説明

非破壊探傷方法とその装置

【課題】構造物や設備の操業や稼動を止めることなく、比較的低コストで、広範囲に一度に10数m以上の範囲の計測を迅速に行い、且つ、精度の良い亀裂の評価結果を提供する。
【解決手段】測定対象物104の測定される長さ方向(X方向)の被測定区間104Aを挟んで発振センサ120と受信センサ124とを該測定対象物104の厚みT部分に取付け、縦波Pの波長λpが該測定対象物104の幅Wよりも短くなるように、ガイド波102の単一の周波数信号の周波数Fを決定して出力させ、該出力された単一の周波数信号を位相変換して擬似ランダム信号とし前記縦波Pと横波Sとからなる発信波を発信し、前記被測定区間104Aを伝播してきた該縦波Pと横波Sの合成波であるガイド波102を受信センサ120で受信波として受信し、前記擬似ランダム信号と該受信波に従う信号との相関を取ることにより、該被測定区間104Aの亀裂104Bを評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振センサより発信された縦波と横波とで合成されて、測定対象物の表面付近で観測されるガイド波を受信センサで受信して、測定対象物の亀裂を非破壊で探傷する非破壊探傷方法に係り、特に、測定対象物(鋼材やコンクリート構造体)の亀裂を一度に広範囲に測定することを可能にする非破壊探傷方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車工場や製鉄所などで使われる天井クレーン(ガーダークレーンと称する)や橋梁の梁、レール等の大きな構造体などが倒壊等した場合には、著しい被害を引き起こす恐れがある。そのため、倒壊等の原因となる鋼材やコンクリートの亀裂を非破壊探傷技術で調査、亀裂を評価することは極めて重要なこととなっている。
【0003】
非破壊探傷技術のうちで超音波を用いた最も一般的なものは、投射したパルス波が亀裂の箇所で反射された際の反射波を把握するUT法(超音波探傷法)である。しかし、UT法は調査範囲が数10cm程度と狭いため、長さ10数m以上の構造体の亀裂を調査するには時間がかかっていた。更に、鋼材表面の塗装を研磨して除去し、静かな状況で調査をする必要があるため、例えば、ガーダークレーンのクレーンガーダ104上で作業を行う際にはガーダークレーンの稼動を止めたり(図21参照)、橋梁上の交通を遮断したりして騒音を低減するなどが必要であった。なお、例えば、製鉄所の溶鉱炉の近傍で稼動するガーダークレーンを検査するためには、溶鉱炉の炉の温度を下げて作業ができる環境とした後に調査を行い、そのあと再度炉を高温に戻すこととなる。このため、調査をするだけで長期間を必要とすると共に、莫大な費用のロスを生じることとなる。
【0004】
上記のパルス波を用いる方法に対して、ガイド波が構造体の表面を遠距離伝播する性質を利用した手法が提案されている。特許文献1では複数の正弦波のバースト波を用いており、特許文献2ではFM波(複数の周波数を含む連続波)によるパルス圧縮法を用いてS/N比を向上させて遠距離を伝播させる方法について述べられている。
【0005】
なお、超音波を使わずに、ひずみゲージを利用して応力を測定して亀裂等の予測を行うことも可能である。これは、応力の測定したい箇所にひずみゲージを貼り付けて、応力の測定を行う方法である。
【0006】
【特許文献1】特開2000−241397号公報
【特許文献2】特開2007−121092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1は亀裂の調査精度を得るために超音波の波長を短くし、狭い範囲での極小さな亀裂を調査するという観点から、従来のUT法で問題となっていた前述の課題をなんら解決するものではなかった。
【0008】
又、特許文献2では距離21mという長距離での計測が行われているが、パルス圧縮法による「パワー増大効果」のみを利用して反射波の計測をしている。このため、測定結果においてS/N比は改善されるものの、適切な波長を利用していないために亀裂の十分な測定精度が得られず、亀裂の評価が不十分であった。
【0009】
即ち、十分な測定精度を得ることを前提とした場合には、UT法の従来の課題であった、例えばガーダークレーンのクレーンガーダや橋梁の梁、レールなど、長さ10数m以上の構造や設備の探傷を調べるには作業者が立ち入り計測を行うために、これらの操業や稼動をある程度の時間に亘り止める必要があることを、特許文献1、2のいずれにおいてもなんら解決するものではなかった。
【0010】
更に、ひずみゲージを貼付ける方法では、基本的に貼付けた箇所の応力を測定する「点での測定」であるので、被測定区間を連続して測定することはそもそも不可能であった。例え、亀裂の生じる箇所が特定できるとしても、その箇所は膨大となる可能性がある。即ち、ひずみゲージを多量に使用することとなれば、結果的には極めて高価なものとなるという問題があった。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑み、構造物や設備の操業や稼動を止めることなく、比較的低コストで、広範囲に一度に10数m以上の範囲の計測を迅速に行い、且つ、精度の良い結果を提供することを可能とする非破壊探傷方法及び非破壊探傷装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1に係る発明は、発振センサより発信された縦波と横波とで合成されて、測定対象物の表面付近で観測されるガイド波を受信センサで受信して、測定対象物の亀裂を非破壊で探傷する非破壊探傷方法において、前記測定対象物の測定される長さ方向の被測定区間を挟んで前記発振センサと受信センサとを該測定対象物の厚み部分に取付け、前記縦波の波長が該測定対象物の幅よりも短くなるように、該ガイド波の単一の周波数信号の周波数を決定して出力させ、該出力された単一の周波数信号を位相変換して擬似ランダム信号とし前記縦波と横波とからなる発信波を前記発振センサから発信し、該発振センサから前記被測定区間を伝播してきた該縦波と横波との合成波であるガイド波を受信センサで受信波として受信し、前記擬似ランダム信号と該受信波に従う信号との相関を取ることにより、該被測定区間の亀裂を評価したものである。
【0013】
本願の請求項2に係る発明は、前記擬似ランダム信号と前記受信波に従う信号との相関値に対して、予め求めた該相関値と前記亀裂の長さとの関係を用いて、前記被測定区間の亀裂の長さを求めることとしたものである。
【0014】
又、本願の請求項3に係る発明は、前記発振センサと受信センサとが取付部材を介して前記測定対象物に取付られた際に、該取付部材の材質と厚みの少なくともいずれかを変更することで、前記発信波の周波数に対して整合するように前記受信センサの周波数特性を変更させたものである。
【0015】
又、本願の請求項4に係る発明は、前記測定対象物が、ガーダークレーン、橋梁、レールを構成する一部であって、鋼製、あるいはコンクリート製であることとしたものである。
【0016】
本願の請求項5に係る発明は、又、縦波と横波とを発信波として発信する発振センサと、該縦波と横波とから合成されて測定対象物の表面付近で観測されるガイド波を受信波として受信する受信センサと、該受信波に基づいて測定対象物の亀裂を解析する解析装置と、を有する非破壊探傷装置において、前記測定対象物の測定される長さ方向の被測定区間を挟んで前記発振センサと受信センサとが該測定対象物の厚み部分に取付けられて、前記縦波の波長が該測定対象物の幅よりも短くなるように、該単一の周波数信号の周波数を決定して出力可能な周波数発生器と、該周波数発生器から出力された該単一の周波数信号を、位相変換して擬似ランダム信号とする位相変換器と、該擬似ランダム信号と前記受信波に従う信号との相関を取ることにより、前記被測定区間の亀裂を評価する手段と、を備えることを特徴とする非破壊探傷装置を提供するものである。
【0017】
又、本願の請求項6に係る発明は、前記周波数発生器が、更に、前記縦波の波長が該測定対象物と一体となって該測定対象物を支持する支持部材の幅と同一若しくはそれよりも長くなるように、前記単一の周波数を決定する周波数決定手段を備えたものである。
【0018】
又、本願の請求項7に係る発明は、前記解析装置が、前記擬似ランダム信号と前記受信波に従う信号との相関値に対して、予め求めた該相関値と前記亀裂の長さとの関係を用いて、前記被測定区間の亀裂の長さを求める演算手段を備えたものである。
【0019】
又、本願の請求項8に係る発明は、前記発振センサと受信センサとを前記測定対象物に取付けると共に、該測定対象物と該発振センサあるいは該受信センサとの間に介在する材質と厚みの少なくともいずれかを変更することで、前記発信波の周波数に対して整合するように前記受信センサの周波数特性を変更させることができる取付部材を備えたものである。
【0020】
又、本願の請求項9に係る発明は、前記取付部材を、接着剤、粘土、高粘性ゲルあるいは磁石としたものである。
【0021】
なお、ガイド波とは、物理的な境界により形成された導波路(限定された筋道の意)に沿って伝播する波動であり、実体波である縦波(P波)と横波(S波)が境界条件を満たすように部材(測定対象物)を伝播した結果、見かけ上得られる波をいう(‘非破壊計測のためのガイド波の基礎と展望’非破壊検査第52巻12号654頁、2003年)。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、境界条件の一つである単一の周波数を、横波と共にガイド波を合成する縦波の波長が測定対象物の幅よりも短くなるようして決定していることから、亀裂の評価が容易でありながら、測定対象物による減衰の影響を低減し、遠距離での計測が可能となる。又、亀裂の評価に際しては、使用する周波数は単一であり、擬似ランダム信号と受信波に従う信号との相関が取られるので、高いS/N比で解析を行うことができ、且つ一度に広範囲(被測定区間全て)を測定することが可能である。又、被測定区間は発振センサと受信センサとの間にあり、亀裂の評価においては、基本的に透過波を用いているので、より高いS/N比を確保することができる。更に、上述した構成により、測定対象物に搭載あるいは接する構造物の動作状況にほとんど影響を受けることなく、亀裂の評価が可能である。
【0023】
又、擬似ランダム信号と受信波に従う信号との相関値に対して、予め求めた相関値と亀裂の長さとの関係を用いた場合には、亀裂の評価、特に亀裂の長さを容易に求めることができる。
【0024】
又、取付部材の材質と厚みの少なくともいずれかを変えた場合には、発信波の周波数に対して整合するように受信センサの周波数特性を変更させることができるので、測定現場において測定対象物に応じて臨機応変に最適な計測を行うことができる。
【0025】
更に、縦波の波長が測定対象物と一体となって該測定対象物を支持する部材の幅(接合幅)と同一若しくはそれよりも長くなるように、単一の周波数を決定した場合には、測定対象物を一体で支持する支持部材が存在してもそれらの影響を受けることなく、高いS/N比で解析を行うことができる。
【0026】
即ち、構造物や設備の探傷、例えば、ガーダークレーンのガーダや橋梁の梁、レールなど、測定対象物の長さが10数m以上ある場合にも、作業者が立ち入ることなく、又、操業や稼動を止めることなく簡単に一度に亀裂を把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態を詳細に説明する。
【0028】
図1は本発明の第1実施形態に係る非破壊探傷装置を示す概略図、図2は主に周波数発生器から出力される波形の位相変換される様子を示す摸式図、図3はガイド波の伝播モデルの一例を示す摸式図、図4は測定対象物の幅に対して実体波の波長が整合していない場合の減衰を概念的に示す摸式図、図5は具体的に波長(単一の周波数)が異なる場合の相関値(音圧)の波形を示す図、図6は亀裂がある場合のガイド波の減衰を説明する概念図、図7は非破壊で探傷する方法のフロー図の一例を示す図、図8はクレーンガーダの斜視図、図9は発振センサと受信センサの取付位置等を示した模式図、図10は発振センサと受信センサの取付位置を詳細に示した摸式図、図11はクレーンガーダに取付けられているガセットプレートの接合幅の相関値(音圧)の振幅に対する影響を示す図、図12はクレーンガーダの亀裂の有無による相関値(音圧)の波形の違いを示す図、図13はクレーンガーダの亀裂の長さで相関値(音圧)の振幅が変化する様子を示す図、図14は相関値(音圧)の変化と亀裂の長さとの関係をまとめた図、図15は図14の検証Bにおける相関値(音圧)の波形を示す図、である。
【0029】
最初に、主に図1を用いて、本実施形態に係る非破壊探傷装置の全体構成について説明する。
【0030】
非破壊探傷装置100は、図1に示す如く、縦波Pと横波Sとを発信波として発信する発振センサ120と、縦波Pと横波Sとから合成されて測定対象物104の表面付近で観測されるガイド波102を受信波として受信する受信センサ124と、受信波に基づいて測定対象物104の亀裂104Bを解析する解析装置132と、を有する。そして、非破壊探傷装置100は、測定対象物104の測定される長さL方向(X方向)の被測定区間104Aを挟んで発振センサ120と受信センサ124とが測定対象物104の厚みT部分に取付けられて、縦波Pの波長λpが測定対象物104の幅Wよりも短くなるように、単一の周波数信号の周波数Fを決定して出力可能な周波数発生器112と、周波数発生器112から出力された単一の周波数信号を、位相変換して擬似ランダム信号の一つであるPRBS信号(後述)とする位相変換器114と、PRBS信号と受信波に従う信号との相関を取ることにより、被測定区間104Aの亀裂104Bを評価する手段(解析装置132)と、を備える。
【0031】
このため、発振センサ120より発信された縦波Pと横波Sとから合成されて、測定対象物104の表面付近で観測されるガイド波102を受信センサ124で受信波として受信して、測定対象物104の亀裂104Bを非破壊で探傷することができる。
【0032】
以下に、各構成要素について詳細に説明する。
【0033】
測定対象物104は、図1に示す如く、厚みTと幅Wと長さLとで規定可能な形状であり、例えば、その測定される長さL方向(測定方向、若しくはX方向とも称する)に厚みTと幅Wよりも長い長さLを有する直方体形状である。測定対象物104に発振センサ120と受信センサ124とが取り付けられた際には、基本的にはガイド波102の透過波を使用して、その間にある被測定区間104Aに存在する亀裂104Bを探傷することとなる。このため、受信波の信号振幅は大きく、高いS/Nを確保することができる。
【0034】
なお、測定対象物104には、例えば、溶接などによって、測定対象物104と一体となって測定対象物104を支持する支持部材108(図8、図11参照)が取り付けてある場合がある。このときには、支持部材108の形状、即ち、接合幅(幅)GWを考慮して、単一の周波数Fを決定することが好ましい。
【0035】
周波数発生器112は、任意の周波数(単一の周波数F)の連続正弦波信号であるキャリア信号を単一の周波数信号としてデジタル出力することができる。又、周波数発生器112は、横波と共にガイド波102を合成する縦波Pの波長λpが、測定対象物104の幅Wよりも短く、且つ、測定対象物104と一体となって測定対象物104を支持する支持部材108の接合幅(幅)GWと同一若しくはそれよりも長くなるように、ガイド波102の単一の周波数Fを選択・決定する周波数決定手段を備えている。周波数決定手段は、例えば、CPUを備えた回路で構成することができる。
【0036】
なお、本実施形態においては、縦波Pの波長λpに対して支持部材108の接合幅(幅)GWが十分に大きくないと縦波Pは伝播しないということから、周波数決定手段は、接合幅(幅)GWが波長λpの2倍、好ましくは波長λpの1.5倍であっても、波長λpが接合幅(幅)GWと同一若しくはそれよりも長いと判断する。
【0037】
位相変換器114は、周波数発生器112に接続されて、周波数発生器112から出力された単一の周波数Fのデジタル信号(単一の周波数信号)を、PRBS符号で位相変換し、擬似ランダム信号の1つであるPRBS信号をDA変換器116に出力する。なお、この出力は、解析装置132に対してもなされる。ここで、PRBS符号は、擬似ランダムバイナリシークエンス(Psudo−Random Binary Sequence)符号のことであり、例えば、位相変換器114内のシフトレジスタとフィードバックによって生成される符号系列のうちその周期が最長になる系列であるM系列(最長系列;Maxmal−Length Sequenses)を用いている。このため、PRBS符号は(2−1)例えばn=12のとき4095波数であり、排他性が極めて強い。従って、自己相関をとった場合においては、パルス圧縮技術の利点とあいまって、その相関値のピークは高く、S/N比が非常に高くなる。
【0038】
具体的に、連続正弦波とPRBS符号と位相変換された結果であるPRBS信号との関係をアナログ波形で示した場合を図2に示す。図2(A)はPRBS符号、図2(B)は周波数発生器112から出力される連続正弦波、図2(C)は連続正弦波がPRBS符号によって位相変換されたPRBS信号を示している。本実施形態においては、PRBS符号の‘1’の値では位相を180°回転させ、‘0’の値では位相をそのままとする位相変換を行う。その結果として図2(B)に示す波形が位相変換されて図2(C)に示すPRBS信号が出力されることとなる。なお、図2(D)には、図2(C)の波形の自己相関を取った際の波形を示している。このように、位相変換器114は、周波数発生器112から入力された周波数Fの単一の周波数信号を、自身の内部で生成されたPRBS符号で位相変換している。なお、PRBS符号は外部から導入してもよい。
【0039】
DA変換器116は、位相変換器114に接続されて、位相変換器114から出力された信号をデジタル値からアナログ値に変換して出力する。
【0040】
発振増幅器118は、DA変換器116に接続されて、DA変換器116から出力された信号をアナログ的に増幅して出力する。
【0041】
発振センサ120は、発振増幅器118に接続され、発振増幅器118から出力された電気的な信号を機械的な振動に変換して発信波である縦波Pと横波Sとを出力する。受信センサ124は、発振センサ120から被測定区間104Aを伝播してきた機械的な振動である縦波Pと横波Sとで合成されたガイド波102を受信波として受信し、電気的な信号に変換する。発振センサ120と受信センサ124とは、測定対象物104の測定される長さL方向(X方向)の被測定区間104Aを挟んで測定対象物104の厚みT部分に取り付けられる。発振センサ120と受信センサ124は、例えば圧電素子を用いることができる。このため、発振センサ120は、正確な出力をすることができる。
【0042】
取付部材122は、発振センサ120と受信センサ124とを測定対象物104に取り付け、その際に発振センサ120あるいは受信センサ124と測定対象物104との間に介在する。取付部材122のその介在する材質や厚みを変更することによって、結果的に、発振センサ120から発信される発信波の周波数に対して、受信センサ124の周波数特性を発振波の周波数に整合するように変更させることができる。例えば、発振センサ120、受信センサ124と測定対象物104との間の取付部材122の厚みが少ない(若しくは硬い材質)状態から、当該厚みを増やす(若しくは軟らかい材質に変更する)と、発信波に対し、整合する受信波の周波数を低くすることが可能となる。その調整範囲は、数10kHzから100kHzとすることができる。取付部材122として、接着剤、粘土、高粘性ゲル、磁石等を用いることができる。取付部材122を介在させることで、音響インピーダンスの整合を行うことが可能となるので、最適な周波数での受信波の解析が可能となる。
【0043】
なお、音響インピーダンスZは式(1)で求めることができる。
【0044】
Z=ρ*V (1)
【0045】
ここで、ρは物質の密度、Vは物質内での音速である。なお、異なる物質間を音が伝播する場合は式(2)で表すことができる。
【0046】
A=2*Z1/(Z1+Z2)*A0 (2)
Z1=ρ1*V1 (3)
Z2=ρ2*V2 (4)
【0047】
ここで、Aは物質Iから物質IIへの伝播後の振幅、A0は物質Iでの振幅、ρ1は物質Iの密度、V1は物質I内での音速、ρ2は物質IIの密度、V2は物質II内での音速を示している。ここから明らかなように、発振センサ120と受信センサ124との間に空気を介した場合に比べて、粘土などを介したほうが密度ρや音速Vから得られる音響インピーダンスが近いので、伝播時の振幅の減衰が少なくなる。そして、取付部材122の材質や厚みの調整を行うことで、測定現場において臨機応変に最適な計測が可能である。
【0048】
受信フィルタ126は、受信センサ124に接続され、受信センサ124で受信された信号から、例えば、ガーダークレーンの操業に係る騒音や橋梁の道路交通に関る騒音を取り除く。このため、適切なノイズフィルタを選択することで、これらの操業や稼動の影響を極めて低減して受信波の解析を行うことができる。なお、必要に応じて、可変の増幅器を具備してもよい。
【0049】
AD変換器128は、受信フィルタ126に接続されて、受信フィルタ126を通過した信号を、アナログ値からデジタル値に変換する。
【0050】
データ記録器130は、AD変換器128に接続されて、AD変換器128から出力された信号を記録する。
【0051】
解析装置132は、位相変換器114とデータ記録器130とに接続され、位相変換器114から出力される発信波に係るPRBS信号(擬似ランダム信号)とデータ記録器130に記録された受信波に従う信号との相関値を計算する。この相関を取ることによって、計算結果をパルス波として取扱うことが可能となり(図2(D)参照)、ガイド波102の到達時間と相関値の振幅を測定することができる。ここで、測定対象物104の亀裂104Bの長さCLに依存して、ガイド波102の到達時間と相関値の振幅が変化する。このため、解析装置132は、演算手段として、予め求めた相関値の振幅と亀裂104Bの長さCLとの関係を元に、得られた相関値の振幅から亀裂104Bの長さCL、特に測定対象物104の厚みT方向に貫通した亀裂104Bの長さCLを求めることができる。即ち、解析装置132は、パルス圧縮技術を利用した高いS/N比で被測定区間104Aの亀裂104Bの評価をすることが可能となる。あるいは、解析装置132は、発信波に係るPRBS信号と受信波に従う信号との相関を取ることにより、被測定区間104Aの亀裂104Bを評価する手段ともいえる。ここで、評価としては、前述の亀裂104Bの長さCLを求めるだけでなく、到達時間の変化から、亀裂104Bの位置や幅などを推定することも含まれ、逆に相関値の振幅の減衰量から亀裂104Bの有無だけを判断するなども含みうるものである。
【0052】
次に、ガイド波102、単一の周波数F、幅Wの関係について、以下説明する。
【0053】
ガイド波102とは、前述の如く、物理的な境界により形成された導波路(限定された筋道の意)に沿って伝播する波動であり、実体波103である縦波Pと横波Sが境界条件を満たすように部材を伝播した結果、見かけ上得られる波をいう。即ち、ガイド波102は、縦波Pと横波Sが伝播して合成された結果、測定対象物104の表面付近で観測される波である。図3(A)に示す如く、発振センサ120から発信される発信波は、発振センサ120を中心として測定対象物104中でガイド波102に寄与する実体波103が破線の如く伝播する。そして、図3(B)に示す如く、ガイド波102は、境界条件を満たす場合に、測定対象物104の表面の各点X1、X2、X3において、破線で示す動きとして観測される。
【0054】
即ち、実体波103としては、測定対象物104の幅Wに対して適切な波長(適切な単一の周波数F)を選択・決定する必要がある。実体波が適切な波長λ1であれば、図4の左側に示す如く実体波103Aは幅W方向で反射されながらX方向に減衰せずに長く伝播し、振幅の大きいガイド波102Aが境界面(端面)で観測されることとなる。しかし、実体波が測定対象物104の幅Wに対して不適切に整合の取れていない長い波長λ2であった場合においては、実体波103Bは幅W方向において境界条件を満たさず伝播することができない(図4の右側)。
【0055】
ここで、一般に、実体波103、103A、103Bのうち、縦波Pは横波Sよりも音速が早いため、縦波Pの波長λpは横波Sよりも長くなる。縦波Pに注目して考えると、縦波Pが図4の不適切な波長λ2であった場合には、縦波Pは伝播することができない。すなわち、この場合には、横波Sが伝播しても縦波Pと横波Sとで合成されるガイド波102Bを観測することはできない。
【0056】
以上のことから、縦波Pについて、次の関係を得ることができる。
【0057】
W ≫ λp (5)
【0058】
波長λpは縦波Pの音速Vpを単一の周波数Fで割った値から求めることができるので、式(5)は次の関係で表すことができる。
【0059】
W ≫ Vp/F (6)
【0060】
ここで、縦波Pの音速Vpは、測定対象物104が鋼材の場合には、約5.7km/sである。
【0061】
即ち、測定対象物104が鋼材でその幅Wが40cmのとき、単一の周波数Fは、14.25kHzよりもはるかに大きい必要がある。本実施形態では、好ましい条件として、その大きさを約2倍と想定して、約30kHz以上とする。
【0062】
具体的に、図5に、測定対象物104が鋼材で、幅Wが40cmであった場合の単一の周波数Fの違いによる求められる相関値の振幅の違いを示す。図5(B)に示す如く、単一の周波数Fが整合を取れずに不適切(4KHz)である場合においては、相関値の振幅波形が崩れ、発振センサ120と受信センサ124との距離である計測距離に相当する矢印位置の到達時間を正確に示すことができない。これに対して、図5(A)に示す如く、単一の周波数Fが適切(31KHz)である場合においては、発振センサ120と受信センサ124との距離である計測距離を変化させた時、解析装置132において、その距離を忠実に示す相関値の振幅が算出されていることが分かる。
【0063】
また、図6(A)に示す如く、測定対象物104に亀裂104Bが存在した場合には、その亀裂104Bによって実体波103の一部103Cが反射されて、亀裂104Bの反対側(図6(A)では右側)へは伝播しない。このため、亀裂104Bがあるとガイド波102Bは減衰する。この減衰量は、亀裂104Bの長さCLに応じて実体波103の伝播する幅が狭まることに関係するものである。なお、亀裂104Bが閉口亀裂である場合には、図6(B)に示す如く、ガイド波102の波動エネルギが亀裂104Bの閉じた面を振動させて摩擦が生じ、波動エネルギの一部が熱エネルギに変換される。この結果、閉口亀裂の場合は、開口亀裂に比べて、ガイド波102の減衰が大きくなる。
【0064】
次に、本実施形態における非破壊で探傷する方法について、単一の周波数Fの決定方法を中心にして図7を用いて説明する。
【0065】
最初に、測定対象物104の測定される長さL方向(X方向)の被測定区間104Aを挟んで発振センサ120と受信センサ124とを測定対象物104の厚みT部分に取付ける(ステップS2)。
【0066】
次に、縦波Pの波長λpが測定対象物104の幅Wよりも短くなるように、ガイド波102の単一の周波数Fを決定して出力させる。この工程は、以下のように分解される。
【0067】
先ず、測定対象物104の幅Wに相当する縦波Pの波長λp1の周波数Fp1を式(6)から導く(ステップS4)。このとき、式(6)では不等号で関係が示されていたが、等号で結ばれているとして求める。
【0068】
次に、支持部材108がある場合には、その幅GWに相当する縦波Pの波長λp2の周波数Fp2を式(6)から導く(ステップS6)。ここでも、式(6)では不等号で関係が示されていたが、等号で結ばれているとして求める。
【0069】
次に、周波数Fp1よりも十分大きい単一の周波数Fを選択する(ステップS8)。
【0070】
Fp1≪F (7)
【0071】
ここで、本実施形態では、上記十分大きいという条件を約2倍以上とする。また、前述の如く、本実施形態では、接合幅(幅)GWが波長λpの2倍、好ましくは波長λpの1.5倍であっても、波長λpが接合幅(幅)GWと同一、若しくはそれよりも長いとする。このため、周波数Fp2の2倍以下、好ましくは1.5倍以下を単一の周波数Fに許容する。選択に際して、単一の周波数Fが大きければ、ガイド波102は減衰はしやすいが、より小さな亀裂104Bに対して感度を有する。逆に、選択する単一の周波数Fが小さければ、ガイド波102は小さな亀裂104Bに対して感度が低くなるが、減衰はしにくく、より長距離での計測を可能とする。
【0072】
次に、上記単一の周波数Fの妥当性を検証する(ステップS10)。具体的には、支持部材108によるガイド波102への実際の影響の確認や、受信センサ124での受信波の信号強度の確認や、計測対象とすべき亀裂104Bの長さCLに対する感度検証や、それらの実験データあるいはシミュレーション結果との参照を行うものである。妥当でなければ(ステップS10でNo)、再度ステップS8で単一の周波数Fを選択する。なお、このステップは、ステップS8で実験データや実測データを考慮して単一の周波数Fを選択することで、省略することが可能となる。
【0073】
次に、検証結果が妥当であれば(ステップS10でYes)、単一の周波数信号の周波数Fを決定し、周波数発生器112で、単一の周波数信号を出力する(ステップS12)。
【0074】
上述した単一の周波数Fの決定までを、以下に具体的な一例で示す。
【0075】
測定対象物104が鋼材で、幅Wが40cmで、ガイド波102の縦波Pの音速が5.7km/sのとき、式(6)を用いて周波数Fp1は14.25kHzとなる。
【0076】
支持部材108の幅GWが長さGLよりも長くて、最大で20cmのとき、式(6)を用いて周波数Fp2は28.50kHzとなる。
【0077】
本実施形態では、周波数Fp1の2倍以上、且つ周波数Fp2のより好ましい条件である1.5倍以下から、単一の周波数Fを31kHzに選択することができる。ここで、単一の周波数Fの決定は実測データ等に基づいているので、この後の妥当性の検証を省略して、単一の周波数Fを31kHzに決定する。
【0078】
以降、図7のフロー図に戻り、各ステップの説明を続ける。
【0079】
次に、位相変換器114にて、周波数発生器112で発生した単一の周波数Fを位相変換してPRBS信号にする(ステップS14)。
【0080】
次に、PRBS信号に位相変換された信号は、DA変換器116、発振増幅器118を介して、発振センサ120にて、発信波を発信する(ステップS16)。
【0081】
次に、発振センサ120から測定対象物104の被測定区間104Aを伝播してきた縦波Pと横波Sとの合成波であるガイド波102を受信センサ124で受信波として受信する(ステップS18)。
【0082】
次に、受信された受信波は、受信フィルタ126、AD変換器128を介して、データ記録器130に記録される。そして、記録された受信波に従う信号が、解析装置132にて、位相変換器114から出力される発信波に係るPRBS信号と相関を取られて値が算出される(ステップS20)。
【0083】
次に、予備実験あるいは過去の実測結果あるいはシミュレーション等に基づいて、予め求められた発信波に係るPRBS信号と受信波に従う信号との相関値(以降、単に相関値と称する)と、同様の測定対象物104で同じ幅Wでの亀裂104Bの長さCLと、を関係づけたテーブルを参照する(ステップS22)。
【0084】
次に、上記テーブルを参照した結果として、亀裂104Bの長さCLを求めることにより、被測定区間104Aの亀裂104Bを評価する。
【0085】
次に、本実施形態について、具体的な適用例を用いて説明する。なお、本適用例では、特に断りない場合には、測定対象物であるクレーンガーダ106の幅Wを40cm、単一の周波数Fを31kHzとする。
【0086】
図8には、ガーダークレーンを構成するクレーンガーダ106、ガーダークレーンを収納する建物などの構造物(図示せず)にクレーンガーダ106を固定・支持するためのガセットプレート(支持部材)108、クレーンガーダ106を上方に支持する支柱107とを示す。図9に示す如く、本実施形態の発振センサ120と受信センサ124とは、クレーンガーダ106とクレーンガーダ106とが隣接する各端部に取り付けられ、ケーブルCAでその配線が一箇所にまとめられている。図10に示す如く、クレーンガーダ106は、I形鋼であり、底板106X、中間板106Y、上板106Zから構成される。これらは一体に形成されているが、互いに直角で且つ底板106Xと上板106Zは中間において中間板106Yと連結された形状である。このため、図10に示す如く、発振センサ120と受信センサ124とを底板106Xの厚みT部分に取付部材122を介して貼り付けることにより、底板106Xのみを測定対象物として精度良く測定することができる。
【0087】
前述のように、クレーンガーダ106にはガーダークレーンを収納する建物等の構造物に固定・支持するためのガセットプレート(支持部材)108が取り付けてある。ガセットプレート108は、測定対象物104であるクレーンガーダ106に溶接されて一体となって、クレーンガーダ106を支持する支持部材である。そこで、相関値に対してのガセットプレート108の影響を調べた結果を図11に示す。
【0088】
図11(A)は、クレーンガータ106とガセットプレート108との接合幅(幅)GWとクレーンガーダ106の底板106Xとの関係を示す。そして、測定して得られた結果を図11(B)に示す。図11(B)に示す如く、単一の周波数Fが31KHzにおいては接合幅(幅)GWが0から200mmに変化してもその相関値の振幅には何ら影響を及ぼすことがないことが分かる。
【0089】
詳しく言うならば、接合幅(幅)GW200mmであって単一の周波数F31kHzのとき、波長λpは接合幅(幅)GWよりも数値的には小さい(λp(184mm)<GW(200mm))。しかし、前述した如く、接合幅(幅)GW200mmでもその相関値の振幅には何ら影響がないことが確認された。すなわち、接合幅(幅)GWに対して波長λpが、好ましい条件の1.5倍以下であることを満足している。
【0090】
このように、単一の周波数Fの決定の段階で接合幅(幅)GWを考慮することによって、相関値の振幅はガセットプレート108の影響を受けることがない。つまり、ガセットプレート108の溶接された部分で亀裂106Bが生じていた場合にも、容易に亀裂106Bを評価することが可能であることを示している。
【0091】
次に、クレーンガーダ106に亀裂106Bがある場合とない場合においてその相関値の振幅の差の有無を調べた結果を図12に示す。図12(A)は亀裂106Bがない底板106Xと大きな亀裂106Bがある上板106Zについての発振センサ120と受信センサ124の配置を示しており、図12(B)はそれぞれで得られた相関値を示している。発振センサ120と受信センサ124との距離(被測定区間106A)を16.54mとして、単一の周波数Fが31KHzの場合において、亀裂106Bを有する上板106Zにおいては、ガイド波102が極端に減衰してしまい、距離16.54mに相当する時間において相関値の波形を観測することができないことが分かる。
【0092】
亀裂106Bの長さCLと相関値との関係を求めるために図13を示す。図13(A)はクレーンガーダ106とそこに形成された亀裂106Bの長さCLの配置、図13(B)は亀裂106Bの長さCLを変化させたときの相関値の波形の変化を示している。この図から分かるように、亀裂106Bの長さCLが長くなると、発振センサ120と受信センサ124との距離を示す矢印位置での相関値の振幅が小さくなり、亀裂106Bの長さCLが50mm以上では相関値の波形を観測することができなくなっている。なお、丸で囲んだ部分は、亀裂106Bがない場合(0mm)には観測されなかった波形であり、亀裂106Bによる実体波の反射の影響と考えられる。この波形を処理することでも、亀裂106Bを解析することが可能である。
【0093】
図14には、図13と同様の実験を4つ行い(ケース1〜4)、相関値(音圧)の変化と亀裂106Bの長さCLとの関係を示す。4つの実験結果から、相関値(音圧)の変化と亀裂106Bの長さCLとの間にはほぼ一定の関係が存在することが分かる。これらの関係を検証するために、人為的に作成した亀裂106Bの長さCLではなく、かつ実験室レベルの環境の整った場所でないヤードで検証した検証実験結果を検証A、Bとして、図14に同時に示した。なお、検証Aはクレーンガーダ106のみが存在していた場合の結果である。検証BはクレーンCRを実際に可動させている状態での結果である。これらはいずれも、4つの実験結果から得られる相関値(音圧)の変化と亀裂106Bの長さCLとの関係を表すデータ上にプロットされている。つまり、相関値(音圧)の変化と亀裂106Bの長さCLとの関係は、安定していることを裏付ける結果となっている。即ち、求められた相関値(音圧)と、予め求めた相関値(音圧)と亀裂106Bの長さCLとの関係を、例えば、テーブルという形で用いることにより、発振センサ120と受信センサ124との間の被測定区間106Aの亀裂106Bの長さCLを容易に求めることが可能である。
【0094】
図15には、検証Bの際の配置及びそのときの相関値の波形を示す。なお、このときの亀裂106Bの長さCLの確認は、従来のUT法に基づいて行っている。図15(A)は発振センサ120と受信センサ124とクレーンガーダ106及びクレーンCRとの配置関係を示した上面図、図15(B)はそれぞれのクレーンガーダ106(CG1〜CG4)についての相関値(音圧)の波形である。結果から、CG1とCG4では相関値(音圧)の振幅が110dBを超えており、CG2(100dB)の3倍以上の振幅となっている。CG3は約70dBでありCG1(CG4)と比較すると、1/100の振幅である。このときのクレーンガーダ106(CG1〜CG4)の長さLが18mであることから、その範囲で亀裂106Bの有無と長さCLとを容易に把握できていることが分かる。
【0095】
上述した実際の結果から明らかなように、境界条件の一つである単一の周波数Fを、横波Sと共にガイド波102を合成する縦波Pの波長λpが測定対象物104(クレーンガーダ106)の幅Wよりも短くなるようして決定していることから、亀裂104B、106Bの評価が容易でありながら、測定対象物104(クレーンガーダ106)による減衰の影響を低減し、遠距離での計測が可能となる。又、亀裂104B、106Bの評価に際しては、使用する周波数Fは単一であり、擬似ランダム信号であるPRBS信号と受信波に従う信号との相関が取られるので、高いS/N比で解析を行うことができ、且つ一度に広範囲(被測定区間104A、106A全て)を測定することが可能である。又、被測定区間104A、106Aは発振センサ120と受信センサ124との間にあり、亀裂104B、106Bの評価においては、基本的に透過波を用いているので、より高いS/N比を確保することができる。更に、上述した構成により、測定対象物104(クレーンガーダ106)に搭載あるいは接するクレーン等の構造物の動作状況にほとんど影響を受けることなく、亀裂104B、106Bの評価が可能である。
【0096】
又、擬似ランダム信号であるPRBS信号と受信波に従う信号との相関値に対して、予め求めた相関値と亀裂104B、106Bの長さCLとの関係を用いているので、亀裂104B、106Bの評価、特に亀裂104B、106Bの長さCLを容易に求めることができる。
【0097】
又、取付部材122の材質と厚みの少なくともいずれかを変えた場合には、発信波の周波数に対して整合するように受信センサ124の周波数特性を変更させることができるので、測定現場において測定対象物に応じて臨機応変に最適な計測を行うことができる。
【0098】
更に、縦波Pの波長λpが測定対象物104(クレーンガーダ106)と一体となって測定対象物104(クレーンガーダ106)を支持する支持部材(ガセットプレート)108の接合幅(幅)GWと同一若しくはそれよりも長くなるように、単一の周波数Fを決定しているので、測定対象物104(クレーンガーダ106)を一体で支持する支持部材(ガセットプレート)108が存在してもそれらの影響を受けることなく、高いS/N比で解析を行うことができる。
【0099】
即ち、構造物や設備の探傷、例えば、具体的な実施形態で示したクレーンガーダ106を用いるガーダクレーンにおいて作業者が立ち入ることなく、又、操業や稼動を止めることなく簡単に一度に亀裂を把握することができる。
【0100】
本実施形態においては、図9に示した如く、発振センサ120及び受信センサ124等をクレーンガーダ106の端部に取り付け、それらをケーブルCAで接続しガーダークレーンの支柱107の下側まで持ってきて計測(1回の計測にかかる時間は1分以下)を行うことが可能である。即ち、本実施形態は短時間間隔での連続計測を可能とするものであり、発振センサ120と受信センサ124との距離を正確に取り付けることにより、到達時間と相関値の振幅を利用した正確な亀裂106Bの評価が可能である。このような計測は、例えば重要且つ老朽化した設備や、鉄鋼等の高所・高熱で容易に近寄れない場所を対象とすることができる。なお、最終的には、モニタルームまでケーブルCAを伸ばして計測が可能であり、常時計測・自動計測を行うことができるものである。
【0101】
しかし、本発明について第1実施形態を挙げて説明したが、本発明は第1実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の要旨を逸脱しない範囲においての改良並びに設計の変更が可能なことは言うまでもない。
【0102】
例えば、図16に示す第2実施形態で示す如く、発振センサ120及び受信センサ124を、棒状の冶具SSの先端に固定して測定対象物106に接触させるという簡易モニタリングする手法を取ることも可能である。この場合においては、発振センサ120及び受信センサ124との距離が若干ばらつく可能性があるが、距離のばらつきによる相関値の振幅の変化はほとんどないため、相関値の振幅を利用して亀裂106Bの長さCLの算出を精度良く行うことができる。この実施形態は、例えば、重要ではないが老朽化している設備を対象とすることができ、具体的には製品等を貯蔵する倉庫等の、人が容易に近寄れる場所でのクレーン設備等を対象とすることが可能である。
【0103】
又、上述の実施形態において、測定対象物104をクレーンガーダ106としていたが本発明はこれに限定されるものではない。上述した如く、相関値の振幅の結果だけでも亀裂の長さを判定することができるため、発振センサ120及び受信センサ124との距離の距離を厳密に計測する必要がないため、障害物があり見通しが悪い場合、構造物自体が曲がっている場合(図20に示す如く橋梁の梁の部分)、構造物そのものに近づくことができない場合など、正確な位置への発振センサ120及び受信センサ124の設置が難しい場合にも測定が可能である。更に、測定対象物106は、ガーダークレーン、橋梁、レール等を構成する一部であって、鋼製のみならず、コンクリート製であってもよい。
【0104】
このように、本発明は、図21で示した従来技術のように測定対象物104の上面に載ることなく、図17に示す如く、発振センサ120及び受信センサ124を取り付けるだけで本格的にその亀裂104Bを評価することが可能である。その際に、図18に示す如く、測定対象物104に接近できる場合においては、直接に発振センサ120及び受信センサ124を粘土等で取り付けることが可能である。又、測定対象物104が高い場所に有っては図19に示す如く、前述したような棒状の治具SSの先端に、発振センサ120及び受信センサ124を取り付けて簡易的に測定対象物104に取り付けることによって亀裂104Bを検査することが可能である。
【0105】
なお、本発明においては、上記実施形態の周波数発生器112が必ずしも周波数決定手段を備える必要はない。備えたとしても、周波数決定手段は、ガイド波102を形成する縦波Pの波長λpが、測定対象物104(クレーンガーダ106)の幅Wよりも短いこと、あるいは、測定対象物104(クレーンガーダ106)と一体となって測定対象物104(クレーンガーダ106)を支持する支持部材(ガセットプレート)108の接合幅(幅)GWと同一若しくはそれよりも長いことの、いずれかの条件で、ガイド波102の単一の周波数Fを選択して決定してもよい。
【0106】
上記実施形態においては、独立した周波数発生器112と位相変換器114と解析装置132とが非破壊探傷装置100に備えられていたが、本発明はこれに限定されるものはない。例えば、これらの構成要素の機能が一体の装置に備えられていても本発明に属するものである。
【0107】
又、上記実施形態においては、擬似ランダム信号としては、M系列を用いたPRBS信号であったが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、擬似ランダム信号として、Gold系列やBarker系列などであっても、上記実施形態で示したように、位相変換を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の第1実施形態に係る非破壊探傷装置を示す概略図
【図2】同じく主に周波数発生器から出力される波形の位相変換される様子を示す摸式図
【図3】同じくガイド波の伝播モデルの一例を示す摸式図
【図4】同じく測定対象物の幅に対して実体波の波長が整合していない場合の減衰を概念的に示す摸式図
【図5】同じく具体的に波長(単一の周波数)が異なる場合の相関値(音圧)の波形を示す図
【図6】同じく亀裂がある場合のガイド波の減衰を説明する概念図
【図7】同じく非破壊で探傷する方法のフロー図の一例を示す図
【図8】同じくクレーンガーダの斜視図
【図9】同じく発振センサと受信センサの取付位置等を示した模式図
【図10】同じく発振センサと受信センサの取付位置を詳細に示した摸式図
【図11】同じくクレーンガーダに取付けられているガセットプレートの接合幅の相関値(音圧)の振幅に対する影響を示す図
【図12】同じくクレーンガーダの亀裂の有無による相関値(音圧)の波形の違いを示す図
【図13】同じくクレーンガーダの亀裂の長さで相関値(音圧)の振幅が変化する様子を示す図
【図14】同じく相関値(音圧)の変化と亀裂の長さの関係をまとめた図
【図15】同じく図14の検証Bにおける相関値(音圧)の波形を示す図
【図16】本発明の第2実施形態に係る冶具を用いた簡易モニタリングを示す概念図
【図17】本発明の測定についての大概念を示す図
【図18】本発明の測定についての具体的な概念を示す図
【図19】本発明の測定についての別の具体的な概念を示す図
【図20】本発明が橋梁に適用されることを示す摸式図
【図21】従来のガーダークレーンの測定方法を示す摸式図
【符号の説明】
【0109】
100…非破壊探傷装置
102、102A、102B…ガイド波
103、103A、103B…実体波
104…測定対象物
104A、106A…被測定区間
104B、106B…亀裂
105、107…支柱
106、CG1〜CG4…クレーンガーダ
108…ガセットプレート(支持部材)
112…周波数発生器
114…位相変換器
116…DA変換器
118…発振増幅器
120…発振センサ
122…取付部材
124…受信センサ
126…受信フィルタ
128…AD変換器
130…データ記録器
132…解析装置
L…測定対象物の長さ
W…測定対象物の幅
T…測定対象物の厚み
CL…亀裂の長さ
GW…ガセットプレートの接合幅(幅)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振センサより発信された縦波と横波とで合成されて、測定対象物の表面付近で観測されるガイド波を受信センサで受信して、測定対象物の亀裂を非破壊で探傷する非破壊探傷方法において、
前記測定対象物の測定される長さ方向の被測定区間を挟んで前記発振センサと受信センサとを該測定対象物の厚み部分に取付け、
前記縦波の波長が該測定対象物の幅よりも短くなるように、該ガイド波の単一の周波数信号の周波数を決定して出力させ、
該出力された単一の周波数信号を位相変換して擬似ランダム信号とし前記縦波と横波とからなる発信波を前記発振センサから発信し、
該発振センサから前記被測定区間を伝播してきた該縦波と横波との合成波であるガイド波を受信センサで受信波として受信し、
前記擬似ランダム信号と該受信波に従う信号との相関を取ることにより、該被測定区間の亀裂を評価することを特徴とする非破壊探傷方法。
【請求項2】
前記擬似ランダム信号と前記受信波に従う信号との相関値に対して、予め求めた該相関値と前記亀裂の長さとの関係を用いて、前記被測定区間の亀裂の長さを求めることを特徴とする請求項1に記載の非破壊探傷方法。
【請求項3】
前記発振センサと受信センサとが取付部材を介して前記測定対象物に取付られた際に、該取付部材の材質と厚みの少なくともいずれかを変更することで、前記発信波の周波数に対して整合するように前記受信センサの周波数特性を変更させることを特徴とする請求項1又は2に記載の非破壊探傷方法。
【請求項4】
前記測定対象物は、ガーダークレーン、橋梁、レールを構成する一部であって、鋼製、あるいはコンクリート製であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の非破壊探傷方法。
【請求項5】
縦波と横波とを発信波として発信する発振センサと、該縦波と横波とから合成されて測定対象物の表面付近で観測されるガイド波を受信波として受信する受信センサと、該受信波に基づいて測定対象物の亀裂を解析する解析装置と、を有する非破壊探傷装置において、
前記測定対象物の測定される長さ方向の被測定区間を挟んで前記発振センサと受信センサとが該測定対象物の厚み部分に取付けられて、前記縦波の波長が該測定対象物の幅よりも短くなるように、該単一の周波数信号の周波数を決定して出力可能な周波数発生器と、
該周波数発生器から出力された該単一の周波数信号を、位相変換して擬似ランダム信号とする位相変換器と、
該擬似ランダム信号と前記受信波に従う信号との相関を取ることにより、前記被測定区間の亀裂を評価する手段と、
を備えることを特徴とする非破壊探傷装置。
【請求項6】
前記周波数発生器は、更に、前記縦波の波長が該測定対象物と一体となって該測定対象物を支持する支持部材の幅と同一若しくはそれよりも長くなるように、前記単一の周波数を決定する周波数決定手段を備えることを特徴とする請求項5に記載の非破壊探傷装置。
【請求項7】
前記解析装置は、前記擬似ランダム信号と前記受信波に従う信号との相関値に対して、予め求めた該相関値と前記亀裂の長さとの関係を用いて、前記被測定区間の亀裂の長さを求める演算手段を備えることを特徴とする請求項5又は6に記載の非破壊探傷装置。
【請求項8】
前記発振センサと受信センサとを前記測定対象物に取付けると共に、該測定対象物と該発振センサあるいは該受信センサとの間に介在する材質と厚みの少なくともいずれかを変更することで、前記発信波の周波数に対して整合するように前記受信センサの周波数特性を変更させることができる取付部材を備えることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の非破壊探傷装置。
【請求項9】
前記取付部材は、接着剤、粘土、高粘性ゲルあるいは磁石であることを特徴とする請求項8に記載の非破壊探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−276095(P2009−276095A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125194(P2008−125194)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(591205536)JFEシビル株式会社 (39)
【Fターム(参考)】