説明

駆動装置

【課題】昇圧コンバータのスイッチング素子の保護と電動機の駆動性能の向上とを図る。
【解決手段】昇圧コンバータ30のトランジスタT32の温度である素子温度Tconが低いほど低くなる傾向で、且つ、昇圧コンバータ30のリアクトルLに流れる電流であるリアクトル電流ILが大きいほど低くなる傾向に上限電圧VHlimを設定する。そして、駆動電圧系電力ライン32の電圧VHが上限電圧VHlim以下の範囲内で調節されるよう昇圧コンバータ30を制御する。これにより、素子温度Tconだけに基づいて上限電圧VHlimを設定するものに比して上限電圧VHlimをより適正に設定することができ、昇圧コンバータ30のトランジスタT32の保護とモータ22の駆動性能の向上とを図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置に関し、詳しくは、電動機と、二次電池と、スイッチング素子とリアクトルとを有しスイッチング素子のスイッチングによって二次電池の電力を昇圧して電動機に供給可能な昇圧コンバータと、駆動電圧系の電圧が上限電圧以下の範囲内で調節されるよう昇圧コンバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の駆動装置としては、モータと、スイッチング素子のスイッチングによってモータを制御するインバータと、バッテリと、バッテリからの電力を昇圧してインバータに供給可能な昇圧コンバータとを備えるものにおいて、インバータのスイッチング素子の温度が所定の閾値より高いときにはスイッチング素子の電源電圧(昇圧コンバータの昇圧後電圧)を制限せず、スイッチング素子の温度が所定の閾値以下のときにはスイッチング素子の電源電圧を制限するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、スイッチング素子の温度が低いほどスイッチング素子の耐圧が低くなることを考慮して、スイッチング素子の温度が所定の閾値以下のときにスイッチング素子の電源電圧を制限することにより、低温時のサージ発生によるスイッチング素子の耐圧超えを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−143293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の駆動装置では、昇圧コンバータのスイッチング素子の耐圧も、インバータのスイッチング素子の耐圧と同様に温度が低いほど低くなると考えられるから、インバータのスイッチング素子の温度に代えて、昇圧コンバータのスイッチング素子の温度が低いときに昇圧コンバータの昇圧後電圧を制限することも考えられる。しかしながら、昇圧コンバータのスイッチング素子の温度だけを用いて昇圧後電圧を制限した場合、サージ電圧が想定より低いときには、昇圧後電圧を必要以上に制限することになり、モータの駆動性能を必要以上に制限することになってしまう。
【0005】
本発明の駆動装置は、昇圧コンバータのスイッチング素子の保護と電動機の駆動性能の向上とを図ることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の駆動装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の駆動装置は、
電動機と、二次電池と、スイッチング素子とリアクトルとを有し該スイッチング素子のスイッチングによって前記二次電池が接続された電池電圧系の電力を昇圧して前記電動機が接続された駆動電圧系に供給可能な昇圧コンバータと、前記駆動電圧系の電圧が上限電圧以下の範囲内で調節されるよう前記昇圧コンバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置において、
前記制御手段は、前記スイッチング素子の温度が低いほど低くなる傾向で且つ前記リアクトルに流れる電流が大きいほど低くなる傾向に前記上限電圧を設定する手段である、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明の駆動装置では、昇圧コンバータのスイッチング素子の温度が低いほど低くなる傾向で且つ昇圧コンバータのリアクトルに流れる電流が大きいほど低くなる傾向に上限電圧を設定し、駆動電圧系の電圧が上限電圧以下の範囲内で調節されるよう昇圧コンバータを制御する。これにより、スイッチング素子の温度だけに基づいて上限電圧を設定するものに比して上限電圧をより適正に設定することができ、昇圧コンバータのスイッチング素子の保護と電動機の駆動性能の向上とを図ることができる。なお、スイッチング素子と上限電圧との関係は、スイッチング素子の温度が低いほどスイッチング素子の耐圧が低くなることに基づくものであり、リアクトルに流れる電流と上限電圧との関係は、リアクトルに流れる電流が大きいほどサージ電圧が大きくなることに基づくものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例としての駆動装置20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】上限電圧設定用マップの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の一実施例としての駆動装置20の構成の概略を示す構成図である。実施例の駆動装置20は、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載され、図示するように、永久磁石が埋め込まれたロータと三相コイルが巻回されたステータとを備える周知の同期発電電動機として構成されたモータ22と、モータ22を駆動するためのインバータ24と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ26と、インバータ24が接続された電力ライン(以下、駆動電圧系電力ラインという)32とバッテリ26が接続された電力ライン(以下、電池電圧系電力ラインという)34とに接続されて駆動電圧系電力ライン32の電圧VHを調節すると共に駆動電圧系電力ライン32と電池電圧系電力ライン34との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータ30と、装置全体をコントロールする電子制御ユニット50と、を備える。
【0012】
インバータ24は、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16と、トランジスタT11〜T16に逆方向に並列接続された6つのダイオードD11〜D16と、により構成されている。トランジスタT11〜T16は、駆動電圧系電力ライン32の正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側になるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータ22の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、インバータ24に電圧が作用している状態でトランジスタT11〜T16のオン時間の割合を調節することにより、三相コイルに回転磁界を形成でき、モータ22を回転駆動することができる。駆動電圧系電力ライン32の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ36が接続されている。
【0013】
昇圧コンバータ30は、2つのスイッチング素子としてのトランジスタT31,T32とトランジスタT31,T32に逆方向に並列接続された2つのダイオードD31,D32とリアクトルLとからなる昇圧コンバータとして構成されている。2つのトランジスタT31,T32は、それぞれ駆動電圧系電力ライン32の正極母線,駆動電圧系電力ライン32および電池電圧系電力ライン34の負極母線に接続されており、トランジスタT31,T32同士の接続点と電池電圧系電力ライン34の正極母線とにはリアクトルLが接続されている。したがって、トランジスタT31,T32をオンオフすることにより、電池電圧系電力ライン34の電力を昇圧して駆動電圧系電力ライン32に供給したり、駆動電圧系電力ライン32の電力を降圧して電池電圧系電力ライン34に供給したりすることができる。電池電圧系電力ライン34の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ38が接続されている。
【0014】
電子制御ユニット50は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポートを備える。電子制御ユニット50には、モータ22のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ22aからのモータ22のロータの回転位置θmや、モータ22の三相コイルのV相,W相に印加される相電流を検出する電流センサ23V,23Wからの相電流Iv,Iw,コンデンサ36の端子間に取り付けられた電圧センサ36aからの駆動電圧系電力ライン32の電圧VH,コンデンサ38の端子間に取り付けられた電圧センサ38aからの電池電圧系電力ライン34の電圧VL,昇圧コンバータ30のトランジスタT31,T32同士の接続点とリアクトルLとの間に取り付けられた電流センサ40からのリアクトル電流IL(リアクトルL側からトランジスタT31,T32側への電流を正とする),トランジスタT32の温度を検出する温度センサ42からの素子温度Tcon,バッテリ26の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧Vb,バッテリ26の出力端子に接続された電池電圧系電力ライン34に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流Ib(バッテリ26から放電する側を正とする),バッテリ26に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度Tbなどが入力ポートを介して入力されている。また、電子制御ユニット50からは、インバータ24のトランジスタT11〜T16へのスイッチング制御信号や昇圧コンバータ30のトランジスタT31,T32へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、電子制御ユニット50は、回転位置検出センサ22aからの回転位置θmに基づいてモータ22のロータの電気角θeや回転数Nmを演算したり、電流センサにより検出されたバッテリ26の充放電電流Ibに基づいてそのときのバッテリ26から放電可能な電力の容量の全容量に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ26を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。
【0015】
こうして構成された実施例の駆動装置20では、電子制御ユニット50は、バッテリ26の入出力制限Win,Woutの範囲内でモータ22から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm*を設定すると共に設定したトルク指令Tm*でモータ22が駆動されるようインバータ24のトランジスタT11〜T16をスイッチング制御すると共に、モータ22のトルク指令Tm*と回転数Nmとに応じた目標電圧VHtagを上限電圧VHlimで制限して電圧指令VH*を設定すると共に駆動電圧系電力ライン32の電圧VHが電圧指令VH*となるよう昇圧コンバータ30のトランジスタT31,T32をスイッチング制御する。以下、上限電圧VHlimの設定について説明する。
【0016】
上限電圧VHlimは、実施例では、温度センサ42からの素子温度Tconと電流センサ40からのリアクトル電流ILと上限電圧VHlimとの関係を予め定めて上限電圧設定用マップとして図示しないROMに記憶しておき、素子温度Tconとリアクトル電流ILとが与えられると記憶したマップから対応する上限電圧VHlimを導出して設定するものとした。上限電圧設定用マップの一例を図2に示す。上限電圧VHlimは、図示するように、素子温度Tconが低いほど低くなる傾向で、リアクトル電流ILが大きいほど低くなる傾向に設定するものとした。これは、素子温度Tconが低いほどトランジスタT32の耐圧Vdが低くなることと、リアクトル電流ILが大きいほどトランジスタT32に作用すると想定されるサージ電圧Vsが高くなることとを踏まえて、トランジスタT32に耐圧Vdを超える電圧が作用しないようにするためである。したがって、図2では、トランジスタT32の耐圧Vdよりサージ電圧Vsだけ低い電圧やそれより若干低い電圧となるよう素子温度Tconとリアクトル電流ILと上限電圧VHlimとの関係が定められているものとした。このように上限電圧VHlimを設定することにより、素子温度Tconだけに基づいて上限電圧VHlimを設定するものに比して上限電圧VHlimをより適正に設定することができる。そして、この上限電圧VHlimを用いて、駆動電圧系電力ライン32の電圧VHが上限電圧VHlim以下の範囲内で調節されるよう昇圧コンバータ30のトランジスタT31,T32を制御することにより、昇圧コンバータ30のトランジスタT32の保護とモータ22の駆動性能の向上とを図ることができる。
【0017】
以上説明した実施例の駆動装置20によれば、昇圧コンバータ30のトランジスタT32の温度である素子温度Tconが低いほど低くなる傾向で、且つ、昇圧コンバータ30のリアクトルLに流れる電流であるリアクトル電流ILが大きいほど低くなる傾向に上限電圧VHlimを設定し、駆動電圧系電力ライン32の電圧VHが上限電圧VHlim以下の範囲内で調節されるよう昇圧コンバータ30を制御するから、素子温度Tconだけに基づいて上限電圧VHlimを設定するものに比して上限電圧VHlimをより適正に設定することができ、昇圧コンバータ30のトランジスタT32の保護とモータ22の駆動性能の向上とを図ることができる。
【0018】
実施例の駆動装置20では、素子温度Tconとリアクトル電流ILと上限電圧VHlimとの関係を示す上限電圧設定用マップ(図2参照)に素子温度Tconとリアクトル電流ILとを適用して上限電圧VHlimを設定するものとしたが、これ以外の方法によって上限電圧VHlimを設定するものとしてもよく、例えば、素子温度Tconが低いほど低くなる傾向にトランジスタT32の耐圧Vdを推定すると共にリアクトル電流ILが大きいほど大きくなる傾向にサージ電圧Vsを推定し、推定したトランジスタT32の耐圧Vdから推定したサージ電圧Vsを減じた電圧やそれより若干低い電圧を上限電圧VHlimとして設定するものとしてもよい。
【0019】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータ22が「電動機」に相当し、バッテリ26が「二次電池」に相当し、昇圧コンバータ30が「昇圧コンバータ」に相当し、昇圧コンバータ30のトランジスタT32の温度である素子温度Tconが低いほど低くなる傾向で、且つ、昇圧コンバータ30のリアクトルLに流れる電流であるリアクトル電流が大きいほど低くなる傾向に上限電圧VHlimを設定し、駆動電圧系電力ライン32の電圧VHが上限電圧VHlim以下の範囲内で調節されるよう昇圧コンバータ30を制御する電子制御ユニット50が「制御手段」に相当する。
【0020】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0021】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、駆動装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0023】
20 駆動装置、22 モータ、22a 回転位置検出センサ、23V,23W 電流センサ、24 インバータ、26 バッテリ、30 昇圧コンバータ、32 駆動電圧系電力ライン、34 電池電圧系電力ライン、36 コンデンサ、36a 電圧センサ、38 コンデンサ、38a 電圧センサ、40 電流センサ、42 温度センサ、50 電子制御ユニット、D11〜D16,D31,D32 ダイオード、T11〜T16,T31,T32 トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、二次電池と、スイッチング素子とリアクトルとを有し該スイッチング素子のスイッチングによって前記二次電池が接続された電池電圧系の電力を昇圧して前記電動機が接続された駆動電圧系に供給可能な昇圧コンバータと、前記駆動電圧系の電圧が上限電圧以下の範囲内で調節されるよう前記昇圧コンバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置において、
前記制御手段は、前記スイッチング素子の温度が低いほど低くなる傾向で且つ前記リアクトルに流れる電流が大きいほど低くなる傾向に前記上限電圧を設定する手段である、
ことを特徴とする駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−239332(P2012−239332A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107507(P2011−107507)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】