説明

非ハロゲン難燃性樹脂組成物及びその製造方法並びにこれを用いた電線・ケーブル

【課題】難燃剤である金属水酸化物を効率的に多量に樹脂中に混合させてもスクリュートルクを押さえ、安定した樹脂組成物の製造でき、かつダイスかすの発生を抑えた非ハロゲン難燃性樹脂組成物及びその製造方法並びにこれを用いた電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体を、40〜80質量部、(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂を、60〜20質量部、(C)金属水酸化物を、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)と結晶性ポリオレフィン系樹脂(B)の合計100質量部に対して40〜250質量部、(D)ポリメチルメタクリレートを、前記(A)と(B)の合計100質量部に対して0.1〜10質量部含有し、当該エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)がシラン架橋されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可とう性および難燃性に優れ、しかも同時に高い機械的強度、耐熱性、耐油性、リサイクル性を有する非ハロゲン難燃性樹脂組成物に係り、特に酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体を混練中にシラン架橋させることによって得られる非ハロゲン難燃性樹脂組成物及びその製造方法並びにこれを用いた電線・ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境保全に対する活動は世界的な高まりをみせており、電線被覆材料においても燃焼時に有害なガスを発生せず、廃棄処分時の環境汚染が少なく、マテリアルリサイクルが可能な材料の普及が急速に進んできている。
【0003】
このような材料として一般的なものは、結晶性ポリオレフィン系樹脂や熱可塑性エラストマーなどのベースポリマーに金属水酸化物をはじめとする非ハロゲン難燃剤を混和した組成物である。特に柔らかい材料が必要とされる用途には、ゴムと樹脂の中間の弾性率を持つ熱可塑性エラストマーと難燃剤の組成物を使用するケースが多くなっている。
【0004】
しかしながら可とう性を向上させると一般に機械的強度が低下するため、可とう性と機械的強度の両立を達成するために特許文献1で示されているように、(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体40〜80質量部、(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂60〜20質量部、(C)金属水酸化物を(A)と(B)の合計100質量部に対して40〜250質量部含有し、当該エチレン−酢酸ビニル共重合体がシラン架橋する方法が挙げられる。
【0005】
上記樹脂組成物を連続的で生産量もありかつ製造の安定性のある方法として二軸押出機による混練方法がある。
【0006】
二軸押出機を用いた上記樹脂組成物の製造方法の一例として、(1)エチレン−酢酸ビニル共重合体にシラン化合物をグラフト共重合させた樹脂に結晶性ポリオレフィン系樹脂を混練し、(2)(1)の樹脂組成物に金属水酸化物およびシラノール縮合触媒等の配合剤を混練しながらエチレン−酢酸ビニル共重合体をシラン架橋させる手法などがある。
【0007】
また、エチレン−酢酸ビニル共重合体、結晶性ポリオレフィン系樹脂および金属水酸化物の三成分を混練する時の順序は任意であるが、シラノール縮合触媒は最後に加えるのが最適である。その他の酸化防止剤や着色剤などの配合剤はどのタイミングで加えても良い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−31354号公報
【特許文献2】特開2000−106041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記非ハロゲン難燃性樹脂組成物を二軸押出機を用いて製造する際に、金属水酸化物をエチレン−酢酸ビニル共重合体に混練するため、またシラン架橋反応した溶融樹脂は粘度が上昇するためにスクリュートルクが増大し、高トルク型の二軸押出機を用いても押出機の能力限界で押出す必要がある。
【0010】
また、二軸押出機またはニーダー、バンバリミキサー、ロール等で生成させた上記非ハロゲン難燃性樹脂組成物を用いて電線・ケーブルの絶縁体またはシースとして被覆する時にダイスかすが発生し、発生したダイスかすが電線・ケーブルの絶縁体またはシースに付着するという問題がある。
【0011】
一方、特許文献2には、柔軟ノンハロゲン電線ケーブルにおいて、加工助剤としてポリメタクリル酸メチルを配合することが記載されている。
【0012】
しかしながら、上記特許文献2は、シースを端末加工する際の端末加工性向上を目的としてポリメタクリル酸メチルを配合するものであり、押出機中で混練しながら樹脂をシラン架橋させる手法においてシラン架橋反応した溶融樹脂は粘度が上昇しスクリュートルクが増大するため、成形加工時に比エネルギーを減少させること、また、電線・ケーブルの絶縁体やシースとして樹脂組成物を被覆する際にダイスかす発生を低減させることについては一切記載されていない。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、難燃剤である金属水酸化物を効率的に多量に樹脂中に混合させても、比エネルギーを減少させ、スクリュートルクを押さえ、安定した樹脂組成物の製造ができ、かつダイスかすの発生を抑えた非ハロゲン難燃性樹脂組成物及びその製造方法並びにこれを用いた電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体を、40〜80質量部、(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂を、60〜20質量部、(C)金属水酸化物を、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)と結晶性ポリオレフィン系樹脂(B)の合計100質量部に対して40〜250質量部、(D)ポリメチルメタクリレートを、前記(A)と(B)の合計100質量部に対して0.1〜10質量部含有し、当該エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)がシラン架橋されていることを特徴とする非ハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0015】
請求項2の発明は、上記(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体の相が、(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂の相中に分散している請求項1記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0016】
請求項3の発明は、上記(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂が、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキサン−1共重合体、エチレン−オクタン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1及び請求項2記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0017】
請求項4の発明は、上記(C)金属水酸化物が、水酸化マグネシウムであり、シラン系カップリング剤で表面処理されている請求項1〜3いずれかに記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0018】
請求項5の発明は、請求項1〜4いずれかに記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物を製造する方法において、上記シラン架橋されたエチレン−酢酸ビニル共重合体が、シラン化合物をグラフト共重合させたエチレン−酢酸ビニル共重合体と金属水酸化物およびシラノール縮合触媒を混練することによって形成されることを特徴とする非ハロゲン難燃性樹脂組成物の製造方法である。
【0019】
請求項6の発明は、エチレン−酢酸ビニル共重合体にシラン化合物をグラフト共重合させた後、結晶性ポリオレフィン系樹脂と金属水酸化物とポリメチルメタクリレートを加える請求項5記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物の製造方法である。
【0020】
請求項7の発明は、請求項1〜4いずれかに記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物を絶縁体またはシースに用いたことを特徴とする電線・ケーブルである。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、非ハロゲン難燃性樹脂組成物として、ポリメチルメタクリレートを混練することを特徴としており、これにより難燃剤として金属水酸化物を混和しても、混練時の比エネルギーを減少させかつダイスかすを低減させた非ハロゲン難燃性樹脂組成物を得ることができる。
【0022】
これにより、本発明は、非ハロゲン難燃性樹脂組成物の製造において、製造時のスクリューモータ負荷を低減でき、またダイスかすを低減できる混練物の製造方法を提供することができ、これにより品質の安定した電線・ケーブルを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明が適用される電線・ケーブルの詳細断面図である。
【図2】本発明に係る電線・ケーブルの製造方法の一例を示す製造装置の図である。
【図3】本発明において、非ハロゲン難燃性樹脂組成物の加熱変形試験を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0025】
先ず、本発明の非ハロゲン難燃性樹脂組成物が適用される電線・ケーブルについて、図1により説明する。
【0026】
図1は、銅導体1に、非ハロゲン難燃性樹脂組成物からなる絶縁体2を被覆して電線3とし、この電線3を3本撚り合わせ、その外周に、非ハロゲン難燃性樹脂組成物からなるシース4を被覆して電線・ケーブル5が構成される。
【0027】
図2は、非ハロゲン難燃性樹脂組成物を押出機を用いて、絶縁体2やシース4を押出成形する電線・ケーブルの製造装置を示したもので、二軸押出機10から非ハロゲン難燃性樹脂組成物が押出ダイス13に押し出され、巻き出し機11から、銅導体1或いは3本撚り合わせた電線3が繰り出されて、押出ダイス13に挿通され、そこで銅導体1であれば、その外周に非ハロゲン難燃性樹脂組成物が絶縁体2として被覆されて電線3とされ、3本撚り合わせた電線3であれば、その外周に非ハロゲン難燃性樹脂組成物がシース4として被覆されて電線・ケーブル5とされ、冷却水槽14で冷却され、巻き取り機15にて、電線3或いは電線・ケーブル5が巻き取られる。
【0028】
さて本発明においては、押出機10で押出成形する際の非ハロゲン難燃性樹脂組成物として、(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体を、40〜80質量部、(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂を、60〜20質量部、(C)金属水酸化物を、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)と結晶性ポリオレフィン系樹脂(B)の合計100質量部に対して40〜250質量部、(D)ポリメチルメタクリレートを、前記(A)と(B)の合計100質量部に対して0.1〜10質量部含有し、当該エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)がシラン架橋されている非ハロゲン難燃性樹脂組成物とすることにある。
本発明は、 非ハロゲン難燃性樹脂組成物としてポリメチルメタクリレートを混練することにより、混練時の比エネルギーを減少させかつダイスかすを低減させた樹脂組成物とするものである。
【0029】
本発明は、(C)金属水酸化物としての水酸化マグネシウムをより多く供給でき、樹脂組成物に混練される水酸化マグネシウムの充填量を増加した場合は、難燃性の高い樹脂組成物で構成された電線・ケーブルが得られる。
【0030】
これにより、(D)ポリメチルメタクリレートには、流動性を良くして樹脂の加工性を向上させる効果の他に、金属面との離型性をよくする効果もありダイスかすを低減させる効果もある。
【0031】
本発明で規定する(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が30mass%以上のものである。これは酢酸ビニル含有量が30mass%より少ない場合、組成物が硬くなりハロゲン系材料と同等の可とう性が得られなくなるからである。分子量、溶融粘度等に特に限定はなく任意のものが使用できる。
【0032】
また上記(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体には、シラン架橋させるためにシラン化合物が共重合される。
【0033】
シラン化合物には、ポリマーと反応可能な基とシラノール縮合により架橋を形成するアルコキシル基をともに有していることが要求され、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン化合物、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン化合物、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド等のポリスルフィドシラン化合物、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン化合物などを挙げることができる。
【0034】
シラン化合物をグラフト共重合させるには既知の一般的手法、すなわちベースのエチレン−酢酸ビニル共重合体に所定量のシラン化合物、遊離ラジカル発生剤を混合し、80〜200℃の温度で溶融混練する方法を用いることができる。
【0035】
遊離ラジカル発生剤としては、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物が主として使用できる。
【0036】
シラン化合物の添加量は、特に規定しないが良好な物性を得るためにはエチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して、0.5〜10質量部が好適である。0.5質量部より少ないと十分な架橋効果が得られず、組成物の強度、耐熱性が劣り、10質量部を超えると加工性が著しく低下する。
【0037】
また、遊離ラジカル発生剤である有機過酸化物の最適な量は、エチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して0.001〜3質量部である。0.001質量部より少ないとシラン化合物が十分にグラフト共重合せず十分な架橋効果が得られない。3質量部を超えるとエチレン−酢酸ビニル共重合体のスコーチが起きやすくなる。
【0038】
(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂としては、既知のものが使用てき、特にポリプロピレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン−ブレン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体の中から選ばれる少なくとも1種を含み、単独もしくは2種以上をブレンドして用いるのが望ましい。
【0039】
上記ポリプロピレンとしては、ホモポリマーの他にエチレンに代表されるα−オレフィンを共重合したブロック共重合体やランダム共重合体およびエチレンプロピレンゴムに代表されるゴム成分を重合段階で導入したポリプロピレンを含むものとする。上記エチレン−酢酸ビニル共重合体としては結晶性を有した酢酸ビニル含有量が30mass%より少ないものを用いることができる。また、その他に使用できるものとしては低密度ポリエチレン、ポリブテン、ポリ−4−メチル−ペンテン−1、エチレン−ブテン−ヘキセン三元共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−グリジシルメタクリレート共重合体などが挙げられる。
【0040】
本発明において、上記(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体と、(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂の配合割合は、両者の合計100質量部に対し、(A)が40〜80質量部、(B)が60〜20質量部である。
【0041】
(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体の成分が80質量部を超えると、押出成形性の著しい低下がみられる。また、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体の成分が40質量部より少ないと、良好な可とう性が得られない。
【0042】
本発明で用いる(C)金属水酸化物は、組成中に難燃性を付与するものであるとともに、シラン化合物をグラフト共重合させたエチレン−酢酸ビニル共重合体の架橋をシラノール縮合触媒とともに促進させ、混練中に架橋を可能にするものである。
【0043】
架橋を促進させる機構としては、詳細は不明であるが、金属水酸化物のもつ水分がアルコキシル基の加水分解を促進させ、シラノール縮合触媒がシラノール基の脱水縮合を促進するものと推測している。
【0044】
このような(C)金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等が挙げられ、中でも難燃効果の最も高い水酸化マグネシウムが好適である。金属水酸化物は分散性の観点から表面処理されていることが望ましい。
【0045】
表面処理剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、脂肪酸または脂肪酸金属塩等が使用でき、中でも樹脂と金属水酸化物の密着性を高める点でシラン系カップリング剤が望ましい。
【0046】
使用できるシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン化合物、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン化合物、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)ゾロピル)テトラスルフィド等のポリスルフィドシラン化合物、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン化合物などを挙げることができる。
【0047】
これらの表面処理剤を金属水酸化物に処理させる方法としては湿式法、乾式法、直接混練法などの既知のものを用いてよい。
【0048】
処理量は特に規定しないが金属水酸化物に対して、0.1〜5mass%の範囲であることが望ましく、処理量が0.1mass%より少ないと樹脂組成物の強度が低下し、5mass%より多いと加工性が悪くなる。
【0049】
また金属水酸化物の平均粒子径は、機械的特性、分散性、難燃性の点から4μm以下のものがより好適である。
【0050】
(C)金属水酸化物の添加量は、(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体と(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂の合計100質量部に対して、40〜250質量部である。40質量部より少ないと優れた難燃効果が得られず、250質量部を超えると可とう性や機械的強度が著しく低下する。
【0051】
本発明では上記(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体の一部、または(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂の一部に、不飽和カルボン酸またはその誘導体を共重合させた酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体または結晶性ポリオレフィン系樹脂を用いることが可能である。すなわち、(C)金属水酸化物と不飽和カルボン酸またはその誘導体を共重合させたエチレン−酢酸ビニル共重合体または結晶性ポリオレフィン系樹脂を用いることが可能である。これにより(C)金属水酸化物と不飽和カルボン酸またはその誘導体の間で反応が起き、密着性が高まることによって組成物の機械的強度が向上する。ここでのエチレン−酢酸ビニル共重合体または結晶性ポリオレフィンについては、前述したものがそのまま使用できる。不飽和カルボン酸またはその誘導体については特に限定しないが、無水マレイン酸が好適である。また置き換える量は任意であるが、0.5質量部〜10重量部が望ましい。0.5質量部より少ないと強度向上の効果は得られず、10質量部を超えると加工性が著しく低下する。
【0052】
また、本発明において用いることのできるシラノール縮合触媒は、シブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクタエート、酢酸第1錫、カプリル酸第1錫、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト等があり、その添加量は触媒の種類によるがゴム100質量部当たり0.001〜0.1質量部に設定される。
【0053】
添加方法としては、そのまま添加する方法以外にエチレン−酢酸ビニル共重合体や結晶性ポリオレフィン系樹脂に予め混ぜたマスターバッチを使用する方法などがある。
【0054】
本発明に用いる(D)ポリメチルメタクリレートは、混練中の比エネルギーを低減させることにより混練機(二軸押出機)のモータ負荷を低減させることが可能となるとともに、導体に絶縁体を形成する工程、または絶縁体が形成されたケーブルにシースを形成する工程において、押出しダイス先端に付着するダイスかすを低減させることが可能となる。
【0055】
混練時の比エネルギーを低減させる機構としては、詳細は不明であるが、ポリメチルメタクリレートのもつ流動性が混練物の流動性を良くし比エネルギーを低減するものと推測している。また、ダイスかすを低減させる機構としては、詳細は不明であるが、ポリメチルメタクリレートのもつ離型性が金属性のダイスヘの混練物の付着を阻害しているためと推定している。
【0056】
(D)ポリメチルメタクリレートについては、特に限定しないが、平均粒子径は、機械的特性、分散性の観点から10μm以下のパウダー状のものがより好適である。
【0057】
(D)ポリメチルメタクリレートの添加量は、(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体と(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、好ましくは3〜10質量部である。0.1質量部より少ないと押出時の比エネルギーを低減させることができないとともに、ダイスかす低減の効果も見られない。10質量部を超えると機械的強度が著しく低下する。
【0058】
上記以外にも必要に応じてプロセス油、加工助剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、滑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤等の添加物を加えることも可能である。
【0059】
本発明の組成物を製造する装置に限定はないが、ニーダー、バンバリミキサー、ロール、二軸押出機などの汎用のものが使用できる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例1〜10と比較例1〜14について説明する。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
表1、2に示したシラングラフトエチレン−酢酸ビニル共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体にシラン化合物をグラフト共重合させた後、結晶性ポリオレフィン系樹脂を混練して、エチレン−酢酸ビニル共重合体の相が、結晶性ポリオレフィン系樹脂の相中に分散させた状態にした。
【0064】
すなわち、エチレン−酢酸ビニル共重合体にシラン化合物をグラフト共重合させた後、結晶性ポリオレフィン系樹脂を混練する工程では、原料のエチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量42mass%)/ビニルトリメトキシシラン/ジクミルパーオキサイド/結晶性ポリオレフィン系樹脂(エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、直鎖状低密度ポリエチレン)を70/3.5/0.02/30質量部の比率で、200℃に設定した40mmの二軸押出機(L/D=60)に投入して混練物とした。なお結晶性ポリオレフィン系樹脂は、エチレン−酢酸ビニル共重合体のシラン化合物によるグラフト反応が進んだ後にサイドから投入する。
【0065】
次に、この混練物と、金属水酸化物と、ポリメチルメタクリレートと、シラノール縮合触媒(ジブチル錫ラウレート)、酸化防止剤等の配合剤を混練し、エチレン−酢酸ビニル共重合体をシラン架橋させる工程によって作製した。
【0066】
すなわち表1、表2の組成に示した配合比となるように各成分を40mm二軸押出機(L/D=60)に投入することで混練し、混練中にグラフト共重合させたエチレン−酢酸ビニル共重合体を架橋させることで混練物を作製した。
【0067】
温度は180℃とし、エチレン−酢酸ビニル共重合体にシラン化合物をグラフト共重合させた後結晶性ポリオレフィン系樹脂を混練する工程で作製された混練物、金属水酸化物、ポリメチルメタクリレートを一括して押出機に投入し、十分混練・分散した後サイドよりシラノール縮合触媒を投入・混練し、エチレン−酢酸ビニル共重合体をシラン架橋させ、これをペレット化し、ケーブル作製用の材料とした。
【0068】
ケーブルは180℃に予熱した40mm押出機(L/D=24)を用い、ケーブルコアに厚さ1.5mmで押出被覆して作製した。ケーブルコアとして、外径2mmの銅導体にポリエチレンを厚さ0.8mmで被覆したものを、介在と共に3芯撚合わせ、クラフト紙テープにより抑え巻きを施したものを使用した。
【0069】
比エネルギーは、40mm二軸押出機(L/D=60)において、エチレン−酢酸ビニル共重合体にシラン化合物をグラフト共重合させた後結晶性ポリオレフィン系樹脂を混練する工程で生成された混練物、金属水酸化物、ポリメチルメタクリレート、シラノール縮合触媒等の配合剤を混練し、エチレン−酢酸ビニル共重合体をシラン架橋させる際に、吐出量を100kg/h、スクリュー回転数を600rpmに固定した場合のモータ負荷より求めた。
【0070】
また、ダイスかすは、前記二軸押出機でシラン架橋させペレット化したケーブル作製用の材料を180℃に予熱した40mm押出機(L/D=24)を30分間運転した状態で、ダイス先端のケーブルが押出される部位に発生するかすを採取し、表2のポリメチルメタクリレートを配合していない比較例1の配合で押出した場合を100とし、それぞれの配合におけるダイスかす発生量を比較した。
【0071】
なお、比較例2〜11のポリメチルメタクリレートを含まない配合では正確なダイスかす重量を測定していないが、外観上でのダイスかす付着量は比較例1と殆ど差がない。
【0072】
上記手順で作製したケーブルを次に示す方法で評価した。
【0073】
可とう性;
材料の可とう性の指標としてJIS K6253に基づくデュロメータ硬さを測定し、またケーブルとしての可とう性を長さ200mmのケーブルの片端を固定し、もう一方に10gの荷重をかけたときのたわみ量(水平に対して低下した距離)により評価した。たわみ量が大きいほど可とう性は良好である。
【0074】
機械的強度、耐熱性、耐油性、難燃性はJIS C3005に準拠して評価した。
【0075】
引張強さ(MPa);
引張強さは、目標値として10MPa以上を合格とした。
【0076】
伸び(%);
破断伸び150%以上を合格とした。
【0077】
加熱変形:厚さ減少率(%);
加熱変形試験については、図3に示すように、かまぼこ状の突起がある治具30に評価サンプル31を乗せ、その評価サンプル31上に押圧治具32を乗せ、これを恒温槽33で、75℃の環境下に保ち、恒温槽33から上部に突出した押圧治具32におもり34(荷重10N)を乗せ、押圧治具32の30分後の変位量を変位計35で測定し、下式の厚さ減少率で評価した。
【0078】
厚さ減少率[%]=変位量/サンプル厚さ×100
この加熱変形試験(75℃、荷重10N)で、厚さ減少率10%以下を合格とした。
【0079】
耐油性;引張強さの残率(%);
耐油(70℃×4時間)浸漬の前と後の引張強さを測定し、
引張強さ残率[%]=浸漬後の引張り強さ/浸漬前の引張り強さ×100
で求めた。
【0080】
この耐油性はIRM902号油を試験油とし70℃、4時間浸漬させ、引張強さの残率が60%以上であるものを合格とした。
【0081】
60度傾斜試験;
難燃性評価には60度傾斜燃焼試験を行い、炎を取り去った後の延焼時間を測定し、60秒以内に自然消火したものを合格とした。
【0082】
以上において、実施例1〜10と比較例1〜11は、共に機械的強さ、耐熱性、耐油性、難燃性の特性が良好であるが、比較例1〜11は、ポリメチルメタクリレートを配合していないためにダイス付着量が多く押出加工性に劣るが、実施例1〜10は、ダイス付着量が、比較例1を100としたとき、80以下であり、良好な押出加工性があることがわかった。
【0083】
また、実施例1〜4は、ポリメチルメタクリレートの配合量を変化させ、機械的強さ、耐熱性、耐油性、難燃性について評価したものであるが、ポリメチルメタクリレートの配合量が、エチレン−酢酸ビニル共重合体と結晶性ポリオレフィン系樹脂の合計100質量部に対して10質量部の実施例4では、実施例1〜3に比べて、引張強さや伸びの特性が低下してくるが、機械的強さ、耐熱性、耐油性、難燃性の特性は優れている。これに対して、ポリメチルメタクリレートの配合量が、エチレン−酢酸ビニル共重合体と結晶性ポリオレフィン系樹脂の合計100質量部に対して15質量部の比較例12は、ダイスかす付着量は少ないものの、伸びが120%となり機械的特性が悪くなる。よってポリメチルメタクリレートの配合量は、エチレン−酢酸ビニル共重合体と結晶性ポリオレフィン系樹脂の合計100質量部に対して10質量部以下が良い。
【0084】
また二軸押出機で押出す時の比エネルギーは、比較例1に対して低減でき、例えば、ポリメチルメタクリレートを5質量部配合した場合は、比較例1に対して5%程度低減でき、これにより二軸押出機のスクリューモータの負荷を低減でき、安定した混練物の製造が可能となる。
【0085】
よって、ポリメチルメタクリレートの配合量が、3〜10質量部の場合でそれぞれケーブル製造時にダイスに付着するダイスかすが40%〜70%程度低減できる。
【0086】
また、比較例13は、エチレン−酢酸ビニル共重合体と結晶性ポリオレフィン系樹脂の合計100質量部に対してポリメチルメタクリレートを10質量部配合したものであるが、水酸化マグネシウムの配合量が30質量部のため、難燃性が悪くなり、また比較例14は水酸化マグネシウムを280質量部としたため、押出成形が不可となった。
【0087】
よって金属水酸化物は40〜250質量部がよい。
【0088】
以上、実施例を説明したが、本発明では、二軸押出機の他に四軸など、多軸押出機などの他の押出機の場合も本発明と同様の効果が期待できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0089】
1 銅導体
2 絶縁体
3 電線
4 シース
5 電線・ケーブル
10 押出機
11 導体巻き出し機
12 導体
13 押出しダイス
15 ケーブル巻き取り機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酢酸ビニル含有量が30mass%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体を、40〜80質量部、(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂を、60〜20質量部、(C)金属水酸化物を、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)と結晶性ポリオレフィン系樹脂(B)の合計100質量部に対して40〜250質量部、(D)ポリメチルメタクリレートを、前記(A)と(B)の合計100質量部に対して0.1〜10質量部含有し、当該エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)がシラン架橋されていることを特徴とする非ハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
上記(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体の相が、(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂の相中に分散している請求項1記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
上記(B)結晶性ポリオレフィン系樹脂が、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキサン−1共重合体、エチレン−オクタン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は請求項2記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
上記(C)金属水酸化物が、水酸化マグネシウムであり、シラン系カップリング剤で表面処理されている請求項1〜3いずれかに記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物を製造する方法において、上記シラン架橋されたエチレン−酢酸ビニル共重合体が、シラン化合物をグラフト共重合させたエチレン−酢酸ビニル共重合体と金属水酸化物およびシラノール縮合触媒を混練することによって形成されることを特徴とする非ハロゲン難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
エチレン−酢酸ビニル共重合体にシラン化合物をグラフト共重合させた後、結晶性ポリオレフィン系樹脂と金属水酸化物とポリメチルメタクリレートを加える請求項5記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4いずれかに記載の非ハロゲン難燃性樹脂組成物を絶縁体またはシースに用いたことを特徴とする電線・ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−254883(P2010−254883A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108911(P2009−108911)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】