説明

駆動ベルトを有する連続可変トランスミッション、連続可変トランスミッションを作動させる方法、及び駆動ベルトを製造する方法

本発明は、2つのプーリが設けられており、各プーリが、幅が可変のほぼV字形の周方向の溝を規定しており、プーリの周囲に巻き掛けられた駆動ベルトが設けられており、駆動ベルトが、ベルトの無端引張り手段に提供された多数の表面硬化された鋼製の横断エレメントを有しており、冷却剤をベルトに再循環形式で供給することによってトランスミッションの作動中にベルトを冷却するための冷却装置が設けられている、連続可変トランスミッションに関する。本発明によれば、トランスミッションは、冷却剤自体の冷却を高めるための構成部材を有していないか、さもなければ特に冷却剤自体の冷却を狙っていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下の請求項1の前提部に記載の連続可変トランスミッションに関し、このトランスミッションは、例えば欧州特許出願公開第1167829号明細書から従来公知である。
【0002】
このようなトランスミッションは、通常、例えば欧州特許出願公開第0626526号明細書から自体公知のいわゆるプッシュベルトの形式の駆動ベルトを有している。公知のプッシュベルトは、鋼製の横断エレメントを有しており、これらの横断エレメントは、主に横断エレメントを拘束及び案内するという機能を有する無端引張り手段の円周に関してベルトに自由に摺動可能に設けられている。通常、無端引張り手段は、互いに重ね合わされた、すなわち半径方向に積層された平坦でかつ薄い金属製のリングの2つの組から成っている。
【0003】
このようなトランスミッションにおいて、トルクは、締付力の影響を受けながら個々のプーリの円錐形の鋼製のディスクの間にベルトを締め付けることにより、一方のプーリから他方のプーリへ伝達され、そのために、プーリの少なくとも一方のディスクは、アクチュエータによって軸方向に可動に設けられている。前記トルクの伝達は、駆動プーリの回転運動をベルトに摩擦によって伝達することによって行われ、ベルトのエレメントには、プーリのディスクと接触するための軸方向接触領域が設けられている。他方のプーリ、つまり被動プーリにおいて、駆動プーリの前記回転運動により生じた力は、逆に前記ベルトから被動プーリのディスクへ同じく摩擦によって伝達される。各プーリにおいてベルトが走行する半径を、各プーリにおける締付力を相対的に変化させることによって変化させることができ、これにより、このような半径の間の数学的比率は、いわゆるトランスミッションの幾何学的な比を表し、これに対して、プーリの回転速度の比は、トランスミッションの実際の速度比を表している。
【0004】
ベルトとプーリとの摩擦接触によって必然的に生ぜしめられる熱を除去するために、トランスミッションの作動中にトランスミッションのベルトとプーリ部材とを冷却することは必須である。これに関して、ベルトの横断エレメントは通常最も決定的な部材である。なぜならば、横断エレメントの鋼は、現代のトランスミッションの設計において通常適用される高レベルの前記締付力に確実に耐えることができるように、加熱(オーステナイト化)、急冷、及びその後の焼きもどしによって硬化させられているからである。ある臨界温度よりも高く加熱されると、焼きもどしプロセスが継続し、横断エレメントは、締付力の影響を受けて急速に摩耗するか、又は破断することさえある。したがって、公知のトランスミッションは、さらに、合成潤滑油等の冷却剤をベルトに供給し、その後、この冷却剤をポンプによって貯蔵容器を介して循環させるための冷却装置を有しており、この公知の冷却装置は、さらに、冷却剤自体を冷却するための部材、つまりオイルクーラ等の熱交換装置を有している。
【0005】
この場合、ベルトに供給される冷却剤の流量及び温度が、除去される熱を大きく決定し、つまり最終的には、トランスミッションの作動中にベルトが達する最大温度を決定する。実際には、冷却剤の供給流量が多くなるほど及び/又は供給温度が低くなるほど、トランスミッションの全体的な効率は低くなる。なぜならば、冷却装置によってより多くの動力が消費されるからである。したがって、例えば、関連のあるトランスミッション条件に従って供給流量を制御することによって及び/又は供給流をまずトランスミッションの最も高温の部分に案内することにより、供給流量を少なくすることによってトランスミッションの効率を高めることは一般的な開発目標であった。これらの公知の努力の幾つかの例は、特開平09−053711号公報、欧州特許出願公開第0688980号明細書、及び米国特許第7125355号明細書によって提供されている。
【0006】
本発明の目的は、冷却装置の作動のために必要とされる動力量を減じることによって、公知のトランスミッション、特にトランスミッションの作動効率を向上させることである。
【0007】
本発明によれば、前記目的は、請求項1の特徴部の特徴を有するトランスミッションによって達成される。本発明は、冷却装置自体を最適化するのではなく、驚くべきことにトランスミッションによって必要とされる冷却努力がまず減じられるようにトランスミッションの設計を変更することにおいて解決手段を提供する。本発明は、横断エレメントのために決定される材料硬さが、実際にはプーリディスクとの摩擦接触による摩耗及び裂断に耐えるための表面硬さとしてだけ必要とされるという考え方から出発している。原理的には、十分な強度を依然として提供しながら、横断エレメントのコア硬さの値を著しく低くすることができる。横断エレメントが、表面硬化処理によって付加的に硬化されている場合、エレメントの急冷硬化されたコア材料は、つまり、場合によってはトランスミッションの作動中にさえも、かなりより低いコア硬さ値に焼戻しされることができる。したがって、このように設計されたトランスミッションは、著しくより高い温度において作動させられることができ、トランスミッションによって必要とされる冷却努力が減じられる。実際には、これは、冷却剤の最小限に必要とされる供給流量が好適には減じられかつ/又は冷却剤の許容される最大供給温度が好適には上昇されることを意味する。
【0008】
すなわち、最も好適な実施態様において、本発明は、冷却装置を有する連続可変トランスミッションに関し、冷却装置は、しかしながら、オイルクーラ等の熱交換装置を具備していない。この手段は冷却努力を著しく軽減し、これにより、特に冷却剤を循環させるために必要とされるポンピング努力が軽減される。これに関して、慣用的には、トランスミッションの作動中の冷却剤の供給温度は約80〜90℃に制限されるが、本発明によるトランスミッションでは、100℃を超える供給温度、潜在的に110℃から125℃までの供給温度、場合によってはさらに僅かに高い温度、例えば130℃までが容易に許容されることができる。単に偶然ではなく、より長時間にわたって、すなわちトランスミッションの全体的な作動又はサービス時間の実質的な部分にわたってである。
【0009】
本発明は、ベルトに冷却剤の流れを継続して供給することによってトランスミッションのベルトを冷却するための冷却装置が設けられた連続可変トランスミッションを作動させる方法にも関する。本発明による方法において、冷却剤の供給流は、冷却剤の温度が作動中に100℃以上に達するように調節される。このように制御されたトランスミッションにおいて、前記供給流は、慣用的に適用される流れに対して実質的に減じられることができかつ/又は慣用的に適用される熱交換装置の冷却能力は、サイズが減じられることができ、又は潜在的にトランスミッションから完全に省略されることもできる。
【0010】
本発明によれば、横断エレメントの付加的な表面硬さは、駆動ベルトの製造において、鋼マトリックスの相転移に依存しない複数の公知の表面硬化処理のうちの1つ、例えば適切な被膜材料、例えば窒化チタンによる被膜形成、ショットピーニング及び/又は窒化(浸炭窒化)を用いることによって実現されてよい。特に、駆動ベルトを製造する方法は、好適には、エレメントをオーステナイト化及び急冷しかつその後エレメントを例えばアンモニアを含む処理雰囲気において同時に焼戻し及び窒化する処理ステップに提供する前記ステップによって、横断エレメントを表面硬化することとコア硬化することとの組合せを含む。択一的に又は付加的に、前記オーステナイト化するステップにおいて、横断エレメントは同時に浸炭されることができる、すなわち、オーステナイト化は浸炭処理雰囲気中で行われる。しかしながら、この後者の浸炭プロセスは、高温で炭素が豊富な環境において横断エレメントをコア硬化するステップの前に、例えばまずエレメントを溶融塩に浸漬することによって行われてもよい。
【0011】
本発明の好適な実施形態において、横断エレメントの最終的なコア硬さは、54〜64HRC(ロックウェル硬さCスケール)、より好適には56〜60HRCの値を有しているのに対し、横断エレメントの表面硬さは60HRCよりも大きく、より好適には64HRCよりも高い。さらに、本発明によれば、プーリディスクも、表面硬化処理によっても付加的に硬化され、好適には、横断エレメントの表面硬さ値と同等の表面硬さ、すなわち、横断エレメントの表面硬さ値から4HRC、より好適には5%未満だけ異なる値を有する表面硬さに達する。個々の表面硬さ値のこのような平均化により、前記摩擦接触を受ける接触面の組み合わされた機械的摩耗は好適には最小限に抑制される。好適には、プーリディスクのコア材料も、表面より柔軟であり、ひいてはより延性である。好適には、プーリディスクには、50〜60HRCの値を有するコア硬さが提供されている。
【0012】
本発明は、特に、例えば国際公開第2006/062400号パンフレットから公知のような、凸状に湾曲したプーリディスクを有するトランスミッションにおいて適用されるのに適している。このようなトランスミッションにおいて、個々の必要なエレメントの表面硬さ及びコア硬さの値の差は、プーリディスクとベルトの横断エレメントとの極めて集中した摩擦接触のために、特に重要である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続可変トランスミッションであって、2つのプーリが設けられており、各プーリが、幅が可変のほぼV字形の周方向溝を規定しており、プーリの周囲に巻き掛けられた駆動ベルトが設けられており、該駆動ベルトが、ベルトの無端引張り手段に設けられた多数の表面硬化された鋼製の横断エレメントを有しており、冷却剤をベルトに再循環形式で供給することによってトランスミッションの作動中にベルトを冷却するための冷却装置が設けられている形式のものにおいて、トランスミッションが、冷却剤自体の冷却を高めるための構成部材を有していないか、さもなければ特に冷却剤自体の冷却を狙っていないことを特徴とする、連続可変トランスミッション。
【請求項2】
横断エレメントに、54〜64HRC、好適には56〜60HRCの値を有するコア硬さと、60HRCよりも高い、好適には64HRCよりも高い値を有する表面硬さとが提供されている、請求項1記載の連続可変トランスミッション。
【請求項3】
プーリディスクに、横断エレメントの表面硬さ値から4HRC未満だけ又は5%未満だけずれた値を有する表面硬さが提供されている、請求項1又は2記載の連続可変トランスミッション。
【請求項4】
プーリディスクが、半径方向外方へ凸状に湾曲されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の連続可変トランスミッション。
【請求項5】
連続可変トランスミッション、特に請求項1記載のトランスミッションを作動させる方法において、前記連続可変トランスミッションに、2つのプーリが設けられており、各プーリが、幅が可変のほぼV字形の周方向の溝を規定しており、プーリの周囲に巻き掛けられた駆動ベルトが設けられており、該駆動ベルトが、ベルトの無端引張り手段に設けられた多数の表面硬化された鋼製の横断エレメントを有しており、ベルトに冷却剤の流れを連続的に供給し、その後にポンプによって冷却剤を再循環させることによってベルトを冷却するための冷却装置が設けられているものにおいて、冷却剤の供給流を、100℃以上の温度に達するように調節することを特徴とする、連続可変トランスミッション、特に請求項1記載のトランスミッションを作動させる方法。
【請求項6】
冷却剤の供給流を、冷却剤の温度が130℃を超えないように調節する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
横断エレメントに、54〜64HRC、好適には56〜60HRCの値を有するコア硬さと、60HRCよりも高い、好適には64HRCよりも高い値を有する表面硬さとを提供する、請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
プーリディスクに、横断エレメントの表面硬さ値から4HRC未満だけ又は5%未満だけずれた値を有する表面硬さを提供し、好適には、50〜60HRCのコア硬さ値を提供する、請求項5から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
プーリディスクを、半径方向外方へ凸状に湾曲させる、請求項5から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
連続可変トランスミッション、特に請求項1記載のトランスミッション及び/又は請求項5又は6記載の方法によって作動させられるトランスミッションにおいて適用するための駆動ベルトを製造する方法であって、該駆動ベルトが、ベルトの無端引張り手段に設けられた多数の鋼製の横断エレメントを有しているものにおいて、横断エレメントを、適切な被膜材料による被膜形成、ショットピーニング、浸炭及び/又は窒化(浸炭窒化)等により表面硬化するステップを有することを特徴とする、連続可変トランスミッション、特に請求項1記載のトランスミッション及び/又は請求項5又は6記載の方法によって作動させられるトランスミッションにおいて適用するための駆動ベルト製造する方法。
【請求項11】
横断エレメントをオーステナイト化及び急冷するステップと、その後に横断エレメントを同時に焼戻し及び窒化するステップとを有する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
浸炭プロセス雰囲気中でオーステナイト化するステップを有する、請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
横断エレメントに、54〜64HRC、好適には56〜60HRCの値を有するコア硬さと、60HRCよりも高い、好適には64HRCよりも高い値を有する表面硬さとを提供する、請求項10から12までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2011−506885(P2011−506885A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538358(P2010−538358)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2007/064037
【国際公開番号】WO2009/076999
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】