説明

面状発熱体及びその製造方法

【課題】
金属箔抵抗体または金属抵抗体からなる面状発熱体において、200℃以上での耐熱性、層間接着性、耐加水分解性、平面性、屈曲性に優れるポリアリーレンスルフィドフィルムを使用した面状発熱体を提供する。
【解決手段】
金属箔抵抗体または金属抵抗体からなる発熱素子の少なくとも片面を、接着剤を使用することなくポリアリーレンスルフィドを用いて絶縁被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は面状発熱体及びその製造方法に関し、特に、暖房、加熱、乾燥などの熱源として用いることができる面状発熱体及びその製造方法に関するものである。更に詳細には電気エネルギーで発熱する面状発熱体の絶縁被覆に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から面状発熱体として、各種の面状の発熱素子を電気絶縁シートで被覆した構造のものが広く利用されている。例えば、発熱素子としてはカーボン系あるいは金属系の導電性樹脂をガラスクロス、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、又はマイカ等の基材に含浸、塗布又は印刷により保持させたもの、あるいはアルミニウム、銅、ステンレススチール等の金属箔をエッチングして回路としたもの、そのほかニッケルクロム、銅ニッケル等の金属抵抗線をマイカなどの基材に巻き回して回路としたものなどが使われている。また、発熱素子を被覆するための電気絶縁材料としてはシリコン、ポリエステル、ポリアミドなどの合成樹脂フィルム、ゴムシート、エポキシ含浸ガラスクロスなどが用いられている。
【0003】
これらのうちでも、発熱素子としてグラフトカーボン及びカーボン粉末または金属粉末を熱硬化性樹脂に分散させて得られた導電性材料ガラスクロスなどの基材に含浸、塗布、あるいは印刷により製造する方法は発熱素子の大きさ、形状などの対応性に優れており大量生産にも適応性が高いとされている。このため、この方法により製造されていた面状発熱体は床暖房、サウナ、洗面化粧台などの防曇鏡、情報機器、ペット用採暖具などの広範囲の分野でヒーターとして用いられている。これらの利用分野のうち、一部の分野では面状発熱体が高い温度領域で使用されることから、発熱素子自体の耐熱性の改善が行われているほか、発熱素子を被覆する絶縁材料として、シリコンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリスルフォンフィルム及びポリアリーレンスルフィドフィルムなどの耐熱性の高い材料が使用されている。発熱素子と絶縁被覆材の接合には縮合多環多核芳香族樹脂、シリコン樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化樹脂等の絶縁被覆材とは異なる化合物を接着剤として用いるほか、これらの樹脂を有機溶媒に溶解した溶媒を塗液として発熱素子に塗布又は含浸することにより接着層を形成し、発熱素子と絶縁被覆材の接着性を向上させることが可能であった。
【特許文献1】特開2000-215969号公報
【特許文献2】特開2000-252044号公報
【特許文献3】特開2006-19209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら絶縁被覆材と異なる樹脂や塗液を接着剤または接着層とする面状発熱体では、高温での長期使用により接着剤又は接着層の劣化が起こり絶縁被覆層と発熱素子の間に空隙が生じるという不都合があった。また、面状発熱体の構造から樹脂同士の接合部位での接着性も重要であるが、発熱素子に塗布又は含浸して接着層を形成するような塗液を用いた製造方法では樹脂同士の接合部位での接着性が改善されず、長期使用により樹脂同士の接合部位からの剥離が生じるという不都合があった。このほかに、接着剤や接着層となる化合物を塗布または含浸させる場合は塗布または含浸といった工程のほか、熱処理による硬化促進などの工程を経て製品を製造する必要があり工程の簡略化が望まれていた。さらに、ポリイミドを用いて絶縁被覆した場合にはポリイミドが高価であること、面状発熱体として使用中にカールしてしまうこと、高温高湿下で使用した際に耐加水分解性に劣るため樹脂の劣化が著しく進んでしまうという問題を有する。
【0005】
このように従来の面状発熱体では高温で長期間に渡り安定して使用可能なものは見出されていなかった。すなわち本発明の課題は、高い温度領域、具体的には180〜240℃の温度領域や高湿度下、具体的には60%RH以上において長期間にわたり絶縁被覆材と発熱素子又は絶縁被覆材同士が剥離せず、発熱体の変形がおきることなく使用が可能であり、さらには簡便な製造工程で製造可能な面状発熱体を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、金属箔抵抗体または金属抵抗体からなる発熱素子に接着剤を使用することなくポリアリーレンスルフィドを用いて絶縁被覆することによって面状発熱体の使用温度及び湿度を著しく高めることができ、かつ長期間にわたって絶縁被覆材と発熱素子又は絶縁被覆材同士が剥離せず、発熱体の変形がおきることなく使用が可能であり、さらには簡便な製造工程で製造可能な面状発熱体を開発する方法を見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明は、金属箔抵抗体または金属抵抗体からなる発熱素子の少なくとも片面を、接着剤を使用することなくポリアリーレンスルフィドを用いて絶縁被覆したことを特徴とする面状発熱体である。
【0008】
また本発明は金属箔抵抗体または金属抵抗体からなる発熱素子の少なくとも片面を、接着剤を使用することなくポリアリーレンスルフィドを用いて絶縁被覆したことを特徴とする面状発熱体の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の面状発熱体は接着剤を使用しないため、使用温度及び湿度を著しく高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、発熱素子の両面に接着剤を用いることなく直接ポリアリーレンスルフィドを積層させることで前記課題を解決するものである。
【0011】
以下、本発明について、望ましい実施の形態を例にとって詳細に説明する。
【0012】
本発明でいうポリアリーレンスルフィドとは、−(Ar−S)−の繰り返し単位を有するホモポリマーあるいはコポリマーである。Arとしては下記の式(A)〜式(K)などで表される構成単位などが挙げられる。
【0013】
【化1】

【0014】
(R1,R2は、水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィドの繰り返し単位としては、上記の式(A)で表される構造式が好ましく、これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、フィルム物性と経済性の観点から、ポリフェニレンスルフィド(PPS)が好ましく例示され、ポリマの主要構成単位として下記構造式で示されるp−フェニレンスルフィド単位を好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む樹脂である。かかるp−フェニレンスルフィド成分が80モル%未満では、ポリマの結晶性や熱転移温度などが低く、PPSの特徴である耐熱性、寸法安定性、機械特性および誘電特性などを損なうことがある。
【0015】
【化2】

【0016】
上記PPS樹脂において、繰り返し単位の20モル%未満、好ましくは10モル%未満であれば、共重合可能な他のスルフィド結合を含有する単位が含まれていても差し支えない。繰り返し単位の20モル%未満、好ましくは10モル%未満の繰り返し単位としては、例えば、3官能単位、エーテル単位、スルホン単位、ケトン単位、メタ結合単位、アルキル基などの置換基を有するアリール単位、ビフェニル単位、ターフェニレン単位、ビニレン単位およびカーボネート単位などが例として挙げられ、具体例として、下記の構造単位を挙げることができる。これらのうち一つまたは二つ以上共存させて構成することができる。この場合、該構成単位は、ランダム型またはブロック型のいずれの共重合方法であってもよい。
【0017】
【化3】

【0018】
PPS樹脂およびPPS樹脂組成物の溶融粘度は、溶融混練が可能であれば特に限定されないが、温度315℃で剪断速度1,000(1/sec)のもとで、100〜2000Pa・sの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは200〜1,000Pa・sの範囲である。
【0019】
本発明でいうPPSは種々の方法、例えば、特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法、あるいは、特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きい重合体を得る方法などによって製造することができる。
【0020】
本発明において、得られたPPS樹脂を、空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水および酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネートおよび官能基ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化など、種々の処理を施した上で使用することも可能である。
【0021】
次に、PPS樹脂の製造法を例示するが、本発明では特にこれに限定されない。例えば、硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンをN-メチルー2ーピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で、高温高圧下で反応させる。必要に応じて、トリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることも可能である。重合度調整剤として苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し230〜280℃で重合反応させる。重合後にポリマを冷却し、ポリマを水スラリーとしてフィルターで濾過後、粒状ポリマを得る。これを酢酸塩などの水溶液中で30〜100℃、10〜60分攪拌処理し、イオン交換水にて30〜80℃で数回洗浄、乾燥してPPS粉末を得る。この粉末ポリマを酸素分圧10トール以下、好ましくは5トール以下でNMPにて洗浄後、30〜80℃のイオン交換水で数回洗浄し、5トール以下の減圧下で乾燥する。かくして得られたポリマは、実質的に線状のPPSポリマであるので、安定した延伸製膜が可能になる。もちろん必要に応じて、他の高分子化合物や酸化珪素、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレン、マイカ、タルクおよびカオリンなどの無機や有機化合物や熱分解防止剤、熱安定剤および酸化防止剤などを添加してもよい。
【0022】
PPS樹脂の加熱による架橋/高分子量化する場合の具体的方法としては、空気や酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素やアルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法を例示することができる。加熱処理温度は、通常170〜280℃が選択され、より好ましくは200〜270℃であり、また、加熱処理時間は、通常0.5〜100時間が選択され、より好ましくは2〜50時間であるが、この両者を制御することにより目標とする粘度レベルを得ることができる。加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは攪拌翼つきの加熱装置であってもよいが、効率よくしかも均一に処理するためには、回転式あるいは攪拌翼つきの加熱装置を用いることが好ましい。
【0023】
PPS樹脂を窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合の具体的方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で、加熱処理温度150〜280℃、好ましくは200〜270℃、加熱時間は0.5〜100時間、好ましくは2〜50時間加熱処理する方法を例示することができる。加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは攪拌翼つきの加熱装置でもよいが、効率よくしかもより均一に処理するためには回転式あるいは攪拌翼つきの加熱装置を用いることが好ましい。本発明で用いるPPS樹脂は、引張破断伸度の向上の目標を達成するために熱酸化架橋処理による高分子量化を行わない実質的に直鎖状のPPSであることが好ましい。
【0024】
本発明で用いられるPPS樹脂は、脱イオン処理を施されたPPS樹脂であることが好ましい。脱イオン処理の具体的方法としては、酸水溶液洗浄処理、熱水洗浄処理、および有機溶剤洗浄処理などを例示することができ、これらの処理は2種以上の方法を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
PPS樹脂の有機溶剤洗浄処理の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、有機溶剤としては、PPS樹脂を分解する作用などを有していないものであれば特に制限はなく、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒の中で、N−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムが特に好ましく用いられる。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0026】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要に応じて適宜攪拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度について特に制限はなく、常温〜300℃の範囲で任意の温度を選択することができる。洗浄温度が高くなるほど、洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の温度で十分効果が得られる。また、有機溶媒洗浄を施されたPPS樹脂は残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。
【0027】
PPS樹脂の熱水洗浄処理の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、熱水洗浄によるPPS樹脂の好ましい化学変性の効果を発現するために、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱し攪拌することにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の方が多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選択される。
【0028】
PPS樹脂の酸水溶液洗浄処理の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要に応じて適宜攪拌または加熱することも可能である。用いられる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸および酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸、クロロ酢酸やジクロロ酢酸などのハロゲン置換脂肪族飽和カルボン酸、アクリル酸やクロトン酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸、安息香酸やサリチル酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸およびフマル酸などのジカルボンン酸、硫酸、リン酸、塩酸、炭酸および珪酸などの無機酸性化合物などが挙げられる。中でも酢酸と塩酸が好ましく用いられる。酸処理を施されたPPS樹脂は、残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。また、洗浄に用いられる水は、酸処理によりPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。
【0029】
本発明で用いる二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムとは、例えばp−フェニレンスルフィドなどのポリアリーレンスルフィドを90重量%以上含む樹脂組成物を、溶融成形してシート状とし、二軸延伸、熱処理してなるフィルムである。p−フェニレンスルフィドなどのポリアリーレンスルフィドの含有量が90重量%未満では、組成物としての結晶性が低下し、フィルムの耐熱性、熱寸法安定性、耐加水分解性などが損なわれる場合がある。ポリアリーレンスルフィドとしてp−フェニレンスルフィドを用いる場合、該組成物中の10重量%未満はp−フェニレンスルフィド以外のポリマを含むことができる。p−フェニレンスルフィド以外のポリマは、例えば、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエーテルエーテルケトンなどの各種ポリマおよびこれらのポリマの少なくとも1種を含むブレンド物を挙げることができる。また,無機または有機フィラー、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、相溶化剤などの添加剤を含むこともできる。
【0030】
本発明では発熱素子との接着性を発現させるために、接着層として共重合ポリアリーレンスルフィド(共重合PPS)を用いることができる。本研究で用いる共重合PPSとは、好ましくは80モル%以上92モル%以下が主成分としてポリ−p−フェニレンスルフィドユニットで構成されていることが好ましい。かかる主成分が80モル%未満では、フィルムの耐熱性低下が著しくなる場合があり、92モル%を超えると、界面接着性を十分高められない場合がある。
共重合単位としては、下記式に示すポリ−m-フェニレンスルフィド単位、
【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
【化6】

【0034】
(ここでXは、アルキレン、CO、SO単位を示す。)
【0035】
【化7】

【0036】
【化8】

【0037】
(ここでRはアルキル、ニトロ、フェニレン、アルコキシ基を示す。)が挙げられ、これらの複合の単位が存在してもかまわない。好ましい共重合単位は、ポリ−m-フェニレンスルフィド単位である。これらの単位の共重合量は、8モル%以上20モル%以下が好ましく、より好ましくは10モル%以上18モル%以下であり、さらに好ましくは、12モル%以上15モル%以下である。かかる共重合成分が8モル%未満では、界面接着性を十分高められない場合がある。20モル%を超えると、耐熱性の低下が著しくなる場合がある。
【0038】
本発明で用いられる共重合の上記主成分と共重合成分との共重合の態様は特に限定はないが、ランダムコポリマーであることが好ましい。
【0039】
本発明においては、共重合ポリアリーレンスルフィドを構成する共重合体の繰り返し単位の残りの部分においては、さらに他の共重合可能な構成単位で構成されてもよいが、例えば、下記式に代表される3官能性フェニルスルフィドは、共重合体全体の1モル%以下であることが好ましい。
【0040】
【化9】

【0041】
本発明の共重合PPSの融点は、210℃以上260℃以下が好ましく、より好ましくは220℃以上250℃以下であり、さらに好ましくは、230℃以上240℃以下である。かかる共重合PPSの融点が210℃未満では、耐熱性の低下が著しくなる場合があり、260℃を超えると界面接着性を十分高められない場合がある。共重合PPSの融点は、共重合成分のモル比によって適宜調製できる。例えば、共重合PPSの融点を210℃とする場合は、共重合成分のモル比を20モル%とすることにより得ることができる。
本発明の面状発熱体は、共重合ポリアリーレンスルフィドを二軸配向ポリアリーレンスルフィド層の積層シートの最外層に配することにより金属との接着性が発現することを特徴とする。
面状発熱体の構成としては特に限定されないが、最外層にポリアリーレンスルフィド層(a層)を設けて、金属と接する層として共重合ポリアリーレンスルフィド層を配したポリアリーレンスルフィドフィルムで発熱素子を挟み込んだ構成が好ましく例示される。
本発明の面状発熱体は、金属素子との熱圧着に先駆けて、共重合ポリアリーレンスルフィド層および二軸配向ポリアリーレンスルフィド層の表面にコロナ放電処理やプラズマ処理を施すことは好ましく用いられる。
また、本発明においては、本発明の効果を妨げない限り必要に応じて、さらに他のシート層を積層してもかまわない。
【0042】
本発明の共重合アリーレンスルフィド積層ポリアリーレンスルフィドフィルムは上記共重合ポリアリーレンスルフィドを溶融成形してシート状とし、二軸延伸、熱処理してなるフィルムを上記ポリアリーレンスルフィドフィルムに積層したフィルムである。
【0043】
共重合ポリアリーレンスルフィドをポリアリーレンスルフィドフィルムに積層する方法は、特に限定されないが、共押出による方法が好ましく用いられる。
【0044】
積層フィルムの作成方法について説明する。ポリアリーレンスルフィド原料と、共重合ポリアリーレンスルフィド原料を別々の溶融押出装置に供給し、個々の原料の融点以上に加熱する。加熱により溶融された各原料は、溶融押出装置と口金出口の間に設けられた合流装置にて溶融状態で2層または3層に積層され、スリット状の口金出口から押し出される。かかる溶融積層体を冷却ドラム上でポリアリーレンスルフィドのガラス転移点以下に冷却し、実質的に非晶状態の2層または3層積層の未延伸シートを得た後二軸延伸することができる。
次に、この未延伸フィルムを二軸延伸し、二軸配向させる。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と幅方向を同時に延伸する方法)、又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。
【0045】
ここでは、最初に長手方向、次に幅方向の延伸を行う逐次二軸延伸法を用いる。延伸温度について以下説明する。
【0046】
未延伸ポリアリーレンスルフィドフィルムを加熱ロール群で加熱し、長手方向に2〜4倍、好ましくは2.5〜4倍、さらに好ましくは2.8〜3.5倍に1段もしくは2段以上の多段で延伸する(MD延伸)。延伸温度は、Tg(PPSのガラス転移温度)〜(Tg+50)℃、好ましくは(Tg+5)〜(Tg+50)℃、より好ましくは(Tg+5)〜(Tg+40)℃、さらに好ましくは(Tg+10)〜(Tg+30)℃の範囲である。最も好ましくは(Tg+15)〜(Tg+30)℃の範囲である。その後20〜50℃の冷却ロール群で冷却する。
【0047】
MD延伸に続く幅方向の延伸方法としては、例えば、テンターを用いる方法が一般的である。このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、幅方向の延伸を行う(TD延伸)。延伸温度はTg〜(Tg+60)℃が好ましく、より好ましくは(Tg+5)〜(Tg+50)℃、さらに好ましくは(Tg+10)〜(Tg+40)℃の範囲である。特に、TD延伸には、MD延伸の延伸温度より3〜15℃だけ低温で延伸することが好ましく、さらに好ましくは5〜10℃低温に設定する。TD延伸の延伸温度を好ましい範囲に設定することで、ポリアリ−レンスルフィドの結晶化を過度に進行させずに分子鎖配向を本発明の範囲に制御しやすく、破断伸度向上や成形加工性向上の本発明の効果を得やすくなる。さらに、TD延伸の延伸ゾ−ンの前の予熱ゾ−ンにおいて、予熱温度をTD延伸の温度より3〜10℃だけ低温で実施することが好ましく、さらに好ましくは5〜7℃だけ低温に設定する。TD延伸前の予熱温度を好ましい範囲に設定することで、ポリアリ−レンスルフィドの結晶化を過度に進行させずに分子鎖配向を本発明の範囲に制御しやすく、破断伸度向上や成形加工性向上の本発明の効果を得やすくなる。延伸倍率は、2〜4倍が好ましく、より好ましくは2.5〜4倍、さらに好ましくは2.8〜3.5倍の範囲である。
【0048】
次に、この延伸フィルムを緊張下または幅方向に弛緩しながら熱固定する。好ましい熱固定温度は、200〜270℃、より好ましくは210〜260℃、さらに好ましくは220〜255℃の範囲である。熱固定は温度を変更して2段で実施するのも好ましい。その場合、2段目の熱固定温度を1段目より5〜20℃温度を高くするのが好ましい。熱固定時間は0.2〜30秒の範囲で行うことが好ましく、5〜20秒の範囲がさらに好ましい。さらにこのフィルムを40〜180℃の温度ゾーンで幅方向に弛緩しながら冷却する。弛緩率は、幅方向の熱収縮率を低下させる観点から1〜10%であることが好ましく、より好ましくは2〜8%、さらに好ましくは3〜7%の範囲である。
【0049】
さらに、フィルムを室温まで、必要ならば、長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、フィルムを冷やして巻き取り、目的とする二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得る。
【0050】
本発明の積層フィルムの共重合ポリアリーレンスルフィド積層厚みは、5μm以上、50μm以下であることが重要である。より好ましくは10μm以上30μm以下であり、さらに好ましくは15μm以上25μm以下である。共重合PPS層の厚みが5μm未満の場合、共重合ポリアリーレンスルフィド層の配向緩和が十分進行せず接着性を十分高められない場合があり、50μmを超えると、積層フィルムの耐熱性が低下したり、高温下での平面性が著しく悪化する場合がある。
【0051】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムの厚さは、用途等により異なるが500μm以下が好ましく、より好ましくは10〜300μmの範囲であり、さらに好ましくは20〜200μmの範囲である。
【0052】
PPSフィルムは、必要に応じて、熱処理、成形、表面処理、ラミネート、コーティング、印刷、エンボス加工およびエッチングなどの任意の加工を行ってもよい。本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは製膜後に更に1回以上熱弛緩処理を施すことによって接着性を向上することができる。
【0053】
熱弛緩処理の方法について説明する。熱弛緩処理の方法は特定するものではないが、懸垂式の弛緩熱処理法が特に好ましい。懸垂式の弛緩熱処理法は、処理するフィルムの送り出し側の張力をニップローラーで遮断した後、平面性を確保するために予熱しながら上方に設置したローラーを経て下方に自重で垂下させ、その途中で加熱した後、下方のローラーでほぼ水平方向に向きを変え、フィルムを冷却して平面性を維持しつつ、ニップローラーで巻取り張力を遮断した上で巻き取る。上下ローラー間の張力は、該処理区間にテンションピックアップを設置し、送り出し、巻取り側の各ニップローラーのモーターを調整することで達成できる。
【0054】
弛緩熱処理時の張力としては、1kPa以上500kPa以下が好ましい。この弛緩熱処理時の張力の下限は、10kPaであることが更に好ましく、20kPaであることが特に好ましい。また、弛緩熱処理時の張力の上限は450kPaであることが更に好ましく、400kPaであることが特に好ましい。弛緩熱処理時の張力が上記の下限未満では平面性が悪くなり、また、フィルム搬送中に蛇行しやすくなるため生産性が悪くなり、好ましくない。また弛緩熱処理時の張力が上記の上限を超えると、寸法変化が大きくなりやすく、好ましくない。
【0055】
熱弛緩処理時の垂下距離は、1m以上10m以下が好ましい。垂下距離が1m未満では加熱範囲が短いので処理速度が遅く生産性が悪くなり、好ましくない。また10mを超えると、搬送時にフィルムが蛇行しやすくなり、また、平面性も悪くなり、好ましくない。
熱弛緩処理の回数は、所望の寸法安定性を得るため、1回以上必要であり、2回以上実施することがより好ましい。この回数は、所望の寸法安定性を確保するまで、何回でも実施できる。2回以上実施する際の方法としては、該熱弛緩処理工程中に、懸垂状態で熱弛緩処理をするゾーンを連続して2つ以上設けるか、または、一度熱弛緩処理されたフィルムを、再度同じ工程で先の処理とはフィルムの表裏を逆になるようにして熱弛緩熱処理することによって実施される。この時、フィルムの表裏を逆にするのは、熱弛緩処理工程処理時の幅方向における寸法安定性の不均一化を防ぐ為である。
【0056】
この熱弛緩処理に際しては、これらを克服する対策があれば特に制限はない。加熱方式には制約は無いが、赤外線加熱が即時に加熱できて好ましい。熱弛緩処理の温度は、Tg以上Tg+140℃以下が好ましい。熱弛緩処理の温度の下限は、Tg+10℃であることが更に好ましく、Tg+20℃であることが特に好ましい。また、熱弛緩処理の温度の上限はTg+130℃であることが更に好ましく、Tg+120℃であることが特に好ましい。熱弛緩処理の温度がTg未満では寸法変化率を小さくすることが難しく、熱弛緩処理の効果は小さくなる。
また、Tg+150℃を超えると平面性が悪化し易く、オリゴマーが析出してフィルムが変色することがある。この変色は圧力履歴に左右され、例えば吊りベルトをフィルムロールのフィルム部分に架けて運搬すると、Tg+150℃以下であっても、ベルトと接触した部分が変色し易いので注意を要する。なお、フィルム温度は、非接触の赤外線式温度計(例えばバーンズ式輻射温度計)を用いて測定することが望ましい。この懸垂式弛緩熱処理法によれば、製膜時の両端部近辺のフィルムでも、寸法変化率を本発明の範囲に収めることができる。
【0057】
本発明のフィルムについて、前記の方法を用いて200℃で30分処理したフィルムの熱収縮率はフィルムのMD方向とTD方向の平均値が1%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5%以下である。熱収縮率が前記の範囲であるフィルムの発熱素子との熱プレス時の接着性は良好である。熱収縮率を本願発明の好ましい範囲とする方法は前記の熱弛緩処理法を用いることが有効である。これ以外にも、熱弛緩処理を実施する方法はあるが、欠点がより多く、欠点が回避できる場合は採用することができる。また、前述の製膜方法のように横延伸時に幅方向に弛緩しながら冷却することによって熱収縮率を調節することも可能である。
【0058】
次に発熱素子について説明する。本発明に用いられる発熱素子としては金属箔抵抗体、金属抵抗体が好適に用いられるが、これに限定されない。金属箔抵抗体からなる発熱素子としてはステンレススチール箔、鉄クロム箔、ニッケルクロム箔、アルミ箔、銅箔等をエッチングして所望の導電パターンを形成し、所望の抵抗値及び発熱量が得られるように形成したものである。これらの金属箔の厚みは、通常3~100μmのものが用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
金属抵抗体からなる発熱素子としてはニッケルクロム、銅ニッケル、鉄クロム等の金属であり、50〜250μm程度の金属線に加工したものが用いられる。これらの金属は通常所望の抵抗値および発熱量が得られるように、熱可塑性樹脂フィルムに張り巡らした導電パターン形状のものが用いられる。以上の発熱素子は通常0.1〜1000Ω、好ましくは1~500Ω程度の抵抗を有し、導電パターンの端部は、電極として電源に接続されている。接続法は導電性接着剤やハンダにより導線を接着したり、カシメやボルト、ネジ等により機械的に接続させる。
【0060】
これらの発熱素子は、絶縁被覆材との接着性を向上のために酸化、別の金属原子の付加、薬品処理等の表面処理が施されているほうが好ましい。また、該金属の表面粗さ(粗さの最大と最小差:Rt)は、5μm以下が熱融着性、絶縁の信頼性、熱圧着の加工性の点で好ましい。
【0061】
次にポリアリーレンスルフィドフィルムと発熱素子を積層する方法について説明する。積層する方法は、接着剤を使用せず、高温高圧下で両者を直接熱圧着する方法を用いることができる。熱圧着の方法は、加熱ロールによる方法や熱板プレスなどによって行われるが、生産プロセス上の観点から加熱ロールによる方法が好ましい。また、発熱素子を加熱した直後に冷却してポリアリーレンスルフィドフィルムと発熱素子を熱融着(熱圧着)する方法が、積層体を均等に高温加熱でき熱圧着後瞬時に冷却できるためフィルムの平面性などの観点から好ましい。発熱素子の加熱からフィルムを熱圧着までの時間は1〜10秒の範囲が好ましく、熱圧着時のプレス圧は1〜10kg/cm、プレス時間は5秒以下が密着性、熱圧着後のPPS層の品位保持(皺、気泡等)の点で好ましい。発熱素子の加熱方式は、一般に熱風、電気ヒーター、加熱ロール方式が用いられ、プレスロールの冷却は水やその他の媒体が一般的に用いられる。
【0062】
発熱素子(a)の両面にポリアリーレンスルフィドフィルム (b)を積層して面状発熱体(b/a/b)を作成する場合、熱圧着の条件は、温度180℃〜270℃、圧力1〜20kg/cmの条件であることが好ましい。温度が180℃未満であると接着力が十分に高められない場合があり、270℃を超えると、積層シートの平面性が急激に悪化し、機械特性が悪化する場合がある。一方、圧力が1kg/cm未満では熱圧着の温度を上げても接着性に乏しく、逆に圧力が20kg/cmを超えると、積層シートの平面性が悪化したり、ポリアリーレンスルフィド層が破断したりする場合がある。接着性、機械特性の観点からより好ましい熱圧着温度は、200℃〜250℃の範囲であり、さらに好ましくは220℃〜240℃の範囲である。一方、より好ましい熱圧着圧力は、3〜15kg/cmの範囲であり、さらに好ましくは、5〜10kg/cmの範囲であるがこれらに限定されるものではない。
【0063】
また、発熱素子(a)の両面に共重合ポリアリーレンスルフィド積層ポリアリーレンスルフィドフィルム(c)を積層して(c/a/c)を作成する場合、熱圧着の温度条件は、接着性や機械特性の観点から、280℃を超えると、積層シートの平面性が急激に悪化し、機械特性が悪化する場合がある。また、熱圧着の圧力は、1〜20kg/cmの条件であることが好ましい。一方、圧力が1kg/cm未満では熱圧着の温度を上げても接着性に乏しく、逆に圧力が20kg/cmを超えると、積層シートの平面性が悪化したりする場合がある。一方、より好ましい熱圧着圧力は、3〜15kg/cmの範囲であり、さらに好ましくは、5〜10kg/cmの範囲であるがこれらに限定されるものではない。
【0064】
本発明の特性値の測定方法ならびに効果の評価方法は次の通りである。
【0065】
(1)ガラス転移温度(Tg)、融解温度(Tm)、結晶融解熱量
擬似等温法にて下記装置および条件で比熱測定を行い、JIS K7121に従って決定した。試料数3にて、それぞれについてその測定をして、平均値をとった。
【0066】
装置: セイコ−インスツルメンツ社製温度変調DSC
測定条件:
加熱温度:270〜570K(RCS冷却法)
温度校正:高純度インジウムおよびスズの融点
温度変調振幅:±1K
温度変調周期:60秒
昇温ステップ:5K
試料重量:5mg
試料容器:アルミニウム製開放型容器(22mg)
参照容器:アルミニウム製開放型容器(18mg)
なお、ガラス転移温度(Tg)は下記式により算出した。
ガラス転移温度=(補外ガラス転移開始温度+補外ガラス転移終了温度)/2
また、示唆走査熱量計として、セイコ−インスツルメンツ社製DSC(RDC220)、デ−タ解析装置として同社製ディスクステ−ション(SSC/5200)を用いて、試料5mgをアルミニウム製受皿上で室温から340℃まで昇温速度20℃/分で昇温して、観測される融解の吸熱ピ−クの熱量を結晶融解熱量とした。その後、340℃で5分間溶融保持し、急冷固化した後、室温から昇温速度20℃/分で昇温した。そのとき、観測される融解の吸熱ピ−クのピ−ク温度を融解温度(Tm)とした。
【0067】
(2)共重合PPS積層PPSフィルムの共重合積層厚み
任意のフィルム厚みの積層フィルムをフィルム面に垂直な方向に切断し、超薄切片法でサンプル作成した後、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製)で観察し積層厚みを測定した。
【0068】
測定条件:
接眼レンズ倍率:20倍
対物レンズ倍率:20倍
写真倍率:160倍。
【0069】
(3)接着性
発熱素子とポリアリーレンスルフィドフィルムとの接着性をJIS K6854により剥離角度180°の剥離強度にて測定した。
【0070】
◎ フィルムが破れる程度に接着
○ 剥離強度が0.7kg/cm以上1.0kg/cm未満
△ 剥離強度が0.3kg/cm以上〜0.7kg/cm未満
× 剥離強度が0.3kg/cm未満。
【0071】
(4)屈曲性
面状発熱体を直径5cmの円筒に巻きつけクラック、剥離の有無を目視で判断した。
クラック及び剥離なし
△ 観察面の一部にクラック又は剥離あり
× 観察面全体にクラック又は剥離あり。
【0072】
(5)平面性
面状発熱体の表面を観察し、しわ及びうねりの有無を目視で判定した。
しわ及びうねりなし
△ 観察面の一部にしわ又はうねりあり
× 観察面全体にしわ又はうねりあり。
【0073】
(6)積層フィルムの耐熱性
フィルム長手方向に、長さ200mm、幅10mmの短冊状のサンプルを切り出して用いた。ASTM−D882に規定された方法に従って、破断伸度を測定した。測定はサンプルを変更して10回行いその破断伸度の平均値(X)を求めた。また、フィルム長手方向に、長さ200mm、幅10mmの短冊状のサンプルを、ギアオーブンにいれ、220℃の雰囲気下で放置した後、自然冷却し、このサンプルについて前記と同条件での引っ張り試験を10回行い、その破断伸度の平均値(Y)を求めた。得られた破断伸度の平均値(X)、(Y)から伸度保持率を次式で求めた。
伸度保持率(%)=(Y/X)×100
伸度保持率が50%以下に低下する熱処理時間を破断伸度の半減時間とした。耐熱性は下記の基準に従って評価した。○、△が合格である。
○:伸度半減期が300時間以上である。
△:伸度半減期が150時間以上300時間未満である。
×:伸度半減期が150時間未満である。
測定装置:オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA−100”
試料サイズ:幅10mm×試長間100mm
引張り速度:100mm/分
測定環境:温度23℃、湿度65%RH。
【0074】
(7)面状発熱体の耐熱性
熱圧着により作成した面状発熱体をギアオーブンにいれ、200℃又は210℃で1000時間処理した後、接着性、平面性、屈曲性を評価した。
【0075】
(8)積層フィルムの熱収縮率(%)
下記の条件にて測定した。
測定装置 :島津TMA−50
試料サイズ:幅3mm、長さ15mm
温度条件 :10℃/minで常温℃から200℃に昇温し、30分間保持。さらに40℃に降温して20分保持。
荷重条件 :3g一定
ここで、熱収縮率は、次式より求めた。
熱収縮率(%)=[(L0−L)/L0]×100
式中、L0 :昇温中の50℃の時の試料寸法
L :降温中の50℃の時の試料寸法。
熱収縮率はフィルムのMD方向及びTD方向のそれぞれについて測定を行い、平均値を算出した。
【実施例】
【0076】
参考例(1)共重合PPS組成物の製造
オートクレ−ブに100モルの硫化ナトリウム9水塩、45モルの酢酸ナトリウムおよび25リットルのN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略称する。)を仕込み、撹拌しながら徐々に220℃の温度まで昇温して、含有されている水分を蒸留により除去した。脱水の終了した系内に、主成分モノマーとして91モルのp−ジクロベンゼン、副成分モノマーとして10モルのm−ジクロロベンゼン、および0.2モルの1,2,4−トリクロルベンゼンを5リットルのNMPとともに添加し、170℃の温度で窒素を3kg/cmで加圧封入後、昇温し、260℃の温度にて4時間重合した。重合終了後冷却し、蒸留水中にポリマを沈殿させ、150メッシュ目開きを有する金網によって、小塊状ポリマを採取した。このようにして得られた小塊状ポリマを90℃の蒸留水により5回洗浄した後、減圧化120℃の温度にて乾燥して、溶融粘度が1000ポイズであり、融点が253℃の白色粒状の共重合PPSを得た。次いで、得られた共重合PPSを320℃の温度にて30mmφ2軸押出機によりガット状に押出し、ペレット化した。
参考例(2)PPS組成物の製造
主成分モノマーとして101モルのp−ジクロベンゼンを用い、副成分モノマーを用いないこと以外は全て上記(1)の共重合PPS組成物の製造と同様に実施して、PPS組成物を製造した。なお、PPS組成物の溶融粘度は、3000ポイズであり、融点は283℃であった。
参考例(3)製膜
前記(1)および(2)で得られた共重合PPS組成物およびPPS組成物を、それぞれ180℃の温度で3時間、1mmHgの減圧化で乾燥後、別々の押出機に供給し、溶融状態で口金上部にある二重管型の積層装置で2層(実施例9は3層)になるように導き、続いて設けられたTダイ型口金から吐出させ、25℃の温度の冷却ドラムで急冷し、実質的に非晶の共重合PPS組成物/PPS組成物の2層積層シートを得た。次いで、得られた各積層シートを、表面温度95℃の複数の加熱ロールに接触走行させ、加熱ロールの次に設けられた周速の異なる30℃の冷却ロールとの間で、長手方向に3.5倍延伸した。このようにして得られた1軸延伸シートを、テンターを用いて長手方向と直交方向に100℃の温度で3.5倍に延伸し、続いて255℃の温度で10秒間熱処理した後にロール状に巻き取り、共重合PPS組成物が5〜50μmの厚み構成である100μmの共重合PPS積層PPSフィルム(a〜d)を得た。厚み構成の変更は、各層の押出機の吐出量を変更することにより行った。
PPS樹脂単体を上記製膜条件により別途製膜、熱処理して厚み50μmの単膜フィルム(e)を得た。
【0077】
また、上記製膜条件で長手方向に延伸した後、テンターを用いて長手方向と直交方向に100℃の温度で3.5倍に延伸し、続いて200℃の温度で10秒間熱処理した後にロール状に巻き取り、15μmの厚み構成の積層フィルム(g)を得た
参考例(4)熱弛緩処理
前記(3)で得られた積層フィルム(a)に懸垂式熱弛緩装置を用いて下記のように熱弛緩処理を実施した。
フィルムの送り出し側の張力をニップローラーで遮断した後、90℃に予熱しながら上方に設置したローラーを経て下方に自重で垂下させ、その途中で200℃に加熱した後、下方のローラーでほぼ水平方向に向きを変え、フィルムを雰囲気温度70℃にて徐冷して、ニップローラーで巻取り張力を遮断した上で巻き取り、熱弛緩処理PPS積層フィルム(f)を得た。
上下ローラー間の張力は、該処理区間にテンションピックアップを設置し、送り出し・巻取り側の各ニップローラーのモーターの調節により20kPaになるように設定した。
【0078】
(実施例1〜4)
厚さ20μmのステンレススチール(以下SUSと略す)箔を金属抵抗体として準備し、これを発熱素子とした。この発熱素子の表裏面を上記製膜方法で得られた共重合PPS積層PPSフィルム(a)〜(d)で挟み込み、加熱ロールプレス法にて熱圧着後、直ちに50℃の温度に冷却して積層体を得た。このとき加熱プレス温度は250℃、プレス圧力は10kg/cmに調整した。
得られた二軸配向PPSフィルムと金属からなる積層体の構成や特性についての測定、評価結果を表1に示す。
【0079】
(実施例5)
実施例1で用いた発熱素子の表裏面を上記製膜方法で得られたPPSフィルム(e)で挟み込み、実施例1と同様にして積層体を得た。
得られた二軸配向PPSフィルムと金属からなる積層体の構成や特性についての測定、評価結果を表1に示す。
【0080】
(実施例6)
実施例1で用いた発熱素子の表裏面を上記製膜方法で得られた共重合PPS積層PPSフィルム(f)で挟み込み、実施例1と同様にして積層体を得た。
得られた二軸配向PPSフィルムと金属からなる積層体の構成や特性についての測定、評価結果を表1に示す。
【0081】
(実施例7)
実施例1で用いた発熱素子の表裏面を上記製膜方法で得られた共重合PPS積層PPSフィルム(g)で挟み込み、実施例1と同様にして積層体を得た。
得られた二軸配向PPSフィルムと金属からなる積層体の構成や特性についての測定、評価結果を表1に示す。
【0082】
(比較例1)
実施例1で用いた発熱素子の表裏面に接着剤(セメダイン(株)製、エポキシ 樹脂系弾性接着剤 EP−001)を塗布し、上記製膜方法で得られたPPSフィルム(e)で挟み込み、実施例1と同様にして積層体を得た。得られた二軸配向PPSフィルムと金属からなる積層体の構成や特性についての測定、評価結果を表1に示す。
【0083】
(比較例2)
比較例1と同様に発熱素子の表裏面に接着剤を塗布し、上記製膜方法で得られた共重合PPS積層PPSフィルム(a)で挟み込み、実施例1と同様にして積層体を得た。得られた二軸配向PPSフィルムと金属からなる積層体の構成や特性についての測定、評価結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0085】
以上のように本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムと発熱素子からなる面状発熱体は、家庭用電気機器、医療用電気機器、情報機器、工業用機器などのヒーターとして好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔抵抗体または金属抵抗体からなる発熱素子の少なくとも片面を、接着剤を使用することなくポリアリーレンスルフィドフィルムを用いて絶縁被覆したことを特徴とする面状発熱体。
【請求項2】
ポリアリーレンスルフィドフィルムが少なくともA層、B層からなる積層フィルムであり、A層が共重合ポリアリーレンスルフィドであり、A層が発熱素子に接する請求項1記載の面状発熱体。
【請求項3】
A層の積層厚みが5μm以上、50μm以下である請求項2記載の面状発熱体。
【請求項4】
金属箔抵抗体または金属抵抗体からなる発熱素子の両面を、A層が発熱素子に接するように絶縁被覆する請求項2または3に記載の面状発熱体。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の面状発熱体の製造方法であって、A層と発熱素子を熱圧着して製造する面状発熱体の製造方法。

【公開番号】特開2009−123462(P2009−123462A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295153(P2007−295153)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】