駐車ブレーキ制御装置
【課題】より的確に摩擦材と被摩擦材との間のクリアランスを一定に保て、精度の良いリリース制御が行えるようにする。
【解決手段】リリース制御時に、モータ電流IMOTORの変化に基づいてEPB2により発生させられるブレーキ力が0となるタイミングを検出すると共に、ブレーキ力0となってからモータ駆動を停止するまでの時間となる第2リリース制御時間KTR2をブレーキ力0となったときのモータ電流IMOTORの大きさに応じて設定する。このため、温度等に起因するモータ負荷の変動に対応して第2リリース駆動時間KTR2を設定することができる。したがって、モータ負荷に対応して、ブレーキパッドとブレーキディスクとの間のクリアランスを一定にすることが可能となる。これにより、より的確にブレーキパッドとブレーキディスクとの間のクリアランスを一定に保て、精度の良いリリース制御が行える。
【解決手段】リリース制御時に、モータ電流IMOTORの変化に基づいてEPB2により発生させられるブレーキ力が0となるタイミングを検出すると共に、ブレーキ力0となってからモータ駆動を停止するまでの時間となる第2リリース制御時間KTR2をブレーキ力0となったときのモータ電流IMOTORの大きさに応じて設定する。このため、温度等に起因するモータ負荷の変動に対応して第2リリース駆動時間KTR2を設定することができる。したがって、モータ負荷に対応して、ブレーキパッドとブレーキディスクとの間のクリアランスを一定にすることが可能となる。これにより、より的確にブレーキパッドとブレーキディスクとの間のクリアランスを一定に保て、精度の良いリリース制御が行える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パーキングブレーキ(以下、EPB(Electric parking brake)という)のロック・リリース制御を行う駐車ブレーキ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、駐車時の車両の移動を規制するためにパーキングブレーキが用いられており、例えば、パーキングブレーキとして、操作レバーによってブレーキケーブルを引っ張ることで操作力をブレーキ機構に伝える手動式のものや、モータの回転力をブレーキ機構に伝える電動式のもの等がある。
【0003】
電動式のパーキングブレーキであるEPBでは、ロック時には、モータをロック側に回転(正回転)させてモータ回転力をブレーキ機構(アクチュエータ)に伝えると共に、ブレーキ力を発生させた状態でモータ駆動を停止させ、リリース時には、モータをリリース側に回転(逆回転)させることでブレーキ力を解除する。
【0004】
このようなロック・リリース制御が行われるEPBとして、例えば、特許文献1に示されるものがある。この特許文献1に示されたEPBでは、基本的にはリリース制御の終了を回転センサで検出されるモータ回転数に基づいて判定し、回転センサの故障時にはモータ電流に基づいて判定する。そして、リリース制御時にモータ電流が所定値以下となったときをブレーキ力0になったときとして、この時点から所定時間モータを駆動したのちモータを停止することで、リリース制御を終了している。すなわち、摩擦材であるブレーキパッドが被摩擦材であるブレーキディスクから離れてブレーキ力0になった時点から、所定時間モータを駆動することでブレーキパッドとブレーキディスクとの間に所定のクリアランスを設け、その後モータ駆動を終了させるようにしている。
【0005】
しかしながら、モータ電流は、温度などによるギア伝達効率の変化などによってばらつくため、特許文献1に示されたEPBのように、モータ電流が所定値以下になったときとブレーキ力0になったときとが必ずしも一致しない。このため、モータ電流が所定値以下になった時点から所定時間経過してモータ駆動を終了したときに、ブレーキパッドとブレーキディスクとの間に設けられるクリアランスが一定とならず、精度の良いリリース制御を行うことができない。
【0006】
そこで、特許文献2において、リリース制御時のモータ電流の変化(微分値)が所定値以下となった時点をブレーキ力0となったときと判定することで、精度良くリリース制御が行えるようにしている。すなわち、モータ電流の大きさは上記理由によってばらつくが、モータ電流の変化は上記理由によってばらつかないため、モータ電流の変化に基づいて正確にブレーキ力0となったときを判定できる。このため、ブレーキパッドとブレーキディスクとの間のクリアランスを一定にでき、精度の良いリリース制御を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−1151号公報
【特許文献2】特開2009−90854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、温度変化やナットの締め付け力等に起因するモータ負荷の変動に応じてモータ回転数が変動するため、ブレーキ力0になってから所定時間モータ駆動したときのモータ回転数が一定にならず、ブレーキパッドとブレーキディスクとの間のクリアランスを一定に保てなくなる可能性がある。このため、ブレーキパッドとブレーキディスクとの間のクリアランスを確保できず、ドライバに対してブレーキを解除したのにブレーキ力が残っているようなブレーキ引き摺り感を与えてしまうこともあり得る。
【0009】
本発明は上記点に鑑みて、より的確に摩擦材と被摩擦材との間のクリアランスを一定に保て、精度の良いリリース制御が行える駐車ブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、リリース制御手段(170)は、モータ(10)の駆動時に流れるモータ電流(IMOTOR)を取得し、該取得したモータ電流(IMOTOR)の微分値の絶対値が閾値(KC)を超えているか否かを判定する判定手段(320、530)と、判定手段(320、530)にてモータ電流(IMOTOR)の微分値の絶対値が閾値(KC)を超えていないと判定されると、当該判定されたときのモータ電流(IMOTOR)に基づいて、当該判定されたときからモータ(10)の駆動を停止するまでの時間であるリリース駆動時間(KTR2)を設定する駆動時間設定手段(330、560)と、駆動時間設定手段(330、560)にて設定されたリリース駆動時間(KTR2)を計測し、判定手段(320、530)にてモータ電流(IMOTOR)の微分値の絶対値が閾値(KC)を超えていないと判定されたときから、リリース駆動時間(KTR2)が経過したときにモータ(10)の駆動を停止する駆動停止手段(340、360、570、590)と、を含んでいることを特徴としている。
【0011】
このような構成により、リリース制御時に、モータ電流(IMOTOR)の微分値に基づいてEPB(2)により発生させられるブレーキ力が0となるタイミングを検出すると共に、ブレーキ力0となってからモータ駆動を停止するまでの時間となるリリース制御時間(KTR2)をブレーキ力0となったときのモータ電流(IMOTOR)の大きさに応じて設定している。このため、温度等に起因するモータ負荷の変動に対応してリリース駆動時間(KTR2)を設定すると良い。
【0012】
したがって、モータ負荷に対応して、摩擦材(11)と被摩擦材(12)との間のクリアランスを確保することが可能となる。これにより、より的確に摩擦材(11)と被摩擦材(12)との間のクリアランスを確保し、精度の良いリリース制御が行える駐車ブレーキ制御装置とすることが可能となる。
【0013】
具体的には、請求項2に記載したように、駆動時間設定手段(330、560)では、リリース駆動時間(KTR2)をモータ電流(IMOTOR)の絶対値が大きいほど長い時間に設定することができる。
【0014】
このように、モータ電流(IMOTOR)の絶対値が大きいほど、バラツキによって生じているモータ負荷が大きく、モータ回転数が低下していると考えられるため、リリース駆動時間(KTR2)を長い時間に設定することができる。
【0015】
例えば、このような駐車ブレーキ制御装置は、請求項3に記載したように、モータ(10)が回転駆動されると、モータ(10)の回転運動が直線運動に変換されて直線移動させられる推進軸(18)を有し、該推進軸(18)の移動により、モータ(10)が正回転駆動されるときには摩擦材(11)を被摩擦材(12)に向かう方向に移動させてパーキングブレーキによるブレーキ力を発生させ、モータ(10)が逆回転駆動されるときには摩擦材(11)を被摩擦材(12)から離れる方向に移動させてパーキングブレーキによるブレーキ力を低減させるEPB(2)と、ドライバによってブレーキペダル(3)が操作されることによりブレーキ液収容室(14a)内にホイールシリンダ圧が発生されると、摩擦材(11)が被摩擦材(12)に向かう方向に移動してブレーキ力を発生させるサービスブレーキ(1)とを有し、推進軸(18)がブレーキ液収容室(14a)内において直線移動させられることで、摩擦材(11)を直線移動させるような構成のブレーキシステムに対して適用される。
【0016】
このような構成とされる場合、請求項4に記載されるように、ホイールシリンダ圧を圧力検出手段(25)によって検出し、駆動時間設定手段(560)にて、圧力検出手段(25)にて検出されたホイールシリンダ圧に基づいて、リリース駆動時間(KTR2)を延長する加算時間(KTR3)を設定し、駆動停止手段(570、590)にて、駆動時間設定手段(560)にて設定されたリリース駆動時間(KTR2)に加算時間(KTR3)を加算した時間を計測し、判定手段(530)にてモータ電流(IMOTOR)の微分値の絶対値が閾値(KC)を超えていないと判定されたときから、リリース駆動時間(KTR2)に加算時間(KTR3)を加算した時間が経過したときにモータ(10)の駆動を停止すると好ましい。
【0017】
このように、モータ負荷に応じて設定されるリリース駆動時間(KTR2)に対して、ドライバによるブレーキペダル(3)の踏み込みに応じて発生させられたW/C圧を加味した加算時間(KTR3)している。これにより、ドライバがブレーキペダル(3)を踏み込んでいてブレーキ力を発生させている場合には、その影響を考慮してリリース制御を行うことができ、ドライバがブレーキペダル(3)を踏み込んでいても、確実に摩擦材(11)と被摩擦材(12)との間のクリアランス不足を無くすことが可能となる。したがって、ブレーキ引き摺り感をドライバに与えることを防止できる。
【0018】
具体的には、駆動時間設定手段(560)にて、圧力検出手段(25)により検出されたホイールシリンダ圧が大きいほど、加算時間(KTR3)を長い時間に設定することができる。
【0019】
このように、ホイールシリンダ圧が大きいほど、ドライバのブレーキペダル(3)の踏み込みによって残っているブレーキ力が大きいため、その分、モータ(10)を長く駆動することで、クリアランス不足を無くすことが可能になる。
【0020】
請求項6に記載の発明では、リリース制御中に、圧力検出手段(25)により検出されたホイールシリンダ圧の最大値となるホイールシリンダ圧最大値(PWCMAX)を求めると共に、該ホイールシリンダ圧最大値(PWCMAX)を記憶する最大値記憶手段(540、550)を有し、駆動時間設定手段(560)にて、最大値記憶手段(540、550)に記憶されたホイールシリンダ圧最大値(PWCMAX)に基づいて、リリース駆動時間(KTR2)を延長する加算時間(KTR3)を設定することを特徴としている。
【0021】
このように、ホイールシリンダ圧最大値(PWCMAX)に基づいて、リリース駆動時間(KTR2)を延長する加算時間(KTR3)を設定すれば、ポンピングブレーキが為された場合であっても、加算時間(KTR3)を設定できる。このため、確実に摩擦材(11)と被摩擦材(12)との間のクリアランス不足を無くすことができ、ブレーキ引き摺り感をドライバに与えることを防止できる。
【0022】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる駐車ブレーキ制御装置が適用された車両用のブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。
【図2】図1に示したブレーキシステムに備えられる後輪系のブレーキ機構の断面模式図である。
【図3】駐車ブレーキ制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図4】ロック制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図5】リリース制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図6】モータ電流IMOTOR(n)の絶対値(|IMOTOR(n)|)と第2リリース駆動時間KTR2との関係を示すマップである。
【図7】ロック・リリース表示処理の詳細を示したフローチャートである。
【図8】駐車ブレーキ制御処理を実行したときのタイミングチャートである。
【図9】本発明の第2実施形態にかかる駐車ブレーキ制御装置が適用された車両用のブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。
【図10】リリース制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図11】W/C圧最大値PWCMAXと第3リリース駆動時間KTR3との関係を示すマップである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0025】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態では、後輪系にディスクブレーキタイプのEPBを適用している車両用ブレーキシステムを例に挙げて説明する。図1は、本実施形態にかかる駐車ブレーキ制御装置が適用された車両用のブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。また、図2は、ブレーキシステムに備えられる後輪系のブレーキ機構の断面模式図である。以下、これらの図を参照して説明する。
【0026】
図1に示すように、ブレーキシステムは、ドライバの踏力に基づいてブレーキ力を発生させるサービスブレーキ1と駐車時に車両の移動を規制するためのEPB2とが備えられている。
【0027】
サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに応じた踏力を倍力装置4にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ液圧をマスタシリンダ(以下、M/Cという)5内に発生させ、このブレーキ液圧を各車輪のブレーキ機構に備えられたホイールシリンダ(以下、W/Cという)6に伝えることでブレーキ力を発生させる。また、M/C5とW/C6との間にブレーキ液圧制御用のアクチュエータ7が備えられており、サービスブレーキ1により発生させるブレーキ力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行える構造とされている。
【0028】
アクチュエータ7を用いた各種制御は、ESC(Electronic Stability Control)−ECU8にて実行される。例えば、ESC−ECU8からアクチュエータ7に備えられる図示しない各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御するための制御電流を出力することにより、アクチュエータ7に備えられる油圧回路を制御し、W/C6に伝えられるW/C圧を制御する。これにより、車輪スリップの回避などを行い、車両の安全性を向上させる。例えば、アクチュエータ7は、各車輪毎に、W/C6に対してM/C5内に発生させられたブレーキ液圧もしくはポンプ駆動により発生させられたブレーキ液圧が加えられることを制御する増圧制御弁や、各W/C6内のブレーキ液をリザーバに供給することでW/C圧を減少させる減圧制御弁等を備えており、W/C圧を増圧・保持・減圧制御できる構成とされている。このアクチュエータ7の構成に関しては、従来より周知となっているため、ここでは詳細については省略する。
【0029】
一方、EPB2は、モータ10にてブレーキ機構を制御することでブレーキ力を発生させるものであり、モータ10の駆動を制御するEPB制御装置(以下、EPB−ECUという)9を有して構成されている。
【0030】
ブレーキ機構は、本実施形態のブレーキシステムにおいてブレーキ力を発生させる機械的構造であり、前輪系のブレーキ機構はサービスブレーキ1の操作によってブレーキ力を発生させる構造とされているが、後輪系のブレーキ機構は、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の構造とされている。前輪系のブレーキ機構は、後輪系のブレーキ機構に対して、EPB2の操作に基づいてブレーキ力を発生させる機構をなくした従来から一般的に用いられているブレーキ機構であるため、ここでは説明を省略し、以下の説明では後輪系のブレーキ機構について説明する。
【0031】
後輪系のブレーキ機構では、サービスブレーキ1を作動させたときだけでなくEPB2を作動させたときにも、図2に示す摩擦材であるブレーキパッド11を押圧し、ブレーキパッド11によって被摩擦材であるブレーキディスク12を挟み込むことにより、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間に摩擦力を発生させ、ブレーキ力を発生させる。
【0032】
具体的には、ブレーキ機構は、図1に示すキャリパ13内において、図2に示すようにブレーキパッド11を押圧するためのW/C6のボディ14に直接固定されているモータ10を回転させるとにより、モータ10の駆動軸10aに備えられた平歯車15を回転させ、平歯車15に噛合わされた平歯車16にモータ10の回転力を伝えることによりブレーキパッド11を移動させ、EPB2によるブレーキ力を発生させる。
【0033】
キャリパ13内には、W/C6およびブレーキパッド11に加えて、ブレーキパッド11に挟み込まれるようにしてブレーキディスク12の端面の一部が収容されている。W/C6は、シリンダ状のボディ14の中空部14a内に通路14bを通じてブレーキ液圧を導入することで、ブレーキ液収容室である中空部14a内にW/C圧を発生させられるようになっており、中空部14a内に回転軸17、推進軸18、ピストン19などを備えて構成されている。
【0034】
回転軸17は、一端がボディ14に形成された挿入孔14cを通じて平歯車16に連結され、平歯車16が回動させられると、平歯車16の回動に伴って回動させられる。この回転軸17における平歯車16と連結された端部とは反対側の端部において、回転軸17の外周面には雄ネジ溝17aが形成されている。一方、回転軸17の他端は、挿入孔14cに挿入されることで軸支されている。具体的には、挿入孔14cには、Oリング20と共に軸受け21が備えられており、Oリング20にて回転軸17と挿入孔14cの内壁面との間を通じてブレーキ液が漏れ出さないようにされながら、軸受け21により回転軸17の他端を軸支持している。
【0035】
推進軸18は、中空状の筒部材にて構成され、内壁面に回転軸17の雄ネジ溝17aと螺合する雌ネジ溝18aが形成されている。この推進軸18は、例えば回転防止用のキーを備えた円柱状もしくは多角柱状に構成されることで、回転軸17が回動しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられない構造になっている。このため、回転軸17が回動させられると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いにより、回転軸17の回転力を回転軸17の軸方向に推進軸18を移動させる力に変換する。推進軸18は、モータ10の駆動が停止されると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力により同じ位置で止まるようになっており、目標ブレーキ力になったときにモータ10の駆動を停止すれば、その位置に推進軸18を保持することができる。
【0036】
ピストン19は、推進軸18の外周を囲むように配置されるもので、有底の円筒部材もしくは多角筒部材にて構成され、外周面がボディ14に形成された中空部14aの内壁面と接するように配置されている。ピストン19の外周面とボディ14の内壁面との間のブレーキ液洩れが生じないように、ボディ14の内壁面にシール部材22が備えられ、ピストン19の端面にW/C圧を付与できる構造とされている。また、ピストン19は、回転軸17が回転しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられないように、推進軸18に回転防止用のキーが備えられる場合にはそのキーが摺動するキー溝が備えられ、推進軸18が多角柱状とされる場合にはそれと対応する形状の多角筒状とされる。
【0037】
このピストン19の先端にブレーキパッド11が配置され、ピストン19の移動に伴ってブレーキパッド11を紙面左右方向に移動させるようになっている。具体的には、ピストン19は、推進軸18の移動に伴って紙面左方向に移動可能で、かつ、ピストン19の端部(ブレーキパッド11が配置された端部と反対側の端部)にW/C圧が付与されることで推進軸18から独立して紙面左方向に移動可能な構成とされている。そして、推進軸18が初期位置(モータ10が回転させられる前の状態)のときに、中空部14a内のブレーキ液圧が付与されていない状態(W/C圧=0)であれば、図示しないリターンスプリングもしくは中空部14a内の負圧によりピストン19が紙面右方向に移動させられ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離間させられるようになっている。また、モータ10が回転させられて推進軸18が初期位置から紙面左方向に移動させられているときにW/C圧が0になると、移動した推進軸18によってピストン19の紙面右方向への移動が規制され、ブレーキパッド11がその場所で保持される。
【0038】
このように構成されたブレーキ機構では、サービスブレーキ1が操作されると、それにより発生させられたW/C圧に基づいてピストン19が紙面左方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、ブレーキ力を発生させる。また、EPB2が操作されると、モータ10が駆動されることで平歯車15が回転させられ、それに伴って平歯車16および回転軸17が回転させられるため、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12側(紙面左方向)に移動させられる。そして、それに伴ってピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、ブレーキ力を発生させる。このため、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用のブレーキ機構とすることが可能となる。
【0039】
また、サービスブレーキ1が作動されることでW/C圧が発生させられている状態でEPB2が操作されると、W/C圧によってピストン19が既に紙面左方向に移動させられているため、推進軸18に掛かる負荷が軽減される。このため、推進軸18がピストン19に当接するまではモータ10はほぼ無負荷状態で駆動される。そして、推進軸18がピストン19に当接するとピストン19を紙面左方向の押す押圧力が加えられ、EPB2によるブレーキ力が発生させられるようになっている。
【0040】
EPB−ECU9は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムにしたがってモータ10の回転を制御することにより駐車ブレーキ制御を行うものである。このEPB−ECU9が本発明の駐車ブレーキ制御装置に相当する。EPB−ECU9は、例えば車室内のインストルメントパネル(図示せず)に備えられた操作スイッチ(SW)23の操作状態に応じた信号等を入力し、操作SW23の操作状態に応じてモータ10を駆動する。さらに、EPB−ECU9は、インストルメントパネルに備えられたロック/リリース表示ランプ24に対してモータ10の駆動状態に応じて、ロック中であるかリリース中であるかを示す信号を出力する。
【0041】
具体的には、EPB−ECU9は、モータ10に流される電流(モータ電流)をモータ10の上流側もしくは下流側で検出するモータ電流検出、ロック制御を終了させるときの目標モータ電流(目標電流値)を演算する目標モータ電流演算、モータ電流が目標モータ電流に達したか否かの判定、操作SW23の操作状態に基づくモータ10の制御など、ロック・リリース制御を実行するための各種機能部を有している。このEPB−ECU9により操作SW23の状態やモータ電流に基づいてモータ10を正回転や逆回転させたりモータ10の回転を停止させることで、EPB2をロック・リリースする制御を行う。
【0042】
続いて、上記のように構成されたブレーキシステムを用いてEPB−ECU9が上記各種機能部および図示しない内蔵のROMに記憶されたプログラムに従って実行する駐車ブレーキ制御について説明する。図3は、駐車ブレーキ制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【0043】
まず、ステップ100において時間計測用カウンタやフラグリセットなどの一般的な初期化処理を行ったのち、ステップ110に進み、時間tが経過したか否かを判定する。ここでいう時間tは、制御周期を規定するものである。つまり、初期化処理が終了してからの時間もしくは前回本ステップで肯定判定されたときからの経過時間が時間tが経過するまで繰り返し本ステップでの判定が行われるようにすることで、時間tが経過するごとに駐車ブレーキ制御が実行されるようにしている。
【0044】
続く、ステップ120では、操作SW23がオンしているか否かを判定する。操作SW23がオンの状態とはドライバがEPB2を作動させてロック状態にしようとしていることを意味し、オフの状態とはドライバがEPB2をリリース状態にしようとしていることを意味している。このため、本ステップで肯定判定されればステップ130に進み、ロック状態フラグFLOCKがオンしているか否かを判定する。ここで、ロック状態フラグFLOCKとは、EPB2を作動させてロック状態になったときにオンされるフラグであり、このロック状態フラグFLOCKがオンになっているときには既にEPB2の作動が完了して所望のブレーキ力が発生させられている状態となる。したがって、ここで否定判定された場合にのみステップ140のロック制御処理に進み、肯定判定された場合には既にロック制御処理が完了しているためステップ150に進む。
【0045】
ロック制御処理では、モータ10を回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて所望のブレーキ力を発生させられる位置でモータ10の回転を停止し、この状態を維持するという処理を行う。図4にロック制御処理の詳細を示したフローチャートを示し、この図を参照してロック制御処理について説明する。
【0046】
まず、ステップ200では、ロック制御時間カウンタCTLが予め決められた最小ロック制御時間KTLを超えているか否かを判定する。ロック制御時間カウンタCTLとは、ロック制御が開始されてからの経過時間を計測するカウンタであり、ロック制御処理開始と同時にカウントを始める。最小ロック制御時間KTLとは、ロック制御に掛かると想定される最小時間(例えば、200ms)のことであり、モータ10の回転速度などに応じて予め決まる値である。後述するステップ210のように、モータ電流IMOTORが目標モータ電流IMTARGETに到達した時にEPB2が発生させたブレーキ力が所望の値に到達した、もしくは近づいたと判定するが、モータ10への電流供給初期時の突入電流などによりモータ電流IMOTORがその目標モータ電流IMTARGETを超えることもあり得る。このため、ロック制御時間カウンタCTLを最小ロック制御時間KTLと比較することで、制御初期時をマスクでき、突入電流などによる誤判定を防止することが可能となる。
【0047】
したがって、ロック制御時間カウンタCTLが最小ロック制御時間KTLを超えていない状態であれば、まだロック制御が継続されることになるため、ステップ220に進んでリリース状態フラグをオフすると共にロック制御時間カウンタCTLをインクリメントし、モータロック駆動をオン、つまりモータ10を正回転させる。これにより、モータ10の正回転に伴って平歯車15が駆動され、平歯車16および回転軸17が回転し、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12側に移動させられ、それに伴ってピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12側に移動させられる。
【0048】
一方、ステップ200で肯定判定されると、ステップ210に進み、今回の制御周期のときのモータ電流IMOTORが目標モータ電流IMTARGETを超えているか否かを判定する。モータ電流IMOTORはモータ10に加えられる負荷に応じて変動するが、本実施形態の場合にはモータ10に加えられる負荷はブレーキパッド11をブレーキディスク12に押し付けている押圧力に相当するため、モータ電流IMOTORが発生させた押圧力と対応した値となる。このため、モータ電流IMOTORが目標モータ電流IMTARGETを超えていれば発生させた押圧力により所望のブレーキ力を発生させられた状態、つまりEPB2によりブレーキパッド11の摩擦面がブレーキディスク12の内壁面にある程度の力で押さえ付けられた状態となる。したがって、本ステップで肯定判定されるまではステップ220の処理を繰り返し、肯定判定されるとステップ230に進む。
【0049】
そして、ステップ230において、ロックが完了したことを意味するロック状態フラグFLOCKをオンすると共にロック制御時間カウンタCTLを0にし、モータロック駆動をオフ(停止)する。これにより、モータ10の回転が停止され、回転軸17の回転が停止させられて、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力により、推進軸18が同じ位置に保持されるため、その時に発生させたブレーキ力が保持される。これにより、駐車中の車両の移動が規制される。このようにして、ロック制御処理が完了する。
【0050】
一方、図3のステップ120で否定判定された場合にはステップ160に進み、リリース状態フラグFRELがオンしているか否かを判定する。ここで、リリース状態フラグFRELとは、EPB2を作動させてリリース状態、つまりEPB2によるブレーキ力を解除した状態になったときにオンされるフラグであり、このリリース状態フラグFRELがオンになっているときには既にEPB2の作動が完了してブレーキ力が解除させられている状態となる。したがって、ここで否定判定された場合にのみステップ170のリリース制御処理に進み、肯定判定された場合には既にリリース制御処理が完了しているためステップ150に進む。
【0051】
リリース制御処理では、モータ10を回転させることによりEPB2を作動させ、EPB−ECU9にて発生させられているブレーキ力を解除するという処理を行う。図5にリリース制御処理の詳細を示したフローチャートを示し、この図を参照してリリース制御処理について説明する。
【0052】
まず、ステップ300では、第1リリース制御時間カウンタCTR1が予め決められた最小リリース駆動時間KTR1未満であるか否かを判定する。第1リリース制御時間カウンタCTL1とは、リリース制御が開始されてからの経過時間を計測するカウンタであり、リリース制御処理開始と同時にカウントを始める。最小リリース駆動時間KTR1とは、リリース制御に掛かると想定される最小時間(例えば、200ms)のことであり、モータ10の回転速度などに応じて予め決まる値である。後述するステップ320のように、前回の制御周期のときに検出されたモータ電流IMOTOR(n-1)と今回の制御周期に検出されたモータ電流IMOTOR(n)との差、つまりモータ電流IMOTORの微分値の絶対値に基づいてブレーキ力0になったことを検出しているが、モータ10への電流供給初期時の突入電流などによりその絶対値がブレーキ力0になったと判定する条件を満たすこともあり得る。このため、第1リリース制御時間カウンタCTR1を最小リリース駆動時間KTR1と比較することで、制御初期時をマスクでき、突入電流などによる誤判定を防止することが可能となる。
【0053】
したがって、リリース制御時間カウンタCTR1が最小リリース駆動時間KTR1未満の状態であれば、まだリリース制御が継続されることになるため、ステップ310に進んでロック状態フラグをオフすると共に第1リリース制御時間カウンタCTR1をインクリメントし、モータリリース駆動をオン、つまりモータ10を逆回転させる。これにより、モータ10の逆回転に伴って、回転軸17が回転され、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力に基づいて推進軸18がブレーキディスク12から離れる方向に移動させられる。これにより、ピストン19およびブレーキパッド11も同方向に移動させられる。
【0054】
一方、ステップ300において、リリース制御時間カウンタCTR1が最小リリース駆動時間KTR1以上であると判定されると、ステップ320に進む。そして、前回の制御周期のときに検出されたモータ電流IMOTOR(n-1)と今回の制御周期に検出されたモータ電流IMOTOR(n)との差の絶対値が閾値KCを超えているか否かを判定する。上述したように、モータ電流IMOTORが発生させた押圧力と対応した値となる。そして、リリース制御によってブレーキパッド11がブレーキディスク12から離れる方向に移動させられることにより押圧力が低下していくため、モータ電流IMOTORの絶対値が徐々に減少していく。このとき、モータ10を逆回転させる時に流れるモータ電流IMOTORが負の値で表されるとすると、モータ電流IMOTORが徐々に増加する。したがって、モータ電流IMOTOR(n-1)とモータ電流IMOTOR(n)の差の絶対値を求めることで、モータ負荷が変動している途中であるか否かが判る。よって、誤判定要因となるノイズを考慮しつつ、リリース制御によるモータ負荷の変動として想定されるモータ電流IMOTORの変化量以下の値に閾値KCを設定し、モータ電流IMOTOR(n-1)とモータ電流IMOTOR(n)の差の絶対値が閾値KC以下になったときに、モータ負荷が無くなってブレーキ力0になったとして判定する。
【0055】
このため、ステップ320で否定判定されるまでは、引き続きステップ310の処理を繰り返し実行し、ステップ320で肯定判定されるとステップ330に進む。
【0056】
ステップ330では、今回の制御周期に検出されたモータ電流IMOTOR(n)に基づいて第2リリース駆動時間KTR2を演算する。今回の制御周期においてブレーキ力0となったことから、今回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n)がほぼ無負荷になっていると想定されるモータ負荷に対応するモータ電流IMOTORであり、温度等に起因するモータ負荷の変動が現れた値となっている。このため、今回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n)の絶対値(|IMOTOR(n)|)に基づいて、ブレーキ力0となってからモータ駆動を停止するまでの時間である第2リリース駆動時間KTR2を求める。
【0057】
例えば、第2リリース駆動時間KTR2を図6に示すモータ電流IMOTOR(n)の絶対値(|IMOTOR(n)|)と第2リリース駆動時間KTR2との関係を示すマップもしくはこのマップと対応する関数式を利用して演算することができる。具体的には、図6に示すように、モータ電流IMOTOR(n)の絶対値(|IMOTOR(n)|)が大きくなるほど第2リリース駆動時間KTR2が大きな値とされる。これは、モータ電流IMOTOR(n)の絶対値(|IMOTOR(n)|)が大きいほどバラツキによって生じているモータ負荷が大きく、モータ回転数が低下していると考えられるためである。
【0058】
したがって、モータ電流IMOTOR(n)の絶対値(|IMOTOR(n)|)が大きいほど第2リリース駆動時間KTR2が長く設定され、ブレーキ力0となってからモータ駆動を停止するまでの時間が長くなる。このため、モータ負荷が大きいためにモータ回転数が低下したとしても、その分、モータ駆動時間を長くできるため、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランスを確保することが可能となる。
【0059】
そして、ステップ340に進み、ブレーキ力0になってからの経過時間を計測するカウンタである第2リリース制御時間カウンタCTR2が第2リリース駆動時間KTR2を超えたか否かを判定する。ここで否定判定されればステップ350に進み、ロック状態フラグをオフすると共に第1リリース制御時間カウンタCTR1を0にすると共に、第2リリース制御時間カウンタをインクリメントし、モータリリース駆動をオン、つまりモータ10を逆回転させる。これにより、ステップ310と同様の動作が行われ、ブレーキパッド11がブレーキディスク12から離されていく。
【0060】
この後、第2リリース駆動時間KTR2が経過してステップ340で肯定判定されると、ステップ360に進み、リリースが完了したことを意味するリリース状態フラグFRELをオンすると共に第1、第2リリース制御時間カウンタCTR1、CTE2を0にし、モータリリース駆動をオフする。したがって、モータ10の回転が停止され、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力により、ブレーキパッド11がブレーキディスク12から離れた状態のままで保持される。このようにして、リリース制御処理が完了する。
【0061】
なお、図5のステップ330に示した第2リリース制御時間KTR2の演算を行う処理は、ステップ320で否定判定されると、その後は演算周期毎に繰り返し行われる。このため、仮にブレーキ力0になってブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランスを広げている途中でモータ電流IMOTORが変動したとしても、その変動に対応して第2リリース制御時間KTR2を変化させられる。したがって、例えばモータ駆動による温度変化等に起因するモータ負荷変動にも対応して、第2リリース制御時間KTR2を可変にでき、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランスを一定にすることが可能となる。
【0062】
このようにして、ロック制御処理およびリリース制御処理が終了すると、図3のステップ150におけるロック・リリース表示処理を行う。図7にロック・リリース表示処理の詳細を示したフローチャートを示し、この図を参照してロック・リリース表示処理について説明する。
【0063】
ステップ400では、ロック状態フラグFLOCKがオンされているか否かを判定する。ここで肯定判定されればステップ405に進んでロック・リリース表示ランプ24を点灯させ、否定判定されればステップ410に進んでロック・リリース表示ランプ24を消灯する。このように、ロック状態であればロック・リリース表示ランプ24を点灯し、リリース状態もしくはリリース制御が開始された状態のときにはロック・リリース表示ランプ24を消灯する。これにより、ドライバにロック状態であるか否かを認識させることが可能となる。このようにして、ロック・リリース表示処理が完了し、これに伴って駐車ブレーキ制御処理が完了する。
【0064】
図8は、このような駐車ブレーキ制御処理を実行したときのタイミングチャートである。この図に示されるように、時点T1において操作SW23がオンされてロック制御が開始されると、モータロック駆動がオンされ、モータ10が正回転させられて推進軸18がブレーキパッド11側に移動させられる。これと同時に、リリース状態フラグFRELがオフになる。
【0065】
続いて、時点T2では最小ロック制御時間KTLが経過するまではモータ電流IMOTORの値に関わらずロック制御が継続させられるため、突入電流が発生してもロック制御が続けられる。そして、最小ロック制御時間KTLが経過したのち、時点T3においてブレーキパッド11とブレーキディスク12とが接触してこれらの間のクリアランスが無くなると、ブレーキ力が発生させられる。これにより、モータ10に対する負荷が発生するため、モータ電流IMOTORが上昇していき、時点T4においてモータ電流IMOTORが目標モータ電流IMTARGETに達すると、モータロック駆動が停止させられる。これと同時に、ロック状態フラグFLOCKがオンされる。
【0066】
このようにして、ロック制御が行われ、ブレーキパッド11がブレーキディスク12に押し付けられることで、所望のブレーキ力が発生させられる。
【0067】
次に、時点T5において操作SW23がオフされてリリース制御が開始されると、モータリリース駆動がオンされ、モータ10が逆回転させられて推進軸18がブレーキパッド11をブレーキディスク12から離す側に移動させられる。これと同時に、ロック状態フラグFLOCKがオフされる。
【0068】
続いて、最小リリース駆動時間KTR1が経過するまではモータ電流IMOTORの値に関わらずリリース制御が継続させられるため、突入電流が発生してもリリース制御が続けられる。そして、時点T6において最小リリース駆動時間KTR1が経過したのち、時点T7において前回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n-1)と今回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n)の差の絶対値が閾値KC以下になると、ブレーキ力0になったとして、第2リリース制御時間KTR2が経過するまでモータ駆動が続けられる。これにより、ブレーキパッド11がブレーキディスク12から離れていき、これらの間のクリアランスが広がっていく。この後、第2リリース制御時間KTR2が経過すると、モータリリース駆動が停止させられる。これと同時に、リリース状態フラグFRELがオンされる。
【0069】
このようにして、リリース制御が行われ、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランスが一定となり、必要なクリアランス量が確保される。
【0070】
以上説明したように、本実施形態では、リリース制御時に、モータ電流IMOTORの変化に基づいてEPB2により発生させられるブレーキ力が0となるタイミングを検出すると共に、ブレーキ力0となってからモータ駆動を停止するまでの時間となる第2リリース制御時間KTR2をブレーキ力0となったときのモータ電流IMOTORの大きさに応じて設定している。このため、温度等に起因するモータ負荷の変動に対応して第2リリース駆動時間KTR2を設定することができる。
【0071】
したがって、モータ負荷に対応して、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランスを一定にすることが可能となる。これにより、より的確にブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランスを一定に保て、精度の良いリリース制御が行えるEPB2を有する駐車ブレーキ制御装置とすることが可能となる。
【0072】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してブレーキシステムの構成およびリリース制御処理の方法を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0073】
EPB2のみによってブレーキ力を発生させている場合、上述した第1実施形態のようにEPB2のみのブレーキ力を考慮すれば良いが、ドライバがブレーキペダル3を踏み込んでいてブレーキ力を発生させている場合には、その影響を考慮してリリース制御を行うのが好ましい。このため、本実施形態では、ドライバがブレーキペダル3を踏んでいる場合にも対応できるリリース制御を実行する。
【0074】
図9は、本実施形態にかかる駐車ブレーキ制御装置が適用された車両用のブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。この図に示されるように、EPB−ECU9に対して圧力検出手段に相当するW/C圧センサ25の検出信号を入力し、操作SW23の操作状態やW/C圧に応じてEPB2によるロック・リリース制御でのモータ駆動を行う。
【0075】
図10は、リリース制御処理の詳細を示したフローチャートである。この図に示すように、まず、ステップ500では、図5のステップ300と同様に、第1リリース制御時間カウンタCTR1が予め決められた最小リリース駆動時間KTR1未満であるか否かを判定する。そして、ここで肯定判定されると、ステップ510に進んで後述するW/C圧最大値PWCMAXを0にした後、ステップ520に進み、図5のステップ310と同様の処理を行う。
【0076】
一方、ステップ500で否定判定されると、ステップ530に進み、図5のステップ320と同様に、前回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n-1)と今回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n)の差の絶対値が閾値KCを超えているか否かを判定する。そして、肯定判定されている間には、ステップ540に進み、現在記憶されているW/C圧最大値PWCMAXが今回の制御周期のW/C圧よりも大きいか否かを判定する。このとき、現在記憶されているW/C圧最大値PWCMAXが今回の制御周期のW/C圧PWCよりも大きければ、現在記憶されているW/C圧最大値PWCMAXを更新せずにステップ520に進み、今回の制御周期のW/C圧PWCが現在記憶されているW/C圧最大値PWCMAXよりも大きければ、ステップ550に進んでW/C圧最大値PWCMAXを今回の制御周期のW/C圧PWCに更新する。
【0077】
ここで、W/C圧最大値PWCMAXとは、リリース制御中に発生しているW/C圧の最大値のことである。リリース制御中にドライバによりブレーキペダル3が踏み込まれていると、前回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n-1)と今回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n)の差の絶対値に基づいてブレーキ力0と判定されたとしても、ブレーキペダル3の踏み込みにより発生させられたW/C圧に対応した分のブレーキ力が残っている。このため、発生しているW/C圧に応じてモータ駆動時間を長くするのが好ましい。ただし、ポンピングブレーキのように、ドライバがブレーキペダル3を繰り返し踏み込んだ場合には、そのうちのW/C圧が最大値となったときのW/C圧(=W/C圧最大値PWCMAX)に応じてモータ駆動時間を設定するのが好ましい。
【0078】
したがって、ステップ550でブレーキ力0と判定されるまでの間に発生したW/C圧の最大値をW/C圧最大値PWCMAXとして記憶している。
【0079】
そして、前回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n-1)と今回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n)の差の絶対値が閾値KC以下となって、ステップ530で否定判定されると、ステップ560に進み、図5のステップ330と同様に第2リリース駆動時間KTR2を求めるのに加え、さらに第3リリース駆動時間KTR3を求める。
【0080】
第3リリース駆動時間KTR3とは、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに応じて発生させられたW/C圧に対応するモータリリース駆動時間を延長する加算時間である。すなわち、この第3リリース駆動時間KTR3がモータ負荷に応じて設定されるモータリリース駆動時間である第2リリース駆動時間KTR2に対して加算されることで、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに応じて発生させられたW/C圧も加味したリリース駆動時間となる。
【0081】
例えば、第3リリース駆動時間KTR3を図11に示すW/C圧最大値PWCMAXと第3リリース駆動時間KTR3との関係を示すマップもしくはこのマップと対応する関数式を利用して演算することができる。具体的には、図11に示すように、W/C圧最大値PWCMAXが大きくなるほど第3リリース駆動時間KTR3が大きな値とされる。これは、W/C圧最大値PWCMAXが大きいほど残っているブレーキ力が大きく、その分、モータ10を長く駆動することで、クリアランス不足を無くすことが可能になるためである。
【0082】
したがって、W/C圧最大値PWCMAXが大きいほど第3リリース駆動時間KTR3が長く設定され、ブレーキ力0となってからモータ駆動を停止するまでの時間が更に長くなる。このため、モータ負荷が大きいためにモータ回転数が低下した場合に加えて、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みによってW/C圧が発生させられていても、その分、モータ駆動時間を長くできるため、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランスを確保することが可能となる。そして、ポンピングブレーキが為された場合であっても、リリース制御中におけるW/C圧の最大値であるW/C圧最大値PWCMAXに基づいて、モータリリース駆動時間を設定しているため、確実にブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランス不足を無くすことができ、ブレーキ引き摺り感をドライバに与えることを防止できる。
【0083】
(他の実施形態)
上記第1、第2実施形態では、モータ電流IMOTOR(n-1)とモータ電流IMOTOR(n)の差の絶対値が閾値KC以下になったときに、モータ負荷が無くなってブレーキ力0になったとして判定する。これは、モータ10を正回転させるときのモータ電流の流れと逆回転させるとものモータ電流の流れに応じて電流値の符合の正負を変えて表しているためである。このため、両方の場合共に正の値で表すのであれば、モータ電流IMOTOR(n-1)とモータ電流IMOTOR(n)の差が閾値KC以下になったときにブレーキ力0と判定しても良い。逆に、それぞれの場合で電流値の符合の正負を変えて表したとしても、モータ電流IMOTOR(n-1)とモータ電流IMOTOR(n)の差が±KCの範囲内となったときにブレーキ力0と判定しても良い。これらいずれの場合であっても、実質的に、モータ電流IMOTOR(n-1)とモータ電流IMOTOR(n)の差の絶対値が閾値KC以下になったときにブレーキ力0と判定する手法に含まれる。
【0084】
上記第2実施形態では、W/C圧を検出するのにW/C圧センサ25を用いる場合について説明したが、W/C圧センサ25に代えてM/C圧センサを用いても良いし、ブレーキペダル3の操作量(踏力やストローク)から推定しても構わない。
【0085】
また、上記各実施形態では、図2に示されるようにEPB2としてサービスブレーキの加圧機能を利用することで、駐車ブレーキ時のモータの出力を減らせるようなブレーキ構成が適用される場合について説明した。しかしながら、これは単なる一例を示したに過ぎず、サービスブレーキ1とEPB2とが完全に分離されたブレーキ構成であっても、本発明を適用することができる。
【0086】
また、上記各実施形態では、ディスクブレーキタイプのEPB2を例に挙げたが、他のタイプ、例えばドラムブレーキタイプのものであっても構わない。その場合、摩擦材と被摩擦材は、それぞれブレーキシューとドラムとなる。
【0087】
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。すなわち、EPB−ECU9のうち、ステップ140のロック制御処理を実行する部分がロック制御手段、ステップ170のリリース制御処理を実行する部分がリリース制御手段、ステップ320、530の処理をを実行する部分が判定手段、ステップ330、560のリリース駆動時間KTR2を設定する部分が駆動時間設定手段、ステップ340、360、570、590のモータ駆動を停止する部分が駆動停止定手段に相当する。
【符号の説明】
【0088】
1…サービスブレーキ、2…EPB、5…M/C、6…W/C、7…ESCアクチュエータ、8…ESC−ECU、9…EPB−ECU、10…モータ、11…ブレーキパッド、12…ブレーキディスク、13…キャリパ、14…ボディ、14a…中空部、14b…通路、17…回転軸、17a…雄ネジ溝、18…推進軸、18a…雌ネジ溝、19…ピストン、23…操作SW、24…ロック・リリース表示ランプ、25…W/C圧センサ、
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パーキングブレーキ(以下、EPB(Electric parking brake)という)のロック・リリース制御を行う駐車ブレーキ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、駐車時の車両の移動を規制するためにパーキングブレーキが用いられており、例えば、パーキングブレーキとして、操作レバーによってブレーキケーブルを引っ張ることで操作力をブレーキ機構に伝える手動式のものや、モータの回転力をブレーキ機構に伝える電動式のもの等がある。
【0003】
電動式のパーキングブレーキであるEPBでは、ロック時には、モータをロック側に回転(正回転)させてモータ回転力をブレーキ機構(アクチュエータ)に伝えると共に、ブレーキ力を発生させた状態でモータ駆動を停止させ、リリース時には、モータをリリース側に回転(逆回転)させることでブレーキ力を解除する。
【0004】
このようなロック・リリース制御が行われるEPBとして、例えば、特許文献1に示されるものがある。この特許文献1に示されたEPBでは、基本的にはリリース制御の終了を回転センサで検出されるモータ回転数に基づいて判定し、回転センサの故障時にはモータ電流に基づいて判定する。そして、リリース制御時にモータ電流が所定値以下となったときをブレーキ力0になったときとして、この時点から所定時間モータを駆動したのちモータを停止することで、リリース制御を終了している。すなわち、摩擦材であるブレーキパッドが被摩擦材であるブレーキディスクから離れてブレーキ力0になった時点から、所定時間モータを駆動することでブレーキパッドとブレーキディスクとの間に所定のクリアランスを設け、その後モータ駆動を終了させるようにしている。
【0005】
しかしながら、モータ電流は、温度などによるギア伝達効率の変化などによってばらつくため、特許文献1に示されたEPBのように、モータ電流が所定値以下になったときとブレーキ力0になったときとが必ずしも一致しない。このため、モータ電流が所定値以下になった時点から所定時間経過してモータ駆動を終了したときに、ブレーキパッドとブレーキディスクとの間に設けられるクリアランスが一定とならず、精度の良いリリース制御を行うことができない。
【0006】
そこで、特許文献2において、リリース制御時のモータ電流の変化(微分値)が所定値以下となった時点をブレーキ力0となったときと判定することで、精度良くリリース制御が行えるようにしている。すなわち、モータ電流の大きさは上記理由によってばらつくが、モータ電流の変化は上記理由によってばらつかないため、モータ電流の変化に基づいて正確にブレーキ力0となったときを判定できる。このため、ブレーキパッドとブレーキディスクとの間のクリアランスを一定にでき、精度の良いリリース制御を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−1151号公報
【特許文献2】特開2009−90854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、温度変化やナットの締め付け力等に起因するモータ負荷の変動に応じてモータ回転数が変動するため、ブレーキ力0になってから所定時間モータ駆動したときのモータ回転数が一定にならず、ブレーキパッドとブレーキディスクとの間のクリアランスを一定に保てなくなる可能性がある。このため、ブレーキパッドとブレーキディスクとの間のクリアランスを確保できず、ドライバに対してブレーキを解除したのにブレーキ力が残っているようなブレーキ引き摺り感を与えてしまうこともあり得る。
【0009】
本発明は上記点に鑑みて、より的確に摩擦材と被摩擦材との間のクリアランスを一定に保て、精度の良いリリース制御が行える駐車ブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、リリース制御手段(170)は、モータ(10)の駆動時に流れるモータ電流(IMOTOR)を取得し、該取得したモータ電流(IMOTOR)の微分値の絶対値が閾値(KC)を超えているか否かを判定する判定手段(320、530)と、判定手段(320、530)にてモータ電流(IMOTOR)の微分値の絶対値が閾値(KC)を超えていないと判定されると、当該判定されたときのモータ電流(IMOTOR)に基づいて、当該判定されたときからモータ(10)の駆動を停止するまでの時間であるリリース駆動時間(KTR2)を設定する駆動時間設定手段(330、560)と、駆動時間設定手段(330、560)にて設定されたリリース駆動時間(KTR2)を計測し、判定手段(320、530)にてモータ電流(IMOTOR)の微分値の絶対値が閾値(KC)を超えていないと判定されたときから、リリース駆動時間(KTR2)が経過したときにモータ(10)の駆動を停止する駆動停止手段(340、360、570、590)と、を含んでいることを特徴としている。
【0011】
このような構成により、リリース制御時に、モータ電流(IMOTOR)の微分値に基づいてEPB(2)により発生させられるブレーキ力が0となるタイミングを検出すると共に、ブレーキ力0となってからモータ駆動を停止するまでの時間となるリリース制御時間(KTR2)をブレーキ力0となったときのモータ電流(IMOTOR)の大きさに応じて設定している。このため、温度等に起因するモータ負荷の変動に対応してリリース駆動時間(KTR2)を設定すると良い。
【0012】
したがって、モータ負荷に対応して、摩擦材(11)と被摩擦材(12)との間のクリアランスを確保することが可能となる。これにより、より的確に摩擦材(11)と被摩擦材(12)との間のクリアランスを確保し、精度の良いリリース制御が行える駐車ブレーキ制御装置とすることが可能となる。
【0013】
具体的には、請求項2に記載したように、駆動時間設定手段(330、560)では、リリース駆動時間(KTR2)をモータ電流(IMOTOR)の絶対値が大きいほど長い時間に設定することができる。
【0014】
このように、モータ電流(IMOTOR)の絶対値が大きいほど、バラツキによって生じているモータ負荷が大きく、モータ回転数が低下していると考えられるため、リリース駆動時間(KTR2)を長い時間に設定することができる。
【0015】
例えば、このような駐車ブレーキ制御装置は、請求項3に記載したように、モータ(10)が回転駆動されると、モータ(10)の回転運動が直線運動に変換されて直線移動させられる推進軸(18)を有し、該推進軸(18)の移動により、モータ(10)が正回転駆動されるときには摩擦材(11)を被摩擦材(12)に向かう方向に移動させてパーキングブレーキによるブレーキ力を発生させ、モータ(10)が逆回転駆動されるときには摩擦材(11)を被摩擦材(12)から離れる方向に移動させてパーキングブレーキによるブレーキ力を低減させるEPB(2)と、ドライバによってブレーキペダル(3)が操作されることによりブレーキ液収容室(14a)内にホイールシリンダ圧が発生されると、摩擦材(11)が被摩擦材(12)に向かう方向に移動してブレーキ力を発生させるサービスブレーキ(1)とを有し、推進軸(18)がブレーキ液収容室(14a)内において直線移動させられることで、摩擦材(11)を直線移動させるような構成のブレーキシステムに対して適用される。
【0016】
このような構成とされる場合、請求項4に記載されるように、ホイールシリンダ圧を圧力検出手段(25)によって検出し、駆動時間設定手段(560)にて、圧力検出手段(25)にて検出されたホイールシリンダ圧に基づいて、リリース駆動時間(KTR2)を延長する加算時間(KTR3)を設定し、駆動停止手段(570、590)にて、駆動時間設定手段(560)にて設定されたリリース駆動時間(KTR2)に加算時間(KTR3)を加算した時間を計測し、判定手段(530)にてモータ電流(IMOTOR)の微分値の絶対値が閾値(KC)を超えていないと判定されたときから、リリース駆動時間(KTR2)に加算時間(KTR3)を加算した時間が経過したときにモータ(10)の駆動を停止すると好ましい。
【0017】
このように、モータ負荷に応じて設定されるリリース駆動時間(KTR2)に対して、ドライバによるブレーキペダル(3)の踏み込みに応じて発生させられたW/C圧を加味した加算時間(KTR3)している。これにより、ドライバがブレーキペダル(3)を踏み込んでいてブレーキ力を発生させている場合には、その影響を考慮してリリース制御を行うことができ、ドライバがブレーキペダル(3)を踏み込んでいても、確実に摩擦材(11)と被摩擦材(12)との間のクリアランス不足を無くすことが可能となる。したがって、ブレーキ引き摺り感をドライバに与えることを防止できる。
【0018】
具体的には、駆動時間設定手段(560)にて、圧力検出手段(25)により検出されたホイールシリンダ圧が大きいほど、加算時間(KTR3)を長い時間に設定することができる。
【0019】
このように、ホイールシリンダ圧が大きいほど、ドライバのブレーキペダル(3)の踏み込みによって残っているブレーキ力が大きいため、その分、モータ(10)を長く駆動することで、クリアランス不足を無くすことが可能になる。
【0020】
請求項6に記載の発明では、リリース制御中に、圧力検出手段(25)により検出されたホイールシリンダ圧の最大値となるホイールシリンダ圧最大値(PWCMAX)を求めると共に、該ホイールシリンダ圧最大値(PWCMAX)を記憶する最大値記憶手段(540、550)を有し、駆動時間設定手段(560)にて、最大値記憶手段(540、550)に記憶されたホイールシリンダ圧最大値(PWCMAX)に基づいて、リリース駆動時間(KTR2)を延長する加算時間(KTR3)を設定することを特徴としている。
【0021】
このように、ホイールシリンダ圧最大値(PWCMAX)に基づいて、リリース駆動時間(KTR2)を延長する加算時間(KTR3)を設定すれば、ポンピングブレーキが為された場合であっても、加算時間(KTR3)を設定できる。このため、確実に摩擦材(11)と被摩擦材(12)との間のクリアランス不足を無くすことができ、ブレーキ引き摺り感をドライバに与えることを防止できる。
【0022】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる駐車ブレーキ制御装置が適用された車両用のブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。
【図2】図1に示したブレーキシステムに備えられる後輪系のブレーキ機構の断面模式図である。
【図3】駐車ブレーキ制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図4】ロック制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図5】リリース制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図6】モータ電流IMOTOR(n)の絶対値(|IMOTOR(n)|)と第2リリース駆動時間KTR2との関係を示すマップである。
【図7】ロック・リリース表示処理の詳細を示したフローチャートである。
【図8】駐車ブレーキ制御処理を実行したときのタイミングチャートである。
【図9】本発明の第2実施形態にかかる駐車ブレーキ制御装置が適用された車両用のブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。
【図10】リリース制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図11】W/C圧最大値PWCMAXと第3リリース駆動時間KTR3との関係を示すマップである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0025】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態では、後輪系にディスクブレーキタイプのEPBを適用している車両用ブレーキシステムを例に挙げて説明する。図1は、本実施形態にかかる駐車ブレーキ制御装置が適用された車両用のブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。また、図2は、ブレーキシステムに備えられる後輪系のブレーキ機構の断面模式図である。以下、これらの図を参照して説明する。
【0026】
図1に示すように、ブレーキシステムは、ドライバの踏力に基づいてブレーキ力を発生させるサービスブレーキ1と駐車時に車両の移動を規制するためのEPB2とが備えられている。
【0027】
サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに応じた踏力を倍力装置4にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ液圧をマスタシリンダ(以下、M/Cという)5内に発生させ、このブレーキ液圧を各車輪のブレーキ機構に備えられたホイールシリンダ(以下、W/Cという)6に伝えることでブレーキ力を発生させる。また、M/C5とW/C6との間にブレーキ液圧制御用のアクチュエータ7が備えられており、サービスブレーキ1により発生させるブレーキ力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行える構造とされている。
【0028】
アクチュエータ7を用いた各種制御は、ESC(Electronic Stability Control)−ECU8にて実行される。例えば、ESC−ECU8からアクチュエータ7に備えられる図示しない各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御するための制御電流を出力することにより、アクチュエータ7に備えられる油圧回路を制御し、W/C6に伝えられるW/C圧を制御する。これにより、車輪スリップの回避などを行い、車両の安全性を向上させる。例えば、アクチュエータ7は、各車輪毎に、W/C6に対してM/C5内に発生させられたブレーキ液圧もしくはポンプ駆動により発生させられたブレーキ液圧が加えられることを制御する増圧制御弁や、各W/C6内のブレーキ液をリザーバに供給することでW/C圧を減少させる減圧制御弁等を備えており、W/C圧を増圧・保持・減圧制御できる構成とされている。このアクチュエータ7の構成に関しては、従来より周知となっているため、ここでは詳細については省略する。
【0029】
一方、EPB2は、モータ10にてブレーキ機構を制御することでブレーキ力を発生させるものであり、モータ10の駆動を制御するEPB制御装置(以下、EPB−ECUという)9を有して構成されている。
【0030】
ブレーキ機構は、本実施形態のブレーキシステムにおいてブレーキ力を発生させる機械的構造であり、前輪系のブレーキ機構はサービスブレーキ1の操作によってブレーキ力を発生させる構造とされているが、後輪系のブレーキ機構は、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の構造とされている。前輪系のブレーキ機構は、後輪系のブレーキ機構に対して、EPB2の操作に基づいてブレーキ力を発生させる機構をなくした従来から一般的に用いられているブレーキ機構であるため、ここでは説明を省略し、以下の説明では後輪系のブレーキ機構について説明する。
【0031】
後輪系のブレーキ機構では、サービスブレーキ1を作動させたときだけでなくEPB2を作動させたときにも、図2に示す摩擦材であるブレーキパッド11を押圧し、ブレーキパッド11によって被摩擦材であるブレーキディスク12を挟み込むことにより、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間に摩擦力を発生させ、ブレーキ力を発生させる。
【0032】
具体的には、ブレーキ機構は、図1に示すキャリパ13内において、図2に示すようにブレーキパッド11を押圧するためのW/C6のボディ14に直接固定されているモータ10を回転させるとにより、モータ10の駆動軸10aに備えられた平歯車15を回転させ、平歯車15に噛合わされた平歯車16にモータ10の回転力を伝えることによりブレーキパッド11を移動させ、EPB2によるブレーキ力を発生させる。
【0033】
キャリパ13内には、W/C6およびブレーキパッド11に加えて、ブレーキパッド11に挟み込まれるようにしてブレーキディスク12の端面の一部が収容されている。W/C6は、シリンダ状のボディ14の中空部14a内に通路14bを通じてブレーキ液圧を導入することで、ブレーキ液収容室である中空部14a内にW/C圧を発生させられるようになっており、中空部14a内に回転軸17、推進軸18、ピストン19などを備えて構成されている。
【0034】
回転軸17は、一端がボディ14に形成された挿入孔14cを通じて平歯車16に連結され、平歯車16が回動させられると、平歯車16の回動に伴って回動させられる。この回転軸17における平歯車16と連結された端部とは反対側の端部において、回転軸17の外周面には雄ネジ溝17aが形成されている。一方、回転軸17の他端は、挿入孔14cに挿入されることで軸支されている。具体的には、挿入孔14cには、Oリング20と共に軸受け21が備えられており、Oリング20にて回転軸17と挿入孔14cの内壁面との間を通じてブレーキ液が漏れ出さないようにされながら、軸受け21により回転軸17の他端を軸支持している。
【0035】
推進軸18は、中空状の筒部材にて構成され、内壁面に回転軸17の雄ネジ溝17aと螺合する雌ネジ溝18aが形成されている。この推進軸18は、例えば回転防止用のキーを備えた円柱状もしくは多角柱状に構成されることで、回転軸17が回動しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられない構造になっている。このため、回転軸17が回動させられると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いにより、回転軸17の回転力を回転軸17の軸方向に推進軸18を移動させる力に変換する。推進軸18は、モータ10の駆動が停止されると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力により同じ位置で止まるようになっており、目標ブレーキ力になったときにモータ10の駆動を停止すれば、その位置に推進軸18を保持することができる。
【0036】
ピストン19は、推進軸18の外周を囲むように配置されるもので、有底の円筒部材もしくは多角筒部材にて構成され、外周面がボディ14に形成された中空部14aの内壁面と接するように配置されている。ピストン19の外周面とボディ14の内壁面との間のブレーキ液洩れが生じないように、ボディ14の内壁面にシール部材22が備えられ、ピストン19の端面にW/C圧を付与できる構造とされている。また、ピストン19は、回転軸17が回転しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられないように、推進軸18に回転防止用のキーが備えられる場合にはそのキーが摺動するキー溝が備えられ、推進軸18が多角柱状とされる場合にはそれと対応する形状の多角筒状とされる。
【0037】
このピストン19の先端にブレーキパッド11が配置され、ピストン19の移動に伴ってブレーキパッド11を紙面左右方向に移動させるようになっている。具体的には、ピストン19は、推進軸18の移動に伴って紙面左方向に移動可能で、かつ、ピストン19の端部(ブレーキパッド11が配置された端部と反対側の端部)にW/C圧が付与されることで推進軸18から独立して紙面左方向に移動可能な構成とされている。そして、推進軸18が初期位置(モータ10が回転させられる前の状態)のときに、中空部14a内のブレーキ液圧が付与されていない状態(W/C圧=0)であれば、図示しないリターンスプリングもしくは中空部14a内の負圧によりピストン19が紙面右方向に移動させられ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離間させられるようになっている。また、モータ10が回転させられて推進軸18が初期位置から紙面左方向に移動させられているときにW/C圧が0になると、移動した推進軸18によってピストン19の紙面右方向への移動が規制され、ブレーキパッド11がその場所で保持される。
【0038】
このように構成されたブレーキ機構では、サービスブレーキ1が操作されると、それにより発生させられたW/C圧に基づいてピストン19が紙面左方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、ブレーキ力を発生させる。また、EPB2が操作されると、モータ10が駆動されることで平歯車15が回転させられ、それに伴って平歯車16および回転軸17が回転させられるため、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12側(紙面左方向)に移動させられる。そして、それに伴ってピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、ブレーキ力を発生させる。このため、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用のブレーキ機構とすることが可能となる。
【0039】
また、サービスブレーキ1が作動されることでW/C圧が発生させられている状態でEPB2が操作されると、W/C圧によってピストン19が既に紙面左方向に移動させられているため、推進軸18に掛かる負荷が軽減される。このため、推進軸18がピストン19に当接するまではモータ10はほぼ無負荷状態で駆動される。そして、推進軸18がピストン19に当接するとピストン19を紙面左方向の押す押圧力が加えられ、EPB2によるブレーキ力が発生させられるようになっている。
【0040】
EPB−ECU9は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムにしたがってモータ10の回転を制御することにより駐車ブレーキ制御を行うものである。このEPB−ECU9が本発明の駐車ブレーキ制御装置に相当する。EPB−ECU9は、例えば車室内のインストルメントパネル(図示せず)に備えられた操作スイッチ(SW)23の操作状態に応じた信号等を入力し、操作SW23の操作状態に応じてモータ10を駆動する。さらに、EPB−ECU9は、インストルメントパネルに備えられたロック/リリース表示ランプ24に対してモータ10の駆動状態に応じて、ロック中であるかリリース中であるかを示す信号を出力する。
【0041】
具体的には、EPB−ECU9は、モータ10に流される電流(モータ電流)をモータ10の上流側もしくは下流側で検出するモータ電流検出、ロック制御を終了させるときの目標モータ電流(目標電流値)を演算する目標モータ電流演算、モータ電流が目標モータ電流に達したか否かの判定、操作SW23の操作状態に基づくモータ10の制御など、ロック・リリース制御を実行するための各種機能部を有している。このEPB−ECU9により操作SW23の状態やモータ電流に基づいてモータ10を正回転や逆回転させたりモータ10の回転を停止させることで、EPB2をロック・リリースする制御を行う。
【0042】
続いて、上記のように構成されたブレーキシステムを用いてEPB−ECU9が上記各種機能部および図示しない内蔵のROMに記憶されたプログラムに従って実行する駐車ブレーキ制御について説明する。図3は、駐車ブレーキ制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【0043】
まず、ステップ100において時間計測用カウンタやフラグリセットなどの一般的な初期化処理を行ったのち、ステップ110に進み、時間tが経過したか否かを判定する。ここでいう時間tは、制御周期を規定するものである。つまり、初期化処理が終了してからの時間もしくは前回本ステップで肯定判定されたときからの経過時間が時間tが経過するまで繰り返し本ステップでの判定が行われるようにすることで、時間tが経過するごとに駐車ブレーキ制御が実行されるようにしている。
【0044】
続く、ステップ120では、操作SW23がオンしているか否かを判定する。操作SW23がオンの状態とはドライバがEPB2を作動させてロック状態にしようとしていることを意味し、オフの状態とはドライバがEPB2をリリース状態にしようとしていることを意味している。このため、本ステップで肯定判定されればステップ130に進み、ロック状態フラグFLOCKがオンしているか否かを判定する。ここで、ロック状態フラグFLOCKとは、EPB2を作動させてロック状態になったときにオンされるフラグであり、このロック状態フラグFLOCKがオンになっているときには既にEPB2の作動が完了して所望のブレーキ力が発生させられている状態となる。したがって、ここで否定判定された場合にのみステップ140のロック制御処理に進み、肯定判定された場合には既にロック制御処理が完了しているためステップ150に進む。
【0045】
ロック制御処理では、モータ10を回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて所望のブレーキ力を発生させられる位置でモータ10の回転を停止し、この状態を維持するという処理を行う。図4にロック制御処理の詳細を示したフローチャートを示し、この図を参照してロック制御処理について説明する。
【0046】
まず、ステップ200では、ロック制御時間カウンタCTLが予め決められた最小ロック制御時間KTLを超えているか否かを判定する。ロック制御時間カウンタCTLとは、ロック制御が開始されてからの経過時間を計測するカウンタであり、ロック制御処理開始と同時にカウントを始める。最小ロック制御時間KTLとは、ロック制御に掛かると想定される最小時間(例えば、200ms)のことであり、モータ10の回転速度などに応じて予め決まる値である。後述するステップ210のように、モータ電流IMOTORが目標モータ電流IMTARGETに到達した時にEPB2が発生させたブレーキ力が所望の値に到達した、もしくは近づいたと判定するが、モータ10への電流供給初期時の突入電流などによりモータ電流IMOTORがその目標モータ電流IMTARGETを超えることもあり得る。このため、ロック制御時間カウンタCTLを最小ロック制御時間KTLと比較することで、制御初期時をマスクでき、突入電流などによる誤判定を防止することが可能となる。
【0047】
したがって、ロック制御時間カウンタCTLが最小ロック制御時間KTLを超えていない状態であれば、まだロック制御が継続されることになるため、ステップ220に進んでリリース状態フラグをオフすると共にロック制御時間カウンタCTLをインクリメントし、モータロック駆動をオン、つまりモータ10を正回転させる。これにより、モータ10の正回転に伴って平歯車15が駆動され、平歯車16および回転軸17が回転し、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12側に移動させられ、それに伴ってピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12側に移動させられる。
【0048】
一方、ステップ200で肯定判定されると、ステップ210に進み、今回の制御周期のときのモータ電流IMOTORが目標モータ電流IMTARGETを超えているか否かを判定する。モータ電流IMOTORはモータ10に加えられる負荷に応じて変動するが、本実施形態の場合にはモータ10に加えられる負荷はブレーキパッド11をブレーキディスク12に押し付けている押圧力に相当するため、モータ電流IMOTORが発生させた押圧力と対応した値となる。このため、モータ電流IMOTORが目標モータ電流IMTARGETを超えていれば発生させた押圧力により所望のブレーキ力を発生させられた状態、つまりEPB2によりブレーキパッド11の摩擦面がブレーキディスク12の内壁面にある程度の力で押さえ付けられた状態となる。したがって、本ステップで肯定判定されるまではステップ220の処理を繰り返し、肯定判定されるとステップ230に進む。
【0049】
そして、ステップ230において、ロックが完了したことを意味するロック状態フラグFLOCKをオンすると共にロック制御時間カウンタCTLを0にし、モータロック駆動をオフ(停止)する。これにより、モータ10の回転が停止され、回転軸17の回転が停止させられて、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力により、推進軸18が同じ位置に保持されるため、その時に発生させたブレーキ力が保持される。これにより、駐車中の車両の移動が規制される。このようにして、ロック制御処理が完了する。
【0050】
一方、図3のステップ120で否定判定された場合にはステップ160に進み、リリース状態フラグFRELがオンしているか否かを判定する。ここで、リリース状態フラグFRELとは、EPB2を作動させてリリース状態、つまりEPB2によるブレーキ力を解除した状態になったときにオンされるフラグであり、このリリース状態フラグFRELがオンになっているときには既にEPB2の作動が完了してブレーキ力が解除させられている状態となる。したがって、ここで否定判定された場合にのみステップ170のリリース制御処理に進み、肯定判定された場合には既にリリース制御処理が完了しているためステップ150に進む。
【0051】
リリース制御処理では、モータ10を回転させることによりEPB2を作動させ、EPB−ECU9にて発生させられているブレーキ力を解除するという処理を行う。図5にリリース制御処理の詳細を示したフローチャートを示し、この図を参照してリリース制御処理について説明する。
【0052】
まず、ステップ300では、第1リリース制御時間カウンタCTR1が予め決められた最小リリース駆動時間KTR1未満であるか否かを判定する。第1リリース制御時間カウンタCTL1とは、リリース制御が開始されてからの経過時間を計測するカウンタであり、リリース制御処理開始と同時にカウントを始める。最小リリース駆動時間KTR1とは、リリース制御に掛かると想定される最小時間(例えば、200ms)のことであり、モータ10の回転速度などに応じて予め決まる値である。後述するステップ320のように、前回の制御周期のときに検出されたモータ電流IMOTOR(n-1)と今回の制御周期に検出されたモータ電流IMOTOR(n)との差、つまりモータ電流IMOTORの微分値の絶対値に基づいてブレーキ力0になったことを検出しているが、モータ10への電流供給初期時の突入電流などによりその絶対値がブレーキ力0になったと判定する条件を満たすこともあり得る。このため、第1リリース制御時間カウンタCTR1を最小リリース駆動時間KTR1と比較することで、制御初期時をマスクでき、突入電流などによる誤判定を防止することが可能となる。
【0053】
したがって、リリース制御時間カウンタCTR1が最小リリース駆動時間KTR1未満の状態であれば、まだリリース制御が継続されることになるため、ステップ310に進んでロック状態フラグをオフすると共に第1リリース制御時間カウンタCTR1をインクリメントし、モータリリース駆動をオン、つまりモータ10を逆回転させる。これにより、モータ10の逆回転に伴って、回転軸17が回転され、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力に基づいて推進軸18がブレーキディスク12から離れる方向に移動させられる。これにより、ピストン19およびブレーキパッド11も同方向に移動させられる。
【0054】
一方、ステップ300において、リリース制御時間カウンタCTR1が最小リリース駆動時間KTR1以上であると判定されると、ステップ320に進む。そして、前回の制御周期のときに検出されたモータ電流IMOTOR(n-1)と今回の制御周期に検出されたモータ電流IMOTOR(n)との差の絶対値が閾値KCを超えているか否かを判定する。上述したように、モータ電流IMOTORが発生させた押圧力と対応した値となる。そして、リリース制御によってブレーキパッド11がブレーキディスク12から離れる方向に移動させられることにより押圧力が低下していくため、モータ電流IMOTORの絶対値が徐々に減少していく。このとき、モータ10を逆回転させる時に流れるモータ電流IMOTORが負の値で表されるとすると、モータ電流IMOTORが徐々に増加する。したがって、モータ電流IMOTOR(n-1)とモータ電流IMOTOR(n)の差の絶対値を求めることで、モータ負荷が変動している途中であるか否かが判る。よって、誤判定要因となるノイズを考慮しつつ、リリース制御によるモータ負荷の変動として想定されるモータ電流IMOTORの変化量以下の値に閾値KCを設定し、モータ電流IMOTOR(n-1)とモータ電流IMOTOR(n)の差の絶対値が閾値KC以下になったときに、モータ負荷が無くなってブレーキ力0になったとして判定する。
【0055】
このため、ステップ320で否定判定されるまでは、引き続きステップ310の処理を繰り返し実行し、ステップ320で肯定判定されるとステップ330に進む。
【0056】
ステップ330では、今回の制御周期に検出されたモータ電流IMOTOR(n)に基づいて第2リリース駆動時間KTR2を演算する。今回の制御周期においてブレーキ力0となったことから、今回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n)がほぼ無負荷になっていると想定されるモータ負荷に対応するモータ電流IMOTORであり、温度等に起因するモータ負荷の変動が現れた値となっている。このため、今回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n)の絶対値(|IMOTOR(n)|)に基づいて、ブレーキ力0となってからモータ駆動を停止するまでの時間である第2リリース駆動時間KTR2を求める。
【0057】
例えば、第2リリース駆動時間KTR2を図6に示すモータ電流IMOTOR(n)の絶対値(|IMOTOR(n)|)と第2リリース駆動時間KTR2との関係を示すマップもしくはこのマップと対応する関数式を利用して演算することができる。具体的には、図6に示すように、モータ電流IMOTOR(n)の絶対値(|IMOTOR(n)|)が大きくなるほど第2リリース駆動時間KTR2が大きな値とされる。これは、モータ電流IMOTOR(n)の絶対値(|IMOTOR(n)|)が大きいほどバラツキによって生じているモータ負荷が大きく、モータ回転数が低下していると考えられるためである。
【0058】
したがって、モータ電流IMOTOR(n)の絶対値(|IMOTOR(n)|)が大きいほど第2リリース駆動時間KTR2が長く設定され、ブレーキ力0となってからモータ駆動を停止するまでの時間が長くなる。このため、モータ負荷が大きいためにモータ回転数が低下したとしても、その分、モータ駆動時間を長くできるため、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランスを確保することが可能となる。
【0059】
そして、ステップ340に進み、ブレーキ力0になってからの経過時間を計測するカウンタである第2リリース制御時間カウンタCTR2が第2リリース駆動時間KTR2を超えたか否かを判定する。ここで否定判定されればステップ350に進み、ロック状態フラグをオフすると共に第1リリース制御時間カウンタCTR1を0にすると共に、第2リリース制御時間カウンタをインクリメントし、モータリリース駆動をオン、つまりモータ10を逆回転させる。これにより、ステップ310と同様の動作が行われ、ブレーキパッド11がブレーキディスク12から離されていく。
【0060】
この後、第2リリース駆動時間KTR2が経過してステップ340で肯定判定されると、ステップ360に進み、リリースが完了したことを意味するリリース状態フラグFRELをオンすると共に第1、第2リリース制御時間カウンタCTR1、CTE2を0にし、モータリリース駆動をオフする。したがって、モータ10の回転が停止され、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力により、ブレーキパッド11がブレーキディスク12から離れた状態のままで保持される。このようにして、リリース制御処理が完了する。
【0061】
なお、図5のステップ330に示した第2リリース制御時間KTR2の演算を行う処理は、ステップ320で否定判定されると、その後は演算周期毎に繰り返し行われる。このため、仮にブレーキ力0になってブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランスを広げている途中でモータ電流IMOTORが変動したとしても、その変動に対応して第2リリース制御時間KTR2を変化させられる。したがって、例えばモータ駆動による温度変化等に起因するモータ負荷変動にも対応して、第2リリース制御時間KTR2を可変にでき、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランスを一定にすることが可能となる。
【0062】
このようにして、ロック制御処理およびリリース制御処理が終了すると、図3のステップ150におけるロック・リリース表示処理を行う。図7にロック・リリース表示処理の詳細を示したフローチャートを示し、この図を参照してロック・リリース表示処理について説明する。
【0063】
ステップ400では、ロック状態フラグFLOCKがオンされているか否かを判定する。ここで肯定判定されればステップ405に進んでロック・リリース表示ランプ24を点灯させ、否定判定されればステップ410に進んでロック・リリース表示ランプ24を消灯する。このように、ロック状態であればロック・リリース表示ランプ24を点灯し、リリース状態もしくはリリース制御が開始された状態のときにはロック・リリース表示ランプ24を消灯する。これにより、ドライバにロック状態であるか否かを認識させることが可能となる。このようにして、ロック・リリース表示処理が完了し、これに伴って駐車ブレーキ制御処理が完了する。
【0064】
図8は、このような駐車ブレーキ制御処理を実行したときのタイミングチャートである。この図に示されるように、時点T1において操作SW23がオンされてロック制御が開始されると、モータロック駆動がオンされ、モータ10が正回転させられて推進軸18がブレーキパッド11側に移動させられる。これと同時に、リリース状態フラグFRELがオフになる。
【0065】
続いて、時点T2では最小ロック制御時間KTLが経過するまではモータ電流IMOTORの値に関わらずロック制御が継続させられるため、突入電流が発生してもロック制御が続けられる。そして、最小ロック制御時間KTLが経過したのち、時点T3においてブレーキパッド11とブレーキディスク12とが接触してこれらの間のクリアランスが無くなると、ブレーキ力が発生させられる。これにより、モータ10に対する負荷が発生するため、モータ電流IMOTORが上昇していき、時点T4においてモータ電流IMOTORが目標モータ電流IMTARGETに達すると、モータロック駆動が停止させられる。これと同時に、ロック状態フラグFLOCKがオンされる。
【0066】
このようにして、ロック制御が行われ、ブレーキパッド11がブレーキディスク12に押し付けられることで、所望のブレーキ力が発生させられる。
【0067】
次に、時点T5において操作SW23がオフされてリリース制御が開始されると、モータリリース駆動がオンされ、モータ10が逆回転させられて推進軸18がブレーキパッド11をブレーキディスク12から離す側に移動させられる。これと同時に、ロック状態フラグFLOCKがオフされる。
【0068】
続いて、最小リリース駆動時間KTR1が経過するまではモータ電流IMOTORの値に関わらずリリース制御が継続させられるため、突入電流が発生してもリリース制御が続けられる。そして、時点T6において最小リリース駆動時間KTR1が経過したのち、時点T7において前回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n-1)と今回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n)の差の絶対値が閾値KC以下になると、ブレーキ力0になったとして、第2リリース制御時間KTR2が経過するまでモータ駆動が続けられる。これにより、ブレーキパッド11がブレーキディスク12から離れていき、これらの間のクリアランスが広がっていく。この後、第2リリース制御時間KTR2が経過すると、モータリリース駆動が停止させられる。これと同時に、リリース状態フラグFRELがオンされる。
【0069】
このようにして、リリース制御が行われ、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランスが一定となり、必要なクリアランス量が確保される。
【0070】
以上説明したように、本実施形態では、リリース制御時に、モータ電流IMOTORの変化に基づいてEPB2により発生させられるブレーキ力が0となるタイミングを検出すると共に、ブレーキ力0となってからモータ駆動を停止するまでの時間となる第2リリース制御時間KTR2をブレーキ力0となったときのモータ電流IMOTORの大きさに応じて設定している。このため、温度等に起因するモータ負荷の変動に対応して第2リリース駆動時間KTR2を設定することができる。
【0071】
したがって、モータ負荷に対応して、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランスを一定にすることが可能となる。これにより、より的確にブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランスを一定に保て、精度の良いリリース制御が行えるEPB2を有する駐車ブレーキ制御装置とすることが可能となる。
【0072】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してブレーキシステムの構成およびリリース制御処理の方法を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0073】
EPB2のみによってブレーキ力を発生させている場合、上述した第1実施形態のようにEPB2のみのブレーキ力を考慮すれば良いが、ドライバがブレーキペダル3を踏み込んでいてブレーキ力を発生させている場合には、その影響を考慮してリリース制御を行うのが好ましい。このため、本実施形態では、ドライバがブレーキペダル3を踏んでいる場合にも対応できるリリース制御を実行する。
【0074】
図9は、本実施形態にかかる駐車ブレーキ制御装置が適用された車両用のブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。この図に示されるように、EPB−ECU9に対して圧力検出手段に相当するW/C圧センサ25の検出信号を入力し、操作SW23の操作状態やW/C圧に応じてEPB2によるロック・リリース制御でのモータ駆動を行う。
【0075】
図10は、リリース制御処理の詳細を示したフローチャートである。この図に示すように、まず、ステップ500では、図5のステップ300と同様に、第1リリース制御時間カウンタCTR1が予め決められた最小リリース駆動時間KTR1未満であるか否かを判定する。そして、ここで肯定判定されると、ステップ510に進んで後述するW/C圧最大値PWCMAXを0にした後、ステップ520に進み、図5のステップ310と同様の処理を行う。
【0076】
一方、ステップ500で否定判定されると、ステップ530に進み、図5のステップ320と同様に、前回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n-1)と今回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n)の差の絶対値が閾値KCを超えているか否かを判定する。そして、肯定判定されている間には、ステップ540に進み、現在記憶されているW/C圧最大値PWCMAXが今回の制御周期のW/C圧よりも大きいか否かを判定する。このとき、現在記憶されているW/C圧最大値PWCMAXが今回の制御周期のW/C圧PWCよりも大きければ、現在記憶されているW/C圧最大値PWCMAXを更新せずにステップ520に進み、今回の制御周期のW/C圧PWCが現在記憶されているW/C圧最大値PWCMAXよりも大きければ、ステップ550に進んでW/C圧最大値PWCMAXを今回の制御周期のW/C圧PWCに更新する。
【0077】
ここで、W/C圧最大値PWCMAXとは、リリース制御中に発生しているW/C圧の最大値のことである。リリース制御中にドライバによりブレーキペダル3が踏み込まれていると、前回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n-1)と今回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n)の差の絶対値に基づいてブレーキ力0と判定されたとしても、ブレーキペダル3の踏み込みにより発生させられたW/C圧に対応した分のブレーキ力が残っている。このため、発生しているW/C圧に応じてモータ駆動時間を長くするのが好ましい。ただし、ポンピングブレーキのように、ドライバがブレーキペダル3を繰り返し踏み込んだ場合には、そのうちのW/C圧が最大値となったときのW/C圧(=W/C圧最大値PWCMAX)に応じてモータ駆動時間を設定するのが好ましい。
【0078】
したがって、ステップ550でブレーキ力0と判定されるまでの間に発生したW/C圧の最大値をW/C圧最大値PWCMAXとして記憶している。
【0079】
そして、前回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n-1)と今回の制御周期のモータ電流IMOTOR(n)の差の絶対値が閾値KC以下となって、ステップ530で否定判定されると、ステップ560に進み、図5のステップ330と同様に第2リリース駆動時間KTR2を求めるのに加え、さらに第3リリース駆動時間KTR3を求める。
【0080】
第3リリース駆動時間KTR3とは、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに応じて発生させられたW/C圧に対応するモータリリース駆動時間を延長する加算時間である。すなわち、この第3リリース駆動時間KTR3がモータ負荷に応じて設定されるモータリリース駆動時間である第2リリース駆動時間KTR2に対して加算されることで、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに応じて発生させられたW/C圧も加味したリリース駆動時間となる。
【0081】
例えば、第3リリース駆動時間KTR3を図11に示すW/C圧最大値PWCMAXと第3リリース駆動時間KTR3との関係を示すマップもしくはこのマップと対応する関数式を利用して演算することができる。具体的には、図11に示すように、W/C圧最大値PWCMAXが大きくなるほど第3リリース駆動時間KTR3が大きな値とされる。これは、W/C圧最大値PWCMAXが大きいほど残っているブレーキ力が大きく、その分、モータ10を長く駆動することで、クリアランス不足を無くすことが可能になるためである。
【0082】
したがって、W/C圧最大値PWCMAXが大きいほど第3リリース駆動時間KTR3が長く設定され、ブレーキ力0となってからモータ駆動を停止するまでの時間が更に長くなる。このため、モータ負荷が大きいためにモータ回転数が低下した場合に加えて、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みによってW/C圧が発生させられていても、その分、モータ駆動時間を長くできるため、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランスを確保することが可能となる。そして、ポンピングブレーキが為された場合であっても、リリース制御中におけるW/C圧の最大値であるW/C圧最大値PWCMAXに基づいて、モータリリース駆動時間を設定しているため、確実にブレーキパッド11とブレーキディスク12との間のクリアランス不足を無くすことができ、ブレーキ引き摺り感をドライバに与えることを防止できる。
【0083】
(他の実施形態)
上記第1、第2実施形態では、モータ電流IMOTOR(n-1)とモータ電流IMOTOR(n)の差の絶対値が閾値KC以下になったときに、モータ負荷が無くなってブレーキ力0になったとして判定する。これは、モータ10を正回転させるときのモータ電流の流れと逆回転させるとものモータ電流の流れに応じて電流値の符合の正負を変えて表しているためである。このため、両方の場合共に正の値で表すのであれば、モータ電流IMOTOR(n-1)とモータ電流IMOTOR(n)の差が閾値KC以下になったときにブレーキ力0と判定しても良い。逆に、それぞれの場合で電流値の符合の正負を変えて表したとしても、モータ電流IMOTOR(n-1)とモータ電流IMOTOR(n)の差が±KCの範囲内となったときにブレーキ力0と判定しても良い。これらいずれの場合であっても、実質的に、モータ電流IMOTOR(n-1)とモータ電流IMOTOR(n)の差の絶対値が閾値KC以下になったときにブレーキ力0と判定する手法に含まれる。
【0084】
上記第2実施形態では、W/C圧を検出するのにW/C圧センサ25を用いる場合について説明したが、W/C圧センサ25に代えてM/C圧センサを用いても良いし、ブレーキペダル3の操作量(踏力やストローク)から推定しても構わない。
【0085】
また、上記各実施形態では、図2に示されるようにEPB2としてサービスブレーキの加圧機能を利用することで、駐車ブレーキ時のモータの出力を減らせるようなブレーキ構成が適用される場合について説明した。しかしながら、これは単なる一例を示したに過ぎず、サービスブレーキ1とEPB2とが完全に分離されたブレーキ構成であっても、本発明を適用することができる。
【0086】
また、上記各実施形態では、ディスクブレーキタイプのEPB2を例に挙げたが、他のタイプ、例えばドラムブレーキタイプのものであっても構わない。その場合、摩擦材と被摩擦材は、それぞれブレーキシューとドラムとなる。
【0087】
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。すなわち、EPB−ECU9のうち、ステップ140のロック制御処理を実行する部分がロック制御手段、ステップ170のリリース制御処理を実行する部分がリリース制御手段、ステップ320、530の処理をを実行する部分が判定手段、ステップ330、560のリリース駆動時間KTR2を設定する部分が駆動時間設定手段、ステップ340、360、570、590のモータ駆動を停止する部分が駆動停止定手段に相当する。
【符号の説明】
【0088】
1…サービスブレーキ、2…EPB、5…M/C、6…W/C、7…ESCアクチュエータ、8…ESC−ECU、9…EPB−ECU、10…モータ、11…ブレーキパッド、12…ブレーキディスク、13…キャリパ、14…ボディ、14a…中空部、14b…通路、17…回転軸、17a…雄ネジ溝、18…推進軸、18a…雌ネジ溝、19…ピストン、23…操作SW、24…ロック・リリース表示ランプ、25…W/C圧センサ、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ(10)を正回転駆動することにより摩擦材(11)を車輪に取り付けられた被摩擦材(12)に向かう方向に移動させてパーキングブレーキによるブレーキ力を発生させたのち、前記モータ(10)の駆動を停止して前記ブレーキ力を保持するロック制御手段(140)と、
前記モータ(10)を逆回転駆動することにより前記摩擦材(11)を前記被摩擦材(12)から離れる方向に移動させて前記パーキングブレーキによるブレーキ力を低減させたのち、前記モータ(10)の駆動を停止して前記ブレーキ力を解除するリリース制御手段(170)とを備える駐車ブレーキ制御装置において、
前記リリース制御手段(170)は、前記モータ(10)の駆動時に流れるモータ電流(IMOTOR)を取得し、該取得した前記モータ電流(IMOTOR)の微分値の絶対値が閾値(KC)を超えているか否かを判定する判定手段(320、530)と、
前記判定手段(320、530)にて前記モータ電流(IMOTOR)の微分値の絶対値が閾値(KC)を超えていないと判定されると、当該判定されたときの前記モータ電流(IMOTOR)に基づいて、当該判定されたときから前記モータ(10)の駆動を停止するまでの時間であるリリース駆動時間(KTR2)を設定する駆動時間設定手段(330、560)と、
前記駆動時間設定手段(330、560)にて設定されたリリース駆動時間(KTR2)を計測し、前記判定手段(320、530)にて前記モータ電流(IMOTOR)の微分値の絶対値が閾値(KC)を超えていないと判定されたときから、前記リリース駆動時間(KTR2)が経過したときに前記モータ(10)の駆動を停止する駆動停止手段(340、360、570、590)と、を含んでいることを特徴とする駐車ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記駆動時間設定手段(330、560)では、前記リリース駆動時間(KTR2)を前記モータ電流(IMOTOR)の絶対値が大きいほど長い時間に設定することを特徴とする請求項1に記載の駐車ブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記モータ(10)が回転駆動されると、前記モータ(10)の回転運動が直線運動に変換されて直線移動させられる推進軸(18)を有し、該推進軸(18)の移動により、前記モータ(10)が正回転駆動されるときには前記摩擦材(11)を前記被摩擦材(12)に向かう方向に移動させて前記パーキングブレーキによるブレーキ力を発生させ、前記モータ(10)が逆回転駆動されるときには前記摩擦材(11)を前記被摩擦材(12)から離れる方向に移動させて前記パーキングブレーキによるブレーキ力を低減させる電動パーキングブレーキ(2)と、
ドライバによってブレーキペダル(3)が操作されることによりブレーキ液収容室(14a)内にホイールシリンダ圧が発生されると、前記摩擦材(11)が前記被摩擦材(12)に向かう方向に移動してブレーキ力を発生させるサービスブレーキ(1)と、を有し、
前記推進軸(18)が前記ブレーキ液収容室(14a)内において直線移動させられることで、前記摩擦材(11)を直線移動させるブレーキシステムに対して適用されていることを特徴とする請求項1または2に記載の駐車ブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記駆動時間設定手段(560)は、圧力検出手段(25)にて検出された前記ホイールシリンダ圧に基づいて、前記リリース駆動時間(KTR2)を延長する加算時間(KTR3)を設定し、
前記駆動停止手段(570、590)は、前記駆動時間設定手段(560)にて設定された前記リリース駆動時間(KTR2)に前記加算時間(KTR3)を加算した時間を計測し、前記判定手段(530)にて前記モータ電流(IMOTOR)の微分値の絶対値が閾値(KC)を超えていないと判定されたときから、前記リリース駆動時間(KTR2)に前記加算時間(KTR3)を加算した時間が経過したときに前記モータ(10)の駆動を停止することを特徴とする請求項3に記載の駐車ブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記駆動時間設定手段(560)は、前記圧力検出手段(25)にて検出された前記ホイールシリンダ圧が大きいほど、前記加算時間(KTR3)を長い時間に設定することを特徴とする請求項4に記載の駐車ブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記リリース制御中に、前記圧力検出手段(25)にて検出された前記ホイールシリンダ圧の最大値となるホイールシリンダ圧最大値(PWCMAX)を求めると共に、該ホイールシリンダ圧最大値(PWCMAX)を記憶する最大値記憶手段(540、550)を有し、
前記駆動時間設定手段(560)は、前記最大値記憶手段(540、550)に記憶された前記ホイールシリンダ圧最大値(PWCMAX)に基づいて、前記リリース駆動時間(KTR2)を延長する加算時間(KTR3)を設定することを特徴とする請求項4または5に記載の駐車ブレーキ制御装置。
【請求項1】
モータ(10)を正回転駆動することにより摩擦材(11)を車輪に取り付けられた被摩擦材(12)に向かう方向に移動させてパーキングブレーキによるブレーキ力を発生させたのち、前記モータ(10)の駆動を停止して前記ブレーキ力を保持するロック制御手段(140)と、
前記モータ(10)を逆回転駆動することにより前記摩擦材(11)を前記被摩擦材(12)から離れる方向に移動させて前記パーキングブレーキによるブレーキ力を低減させたのち、前記モータ(10)の駆動を停止して前記ブレーキ力を解除するリリース制御手段(170)とを備える駐車ブレーキ制御装置において、
前記リリース制御手段(170)は、前記モータ(10)の駆動時に流れるモータ電流(IMOTOR)を取得し、該取得した前記モータ電流(IMOTOR)の微分値の絶対値が閾値(KC)を超えているか否かを判定する判定手段(320、530)と、
前記判定手段(320、530)にて前記モータ電流(IMOTOR)の微分値の絶対値が閾値(KC)を超えていないと判定されると、当該判定されたときの前記モータ電流(IMOTOR)に基づいて、当該判定されたときから前記モータ(10)の駆動を停止するまでの時間であるリリース駆動時間(KTR2)を設定する駆動時間設定手段(330、560)と、
前記駆動時間設定手段(330、560)にて設定されたリリース駆動時間(KTR2)を計測し、前記判定手段(320、530)にて前記モータ電流(IMOTOR)の微分値の絶対値が閾値(KC)を超えていないと判定されたときから、前記リリース駆動時間(KTR2)が経過したときに前記モータ(10)の駆動を停止する駆動停止手段(340、360、570、590)と、を含んでいることを特徴とする駐車ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記駆動時間設定手段(330、560)では、前記リリース駆動時間(KTR2)を前記モータ電流(IMOTOR)の絶対値が大きいほど長い時間に設定することを特徴とする請求項1に記載の駐車ブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記モータ(10)が回転駆動されると、前記モータ(10)の回転運動が直線運動に変換されて直線移動させられる推進軸(18)を有し、該推進軸(18)の移動により、前記モータ(10)が正回転駆動されるときには前記摩擦材(11)を前記被摩擦材(12)に向かう方向に移動させて前記パーキングブレーキによるブレーキ力を発生させ、前記モータ(10)が逆回転駆動されるときには前記摩擦材(11)を前記被摩擦材(12)から離れる方向に移動させて前記パーキングブレーキによるブレーキ力を低減させる電動パーキングブレーキ(2)と、
ドライバによってブレーキペダル(3)が操作されることによりブレーキ液収容室(14a)内にホイールシリンダ圧が発生されると、前記摩擦材(11)が前記被摩擦材(12)に向かう方向に移動してブレーキ力を発生させるサービスブレーキ(1)と、を有し、
前記推進軸(18)が前記ブレーキ液収容室(14a)内において直線移動させられることで、前記摩擦材(11)を直線移動させるブレーキシステムに対して適用されていることを特徴とする請求項1または2に記載の駐車ブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記駆動時間設定手段(560)は、圧力検出手段(25)にて検出された前記ホイールシリンダ圧に基づいて、前記リリース駆動時間(KTR2)を延長する加算時間(KTR3)を設定し、
前記駆動停止手段(570、590)は、前記駆動時間設定手段(560)にて設定された前記リリース駆動時間(KTR2)に前記加算時間(KTR3)を加算した時間を計測し、前記判定手段(530)にて前記モータ電流(IMOTOR)の微分値の絶対値が閾値(KC)を超えていないと判定されたときから、前記リリース駆動時間(KTR2)に前記加算時間(KTR3)を加算した時間が経過したときに前記モータ(10)の駆動を停止することを特徴とする請求項3に記載の駐車ブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記駆動時間設定手段(560)は、前記圧力検出手段(25)にて検出された前記ホイールシリンダ圧が大きいほど、前記加算時間(KTR3)を長い時間に設定することを特徴とする請求項4に記載の駐車ブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記リリース制御中に、前記圧力検出手段(25)にて検出された前記ホイールシリンダ圧の最大値となるホイールシリンダ圧最大値(PWCMAX)を求めると共に、該ホイールシリンダ圧最大値(PWCMAX)を記憶する最大値記憶手段(540、550)を有し、
前記駆動時間設定手段(560)は、前記最大値記憶手段(540、550)に記憶された前記ホイールシリンダ圧最大値(PWCMAX)に基づいて、前記リリース駆動時間(KTR2)を延長する加算時間(KTR3)を設定することを特徴とする請求項4または5に記載の駐車ブレーキ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−63170(P2011−63170A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217236(P2009−217236)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
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