説明

食鶏を原料とする発酵調味料及びその製造方法

【課題】廃棄物とされている食鶏の内臓の有効利用を図り、従来使われていなかった原料で、今までに無い旨味と高い栄養価を有する発酵調味料を提供する。
【解決手段】食鶏を内臓部分、正肉部分、ガラ部分に解体する工程と、正肉部分又はガラ部分から鶏エキスを抽出する工程と、内臓部分から原料となる卵、卵管、砂肝、肝臓及び心臓を廃棄部位と分別する工程と、分別した原料から油分を除去してペースト状に加工する工程と、ペースト状原料に適量の塩及び麹を加えて混合した後所定温度で一次発酵させる工程と、間歇的に攪拌を加えながら二次発酵させる工程と、二次発酵物に鶏エキスを添加混合して三次発酵させる工程と、得られた三次発酵物を圧搾した搾液から油分及び滓を分離する工程と、加熱殺菌する工程によって製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醤油と同様に種々の用途に使用することができ、しかも醤油よりも旨味と栄養価に優れている食鳥を原料とする発酵調味料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調味料の醤油には大豆を原料とする植物性醤油と、魚を原料として魚醤と呼ばれている動物性醤油が知られている。これらは植物性或いは動物性蛋白質を発酵させて製造するものであり、原料の違いによる旨味を夫々有する調味料として使用されている。
【0003】
ところで、植物性蛋白質が原料である大豆醤油にあっては、その臭みは伝統的製造法の中で解決されており消費者が問題にする程ではないが、製造法が確立されていることから旨味や栄養価を高める技術には限界がある。他方、魚醤は魚のアミン臭や脂肪酸化臭等の魚臭さが強いことから、この魚臭さを除去することが問題となっている(特許文献1)。
また、上記した大豆、魚以外の原料として鶏、豚、馬、牛等の動物を原料に用い、くさい味、いや味のないまろやかな味のしょう油を製造する方法が提案されている。この方法は発酵法によらず脱水、減圧と酸により蛋白質分解してアミノ酸しょう油を製造するものである(特許文献2)。
【特許文献1】特開2004−313138号公報
【特許文献2】特公平3−6781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は従来技術が用いている大豆、魚とは異なる素材を原料に用いることに着目し、かつ廃棄物として処分されていた食鶏の部位の有効利用について鋭意研究した結果なされたもので、食鶏の内臓の有効利用を図ることができ、しかも従来の醤油や魚醤にない旨味とより高い栄養価を有しており、製造期間も約6ヶ月程度と短期間で製造できる食鶏を原料とする発酵調味料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するための請求項1に係る本発明を構成する手段は、食鶏を解体して分別した正肉部分又はガラ部分から鶏エキスを抽出し、分別した内臓部分から卵、卵管、砂肝、肝臓及び心臓を分離して原料とし、該原料から油分を除去してペースト状に加工し、ペースト状原料に適量の塩及び麹を加えて発酵させた後、前記鶏エキスを添加して再度発酵させ、得られた発酵物の搾液から油分及び滓を分離して加熱殺菌したものからなる。
【0006】
また、請求項2に係る本発明を構成する手段は、食鶏を内臓部分、正肉部分、ガラ部分に解体する工程と、該正肉部分又はガラ部分から鶏エキスを抽出する工程と、前記内臓部分から原料となる卵、卵管、砂肝、肝臓及び心臓を廃棄部位と分別する工程と、分別した原料から油分を除去してペースト状に加工する工程と、ペースト状原料に適量の塩及び麹を加えて混合した後所定温度で一次発酵させる工程と、間歇的に攪拌を加えながら二次発酵させる工程と、二次発酵物に前記鶏エキスを添加混合して三次発酵させる工程と、得られた三次発酵物を圧搾した搾液から油分及び滓を分離する工程と、加熱殺菌する工程とからなる。
【発明の効果】
【0007】
本発明は上述の如く構成したから、下記の諸効果を奏する。
(1)従来の大豆や魚を原料とする醤油にない旨味と、より高い栄養価を有する発酵調味料を提供できる。
(2)廃棄物として処分されていた食鶏の内臓部位を有効に利用することができる。
(3)製造工程は、加熱、冷却、攪拌といった食品製造に一般的な処理方法からなっているから、製造工程に技術的に面倒な操作はなく、製造が容易である。
(4)本発明によれば、圧力容器、加圧ポンプ、圧力計といった器具・機器類は不要であるから、製造設備も低コストで設置することができる。
(5)製造期間も約6ヶ月程度と短期間であるから、生産性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。なお、本実施の形態に係る食鶏を原料とする発酵調味料は、鶏を原料として大豆醤油状をなしていることから、以下「鶏醤」と称する。先ず、食鶏の外傷や病気の有無を目視により検査する生体検査を行った後、食鶏をと殺し、羽根を抜いて外傷、皮膚病の有無を目視により脱羽後検査を行う。羽根を除去した食鶏である丸体を内臓部分、肉部分、ガラ部分に解体する(解体工程)。一羽の丸体を解体した場合、これら各部分の重量割合は、概略で内臓部分が30%、胸肉、もも肉及びササミ(正肉と総称されている。)からなる正肉部分が40%、ガラが30%である。
【0009】
解体作業の後、鶏エキスをガラ部分から抽出する。目安としてガラ部分10kgと水50kgを80〜90℃で加熱し、灰汁を除去した後ガラ部分を取り除き、抽出液を濾過することにより、約40kgの鶏エキスを得る(鶏エキス抽出工程)。また、抽出液を更に90℃で5時間程度加熱して濃縮し、濾過して濃縮鶏エキスにしてもよい。なお、鶏エキスは、丸体(胸肉等に解体する前の肉部分)に上記と同様の処理を加えて抽出することもできる。
【0010】
他方、内臓部分は腫瘍、病気に関する検査を行った後、解体して内臓部分から発酵調味料の原料となる卵、卵管、砂肝、肝臓及び心臓(以下、原料と称する。)を、廃棄処分する油玉、すい臓、胆臓、脾臓、大腸及び小腸から分別し(原料分別工程)、原料は容器内で水と共に加熱し、遊離した油を除去した後、一旦冷却しミンサーによってペースト状に加工する(ペースト化工程)。なお、上記した各段階の検査は、「食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律」に基くものである。
【0011】
ペースト状原料に夫々20重量%の塩と麹(米麹或いは麦麹)を加えて攪拌し、約40℃で一定期間約40日間放置して一次醗酵させる(一次発酵工程)。しかる後、一次発酵液は1日1回の攪拌を行いながら常温で約30日間安静にして二次醗酵させる(二次発酵工程)。その後、先に抽出した鶏エキス約25kgを二次発酵液に加えて攪拌し、常温で約30日間安静にして三次醗酵させる。そして、三次発酵液を圧搾濾過して搾液を抽出し(圧搾工程)、残滓は廃棄する。
【0012】
最後に、得られた搾液にオリ下げ剤である凝固剤(商品名コポロックSA)を添加して油分と滓を分離し、加熱殺菌を行うことにより鶏醤が得られる。
【0013】
本実施の形態に係る鶏醤の製造工程は上述のごとくであり、製造した鶏醤は大豆醤油と同様の色をした液体で、大豆醤油と同様の用途に使用することができる。しかも、その旨味に関係するアミノ酸の値は、表1に示すようにチロシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシンについては醤油、魚醤に比較して約2〜8倍あり、アミノ酸の合計は醤油の1.46倍、魚醤の1.5倍と極めて高い数値を示している。このことからも、旨味に優れており、また栄養価が高い調味料であることが分る。
【0014】
【表1】

【0015】
また、本実施の形態の製造工程を従来技術と比較すると、加熱、冷却、攪拌といった食品製造に一般的な処理方法で鶏醤を製造できるから、製造工程に技術的に面倒な操作はなく、容易に製造することができる。また、圧力容器、加圧ポンプ、圧力計といった器具・機器類は不要であるから、製造設備も低コストで設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る発酵調味料の製造工程を示す流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食鶏を解体して分別した正肉部分又はガラ部分から鶏エキスを抽出し、分別した内臓部分から卵、卵管、砂肝、肝臓及び心臓を分離して原料とし、該原料から油分を除去してペースト状に加工し、ペースト状原料に適量の塩及び麹を加えて発酵させた後、前記鶏エキスを添加して再度発酵させ、得られた発酵物の搾液から油分及び滓を分離して加熱殺菌してなる食鶏を原料とする発酵調味料。
【請求項2】
食鶏を内臓部分、正肉部分、ガラ部分に解体する工程と、該正肉部分又はガラ部分から鶏エキスを抽出する工程と、前記内臓部分から原料となる卵、卵管、砂肝、肝臓及び心臓を廃棄部位と分別する工程と、分別した原料から油分を除去してペースト状に加工する工程と、ペースト状原料に適量の塩及び麹を加えて混合した後所定温度で一次発酵させる工程と、間歇的に攪拌を加えながら二次発酵させる工程と、二次発酵物に前記鶏エキスを添加混合して三次発酵させる工程と、得られた三次発酵物を圧搾した搾液から油分及び滓を分離する工程と、加熱殺菌する工程とからなる食鶏を原料とする発酵調味料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−113575(P2008−113575A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297757(P2006−297757)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(506129267)株式会社中央食鶏 (1)
【Fターム(参考)】