説明

騒音補正装置

【課題】 演算処理量を削減しつつ広帯域の周波数にわたって騒音補正をすることができる「騒音補正装置」を提供する。
【解決手段】 本発明のオーディオ装置は、オーディオ信号Saを車内の音響空間に出力する出力手段と、音響空間内の音声を入力するマイクロフォン30と、マイクロフォン30から得られた音声信号Sdとオーディオ信号Saを用いて騒音信号を検出し、検出された騒音信号に応じた利得GLを算出する補正パラメータ算出部120と、車速に応じた騒音レベルの利得GLを推定するコントローラ60と、低域のオーディオ信号を算出された利得GLにより補正し、高域のオーディオ信号を推定された利得GHにより補正する信号レベル補正部130とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音補正装置に関し、特に、車両に搭載されたオーディオ装置の騒音補正に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるオーディオ装置には、走行中の騒音による影響を少なくするような騒音補正に関する技術が利用されている。例えば、オーディオ装置で再生されるオーディオ信号とマイクロフォンによって捕捉された車内空間に放射された音声信号との差分から騒音信号を抽出し、これを打ち消すような信号をオーディオ信号に与えたり、あるいは騒音信号が抑制されるようにオーディオ信号の利得(ゲイン)を補正している。
【0003】
自動車内で音楽を聴取する場合、種々の騒音によって音楽の聴こえが悪くなる。時々刻々と変化する騒音レベルに適応して音楽の聴こえを改善するオーディオ装置(特許文献1)が開示されている。この装置では、車室内のマイクロフォンで観測された騒音レベルと再生中のオーディオ信号のレベルから、聴感上最適な補正利得を算出し、オーディオ信号のレベルを補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3322479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1は、従来の車載用オーディオ装置の構成を示す図である。オーディオ装置1は、車内の音響空間に放射された音声を捕捉するマイクロフォン2と、CD、DVD、テレビ放送等の音源ソース3と、マイクロフォン2から得られた音声信号と音源ソース3から得られたオーディオ信号を用いて騒音信号を抽出し、騒音信号に応じた補正を行うディジタル信号処理装置(DSP)4と、DSP4で処理されたオーディオ信号を増幅するアンプ5と、増幅されたオーディオ信号を車内の音響空間に放射するスピーカ6とを備えている。
【0006】
マイクロフォン2で観測される音声には、騒音と音楽が混在しており、この騒音の抽出には、適応フィルタが利用される。適応フィルタによって車室内の音響伝達特性を模擬し、マイクロフォン位置でのオーディオ信号を推定し、この信号を観測信号から差し引くことによって騒音抽出が行われる。しかし、車室内の音響伝達特性を模擬するためには、高次のFIRフィルタが必要となり、膨大な処理量のために高性能なDSP4を必要とし、コストが増大するという課題がある。他方、演算処理量を削減する手段として、観測信号をダウンサンプリングして単位時間当たりの演算量を削減する方法があるが、ダウンサンプリングによる帯域制限のため、高周波数域の情報が失われ、高周波数域の騒音補正が不十分になるという課題が生じる。
【0007】
本発明の目的は、上記従来の課題を解決し、演算処理量を削減しつつ広帯域の周波数にわたって騒音補正をすることができる騒音補正装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る騒音補正装置は、オーディオ信号を車内の音響空間に出力する出力手段と、前記音響空間内の音声を入力する入力手段と、前記入力手段から得られた音声信号と前記オーディオ信号を用いて騒音情報を検出し、検出された騒音情報に応じた利得を算出する算出手段と、移動体の速度に応じた騒音レベルの利得を推定する推定手段と、基準周波数以下の周波数帯域のオーディオ信号を前記算出手段により算出された利得により補正し、基準周波数よりも高い周波数帯域のオーディオ信号を前記推定手段により推定された利得により補正する補正手段とを有する。
【0009】
好ましくは前記算出手段はさらに、前記音声信号およびオーディオ信号をダウンサンプリングするサンプリング手段を含み、前記補正手段は、ダウンサンプリングされた音声信号およびオーディオ信号に基づき騒音情報を抽出する。好ましくは前記算出手段は、基準周波数以下の複数の周波数帯域に応じた複数の利得を算出する。好ましくは前記推定手段は、移動体の速度と推定される騒音レベルの関係を示す推定情報を保持し、前記推定手段は、前記推定情報に基づき利得を決定する。好ましくは前記推定手段は、移動体の速度と推定される騒音レベルの関係を示す推定情報を複数保持しており、前記推定手段は、走行状態に応じて複数の推定情報の中から1つの推定情報を選択し、選択された推定情報に基づき利得を決定する。この場合、前記推定手段は、ユーザ入力に基づき複数の推定情報の中から1つの推定情報を選択することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、移動体の速度に応じた騒音レベルの利得を推定し、推定された利得を用いて基準周波数よりも高い周波数帯域のオーディオ信号を補正するようにしたので、騒音補正装置による高い周波数帯域での演算処理量を削減することができる。他方、基準周波数以下のオーディオ信号は、実際の信号に基づき算出された利得により騒音補正されるため、騒音が発生する周波数帯域の全体にわたってオーディオ信号の騒音補正をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来のオーディオ装置の構成を示す図である。
【図2】適応フィルタの典型的な構成例を示す図である
【図3】本発明の実施例に係るオーディオ装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図3に示す補正パラメータ算出部の構成を示す図である。
【図5】車速に応じた推定騒音レベルと補正利得の関係を示すテーブルである。
【図6】図3に示す信号レベル補正部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態に係る騒音補正装置について図面を参照して詳細に説明する。本発明の好ましい実施の形態として、騒音補正装置は、車両に搭載されるオーディオ装置に適用される。
【0013】
本実施の形態に係るオーディオ装置では、車速情報から高域の騒音レベルを簡易推定し、この推定結果を利用して高域のオーディオ信号の騒音補正を行う。一般に、車速と騒音レベルとの間に明らかな相関関係はない。自動車の騒音の中で、車体の固有振動、タイヤ内の空気の気柱共鳴、エンジン振動、トランスミッション振動による騒音は、車速との関連付けが難しく、これらの騒音を車速から推定することは望ましくない。しかし、走行風や、タイヤ回転による騒音は、車速とともに騒音レベルが増加する傾向にあり、車速との相関関係にある騒音と言える。
上記した車速と相関関係にない騒音の主たる周波数帯域は、数百Hz以下であり、車速と相関関係があるとみなされる騒音(走行風やタイヤ回転による騒音)は、数百から2000Hz程度であり、後者の騒音の方が高域側に帯域が広い。
そこで、マイクロフォンによる騒音観測を、数百Hz以下に限定し、それ以上の周波数の騒音は、車速から簡易推定することで、騒音推定処理のサンプリング周波数を低くし、DSPの演算量を削減する。
【実施例】
【0014】
図3は、本発明の実施例に係るオーディオ装置の構成を示すブロック図である。CD、DVD、テレビ放送などからのオーディオ信号Saを出力する音源ソース20と、車内の音響空間に放射された音声を捕捉するマイクロフォン30と、マイクロフォン30で捕捉された音声信号Sdを増幅するアンプ40と、音源ソース20からのオーディオ信号Saおよびアンプ40からの音声信号Sdを入力し、オーディオ信号Saの騒音補正を行うディジタル信号処理装置(DSP)50と、車速に応じて推定された利得GHをDSP50へ提供するコントローラ60と、DSP50で騒音補正されたオーディオ信号Sbをディジタル/アナログ変換および増幅するDAC/アンプ70と、増幅されたオーディオ信号Sbを車内の音響空間に放射するスピーカ80とを有する。
【0015】
DSP50は、オーディオ信号Saおよび音声信号Sdを入力し、これらの信号をダウンサンプリングするダウンサンプラ100と、ダウンサンプリングされたオーディオ信号および音声信号を入力し、これらの信号から騒音信号Snを抽出し、さらに車室内の音響伝達特性を模擬したオーディオ信号Sa’を出力する適応フィルタ110と、適応フィルタ110からのオーディオ信号Sa’および騒音信号Snに基づき騒音補正のパラメータとして利得GLを算出する補正パラメータ算出部120と、補正パラメータ算出部120からの利得GLとコントローラ60からの推定された利得GHを入力し、利得GLおよびGHに基づきオーディオ信号Saのレベルを補正する信号レベル補正部130とを有する。
【0016】
ダウンサンプラ100は、オーディオ信号Saおよび音声信号Sdのサンプリング周波数よりもさらに低い周波数で再サンプリングする。例えば、ダウンサンプリングする周波数は、元の周波数の2倍または4倍である。
【0017】
適応フィルタ110の典型的な機能ブロックを図2に示す。適応フィルタ110は、スピーカ80からマイクロフォン30までの信号遅延特性を付与する遅延素子200と、遅延されたオーディオ信号Saのディジタルフィルタ処理を行うフィルタ処理部(ADF)202と、フィルタ処理部202のフィルタ係数を算出する係数算出部204と、マイクロフォン30からの音声信号Sdとフィルタ処理部102でフィルタ処理されたオーディオ信号Sa’との差分を算出し誤差信号eを出力する減算器206とを有する。係数算出部204は、例えば、LMS(Least Mean Square)適応アルゴリズムに従って、誤差信号eが最小となるようにフィルタ係数を決定し、フィルタ処理部202は、決定されたフィルタ係数に従ってオーディオ信号Saをディジタルフィルタ処理し信号Sa’を出力する。
適応フィルタ110により抽出された誤差信号e、すなわち騒音信号Snとオーディオ信号Sa’は、補正パラメータ算出部120へ出力される。
【0018】
補正パラメータ算出部120は、騒音信号Snの騒音レベル(dB)を計算し、騒音レベルに応じた利得GLを算出する。人間の知覚する音の大きさは、ラウドネスとして表され、同一のラウドネスを得るためには騒音が大きい程、実際の音のレベルを大きくしなければならない。そして、騒音の大きさに応じて実際の音のレベルを制御すれば、騒音下でも静穏状態と同等の音を聴くことができるようになり、騒音をマスキングすることができる。
【0019】
図4は、補正パラメータ算出部120の構成を示す図である。補正パラメータ算出部120は、オーディオ信号Sa’を各周波数帯域f1、f2、・・・fnに分割し、分割された信号を通過させる帯域通過フィルタ(BPF)を有するフィルタバンク122と、騒音信号Snを各周波数帯域Af1、Af2、・・・Afnに分割し、分割された信号を通過させる帯域通過フィルタ(BPF)を有するフィルタバンク124と、フィルタバンク122、124からのサブバンド信号に基づき各周波数帯域の利得を算出する利得算出部126とを有する。利得算出部126−1は、フィルタバンク122からの周波数帯域f1のオーディオ信号と、フィルタバンク124からの周波数帯域Af1(Af1=f1)の騒音信号とを入力し、周波数帯域f1の利得G1を算出する。同様に、利得算出部126−2、・・・126−nは、周波数帯域f2、・・・fnの利得G2、・・・Gnを算出する。算出された利得G1、G2・・・Gnは、利得GLとして信号レベル補正部130へ出力される。
【0020】
車速と相関関係にない騒音の主たる周波数帯域は、数百Hz以下であり、フィルタバンク122、124は、このような車速と相関関係にない騒音の周波数帯域を複数の周波数帯域f1(Af1)、f2(Af2)、・・・fn(Afn)に分割する。ここで、車速と相関関係にない騒音の上限の周波数をfmaxとしたとき、f1(Af1)<f2(Af2)<・・・fn(Afn)≪fmaxとなるように、フィルタバンク122、124が構成される。つまり、フィルタバンク122、124からは、走行により発生する騒音のうち、fmaz以下の車速と相関関係にない騒音の周波数成分が出力される。なお、fmaxは、車両、経験則、実験値などから適宜決定することができる。
【0021】
利得算出部126は、予め用意された数式または参照テーブルに基づき騒音レベルに応じた利得GLを計算する。利得GLは、騒音レベルおよび音圧レベルとの関係から算出することができ、騒音レベルが大きくなるに従い利得は大きくなり、反対に、同一騒音レベルであれば、音圧レベルが大きくなるにつれ利得が小さくなる関係がある(特許文献1を参照)。
利得を算出する好ましい例として、オーディオ信号の音圧レベルをL、利得をGとしたとき、
G=A・L+C
で表すことができる。但し、Aは傾き、Cは定数である。
【0022】
コントローラ60は、中央処理装置、マイクロプロセッサ、電子処理装置などから構成される。好ましくは、データを記憶するデータメモリ、プログラムを記憶するプログラムメモリ、プログラムを実行する演算装置、外部バスやネットワークでデータの送受を可能にするI/Oポート等を含んで構成される。
【0023】
コントローラ60は、車内バス等を通じて、自車に搭載された車速センサから自車の車速情報を取得し、取得された車速に基づき騒音レベルを推定し、推定された騒音レベルから利得GHを決定し、利得GHをDSP50へ提供する。上記したように、車速と相関関係にあると考えられる騒音(例えば、走行風やタイヤ回転による騒音)は、車速とともに騒音レベルが増加する傾向にあり、この騒音の周波数帯域は、数百から2000Hz程度と高域側に広い。コントローラ60は、このような車速と相関関係にある騒音を補正するための利得GHを、DSPによる実際の信号から演算により算出するのではなく、簡易的な手法を用いて決定する。DSP50は、コントローラ60からの高域側の利得GHを用いてオーディオ信号Saの高域側の騒音補正を実行する。
【0024】
好ましくは、コントローラ60は、車速、騒音レベルおよび利得との関係を定めたテーブルを保持し、当該テーブルを参照して利得を推定する。図5は、車速、騒音レベルおよび利得との関係を示した例である。例えば、車速0、すなわち自車が停止しているとき、推定される騒音レベルは30dB、補正利得は0dBである。利得0dBは、入力された信号のレベルを可変しないことを意味する。車速が20Km以下であれば、推定される騒音レベルは40dB、補正利得は3dBである。車速との相関関係により、車速が大きくなるにつれ、推定される騒音レベルも大きくなり、かつ騒音レベルから得られる補正利得も大きくなる。コントローラ60は、一定のサンプリング周期で車速情報を取得し、車速が変更されたと判定した場合には、テーブルを参照し、車速に該当する補正利得を選択し、これをDSP50へ提供する。
【0025】
なお、コントローラ60は、車速、騒音レベルおよび利得の関係をテーブルにて保持する以外にも、簡単な数式から演算により算出するようにしてもよい。また、テーブルは、車速と騒音レベルの関係を規定し、車速に対応する騒音レベルから利得を算出するものでもよいし、車速と利得の関係を規定、車速に対応する利得を選択するものであってもよい。さらに、車速情報は、車内バスからネットワークコントローラを介してコントローラ60が取得することが一般的だが、これらのデバイスの機能を統合してもよい。
【0026】
信号レベル補正部130は、補正パラメータ算出部120で算出された低域の利得GLおよびコントローラ60から提供された高域の利得GHを受け取り、利得GL、GHに基づきオーディオ信号Saのレベルを補正をする。
【0027】
図6(a)は、信号レベル補正部130の構成を示す図である。信号レベル補正部130は、オーディオ信号Saを各周波数帯域f1、f2、・・・fnに分割するBPFを有するフィルタバンク210と、オーディオ信号Saの高周波帯域を通過させるハイパスフィルタ(HPF)220と、各周波数帯域のオーディオ信号に利得G1、G2・・・Gnを乗算する利得可変アンプ230と、利得可変アンプ230の各出力を合成する合成部240とを有する。
【0028】
フィルタバンク210で分割される周波数帯域f1、f2、・・・fnは、補正パラメータ算出部120のフィルタバンク122によって分割される周波数帯域f1、f2、・・・fnと等しい。一方、ハイパスフィルタ220の遮断(カットオフ)周波数は、車速と相関関係にない騒音の上限となる周波数fmaxに一致し、周波数fmax以下の周波数成分を遮断し、fmaxよりも高い周波数成分を通過させる。
【0029】
利得可変アンプ230−1は、周波数帯域f1のオーディオ信号を利得G1に基づき補正し、利得可変アンプ230−2は、周波数帯域f2のオーディオ信号を利得G2に基づき補正し、利得可変アンプ230−nは、周波数帯域fnのオーディオ信号を利得Gnに基づき補正する。利得G1、G2、・・・Gnは、補正パラメータ算出部120によって演算により求められた利得GLである。一方、利得可変アンプ232は、HPF220から出力された高周波数帯域のオーディオ信号を利得GHに基づき補正する。利得GHは、コントローラ60によって車速から推定されたものである。合成部240は、利得可変アンプ230によって利得補正された各周波数帯域の信号を合成し、オーディオ信号Sbを出力する。
【0030】
図6(b)は、信号レベル補正部の他の構成例である。コントローラ60で推定された利得GHは、車速と相関関係にある騒音であり、その周波数帯域は、数百から2000Hzであり、この周波数帯域でオーディオ信号の利得が補正されればよい。従って、図6(b)では、バンドパスフィルタ224とハイパスフィルタ226を含み、バンドパスフィルタ224が通過させる帯域fpをfmax<fp≪2000Hzとし、この周波数帯域の信号が利得可変アンプ232により推定利得GHを用いて補正される。この場合、HPF226の遮断周波数は、2000Hzである。
【0031】
このように、本実施例によれば、ダウンサンプラ100によるダウンサンプリングによって適応フィルタ110による演算処理量を減らし、他方、ダウンサンプリングによって失われた高周波帯域の騒音情報は、コントローラ60により簡易に推定することで、走行により発生する騒音の周波数帯域の全体にわたって騒音補正を行うことができる。これにより、比較的廉価なDSP50を利用した低コストなオーディオ装置を実現することが可能になり、あるいはDSP50の演算資源を他の計算に利用しシステムの効率化を図ることができる。
【0032】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。第1の実施例において、コントローラ60は、図5に示すように1つの車速に対して1つの騒音レベルと補正利得の関係を規定した1つのテーブルを保持するものであるが、第2の実施例では、複数種のテーブルを用意し、最適なテーブルを選択するものである。
【0033】
同一の車速であっても、路面(例えば、アスファルトやコンクリート)によって騒音レベルは異なる。そこで、アスファルトやコンクリートなどの複数の路面の状態において実測した騒音レベルや、計算機シミュレーションで計算した騒音レベルから複数のテーブルを用意しておく。車載用カメラなどによって路面の種類を判別することができるのであれば、コントローラ60は、判別された路面の種類に合致するテーブルを選択し、選択されたテーブルから騒音レベルを推定し、これに対応する利得GHを決定し、利得GHをDSP50に提供する。これとは別に、コントローラ60は、ユーザにより路面の種類を選択させるようにしてもよい。例えば、オーディオ信号を再生するとき、ディスプレイに路面の種類を選択するための入力ボタンなどを表示し、それを選択させる。
【0034】
また、同一の車速であっても、天候によって騒音レベルは異なる。例えば、路面が雨で濡れているとき、または積雪されているときである。このような場合にも、コントローラア60は、天候に応じたテーブルを選択するようにしてもよい。天候の判別は、温度センサ、湿度センサを用いることができるが、それ以外に、メニュー画面からユーザに選択させるようにしてもよい。なお、複数のテーブルに変えて、複数の数式から補正レベルを推測し、これに該当する利得を決定するようにしてもよい。
【0035】
このように、第2の実施例によれば、走行状態に近い騒音レベルを正確に推定し、その騒音レベルから利得GHを決定することができるので、発生した騒音を精度よくマスキングすることができる。
【0036】
次に、本実施例の具体的な効果を説明する。上記したように、マイクロフォン30を使って観測する騒音の周波数帯域を制限することで演算量を削減でき、また、以下の条件で、2000Hzまでの騒音を推定する場合を考える。
サンプリング周波数: 4000Hz
インパルス応答長: 250ms
車内の音響特性を模擬したときのFIRフィルタ長: 1000
【0037】
従来のオーディオ装置におけるDSPの1秒あたりの積和演算量は、
4000×1000=4000000[回]
となる。
【0038】
本実施例のオーディオ装置において、1/4ダウンサンプリングを行った場合のDSP50の積和演算量は、
(4000/4)×(1000/4)=250000[回]
となり、演算処理量を従来の1/16に削減することができる。
【0039】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0040】
上記実施例では、コントローラ60が車速情報等を取得し、それに応じて推定された利得GHをDSP50に提供する例を示したが、コントローラ60は、DSP50に機能的に結合されるものであってもよいし、あるいは、DSP50が車速情報を取得し車速情報から高域の騒音についての利得GHを推定してもよい。
【0041】
上記実施例では、騒音補正装置をオーディオ装置に適用する例を示したが、本発明の騒音補正装置は、オーディオ装置の他にも、オーディオ機能に加えて、ナビゲーション機能、ビデオ機能、テレビ受信機能、ラジオ受信機能などが搭載された電子装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
10:オーディオ装置 20:音源ソース
30:マイクロフォン 40:アンプ
50:DSP 60:コントローラ
70:DAC/アンプ 80:スピーカ
100:ダウンサンプラ 110:適応フィルタ
120:補正パラメータ算出部 122、124:フィルタバンク
126:利得算出部 130:信号レベル補正部
200:遅延素子 202:ディジタルフィルタ処理
204:係数算出部 206:減算部
210:フィルタバンク 220、226:HPF
224:BPF 230、232:利得可変部
240:合成部
Sd:音声信号 Sa:オーディオ信号
Sb:騒音補正されたオーディオ信号 Sn:騒音信号
GL:算出された利得 GH:推定された利得

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーディオ信号を車内の音響空間に出力する出力手段と、
前記音響空間内の音声を入力する入力手段と、
前記入力手段から得られた音声信号と前記オーディオ信号を用いて騒音情報を検出し、検出された騒音情報に応じた利得を算出する算出手段と、
移動体の速度に応じた騒音レベルの利得を推定する推定手段と、
基準周波数以下の周波数帯域のオーディオ信号を前記算出手段により算出された利得により補正し、基準周波数よりも高い周波数帯域のオーディオ信号を前記推定手段により推定された利得により補正する補正手段と、
を有する騒音補正装置。
【請求項2】
前記算出手段はさらに、前記音声信号およびオーディオ信号をダウンサンプリングするサンプリング手段を含み、前記補正手段は、ダウンサンプリングされた音声信号およびオーディオ信号に基づき騒音情報を抽出する、請求項1に記載の騒音補正装置。
【請求項3】
前記算出手段は、基準周波数以下の複数の周波数帯域に応じた複数の利得を算出する、請求項1または2に記載の騒音補正装置。
【請求項4】
前記推定手段は、移動体の速度と推定される騒音レベルの関係を示す推定情報を保持し、前記推定手段は、前記推定情報に基づき利得を決定する、請求項1に記載の騒音補正装置。
【請求項5】
前記推定手段は、移動体の速度と推定される騒音レベルの関係を示す推定情報を複数保持しており、前記推定手段は、走行状態に応じて複数の推定情報の中から1つの推定情報を選択し、選択された推定情報に基づき利得を決定する、請求項4に記載の騒音補正装置。
【請求項6】
前記推定手段は、ユーザ入力に基づき複数の推定情報の中から1つの推定情報を選択する、請求項5に記載の騒音補正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−14106(P2012−14106A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152982(P2010−152982)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)
【Fターム(参考)】