説明

高マルチオレフィンハロブチルアイオノマーを含む過酸化物硬化性ゴムコンパウンド

本発明は、過酸化物硬化剤と、ナノクレーと、マルチオレフィンを高いモルパーセントで含むハロゲン化ブチルポリマーを少なくとも1種の窒素および/またはリン系求核剤と反応させることにより調製される高マルチオレフィンハロブチルアイオノマーとを含む、過酸化物硬化性ゴムナノコンポジットコンパウンドに関する。得られる高マルチオレフィンハロブチルアイオノマーは、約2〜10モル%のマルチオレフィンを含む。本発明は、このゴムコンパウンドを含む成形品にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化物硬化剤と、ナノクレーと、マルチオレフィンを高いモルパーセントで含むハロゲン化ブチルポリマーを少なくとも1種の窒素および/またはリン系求核剤と反応させることにより調製されたブチルアイオノマーとを含む、過酸化物硬化性ゴムナノコンポジットに関する。
【背景技術】
【0002】
ブチルゴムは、イソオレフィンと、コモノマーとしての1種または複数の、好ましくは共役したマルチオレフィンとのコポリマーであると理解されている。市販されているブチルには、大部分を占めるイソオレフィンと、少量の、2.5モル%以下の共役マルチオレフィンとが含まれている。ブチルゴムまたはブチルポリマーは一般的には、溶媒としての塩化メチルと重合開始剤の一部としてのフリーデルクラフツ触媒とを使用したスラリー法で調製される。塩化メチルは、イソブチレンおよびイソプレンコモノマーと同様に、比較的安価なフリーデルクラフツ触媒であるAlClをその中に溶解させるという利点を有している。さらに、ブチルゴムポリマーは塩化メチルには不溶性であるために、溶液から微細な粒子として沈降する。この重合は一般的には、約−90℃〜−100℃の温度で実施される。(特許文献1)および(非特許文献1)を参照されたい。ゴム用途として充分に高い分子量を得るためには、重合温度を低くする必要がある。
【0003】
過酸化物硬化性ブチルゴムコンパウンドは、従来からの硫黄硬化系に比較していくつかの利点を有している。典型的には、それらのコンパウンドは極端に速い硬化速度を示し、得られる硬化物品が優れた耐熱性を有する傾向がある。さらに、過酸化物硬化性の配合は、抽出可能な無機不純物(たとえば、硫黄)を含まないという点で、「クリーン」であると考えられる。したがって、そのようなクリーンなゴム物品は、たとえば、コンデンサーキャップ、生物医学機器、医療機器(薬剤含有バイアルの栓、注射器のプランジャー)およびおそらくは燃料電池のためのシール材料に使用することができる。
【0004】
ポリイソブチレンおよびブチルゴムが有機過酸化物の作用により分解することは、一般に認められている。さらに、(特許文献2)および(特許文献3)には、10重量%までのイソプレンもしくは20重量%までのパラアルキルスチレンを含むC〜Cイソモノオレフィンのコポリマーを、高剪断混合にかけると、分子量が低下することが開示されている。この効果は、フリーラジカル重合開始剤が存在すると、さらに増強される。
【0005】
過酸化物硬化性ブチル系配合物を得るための一つのアプローチ方法は、従来のブチルゴムを、ジビニルベンゼン(DVB)などのビニル芳香族化合物および有機過酸化物と組み合わせて使用する方法である((特許文献4)を参照されたい)。DVBに代えて、電子求引性基含有多官能性モノマー(エチレンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、N,N’−m−フェニレンジマレイミド)を使用することも可能である((特許文献5)を参照されたい)。
【0006】
イソブチレン(IB)、イソプレン(IP)およびDVBをベースとする市販のターポリマー、XL−10000は、過酸化物のみで硬化させることが可能である。しかしながら、この材料はいくつかの明らかに不利な点を有している。たとえば、遊離のDVBが有意な濃度で存在するために、安全上の問題が存在し得る。加えて、このDVBが、重合プロセスの際に組み入れられるために、製造中にかなりの量の架橋が起きる。結果として得られる、高ムーニー粘度(60〜75MU、ML1+8@125℃)とゲル粒子の存在により、この材料を加工することは極端に困難となる。これらの理由から、過酸化物硬化可能であり、完全に可溶性であり(すなわち、ゲルを含まず)、かつ、その組成物中にジビニルベンゼンをまったく含まないかあるいは微量しか含まないイソブチレンベースのポリマーを得ることが望ましい。
【0007】
ホワイトら((特許文献6))は、元々は単峰性分子量分布を有していたポリマーから二峰性分子量分布を有するポリマーを得るための方法について特許請求している。このポリマー、たとえばポリイソブチレン、ブチルゴム、またはイソブチレンとパラメチルスチレンとのコポリマーを、ポリ不飽和架橋剤(および場合によりフリーラジカル重合開始剤)と混合し、有機過酸化物の存在下に高剪断混合条件にさらした。この二峰性化は、フリーラジカル分解されたポリマー鎖の一部が、共架橋剤中に存在する不飽和結合にカップリングした結果であった。この特許がこのような変性ポリマーの充填コンパウンドに関して、あるいはこのようなコンパウンドの硬化状態に関してはまったく触れていないことに注目されたい。
【0008】
須藤ら((特許文献7))は、過酸化物およびビスマレイミド化学種を用いて処理することによる、0.5〜2.5モル%の範囲のイソプレン含量を有する通常のブチルを硬化させるための方法について特許請求している。同時係属出願(特許文献8)には、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導される繰り返し単位、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導される4.1モル%を超える繰り返し単位、および場合によりさらなる共重合可能なモノマーを、AlClならびにプロトン源および/または重合プロセスを開始させることが可能なカチオン発生化合物、ならびに少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤の存在下に含む、少なくとも25ムーニー単位のムーニー粘度および15重量%未満のゲル含量を有するポリマーを製造するための連続プロセスが開示されている。ここで、このプロセスは、遷移金属化合物の非存在下で実施される。具体的には、(特許文献8)には、3〜8モル%の範囲のイソプレンレベルを有するブチルゴムの連続調製法が記載されている。
【0009】
シリカ強化コンパウンドをうまく調製するためには、シリカ系充填剤とポリマー(IIR)マトリックスとの間に存在する表面エネルギーの差異を仲介することによって、ポリマー−充填剤間の接着性を改良することが必要である。沈降シリカとは異なって、オニウムイオン交換されたナノクレー(たとえば、モンモリロナイトクレー)は比較的に疎水性であって、非極性のポリマー材料の中に分散させることが可能である((非特許文献2)を参照されたい)。
【特許文献1】米国特許第2,356,128号明細書
【特許文献2】米国特許第3,862,265号明細書
【特許文献3】米国特許第4,749,505号明細書
【特許文献4】特開平06−107738号公報
【特許文献5】特開平06−172547号公報
【特許文献6】米国特許第5,578,682号明細書
【特許文献7】米国特許第5,994,465号明細書
【特許文献8】カナダ国特許第2,418,884号明細書
【非特許文献1】ウルマンズ・エンサイクロペディア・オブ・インダストリアル・ケミストリー(Ullmanns Encyclopedia of Industrial Chemistry)、第A23巻、1993、p.288〜295
【非特許文献2】ジアンネリス・E.P.(Giannelis, E. P.)、Applied Organometallic Chemistry、12、675〜680、1998
【非特許文献3】チザム・B.J.(Chisholm, B. J.)、ムーア・R.B.(Moore, R. B.)、バーバー・G.(Barber, G.)、クーリ・F.(Khouri, F.)、ヘムステッド・A.(Hempstead, A.)、ラーセン・M.(Larsen, M.)、オルソン・E.(Olson, E.)、ケリー・J.(Kelly, J.)、ボールチ・G.(Balch, G.)、カラハー・J.(Caraher, J.)、Macromolecules、2002、35、5508〜5516
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
主たる挑戦課題は、クレーの多層構造を剥離させて一次微小板とすることにある。オニウムイオン交換クレーを層間剥離させるための標準的なコンパウンディングアプローチでは、剪断応力が、ポリマー−クレーの界面に、クレーの層間に存在する凝集力に十分に打ち勝てるような強度で伝達されなければならない((非特許文献3)を参照されたい)。
【0011】
驚くべきことに、今や入手可能となった濃度が高められたイソプレンを用いて、3〜8モル%の範囲のアリルハライド(allylic halide)官能基を含むハロゲン化ブチルゴム類似体を生成させることが可能である。存在する反応性のアリルハライド官能基を利用することによって、ブチル系アイオノマー性化学種を調製し、最終的には残存マルチオレフィンのレベルを最適化し、それによってこの材料をベースとするコンパウンドの過酸化物硬化を容易にすることが可能になる。
【0012】
驚くべきことに、高マルチオレフィン非含有IIRアイオノマーで見出されているように、四級アンモニウムまたはホスホニウムカチオンによってNR交換クレーからアンモニウムイオンを置き換えると、ポリマーとクレーとの間で直接的静電相互作用が発生することが見出された(ペアレント・J.S.(Parent, J. S.)、リスコーバ・A.(Liskova, A.)、レゼンデス・R.(Resendes, R.)、Polymer、45、8091〜8096、2004を参照されたい)。高マルチオレフィン含有IIRアイオノマーを使用すると、コンパウンディングにより、過酸化物硬化性ブチルゴムナノコンポジットを生成させることができる。
【0013】
本発明は、マルチオレフィンを高いモルパーセントで含むハロゲン化ブチルポリマーを少なくとも1種の窒素および/またはリン系求核剤と反応させることにより調製されたブチルアイオノマーと、ナノクレーとを含む、過酸化物硬化性ゴムコンパウンドに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
〔高マルチオレフィンブチルポリマーの調製法〕
本発明によるナノクレー含有過酸化物硬化性コンパウンドのためのブチルアイオノマーを調製するのに有用な高マルチオレフィンブチルポリマーは、少なくとも1種のイソオレフィンモノマー、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマー、および場合によりさらなる共重合性モノマーから誘導される。
【0015】
本発明は、特定のイソオレフィンに限定されるものではない。しかしながら、4〜16個の炭素原子、好ましくは4〜7個の炭素原子の範囲に入るイソオレフィン、たとえばイソブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、4−メチル−1−ペンテンおよびこれらの混合物が好ましい。より好ましいのはイソブテンである。
【0016】
本発明は、特定のマルチオレフィンに限定されるものではない。イソオレフィンと共重合が可能な、当業者に公知の任意のマルチオレフィンを用いることができる。しかしながら、4〜14個の炭素原子の範囲のマルチオレフィン、たとえばイソプレン、ブタジエン、2−メチルブタジエン、2,4−ジメチルブタジエン、ピペリレン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、2−ネオペンチルブタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2−メチル−1,6−ヘプタジエン、シクロペンタ−ジエン、メチルシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、1−ビニル−シクロヘキサジエン、およびこれらの混合物、特に共役ジエンを用いる。イソプレンが、用いるのにより好ましい。
【0017】
本発明においては、イソオレフィンのためのコモノマーとしてβ−ピネンを用いることも可能である。
【0018】
任意成分のモノマーとしては、イソオレフィンおよび/またはジエンと共重合が可能な、当業者に公知の任意のモノマーを用いることができる。α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、クロロスチレン、シクロペンタジエン、およびメチルシクロペンタジエンを用いることが好ましい。インデンおよびその他のスチレン誘導体を本発明に用いてもよい。
【0019】
好ましくは、高マルチオレフィンブチルポリマーを調製するためのモノマー混合物は、80〜95重量%の範囲の少なくとも1種のイソオレフィンモノマーと、4.0〜20重量%の範囲の少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーおよび/またはβ−ピネンと、0.01〜1重量%の範囲の少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤とを含有する。より好ましくは、このモノマー混合物は、83〜94重量%の範囲の少なくとも1種のイソオレフィンモノマーと、5.0〜17重量%の範囲のマルチオレフィンモノマーまたはβ−ピネンと、0.01〜1重量%の範囲の少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤とを含有する。最も好ましくは、このモノマー混合物は、85〜93重量%の範囲の少なくとも1種のイソオレフィンモノマーと、6.0〜15重量%の範囲の、β−ピネンを含む少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーと、0.01〜1重量%の範囲の少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤とを含有する。
【0020】
この高マルチオレフィンブチルポリマーの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは240kg/molより大、より好ましくは300kg/molより大、さらにより好ましくは500kg/molより大、最も好ましくは600kg/molより大である。
【0021】
この高マルチオレフィンブチルポリマーのゲル含量は、好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、さらにより好ましくは3重量%未満、最も好ましくは1重量%未満である。本発明との関連において、「ゲル」という用語は、環流下で沸騰させたシクロヘキサン中で60分間かけても不溶なポリマーの割合を指すものと理解されたい。
【0022】
高マルチオレフィンブチルポリマーの重合は、AlClならびにプロトン源および/または重合プロセスを開始させることが可能なカチオン発生化合物の存在下で実施する。本発明において適切なプロトン源としては、AlClまたはAlClを含む組成物に添加したときにプロトンを発生する任意の化合物が挙げられる。プロトンは、AlClをプロトン源たとえば水、アルコールまたはフェノールと反応させて、プロトンと対応する副生物とを生成させることにより発生させることができる。このような反応は、そのプロトン源の反応が、それのモノマーとの反応に比較して、プロトン化された添加剤との方がより速いような場合に好ましい。他のプロトン発生性の反応剤としては、チオール、カルボン酸などが挙げられる。本発明においては、低分子量の高マルチオレフィンブチルポリマーが望ましい場合には、脂肪族または芳香族アルコールが好ましい。最も好ましいプロトン源は水である。AlCl対水の好ましい比率は重量で、5:1から100:1までの間である。AlClから誘導可能な触媒系、塩化ジエチルアルミニウム、塩化エチルアルミニウム、四塩化チタン、四塩化スズ、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、またはメチルアルモキサンをさらに導入することが有利となる可能性もある。
【0023】
プロトン源に加えて、あるいはプロトン源の代わりに、重合プロセスを開始させることが可能なカチオン発生化合物を使用することもできる。好適なカチオン発生化合物としては、存在条件下でカルボカチオンを発生する任意の化合物が挙げられる。カチオン発生化合物の好適な基としては、次式を有するカルボカチオン性化合物が挙げられる:
【0024】
【化1】

式中、R、RおよびRは独立して、水素、または直鎖状、分岐状もしくは環状の芳香族もしくは脂肪族基であるが、ただしR、RおよびRの内の一つだけが水素であってよい。R、RおよびRは独立して、C〜C20芳香族または脂肪族基であることが好ましい。適切な芳香族基の非限定的な例は、フェニル、トリル、キシリル、およびビフェニルから選択することができる。適切な脂肪族基の非限定的な例には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、3−メチルペンチル、および3,5,5−トリメチルヘキシルが含まれる。
【0025】
カチオン発生化合物の別の好ましい基としては、次式を有する置換シリリウムカチオン性化合物が挙げられる:
【0026】
【化2】

式中、R、RおよびRは独立して、水素、または直鎖状、分岐状もしくは環状の芳香族もしくは脂肪族基であるが、ただしR、RおよびRの内の一つだけが水素であってよい。R、RおよびRがいずれもHでないことが好ましい。R、RおよびRが独立して、C〜C20芳香族または脂肪族基であることが好ましい。R、RおよびRが独立してC〜Cアルキル基であることがより好ましい。有用な芳香族基の例は、フェニル、トリル、キシリル、およびビフェニルから選択することができる。有用な脂肪族基の非限定的な例には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、3−メチルペンチル、および3,5,5−トリメチルヘキシルが含まれる。反応性の置換シリリウムカチオンの好適な基には、トリメチルシリリウム、トリエチルシリリウムおよびベンジルジメチルシリリウムが含まれる。このようなカチオンは、RSi−Hのヒドリド基を、適切な溶媒中でカチオンを与える非配位アニオン(NCA)〔たとえばPhB(pfp)など:たとえばRSiB(pfp)などを生じる組成物〕を用いて交換反応させることにより調製することができる。
【0027】
本発明においては、Ab−はアニオンを表す。好適なアニオンとして、電荷を有する金属または半金属コアを有する単一配位の錯体を含有するアニオンが挙げられる。これらの錯体は、活性触媒種上電荷とバランスをとるのに必要な程度に負に荷電されていて、二つの構成成分が組み合わされて形成され得る。より好ましくはAb−は、一般式[MQを有する化合物に相当する(式中、
Mは、+3の形式的酸化状態にあるホウ素、アルミニウム、ガリウム、またはインジウムであり、かつ、
Qは独立して、ヒドリド、ジアルキルアミド、ハライド、ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシド、ハロ置換ヒドロカルビル、ハロ置換ヒドロカルビルオキシド、およびハロ置換シリルヒドロカルビル基から選択される)。
【0028】
本発明におけるプロセスにおいては、有機ニトロ化合物または遷移金属を全く用いないことが好ましい。
【0029】
ブチルポリマーを含有する高マルチオレフィンを製造するために用いる反応混合物は、マルチオレフィン架橋剤をさらに含有する。「架橋剤」という用語は当業者には公知であって、鎖に付加するモノマーとは対照的に、ポリマー鎖の間の化学的な架橋を引き起こす化合物を表していると理解される。ある化合物がモノマーとして作用するかあるいは架橋剤として作用するかは、いくつかの簡単な予備試験で明らかにすることができる。架橋剤の選択には制限はない。架橋剤がマルチオレフィン性炭化水素化合物を含有することが好ましい。マルチオレフィン性炭化水素化合物の例としては、ノルボルナジエン、2−イソプロペニルノルボルネン、2−ビニル−ノルボルネン、1,3,5−ヘキサトリエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ならびにこれらのC〜C20アルキル置換誘導体が挙げられる。マルチオレフィン架橋剤が、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、およびこれらのC〜C20アルキル置換誘導体、ならびにこれらの化合物の混合物がより好ましい。マルチオレフィン架橋剤がジビニルベンゼンおよびジイソプロペニルベンゼンを含有することが最も好ましい。
【0030】
高マルチオレフィン含有ブチルポリマーの重合は、米国特許第5,417,930号明細書の記載にしたがって、適切な希釈剤(たとえばクロロアルカンなど)中、スラリー(懸濁液)での連続プロセスにより実施することができる。
【0031】
モノマーは、一般的に、−120℃〜+20℃の範囲、好ましくは−100℃〜−20℃の範囲の温度、かつ、0.1〜4バールの圧力下で、カチオン重合させることが好ましい。
【0032】
バッチ反応器ではなく連続反応器を使用することが、プロセスに好ましい効果を与えるようである。プロセスは、0.1m〜100mの間、より好ましくは1m〜10mの間の容積を有する少なくとも一つの連続反応器中で実施することが好ましい。
【0033】
ブチル重合のための、当業者に公知の不活性な溶媒または希釈剤を、溶媒または希釈剤(反応媒体)と考えることができる。これらには、アルカン、クロロアルカン、シクロアルカン、または芳香族化合物が含まれ、これらは多くの場合ハロゲンを用いてモノ−またはポリ−置換されている。ヘキサン/クロロアルカン混合物、塩化メチル、ジクロロメタン、またはこれらの混合物が好ましい。本発明のプロセスではクロロアルカンを用いることが好ましい。
【0034】
重合は連続的に実施することが好ましい。プロセスは、以下の3種の供給原料流を用いて実施することが好ましい:
I)溶媒/希釈剤+イソオレフィン(好ましくはイソブテン)+マルチオレフィン(好ましくはジエン、イソプレン)
II)重合開始剤系
III)マルチオレフィン架橋剤。
【0035】
マルチオレフィン架橋剤は、イソオレフィンおよびマルチオレフィンと同一の供給流に添加することもできることに注目されたい。
【0036】
〔高マルチオレフィンハロブチルポリマーの調製法〕
次いで、得られた高マルチオレフィンブチルポリマーを、ハロゲン化プロセスにかけて高マルチオレフィンハロブチルポリマーを製造することができる。臭素化または塩素化は、当業者に公知のプロセス、たとえば、『ラバー・テクノロジー(Rubber Technology)』第3版、モーリス・モートン(Mourice Morton)編、クルワー・アカデミック・パブリッシャーズ(Kluwer Academic Publishers)、p.297〜300およびこの参考文献内に引用されている文献に記載されている手順に従って実施することができる。
【0037】
結果として得られる高マルチオレフィンハロブチルポリマーは、好ましくは0.05〜2.0モル%、より好ましくは0.2〜1.0モル%、さらにより好ましくは0.5〜0.8モル%の総アリルハライド含量を有しているべきである。この高マルチオレフィンハロブチルポリマーは、2〜10モル%、より好ましくは3〜8モル%、さらにより好ましくは4〜7.5モル%の範囲の残存マルチオレフィンも有しているべきである。
【0038】
〔高マルチオレフィンブチルアイオノマーの調製法〕
本発明のプロセスにおいては、次いで、高マルチオレフィンハロブチルポリマーを、少なくとも1種の次式で表される窒素および/またはリン含有求核剤と反応させることができる:
【0039】
【化3】

式中、Aは窒素またはリンであり、
、RおよびRは、直鎖状または分岐状のC〜C18アルキル置換基、単環式であるかまたは縮合した複数のC4〜C8環からなるアリール置換基、および/または、たとえば、B、N、O、Si、P、およびSから選択されるヘテロ原子、からなる群より選択される。
【0040】
一般的には、適切な求核剤は、求核置換反応において電子的にも立体的にも利用可能な孤立電子対を有している少なくとも1個の中性の窒素またはリン中心を含有する。好適な求核剤としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、およびトリフェニルホスフィンが挙げられる。
【0041】
本発明によれば、高マルチオレフィンブチルゴムと反応させる求核剤の量は、高マルチオレフィンハロブチルポリマー中に存在するアリルハライドの総モル量を基準にして、1〜5モル当量、より好ましくは1.5〜4モル当量、さらにより好ましくは2〜3モル当量の範囲である。
【0042】
高マルチオレフィンハロブチルポリマーと求核剤とを、80〜200℃、好ましくは90〜160℃、より好ましくは100〜140℃の範囲の温度で、約10〜90分、好ましくは15〜60分、より好ましくは20〜30分の間反応させることができる。
【0043】
結果として得られる高マルチオレフィンハロブチル系アイオノマーは、好ましくは0.05〜2.0モル%、より好ましくは0.2〜1.0モル%、さらにより好ましくは0.5〜0.8モル%のアイオノマー性部分と、2〜10モル%、より好ましくは3〜8モル%、より好ましくは4〜7.5モル%のマルチオレフィンとを含む。
【0044】
本発明によれば、得られるアイオノマーはさらに、ポリマーに結合されたアイオノマー性部分とアリルハライドとの混合物であってもよく、アイオノマー性部分およびアリルハライド官能基の総モル量が、0.05〜2.0モル%、より好ましくは0.2〜1.0モル%、さらにより好ましくは0.5〜0.8モル%であり、残存マルチオレフィンが0.2〜1.0モル%、さらにより好ましくは0.5〜0.8モル%の範囲で存在するようにすることができる。
【0045】
〔過酸化物硬化性ゴムコンパウンドの調製法〕
本発明のゴムコンパウンドは、全てのタイプの成型品(たとえばタイヤ用コンパウンド)、ならびに、産業用ゴム物品(たとえば栓、減衰要素、異形材(profiles)、フィルム、コーティングなど)を製造するのに、理想的に適合している。本高マルチオレフィンハロブチルアイオノマーは単独で使用することもできるし、あるいは、他のゴム(たとえば、NR、BR、HNBR、NBR、SBR、EPDM、またはフルオロゴムなど)との混合物としても使用することができ、これらの硬化物品を形成することができる。コンパウンドの調製法は当業者の公知である。ほとんどの場合において、充填剤としてカーボンブラックが添加され、過酸化物系の硬化系が用いられる。コンパウンディングおよび加硫は当業者に公知のプロセス、たとえば、『エンサイクロペディア・オブ・ポリマー・サイエンス・アンド・エンジニアリング(Encyclopedia of Polymer Science and Engineering)』、第4巻、p.66以下(コンパウンディング)および第17巻、p.666以下(加硫)に記載されているプロセスにより実施される。
【0046】
本発明は、特定の過酸化物硬化系に限定されるものではない。たとえば、無機または有機の過酸化物が適している。好適な過酸化物は、有機過酸化物、たとえば、過酸化ジアルキル、過酸化ケタール、過酸化アラルキル、過酸化エーテル、過酸化エステル〔たとえば、過酸化ジ−tert−ブチル、ビス−(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)−ベンゾール、過酸化ジクミル、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)−ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)−ヘキセン−(3)、1,1−ビス−(tert−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、過酸化ベンゾイル、過酸化tert−ブチルクミル、および過安息香酸tert−ブチルなど〕である。コンパウンド中の過酸化物の量は通常、1〜10phr(=100部のゴムあたり)、好ましくは1〜5phrの範囲である。これに続く硬化は通常、100〜200℃、好ましくは130〜180℃の範囲の温度で実施する。過酸化物は、ポリマーに結合した形態で有利に適用し得る。たとえば独国のライン・ヘミー・ライナウ・GmbH(Rhein Chemie Rheinau GmbH)からのポリディスパージョン(Polydhispersion)T(VC)D40P(=ポリマーに結合したジ−tert−ブチルペルオキシ−イソプロピルベンゼン)などの、好適な系が市販されている。
【0047】
本発明においては、過酸化物硬化性ゴムコンパウンドは、ナノクレーを含有する。本発明において適切なナノクレーは、有機変性ナノクレー、たとえば四級アンモニウム塩で変性された天然モンモリロナイトクレーである。本発明によれば、ブチルアイオノマーの重量を基準にして、1〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは5〜20重量%、最も好ましくは5〜15重量%の量でナノクレーを添加する。
【0048】
本発明によれば、過酸化物硬化性ゴムコンパウンドは、ナノコンポジットを含有する。本発明において適切なナノコンポジットは、有機変性ナノクレー、たとえば四級アンモニウム塩を用いて変性された天然モンモリロナイトクレーである。本発明においては、ブチルアイオノマーの重量を基準にして、1〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは5〜20重量%、最も好ましくは5〜15重量%の量でナノクレーを添加する。
【0049】
好ましいとは言えないものの、本コンパウンドは、他の天然または合成ゴムをさらに含有してもよい。他の天然または合成ゴムは、たとえば、BR(ポリブタジエン)、ABR(ブタジエン/アクリル酸−C〜C−アルキルエステル−コポリマー)、CR(ポリクロロプレン)、IR(ポリイソプレン)、スチレン含量が1〜60重量%の範囲のSBR(スチレン/ブタジエン−コポリマー)、アクリロニトリル含量5〜60重量%のNBR(ブタジエン/アクリロニトリル−コポリマー)、HNBR(部分的または全体的に水素化されたNBRゴム)、EPDM(エチレン/プロピレン/ジエン−コポリマー)、FKM(フルオロポリマーまたはフルオロゴム)、ならびにこれらのポリマーの混合物などを含有する。
【0050】
本発明の過酸化物硬化性ゴムコンパウンドは充填剤を含有していてもよい。本発明における充填剤は、鉱物質の粒子からなり、好適な充填剤としては、シリカ、ケイ酸塩、クレー(たとえばベントナイトなど)、セッコウ、アルミナ、二酸化チタン、タルクなど、ならびにこれらの混合物が挙げられる。
【0051】
好適な充填剤のさらなる例としては以下のものが挙げられる:
・高分散シリカ、たとえばケイ酸塩溶液の沈降法またはハロゲン化ケイ素の火炎加水分解法により調製され、5〜1000、好ましくは20〜400m/gの比表面積(BET比表面積)と10〜400nmの一次粒径とを有するもの(このシリカは、場合により、たとえばAl、Mg、Ca、Ba、Zn、Zr、およびTiなどの他の金属酸化物との混合酸化物として存在し得る);
・合成ケイ酸塩、たとえばケイ酸アルミニウムおよびアルカリ土類金属ケイ酸塩;
・ケイ酸マグネシウムまたはケイ酸カルシウムであって、20〜400m/gのBET比表面積と10〜400nmの一次粒子直径とを有するもの;
・天然ケイ酸塩(たとえば、カオリンおよびその他の天然産のシリカなど);
・ガラス繊維およびガラス繊維製品(マット、押出品)またはガラスミクロスフェア;
・金属酸化物、たとえば、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、および酸化アルミニウム;
・金属炭酸塩、たとえば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、および炭酸亜鉛;
・金属水酸化物、たとえば、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウム、
またはこれらの組合せ。
【0052】
これらの鉱物質粒子はその表面にヒドロキシル基を有していてそれらに親水性および疎油性を付与しているので、充填剤粒子とブチルエラストマーとの間で良好な相互作用を達成することが困難である。所望により、シリカ変性剤を導入することによって、充填剤粒子とポリマーとの間の相互作用を向上させることができる。このような変性剤の非限定的な例は、ビス−[(トリエトキシシリル)−プロピル]−テトラスルフィド、ビス−[(トリエトキシシリル)−プロピル]−ジスルフィド、N,N,−ジメチルエタノールアミン、エタノールアミン、トリエトキシシリル−プロピル−チオール、およびトリエトキシビニルシランなどである。
【0053】
多くの目的において、好適な鉱物質は、シリカ、特にケイ酸ナトリウムを二酸化炭素沈降させることにより調製されるシリカである。
【0054】
本発明において鉱物質充填剤として用いるのに適した乾燥非晶質シリカ粒子は、1〜100ミクロン、好ましくは10〜50ミクロン、より好ましくは10〜25ミクロンの範囲の平均凝集粒子径を有している。5ミクロン未満であるかまたは50ミクロンを超えるサイズが、凝集粒子の10容積パーセント未満であることが好ましい。好適な非晶質乾燥シリカは、DIN(独国工業規格)66131に従って測定したBET表面積が、50〜450平方メートル/グラムであり、またDIN53601に従って測定したDBP吸収が150〜400グラム/100グラムシリカであり、かつ、DIN ISO787/11に従って測定した乾燥減量が0〜10重量パーセントである。好適なシリカ充填剤は、PPG・インダストリーズ・インコーポレーテッド(PPG Industries Inc)から登録商標ハイシル(HiSil)210、ハイシル(HiSil)233、およびハイシル(HiSil)243として市販されている。バイエル・AG(Bayer AG)から市販されているブルカシル(Vulkasil)Sおよびブルカシル(Vulkasil)Nも好適である。
【0055】
鉱物質充填剤は、たとえば以下のような公知の非鉱物質充填剤と組み合わせて用いることもできる:
・カーボンブラック;好適なカーボンブラックは、好ましくはランプブラック、ファーネスブラック、またはガスブラック法によって調製され、かつ、20〜200m/gのBET比表面積を有する(たとえば、SAF、ISAF、HAF、FEF、またはGPFカーボンブラック);
または
・ゴムゲル、好ましくはポリブタジエン、ブタジエン/スチレンコポリマー、ブタジエン/アクリロニトリルコポリマー、およびポリクロロプレンをベースにするゴムゲル。
【0056】
非鉱物質充填剤は、通常、本発明のハロブチルエラストマー組成物において充填剤として用いないが、いくつかの実施態様においては、これらが最高で40phrまでの量で存在していてもよい。鉱物質充填剤が、充填剤の総量の少なくとも55重量%を占めるようにすることが好ましい。本発明のハロブチルエラストマー組成物を他のエラストマー性組成物とブレンドする場合には、他の組成物が鉱物質および/または非鉱物質の充填剤を含んでいてもよい。
【0057】
本発明のゴムコンパウンドは、ゴムのための助剤を含有していてもよい。そのような助剤は、たとえば、反応促進剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、抗酸化剤、発泡剤、老化防止剤、熱安定剤、光安定剤、オゾン安定剤、加工助剤、可塑剤、粘着付与剤、発泡剤、染料、顔料、ワックス、増量剤、有機酸、禁止剤、金属酸化物、および活性化剤(たとえば、トリエタノールアミン、ポリエチレングリコール、ヘキサントリオールなど)が挙げられ、これらはゴム産業において公知である。ゴム助剤は、慣用される量で用い、この量は、用途に依存する。慣用される量は、ゴムを基準にして、0.1〜50重量%である。好ましくは、この化合物が、有機脂肪酸、好ましくは分子内に1個、2個またはそれ以上の炭素二重結合を有し、より好ましくは分子内に少なくとも1個の共役炭素−炭素二重結合を有する共役ジエン酸を10重量%以上含む不飽和脂肪酸を、0.1〜20phrの範囲で含むことが好ましい。これらの脂肪酸が、8〜22個、より好ましくは12〜18個の範囲の炭素原子を有していることが好ましい。例としては、ステアリン酸、パルミチン酸、およびオレイン酸、ならびにこれらのカルシウム−、亜鉛−、マグネシウム−、カリウム−、およびアンモニウム塩が挙げられる。
【0058】
最終的なコンパウンドの成分を、25℃〜200℃の範囲で変動可能な適切な高温下で共に混合する。最終的なコンパウンドの成分は、任意の順序で混合することができ、好ましくはナノコンポジットを、いずれの充填剤または補助成分よりも前に混合する。混合時間は通常は1時間を超えることはなく、2〜30分の範囲の時間で普通は充分である。混合は、インターナルミキサー、たとえば、バンバリーミキサー、またはハーケ(Haake)もしくはブラベンダー(Brabender)の小型インターナルミキサー中で適切に実施する。2本ロールミルミキサーもエラストマー中の添加剤の良好な分散体を与える。押出機も良好な混合を与え、混合時間をより短くすることが可能である。混合を2段以上の工程で実施することも可能であるし、混合を、たとえば1段はインターナルミキサーで1段は押出機でと、別々の装置で実施することも可能である。しかしながら、その混合工程において望ましくない前架橋(=スコーチ)が起こらないよう注意を払う必要がある。
【0059】
本発明のコンパウンドは、成形品、特に、高い純度を要求される用途、たとえば燃料電池部品(たとえば、コンデンサーキャップ)、医療器具などのための成形品を製造するのに極めて好適である。
【0060】
以下の実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例においては、特に断らない限り、すべての部およびパーセントは重量基準である。
【実施例】
【0061】
以下の実施例を用いて本発明を説明する:
【0062】
装置:
硬度および応力歪みの性質は、ASTM D−2240の条件に従ってA−2型硬度計を使用して測定した。応力歪みのデータは、ASTM D−412の方法Aの条件に従って23℃で得た。厚さ2mmの引張りシート〔160℃でtc90(90%硬化時間)+5分の間硬化したシート〕からの、ダイCのダンベル切り出し片を使用した。tc90の時間は、ASTM D−5289に従って、ムービング・ダイ・レオメーター(Moving Die Rheometer)(MRD2000E)を使用して、振動周波数1.7Hzおよび1度アークを使用し、170℃で全測定時間30分で測定した。硬化は、アラン−ブラッドレー・プログラマブル・コントローラ(Allan-Bradley Programmable Controller)を備えた、エレクトリック・プレス(Electric Press)を使用して実施した。1H NMRスペクトルは、ブルカー(Bruker)DRX500スペクトロメーター(500.13MHz、1H)を使用してCDCl中で測定し、ケミカルシフトはテトラメチルシランを基準にした。
【0063】
材料:
特に断らない限り、すべての試薬はオンタリオ州オークビル(Oakville, Ontario)のシグマ−アルドリッチ(Sigma-Aldrich)から入手したものをそのまま使用した。BIIR(BB2030)およびステアリン酸カルシウムは、ランクセス・インコーポレーテッド(LANXESS Inc)から供給されたものをそのまま使用した。エポキシ化大豆油(L.V.ローマス(L. V. Lomas))、イルガノックス(Irganox)1076(チバ・カナダ・リミテッド(CIBA Canada Ltd))、カーボンブラックIRB#7(バレンタイン・エンタープライズ・リミテッド(Balentine Enterprises Ltd))、HVA#2(デュポン・カナダ(Dupont Canada))、およびダイカップ(Dicup)40C(スツルクトール・カナダ(Struktol Canada))は、それぞれの供給業者から受け入れたものをそのまま使用した。
【0064】
実施例1:高イソプレンBIIRの調製
95Lの反応器中で、6.5モル%の1,4高イソプレンブチルポリマー(カナダ国特許第2,418,884号明細書実施例2に従って調製したもの)7kgの、31.8kgのヘキサンおよび2.31kgの水中の溶液に、110mLの元素状臭素を高速撹拌しながら添加した。5分後に、1Lの水中76gのNaOHの苛性溶液を添加することによって、反応を停止させた。さらに10分間撹拌した後、この反応混合物に、500mLのヘキサン中21.0gのエポキシ化大豆油および0.25gのイルガノックス(Irganox)(登録商標)1076の安定剤溶液と、500mLのヘキサン中47.0gのエポキシ化大豆油および105gのステアリン酸カルシウムのうち1種の溶液とを添加した。さらに1時間撹拌してから、高マルチオレフィンブチルポリマーを水蒸気凝固法により単離した。100℃で運転する2本ロール10インチ×20インチミルを使用してこの最終材料を恒量になるまで乾燥させた。得られた材料のミクロ構造を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例2:高イソプレンIIRアイオノマーの調製
48gの実施例1と、4.7g(実施例1のアリルブロマイド含量を基準にして3モル当量)のトリフェニルホスフィンとを、100℃、ローター速度60RPMで運転しているブラベンダー(Brabender)インターナルミキサー(容量75g)の中に加えた。混合を合計して60分間実施した。HNMRによる最終製品の分析から、実施例1のアリルブロマイド部位のすべてが対応するアイオノマー性化学種に完全に転化したことが確認された。得られた材料が約4.2モル%の1,4−イソプレンを含有していることも明らかになった。
【0067】
実施例3:高IP IIR硬化物品の調製(比較例)
4.2モル%の1,4−IP含量を有する高IP IIR 40gを、30℃、ローター速度60RPMで運転しているブラベンダー(Brabender)小型インターナルミキサー(容量=75g)の中に導入した。1分間混合した後、この混合物の中に20gのIRB#7を導入した。さらに2分間混合した後、この混合物の中に0.8gのHVA#2を添加した。1分後に、1.6gのダイカップ(DiCup)40Cをこのインターナルミキサー中に添加した。得られた混合物さらに2分かけてブレンドした。得られた配合物を硬化させ、上述のようにその引張特性を測定した。結果を表2にまとめた。
【0068】
実施例4:高IP IIRアイオノマー硬化物品の調製(比較例)
40gの実施例2を、30℃、ローター速度60RPMで運転しているブラベンダー(Brabender)小型インターナルミキサー(容量=75g)の中に導入した。1分間混合した後、この混合物の中に20gのIRB#7を導入した。さらに2分間混合した後、この混合物の中に0.8gのHVA#2を添加した。1分後に、1.6gのダイカップ(DiCup)40Cをこのインターナルミキサー中に添加した。得られた混合物さらに2分かけてブレンドした。得られた配合物を硬化させ、上述のようにしてその引張特性を測定した。結果を表2にまとめた。
【0069】
【表2】

【0070】
実施例5:非高マルチオレフィンIIRアイオノマーの調製(比較例)
48gのランクセス(LANXESS)BB2030と、4.7g(実施例1のアリルブロマイド含量を基準にして3モル当量)のトリフェニルホスフィンとを、100℃、ローター速度60RPMで運転しているブラベンダー(Brabender)インターナルミキサー(容量75g)の中に加えた。混合を合計して60分間実施した。HNMRによる最終製品の分析から、実施例1のアリルブロマイドのすべてが対応するアイオノマー性化学種に完全に転化されていることが確認された。得られた材料は0.4モル%の1,4−IPが含まれていることも明らかになった。
【0071】
実施例6〜11:高IP IIRアイオノマーナノコンポジットの調製
30℃、ローター速度60RPMで運転しているブラベンダー(Brabender)小型インターナルミキサー(容量=75g)の中に、100phrのゴムアイオノマーを導入した(表3参照)。2分間混合した後、クロイサイト(Cloisite)15A(サザン・クレー・プロダクツ(Southern Clay Products)製)をミキサーの中に加えた。さらに10分間混合した後、2phrのHVA#2および4phrのダイカップ(DiCup)40Cを添加し、さらに5分間混合した。混合の後、コンパウンドをミキサーから取り出し、30℃で運転する6インチ×12インチのミルを6回通過させて、リファインした。
【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
上述の実施例から判るように、BIIRの高イソプレン類似体(実施例1)を中性のリン系求核剤を用いて処理すると、対応する高IP IIRアイオノマー(実施例2)が生成する。
【0075】
IIRポリマー骨格に沿ってアイオノマー単位が存在することによって、実施例2に記載の高IP IIRアイオノマーをベースにしたコンパウンド(実施例4)について優れた物理的性質を得ることが可能となり、これは、4.2モル%のIPを含むニートのIIR(実施例3)をベースにしたコンパウンドの物理的性質より優れていた。この観察から、アイオノマー性のネットワークの存在が、過酸化物硬化加硫ゴムの物理的性質に有利に働くことが示唆される。
【0076】
アイオノマー性の部分の存在と高いイソプレンレベルとによって、改良された物理的性質を有する過酸化物ナノコンポジットを調製することが可能になる。表4に示したデータから判るように、ナノコンポジット配合物中の唯一のエラストマーとして高IP IIRを使用すると、良好でない物理的性質を有する過酸化物硬化物品がもたらされる(実施例6および7)。アイオノマー部分を導入するが、過酸化物硬化に見合わないような低いレベルの残存イソプレンを有するようにすると(実施例5)、得られる物品の物理的性質が改良されることが判った(実施例8および9)。具体的には、コンパウンド硬度ならびにM25、M50、M100、M200およびM300の値は、配合物中に使用されたクレーが5重量%(実施例6および8)であるか15重量%(実施例7および9)であるかには関わらず、優れたものとなることが見出された。しかも、過酸化物硬化に見合うような、高いレベルの残存イソプレンを有するIIRアイオノマーを使用すると、さらなる改良が認められた。表4に示した物理的データから判るように、実施例2をベースとするナノコンポジット配合物は最も好ましい物理的性質の組合せを示した(実施例10および11)。実際に、コンパウンド硬度ならびにM25、M50、M100、M200、およびM300の値は、対応する実施例6〜9よりも優れていることが見出された。
【0077】
これまで説明を目的として本発明を詳しく記述してきたが、このような詳細は、その目的のためだけのものであり、本発明が特許請求の範囲によって限定される場合を除き、本発明の精神と範囲から外れることなく当業者によって改変され得ることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化物硬化剤と、
ナノクレーと、
(a)少なくとも1種のイソオレフィンモノマー、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマー、および場合によりさらなる共重合可能なモノマーを含むモノマー混合物を、AlClならびにプロトン源および/または重合プロセスを開始させることが可能なカチオン発生化合物、ならびに少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤の存在下に重合させて、高マルチオレフィンブチルポリマーを調製する工程、次いで
(b)前記高マルチオレフィンブチルポリマーをハロゲン化する工程、および
(c)前記高マルチオレフィンハロブチルポリマーを少なくとも1種の窒素および/またはリン系求核剤と反応させる工程
により調製される高マルチオレフィンハロブチルアイオノマーと
を含む、過酸化物硬化性ゴムナノコンポジットコンパウンド。
【請求項2】
前記求核剤が、一般式:
【化1】

[式中、Aは窒素またはリンであり、R、RおよびRは、直鎖状または分岐状のC〜C18アルキル置換基、単環式であるかまたは縮合した複数のC4〜C8環からなるアリール置換基、および/または、たとえばB、N、O、Si、P、およびSから選択されるヘテロ原子、からなる群より選択される]
で表される、請求項1に記載の過酸化物硬化性ゴムコンパウンド。
【請求項3】
前記モノマー混合物が、80〜95重量%の少なくとも1種のイソオレフィンモノマーと、4.0〜20重量%の範囲の少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーおよび/またはβ−ピネンと、0.01〜1重量%の範囲の少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤とを含む、請求項1に記載の過酸化物硬化性ゴムコンパウンド。
【請求項4】
前記モノマー混合物が、83〜94重量%の範囲の少なくとも1種のイソオレフィンモノマーと、5.0〜17重量%の範囲のマルチオレフィンモノマーまたはβ−ピネンと、0.01〜1重量%の範囲の少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤とを含む、請求項3に記載の過酸化物硬化性ゴムコンパウンド。
【請求項5】
前記モノマー混合物が、85〜93重量%の範囲の少なくとも1種のイソオレフィンモノマーと、6.0〜15重量%の範囲の、β−ピネンを含む少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーと、0.01〜1重量%の範囲の少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤とを含む、請求項3に記載の過酸化物硬化性ゴムコンパウンド。
【請求項6】
前記イソオレフィンが、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の過酸化物硬化性ゴムコンパウンド。
【請求項7】
前記マルチオレフィンが、イソプレン、ブタジエン、2−メチルブタジエン、2,4−ジメチルブタジエン、ピペリレン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、2−ネオペンチルブタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2−メチル−1,6−ヘプタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、1−ビニル−シクロヘキサジエン、およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の過酸化物硬化性ゴムコンパウンド。
【請求項8】
前記架橋剤が、ノルボルナジエン、2−イソプロペニルノルボルネン、2−ビニル−ノルボルネン、1,3,5−ヘキサトリエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、およびこれらのC〜C20アルキル置換誘導体からなる群より選択される、請求項1に記載の過酸化物硬化性ゴムコンパウンド。
【請求項9】
前記高マルチオレフィンブチルポリマーを、臭素または塩化物を用いてハロゲン化する、請求項1に記載の過酸化物硬化性ゴムコンパウンド。
【請求項10】
前記求核剤が、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の過酸化物硬化性ゴムコンパウンド。
【請求項11】
前記高マルチオレフィンブチルアイオノマーが約2〜10モル%のマルチオレフィンを含む、請求項1に記載の過酸化物硬化性ゴムコンパウンド。
【請求項12】
前記高マルチオレフィンブチルアイオノマーが約4〜7.5モル%のマルチオレフィンを含む、請求項1に記載の過酸化物硬化性ゴムコンパウンド。
【請求項13】
前記過酸化物が、過酸化ジアルキル、過酸化ケタール、過酸化アラルキル、過酸化エーテル、および過酸化エステルからなる群より選択される、請求項1に記載の過酸化物硬化性ゴムコンパウンド。
【請求項14】
前記過酸化エステルが、過酸化ジ−tert−ブチル、ビス−(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)−ベンゾール、過酸化ジクミル、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)−ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)−ヘキセン−(3)、1,1−ビス−(tert−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、過酸化ベンゾイル、過酸化tert−ブチルクミル、および過安息香酸tert−ブチルからなる群より選択される、請求項13に記載の過酸化物硬化性ゴムコンパウンド。
【請求項15】
前記ナノクレーが、四級アンモニウム塩を用いて変性された天然モンモリロナイトクレーである、請求項1に記載の過酸化物硬化性ゴムコンパウンド。
【請求項16】
前記ナノクレーが、高マルチオレフィンブチルアイオノマーの重量を基準にして1〜50重量%の量で添加される、請求項15に記載の過酸化物硬化性ゴムコンパウンド。
【請求項17】
少なくとも1種の充填剤をさらに含む、請求項1に記載の過酸化物硬化性ゴムコンパウンド。
【請求項18】
請求項1に記載のコンパウンドを含む成形品。
【請求項19】
医療機器またはコンデンサーキャップの形態である、請求項18に記載の物品。

【公表番号】特表2009−506140(P2009−506140A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527282(P2008−527282)
【出願日】平成18年8月16日(2006.8.16)
【国際出願番号】PCT/CA2006/001421
【国際公開番号】WO2007/022643
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(506241042)ランクセス・インコーポレーテッド (20)
【Fターム(参考)】