説明

高出力ダイヤモンド半導体素子

【課題】高電界でも低リーク電流で高い電圧まで動作する高出力ダイヤモンド半導体素子を提供する。
【解決手段】ショットキー電極をカソードとし、オーミック電極をアノードとし、ショットキー電極、ダイヤモンドpドリフト層、ダイヤモンドpオーミック層、オーミック電極からなる構造の高出力ダイヤモンド半導体素子において、ショットキー電極とダイヤモンドpドリフト層の接合面の一部に、誘電層を設け、さらに誘電層の外表面でかつショットキー電極の周囲面に、導電体からなるフィールドプレートを設けることにより、カソード電極付近の電界を緩和する高出力ダイヤモンド半導体素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高出力ダイヤモンド半導体素子に関し、とくに代表的には、ダイヤモンドショットキーバリアダイオード、ダイヤモンドpnダイオード、ダイヤモンドサイリスタ、ダイヤモンドトランジスタ、ダイヤモンド電界効果トランジスタなどを挙げることができる。
【背景技術】
【0002】
従来の技術では、ダイヤモンドは、大きなバンドギャップ(5.5eV)、高いアバランシェ破壊電界(10MV/cm)、高い飽和キャリア移動度(4000cm2/Vs)、高い熱伝導率(20W/cmK)を有し、高温度や放射線曝露環境下で実用動作可能な素子として期待されている。これまでにこれらの特徴を生かした電子素子を開発するため、ダイヤモンドダイオードの構造および作製方法が提案されている。
一般に高電圧動作ダイオードでは、電極縁辺に発生する電界集中を抑えるため、pn接合を用いたガードリング構造(非特許文献1参照)、フィールドプレート構造(非特許文献2参照)もしくはこれらを組み合わせた構造(非特許文献3参照)などが用いられる。ダイヤモンドにおいては、p型およびn型ドーピングが実現しておりpn接合が実現しているが、n型ドーピングは極めて難しく、形成したpn接合界面でのリーク電流値も大きいため(非特許文献4、非特許文献5参照)、高電圧で低リーク電流を実現する電極縁辺電界緩和技術は得られていない。
【非特許文献1】S.M.Sze “Physics of Semiconductor Devices” 2nd ed.Wiley-Interscience, (1996).
【非特許文献2】N.Mohan, T.M.Undeland, W.P.Robbins, “Power Electronics” 3rd ed. John Wiley & Sons inc. (2003).
【非特許文献3】K. Kinoshita etal. “Guard Ring Assisted RESURF”, Proc. 14th ISPSD (2002)p.253.
【非特許文献4】S. Koizumi et al. “Formation of diamond p-n junction and its optical emission characteristics”, Diam. Relat. Mater. 11 (2002) p.307.
【非特許文献5】T. Makino et al. “Electrical and optical characterization of(001)-oriented homoepitaxial diamond p-n junction”, Diam. Relat. Mater. 15(2005) p.513.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ダイヤモンドは、酸化膜の絶縁耐圧よりもダイヤモンド自身の絶縁破壊のほうが大きいため、従来のSiO2を用いた耐圧構造では酸化膜の絶縁破壊が先行してしまうことで、ダイヤモンドの性能を活かしきることができない。
p型ダイヤモンド上の選択領域であるダイヤモンドpドリフト層に高比誘電率材料を形成することにより、ショットキー電極縁辺の電界集中を抑えることが可能となり、高電界でも低リーク電流で高い電圧まで動作する高出力ダイヤモンド半導体素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明は、ショットキー電極とダイヤモンドpドリフト層の接合面の一部に、絶縁体からなる誘電層と導電体からなるフィールドプレートを設けることにより、カソード電極付近の電界を緩和する高出力ダイヤモンド半導体素子を見出すに至った。
すなわち、本発明は、ショットキー電極をカソードとし、オーミック電極をアノードとし、ショットキー電極、ダイヤモンドpドリフト層、ダイヤモンドpオーミック層、オーミック電極からなる構造の高出力ダイヤモンド半導体素子において、ショットキー電極とダイヤモンドpドリフト層の接合面の一部に、誘電層を設け、さらに誘電層の外表面でかつショットキー電極の周囲面に、導電体からなるフィールドプレートを設けることにより、カソード電極付近の電界を緩和する高出力ダイヤモンド半導体素子である。
また、本発明は、誘電層を形成する誘電体をダイヤモンドより高誘電率材料とすることができる。
さらに本発明では、高誘電率材料として、Si3N4、Al2O3、又はSrTiO3を用いることが出来る。
また、本発明では、ショットキー電極に接合するダイヤモンドを、ダイヤモンド表面が酸素終端のダイヤモンドとすることが望ましい。
さらに本発明では、高出力ダイヤモンド半導体素子としてショットキーバリヤーダイオードとすることが望ましい。
【発明の効果】
【0005】
本技術により、局所的な電界の集中を低減することが出来るため、高出力ダイヤモンド素子の高電界印加時におけるリーク電流が減少し、また動作可能電圧が増大する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のフィールドプレートに用いる材料は、導電性材料であり、Pt、Pt−Ru合金、Pt−Ir合金等が利用できる。フィールドプレートを設ける位置は、ダイヤモンドpドリフト層の表面(ショットキー電極側)であり、ここにイオンスパッタ法、PLD法、RFスパッタ法等により、誘電層の外表面であり、かつショットキー電極の周囲面に設ける。誘電層の厚さは、ショットキー電極の厚さの約1/4〜3/4であり、誘電層の厚さとフィールドプレートの厚さの合計が、ほぼショットキー電極の厚さに等しくすることが望ましい。
形状は、どのようなものでも良いが、通常、ショットキー電極の周囲を取り巻く円形のしま状である(図1参照)。
【0007】
本発明で用いる電解緩和誘電層に用いる誘電体は、例えばSiO2、Si3N4、Al2O3又はSrTiO3であり、少なくともダイヤモンドよりも比誘電率の高いものを選ぶ。
比誘電率は、SiO2が3.9-4.1、Si3N4、7-8、Al2O3、8.7-10、SrTiO3、200-250である。
誘電体層は、どのような方法でも形成することが出来る。溶剤を用いる湿式方でも、蒸着による方法、CVDによる方法でもよい。
本発明においては、ショットキー電極とは、パワーエレクトロニクスに用いるための周知の形状のショットキー電極であり、周知の作用をするショットキー電極を意味する。ショットキー電極材料としては、Pt−Ru合金、Pt−Ir合金等が利用できる。
ショットキー電極の形状は、基板上のダイヤモンド半導体表面に形成された島状に点在する複数の電極から成るパターン電極である。
【0008】
本発明で用いるダイヤモンド半導体は、作成方法は限定されないが、好ましくはpもしくはp-型ダイヤモンド上にイオンスパッタ法、PLD法、RFスパッタ法、CVD法により窒素ドープダイヤモンド領域を形成する。
【0009】
さらに本発明においては、ダイヤモンドならどのタイプのものでも良いが、結晶構造(001)、(111)、(110)などが挙げられ、ダイヤモンド表面では、炭素終端ダイヤモンド、水素終端ダイヤモンド、酸素終端のダイヤモンドなどが挙げられる。
しかし、少なくともショットキー電極に接合するダイヤモンドは、ダイヤモンド表面が酸素終端のダイヤモンドが特に適していることが判明している。
本発明では、オーミック電極の作成についても、周知の材料と周知方法を用いてどのような手順で行っても良い。
本発明について実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0010】
ショットキーダイオードの構造はCVD法により、Ib(001)基板上にボロンドープ1020以上の高濃度オーミック層を設け、その上に10ミクロンのドリフト層としてp−低ボロン濃度層を設けたものとし、そのボロン濃度は5×1015とした。p-ドリフト層上にショットキー電極としてPt(φ〜2.5eV)を設置し、オーミック電極はIb基板を切削し、p+膜にTi、Pt、Auをそれぞれ300Å、300Å、1000Åを積層させ、420℃で30分のアニールを行ったものを用いることができる。
EBレジストやフォトレジストによるマスク等を用いてパターンを描き、ショットキー電極となる金属を蒸着させ、レジスト剥離液中でレジストを溶かし、不要部分を取り除くリフトオフプロセスを施し、直径30ミクロン、厚さ5000Åのショットキー電極を得る。次に、同様のパターニングでショットキー電極の2倍以上(60ミクロン)の直径をもつようにAl2O3を1.5μmほどスパッタ装置などにより形成させる。その後、周知のパターニング技術を用い、フィールドプレートとして金属を直径45ミクロン、厚さ2000Åとして堆積させる。
電極サイズはΦ30ミクロンとした。初期の破壊電圧は、なだれ破壊による絶縁破壊を主なパラメータとし、並行平板モデルで考えたときに最大4.3MV/cm程度の電界を想定してシミュレーションを行うと、880Vの破壊電圧となった。これに対し、以下示すように電極終端を行うとダイヤモンド中での電界集中を緩和することができ、破壊電圧を著しく向上させることができる。
【0011】
(比較例)
始めに、EBレジストやフォトレジストによるマスク等を用いてパターンを描き、周知の方法でSiO2を0.75μm形成させる。次に、EBレジストにより先のSiO2パターンと重なるようにショットキー電極パターンを描き、湿式エッチングでショットキー電極用に直径30ミクロン穴を作成する。同様にEBリソグラフィーによって先ほどのショットキー電極用の穴より大きなパターン(直径60ミクロン)を描きそこへショットキー電極となる金属を10000Å蒸着させる。レジスト剥離液中でレジストを溶かし、不要部分を取り除くリフトオフプロセスを施し、ダイヤモンドとショットキー金属の接触面直径30ミクロン、フィールドプレートを含めた直径60ミクロンのショットキー電極を得る。
【0012】
実施例1で得られた高出力ダイヤモンド半導体素子について、低誘電率絶縁膜(SiO2)利用耐圧構造を縁辺電界緩和層に用いた構造および高誘電率絶縁膜利用耐圧構造を縁辺電界緩和層に用いた構造での逆方向破壊電圧特性比較(Al2O3における実験結果)を図2に示す。
【実施例2】
【0013】
実施例1で行われたプロセスと同様にAl2O3に代えてSrTiO3を絶縁膜として作成。その実験結果を図2中に示す。
【0014】
図3は、高誘電率材料を用いた場合のダイヤモンド中における最大電界の変化を示す。
電界が集中する場所は、この場合4点が考えられる。A、B、C、はそれぞれ値が小さく、近い値が望ましい。D点は、絶縁材料によって許容範囲は異なるが、可能な限り低いことが好ましい。このダイオードの場合1500V程度の電圧を与えた場合にはおよそ2.2から2.3MV/cmが最小値として期待される。
SiO2、Al2O3は図2において最適化した構造における値を、SrTiO3の場合は必要以上に絶縁膜厚みを増やさず、Al2O3の最適化構造程度の膜厚で比較。ダイヤモンド(比誘電率5.7)より誘電率の小さいSiO2(比誘電率3.9)に比べ、ダイヤモンドより誘電率の大きなAl2O3(比誘電率8.7)のほうが全体的に最大電界を減らし、それぞれの差も小さくしていることがわかる。さらに、非常に大きな誘電率をもつSrTiO3(比誘電率200)についてみると、A,B,Cの電界はほぼ均一になっているといっても良い。D点についても非常に小さな値となっている。このことから、高い誘電率を持つ絶縁体を用いた耐圧構造は、デバイスの性能向上に有効であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0015】
高出力ダイヤモンド半導体素子は、ダイヤモンドショットキーバリアダイオード、ダイヤモンドpnダイオード、ダイヤモンドサイリスタ、ダイヤモンドトランジスタ、ダイヤモンド電界効果トランジスタなどに転用が可能であり、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】高誘電率絶縁膜利用耐圧構造を用いたダイオードの断面図
【図2】実施例1と比較例との逆方向破壊電圧の比較
【図3】実施例1、実施例2及び比較例の点ABCDにおける電界強度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショットキー電極をカソードとし、オーミック電極をアノードとし、ショットキー電極、ダイヤモンドpドリフト層、ダイヤモンドpオーミック層、オーミック電極からなる構造の高出力ダイヤモンド半導体素子において、
ショットキー電極とダイヤモンドpドリフト層の接合面の一部に、誘電層を設け、さらに誘電層の外表面でかつショットキー電極の周囲面に、導電体からなるフィールドプレートを設けることを特徴とする高出力ダイヤモンド半導体素子。
【請求項2】
誘電層を形成する誘電体がダイヤモンドより高誘電率材料である請求項1に記載した高出力ダイヤモンド半導体素子。
【請求項3】
高誘電率材料が、Si3N4、Al2O3、又はSrTiO3である請求項1又は請求項2に記載した高出力ダイヤモンド半導体素子。
【請求項4】
ショットキー電極に接合するダイヤモンド半導体のダイヤモンド表面が酸素終端のダイヤモンド請求項2ないし請求項4のいずれかに記載した高出力ダイヤモンド半導体素子。
【請求項5】
高出力ダイヤモンド半導体素子がショットキーバリヤーダイオードである請求項1〜請求項4のいずれかに記載された高出力ダイヤモンド半導体素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−54640(P2009−54640A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217412(P2007−217412)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年5月28日 NDNC組織委員会発行の「NDNC2007アブストラクト集」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】