説明

静電チャック

【解決手段】絶縁体層とこの絶縁体層内に設けられた電極とを有する静電チャックの被吸着体と接触する表面に、
(A)オルガノポリシロキサン、
(B)R3SiO1/2単位(Rは一価炭化水素基)とSiO2単位を主成分とし、R3SiO1/2単位とSiO2単位とのモル比[R3SiO1/2/SiO2]が0.5〜1.5で、かつ1×10-4〜5×10-3mol/gのビニル基を含有するシリコーン樹脂質共重合体、
(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(D)有機過酸化物
を含有してなるシリコーンゴム組成物の硬化物からなるシリコーンゴム層を形成してなる静電チャック。
【効果】本発明はウエハとの密着性がよく、冷却性能に優れるため、半導体集積回路の製造においてウエハの保持が必要となる工程、特に、プラズマエッチング工程やイオン注入工程、スパッタリング工程において、ウエハの温度を精度よく均一かつ一定に保つことができるため、高精度の加工を行うのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路の製造においてウエハの保持が必要となる工程、特に、イオン注入工程、スパッタリング工程、プラズマエッチング工程において有用な静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体集積回路の製造工程におけるウエハの保持には、静電吸着方式又はジャンセン・ラーベック力方式のウエハチャック、即ち、いわゆる静電チャックが用いられている。この静電チャックの絶縁体層としては、ポリイミド等の有機樹脂、窒化アルミニウム、アルミナ、窒化ホウ素、窒化ケイ素等のセラミックス、シリコーンゴム等のゴム弾性体を用いることが提案されている。
【0003】
また、プラズマエッチング工程においては、ウエハがプラズマにより加熱されるのを抑えて、ウエハの温度分布を均一かつ一定とするため、冷却チラー等の冷却機構が静電チャックの裏面に設けられている。温度分布を均一かつ一定にすると、マスク材とエッチング対象物の下地との選択性が高くなり、また、異方性形状を得られやすいので、高精度のエッチングが可能となる。
【0004】
セラミック製絶縁体層を用いた静電チャックは、プラズマガスに対する耐久性に優れ、かつ高熱伝導性である。しかし、セラミック製絶縁体層は硬度が高いため、凹凸を有するウエハとの密着性が悪く、その結果、接触熱抵抗が大きくなり、充分な冷却性能が得られない。そこで、熱移動を促進するために、ウエハと絶縁体層との間にヘリウム等の不活性ガスを流すガス冷却方式が採られる。しかし、この方法では、不活性ガスを流す溝を絶縁体層表面に設ける等の微細加工、及び不活性ガスの供給設備が必要であり、静電チャックの構造が複雑になり、静電チャックの製造コスト増を招くという点で不利である。また、セラミック製絶縁体とウエハが接触、擦れることにより微小パーティクルが発生し、このパーティクルがウエハの裏側に付着し、工程内に持ち込まれることにより、ウエハの微細加工で欠陥を発生する問題がある。
【0005】
ポリイミド製絶縁体層を用いた静電チャックは、容易に製造でき、安価であるが、プラズマガスに対する耐久性が充分でない。また、熱伝導率が低く、かつ硬いため接触熱抵抗が大きく、冷却性能が悪いという問題がある。更に、セラミック製絶縁体と同様にパーティクルが発生する問題がある。
【0006】
特開昭59−64245号公報(特許文献1)には、金属板上に、シリコーンゴムをガラスクロスに含浸させて得た放熱性シリコーンプリプレグからなる第1絶縁膜と、第1絶縁膜上に電極として形成された銅パターンと、銅パターン上にシリコーンゴムからなる第2絶縁膜が設けられてなる静電チャックが提案されている。この静電チャックは、絶縁層に弾性体であるシリコーンゴムを用いているため、比較的接触熱抵抗が小さく、冷却性能がよい。よって、この静電チャックを用いると、効率よくウエハの温度を均一に保ちやすい。また、シリコーンゴムは柔らかいためウエハと接触してもパーティクルが発生しにくく、セラミック製やポリイミド製に比べ、低パーティクル量を実現できる。しかし、シリコーンゴムに熱伝導性を付与するため、添加しているアルミナ、酸化亜鉛、窒化ホウ素等の熱伝導性充填剤が脱落しパーティクルとなる。最近の高集積化にともなうウエハ加工線幅の細線化に対応するため、よりパーティクル発生量の少ない静電チャックが求められており、本静電チャックでは性能が不充分となっている。
【0007】
特開平2−27748号公報(特許文献2)では、金属基盤上にポリイミドフィルムからなる第1絶縁層、銅箔からなる電極層、ポリイミドフィルムからなる第2絶縁層を接着剤で積層した静電チャックの被吸着物を搭載する第2絶縁層に密着性向上層を設け、被吸着物との熱コンタクト性を改良する静電チャックが提案されている。しかし、この静電チャックは密着性向上層自体がウエハに移行したり、配合している熱伝導性充填剤が脱落することによりパーティクルの発生が懸念される。
【0008】
特開平10−335439号公報(特許文献3)では、金属基板上に、シリコーンゴムからなる第1絶縁層と、第1絶縁層上に形成された導電パターンと、導電パターン上に表面にシボ模様が形成されたシリコーンゴムからなる第2絶縁層を設けてなるウエハ付着パーティクル量を低減した静電チャックが提案されている。本静電チャックもシリコーンゴムに配合している熱伝導性フィラーが脱落することによりパーティクルが発生するおそれがある。
【0009】
特開平11−233604号公報(特許文献4)では、静電チャックの吸着面にシリコーン系樹脂、エポキシ樹脂あるいはアクリル樹脂からなる保護膜を設けることにより、耐摩耗性や耐損傷性に優れた静電チャックが提案されている。この保護膜が硬い場合はウエハ冷却性能が低下し、ウエハとの擦れによりパーティクルが発生するおそれがある。また、保護膜に含まれているシリカ以外の充填剤が脱落してパーティクルとなる可能性がある。
【0010】
特開2004−253718号公報(特許文献5)では、セラミックからなる基体とその内部に電極を備えた静電チャックの吸着面にシリコーン樹脂、ポリイミド樹脂等の粘着・滑り止め層を形成し、吸着される基板の位置合わせを容易にでき、基板にキズをつけない静電チャックが提案されている。本静電チャックも同様に粘着・滑り止め層からのパーティクルの発生が懸念される。
【0011】
特開2007−299837号公報(特許文献6)及び特開2008−277446号公報(特許文献7)では、静電チャックの表面に補強性シリカ以外に平均粒子径0.5μm以上の充填剤を含まないシリコーンゴム層を設けることにより、冷却性能に優れパーティクルの発生を低減できる静電チャックが提案されている。
【0012】
シリコーンゴムは通常補強性シリカを添加することにより強度を付与している。この補強性シリカはシリコーンゴムと物理的に結合しており脱落しにくいと考えられるが、パーティクル発生の原因となる可能性がある。補強性シリカの添加量を少なくするとシリコーンゴムの強度が不足してゴム自体が破壊してパーティクルとなるおそれがある。
【0013】
別途補強性シリカの添加ではなく、シリコーンゴムにシリコーン樹脂質共重合体を添加することで強度を付与する方法が種々提案されている(特許文献8〜11:特公昭45−9476号公報、特開昭54−34362号公報、特開昭60−51755号公報、特開昭62−240362号公報)。シリコーン樹脂質共重合体はシリコーンゴムに相溶し、更に化学的に架橋するため脱落のおそれはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭59−64245号公報
【特許文献2】特開平2−27748号公報
【特許文献3】特開平10−335439号公報
【特許文献4】特開平11−233604号公報
【特許文献5】特開2004−253718号公報
【特許文献6】特開2007−299837号公報
【特許文献7】特開2008−277446号公報
【特許文献8】特公昭45−9476号公報
【特許文献9】特開昭54−34362号公報
【特許文献10】特開昭60−51755号公報
【特許文献11】特開昭62−240362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、半導体集積回路の製造において冷却性能に優れ、パーティクルの発生を低減でき、処理後のウエハ脱離性が良好な静電チャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的を達成する手段として、静電チャックのウエハと接触する表面に設けるシリコーンゴム層を、
(A)一分子中にケイ素原子に結合するビニル基を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)R3SiO1/2単位(式中、Rは非置換又は置換の一価炭化水素基)とSiO2単位を主成分とし、R3SiO1/2単位とSiO2単位とのモル比[R3SiO1/2/SiO2]が0.5〜1.5であり、かつ1×10-4〜5×10-3mol/gのビニル基を含有するシリコーン樹脂質共重合体 20〜200質量部、
(C)一分子中にケイ素原子に結合する水素原子(SiH基)を少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
オルガノハイドロジェンポリシロキサンが含有するケイ素原子に結合す
る水素原子のモル数と(A)、(B)成分が含有する合計のビニル基の
モル数とのモル比[SiH/SiCH=CH2]が0.5〜5となる量、
(D)有機過酸化物
(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対し0.1〜10質量部
を含有してなるシリコーンゴム組成物の硬化物とすることが有効であることを知見し、本発明をなすに至った。
【0017】
従って、本発明は下記静電チャックを提供する。
請求項1:
絶縁体層とこの絶縁体層内に設けられた電極とを有する静電チャックの被吸着体と接触する表面に、
(A)一分子中にケイ素原子に結合するビニル基を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)R3SiO1/2単位(式中、Rは非置換又は置換の一価炭化水素基)とSiO2単位を主成分とし、R3SiO1/2単位とSiO2単位とのモル比[R3SiO1/2/SiO2]が0.5〜1.5であり、かつ1×10-4〜5×10-3mol/gのビニル基を含有するシリコーン樹脂質共重合体 20〜200質量部、
(C)一分子中にケイ素原子に結合する水素原子(SiH基)を少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
オルガノハイドロジェンポリシロキサンが含有するケイ素原子に結合す
る水素原子のモル数と(A)、(B)成分が含有する合計のビニル基の
モル数とのモル比[SiH/SiCH=CH2]が0.5〜5となる量、
(D)有機過酸化物
(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対し0.1〜10質量部
を含有してなるシリコーンゴム組成物の硬化物からなるシリコーンゴム層を形成してなることを特徴とする静電チャック。
請求項2:
シリコーンゴム層が、補強性シリカを(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対し5〜100質量部を含有し、かつ補強性シリカ以外に平均粒子径0.5μm以上の充填剤を含まない請求項1記載の静電チャック。
請求項3:
シリコーンゴム層の厚さが10〜150μmの範囲である請求項1又は2記載の静電チャック。
請求項4:
シリコーンゴム層の硬さが60以上であり、かつ25%引張応力が3MPa以上である請求項1,2又は3記載の静電チャック。
【発明の効果】
【0018】
本発明の静電チャックはウエハとの密着性がよく、冷却性能に優れる。よって、半導体集積回路の製造においてウエハの保持が必要となる工程、特に、プラズマエッチング工程やイオン注入工程、スパッタリング工程において、ウエハの温度を精度よく均一かつ一定に保つことができるため、高精度の加工を行うのに有用である。また、ウエハ吸着時に発生するパーティクルを低減でき、より細線加工に対応可能である。更に、処理後のウエハ脱離性がよく、効率的に加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例及び比較例において静電チャックの冷却性能を評価するのに使用された冷却性能試験器の構成の概略を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、「硬さ」はJIS K 6253に規定のタイプAデュロメータにより測定された値であり、「25%引張応力」はJIS K 6254に規定された引張試験により測定された値である。
【0021】
本発明における静電チャックとしては一般的なものでよく、具体的には、絶縁体層としては、窒化アルミニウム、アルミナ、窒化ホウ素、窒化ケイ素等のセラミック、ポリイミド等の有機樹脂、シリコーンゴム等のゴム弾性体から特性、用途に応じて種々選択できる。内部にウエハを吸着するための電極を有するものであり、電極の材質としては、銅、アルミニウム、ニッケル、銀、タングステン等の金属、窒化チタン等の導電性セラミックが挙げられる。
【0022】
本発明の静電チャックは、上記絶縁体層と電極とを有する静電チャックの被吸着体と接触する側の表面にシリコーンゴム層を形成する。この場合、静電チャックの被吸着体と接触する面に設けられるシリコーンゴム層は、被吸着体との密着性をよくし、冷却性能を向上させる目的で形成される。このシリコーンゴム層は、被吸着体との接触によるパーティクルの発生を抑え、この層自体の被吸着体への移行を防ぐ効果を有する。
【0023】
このシリコーンゴム層は、
(A)ビニル基含有オルガノポリシロキサン、
(B)ビニル基含有シリコーン樹脂質共重合体、
(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(D)有機過酸化物
を含有し、必要により補強性シリカを更に含有するシリコーンゴム組成物を硬化することによって形成される。
【0024】
この点につき更に詳述すると、(A)成分の一分子中にケイ素原子に結合するビニル基を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサンとしては、下記平均組成式(1)
1aSiO(4-a)/2 (1)
(aは1.95〜2.05の正数)
で示されるものが好ましい。ここで、式中R1は非置換又は置換の好ましくは炭素数1〜10、特に1〜8の一価炭化水素基を表し、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基、あるいはこれらの水素原子が部分的に塩素原子、フッ素原子等で置換されたハロゲン化炭化水素基などが例示されるが、一般的にはオルガノポロシロキサンの主鎖がジメチルシロキサン単位からなるもの、あるいはこのオルガノポリシロキサンの主鎖にビニル基、フェニル基、トリフルオロプロピル基等を導入したものが好ましい。
【0025】
また、R1のうち少なくとも2個はビニル基であることが必要である。なお、ビニル基の含有量は、オルガノポリシロキサン中5.0×10-6mol/g〜5.0×10-3mol/g、特に1.0×10-5mol/g〜1.0×10-3mol/gとすることが好ましい。ビニル基の量が5.0×10-6mol/gより少ないと硬度が低く、伸びが大きいものとなり、5.0×10-3mol/gより多いと架橋密度が高くなりすぎて脆いゴムとなってしまうおそれがある。また、分子鎖末端がトリオルガノシリル基又は水酸基で封鎖されたものとすればよいが、このトリオルガノシリル基としてはトリメチルシリル基、ジメチルビニルシリル基、トリビニルシリル基等が例示される。なお、この成分の平均重合度は200以上、回転粘度計による測定で25℃における粘度が0.3Pa・s以上のものが好ましく、平均重合度200未満では硬化後の機械的強度が劣り、脆くなる欠点がある。なお、平均重合度の上限は通常12,000以下である。
【0026】
(B)成分のシリコーン樹脂質共重合体は、R3SiO1/2単位及びSiO2単位を主成分とする。ここで、Rは非置換又は置換の好ましくは炭素数1〜10、特に1〜8の一価炭化水素基を表し、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基、あるいはこれらの水素原子が部分的に塩素原子、フッ素原子等で置換されたハロゲン化炭化水素基などが例示される。
【0027】
シリコーン樹脂質共重合体は、R3SiO1/2単位とSiO2単位のみからなるものであってもよく、また必要に応じてR2SiO2/2単位やRSiO3/2単位を全シリコーン樹脂質共重合体に対して50モル%以下、より好ましくは40モル%以下の範囲で含んでもよいが、R3SiO1/2単位とSiO2単位とのモル比[R3SiO1/2/SiO2]が0.5〜1.5であり、0.5〜1.3であることが好ましい。このモル比が0.5より小さいとシリコーンゴムの強度が低下し、1.5より大きいと(A)成分との相溶性が低下し配合が困難になる。
【0028】
更に、シリコーン樹脂質共重合体は、ビニル基含有量が1×10-4〜5×10-3mol/gであることが必要であり、好ましくは2×10-4〜3×10-3mol/gである。ビニル基含有量が1×10-4mol/gより少ないとシリコーンゴムの強度が低下し、5×10-3mol/gより多いとゴムが硬くて脆くなる。
【0029】
なお、シリコーン樹脂質共重合体は、通常クロロシランやアルコキシシランを当該技術において周知の方法で加水分解することにより製造することができる。
【0030】
このシリコーン樹脂質共重合体の配合量は、(A)成分100質量部に対して20〜200質量部であり、50〜150質量部であることが好ましい。20質量部未満では充分なゴムの強度が得られず、200質量部を超えるとゴムが硬くて脆くなる。
【0031】
(C)成分の一分子中にケイ素原子に結合する水素原子(SiH基)を少なくとも2個、好ましくは3個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、SiH基が前記(A)成分及び(B)成分中のビニル基とヒドロシリル化付加反応により架橋し硬化を促進するものである。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記平均組成式(2)
2bcSiO(4-b-c)/2 (2)
(bは0.7〜2.1、cは0.001〜1.0で、かつb+cは0.8〜3.0の正数)
で示され、一分子中に少なくとも2個、好ましくは3〜100個、より好ましくは3〜50個のケイ素原子に結合する水素原子を有するものが好適に用いられる。
【0032】
ここで、R2は一価炭化水素基であり、R1で例示したものと同様なものを挙げることができるが、脂肪族不飽和基を有さないものが好ましい。また、bは好ましくは0.8〜2.0、cは好ましくは0.01〜1.0、b+cは好ましくは1.0〜2.5であり、その分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状のいずれの構造であってもよい。一分子中のケイ素原子の数は2〜300個、特に4〜150個程度の室温で液状のものが好適に用いられる。なお、ケイ素原子に結合する水素原子は分子鎖末端、分子鎖の途中のいずれの位置にあってもよく、両方に位置するものでもよい。
【0033】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0034】
この(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが含有するケイ素原子に結合する水素原子のモル数と(A)、(B)成分が含有する合計のビニル基のモル数とのモル比[SiH/SiCH=CH2]が0.5〜5.0になる量であり、1.0〜3.0になる量であることが好ましい。モル比が0.5より小さいとゴムの硬化が不充分となりゴムの強度が得られず、5.0より大きくなるとゴムが硬くて脆くなる。
【0035】
(D)成分の有機過酸化物は、熱により分解してラジカルを発生し、そのラジカルがオルガノポリシロキサンのメチル基やビニル基から水素を引き抜くことによりオルガノポリシロキサン同士の架橋が進みゴムが硬化する。(A)成分の一分子中にケイ素原子に結合するビニル基を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサンのみの場合は(D)成分の有機過酸化物で充分硬化が進行するが、(B)成分のシリコーン樹脂質共重合体が配合されるとラジカルとの反応性が低下し硬化が不充分になる。そこで、(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを添加することによりビニル基とのヒドロシリル化付加反応で架橋し硬化が促進される。
【0036】
通常、ヒドロシリル化付加反応の触媒として、白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒が用いられるが、これらの触媒は反応性が高く、室温でもヒドロシリル化付加反応が進むため可使時間が短く、作業性が非常に悪くなる。また、白金等の重金属はウエハ汚染の原因となるため、これらのヒドロシリル化付加反応の触媒は極力含まないことが好ましい。
【0037】
(D)成分の有機過酸化物の添加量は、(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対し0.1〜10質量部であり、0.2〜5質量部であることが好ましい。この添加量が0.1質量部より少ないと硬化が不充分となり、10質量部より多いと不経済であるし、有機過酸化物の分解残渣が硬化後のシリコーンゴム表面に染み出すおそれがある。
【0038】
(D)成分の有機過酸化物としては、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、t−ブチル・クミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、パラメチルベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0039】
(A)〜(D)成分を含有してなるシリコーンゴム組成物を加熱硬化すれば充分な機械的強度が得られるが、更に上記シリコーンゴム組成物に補強性シリカを配合すればより機械的強度に優れたシリコーンゴムを得ることができる。補強性シリカは、BET法比表面積が100m2/g以上であることが好ましく、200〜400m2/gであることがより好ましい。補強性シリカとしては、煙霧質シリカ(乾式シリカ)、沈降シリカ(湿式シリカ)等が例示され、特に不純物の少ない煙霧質シリカ(乾式シリカ)が好ましい。また、補強性シリカの表面をオルガノポリシロキサン、オルガノシラザン、クロロシラン、アルコキシシラン等で疎水化処理を行ってもよい。補強性シリカは脱落しにくいと考えられるが、パーティクル発生の原因となる可能性がある。
【0040】
この補強性シリカの添加量は特に制限されるものではないが、(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対して5質量部未満では充分な補強効果が得られないおそれがあり、100質量部より多くすると成形加工性が悪くなる場合があるので、5〜100質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは20〜80質量部の範囲である。
【0041】
(A)〜(D)成分を含有してなるシリコーンゴム組成物には、アルミナ等の熱伝導性付与剤、カーボンブラック、着色顔料等の充填剤を添加してもよいが、これらの充填剤はオルガノポリシロキサンとの親和性が悪く脱落しやすいので、平均粒子径0.5μm以上、特に平均粒子径0.2μm以上の充填剤を含まないことが好ましい。また、導電性不純物を多く含有する充填剤はウエハ汚染の原因となるため、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び鉄、ニッケル、銅、クロム等の重金属、並びにこれらの化合物を極力含まないことが好ましい。具体的には、導電性不純物の含有量は金属元素に換算して質量基準で1ppm以下とすることが好ましい。なお、上記平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置による測定値で、体積平均値D50である。
【0042】
更に必要に応じて、耐熱性向上剤、難燃性向上剤、受酸剤等の各種添加剤やフッ素系の離型剤、あるいは補強性シリカ分散剤として各種アルコキシシラン、ジフェニルシランジオール、カーボンファンクショナルシラン、シラノール基含有シロキサン等を添加してもよい。
【0043】
シリコーンゴム組成物は、(C)成分と(D)成分以外の成分を2本ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー等の混練機を用いて均一に混合し、必要に応じて100℃以上の温度で熱処理してから、冷却後使用する前に(C)成分と(D)成分を添加混合することにより得ることができる。
【0044】
静電チャック上にシリコーンゴム層を形成するには、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等を含有するシリコーンゴム用のプライマーを塗布した静電チャックの表面に、未硬化の液状シリコーンゴム組成物を均一にコーティングしてから加熱オーブン等で熱をかけて硬化させる方法や、シリコーンゴム組成物をトルエン等の有機溶剤に溶解した溶解液をPETフィルム等の樹脂フィルム上にコーティングし、有機溶剤を乾燥してから、静電チャックに貼り合わせ、プレス成形機等で熱と圧力をかけて硬化させる方法などが適用できる。
【0045】
静電チャック上に設けるシリコーンゴム層の厚さは、10μm未満ではウエハとの密着性が悪く冷却性能が低下し、またシリコーンゴム層の強度が充分発揮されないおそれがあり、150μmより厚くするとこの層の熱伝導性が低く冷却性能が低下するため、10〜150μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは20〜100μmの範囲である。
【0046】
シリコーンゴム層の硬さは、60未満ではシリコーンゴム表面の粘着が強くなり、処理後のウエハが静電チャックに貼りつくおそれがあるため、硬さは60以上であることが好ましく、より好ましくは70以上である。なお、硬さの上限は100以下であることが好ましく、98以下であることがより好ましい。また、25%引張応力が3MPa未満ではゴムが変形しやすくなりウエハが静電チャックから剥離しにくくなる可能性があるため、3MPa以上であることが好ましく、特に4MPa以上であることが好ましい。25%引張応力の上限は特に制限されないが、通常10MPa以下である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
また、特性評価には金属基板上に第1絶縁層として厚さ50μmのポリイミドフィルム、電極として銅箔パターン、第2絶縁層として厚さ25μmのポリイミドフィルムをそれぞれエポキシ接着剤で貼り合わせた構造の直径190mmのポリイミド製静電チャックを使用した。第2絶縁層上にウエハが吸着される。
【0048】
[実施例1]
ジメチルシロキサン単位99.85モル%、メチルビニルシロキサン単位0.15モル%からなる平均重合度8,000のメチルビニルポリシロキサン100質量部と、(CH33SiO1/2単位、(CH2=CH)(CH32SiO1/2単位及びSiO2単位からなるシリコーン樹脂共重合体{[(CH33SiO1/2単位と(CH2=CH)(CH32SiO1/2単位の合計]/SiO2単位=0.85(モル比)、ビニル基含有量0.0008mol/g}100質量部を室温で30分間ニーダーを用いて混合してから、150℃に昇温し、1時間混合した。冷却後、下記構造式(3)
(CH33SiO[(CH3)HSiO]9Si(CH33 (3)
で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン(SiH基量0.014mol/g)を9.1質量部[モル比(SiH/SiCH=CH2)=1.5]と有機過酸化物2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン3.2質量部を添加混合してシリコーンゴム組成物を得た。
このシリコーンゴム組成物100質量部とトルエン300質量部をホモジナイザーで均一に溶解し、400メッシュの金網でろ過してコーティング液を調製した。このコーティング液を厚さ100μmのPETフィルムにバーでコーティングしてから、60℃の加熱オーブンでトルエンを揮発させ、厚さ40μmの未硬化のシリコーンゴムシートを作製した。
ポリイミド製静電チャックのポリイミド表面にプライマーC[商品名、信越化学工業(株)製]を塗布後風乾し、その上に真空圧着機を用い未硬化のシリコーンゴムシートを貼り合わせ、温度160℃で30分加熱してゴムを硬化させた。PETフィルムを剥離し、静電チャック端部のゴムをカット処理してから、加熱オーブンを用い、温度150℃で4時間熱処理することにより、厚さ40μmのシリコーンゴム層をポリイミド製静電チャック表面に設けた。
【0049】
[実施例2]
両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が510であるジメチルポリシロキサン100質量部と、実施例1で使用したシリコーン樹脂共重体80質量部を室温で30分間プラネタリーミキサーを用いて混合してから、150℃に昇温し、1時間混合した。冷却後、下記構造式(4)
(CH33SiO[(CH3)HSiO]38Si(CH33 (4)
で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン(SiH基量0.015mol/g)を6.9質量部[モル比(SiH/SiCH=CH2)=1.5]と有機過酸化物2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン3.0質量部を添加混合した。
このシリコーンゴム組成物を用い、実施例1と同様な方法で厚さ30μmのシリコーンゴム層をポリイミド製静電チャック表面に設けた。
【0050】
[実施例3]
ジメチルシロキサン単位99.7モル%、メチルビニルシロキサン単位0.3モル%からなる平均重合度8,000のメチルビニルポリシロキサン100質量部、(CH33SiO1/2単位、(CH2=CH)(CH32SiO1/2単位及びSiO2単位からなるシリコーン樹脂共重合体{[(CH33SiO1/2単位と(CH2=CH)(CH32SiO1/2単位の合計]/SiO2単位=1.0(モル比)、ビニル基含有量0.001mol/g}35質量部、BET法比表面積300m2/gの煙霧質シリカAerosil 300[商品名、日本アエロジル(株)製]65質量部、下記構造式(5)
HO[(CH32SiO]10H (5)
で示されるジヒドロキシジメチルポリシロキサン15質量部を室温でニーダーを用いて1時間混練りしてから170℃に昇温し、3時間混合した。
冷却後、実施例1で使用したメチルハイドロジェンポリシロキサンを5.6質量部[モル比(SiH/SiCH=CH2)=2.0]と有機過酸化物2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン2.5質量部を添加混合した。
このシリコーンゴム組成物を用い、実施例1と同様な方法で厚さ40μmのシリコーンゴム層をポリイミド製静電チャック表面に設けた。
【0051】
[実施例4]
実施例1と同じシリコーンゴム組成物を用い、同様な方法で厚さ80μmのシリコーンゴム層をポリイミド製静電チャック表面に設けた。
【0052】
[比較例1]
シリコーンゴム層を表面に設けないポリイミド製静電チャックを用いた。
【0053】
[比較例2]
ジメチルシロキサン単位99.7モル%、メチルビニルシロキサン単位0.3モル%からなる平均重合度8,000のメチルビニルポリシロキサン100質量部、BET法比表面積300m2/gの煙霧質シリカAerosil300(前出)65質量部、上記構造式(5)で示されるジヒドロキシジメチルポリシロキサン15質量部を室温でニーダーを用いて1時間混練りしてから170℃に昇温し、3時間混合した。冷却後、有機過酸化物2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン2.0質量部を添加混合した。
このシリコーンゴム組成物を用い、実施例1と同様な方法で厚さ40μmのシリコーンゴム層をポリイミド製静電チャック表面に設けた。
【0054】
[実施例1〜4及び比較例1,2の静電チャックの評価]
(冷却性能)
ブランクのポリイミド製静電チャック(比較例1)と実施例1〜4及び比較例2で得られた各静電チャックの冷却性能の評価に冷却性能試験器を使用した。図1は、該冷却性能試験器の構成の概略を示す縦断面図である。図1において、静電チャック1をチャンバー2内の台3の上に装着した。台3には冷却水が循環する冷却管4が設けられ、静電チャック1を冷却するようになっている。8インチウエハ5を静電チャック1の上に設置した後、チャンバー2内の圧力を0.01Torrに減圧した。次いで、電源6から静電チャック1に、±0.5kVの直流電圧を供給し、静電チャック1上に8インチウエハ5を静電吸着させて固定した。
次いで、ヒーター7を用いて8インチウエハ5を150℃に加熱した後、4℃の冷却水を冷却管4内で循環させた。8インチウエハ5の温度が平衡状態になった時に、表面温度計8を用いて8インチウエハ5表面の温度を測定した。結果を表1,2に示す。
【0055】
(ウエハバックサイドパーティクル)
静電チャックを給電台に装着し、8インチウエハを静電チャックの上に設置した後、電源から±0.5kVの直流電圧を供給し、静電チャック上に8インチウエハを静電吸着させて1分間固定した。直流電圧をオフし、8インチウエハを脱着してから、新しい8インチウエハを用いて同様な静電吸着工程を繰り返した。吸着後の8インチウエハ裏面に付着した大きさ0.16μm以上のバックサイドパーティクルの数をパーティクルカウンタで測定した。結果を表1,2に示す。
【0056】
(ウエハ脱離性)
静電チャックを給電台に装着し、8インチウエハを静電チャックの上に設置した後、電源から±0.5kVの直流電圧を供給し、静電チャック上に8インチウエハを静電吸着させて1時間固定した。直流電圧オフ直後にリフトピンにより8インチウエハの剥離力を測定した。結果を表1,2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
[評価]
実施例の静電チャックは、ブランク(比較例1)のポリイミド製静電チャックや比較例2の静電チャックに比べ、冷却性能に優れ、ウエハに付着するバックサイドパーティクル数が少なく、処理後のウエハ脱離性が良好なことが確認された。
【符号の説明】
【0060】
1 静電チャック
2 チャンバー
3 台
4 冷却管
5 8インチウエハ
6 電源
7 ヒーター
8 表面温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体層とこの絶縁体層内に設けられた電極とを有する静電チャックの被吸着体と接触する表面に、
(A)一分子中にケイ素原子に結合するビニル基を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)R3SiO1/2単位(式中、Rは非置換又は置換の一価炭化水素基)とSiO2単位を主成分とし、R3SiO1/2単位とSiO2単位とのモル比[R3SiO1/2/SiO2]が0.5〜1.5であり、かつ1×10-4〜5×10-3mol/gのビニル基を含有するシリコーン樹脂質共重合体 20〜200質量部、
(C)一分子中にケイ素原子に結合する水素原子(SiH基)を少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
オルガノハイドロジェンポリシロキサンが含有するケイ素原子に結合す
る水素原子のモル数と(A)、(B)成分が含有する合計のビニル基の
モル数とのモル比[SiH/SiCH=CH2]が0.5〜5となる量、
(D)有機過酸化物
(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対し0.1〜10質量部
を含有してなるシリコーンゴム組成物の硬化物からなるシリコーンゴム層を形成してなることを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
シリコーンゴム層が、補強性シリカを(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対し5〜100質量部を含有し、かつ補強性シリカ以外に平均粒子径0.5μm以上の充填剤を含まない請求項1記載の静電チャック。
【請求項3】
シリコーンゴム層の厚さが10〜150μmの範囲である請求項1又は2記載の静電チャック。
【請求項4】
シリコーンゴム層の硬さが60以上であり、かつ25%引張応力が3MPa以上である請求項1,2又は3記載の静電チャック。

【図1】
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【公開番号】特開2012−109424(P2012−109424A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257508(P2010−257508)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(594014328)株式会社シンコーモールド (5)
【Fターム(参考)】