説明

風力発電のピッチ駆動用の減速装置

【課題】潤滑剤の漏れを抑制しつつ、駆動源側の軸と減速機構部の入力軸の連結部におけるフレッチング摩耗を防止する。
【解決手段】風力発電のピッチ駆動用の減速装置G1において、減速装置G1の駆動源16と、駆動源16の回転を減速する減速機構部18と、を有し、減速機構部18が、グリースで潤滑されており、駆動源側の軸30と減速機構部18の入力軸32とが相対的に径方向にがたを有しながら互いに連結するフロート連結によって締結され、且つ、フロート連結がなされている部分36が密閉された空間に封入されたオイルで潤滑されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電のピッチ駆動用の減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1によれば、図9に示すような風力発電のピッチ駆動用の減速装置1が示されている。風車の中空状ロータヘッド2は、図示せぬ風車本体に回転可能に支持されている。また、ピッチ風車ブレード3は、ロータヘッド2に回転可能に連結されている。ピッチ風車ブレード3の半径方向内端部には、ピッチ駆動用の減速装置1が連結されている。この減速装置1は、駆動源4の回転が、減速機構部5で減速し、該減速機構部5の出力軸(図示略)に連結される出力ピニオン6から出力する構成とされている。風車ブレード3の半径方向内端部内周には、減速装置1の出力ピニオン6と噛み合う内歯歯車7が形成されている。この減速装置1内には、自身の部品の摩耗を防止するため、潤滑剤が充填されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−9373号公報(請求項1、段落[0013]、[0014]、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、風力発電のピッチ駆動用の減速装置の場合、突風、台風等の風力により、減速装置の出力側から予期せぬ大荷重が加わり、この大荷重が結果として減速装置にまで及ぶことがある。この対策の1つとして、駆動源の出力軸と減速機構の入力軸との間にがたをもたせ、大加重による衝撃を吸収すると共に、これに伴う両軸間のずれを柔軟に許容するフロート連結が採用されている。ピッチ駆動用の減速装置はさまざまな方向に向くので、潤滑剤漏れの防止という観点から、減速装置はグリースにより潤滑が行われていた。しかしながら、風車の回転運動が行われる際に、フロート連結部のがたが両軸の間に微小摺動を生じさせ、フレッチング摩耗を引き起こす恐れがある。
【0005】
本発明は、かかる恐れに鑑みてなされたものであって、潤滑剤の漏れを抑制しつつ、駆動源側の軸と減速機構部の入力軸の連結部におけるフレッチング摩耗を防止できる風力発電のピッチ駆動用の減速装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、風力発電のピッチ駆動用の減速装置において、該減速装置の駆動源と、該駆動源の回転を減速する減速機構部と、を有し、該減速機構部が、グリースで潤滑されており、前記駆動源側の軸と減速機構部の入力軸とが相対的に径方向にがたを有しながら互いに連結するフロート連結によって締結され、且つ、該フロート連結がなされている部分が密閉された空間に封入されたオイルで潤滑されている構造とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0007】
本発明では、「駆動源側の軸と減速機構部の入力軸とが相対的に径方向にがたを有しながら互いに連結するフロート連結」によって締結されており、「このフロート連結される部分は密閉された空間に封入されたオイルで潤滑」されている。本発明は、その用途(風力発電のピッチ駆動)から、「フロート連結された部分」以外の高トルクを伝達する減速機構部等にはグリース潤滑を採用すると共に、(それ程高いトルクを伝達する必要のない)「フロート連結部」には「密閉された空間に封入されたオイル潤滑」を採用している。これにより、用途との関係からトレードオフの関係にあった「潤滑剤の漏れの抑制」と「フレッチング摩耗の防止」を効果的に同時に実現している。つまり、「オイル」は、グリースよりも柔らかく、ほぼ液状であるため、「フロート連結された部分」の狭いがたの部分に十分に入り込み、両軸間の潤滑性を向上させることができ、結果として、両軸間で生じるフレッチング摩耗を防止することができる。また、オイルは、(容積の狭い)フロート連結された部分に使用しているにすぎないため、密閉が容易であり、オイル漏れが生じる可能性は極めて低い。また、たとえ全てのオイルが漏れたとしても、大した量ではなく、その上、フロート連結された部分は、機械的な連結によって動力自体は減速機構部に支障なく伝達し続けることができ、また減速機構部は(もれる恐れの小さな)グリースで確実に潤滑されるため、十分に安全且つ円滑な連続運転を維持できる。これにより、潤滑剤の漏れを最小限に抑制しつつ、また、安全性を維持しつつ、フロート連結された部分のフレッチングを防止することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、潤滑剤の漏れを抑制しつつ、駆動源側の軸と減速機構部の入力軸の連結部におけるフレッチング摩耗を防止できる風力発電のピッチ駆動用の減速装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態の一例にかかる風力発電のピッチ駆動用の減速装置の縦断面図
【図2】図1における矢示II部の拡大図
【図3】本発明の第2実施形態の一例にかかる風力発電のピッチ駆動用の減速装置の縦断面図
【図4】本発明の第3実施形態の一例にかかる風力発電のピッチ駆動用の減速装置の縦断面図
【図5】本発明の他の実施形態の一例にかかる風力発電のピッチ駆動用の減速装置の縦断面図
【図6】風力発電システムにおける発電ユニットの概略を示す斜視図
【図7】風力発電システムにおける発電ユニットのロータヘッド部の縦断面図
【図8】図7における矢示VIII部の拡大図
【図9】従来の風力発電装置のピッチ駆動装置に用いる減速装置
【発明を実施するための形態】
【0010】
減速装置G1の用途を明確にするため、便宜上、風力発電機のピッチ駆動装置401について説明する。
【0011】
風力発電システムにおける発電ユニット402の概略を示す斜視図を図6に示す。上記実施形態に係る減速装置G1が組み込まれている風力発電システムの概略側面図を図7に示し、また、図8には、図7の矢示VIII部の拡大図を示す。
【0012】
本実施形態では、ピッチ駆動装置401の減速装置G1に本発明が適用されている。風力発電に使用される中空状のロータヘッド404は、発電ユニット402(ナセル)にほぼ水平な回転軸回りに回転できるよう支持されている。このロータヘッド404は、図示せぬ増速機及び発電機に連結されているため、このロータヘッド404が回転することにより、(風力)発電がなされる。
【0013】
このロータヘッド404は、自身の周方向に風車ブレード414を有している(図7参照)。これら風車ブレード414の半径方向内端部は、軸受408を介してロータヘッド404に回転可能に連結されている。また、風車ブレード414には、内周に多数の内歯410が形成され、旋回内歯歯車412を構成し、軸受408の内輪と兼用されている。
【0014】
ロータヘッド404には、風車ブレード414と同数のピッチ駆動装置401が取り付けられている。このピッチ駆動装置401は、駆動源(モータ)16、減速機構部18及び該出力ピニオン20と噛合する旋回内歯歯車412から主に構成される。このピッチ駆動装置401は、モータ16を駆動することにより、その回転動力を減速機構部18により減速しながら出力ピニオン20を回転させる。この出力ピニオン20は、旋回内歯歯車412と噛み合い回転動力を風車ブレード414に伝達することができる。これにより、ロータヘッド404に対する風車ブレード414のピッチ角を変更し、風車ブレード414を所望の方向に向けることができ、効率的に風圧を受けることができる。
【0015】
しかしながら、前述の風車ブレード414は風圧を受け易くしているため、強風時等に大きな負荷を受けることがある。このような過大負荷は旋回内歯歯車412及び出力ピニオン20を介して、減速装置G1内部に伝達され、回転軸(モータ側の軸(駆動源側の軸)30や減速機構部18の入力軸32等)に大きな撓み・変形を与え、減速装置G1を損傷させたりする恐れがある。
【0016】
この変形に対応するため、モータ側の軸30と減速機構部18の入力軸32を強固に連結せず、両軸30、32間に「相対的に径方向に移動を許容する若干のがたを設け」連結している(以下、「フロート連結」という。)。これにより、両軸30、32間に生じる芯ずれ等を吸収し、継続して減速装置G1を使用することができる。
【0017】
しかしながら、このフロート連結を採用したことに伴い、両軸30、32は風車の回転に伴って軸方向の往復動や振動等を繰り返すことになる。この結果、両軸30、32間にフレッチング摩耗が生じる恐れが発生する。
【0018】
ここで、用途(風車の回転運動)との関係から、ピッチ駆動用の減速装置G1に用いる潤滑剤の特有の問題点を整理すると、減速装置G1をグリース潤滑とすると、オイル潤滑に比べ漏れが生じにくくできる代わりに、フレッチング摩耗が生じ易くなる。一方、減速装置G1をオイル潤滑とすると、フレッチング摩耗は防止できるようになるが、オイル漏れが生じ易くなる。即ち、ピッチ駆動用の減速装置G1において、潤滑剤の漏れの抑制とフレッチング摩耗の防止の関係は、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ない二律背反の関係(トレードオフの関係)となっている。
【0019】
そこで、この実施形態では、減速装置G1及び潤滑剤について、フロート連結がなされている部分を密閉された空間に封入されたオイルで潤滑し、それ以外の部分をグリースで潤滑するように構成している。以下詳述する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態にかかる減速装置G1の縦断面図を示している。また、図2は図1の矢示IIで示す拡大図を示している。
【0021】
まず、減速装置G1の構造について説明する。
【0022】
減速装置G1に備えられたモータ16の回転は、減速装置G1の減速機構部18で減速され、減速機構部18の出力軸48に連結されている出力ピニオン20から出力される。
【0023】
上述したように、モータ側の軸30と減速機構部18の入力軸32はフロート連結されている。このフロート連結部36はスプライン構造となっている。モータ16の負荷側には、モータ軸(図示略)に対してブレーキ85が備えられている。本実施形態では、モータ16の負荷側にブレーキ85を有しているため、ブレーキ85の出力軸が、駆動源側の軸に相当する。なお、このブレーキ85は、後述するブレーキ285と同じ構造のブレーキである(図1では図示略:詳細については図4を用いて後述する。)。
【0024】
フロート連結部36及び減速機構部18は、カバー46の内部に配置されている。カバー46は、上部カバー38、下部カバー44、第1ケーシング40及び第2ケーシング42から構成されている。
【0025】
減速機構部18の構成について説明する。
【0026】
減速機構部18は、いわゆる振分タイプの内接噛合遊星歯車式の減速機構を備えている。
【0027】
減速機構部18の入力軸32は、上述したようにモータ側の軸30にフロート連結されている。減速機構部18の入力軸32にはスパーピニオン41が固定され、このスパーピニオン41には3個(1個のみ図示)のスパーギヤ39が噛み合っている。3本の(1本のみ表示)偏心体軸50は、この3個のスパーギヤ39によってそれぞれ回転される。偏心体52、54は、それぞれの偏心体軸50に対して偏心した状態で組み込まれている。偏心体52、54は、互いに180度の偏心位相を有している。外歯歯車56、58は、ころ61、62を介して偏心体52、54に嵌入されている。外歯歯車56、58は内歯歯車60と内接噛合している。内歯歯車60の内歯は、第1、第2ケーシング40、42に取り付けられた円筒状の外ピンによって構成されている。内歯歯車60の内歯の数(外ピンの数)は、外歯歯車56、58の外歯の数より1だけ多い。
【0028】
前記偏心体軸50は、ころ軸受64、66を介して第1、第2フランジ体68、70に回転自在に支持されている。この第1、第2フランジ体68、70は、ボルト72によって連結されている。第1フランジ68は、自身と第1ケーシング40の間に設けられた軸受74により回転自在に支持されている。減速機構部18の入力軸32は軸受95(95A、95B)により回転支持されており、出力軸48は軸受71により回転支持されている。
【0029】
ここで、潤滑剤とこの潤滑剤の漏れを防止する機構について説明する。
【0030】
フロート連結部36はオイルで潤滑されている。
【0031】
上部カバー38、第1ケーシング40、及びオイルシール96A、96B、99によってオイル溜り部97となる密閉空間が形成され、オイルはこのオイル溜り部97に封入されている。
【0032】
より具体的には、一対のオイルシール96A、96Bは、オイル溜り部97の負荷側(減速機構部18側)で、且つ軸受95の反負荷側に設けられるオイルシール配置部96において、第1ケーシング40と減速機構部18の入力軸32上に設けられたブッシュ33との間に配置されている。一方、オイルシール99は、オイル溜り部97の反負荷側(モータ16側)において、モータ側の軸30と上部カバー38の間に配置されている。これにより、上部カバー38、第1ケーシング40、及びオイルシール96A、96B、99は、オイル溜り部97のオイルを密閉する空間を形成することができる。
【0033】
オイル溜り部97の容積は、入力軸32のフロート連結部36の容積以上の大きさで、且つ3倍未満であることが好ましい。
【0034】
本実施形態では、減速機構部18の入力軸32の直径(スプラインの場合はピッチ円径)をDとし、両軸30、32が締結されている長さをYとした場合、フロート連結部36の容積は、πDY/4となる(図2参照)。
【0035】
本実施形態において、オイル溜り部97の容積は、フロート連結部36の容積の約1.3倍程度とされている。
【0036】
オイルは、第1ケーシング40の側面に取り付けられているオイル供給口93から供給される。このオイル供給口93は、キャップ付の貫通穴である。
【0037】
一方、減速機構部18の内部及びモータ側の軸30を支持する軸受92(92A、92B)は、グリースで潤滑されている。軸受92を潤滑するグリースとして、ちょう度番号が2番(ちょう度:265〜295)のものが用いられている。このグリースは減速機構部18と軸受92(92A、92B)に充填される。
【0038】
第1ケーシング40、第2ケーシング42、及びオイルシール96、94(94A、94B)によりグリース溜り部98となる密閉空間が形成されており、グリースはこのグリース溜り部98に封入される。
【0039】
オイルシール94及びグリース溜り部98は、減速機構部18の負荷側に備えられている。
【0040】
次に、減速装置G1の作用について説明する。
【0041】
減速機構部18では、3本の偏心体軸50に同位相で組み込まれた偏心体52、54が同時に同一の回転速度で回転することによって、外歯歯車56、58が揺動回転する。
【0042】
この実施形態では内歯歯車60が第1、第2ケーシング40、42に固定されているため、減速機構部18の入力軸32の回転がスパーピニオン41とスパーギヤ39を介して偏心体軸50に伝達され、偏心体軸50が1回回転すると、外歯歯車56、58は1回揺動して内歯歯車60との噛合位置が1歯だけ(歯数差分だけ)ずれる。この結果、外歯歯車56、58は、該内歯歯車60に対して該歯数差に相当する角度だけ相対回転する。外歯歯車56、58と内歯歯車60との相対回転は、3本の偏心体軸50の軸心周りの公転成分として第2フランジ70から取り出される。第2フランジ70は出力軸48と回転方向に一体化されているため、出力軸48を介して、出力ピニオン20を回転させ、動力を減速装置G1から出力することができる。これにより、この回転動力にて風車ブレード414のピッチ角を変更し、風車ブレード414を所望の方向(角度)に向けることができる。
【0043】
過大荷重が加わっても、フロート連結部36が、モータ側の軸30と減速機構部18の入力軸32の軸心のずれを良好に吸収することができる。
【0044】
次に、潤滑剤と潤滑剤の漏れを防止する機構の作用について説明する。
【0045】
フロート連結部36は、オイルで潤滑されている。オイルは、グリースと比較して粘度が低いため、より細かな隙間に入り込むことができ、むらなく噛み合い部分(モータ側の軸30と減速機構18の入力軸32の噛み合う面)を覆うことができる。具体的には、オイルがモータ側の軸30の雌スプライン部と、減速機構18の入力軸32の雄スプライン部と、の間のがたに入り込み、両軸30、32間に油膜を形成し、フレッチング摩耗を防止することができる(詳細については上述)。
【0046】
オイルは、上部カバー38、第1ケーシング40、オイルシール96A、96B、99によって形成されたオイル溜り部97に封入されている。
【0047】
オイル溜り部97の負荷側(オイル溜り部97の減速機構部18側)については、一対のオイルシール96A、96Bが対向して(それぞれのリップ部を逆方向に向けて)配置されているため、結果として、オイル溜り部97から減速機構部18内部へ生じるオイルの漏れ及び減速機構部18内部からオイル溜り部97へ生じるグリースの漏れを防止することができる。
【0048】
また、オイル溜り部97の反負荷側(モータ16側)については、オイルシール99が配置されているとともに、軸受92がグリースで潤滑されているため、オイル溜り部97とブレーキ85内部の空間を仕切ることができる。よって、オイル溜り部97からブレーキ85側へオイルが漏れることを防止することができる。
【0049】
軸受92はグリースで潤滑されているため、オイルシール99の効果と相俟って、オイルがオイル溜り部97からブレーキ85側へ漏れる危険性を一層低減することができる。
【0050】
このオイル溜り部97の容積が、フロート連結部36の容積以上で、且つ3倍未満であり、信頼性の高い密閉空間を形成するに大き過ぎず、且つ小さ過ぎない量であるため、フロート連結部36が十分に潤滑され劣化を極小に維持できるだけでなく、オイルの早期劣化も防止することができる。
【0051】
万が一、オイルが全てフロート連結部36から流出したとしても、その量は、フロート連結部36の容積の3倍未満であり減速装置G1の連続運転の安全性に影響を与えるような量ではなく、またスプライン連結構造での動力伝達が直ちに不能となるわけではない(フレッチングが生じやすくなるだけである)ため、減速装置G1の運転自体は問題なく続けることができる。
【0052】
一般に、オイルはグリースより密閉空間から外部へ漏れやすいため、オイルをシールするためのシールコスト代はグリースをシールするときに比べ高くなってしまう。このため、オイルによる潤滑部分が増えると、その分装置全体のシールコスト代が上昇してしまう。この点、減速装置G1はフロート連結部36のみをオイル潤滑としているため、シールのコスト代を抑制し安価にオイル漏れを防止することができる。
【0053】
一方、フロート連結部36以外の部分は、減速機構部18を含め、オイルと比較して粘性の高いグリースで潤滑されており、且つ長期使用にともなう劣化により粘性が低くなったグリースはグリース溜り部98に蓄えられる。このため、減速装置G1がロータヘッド404の回転に伴い色々な方向を向いたとしても、グリースは減速機構部18からオイル溜り部97または外部空間へ漏れにくくなっている。
【0054】
即ち、減速装置G1内部の潤滑剤(オイル、グリース)は、全体として減速装置G1から外部空間へ漏れにくくなっている。
【0055】
なお、本実施形態においてブレーキ85をモータ16の負荷側に設けているため、モータ側の軸30がブレーキトルクを負担しなくてよく、トルク伝達上好ましい。
【0056】
以上のことから、安価にオイルの漏れを抑制しつつ、モータ側の軸30と減速機構部18の入力軸32のフレッチング摩耗を防止できる安全な風力発電のピッチ駆動用の減速装置G1を提供できる。
【0057】
次に、他の実施形態について説明する。
【0058】
図3に他の実施形態にかかる減速装置G2の断面図を示す。
【0059】
本実施形態にかかる減速装置G2も、上述した減速装置G1(図1)とほぼ同様であるため、同一又は類似する機能を有する部材に減速装置G1と下二桁が同一の符号を付すにとどめ、重複説明を省略する。
【0060】
本実施形態においても、オイルが上部カバー138、第1ケーシング140、及びオイルシール196(196A、196B)、199によって形成されたオイル溜り部197に充填されており、フロート連結部136はオイルにより潤滑されている。一方、フロート連結部136以外の減速機構部118等はグリースにより潤滑されている。これにより、上記実施形態と同様に安価で且つ安全に潤滑剤の漏れを抑制しつつ、モータ側の軸130と減速機構部118の入力軸132のフレッチング摩耗を防止できる風力発電のピッチ駆動用の減速装置G2を提供することができる。
【0061】
本実施形態では第1ケーシング140の入力軸132が挿入される穴の内周と入力軸132との間には、オイルシール196だけでなく、軸受195が配置されているため、この分、第1ケーシング140のモータ116側の肉厚Tが厚くなり、深いオイル溜り部197を構成している。これにより、減速装置G1のオイル溜り部(97)よりも充填するオイル量を多くすることができ、フロート連結部136はオイルによって十分に潤滑がなされる。
【0062】
本実施形態では、減速装置G1の出力軸(48)よりも長い減速機構部118の出力軸148を2つの軸受171、173により両持ち支持しているため、軸受171、173間の距離が長くなり、グリース溜り部198Bを軸受171と軸受173との間に設けることができる。結果として、減速機構部118の負荷側に収容できるグリースの量を大幅に多くすることができる。
【0063】
また、第1フランジ168の形状をよりシンプルに形成するとともに、減速装置G1の軸受(74)を排除することにより、減速機構部118のモータ116側にグリース溜り部198Aを設けている。
【0064】
これにより、減速装置G1に比べてグリース溜り部198(198A、198B)の全体的な容量が大きくなるため、グリースの漏れをより低減することができる。
【0065】
また、上記の構成を採用することにより、以下のような副次的な効果を得ることができる。フロート連結部136において、モータ側の軸130と減速機構部118の入力軸132の軸心のずれが許容されていることと相俟って、軸受171、173間の距離を長くすることにより、出力軸148から入力される恐れがあるラジアル荷重に対する耐衝撃性を一層上げることができる。また、先の実施形態での軸受74を排除することができるため、減速機構部118の負荷側の構造をよりシンプルにすることができる。
【0066】
図4にさらに他の実施形態にかかる減速装置G3の断面図を示す。
【0067】
本実施形態においても、フロート連結部236がオイル溜り部297(オイルシール296A、296B、299によって形成される密閉空間)に封入されたオイルで潤滑されているとともに、減速機構部218がグリースで潤滑されていることにより、上記実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0068】
このフロート連結部236は、カップラー(専用の軸継手)265を用いて構成している。カップラー265を用いたモータ側の軸230と減速機構218の入力軸232の締結方法により、減速機構部218とモータ216との間の空間を広げることができ、オイル溜り部297の容積をより大きくすることができる。この実施形態では、あえて、オイル溜り部297の容積をフロート連結部236の容積の3倍以上に拡張して充填できるオイルの量を多くしている。
【0069】
これは、本実施形態ではブレーキ285をモータ216の反負荷側に設けているため、たとえオイルの漏れが発生した場合であっても悪影響の発生の度合いが低いためである。この構成によりフレッチング摩耗を一層防止しやすい減速装置G3を提供することができる。
【0070】
その他の形態については、図1に示す減速装置G1と同じである。
【0071】
本発明は、上述したいわゆる振り分けタイプの減速装置G1〜G3以外の単純遊星歯車型減速装置G4にも適用することができる。
【0072】
図5に本発明を単純遊星歯車型減速装置G4に適用した実施形態を示す。
【0073】
この減速装置G4は、モータ316の回転を計4段の単純遊星歯車減速機構部318(318A〜318D)にて減速し、最終段のフランジ370の回転を、このフランジ370と一体化された出力軸348に伝達する構成とされている。
【0074】
この実施形態においても、フロート連結部336がオイル溜り部397(オイルシール396A、396B、399によって形成された密閉空間)に封入されたオイルにより潤滑されているとともに、減速機構部318がグリースで潤滑されていることにより、上記実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0075】
また、各段の減速機構部318の負荷側にグリース溜り部398(398A〜398F)を設けている。これにより、グリースの漏れを防止する機能をより高めることができる。
【0076】
なお、本発明を適用できる減速装置の種類は限定されない。
【0077】
また、駆動源の負荷側に配置するブレーキの出力軸を支持する軸受のグリースは、他のちょう度番号のグリースを用いてもよい。減速機構としての機能と漏れを防止する機能を有する範囲であれば、ちょう度番号について特に限定をしない。
【0078】
オイル溜り部の形状は、本実施形態に示す形状以外のものであっても、同様の効果を有するのであれば、特に形状の限定をしない。また、オイルシールの個数も、本実施形態での枚数に限定されない。
【0079】
フロート連結部の締結方法としては、上記実施形態においてスプライン締結、減速装置以外の部品であるカップラーを用いた締結を示しているが、その他の部材を用いてフロート連結部を構成してもよく、例えば、キーを用いてキー連結としてもよい。
【0080】
また、上記実施形態は、潤滑剤の漏れを防止する観点から最良と考えられるフロート連結部のみにオイル潤滑を用い、それ以外の全ての部分にグリース潤滑を用いる形態とされているが、この実施形態に限らず、多量の潤滑剤が充填される減速機構部にグリース潤滑が用いられるならば、フロート連結部以外の部分でもオイル潤滑とされる部分があってもよい。
【0081】
なお、実施形態に記載されている構成部品・要素のうち、特に記載されていないものであっても、構成部品の寸法、材質、形状、その他相対配置などは特に特定的な断りがない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0082】
G1…減速装置
16…モータ(駆動源)
18…減速機構部
30…駆動源側の軸
32…入力軸
36…フロート連結部(フロート連結がなされている部分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電のピッチ駆動用の減速装置において、
該減速装置の駆動源と、該駆動源の回転を減速する減速機構部と、を有し、
該減速機構部が、グリースで潤滑されており、
該駆動源側の軸と減速機構部の入力軸とが相対的に径方向にがたを有しながら互いに連結するフロート連結によって締結され、且つ、
該フロート連結がなされている部分が密閉された空間に封入されたオイルで潤滑されている
ことを特徴とする風力発電のピッチ駆動用の減速装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記駆動源側の軸を支持する軸受がグリースで潤滑されている
ことを特徴とする風力発電のピッチ駆動用の減速装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記駆動源側の軸を支持する軸受を潤滑するグリースは、ちょう度が265〜295である
ことを特徴とする風力発電のピッチ駆動用の減速装置。
【請求項4】
請求項1において、更に、
前記フロート連結がなされている部分に連通して、該フロート連結がなされている部分を潤滑するためのオイルを充填するオイル溜り部が設けられている
ことを特徴とする風力発電のピッチ駆動用の減速装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記オイル溜り部の容積が、前記入力軸の前記フロート連結がなされている部分の容積より大きく、且つ3倍未満である
ことを特徴とする風力発電のピッチ駆動用の減速装置。
【請求項6】
請求項4または5において、更に、
前記減速機構部の外周を覆うカバーを有しており、
該カバーに、前記減速機構部の入力軸を支持する軸受と、該軸受の反負荷側にオイルシールを設けるためのオイルシール配置部と、該オイルシール配置部の反負荷側に設けられる前記オイル溜り部と、が設けられている
ことを特徴とする風力発電のピッチ駆動用の減速装置。
【請求項7】
請求項6において、更に、
前記オイル溜り部と前記減速機構部内部の両方向からの潤滑剤の漏れを防止するために、前記オイルシール配置部に一対のオイルシールを設けると共に、
該オイル溜り部から前記駆動源側へのオイルの漏れを防止するために、該オイル溜り部の該駆動源側にオイルシールを設けている
ことを特徴とする風力発電のピッチ駆動用の減速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−1941(P2011−1941A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147967(P2009−147967)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】