説明

食品用の発熱体、食品用の包装体、包装体入り食品

【課題】発熱体上の食材を加熱調理しながら、発熱体を変形させて容器を形成する技術を提供する。
【解決手段】
マイクロ波の吸収により発熱する食品用の発熱体であって、シート状の基材と、基材上に設けられた発熱層と、発熱層の上に設けられた保護層と、を備え、前記保護層は、前記発熱層の発熱温度で収縮する樹脂フィルムからなり、前記基材には、複数のスリットが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を吸収して発熱する食品用(加熱調理用)の発熱体に関する。また、本発明は、食材を収納する食品用の包装体に関する。また、本発明は、電子レンジを用いて簡単に調理することが可能な、包装体入り食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、調理時間を短縮することや後片付けの手間を省くために、電子レンジを用いた調理方法が注目されている。
近年では、電子レンジのマイクロ波を照射することで発熱する発熱体を用いて、食品にクリスピー性を付与したり、食品の表面に焦げ目を付与したりするような調理方法が提案され、このような調理方法を補助する物も提案されている(特許文献1、2、3)。
【0003】
特許文献1には、電子レンジ発熱体を紙容器に装着した電子レンジ発熱体付き紙容器が開示されている。
【0004】
特許文献2には、金属を蒸着してなりマイクロ波吸収により発熱する金属層と、この金属層を覆う耐熱性プラスチックフィルムとからなる発熱体を、紙基材に設けた、前記発熱体と基材が一体となったシートであって、金属層がパターン状に形成されていることを特徴とする電子レンジ調理用シートが開示されている。
【0005】
特許文献3には、電子レンジを用いて魚などを調理する加熱補助部材が開示されており、これは、電磁波を照射することにより発熱する第1発熱体及び第2発熱体と、前記第1発熱体を支持する第1支持部と、前記第2発熱体を支持する第2支持部とを備え、また、前記第1支持部と前記第2支持部とは、第1発熱体上に載置された魚などを第2発熱体が接触するように屈曲可能に連結している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−289692号公報
【特許文献2】特開2011−89719号公報
【特許文献3】特開2011−11044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2、3に記載されるような物を用いた電子レンジでの調理では、確かに食品にクリスピー感を付与したり、食品の表面に焦げ目を付与したりすることが簡便に行えるようになった。
しかしながら、これらの技術では、例えば、生鮮食品に対し十分に火を通そうとして調理時間を長く設定すると、ぱさぱさした食感になってしまい美味しくないという問題があった。このような理由から、上記の技術は、半加工食品、加工食品の仕上げには十分であるものの、より鮮度の高い食材の調理には十分とはいえないものであった。
また、これらの技術では、食材を発熱体の上に載置する作業が必要となり、手指や調理器具に食中毒菌が付着したり、臭いが付着したりなど、衛生上の問題があった。
【0008】
他方で、近年、仕事を持つ忙しい女性が増えたことや、子供だけで食事をせざるを得ないことが増えたこともあり、調理時間を短縮するだけでなく、後片付けや掃除もなるべく簡単に行いたいという要望は強い。
しかしながら、加工食品の製造技術が発達した現在でも、できるだけ新鮮な食材を、食する直前に簡単に調理したいという要求は強く、このような場面において電子レンジを用いることについて、大きな期待があった。
【0009】
そこで、本出願の発明者は、生鮮食品をはじめとするあらゆる食材について、焼き調理と、水分を含ませながら加熱する蒸し調理とを、両立できる技術を開発し、既に提案した。この技術では、食材について個人での持ち運びや冷蔵庫での保管においても扱いやすい商品を提供できるという効果も得られている。
【0010】
本出願の発明者は、これらの技術について、さらに鋭意研究した結果、次のような課題に対しても十分に配慮すべきであることが分かった。
即ち、包装する食材が、ソースやスープを絡ませた食材や、加熱によって油や汁を生ずる食材の場合、包装を開封する際にこれらのソース等(以下、液体類という場合がある。)が流れ出やすく、汚れの原因となったり、火傷の原因となったりする問題がある。また、従来の調理用シート(発熱シート)を用いて電子レンジ調理した食品を食する際には、例えば、液体類がこぼれることを防ぐために、皿や容器に調理品を移し替える必要がある。
前記のような問題を解決しようとするために、調理用シートでなく深さを有する容器を用いることも考えられる。しかしながら、このような深さを有する容器はかさばるため、流通や保管には不適であった。
このような背景において、全く新規な調理用シート(発熱シート)の開発が求められていた。
【0011】
本発明は、発熱体上の食材を加熱調理しながら、発熱体を変形させて容器を形成する技術を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための本発明は、マイクロ波の吸収により発熱する発熱体であって、シート状の基材と、基材上に設けられた発熱層と、発熱層の上に設けられた保護層と、を備え、前記保護層は、前記発熱層の発熱温度で収縮する樹脂フィルムからなり、前記基材には、複数のスリットが形成されている、ことを特徴とする。
本発明において「スリット」は、スロットを含む概念である。
このような構成の発熱体は、電子レンジで食材(特に、ソースやスープと絡ませた食材や、加熱により油や汁を生じる食材)を調理する際に用いる発熱体として極めて好適である。例えば、発熱体の保護層面に食材を載せて電子レンジで調理(マイクロ波を照射)することにより、食材の調理を行いながら、基材のスリットに対応する部分の保護層の収縮を起点に発熱体を変形させて容器を形成し、調理が終了する際には、調理品が容器内に保持された状態となる。これにより、スープやソースを用いた料理やジューシーさが売りの料理を、電子レンジを用いて簡便に調理することが可能となる。
また、この発熱体は、上記のような食材の調理に限定せずにあらゆる食材の調理に利用することができ、調理後には、そのまま食器として用いることができるため、調理から後片付けまでの一層の便利さを実現するものである。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記複数のスリットは、互いに異なる方向に延びていることを特徴とする。
このような形態とすることにより、発熱体の複数方向に変形の起点を設けることができ、食材を保持するのに適した立体形状を効率よく形成することが可能となる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記複数のスリットは、放射状に形成されていることを特徴とする。
このような形態とすることにより、発熱体に放射状に変形の起点を設けることができ、ボウル状の容器を形成することが可能となる。
【0015】
本発明の他の形態では、前記複数のスリットは、互いに間隔をおいて並行に延びていることを特徴とする。
このような形態とすることにより、発熱体の一方向に複数の変形の起点を設けることができ、舟形乃至は半筒状の容器を形成することが可能となる。
【0016】
前記課題を解決する本発明は、前記の発熱体と、食材を収納するための包装体と、を備え、前記発熱体は、前記包装体の内側に配置されることを特徴とする。
このような包装体は、電子レンジで食材を調理する際に用いる包装体として極めて好適である。すなわち、このような包装体に食材を収納して電子レンジで加熱することにより、食材を調理しながら、並行して容器を形成することができる。その結果として容器に収納された状態の調理品を得ることができる。
また、このような包装体を用いることにより、焼き調理と蒸し調理を同時に行うことができる。すなわち、包装体に収納される食材の表面には、発熱体の発熱により部分的な焦げ目或いはクリスピー性を付与することができ、加えて食材の内部は、水分を含ませながらふっくらと仕上げることができる。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記包装体は液密性を備えることを特徴とする。
このような包装体は、スープやソースを用いた料理やジューシーな料理を収納するのに好適である。
【0018】
前記課題を解決する本発明は、食材と、食材を収納する包装体と、前記の発熱体と、を備え、前記発熱体は、保護層側において前記食材と接触するように前記包装体の内側に配置されていることを特徴とする、包装体入り食品である。
このような包装体入り食品を電子レンジで加熱することにより、内部の食材が調理されるのと並行して、発熱体が変形し容器が形成される。その結果、形成された容器に調理品が保持された状態となる。
また、包装体内部の食材に対し、焼き調理と蒸し調理を同時に行うことができる。すなわち、包装体内の食材の表面には部分的に焦げ目を付けたり、或いはクリスピー性を付与することができ、加えて食材の内部をふっくらと仕上げることができる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記包装体は、気密性を備え、大気圧での最大体積より小さい体積となるように脱気されていることを特徴とする。
このような構成とすることにより、液体類を生じ得る食材を収納した場合でも、液密性が保持された状態で、冷凍食品やチルド食品等として、流通させ、保管することが可能である。そのため、消費者は、持ち運び時、保管時に食材から臭いや汁が漏れ出すことを気にする必要がない。また、包装体入り食品を購入した消費者は、これをそのまま電子レンジ調理に供することができる。したがって、加熱調理に先立ち、食材に直接触れる必要がないため、衛生的に簡便に食材を加熱調理することが可能となる。
また、このような構成とすることにより、加熱により液密性包装体内に充満した蒸気の圧力により液密性包装体が膨張したときでも、一定の膨張率においては、液密性包装体の開封を抑制することができる。これにより、容器が形成される前に液密性包装体が開封することによって、液体類が流出することを防ぐことができる。また、調理初期段階での臭いの発生を極力防ぐことができる。
【0020】
本発明は、前記の包装体入り食品を、電子レンジで加熱することを特徴とする、食材の調理方法である。
このような調理方法によれば、手指を汚すことなく簡便に食品の加熱調理ができ、同時に該食品を保持する容器も形成することができる。
【0021】
本発明は、前記の発熱体を用いた食材の調理方法であって、マイクロ波の照射により、前記発熱体上の食材を加熱する工程と、前記発熱体の発熱により前記保護層を収縮させて容器を形成する工程と、を並行して行うことを特徴とする。
このような調理方法によれば、調理をしながら食品を保持する容器を形成することができる。特に液体類を生じ得る食材等を調理する際には、これらの液体類を容器に保持することができ、調理汚れの問題や火傷の問題を解決することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の発熱体は、電子レンジのマイクロ波の照射によって発熱体を発熱させることにより、スリットに対応する部分の保護層を収縮させ、スリットを起点に発熱体を変形させて容器を形成するものである。そのため、この発熱体に食材を載置して電子レンジ調理にかけることにより、容器内に保持された状態で調理品を得ることができる。本発明の発熱体は、電子レンジで食材(特にソースやスープと絡ませた食材や、加熱によりスープや汁を生じる食材)を調理する際に用いる発熱体として極めて好適である。また、この発熱体は、調理後には、そのまま食器として用いることができるため、調理から後片付けまでの一層の簡便さを実現するものである。
また、本発明の発熱体は、調理時に初めて容器を形成しようとするものであり、流通や保管の際には、カサを減らすことができ、コストの低減にも寄与する。
【0023】
本発明の包装体は、電子レンジで食材を調理する際に用いる包装体として極めて好適である。すなわち、このような包装体に食材を収納して電子レンジで加熱することにより、食材を調理するのと並行して発熱体から容器を形成することが可能となる。
もちろん、本発明の包装体は、食材を流通させ、保管するための包装体として十分な機能を有するのみならず、発熱体の特性を生かした焼き調理と、包装体の蒸気保持性を生かした蒸し調理を簡便に同時に行うための包装体としても有用である。
【0024】
本発明の包装体入り食品を、包装体のまま電子レンジで加熱することにより、内部の食材が調理されるのと並行して、発熱体が変形し容器が形成される。これにより、調理が終了した時点で、容器に調理された食品が保持された状態となる。
また、発熱体の特性を生かして包装体内の食材の表面には焦げ目或いはクリスピー性を付与することができ、加えて包装体の蒸気保持性を生かして、食材の内部をふっくらと仕上げることができる。
また、本発明の包装体入り食品は、冷凍食品、チルド食品として、流通させることが可能であり、消費者は購入した包装体入り食品をそのまま電子レンジ調理に供し、しかも所望により形成された容器を食器として用いることができるため、衛生的に簡便に食材を調理し、食事を提供することが可能となる。
【0025】
さらに、本発明の調理方法を用いることにより、食材が調理されるのと並行して、発熱体から容器を形成することができる。これにより、調理が終了した時点で、容器に調理された食品が保持された状態となる。また、本発明の調理方法を用いることにより、焼き調理と蒸し調理を同時に簡便に行うことができ、食材の表面には焦げ目或いはクリスピー性を付与することができ、加えて食材の内部をふっくらと仕上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態1に係る食品用の発熱体を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る食品用の発熱体を示す底面図である。
【図3】図1のA−A線に沿った拡大断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る発熱体を用いた食品用包装体の斜視図である。
【図5】本発明の実施形態1に係る発熱体を用いた包装体入り食品の加熱前の状態を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態1に係る発熱体を用いた包装体入り食品の加熱後の状態を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態1に係る発熱体について電子レンジで加熱する前(a)及び後(b)の状態を示す平面図である。
【図8】本発明の実施形態2に係る発熱体について電子レンジで加熱する前(a)及び後(b)の状態を示す平面図、加熱した後の状態を示す側面図(c)である。
【図9】本発明の実施形態3に係る発熱体について電子レンジで加熱する前(a)及び後(b)の状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図1〜図9を参照して説明する。
<実施形態1>
本発明の実施形態1に係る食品用の発熱体4は、図1〜3に示すように、シート状の基材41と、基材41上に設けられた発熱層42と、発熱層42の上に設けられた保護層43とを備える。
この食品用の発熱体4は、それ自体単独で用いることができるが、好ましい形態としては、図4に示すように、発熱層42を有する食品用の包装体1を構成可能なように、開口3aを有する袋状の液密性包装体3と共に用いられる。なお、包装体は必ずしも液密性でなくてもよい。また、さらに包装体は気密性であってもよい。そして、図5に示すようにこの食品用の包装体1内に食材2を収納して液密に密閉することで、包装体入り食品10が得られる。次いで、これらの詳細について説明する。
【0028】
図5は、包装体入り食品10の加熱前の断面図であり、図6は加熱中又は加熱直後の状態を示している。
包装体入り食品10は、食材2と、液密性包装体3と、食材2が載せられた発熱体4とを有している。
食材2としては、魚類、肉類、野菜類、穀類、或いはその加工品等、加熱調理され得るあらゆる食材が挙げられる。また、食材2としては、ソースやスープと組み合わせたものや、加熱によって油分や汁が出てくるようなものでもよい。特に、チルド条件又は常温においてはゲル状であるソースやスープと組み合わせたもの等も好ましく挙げられる。また、食材2としては、焼き調理と蒸し調理を同時に行う調理方法で食されるものであることが特に好ましい。このような食材としては、魚、肉、野菜等の生鮮食品、焼きおにぎり、漬け魚、漬け肉、干物等の半加工食品が挙げられる。
【0029】
液密性包装体3は、食材2が収納された状態で、外気又は液体のうちの少なくとも液体を遮断することができるものであることが好ましい。また、電子レンジでの加熱において溶融及び発火しないものであればよい。具体的には、発熱体4の発熱温度において、溶融及び発火しないものであることがよい。例えば、100℃、好ましくは200℃、さらに好ましくは300℃で溶融及び発火しないものが挙げられる。
本発明において用いる液密性包装体を構成する材料として、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の、通常電子レンジ加熱用の包装体に用いられるプラスチックを用いることができる。本実施形態においては、液密性包装体3は、厚めのポリプロピレンフィルムで構成されている。
【0030】
本実施形態においては、発熱体4の基材41により、液密性包装体3に伝わる熱量を制御することができるので、通常の電子レンジ加熱用の包装体に用いられている材料を特に制限なく用いることが可能である。
【0031】
液密性包装体3は、気密性を有する袋状であり、図5に示すように大気圧での最大体積より小さい体積となるように脱気されている。すなわち、食材2を収納して液密性包装体3を密閉した状態の体積が、食材2を収納しない状態で空気を入れた状態の液密性包装体3の体積より小さくなるように、内部の空気を逃がしてから密閉状態とされたものである。
このように密閉状態としておくことで、加熱により液密性包装体内3に充満した蒸気の圧力により液密性包装体3が膨張したときでも、一定の膨張率においては、液密性包装体3の開封を抑制することができ、発熱体から容器が形成される前に液密性包装体3が開封することにより、液体類が流出することを防ぐことができる。また、調理初期段階での臭いの発生を極力防ぐことができる。
また、液密性包装体3の開封を一定時間抑制することで、蒸し調理を十分に行うことができる。
【0032】
このように脱気した場合、全体の容積を小さくでき、酸化反応を抑制できる利点等も得られる。しかし、食材2の種類によっては、脱気しないほうが良い場合も想定されるので、必ずしも脱気する必要はない。
【0033】
液密性包装体3は、食材2を収納した状態ではその食材2が実質的に外気に触れないように、かつ、食材2から出る液体が外部に漏れ出ないように、本実施形態では気密及び液密に密閉されている。この密閉性は、包装体入り食品10を電子レンジで加熱した場合に、所定時間保持されれば良い。すなわち、必要な加熱が終了する間、密閉性が保持されていてもよいし、所定時間が経過した時点で密閉性が解除されてもよい。これらの構成は、発熱体からの容器の形成スピード、収納される食材2の種類等に応じて、適宜設計することができる。なお、気密性、液密性については必ずしも完全である必要はなく、食材によっては、ほぼ気密性、ほぼ液密性が確保されれば良い場合もある。
【0034】
液密性包装体3内には、発熱体4が配置されている。本実施形態では、図4に示すように、シート状の発熱体4が液密性包装体3内に挿入されている。なお、発熱体4は、複数備えられていてもよいし、その形状も制限されない。
発熱体4の発熱層42は、マイクロ波を吸収することで発熱する。発熱温度としては、後述する保護層43の収縮を引き起こすことが可能な温度である。すなわち、保護層43を構成する樹脂フィルムを成形する際の延伸温度以上の温度である。具体的には、例えば120〜300℃程度、好ましくは170〜250℃程度である。
【0035】
発熱体4について、図1〜3を用いてより詳細に説明する。発熱体4は、この実施形態では、シート状の基材41の表面に、金属膜を薄紙に蒸着させて形成した発熱層42を設け、さらにその表面に樹脂フィルムからなる保護層43を設けた構成となっている。なお、製造過程においては、樹脂フィルムからなる保護層43の片面に発熱層42を設け、その発熱層42を、基材41の表面に接着剤(図示しない)を介して貼り付けるといった方法が採用される場合もある。
【0036】
基材41は、シート状の厚紙からなる。基材の材質は後述する保護層43の収縮により変形可能な柔軟性を有するものであればよい。基材41には、4つのスリット、41a、41b、41c、41dが形成されている。各スリットは、基材41の内側(中心)から外側(四隅側)に向けて互いに異なる方向に延びている。図1の例ではそれぞれがほぼ対角線方向に沿って延びている。各スリットの幅は、基材41の外側に延びるにつれて、徐々に大きくなっている。最大幅は、5〜10mm程度に設定される。
このように、スリット幅を調整することにより、発熱体4の周囲を容易に立ち上げることができ、皿状乃至トレイ状の容器を容易に形成することができる。この容器形成のメカニズムについては、後に詳述する。
基材41の下面(発熱層42と反対側)は、コーティング等の表面処理が施され、発熱層42からの熱が液密性包装体3に直接伝導するのを抑制する。
【0037】
発熱層42は、金属膜を薄紙に蒸着させて形成したシートからなる。金属膜は、アルミニウムで形成されている。なお、金属膜を形成する金属としては、ニッケル、金、銀、亜鉛、白金等を用いることもできる。なお、上述した温度を発生する材料であれば、発熱体に使用することができることはいうまでもなく、炭素系導電性粉体、金属系導電性粉体、又はこれらの混合粉体等を用いることができる。
本実施形態では、発熱層42は、食材2の表面を全体的に焼き調理することを目的として基材41の概ね全面に形成されているが、部分的に形成することも可能である。部分的に金属膜を形成する方法については、公知の方法を用いればよい。例えば、印刷技術の応用や半導体製造工程において多用されるエッチング技術の応用などにより、容易に形成することができる。
【0038】
保護層43は、発熱層42の発熱温度で収縮する樹脂フィルムからなる。このような樹脂フィルムを構成する材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく用いられる。樹脂フィルムの成形は、常法により、延伸により行われる。延伸方法としては、一軸延伸、二軸延伸などいずれも採用することができるが、熱による多方向への収縮を可能とする観点から二軸延伸が好ましい。特に、複数のスリットを異なる方向に設ける場合には、二軸延伸フィルムを用い、熱により複数方向へ収縮させることで、きれいな形状の容器を形成することが可能となる。
保護層43は、上述した金属層42を介して基材41に貼り付けられている。本実施形態では、保護層43と金属層42とは、全面において接着している。
なお、金属層42と基材41は部分的に接着していてもよい。具体的には、例えば、基材41のスリット部分の周囲においては、金属層42と基材41とを非接着としてもよい。このような構成とすることにより、保護層43が発熱層42の発熱により収縮した場合に、基材41のスリット周囲の変形の自由度が増し、発熱体をより大きく変形させることが可能になるので、シート状の発熱体から深さのある容器を容易に形成することができる。
【0039】
次に、上記で説明した容器入り食品10を電子レンジ調理に供した場合の、保護層43の収縮、及びそれにより引き起こされる容器形成のメカニズムについて、図7を参照して説明する。
図7(a)は、発熱体4の加熱前の状態を示す。
保護層43において、基材41のスリットに対応する端部分43aは、基材41に固定されておらず、発熱層42からの熱を受けて収縮する。一方、保護層43において端部分43a以外の部分は、基材41に固定されているため、基材41の拘束力を受け、収縮が妨げられる。
すなわち、基材41のスリットに対応する端部分43aのみが十分に収縮し、この収縮により、スリットを狭め消失させる、矢印A方向へ基材41を引き寄せる。この引き寄せ量は、基材41の外側(四隅)に向かうほど大きくなる。これにより、基材41の立ち上がり量が、四隅を含む周囲に向かうほど大きくなる。
その結果、加熱前にはシート状であった発熱体の形状が変形し、図7(b)に示すような皿状乃至トレイ状の容器Cとなる。
【0040】
ここまで、包装体入り食品の一実施形態について説明したが、この包装体入り食品10を構成する液密性包装体3と、これに備えられる発熱体4とは、本発明の食品用の包装体の一実施形態を構成する。
包装体入り食品10は、例えば、開口部3aから包装体3内に発熱体4と食材2とを収納した後、開口部3aを既存の熱融着等の手段で密閉することにより得られる。密閉前に包装体3を脱気する作業も既存の方法を採用することができる。
【0041】
本実施形態の食品用の発熱体においては、その上に食品を載せた状態で電子レンジに入れて加熱調理することができる。即ち食品用の発熱体4を単独でも用いることが可能である。本発明の発熱体4は、容器としての機能をも備えるので、そのまま食卓に上げることもできる。
【0042】
また、この発熱体を用いた本実施形態の包装体入り食品10は、そのまま電子レンジで加熱することができる。この加熱は、液密性包装体3の密閉性を保持しながら行うことが好ましい。密閉性は、必要な加熱が終了する間保持されていてもよいし、所定時間が経過した時点で解除されてもよい。密閉性の保持時間は、容器の形成までの時間を考慮して、適宜設定すればよい。密閉性を終始保持する方法としては、蒸気圧に耐えられる強度の包装体を用いる方法、伸展性のある材料で包装体を形成する方法等が挙げられる。一方、密閉性を所定時間保持する方法としては、液密性包装体に、一定以上の圧力で開放する弁を設けること等が挙げられる。なお、食材によっては、気密性、液密性の両方を少し低下させた包装体を採用することもできる。
【0043】
本実施形態の包装体入り食品10を電子レンジで加熱すると、電子レンジが発生するマイクロ波が、発熱体4の発熱層42に照射され、吸収されることにより、発熱層42が発熱し、基材41のスリットに対応する部分の保護層43が高温で加熱される。これにより、保護層43のスリットに対応する部分が収縮を起こし、発熱体が変形し、容器が形成される。それと同時に、マイクロ波は食材にも照射され、吸収されることにより、食材から水蒸気が発生し、食材は水蒸気で包み込まれた状態で加熱される。また、前記発熱層の作用により、食材に焼き色を付けることも可能となる。
【0044】
このように、本実施形態の包装体入り食品10を、電子レンジを用いて加熱すれば、容器の形成と、食材2に対する調理とを同時に行うことができ、料理を簡便に作り、食卓に出すことができるのである。
【0045】
さらに、本発明は、調理時に同時に容器を形成するという全く新規な着想に基づくものであるので、本発明の発熱体、食品用包装体、及び包装体入り食品は、調理までの保管時、流通時等においては、かさばらないという利点を有するものである。
【0046】
包装体入り食品10は、ソースやスープと組み合わせた食材や、加熱によって油分や肉汁等が出てくるような食材(肉料理、ソテー、焼き魚等)を収納した食品として提供するのに極めて適している。
【0047】
<実施形態2>
図8は、実施形態1において説明した食品用の発熱体とは異なる実施形態を示す底面図である。
なお、これらの図において、図1〜3と基本的に同一の構成要素については同一の符号を付してその説明を簡略化する。
【0048】
この実施形態2に係る食品用の発熱体4は、図8(a)に示すように、基材41のスリット(スロット)が、長辺方向に2本(41e,41e)、短辺方向に2本(41f,41f)、それぞれ並行に形成されている点で、実施形態1と異なる。
本実施形態では、各スリットを形成する位置は、形成すべき容器の形状によっても左右されるが、図示例の場合、容器の底部と、その底部からの立ち上がり部との境界付近から、立ち上がり部に跨る位置に設定される。また、スリット41e、41fの本数は特に制限されず、例えば、それぞれ3本以上設けても良い。
また、スリットの各交点には前記スリット幅より大径の穴が形成されている。このような形状とすることにより、発熱体4のコーナー部分全体を縮め、容易に容器を形成することができる。
このようなスリットを形成した場合には、図8(b)、(c)に示すように、発熱体4はトレイ乃至は舟形の容器を形成する。
スリットの幅は、概ね3〜10mm程度を目安にすることができる。スリット幅を、外側が内側に比して相対的に大きくなるように形成する方法として、本実施形態のように、スリットの交点をスリット幅より大径の穴で形成してもよいし、実施形態1のように、内側から外側に向けて徐々にスリット幅を大きくしてもよい。
【0049】
<実施形態3>
この実施形態3に係る食品用の発熱体4は、図9(a)に示すように、基材41が楕円形であり、基材41のスリット41gが外周に8つ形成されている点で、実施形態1と相異している。
このようなスリットを形成した場合には、図9(b)に示すように、発熱体4は発熱・収縮により深皿状乃至はボウル状の容器を形成する。
スリットの幅は、3〜10mm程度を目安にすることができる。また、この場合も、スリット幅を、内側から外側に行くにつれて徐々に大きくしているので、深皿状の形状を容易に形成することができる。
【0050】
なお、実施形態では、液密性包装体3内の空気を脱気する例を示したが、発熱体4の発熱層42と液密性包装体3とが電子レンジ加熱中に接触するのを防止する目的で、液密性包装体3内に空気を積極的に残しておいても良い。
このようにすれば、液密性包装体3の溶融温度が低い場合でも、電子レンジ加熱中における液密性包装体3の溶融を防ぐことができる。液密性包装体3として、溶融温度が高く、十分な耐熱性を備える素材からなる場合には、こうした対策は不要である。
また、液密性包装体3を、柔軟性が低い、いわゆる若干硬質の樹脂シートで形成することで、発熱層42との接触防止対策としても良い。液密性包装体3の柔軟性を低くすることにより、液密性包装体自体に展張性を持たせ、これにより、食材2に液密性包装体3内の空間保持機能(スペーサ機能)を発揮させる構成とすることができるからである。
また、この発熱層42と液密性包装体3との接触防止対策として、発熱体4を液密性包装体3内に位置決めすると共に、発熱体4の発熱層42が食材2の直下になるように位置決めしておく方法を採用しても良い。
【0051】
上述した実施形態では、発熱体の形状について、長方形及び楕円形にした場合について説明したが、その形態は自由に変更することが可能である。
上述した実施形態では、発熱体を液密性包装体内に配置した場合について説明したが、包装体の形態は自由に変更することが可能である。
また、上記の包装体としては、袋状に限らず、箱状や任意の外形の容器状としてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 食品用の包装体
2 食材
3 液密性包装体
3a 開口部
4 発熱体
41 基材
41a、41b、41c、41d、41e、41f、41g スリット
42 発熱層
43 保護層
C 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波の吸収により発熱する食品用の発熱体であって、
シート状の基材と、
基材上に設けられた発熱層と、
発熱層の上に設けられた保護層と、を備え、
前記保護層は、前記発熱層の発熱温度で収縮する樹脂フィルムからなり、
前記基材には、複数のスリットが形成されている、ことを特徴とする発熱体。
【請求項2】
前記複数のスリットは、互いに異なる方向に延びていることを特徴とする、請求項1に記載の発熱体。
【請求項3】
前記複数のスリットは、放射状に形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の発熱体。
【請求項4】
前記複数のスリットは、互いに間隔をおいて並行に延びていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の発熱体。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の発熱体と、
食材を収納するための包装体と、を備え、
前記発熱体は、前記液密性包装体の内側に配置されることを特徴とする、食品用の包装体。
【請求項6】
食材と、
食材を収納する包装体と、
請求項1〜4の何れかに記載の発熱体と、を備え、
前記発熱体は、保護層側において前記食材と接触するように前記包装体の内側に配置されていることを特徴とする、包装体入り食品。
【請求項7】
前記包装体は、気密性を備え、大気圧での最大体積より小さい体積となるように脱気されていることを特徴とする、請求項6に記載の包装体入り食品。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の包装体入り食品を、電子レンジで加熱することを特徴とする、食材の調理方法。
【請求項9】
請求項1〜4の何れかに記載の発熱体を用いた食材の調理方法であって、
マイクロ波の照射により、前記発熱体上の食材を加熱する工程と、
前記発熱体の発熱により前記保護層を収縮させて容器を形成する工程と、
を並行して行うことを特徴とする、食材の調理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−39320(P2013−39320A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179897(P2011−179897)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(510042482)
【Fターム(参考)】