説明

高分子乳化剤、及びこれを用いた樹脂分散液

【課題】高分子乳化剤を用いて得られる熱可塑性樹脂分散液から製造される乾燥皮膜が、60〜100℃程度の低温でのヒートシール性、及び焼付け性を向上させることを目的とする。
【解決手段】フローテスター1/2法による中点温度が40℃以上170℃以下である(メタ)アクリル系重合体を含み、その(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量が1,500〜100,000である高分子乳化剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乾燥皮膜が低温でのヒートシール性及び焼き付け密着性に優れた熱可塑性樹脂の分散液に使用される高分子乳化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、汎用性、強度、物性、成形のし易さ、耐溶剤性、外観等の観点から、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂が、日用品、自動車用部品、建材等に使用されている。
【0003】
それらのポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系樹脂自体の極性の低さから、接着が困難であった。そのため、これらのポリオレフィン系樹脂の接着には、塩素化ポリオレフィン等の接着付与成分を、有機溶剤に溶解させて用いる必要があった。
【0004】
しかし、近年、環境保全および安全衛生のため、塗料の無溶剤化が強く要望されており、従来の溶剤型塗料の水系化が行なわれつつある(特許文献1、特許文献2参照)。また、塩素化ポリオレフィン系樹脂は、焼却廃棄時に、毒性の高いダイオキシンが発生するおそれがあるという指摘もあった。
【0005】
樹脂を水系化させる一般的な方法として、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体の場合は、先ず、エチレン・酢酸ビニル共重合体を加熱溶融し、次いで、アニオン系やノニオン系の乳化剤を添加撹拌し、その後、熱水を添加して、ホモミキサー等の機械剪断力を用いて乳化することにより得られる方法があげられる(特許文献3参照)。
【0006】
しかし、上記のアニオン系乳化剤及びノニオン系乳化剤を用いた場合、得られた製品の使用時において、ブリードアウトするおそれがある。これに対し、乳化安定性などを改良した特定のアクリル系共重合体の中和物を、アニオン系水溶性高分子乳化剤として用いる樹脂水性分散液の製造方法が知られている(特許文献4参照)。
【0007】
しかし、このアニオン系水溶性高分子乳化剤は、乳化安定性を改良することができるが、得られた樹脂分散液から水、揮発性塩基等が蒸発する際に、この高分子乳化剤中のカルボキシル基が分子内又は分子間での会合を起こして、溶融粘度が上昇し、エマルジョン樹脂粒子の融着を妨げてしまい、低温での造膜性が悪化したり、得られた乾燥皮膜の低温接着性、透明性が劣ったりすることがあり、その用途が限定されることがあった。
【0008】
これに対し、低温造膜性に優れる特定のアクリル系共重合体の中和物をカチオン系水溶性高分子乳化剤として用いる樹脂分散液の製造方法が知られている(特許文献5参照)。
【0009】
一方で、ポリアルキレングリコールメタクリレートを導入したアニオン系水溶性高分子乳化剤を用いることにより、上記の分子内又は分子間での会合を抑制させて、溶融粘度を低下させる方法が知られている(特許文献6)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平06−336568号公報
【特許文献2】特開平11−106600号公報
【特許文献3】特開昭57−61035号公報
【特許文献4】特開昭58−127752号公報
【特許文献5】特開昭58−118843号公報
【特許文献6】特開平2−26631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献5及び6に記載の乳化剤では、60〜100℃程度の低温でのヒートシール性が不十分であった。また、特許文献5に記載の方法では、塗料化する際に用いるアニオン性物質の配合によっては、ゲル化を引き起こすことがあるという問題があった。
【0012】
そこでこの高分子乳化剤についての発明は、かかる問題点を解決し、この高分子乳化剤を用いて得られる熱可塑性樹脂分散液から製造される乾燥皮膜が、60〜100℃程度の低温でのヒートシール性、及び焼付け性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、重量平均分子量が1,500〜100,000で、フローテスター1/2法による中点温度が40℃以上170℃以下である、(メタ)アクリル系重合体を含む高分子乳化剤を用いることで、上記課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0014】
この発明にかかる高分子乳化剤を用いて熱可塑性樹脂を乳化することにより、60〜100℃程度の低温におけるヒートシール性や焼き付け性が、フローテスター1/2法による中点温度が170℃を超える重合体による乳化剤を用いる場合よりも向上するという特徴的効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】1/2法温度の測定に用いるフローテスターの例を示す模式図
【図2】プランジャー降下量−温度曲線
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明にかかる高分子乳化剤は、特定の条件である(メタ)アクリル系重合体を含む乳化剤をいう。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル又はメタクリル」を意味する。上記(メタ)アクリル系重合体とは、(メタ)アクリル系モノマーを構成成分の主成分とする重合体をいう。また、主成分とするとは、構成成分の50モル%以上を占めることをいう。さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、(メタ)アクリル系モノマー以外の、これと共重合可能なビニル系モノマーを有していてもよい。
【0017】
なお、この発明に用いられる(メタ)アクリル系モノマーの総炭素原子数は、通常、3〜50、好ましくは3〜30である。
【0018】
上記(メタ)アクリル系モノマーとは、(メタ)アクリル基を有するモノマーをいう。この(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、アミノ基含有(メタ)アクリル系モノマー、アミド基含有(メタ)アクリル系モノマー、水酸基含有(メタ)アクリル系モノマー、スルホン酸基含有(メタ)アクリル系モノマー、その他の(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。なお、本発明における「アルキル」基には、直鎖状、分岐鎖状のものや脂環式のものを含む。
【0019】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーは、疎水性基を有する成分として、高分子乳化剤の乳化能力を発現させるために用いられる。このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。また、溶融粘度及び乳化力を改良するために、これらの成分を2種以上混合して用いてもよい。
【0020】
上記アミノ基含有(メタ)アクリル系モノマーは、アミノアルキル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系モノマーである。上記アミノ基含有(メタ)アクリル系モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノ−2−アミノエチル等が挙げられる。
【0021】
また、上記アミド基含有(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリルアミドや、アミド基の水素原子の一方又は両方がアルキル基等で置換された、N−置換(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0022】
これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して使用しても構わない。これらのアミノ基含有(メタ)アクリル系モノマー及びアミド基含有(メタ)アクリル系モノマーは、溶融粘度の調整や基材への密着性を発現するために用いられる。
【0023】
上記水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーは、代表的には、水酸基を含有するアルキルエステルモノマーがあげられる。上記水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸ヒドロキシル基置換アルキルエステルモノマーは、後述する1/2法温度を調整するために用いられる。
【0024】
上記(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとしては、カルボキシル基含有モノマー、スチレン系モノマーなどが挙げられる。上記カルボキシル基含有モノマーとしては、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸等が挙げられる。これらのカルボキシル基含有モノマーは、高分子乳化剤の乳化能力を向上させるために用いられる。
【0025】
上記スチレン系モノマーとしては、スチレンモノマー等が挙げられる。
【0026】
上記(メタ)アクリル系重合体が、これらのモノマー単位のうち、ガラス転移温度(Tg)が低いモノマー単位を含んでいると、後述する1/2法温度を低下させることができる。ガラス転移温度(Tg)が低いとは、具体的には、Tgが80℃以下であるものをいい、50℃以下であると好ましい。このようなガラス転移温度(Tg)が低いモノマー(以下、「低Tgモノマー」という。)としては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル等が挙げられる。これらの中でも特に、アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ラウリルが好ましい。
【0027】
[各成分の含有割合]
上記(メタ)アクリル系重合体とは、重合体中の全モノマー単位に対して、上記(メタ)アクリル系モノマーからなるモノマー単位を50重量%以上含むものをいう。
【0028】
上記(メタ)アクリル系重合体に含まれる全モノマー単位に対して、カルボキシル基及び/又はスルホン酸基を含有するモノマー(以下、まとめて「カルボキシル基等含有モノマー」と記すことがある。)を、1重量%以上含むと好ましい。カルボキシル基等含有モノマー単位があることによって、樹脂の乳化分散性を改良することができる。1重量%未満であると、乳化力が不足するおそれがある。一方で、カルボキシル基等含有モノマーは50重量%以下であると好ましい。50重量%を超えると、親水性が高くなり、乳化剤としてのバランスが悪化するおそれがある。なお、カルボキシル基等含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸及び上記カルボキシル基含有モノマーが挙げられる。
【0029】
上記(メタ)アクリル系重合体に含まれる全モノマー単位に対して、上記水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーを、1重量%以上含むことが好ましい。水酸基を有するモノマー単位があることによって、皮膜を形成する際の溶融粘度が低くなり、均一な皮膜を形成しやすくなる傾向がある。1重量%未満であると、皮膜に凹凸が発生し、外観不良となるおそれがある。一方、水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーは、70重量%以下であると好ましい。70重量%を超えると、親水性が高くなり、乳化剤としてのバランスが悪化するおそれがある。
【0030】
また、後述する「1/2法温度」を下記の範囲にするために、上記(メタ)アクリル系重合体がカルボキシル基及び/又はスルホン酸基と水酸基との両方を有する場合は、それらの基を有する(メタ)アクリル系モノマー単位の含有割合が、重量比として、カルボキシル基含有単位及び/又はスルホン酸基含有単位の合計量/水酸基含有単位=1/70〜50/1であるようにモノマー比を調整するとよい。50/1を超えると、熱流動性が悪化して、1/2法温度を低下させることが困難になることがある。一方で、1/70未満だと、親水性基が不足して、乳化力が低下することがある。
【0031】
[共重合体の製造方法]
この発明にかかる高分子乳化剤を構成する上記(メタ)アクリル系重合体は、下記の方法で製造することができる。
まず、上記のモノマーから選ばれる成分を、所定の比率でそれぞれ秤量する。次に、重合器に各成分を別々に添加して重合するか、又は各モノマーをあらかじめ混合した上で重合器に添加して共重合する。これにより、共重合体を製造することができる。
【0032】
上記の共重合は、上記各モノマーを重合開始剤の存在下に0〜180℃、好ましくは40〜120℃で0.5〜20時間、好ましくは2〜10時間の条件下で行われる。この共重合はエタノール、イソプロパノール、セロソルブ等の親水性溶媒や水の存在下で行うのが好ましい。
【0033】
上記重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩からなる開始剤、上記過硫酸塩に亜硫酸塩、チオ硫酸塩の還元剤等を併用したレドックス系開始剤、ラウロイルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド等の有機過酸化物、あるいはこれらと鉄(II)塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩の還元剤等を併用したレドックス系開始剤、2,2′−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2′−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2′−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド等のアゾ系化合物、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキセン、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。この重合開始剤の使用量は、使用されるモノマー全量に対して、0.01〜10重量%が好ましい。
【0034】
また、上記(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量を低くすることによって後述する1/2法温度を上記の範囲に調整する場合には、重合度を調整するため、ノルマルオクチルメルカプタンなどのメルカプタン類、α−メチルスチレン、炭素数1〜20、好ましくは3〜10のハロゲン化アルキル等の連鎖移動剤を添加するのが好ましい。この連鎖移動剤の使用量は、所望の分子量に応じて調節すればよいが、通常、全モノマー量に対して、0.1〜10重量%程度である。
【0035】
[重合体の中和]
なお、上記カルボキシル基含有モノマーには、カルボキシル基やスルホン酸基のような酸性の親水性基が含まれる。上記(メタ)アクリル系重合体がカルボキシル基等含有モノマーを含む場合、この酸性の親水性基の少なくとも一部が、塩基性物質によって中和されることが好ましい。少なくとも一部を中和することにより、水への溶解性が改良されて、得られる樹脂分散液中の樹脂粒子径が小さくなって、水中への分散状態が安定化されるという特徴を発揮することができる。
【0036】
上記の中和の程度、すなわち、中和度は、50モル%以上がよく、60モル%以上が好ましい。50モル%より小さいと、得られる共重合体の水への溶解性が不十分となりやすい。一方、中和度の上限は、200モル%がよく、150モル%が好ましい。200モル%より大きいと、耐水性が不足しやすい傾向がある。
【0037】
上記塩基性物質としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、アルキルアミン類、アルカノールアミン類、モルホリン等の塩基性化合物が挙げられる。上記アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等が挙げられ、アルキルアミン類の具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン等が挙げられ、アルカノールアミン類の具体例としては、2−アミノ−2−メチルプロパノール等が挙げられる。これらの中でも、低温乾燥時に揮発性を有するアンモニアやトリメチルアミンを用いると、得られる皮膜の耐水性が向上できるので好ましい。また、乳化力を向上するためには、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0038】
中和反応は、上記(メタ)アクリル系重合体と塩基性化合物を、20〜100℃で0.1〜3時間反応させることにより行われる。また、予めカルボキシル基等含有モノマーを塩基性化合物で中和してから共重合に用いてもよい。
【0039】
[(メタ)アクリル系重合体の特徴]
上記(メタ)アクリル系重合体の溶融粘度は、フローテスターを用いた溶融粘度測定、すなわちフローテスター1/2法による中点温度(以下、「1/2法温度」と略す。)が40℃以上である必要があり、50℃以上であると好ましく、60℃以上であるとさらに好ましい。40℃より低いと、高分子乳化剤の乾燥皮膜が粘着性を示してベタつきやすくなる(ブロッキング)傾向がある。一方で、1/2法温度が170℃以下である必要があり、140℃以下であると好ましく、130℃以下であるとさらに好ましい。170℃を超えると、低温でのヒートシール性が良好でない従来の乳化剤に用いる重合体との差がほとんど現れないためである。
【0040】
なお、上記1/2法温度の具体的測定は以下のような手順により可能である。フローテスターとしては、図1に示す高架式フローテスターを用いることができる。これは、垂直に立てたシリンダ2、このシリンダ2内部を上下動自在のプランジャー(ピストン)1,上記シリンダ2の下端に配されたダイ4、及びこのダイ4を固定するダイ押さえ5からなる。
【0041】
まず、シリンダ2内に上記の秤量された試料3を入れ、プランジャー1をシリンダ2内に挿入する。次いで、プランジャー1の上部に荷重Pを掛け、一定の昇温速度で加温する。
【0042】
そして、温度とプランジャー1の降下量とを測定し、両者の関係をグラフ化した。その結果は、図2のプランジャー降下量−温度曲線(フローテスター流出曲線)に示すとおりである。この図2において、試料3がダイ4のノズルより流出する時点の温度を流出開始点(流動開始温度)とし、この流出開始点と、得られたS字曲線の最高点との間の高さをhとしたとき、h/2のときの温度が1/2法温度となる。
【0043】
上記(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は、1,500以上であることが必要であり、2,000以上であると好ましい。1,500未満では、塗布後にべたつきが生じることがある。一方、100,000以下であることが必要であり、60,000以下であると好ましい。100,000を超えると、溶融粘度が高くなり、低温ヒートシール性が低下したり、焼き付け不良となる場合がある。
【0044】
上記(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)は、−10℃以上であると好ましく、0℃以上であるとより好ましい。−10℃未満では、塗布後にべたつきが生じやすく、ブロッキングを起こしやすくなる傾向がある。一方、100℃以下であると好ましく、90℃以下であるとより好ましい。
【0045】
なお、上記のガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に基づき、示差走査熱量測定法(DSC)にて昇温温度10℃/minで測定を行った値を基準とする。
【0046】
[高分子乳化剤としての利用]
上記の方法で得られた上記(メタ)アクリル系重合体は、そのままで、又はこの発明の効果を阻害しない範囲で、防カビ剤、酸化防止剤、UV吸収剤、密着性改善のための粘着剤(タッキファイアー、ワックス等)等の添加物を添加することにより、高分子乳化剤となる。
【0047】
この高分子乳化剤は、熱可塑性樹脂を乳化分散して樹脂分散液を得るための乳化剤として用いることができ、この樹脂分散液を造膜したとき、低温ヒートシール性、焼き付け性、及び表面平滑性が良好な乾燥皮膜を得やすくなる。また、2種類以上の高分子物質の混練において、相溶化剤として使用することもできる。
【0048】
そのような熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂やエチレン−酢酸ビニル系共重合樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂等、一般的な熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂は単独の樹脂であってもよいし、混合物であってもよい。例えば、本発明にかかる高分子乳化剤を用いることにより、上記熱可塑性樹脂を乳化して、その分散液を得ることができる。この熱可塑性樹脂分散液は、対応する熱可塑性樹脂種との親和性が良好であり、当該樹脂用の接着剤や粘着剤、コーティング剤として使用することができる。
【0049】
これら熱可塑性樹脂は、従来、水分散液とするのが一般的には困難な物質で、通常、有機溶剤に溶解させて用いられていたものである。そうした溶液は、ポリプロピレン系樹脂用、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリスチレン系樹脂の接着剤として効果の高かったものであるが、上記の高分子乳化剤を用いることにより、脱溶剤化が可能となり、環境負荷の小さい樹脂用接着剤を製造することが可能となる。
【0050】
また、溶剤によっては、被着体の樹脂を溶解することもあり、用いられる溶剤の種類によっては、用途が制限されることもあるが、本発明の分散液では、そのような問題は発生しない。
【0051】
本発明の高分子乳化剤を用いて、上記の熱可塑性樹脂を乳化分散して樹脂分散液を製造する方法としては、溶融したこれらの熱可塑性樹脂の少なくとも一種類を、上記高分子乳化剤又はその中和物を含有する水中に添加し、ホモミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機等を用いて、機械的剪断力を加えて混合・分散する方法があげられる。最も好ましい態様は、スクリューを2本以上ケーシング内に有する多軸押出機を用い、この多軸押出機のホッパー、あるいは中途供給口より、上記熱可塑性樹脂を連続的に供給し、これを加熱溶融混練し、さらに、この多軸押出機の圧縮ゾーン、計量ゾーン、脱気ゾーンに設けられた少なくとも1個の供給口より、上記高分子乳化剤又はその中和物を含む水溶液を加圧供給し、これと上記の加熱溶融した樹脂とをスクリューで混練することにより、ダイから、連続的に樹脂分散液を押出製造することができる。
【0052】
上記の熱可塑性樹脂と高分子乳化剤との配合割合(固形分換算)は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、高分子乳化剤を0.1重量部以上、好ましくは1重量部以上を用いるとよい。一方、高分子乳化剤の配合割合の上限は、20重量部、好ましくは15重量部を用いるのがよい。高分子乳化剤の配合量が、0.1重量部未満では、乳化不十分となって、樹脂が分離・沈降するおそれがある。一方、高分子乳化剤の配合割合が20重量部を超えると、樹脂分散液から得られる皮膜等の成形品の耐水性が悪化したり、分散した樹脂が二次凝集を起こす場合がある。
【0053】
上記の水の使用量は、得られる樹脂分散液の固形分濃度が20〜65重量%となるように用いるのが好ましい。また、得られた樹脂分散液には、消泡剤、粘度調整剤、アニオンもしくはノニオン性界面活性剤、酸化防止剤、防腐剤、紫外線吸収剤及び粘着性付与剤(タッキファイア)等を配合してもよい。
【0054】
このようにして製造された樹脂分散液は、上記の樹脂の粒子が、平均体積粒径5μm以下、粒径が1μm以下のものが10重量%以上、好ましくは20重量%以上の状態で、水に分散しており、25℃における粘度が10〜10,000mPa・s、好ましくは、50〜5,000mPa・sのものである。さらに好ましい粘度は、50〜2,000mPa・sである。
【0055】
上記の樹脂分散液は、用いる樹脂の種類にもよるが、塗料、粘着剤、インクのバインダー、接着剤、エマルジョンの改質剤として使用することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を用いて、この発明をより具体的に説明する。まず、評価方法及び使用した原材料について説明する。
【0057】
<評価方法>
[不揮発分]
各製造例で得られた高分子乳化剤サンプル、又は実施例及び比較例で得られた各種エマルジョンサンプル約1gを精秤し熱風循環乾燥機105℃×3時間乾燥させた後、デシケーターの中で放冷しその重量を測定した。そして、下記の式にしたがい、不揮発分を算出した。
不揮発分[%]=(乾燥後の試料の重量/乾燥前の試料の重量)×100
【0058】
[GPCによる重量平均分子量(Mw)の測定]
サンプルを室温乾燥24時間後、常温減圧下(真空乾燥機LHV−122(タバイエスペック(株)製)を使用)で5時間以上乾燥し、クロロホルム及びメタノールを加え、次にエステル化剤(トリメチルシリルジアゾメタンヘキサン溶液)を室温にて攪拌し溶解するまで放置した(48〜72時間)。その後、室温乾燥させた。
乾燥したサンプルをテトラヒドロフラン(THF)にて0.2%に調整し、これを試料とした。
上記試料を島津製作所(株)製:GPC−6Aを使用し、下記条件にて測定した。
・流速:1ml/min
・カラム:PLゲル10μmミックスB(ポリマー・ラボラトリー社製)
・標準試料:単分散PS(ポリマー・ラボラトリー社製)
・リファレンス:Sumilizer BHT(住友化学(株)製)
・検出器:RI,UV
【0059】
[ガラス転移温度Tgの測定]
SII社製DSCを用い、JIS K 7121に基づき、示差走査熱量測定法(DSC)にて昇温温度10℃/minで測定を行った。
【0060】
[溶融温度(1/2法温度)]
各製造例で得られた高分子乳化剤サンプルを室温下で24時間放置した後、室温下で真空乾燥を5時間実施し、これを約1g秤量して試料とし、図1に示す構成である高架式フローテスター(島津製作所(株)製:CFT−500)を用いて、フローテスター1/2法温度を測定した。シリンダ2内のプランジャー1の先端面の面積Aは、1cmであり、また、ダイ4に設けられたノズル(排出孔)は、直径1mm、長さ1mmである。荷重Pは10kgfとし、昇温開始温度40℃、昇温速度6.0℃/minで加温した。
【0061】
[粒子径]
(株)島津製作所製:レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD2000)を用いて、体積粒子径を測定した。
【0062】
<原材料>
[カルボキシル基を含有するモノマー]
・アクリル酸…三菱化学(株)製、以下「AA」と略する。
・メタクリル酸…三菱レイヨン(株)製、以下「MAA」と略する。
【0063】
[(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー]
・メタクリル酸メチル…三菱レイヨン(株)製、以下「MMA」と略する。
・メタクリル酸ラウリル…三菱レイヨン(株)製、以下「SLMA」と略する。
【0064】
[低Tgモノマー]
・アクリル酸2−ヒドロキシエチル…(株)日本触媒製、「HEA」と略する。
・アクリル酸エチル…三菱化学(株)製、以下「EA」と略する。
[連鎖移動剤]
・ノルマルオクチルメルカプタン…和光純薬(株)製、以下「NOM」と略する。
【0065】
[溶媒]
・イソプロピルアルコール…(株)トクヤマ製、以下、「IPA」と略する。
【0066】
[樹脂]
・エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂…三井デュポンポリケミカル(株)製:EVA220V、以下「EVA」と略する。
・タッキファイヤ…荒川化学工業(株)製:石油樹脂
これらを重量混合比EVA/タッキファイヤ=9/1で混合したものを用いた。
【0067】
<ヒートシールと強度測定>
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルムに、各実施例及び比較例で得られた高分子乳化剤を用いて製造した樹脂分散液を4g/mとなるように塗布し、100℃で20秒間乾燥させて試料を作製した。
この試料の塗布面同士を、ヒートシーラーを用いて、所定の温度で、1秒間、2kg/cmの圧力でヒートシールした。得られたサンプルを15mm幅の短冊状に切り出し、引張試験機(オートストレイン)を用いて、200mm/分の速度で剥離したときのシール強度を測定した。また、140℃におけるヒートシール強度を100%としたときの各温度におけるヒートシール強度の百分率を算出した。
【0068】
<低温焼付性>
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルムに、塗布量10g/cmになるように樹脂分散液を塗布し、80℃×5分間乾燥した。得られた塗膜について、セロハンテープ剥離試験にて、下記の基準で密着性を評価した。
○:塗膜の剥離なし
×:塗膜の剥離あり
【0069】
(実施例1〜3、比較例1)
<(メタ)アクリル系重合体(高分子乳化剤)の製造>
還流冷却管、窒素導入管、攪拌機及び温度計を装着した四つ口フラスコ(反応器)に、イソプロパノール(IPA)150重量部、表1に示す量の各種モノマー、及び実施例1,2においては連鎖移動剤を仕込み、反応器を窒素置換後、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル(大塚化学(株)製、以下「AIBN」と略する。)0.6重量部を添加し、80℃にて3時間、重合を実施した。
次いで、25%アンモニア水溶液で、AA及びMAAの合計量に対応する表1記載の中和度に相当にするように中和した後、最終的に固形分10〜45重量%の粘稠な(メタ)アクリル系重合体の中和物の水溶液を得た。(収率97%)。
【0070】
<樹脂分散液の製造>
EVAとタッキファイヤとの重量比9:1の樹脂混合物110重量部を、異方向回転非噛合型二軸ニーダー((株)入江商会製:PBV−03型)に、140℃で混合して溶融させた。これに、上記高分子乳化剤を、固形分として樹脂混合物100重量部あたり、高分子乳化剤5重量部となるように投入し、5分間混合した後、イオン交換水110重量部を追加し、さらに10分間混合して、乳白色の樹脂分散液を得た。
【0071】
【表1】

【0072】
<結果>
実施例1では、連鎖移動剤で分子量を低下させない比較例1に比べて、1/2法温度が低下し、80〜100℃付近でのヒートシール強度が向上した。
【0073】
実施例1のMMAの半分を低Tgモノマーに変更した実施例2では、実施例1に比べてヒートシール強度がやや低下するものの、比較例1と比べて、80〜100℃付近でのヒートシール強度が向上した。
【0074】
実施例2において連鎖移動剤を添加せずに重量平均分子量は高いものとし、一方で、実施例2で用いたMMAを低TgモノマーであるEAに変更した実施例3では、80〜100℃の低温でのヒートシール強度は比較例1よりも高くなるとともに、60〜140℃までほぼ一定のヒートシール強度を得ることができた。
【符号の説明】
【0075】
1 プランジャー
2 シリンダ
3 試料
4 ダイ
5 ダイ押さえ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローテスター1/2法による中点温度が40℃以上170℃以下である(メタ)アクリル系重合体を含み、その(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量が1,500〜100,000である高分子乳化剤。
【請求項2】
上記(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度Tgが、−10℃以上100℃以下である請求項1に記載の高分子乳化剤。
【請求項3】
上記(メタ)アクリル系重合体に含まれる全モノマー単位に対して、カルボキシル基を有するモノマー単位を1〜50重量%含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子乳化剤。
【請求項4】
上記(メタ)アクリル系重合体に含まれる全モノマー単位に対して、水酸基を有するモノマー単位を1〜70重量%含むことを特徴とする請求項1又は2に記載に記載の高分子乳化剤。
【請求項5】
上記(メタ)アクリル系重合体は、官能基としてカルボキシル基と水酸基とを有し、かつその含有割合が、それらの基を有する構成単位の含有割合が、重量比で、カルボキシル基/水酸基=1/70〜50/1である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の高分子乳化剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の高分子乳化剤を用いて、熱可塑性樹脂を乳化分散してなる樹脂分散液。
【請求項7】
上記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエステル系樹脂、及びスチレン系樹脂の少なくとも一種である請求項6に記載の樹脂分散液。
【請求項8】
溶融した熱可塑性樹脂を、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の高分子乳化剤、又はその中和物を含有する水中に添加し、機械的剪断力を加えて混合・分散することを特徴とする、熱可塑性樹脂を乳化分散した樹脂分散液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−209249(P2010−209249A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58210(P2009−58210)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【Fターム(参考)】