説明

駆動力配分装置及びトルクカップリングの制御方法

【課題】確実に駆動力伝達部材の過熱を抑制することができる駆動力配分装置及びトルクカップリングの制御方法を提供する。
【解決手段】エンジン2のトルクを前輪13f及び後輪13rに伝達する駆動伝達系の途中に設けられ、電磁クラッチ16の摩擦係合力に基づいてトルク配分量を変更可能なトルクカップリング8と、走行状態に基づいてトルクカップリング8の作動を制御する4駆ECU21(CPU)とを備えた。4駆ECU21(CPU)は、トランスファ油温を推定し、同トランスファ油温が第1の所定トランスファ油温以上である場合に過熱保護制御を実行するようにした。そして、4駆ECU21(CPU)は、所定車両重量及びエンジン2のドライブライントルクτdに基づいて演算される推定車両加速度と実車両加速度との偏差が第1の所定偏差以上の場合にトランスファ油温を高く推定することで、過熱保護制御へ移行し易くするようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力配分装置及びトルクカップリングの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのトルクを各車輪に伝達する駆動伝達系内に設けられ、クラッチ機構の係合力に基づいて、その伝達可能なトルク容量、即ちトルク伝達容量を変更可能なトルクカップリングを備えた駆動力配分装置がある。このようなトルクカップリングとして、円筒状の第1回転部材と、該第1回転部材内に回転可能に同軸配置された軸状の第2回転部材とを備え、これら第1回転部材と第2回転部材との間に設けられたクラッチ機構により第1回転部材及び第2回転部材をトルク伝達可能に連結するトルクカップリングが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、エンジンのトルクを各車輪に伝達する駆動力伝達部材(トランスファ等)は、例えばトルク伝達の際に生じる伝達ロス分が熱に変換されて発熱する。そのため、例えばトルク伝達容量の大きな状態で継続して走行する等、車両の走行状況によっては過熱状態となる虞があり、ひいては、焼き付きの発生に繋がるという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献2には、トルク伝達に伴う駆動力伝達部材での発熱量及びその雰囲気温度に基づいて該駆動力伝達部材の温度を推定するようにした駆動力配分装置が開示されている。そして、この駆動力配分装置では、推定した温度が所定温度以上の場合には、該推定した温度が所定温度未満の場合よりも、トルク伝達容量の制御目標値が小さくなるように補正することで、各駆動力伝達部材にてトルク伝達に伴う発熱を抑え、過熱状態になることを抑制している。
【特許文献1】特開2005−3167号公報
【特許文献2】特開2002−349604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、各駆動力伝達部材の温度は、トルク伝達に伴う発熱以外に、エンジンからの熱伝達によっても変化する。特にエンジン負荷が高くなる走行時、例えば牽引走行時や最大定員が乗車し最大積載量の荷物を積んだ状態での登坂走行時などには、エンジンから駆動力伝達部材への熱伝達が大きくなる。
【0006】
しかしながら、上記特許文献2の構成では、駆動力伝達部材での発熱量及びその雰囲気温度に基づいて該駆動力伝達部材の温度を推定するため、エンジン負荷が高くなる走行時において、駆動力伝達部材の温度を実際よりも低く推定してしまう虞がある。
【0007】
そして、牽引走行時や最大定員が乗車し最大積載量の荷物を積んだ状態での登坂走行時などには長時間にわたり高負荷状態が継続するので、このような状態を想定していない判定基準では、駆動力伝達部材に熱が蓄積されてもトルク伝達容量の制御目標値を小さくする制御が機能しない虞がある。
【0008】
このため、従来の構成では、必ずしも駆動力伝達部材の過熱を抑制することができているとはいえず、この点においてなお改善の余地があった。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、確実に駆動力伝達部材の過熱を抑制することができる駆動力配分装置及びトルクカップリングの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、駆動源のトルクを各車輪に伝達する駆動伝達系内に設けられクラッチ機構の係合力に基づいてトルク伝達容量を変更可能なトルクカップリングと、前記係合力の調整を通じて前記トルクカップリングの作動を制御する制御手段と、前記駆動伝達系内に設けられた駆動力伝達部材の温度を推定する温度推定手段とを備え、前記制御手段は、前記温度推定手段により推定された前記駆動力伝達部材の推定温度が第1基準温度以上である場合に前記トルク伝達容量を低減する過熱保護制御を実行する駆動力配分装置であって、所定車両重量及び前記駆動源の出力トルクに基づいて演算される推定車両加速度と加速度検出手段により検出される実車両加速度とに基づいて前記駆動源の負荷が高い高負荷状態であるか否かを判定する判定手段を備え、前記制御手段は、前記判定手段により前記駆動源が高負荷状態であると判定された場合には、前記駆動力伝達部材の推定温度が前記第1基準温度よりも低い第2基準温度以上である場合に前記過熱保護制御へ移行することを要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、制御手段は、エンジンが高負荷状態である状態では、駆動力伝達部材の推定温度が第1基準温度よりも低い第2基準温度である場合に過熱保護制御へ移行する。そのため、例えば牽引走行時や最大定員が乗車し最大積載量の荷物を積んだ状態での登坂走行時等、駆動源から駆動力伝達部材への熱伝達が大きくなる場合に、過熱抑制制御が実行され易くなることで、確実に駆動力伝達部材の過熱を抑制することができる。なお、所定車両重量とは、例えば車両における最大定員が乗車し最大積載量の荷物を積んだ状態で測定した自動車全体の総重量(車両総重量(GVW:Gross Vehicle Weight))である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の駆動力配分装置において、前記判定手段は、前記推定車両加速度が所定加速度以上であり、且つ前記推定車両加速度と前記実車両加速度との偏差が所定偏差以上である場合に、前記駆動源が高負荷状態であると判定することを要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、判定手段は、推定車両加速度と実車両加速度との偏差が所定偏差以上であり、且つ推定車両加速度が所定加速度以上である場合に、駆動源が高負荷状態であると判定する。
【0013】
ここで、例えば車両に2名乗車して走行している状態でブレーキ操作をして減速した場合には、駆動源からの出力トルクが「0」となることで推定車両加速度が「0」となるとともに、ブレーキにより減速しているため、実車両加速度は負の値となることがある。このような場合には、推定車両加速度と実車両加速度との偏差が所定偏差以上となるため、同偏差のみによって判断すると、エンジン負荷が低い状態であっても、高負荷状態であると誤判定する虞がある。この点、上記構成によれば、推定車両加速度が所定加速度以上でない場合には、即ち減速している場合には、推定車両加速度と実車両加速度との偏差が所定偏差以上であっても、駆動源が高負荷状態であると判定しないため、駆動源の負荷状態の誤検出を防止できる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、駆動源のトルクを各車輪に伝達する駆動伝達系内に設けられクラッチ機構の係合力に基づいてトルク伝達容量を変更可能なトルクカップリングの制御方法において、前記駆動伝達系内に設けられた駆動力伝達部材の温度推定手段による推定温度が第1基準温度以上である場合に前記トルク伝達容量を低減する過熱保護制御を実行するものであって、所定車両重量及び前記駆動源の出力トルクに基づいて演算される推定車両加速度と加速度検出手段により検出される実車両加速度とに基づいて、前記駆動源が高負荷状態であると判定された場合には、前記駆動力伝達部材の推定温度が前記第1基準温度よりも低い第2基準温度以上である場合に前記過熱保護制御へ移行することを要旨とする。
【0015】
上記構成によれば、制御手段は、エンジンが高負荷状態である状態では、駆動力伝達部材の推定温度が第1基準温度よりも低い第2基準温度以上である場合に過熱保護制御へ移行する。そのため、例えば牽引走行時や最大定員が乗車し最大積載量の荷物を積んだ状態での登坂走行時に、過熱抑制制御が実行され易くなることで、確実に駆動力伝達部材の過熱を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、確実に駆動力伝達部材の過熱を抑制することが可能な駆動力配分装置及びトルクカップリングの制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、車両1は、前輪駆動車をベースとする4輪駆動車である。車両1の前部(図1において左側)には駆動源としてのエンジン2が搭載されるとともに、そのエンジン2にはトランスアクスル3が組み付けられている。トランスアクスル3は、トランスファ4及びトランスミッション(図示略)等を有している。トランスアクスル3には、一対のフロントアクスル5が連結されるとともに、トランスファ4を介してプロペラシャフト6が連結されている。プロペラシャフト6は、トルクカップリング8を介してピニオンシャフト(ドライブピニオンシャフト)9と連結可能とされ、ピニオンシャフト9は、リヤディファレンシャル10を介して一対のリヤアクスル11と連結されている。なお、トルクカップリング8は、リヤディファレンシャル10とともに、車両1のフレーム(図示略)に固定されたディファレンシャルキャリヤ12内に収容されている。
【0018】
つまり、エンジン2のトルクは、トランスアクスル3、フロントアクスル5を介して前輪13fに常時伝達されるようになっている。また、プロペラシャフト6とピニオンシャフト9とがトルクカップリング8にてトルク伝達可能に連結された場合、エンジン2のトルクは、プロペラシャフト6、ピニオンシャフト9、リヤディファレンシャル10及びリヤアクスル11を介して後輪13rに伝達されるようになっている。
【0019】
従って、本実施形態では、前輪13fが主駆動輪として、後輪13rが補助駆動輪として構成されている。また、トランスアクスル3、温度推定される駆動力伝達部材としてのトランスファ4、フロントアクスル5、プロペラシャフト6、トルクカップリング8、ピニオンシャフト9、リヤディファレンシャル10、リヤアクスル11により、エンジン2のトルクを前輪13f及び後輪13rにそれぞれ伝達する駆動伝達系が構成されている。
【0020】
トルクカップリング8は、電磁コイル15に供給される電流量に応じて、プロペラシャフト6側及びピニオンシャフト9側のそれぞれに設けられた各クラッチプレート間の摩擦係合力が変化するクラッチ機構としての電磁クラッチ16を備えている。そして、トルクカップリング8は、電磁クラッチ16の摩擦係合力に基づくトルクを入力側のプロペラシャフト6から出力側のピニオンシャフト9へと伝達する。つまり、トルクカップリング8(電磁クラッチ16)は、後輪13rへ伝達可能なトルク、即ちトルク伝達容量を調整するようになっている。
【0021】
次に、上記のように構成された車両1の電気的構成について説明する。
トルクカップリング8には、制御手段、温度推定手段及び判定手段としての4輪駆動用ECU(4輪駆動用電子制御装置:単に4駆(4WD)ECUという)21が接続されている。図2に示すように、4駆ECU21は、マイクロコンピュータ22と、駆動回路23とを主体として構成されている。
【0022】
マイクロコンピュータ22は、各種演算を行うCPU25、制御プログラムなどが記憶されたROM26、CPU25の作業領域として機能するRAM27及び各種センサや駆動回路23との間で信号の入出力を行う入出力回路(I/O)28を備えている。これらCPU25、ROM26、RAM27及び入出力回路28は、双方向性バスを介して相互にデータの授受が行われている。また、CPU25は、タイマ29を備えている。タイマ29は、CPU25からの命令に基づいて時間を計時するようになっている。
【0023】
4駆ECU21は、上記マイクロコンピュータ22及び駆動回路23の作動により、車両1の走行状態に応じてトルクカップリング8に設けられた電磁クラッチ16の電磁コイル15に駆動電流を供給し、この電流供給を通じてトルクカップリング8の作動を制御することでトルク伝達容量を変更する。つまり、トルクカップリング8及び4駆ECU21により駆動力配分装置が構成されている。
【0024】
詳述すると、図1及び図2に示すように、CPU25は、入出力回路28を介してアクセル開度センサ31及び車輪速センサ32a〜32dと接続されている。また、CPU25は、入出力回路28を介して外気温センサ33、水温センサ34及びエンジン2の制御を行うエンジン用ECU(エンジン用電子制御装置:単にエンジン(ENG)ECUという)35と接続されている。
【0025】
CPU25には、アクセル開度センサ31からその時々のアクセル開度Saの情報が入力され、各車輪速センサ32a〜32dからそれぞれその時々の右前車輪速Vfr、左前車輪速Vfl、右後車輪速Vrr及び左後車輪速Vrlの情報が入力される。また、CPU25には、外気温センサ33からその時々の外気温Tambの情報が入力され、水温センサ34からその時々のエンジン水温Tengの情報が入力される。さらに、本実施形態では、CPU25には、エンジンECU35からエンジン2の出力トルクτeにトランスミッションのギア段等を乗じた、トランスミッション以降の駆動伝達系に伝達されるドライブライントルクτdの情報が入力される。
【0026】
そして、CPU25は、各車輪速センサ32a〜32dにより検出された各車輪速Vfr,Vfl,Vrr,Vrlの情報に基づいて車速V及び前輪13fと後輪13rとの間の前後車輪速差ΔWを算出する。本実施形態では、CPU25は、右後車輪速Vrr及び左後車輪速Vrlの平均値(後輪車輪速Vr)を車速Vとし、右前車輪速Vfr及び左前車輪速Vflの平均値(前輪車輪速Vf)と後輪車輪速Vrとの差分を前後車輪速差ΔWとする。そして、CPU25は、これら車速V,前後車輪速差ΔW及びアクセル開度Saに基づいてトルク伝達容量の制御目標値(目標トルクτp)を演算する。
【0027】
具体的には、CPU25は、ROM26に記憶された所定のトルクマップを参照することにより、車速V及びアクセル開度Saに基づいた第1トルクと、車速V及び前後車輪速差ΔWに基づいた第2トルクとを演算する。続いて、CPU25は、これら第1トルクと第2トルクとを足し合わせることで、その時々の車速V及びアクセル開度Sa、並びに前後車輪速差ΔWに応じた目標トルクτpを演算する。なお、トルクマップは、車速Vが低くアクセル開度Saが大きい程、第1トルクが大となるように設定されるとともに、車速Vが低く前後車輪速差ΔWが大きい程、第2トルクが大となるように設定されている。
【0028】
そして、CPU25は、その決定された目標トルクτpに応じた駆動電流を電磁クラッチ16の電磁コイル15に対して供給し、これによりトルクカップリング8の作動、即ち前輪13fと後輪13rとの間の駆動力配分を制御する。なお、この目標トルクτpに応じて駆動電流を供給する制御を通常制御という。
【0029】
次に、トランスファ4の過熱を抑制する過熱抑制制御について説明する。
本実施形態のCPU25は、エンジン2の負荷状態を判定し、エンジン負荷が高いことを示す高負荷フラグFをRAM27の所定の記憶領域にセット又はクリアする。
【0030】
また、CPU25は、トランスファ4でのトルク伝達に伴う発熱量、外気温Tamb及び高負荷フラグFの状態に基づいてトランスファ4の温度(トランスファ油温Tptu)を推定する。そして、CPU25は、推定したトランスファ油温Tptuが第1基準温度としての第1の所定トランスファ油温KTptu1以上である場合には、車両1の走行状態に基づいて演算した目標トルクτpが小さくなるように補正し、補正後の目標トルクτpaに応じた駆動電流を電磁クラッチ16の電磁コイル15に対して供給する過熱抑制制御を実行する。なお、第1の所定トランスファ油温KTptu1とは、トランスファ4が過熱し、焼き付きの発生に繋がる温度よりも、十分に小さい温度であり、予め実験などにより求められてROM26に記憶されている。
【0031】
先ず、エンジン2の負荷状態の判定について詳述する。
本実施形態では、4駆ECU21(CPU25)は、第1の所定サイクル(例えば、40msec)毎にエンジン2の負荷状態判定を実行する。
【0032】
具体的には、CPU25は、車速Vが低中速域(例えば5km/h〜120km/h)にある状態で、エンジンECU35から入力されるドライブライントルクτdの情報に基づいて推定車両加速度Aeを演算する。また、CPU25は、各車輪速センサ32a〜32dにより検出された各車輪速Vfr,Vfl,Vrr,Vrlの情報に基づいて実際の車両1の加速度(実車両加速度Av)を演算(検出)する。従って、本実施形態では、CPU25及び各車輪速センサ32a〜32dにより加速度検出手段が構成される。
【0033】
続いて、CPU25は、高負荷フラグFがRAM27にセットされていない場合には、推定車両加速度Aeが所定加速度としての第1の所定加速度KAe1以上であり、且つ推定車両加速度Aeと実車両加速度Avとの偏差ΔAが所定偏差としての第1の所定偏差KΔA1以上である状態が第1の所定時間Kt1以上継続するか否かを判定する。そして、CPU25は、この条件が成立する場合に、エンジン負荷が高いと判定して高負荷フラグFをRAM27にセットするようになっている。
【0034】
なお、本実施形態では、CPU25は、下記(1)式を演算することにより、推定車両加速度Aeを算出する。
Ae=(τd×Gr×η)/(D×M×R) (1)
ここで、「Gr」は車両1の最終減速比を表し、「η」は駆動伝達系のトルクの伝達効率を表し、「D」は前輪13f及び後輪13rの半径を表し、「M」は所定車両重量を表し、それぞれROM26に記憶されている。なお、本実施形態では、所定車両重量Mは、車両1における最大定員が乗車し最大積載量の荷物を積んだ状態で測定した自動車全体の総重量(車両総重量(GVW:Gross Vehicle Weight))である。また、「R」は、空気抵抗や車輪の転がり抵抗等を含む走行抵抗を表す係数であり、図3に示すように、車速Vが大きくなるほど、大きな値となるようになっている。従って、CPU25は、車速Vの増大に基づいて推定車両加速度Aeを小さく演算するようになっている。
【0035】
一方、CPU25は、高負荷フラグFがRAM27にセットされている場合には、推定車両加速度Aeが第2の所定加速度KAe2以上であり、且つ偏差ΔAが第2の所定偏差KΔA2よりも小さい状態が第2の所定時間Kt2以上継続するか否かを判定する。そして、CPU25は、この条件が成立する場合に、エンジン負荷が高くないと判定して、RAM27にセットした高負荷フラグFをクリアするようになっている。
【0036】
次に、CPU25の通常制御と過熱抑制制御との移行判定について詳述する。
本実施形態では、CPU25は、第2の所定サイクル(例えば、500msec)毎にCPU25の通常制御と過熱抑制制御との移行判定を実行する。
【0037】
先ず、CPU25は、トランスファ油温Tptuを演算する。
具体的には、CPU25は、下記(2)式を演算することにより、トランスファ油温Tptuを演算する。
【0038】
Tptu=(Tptu0+Tamb+α)+Q/K1 (2)
ここで、(2)式における「Tptu0」は、例えば車両1に2名乗車して平坦路を走行する場合において、目標トルクτpが「0」、外気温Tambが基準温度Tamb0(例えば27℃)である状態で安定するトランスファ4の定常温度から前記基準温度Tamb0をオフセット(差分)した値である。
【0039】
また、「K1」は所定の定数であって、予め実験などにより求められており、ROM26に記憶されている。なお、「Q」はトランスファ4でのトルク伝達に伴う発熱量であり、CPU25が下記(3)式を演算することにより、第2の所定サイクル毎に算出される。
【0040】
Q(n)=K2×Σ(τp×Vf−K3×Q(n−1)) (3)
ここで、「K2」は所定の定数であって、予め実験などにより求められており、ROM26に記憶されている。また、「K3」は、車速Vに応じて変更される所定の変数であって、車速Vが大となるほど小さな値となるように設定されており、ROM26に記憶されている。なお、添え字「n」はその各制御周期において算出される発熱量であることを示している。
【0041】
そして、上記(2)式における「α」はエンジン2の負荷状態によって変更される付加温度である。付加温度αは、高負荷フラグFがRAM27にセットされている場合には、推定されるトランスファ油温Tptuを高く推定するような値(本実施形態では、6〜8℃)であり、高負荷フラグFがRAM27にセットされていない場合には、高負荷フラグFがRAM27にセットされている場合よりも小さな値(本実施形態では、0℃)である。従って、CPU25は、エンジン負荷の高い状態では、トランスファ油温Tptuを高く推定することで、過熱抑制制御に移行し易くなっている。
【0042】
そして、CPU25は、通常制御時において、上記のようにして推定されたトランスファ油温Tptuが第1の所定トランスファ油温KTptu1よりも大きいか否かを判定する。CPU25は、トランスファ油温Tptuが第1の所定トランスファ油温KTptu1よりも大きい場合には、過熱抑制制御に移行するようになっている。
【0043】
一方、CPU25は、過熱抑制制御時において、トランスファ油温Tptuが第2の所定トランスファ油温KTptu2以下であるか否かを判定する。CPU25は、トランスファ油温Tptuが第2の所定トランスファ油温KTptu2以下である場合には、通常制御に移行するようになっている。
【0044】
また、CPU25は、過熱抑制制御時において、エンジン水温Tengが所定のエンジン水温KTeng以下であるか否かを判定する。CPU25は、エンジン水温Tengが所定のエンジン水温KTeng以下である場合に、エンジン2が停止して冷却されており、トランスファ油温Tptuが小さいと判断して通常制御に移行するようになっている。
【0045】
さらに、CPU25は、過熱抑制制御時において、エンジン停止後(イグニッション(以下「IG」という)オフ後)から所定時間が経過したか否かを判定する。CPU25は、IGオフ後所定時間が経過した場合に、エンジン2が停止して冷却されており、トランスファ油温Tptuが小さいと判断して通常制御に移行するようになっている。
【0046】
次に、本実施形態の駆動力配分装置の作用を、図4〜図7に示す4駆ECU21に備えたCPU25の処理動作を示すフローチャートに従って説明する。
今、車両1は運転者による運転操作によって、道路を走行している状態において、図4のフローチャートに示すステップS1〜ステップS6の処理を第1の所定サイクルで実行するとともに、図7のフローチャートに示すステップS11〜ステップS19の処理を第2の所定サイクルで実行し、繰り返すようになっている。
【0047】
図4に示すように、ステップS1において、CPU25は、各車輪速センサ32a〜32d及びエンジンECU35から各種状態量(各車輪速Vfr,Vfl,Vrr,Vrl、ドライブライントルクτd)の情報を取得する(ステップS1)。次いで、CPU25は、車速Vが第1の所定車速V1(例えば、5km/h)以上、且つ第2の所定車速V2(例えば、120km/h)以下であるか判定する(ステップS2)。そして、CPU25は、車速Vが第1の所定車速V1以上、且つ第2の所定車速V2以下である場合(ステップS2でYES)には、ステップS1で取得した各種状態量に基づいて推定車両加速度Ae、実車両加速度Av及び偏差ΔAを演算し(ステップS3)、ステップS4に移る。
【0048】
なお、例えば車両1が発進直後で、車速Vが第1の所定車速V1以上、且つ第2の所定車速V2以下でない場合(ステップS2でNO)には、CPU25は推定車両加速度Ae、実車両加速度Av及び偏差ΔAを演算することなく処理をすることなく処理を終了し、ステップS1に戻る。
【0049】
ステップS4において、CPU25は、高負荷フラグFがRAM27にセットされているか否かを判定する(ステップS4)。今、高負荷フラグFがセットされていない場合(ステップS4でNO)、CPU25は、高負荷フラグFをセットするかどうかの高負荷判定処理を行う(ステップS5)。
【0050】
ステップS5におけるCPU25による高負荷判定処理動作は、図5に示すように、先ず、推定車両加速度Aeが第1の所定加速度KAe1以上であるか否かを判定する(ステップS5−1)。つまり、運転者がアクセルペダルを操作し、車両1が加速状態にあるかどうかを、前記ステップS3で算出した各算出結果に基づいて判定する。
【0051】
続いて、推定車両加速度Aeが第1の所定加速度KAe1以上である場合(ステップS5−1でYES)には、CPU25は、偏差ΔAが第1の所定偏差KΔA1以上であるか否かを判定する(ステップS5−2)。つまり、牽引走行時や最大定員が乗車し最大積載量の荷物を積んだ状態での登坂走行時等であり、エンジン2の負荷状態が高いかどうかを前記ステップS3で算出した各算出結果に基づいて判定する。
【0052】
ここで、例えば車両1に最大定員が乗車し最大積載量の荷物を積んだ状態で平坦路を走行している等のエンジン2の負荷が低い場合には、偏差ΔAが第1の所定偏差KΔA1よりも小さくなり(ステップS5−2でNO)、CPU25はタイマ29の第1カウント値t1をリセットし(ステップS5−3)、高負荷判定処理を終了してステップS1に戻る。なお、例えば車両1が停止する等して推定車両加速度Aeが第1の所定加速度KAe1よりも小さい場合(ステップS5−1でNO)には、CPU25は、同様にタイマ29の第1カウント値t1をリセットした後(ステップS5−3)、高負荷判定処理を終了してステップS1に戻る。
【0053】
一方、車両1が長距離の上り坂を走行し始めると、偏差ΔAが第1の所定偏差KΔA1以上になり(ステップS5−2でYES)、CPU25はタイマ29の第1カウント値t1を「1」つカウントアップした後(ステップS5−4)、その第1カウント値t1が所定値(第1の所定時間Kt1)以上かなったかどうかを判定する(ステップS5−5)。この時点では、車両1は登坂走行を始めたばかりなので、第1の所定時間Kt1を経過していないと判断し(ステップS5−5でNO)、ステップS1に戻る。
【0054】
やがて、第1の所定時間Kt1継続して車両1が登坂走行し、その第1カウント値t1が第1の所定時間Kt1以上になったと判断すると(ステップS5−5でYES)、CPU25は、タイマ29の第1カウント値t1をリセットした後(ステップS5−6)、高負荷フラグFをRAM27にセットする(ステップS5−7)。そして、高負荷フラグFをセットすると、CPU25はステップS1に戻る。
【0055】
高負荷フラグFがセットされた状態では、ステップS4において、高負荷フラグFがセットされているとして(ステップS4でYES)、CPU25は、高負荷フラグFをクリアするかどうかの解除判定処理を行う(ステップS6)。
【0056】
ステップS6におけるCPU25よる解除判定処理動作は、図6に示すように、先ず、推定車両加速度Aeが第2の所定加速度KAe2以上であるか否かを判定する(ステップS6−1)。この状態で、車両1は、未だ登坂走行を継続しているため、推定車両加速度Aeが第2の所定加速度KAe2以上であり(ステップS6−1でYES)、ステップS6−2へ移る。
【0057】
ステップS6−2において、CPU25は、偏差ΔAが第2の所定偏差KΔA2よりも小さいか否かを判定する(ステップS6−2)。つまり、例えば非牽引走行時や平坦路走行時等であり、エンジン2の負荷状態が低い状態であるかどうかを前記ステップS3で算出した各算出結果に基づいて判定する。
【0058】
ここで、車両1は、未だ登坂走行を継続しているため、偏差ΔAが第2の所定偏差KΔA2以上であり(ステップS6−2でNO)、CPU25は、タイマ29の第2カウント値t2をリセットした後(ステップS6−3)、解除判定処理を終了してステップS1に戻る。なお、例えば車両1が停止する等して推定車両加速度Aeが第2の所定加速度KAe2よりも小さい場合(ステップS6−1でNO)には、CPU25は、同様にタイマ29の第2カウント値t2をリセットした後(ステップS6−3)、解除判定処理を終了してステップS1に戻る。
【0059】
一方、車両1が上り坂を登りきり、平坦路を走行し始めると、偏差ΔAが第2の所定偏差KΔA2よりも小さくなる(ステップS6−2でYES)。すると、CPU25は、タイマ29の第2カウント値t2を「1」つカウントアップした後(ステップS6−4)、CPU25は、その第2カウント値t2が所定値(第2の所定時間Kt2)以上になったかどうかを判定する(ステップS6−5)。この時点では、車両1は平坦路を走行し始めたばかりなので、第2の所定時間Kt2を経過していないと判断し(ステップS6−5でNO)、ステップS1に戻る。
【0060】
やがて、第2の所定時間Kt2継続して車両1が平坦路を走行し、その第2カウント値t2が第2の所定時間Kt2以上になったと判断すると(ステップS6−5でYES)、CPU25は、タイマ29の第2カウント値t2をリセットした後(ステップS6−6)、RAM27にセットした高負荷フラグFをクリアする(ステップS6−7)。そして、高負荷フラグFをクリアすると、CPU25はステップS1に戻る。
【0061】
また、上記のように車両1が道路を走行している状態において、CPU25は、エンジン2の負荷状態の判定処理とともに、第2の所定サイクル毎に制御モードの移行判定処理を行う。
【0062】
具体的には、図7に示すように、ステップS11において、CPU25は、アクセル開度センサ31、各車輪速センサ32a〜32d、外気温センサ33及び水温センサ34から各種状態量(アクセル開度Sa、各車輪速Vfr,Vfl,Vrr,Vrl、外気温Tamb、エンジン水温Teng、)の情報を取得する(ステップS11)。次いで、CPU25は、各種状態量を取得すると、上記(1)式に基づいてトランスファ油温Tptuを演算し(ステップS12)、その制御モードが通常制御であるか否かを判定する(ステップS13)。今、CPU25の制御モードが通常制御のモードである場合(ステップS13でYES)、ステップS14に移る。
【0063】
ステップS14において、CPU25は、トランスファ油温Tptuが第1の所定トランスファ油温KTptu1以上であるか否かを判定する。
ここで、上記のように車両1が平坦路を走行している場合であって、エンジン2の負荷状態が低く、トランスファ油温Tptuが高くないと、第1の所定トランスファ油温KTptu1より小さいと判定して(ステップS14においてNO)、CPU25は制御モードを通常制御のモードのままにしてステップS11に戻る。
【0064】
一方、車両1が長距離の上り坂を走行し始めると、エンジン2の負荷が高くなり、同エンジン2からトランスファ4への熱伝達が大きくなる。そのため、トランスファ4でのトルク伝達に伴う発熱に加えてエンジン2からの熱伝達により、トランスファ油温Tptuが大きくなる。
【0065】
ここで、上記従来(特許文献2)の構成では、トランスファ4での発熱量及び外気温Tambに基づいてトランスファ油温Tptuを推定するため、エンジン2が高負荷状態である場合には、トランスファ油温Tptuを実際のトランスファ油温よりも低く推定してしまう虞がある。
【0066】
この点、本実施形態では、エンジン2が高負荷状態である場合には、上記のように高負荷フラグFがセットされ、トランスファ油温Tptuを高く推定する。そのため、エンジン2からの熱伝達の影響により実際のトランスファ油温が第1の所定トランスファ油温KTptu1以上になった場合に、CPU25は第1の所定トランスファ油温KTptu1以上にトランスファ油温Tptuを推定し(ステップS14においてYES)、過熱抑制制御へ移行する(ステップS15)。
【0067】
これにより、確実にトランスファ4の過熱を抑制できる。なお、CPU25は、過熱抑制制御のモードに移行すると、制御モードが新たに通常制御のモードに変わるまで、過熱抑制制御を実行する。
【0068】
過熱抑制制御のモードが実行開始されると、ステップS13において、制御モードが通常制御のモードから過熱抑制制御のモードになったと判断して(ステップS13でNO)、CPU25は、ステップS16へ移行する。
【0069】
ステップS16において、CPU25は、トランスファ油温Tptuが第2の所定トランスファ油温KTptu2以下であるか否かを判定する。つまり、車両1が未だに登坂走行を継続してトランスファ油温Tptuが高い状態にあるかどうかを、前記ステップS12で算出した各算出結果に基づいて判定する。ここで、車両1が未だに登坂走行を継続おり、トランスファ油温Tptuが第2の所定トランスファ油温KTptu2よりも大きくなることから(ステップS16でNO)、ステップS17に移る。
【0070】
ステップS17において、CPU25はエンジン水温Tengが所定のエンジン水温KTeng以下であるか否かを判定する(ステップS17)。車両1が未だに登坂走行を継続しているため、エンジン2の負荷状態が高い状態が継続しており、エンジン水温Tengが所定のエンジン水温KTengよりも高くなることから(ステップS17でNO)、ステップS18に移る。
【0071】
ステップS18において、CPU25はIGオフから所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS18)。車両1が未だに登坂走行を継続しているため、エンジン2が停止されておらず、IGオフから所定時間が経過していないことから(ステップS18でNO)、CPU25は制御モードを通常制御のモードのままにしてステップS11に戻る。
【0072】
やがて、車両1が上り坂を登りきり、平坦路を継続して走行することでエンジン2の負荷状態が低くなる。そして、トランスファ油温Tptuが下がり、ステップS16において、CPU25はトランスファ油温Tptuが第2の所定トランスファ油温KTptu2以下になったと判定すると(ステップS16でYES)、通常制御モードに移行する(ステップS19)。そして、通常制御のモードに移行すると、CPU25はステップS11に戻り、制御モードが新たに保護制御のモードに変わるまで、通常制御を実行する。
【0073】
また、ステップS17において、CPU25はエンジン水温Tengが所定のエンジン水温KTeng以下になったと判定すると(ステップS17でYES)、即ちエンジン2が停止して冷却されており、トランスファ油温Tptuが小さいと判断すると、ステップS19に移り、通常制御モードに移行する。
【0074】
さらに、ステップS18において、CPU25はIGオフから所定時間が経過したと判定すると(ステップS18でYES)、エンジン2が停止して冷却されており、トランスファ油温Tptuが小さいと判断して、ステップS19に移り、制御モードを過熱抑制制御のモードから通常制御のモードに移行させる。
【0075】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)エンジン2のトルクを前輪13f及び後輪13rに伝達する駆動伝達系の途中に設けられ、電磁クラッチ16の摩擦係合力に基づいてトルク配分量を変更可能なトルクカップリング8と、走行状態に基づいてトルクカップリング8の作動を制御する4駆ECU21(CPU25)とを備えた。CPU25は、トランスファ油温Tptuを推定し、同トランスファ油温Tptuが第1の所定トランスファ油温KTptu1以上である場合に過熱保護制御を実行するようにした。そして、CPU25は、所定車両重量M及びエンジン2のドライブライントルクτdに基づいて演算される推定車両加速度Aeと実車両加速度Avとの偏差ΔAが第1の所定偏差KΔA1以上の場合にトランスファ油温Tptuを高く推定することで、過熱保護制御へ移行し易くするようにした。
【0076】
そのため、例えば牽引走行時や最大定員が乗車し最大積載量の荷物を積んだ状態での登坂走行時等、エンジン負荷が高くなりエンジン2からトランスファ4への熱伝達が大きくなる場合に、過熱抑制制御が実行され易くなることで、確実にトランスファ4の過熱を抑制することができる。
【0077】
(2)偏差ΔAが第1の所定偏差KΔA1よりも小さい場合には、付加温度αを「0」としたため、エンジン負荷が小さい場合にトランスファ油温Tptuを高く推定して過熱抑制制御へ移行し、過剰にトランスファ4を保護してトラクション性能が低下することを防止できる。
【0078】
(3)CPU25は、推定車両加速度Aeが所定加速度KAe1以上であり、且つ偏差ΔAが第1の所定偏差KΔA1以上である場合に、エンジン2が高負荷状態であると判定するようにした。
【0079】
ここで、例えば2名乗車で走行している状態でブレーキ操作して減速した場合には、エンジン2からの出力トルクが「0」となることで推定車両加速度Aeが「0」となるとともに、ブレーキにより減速しているため、実車両加速度Avは負の値となることがある。このような場合には、偏差ΔAが第1の所定偏差KΔA1以上となるため、偏差ΔAのみによって判断すると、エンジン負荷が低い状態であっても、高負荷状態であると誤判定する虞がある。この点、本実施形態によれば、推定車両加速度Aeが所定加速度KAe1以上でない場合、即ち減速している場合には、偏差ΔAが第1の所定偏差KΔA1値以上であっても、エンジン2が高負荷状態であると判定しないため、エンジン2の負荷状態の誤検出を防止できる。
【0080】
(4)CPU25は、車速Vの増大に基づいて推定車両加速度Aeを小さく演算するようにしたため、車速Vの増大に応じて大きくなる空気抵抗などの走行抵抗を表す係数Rを考慮して正確に推定車両加速度Aeを演算することができる。
【0081】
なお、本実施形態は、以下の態様で実施してもよい。
・上記実施形態では、付加温度αを加算してトランスファ油温Tptuを高く推定するようにすることで過熱抑制制御へ移行し易くしたが、これに限らず、これと等価な方法にて過熱抑制制御へ移行し易くしてもよい。つまり、高負荷フラグFがセットされた状態では、トランスファ油温Tptuが第1基準温度としての第1の所定トランスファ油温KTptu1よりも小さい第2基準温度以上である場合に過熱抑制制御へ移行するようにしてもよい。
【0082】
・上記実施形態では、CPU25は、各車輪速Vfr,Vfl,Vrr,Vrlに基づいて実車両加速度Avを算出したが、これに限らず、車両1に前後Gセンサを設け、同前後Gセンサからの検出値に基づいて実車両加速度Avを算出してもよい。また、車両1に前後Gセンサ及び上下Gセンサを設け、同前後Gセンサ及び上下Gセンサからの各検出から演算される傾斜方向の加速度を用いて登坂走行時であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0083】
・上記実施形態では、4駆ECU21(CPU25)がドライブライントルクτdに基づいて推定車両加速度Aeを演算するようにしたが、これに限らず、その他の制御装置(例えば、エンジンECU35)が推定車両加速度Aeを演算し、4駆ECU21(CPU25)に出力するようにしてよい。
【0084】
・上記実施形態では、CPU25には、エンジンECU35からエンジン2からの出力トルクにトランスミッションのギア比等を乗じた、トランスミッション以降の駆動伝達系に伝達されるドライブライントルクτdが入力されるようにした。しかしながら、これに限らず、エンジンECU35は出力トルクτeをCPU25に出力し、CPU25にてトランスミッションのギア比等を乗じた、トランスミッション以降の駆動伝達系に伝達されるドライブライントルクτdを演算するようにしてもよい。
【0085】
・上記実施形態では、所定車両重量Mを車両総重量(GVW)としたが、これに限らず、例えば2名乗車で荷物を積載していない状態を、所定車両重量Mとしてもよい。
・上記実施形態では、推定車両加速度Aeが第1の所定加速度KAe1以上であり、且つ偏差ΔAが第1の所定偏差KΔA1以上である状態が所定時間以上継続する場合に、エンジン2の負荷状態が高いと判定するようにしたが、これに限らない。例えば、偏差ΔAが第1の所定偏差KΔA1以上である状態が所定時間以上継続する条件のみで、エンジン2の負荷状態が高いと判定するようにしてもよい。
【0086】
・上記実施形態では、トランスファ4を温度推定する駆動力伝達部材としたが、これに限らず、リヤディファレンシャル10等その他の駆動力伝達部材の温度を推定するようにしてもよい。
【0087】
・上記実施形態では、トルクカップリング8のクラッチ機構には、電磁式の摩擦クラッチである電磁クラッチ16を用いることとした。しかし、これに限らず、油圧式のクラッチ機構を用いるもの、或いは摩擦クラッチ以外のクラッチ機構を用いるものに適用してもよい。
【0088】
・上記実施形態では、トルクカップリング8は、プロペラシャフト6とピニオンシャフト9との間に介在されることとしたが、駆動伝達系を構成するその他の箇所、例えばリヤディファレンシャル10と後輪13rとの間等に配置してもよい。
【0089】
・上記実施形態では、前輪13fを主駆動輪とする車両1に本発明を適用したが、これに限らず、後輪13rを主駆動輪とする車両に適用してもよい。
次に、上記各実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
【0090】
(イ)前記制御手段は、車速の増大に基づいて前記推定車両加速度を小さく演算することを特徴とする請求項1又は2に記載の駆動力配分装置。この構成によれば、車速の増大に基づいて推定車両加速度を小さく推定するため、車速の増大に応じて大きくなる空気抵抗などの走行抵抗を考慮して正確に推定車両加速度を演算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】駆動力配分装置を備えた車両の概略構成図。
【図2】ECUの概略構成を示すブロック図。
【図3】車速Vと係数Rとの関係を示す波形図。
【図4】エンジンの負荷状態を判定する処理手順を示すフローチャート。
【図5】エンジンが高負荷状態であるか否かを判定する処理手順を示すフローチャート。
【図6】エンジンが低負荷状態であるか否かを判定する処理手順を示すフローチャート。
【図7】ECUの制御モードの移行処理手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0092】
1…車両、2…エンジン、4…トランスファ、5…フロントアクスル、6…プロペラシャフト、8…トルクカップリング、9…ピニオンシャフト、10…リヤディファレンシャル、11…左側リヤアクスル、13f…前輪、13r…後輪、16…電磁クラッチ、21…ECU、τd…ドライブライントルク、Ae…推定車両加速度、Av…実車両加速度、Tptu…トランスファ油温、KTptu1…第1の所定トランスファ油温、KΔA1…第1の所定偏差、ΔA…偏差。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源のトルクを各車輪に伝達する駆動伝達系内に設けられクラッチ機構の係合力に基づいてトルク伝達容量を変更可能なトルクカップリングと、前記係合力の調整を通じて前記トルクカップリングの作動を制御する制御手段と、前記駆動伝達系内に設けられた駆動力伝達部材の温度を推定する温度推定手段とを備え、前記制御手段は、前記温度推定手段により推定された前記駆動力伝達部材の推定温度が第1基準温度以上である場合に前記トルク伝達容量を低減する過熱保護制御を実行する駆動力配分装置であって、
所定車両重量及び前記駆動源の出力トルクに基づいて演算される推定車両加速度と加速度検出手段により検出される実車両加速度とに基づいて前記駆動源の負荷が高い高負荷状態であるか否かを判定する判定手段を備え、
前記制御手段は、前記判定手段により前記駆動源が高負荷状態であると判定された場合には、前記駆動力伝達部材の推定温度が前記第1基準温度よりも低い第2基準温度以上である場合に前記過熱保護制御へ移行することを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記推定車両加速度が所定加速度以上であり、且つ前記推定車両加速度と前記実車両加速度との偏差が所定偏差以上である場合に、前記駆動源が高負荷状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載の駆動力配分装置。
【請求項3】
駆動源のトルクを各車輪に伝達する駆動伝達系内に設けられクラッチ機構の係合力に基づいてトルク伝達容量を変更可能なトルクカップリングの制御方法において、
前記駆動伝達系内に設けられた駆動力伝達部材の温度推定手段による推定温度が第1基準温度以上である場合に前記トルク伝達容量を低減する過熱保護制御を実行するものであって、
所定車両重量及び前記駆動源の出力トルクに基づいて演算される推定車両加速度と加速度検出手段により検出される実車両加速度とに基づいて、前記駆動源が高負荷状態であると判定された場合には、前記駆動力伝達部材の推定温度が前記第1基準温度よりも低い第2基準温度以上である場合に前記過熱保護制御へ移行することを特徴とするトルクカップリングの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−101407(P2010−101407A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273009(P2008−273009)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】