説明

高周波可変フィルタ

【課題】周波数可変時に通過帯域幅をほぼ一定に維持することが可能な高周波可変フィルタを得る。
【解決手段】一端が接地されたバラクタ2a〜2cと、固定値を有するメアンダーラインインダクタ4a〜4cと、固定長を有する伝送線路5a〜5cと、伝送線路5a〜5cとほぼ同一の長さを有する伝送線路6a、6bと、入出力端子8とを備えている。伝送線路5a〜5cの固定長は、通過周波数の可変周波数範囲の中心周波数にて、ほぼ4分の1波長となるように設定される。バラクタ2a〜2c、インダクタ4a〜4cおよび伝送線路5a〜5cは、直列接続されて1単位の可変共振回路を構成する。伝送線路6a、6bは、複数単位の可変共振回路を並列に結線して、入出力端子8から各可変共振回路に対して高周波信号を入出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイクロ波などの高周波帯にて動作する可変帯域通過型の高周波可変フィルタであって、通過周波数を制御したときに通過帯域幅をほぼ一定とするための高周波可変フィルタに関し、特に、同一の周波数帯域幅を有する複数のチャネルを使用する各種の通信システムなどに活用される高周波可変フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の可変帯域通過型の高周波可変フィルタは、通過周波数を変化させたときに通過帯域幅を一定に保つために、信号の入出力端子を結ぶ信号経路に対して、直列およびシャントにバラクタが挿入され、チューナブルフィルタを構成している(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の高周波可変フィルタにおいては、複数のバラクタ(varactor)ダイオード(以下、単に「バラクタ」という)が、それぞれ可変並列共振回路、可変容量回路を構成しており、各バラクタ端子を介して各々異なるバイアス電圧を印加することにより制御される。
すなわち、可変並列共振回路に含まれるバラクタの容量値を低減(または、増加)させて、共振周波数をさらに高く(または、低く)設定することにより、共振周波数を通過周波数とするチューナブルフィルタを実現している。
【0004】
このとき、可変並列共振回路の容量値の低減にともない通過帯域幅が増加するので、他方の可変容量回路の直列キャパシタンスを、バラクタを制御して低減させることにより、周波数可変時の通過帯域幅の変動を抑圧して、通過帯域幅が一定の特性を示すようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−9573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の高周波可変フィルタは、特許文献1に記載のチューナブルフィルタの場合には、入出力信号の伝送経路に対して直列およびシャントの両方にバラクタを装荷する必要があり、また、各バラクタに異なるバイアス電圧を印加する必要があるので、回路自体の制御およびバイアス電圧の制御が複雑化するという課題があった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、入出力信号の伝送経路に対してシャントに装荷されたバラクタのみで構成し、かつ各バラクタに共通のバイアス電圧を印加するのみで、周波数可変時に通過帯域幅をほぼ一定に維持することが可能な可変帯域通過フィルタを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による高周波可変フィルタは、一定範囲内で通過周波数が可変制御される高周波可変フィルタであって、一端が接地されたバラクタと、バラクタに接続され固定値を有するインダクタと、インダクタに接続され固定長を有する第1の伝送線路と、第1の伝送線路に接続され第1の伝送線路とほぼ同一の長さを有する第2の伝送線路と、第2の伝送線路に接続された入出力端子とを備え、第1の伝送線路の固定長は、通過周波数の可変周波数範囲の中心周波数にて、ほぼ4分の1波長となるように設定され、バラクタ、インダクタおよび第1の伝送線路は、直列接続されて1単位の可変共振回路を構成し、第2の伝送線路は、複数単位の可変共振回路を並列に結線して、入出力端子から複数単位の可変共振回路に対して高周波信号を入出力するものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、入出力信号の伝送経路に対してシャントに装荷されたバラクタのみで構成し、かつ各バラクタに共通のバイアス電圧を印加するのみで、周波数可変時に通過帯域幅をほぼ一定に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る高周波可変フィルタを示す平面図である。
図1において、高周波可変フィルタは、裏面が電気的に接地された誘電体基板1と、バラクタ2a〜2cとを備えている。
【0011】
バラクタ2a〜2cの裏面は、誘電体基板1と同様に電気的に接地されている。また、バラクタ2a〜2cは、ボンディングワイヤ3a〜3cを介して、誘電体基板1上の回路と接続されている。
【0012】
誘電体基板1上には、メアンダーライン(Meander−line)インダクタ4a〜4cと、メアンダーラインインダクタ4a〜4cに直列接続されたマイクロストリップ線路(以下、「伝送線路」という)5a〜5c、6a、6bと、伝送線路5a〜5c、6a、6bに接続された薄膜抵抗線路(比較的高抵抗の抵抗素子)7と、薄膜抵抗線路7に接続された入出力端子8とが形成されている。
【0013】
バラクタ2a〜2c、インダクタ4a〜4cおよび伝送線路5a〜5cは、それぞれ、直列接続されて、3単位の可変共振回路を構成している。
伝送線路6a〜6cは、3単位の可変共振回路を並列に結線しており、薄膜抵抗線路7は、伝送線路6a〜6cのほぼ中央位置に接続されている。
なお、ここでは、3単位の可変共振回路を並列構成した場合を示したが、任意単位数の可変共振回路を並列構成可能なことは言うまでもない。
【0014】
メアンダーラインインダクタ4a〜4cは、一定長を有する比較的高インピーダンスの伝送線路を蛇行させることにより構成されている。
伝送線路5a〜5c、6a、6bは、フィルタの可変周波数範囲の中心周波数において、ほぼ4分の1波長となる固定長を有している。
入出力端子8は、薄膜抵抗線路7および伝送線路5a〜5c、6a、6bを介して、すべてのバラクタ2a〜2cにバイアス電圧を印加するためのものである。
【0015】
次に、図2および図3を参照しながら、図1に示したこの発明の実施の形態1による高周波可変フィルタの動作について説明する。
図2は従来の一般的な可変帯域通過フィルタの等価回路を示す回路図であり、図3はこの発明の実施の形態1による高周波可変フィルタの等価回路を示す回路図である。
ここでは、従来の等化回路(図2)と、この発明による等化回路(図3)とを対比して、中心周波数制御時の通過帯域幅の変動抑制効果を示している。
【0016】
なお、図2および図3では、一例として3段構成のフィルタを示しているが、以下の説明は、任意の段数のフィルタに対して適用可能なことは言うまでもない。
図2において、高周波可変フィルタは、バラクタC(i=1、2、3)と固定インダクタL(i=1、2、3)とからなる可変並列共振回路を構成単位として、各可変並列共振回路を、JインバータJi(i+1)(J12、J13)を介して接続することにより構成されている。
【0017】
図2に示す高周波可変フィルタの等価回路パラメータは、通過中心角周波数ωoと、通過帯域幅Δωと、フィルタ伝達関数(チェビシェフ型、バターワース型など)から規定される定数g(i=1、2、3)とより、以下の式(1)で与えられることが知られている。
【0018】
i(i+1)=Δω(Ci+1/gi+11/2・・・(1)
【0019】
また、各共振回路においては、以下の式(2)が成立する。
【0020】
ωo=1 ・・・(2)
【0021】
よって、式(1)は、以下の式(3)のように表すことができる。
【0022】
i(i+1)=Δω/ωo/(Li+1/gi+11/2・・・(3)
【0023】
この結果、図2の可変フィルタにおいては、式(3)から明らかなように、JインバータのJ値が一定であるとすると、中心周波数ωoを制御したときに通過帯域幅Δωが変化することが分かる。
【0024】
一方、この発明の実施の形態1(図1)の等価回路(図3)によれば、伝送線路5a〜5c、6a、6bは、フィルタの可変周波数範囲の中心周波数にてほぼ4分の1波長に設定されているので、回路理論に基づき、図3のように、線路の特性インピーダンスをK値とするKインバータK1〜K3、または線路の特性アドミタンスをJ値とするJインバータJ12、J23に、近似的に置換して考えることができる。
【0025】
また、図3内のインダクタL’〜L’は、図1内のボンディングワイヤ3a〜3cおよびメアンダーラインインダクタ4a〜4cに対応し、図3内のキャパシタC1’〜C3’は、図1内のバラクタ2a〜2cに対応している。
ここで図2と図3の間には、Kインバータの特性により、以下の式(4)〜(6)の関係が成立する。
【0026】
=K’ ・・・(4)
=L’/K ・・・(5)
ωo’C’=1 ・・・(6)
【0027】
よって、式(4)〜(6)と式(1)から、図3においては、以下の式(7)が成立する。
【0028】
i(i+1)=Δω(Li+1/gi+11/2/(Ki+1) ・・・(7)
【0029】
式(7)から、Ji(i+1)およびLが一定であれば、キャパシタC’〜C’を制御してωoを変化させたときにΔωを一定に維持できることが分かる。
したがって、図3を等価回路とするこの発明の実施の形態1による高周波可変フィルタ(図1)は、通過周波数を変化させたときに通過帯域幅を一定に維持することが可能になる。
【0030】
さらに、この発明の実施の形態1によれば、図1から明らかなように、バラクタ2a〜2cが直流的に結線された状態にあることから、キャパシタC’〜C’を、以下の式(8)のように同一値に設定し、図3内の残りの等価回路パラメータを、式(7)を満たすように定めることにより、すべてのバラクタ2a〜2cへのバイアス電圧を共通化することが可能となる。
【0031】
’=C’=C’ ・・・(8)
【0032】
図1内の薄膜抵抗線路7および入出力端子8は、共通バイアス電圧を印加するための回路を構成しており、薄膜抵抗線路7は、入出力端子8への高周波信号成分の漏洩を防ぐ役割を果たしている。
【0033】
なお、薄膜抵抗線路7は、高周波可変フィルタの周波数可変範囲の全域にわたって、チョークとして機能するようなインダクタに置換してもよい。
【0034】
図4は図3の等価回路の通過特性および反射特性の計算例を示す説明図であり、一例として、以下の式(9)〜(12)のように設定したときの等価回路特性を示している。
【0035】
12=J23=1/74[S] ・・・(9)
=K=19[Ω] ・・・(10)
=25[Ω] ・・・(11)
’=L’=L’=2.0[nH] ・・・(12)
【0036】
図4において、実線は通過量の特性曲線、破線は反射量の特性曲線であり、高周波可変フィルタの通過周波数を、3[GHz]→5[GHz]→7[GHz]と変化させた場合に、通過帯域幅がほぼ一定(反射量<−20[dB]を満たす帯域幅が、いずれも0.5[GHz])に維持されていることが分かる(破線の特性曲線参照)。
【0037】
以上のように、この発明の実施の形態1によれば、一定範囲内で通過周波数が可変制御される高周波可変フィルタであって、一端が接地されたバラクタ2a〜2cと、バラクタ2a〜2cに接続され固定値を有するメアンダーラインインダクタ4a〜4cと、メアンダーラインインダクタ4a〜4cに接続され固定長を有する伝送線路5a〜5c(第1の伝送線路)と、伝送線路5a〜5cに接続され伝送線路5a〜5cとほぼ同一の長さを有する伝送線路6a、6b(第2の伝送線路)と、伝送線路6a、6bの最外位置に接続された入出力端子8と、を備えている。
【0038】
伝送線路5a〜5cの固定長は、通過周波数の可変周波数範囲の中心周波数にて、ほぼ4分の1波長となるように設定されている。
また、バラクタ2a〜2c、メアンダーラインインダクタ4a〜4cおよび伝送線路5a〜5cは、直列接続されて1単位の可変共振回路を構成する。
伝送線路6a、6bは、複数単位の可変共振回路を互いに並列に結線して、入出力端子8から複数単位の可変共振回路に対して高周波信号を入出力するように構成されている。
【0039】
メアンダーラインインダクタ4a〜4cは、一定長を有する比較的高インピーダンスの伝送線路を蛇行させた構成からなる。
また、インダクタとして、メアンダーラインインダクタ4a〜4cに代えて、チップインダクタを用いてもよい。
【0040】
また、伝送線路6a、6bのほぼ中央位置の所定箇所には、高抵抗の抵抗素子として機能する薄膜抵抗線路7(抵抗素子)が接続されている。
入出力端子8は、薄膜抵抗線路7を介して伝送線路6a、6bに接続され、複数単位の可変共振回路のバラクタ2a〜2cのそれぞれに、同一のバイアス直流電圧を印加するように構成されている。
【0041】
なお、高抵抗の抵抗素子として、薄膜抵抗線路7に代えて、一定範囲内の通過周波数の全帯域でチョークとして機能するインダクタを用いてもよい。
すなわち、バラクタ2a〜2cを制御するためのバイアス電圧は、入出力端子8からの高周波信号に重畳させるか、または、伝送線路6a、6bの所定箇所に接続された薄膜抵抗線路7(または、インダクタ)を介して印加される。
【0042】
これにより、入出力信号の伝送経路5a〜5c、6a、6bに対してシャントに装荷されたバラクタ2a〜2cのみで構成し、かつ各バラクタ2a〜2cに共通のバイアス電圧を印加するのみで、周波数可変時に通過帯域幅をほぼ一定に維持することができ、通過周波数を変化させたときの通過帯域幅の変動を抑圧することが可能となる。
また、複数単位の可変共振回路に含まれる各バラクタ2a〜2cのバイアス電圧を共通化できるので、バイアス回路およびバイアス電圧の制御を極めて単純化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の実施の形態1に係る高周波可変フィルタを示す平面図である。
【図2】従来の高周波可変フィルタ(可変帯域通過フィルタ)の等価回路を示す回路図である。
【図3】この発明の実施の形態1による高周波可変フィルタの等価回路を示す回路図である。
【図4】図3の等価回路による周波数ごとの通過特性および反射特性の計算例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1 誘電体基板、2a、2b、2c バラクタ、4a、4b、4c メアンダーラインインダクタ(インダクタ)、5a、5b、5c マイクロストリップ線路(第1の伝送線路)、6a、6b マイクロストリップ線路(第2の伝送線路)、7 薄膜抵抗線路(抵抗素子)、8 バイアス端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定範囲内で通過周波数が可変制御される高周波可変フィルタであって、
一端が接地されたバラクタと、
前記バラクタに接続され固定値を有するインダクタと、
前記インダクタに接続され固定長を有する第1の伝送線路と、
前記第1の伝送線路に接続され前記第1の伝送線路とほぼ同一の長さを有する第2の伝送線路と、
前記第2の伝送線路に接続された入出力端子とを備え、
前記第1の伝送線路の固定長は、前記通過周波数の可変周波数範囲の中心周波数にて、ほぼ4分の1波長となるように設定され、
前記バラクタ、前記インダクタおよび前記第1の伝送線路は、直列接続されて1単位の可変共振回路を構成し、
前記第2の伝送線路は、複数単位の前記可変共振回路を並列に結線して、前記入出力端子から前記複数単位の可変共振回路に対して高周波信号を入出力することを特徴とする高周波可変フィルタ。
【請求項2】
前記インダクタは、一定長を有する比較的高インピーダンスの伝送線路を蛇行させて構成されたメアンダーラインインダクタからなることを特徴とする請求項1に記載の高周波可変フィルタ。
【請求項3】
前記インダクタは、チップインダクタにより構成されたことを特徴とする請求項1に記載の高周波可変フィルタ。
【請求項4】
前記第2の伝送線路のほぼ中央位置の所定箇所に接続された抵抗素子を備え、
前記入出力端子は、前記抵抗素子を介して前記第2の伝送線路に接続され、前記抵抗素子を介して、前記複数単位の可変共振回路のバラクタのそれぞれに同一のバイアス直流電圧を印加することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の高周波可変フィルタ。
【請求項5】
前記抵抗素子は、前記一定範囲内の通過周波数の全帯域でチョークとして機能するインダクタにより構成されたことを特徴とする請求項4に記載の高周波可変フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−45478(P2010−45478A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206654(P2008−206654)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】