、
c.ヒータエレメント5の外ヒータ5bの通電を停止し、シリコンウエハ外周部の温度が30℃となるように降温速度4.0℃/秒にて降温させ、このときのシリコンウエハの面内温度分布をサーモグラフィTVS−200EX(日本アビオニクス社製)を用いて測定した。その結果を図5に示す。図中、Aはシリコンウエハの一直径方向の面内温度分布を、Bはシリコンウエハの上記の一直径方向と直行する直径方向の面内温度分布を、それぞれ示している。
【0094】
上記のa〜cの測定結果によれば、シリコンウエハの面内温度が±20℃の範囲内で良好に制御されていることが分かった。
【0095】
(3)疑似プラズマ入熱下におけるシリコンウエハの面内温度制御
静電チャック装置1を真空チャンバ内に固定し、擬似プラズマ入熱下におけるシリコンウエハの面内温度を測定した。ここでは、擬似プラズマ入熱として、静電チャック装置1の載置面から40mm上部に配設され、直径が300mmの面状でありかつ外周部が内部よりも発熱量が多い外部ヒータによる加熱を用いた。なお、シリコンウエハと静電チャック部2の静電吸着面との間に形成された溝に、30torrの圧力のHeガスを流した。
【0096】
ここでは、まず、静電チャック部2の載置面に直径300mmのシリコンウエハを静電吸着させ、温度調整用ベース部3の流路(図示略)に20℃の冷却水を循環させながら、シリコンウエハ全域の温度が40℃となるように、ヒータエレメント5の外ヒータ5b及び内ヒータ5aに通電した。
【0097】
次いで、
d.上記の通電状態を維持しつつ、さらに外ヒータ5bにも通電した。このときのシリコンウエハの面内温度を熱電対で測定したところ、シリコンウエハ中心部の温度は60℃、シリコンウエハ外周部の温度は70℃であった。
次いで、
e.ヒータエレメント5の内ヒータ5a及び外ヒータ5bの通電を維持したまま、ヒータエレメント5の外ヒータ5bの通電量を下げた。このときのシリコンウエハの面内温度を熱電対で測定したところ、シリコンウエハ全域において、温度は60℃と一定であった。
【0098】
上記のd〜eの測定結果によれば、擬似プラズマ入熱下においても、シリコンウエハの面内温度が10℃の範囲内で良好に制御されていることが分かった。
【0099】
「実施例2」
(静電チャック装置の作製)
静電チャック部2の載置板11および支持板12を酸化イットリウム焼結体とし、静電吸着用内部電極13を酸化イットリウム−モリブデン導電性複合焼結体とした他は、実施例1に準じて、実施例2の静電チャック装置を作製した。
【0100】
(評価)
実施例2の静電チャック装置を、実施例1に準じて評価した。
その結果、(1)耐電圧性については、10kVまたは4kVの電圧を印加した場合の漏れ電流が0.1μA以下であり、極めて良好な耐電圧性を示していた。(2)シリコンウエハの面内温度制御及び昇降温特性では、シリコンウエハの面内温度が±20℃の範囲内で良好に制御されていることが分かった。また、(3)疑似プラズマ入熱下におけるシリコンウエハの面内温度制御においても、シリコンウエハの面内温度が10℃の範囲内で良好に制御されていることが分かった。
【0101】
「比較例1」
(静電チャック装置の作製)
静電チャック部2の支持板12の表面(下面)の所定の領域に、粘性のある液状のエポキシ樹脂からなる接着剤を塗布し、接着剤層を形成し、この接着剤層上に、厚みが100μmのチタン(Ti)薄板を接着固定した他は、実施例1に準じて、比較例1の静電チャック装置を作製した。
【0102】
(評価)
比較例1の静電チャック装置を、実施例1に準じて評価した。
その結果、(1)耐電圧性については、10kVまたは4kVの電圧を印加した場合の漏れ電流が0.5μA以下であり、極めて良好な耐電圧性を示していたが、(2)シリコンウエハの面内温度制御及び昇降温特性では、シリコンウエハの面内温度が±5.0℃の範囲となっており、面内温度均一性が低下していることが分かった。また、(3)疑似プラズマ入熱下におけるシリコンウエハの面内温度制御においても、シリコンウエハの面内温度が±5.0℃の範囲となっており、面内温度均一性が低下していることが分かった。
【0103】
「比較例2」
(静電チャック装置の作製)
温度調整用ベース部3の静電チャック部2との接合面上に、シート接着剤及びポリイミドフィルムを順次貼着しなかった他は、実施例1に準じて、比較例2の静電チャック装置を作製した。
【0104】
(評価)
比較例2の静電チャック装置を、実施例1に準じて評価した。
その結果、(1)耐電圧性については、温度調整用ベース部3とヒータエレメント5との間の有機系接着剤層8の厚みが100μmでは、2.6kV〜7kVで放電が生じ、厚みが200μmでは、10kVで放電が生じ、厚みが300μmでは、10kVで放電が生じなかった。その結果、有機系接着剤層8の厚みが300μmでは極めて良好な耐電圧性を示しているが、厚みが200μm以下では10kVまたはそれ以下の電圧で放電してしまい、耐電圧性が低下していた。
【0105】
一方、(2)シリコンウエハの面内温度制御及び昇降温特性では、シリコンウエハの面内温度が±20℃の範囲内で良好に制御されており、面内温度均一性が向上していることが分かった。また、(3)疑似プラズマ入熱下におけるシリコンウエハの面内温度制御においても、シリコンウエハの面内温度が±10℃の範囲内で良好に制御されており、面内温度均一性が向上していることが分かった。
【符号の説明】
【0106】
1 静電チャック装置
2 静電チャック部
3 温度調整用ベース部
4 接着材
5 ヒータエレメント
5a 内ヒータ
5b 外ヒータ
6 接着材
7 絶縁部材
8 有機系接着剤層
11 載置板
12 支持板
13 静電吸着用内部電極
14 絶縁材層
15 給電用端子
16 突起部
17 碍子
21 給電用端子との接続位置
22 給電用端子
23 碍子
W 板状試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一主面を板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、この静電チャック部を所望の温度に調整する温度調整用ベース部とを備え、
前記静電チャック部の前記載置面と反対側の主面には、接着材を介して加熱部材が接着され、
前記温度調整用ベース部の前記静電チャック部側の面の全体または一部分は、シート状またはフィルム状の絶縁材により被覆され、
これら加熱部材が接着された静電チャック部と、シート状またはフィルム状の絶縁材により被覆された温度調整用ベース部とは、液状接着剤を硬化してなる絶縁性の有機系接着剤層を介して接着一体化されていることを特徴とする静電チャック装置。
【請求項2】
前記シート状またはフィルム状の絶縁材は、シート状またはフィルム状の接着材により前記温度調整用ベース部に接着されていることを特徴とする請求項1記載の静電チャック装置。
【請求項3】
前記静電チャック部の厚みは、0.7mm以上かつ3.0mm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の静電チャック装置。
【請求項4】
前記加熱部材は、厚みが0.2mm以下の非磁性金属からなる薄板状のヒータエレメントであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の静電チャック装置。
【請求項5】
前記接着材は、シリコーン系またはアクリル系の接着材であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の静電チャック装置。
【請求項6】
前記接着材の厚みのばらつきは、10μm以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載の静電チャック装置。
【請求項7】
前記静電チャック部は、一主面を前記載置面とした載置板と、該載置板と一体化され該載置板を支持する支持板と、これら載置板と支持板との間に設けられた前記静電吸着用内部電極とを備え、
前記載置板は、酸化アルミニウム−炭化ケイ素複合焼結体または酸化イットリウム焼結体からなることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項記載の静電チャック装置。
【請求項8】
前記載置板の厚みは、0.3mm以上かつ2.0mm以下であることを特徴とする請求項7記載の静電チャック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−176275(P2011−176275A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216823(P2010−216823)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】