非晶質炭素被覆部材および金属材料の加工方法
【課題】工具、金型、摺動部品などに好適に用いられ、環境にも配慮した潤滑油を用いても耐久性を向上させることができる被覆部材を提供する。また、その被覆部材を工具あるいは金型として用いて行う金属材料の加工方法を提供する。
【解決手段】被覆部材10は、潤滑油基油に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちの少なくとも一種が結合した炭素原子を1以上有する炭化水素系添加剤21を配合してなる潤滑油20の存在下で使用され、基材11と、珪素を含み基材11の表面に形成され相手材と摺接する硬質非晶質炭素膜12と、を備えることを特徴とする。被覆部材10が工具または金型であれば、金属材料と、工具または金型と、の摺接面間に炭化水素系添加剤21を配合してなる潤滑油20を供給して金属材料の加工を行う。
【解決手段】被覆部材10は、潤滑油基油に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちの少なくとも一種が結合した炭素原子を1以上有する炭化水素系添加剤21を配合してなる潤滑油20の存在下で使用され、基材11と、珪素を含み基材11の表面に形成され相手材と摺接する硬質非晶質炭素膜12と、を備えることを特徴とする。被覆部材10が工具または金型であれば、金属材料と、工具または金型と、の摺接面間に炭化水素系添加剤21を配合してなる潤滑油20を供給して金属材料の加工を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具、金型、摺動部品などに使用される被覆部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、工具や金型、各種装置の部品などの表面には、求められる性能に応じた表面処理が行われている。たとえば、耐摩耗性、耐焼付き性、低摩擦性などの摩擦特性が求められる工具や金型の表面には金属窒化物膜、金属炭化物膜、金属硫化物膜、炭素膜などが形成されることが多い。また、摩擦特性をさらに向上させるために、潤滑剤の存在下で使用されることがある。すなわち、表面処理と潤滑剤との組み合わせで、摩擦特性を向上させている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、潤滑油基油に、硫黄系極圧剤、有機亜鉛化合物、カルシウム系添加剤およびエステル化合物を配合してなる金属材料加工用の潤滑油が開示されている。この潤滑油は、加工中、金属材料と表面にTiNコーティングを施した工具との間に供給されて用いられる。
【0004】
また、特許文献2には、潤滑油の存在下で摺動し、基材表面に硬質非晶質炭素膜が被覆された摺動部材が開示されている。水素などをほとんど含まない炭素からなる最表面を摺動面とすることで、摺動時の摩擦を低減している。
【0005】
さらに、特許文献3には、珪素を含有する非晶質炭素膜を表面にもつ金型を用いた冷間加工方法が開示されている。この冷間加工では、潤滑油ではなく、水で容易に除去が可能な一般的なセッケンと同じ成分からなるセッケン皮膜を形成して潤滑を行うため、環境への負荷が極めて少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−56707号公報
【特許文献2】特開2005−89735号公報
【特許文献3】特開2007−136511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている潤滑油のように、各種添加剤を配合した高性能な潤滑油は、摩擦の低減効果が高い。しかしながら、この類の高性能な潤滑油に含まれる添加剤の中には、カルシウム、硫黄、リン、塩素などの化合物もあり、環境上望ましくない場合がある。また、特許文献2および特許文献3では、ともに、特定の組成をもつ非晶質炭素膜と特定の潤滑剤とを組み合わせて用いているが、耐摩耗性および耐焼付き性の面、すなわち耐久性の面で、さらなる改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、工具、金型、摺動部品などに好適に用いられ、環境にも配慮した潤滑油を用いても耐久性を向上させることができる被覆部材を提供することを目的とする。また、その被覆部材を工具あるいは金型として用いて行う金属材料の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の非晶質炭素被覆部材(以下「本発明の被覆部材」と略記)は、潤滑油基油に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちの少なくとも一種が結合した炭素原子を1以上有する炭化水素系添加剤を配合してなる潤滑油の存在下で使用され、
基材と、珪素を含み該基材の表面に形成され相手材と摺接する硬質非晶質炭素膜と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の被覆部材は、珪素(Si)を含む硬質非晶質炭素膜を備える。本発明者等の分析によれば、Siを含む硬質非晶質炭素膜の表面には、相手材と摺接するときにシラノール(Si−OH)が生成される。さらに、本発明の被覆部材は、上記した極性を有する官能基を分子構造内にもつ特定の炭化水素系添加剤が配合された潤滑油の存在下で使用される。極性を有する官能基は、硬質非晶質炭素膜の表面のシラノールに吸着しやすい。その結果、硬質非晶質炭素膜の表面に炭化水素系添加剤を含む潤滑油の膜が形成され、摩擦特性が向上し、ひいては耐久性が向上する。すなわち、本発明の被覆部材によれば、環境上望ましくない添加剤の作用に因らずに、摩擦特性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明の金属材料の加工方法は、(以下「本発明の加工方法」と略記)金属材料と、該金属材料と摺接する表面に珪素を含有する硬質非晶質炭素膜を備える工具または金型と、の摺接面間に、潤滑油基油に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちの少なくとも一種が結合した炭素原子を1以上有する炭化水素系添加剤を配合してなる潤滑油を供給して該金属材料の加工を行うことを特徴とする。
【0012】
本発明の加工方法においても、硬質非晶質炭素膜の表面にシラノールが生成されることで、その表面に潤滑油の膜が形成される。つまり、加工においても摩擦特性が向上し、ひいては工具および金型の耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】使用時における本発明の非晶質炭素被覆部材の要部断面を示す模式図である。
【図2】ブロック・オン・リング型摩擦試験機の概略図である。
【図3】ベース油を用いた摩擦試験後のブロック試験片の表面形状を示す。
【図4】ヘキサデカノールを含む潤滑油を用いた摩擦試験後のブロック試験片の表面形状を示す。
【図5】パルミチン酸を含む潤滑油を用いた摩擦試験後のブロック試験片の表面形状を示す。
【図6】パルミチン酸メチルを含む潤滑油を用いた摩擦試験後のブロック試験片の表面形状を示す。
【図7】ヘキサデシルアミンを含む潤滑油を用いた摩擦試験後のブロック試験片の表面形状を示す。
【図8】摩擦試験における摩擦係数の測定結果を示すグラフであって、試験温度に対する摩擦係数を示す。
【図9】アミン系添加剤を含む潤滑油を用いた摩擦試験における摩擦係数の測定結果を示すグラフであって、試験温度に対する摩擦係数を示す。
【図10】ボール通し試験機の模式図である。
【図11】ボール押込速度を200mm/秒で行ったボール通し試験における、ボール押込距離に対するボール押込荷重を示すグラフである。
【図12】ボール押込速度を5mm/秒で行ったボール通し試験における、ボール押込距離に対するボール押込荷重を示すグラフである。
【図13】ボール押込速度を5mm/秒で行ったボール通し試験において、ボールを押し込むのに要した押込荷重の最大値(最大加工力)を、使用した潤滑油の種類ごとに示すグラフである。
【図14】ボール押込速度を200mm/秒で行ったボール通し試験における、ボール押込距離に対するボール押込荷重を示すグラフである。
【図15】ボール押込速度を200mm/秒で行ったボール通し試験において、ボールを押し込むのに要した押込荷重の最大値(最大加工力)を、使用した潤滑油の種類ごとに示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の非晶質炭素被覆部材および金属材料の加工方法を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。
【0015】
本発明の被覆部材は、後に詳説する特定の潤滑剤の存在下で使用され、基材と、珪素を含み基材の表面に形成され相手材と摺接する硬質非晶質炭素膜と、を備える。
【0016】
基材の材質は特に限定されるものではなく、被覆部材の用途に応じて、金属、セラミックス、樹脂などから選ばれる材料を用いればよい。たとえば、炭素鋼、合金鋼、鋳鉄、アルミニウム合金などの金属製基材、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス製基材、ポリイミド、ポリアミドなどの樹脂製基材、超硬合金などが挙げられる。また、相手材の材質も特に限定されるものではなく、被覆部材の用途による。たとえば、被覆部材を塑性加工用の金型あるいは工具として用いるのであれば、相手材は金属製の被加工材である。
【0017】
基材の表面粗さは、JISに規定される十点平均粗さRzで5.0μm以下さらには3.0μm以下とするとよい。Rzを1.0μm以下とするとより好適である。表面粗さが5.0μmを超えると、硬質非晶質炭素膜の表面粗さも粗くなり、潤滑油による摩擦特性の向上効果が発現しにくくなる。
【0018】
硬質非晶質炭素膜は、炭素を主成分とし、Siを含む。硬質非晶質炭素膜は、硬質非晶質炭素膜全体を100原子%としたときにSiを2原子%以上18原子%以下さらには4原子%以上14原子%以下含むとよい。Si含有量が4原子%以上であれば、硬質非晶質炭素膜の表面にシラノールが生成されやすいため好ましい。使用環境が酸化雰囲気である場合にはシラノールは形成されやすいため、Si含有量は2原子%以上であればよい。たとえば、水分が存在する空気中または水分が存在する潤滑油中で使用する場合には、シラノールは形成されやすい。Si含有量が多いほど、硬質非晶質炭素膜の表面にシラノールが形成されやすくなり、その量も増加するが、18原子%を超えると硬質非晶質炭素膜が摩耗しやすくなるため好ましくない。
【0019】
また、硬質非晶質炭素膜は、さらに水素(H)を含んでもよい。硬質非晶質炭素膜は、硬質非晶質炭素膜全体を100原子%としたときに、Hを15原子%以上35原子%以下さらには20原子%以上33原子%以下含むとよい。硬質非晶質炭素膜に含まれるH量が多いほど膜の硬さは低下するため、H含有量を35原子%以下とするのが好ましい。一方、H量が少なくなると、基材との密着性、膜自体の靭性などが低下する。そのため、H含有量を15原子%以上とすると好適である。
【0020】
なお、硬質非晶質炭素膜の表面に生成されるシラノール基の量は、誘導体化XPS分析により測定可能である。誘導体化試薬(たとえばトリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルジメチルクロロシラン)のSi−Cl基と、硬質非晶質炭素膜の表面のSi−OH基と、の脱塩酸反応により、Si−OH基はフッ素(F)を含む化合物に置換される。X線光電子分光法(XPS)による表面分析でF量を測定することで、膜表面のSi−OH基の量を間接的に定量できる。本発明の被覆部材においては、誘導体化XPS分析により得られるF量は、2原子%以上さらには4原子%以上であるのが好ましい。
【0021】
硬質非晶質炭素膜は、基材の表面硬さよりも硬いとよい。耐摩耗性の面から、硬質非晶質炭素膜の硬さが10GPa以上さらには15GPa以上の硬質膜であるのが好ましい。10GPa以上であれば、高面圧での使用にも耐えうる。SiおよびHの含有量が上記範囲にある硬質非晶質炭素膜は、10GPa以上の硬質な硬質非晶質炭素膜である。なお、本明細書において、硬質非晶質炭素膜の硬さは、ナノインデンター試験機(Hysitron社製トライボスコープ)による測定値を採用する。
【0022】
また、硬質非晶質炭素膜の膜厚は、0.3μm以上6μm以下さらには0.5μm以上3μm以下とすると好適である。硬質非晶質炭素膜の膜厚が0.3μm以上であれば、基材の表面が十分に被覆される。一方、6μmを超えると、基材との密着性が低下するため好ましくない。
【0023】
硬質非晶質炭素膜は、相手材と摺接する。すなわち、硬質非晶質炭素膜は、基材の少なくとも摺接面に形成されればよい。硬質非晶質炭素膜は、プラズマCVD法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等、既に公知のCVD法、PVD法により形成すればよい。たとえば、プラズマCVD法により成膜する場合には、真空容器内に基材を配置して、反応ガスおよびキャリアガスを導入する。そして、放電によりプラズマを生成させ、反応ガス中のプラズマイオン化されたC、CH、Si等を基材に付着させ、硬質非晶質炭素膜を形成する。反応ガスには、メタン(CH4)、アセチレン(C2H2)等の炭化水素ガス、Si(CH3)4[TMS]、SiH4、SiCl4、SiH2F4等の珪素化合物ガス、および水素ガスを用い、キャリアガスにはアルゴンガスを用いればよい。
【0024】
本発明の被覆部材は、潤滑油の存在下で使用される。潤滑油は、潤滑油基油に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちの少なくとも一種が結合した炭素原子を1以上有する炭化水素系添加剤を配合してなる。
【0025】
潤滑油基油としては特に限定されるものではなく、鉱油、合成油、油脂など、潤滑油の基油として通常使用されるものであれば、種類を問わず使用することができる。鉱油としては、具体的には、パラフィン系、ナフテン系等の一般的な鉱油が使用可能である。合成油としては、具体的には、ポリ−α−オレフィン、ポリ−α−オレフィンの水素化物、イソブテンオリゴマー、イソブテンオリゴマーの水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル、ポリオールエステル、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。以上列挙したこれらの基油は、一種を単独であるいは二種以上を混合して用いてもよい。また、二種以上を混合して用いた場合の混合比も特に限定されず任意に選択することができる。
【0026】
そして、本発明の被覆部材では、様々な添加剤の中でも上記の炭化水素系添加剤を含む潤滑油の存在下で用いられることで、高い摩擦特性が得られる。この場合の摩擦特性の向上メカニズムは、以下のように考えられる。
【0027】
図1に、使用時における本発明の被覆部材の要部断面を模式的に示す。図1に示すように、被覆部材10は、基材11と硬質非晶質炭素膜12とを備える。硬質非晶質炭素膜12は、基材11の表面に形成される。相手材と摺接することにより、硬質非晶質炭素膜12の表面にはシラノール層(Si−OH層)13が生成される。シラノール層13の上には、さらに潤滑油からなる膜である境界膜20が生成される。境界膜20は、潤滑油中に含まれる炭化水素系添加剤21の極性をもつ官能基がシラノール層13の−OHに物理的および/または化学的に吸着することで形成される。使用時には、境界膜20を介して相手材(図示せず)と摺接するため、摩擦特性が向上し、摩耗が抑制される。
【0028】
炭化水素系添加剤は、極性を有する官能基を分子構造内にもつ。極性を有する官能基は、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちから選ばれる。これらの官能基は、シラノールに吸着しやすい。すなわち、これらの官能基のうちの少なくとも一種を分子構造にもつ炭化水素系添加剤がシラノールに吸着することで潤滑油からなる境界膜が形成されやすくなり、摩擦特性が向上する。炭化水素系添加剤は、分子構造中に同じ種類の官能基を1以上有してもよいし、異なる種類の官能基をそれぞれ1以上有してもよい。また、同じ炭素原子に同種あるいは異種の官能基を2以上有してもよい。炭化水素系添加剤は、鎖式であっても環式であってもよく、炭素数が8以上さらには12〜28である化合物からなるのが好ましい。炭素数が8以上の炭化水素系添加剤であれば、潤滑油基油との相溶性に優れるためである。すなわち、本発明に好適な炭化水素系添加剤の具体例としては、ステアリルアルコール(C=18)、オレイルアルコール(C=18:不飽和結合を含む)、ヘキサデカノール(C=16)、リノリルアルコール(C=16:不飽和結合を含む)、ミリスチルアルコール(C=14)、ラウリルアルコール(C=12)、カプリルアルコール(C=8)等のアルコール;ステアリン酸(C=18)、オレイン酸(C=18:不飽和結合を含む)、パルミチン酸(C=16)、パルミトイル酸(C=16:不飽和結合を含む)、ラウリン酸(C=12)、ミリスチン酸(C=14)等の脂肪酸;ヒドロキシパルミチン酸(C=16)等のヒドロキシ脂肪酸;ステアリン酸メチル(C=19)、オレイン酸メチル(C=19:不飽和結合を含む)、パルミチン酸メチル(C=17)、ミリスチン酸メチル(C=15)、ラウリン酸メチル(C=13)等のエステル;n−オクチルアミン(C=8)、1−アミノデカン(C=10)、n−ドデシルアミン(C=12)、1,12−ジアミノドデカン(C=12)、ヘキサデシルアミン(C=16)、オレイルアミン(C=18:不飽和結合を含む)等のアミン、などが挙げられる。これらのうちの一種を単独あるいは二種以上を複合添加すればよい。特に、分子構造中にアミノ基をもつアミン系添加剤は、高温(130℃以上さらには150℃以上)になると低摩擦係数を示すため、高温下で使用に好適である。
【0029】
潤滑油は、炭化水素系添加剤を0.001mol/kg以上さらには0.01mol/kg以上含むとよい。0.001mol/kg以上であれば、潤滑に十分な境界膜が形成され、摩擦特性が向上する。なお、炭化水素系添加剤の上限に特に限定はないが、1mol/kg以下さらには0.3mol/kg以下であるのがよい。
【0030】
潤滑剤は、必要に応じて他の添加剤を含んでもよい。ただし、潤滑油は、塩素系添加剤、カルシウム系添加剤、硫黄系添加剤およびリン系添加剤を実質的に含まないのが好ましい。また、モリブデン等の重金属を含む添加剤も実質的に含まないのが好ましい、なお、実質的に含まないとは、これらの添加剤の配合量が、潤滑油を100質量%としたときに合計で1質量%以下さらには0.1質量%以下である。本発明の被覆部材では、Cl、Ca、S、P、Moなどを含む化合物を添加剤として配合した一般的な潤滑油を用いることなく摩耗が低減されるとともに、低摩擦性が悪化することもない。
【0031】
なお、潤滑油に水分が含まれるとシラノール層が生成されやすいが、潤滑油に含まれる水の含有量に特に限定はない。あえて規定するのであれば、潤滑油を100質量%としたときに10ppm以上である。水分量が10ppm以上であれば十分なシラノール層が生成されるため好ましい。
【0032】
本発明の被覆部材は、工具、金型または摺動部品に好適である。具体的には、後述の各種加工に用いられる金属製の工具および/または金型、また、軸受け、動弁系部品、ギア、ピストンリング、クラッチ、ポンプ部品、コンプレッサ部品などの摺動部品などが挙げられる。特に、本発明の被覆部材は、上記潤滑油が付着した状態で相手材の表面の少なくとも一部を塑性変形させる塑性加工用の工具または金型、なかでも、しごき加工するしごき加工用工具または金型であるとよい。しごき加工は、工具により被加工面がしごかれることで潤滑油によって形成される境界膜が膜切れを起こしやすい加工である。ところが、本発明の被覆部材を工具として用いることで、断面減面率が6%以上さらには12%以上の大変形を伴うしごき加工であっても工具と相手材との間で焼付きが生じ難くなる。また、上記炭化水素系添加剤から加工条件に最適な種類を選定することにより、加工力を低減させられる。特に、少なくともアミノ基をもつ炭化水素系添加剤を含む潤滑油を用いると、加工速度が高速でさらに過酷な加工条件においても優れた摩擦特性を示すため、必要な加工力が低減される。
【0033】
したがって、本発明の被覆部材は、金属材料の加工方法として捉えることもできる。すなわち、金属材料と、上記の硬質非晶質炭素膜を備える工具または金型と、の摺接面間に既に詳説した炭化水素系添加剤を配合してなる潤滑油を供給して金属材料の加工を行う。金属材料の加工としては、鍛造、プレス、転造、押出し、引抜き、圧延などの塑性加工の他、切削加工、剪断加工、穴あけ加工などが挙げられる。本発明の加工方法であれば、工具および金型の摩耗を低減することができる。
【0034】
上述のように、本発明の被覆部材は、高温下であっても耐久性に優れる。特に、上記のアミン系添加剤を含む潤滑油を用いれば、少なくとも金属材料と、工具または金型と、の摺接面の温度が130℃以上さらには150℃以上となる加工工程であっても、摩耗や焼付きが低減されるとともに低摩擦を示すため好適である。
【0035】
なお、本発明の被覆部材は、上記被覆部材に好適な潤滑油として捉えることもできる。すなわち、本発明の潤滑油組成物は、基材と、珪素を含み該基材の表面に形成され相手材と摺接する硬質非晶質炭素膜と、を備える被覆部材に対して好適に用いられ、潤滑油基油に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちの少なくとも一種が結合した炭素原子を1以上有する炭化水素系添加剤を配合してなることを特徴とする。
【0036】
以上、本発明の非晶質炭素被覆部材および金属材料の加工方法の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明の非晶質炭素被覆部材および金属材料の加工方法の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0038】
[1.非晶質炭素被覆部材]
[被覆部材の作製]
基材としてマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS440C(JIS)、表面硬さHV650)を準備した。基材の寸法は、6.3mm×15.7mm×10.1mmとした。以下の手順で、基材の表面に珪素および水素を含む硬質非晶質炭素膜(DLC−Si膜)を成膜した。
【0039】
DLC−Si膜の成膜には、直流プラズマCVD装置を用いた。メタン(CH4)およびテトラメチルシラン(TMS)を原料ガスとして用い、その流量比をCH4:TMS=1:100(全圧:500Pa)とした。得られるDLC−Si膜の膜厚が3.0μmとなるまで成膜を行った。
【0040】
なお、DLC膜中の珪素含有量を電子プローブ微小部分析法(EPMA)、水素含有量を弾性反跳粒子検出法(ERDA)により定量した。ERDAは、2MeVのヘリウムイオンビームを膜表面に照射して、膜からはじき出される水素を半導体検出器により検出し、膜中の水素濃度を測定する方法である。上記の手順で成膜されたDLC−Si膜は、C:66原子%、H:30原子%、Si:4原子%であった。
【0041】
[潤滑油の調製]
無添加鉱油(ベース油:40℃における動粘度は20.7mm2/秒)に表1に示す炭化水素系添加剤を配合して14種類の潤滑油を調製した。添加量は、0.01mol/kgとした。このうち、#00は添加剤を含まないベース油である。なお、これらの潤滑油は、金属、重金属、S、P等を含まない。
【0042】
【表1】
【0043】
[評価:摩擦試験]
DLC−Si膜を形成した被覆部材をブロック試験片として、ブロック・オン・リング型摩擦試験を行った。図2に、ブロック・オン・リング型摩擦試験機(FALEX社製LFW−1)の概略図を示す。図2に示すように、ブロック・オン・リング型摩擦試験機30は、ブロック試験片31と、相手材となるリング試験片32と、潤滑油を満たされたオイルバス33と、から構成される。ブロック試験片31とリング試験片32とは、ブロック試験片31に形成されたDLC−Si膜31fの表面とリング試験片32の外周面とが当接する状態で設置される。リング試験片32は、オイルバス33に回転可能に設置され、その一部が潤滑油に浸される。本試験では、リング試験片32として、外径35mmφ、幅8.8mmのSAE4620スチール浸炭処理材(表面粗さ:Rz0.351μm、表面硬さ:HV650)を用いた。また、オイルバス33の潤滑油は、所定の温度に加熱保持した。
【0044】
まず、無負荷の状態で、リング試験片32を回転させた。次いで、ブロック試験片31の上から所定の荷重をかけ、ブロック試験片31の表面でリング試験片32を摺動させた。試験を所定の時間行い、摩擦摩耗特性を測定した。測定した摩擦摩耗特性は、試験終了後のブロック試験片31の最大摩耗深さ(評価1)および試験終了直前のブロック試験片31とリング試験片32との間の摩擦係数(評価1および評価2)である。
【0045】
[評価1−1]
表1に示す#00(比較例)、#12、#22、#31、#42および#52の潤滑油を用いて、ブロック・オン・リング型摩擦試験を行った。試験条件は、荷重:1660N(ヘルツ圧:730MPa)、摺動速度:0.3m/秒、油温:80℃、とした。30分間の試験の終了直前の摩擦係数と終了後の最大摩耗深さを測定した。最大摩耗深さは、非接触式表面粗さ測定機(Zygo社製NewView5022)により測定した。#00、#12、#22、#42および#52の潤滑剤を用いて試験を行った結果をそれぞれ図3〜図7に示す。ここで、ヘルツ面圧とは、ブロック試験片31とリング試験片32との接触部の弾性変形を考慮した実面圧の最大値である。
【0046】
荷重1660Nの厳しい条件であっても、#12、#22、#42および#52の潤滑油を用いた場合のDLC−Si膜の摩耗深さは0.1μmまたは0.2μmで非常に小さく、#00(ベース油)の場合に比較して、大幅に耐摩耗性が向上した。特定の炭化水素系添加剤のはたらきにより、DLC−Si膜表面に境界膜が形成されたためである。境界膜の形成を確認するために、#22、#31、#42および#52の潤滑油を用いて摩擦試験を行った後のDLC−Si膜表面を飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)により分析した。検出されたフラグメントを表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
TOF−SIMSによる分析結果は、DLC−Si膜表面に各添加剤由来のフラグメントが存在しており、添加剤の吸着により境界膜が形成され、耐摩耗性が向上したことを示唆している。添加剤の吸着は、DLC−Si膜表面に存在するSi−OH基によるものである。したがって、これらの添加剤を用いて耐摩耗性を大幅に向上させるためには、硬質非晶質炭素膜にSiが含まれることが必須となる。
【0049】
また、#12、#22、#42および#52の潤滑油を用いた場合には、試験終了直前の摩擦係数は0.084〜0.088(試験中の摩擦係数は0.05〜0.088)に抑えられ、低摩擦性が悪化することはなく、実用的な範囲に保たれた。
【0050】
[評価1−2]
表1に示す#00(比較例)、#11、#21、#41、#51および#53〜#56の潤滑油を用いて、ブロック・オン・リング型摩擦試験を行った。試験条件は、荷重:300N(ヘルツ圧:310MPa)、摺動速度:0.3m/秒、油温:80〜160℃、とした。所定の温度で10分間試験を行い、試験終了直前の摩擦係数をそれぞれ測定した。結果を図8および図9に示す。なお、DLC−Si膜を形成していないブロック試験片自体(SUS440C)についても、上記同様のブロック・オン・リング型摩擦試験を行った。図8には、その結果を「SUS440C」として示す。
【0051】
図8は、ブロック・オン・リング型摩擦試験における摩擦係数の測定結果を示すグラフであって、各試験温度に対して摩擦係数を示す。#00(ベース油)では、120℃以下であれば低摩擦を示したが、120℃を超えると摩擦係数が大きく上昇した。一方、#11、#21および#41の潤滑油においても、試験温度の上昇により摩擦係数が大きくなる傾向にあるが、摩擦係数の増加割合は小さく、160℃ではベース油よりも低摩擦が実現された。
【0052】
また、#51はアミン系添加剤を含む潤滑油である。#51は、試験温度の上昇に伴い、摩擦係数が小さくなった。図9に、アミン系添加剤を含む潤滑油を用いた摩擦試験における摩擦係数の測定結果を示す。なお、比較のためベース油の結果もあわせて示す。#51および#53〜#56は、いずれもアミン系添加剤であるが炭素数が異なる。いずれにおいても、試験温度の上昇に伴い、摩擦係数が小さくなる傾向にあり、炭素数が10以上では、160℃であっても低い摩擦係数を示した。
【0053】
すなわち、本発明の被覆部材は、耐摩耗性の向上だけでなく、低摩擦による耐焼付き性の向上も期待され、金型および工具のように高温において使用される用途においても効果が期待される。
【0054】
[2.金属材料の加工方法]
金属材料の塑性加工を想定したボール通し試験を行った。
【0055】
[加工工具の作製]
工具を想定した高速度工具鋼製(AISI M50)のボール(直径φ17.46mm)を準備した。このボールの表面に、珪素および水素を含む硬質非晶質炭素膜(DLC−Si膜)を以下の手順で成膜した。
【0056】
DLC−Si膜の成膜には、直流プラズマCVD装置を用いた。メタン(CH4)およびテトラメチルシラン(TMS)を原料ガスとして用い、その流量比をCH4:TMS=1:100(全圧:500Pa)とした。得られるDLC−Si膜の膜厚が2.0μmとなるまで成膜を行った。
【0057】
なお、DLC膜中の珪素含有量を電子プローブ微小部分析法(EPMA)、水素含有量を弾性反跳粒子検出法(ERDA)により定量した。ERDAは、2MeVのヘリウムイオンビームを膜表面に照射して、膜からはじき出される水素を半導体検出器により検出し、膜中の水素濃度を測定する方法である。上記の手順で成膜されたDLC−Si膜は、C:66原子%、H:30原子%、Si:4原子%であった。このボールを「DLC−Si被覆ボール」と記載する。一方、DLC−Si膜を成膜しないボールも用意した。このボールを「未処理ボール」と記載する。
【0058】
[潤滑油の調製]
無添加鉱油(ベース油:40℃における動粘度は20.7mm2/秒)に表3に示す炭化水素系添加剤を配合して6種類の潤滑油を調製した。得られた潤滑油の添加剤含有量は、0.01mol/kgであった。このうち、#00は添加剤を含まないベース油である。なお、これらの潤滑油は、金属、重金属、S、P等を含まない。
【0059】
【表3】
【0060】
[評価:ボール通し試験]
上記のボールおよび表3に示す潤滑油を用いて、ボール通し試験を行った。ボール通し試験とは、円筒形状のビレットの内径よりも大きい直径のボールを筒内に押し込んでビレットの肉厚を薄くする「しごき加工」において、ボールを押し込むのに要する荷重により潤滑剤の性能を評価する試験である。
【0061】
図10は、ボール通し試験機の模式図であって、加工開始直前の状態を示す。ボール通し試験機40は、コンテナ41およびパンチ42を備える。コンテナ41は、鋼製(SKH51)で、その中央付近に直径φ30mmの貫通穴41hをもつ。貫通穴41hに、被加工材であるビレット41bが収容される。貫通穴41hの上方には、貫通穴41hの軸方向に移動可能なパンチ42が設けられている。パンチ42により、貫通穴41hの一方の開口端から貫通穴41h内に、ボール42bが押し込まれる。また、貫通穴41hの下方には、貫通穴41hの内周面と共にビレット41bを保持するカウンタパンチ42’が挿入されている。
【0062】
ボール通し試験は、内周面に潤滑剤を付着させた円筒形状のビレット41bを貫通穴41hに挿入後、ビレット41bの一端側から他端側へとボール42bを押し込むことで行われる。貫通穴41hの内周面により、加工に伴うビレット41bの変形が拘束され、ボール42bによるビレット41b内面のしごき加工が効果的に行われる。
【0063】
しごき加工の厳しさを示す指標として「断面減面率」を用いた。断面減面率は、コンテナ41の貫通穴41hと加工前のビレット41bの内径からなる被加工材断面積を分母とし、ボール42bの外径と加工前のビレット41bの内径からなる加工部断面積を分子として、定量化したものである。
【0064】
なお、ボール通し試験では、ビレットの表層のひずみが3以上にも達することが明らかにされている。このときのビレットの変形は、通常の単純な引張り試験に換算して約20倍に伸びるような大変形であるため、過酷な潤滑条件であると言える。
【0065】
以下の評価では、ビレット41bとして、全長50mm、外径φ29.9mm、内径φ15.0mm(ただし一方の端部は長さ10mmの範囲で端面に向かうほど拡径している)の円筒形状の炭素鋼管(S10C)を用いた。つまり、DLC−Si被覆されたφ17.46mmのボールを用いて加工した場合、ビレット41bの厚さは7.5mmから6.27mmに減少するため、断面減面率は12%であった。ビレット41bの内周面には、表3に示す潤滑剤のいずれかを均一に塗布した。ボールの押込速度を5mm/秒または200mm/秒とした。また、試験は、室温で行った。試験結果を図11〜図15に示す。
【0066】
[評価2−1]
DLC−Si被覆ボールまたは未処理ボールと、#00または#51の潤滑剤と、を用いて、上記の手順でボール通し試験(押込速度:200mm/秒)を行った。結果を図11に示す。なお、図11において、「ボール押込距離」はボールをビレット41bの一端に載置したときのボールの中心位置を“0”としたボール中心の移動距離、「ボール押込荷重」はパンチ42を一定速度で移動させるのに要した荷重である。図12および図14においても同様である。
【0067】
未処理ボールを用いた場合には、ビレットとの接触面は鋼であるため、いずれの潤滑剤を用いても焼付きが生じ、試験は途中で終了した。また、押込荷重も250kNを超える大荷重となった。一方、DLC−Si被覆ボールを用いた場合には、試験後のビレットの内周面に焼付きの痕跡は確認されなかった。
【0068】
[評価2−2]
#00、#11、#21、#41、#43または#51の潤滑剤を用い、DLC−Si被覆ボールの押込速度を5mm/秒としてボール通し試験を行った。結果を図12および図13に示す。なお、「最大加工力」とは、ボールをビレットの一端から他端へ一定速度で移動させる際に要した荷重の最大値である。
【0069】
いずれの添加剤を用いても、ビレットとの焼付きは発生せず、断面減面率12%のしごき加工が可能であった。特に、アルコール系添加剤を含む#11またはアミン系添加剤を含む#51の潤滑油を使用すると、最大加工力が140kN以下の低い値となった。また、脂肪酸を含む潤滑油である#21を使用した場合の最大加工力はベース油#00を使用した場合よりも低いものの、図12に示すボールの押込距離に対する押込加重は、ベース油と同様の挙動を示した。
【0070】
[評価2−3]
#00、#11、#21または#51の潤滑剤を用い、DLC−Si被覆ボールの押込速度を200mm/秒としてボール通し試験を行った。結果を図14および図15に示す。
【0071】
いずれの添加剤を用いても、ビレットとの焼付きは発生せず、200mm/秒の高速で断面減面率12%のしごき加工が可能であった。脂肪酸潤滑剤を含む潤滑油#21またはアミン系潤滑剤を含む潤滑油#51を用いた場合に最大加工力が140kN以下となり、加工力の低減効果が顕著であった。
【0072】
評価2−2および評価2−3より、アミン系添加剤を含む潤滑油を用いることで、5mm/秒の低速加工であっても200mm/秒の高速加工であっても、加工力の低減効果が認められた。このようなアミン系潤滑剤による加工力低減は、既に述べた通り、DLC−Si膜の表面に形成されるシラノール(Si−OH)に吸着して形成される境界膜が関与していると推察される。アミン系添加剤がシラノール層に吸着して形成された境界膜は、高速のしごき加工であっても膜切れが生じにくかったのだと推測される。また、ボールの押込速度に応じて最適な種類の添加剤を選定することにより、加工力を低減させられることがわかった。このような加工力の低減は、低エネルギーで加工でき、高品質な製品が得られるだけでなく、加工機の小型化にも貢献する。
【符号の説明】
【0073】
10:被覆部材
11:基材 12:硬質非晶質炭素膜 13:シラノール層
20:境界膜
21:炭化水素系添加剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具、金型、摺動部品などに使用される被覆部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、工具や金型、各種装置の部品などの表面には、求められる性能に応じた表面処理が行われている。たとえば、耐摩耗性、耐焼付き性、低摩擦性などの摩擦特性が求められる工具や金型の表面には金属窒化物膜、金属炭化物膜、金属硫化物膜、炭素膜などが形成されることが多い。また、摩擦特性をさらに向上させるために、潤滑剤の存在下で使用されることがある。すなわち、表面処理と潤滑剤との組み合わせで、摩擦特性を向上させている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、潤滑油基油に、硫黄系極圧剤、有機亜鉛化合物、カルシウム系添加剤およびエステル化合物を配合してなる金属材料加工用の潤滑油が開示されている。この潤滑油は、加工中、金属材料と表面にTiNコーティングを施した工具との間に供給されて用いられる。
【0004】
また、特許文献2には、潤滑油の存在下で摺動し、基材表面に硬質非晶質炭素膜が被覆された摺動部材が開示されている。水素などをほとんど含まない炭素からなる最表面を摺動面とすることで、摺動時の摩擦を低減している。
【0005】
さらに、特許文献3には、珪素を含有する非晶質炭素膜を表面にもつ金型を用いた冷間加工方法が開示されている。この冷間加工では、潤滑油ではなく、水で容易に除去が可能な一般的なセッケンと同じ成分からなるセッケン皮膜を形成して潤滑を行うため、環境への負荷が極めて少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−56707号公報
【特許文献2】特開2005−89735号公報
【特許文献3】特開2007−136511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている潤滑油のように、各種添加剤を配合した高性能な潤滑油は、摩擦の低減効果が高い。しかしながら、この類の高性能な潤滑油に含まれる添加剤の中には、カルシウム、硫黄、リン、塩素などの化合物もあり、環境上望ましくない場合がある。また、特許文献2および特許文献3では、ともに、特定の組成をもつ非晶質炭素膜と特定の潤滑剤とを組み合わせて用いているが、耐摩耗性および耐焼付き性の面、すなわち耐久性の面で、さらなる改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、工具、金型、摺動部品などに好適に用いられ、環境にも配慮した潤滑油を用いても耐久性を向上させることができる被覆部材を提供することを目的とする。また、その被覆部材を工具あるいは金型として用いて行う金属材料の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の非晶質炭素被覆部材(以下「本発明の被覆部材」と略記)は、潤滑油基油に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちの少なくとも一種が結合した炭素原子を1以上有する炭化水素系添加剤を配合してなる潤滑油の存在下で使用され、
基材と、珪素を含み該基材の表面に形成され相手材と摺接する硬質非晶質炭素膜と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の被覆部材は、珪素(Si)を含む硬質非晶質炭素膜を備える。本発明者等の分析によれば、Siを含む硬質非晶質炭素膜の表面には、相手材と摺接するときにシラノール(Si−OH)が生成される。さらに、本発明の被覆部材は、上記した極性を有する官能基を分子構造内にもつ特定の炭化水素系添加剤が配合された潤滑油の存在下で使用される。極性を有する官能基は、硬質非晶質炭素膜の表面のシラノールに吸着しやすい。その結果、硬質非晶質炭素膜の表面に炭化水素系添加剤を含む潤滑油の膜が形成され、摩擦特性が向上し、ひいては耐久性が向上する。すなわち、本発明の被覆部材によれば、環境上望ましくない添加剤の作用に因らずに、摩擦特性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明の金属材料の加工方法は、(以下「本発明の加工方法」と略記)金属材料と、該金属材料と摺接する表面に珪素を含有する硬質非晶質炭素膜を備える工具または金型と、の摺接面間に、潤滑油基油に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちの少なくとも一種が結合した炭素原子を1以上有する炭化水素系添加剤を配合してなる潤滑油を供給して該金属材料の加工を行うことを特徴とする。
【0012】
本発明の加工方法においても、硬質非晶質炭素膜の表面にシラノールが生成されることで、その表面に潤滑油の膜が形成される。つまり、加工においても摩擦特性が向上し、ひいては工具および金型の耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】使用時における本発明の非晶質炭素被覆部材の要部断面を示す模式図である。
【図2】ブロック・オン・リング型摩擦試験機の概略図である。
【図3】ベース油を用いた摩擦試験後のブロック試験片の表面形状を示す。
【図4】ヘキサデカノールを含む潤滑油を用いた摩擦試験後のブロック試験片の表面形状を示す。
【図5】パルミチン酸を含む潤滑油を用いた摩擦試験後のブロック試験片の表面形状を示す。
【図6】パルミチン酸メチルを含む潤滑油を用いた摩擦試験後のブロック試験片の表面形状を示す。
【図7】ヘキサデシルアミンを含む潤滑油を用いた摩擦試験後のブロック試験片の表面形状を示す。
【図8】摩擦試験における摩擦係数の測定結果を示すグラフであって、試験温度に対する摩擦係数を示す。
【図9】アミン系添加剤を含む潤滑油を用いた摩擦試験における摩擦係数の測定結果を示すグラフであって、試験温度に対する摩擦係数を示す。
【図10】ボール通し試験機の模式図である。
【図11】ボール押込速度を200mm/秒で行ったボール通し試験における、ボール押込距離に対するボール押込荷重を示すグラフである。
【図12】ボール押込速度を5mm/秒で行ったボール通し試験における、ボール押込距離に対するボール押込荷重を示すグラフである。
【図13】ボール押込速度を5mm/秒で行ったボール通し試験において、ボールを押し込むのに要した押込荷重の最大値(最大加工力)を、使用した潤滑油の種類ごとに示すグラフである。
【図14】ボール押込速度を200mm/秒で行ったボール通し試験における、ボール押込距離に対するボール押込荷重を示すグラフである。
【図15】ボール押込速度を200mm/秒で行ったボール通し試験において、ボールを押し込むのに要した押込荷重の最大値(最大加工力)を、使用した潤滑油の種類ごとに示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の非晶質炭素被覆部材および金属材料の加工方法を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。
【0015】
本発明の被覆部材は、後に詳説する特定の潤滑剤の存在下で使用され、基材と、珪素を含み基材の表面に形成され相手材と摺接する硬質非晶質炭素膜と、を備える。
【0016】
基材の材質は特に限定されるものではなく、被覆部材の用途に応じて、金属、セラミックス、樹脂などから選ばれる材料を用いればよい。たとえば、炭素鋼、合金鋼、鋳鉄、アルミニウム合金などの金属製基材、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス製基材、ポリイミド、ポリアミドなどの樹脂製基材、超硬合金などが挙げられる。また、相手材の材質も特に限定されるものではなく、被覆部材の用途による。たとえば、被覆部材を塑性加工用の金型あるいは工具として用いるのであれば、相手材は金属製の被加工材である。
【0017】
基材の表面粗さは、JISに規定される十点平均粗さRzで5.0μm以下さらには3.0μm以下とするとよい。Rzを1.0μm以下とするとより好適である。表面粗さが5.0μmを超えると、硬質非晶質炭素膜の表面粗さも粗くなり、潤滑油による摩擦特性の向上効果が発現しにくくなる。
【0018】
硬質非晶質炭素膜は、炭素を主成分とし、Siを含む。硬質非晶質炭素膜は、硬質非晶質炭素膜全体を100原子%としたときにSiを2原子%以上18原子%以下さらには4原子%以上14原子%以下含むとよい。Si含有量が4原子%以上であれば、硬質非晶質炭素膜の表面にシラノールが生成されやすいため好ましい。使用環境が酸化雰囲気である場合にはシラノールは形成されやすいため、Si含有量は2原子%以上であればよい。たとえば、水分が存在する空気中または水分が存在する潤滑油中で使用する場合には、シラノールは形成されやすい。Si含有量が多いほど、硬質非晶質炭素膜の表面にシラノールが形成されやすくなり、その量も増加するが、18原子%を超えると硬質非晶質炭素膜が摩耗しやすくなるため好ましくない。
【0019】
また、硬質非晶質炭素膜は、さらに水素(H)を含んでもよい。硬質非晶質炭素膜は、硬質非晶質炭素膜全体を100原子%としたときに、Hを15原子%以上35原子%以下さらには20原子%以上33原子%以下含むとよい。硬質非晶質炭素膜に含まれるH量が多いほど膜の硬さは低下するため、H含有量を35原子%以下とするのが好ましい。一方、H量が少なくなると、基材との密着性、膜自体の靭性などが低下する。そのため、H含有量を15原子%以上とすると好適である。
【0020】
なお、硬質非晶質炭素膜の表面に生成されるシラノール基の量は、誘導体化XPS分析により測定可能である。誘導体化試薬(たとえばトリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルジメチルクロロシラン)のSi−Cl基と、硬質非晶質炭素膜の表面のSi−OH基と、の脱塩酸反応により、Si−OH基はフッ素(F)を含む化合物に置換される。X線光電子分光法(XPS)による表面分析でF量を測定することで、膜表面のSi−OH基の量を間接的に定量できる。本発明の被覆部材においては、誘導体化XPS分析により得られるF量は、2原子%以上さらには4原子%以上であるのが好ましい。
【0021】
硬質非晶質炭素膜は、基材の表面硬さよりも硬いとよい。耐摩耗性の面から、硬質非晶質炭素膜の硬さが10GPa以上さらには15GPa以上の硬質膜であるのが好ましい。10GPa以上であれば、高面圧での使用にも耐えうる。SiおよびHの含有量が上記範囲にある硬質非晶質炭素膜は、10GPa以上の硬質な硬質非晶質炭素膜である。なお、本明細書において、硬質非晶質炭素膜の硬さは、ナノインデンター試験機(Hysitron社製トライボスコープ)による測定値を採用する。
【0022】
また、硬質非晶質炭素膜の膜厚は、0.3μm以上6μm以下さらには0.5μm以上3μm以下とすると好適である。硬質非晶質炭素膜の膜厚が0.3μm以上であれば、基材の表面が十分に被覆される。一方、6μmを超えると、基材との密着性が低下するため好ましくない。
【0023】
硬質非晶質炭素膜は、相手材と摺接する。すなわち、硬質非晶質炭素膜は、基材の少なくとも摺接面に形成されればよい。硬質非晶質炭素膜は、プラズマCVD法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等、既に公知のCVD法、PVD法により形成すればよい。たとえば、プラズマCVD法により成膜する場合には、真空容器内に基材を配置して、反応ガスおよびキャリアガスを導入する。そして、放電によりプラズマを生成させ、反応ガス中のプラズマイオン化されたC、CH、Si等を基材に付着させ、硬質非晶質炭素膜を形成する。反応ガスには、メタン(CH4)、アセチレン(C2H2)等の炭化水素ガス、Si(CH3)4[TMS]、SiH4、SiCl4、SiH2F4等の珪素化合物ガス、および水素ガスを用い、キャリアガスにはアルゴンガスを用いればよい。
【0024】
本発明の被覆部材は、潤滑油の存在下で使用される。潤滑油は、潤滑油基油に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちの少なくとも一種が結合した炭素原子を1以上有する炭化水素系添加剤を配合してなる。
【0025】
潤滑油基油としては特に限定されるものではなく、鉱油、合成油、油脂など、潤滑油の基油として通常使用されるものであれば、種類を問わず使用することができる。鉱油としては、具体的には、パラフィン系、ナフテン系等の一般的な鉱油が使用可能である。合成油としては、具体的には、ポリ−α−オレフィン、ポリ−α−オレフィンの水素化物、イソブテンオリゴマー、イソブテンオリゴマーの水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル、ポリオールエステル、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。以上列挙したこれらの基油は、一種を単独であるいは二種以上を混合して用いてもよい。また、二種以上を混合して用いた場合の混合比も特に限定されず任意に選択することができる。
【0026】
そして、本発明の被覆部材では、様々な添加剤の中でも上記の炭化水素系添加剤を含む潤滑油の存在下で用いられることで、高い摩擦特性が得られる。この場合の摩擦特性の向上メカニズムは、以下のように考えられる。
【0027】
図1に、使用時における本発明の被覆部材の要部断面を模式的に示す。図1に示すように、被覆部材10は、基材11と硬質非晶質炭素膜12とを備える。硬質非晶質炭素膜12は、基材11の表面に形成される。相手材と摺接することにより、硬質非晶質炭素膜12の表面にはシラノール層(Si−OH層)13が生成される。シラノール層13の上には、さらに潤滑油からなる膜である境界膜20が生成される。境界膜20は、潤滑油中に含まれる炭化水素系添加剤21の極性をもつ官能基がシラノール層13の−OHに物理的および/または化学的に吸着することで形成される。使用時には、境界膜20を介して相手材(図示せず)と摺接するため、摩擦特性が向上し、摩耗が抑制される。
【0028】
炭化水素系添加剤は、極性を有する官能基を分子構造内にもつ。極性を有する官能基は、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちから選ばれる。これらの官能基は、シラノールに吸着しやすい。すなわち、これらの官能基のうちの少なくとも一種を分子構造にもつ炭化水素系添加剤がシラノールに吸着することで潤滑油からなる境界膜が形成されやすくなり、摩擦特性が向上する。炭化水素系添加剤は、分子構造中に同じ種類の官能基を1以上有してもよいし、異なる種類の官能基をそれぞれ1以上有してもよい。また、同じ炭素原子に同種あるいは異種の官能基を2以上有してもよい。炭化水素系添加剤は、鎖式であっても環式であってもよく、炭素数が8以上さらには12〜28である化合物からなるのが好ましい。炭素数が8以上の炭化水素系添加剤であれば、潤滑油基油との相溶性に優れるためである。すなわち、本発明に好適な炭化水素系添加剤の具体例としては、ステアリルアルコール(C=18)、オレイルアルコール(C=18:不飽和結合を含む)、ヘキサデカノール(C=16)、リノリルアルコール(C=16:不飽和結合を含む)、ミリスチルアルコール(C=14)、ラウリルアルコール(C=12)、カプリルアルコール(C=8)等のアルコール;ステアリン酸(C=18)、オレイン酸(C=18:不飽和結合を含む)、パルミチン酸(C=16)、パルミトイル酸(C=16:不飽和結合を含む)、ラウリン酸(C=12)、ミリスチン酸(C=14)等の脂肪酸;ヒドロキシパルミチン酸(C=16)等のヒドロキシ脂肪酸;ステアリン酸メチル(C=19)、オレイン酸メチル(C=19:不飽和結合を含む)、パルミチン酸メチル(C=17)、ミリスチン酸メチル(C=15)、ラウリン酸メチル(C=13)等のエステル;n−オクチルアミン(C=8)、1−アミノデカン(C=10)、n−ドデシルアミン(C=12)、1,12−ジアミノドデカン(C=12)、ヘキサデシルアミン(C=16)、オレイルアミン(C=18:不飽和結合を含む)等のアミン、などが挙げられる。これらのうちの一種を単独あるいは二種以上を複合添加すればよい。特に、分子構造中にアミノ基をもつアミン系添加剤は、高温(130℃以上さらには150℃以上)になると低摩擦係数を示すため、高温下で使用に好適である。
【0029】
潤滑油は、炭化水素系添加剤を0.001mol/kg以上さらには0.01mol/kg以上含むとよい。0.001mol/kg以上であれば、潤滑に十分な境界膜が形成され、摩擦特性が向上する。なお、炭化水素系添加剤の上限に特に限定はないが、1mol/kg以下さらには0.3mol/kg以下であるのがよい。
【0030】
潤滑剤は、必要に応じて他の添加剤を含んでもよい。ただし、潤滑油は、塩素系添加剤、カルシウム系添加剤、硫黄系添加剤およびリン系添加剤を実質的に含まないのが好ましい。また、モリブデン等の重金属を含む添加剤も実質的に含まないのが好ましい、なお、実質的に含まないとは、これらの添加剤の配合量が、潤滑油を100質量%としたときに合計で1質量%以下さらには0.1質量%以下である。本発明の被覆部材では、Cl、Ca、S、P、Moなどを含む化合物を添加剤として配合した一般的な潤滑油を用いることなく摩耗が低減されるとともに、低摩擦性が悪化することもない。
【0031】
なお、潤滑油に水分が含まれるとシラノール層が生成されやすいが、潤滑油に含まれる水の含有量に特に限定はない。あえて規定するのであれば、潤滑油を100質量%としたときに10ppm以上である。水分量が10ppm以上であれば十分なシラノール層が生成されるため好ましい。
【0032】
本発明の被覆部材は、工具、金型または摺動部品に好適である。具体的には、後述の各種加工に用いられる金属製の工具および/または金型、また、軸受け、動弁系部品、ギア、ピストンリング、クラッチ、ポンプ部品、コンプレッサ部品などの摺動部品などが挙げられる。特に、本発明の被覆部材は、上記潤滑油が付着した状態で相手材の表面の少なくとも一部を塑性変形させる塑性加工用の工具または金型、なかでも、しごき加工するしごき加工用工具または金型であるとよい。しごき加工は、工具により被加工面がしごかれることで潤滑油によって形成される境界膜が膜切れを起こしやすい加工である。ところが、本発明の被覆部材を工具として用いることで、断面減面率が6%以上さらには12%以上の大変形を伴うしごき加工であっても工具と相手材との間で焼付きが生じ難くなる。また、上記炭化水素系添加剤から加工条件に最適な種類を選定することにより、加工力を低減させられる。特に、少なくともアミノ基をもつ炭化水素系添加剤を含む潤滑油を用いると、加工速度が高速でさらに過酷な加工条件においても優れた摩擦特性を示すため、必要な加工力が低減される。
【0033】
したがって、本発明の被覆部材は、金属材料の加工方法として捉えることもできる。すなわち、金属材料と、上記の硬質非晶質炭素膜を備える工具または金型と、の摺接面間に既に詳説した炭化水素系添加剤を配合してなる潤滑油を供給して金属材料の加工を行う。金属材料の加工としては、鍛造、プレス、転造、押出し、引抜き、圧延などの塑性加工の他、切削加工、剪断加工、穴あけ加工などが挙げられる。本発明の加工方法であれば、工具および金型の摩耗を低減することができる。
【0034】
上述のように、本発明の被覆部材は、高温下であっても耐久性に優れる。特に、上記のアミン系添加剤を含む潤滑油を用いれば、少なくとも金属材料と、工具または金型と、の摺接面の温度が130℃以上さらには150℃以上となる加工工程であっても、摩耗や焼付きが低減されるとともに低摩擦を示すため好適である。
【0035】
なお、本発明の被覆部材は、上記被覆部材に好適な潤滑油として捉えることもできる。すなわち、本発明の潤滑油組成物は、基材と、珪素を含み該基材の表面に形成され相手材と摺接する硬質非晶質炭素膜と、を備える被覆部材に対して好適に用いられ、潤滑油基油に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちの少なくとも一種が結合した炭素原子を1以上有する炭化水素系添加剤を配合してなることを特徴とする。
【0036】
以上、本発明の非晶質炭素被覆部材および金属材料の加工方法の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明の非晶質炭素被覆部材および金属材料の加工方法の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0038】
[1.非晶質炭素被覆部材]
[被覆部材の作製]
基材としてマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS440C(JIS)、表面硬さHV650)を準備した。基材の寸法は、6.3mm×15.7mm×10.1mmとした。以下の手順で、基材の表面に珪素および水素を含む硬質非晶質炭素膜(DLC−Si膜)を成膜した。
【0039】
DLC−Si膜の成膜には、直流プラズマCVD装置を用いた。メタン(CH4)およびテトラメチルシラン(TMS)を原料ガスとして用い、その流量比をCH4:TMS=1:100(全圧:500Pa)とした。得られるDLC−Si膜の膜厚が3.0μmとなるまで成膜を行った。
【0040】
なお、DLC膜中の珪素含有量を電子プローブ微小部分析法(EPMA)、水素含有量を弾性反跳粒子検出法(ERDA)により定量した。ERDAは、2MeVのヘリウムイオンビームを膜表面に照射して、膜からはじき出される水素を半導体検出器により検出し、膜中の水素濃度を測定する方法である。上記の手順で成膜されたDLC−Si膜は、C:66原子%、H:30原子%、Si:4原子%であった。
【0041】
[潤滑油の調製]
無添加鉱油(ベース油:40℃における動粘度は20.7mm2/秒)に表1に示す炭化水素系添加剤を配合して14種類の潤滑油を調製した。添加量は、0.01mol/kgとした。このうち、#00は添加剤を含まないベース油である。なお、これらの潤滑油は、金属、重金属、S、P等を含まない。
【0042】
【表1】
【0043】
[評価:摩擦試験]
DLC−Si膜を形成した被覆部材をブロック試験片として、ブロック・オン・リング型摩擦試験を行った。図2に、ブロック・オン・リング型摩擦試験機(FALEX社製LFW−1)の概略図を示す。図2に示すように、ブロック・オン・リング型摩擦試験機30は、ブロック試験片31と、相手材となるリング試験片32と、潤滑油を満たされたオイルバス33と、から構成される。ブロック試験片31とリング試験片32とは、ブロック試験片31に形成されたDLC−Si膜31fの表面とリング試験片32の外周面とが当接する状態で設置される。リング試験片32は、オイルバス33に回転可能に設置され、その一部が潤滑油に浸される。本試験では、リング試験片32として、外径35mmφ、幅8.8mmのSAE4620スチール浸炭処理材(表面粗さ:Rz0.351μm、表面硬さ:HV650)を用いた。また、オイルバス33の潤滑油は、所定の温度に加熱保持した。
【0044】
まず、無負荷の状態で、リング試験片32を回転させた。次いで、ブロック試験片31の上から所定の荷重をかけ、ブロック試験片31の表面でリング試験片32を摺動させた。試験を所定の時間行い、摩擦摩耗特性を測定した。測定した摩擦摩耗特性は、試験終了後のブロック試験片31の最大摩耗深さ(評価1)および試験終了直前のブロック試験片31とリング試験片32との間の摩擦係数(評価1および評価2)である。
【0045】
[評価1−1]
表1に示す#00(比較例)、#12、#22、#31、#42および#52の潤滑油を用いて、ブロック・オン・リング型摩擦試験を行った。試験条件は、荷重:1660N(ヘルツ圧:730MPa)、摺動速度:0.3m/秒、油温:80℃、とした。30分間の試験の終了直前の摩擦係数と終了後の最大摩耗深さを測定した。最大摩耗深さは、非接触式表面粗さ測定機(Zygo社製NewView5022)により測定した。#00、#12、#22、#42および#52の潤滑剤を用いて試験を行った結果をそれぞれ図3〜図7に示す。ここで、ヘルツ面圧とは、ブロック試験片31とリング試験片32との接触部の弾性変形を考慮した実面圧の最大値である。
【0046】
荷重1660Nの厳しい条件であっても、#12、#22、#42および#52の潤滑油を用いた場合のDLC−Si膜の摩耗深さは0.1μmまたは0.2μmで非常に小さく、#00(ベース油)の場合に比較して、大幅に耐摩耗性が向上した。特定の炭化水素系添加剤のはたらきにより、DLC−Si膜表面に境界膜が形成されたためである。境界膜の形成を確認するために、#22、#31、#42および#52の潤滑油を用いて摩擦試験を行った後のDLC−Si膜表面を飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)により分析した。検出されたフラグメントを表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
TOF−SIMSによる分析結果は、DLC−Si膜表面に各添加剤由来のフラグメントが存在しており、添加剤の吸着により境界膜が形成され、耐摩耗性が向上したことを示唆している。添加剤の吸着は、DLC−Si膜表面に存在するSi−OH基によるものである。したがって、これらの添加剤を用いて耐摩耗性を大幅に向上させるためには、硬質非晶質炭素膜にSiが含まれることが必須となる。
【0049】
また、#12、#22、#42および#52の潤滑油を用いた場合には、試験終了直前の摩擦係数は0.084〜0.088(試験中の摩擦係数は0.05〜0.088)に抑えられ、低摩擦性が悪化することはなく、実用的な範囲に保たれた。
【0050】
[評価1−2]
表1に示す#00(比較例)、#11、#21、#41、#51および#53〜#56の潤滑油を用いて、ブロック・オン・リング型摩擦試験を行った。試験条件は、荷重:300N(ヘルツ圧:310MPa)、摺動速度:0.3m/秒、油温:80〜160℃、とした。所定の温度で10分間試験を行い、試験終了直前の摩擦係数をそれぞれ測定した。結果を図8および図9に示す。なお、DLC−Si膜を形成していないブロック試験片自体(SUS440C)についても、上記同様のブロック・オン・リング型摩擦試験を行った。図8には、その結果を「SUS440C」として示す。
【0051】
図8は、ブロック・オン・リング型摩擦試験における摩擦係数の測定結果を示すグラフであって、各試験温度に対して摩擦係数を示す。#00(ベース油)では、120℃以下であれば低摩擦を示したが、120℃を超えると摩擦係数が大きく上昇した。一方、#11、#21および#41の潤滑油においても、試験温度の上昇により摩擦係数が大きくなる傾向にあるが、摩擦係数の増加割合は小さく、160℃ではベース油よりも低摩擦が実現された。
【0052】
また、#51はアミン系添加剤を含む潤滑油である。#51は、試験温度の上昇に伴い、摩擦係数が小さくなった。図9に、アミン系添加剤を含む潤滑油を用いた摩擦試験における摩擦係数の測定結果を示す。なお、比較のためベース油の結果もあわせて示す。#51および#53〜#56は、いずれもアミン系添加剤であるが炭素数が異なる。いずれにおいても、試験温度の上昇に伴い、摩擦係数が小さくなる傾向にあり、炭素数が10以上では、160℃であっても低い摩擦係数を示した。
【0053】
すなわち、本発明の被覆部材は、耐摩耗性の向上だけでなく、低摩擦による耐焼付き性の向上も期待され、金型および工具のように高温において使用される用途においても効果が期待される。
【0054】
[2.金属材料の加工方法]
金属材料の塑性加工を想定したボール通し試験を行った。
【0055】
[加工工具の作製]
工具を想定した高速度工具鋼製(AISI M50)のボール(直径φ17.46mm)を準備した。このボールの表面に、珪素および水素を含む硬質非晶質炭素膜(DLC−Si膜)を以下の手順で成膜した。
【0056】
DLC−Si膜の成膜には、直流プラズマCVD装置を用いた。メタン(CH4)およびテトラメチルシラン(TMS)を原料ガスとして用い、その流量比をCH4:TMS=1:100(全圧:500Pa)とした。得られるDLC−Si膜の膜厚が2.0μmとなるまで成膜を行った。
【0057】
なお、DLC膜中の珪素含有量を電子プローブ微小部分析法(EPMA)、水素含有量を弾性反跳粒子検出法(ERDA)により定量した。ERDAは、2MeVのヘリウムイオンビームを膜表面に照射して、膜からはじき出される水素を半導体検出器により検出し、膜中の水素濃度を測定する方法である。上記の手順で成膜されたDLC−Si膜は、C:66原子%、H:30原子%、Si:4原子%であった。このボールを「DLC−Si被覆ボール」と記載する。一方、DLC−Si膜を成膜しないボールも用意した。このボールを「未処理ボール」と記載する。
【0058】
[潤滑油の調製]
無添加鉱油(ベース油:40℃における動粘度は20.7mm2/秒)に表3に示す炭化水素系添加剤を配合して6種類の潤滑油を調製した。得られた潤滑油の添加剤含有量は、0.01mol/kgであった。このうち、#00は添加剤を含まないベース油である。なお、これらの潤滑油は、金属、重金属、S、P等を含まない。
【0059】
【表3】
【0060】
[評価:ボール通し試験]
上記のボールおよび表3に示す潤滑油を用いて、ボール通し試験を行った。ボール通し試験とは、円筒形状のビレットの内径よりも大きい直径のボールを筒内に押し込んでビレットの肉厚を薄くする「しごき加工」において、ボールを押し込むのに要する荷重により潤滑剤の性能を評価する試験である。
【0061】
図10は、ボール通し試験機の模式図であって、加工開始直前の状態を示す。ボール通し試験機40は、コンテナ41およびパンチ42を備える。コンテナ41は、鋼製(SKH51)で、その中央付近に直径φ30mmの貫通穴41hをもつ。貫通穴41hに、被加工材であるビレット41bが収容される。貫通穴41hの上方には、貫通穴41hの軸方向に移動可能なパンチ42が設けられている。パンチ42により、貫通穴41hの一方の開口端から貫通穴41h内に、ボール42bが押し込まれる。また、貫通穴41hの下方には、貫通穴41hの内周面と共にビレット41bを保持するカウンタパンチ42’が挿入されている。
【0062】
ボール通し試験は、内周面に潤滑剤を付着させた円筒形状のビレット41bを貫通穴41hに挿入後、ビレット41bの一端側から他端側へとボール42bを押し込むことで行われる。貫通穴41hの内周面により、加工に伴うビレット41bの変形が拘束され、ボール42bによるビレット41b内面のしごき加工が効果的に行われる。
【0063】
しごき加工の厳しさを示す指標として「断面減面率」を用いた。断面減面率は、コンテナ41の貫通穴41hと加工前のビレット41bの内径からなる被加工材断面積を分母とし、ボール42bの外径と加工前のビレット41bの内径からなる加工部断面積を分子として、定量化したものである。
【0064】
なお、ボール通し試験では、ビレットの表層のひずみが3以上にも達することが明らかにされている。このときのビレットの変形は、通常の単純な引張り試験に換算して約20倍に伸びるような大変形であるため、過酷な潤滑条件であると言える。
【0065】
以下の評価では、ビレット41bとして、全長50mm、外径φ29.9mm、内径φ15.0mm(ただし一方の端部は長さ10mmの範囲で端面に向かうほど拡径している)の円筒形状の炭素鋼管(S10C)を用いた。つまり、DLC−Si被覆されたφ17.46mmのボールを用いて加工した場合、ビレット41bの厚さは7.5mmから6.27mmに減少するため、断面減面率は12%であった。ビレット41bの内周面には、表3に示す潤滑剤のいずれかを均一に塗布した。ボールの押込速度を5mm/秒または200mm/秒とした。また、試験は、室温で行った。試験結果を図11〜図15に示す。
【0066】
[評価2−1]
DLC−Si被覆ボールまたは未処理ボールと、#00または#51の潤滑剤と、を用いて、上記の手順でボール通し試験(押込速度:200mm/秒)を行った。結果を図11に示す。なお、図11において、「ボール押込距離」はボールをビレット41bの一端に載置したときのボールの中心位置を“0”としたボール中心の移動距離、「ボール押込荷重」はパンチ42を一定速度で移動させるのに要した荷重である。図12および図14においても同様である。
【0067】
未処理ボールを用いた場合には、ビレットとの接触面は鋼であるため、いずれの潤滑剤を用いても焼付きが生じ、試験は途中で終了した。また、押込荷重も250kNを超える大荷重となった。一方、DLC−Si被覆ボールを用いた場合には、試験後のビレットの内周面に焼付きの痕跡は確認されなかった。
【0068】
[評価2−2]
#00、#11、#21、#41、#43または#51の潤滑剤を用い、DLC−Si被覆ボールの押込速度を5mm/秒としてボール通し試験を行った。結果を図12および図13に示す。なお、「最大加工力」とは、ボールをビレットの一端から他端へ一定速度で移動させる際に要した荷重の最大値である。
【0069】
いずれの添加剤を用いても、ビレットとの焼付きは発生せず、断面減面率12%のしごき加工が可能であった。特に、アルコール系添加剤を含む#11またはアミン系添加剤を含む#51の潤滑油を使用すると、最大加工力が140kN以下の低い値となった。また、脂肪酸を含む潤滑油である#21を使用した場合の最大加工力はベース油#00を使用した場合よりも低いものの、図12に示すボールの押込距離に対する押込加重は、ベース油と同様の挙動を示した。
【0070】
[評価2−3]
#00、#11、#21または#51の潤滑剤を用い、DLC−Si被覆ボールの押込速度を200mm/秒としてボール通し試験を行った。結果を図14および図15に示す。
【0071】
いずれの添加剤を用いても、ビレットとの焼付きは発生せず、200mm/秒の高速で断面減面率12%のしごき加工が可能であった。脂肪酸潤滑剤を含む潤滑油#21またはアミン系潤滑剤を含む潤滑油#51を用いた場合に最大加工力が140kN以下となり、加工力の低減効果が顕著であった。
【0072】
評価2−2および評価2−3より、アミン系添加剤を含む潤滑油を用いることで、5mm/秒の低速加工であっても200mm/秒の高速加工であっても、加工力の低減効果が認められた。このようなアミン系潤滑剤による加工力低減は、既に述べた通り、DLC−Si膜の表面に形成されるシラノール(Si−OH)に吸着して形成される境界膜が関与していると推察される。アミン系添加剤がシラノール層に吸着して形成された境界膜は、高速のしごき加工であっても膜切れが生じにくかったのだと推測される。また、ボールの押込速度に応じて最適な種類の添加剤を選定することにより、加工力を低減させられることがわかった。このような加工力の低減は、低エネルギーで加工でき、高品質な製品が得られるだけでなく、加工機の小型化にも貢献する。
【符号の説明】
【0073】
10:被覆部材
11:基材 12:硬質非晶質炭素膜 13:シラノール層
20:境界膜
21:炭化水素系添加剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちの少なくとも一種が結合した炭素原子を1以上有する炭化水素系添加剤を配合してなる潤滑油の存在下で使用され、
基材と、珪素を含み該基材の表面に形成され相手材と摺接する硬質非晶質炭素膜と、を備えることを特徴とする非晶質炭素被覆部材。
【請求項2】
前記硬質非晶質炭素膜は、該硬質非晶質炭素膜全体を100原子%としたときに珪素を2原子%以上18原子%以下含む請求項1記載の非晶質炭素被覆部材。
【請求項3】
前記硬質非晶質炭素膜は、該硬質非晶質炭素膜全体を100原子%としたときに、さらに水素を15原子%以上35原子%以下含む請求項2記載の非晶質炭素被覆部材。
【請求項4】
前記潤滑油は、前記炭化水素系添加剤を0.001mol/kg以上含む請求項1〜3のいずれかに記載の非晶質炭素被覆部材。
【請求項5】
工具、金型または摺動部品である請求項1〜4のいずれかに記載の非晶質炭素被覆部材。
【請求項6】
少なくともアミノ基をもつ前記炭化水素系添加剤を含む前記潤滑油が付着した前記相手材の表面の少なくとも一部を塑性加工する塑性加工用工具または金型である請求項5に記載の非晶質炭素被覆部材。
【請求項7】
前記相手材は金属からなる請求項1〜6のいずれかに記載の非晶質炭素被覆部材。
【請求項8】
前記潤滑油は、塩素系添加剤、カルシウム系添加剤、硫黄系添加剤およびリン系添加剤を含まない請求項1〜7のいずれかに記載の非晶質炭素被覆部材。
【請求項9】
基材と、珪素を含み該基材の表面に形成され相手材と摺接する硬質非晶質炭素膜と、を備える被覆部材に用いられ、
潤滑油基油に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちの少なくとも一種が結合した炭素原子を1以上有する炭化水素系添加剤を配合してなることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項10】
金属材料と、該金属材料と摺接する表面に珪素を含有する硬質非晶質炭素膜を備える工具または金型と、の摺接面間に、潤滑油基油に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちの少なくとも一種が結合した炭素原子を1以上有する炭化水素系添加剤を配合してなる潤滑油を供給して該金属材料の加工を行うことを特徴とする金属材料の加工方法。
【請求項11】
前記潤滑油はアミノ基が結合した炭素原子を有する炭化水素系添加剤を配合してなり、
少なくとも前記金属材料と前記工具または前記金型との摺接面間の温度が130℃以上となる請求項10記載の金属材料の加工方法。
【請求項1】
潤滑油基油に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちの少なくとも一種が結合した炭素原子を1以上有する炭化水素系添加剤を配合してなる潤滑油の存在下で使用され、
基材と、珪素を含み該基材の表面に形成され相手材と摺接する硬質非晶質炭素膜と、を備えることを特徴とする非晶質炭素被覆部材。
【請求項2】
前記硬質非晶質炭素膜は、該硬質非晶質炭素膜全体を100原子%としたときに珪素を2原子%以上18原子%以下含む請求項1記載の非晶質炭素被覆部材。
【請求項3】
前記硬質非晶質炭素膜は、該硬質非晶質炭素膜全体を100原子%としたときに、さらに水素を15原子%以上35原子%以下含む請求項2記載の非晶質炭素被覆部材。
【請求項4】
前記潤滑油は、前記炭化水素系添加剤を0.001mol/kg以上含む請求項1〜3のいずれかに記載の非晶質炭素被覆部材。
【請求項5】
工具、金型または摺動部品である請求項1〜4のいずれかに記載の非晶質炭素被覆部材。
【請求項6】
少なくともアミノ基をもつ前記炭化水素系添加剤を含む前記潤滑油が付着した前記相手材の表面の少なくとも一部を塑性加工する塑性加工用工具または金型である請求項5に記載の非晶質炭素被覆部材。
【請求項7】
前記相手材は金属からなる請求項1〜6のいずれかに記載の非晶質炭素被覆部材。
【請求項8】
前記潤滑油は、塩素系添加剤、カルシウム系添加剤、硫黄系添加剤およびリン系添加剤を含まない請求項1〜7のいずれかに記載の非晶質炭素被覆部材。
【請求項9】
基材と、珪素を含み該基材の表面に形成され相手材と摺接する硬質非晶質炭素膜と、を備える被覆部材に用いられ、
潤滑油基油に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちの少なくとも一種が結合した炭素原子を1以上有する炭化水素系添加剤を配合してなることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項10】
金属材料と、該金属材料と摺接する表面に珪素を含有する硬質非晶質炭素膜を備える工具または金型と、の摺接面間に、潤滑油基油に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基およびカルボン酸エステル基のうちの少なくとも一種が結合した炭素原子を1以上有する炭化水素系添加剤を配合してなる潤滑油を供給して該金属材料の加工を行うことを特徴とする金属材料の加工方法。
【請求項11】
前記潤滑油はアミノ基が結合した炭素原子を有する炭化水素系添加剤を配合してなり、
少なくとも前記金属材料と前記工具または前記金型との摺接面間の温度が130℃以上となる請求項10記載の金属材料の加工方法。
【図1】
【図2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2010−95792(P2010−95792A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165433(P2009−165433)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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