説明

高周波増幅回路

【課題】増幅後の信号同士を合成して出力する際に、出力信号に発生する歪みを安定して低減することができる高周波増幅回路を提供する。
【解決手段】エラー信号抽出回路56は、カプラ52により取り出された出力高周波信号Sout(t)に、カプラ54により取り出された入力信号Sin(t)を結合することで、出力高周波信号Sout(t)中に残留しているエラー信号成分e(t)を抽出する。同期検波器58は、信号分離器12から取り出されたエラー信号e(t)を参照信号として用いて、エラー信号抽出回路56による結合後の出力高周波信号Sout(t)を同相及び直交位相で同期検波する。そして、同相及び直交位相で同期検波することで発生した検出電圧に基づき、振幅調整器40の利得及び位相調整器42の移相量がそれぞれ制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波増幅回路、特に高効率増幅を図った高周波増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
高効率な線形増幅器を実現する手段の1つとして、LINC(Linear Amplification with Nonlinear Components)による増幅回路が知られており、その関連技術が下記特許文献1に開示されている。特許文献1の増幅回路は、図7に示すように、信号波Xとこれに直交する補助波Yとをベクトル合成して2つの定振幅波A,Bを発生する定振幅波発生回路131と、2つの定振幅波A,Bをそれぞれ増幅する2つの増幅器132,133と、2つの増幅器132,133の出力信号kA,kBをベクトル合成することで信号波成分kX’と補助波成分kY’を分離する合成回路134と、を備えている。そして、合成回路134から出力される補助波成分kY’を増幅器の増幅率k分の1に減衰させる減衰器141と、減衰器141から出力される補助波成分Y’と定振幅波発生回路131で用いた補助波Yとの振幅差を検出する振幅差検出器140と、振幅差検出器140で検出された振幅差を無くすように定振幅波A,Bの一方の振幅を減衰させる可変減衰器136と、が設けられている。さらに、合成回路134から出力される補助波成分kY’と定振幅波発生回路131で用いた補助波Yとの位相差を検出する位相検出器139と、位相検出器139で検出された位相差に基づき2つの増幅器132,133で発生する位相偏差を無くすように定振幅波A,Bの一方の位相を変える可変移相器138と、が設けられている。これによって、合成回路134の出力側の信号波成分kX’中に漏れ込む補助波成分kY’の抑圧を図り、増幅信号波kX’に発生する歪みの低減を図っている。
【0003】
その他にも、下記特許文献2の高周波増幅回路が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−37263号公報
【特許文献2】特開2004−343665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、2つの増幅器132,133の出力信号kA,kBを合成回路134にてベクトル合成することで補助波成分kY’を信号波成分kX’から分離して出力する際に、補助波成分kY’の振幅が定振幅波発生回路131で用いた補助波Yの振幅のk倍に等しくなるように、定振幅波A,Bの一方の振幅を調整している。ただし、図8に示すように、2つの増幅器132,133の出力信号kA,kB中に含まれる補助波成分同士が異なる振幅で合成されても、合成回路134から出力される補助波成分kY’の振幅が補助波Yの振幅のk倍に等しくなる場合が発生する。その場合は、合成回路134から出力される信号波成分kX’中に補助波成分kY’が漏れ込むことになり、増幅信号波kX’に歪みが発生することになる。また、合成回路134等の回路部品の特性にばらつきが生じる場合も、合成回路134から出力される補助波成分kY’の振幅が定振幅波発生回路131で用いた補助波Yの振幅のk倍に等しくなるように定振幅波A,Bの一方の振幅を調整したときは、合成回路134から出力される信号波成分kX’中に補助波成分kY’が漏れ込むことになる。このように、特許文献1においては、合成回路134から出力される信号波成分kX’中に漏れ込む補助波成分kY’を安定して抑圧することが困難であり、増幅信号波kX’に発生する歪みを安定して低減することが困難である。
【0006】
本発明は、増幅後の信号同士を合成して出力する際に、出力信号に発生する歪みを安定して低減することができる高周波増幅回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る高周波増幅回路は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明に係る高周波増幅回路は、入力信号を基にエラー信号を生成し、入力信号とエラー信号の合成により位相差を有する高周波信号対を生成する高周波信号対生成器と、高周波信号対生成器により生成された高周波信号対の各々を増幅する増幅器対と、増幅器対により増幅された高周波信号対の各々を合成して出力する合成器と、合成器にて合成される高周波信号対の振幅及び/又は位相の相互関係を制御する制御回路と、を備え、入力信号を増幅し且つエラー信号を抑圧した出力信号を合成器から出力する高周波増幅回路であって、制御回路は、高周波信号対生成器にて生成されたエラー信号を参照信号として合成器からの出力信号を同期検波することで、該出力信号中に含まれるエラー信号成分を示す検出信号を発生させる同期検波器を有し、同期検波器により発生させた検出信号に基づいて、合成器にて合成される高周波信号対の振幅及び/又は位相の相互関係を制御することを要旨とする。
【0009】
本発明の一態様では、制御回路は、合成器からの出力信号の一部に高周波信号対生成器への入力信号の一部を結合することで、該出力信号中に含まれるエラー信号成分を抽出するエラー信号抽出回路を有し、同期検波器は、高周波信号対生成器にて生成されたエラー信号を参照信号としてエラー信号抽出回路による結合後の出力信号を同期検波することが好適である。
【0010】
また、本発明の一態様では、同期検波器は、高周波信号対生成器にて生成されたエラー信号を参照信号として合成器からの出力信号を同相で同期検波することで、該出力信号中に含まれるエラー信号の同相成分を示す信号を前記検出信号として発生させ、制御回路は、同期検波器により発生させた前記同相成分を示す信号に基づいて、合成器にて合成される高周波信号対の振幅の相互関係を制御することが好適である。この態様では、制御回路は、同期検波器により発生させた前記同相成分を示す信号に基づいて、増幅器対のいずれかの飽和レベルを制御することで、合成器にて合成される高周波信号対の振幅の相互関係を制御することが好適である。さらに、制御回路は、同期検波器により発生させた前記同相成分を示す信号に基づいて、増幅器対のいずれかへ供給する電源電圧を制御することで、増幅器対のいずれかの飽和レベルを制御することが好適である。
【0011】
また、本発明の一態様では、同期検波器は、高周波信号対生成器にて生成されたエラー信号を参照信号として合成器からの出力信号を直交位相で同期検波することで、該出力信号中に含まれるエラー信号の直交成分を示す信号を前記検出信号として発生させ、制御回路は、同期検波器により発生させた前記直交成分を示す信号に基づいて、合成器にて合成される高周波信号対の位相の相互関係を制御することが好適である。
【0012】
また、本発明の一態様では、高周波信号対生成器は、入力信号の振幅を所定値に調整した信号をエラー信号として生成するエラー信号生成器を有し、同期検波器は、エラー信号生成器により振幅が所定値に調整されたエラー信号を参照信号として合成器からの出力信号を同期検波することが好適である。この態様では、エラー信号生成器は、リミッタ増幅器であることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高周波信号対生成器にて生成されたエラー信号を参照信号として合成器からの出力信号を同期検波することで、この出力信号中に含まれるエラー信号成分を示す検出信号を発生させ、この同期検波による検出信号に基づいて合成器にて合成される高周波信号対の振幅及び/又は位相の相互関係を制御する。これによって、増幅器対により増幅された高周波信号対の各々を合成器により合成して出力する際に、合成器からの出力信号中に含まれるエラー信号成分を安定して抑圧することができる。その結果、合成器からの出力信号に発生する歪みを安定して低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る高周波増幅回路の概略構成を示す図である。本実施形態に係る高周波増幅回路は、以下に説明する信号分離器12、増幅器対14(増幅器14−1,14−2)、合成器16、振幅調整器40、位相調整器42、及び制御回路50を備えている。
【0016】
信号分離器12は、入力端子10からの高周波信号である入力信号Sin(t)をその振幅に応じた位相差を有する高周波信号対S1(t),S2(t)に分離して出力する。例えば、入力信号Sin(t)は包絡線変動を伴う変調信号であり、高周波信号対S1(t),S2(t)の各々は定包絡線となる位相変調信号である。
【0017】
より詳細には、信号分離器12は、まず入力信号Sin(t)を基にエラー信号(誤差信号)e(t)を生成する。ここでのエラー信号e(t)は、図2に示すように、入力信号Sin(t)と位相が直交する信号であり、以下の(1)式で表される。ただし、(1)式において、V(t)は入力信号Sin(t)の振幅であり、Vは高周波信号対S1(t),S2(t)の振幅(定数)である。
【0018】
e(t)=j×Sin(t)×(V2/V(t)2−1)0.5 (1)
【0019】
そして、信号分離器12は、図2に示すように、入力信号Sin(t)とエラー信号e(t)をそれらの位相を直交させた状態で合成して高周波信号対S1(t),S2(t)を生成する。ここでの高周波信号対S1(t),S2(t)は、以下の(2)、(3)式で表される。また、入力信号Sin(t)の振幅V(t)の減少に対してエラー信号e(t)の振幅が増大し、高周波信号対S1(t),S2(t)の位相差が増大する。
【0020】
S1(t)=Sin(t)+e(t) (2)
S2(t)=Sin(t)−e(t) (3)
【0021】
振幅調整器40及び位相調整器42は、信号分離器12と増幅器14−1との間に設けられている。位相調整器42は、信号分離器12からの高周波信号対の一方S1(t)の位相を調整して振幅調整器40へ出力する。振幅調整器40は、位相調整器42からの高周波信号対の一方S1(t)の振幅を調整して増幅器14−1へ出力する。
【0022】
増幅器対14は、互いに並列に設けられた増幅器14−1,14−2によって構成されており、増幅器14−1と増幅器14−2とで利得、位相特性が略同一となるように設定されている。増幅器14−1は振幅調整器40からの高周波信号対の一方S1(t)を増幅し、増幅器14−2は信号分離器12からの高周波信号対の他方S2(t)を増幅する。
【0023】
合成器16は、増幅器対14により増幅された高周波信号対G×S1(t),G×S2(t)(Gは増幅器14−1,14−2の利得)の各々を合成し、合成後の信号を出力高周波信号Sout(t)として出力端子11から出力する。合成器16からは、入力信号Sin(t)を増幅し且つエラー信号e(t)を抑圧した出力高周波信号Sout(t)が出力される。
【0024】
ここでの合成器16としては、例えば図3に示す特許文献2に開示されているものを用いることができる。図3に示す合成器16は、増幅器14−1の出力端子C及び増幅器14−2の出力端子Aにそれぞれ対応して設けられた伝送線路18−1,18−2を含み、増幅器14−1,14−2によりそれぞれ増幅された高周波信号対G×S1(t),G×S2(t)を伝送線路18−1,18−2をそれぞれ介して信号合成点Eにて合成することで出力高周波信号Sout(t)を出力する。
【0025】
伝送線路18−1,18−2は、例えばマイクロストリップ線路によって構成される。伝送線路18−1の一端は増幅器14−1の出力端子Cと一致し、伝送線路18−1の他端は合成器16の信号合成点Eと一致している。同様に、伝送線路18−2の一端は増幅器14−2の出力端子Aと一致し、伝送線路18−2の他端は合成器16の信号合成点Eと一致している。そして、伝送線路18−1の電気長(増幅器14−1の出力端子Cと合成器16の信号合成点Eとの間の電気長)及び伝送線路18−1の電気長(増幅器14−2の出力端子Aと合成器16の信号合成点Eとの間の電気長)Lは、ともに高周波信号対S1(t),S2(t)の波長の1/4の奇数倍に略等しくなるように調整されている。また、ここでの増幅器14−1の出力端子C及び増幅器14−2の出力端子Aについては、増幅器14−1,14−2内の増幅素子の出力端子となる。
【0026】
さらに、図3に示すように、増幅器14−1の出力端子Cは対応する伝送線路18−1のみと接続されており、増幅器14−2の出力端子Aは対応する伝送線路18−2のみと接続されている。このように、図3に示す合成器16は、増幅器14−1の出力端子Cと増幅器14−2の出力端子Aとが反射波吸収抵抗を介して接続されていない点で、ウィルキンソン合成器と異なる。ただし、ここで用いられる合成器16の種類は特に限定されるものではなく、合成器16として他の種類のものを用いることもできる。
【0027】
合成器16による高周波信号対G×S1(t),G×S2(t)同士の合成の際には、入力信号成分Sin(t)同士が同相合成されるとともに、エラー信号成分e(t)同士が同振幅且つ逆相合成されることで、出力高周波信号Sout(t)からエラー信号成分e(t)が除去される。ただし、例えば増幅器14−1,14−2間の特性差等により、信号分離器12から増幅器14−1を経て合成器16に至る回路と、信号分離器12から増幅器14−2を経て合成器16に至る回路の間で特性差が生じる場合は、合成器16にてエラー信号成分e(t)が完全には除去されずに、出力高周波信号Sout(t)中にエラー信号成分e(t)が残留することになる。この残留するエラー信号成分e(t)により、出力高周波信号Sout(t)に歪みが発生することになる。
【0028】
そこで、本実施形態では、高周波信号対の一方S1(t)の振幅及び位相を振幅調整器40及び位相調整器42によりそれぞれ調整することで、合成器16にて合成される高周波信号対G×S1(t),G×S2(t)の振幅及び位相の相互関係を、エラー信号成分e(t)同士を同振幅且つ逆相合成するように調整する。以下、振幅調整器40における振幅調整量(利得)及び位相調整器42における位相調整量(移相量)を制御するための制御回路50の構成について説明する。制御回路50は、以下に説明するエラー信号抽出回路56、同期検波器58、及び比較誤差増幅器60,62を備えている。
【0029】
出力端子11での出力高周波信号Sout(t)中に残留するエラー信号成分e(t)のレベルを検出するために、合成器16と出力端子11との間に設けられたカプラ52により出力高周波信号Sout(t)の一部が分岐されて取り出される。そして、入力端子10と信号分離器12との間に設けられたカプラ54により入力信号Sin(t)の一部が分岐されて取り出される。
【0030】
エラー信号抽出回路56は、カプラ52により取り出された出力高周波信号Sout(t)に、カプラ54により取り出された入力信号Sin(t)を結合することで、出力高周波信号Sout(t)中に残留しているエラー信号成分e(t)を抽出する。ここで、エラー信号抽出回路56にて結合の対象となる2種類の信号に含まれる入力信号成分Sin(t)同士を同振幅かつ逆位相の状態で結合することで、結合後の出力高周波信号Sout(t)から入力信号成分Sin(t)を除去することができ、出力高周波信号Sout(t)中に残留しているエラー信号成分e(t)を抽出することができる。そこで、このような関係が成立するように、エラー信号抽出回路56にて結合の対象となる2種類の信号における振幅及び位相の相互関係が調整される。エラー信号抽出回路56にてカプラ54からの入力信号Sin(t)と結合された後の出力高周波信号Sout(t)は、この結合後における出力高周波信号Sout(t)中のエラー信号成分e(t)のレベルを検出するための信号として、同期検波器58に入力される。また、信号分離器12にて生成されたエラー信号e(t)は、エラー信号抽出回路56による結合後における出力高周波信号Sout(t)中のエラー信号成分e(t)のレベルを検出するための参照信号として、同期検波器58に入力される。
【0031】
同期検波器58は、信号分離器12から取り出されたエラー信号e(t)を参照信号として用いて、エラー信号抽出回路56による結合後の出力高周波信号Sout(t)を同相及び直交位相で同期検波することで、この出力高周波信号Sout(t)中に含まれるエラー信号e(t)の同相及び直交成分を示す検出電圧を発生させる。同相で同期検波することで発生した出力高周波信号Sout(t)中のエラー信号e(t)の同相成分を示す検出電圧VIは、比較誤差増幅器60に入力される。一方、直交位相で同期検波することで発生した出力高周波信号Sout(t)中のエラー信号e(t)の直交成分を示す検出電圧VQは、比較誤差増幅器62に入力される。
【0032】
ここで、同期検波器58にて同相で同期検波することで発生した検出電圧VIは、合成器16にて合成の対象となる高周波信号対G×S1(t),G×S2(t)に含まれるエラー信号成分e(t)同士の振幅誤差(同振幅で誤差なし)とみなすことができる。そこで、比較誤差増幅器60は、この検出電圧VIを0または0の近傍値に一致させるための振幅調整用制御電圧V1Aを振幅調整器40へ出力する。
【0033】
そして、同期検波器58にて直交位相で同期検波することで発生した検出電圧VQは、合成器16にて合成の対象となる高周波信号対G×S1(t),G×S2(t)に含まれるエラー信号成分e(t)同士の位相誤差(逆位相で誤差なし)とみなすことができる。そこで、比較誤差増幅器62は、この検出電圧VQを0または0の近傍値に一致させるための位相調整用制御電圧V1Pを位相調整器42へ出力する。
【0034】
振幅調整用制御電圧V1Aにより振幅調整器40における利得が制御され、位相調整用制御電圧V1Pにより位相調整器42における移相量が制御される。これによって、合成器16にて合成の対象となる高周波信号対G×S1(t),G×S2(t)における振幅及び位相の相互関係(振幅差及び位相差)がそれぞれ制御される。
【0035】
なお、増幅器14−1の出力が飽和している場合は、振幅調整器40により高周波信号対の一方S1(t)の振幅を変化させても増幅器14−1の出力側における高周波信号対G×S1(t)の振幅は変化しない。そこで、振幅調整器40により増幅器14−1の出力側における高周波信号対G×S1(t)の振幅を変化させるためには、振幅調整器40により高周波信号対の一方S1(t)の振幅を変化させても増幅器14−1の出力が飽和しないように、増幅器14−1にバックオフを設定する必要がある。
【0036】
以上説明した本実施形態では、信号分離器12にて生成されたエラー信号e(t)を参照信号として合成器16からの出力高周波信号Sout(t)を同相及び直交位相で同期検波することで、この出力高周波信号Sout(t)中に含まれるエラー信号e(t)の同相及び直交成分を示す検出電圧VI,VQを発生させる。このように、同期検波を利用して合成器16からの出力高周波信号Sout(t)中に含まれるエラー信号成分e(t)を精度よく検出することができる。そして、合成器16からの出力高周波信号Sout(t)中に残留するエラー信号e(t)の同相及び直交成分が抑圧されるように、この同期検波による検出電圧VI,VQに基づいて合成器16にて合成される高周波信号対G×S1(t),G×S2(t)の振幅及び位相の相互関係(振幅差及び位相差)を制御する。これによって、回路部品のばらつきや温度変化、経時変化等がある場合でも、合成器16からの出力高周波信号Sout(t)中に残留するエラー信号成分e(t)を安定して抑圧することができる。その結果、合成器16からの出力高周波信号Sout(t)に発生する歪みを安定して低減することができる。
【0037】
そして、本実施形態では、合成器16からの出力高周波信号Sout(t)の一部に信号分離器12への入力信号Sin(t)の一部を結合し、この結合後の出力高周波信号Sout(t)を同相及び直交位相で同期検波する。これによって、合成器16からの出力高周波信号Sout(t)中に含まれるエラー信号成分e(t)を抽出してから同期検波を行うことができる。したがって、同期検波を利用して合成器16からの出力高周波信号Sout(t)中に含まれるエラー信号成分e(t)をより精度よく検出することができる。
【0038】
また、特許文献1では、合成回路134から出力される補助波成分kY’の振幅が補助波Yの振幅のk倍に等しくなるように定振幅波A,Bの一方の振幅を調整しているので、信号波成分kX’と補助波成分kY’を分離するために合成回路134としてポート間のアイソレーションが高い4端子の回路が必要となる。そのため、定振幅波A,Bの位相差が増大するほど、合成回路134における合成損失も増大することになる。これに対して本実施形態の合成器16では、エラー信号e(t)を出力高周波信号Sout(t)から分離して出力する必要がないため、合成器16としてポート間のアイソレーションが高い4端子の回路を用いる必要がなく、例えば図3に示すポート間にアイソレーションが無い回路を用いることができる。
【0039】
なお、図1に示す構成例では、振幅調整器40及び位相調整器42を信号分離器12と増幅器14−1との間以外の位置に設けることもできる。例えば振幅調整器40及び位相調整器42を増幅器14−1と合成器16との間に設けることもできる。あるいは、振幅調整器40及び位相調整器42を、信号分離器12と増幅器14−2との間や、増幅器14−2と合成器16との間に設けることもできる。
【0040】
次に、本実施形態の他の構成例について説明する。
【0041】
図4に示す構成例では、図1に示す構成例と比較して、振幅調整器40が省略されているとともに電源制御回路44が設けられている。電源制御回路44は、比較誤差増幅器60からの振幅調整用制御電圧V1Aに基づいて、増幅器14−1へ供給する電源電圧を制御することで、増幅器14−1の飽和出力レベルを制御する。また、ここでの増幅器14−1,14−2は飽和増幅器として用いられる。
【0042】
図4に示す構成例では、増幅器14−1の出力が飽和している状態で、電源制御回路44により増幅器14−1の飽和出力レベルを制御することで、増幅器14−1の出力側における高周波信号対G×S1(t)の振幅を変化させることができる。これによって、合成器16にて合成の対象となる高周波信号対G×S1(t),G×S2(t)における振幅の相互関係(振幅差)を制御することができる。このように、増幅器14−1,14−2を飽和増幅器として用いても、増幅器14−1の出力側における高周波信号対G×S1(t)の振幅を変化させることができるので、増幅器14−1,14−2の効率をさらに向上させることができる。
【0043】
なお、図4に示す構成例では、電源制御回路44は、増幅器14−2へ供給する電源電圧を制御することで、増幅器14−2の飽和出力レベルを制御してもよい。
【0044】
また、特許文献2に開示されている信号分離器の構成を本実施形態の信号分離器12に適用することもできる。その場合の構成例を図5に示す。図5に示す構成例においては、信号分離器12は、以下に説明する分配器20、逆相信号対生成器22、同相信号対生成器30、及び合成器26,28を備えている。そして、逆相信号対生成器22は、以下に説明するリミッタ増幅器32及び分配器34を備えており、同相信号対生成器30は、以下に説明する移相器36及び分配器38を備えている。
【0045】
分配器20は、入力信号Sin(t)を略同位相の信号対に略等分配する。分配器20により分配された入力信号対Sin(t)/20.5の一方は逆相信号対生成器22内のリミッタ増幅器32に入力され、他方は同相信号対生成器30内の移相器36に入力される。
【0046】
リミッタ増幅器32は、分配器20により分配された入力信号Sin(t)/20.5の振幅を一定値alimに調整した信号を出力することでエラー信号e(t)を生成する。ここでの一定値alimについては、増幅器14−1,14−2の飽和出力レベルに基づいて設定される。分配器34は、リミッタ増幅器32からのエラー信号e(t)を互いに略逆位相の逆相信号対Sl1(t),Sl2(t)に略等分配して出力する。ここで、分配器34から出力される逆相信号対Sl1(t),Sl2(t)は、各々が入力信号Sin(t)の振幅を一定値alim/20.5に調整した信号であり、互いに略同振幅かつ略逆位相である。
【0047】
移相器36は、分配器20により分配された入力信号Sin(t)/20.5の位相を略π/2だけ移相した信号Sp(t)を出力する。分配器38は、移相器36からの信号Sp(t)を略同位相の同相信号対Sp(t)/20.5に略等分配して出力する。ここで、分配器38から出力される同相信号対Sp(t)/20.5は、各々が入力信号Sin(t)を分配した信号であり、各々が逆相信号対Sl1(t),Sl2(t)の各々と略直交し、互いに略同位相である。
【0048】
振幅調整器40及び位相調整器42は、信号分離器12内における分配器34と合成器26との間に設けられている。位相調整器42は、分配器34からの逆相信号対の一方Sl1(t)の位相を調整して振幅調整器40へ出力する。振幅調整器40は、位相調整器42からの逆相信号対の一方Sl1(t)の振幅を調整して合成器26へ出力する。
【0049】
振幅調整器40から出力される逆相信号対の一方Sl1(t)及び分配器38から出力される同相信号対の一方Sp(t)/20.5が合成器26にて合成されることで、高周波信号対の一方S1(t)が得られる。そして、分配器34から出力される逆相信号対の他方Sl2(t)及び分配器38から出力される同相信号対の他方Sp(t)/20.5が合成器28にて合成されることで、高周波信号対の他方S2(t)が得られる。以上の構成の信号分離器12により、増幅器対14への入力信号である高周波信号対S1(t),S2(t)を得ることができる。
【0050】
ここで、信号Sin(t)の位相が静止して見える直交座標系上のベクトルによって信号S1(t),S2(t),Sout(t)を図示すると図6のようになる。ただし、分配器20,34,38、合成器16,26,28の入出力インピーダンスを同一としており、分配器20,34,38により信号の電圧が1/20.5倍になり、合成器16,26,28により同相信号の電圧が20.5倍になるものとしている。そして、図6では各ベクトルを信号S1(t),S2(t)における電圧に換算して図示している。
【0051】
図6において、逆相信号対成分Sl1(t)/20.5,Sl2(t)/20.5(エラー信号成分e(t))については、合成器16にて略同振幅かつ略逆位相で合成されるため、互いに打ち消し合いほとんど出力されない。一方、同相信号対成分Sp(t)/2同士については、合成器16にて略同振幅かつ略同位相で合成されて出力高周波信号Sout(t)として出力される。
【0052】
図5に示す構成例では、リミッタ増幅器32と分配器34との間に設けられたカプラ53によりエラー信号e(t)の一部が分岐されて取り出される。カプラ53により取り出されたエラー信号e(t)は、エラー信号抽出回路56による結合後における出力高周波信号Sout(t)中のエラー信号成分e(t)のレベルを検出するための参照信号として、同期検波器58に入力される。
【0053】
比較誤差増幅器60からの振幅調整用制御電圧V1Aにより振幅調整器40における利得が制御されることで、逆相信号対の一方Sl1(t)の振幅が制御される。そして、比較誤差増幅器62からの位相調整用制御電圧V1Pにより位相調整器42における移相量が制御されることで、逆相信号対の一方Sl1(t)の位相が制御される。これによって、合成器16にて合成の対象となる高周波信号対G×S1(t),G×S2(t)における振幅及び位相の相互関係(振幅差及び位相差)が制御される。なお、他の構成については図1に示す構成例と同様であるため説明を省略する。
【0054】
以上説明した図5に示す構成例においても、同期検波を利用して合成器16からの出力高周波信号Sout(t)中に含まれるエラー信号成分e(t)を精度よく検出することができる。そして、回路部品のばらつきや温度変化、経時変化等がある場合でも、合成器16からの出力高周波信号Sout(t)中に残留するエラー信号成分e(t)を安定して抑圧することができる。
【0055】
なお、図5に示す構成例では、カプラ53をリミッタ増幅器32と分配器34との間以外の位置に設けることもできる。例えばカプラ53を、分配器34と合成器28との間や、分配器34と位相調整器42との間に設けることもできる。また、図5に示す構成例では、振幅調整器40及び位相調整器42を分配器34と合成器26との間以外の位置に設けることもできる。例えば振幅調整器40及び位相調整器42を、合成器26と増幅器14−1との間や、増幅器14−1と合成器16との間に設けることもできる。あるいは、振幅調整器40及び位相調整器42を、分配器34と合成器28との間や、合成器28と増幅器14−2との間や、増幅器14−2と合成器16との間に設けることもできる。
【0056】
以上の本実施形態の説明では、制御回路50が、同期検波器58により発生させた検出電圧に基づき、合成器16にて合成される高周波信号対G×S1(t),G×S2(t)における振幅及び位相の両方の相互関係(振幅差及び位相差の両方)を制御するものとした。ただし、本実施形態では、制御回路50は、同期検波器58により発生させた検出電圧に基づき、合成器16にて合成される高周波信号対G×S1(t),G×S2(t)における振幅又は位相の相互関係を制御してもよい。本実施形態では、制御回路50は、同期検波器58により発生させた検出電圧に基づき、合成器16にて合成される高周波信号対G×S1(t),G×S2(t)における振幅及び位相の少なくとも一方の相互関係(振幅差及び位相差の少なくとも一方)を制御することで、合成器16からの出力高周波信号Sout(t)に発生する歪みを安定して低減することができる。
【0057】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施形態に係る高周波増幅回路の概略構成を示す図である。
【図2】信号分離器の動作を説明する図である。
【図3】合成器の一例の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る高周波増幅回路の他の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る高周波増幅回路の他の概略構成を示す図である。
【図6】信号分離器の他の構成例の動作を説明する図である。
【図7】関連技術の高周波増幅回路の概略構成を示す図である。
【図8】関連技術の高周波増幅回路の動作を説明する図である。
【符号の説明】
【0059】
10 入力端子、11 出力端子、12 信号分離器、14 増幅器対、14−1,14−2 増幅器、16,26,28 合成器、20,34,38 分配器、22 逆相信号対生成器、30 同相信号対生成器、32 リミッタ増幅器、40 振幅調整器、42 位相調整器、44 電源制御回路、50 制御回路、52,53,54 カプラ、56 エラー信号抽出回路、58 同期検波器、60,62 比較誤差増幅器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を基にエラー信号を生成し、入力信号とエラー信号の合成により位相差を有する高周波信号対を生成する高周波信号対生成器と、
高周波信号対生成器により生成された高周波信号対の各々を増幅する増幅器対と、
増幅器対により増幅された高周波信号対の各々を合成して出力する合成器と、
合成器にて合成される高周波信号対の振幅及び/又は位相の相互関係を制御する制御回路と、
を備え、入力信号を増幅し且つエラー信号を抑圧した出力信号を合成器から出力する高周波増幅回路であって、
制御回路は、
高周波信号対生成器にて生成されたエラー信号を参照信号として合成器からの出力信号を同期検波することで、該出力信号中に含まれるエラー信号成分を示す検出信号を発生させる同期検波器を有し、
同期検波器により発生させた検出信号に基づいて、合成器にて合成される高周波信号対の振幅及び/又は位相の相互関係を制御することを特徴とする高周波増幅回路。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波増幅回路であって、
制御回路は、合成器からの出力信号の一部に高周波信号対生成器への入力信号の一部を結合することで、該出力信号中に含まれるエラー信号成分を抽出するエラー信号抽出回路を有し、
同期検波器は、高周波信号対生成器にて生成されたエラー信号を参照信号としてエラー信号抽出回路による結合後の出力信号を同期検波することを特徴とする高周波増幅回路。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高周波増幅回路であって、
同期検波器は、高周波信号対生成器にて生成されたエラー信号を参照信号として合成器からの出力信号を同相で同期検波することで、該出力信号中に含まれるエラー信号の同相成分を示す信号を前記検出信号として発生させ、
制御回路は、同期検波器により発生させた前記同相成分を示す信号に基づいて、合成器にて合成される高周波信号対の振幅の相互関係を制御することを特徴とする高周波増幅回路。
【請求項4】
請求項3に記載の高周波増幅回路であって、
制御回路は、同期検波器により発生させた前記同相成分を示す信号に基づいて、増幅器対のいずれかの飽和レベルを制御することで、合成器にて合成される高周波信号対の振幅の相互関係を制御することを特徴とする高周波増幅回路。
【請求項5】
請求項4に記載の高周波増幅回路であって、
制御回路は、同期検波器により発生させた前記同相成分を示す信号に基づいて、増幅器対のいずれかへ供給する電源電圧を制御することで、増幅器対のいずれかの飽和レベルを制御することを特徴とする高周波増幅回路。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1に記載の高周波増幅回路であって、
同期検波器は、高周波信号対生成器にて生成されたエラー信号を参照信号として合成器からの出力信号を直交位相で同期検波することで、該出力信号中に含まれるエラー信号の直交成分を示す信号を前記検出信号として発生させ、
制御回路は、同期検波器により発生させた前記直交成分を示す信号に基づいて、合成器にて合成される高周波信号対の位相の相互関係を制御することを特徴とする高周波増幅回路。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1に記載の高周波増幅回路であって、
高周波信号対生成器は、入力信号の振幅を所定値に調整した信号をエラー信号として生成するエラー信号生成器を有し、
同期検波器は、エラー信号生成器により振幅が所定値に調整されたエラー信号を参照信号として合成器からの出力信号を同期検波することを特徴とする高周波増幅回路。
【請求項8】
請求項7に記載の高周波増幅回路であって、
エラー信号生成器は、リミッタ増幅器であることを特徴とする高周波増幅回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−339888(P2006−339888A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−160479(P2005−160479)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】