説明

高アスペクト比のカーボンナノチューブとイオン液体から構成される導電性薄膜、アクチュエータ素子

【課題】性能の向上したアクチュエータを提供する。
【解決手段】アスペクト比が104以上のカーボンナノチューブおよびイオン液体から構成
される導電性薄膜;長さが50μm以上のカーボンナノチューブおよびイオン液体から構成
される導電性薄膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性薄膜を有する導電体及びアクチュエータ素子並びにその製造法に関する。ここでアクチュエータ素子は、電気化学反応や電気二重層の充放電などの電気化学プロセスを駆動力とするアクチュエータ素子である。
【背景技術】
【0002】
空気中、あるいは真空中で作動可能なアクチュエータ素子として、カーボンナノチューブとイオン液体とのゲルを導電性があり、かつ伸縮性のある活性層として用いるアクチュエータが提案されている(特許文献1)。
【0003】
導電体であるカーボンナノチューブに求められる特性としては、高純度、高アスペクト比、高導電性、高比表面積などの特性が要求される。これらの要求を満たす、高アスペクト比のカーボンナノチューブを用いた素子について、カーボンナノチューブとポリマー、イオン液体の均質混合が従来の方法では困難であり、アクチュエータの性能低下の原因となっていた。従来の知られていた長さが数μm程度のカーボンナノチューブでは、カーボ
ンナノチューブのみで均質な導電性のよい電極フィルムを作成することは困難であった。そのために、結着剤としてポリマーを加えることにより、キャストという簡便な方法で、導電性薄膜が簡便に得ることが可能となったが、ポリマーを加えることにより、カーボンナノチューブの均一混合が妨げられることになり、また、電子伝導、イオン伝導が阻害されるという問題点があった。
【特許文献1】特開2005−176428
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、さらに性能の向上したアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以上の問題点を解決するものであって、アスペクト比の非常に大きい、極めて長いカーボンナノチューブを用いることにより、ポリマーを加えなくても、キャスト法という簡便な方法でカーボンナノチューブとイオン液体からなる導電性フィルムを得ることが可能なことを発見し、さらにそのアクチュエータ特性を見出した。特に、カーボンナノチューブと溶媒を含む分散液を超音波もしくはジェットミルにより分散させることで、導電性薄膜の性能が著しく向上することを見出した。
【0006】
本発明は、以下の導電性薄膜、積層体、アクチュエータ素子、またはその製造法を提供するものである。
1. アスペクト比が104以上のカーボンナノチューブから構成される導電性薄膜。
2. 長さが50μm以上のカーボンナノチューブから構成される導電性薄膜。
3. さらにイオン液体を含む、項1または2に記載の導電性薄膜。
4. 前記導電性薄膜が、前記カーボンナノチューブを必要に応じてイオン液体を含む溶媒中、ジェットミル及び/又は超音波処理を用いて分散させ、得られた分散液を用いて製造されたものである、項1〜3のいずれかに記載の導電性薄膜。
5. 項1〜4のいずれかに記載の導電性薄膜層とイオン伝導層を有する積層体。
6. 項5に記載の積層体を含むアクチュエータ素子。
7. イオン伝導層の表面に、項3に記載の導電性薄膜を電極とする導電性薄膜層が互いに絶縁状態で少なくとも2個形成され、当該導電性薄膜層に電位差を与えることにより変
形可能に構成されている項6に記載のアクチュエータ素子。
8. 以下の工程を含むことを特徴とするアクチュエータ素子の製造方法
工程1:アスペクト比が104以上あるいは、長さが50μm以上のカーボンナノチューブ(CNT)および溶媒を含む分散液を超音波もしくはジェットミルにより調製する工程;
工程2:ポリマー、溶媒及びイオン液体を含む溶液を調製する工程;
工程3:工程1の分散液を用いてCNT薄膜を形成する工程;
工程4:工程3で得られたCNT薄膜をイオン液体に含浸して、導電性薄膜を形成する工程

工程5;工程2の溶液を用いてイオン伝導層を形成する工程
工程6;工程4で得られた導電性薄膜と工程5で得られたイオン伝導層を積層して積層体を形成するか、工程3で得られたCNT薄膜と工程5で得られたイオン伝導層を積層した後
イオン液体に含浸する工程を行って、積層体を形成する工程
(但し、工程5と工程3ないし工程4の順序は問わない。また、工程6で「イオン液体に
含浸する工程」を行う場合には、工程4は行う必要はない)
9. 以下の工程を含むことを特徴とするアクチュエータ素子の製造方法
工程1:アスペクト比が104以上あるいは、長さが50μm以上のカーボンナノチューブ(CNT)、溶媒及びイオン液体を含む分散液を超音波もしくはジェットミルにより調製する工程

工程2:ポリマー、溶媒及びイオン液体を含む溶液を調製する工程;
工程3:工程1の分散液を用いる導電性薄膜の形成と工程2の溶液を用いるイオン伝導層の形成を同時にあるいは順次行い、導電性薄膜層とイオン伝導層の積層体を形成する工程。
10. 以下の工程を含むことを特徴とするアクチュエータ素子の製造方法
工程1:アスペクト比が104以上あるいは、長さが50μm以上のカーボンナノチューブ及び溶媒を混合し、ジェットミル及び/又は超音波処理を用いて分散させて分散液を調製する工程;
工程2:ポリマー、溶媒及びイオン液体を含む溶液を調製する工程;
工程3:工程1の分散液を用いキャスト、印刷、塗布、押し出しまたは射出により、CNT
薄膜を形成する工程
工程4:工程3で得られたCNT薄膜をイオン液体に含浸して、導電性薄膜を形成する工程

工程5:必要に応じて、工程3で作製したCNT薄膜もしくは工程4で作製した導電性薄膜
の熱厚密化を行い、密度を大きくする工程、あるいは数枚のCNT薄膜もしくは導電性薄膜
を熱圧着すると同時に厚密化し、密度を大きくする工程(但し、CNT薄膜の熱厚密化もしくは数枚のCNT薄膜の熱圧着の後には、イオン液体に含浸して、導電性薄膜を形成する)
工程6:工程2の分散液を用いキャスト、印刷、塗布、押し出しまたは射出により、イオン伝導層を形成する工程;
工程7:工程5で形成した導電性薄膜と工程6で形成したイオン伝導層を、圧着により積層し、積層体を形成する工程(但し、工程6と工程3ないし工程4の順序は問わない)。
11. 以下の工程を含むことを特徴とするアクチュエータ素子の製造方法
工程1:アスペクト比が104以上あるいは、長さが50μm以上のカーボンナノチューブ、溶媒及びイオン液体を混合し、ジェットミル及び/又は超音波処理を用いて分散させて分散液を調製する工程;
工程2:ポリマー、溶媒及びイオン液体を含む溶液を調製する工程;
工程3:工程1の分散液を用いキャスト、印刷、塗布、押し出しまたは射出により、導電性薄膜を形成、その後、必要に応じて、作製した導電性薄膜の熱厚密化を行い、密度を大きくする工程、あるいは数枚の導電性薄膜を熱圧着すると同時に厚密化し、密度を大きくする工程;
工程4:工程2の分散液を用いキャスト、印刷、塗布、押し出しまたは射出により、イオン伝導層を形成する工程;
工程5:工程3で形成した導電性薄膜と工程4で形成したイオン伝導層を、圧着により積層し、積層体を形成する工程(但し、工程3と工程4の順序は問わない)。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポリマーなしで導電性薄膜を得ることができるため、電子伝導性、イオン伝導性が向上し、応答が速やかになるとともに、素子の軽量化、あるいは素子の変形をより容易に行なうことができ、効率のよい変形応答のアクチュエータ素子を提供することができるようになった。
【0008】
また、イオン液体をカーボンナノチューブから構成される薄膜に含浸することにより、品質の安定な導電性薄膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、アクチュエータ素子の電極層に使用する導電性薄膜には、カーボンナノチューブ(CNT)、必要に応じてさらにイオン液体が使用される。すなわち、本発明の導
電性薄膜には、ポリマーは含まれない。また、イオン液体は任意成分であって、イオン液体を最初からカーボンナノチューブとともに溶剤に混合した分散液を調製し、導電性薄膜を形成してもよく、カーボンナノチューブと溶媒の分散液からイオン液体を含まないCNT
薄膜を形成し、該CNT薄膜にイオン液体を含浸して、カーボンナノチューブとイオン液体
から構成される導電性薄膜としてもよい。
【0010】
本発明において、カーボンナノチューブと溶媒の分散液(イオン液体は含んでいても、含んでいなくてもよい)は、ジェットミル及び/又は超音波処理により調製される。カーボンナノチューブは、溶媒中、必要に応じてさらにイオン液体の存在下に撹拌羽根、撹拌棒、磁気撹拌子などの通常の撹拌により分散して製造することも可能であるが、ジェットミル及び/又は超音波処理により得られた分散液は、該分散液から得られる導電性薄膜の性能が著しく優れているので好ましい。
【0011】
ジェットミルとしては、湿式ジェットミルを好適に使用する。湿式ジェットミルは、カーボンナノチューブの溶媒中の混合物を高速流とし、耐圧容器内に密閉状態で配置されたノズルから圧送するものである。耐圧容器内で対向流同士の衝突、容器壁との衝突、高速流によって生じる乱流、剪断流などによりカーボンナノチューブを分散させる。湿式ジェットミルの好ましい処理圧力は、約100MPa以上であり、より好ましくは100〜400MPa、特
に好ましくは200〜300MPa程度である。
【0012】
ジェットミルとして(株式会社常光のナノジェットパル(JN10,JN100, JN1000)などを使用することができる。
【0013】
ジェットミル以外にナノマイザー、プローブ型超音波ホモジナイザー、超音波洗浄機、断続ジェット流式攪拌機などを使用することもできる。
【0014】
イオン液体に対する含浸は、カーボンナノチューブから構成される導電性薄膜を、イオン液体自体、あるいはイオン液体を溶媒と混合した混合液に含浸させ、必要に応じて乾燥させて、イオン液体とカーボンナノチューブから構成される導電性薄膜を得ることができる。
【0015】
本発明に用いられるイオン液体(ionic liquid)とは、常温溶融塩または単に溶融塩などとも称されるものであり、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈する塩であり、例えば0℃、好ましくは−20℃、さらに好ましくは−40℃で溶融状態を呈する塩である。また、本発明で使用するイオン液体はイオン導電性が高いものが好ましい。
【0016】
本発明においては、各種公知のイオン液体を使用することができるが、常温(室温)または常温に近い温度において液体状態を呈する安定なものが好ましい。本発明において用いられる好適なイオン液体としては、下記の一般式(I)〜(IV)で表わされるカチオン(好ましくは、イミダゾリウムイオン、第4級アンモニウムイオン)と、アニオン(X)より成るものが挙げられる。
【0017】
【化1】

【0018】
上記の式(I)〜(IV)において、Rは炭素数1〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基またはエーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基を示し、式(I)においてRは炭素数1〜4の直鎖又は分枝を有するアルキル基または水素原子を示す。式(I)において、RとRは同一ではないことが好ましい。式(III)および(IV)において、xはそれぞれ1〜4の整数である。
【0019】
炭素数1〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルなどの基が挙げられる。炭素数は好ましくは1〜8,より好ましくは1〜6である。
【0020】
炭素数1〜4の直鎖又は分枝を有するアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチルが挙げられる。
【0021】
エーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基としては、CH2OCH3、(CH2)p(OCH2CH2)qOR2(ここで、pは1〜4の整数、qは1〜4の整数、R2はCH3又はC2H5を表す)が挙げられる。
【0022】
アニオン(X)としては、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4-)、BF3CF3-、BF3C2F5-、BF3C3F7-、BF3C4F9-、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6-)、ビス(トリフルオロメ
タンスルホニル)イミド酸イオン((CF3SO2)2N-)、過塩素酸イオン(ClO4-)、トリス(
トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸イオン(CF3SO2)3C-)、トリフルオロメタンスル
ホン酸イオン(CF3SO3-)、ジシアンアミドイオン((CN)2N-)、トリフルオロ酢酸イオン
(CF3COO-)、有機カルボン酸イオンおよびハロゲンイオンが例示できる。
【0023】
これらのうち、イオン液体としては、例えば、カチオンが1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、[N(CH3)(CH3)(C2H5)(C2H4OC2H4OCH3)]+、アニオンがハロゲンイオン
、テトラフルオロホウ酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸イオン((CF3SO2)2N-)のものが、具体的に例示でき、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオンとビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸イオン((CF3SO2)2N-)からなるイオン液体が特に好ましい。なお、カチオン及び/又はアニオンを2種以上使用し、融点をさらに下げることも可能である。
【0024】
ただし、これらの組み合わせに限らず、イオン液体であって、導電率が0.1Sm-1以上の
ものであれば、使用可能である。
【0025】
本発明に用いられるカーボンナノチューブは、グラフェンシートが筒形に巻いた形状から成る炭素系材料であり、その周壁の構成数から単層ナノチューブ(SWNT)と多層ナノチューブ(MWNT)とに大別され、また、グラフェンシートの構造の違いからカイラル(らせん)型、ジグザグ型、およびアームチェア型に分けられるなど、各種のものが知られている。本発明には、このような所謂カーボンナノチューブと称されるものであれば、いずれのタイプのカーボンナノチューブも用いることができる。
【0026】
本発明で使用するカーボンナノチューブのアスペクト比は、10以上である。アスペクト比は大きければ大きいほど好ましいが、上限は、例えば10程度である。カーボンナノチューブの長さは、通常1μm以上、好ましくは50μm以上、さらに好ましくは500μm以上である。カーボンナノチューブの長さの上限は、特に限定されないが、例えば3mm程度である。
【0027】
実用に供されるカーボンナノチューブの好適な例として、一酸化炭素を原料として比較的量産が可能なHiPco(カーボン・ナノテクノロジー・インコーポレーテッド社製)が挙げられるが、勿論、これに限定されるものではない。
【0028】
本発明の導電性薄膜は、カーボンナノチューブとイオン液体から基本的に構成されるが、活性炭素繊維や補強材などを導電性などの特性をあまり損なわない範囲で加えることもできる。
【0029】
本発明のイオン伝導層は、ポリマーと溶媒、イオン液体を含む溶液を調製し、得られた溶液をキャスト法により製膜し、溶媒を蒸発、乾燥させることによって得ることができる。イオン伝導層の形成は、塗布、印刷、押し出し、キャスト、または、射出などにより行うことができる。ここで、前記溶媒は親水性溶媒と疎水性溶媒の混合溶媒を用いてもよい。
【0030】
親水性溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのカーボネート類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メタノール、エタノールなどの炭素数1〜3の低級アルコール、アセトニトリル等が挙げられる。疎水性溶媒としては、4−メチルペンタン−2−オンなどの炭素数5〜10のケトン類、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素類、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素類が挙げられる。
【0031】
本発明において、イオン伝導層に用いられるポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン
−ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]などの水素原子を有するフッ素化オレフィンとパーフッ素化オレフィンの共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの水素原子を有するフッ素化オレフィンのホモポリマー、パーフルオロスルホン酸(Nafion,ナフィオン)、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(poly-
HEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリ(メタ)アクリレート類、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)などが挙げられる。
【0032】
アクチュエータ素子の電極層に使用される導電性薄膜層は、カーボンナノチューブとイオン液体から構成される。導電性薄膜層中のこれらの成分の好ましい配合割合は:
カーボンナノチューブ:
6〜90重量%、好ましくは9〜66重量%、より好ましくは20〜50重量%;
イオン液体:
10〜94重量%、好ましくは34〜91重量%、より好ましくは50〜80重量%;
である。
【0033】
導電性薄膜の調製は、CNTとイオン液体を任意の割合で混合して実施することが可能で
ある。一方、得られた導電性薄膜層の強度の問題から、CNTは一定以上含まれるのがよい

【0034】
CNTと溶媒(任意成分としてのイオン液体を含んでいてもよい)を任意の割合で混合し
、超音波処理(超音波洗浄機、プローブ型超音波ホモジナイザー)、ジェットミル、
などを用いて分散液を得る。超音波処理あるいはジェットミル処理の時間は、10分から15時間程度、好ましくは30分〜7時間程度が挙げられる。
【0035】
CNT薄膜もしくは導電性薄膜の形成は、CNTと溶媒(任意成分としてイオン液体を含み得る)の分散液を、塗布、印刷、押し出し、キャスト、または、射出などの方法により行なうことができ、好ましくはキャストにより実施される。溶媒にイオン液体を含まない場合には、イオン液体フリーのCNT薄膜が得られ、これにイオン液体を含浸させて導電性薄膜
を得ることができる。
【0036】
本発明の方法で製造するアクチュエータ素子としては、例えば、イオン伝導層1を、そ
の両側から、カーボンナノチューブとイオン液体とポリマーを含む導電性薄膜層(電極層)2,2で挟んだ3層構造のものが挙げられる(図2A) 。また、電極の表面伝導性を増すために、電極層2,2の外側にさらに導電層3,3が形成された5層構造のアクチュエータ素子であってもよい(図2B) 。
【0037】
イオン伝導層の表面に導電性薄膜層を形成してアクチュエータ素子を得るには、イオン伝導層の表面に導電性薄膜を熱圧着すればよい。
【0038】
イオン伝導層の厚さは、5〜200μmであるのが好ましく、10〜100μmであるのがより
好ましい。導電性薄膜層の厚さは、10〜500μmであるのが好ましく、50〜300μmであるのがより好ましい。また、各層の製膜にあたっては、スピンコート、印刷、スプレー等も用いることができる。さらに、押し出し法、射出法等も用いることができる。
【0039】
導電層の厚さは、10〜50nmであるのが好ましい。導電性薄膜は、CNTとイオン液体から構成される複数の薄膜を熱圧着などにより積層することもでき、1枚の薄膜からなっていてもよい。
【0040】
このようにして得られたアクチュエータ素子は、電極間(電極は導電性薄膜層に接続さ
れている)に0.5〜4Vの直流電圧を加えると、数秒以内に素子長の0.5〜1倍程度の変位を得ることができる。また、このアクチュエータ素子は、空気中あるいは真空中で、柔軟に作動することができる。
【0041】
このようなアクチュエータ素子の作動原理は、図3に示すように、イオン伝導層1の表面に相互に絶縁状態で形成された導電性薄膜層2,2に電位差がかかると、導電性薄膜層2,2内のカーボンナノチューブ相とイオン液体相の界面に電気二重層が形成され、それによる界面応力によって、導電性薄膜層2,2が伸縮するためである。図3に示すように
、プラス極側に曲がるのは、量子化学的効果により、カーボンナノチューブがマイナス極側でより大きくのびる効果があることと、現在よく用いられるイオン液体では、カチオン4のイオン半径が大きく、その立体効果によりマイナス極側がより大きくのびるからであると考えられる。図3において、4はイオン液体のカチオンを示し、5はイオン液体のア
ニオンを示す。
【0042】
上記の方法で得ることのできるアクチュエータ素子によれば、カーボンナノチューブとイオン液体とのゲルの界面有効面積が極めて大きくなることから、界面電気二重層におけるインピーダンスが小さくなり、カーボンナノチューブの電気伸縮効果が有効に利用される効果に寄与する。また、機械的には、界面の接合の密着性が良好となり、素子の耐久性が大きくなる。その結果、空気中、真空中で、応答性がよく変位量の大きい、且つ耐久性のある素子を得ることができる。しかも、構造が簡単で、小型化が容易であり、小電力で作動することができる。
【0043】
本発明のアクチュエータ素子は、空気中、真空中で耐久性良く作動し、しかも低電圧で柔軟に作動することから、安全性が必要な人と接するロボットのアクチュエータ(例えば、ホームロボット、ペットロボット、アミューズメントロボットなどのパーソナルロボットのアクチュエータ)、また、宇宙環境用、真空チェンバー内用、レスキュー用などの特殊環境下で働くロボット、また、手術デバイスやマッスルスーツなどの医療、福祉用ロボット、さらにはマイクロマシーンなどのためのアクチュエータとして最適である。
【0044】
特に、純度の高い製品を得るために、真空環境下、超クリーンな環境下での材料製造において、純度の高い製品を得るために、試料の運搬や位置決め等のためのアクチュエータの要求が高まっており、全く蒸発しないイオン液体を用いた本発明のアクチュエータ素子は、汚染の心配のないアクチュエータとして、真空環境下でのプロセス用アクチュエータとして有効に用いることができる。
なお、イオン伝導層表面への導電性薄膜層の形成は少なくとも2層必要であるが、図4に
示すように、平面状のイオン伝導層1の表面に多数の導電性薄膜層2を配置することにより、複雑な動きをさせることも可能である。このような素子により、蠕動運動による運搬や、マイクロマニピュレータなどを実現可能である。また、本発明のアクチュエータ素子の形状は、平面状とは限らず、任意の形状の素子が容易に製造可能である。例えば、図4に示すものは、径が1mm程度のイオン伝導層1のロッドの周囲に4本の導電性薄膜層2を形成したものである。この素子により、細管内に挿入できるようなアクチュエータが実現可能である。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0046】
<実験法の共通の説明>
1. 使用した薬品、材料
使用したイオン液体(IL):
エチルメチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMITFSI)
【0047】
【化2】

【0048】
使用したカーボンナノチューブ:
実施例で用いたアスペクト比10以上のカーボンナノチューブは、独立行政法人産業技術総合研究所ナノカーボン研究センターで作製された、平均長約600μmの単層カーボンナノチューブ(LS-CNT)である。
使用したイオン伝導体用ベースポリマー:ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF(HFP)) (III)
【0049】
【化3】

【0050】
使用した溶媒
N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)
プロピレンカーボネート(PC)
メチルペンタノン(MP)
2.ゲル電解質キャスト液の一般的作製方法
IL 100mg、PVDF(HFP) 100mg、PC 360mg、MP 3mlを、80℃に液温を上げて30分以上撹
拌し、作製したキャスト液0.3mlを25mmx25mmのキャスト枠中にキャストし、溶媒を蒸発させて、ゲル電解質フィルムを得る。厚みは約20μm程度である。
3.電極/電解質ゲル/電極3層構造からなるアクチュエータ素子の変位測定方法
図1に示す様にレーザー変位計を用い、素子を1mmx15mmの短冊状に切り取り、電圧を加えた時の10mmの位置の変位を測定した。
4.電極導電率測定法
電極の導電率は、電極の両端、および、表面の2点間に金ペーストで直径50μmの金線
を接合し、両端の金線に定電流源で一定電流を流し、表面に接続した接点間の電圧を測定することで、電極の抵抗を測定した。この時の電極の厚みd、電極の幅をbとすると断面積S=bdである。流した電流がI、測定した電圧がV、電圧測定端子間距離がLとすると、
コンダクタンス G=I/V[S]
導電率=GL/S[Scm-1
となる。
5.破断強度測定
引張り試験機(TMA/SS6000、セイコーインスツルメンツ株式会社)を用い、試料が破断した時の応力[Pa]から、その試料の破断強度を求めた。
【0051】
実施例A)
・単層カーボンナノチューブ(以下、LS-CNTと記述する)15mg、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニル(以下EMITFSIと記述する)15mg、N,N-ジ
メチルアセトアミド(以下DMAcと記述する)3mlをガラス容器に秤量し、攪拌器を用いて
、2時間、700rpmの条件で攪拌を実施した。
・超音波洗浄器(BRANSONIC ULTRASONIC CLEANER 5510J-DTH)を用いて3時間超音波照射
を実施しLS-CNT、EMITFSIをDMAc溶液に分散させた。
・DMAcを6ml添加した後、再び攪拌器を用いて、2時間、700rpmの条件で攪拌を実施した。・得られたLS-CNT分散液をジェットミル装置に入れ、100MPa、5Passの条件でジェットミル処理を実施した。
・25mm×25mmのテフロン(登録商標)モールド中にSG-CNT分散液を2.4mlキャストし50℃、1日間ホットプレート上に静置し、DMAcを蒸発させた。
・テフロン(登録商標)モールドからLS-CNT/EMITFSI膜を剥がした後、50℃で1日間真空乾燥機にて真空乾燥を実施した。
・さらに80℃で3日間真空乾燥を実施してLS-CNT/EMITFSI膜を得た。・・・・(A)
【0052】
実施例B)
・単層カーボンナノチューブ(以下、LS-CNTと記述する)15mg、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニル(以下EMITFSIと記述する)15mg、N,N-ジ
メチルアセトアミド(以下DMAcと記述する)3mlをガラス容器に秤量し、攪拌器を用いて
、2時間、700rpmの条件で攪拌を実施した。
・超音波洗浄器(BRANSONIC ULTRASONIC CLEANER 5510J-DTH)を用いて3時間超音波照射
を実施しLS-CNT、EMITFSIをDMAc溶液に分散させた。
・DMAcを6ml添加した後、再び攪拌器を用いて、2時間、700rpmの条件で攪拌を実施した。・25mm×25mmのテフロン(登録商標)モールド中にLS-CNT分散液を2.4mlキャストし50℃、1日間ホットプレート上に静置し、DMAcを蒸発させた。
・テフロン(登録商標)モールドからLS-CNT/EMITFSI膜を剥がした後、50℃で1日間真空乾燥機にて真空乾燥を実施した。
・さらに80℃で3日間真空乾燥を実施してLS-CNT/EMITFSI膜を得た。・・・・(B)
【0053】
実施例C)
・単層カーボンナノチューブ(以下、LS-CNTと記述する)15mg、N,N-ジメチルアセトアミド(以下DMAcと記述する)3mlをガラス容器に秤量し、攪拌器を用いて、2時間、700rpmの条件で攪拌を実施した。
・プローブ式のホモジナイザー(NIHON SEIKI US-50)を用いて5分間超音波照射を実施した。
・DMAcを6ml添加した後、再び攪拌器を用いて、2時間、700rpmの条件で攪拌を実施した。・25mm×25mmのテフロン(登録商標)モールド中にLS-CNT分散液を2.4mlキャストし50℃、1日間ホットプレート上に静置し、DMAcを蒸発させた。・・・(1)
・EMITFSI 15mgとDMAc 9mlを秤量し、6時間、300rpmの条件で攪拌を実施した後、
(1)のテフロン(登録商標)モールド中に2.4mlキャストし、50℃、1日間ホットプレート上に静置し、DMAcを蒸発させた。
・テフロン(登録商標)モールドからLS-CNT/EMITFSI膜を剥がした後、50℃で1日間真空乾燥機にて真空乾燥を実施した。
・ さらに80℃で3日間真空乾燥を実施してLS-CNT/EMITFSI膜を得た。・・・・(C)
【0054】
結果)実施例で得られたLS-CNT/EMITFSI膜とkynar2801とEMITFSIから構成される電解質膜をLS-CNT/EMITFSI膜、電解質膜、LS-CNT/EMITFSI膜の順に重ね合わせ70℃、5N/mm2の条件で3分間熱融着した後に、1mm×15mmの大きさに切り出し、10mmの部位にレーザーを照射し、レーザー変位計により変位測定を実施した。
【0055】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施例でアクチュエータ素子変位評価法に用いたレーザー変位計を示す。
【図2】図1(A)は、本発明のアクチュエータ素子(3層構造)の一例の構成の概略を示す図であり、図1(B)は、本発明のアクチュエータ素子(5層構造)の一例の構成の概略を示す図である。
【図3】本発明のアクチュエータ素子の作動原理を示す図である。
【図4】本発明のアクチュエータ素子の他の例の概略を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペクト比が104以上のカーボンナノチューブから構成される導電性薄膜。
【請求項2】
長さが50μm以上のカーボンナノチューブから構成される導電性薄膜。
【請求項3】
さらにイオン液体を含む、請求項1または2に記載の導電性薄膜。
【請求項4】
前記導電性薄膜が、前記カーボンナノチューブを必要に応じてイオン液体を含む溶媒中、ジェットミル及び/又は超音波処理を用いて分散させ、得られた分散液を用いて製造されたものである、請求項1〜3のいずれかに記載の導電性薄膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の導電性薄膜層とイオン伝導層を有する積層体。
【請求項6】
請求項5に記載の積層体を含むアクチュエータ素子。
【請求項7】
イオン伝導層の表面に、請求項3に記載の導電性薄膜を電極とする導電性薄膜層が互いに絶縁状態で少なくとも2個形成され、当該導電性薄膜層に電位差を与えることにより変形可能に構成されている請求項6に記載のアクチュエータ素子。
【請求項8】
以下の工程を含むことを特徴とするアクチュエータ素子の製造方法
工程1:アスペクト比が104以上あるいは、長さが50μm以上のカーボンナノチューブ(CNT)および溶媒を含む分散液を超音波もしくはジェットミルにより調製する工程;
工程2:ポリマー、溶媒及びイオン液体を含む溶液を調製する工程;
工程3:工程1の分散液を用いてCNT薄膜を形成する工程;
工程4:工程3で得られたCNT薄膜をイオン液体に含浸して、導電性薄膜を形成する工程

工程5;工程2の溶液を用いてイオン伝導層を形成する工程
工程6;工程4で得られた導電性薄膜と工程5で得られたイオン伝導層を積層して積層体を形成するか、工程3で得られたCNT薄膜と工程5で得られたイオン伝導層を積層した後
イオン液体に含浸する工程を行って、積層体を形成する工程
(但し、工程5と工程3ないし工程4の順序は問わない。また、工程6で「イオン液体に
含浸する工程」を行う場合には、工程4は行う必要はない)
【請求項9】
以下の工程を含むことを特徴とするアクチュエータ素子の製造方法
工程1:アスペクト比が104以上あるいは、長さが50μm以上のカーボンナノチューブ(CNT)、溶媒及びイオン液体を含む分散液を超音波もしくはジェットミルにより調製する工程

工程2:ポリマー、溶媒及びイオン液体を含む溶液を調製する工程;
工程3:工程1の分散液を用いる導電性薄膜の形成と工程2の溶液を用いるイオン伝導層の形成を同時にあるいは順次行い、導電性薄膜層とイオン伝導層の積層体を形成する工程。
【請求項10】
以下の工程を含むことを特徴とするアクチュエータ素子の製造方法
工程1:アスペクト比が104以上あるいは、長さが50μm以上のカーボンナノチューブ及び溶媒を混合し、ジェットミル及び/又は超音波処理を用いて分散させて分散液を調製する工程;
工程2:ポリマー、溶媒及びイオン液体を含む溶液を調製する工程;
工程3:工程1の分散液を用いキャスト、印刷、塗布、押し出しまたは射出により、CNT
薄膜を形成する工程
工程4:工程3で得られたCNT薄膜をイオン液体に含浸して、導電性薄膜を形成する工程

工程5:必要に応じて、工程3で作製したCNT薄膜もしくは工程4で作製した導電性薄膜
の熱厚密化を行い、密度を大きくする工程、あるいは数枚のCNT薄膜もしくは導電性薄膜
を熱圧着すると同時に厚密化し、密度を大きくする工程(但し、CNT薄膜の熱厚密化もしくは数枚のCNT薄膜の熱圧着の後には、イオン液体に含浸して、導電性薄膜を形成する)
工程6:工程2の分散液を用いキャスト、印刷、塗布、押し出しまたは射出により、イオン伝導層を形成する工程;
工程7:工程5で形成した導電性薄膜と工程6で形成したイオン伝導層を、圧着により積層し、積層体を形成する工程(但し、工程6と工程3ないし工程4の順序は問わない)。
【請求項11】
以下の工程を含むことを特徴とするアクチュエータ素子の製造方法
工程1:アスペクト比が104以上あるいは、長さが50μm以上のカーボンナノチューブ、溶媒及びイオン液体を混合し、ジェットミル及び/又は超音波処理を用いて分散させて分散液を調製する工程;
工程2:ポリマー、溶媒及びイオン液体を含む溶液を調製する工程;
工程3:工程1の分散液を用いキャスト、印刷、塗布、押し出しまたは射出により、導電性薄膜を形成、その後、必要に応じて、作製した導電性薄膜の熱厚密化を行い、密度を大きくする工程、あるいは数枚の導電性薄膜を熱圧着すると同時に厚密化し、密度を大きくする工程;
工程4:工程2の分散液を用いキャスト、印刷、塗布、押し出しまたは射出により、イオン伝導層を形成する工程;
工程5:工程3で形成した導電性薄膜と工程4で形成したイオン伝導層を、圧着により積層し、積層体を形成する工程(但し、工程3と工程4の順序は問わない)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−97794(P2010−97794A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267047(P2008−267047)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク・先端部材実用化研究開発/高配向性CNTを用いたナノ構造制御による低電圧駆動高分子アクチュエータの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】