説明

駆動機の制動装置

【課題】容易にスプラインハブとインナディスクとの嵌め合い部の点検や手入れの作業負荷を著しく軽減することのできる駆動機の制動装置を得ることを目的とする。
【解決手段】制動軸21に取り付けられるスプラインハブ31Aと、スプラインハブ31Aに嵌め合わされるハブ嵌合部材35、及びハブ嵌合部材35に取り付けられるインナディスク本体36Aを有するインナディスク30Aと、インナディスク本体36Aの一側及び他側に配置されるアウタディスク40及びアーマチュア50と、アーマチュア50をインナディスク30A側に付勢する付勢制動手段60と、アーマチュア50をインナディスク本体36Aから離反させることが可能に構成された制動解除手段70とを備え、アウタディスク40には、ハブ嵌合部材35及びスプラインハブ31Aが通過可能な大きさの作業穴40aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、乗客コンベアなどに設置される駆動機に制動をかける駆動機の制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のブレーキ装置は、回転軸に嵌められるスプラインハブと、スプラインハブとスプライン結合して回転し、両面にブレーキライニングが装着されたインナディスクと、ヨークに固定されてインナディスクと当接可能に対向するアウタディスクと、ヨークに軸方向に移動可能に支持され、ばね力によりインナディスクをアウタディスクに押し込む方向に移動してインナディスクをアウタディスクとの間に加圧挟持し、磁力により、インナディスクから離れる方向に移動してアウタディスクとの間のインナディスクの加圧挟持を開放するアーマチュアとを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−257163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のブレーキ装置において、アウタディスクとアーマチュアによるインナディスクの加圧挟持が開放されている場合、回転軸が、例えば、回転軸を支持する軸受の内部に形成される遊びに起因して軸方向に移動すると、インナディスクがアーマチュアまたはアウタディスクにブレーキライニングを介して接触する。この場合、インナディスクは、スプラインハブに形成されたスプラインに沿って移動し、インナディスクとアーマチュアやアウタディスクに対して、大きな摩擦力を働かせて当接されることはない。
【0005】
また、アウタディスクやアーマチュアによるインナディスクの加圧挟持とその開放が繰り返されると、インナディスクがスプラインハブに対してスプラインに沿った方向に移動されるため、インナディスクとスプラインハブとの嵌め合い部が徐々に荒れ、長期間放置しておくと、インナディスクがスムーズにスプラインハブに対して移動できなくなる。
【0006】
また、インナディスクが回転している状態で、アウタディスクとアーマチュアにより加圧挟持させたときに生じるブレーキライニングの摩耗粉が、インナディスクとスプラインハブとの間の隙間に多量に入り込み固着すると、インナディスクのスプラインハブに対する摺動抵抗が大きくなる。摺動抵抗が大きくなると、インナディスクがアーマチュアまたはアウタディスクに接触しても、スプラインに沿って移動しづらくなる。
【0007】
このため、インナディスクとアウタディスクにより、インナディスクが加圧挟持されていない場合でも、回転軸が回転されている間には、インナディスクに装着されたブレーキライニングが、常時アウタディスクまたはアーマチュアに押し付けられたまま回転し、所謂ブレーキライニングの空転摩耗が発生して、不必要にインナディスクが摩耗される。また、この状態が長期間続くと、ブレーキライニングとアーマチュアまたはアウタディスクとの接触部が異常に発熱する。
【0008】
以上のことから、スプラインハブとインナディスクとの嵌め合い部は、定期的な点検や手入れが必要となる。
従来のブレーキ装置において、スプラインハブとインナディスクとの嵌め合い部の点検や手入れは、アウタディスクを取り外した後、スプラインハブとインナディスクとの嵌め合いを解除して行ったり、スプラインハブを回転軸に取り付けた状態で、スプラインハブを除く従来のブレーキ装置の主要構成を分解して行ったりする必要がある。
特に従来のブレーキ装置が大型である場合、アウタディスクを取り外したり、装置の主要構成を分解したりする作業には、多大な労力を要する。また、スプラインハブとインナディスクとの嵌め合い部の定期的な点検や手入れを行った後に、再度装置を組み立てる際、ばねの付勢力によりインナディスクがアーマチュアとアウタディスクとの間に加圧挟持されているときに、アーマチュアとヨークとの間に微小な所定隙間が形成されるように、アウタディスクの位置を調整する必要がある。
【0009】
この発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、スプラインハブとインナディスクとの嵌め合い部の点検や手入れの作業負荷を著しく軽減することのできる駆動機の制動装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の駆動機の制動装置は、駆動機の駆動力が伝達されて軸まわりに回転する制動軸に取り付けられるスプラインハブと、スプラインハブにスプライン嵌め合いされるハブ嵌合部材、及び両面にブレーキライニングが装着され、ハブ嵌合部材に着脱自在に取り付けられるインナディスク本体を有し、制動軸の軸方向に移動可能なインナディスクと、インナディスク本体の一面と相対するように固定されるアウタディスクと、インナディスク本体を介してアウタディスクと相対するように配置され、制動軸の軸方向に移動可能に配設されたアーマチュアと、アーマチュアをアウタディスク側に付勢してインナディスク本体をアーマチュアとアウタディスクとの間に加圧挟持させてインナディスクに制動をかける付勢制動手段と、付勢制動手段の付勢力に抗してアーマチュアをインナディスク本体から離反させる電磁力を発生させる制動解除手段とを備え、アウタディスクには、ハブ嵌合部材が通過可能な大きさの作業穴が形成されている。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る駆動機の制動装置によれば、スプラインハブ及びスプラインハブに嵌められるハブ嵌合部材は、制動軸に対し、作業穴を介して分離させて、スプラインハブとハブ嵌合部材の嵌め合い部を露出させることができる。これにより、スプラインハブとハブ嵌合部材との嵌め合い部の定期的な点検や手入れを、アウタディスクを取り外したり、スプラインハブやハブ嵌合部材を除く制動装置の主要構成を分解したりすることなしに行うことができる。また、スプラインハブ及びハブ嵌合部の点検や手入れ後に、再度装置を組み立てる際、アウタディスクの位置の調整を行うことを省略できる。以上のことから、スプラインハブとインナディスクとの嵌め合い部の点検や手入れの作業負荷を著しく軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1に係る駆動機の制動装置により制動可能な駆動機を有するエスカレータの模式図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る駆動機の制動装置により制動可能な駆動機が配設されたエスカレータの上部機械室内の要部上面図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る駆動機の制動装置の断面図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る駆動機の制動装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る駆動機の制動装置により制動可能な駆動機を有するエスカレータの模式図、図2はこの発明の実施の形態1に係る駆動機の制動装置により制動可能な駆動機が配設されたエスカレータの上部機械室内の要部上面図、図3はこの発明の実施の形態1に係る駆動機の制動装置の断面図である。
【0015】
以下、乗客コンベアとしてのエスカレータ1の主な構成について説明する。
図1及び図2において、乗客コンベアとしてのエスカレータ1は、上下階床間に架設された主枠2と、主枠2の上階側及び下階側に設置された上部機械室3及び下部機械室4と、上部機械室3に配設され、駆動モータ16及び駆動モータ16の駆動に連動して回転する小スプロケット14を有する減速機17を含む駆動機15と、減速機17に配設され、駆動モータ16に制動をかける制動装置20Aと、上部機械室3に配設された大スプロケット5と、を備えている。
【0016】
さらに、エスカレータ1は、小スプロケット14と大スプロケット5との間に無端状に巻き掛けられ、駆動モータ16の駆動に連動させて大スプロケット5を回転させる駆動鎖6と、大スプロケット5と同軸に配設された上部スプロケット7と、下部機械室4に配設された下部スプロケット8と、上部スプロケット7及び下部スプロケット8に無端状に巻き掛けられ、駆動モータ16の駆動力により循環走行する踏段鎖9と、踏段鎖9に連結され、踏段鎖9の循環走行に連動してエスカレータ1の一方の乗降口11aと他方の乗降口11bの間を循環走行する複数の踏段10と、エスカレータ1の動作全般の制御を行う制御手段としてのエスカレータ制御盤12と、を備えている。
なお、図1において、踏段10は一部のみを図示している。
【0017】
エスカレータ制御盤12は、演算制御手段としてのCPU(図示せず)、CPUにエスカレータ1の動作を制御させるプログラムが書き込まれたROM(図示せず)、及びCPUが行う各種演算のワーキングエリアに用いられるRAM(図示せず)などを有している。
【0018】
次いで、駆動機15の詳細について説明する。
図2において、減速機17は、駆動モータ16の図示しないモータ軸の一端が挿入される筺体18と、モータ軸のトルクが伝達されるように構成され、モータ軸に連動して回転する出力軸19と、出力軸19の一端側に同軸に固定された小スプロケット14と、を備える。なお、出力軸19の一端側は、筺体18から延出されている。
【0019】
また、制動装置20Aは、図3に示されるように、駆動モータ16の駆動力が伝達されて、軸まわりに回転する制動軸21と、制動軸21に取り付けられるスプラインハブ31Aと、制動軸21の軸方向に移動可能にスプラインハブ31Aにスプライン嵌め合いされたハブ嵌合部材35、及び両面にブレーキライニング37が装着され、ハブ嵌合部材35に着脱自在に取り付けられるインナディスク本体36Aを有するインナディスク30Aとを備えている。また、制動装置20Aは、インナディスク30Aの一側に配置されるアウタディスク40と、インナディスク30Aを介してアウタディスク40と相対し、制動軸21の軸方向に移動可能に配置されるアーマチュア50と、アーマチュア50をアウタディスク40側に付勢する付勢制動手段としてのコイルばね60と、コイルばね60の付勢力に抗してアーマチュア50をインナディスク本体36Aから離反させる電磁力を発生させる制動解除手段70と、制動解除手段70の電磁力の発生を制御する制動制御手段としてのエスカレータ制御盤12とを備えている。
【0020】
スプラインハブ31Aは、円柱状の基部32A及び外周面にスプラインが形成されたスプライン形成部33Aを同軸に一体化して構成される。このとき、スプライン形成部33Aが、基部32Aの一端側に配置され、スプラインは、スプライン形成部33Aの外周部に、スプライン形成部33Aの周方向に所定の間隔で、かつ軸方向に延在するように形成されている。
また、基部32Aの他面に開口する断面円形の凹部32aが、基部32Aの軸心に中心を一致させて形成されている。
【0021】
また、ハブ嵌合部材35は、スプライン形成部33Aを嵌め合わせ可能な壁面形状のハブ嵌合穴35aを有する平板リング状に形成されている。なお、ハブ嵌合穴35aの穴中心が、ハブ嵌合部材35の軸心に一致している。
また、ハブ嵌合部材35には、その厚み方向に貫通する取り付け孔(図示せず)が、周方向に所定のピッチで形成されている。
【0022】
また、インナディスク本体36Aは、その中心にスプライン形成部33Aの外形より大きな直径の囲繞孔36aを有する平板リング状に形成されている。
また、インナディスク本体36Aの内周縁部近傍には、ねじ孔(図示せず)が周方向に、取り付け孔と同じピッチで形成されている。
なお、インナディスク本体36Aの中心とねじ孔の中心との間の距離は、ハブ嵌合部材35の中心と取り付け孔の中心との間の距離に一致している。
【0023】
また、ブレーキライニング37は、インナディスク本体36Aの外径に一致する外径を有し、かつインナディスク本体36Aの内径より大きな内径の平板リング状に形成されている。
なお、後述するように、インナディスク本体36Aは、ハブ嵌合部材35に第1連結ボルト39aにより着脱自在に取り付けられ、インナディスク本体36Aとハブ嵌合部材35によりインナディスク30Aが構成される。
【0024】
アウタディスク40は、中心に作業穴40aを有する平板リング状に形成されている。
作業穴40aの直径は、ハブ嵌合部材35の外径より大きく形成されている。
また、アウタディスク40の外周縁部近傍には、厚み方向に貫通する複数のボルト挿通孔40bが、周方向に所定のピッチで形成されている。
【0025】
また、アーマチュア50は、中心に囲繞孔50aを有する平板リング状に形成されている。さらに、アーマチュア50の外周縁部近傍には、厚み方向に貫通する複数のボルト挿通孔50bが、周方向に所定のピッチで形成されている。
ボルト挿通孔40bとボルト挿通孔50bの配設ピッチは、同一ピッチであり、また、アウタディスク40の軸心からボルト挿通孔40bの孔中心までの距離は、アーマチュア50の軸心からボルト挿通孔50bの孔中心までの距離に一致している。
【0026】
制動解除手段70は、囲繞孔71aが同心に形成された円柱形状のヨーク71、及びヨーク71に支持された電磁コイル72により構成されている。
図しないが、ヨーク71には、その一端面に環状に開口する環状溝が、囲繞孔71aに同心に形成され、また、ヨーク71の一面の外周縁部近傍に開口する複数のばね収納穴が、ヨーク71の周方向に所定のピッチで、かつ軸方向に所定の深さに形成されている。
そして、電磁コイル72は、ヨーク71に形成された環状溝に嵌装されて、ヨーク71に支持されている。
【0027】
次いで、駆動機の制動装置20Aの各構成の取り付け構造について説明する。
電磁コイル72が取り付けられたヨーク71は、その一面を筺体18と逆側に向け、囲繞孔71aが制動軸21を囲繞するように、他面を筺体18に固定されている。
【0028】
そして、基部32Aの凹部32aに、筺体18から延出された制動軸21の一端側が嵌められ、スプラインハブ31Aは、制動軸21の回転に連動して回転するように、制動軸21に固定されている。このとき、スプラインハブ31Aの軸心が、制動軸21の軸心に一致されるので、スプラインハブ31Aの重心が、制動軸21の軸心上に位置する。
【0029】
また、複数のスタットボルト80が、軸方向を制動軸21の軸方向に平行にしてヨーク71の一面の外周近傍から突出するように、ヨーク71の周方向に、所定のピッチで締着固定されている。このとき、スタットボルト80の配設ピッチは、アーマチュア50に形成されたボルト挿通孔50b及びアウタディスク40に形成されたボルト挿通孔40bのピッチと同じピッチとなっている。
【0030】
そして、アーマチュア50のボルト挿通孔50bにスタットボルト80が挿入されて、アーマチュア50がスタットボルト80に支持されている。これにより、アーマチュア50は、スプラインハブ31Aを囲繞するように配置されて、スタットボルト80の軸方向に、言い換えれば制動軸21の軸方向に移動可能になっている。
【0031】
また、ハブ嵌合部材35のハブ嵌合穴35aにスプライン形成部33Aが嵌められて、ハブ嵌合部材35とスプライン形成部33Aとが連結されている。このとき、ハブ嵌合部材35の中心が、スプラインハブ31Aの軸心に一致する。つまり、ハブ嵌合部材35の重心が、制動軸21の軸心上に位置する。
【0032】
また、ブレーキライニング37がインナディスク本体36Aの一面及び他面に取り付けられている。そして、インナディスク本体36Aが、スプラインハブ31Aを囲繞し、アーマチュア50の一面に他面を相対させて配置されている。
【0033】
さらに、第1連結ボルト39aの先端側が、ハブ嵌合部材35に形成された図示しない取り付け孔に挿通され、さらに、インナディスク本体36Aに形成された図示しないねじ孔に螺着されている。これにより、ハブ嵌合部材35とインナディスク本体36Aとが第1連結ボルト39aにより連結固定される。このように制動軸21に対して支持されるハブ嵌合部材35及びインナディスク本体36Aからなるインナディスク30Aは、スプラインハブ31A及び制動軸21と供回りするとともに、制動軸21の軸方向に移動可能になる。
【0034】
また、アウタディスク40のボルト挿通孔40bに、スタットボルト80が挿通され、アウタディスク40が、インナディスク本体36Aの一面とブレーキライニング37を介して相対するように配置されている。つまり、インナディスク本体36Aの両面に取り付けられたブレーキライニング37が、アーマチュア50の一面及びアウタディスク40の他面と相対する。
【0035】
さらに、アウタディスク40は、その一面側及び他面側からスタットボルト80に螺合されたナット84により、スタットボルト80の軸方向の所定部位に固定されている。つまり、アウタディスク40は、制動軸21の軸まわりの回転、及び軸方向の移動が規制された状態で、スタットボルト80を介してヨーク71に固定支持されている。
【0036】
また、コイルばね60が、アーマチュア50の他面とヨーク71に形成した図示しないばね収納穴の底との間に縮設され、アーマチュア50をアウタディスク40側に付勢している。
【0037】
また、アーマチュア50がコイルばね60の付勢力により、アウタディスク40側に押しつけられたとき、図3に示されるようにアーマチュア50とヨーク71との間に所定の微小隙間が形成されるように、アウタディスク40のスタットボルト80の軸方向の位置が調整されている。
【0038】
また、詳細に図示しないが、エスカレータ制御盤12は、電磁コイル72への通電を制御可能に、言い換えれば、制動解除手段70が発生する電磁力を制御可能に電磁コイル72に接続されている。
【0039】
以上のように構成された制動装置20Aによるエスカレータ1の駆動機15の制動とその解除動作について説明する。
エスカレータ制御盤12は、踏段10を走行させる場合、電磁コイル72及び駆動モータ16に給電する。このとき、アーマチュア50をインナディスク本体36Aから離反させる電磁力が働くので、インナディスク本体36Aは、アウタディスク40とアーマチュア50との間に加圧されることなく配置される。これに伴い、インナディスク本体36Aに取り付けられたブレーキライニング37とアーマチュア50やアウタディスク40との摩擦抵抗がなくなるので、制動軸21及びスプラインハブ31Aと共に回転されるインナディスク30Aは、制動をかけられることなく回転する。つまり、制動軸21に回転トルクを伝達する駆動機15に制動がかけられることはない。
なお、踏段10が駆動モータ16の駆動に連動して走行するように構成されている。
【0040】
エスカレータ制御盤12は、踏段10の走行を停止するとき、駆動モータ16への給電を停止させるが、制動軸21は慣性により回転し続けようとする。このとき、エスカレータ制御盤12は、電磁コイル72への給電も遮断する。電磁コイル72への給電が遮断されると、コイルばね60の付勢力により、アーマチュア50がインナディスク本体36Aをアウタディスク40に押し付ける方向に移動し、インナディスク本体36Aがアーマチュア50とアウタディスク40との間にブレーキライニング37を介して加圧挟持される。これに伴い、アーマチュア50及びアウタディスク40とブレーキライニング37との摩擦力が発生してインナディスク30Aに制動がかけられ、インナディスク30Aの回転が停止される。つまり、制動軸21に回転トルクを伝達する駆動機15に制動がかけられる。
【0041】
この実施の形態1の駆動機の制動装置20Aによれば、駆動機15の駆動力が伝達されて軸まわりに回転する制動軸21に取り付けられるスプラインハブ31Aと、スプラインハブ31Aにスプライン嵌め合いされるハブ嵌合部材35、及び両面にブレーキライニング37が装着され、ハブ嵌合部材35に着脱自在に取り付けられるインナディスク本体36Aを有し、制動軸21の軸方向に移動可能なインナディスク30Aと、インナディスク本体36Aと相対して配置されるアウタディスク40とを備え、アウタディスク40には、ハブ嵌合部材35及びスプラインハブ31Aが通過可能な大きさの作業穴40aが形成されている。
【0042】
これにより、スプラインハブ31A及びスプラインハブ31Aに嵌められるハブ嵌合部材35は、制動軸21に対し、作業穴40aを介して分離させて、スプラインハブ31Aとハブ嵌合部材35の嵌め合い部を露出させることができる。これにより、スプラインハブ31Aとハブ嵌合部材35との嵌め合い部の定期的な点検や手入れを、アウタディスク40を取り外したり、スプラインハブ31Aやハブ嵌合部材35を除く制動装置20Aの主要構成を分解したりすることなしに行うことができる。
また、スプラインハブ31A及びハブ嵌合部材35の点検や手入れ後に、再度装置を組み立てる際、コイルばね60の付勢力によりインナディスク本体36Aがアーマチュア50とアウタディスク40との間に加圧挟持されているときに、アーマチュア50とヨーク71との間に微小な所定隙間をあけるためのアウタディスク40の位置調整を省略できる。
以上のように、駆動機の制動装置20Aによれば、スプラインハブ31A及びハブ嵌合部材35の点検や手入れの作業負荷を著しく軽減できる。
【0043】
また、スプラインハブ31Aは、嵌めこみ式に制動軸21に取り付けられ、スプラインハブ31A及びハブ嵌合部材35のそれぞれは、制動軸21及びスプラインハブ31Aのそれぞれに嵌められたときに、制動軸21の軸心上に、重心が位置する形状を有している。従って、スプラインハブ31A及びハブ嵌合部材35のそれぞれを、制動軸21及びスプラインハブ31Aのそれぞれに取り付けるときの位置決めが容易となり、さらに、スプラインハブ31A及びハブ嵌合部材35の回転軸の偏心に起因する基部32Bの振動を抑制できる。
【0044】
実施の形態2.
図4はこの発明の実施の形態2に係る乗客コンベアの駆動機の制動装置の断面図である。
なお、図4において、上記実施の形態1と同一または相当部分には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0045】
図4において、駆動機の制動装置20Bは、スプラインハブ31Aに代えスプラインハブ31Bを有し、インナディスク30Aに代え、インナディスク30Bを有する他は駆動機の制動装置20Aと同様に構成されている。
【0046】
スプラインハブ31Bは、別体の基部32B及びスプライン形成部33Bにより構成され、基部32Bとスプライン形成部33Bとは、第2連結ボルト39bを用いて互い連結固定される。
基部32Bは、円柱状の軸挿入部86と、軸挿入部86の一端から径方向に周方向全域に亘って径方向に延出されるフランジ部87とにより構成される。また、軸挿入部86には、制動軸21の直径に対応する内径を有し、他端面に開口する断面円形の凹部86aが所定の深さで形成されている。このとき、凹部86aは、その中心が、基部32Bの軸心上に位置するように形成されている。
フランジ部87には、厚み方向に貫通するねじ孔(図示せず)が周方向に所定のピッチで形成されている。
【0047】
スプライン形成部33Bは、フランジ部87の直径に対応する外径を有する円盤形状に作製されている。スプライン形成部33Bには、中心から所定距離離れた部位に、厚み方向に貫通する取り付け孔(図示せず)が、周方向に所定のピッチで形成されている。
なお、フランジ部87における軸心とねじ孔の中心との間の距離は、スプライン形成部33Bにおける軸心と取り付け孔の中心との間の距離に一致している。
また、アウタディスク40の作業穴40aの内径は、スプライン形成部33Bの最大の外径よりも大きくなっている。つまり、作業穴40aを介して、スプライン形成部33Bやスプライン形成部33Bを通過させることが可能になっている。
【0048】
また、インナディスク30Bは、その中心に穴中心が一致し、スプライン形成部33Bを嵌め合わせ可能な壁面形状のハブ嵌合穴30aを有する平板リング状に形成されている。
【0049】
次いで、駆動機の制動装置20Bの各構成の取り付け構造について説明する。
軸挿入部86の凹部86aに、減速機17の筺体18から突出された制動軸21の一端側が嵌められて、基部32Bが、制動軸21の回転に連動して回転されるようになっている。
このとき、凹部86aは、その中心が、基部32Bの軸心上に位置するように形成されているので、基部32Bの回転軸が、制動軸21の軸心に一致し、制動軸21の回転に連動して基部32Bが回転したときの基部32Bの振動が抑制される。
【0050】
また、フランジ部87に形成された図示しないねじ孔に、スプライン形成部33Bに形成された図示しない取り付け孔を合わせて、取り付け孔に挿通した第2連結ボルト39bをねじ孔に螺着し、フランジ部87とスプライン形成部33Bとを連結固定して、スプラインハブ31Bを一体化している。
【0051】
そして、インナディスク30Bのハブ嵌合穴30aとスプライン形成部33Bとが嵌め合わされて、インナディスク30Bとスプライン形成部33Bとが連結されている。このとき、スプラインの方向は、制動軸21の軸方向に一致されるので、インナディスク30Bは、制動軸21の軸方向に移動可能である。
【0052】
制動装置20Aの他の組み立て構造は、制動装置20Aと同様である。
【0053】
また、制動装置20Bによる駆動機15の制動動作は、制動装置20Aによる駆動機15の制動動作と同様に説明される。
【0054】
この実施の形態2の駆動機の制動装置20Bによれば、スプラインハブ31Bが、駆動機15の駆動力が伝達されて軸まわりに回転する制動軸21に取り付けられる基部32B、及び基部32Bに着脱自在に取り付けられたスプライン形成部33Bにより構成されている。そして、インナディスク30Bが、スプライン形成部33Bにスプライン嵌め合いにより取り付けられている。
そして、インナディスク30Bと相対して配置されるアウタディスク40には、スプライン形成部33Bが通過可能な大きさの作業穴40aが形成されている。
【0055】
従って、スプライン形成部33Bは、作業穴40aを介した作業により、制動軸21に支持された基部32Bに着脱することが可能となる。また、インナディスク30Bのスプライン形成部33Bへの嵌合部は、スプライン形成部33Bを取り外した後、作業穴を介して点検や手入れ可能である。
【0056】
つまり、実施の形態1と同様、スプラインハブ31Bとスプラインハブ31Bに嵌合されるインナディスク30Bとの嵌め合い部の定期的な点検や手入れを、アウタディスク40を取り外したり、スプラインハブ31Bを除く制動装置20Bの主要構成を分解したりすることなしに行うことができる。また、スプラインハブ31Bとインナディスク30Bとの嵌め合い部の点検や手入れ後に、再度装置を組み立てる際、コイルばね60の付勢力によりインナディスク30Bがアーマチュア50とアウタディスク40との間に加圧挟持されているときに、アーマチュア50とヨーク71との間に微小な所定隙間をあけるためのアウタディスク40の位置調整を省略できる。
以上のように、駆動機の制動装置20Bによれば、スプラインハブ31B及びスプラインハブ31Bに嵌合されるインナディスク30Bとの嵌め合い部の点検や手入れの作業負荷を著しく軽減できる。
【0057】
また、スプラインハブ31Bの基部32Bは、嵌め込み式に制動軸21に取り付けられ、制動軸21と嵌め合わされた時に制動軸21の軸心上に重心が位置するように形成されている。
従って、基部32Bを制動軸21に取り付けるときの位置決めが容易となり、さらに、基部32Bが制動軸21とともに回転する際、基部32Bの回転軸の偏心に起因する基部32Bの振動を抑制できる。
【0058】
さらに、スプライン形成部33Bの軸心が、制動軸21の軸心に一致されるので、スプライン形成部33Bの重心が、制動軸21の軸心上に位置し、スプライン形成部33Bの回転軸の偏心に起因するスプライン形成部33Bの振動を抑制できる。
【0059】
なお、上記実施の形態1,2では、制動装置30A,30Bは、エスカレータ1の駆動機15に制動をかけるものとして説明したが、制動装置30A,30Bは、エスカレータ1の駆動機15に制動をかけるものに限定されず、エスカレータ1に限らず、他の装置に用いられる駆動機全般に制動をかけるものに適用できる。
【符号の説明】
【0060】
15 駆動機、21 制動軸、31A,31B スプラインハブ、35 ハブ嵌合部材、30A,30B インナディスク、32B 基部、33B スプライン形成部、35 ハブ嵌合部材、36A インナディスク本体、37 ブレーキライニング、40 アウタディスク、50 アーマチュア、60 コイルばね(付勢制動手段)、70 制動解除手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動機の駆動力が伝達されて軸まわりに回転する制動軸に取り付けられるスプラインハブと、
上記スプラインハブにスプライン嵌め合いされるハブ嵌合部材、及び両面にブレーキライニングが装着され、上記ハブ嵌合部材に着脱自在に取り付けられるインナディスク本体を有し、上記制動軸の軸方向に移動可能なインナディスクと、
上記インナディスク本体の一面と相対するように固定されるアウタディスクと、
上記インナディスク本体を介して上記アウタディスクと相対するように配置され、上記制動軸の軸方向に移動可能に配設されたアーマチュアと、
上記アーマチュアを上記アウタディスク側に付勢して上記インナディスク本体を上記アーマチュアと上記アウタディスクとの間に加圧挟持させて上記インナディスクに制動をかける付勢制動手段と、
上記付勢制動手段の付勢力に抗して上記アーマチュアを上記インナディスク本体から離反させる電磁力を発生させる制動解除手段と
を備え、
上記アウタディスクには、上記ハブ嵌合部材が通過可能な大きさの作業穴が形成されていることを特徴とする駆動機の制動装置。
【請求項2】
上記スプラインハブは、嵌めこみ式に上記制動軸に取り付けられ、
上記スプラインハブ及び上記ハブ嵌合部材のそれぞれは、上記制動軸及び上記スプラインハブに嵌められたときに、上記制動軸の軸心上に、重心が位置する形状を有することを特徴とする請求項1に記載の駆動機の制動装置。
【請求項3】
駆動機の駆動力が伝達されて軸まわりに回転する制動軸に取り付けられる基部、及び上記基部に着脱自在に取り付けられ、外周部にスプラインが形成されたスプライン形成部を有するスプラインハブと、
両面にブレーキライニングが装着され、上記制動軸の軸方向に移動可能に上記スプライン形成部にスプライン嵌め合いされるインナディスクと、
上記インナディスクの一面と相対するように固定されるアウタディスクと、
上記インナディスクを介して上記アウタディスクと相対するように配置され、上記制動軸の軸方向に移動可能に配設されたアーマチュアと、
上記アーマチュアを上記アウタディスク側に付勢して上記インナディスクを上記アーマチュアと上記アウタディスクとの間に加圧挟持させて上記インナディスクに制動をかける付勢制動手段と、
上記付勢制動手段の付勢力に抗して上記アーマチュアを上記インナディスクから離反させる電磁力を発生させる制動解除手段と
を備え、
上記アウタディスクには、上記スプライン形成部が通過可能な大きさの作業穴が形成されていることを特徴とする駆動機の制動装置。
【請求項4】
上記基部は、嵌め込み式に上記制動軸に取り付けられ、上記制動軸と嵌め合わされた時に上記制動軸の軸心上に重心が位置するように形成されていることを特徴とする請求項3に記載の駆動機の制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−21622(P2012−21622A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161615(P2010−161615)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】