説明

面発光レーザ素子

【課題】 高出力と基本横モード発振の両立が容易な面発光レーザ素子を提供する。
【解決手段】 面発光レーザ素子10は、順次に積層された第1の反射層12、n型スペーサ層13、活性層14、およびp型スペーサ層15を有する。このp型スペーサ層上には、第1のトンネル接合構造18と、第1のトンネル接合構造から離間した第2のトンネル接合構造19が設けられている。これらのトンネル接合構造は、第2のスペーサ層上に設けられたn型スペーサ層25によって覆われている。このn型スペーサ層上には、第2の反射層28が形成されている。各トンネル接合構造は、p型の下部層20とn型の上部層21とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トンネル接合構造を有する面発光レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の非特許文献1には、pn接合構造中にトンネル接合構造を埋め込んだ面発光レーザ素子が開示されている。pn接合構造に対して逆方向に電流を注入すると、トンネル接合構造にだけ電流が流れ、活性層に流入する。トンネル接合構造の屈折率は、その周囲の層の屈折率よりも高いため、トンネル接合構造は光導波路のコアとしての機能を持つ。活性層で発生した光は、この光導波路を通って光共振器内を繰り返し往復し、レーザ発振を起こす。
【非特許文献1】ニシヤマ(Nishiyama)ほか5名、「MOCVDによって成長させたInP上の高効率長波長VCSEL(High efficiency long wavelength VCSEL on InP grown by MOCVD)、エレクトロニクス・レターズ(ElectronicsLetters)、第39巻、第5号、437−439頁、2003年3月6日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
面発光レーザ素子に対しては、高出力と基本横モード発振(横単一モード発振)の両立が要望されている。高出力化のためには、より多くの電流を活性層に注入できるように、トンネル接合面の径を大きくすることが好ましい。上記の面発光レーザ素子では、トンネル接合面の直径が5μmのときは、基本横モード発振を実現することができる。しかし、直径をより大きくすると、基本横モードだけでなく、より高次の横モードもレーザ発振を起こしてしまう。
【0004】
そこで、本発明は、高出力と基本横モード発振の両立が容易な面発光レーザ素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る面発光レーザ素子は、第1の反射層と、第1の反射層上に設けられた第1のスペーサ層と、第1のスペーサ層上に設けられた活性層と、活性層上に設けられた第2のスペーサ層と、第2のスペーサ層上に設けられた第1のトンネル接合構造と、第2のスペーサ層上に設けられ、第1のトンネル接合構造から離間した第2のトンネル接合構造と、第2のスペーサ層上に設けられ、第1および第2のトンネル接合構造を覆い、第1の導電型を有する第3のスペーサ層と、第3のスペーサ層上に設けられた第2の反射層とを備えている。第1および第2のトンネル接合構造の各々は、第2のスペーサ層上に設けられ第2の導電型を有する下部層と、この下部層上に設けられ第1の導電型を有する上部層とを含んでいる。
【0006】
面発光レーザ素子の動作時に第1および第2のトンネル接合構造に電流が流れると、第1のトンネル接合構造だけでなく第2のトンネル接合構造も発熱する。このため、第1のトンネル接合構造から第2のトンネル接合構造へ向かう方向の熱勾配は、第1のトンネル接合構造が単独で設けられている場合に比べて緩やかになる。これに応じて屈折率勾配も緩やかになるので、その方向での熱レンズ効果の収束作用が抑えられる。これにより、高次横モードがレーザ発振を起こしにくくなるので、第1のトンネル接合構造におけるトンネル接合面の面積を大きくしても、横多モード発振が起こりにくい。したがって、この面発光レーザ素子は、高出力と基本横モード発振の両立が容易である。
【0007】
第2のトンネル接合構造は、第1のトンネル接合構造を包囲する環状体であってもよい。
【0008】
第2のトンネル接合構造によって第1のトンネル接合構造を包囲することで、第1のトンネル接合構造からその外側に向かう任意の方向で熱勾配および屈折率勾配が緩やかになる。この結果、熱レンズ効果の収束作用が大きく抑えられ、高次横モードがレーザ発振を極めて起こしにくくなるので、高出力と基本横モード発振の両立がいっそう容易になる。
【0009】
第1のトンネル接合構造は、楕円形の平面形状を有していてもよい。第2のトンネル接合構造は、第1のトンネル接合構造を楕円状に包囲する環状体であってもよい。
【0010】
第1のトンネル接合構造が楕円形であるため、直線偏光したレーザ光を生成することが可能になる。第2のトンネル接合構造によって第1のトンネル接合構造を包囲することで、第1のトンネル接合構造からその外側に向かう任意の方向で熱勾配および屈折率勾配が緩やかになる。この結果、直線偏光したレーザ光を生成する場合でも、熱レンズ効果の収束作用を抑え、高出力と基本横モード発振を容易に両立できるようになる。
【0011】
本発明の面発光レーザ素子は、第2のスペーサ層上に設けられ、第1および第2のトンネル接合構造から離間した第3のトンネル接合構造を更に備えていてもよい。第3のトンネル接合構造は、第2のスペーサ層上に設けられ第2の導電型を有する下部層と、この下部層上に設けられ第1の導電型を有する上部層とを含んでいてもよい。第1のトンネル接合構造は、円形の平面形状を有しており、第2および第3のトンネル接合構造は、第1のトンネル接合構造の平面形状の中心を通る一つの直線上において、第1のトンネル接合構造をその両側から挟むように配置されていてもよい。
【0012】
第1〜第3のトンネル接合構造に電流が流れて発熱が起こると、第2および第3のトンネル接合構造が並ぶ方向と、その方向に直交する方向とでは熱分布および屈折率分布が異なることになる。このため、活性層で生成された互いに直交する二つの偏光間で群速度に差が生じる。その結果、これらの直交偏光間で利得差が生じるので、第1〜第3のトンネル接合構造の寸法や配置を適切に設定すれば、一方の偏光のみをレーザ発振させることができる。このように、この面発光レーザ素子は、第1のトンネル接合構造が円形であるにもかかわらず、直線偏光されたレーザ光を生成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高出力と基本横モード発振の両立が容易な面発光レーザ素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
第1実施形態
図1は、本発明の第1の実施形態に係る面発光レーザ素子10を示す縦断面図であり、ここで、(a)は面発光レーザ素子10の全体を示し、(b)は面発光レーザ素子10に含まれるトンネル接合構造18および19を拡大して示している。図2は、図1のII−II線に沿った面発光レーザ素子10の横断面図である。このレーザ素子10は、垂直共振器型の面発光レーザ(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:VCSEL)素子である。
【0016】
面発光レーザ素子10は、n型半導体からなる基板11を有しており、この基板11の一方の主面、すなわち上面には、反射層として分布ブラッグ反射器(Distributed Bragg Reflector。以下、「DBR」)12が設けられている。基板11は、n型のGaAsからなる。DBR12は、n型ドーパントとしてSiがドープされたGaAs層の上にAlGaAs層(Alの組成比は0.9)を重ねた積層体を33周期積み重ねた構造を有している。
【0017】
DBR12の上面には、スペーサ層13、活性層14、およびスペーサ層15が順次に積層されている。スペーサ層13はn型半導体からなり、スペーサ層15はp型半導体からなる。具体的には、スペーサ層13は、SiがドープされたGaAsからなる。活性層14は、InGaAs(Inの組成比は0.2)からなり、三重量子井戸(Triple Quantum Well:TQW)構造を有している。スペーサ層15は、p型ドーパントとしてCがドープされたAlGaAs(Alの組成比は0.2)からなる。
【0018】
p型スペーサ層15の上面には、二つのトンネル接合構造18、19が設けられている。図2に示すように、トンネル接合構造18は円形の平面形状を有しており、トンネル接合構造19は、トンネル接合構造18を包囲する円環形の平面形状を有している。これらのトンネル接合構造18,19は、互いに同軸に配置されている。各トンネル接合構造の高さ(厚さ)は30nmである。図1(b)に示すように、各トンネル接合構造は、p型スペーサ層15の上面に直接形成された下部層20と、下部層20の上面に直接形成された上部層21からなる。下部層20と上部層21との界面はトンネル接合40を成している。下部層20はp型半導体からなり、上部層21はn型半導体からなる。具外的には、下部層20は、p型ドーパントとしてCがドープされたInGaAs(Inの組成比は0.1)からなり、上部層21は、n型ドーパントとしてSiがドープされたInGaAs(Inの組成比は0.1)からなる。
【0019】
更に、p型スペーサ層15の上面には、トンネル接合構造18、19を覆うように、n型半導体からなるスペーサ層25が直接形成されている。このn型スペーサ層25は、SiがドープされたGaAsからなる。p型スペーサ層15とn型スペーサ層25との界面はpn接合を成している。
【0020】
n型スペーサ層25の上面には、コンタクト層26および上部電極27が順次に形成されている。また、基板11の上面とは反対側の主面、すなわち底面の全体には、下部電極30が形成されている。上部電極27はアノードであり、下部電極30はカソードである。コンタクト層26は、SiがドープされたGaAsからなる。図2に示すように、コンタクト層26および上部電極27は円環形の平面形状を有している。
【0021】
n型スペーサ層25の上面には、更に、反射層としてDBR28が設けられている。コンタクト層26および上部電極27の開口は、このDBR28によって充填されている。DBR28は、Al層の上にアモルファスSi層を重ねた積層体を4周期積み重ねた構造を有している。
【0022】
下側のDBR12と上側のDBR28は、光共振器を形成する。この光共振器は、基板11の主面に垂直な光軸を有している。基板11の主面に垂直な方向に沿ってDBR28を上方から見ると、トンネル接合構造18および19は、DBR28の下方に配置され、DBR28によって覆われている。DBR28は、トンネル接合構造18、19と同軸に配置されている。したがって、光共振器の光軸、トンネル接合構造18の中心軸、およびトンネル接合構造19の開口の中心軸は、同一直線上に配置されている。光共振器の光軸は、トンネル接合構造18とは交差するが、トンネル接合構造19とは交差しない。
【0023】
上部電極27および下部電極30を介して面発光レーザ素子10に電流を流すと、DBR28からレーザ光が出射する。この電流は、p型スペーサ層15およびn型スペーサ層25からなるpn接合に対して逆方向に供給されるので、このpn接合によって遮断されるが、トンネル効果によってトンネル接合構造18および19を通過することはできる。このように、面発光レーザ素子10は、n型スペーサ層25中においてトンネル接合構造18および19でのみ電流が流れるという電流狭窄構造を有している。
【0024】
活性層14にキャリアが注入されると、活性層14で光が発生する。トンネル接合構造18、19は、n型スペーサ層25より高い屈折率を有しているので、光導波路のコアとしての機能も有する。したがって、活性層14で発生した光は、n型スペーサ層25中において、主にトンネル接合構造18および19を通過する。この光は、DBR12および28によって繰り返し反射されて活性層14を通過し、そこで増幅される。この結果、最終的にレーザ発振が起こる。
【0025】
以下では、図3および図4を参照しながら、面発光レーザ素子10の製造方法を説明する。まず、図3(a)に示すように、MOVPE法を用いて、基板11上に下側DBR層12、n型スペーサ層13、活性層14、p型スペーサ層15、p型InGaAs層20a、およびn型InGaAs層21aを順次に形成する。層20aおよび21aは、p型スペーサ層15の上面全体を覆う連続したトンネル接合構造22を成しており、トンネル接合構造18および19の母体となる。
【0026】
次に、リアクタから基板11を取り出し、n型InGaAs層21の上面全体にレジスト24を塗布する。図3(b)に示すように、このレジスト24は、トンネル接合構造18および19(図2を参照)と同じ平面形状を有するように、フォトリソグラフィによってパターニングされる。
【0027】
続いて、図3(c)に示すように、パターンニングされたレジスト24をマスクとして用いてトンネル接合構造22をウェットエッチングし、トンネル接合構造18および19を形成する。この後、基板11を洗浄してから再びリアクタに搬入し、図4(d)に示すように、MOVPE法を用いてn型スペーサ層25を形成し、更にn型スペーサ層25の上面全体にコンタクト層26aを形成する。続いて、コンタクト層26aの上面に、開口27aを有する円環形の上部電極27を形成すると共に、基板11の下面全体に下部電極30を形成する。
【0028】
次に、図4(e)に示すように、コンタクト層26aのうち上部電極27の開口27aから露出する部分のみをウェットエッチングにより除去し、円環形のコンタクト層26を得る。この後、コンタクト層26および上部電極27の各開口を充填するようにDBRを蒸着し、上部電極27上のDBRをリフトオフ法によって除去してDBR28を形成する。こうして面発光レーザ素子10が完成する。
【0029】
本発明者は、面発光レーザ素子10を作製すると共に、比較用の面発光レーザ素子も作製し、各々の特性を調べた。後述する図7(a)に示すように、比較用レーザ素子50は、面発光レーザ素子10からトンネル接合構造19を取り除いた構造を有している。各レーザ素子において、トンネル接合構造18の直径Dは7μmである。また、トンネル接合構造19は、内径が11μm、外径が15μmの円環であり、その幅Wは2μmである。
【0030】
図5は、面発光レーザ素子10および比較用レーザ素子50の室温での電流−光出力特性を示している。ここで、実線は面発光レーザ素子10の特性を示し、破線は比較用レーザ素子50の特性を示している。比較用レーザ素子50の室温での最大光出力は3.0mWであるのに対し、面発光レーザ素子10の最大光出力は4.9mWである。面発光レーザ素子10の出力がより大きいのは、トンネル接合構造19の分だけトンネル接合の面積が大きく、それに応じて電流注入面積が大きくなり、結果として、より多くのキャリアが活性層14に注入されるためである。
【0031】
図6は、面発光レーザ素子10および比較用レーザ素子50の電流に対する横モード抑圧比の変化を示している。ここで、丸印および三角印は、様々な電流の下で測定された面発光レーザ素子10および比較用レーザ素子50の横モード抑圧比をそれぞれ示している。比較用レーザ素子50では、いずれの電流値でも横モード抑圧比が30dBに達しておらず、マルチモード発振が行われていることが分かる。一方、面発光レーザ素子10では、その出力に熱飽和が見られるような電流値の下でも、横モード抑圧比が30dB以上を維持しており、いずれの電流値でも基本横モード発振が行われている。
【0032】
このように、面発光レーザ素子10は比較用レーザ素子50に比べて電流注入面積が大きいにもかかわらず、基本横モード発振が確保されている。以下では、図7および図8を参照しながら、この理由を説明する。ここで、図7(a)は、面発光レーザ素子50の縦断面図であり、図7(b)は、面発光レーザ素子50内の熱分布を図7(a)に対応させて表す概略図である。図8(a)は、面発光レーザ素子10の縦断面図であり、図8(b)は、面発光レーザ素子10内の熱分布を図8(a)に対応させて表す概略図である。
【0033】
トンネル接合を利用した電流狭窄構造を有する面発光レーザ素子では、電流がトンネル接合構造を通過して流れるが、トンネル接合構造は抵抗体であるため、電流が流れると発熱する。この発熱は、比較用レーザ素子50では、トンネル接合構造18の径方向に沿って図7(b)に示すようなガウス型の熱分布(温度分布)50aを形成する。トンネル接合構造18の周縁部は電流の流れない領域に接しているため、トンネル接合構造18の中央部に比べて温度が低い。トンネル接合構造18の外側の領域でも、トンネル接合構造18の中心軸から遠ざかるにつれて温度が低下する。
【0034】
比較用レーザ素子50の屈折率は、熱分布50aに応じて変化する。つまり、図7(b)の50aは、比較用レーザ素子50の屈折率分布をも表している。比較用レーザ素子50の屈折率は、熱分布50aに対応して、トンネル接合構造18の中心軸から遠ざかるにつれて低下する。こうして、ガウス型の屈折率分布50aが形成される。この屈折率分布50aは、「熱レンズ効果」と呼ばれる現象を発生させ、光共振器内を伝播する光を収束させる。この熱レンズ効果は、基本横モードだけでなく、より高次の横モード42も収束させる。この結果、比較用レーザ素子50では、基本横モードと高次横モード間の損失差が減少し、基本横モードだけでなく、高次横モードまでもがレーザ発振を起こしたと考えられる。
【0035】
これに対し、面発光レーザ素子10では、トンネル接合構造18に加えて、その外側に設けたもう一つのトンネル接合構造19が電流によって発熱する。このため、トンネル接合構造18からトンネル接合構造19へ向かう任意の方向において熱勾配が緩やかになり、それに応じて屈折率勾配も緩やかになる。トンネル接合構造19はトンネル接合構造18から離間しているため、面発光レーザ素子10の屈折率は、トンネル接合構造18の中心軸から遠ざかるにつれて一旦、減少する。しかし、トンネル接合構造19に近づくにつれて温度が上昇し、それに伴い屈折率も上昇する。したがって、図8(b)に示すように、面発光レーザ素子10の熱分布および屈折率分布10aはガウス型ではなくなる。
【0036】
屈折率分布10aは、トンネル接合構造18の中心軸上にピークを有すると共に、トンネル接合構造19に対応する径方向位置にもピークを有する。基本横モードは、トンネル接合構造18の中心軸上にピークを有するガウス型の光パワー分布を有するので、屈折率分布10aによって十分に収束され、レーザ発振を起こす。しかし、より高次の横モードは、その光パワーのピークがトンネル接合構造18の中心軸から径方向にずれるため、トンネル接合構造19に対応する屈折率ピークの影響を比較的強く受ける。このため、高次横モードに対しては熱レンズ効果の収束作用が抑えられ、図8(b)に示すように、高次横モード42の回折損失が増加する。これにより、高次横モードがレーザ発振に至らず、結果として、比較用レーザ素子50と同じトンネル接合構造18を有するにもかかわらず、基本横モード発振が維持されたと考えられる。
【0037】
なお、トンネル接合構造18および19の平面形状の寸法を下記の表に示すように設定した面発光レーザ素子を作製したところ、いずれにおいても基本横モード発振が得られた。
【表1】


ここで、「主トンネル」は、光共振器の光軸上に配置されたトンネル接合構造18を表し、「副トンネル」は、光共振器の光軸からずらして配置されたトンネル接合構造19を表している。一つの主トンネルの直径値に対して副トンネルの内径値を2通り用意し、各内径値に対して副トンネルの幅を2通り用意した。したがって、主トンネルの各直径値に対して面発光レーザ素子を4個ずつ作製した。
【0038】
このように、本実施形態では、トンネル接合構造18の外側に別のトンネル接合構造19を離間させて配置することで、電流注入面積(トンネル接合面積)を増加してレーザ光のパワーを高めつつ、基本横モード発振を保つことができる。したがって、電流注入面積の拡大による高出力と、基本横モード発振(単一横モード発振)との両立を容易に実現することができる。
【0039】
特に、本実施形態では、トンネル接合構造19がトンネル接合構造18を包囲する環状体であるため、トンネル接合構造18からトンネル接合構造19へ向かう任意の方向において屈折率勾配を緩和し、熱レンズ効果の高次横モードに対する収束作用を大きく抑えることができる。これにより、高次横モードがレーザ発振を極めて起こしにくくなるので、高出力と基本横モード発振の両立がいっそう容易である。したがって、面発光レーザ素子10は、それ単独では横多モード発振してしまうほど面積の大きなトンネル接合構造18を有するにもかかわらず、基本横モード発振を行うことができる。
【0040】
第2実施形態
本発明の第2の実施形態に係る面発光レーザ素子は、トンネル接合構造の平面形状が第1実施形態と異なる。第2実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様である。図9は、本実施形態の面発光レーザ素子の横断面図であり、トンネル接合構造31および32を示している。この図は、第1実施形態に対する図2に対応する。
【0041】
トンネル接合構造31は、DBR28と同軸に配置されており、楕円形の平面形状を有している。トンネル接合構造32は、トンネル接合構造31を楕円状に包囲し、トンネル接合構造31から離間した環状の平面形状を有している。図9に示すように、基板11の主面に垂直な方向(図9の紙面に垂直な方向)に沿ってDBR28を上方から見ると、トンネル接合構造31および32は、DBR28の下方に配置され、DBR28によって覆われている。
【0042】
トンネル接合構造31が楕円形状であるため、出力レーザ光を直線偏光にすることができる。トンネル接合構造31に電流が流れて発熱が起こると、トンネル接合構造31の楕円形の長軸方向と短軸方向とで屈折率分布が異なるようになる。このため、活性層14で生成された互いに直交する二つの偏光間で群速度に差が生じる。その結果、これらの直交偏光間で利得差が生じ、結果として、一方の偏光のみがレーザ発振を起こして出力されることになる。このように、本実施形態の面発光レーザ素子からは、一方向に偏光したレーザ光が出射する。
【0043】
トンネル接合構造32は、このような直線偏光を出射する面発光レーザ素子において横多モード発振を防止するように働く。トンネル接合構造31の外側にトンネル接合構造32がトンネル接合構造31から離間させて配置されているため、第1実施形態と同様に、熱レンズ効果の高次横モードに対する収束作用が抑えられる。このため、トンネル接合構造32によって電流注入面積を増加してレーザ光のパワーを高めつつ、基本横モード発振を保つことができる。特に本実施形態では、トンネル接合構造32がトンネル接合構造31を包囲する環状体であるため、トンネル接合構造31からトンネル接合構造32へ向かう任意の方向において屈折率勾配を緩和し、熱レンズ効果の高次横モードに対する収束作用を大きく抑えることができる。これにより、高出力と基本横モード発振の両立がいっそう容易になるので、トンネル接合構造31におけるトンネル接合面積が、それ単独では横多モード発振してしまうほど大きくても、基本横モード発振を確保することができる。
【0044】
第3実施形態
本発明の第3の実施形態に係る面発光レーザ素子は、トンネル接合構造の平面形状が第1、第2実施形態と異なる。第3実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様である。図10は、本実施形態の面発光レーザ素子の横断面図であり、トンネル接合構造35、36および37を示している。この図は、第1実施形態に対する図2に対応する。
【0045】
トンネル接合構造35はDBR28と同軸に配置されており、円形の平面形状を有している。トンネル接合構造36および37は、トンネル接合構造35の直径よりも小さい同一の直径を有する円形の平面形状を有している。トンネル接合構造36、37は、トンネル接合構造35の一つの直径の延長線上においてトンネル接合構造35の両側に配置されており、トンネル接合構造35から離間している。すなわち、トンネル接合構造35〜37の円形平面形状の各中心は、一本の直線45上に配置されている。図10に示すように、基板11の主面に垂直な方向(図10の紙面に垂直な方向)に沿ってDBR28を上方から見ると、トンネル接合構造35〜37は、DBR28の下方に配置され、DBR28によって覆われている。
【0046】
トンネル接合構造35の外側にトンネル接合構造36、37がトンネル接合構造35から離間させて配置されているため、上記実施形態と同様に、熱レンズ効果の高次横モードに対する収束作用が抑えられる。このため、トンネル接合構造36、37によって電流注入面積を増加してレーザ光のパワーを高めつつ、基本横モード発振を確保することができる。
【0047】
更に、本実施形態では、トンネル接合構造35が円形であるにもかかわらず出力レーザ光を直線偏光にすることができる。トンネル接合構造35〜37に電流が流れて発熱が起こると、トンネル接合構造36および37が並ぶ方向(図10の直線45に沿った方向)と、その方向に直交する方向とでは屈折率分布が異なるようになる。このため、活性層14で生成された互いに直交する二つの偏光間で群速度に差が生じるので、これらの直交偏光間で利得差が生じ、結果として、一方の直線偏光のみがレーザ発振を起こして出力される。このように、本実施形態の面発光レーザ素子からは、一方向に偏光したレーザ光が出射する。
【0048】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0049】
活性層14とp型スペーサ層15との間に、これらの層14,15よりも高いバンドギャップを有する別のp型スペーサ層を追加してもよい。この追加スペーサ層は、例えば、p型ドーパントとしてCがドープされたAlGaAsからなる。このような追加スペーサを設けることで、活性層14にキャリアが効率良く閉じ込められるので、面発光レーザ素子の電流−光出力特性を改良することができる。
【0050】
本発明において、第1のトンネル接合構造から離間した第2のトンネル接合構造は、単一でもよいし、第3実施形態のように複数であってもよい。第2のトンネル接合構造を複数設ける場合、高次横モードのレーザ発振を防ぐ観点からは、それらの第2のトンネル接合構造を第3実施形態のように一直線上に配置する必要は必ずしもなく、不規則に配置してもよい。また、高次横モードのレーザ発振を防ぐためには、それら第2のトンネル接合構造の平面形状が同一である必要もない。
【0051】
上記実施形態では、基板11、スペーサ層13、上部層21、およびスペーサ層25がn型であり、スペーサ層15、および下部層20がp型であるが、これらの層の導電型を逆にしてもよい。また、スペーサ層13はノンドープ層であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】第1実施形態の面発光レーザ素子を示す縦断面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った横断面図である。
【図3】面発光レーザ素子の製造方法を示す工程図である。
【図4】面発光レーザ素子の製造方法を示す工程図である。
【図5】実施形態および比較例の電流−光出力特性を示す図である。
【図6】実施形態および比較例の電流−横モード抑圧比特性を示す図である。
【図7】比較例の熱分布を表す概略図である。
【図8】実施形態の熱分布を表す概略図である。
【図9】第2実施形態の面発光レーザ素子を示す横断面図である。
【図10】第3実施形態の面発光レーザ素子を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0053】
10…面発光レーザ素子、11…基板、12…下側DBR、13…n型スペーサ層、14…活性層、15…p型スペーサ層、25…n型スペーサ層、27…上部電極、28…上側DBR、30…下部電極、18、19、31、32、35〜37…トンネル接合構造、50…比較用レーザ素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の反射層と、
前記第1の反射層上に設けられた第1のスペーサ層と、
前記第1のスペーサ層上に設けられた活性層と、
前記活性層上に設けられた第2のスペーサ層と、
前記第2のスペーサ層上に設けられた第1のトンネル接合構造と、
前記第2のスペーサ層上に設けられ、前記第1のトンネル接合構造から離間した第2のトンネル接合構造と、
前記第2のスペーサ層上に設けられ、前記第1および第2のトンネル接合構造を覆い、第1の導電型を有する第3のスペーサ層と、
前記第3のスペーサ層上に設けられた第2の反射層と、
を備え、
前記第1および第2のトンネル接合構造の各々は、前記第2のスペーサ層上に設けられ第2の導電型を有する下部層と、この下部層上に設けられ前記第1の導電型を有する上部層とを含んでいる、
る面発光レーザ素子。
【請求項2】
前記第2のトンネル接合構造は、前記第1のトンネル接合構造を包囲する環状体である、請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項3】
前記第1のトンネル接合構造は、楕円形の平面形状を有しており、
前記第2のトンネル接合構造は、前記第1のトンネル接合構造を楕円状に包囲する環状体である、請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項4】
前記第2のスペーサ層上に設けられ、前記第1および第2のトンネル接合構造から離間した第3のトンネル接合構造を更に備える請求項1に記載の面発光レーザ素子であって、
前記第3のトンネル接合構造は、前記第2のスペーサ層上に設けられ前記第2の導電型を有する下部層と、この下部層上に設けられ前記第1の導電型を有する上部層とを含んでおり、
前記第1のトンネル接合構造は、円形の平面形状を有しており、
前記第2および第3のトンネル接合構造は、前記第1のトンネル接合構造の前記平面形状の中心を通る一つの直線上において、前記第1のトンネル接合構造をその両側から挟むように配置されている、請求項1に記載の面発光レーザ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−34478(P2008−34478A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203646(P2006−203646)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】