説明

駆動回路、光トランシーバ、通信システムおよび通信制御方法

【課題】時分割多重方式を採用する通信システムにおいて、スループットの向上を図る。
【解決手段】駆動回路68は、光信号を送信するための発光素子LDに供給すべきバイアス電流を生成するためのバイアス電流源83と、バイアス電流源83によって生成されるバイアス電流を発光素子LDに供給するためのバイアス電流供給回路82と、バイアス電流供給回路82によるバイアス電流の供給に遅延時間を与えるための遅延回路71とを備える。バイアス電流供給回路82は、バイアス電流の生成が開始されてから上記遅延時間が経過すると、バイアス電流を発光素子LDに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動回路、光トランシーバ、通信システムおよび通信制御方法に関し、特に、光信号を送信するための発光素子を駆動する駆動回路、それを備えた光トランシーバ、ならびに発光素子を用いる通信システムおよび通信制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットが広く普及しており、利用者は世界各地で運営されているサイトの様々な情報にアクセスし、その情報を入手することが可能である。これに伴って、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)およびFTTH(Fiber To The Home)等のブロードバンドアクセスが可能な装置も急速に普及してきている。
【0003】
IEEE Std 802.3ah(登録商標)−2004(非特許文献1)には、複数の宅側装置(ONU:Optical Network Unit)が光通信回線を共有して局側装置(OLT:Optical Line Terminal)とのデータ伝送を行なう媒体共有形通信である受動的光ネットワーク(PON:Passive Optical Network)の1つの方式が開示されている。すなわち、PONを通過するユーザ情報およびPONを管理運用するための制御情報を含め、すべての情報がイーサネット(登録商標)フレームの形式で通信されるEPON(Ethernet(登録商標) PON)と、EPONのアクセス制御プロトコル(MPCP(Multi-Point Control Protocol))およびOAM(Operations Administration and Maintenance)プロトコルとが規定されている。局側装置と宅側装置との間でMPCPフレームをやりとりすることによって、宅側装置の加入、離脱、および上りアクセス多重制御などが行なわれる。また、非特許文献1では、MPCPメッセージによる、新規宅側装置の登録方法、帯域割り当て要求を示すレポート、および送信指示を示すゲートについて記載されている。
【0004】
なお、1ギガビット/秒の通信速度を実現するEPONであるGE−PON(Giga Bit Ethernet(登録商標) Passive Optical Network)の次世代の技術として、IEEE802.3av(登録商標)−2009として標準化が行なわれた10G−EPONすなわち通信速度が10ギガビット/秒相当のEPONにおいても、アクセス制御プロトコルはMPCPが前提となっている。
【0005】
ここで、光通信の送信機に用いられるレーザ駆動回路が、特開2010―267924号公報(特許文献1)に開示されている。すなわち、レーザ駆動回路は、入力するバーストデータに応じてレーザダイオードに変調電流を供給する変調回路と、レーザダイオードにバイアス電流を与えるバイアス回路と、レーザダイオードに所望の発光強度と消光比が得られるように上記変調電流および上記バイアス電流を制御するAPC回路とを備える。送信イネーブル信号がオンのときレーザダイオードが入力するバーストデータに応じてバースト駆動され、送信イネーブル信号がオフのときレーザダイオードが消光する。変調回路は、送信イネーブル信号がオフのとき上記変調電流を遮断する変調電流カットオフ回路を含み、バイアス回路は、送信イネーブル信号がオフのとき上記バイアス電流を遮断するバイアス電流カットオフ回路を含む。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】IEEE Std 802.3ah(登録商標)-2004
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010―267924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、PONシステムでは、宅側装置から局側装置への上り方向の通信方式として時分割多重方式が採用されている。この時分割多重方式では、宅側装置はバースト信号を局側装置へ送信する。このため、宅側装置では、光信号を送信すべき期間においてレーザダイオード等の発光素子に電流を供給し、それ以外の期間では当該電流の供給を停止する必要がある。
【0009】
特許文献1に記載のレーザ駆動回路をPONシステムの宅側装置において使用すると仮定した場合において、たとえばバイアス電流の供給を停止する構成としては、トランジスタをオフすることによってバイアス回路を開放状態にする方法、あるいはバイアス回路の出力電流をゼロに制御する方法が考えられる。
【0010】
一方、バースト信号の送信を開始する際には、光通信回線へ不要な光出力および不安定な光出力がなされないように、レーザダイオードに変調電流を供給するのに先立って、レーザダイオードに供給するバイアス電流を安定させる必要がある。
【0011】
しかしながら、上記バイアス電流を停止するためのいずれの構成でも、バイアス電流供給を停止した状態から所望のバイアス電流が供給されるまでの時間が、寄生パラメータによる応答速度の低下に起因して長くなってしまう可能性がある。
【0012】
すなわち、バイアス電流が安定するまでの待ち時間が必要となるため、時分割多重方式が採用される宅側装置から局側装置への上り方向の通信において、各宅側装置からのバースト信号の間隔が長くなってしまい、PONシステムのスループットが低下してしまうという問題点があった。
【0013】
特に、10G−EPONでは、GE−PONと比べて、回線速度の高速化によって各宅側装置からのバースト信号の送信時間が短くなり、局側装置に接続可能な宅側装置の数が多くなることから、各宅側装置からのバースト信号の間隔が長くなると、PONシステムのスループットが大幅に低下してしまう。
【0014】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、時分割多重方式を採用する通信システムにおいて、スループットの向上を図ることが可能な駆動回路、光トランシーバ、通信システムおよび通信制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる駆動回路は、複数の宅側装置から局側装置への光信号が時分割多重される通信システムにおける宅側装置に用いられる駆動回路であって、上記光信号を送信するための発光素子に供給すべきバイアス電流を生成するためのバイアス電流源と、上記バイアス電流源によって生成される上記バイアス電流を上記発光素子に供給するためのバイアス電流供給回路と、上記バイアス電流供給回路による上記バイアス電流の供給に遅延時間を与えるための遅延回路とを備え、上記バイアス電流供給回路は、上記バイアス電流の生成が開始されてから上記遅延時間が経過すると、上記バイアス電流を上記発光素子に供給する。
【0016】
このような構成により、光信号の安定出力の応答速度を向上させることができる。これにより、局側装置において、ある宅側装置から有効な上りデータは送信されてこないが当該宅側装置から光通信回線へ不要な光が出力されており、他の宅側装置から有効な上りデータを送信させることができない期間を短縮することができる。すなわち、遅延時間が与えられる期間において、バイアス電流は発光素子に供給されないことから、当該期間において、光通信回線へ不要な光出力および不安定な光出力がなされることを防ぐことができる。これにより、局側装置は、当該期間において他の宅側装置から上り光信号を送信させることができるため、各宅側装置からのバースト信号の間隔を短くすることができ、通信システムのスループットを向上させることができる。
【0017】
好ましくは、上記バイアス電流源は、上記局側装置へ送信すべきデータに応じたレベルを有する変調電流の上記発光素子への供給に先立って上記バイアス電流を生成し、上記遅延時間は、上記バイアス電流の上記発光素子への供給開始タイミングが、上記変調電流の上記発光素子への供給開始タイミングの前または同時になるように設定されている
【0018】
このような構成により、ダミーデータまたはプリアンブル等、正常に送信できなくても問題がないかまたは影響の少ないデータが、局側装置へ送信すべきデータの先頭に付与されない場合でも、各宅側装置からのバースト信号の間隔を短くすることができ、通信システムのスループットを向上させることができる。
【0019】
好ましくは、上記バイアス電流供給回路は、上記バイアス電流源が含まれ、かつ上記発光素子が含まれない第1の電流経路を形成することにより、上記バイアス電流源を動作させて上記第1の電流経路を通して上記バイアス電流を流す動作、および上記発光素子および上記バイアス電流源が含まれる第2の電流経路を形成することにより、上記バイアス電流源を動作させて上記第2の電流経路を通して上記バイアス電流を流す動作を切り替え可能である。
【0020】
このように、電流経路の切り替えによって発光素子への電流供給の有無を切り替える構成により、寄生パラメータによる回路の応答速度の低下の影響を低減し、発光素子へのバイアス電流供給先の切り替えを安定して迅速に行なうことができる。
【0021】
より好ましくは、上記バイアス電流供給回路は、電源電圧が供給されるノードと上記バイアス電流源との間に接続され、オンすることにより上記第1の電流経路を形成するための第1のスイッチと、電源電圧が供給されるノードと上記バイアス電流源との間において上記発光素子と直列接続され、オンすることにより上記第2の電流経路を形成するための第2のスイッチとを含む。
【0022】
このように、バイアス電流供給回路をスイッチ対からなる差動回路で構成することにより、簡易な構成で、発光素子へのバイアス電流供給の有無を迅速に切り替えることができる。
【0023】
上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる光トランシーバは、複数の宅側装置から局側装置への光信号が時分割多重される通信システムにおける宅側装置に対して脱着可能な光トランシーバであって、上記光信号を送信するための発光素子と、上記発光素子を駆動するための駆動回路とを備え、上記駆動回路は、上記発光素子に供給すべきバイアス電流を生成するためのバイアス電流源と、上記バイアス電流源によって生成される上記バイアス電流を上記発光素子に供給するためのバイアス電流供給回路と、上記バイアス電流供給回路による上記バイアス電流の供給に遅延時間を与えるための遅延回路とを含み、上記バイアス電流供給回路は、上記バイアス電流の生成が開始されてから上記遅延時間が経過すると、上記バイアス電流を上記発光素子に供給し、上記光トランシーバは、さらに、上記遅延時間を記憶し、上記遅延時間が上記宅側装置から読み出し可能な記憶部を備える。
【0024】
このように、宅側装置に対して脱着可能な光トランシーバに遅延時間が記憶され、遅延時間を宅側装置が読み出す構成により、遅延時間が異なる新たな光トランシーバへの交換が行なわれても、適切な遅延時間を局側装置に通知することができる。
【0025】
上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる通信システムは、複数の宅側装置と、各上記宅側装置と光信号を送受信するための局側装置とを備える通信システムであって、上記各宅側装置から上記局側装置への上記光信号が時分割多重されるように上記各宅側装置からの上記光信号の送信計画を作成するための送信計画部と、上記宅側装置から上記局側装置への上記光信号の送信に先立って上記宅側装置において必要となる準備時間、または上記宅側装置における上記準備時間の短縮可否を上記送信計画部へ通知するための送信準備情報通知部とを備え、上記送信計画部は、上記送信準備情報通知部からの上記通知に基づいて上記送信計画を作成し、上記準備時間は、上記宅側装置の備える上記光信号を送信するための発光素子に、上記局側装置へ送信すべきデータに応じたレベルを有する変調電流、およびバイアス電流を供給する準備のために必要な時間である。
【0026】
このような構成により、局側装置において、ある宅側装置から有効な上りデータは送信されてこないが当該宅側装置から光通信回線へ不要な光が出力されており、他の宅側装置から有効な上りデータを送信させることができない期間の短縮が可能か否か、またはその短縮時間を各宅側装置から取得することができる。これにより、局側装置において、各宅側装置からのバースト信号の間隔を短くした送信計画を作成することができるため、通信システムのスループットを向上させることができる。
【0027】
上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる通信制御方法は、複数の宅側装置と、各上記宅側装置と光信号を送受信し、かつ上記各宅側装置から上記局側装置への上記光信号が時分割多重されるように上記各宅側装置からの上記光信号の送信計画を作成するための局側装置とを備える通信システムにおける通信制御方法であって、上記宅側装置が、上記局側装置への上記光信号の送信に先立って必要となる準備時間、または上記準備時間の短縮可否を上記局側装置へ通知するステップと、上記局側装置が、上記宅側装置からの上記通知に基づいて上記送信計画を作成するステップとを含み、上記準備時間は、上記宅側装置の備える上記光信号を送信するための発光素子に、上記局側装置へ送信すべきデータに応じたレベルを有する変調電流、およびバイアス電流を供給する準備のために必要な時間である。
【0028】
このような構成により、局側装置において、ある宅側装置から有効な上りデータは送信されてこないが当該宅側装置から光通信回線へ不要な光が出力されており、他の宅側装置から有効な上りデータを送信させることができない期間の短縮が可能か否か、またはその短縮時間を各宅側装置から取得することができる。これにより、局側装置において、各宅側装置からのバースト信号の間隔を短くした送信計画を作成することができるため、通信システムのスループットを向上させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、時分割多重方式を採用する通信システムにおいて、スループットの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係るPONシステムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るPONシステムにおける宅側装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る宅側装置における光トランシーバの送信側の構成を詳細に示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る宅側装置の光トランシーバにおける光出力、制御信号および各回路の状態を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るPONシステムにおける局側装置および宅側装置間のデータの流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0032】
図1は、本発明の実施の形態に係るPONシステムの構成を示す図である。
【0033】
図1を参照して、PONシステム301は、たとえば10G−EPONであり、宅側装置202A,202B,202C,202Dと、局側装置201と、スプリッタSP1,SP2とを備える。宅側装置202A,202B,202Cと局側装置201とは、スプリッタSP1およびSP2ならびに光ファイバOPTFを介して接続され、互いに光信号を送受信する。宅側装置202Dと局側装置201とは、スプリッタSP2および光ファイバOPTFを介して接続され、互いに光信号を送受信する。PONシステム301では、宅側装置202A,202B,202C,202Dから局側装置201への光信号が時分割多重される。
【0034】
図2は、本発明の実施の形態に係るPONシステムにおける宅側装置の構成を示す図である。
【0035】
図2を参照して、宅側装置202は、光トランシーバ21と、PON受信処理部22と、バッファメモリ23と、UN送信処理部24と、UNI(User Network Interface)ポート25と、UN受信処理部26と、バッファメモリ27と、PON送信処理部28と、制御部29とを備える。
【0036】
光トランシーバ21は、宅側装置202に対して脱着可能である。光トランシーバ21は、局側装置201から送信される下り光信号を受信し、電気信号に変換して出力する。
【0037】
PON受信処理部22は、光トランシーバ21から受けた電気信号からフレームを再構成するとともに、フレームの種別に応じて制御部29またはUN送信処理部24にフレームを振り分ける。具体的には、PON受信処理部22は、データフレームをバッファメモリ23経由でUN送信処理部24へ出力し、制御フレームを制御部29へ出力する。
【0038】
制御部29は、各種制御情報を含む制御フレームを生成し、UN送信処理部24へ出力する。
【0039】
UN送信処理部24は、PON受信処理部22から受けたデータフレームおよび制御部29から受けた制御フレームをUNIポート25経由で図示しないパーソナルコンピュータ等のユーザ端末へ送信する。
【0040】
UN受信処理部26は、UNIポート25経由でユーザ端末から受信したデータフレームをバッファメモリ27経由でPON送信処理部28へ出力し、UNIポート25経由でユーザ端末から受信した制御フレームを制御部29へ出力する。
【0041】
制御部29は、MPCPおよびOAM等、局側装置201および宅側装置202間のPON回線の制御および管理に関する宅側処理を行なう。すなわち、PON回線に接続されている局側装置201とMPCPメッセージおよびOAMメッセージをやりとりすることによって、アクセス制御等の各種制御を行なう。制御部29は、各種制御情報を含む制御フレームを生成し、PON送信処理部28へ出力する。また、制御部29は、宅側装置202における各ユニットの各種設定処理を行なう。
【0042】
PON送信処理部28は、UN受信処理部26から受けたデータフレームおよび制御部29から受けた制御フレームを光トランシーバ21へ出力する。
【0043】
光トランシーバ21は、PON送信処理部28から受けたデータフレームおよび制御フレームを光信号に変換し、局側装置201へ送信する。
【0044】
図3は、本発明の実施の形態に係る宅側装置における光トランシーバの送信側の構成を詳細に示す図である。
【0045】
図3を参照して、光トランシーバ21は、プリバッファ回路61と、イコライザ回路62と、出力バッファ回路63と、電源64〜66と、タイミング回路67と、バイアス回路(駆動回路)68と、発光回路75と、マスタI/F(インタフェース)91と、CPU(Central Processing Unit)92と、スレイブI/F93と、制御レジスタ94と、キャパシタC1,C2とを含む。プリバッファ回路61は、終端抵抗R11を含む。発光回路75は、発光素子LDと、インダクタL1,L2とを含む。バイアス回路68は、遅延回路71と、インバータ72と、レベルシフト回路81と、バイアス電流供給回路82と、バイアス電流源83と、抵抗R3とを含む。レベルシフト回路81は、トランジスタTR4,TR5と、抵抗R1,R2と、キャパシタC3とを含む。バイアス電流供給回路82は、トランジスタTR2,TR3を含む。バイアス電流源83は、トランジスタTR1と、定電流源73とを含む。CPU92は、たとえばEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)である記憶部95を含む。
【0046】
プリバッファ回路61は、UN受信処理部26からのデータフレームおよび制御部29からの制御フレームである送信データを、キャパシタC1およびC2を介して終端抵抗R11において受け、当該送信データを増幅して出力する。たとえば、プリバッファ回路61は、当該送信データを、信号線INP,INNからバランス信号として受ける。
【0047】
イコライザ回路62は、プリバッファ回路61から受けた送信データの波形整形たとえば位相歪みの補正を行なって出力する。
【0048】
出力バッファ回路63は、たとえば2つのトランジスタからなる差動回路を含み、イコライザ回路62から受けた送信データに基づいて、発光回路75に変調電流を供給する。この変調電流は、局側装置201へ送信すべきデータの論理値に応じたレベルを有する。
【0049】
発光回路75は、上り光信号を局側装置201へ送信する。発光回路75において、発光素子LDは、電源電圧Vcc2の供給される電源ノードにインダクタL1を介して接続され、また、バイアス回路68にインダクタL2を介して接続されている。発光素子LDは、バイアス回路68から供給されたバイアス電流、および出力バッファ回路63から供給された変調電流に基づいて発光し、かつ発光強度を変更する。
【0050】
電源64〜66は、プリバッファ回路61、イコライザ回路62および出力バッファ回路63にそれぞれ電力としてたとえば電流を供給し、電力供給の開始および停止を制御することが可能である。より詳細には、電源64〜66は、制御部29から受けた送信イネーブル信号に基づいて、プリバッファ回路61、イコライザ回路62および出力バッファ回路63に電流を供給するか否かをそれぞれ切り替える。
【0051】
具体的には、電源64〜66は、送信イネーブル信号が活性化されている場合にプリバッファ回路61、イコライザ回路62および出力バッファ回路63への電力供給をそれぞれ行ない、送信イネーブル信号が非活性化されている場合に当該電力供給を停止する。
【0052】
また、タイミング回路67は、出力バッファ回路63から発光素子LDへの変調電流の供給を強制的に停止する制御を行なう。
【0053】
バイアス回路68は、発光回路75に電力としてバイアス電流を供給する。また、バイアス回路68は、制御部29から受けた送信イネーブル信号に基づいて、発光回路75にバイアス電流を供給するか否かを切り替える。
【0054】
発光回路75において、インダクタL1は、電源電圧Vcc2の供給される電源ノードに接続された第1端と、第2端とを有する。発光素子LDは、たとえばレーザダイオードであり、インダクタL1の第2端に接続されたアノードと、インダクタL2の第1端に接続されたカソードとを有する。出力バッファ回路63から出力された変調電流は、発光素子LDのアノードからカソードへ流れる。
【0055】
バイアス回路68において、抵抗R3は、電源電圧Vcc2の供給される電源ノードに接続された第1端と、第2端とを有する。レベルシフト回路81において、トランジスタTR4は、たとえばNPNトランジスタであり、抵抗R3の第2端に接続されたコレクタと、抵抗R1、抵抗R2、キャパシタC3およびトランジスタTR5の接続ノードに接続されたベースと、エミッタとを有する。抵抗R1は、電源電圧Vcc1の供給される電源ノードに接続された第1端と、第2端とを有する。抵抗R2は、抵抗R1の第2端に接続された第1端と、接地電圧の供給される接地ノードに接続された第2端とを有する。キャパシタC3は、抵抗R1の第2端に接続された第1端と、接地電圧の供給される接地ノードに接続された第2端とを有する。トランジスタTR5は、たとえばNPNトランジスタであり、インダクタL2の第2端に接続されたコレクタと、抵抗R1、抵抗R2、キャパシタC3およびトランジスタTR4の接続ノードに接続されたベースと、エミッタとを有する。
【0056】
バイアス電流供給回路82において、トランジスタTR2は、たとえばNPNトランジスタであり、トランジスタTR4のエミッタに接続されたコレクタと、インバータ72からの信号を受けるベースと、エミッタとを有する。トランジスタTR3は、たとえばNPNトランジスタであり、トランジスタTR5のエミッタに接続されたコレクタと、遅延回路71からの信号を受けるベースと、エミッタとを有する。
【0057】
バイアス電流源83において、トランジスタTR1は、たとえばNPNトランジスタであり、トランジスタTR2およびTR3のエミッタに接続されたコレクタと、制御部29からの送信イネーブル信号を受けるベースと、定電流源73に接続されたエミッタとを有する。定電流源73は、トランジスタTR1のエミッタと、接地電圧の供給される接地ノードとの間に接続されている。
【0058】
電源電圧Vcc2は、電源電圧Vcc1よりもレベルが高い。電源電圧Vcc1は、たとえばプリバッファ回路61、イコライザ回路62および出力バッファ回路63にも供給される。
【0059】
遅延回路71は、制御部29から受けた送信イネーブル信号を、遅延時間TDLだけ遅延させて出力する。具体的には、たとえば、遅延回路71は、送信イネーブル信号が活性化されるタイミングを遅延時間TDLだけ遅らせた送信イネーブル信号を出力する。この遅延時間TDLは、たとえば数十ナノ秒である。
【0060】
インバータ72は、遅延回路71から受けた送信イネーブル信号の論理レベルを反転して出力する。
【0061】
レベルシフト回路81は、バイアス電流供給回路82およびバイアス電流源83側に電源電圧Vcc2よりもレベルの低い電圧が印加されるように、レベルシフトを行なう。すなわち、レベルシフト回路81は、電源電圧Vcc1を抵抗R1およびR2によって分圧した電圧から、トランジスタTR4およびTR5のベース−エミッタ間電圧を差し引いた電圧を、バイアス電流供給回路82およびバイアス電流源83側に印加する。これにより、バイアス電流供給回路82およびバイアス電流源83側に過大なレベルの電圧が印加されることを防ぐことができる。
【0062】
バイアス電流源83は、光信号を送信するための発光素子LDに供給すべきバイアス電流を、送信イネーブル信号に基づき、出力バッファ回路63による変調電流の発光素子LDへの供給に先立って生成する。
【0063】
バイアス電流源83において、トランジスタTR1は、制御部29から受けた送信イネーブル信号が活性化されている場合にオンし、非活性化されている場合にオフする。
【0064】
定電流源73は、バイアス電流を生成する。ここで、光トランシーバ21では、変調電流が発光素子LDに供給されていない状態において、バイアス電流が発光素子LDに供給されると発光素子LDが発光するように、バイアス電流の値が設定される。
【0065】
バイアス電流供給回路82は、たとえば2つのトランジスタTR2,TR3からなる差動回路である。バイアス電流供給回路82は、バイアス電流源83によって生成されるバイアス電流の発光素子LDへの供給を制御する。
【0066】
バイアス電流供給回路82において、トランジスタTR2は、インバータ72から受けた送信イネーブル信号が活性化されている場合にオンし、非活性化されている場合にオフする。トランジスタTR3は、遅延回路71から受けた送信イネーブル信号が活性化されている場合にオンし、非活性化されている場合にオフする。すなわち、トランジスタTR2およびTR3は、相補的にオンおよびオフする。
【0067】
遅延回路71は、バイアス電流供給回路82によるバイアス電流の供給に前述の遅延時間TDLを与える。この遅延時間TDLは、バイアス電流の発光素子LDへの供給開始タイミングが、変調電流の発光素子LDへの供給開始タイミングの前または同時になるように設定されている。
【0068】
バイアス電流供給回路82は、バイアス電流の生成が開始されてから遅延時間TDLが経過すると、バイアス電流を発光素子LDに供給する。
【0069】
バイアス電流供給回路82は、バイアス電流源83が含まれ、かつ発光素子LDが含まれない電流経路Aを形成することにより、バイアス電流源83を動作させて電流経路Aを通してバイアス電流を流す動作、および発光素子LDおよびバイアス電流源83が含まれる電流経路Bを形成することにより、バイアス電流源83を動作させて電流経路Bを通してバイアス電流を流す動作を切り替え可能である。
【0070】
より詳細には、電流経路Aは、電源電圧Vcc2が供給される電源ノードから、抵抗R3、トランジスタTR4、トランジスタTR2、トランジスタTR1、および定電流源73を経由する接地ノードへの経路である。また、電流経路Bは、電源電圧Vcc2が供給される電源ノードから、インダクタL1、発光素子LD、インダクタL2、トランジスタTR5、トランジスタTR3、トランジスタTR1、および定電流源73を経由する接地ノードへの経路である。
【0071】
バイアス電流供給回路82において、トランジスタTR2は、電源電圧Vcc2が供給されるノードとバイアス電流源83との間に接続され、オンすることにより電流経路Aを形成する。また、トランジスタTR3は、電源電圧Vcc2が供給されるノードとバイアス電流源83との間においてインダクタL2およびトランジスタTR5を介して発光素子LDと直列接続され、オンすることにより電流経路Bを形成する。
【0072】
なお、電流経路Aにおける電源電圧すなわち抵抗R3が接続される電源ノードに供給される電源電圧と、電流経路Bにおける電源電圧すなわちインダクタL1が接続される電源ノードに供給される電源電圧とは異なる電源電圧であってもよい。ただし、図3に示すように電流経路A,Bの電源電圧を同じにする構成により、発光素子LDへのバイアス電流供給の前後すなわち電流経路AおよびBの切り替え前後において、バイアス電流の値を略等しくすることができるため、回路動作を安定させることができる。
【0073】
CPU92は、たとえば、信号線SCLおよび信号線SDAからなるI2Cバス経由で制御部29との間で各種データをやりとりする。また、CPU92における記憶部95は、遅延時間TDLを記憶する。
【0074】
マスタI/F91は、CPU92およびI2Cバス間のインタフェース機能を提供する。
【0075】
スレイブI/F93は、CPU92および制御レジスタ94間のインタフェース機能を提供する。
【0076】
CPU92は、スレイブI/F93を介して種々の制御データを制御レジスタ94に書き込む。
【0077】
電源66は、制御レジスタ94に書き込まれた制御データAPC1に基づいて、出力バッファ回路63への供給電流量を変更する。
【0078】
バイアス回路68は、制御レジスタ94に書き込まれた制御データAPC2に基づいて、発光回路75への供給電流量を変更する。
【0079】
[動作]
次に、本発明の実施の形態に係る駆動回路が発光素子への電流供給制御を行なう際の動作について図面を用いて説明する。
【0080】
図4は、本発明の実施の形態に係る宅側装置の光トランシーバにおける光出力、制御信号および各回路の状態を示す図である。図4において、光出力Aは、本発明の実施の形態に係る駆動回路において、発光素子LDへのバイアス電流供給に遅延時間を与えないと仮定した場合における光出力である。また、光出力Bは、本発明の実施の形態に係る駆動回路を用いた場合における光出力である。なお、光出力の波形において、「データ」で示している部分は、実際には、送信データの論理値に応じて「バイアス」部分のみのレベルと「バイアス」部分および「データ」部分を合わせたレベルとで変化する波形となる。
【0081】
図4を参照して、まず、局側装置201から上り光信号の送信を許可されていない期間において、送信イネーブル信号は非活性化される。この場合、トランジスタTR1はオフ状態であり、トランジスタTR2はオン状態であり、トランジスタTR3はオフ状態である。このため、定電流源73は動作せず、バイアス電流は生成されない。
【0082】
次に、局側装置201から上り光信号の送信が許可され、宅側装置202から上り光信号を送信するために、送信イネーブル信号が活性化される。そうすると、トランジスタTR1がオンする。また、トランジスタTR2はオン状態のままであり、トランジスタTR3はオフ状態のままである。これにより、電流経路Aが形成され、定電流源73が動作を開始し、バイアス電流を生成する。
【0083】
また、送信イネーブル信号が活性化されると、電源64〜66が動作を開始し、それぞれプリバッファ回路61、イコライザ回路62および出力バッファ回路63に電流が供給される。ただし、出力バッファ回路63からの変調電流は、タイミング回路67の制御により、発光素子LDには供給されない(タイミングt1)。
【0084】
次に、タイミングt1から遅延時間TDL経過後のタイミングt2において、遅延回路71の出力信号が活性化される。そうすると、トランジスタTR2がオフし、トランジスタTR3がオンする。また、トランジスタTR1はオン状態のままである。これにより、バイアス電流の電流経路が電流経路Aから電流経路Bへ切り替えられ、発光素子LDにバイアス電流が供給される(タイミングt2)。
【0085】
ここで、定電流源73が動作を開始し、バイアス電流が流れ始めるタイミングt1から遅延時間TDLが経過したタイミングt2においては、バイアス電流は、所定のレベルで安定しており、発光素子LDを安定して発光させることが可能な状態となっている。ただし、バイアス電流による発光素子LDからの光出力は、タイミングt2から少し後に所定レベルに達し、安定する。これは、電流経路Bにおける回路が安定するまでに若干の時間を要するからである。
【0086】
タイミング回路67は、タイミングt1からタイミングt2、およびタイミングt2から時間TA経過後のタイミングt3までの期間、出力バッファ回路63から発光素子LDへの変調電流の供給を強制的に停止する。これにより、バイアス電流のレベルが不安定な状態で変調電流が流れることに起因するオーバーシュート等の発生を防ぐことができるため、回路動作を安定させることができる。
【0087】
なお、電流経路Aから電流経路Bへの切り替えに伴う回路の安定時間を考慮しなくても問題の無い場合には、タイミング回路67は、タイミングt1からタイミングt2までの期間だけ、出力バッファ回路63から発光素子LDへの変調電流の供給を強制的に停止する構成であってもよい。
【0088】
次に、発光素子LDへの変調電流の供給が開始されると、無効データであるプリアンブルが送信され始め、その後、有効なデータの送信が開始される(タイミングt3)。
【0089】
次に、宅側装置202からの上り光信号の送信を停止するために、送信イネーブル信号が非活性化される。そうすると、トランジスタTR1がオフし、トランジスタTR2がオンし、トランジスタTR3がオフする。これにより、定電流源73が動作を停止し、バイアス電流の生成が停止される(タイミングt4)。
【0090】
ここで、光出力Aの場合には、発光素子LDへのバイアス電流供給に遅延時間TDLを与えないことから、定電流源73がバイアス電流の生成を開始するタイミングt1の時点で、バイアス電流が発光素子LDに供給される。そうすると、タイミングt1からバイアス電流が安定して発光素子LDに供給され、かつ変調電流が発光素子LDに供給されるタイミングt3まで、光通信回線へ不要な光出力または不安定な光出力がなされることになる。このタイミングt1からタイミングt3までの期間TWAITが、局側装置201にとって、ある宅側装置202から有効な上りデータは送信されてこないが当該宅側装置202から光ファイバOPTFへ不要な光が出力されており、他の宅側装置202から有効な上りデータを送信させることができない期間となる。
【0091】
これに対して、光出力Bでは、タイミングt1からタイミングt2までの期間、バイアス電流が発光素子LDに供給されないことから、当該期間において、光通信回線へ不要な光出力または不安定な光出力がなされることを防ぐことができる。その一方で、タイミングt1の時点でバイアス電流の生成は開始されていることから、即座に所定レベルの安定したバイアス電流を発光素子LDに供給することができる。
【0092】
図5は、本発明の実施の形態に係るPONシステムにおける局側装置および宅側装置間のデータの流れを示す図である。
【0093】
図5を参照して、局側装置201において、宅側装置202Aが未登録であり、宅側装置202Bが登録済みである状態を考える。局側装置201は、ディスカバリゲートフレームを各宅側装置202へ送信する。このディスカバリゲートフレームにより、未登録の宅側装置202Aに対して上り光信号の送信タイミングが通知される。また、局側装置201は、このディスカバリゲートフレームに、図4に示す期間TWAITを短縮できるか否かの問い合わせを含める(ステップS1)。
【0094】
次に、未登録の宅側装置202Aは、局側装置201からディスカバリゲートフレームを受信して、ディスカバリゲートフレームが示す送信タイミングにおいて、局側装置201に対する登録要求であるレジスタ要求フレームを局側装置201へ送信する。
【0095】
ここで、宅側装置202Aは、ディスカバリゲートフレームが示す問い合わせに対して、自己が期間TWAITを短縮できるか否か、すなわち発光素子LDへのバイアス電流供給に遅延時間を与える構成を有しているか否かの回答をレジスタ要求フレームに含める。
【0096】
なお、宅側装置202は、期間TWAITを短縮できる場合には、その短縮時間、すなわち遅延時間TDLを当該回答に含めてもよい。具体的には、たとえば、宅側装置202における制御部29は、期間TWAITを短縮できるか否かの情報、または遅延時間TDLをたとえば光トランシーバ21における記憶部95から取得する(ステップS2)。
【0097】
次に、局側装置201は、宅側装置202Aからレジスタ要求フレームを受信して、レジスタフレームを宅側装置202Aへ送信する。このレジスタフレームにより、未登録の宅側装置202Aに対して、登録結果としてLLID(Logical Link Identification)が通知される(ステップS3)。
【0098】
次に、局側装置201は、宅側装置202Aから受信したレジスタ要求フレームが示す回答に基づいて、各宅側装置202の送信計画を作成する、具体的には、各宅側装置202の送信帯域および送信タイミングを算出する(ステップS4)。なお、ステップS3およびステップS4の実行順序は逆であってもよい。
【0099】
次に、局側装置201は、ゲートフレームを各宅側装置202へ送信する。このゲートフレームにより、各宅側装置202に対して上り光信号の送信帯域および送信タイミングが通知される(ステップS5)。
【0100】
次に、LLIDが通知された宅側装置202Aは、局側装置201からゲートフレームを受信して、当該ゲートフレームが示す送信タイミングにおいて、レジスタフレームの受信応答であるレジスタACKフレームを局側装置201へ送信する(ステップS6)。
【0101】
ところで、特許文献1に記載のレーザ駆動回路をPONシステムの宅側装置において使用すると仮定した場合において、たとえばバイアス電流の供給を停止する構成としては、トランジスタをオフすることによってバイアス回路を開放状態にする方法、あるいはバイアス回路の出力電流をゼロに制御する方法が考えられる。
【0102】
しかしながら、上記バイアス電流を停止するためのいずれの構成でも、バイアス電流供給を停止した状態から所望のバイアス電流が供給されるまでの時間が、寄生パラメータによる応答速度の低下に起因して長くなってしまう可能性がある。
【0103】
すなわち、バイアス電流が安定するまでの待ち時間が必要となるため、時分割多重方式が採用される宅側装置から局側装置への上り方向の通信において、各宅側装置からのバースト信号の間隔が長くなってしまい、PONシステムのスループットが低下してしまうという問題点があった。
【0104】
これに対して、本発明の実施の形態に係る駆動回路では、バイアス電流源83は、光信号を送信するための発光素子LDに供給すべきバイアス電流を、局側装置201へ送信すべきデータに応じたレベルを有する変調電流の発光素子LDへの供給に先立って生成する。遅延回路71は、バイアス電流供給回路82によるバイアス電流の供給に遅延時間TDLを与える。バイアス電流供給回路82は、バイアス電流の生成が開始されてから遅延時間TDLが経過すると、バイアス電流を発光素子LDに供給する。そして、遅延時間TDLは、バイアス電流の発光素子LDへの供給開始タイミングが、変調電流の発光素子LDへの供給開始タイミングの前または同時になるように設定されている。
【0105】
具体的には、たとえば、定電流源73の上段にスイッチ回路すなわちトランジスタTR1を設ける。そして、送信イネーブル信号が活性化され、バイアス電流供給の停止状態から復帰する際に、まず、トランジスタTR1をオンし、バイアス回路68の逆相側すなわち電流経路Aを通してバイアス電流を流す。その後、遅延回路71を通過した送信イネーブル信号がトランジスタTR3へ入力され、バイアス回路68の正相側すなわち電流経路Bを通してバイアス電流が流れる。この電流経路の切り替え時、バイアス電流源83によって生成されるバイアス電流は既に安定しているので、光信号の安定出力の応答速度を向上させることができる。
【0106】
このような構成により、局側装置201において、ある宅側装置202から有効な上りデータは送信されてこないが当該宅側装置202から光ファイバOPTFへ不要な光が出力されており、他の宅側装置202から有効な上りデータを送信させることができない期間を短縮することができる。
【0107】
すなわち、遅延時間TDLが与えられる期間において、バイアス電流は発光素子LDに供給されないことから、当該期間において、光通信回線へ不要な光出力および不安定な光出力がなされることを防ぐことができる。これにより、局側装置201は、当該期間において他の宅側装置202から上り光信号を送信させることができるため、各宅側装置からのバースト信号の間隔を短くすることができ、PONシステムのスループットを向上させることができる。
【0108】
また、本発明の実施の形態に係る駆動回路では、バイアス電流供給回路82は、バイアス電流源83が含まれ、かつ発光素子LDが含まれない電流経路Aを形成することにより、バイアス電流源83を動作させて電流経路Aを通してバイアス電流を流す動作、および発光素子LDおよびバイアス電流源83が含まれる電流経路Bを形成することにより、バイアス電流源83を動作させて電流経路Bを通してバイアス電流を流す動作を切り替え可能である。
【0109】
このように、電流経路の切り替えによって発光素子LDへの電流供給の有無を切り替える構成により、寄生パラメータによる回路の応答速度の低下の影響を低減し、発光素子LDへのバイアス電流供給先の切り替えを安定して迅速に行なうことができる。
【0110】
また、本発明の実施の形態に係る駆動回路では、バイアス電流供給回路82において、トランジスタTR2は、電源電圧Vcc2が供給されるノードとバイアス電流源83との間に接続され、オンすることにより電流経路Aを形成する。トランジスタTR3は、電源電圧Vcc2が供給されるノードとバイアス電流源83との間において発光素子LDと直列接続され、オンすることにより電流経路Bを形成する。
【0111】
このように、バイアス電流供給回路82をスイッチ対からなる差動回路で構成することにより、簡易な構成で、発光素子LDへのバイアス電流供給の有無を迅速に切り替えることができる。
【0112】
また、たとえば宅側装置202に用いられる光トランシーバ21が複数のメーカによって製造される場合には、光トランシーバ21の製造元によって光トランシーバ21における遅延時間TDLが異なる可能性がある。
【0113】
これに対して、本発明の実施の形態に係る光トランシーバでは、記憶部95は、遅延回路71が与える遅延時間TDLを記憶し、遅延時間TDLが宅側装置202における制御部29から読み出し可能である。
【0114】
このように、宅側装置202に対して脱着可能な光トランシーバ21に遅延時間TDLが記憶され、遅延時間TDLを制御部29が読み出す構成により、遅延時間TDLが異なる新たな光トランシーバへの交換が行なわれても、適切な遅延時間を局側装置201に通知することができる。
【0115】
また、本発明の実施の形態に係るPONシステムでは、局側装置201は、各宅側装置202から局側装置201への光信号が時分割多重されるように各宅側装置202からの光信号の送信計画を作成する。宅側装置202は、局側装置201への光信号の送信に先立って必要となる準備時間、または当該準備時間の短縮可否を局側装置201へ通知する。局側装置201は、宅側装置202からの通知に基づいて上記送信計画を作成する。そして、上記準備時間は、宅側装置202の備える光信号を送信するための発光素子LDに、局側装置201へ送信すべきデータに応じたレベルを有する変調電流、およびバイアス電流を供給する準備のために必要な時間である。
【0116】
このような構成により、局側装置201において、ある宅側装置202から有効な上りデータは送信されてこないが当該宅側装置202から光通信回線へ不要な光が出力されており、他の宅側装置202から有効な上りデータを送信させることができない期間の短縮が可能か否か、またはその短縮時間を各宅側装置202から取得することができる。これにより、局側装置201において、各宅側装置202からのバースト信号の間隔を短くした送信計画を作成することができるため、PONシステムのスループットを向上させることができる。
【0117】
なお、本発明の実施の形態に係る駆動回路では、局側装置201から上り光信号の送信を許可されていない期間において、バイアス電流の生成を停止する構成であるとしたが、これに限定するものではない。当該期間においてバイアス電流を発光素子LDに供給しても発光素子LDが発光しないようなレベルにバイアス電流を設定すればよく、当該期間におけるバイアス電流をゼロとする構成には限られない。
【0118】
また、本発明の実施の形態に係る駆動回路では、バイアス電流源83は、光信号を送信するための発光素子LDに供給すべきバイアス電流を、局側装置201へ送信すべきデータに応じたレベルを有する変調電流の発光素子LDへの供給に先立って生成し、また、遅延時間TDLは、バイアス電流の発光素子LDへの供給開始タイミングが、変調電流の発光素子LDへの供給開始タイミングの前または同時になるように設定されている構成であるとしたが、これに限定するものではない。ダミーデータまたはプリアンブル等、正常に送信できなくても問題がないかまたは影響の少ないデータが、局側装置201へ送信すべきデータの先頭に付与される構成であってもよい。この場合、バイアス電流源83は、バイアス電流を変調電流の発光素子LDへの供給に先立って生成しなくてもよく、また、遅延時間TDLは、バイアス電流の発光素子LDへの供給開始タイミングが、変調電流の発光素子LDへの供給開始タイミングの前または同時になるように設定されていなくてもよい。
【0119】
また、本発明の実施の形態に係るPONシステムでは、宅側装置202が送信準備情報通知部として上記準備時間の短縮可否または短縮時間を通知し、局側装置201が送信計画部として当該通知に基づいて各宅側装置202からの上り光信号の送信計画を作成する構成であるとしたが、これに限定するものではない。PONシステム301における宅側装置202および局側装置201以外の図示しない装置において、上記のような通知、および送信計画の作成の少なくとも一方が実行される構成であってもよい。
【0120】
すなわち、PONシステム301において、送信計画部は、各宅側装置202から局側装置201への光信号が時分割多重されるように各宅側装置202からの光信号の送信計画を作成する。送信準備情報通知部は、宅側装置202から局側装置201への光信号の送信に先立って宅側装置202において必要となる準備時間、または宅側装置202における準備時間の短縮可否を送信計画部へ通知する。そして、送信計画部は、送信準備情報通知部からの通知に基づいて送信計画を作成する。上記準備時間は、宅側装置202の備える光信号を送信するための発光素子LDに、局側装置201へ送信すべきデータに応じたレベルを有する変調電流、およびバイアス電流を供給する準備のために必要な時間である。
【0121】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0122】
21 光トランシーバ
22 PON受信処理部
23 バッファメモリ
24 UN送信処理部
25 UNIポート
26 UN受信処理部
27 バッファメモリ
28 PON送信処理部
29 制御部
61 プリバッファ回路
62 イコライザ回路
63 出力バッファ回路
64〜66 電源
67 タイミング回路
68 バイアス回路(駆動回路)
71 遅延回路
72 インバータ
73 定電流源
75 発光回路
81 レベルシフト回路
82 バイアス電流供給回路
83 バイアス電流源
91 マスタI/F(インタフェース)
92 CPU
93 スレイブI/F
94 制御レジスタ
95 記憶部
201 局側装置
202A,202B,202C,202D 宅側装置
301 PONシステム
C1,C2,C3 キャパシタ
R1,R2,R3 抵抗
TR1,TR2,TR3,TR4,TR5 トランジスタ
R11 終端抵抗
LD 発光素子
L1,L2 インダクタ
SP1,SP2 スプリッタ
OPTF 光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の宅側装置から局側装置への光信号が時分割多重される通信システムにおける宅側装置に用いられる駆動回路であって、
前記光信号を送信するための発光素子に供給すべきバイアス電流を生成するためのバイアス電流源と、
前記バイアス電流源によって生成される前記バイアス電流を前記発光素子に供給するためのバイアス電流供給回路と、
前記バイアス電流供給回路による前記バイアス電流の供給に遅延時間を与えるための遅延回路とを備え、
前記バイアス電流供給回路は、前記バイアス電流の生成が開始されてから前記遅延時間が経過すると、前記バイアス電流を前記発光素子に供給する、駆動回路。
【請求項2】
前記バイアス電流源は、前記局側装置へ送信すべきデータに応じたレベルを有する変調電流の前記発光素子への供給に先立って前記バイアス電流を生成し、
前記遅延時間は、前記バイアス電流の前記発光素子への供給開始タイミングが、前記変調電流の前記発光素子への供給開始タイミングの前または同時になるように設定されている、請求項1に記載の駆動回路。
【請求項3】
前記バイアス電流供給回路は、前記バイアス電流源が含まれ、かつ前記発光素子が含まれない第1の電流経路を形成することにより、前記バイアス電流源を動作させて前記第1の電流経路を通して前記バイアス電流を流す動作、および前記発光素子および前記バイアス電流源が含まれる第2の電流経路を形成することにより、前記バイアス電流源を動作させて前記第2の電流経路を通して前記バイアス電流を流す動作を切り替え可能である、請求項1または請求項2に記載の駆動回路。
【請求項4】
前記バイアス電流供給回路は、
電源電圧が供給されるノードと前記バイアス電流源との間に接続され、オンすることにより前記第1の電流経路を形成するための第1のスイッチと、
電源電圧が供給されるノードと前記バイアス電流源との間において前記発光素子と直列接続され、オンすることにより前記第2の電流経路を形成するための第2のスイッチとを含む、請求項3に記載の駆動回路。
【請求項5】
複数の宅側装置から局側装置への光信号が時分割多重される通信システムにおける宅側装置に対して脱着可能な光トランシーバであって、
前記光信号を送信するための発光素子と、
前記発光素子を駆動するための駆動回路とを備え、
前記駆動回路は、
前記発光素子に供給すべきバイアス電流を生成するためのバイアス電流源と、
前記バイアス電流源によって生成される前記バイアス電流を前記発光素子に供給するためのバイアス電流供給回路と、
前記バイアス電流供給回路による前記バイアス電流の供給に遅延時間を与えるための遅延回路とを含み、
前記バイアス電流供給回路は、前記バイアス電流の生成が開始されてから前記遅延時間が経過すると、前記バイアス電流を前記発光素子に供給し、
前記光トランシーバは、さらに、
前記遅延時間を記憶し、前記遅延時間が前記宅側装置から読み出し可能な記憶部を備える、光トランシーバ。
【請求項6】
複数の宅側装置と、
各前記宅側装置と光信号を送受信するための局側装置とを備える通信システムであって、
前記各宅側装置から前記局側装置への前記光信号が時分割多重されるように前記各宅側装置からの前記光信号の送信計画を作成するための送信計画部と、
前記宅側装置から前記局側装置への前記光信号の送信に先立って前記宅側装置において必要となる準備時間、または前記宅側装置における前記準備時間の短縮可否を前記送信計画部へ通知するための送信準備情報通知部とを備え、
前記送信計画部は、前記送信準備情報通知部からの前記通知に基づいて前記送信計画を作成し、
前記準備時間は、前記宅側装置の備える前記光信号を送信するための発光素子に、前記局側装置へ送信すべきデータに応じたレベルを有する変調電流、およびバイアス電流を供給する準備のために必要な時間である、通信システム。
【請求項7】
複数の宅側装置と、
各前記宅側装置と光信号を送受信し、かつ前記各宅側装置から前記局側装置への前記光信号が時分割多重されるように前記各宅側装置からの前記光信号の送信計画を作成するための局側装置とを備える通信システムにおける通信制御方法であって、
前記宅側装置が、前記局側装置への前記光信号の送信に先立って必要となる準備時間、または前記準備時間の短縮可否を前記局側装置へ通知するステップと、
前記局側装置が、前記宅側装置からの前記通知に基づいて前記送信計画を作成するステップとを含み、
前記準備時間は、前記宅側装置の備える前記光信号を送信するための発光素子に、前記局側装置へ送信すべきデータに応じたレベルを有する変調電流、およびバイアス電流を供給する準備のために必要な時間である、通信制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−186526(P2012−186526A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46269(P2011−46269)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】