説明

飛翔体、飛翔体の飛翔方法及びコンピュータプログラム

【課題】目標の周りの電波の散乱強度が強い方向から、飛翔体をこの目標に接近させることが可能な飛翔体を提供する。
【解決手段】操舵装置12と、目標機2にて反射される電波の反射波を受信する受信部7と、この検波出力から目標機2を捕捉して追跡し、目標方向への測角信号を計算する目標検出器8と、慣性装置13と、飛翔位置及び飛翔速度と予め記憶した目標機2の初期位置及び初期速度とに基づき目標機2の位置及び速度を計算し飛翔体3と目標機2との会合点の方向に向かう飛翔経路を推定演算する方向推定器9と、誘導計算を行って操舵装置12に対する操舵信号を出力する誘導処理器11とを備え、方向推定器9は目標位置及び電波送信源1を含み地表に垂直な面A上で散乱波の散乱強度が強い方向に延びる直線Dを求め、直線Dと目標機2の位置とに基づき飛翔体3の通過点を算出し、誘導処理器11はこの通過点についての操舵信号を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔体、飛翔体の飛翔方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電波を使用して目標を検出、追跡する飛翔体においては、目標に電波を照射して自らの方向に戻ってくる電波を検出し追跡を実現している。飛翔体が移動目標を捕捉追跡する機能を持つ場合、地上に設けられた電波送信源がレーダ波を送信すると、この飛翔体は目標において反射されたレーダ反射波を受信検波し目標検出判定を行い、この目標への飛翔経路を演算する。
【0003】
従来、飛来する相手飛翔体に対向する飛翔体が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の飛翔体は、地上レーダからの相手飛翔体が弾頭と推進装置に分離したかどうかの相手飛翔体の情報を受信する受信手段と、得られた相手飛翔体の情報を基に、相手飛翔体のレーダ反射面積の特性を推定する推定手段と、得られた情報により、自らの飛翔経路を決定する決定手段と、決定した飛翔経路を制御するための飛翔制御手段を具備している。
【特許文献1】特開2005−106317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、目標機のステルス化が進み、目標は電波の照射源の方向に反射されて戻ってくる電波の強度が小さくなるようにしているため、目標を検出できる距離が著しく短くなってきている。上述した従来技術では、電波の有効反射面積が小さい目標に対する目標の検出性能を向上させることができない。
【0005】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑み、目標にて反射される反射波を受信してこの目標に向かって自身を誘導制御する飛翔体において、目標における電波の散乱方向のうちの電波の散乱強度が強い方向から、飛翔体をこの目標に接近させることが可能な飛翔体、飛翔体の飛翔方法及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するため、本発明の請求項1によれば、飛翔体本体を操舵する操舵装置と、目標において反射される電波の反射波を受信する受信部と、この受信部からの検波出力からこの目標を捕捉して追跡し、目標方向への測角信号を計算する目標検出器と、飛翔体の飛翔位置及びこの飛翔体の飛翔速度を計算する慣性装置と、これらの飛翔位置及び飛翔速度と予め記憶した前記目標の初期位置及びこの目標の初期速度とに基づき、前記目標の位置及びこの目標の速度を計算するとともにこれらの飛翔体及び目標の会合点の方向に向かうこの飛翔体の飛翔経路を推定演算する方向推定器と、この方向推定器が演算した飛翔経路又は前記目標検出器が計算した測角信号を用いて誘導計算を行って、前記操舵装置に対する操舵信号を出力する誘導処理器と、を備え、前記方向推定器は、前記目標の位置、及び前記電波を送信する電波送信源を含み地表に垂直な平面上へこの目標の速度成分を射影し、この平面上でこの速度成分を用いて前記目標によって散乱された散乱波の散乱強度が強い方向に延びる直線を求め、この直線と前記目標の位置とに基づき前記飛翔体の通過点を算出し、前記誘導処理器はこの通過点についての操舵信号を計算することを特徴とする飛翔体が提供される。
【0007】
また、本発明の請求項4によれば、飛翔体と目標との会合点の方向に向かうこの飛翔体の飛翔経路を推定演算する方向推定器が、慣性装置から得られる前記飛翔体の飛翔位置及びこの飛翔体の飛翔速度と、予め記憶した前記目標の初期位置及びこの目標の初期速度とに基づき、前記目標の位置を計算するステップと、前記方向推定器が、この目標の位置と、この目標において反射される電波を送信する電波送信源の位置とを、これらの目標の位置及び電波送信源の位置を含む平面を基準とする第1の2次元座標系に座標変換して、この第1の2次元座標系における前記目標の速度の射影成分と、前記目標の位置と、前記電波送信源の位置とに基づき、電波の散乱方向のうちの電波の散乱強度が強い方向に沿って延びる直線を前記平面上で求めるステップと、前記方向推定器が、前記目標の位置と前記慣性装置から得られる前記飛翔体の飛翔位置とを、これらの目標の位置及び飛翔位置を含む平面を基準とする第2の2次元座標系に座標変換して、この第2の2次元座標系における前記飛翔体の飛翔速度の射影成分と、前記目標の位置とに基づき、前記飛翔体の通過点を算出するステップと、誘導計算により飛翔体本体を操舵する操舵装置へ操舵信号を出力する誘導処理器が、この通過点についての操舵信号を計算するステップと、を備えたことを特徴とする飛翔体の飛翔方法が提供される。
【0008】
また、本発明の請求項5によれば、飛翔体と目標との会合点の方向に向かうこの飛翔体の飛翔経路を推定演算する方向推定器が、慣性装置から得られる前記飛翔体の飛翔位置及びこの飛翔体の飛翔速度と、予め記憶した前記目標の初期位置及びこの目標の初期速度とに基づき、前記目標の位置を計算するステップと、前記方向推定器が、この目標の位置と、この目標において反射される電波を送信する電波送信源の位置とを、これらの目標の位置及び電波送信源の位置を含む平面を基準とする第1の2次元座標系に座標変換して、この第1の2次元座標系における前記目標の速度の射影成分と、前記目標の位置と、前記電波送信源の位置とに基づき、電波の散乱方向のうちの電波の散乱強度が強い方向に沿って延びる直線を前記平面上で求めるステップと、前記方向推定器が、前記目標の位置と前記慣性装置から得られる前記飛翔体の飛翔位置とを、これらの目標の位置及び飛翔位置を含む平面を基準とする第2の2次元座標系に座標変換して、この第2の2次元座標系における前記飛翔体の飛翔速度の射影成分と、前記目標の位置とに基づき、前記飛翔体の通過点を算出するステップと、誘導計算により飛翔体本体を操舵する操舵装置へ操舵信号を出力する誘導処理器が、この通過点についての操舵信号を計算するステップと、を前記飛翔体に搭載されたコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、目標に対して飛翔体をこの目標における電波の散乱強度が強い方向から接近させることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係る飛翔体、飛翔体の飛翔方法及びコンピュータプログラムについて、図1乃至図5(2)を参照しながら説明する。尚、各図において同一箇所については同一の符号を付すとともに、重複した説明は省略する。
【0011】
本実施形態に係る飛翔体は飛翔前あるいは飛翔中に、発射装置から他の飛翔体の移動目標の位置及び速度に関する情報を有線又は無線によって取得するとともに慣性装置から飛翔体自身の位置及び速度に関する情報を取得し、これらの情報をもとに飛翔体自身の誘導演算を行う。本実施形態に係る飛翔体の飛翔方法はこの飛翔体の現在位置から目標に到達するまでの飛行経路を計算する方法である。本実施形態に係るコンピュータプログラムはこの飛翔体の飛翔方向が目標点方向となるように飛翔体自身を誘導制御するためのプログラムでありこの飛翔体に設けられたプロセッサによって実行される。飛翔体は、レーダ反射波の受信強度を信号処理によって求め、この受信強度に基づいて目標の方向を探知してこの目標を飛翔追跡するようにしており、地上に設けられた電波送信源がレーダ波を送信すると、この飛翔体は目標にて反射されたレーダ反射波を受信検波して目標を検出することにより、操舵装置を介して操舵翼を制御して、検出した目標点に向かって飛翔するようになっている。
【0012】
(1)装置構成
図1は本実施形態に係る飛翔体を含むレーダ装置の構成図である。このレーダ装置はバイスタティック型のレーダ装置であり、車両などに設けられて目標に向けてレーダ波を照射する電波送信源1と、目標機2の方向や距離を検出して目標機2に向かって飛翔(追跡)する飛翔体3とを有する。飛翔体3にはこの飛翔体3の飛行経路を計算する手順が記述されたプログラムが実装されており、このプログラムを飛翔体3に設けられたプロセッサが実行することによって、飛翔体3の現在地点から、この飛翔体3と目標機2との会合点までに至る経路を飛翔体3がプログラム飛翔できるようにされている。
【0013】
飛翔体3は、目標機2の初期位置や初期速度、及び電波送信源1が放射する電波の送信諸元を出力する飛翔体制御装置4と、ケーブルあるいはデータリンクを介して接続されている。電波の送信諸元とは、送信波の周波数、レーダパルスの送信繰り返し周期、信号レベルなどの情報を指す。飛翔体制御装置4は、飛翔体3へ目標の初期データを与えるものであり、地上に展開配置された装置あるいは飛行する航空機等に搭載されている。この装置とは車両などに積載された発射装置である。飛翔体制御装置4は、飛翔体3の発射前または発射後に、有線または無線により、目標機2の初期諸元(位置、速度、加速度)、電波送信源1の位置、及び電波送信諸元を飛翔体3のデータ受信装置へ伝送するようにしている。
【0014】
飛翔体3は、電波送信源1が照射して目標機2で反射された電波を受信するアンテナ5と、目標機2の方向にアンテナビームのボアサイト方向を向ける制御を行うアンテナ制御装置6と、飛翔体制御装置4からの電波送信諸元を用いてアンテナ5が受信した信号について周波数変換を行う送受信装置7とを備えている。アンテナ5は複数の素子からなり、アンテナ制御装置6が各素子からの受信信号の位相を制御してファンビームの向きを変えることによって、受信信号強度が最大である方向を探知する。送受信装置7は受信部として機能する。
【0015】
更に飛翔体3は、送受信装置7によって周波数変換された受信信号を処理し、目標検出判定を実施する検出処理器(目標検出器)8と、目標機2の初期位置及び目標機2の初期速度から将来の複数の時刻におけるこの目標機2の位置を推定する演算を行う方向推定器9と、飛翔体制御装置4から伝送入力された目標機2の初期諸元及び電波送信源1の位置をこの方向推定器9に出力するとともに電波送信諸元等を送受信装置7へ出力するデータ受信装置10と、検出処理器8が推定したアンテナ5へ入射した電波の入射角の情報又は方向推定器9から出力される通過点情報に基づいて飛翔体3の操舵信号を生成する誘導処理器11と、図示しない操舵翼を制御する操舵装置12と、飛翔体3の現在位置及び飛翔体3の現在速度を算出する慣性装置13とを備えている。
【0016】
検出処理器8は受信信号強度と予め記憶した閾値とを比較して目標検出を行い、目標を検出したときは目標方向の測角信号を誘導処理器11へ出力するものである。方向推定器9は、データ受信装置10からの電波送信源位置、目標機2の初期位置、初期速度及び初期加速度といった初期諸元から、電波散乱の強い方向を求める計算を行い、さらに慣性装置13から入力される飛翔体3の位置及び飛翔体3の速度から、目標機2に接近するための将来時刻における各通過点を算出する。データ受信装置10は、飛翔体制御装置4から、初期諸元、電波送信源位置及び電波送信諸元を受信する。誘導処理器11は、検出処理器8が目標を検出する前には、方向推定器9からの通過点情報に沿って飛翔体3が飛翔するよう操舵信号を算出し、また、検出処理器8が目標を検出した後は、検出処理器8からの目標への測角信号から操舵信号を算出する。誘導処理器11は算出した操舵信号を操舵装置12へ出力する。操舵装置12はこの操舵信号をもとに飛翔体3の飛行を制御する操舵を行う。慣性装置13は加速度センサやジャイロを有し、飛翔体3の加速度や角速度から飛翔体3の現在位置を積分演算により求める。
【0017】
また、方向推定器9の演算機能は、DSPやCPUなどのプロセッサと、このプロセッサが行う計算処理の手順が記述されたプログラムを保持するROMとにより実現されている。プロセッサによってプログラムが実行されることにより、飛翔体3は目標機2を追跡飛翔するプログラム飛翔を行えるようになっている。以下、このプロセッサに実行させる処理について詳述する。
【0018】
(2)機能
図2に、目標機2によって散乱される散乱波の電界強度が強くなる方向を符号14で示す。同図には、電波送信源1と、目標機2とを含む平面におけるこれらの位置関係が示されている。電波送信源1から照射された電波は目標機2により散乱される。散乱波の強度分布は、空間内で特定方向に強い散乱強度を持つという分布形状を有する。電波送信源1から照射された電波は、目標機2の機軸を中心とする全周囲方向のうち、目標機2と電波送信源1とを結ぶ線上目標機2から電波送信源1を見た方位角方向に対し180度の角度をなす方位角方向に反射される。この方向についての散乱波の強度は強い。高低角方向については、目標機2の速度ベクトル方向を基準にすると、この電波は、目標機2を含みこの速度ベクトル方向と直交する方向に関して、この目標機2から電波送信源1を見た方向と対称な方向に反射される。この方向についての散乱波の強度は強い。
【0019】
図3は方向推定器9が行うプログラム飛翔を説明するための図である。プログラム飛翔の機能は、飛翔体3が図2の散乱波の強度が強い方向14から目標機2に向かって接近できるよう、方向推定器9に通過点を算出させて、この通過点に沿って飛翔体3を飛翔させるものである。同図には、電波送信源1、目標機2及び飛翔体3を水平方向から見た場合の目標機2の飛来位置15、16、17と飛翔体3の3つの通過点18、19、20とが示されている。方向推定器9が以下に詳述する演算によってこれらの通過点18、19、20の座標を求めてこれらを誘導処理器11に出力し、誘導処理器11が操舵装置12を介して操舵翼を制御することによって、飛翔体3が会合点21に向けて飛翔制御されるようになっている。
【0020】
方向推定器9は、飛翔体3の飛翔方向と通過点の座標とを求める処理を時々刻々繰り返すようにしている。誘導処理器11は操舵装置12に対し、所定時間間隔のサイクルで制御用信号を出力している。方向推定器9がこのサイクルを飛翔制御を行うタイミングとしており、このタイミングごとに複数の通過点を計算する処理を行うようにしている。方向推定器9はこれらの通過点を時々刻々と更新していき、これらの通過点の座標値を誘導処理器11にセットする。また、検出処理器8からの測角信号と、方向推定器9からの座標値とによって、誘導処理器11は、散乱波の強度の強い方向14から飛翔体3を目標機2に接近させるようにして誘導処理を行うようにしている。これにより、通常よりも遠方から目標機2の検出及び追跡が可能になっている。
【0021】
このような構成の本実施形態に係る飛翔体3の飛翔方法について説明する。図4は方向推定器9における通過点を算出する処理を説明するためのフローチャートである。ステップS1において、データ受信装置10は、飛翔体制御装置4から入力された電波送信源1の位置と、目標機2の位置、速度及び加速度などの初期諸元とを読み込む。ステップS2において、方向推定器9は、目標機2の初期諸元(位置、速度、加速度)を使用して、現在の目標機2の位置及び現在の目標機2の速度を算出する。方向推定器9はこれらを3次元座標系で定義されるベクトルとして取り扱う。
【0022】
方向推定器9はこれらの電波送信源位置、目標位置、及び目標速度から、電波反射強度の強くなる方向を、フローチャート前半に当たるステップS3からステップS8までの各処理を行うことによって算出する。これらの処理では、方向推定器9は、目標位置と電波送信源位置とを含む平面を決定する計算を行い、この平面上に、目標機2についての3次元速度ベクトルを射影する演算を行って、目標射影速度を算出する処理を行う。図5(1)を参照して動作の捕捉説明を行う。
【0023】
図5(1)は目標位置と電波送信源位置とを含み地表に垂直な平面A内での算出処理を説明するための図である。P1は電波送信源位置(X0,Y0,Z0)を表す。P2は時刻tにおける目標位置(Xt,Yt,Zt)を表す。Wは目標射影速度(Wxt,Wyt,Wzt)を表す。この目標射影速度Wは目標機2の移動速度ベクトルの平面Aへの射影ベクトルである。目標射影速度Wは、この目標射影速度Wの方向ベクトルに一致する方向、及びこの方向と反対方向に向かって平面A内で延びている。直線Bは平面Aで電波送信源位置P1と目標位置P2とを結ぶ直線である。直線Cは平面A内で目標位置P2を通り目標射影速度Wと直交する直線である。直線Dは電波散乱方向を表す直線であり、目標位置P2を端点としこの電波散乱方向に向かって平面A内で延びている。
【0024】
まず、図4のステップS3において、方向推定器9は、目標位置P2と電波送信源位置P1とを含み地表に垂直な平面Aを求め、直線Bを算出し、ステップS4において、この平面Aへの目標速度の射影成分(目標射影速度W)を算出する。ステップS5において、方向推定器9は、平面A内で、目標射影速度Wと直交する直線Cを算出する。ステップS6において、方向推定器9は、平面A内で、直線Bと直線Cとの成す角度を入射角Ψiとして求める。次に、ステップS7において、方向推定器9は、入射角Ψiから反射角Ψoを求める。方向推定器9は、ΨoとΨiとがほぼ等しいものと予め決めておいてこの演算を行う。最後に、ステップS8において、方向推定器9は、反射角Ψoと直線Cとから、電波反射強度の強くなる方向に沿う直線Dを算出する。
【0025】
処理の一例として、プロセッサは、その内部メモリに、電波送信源位置(X0,Y0,Z0)、目標位置(Xt,Yt,Zt)、目標射影速度(Wxt,Wyt,Wzt)の各値を読み込み、これらの値から平面A上での座標変換を行う。プロセッサは、目標射影速度Wについて、平面A上で幾何学的な直交関係を算出する演算を行って直線Cを求める。プロセッサは、この直線Cの方向と、平面A上で反射角Ψoの角度をなす方向を持つ直線Dを求める。プロセッサは、算出した直線Dを表すデータを内部メモリに書き込む。
【0026】
フローチャート後半の各処理(ステップS10からステップS16)では、方向推定器9は、慣性装置13から入力された飛翔体3の位置、飛翔体3の飛翔速度等と、先に求めた散乱波の強度の強くなる方向とから、飛翔体3の通過点を算出する。動作補足説明を図5(2)に示す。図5(2)は飛翔体3の位置と直線Dとを含む平面E内での算出処理を説明するための図である。P3は時刻tにおける目標位置(Xt,Yt,Zt)を表す。点「a」は飛翔体3の位置(Xm,Ym,Zm)を表す。Vは飛翔体射影速度(Vxm,Vym,Vzm)を表しており、この飛翔体射影速度Vは飛翔体3の飛翔速度ベクトルの平面Eへの射影ベクトルである。直線Dは電波散乱方向を表す直線である。直線Fは飛翔体速度ベクトル方向に延びる直線である。
【0027】
まず、ステップS9において、方向推定器9は慣性装置13から入力された飛翔体3の現在の飛翔位置及び飛翔体3の飛翔速度を読み込む。ステップS10において、方向推定器9は、点「a」と直線Dとを含む平面Eを求め、ステップS11において、この平面Eへの飛翔体速度の射影成分(飛翔体射影速度V)を算出する。ステップS12において、方向推定器9は、平面E内で、飛翔体位置である点「a」を通り、飛翔体射影速度Vに平行な直線Fを算出する。続けて方向推定器9は飛翔体3の飛翔軌跡が円弧状であるとの推定に基づき飛翔体3の推定軌跡を求める演算を行う。ステップS13において、方向推定器9は、直線Dと直線Fとに直交し且つこれらの直線D、Fの双方から等距離にある点「O」を求め、この点「O」を円の中心とする円を設定する。ステップS14において、方向推定器9は、直線Dがこの円と接する点を点「b」として算出しこの点「b」を円弧の終点とする。さらに、ステップS15において、方向推定器9は、飛翔体3の飛行経路を滑らかなものとするために、点「a」と点「b」との間にある円弧上の中間点を選びこの点を点「c」として算出し、ステップS16において、点「b」と目標位置P3とを結ぶ直線D上の中間点を選びこの点を点「d」として算出する。
【0028】
最後に、ステップS17において、方向推定器9は、以上の処理で求めた通過点「a」〜「d」を誘導処理器11へ出力する。誘導処理器11はこれらの通過点「a」〜「d」を飛翔体3が通過するよう操舵信号を求める。各操舵信号に応じた操舵を操舵装置12が行うことで、飛翔体3は、算出して得られた通過点「a」〜「d」に沿った飛翔を行うことができる。すなわち、飛翔体3は電波反射強度が強くなる方向から目標機2への接近が可能となる。
【0029】
本実施形態に係る飛翔体3の飛翔方法を述べる。方向推定器9は、慣性装置13から得られる飛翔体3の飛翔位置及び飛翔速度と、飛翔体制御装置4から入力されて記憶しておいた目標機2の初期位置及び初期速度とに基づき、目標機2の位置を計算する。方向推定器9は、目標機2の位置及び電波送信源1の位置を、平面Aを基準とする2次元座標系に座標変換し、この2次元座標系における目標速度の射影成分と、目標位置と、電波送信源位置とに基づき、電波の散乱強度が強い方向に沿って延びる直線Dを求める。方向推定器9は、目標位置と飛翔体3の飛翔位置とを、平面Eを基準とする2次元座標系に座標変換し、この2次元座標系における飛翔体速度の射影成分と、目標位置とに基づき、飛翔体3の例えば3つの通過点を算出し、誘導処理器11は、各通過点についての操舵信号を計算する。この飛翔方法によれば、電波の散乱強度が強い方向を計算でき、この方向に沿って飛翔体3を目標機2へ接近させることができるようになる。
【0030】
また、本実施形態に係る飛翔体3の飛翔方法に用いられる演算手順が記述されたプログラムをこの飛翔体3のプロセッサが実行することによって、この飛翔方法により得られる効果と同じ効果を得ることができる。
【0031】
以上の機能により、本実施形態に係る飛翔体3、飛翔体3の飛翔方法及びコンピュータプログラムによれば、飛翔体3が散乱波の強度が強い方向から目標機2へ接近することが可能となる。これにより、飛翔体3は遠距離から目標機2の検出を行えるようになる。
【0032】
本実施形態に係る飛翔体3では、方向推定器9は、大地に垂直な軸をもとに、この軸に平行な平面のうちの電波送信源1及び目標機2を含む平面を平面Aとしている。方向推定器9はこの平面Aを基準としこの平面A内に幾何計算のための座標系を設定しており、目標機2の速度ベクトルは平面A上に沿う方向の平行な成分と、この平行な成分と直交する成分とに分けられて処理される。方向推定器9は、平面Aに沿った射影された速度ベクトルの平行成分だけを用いて演算処理を行っているため、この平行成分からずれた方向の成分は考慮されずに飛翔軌跡の推定が行われて、少ない演算量で推定演算を行える。
【0033】
方向推定器9による演算処理では、目標推定位置は初期値を与えられ、この目標推定位置の値は時々刻々更新されており、目標速度は初期速度を与えられたのちこの目標速度の値は時々刻々と更新される。実際の飛翔体3は目標に対して舵を切る必要があるため、方向推定器9は、図3の例のように、飛翔体3の初期位置で引かれた延長線からずれるよう飛翔軌跡が曲がるように、飛行経路を円弧近似する演算を行う。円弧上にとられた複数の中間点18、19、20を飛翔体3が通過するように、方向推定器9は操舵装置12を介して操舵翼を制御する。飛翔体3は通過点20まで操舵制御された後、直線状に飛翔し、会合点21まで終末誘導される。誘導処理器11から操舵装置12へは一定時間毎に制御用信号が出力されているため、推定軌跡と本来飛翔すべき軌跡との間にずれが生じても、この制御信号が出力されるタイミングで推定軌跡を微調整あるいは修正を行える。
【0034】
直線B方向から照射された電波は、大体、目標機2にてΨo方向に反射されるため、電波が散乱される方向が幾何学的に計算されて得られる。幾何学的な計算により飛翔体3の軌跡を求めることができるため、この飛翔体3によれば、電波の有効反射面積が小さい目標に対しても、目標の検出性能を上げることができるようになる。レーダ波について低い反射特性を有する目標に対して遠距離からこの目標を検出でき、目標を追跡できるようになる。
【0035】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。上記の実施形態では、方向推定器9は、入射角Ψoと反射角Ψiとがほぼ等しいものとして扱って演算を行っていたが、Ψo=2ΨiなどΨoがΨiの定数倍で表されるものとして演算を行ってもよい。この場合、平面A内入射角Ψiで入射された電波は、反射角Ψoの方向に反射されるものとして扱われて、方向推定器9は上記実施形態と同様の演算を行う。ΨoがΨiの関数で表されることが、事前に計測されたデータにより得られている場合、方向推定器9は、Ψiの関数として表されるΨoを用いて演算処理を行うようにもできる。
【0036】
上記の実施形態では、方向推定器9は、点「c」として円弧上の中間に位置する1点を算出し、点「d」として直線D上の中間に位置する1点を算出していたが、方向推定器9は、円弧上に複数の中間点を求めるとともに、直線D上に複数の中間点を求めるようにしてもよい。方向推定器9がこれらの円弧及び直線D上で選ぶ中間点の位置は種々変更可能である。
【0037】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態に係る飛翔体を含むレーダ装置の構成図である。
【図2】目標機によって散乱される散乱波の電界強度が強くなる方向を示す図である。
【図3】方向推定器が行うプログラム飛翔を説明するための図である。
【図4】方向推定器における通過点を算出する処理を説明するためのフローチャートである。
【図5(1)】目標位置と電波送信源位置とを含み地表に垂直な平面内での算出処理を説明するための図である。
【図5(2)】飛翔体の位置と直線とを含む平面内での算出処理を説明するための図である。
【符号の説明】
【0039】
1…電波送信源、2…目標機(目標)、3…飛翔体、4…飛翔体制御装置、5…アンテナ、6…アンテナ制御装置、7…送受信装置(受信部)、8…検出処理器(目標検出器)、9…方向推定器、10…データ受信装置、11…誘導処理器、12…操舵装置、13…慣性装置、14…方向、15〜17…飛来位置、18〜20…通過点、21…会合点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔体本体を操舵する操舵装置と、
目標において反射される電波の反射波を受信する受信部と、
この受信部からの検波出力からこの目標を捕捉して追跡し、目標方向への測角信号を計算する目標検出器と、
飛翔体の飛翔位置及びこの飛翔体の飛翔速度を計算する慣性装置と、
これらの飛翔位置及び飛翔速度と予め記憶した前記目標の初期位置及びこの目標の初期速度とに基づき、前記目標の位置及びこの目標の速度を計算するとともにこれらの飛翔体及び目標の会合点の方向に向かうこの飛翔体の飛翔経路を推定演算する方向推定器と、
この方向推定器が演算した飛翔経路又は前記目標検出器が計算した測角信号を用いて誘導計算を行って、前記操舵装置に対する操舵信号を出力する誘導処理器と、を備え、
前記方向推定器は、前記目標の位置、及び前記電波を送信する電波送信源を含み地表に垂直な平面上へこの目標の速度成分を射影し、この平面上でこの速度成分を用いて前記目標によって散乱された散乱波の散乱強度が強い方向に延びる直線を求め、この直線と前記目標の位置とに基づき前記飛翔体の通過点を算出し、前記誘導処理器はこの通過点についての操舵信号を計算することを特徴とする飛翔体。
【請求項2】
前記方向推定器は、前記目標の位置と前記電波送信源の位置とを、前記平面を基準とする2次元座標系に座標変換し、この2次元座標系における前記目標の速度の射影成分と、前記目標の位置と、前記電波送信源の位置とに基づいて、前記直線を求めることを特徴とする請求項1記載の飛翔体。
【請求項3】
前記方向推定器は、前記目標の位置と前記慣性装置にて計算された前記飛翔体の飛翔位置とを、これらの目標の位置及び飛翔位置を含む平面を基準とする2次元座標系に座標変換し、この2次元座標系における前記飛翔体の飛翔速度の射影成分と、前記目標の位置とに基づいて、前記飛翔体の通過点を算出することを特徴とする請求項1記載の飛翔体。
【請求項4】
飛翔体と目標との会合点の方向に向かうこの飛翔体の飛翔経路を推定演算する方向推定器が、慣性装置から得られる前記飛翔体の飛翔位置及びこの飛翔体の飛翔速度と、予め記憶した前記目標の初期位置及びこの目標の初期速度とに基づき、前記目標の位置を計算するステップと、
前記方向推定器が、この目標の位置と、この目標において反射される電波を送信する電波送信源の位置とを、これらの目標の位置及び電波送信源の位置を含む平面を基準とする第1の2次元座標系に座標変換して、この第1の2次元座標系における前記目標の速度の射影成分と、前記目標の位置と、前記電波送信源の位置とに基づき、電波の散乱方向のうちの電波の散乱強度が強い方向に沿って延びる直線を前記平面上で求めるステップと、
前記方向推定器が、前記目標の位置と前記慣性装置から得られる前記飛翔体の飛翔位置とを、これらの目標の位置及び飛翔位置を含む平面を基準とする第2の2次元座標系に座標変換して、この第2の2次元座標系における前記飛翔体の飛翔速度の射影成分と、前記目標の位置とに基づき、前記飛翔体の通過点を算出するステップと、
誘導計算により飛翔体本体を操舵する操舵装置へ操舵信号を出力する誘導処理器が、この通過点についての操舵信号を計算するステップと、を備えたことを特徴とする飛翔体の飛翔方法。
【請求項5】
飛翔体と目標との会合点の方向に向かうこの飛翔体の飛翔経路を推定演算する方向推定器が、慣性装置から得られる前記飛翔体の飛翔位置及びこの飛翔体の飛翔速度と、予め記憶した前記目標の初期位置及びこの目標の初期速度とに基づき、前記目標の位置を計算するステップと、
前記方向推定器が、この目標の位置と、この目標において反射される電波を送信する電波送信源の位置とを、これらの目標の位置及び電波送信源の位置を含む平面を基準とする第1の2次元座標系に座標変換して、この第1の2次元座標系における前記目標の速度の射影成分と、前記目標の位置と、前記電波送信源の位置とに基づき、電波の散乱方向のうちの電波の散乱強度が強い方向に沿って延びる直線を前記平面上で求めるステップと、
前記方向推定器が、前記目標の位置と前記慣性装置から得られる前記飛翔体の飛翔位置とを、これらの目標の位置及び飛翔位置を含む平面を基準とする第2の2次元座標系に座標変換して、この第2の2次元座標系における前記飛翔体の飛翔速度の射影成分と、前記目標の位置とに基づき、前記飛翔体の通過点を算出するステップと、
誘導計算により飛翔体本体を操舵する操舵装置へ操舵信号を出力する誘導処理器が、この通過点についての操舵信号を計算するステップと、
を前記飛翔体に搭載されたコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(1)】
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【図5(2)】
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【公開番号】特開2010−7923(P2010−7923A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165961(P2008−165961)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】