説明

顕微鏡

【課題】組み立ても容易にでき、超解像効果を確実に発現できる顕微鏡を提供する。
【解決手段】試料39中の所望の分子を観察する顕微鏡であって、分子を安定状態から第1励起状態に励起するポンプ光、第1励起状態から第2励起状態に励起するイレース光を出射する光源手段(11,12)と、光源手段からのポンプ光、イレース光を一部重ね合わせて試料に集光する光学系(35,36,37)と、試料を走査する走査手段38と、試料から発生する光応答信号を検出する検出手段(43,44,45)と、を有し、光源手段は、ポンプ光として、試料に集光したときのフォトンフラックスが、分子の2光子吸収断面積をσtwo、蛍光寿命をτとしたとき、1/(τσtwo)1/2以上となる所定波長のパルス光を出射し、イレース光として、ポンプ光と同一波長で、試料に集光したときのフォトンフラックスが1/(τσtwo)1/2未満となるパルス光を出射する、ように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡、特に染色した試料を所定の波長の光により照明して、高い空間分解能で観察する高性能かつ高機能の新規な顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学顕微鏡の技術は古く、種々のタイプの顕微鏡が開発されてきた。また、近年では、レーザ技術および電子画像技術をはじめとする周辺技術の進歩により、さらに高機能の顕微鏡システムが開発されている。
【0003】
このような背景の中、複数波長の光で試料を照明することにより発する二重共鳴吸収過程を用いて、得られる画像のコントラストの制御のみならず化学分析も可能にした高機能な顕微鏡が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この顕微鏡は、二重共鳴吸収を用いて特定の分子を選択して、特定の光学遷移に起因する吸収および蛍光を観察するものである。この原理について、図9〜図12を参照して説明する。図9は、試料を構成する分子の価電子軌道の電子構造を示すもので、先ず、図9に示す基底状態(S0状態)の分子がもつ価電子軌道の電子を波長λ1の光により励起して、図10に示す第1電子励起状態(S1状態)とする。次に、別の波長λ2の光により同様に励起して、図11に示す第2電子励起状態(S2状態)とする。この励起状態により、分子は蛍光あるいは燐光を発光して、図12に示すように基底状態に戻る。
【0005】
二重共鳴吸収過程を用いた顕微鏡法では、図11の吸収過程や図12の蛍光や燐光の発光を用いて、吸収像や発光像を観察する。この顕微鏡法では、最初にレーザ光等により共鳴波長λ1の光で図10のように試料を構成する分子をS1状態に励起させるが、この際、単位体積内でのS1状態の分子数は、照射する光の強度が増加するに従って増加する。
【0006】
ここで、線吸収係数は、分子一個当りの吸収断面積と単位体積当たりの分子数との積で与えられるので、図11のような励起過程においては、続いて照射する共鳴波長λ2に対する線吸収係数は、最初に照射した波長λ1の光の強度に依存することになる。すなわち、波長λ2に対する線吸収係数は、波長λ1の光の強度で制御できることになる。このことは、波長λ1および波長λ2の2波長の光で試料を照射し、波長λ2による透過像を撮影すれば、透過像のコントラストは波長λ1の光で完全に制御できることを示している。
【0007】
また、図11の励起状態からの蛍光または燐光による脱励起過程が可能である場合には、その発光強度はS1状態にある分子数に比例する。したがって、蛍光顕微鏡として利用する場合にも画像コントラストの制御が可能となる。
【0008】
さらに、二重共鳴吸収過程を用いた顕微鏡法は、上記の画像コントラストの制御のみならず、化学分析も可能である。すなわち、図9に示す最外殻価電子軌道は、各々の分子に固有のエネルギー準位を持つので、波長λ1は分子によって異なることになり、同時に波長λ2も分子固有のものとなる。
【0009】
ここで、従来の単一波長で試料を照明する場合でも、ある程度特定の分子の吸収像あるいは蛍光像を観察することが可能である。しかし、一般に、いくつかの分子は、吸収帯の波長領域が重複するため、単一波長で試料を照明する場合には、試料の化学組成の正確な同定までは不可能である。
【0010】
これに対し、二重共鳴吸収過程を用いた顕微鏡法では、波長λ1および波長λ2の2波長により吸収あるいは発光する分子を限定するので、従来法よりも正確な試料の化学組成の同定が可能となる。また、価電子を励起する場合、分子軸に対して特定の電場ベクトルをもつ光のみが強く吸収されるので、波長λ1および波長λ2の偏光方向を決めて吸収または蛍光像を撮影すれば、同じ分子でも配向方向の同定まで可能となる。
【0011】
また、最近では、二重共鳴吸収過程を用いて回折限界を超える高い空間分解能をもつ蛍光顕微鏡も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0012】
図13は、分子における二重共鳴吸収過程の概念図で、S0の基底状態の分子が、波長λ1の光でS1の第1電子励起状態に励起され、さらに波長λ2の光でS2の第2電子励起状態に励起されている様子を示している。なお、図13はある種の分子のS2状態からの蛍光が極めて弱いことを示している。
【0013】
図13に示すような光学的性質を持つ分子の場合には、極めて興味深い現象が起きる。図14は、図13と同じく二重共鳴吸収過程の概念図で、横軸のX軸は空間的距離の広がりを表わし、波長λ2の光を照射した空間領域A1と波長λ2の光が照射されない空間領域A0とを示している。
【0014】
図14において、空間領域A0では波長λ1の光の励起によりS1状態の分子が多数生成され、その際に空間領域A0からは波長λ3で発光する蛍光が見られる。しかし、空間領域A1では、波長λ2の光を照射したため、S1状態の分子のほとんどが即座に高位のS2状態に励起されて、S1状態の分子は存在しなくなる。このような現象は、幾つかの分子により確認されている。これにより、空間領域A1では、波長λ3の蛍光は完全になくなり、しかもS2状態からの蛍光はもともとないので、空間領域A1では完全に蛍光自体が抑制され(蛍光抑制効果)、空間領域A0からのみ蛍光が発することになる。
【0015】
このことは、顕微鏡の応用分野から考察すると、極めて重要な意味を持っている。すなわち、従来の走査型レーザ顕微鏡等では、レーザ光を集光レンズによりマイクロビームに集光して観察試料上を走査するが、その際のマイクロビームのサイズは、集光レンズの開口数と波長とで決まる回折限界となり、原理的にそれ以上の空間分解能は期待できない。
【0016】
ところが、図14の場合には、波長λ1と波長λ2との2種類の光を、空間的に一部重ね合わせて蛍光領域を抑制すれば、例えば波長λ1の光の照射領域に着目すると、蛍光領域を集光レンズの開口数と波長とで決まる回折限界よりも狭くでき、実質的に空間分解能を向上させることが可能となる。以下、波長λ1の光をポンプ光、波長λ2の光をイレース光とも呼ぶ。したがって、この原理を利用することで、回折限界を超える二重共鳴吸収過程を利用した超解像顕微鏡、例えば超解像蛍光顕微鏡を実現することが可能となる。
【0017】
【特許文献1】特開平8−184552号公報
【特許文献2】特開2001−100102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、従来提案されている超解像顕微鏡にあっては、上述したように、ポンプ光およびイレース光として、波長の異なる2色のレーザ光を要する。例えば、代表的な色素分子であるローダミン6Gで染色された試料を観察する場合には、波長532nmのポンプ光と、波長600nmのイレース光とを要することになる。このため、この種の超解像顕微鏡にあっては、構成や調整等が複雑化することが懸念される。
【0019】
例えば、波長の異なるポンプ光およびイレース光を顕微鏡対物レンズに導入するには、ダイクロイックミラー等の特殊な波長分散性素子を用いて、ポンプ光およびイレース光を、一方を反射、他方を透過させて、空間的に同軸に調整する必要がある。
【0020】
また、試料から発した蛍光を検出するには、検出器の前方に、ポンプ光およびイレース光をカットし、蛍光のみを透過する光学フィルタや分光素子を配置する必要がある。通常は、検出器の前方に、ポンプ光およびイレース光を確実にブロックできるノッチフィルタを配置するとともに、高強度のイレース光に対処するために、さらに蛍光波長だけを透過させるバンドパスフィルタを配置して、光源散乱光を確実にカットする必要がある。
【0021】
さらに、顕微鏡対物レンズについても、波長の異なるポンプ光およびイレース光に対して色収差が生じないように設計する必要がある。
【0022】
その他にも、例えば、反射ミラーについては、反射面にコーティングする光学薄膜を、ポンプ光やイレース光の単独光路で用いる場合には、使用波長で反射率が最適化するように設計する必要があり、共通光路で用いる場合には、異なる2波長に対して反射率が最適化するように設計する必要がある。このため、反射ミラーの設計・製作が面倒でコスト高になることが懸念されるとともに、照明光学系の組み立てに際しては、反射ミラーの種類を間違わないように、細心の注意を払って光路中に配置する必要があり、組み立てが面倒になることが懸念される。
【0023】
したがって、上記の点に鑑みてなされた本発明の目的は、構成を簡単にできるとともに、組み立ても容易にでき、超解像効果を確実に発現できる顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成する請求項1に係る発明は、試料中の所望の分子を観察する顕微鏡であって、
前記分子を安定状態から第1励起状態に励起するポンプ光、および前記分子を前記第1励起状態から第2励起状態に励起するイレース光を出射する光源手段と、
該光源手段からの前記ポンプ光および前記イレース光を一部重ね合わせて前記試料に集光する光学系と、
該光学系により集光される前記ポンプ光および前記イレース光と前記試料とを相対的に移動させて前記試料を走査する走査手段と、
前記ポンプ光および前記イレース光の照射により前記試料から発生する光応答信号を検出する検出手段と、を有し、
前記光源手段は、
前記ポンプ光として、前記試料に集光したときのフォトンフラックスが、前記分子の2光子吸収断面積をσtwo、蛍光寿命をτとしたとき、1/(τσtwo)1/2以上となる所定波長のパルス光を出射し、
前記イレース光として、前記ポンプ光と同一波長で、前記試料に集光したときのフォトンフラックスが1/(τσtwo)1/2未満となるパルス光を出射する、ように構成したことを特徴とするものである。
【0025】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の顕微鏡において、
前記光源手段は、
前記ポンプ光として、パルス幅が1ナノ秒未満のパルス光を出射し、
前記イレース光として、パルス幅が1ナノ秒以上のパルス光を出射する、ように構成したことを特徴とするものである。
【0026】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の顕微鏡において、
前記光源手段は、一つのレーザ光源を有し、
該レーザ光源から波高値の異なる前記ポンプ光および前記イレース光のパルス光を出射する、ように構成したことを特徴とするものである。
【0027】
請求項4に係る発明は、請求項1,2または3に記載の顕微鏡において、
前記光源手段は、前記イレース光の出射に先立って前記ポンプ光を出射する、ように構成したことを特徴とするものである。
【0028】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の顕微鏡において、
前記ポンプ光と前記イレース光との出射タイミングの差が、前記蛍光寿命よりも短い、ことを特徴とするものである。
【0029】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の顕微鏡において、
前記光源手段は、さらに、前記イレース光を空間変調する空間変調素子を有する、ことを特徴とするものである。
【0030】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の顕微鏡において、
前記空間変調素子は、前記イレース光が前記試料に中空状に集光されるように空間変調する、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、ポンプ光およびイレース光として、同一波長で波高値の異なるパルス光を用いるので、構成を簡単にできるとともに、組み立ても容易にでき、超解像効果を確実に発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
(本発明の概要)
先ず、本発明の実施の形態の説明に先立って、本発明の概要について説明する。本発明の顕微鏡は、分光学的な蛍光抑制過程と2光子励起過程とを利用する。図1および図2は、蛍光抑制過程を説明するための図である。蛍光抑制過程においては、図1に示すように、例えばナノ秒のイレース光パルスを照射すると、蛍光は一挙に抑制されるように見える。しかし、この蛍光抑制効果は、図2に示すように、ピコ秒オーダのイレース光パルスでのS1状態からS2状態への励起・緩和過程の積み重なりとして理解することができる。
【0033】
図1および図2において、S1状態からS2状態への励起時間は、イレース光の強度に依存するが、大体、数ピコ秒である。また、緩和時間は、例えば数ピコから数十ピコ秒である。この時間スケールでの支配的な緩和過程は、S2状態からS1状態への無輻射過程であり、カーシャ(Kasha)の法則に従えば、90%程度の高い確率で生じる。しかし、残りの10%程度は、内部転換等により、基底状態へ無輻射で緩和する。
【0034】
図1においては、この励起過程と緩和過程とを、ナノ秒の間に何サイクルも繰り返すので、結果としてS1状態をとる確率が減少し、分子蛍光が抑制される。換言すると、ナノ秒よりも短い、例えば、ピコ秒オーダの短い光パルスを照射しても、1サイクルしか上記の励起・緩和過程が生じないので、いくら高強度のイレース光を照射しても、蛍光抑制は殆ど起こらない。
【0035】
一方、ナノ秒よりも短い光パルスを照射すると、2光子吸収等の非線形効果が発現するようになり、基底状態から別の吸収過程が支配的になる。通常、S1状態からS2状態への励起波長は、S0状態からS1状態への励起波長と比較するとかなり長いので、イレース光強度が低い場合には、S0状態からS1状態への遷移は生じない。したがって、イレース光強度が低い場合には、蛍光発光は観測されない。しかし、近年開発が進んでいる尖頭値の高いフェムト秒のパルス光を照射すると、蛍光抑制を起すことなく、2光子吸収過程を誘導することができる。この原理を用いたのが、2光子顕微鏡法である。
【0036】
この2光子吸収過程は、一般に、分子のS0状態からS1状態への励起エネルギーが、入射光の光子エネルギーに対して2倍の大きさを持つと、極めて効率的に起きる。しかも、このとき、S1状態からS2状態への共鳴吸収バンドが存在しても、上記の理由で蛍光抑制の発現を無視することができる。
【0037】
この現象に着目すると、分子のS0状態からS1状態への励起エネルギーが、入射光の光子エネルギーに対して2倍の大きさを持ち、かつ、S1状態からS2状態への共鳴吸収バンドにも共鳴する場合には、1色の照明光による超解像顕微鏡法が可能となる。
【0038】
この現象を時間領域で見ると、別の考察が可能となる。例えば、図3に示すように、時間領域でナノ秒のパルスと、尖頭値(波高値)の高いフェムト秒のパルスとを融合すると、2光子過程と蛍光抑制過程とが時間領域で切り分けられて、各々の時間領域で強く発現する。すなわち、尖頭値の高いフェムト秒オーダのパルスが照射された瞬間では、2光子過程による蛍光発光が観測され、それ以外の尖頭値の低いナノ秒オーダのパルスが照射された時間領域では蛍光抑制が起きる。
【0039】
例えば、ローダミン6Gの場合は、パルス幅1ps、尖頭値1GW/cm2程度のパルス光で2光子過程を起すことができ、パルス幅10ns、尖頭値10MW/cm2程度のパルス光で蛍光抑制効果を誘導することができる。したがって、例えば、S1状態の励起寿命内で、先ず、尖頭値の高い例えばピコ秒以下の極短パルス光(以下、適宜、ショートパルスポンプ光とも言う)を試料に照射し、その後、ショートパルスポンプ光の照射から連続して、尖頭値の低い例えばナノ秒オーダのロングパルス光(以下、適宜、ロングパルスイレース光とも言う)を試料に照射すれば、ショートパルスポンプ光の照射による励起で発生した蛍光を抑制することができる。すなわち、試料に照射するレーザパルス波形を、時間領域で波形制御することにより、1色(単一波長)の光を用いる超解像顕微鏡を構成することが可能となる。
【0040】
図4は、1色の光を用いて超解像顕微鏡を構成する場合のショートパルスポンプ光およびロングパルスイレース光の波形制御を説明する模式図である。図4に示すように、ショートパルスポンプ光は、通常のガウシアンビームに整形して、反射ミラー1およびビームコンバイナ2を経て顕微鏡対物レンズ(図示せず)に入射させる。また、ロングパルスイレース光は、顕微鏡対物レンズにより輪帯状に集光されるように、空間変調素子3により空間変調して、ビームコンバイナ2によりショートパルスポンプ光と同軸上に合成して顕微鏡対物レンズに入射させる。
【0041】
これにより、試料面において、ショートパルスポンプ光だけが集光する集光点中央部の領域では、2光子吸収過程により強い蛍光が放出され、ロングパルスイレース光が重複して照射される領域、すなわち集光したポンプ光の辺縁部では、蛍光が抑制される。このように、1色の光を用い、そのレーザパルス波形を、時間領域で適切に制御して試料に照射することにより、従来提案されている2波長のレーザ光を用いる場合と同様の超解像効果が期待できる。
【0042】
ここで、ある波長の光を試料に照射したときに、2光子励起に寄与する光および蛍光抑制に寄与する光は、照射する光のフォトンフラックス(Ie)に依存する。例えば、レーザ光を所定の分子に照射したとき、どれぐらい蛍光が抑制されるかを示す割合(Dip-ratio)をR(Ie)とすると、このR(Ie)は、下記の(1)式により、近似的に求めることができる(例えば、文献「Opt.Eng.vol.44(2005)033602」参照)。
【0043】
【数1】

【0044】
上記(1)式によれば、Ieが無限大の極限ではR(Ie)は1となり、この状態では、2光子励起が支配的となって蛍光抑制が起こらないことがわかる。
【0045】
上記(1)を微分すると、Ie=1/(τσtwo)1/2、すなわち臨界限度において、蛍光抑制が働いたときの分子からの蛍光強度R(Ie)は、下記の(2)式で表される最小値を取り、蛍光抑制効果が最大に発現する。
【0046】
【数2】

【0047】
以上のことから、2光子励起が有効に機能し始めるのは、試料に集光したときのフォトンフラックスが、Ie=1/(τσtwo)1/2以上であり、Ie=1/(τσtwo)1/2未満では、2光子励起の効率が悪く、かつ蛍光抑制効果が効果的に働くため、分子はイレース光励起により発光しない。すなわち、Ie=1/(τσtwo)1/2未満の状態では、蛍光抑制機能が優先する。
【0048】
例えば、ローダミン6Gでは、照明光の波長が750nmにおいて、σtwoは2×10-48cm4s、σdipは10-18cm2、τは3.75nsである。このときの臨界強度は、ほぼ1.2×1028cm-2s-1となる。したがって、臨界強度未満の、例えば、Ie=8.2×1027cm-2s-1の条件では、R(Ie)は0.04となるので、この場合の照明光は、イレース光として機能する。また、これよりもフォトンフラックスが一桁大きく、かつ臨界強度よりも大きい、例えば、Ie=5×1029cm-2s-1では、R(Ie)は0.5となる。この条件では、分子は2光子で発光するので、この場合の照明光は、ポンプ光として機能する。このように、波長750nmの照明光は、ローダミン6Gに対しては、フォトンフラックスがIe=1/(τσtwo)1/2を境にして、ポンプ光とイレース光とに機能が分かれる。
【0049】
また、蛍光検出可能なS1状態の分子を2光子励起により生成するためには、ナノ秒以下の短パルス光の励起照射で十分であるが(例えば、文献「Opt.Eng.vol.44(2005)033602」参照)、S1状態の分子をS2状態に励起して効率的に蛍光を抑制するためには、励起過程が安定状態として平衡するナノ秒以上の長い時間の照射を要する。これらのことが、ポンプ光およびイレース光の照射時間の目安となる。
【0050】
以下、本発明の実施の形態について、ローダミン6Gにより染色された試料を観察する超解像顕微鏡を例にとって説明する。
【0051】
ここで、ローダミン6Gは、水中では、例えば図5に示すように、S0の基底状態からS1状態への吸収波長領域が、波長530nmを中心励起波長として、波長480nmから波長540nmまで広がっている。また、蛍光バンドは、波長560nmを中心に、波長540nmから波長600nmの波長領域に広がっている。さらに、S1状態からS2状態への吸収バンドは、500nmより長波長から800nm近傍までの比較的広い領域に展開している。なお、図5において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は吸収率・蛍光効率を示している。
【0052】
ところが、近年では、波長740nm〜840nmを中心とする近赤外の領域において、2光子励起過程によりS0状態からS1状態への吸収が可能な蛍光スペクトルが観測されている(例えば、文献「A.Fischer.et.al.Appl.Opt.34.1989(1995)」参照)。その一方で、ナノ秒レーザを用いた2波長蛍光分光法では、上記の波長領域において、S1状態からS2状態への吸収による蛍光抑制効果が確認されている。
【0053】
そこで、以下に説明する本発明の実施の形態にかかる超解像顕微鏡では、波長775nmのレーザ光を、ポンプ光およびイレース光として用いる。
【0054】
(第1実施の形態)
図6は、本発明の第1実施の形態に係る超解像顕微鏡の要部の概略構成図である。本実施の形態は、2台のファイバレーザ光源11および21を用いて、ポンプ光およびイレース光を生成する。
【0055】
ファイバレーザ光源11は、半導体レーザ12、コリメータレンズ13、カップリングレンズ14、ファイバ増幅器15、カップリングレンズ16および倍波結晶素子17を有して構成する。半導体レーザ12は、波長900nmの赤外光を出射する赤外半導体レーザを用い、この半導体レーザ12から出射されたレーザ光を、コリメータレンズ13により平行光にした後、カップリングレンズ14を経てファイバ増幅器15に導入する。
【0056】
ファイバ増幅器15は、レーザ活性媒質として、例えばエルビウムイオンをドープした、コア直径が2μm程度、長さが10mm程度のファイバ増幅器を用い、このファイバ増幅器15に半導体レーザ12からの波長900nmの赤外レーザ光を導入することにより、波長1.55μmのシングルモードのレーザ光を光増幅して出射させる。なお、ファイバ増幅器15は、そのコア構造や長さを最適化することにより、ファイバ端から100W〜数十kWの出力のレーザ光を出射することが可能である。
【0057】
ファイバ増幅器15から出射される波長1.55μmのレーザ光は、カップリングレンズ16を経て倍波結晶素子17に入射させて倍波変換し、これにより倍波結晶素子17から波長775nmのレーザ光を出射させる。
【0058】
一方、ファイバレーザ光源21は、ファイバレーザ光源11と同様に、半導体レーザ22、コリメータレンズ23、カップリングレンズ24、ファイバ増幅器25、カップリングレンズ26および倍波結晶素子27を有して構成して、倍波結晶素子27から波長775nmのレーザ光を出射させる。
【0059】
本実施の形態では、ファイバレーザ光源11の半導体レーザ12を、制御部31によりパルスジェネレータ32を介して駆動して、半導体レーザ12から図3に示したようにフェムト秒オーダの時間幅を有するショートパルス光を出射させ、これにより倍波結晶素子17から波長775nmの尖頭値(波高値)の高いポンプ光を出射させる。
【0060】
また、ファイバレーザ光源21の半導体レーザ22は、制御部31によりパルスジェネレータ33を介して、ファイバレーザ光源11の半導体レーザ12と同期して駆動して、半導体レーザ22から図3に示したようにナノ秒オーダの時間幅を有するロングパルス光を出射させ、これにより倍波結晶素子27から波長775nmの尖頭値(波高値)の低いイレース光を出射させる。
【0061】
ファイバレーザ光源11から出射されるポンプ光は、反射光学素子34、ビームコンバイナ35、ハーフミラー36および顕微鏡対物レンズ37を経て、走査ステージ38上の試料39に集光し、これにより試料39内の所望の分子(ここでは、ローダミン6G)を励起する。
【0062】
また、ファイバレーザ光源21から出射されるイレース光は、空間変調素子であるスパイラル位相板41により中空ビームが形成されるように位相変調した後、反射ミラー42を経てビームコンバイナ35によりポンプ光と空間的に同軸に合成して、ハーフミラー36および顕微鏡対物レンズ37を経て、走査ステージ38上の試料39に集光する。
【0063】
ビームコンバイナ35は、ポンプ光の偏光方向とイレース光の偏光方向とが直交する場合には、偏光ビームスプリッタにより構成して、ポンプ光とイレース光とを空間的に同軸に合成する。また、スパイラル位相板41は、例えば、図7に拡大平面図を示すように、石英基板の中央部を光軸対称に8角形状に8分割し、その8分割した領域を、イレース光の例えば中心波長に対して、位相差が光軸の周りに2πで周回するように、λ/8ずつ位相を異ならせて階段状にエッチングして形成する。このスパイラル位相板41をイレース光が通過すると、光軸対象位置では位相が反転しているので、顕微鏡対物レンズ37により集光すると中空ビームとなる。
【0064】
走査ステージ38は、試料39へのポンプ光およびイレース光の照射に同期して、制御部31により、顕微鏡対物レンズ37の光軸と直交する平面内で2次元移動し、これにより試料39をポンプ光およびイレース光で2次元走査する。
【0065】
一方、ポンプ光およびイレース光の照射により、試料39から発生する蛍光(光応答信号)は、顕微鏡対物レンズ37およびハーフミラー36を経てショートパスフィルタ43に入射させ、ここでポンプ光およびイレース光をブロックし、蛍光のみをプロジェクションレンズ44に導いて光電子増倍管45で受光する。この光電子増倍管45の出力は、図示しないコンピュータに取り込んで、2次元蛍光画像を得る。なお、ローダミン6Gの蛍光帯は、波長555nmをピークとして、前後40nm程度のバンドを有するので、ショートパスフィルタ43は、例えば波長600nm以上の長波長側をカットするように構成して、波長775nmのポンプ光またはイレース光の散乱光が光電子増倍管45に入射しないようにする。
【0066】
したがって、図6に示す超解像顕微鏡は、2台のファイバ光源11,21を含んで光源手段を構成し、ビームコンバイナ35、ハーフミラー36および顕微鏡対物レンズ37を含んで光学系を構成し、走査ステージ38を含んで走査手段を構成し、さらに、ショートパスフィルタ43、プロジェクションレンズ44および光電子増倍管45を含んで検出手段を構成している。
【0067】
本実施の形態におけるように、ローダミン6Gにより染色された試料を観察する場合、波長775nmの光を用いた場合の2光子吸収断面積σtwo(λ)は、200×10-50cm4s程度である。また、この波長領域で、実質的にS1状態から蛍光抑制に寄与する蛍光抑制断面積σdip(λ)は、10-17cm2程度である。
【0068】
ここで、ポンプ光のパルス幅tを5psとした場合に、検出に必要なS1状態の分子を生成するための光子密度(フォトンフラックス:I)を見積もる。ローダミン6Gの1分子について、S1状態をとる確率をn(t)とすると、レート方程式は、下記の(3)式で表される。
【0069】
【数3】

【0070】
上記(3)式に、例えば、I=1029cm-2s-1を代入すると、n(t)は0.1となり、蛍光現象が飽和することなく、十分な蛍光強度が得られることが分かる。この光子密度は、顕微鏡対物レンズ37の開口数を1.4として集光する場合のポンプ光の強度に換算すると、85Wとなる。
【0071】
さらに、超解像機能の発現に必要なフォトンフラックス:Ieを見積もる。イレース光無照射時に対する蛍光強度の比R(Dip-Ratio)は、下記の(4)式で与えられる。
【0072】
【数4】

【0073】
ここで、ローダミン6GのS1状態における蛍光寿命τは、例えばメタノール中で3.75nsであるので、イレース光のパルス幅を3.75ns以上に設定し、例えば、Ie=1026cm-2s-1と仮定すると、R=0.21となる。この値は、超解像効果を発現するのに十分なフォトンフラックスである。このフォトンフラックスを、同様に、顕微鏡対物レンズ37の開口数を1.4として集光する場合のイレース光の強度に換算すると、340mWとなる。このイレース光強度であれば、上記(3)式のn(t)は8×10−5となり、イレース光自体の2光子励起による発光は、完全に無視することができる。
【0074】
なお、上記のポンプ光およびイレース光のそれぞれの強度は、対応する半導体レーザ12,22自体から出射するパルス光の尖頭値(波高値)および/または対応するファイバ増幅器15,25のコア構造や長さを適切に制御して設定する。
【0075】
以上のように、本実施の形態の超解像顕微鏡によれば、同一波長のポンプ光およびイレース光を用いるので、これらの光軸を同軸に合成するビームコンバイナとして、例えば両者の偏光方向を直交させることにより、ダイクロイックミラー等の高価な素子を用いることなく、安価な偏光ビームスプリッタを用いて合成することができる。また、ポンプ光およびイレース光の共通光路におけるハーフミラー36や顕微鏡対物レンズ37等の各光額素子の設計も容易になり、光学系全体のスループットを低下させることなく、収差を劇的に低減することが可能となる。
【0076】
また、超解像顕微鏡の空間分解能は、下記の(5)式で与えられることが知られている(例えば、文献「Opt.Eng.vol.44(2005)033602」)。
【0077】
【数5】

【0078】
したがって、本実施の形態の場合、τ:3.75ns、σ:10-17cm2、Ie:1026cm-2s-1、λe:775nm、であるので、顕微鏡対物レンズ37の開口数(NA)を1.4として、空間分解能(Γ)を演算すると、ほぼ143nmとなる。これに対し、ポンプ光の単独照射、すなわち、波長775nmの2光子励起で得られる空間分解能は、レイリーの式(0.61×λ/NA)から、ほぼ338nmであるので、本実施の形態によれば、空間分解能を従来の顕微鏡の2倍以上も向上できる。
【0079】
(第2実施の形態)
図8は、本発明の第2実施の形態に係る超解像顕微鏡の要部の概略構成図である。本実施の形態は、波長755nmの赤外光を出射する1台の半導体レーザ51を用いて、ポンプ光およびイレース光を生成する。このため、制御部52の制御のもとに、パルスジェネレータ53から図3に示したような急峻な立ち上がりを有する駆動パルスを半導体レーザ51に供給して、半導体レーザ51を駆動する。
【0080】
このように、半導体レーザ51に急峻な立ち上がりを有する駆動パルスを供給すると、半導体レーザ51からは、発光の立ち上がりで、ピコ秒オーダの極めて狭い時間幅で、波長755nmの発光を含む発光チャープピークが現れる。その後は、波長755nmで安定したナノ秒オーダの波高値の低いロングパルスが現れる。このようなレーザ発光特性は、半導体レーザにおいて一般的な特性である。
【0081】
半導体レーザ51から出射されたレーザ光は、コリメータレンズ55により平行光にして、波長分散特性を有する非線形光学素子56に入射させる。非線形光学素子56は、尖頭値(波高値)の高いパルス入射光に対しては、光カー効果により偏光面を90度回転させて出射させ、尖頭値の低いパルス入射光に対しては、偏光面を回転させることなく出射させるように構成する。
【0082】
すなわち、非線形光学素子56は、尖頭値の高いパルス光が入射した場合には、媒質内で高次の非線形光学効果を誘導して、瞬間的に媒質の屈折率分布を変化させ、これにより電気感受率すなわち電気的応力テンソルを変化させて、入射光の位相を著しく変化させて偏波面を90度回転して出射させ、尖頭値の低いパルス光が入射した場合には、通常の線形的な応答により、入射光を透過させるように、光の波長および強度に対して光学媒質の長さや材質を適切に構成する。このような非線形光学素子56は、通常の石英やプラスチックのような有機材を用いて簡単かつ安価に構成することができる。
【0083】
非線形光学素子56を出射したレーザ光は、偏光ビームスプリッタ57に入射させて、例えば偏光面が回転されたショートパルスは偏光ビームスプリッタ57で反射させてポンプ光として出射させ、偏光面の回転を受けないロングパルスは偏光ビームスプリッタ57を透過させてイレース光として出射させる。したがって、本実施の形態の超解像顕微鏡は、半導体レーザ51、コリメータレンズ55、非線形光学素子56および偏光ビームスプリッタ57を含んで光源手段を構成している。
【0084】
偏光ビームスプリッタ57から出射されるポンプ光は、第1実施の形態と同様に、反射光学素子34、ビームコンバイナ35、ハーフミラー36および顕微鏡対物レンズ37を経て、走査ステージ38上の試料39に集光し、これにより試料39内の所望の分子を励起する。
【0085】
また、偏光ビームスプリッタ57から出射されるイレース光は、反射光学素子61および62を経て、第1実施の形態と同様のスパイラル位相板41に入射させ、ここで中空ビームが形成されるように位相変調した後、反射ミラー42を経て偏光ビームスプリッタからなるビームコンバイナ35によりポンプ光と空間的に同軸に合成して、ハーフミラー36および顕微鏡対物レンズ37を経て、走査ステージ38上の試料39に集光する。
【0086】
走査ステージ38は、半導体レーザ51のパルス駆動に同期して、制御部52により、顕微鏡対物レンズ37の光軸と直交する平面内で2次元移動し、これにより試料39をポンプ光およびイレース光で2次元走査する。その他の構成および動作は、第1実施の形態と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0087】
本実施の形態の超解像顕微鏡によれば、第1実施の形態と同様の効果が得られる他、1つの半導体レーザ51から出射されたレーザ光を、その尖頭値に応じて非線形光学素子56により偏光面を選択的に90度回転させて、偏光ビームスプリッタ57によりポンプ光とイレース光とに分離して出射させるようにしたので、第1実施の形態の場合よりも、光源手段をより簡単かつ安価に構成できる利点がある。
【0088】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、走査ステージ17により試料18を2次元走査するようにしたが、同軸となったポンプ光とイレース光との光路中に、2枚の揺動ミラーを有する2次元のガルバノスキャナを配置して2次元走査するように構成したり、1次元の走査ステージと1次元のガルバノスキャナとを組み合わせて、2次元走査するように構成したり、することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】ナノ秒のイレース光パルスによる分子の蛍光抑制過程を説明するための図である。
【図2】ピコ秒のイレース光パルスによる分子の蛍光抑制過程を説明するための図である。
【図3】本発明の原理を説明する2光子過程と蛍光抑制過程とを示す図である。
【図4】1色の光を用いて超解像顕微鏡を構成する場合のショートパルスポンプ光およびロングパルス光の波形制御を説明する模式図である。
【図5】ローダミン6Gを観察する場合の吸収波長帯域および蛍光バンドを示す図である。
【図6】本発明の第1実施の形態に係る超解像顕微鏡の要部構成図である。
【図7】図6に示すスパイラル位相板の構成を示す拡大平面図である。
【図8】本発明の第2実施の形態に係る超解像顕微鏡の要部の概略構成図である。
【図9】試料を構成する分子の価電子軌道の電子構造を示す概念図である。
【図10】図9に示す分子の第1励起状態を示す概念図である。
【図11】図9に示す分子の第2励起状態を示す概念図である。
【図12】図9に示す分子が第2励起状態から基底状態に戻る状態を概念的に示す図である。
【図13】分子における二重共鳴吸収過程を説明するための概念図である。
【図14】分子における二重共鳴吸収過程を説明するための概念図である。
【符号の説明】
【0090】
1 反射ミラー
2 ビームコンバイナ
3 空間変調素子
11,21 ファイバレーザ光源
12,22 半導体レーザ
13,23 コリメータレンズ
14,24 カップリングレンズ
15,25 ファイバ増幅器
16,26 カップリングレンズ
17,27 倍波結晶素子
31 制御部
32,33 パルスジェネレータ
34 反射光学素子
35 ビームコンバイナ
36 ハーフミラー
37 顕微鏡対物レンズ
38 走査ステージ
39 試料
41 スパイラル位相板
42 反射ミラー
43 ショートパスフィルタ
44 プロジェクションレンズ
45 光電子増倍管
51 半導体レーザ
52 制御部
53 パルスジェネレータ
55 コリメータレンズ
56 非線形光学素子
57 偏光ビームスプリッタ
61,62 反射光学素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の所望の分子を観察する顕微鏡であって、
前記分子を安定状態から第1励起状態に励起するポンプ光、および前記分子を前記第1励起状態から第2励起状態に励起するイレース光を出射する光源手段と、
該光源手段からの前記ポンプ光および前記イレース光を一部重ね合わせて前記試料に集光する光学系と、
該光学系により集光される前記ポンプ光および前記イレース光と前記試料とを相対的に移動させて前記試料を走査する走査手段と、
前記ポンプ光および前記イレース光の照射により前記試料から発生する光応答信号を検出する検出手段と、を有し、
前記光源手段は、
前記ポンプ光として、前記試料に集光したときのフォトンフラックスが、前記分子の2光子吸収断面積をσtwo、蛍光寿命をτとしたとき、1/(τσtwo)1/2以上となる所定波長のパルス光を出射し、
前記イレース光として、前記ポンプ光と同一波長で、前記試料に集光したときのフォトンフラックスが1/(τσtwo)1/2未満となるパルス光を出射する、ように構成したことを特徴とする顕微鏡。
【請求項2】
前記光源手段は、
前記ポンプ光として、パルス幅が1ナノ秒未満のパルス光を出射し、
前記イレース光として、パルス幅が1ナノ秒以上のパルス光を出射する、ように構成したことを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項3】
前記光源手段は、一つのレーザ光源を有し、
該レーザ光源から波高値の異なる前記ポンプ光および前記イレース光のパルス光を出射する、ように構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の顕微鏡。
【請求項4】
前記光源手段は、前記イレース光の出射に先立って前記ポンプ光を出射する、ように構成したことを特徴とする請求項1,2または3に記載の顕微鏡。
【請求項5】
前記ポンプ光と前記イレース光との出射タイミングの差が、前記蛍光寿命よりも短い、ことを特徴とする請求項4に記載の顕微鏡。
【請求項6】
前記光源手段は、さらに、前記イレース光を空間変調する空間変調素子を有する、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の顕微鏡。
【請求項7】
前記空間変調素子は、前記イレース光が前記試料に中空状に集光されるように空間変調する、ことを特徴とする請求項6に記載の顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−98450(P2009−98450A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270463(P2007−270463)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】