説明

高周波発熱体およびこれを用いた高周波加熱機器用調理器具

【課題】従来の高周波発熱体は、磁性材料とゴムで構成されており、高周波発熱体がキュリー温度に昇温すると磁気損失が小さくなることによる昇温速度が低下し、被加熱物の焦げ目が付き難くなる。
【解決手段】高周波発熱体3を低温領域と高温領域で高周波吸収による発熱機構が異なる少なくとも2種の高周波吸収材料とエラストマー7とで構成することにより、低温領域から高温領域の広範囲の温度で優れた発熱性能を得ることができ、被加熱物載置皿の使用温度に短時間で昇温させることができるとともに、2種の高周波吸収材料のどちらか一方が高周波の吸収特性が劣化しても、極端な発熱性能の低下を抑制することができ、長期に渡り高周波加熱器用調理器具として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジなどに用いられる高周波により発熱する高周波発熱体、および高周波加熱により被加熱物の表面に焦げ目を付けることのできる高周波加熱機器用調理器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種の高周波発熱体および高周波加熱機器用調理器具としては、被加熱物を載置する被加熱物載置皿の底面部に、磁性材料を主成分とする高周波発熱体を設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図4は、特許文献1に記載された従来の高周波発熱体が設けられた、被加熱物載置皿31の斜視図である。高周波発熱体は、被加熱物載置皿31の底面(図示せず)に設けられている。
【0004】
図5は、高周波発熱体32が設けられた、被加熱物載置皿31の一部断面図である。図5に示すように、高周波発熱体32は、被加熱物置皿31を構成する塗装された金属基材33に、設けられている。また、高周波発熱体32は、粒子が球状のキュリー温度が200〜300℃の磁性材料を主成分とする高周波吸収材料の粒子とゴム材料とからなり、高周波吸収材料の粒子がゴム材料の中に均一に分散した状態にある。
【0005】
調理物が載せられた被加熱物載置皿31を、高周波を発生させるマグネトロンを搭載した高周波調理機器の所定の位置に配置し、グリル調理を開始すると、マグネトロンから発振された高周波を被加熱物載置皿31に設けられた高周波発熱体32が吸収することによって熱に変換され、被加熱物載置皿31が加熱される。そして、加熱された被加熱物載置皿31に接触している被加熱物が加熱され、被加熱物は調理の進行に伴い焦げ目が付く。
【0006】
一般的に、グリル調理を行う場合、被加熱物である調理物のおいしさと適した焦げ目を両立させようとすると、被加熱物の種類、量によって異なるが被加熱物載置皿31を150〜300℃の温度に短時間で昇温させる必要がある。
【0007】
また、適用可能な他の高周波発熱体32の材料としては、マグネタイトとエラストマーの組成物がある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2007−225186号公報
【特許文献2】特開2007−45975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の高周波発熱体32は、キュリー温度が200〜300℃の磁性材料を主成分とする高周波吸収材料を用いている。この磁性材料からなる高周波吸収材料は、低温での磁気損失が大きいため、高周波の吸収効率が高く速やかに発熱して昇温するが、キュリー温度近くの温度になると、磁性材料の磁気相転移によって磁気特性の一つである磁気損失が小さくなり、高周波の吸収特性が低下し、キュリー温度近傍の昇温速度が遅くなるという課題を有していた。
【0009】
また、キュリー温度が200〜300℃の磁性材料を主成分とする、高周波吸収材料からなる高周波発熱体を高周波加熱機器用器具として用いた場合、被加熱物に適した焦げ目を付けるためには短時間で被加熱物載置皿を昇温させる必要があるが、高周波吸収材料の
高周波の吸収特性がキュリー温度近傍で低下することにより、被加熱物載置皿の昇温速度が遅くなるため、被加熱物に適度な焦げ目を付けるのに時間を要し、調理時間が長くなるとともに、調理時間が長くなることによる被加熱物の過加熱状態が起こり、被加熱物の内部の水分量が減少し、おいしさが失われるという課題を有していた。
【0010】
一方、キュリー温度の高い磁性材料としてマグネタイト(Fe)がある。マグネタイトのキュリー温度は580℃と高く、300℃では磁気相転移は起こらないが、200℃以上の温度で酸化が急激に進行し、高周波の吸収特性が低いヘマタイト(Fe)に結晶構造が変化する。したがって、マグネタイトは初期の高周波の吸収特性は高いが、酸化により、徐々に高周波の吸収特性が低下するため、長期的に安定した昇温性能が得られないという課題を有していた。
【0011】
また、マグネタイトを主成分とする、高周波吸収材料からなる高周波発熱体を高周波加熱機器用器具として用いた場合、高周波発熱体の昇温性能が低下する方向に経時変化するため、被加熱物の初期の適した焦げ目が長期の使用において再現できなくなり、ユーザーの不満につながる。
【0012】
さらに、適した焦げ目を得ようとすると、オート調理からマニュアル調理する必要があり、調理機器の操作が煩雑になるとともに、焦げ目を優先すると被加熱物の内部が過加熱になり、被加熱物のおいしさが失われるという課題を有していた。
【0013】
また、マグネタイトとシリコンゴムの組み合わせにおいて、高温環境下でマグネタイトによってシリコンゴムの架橋反応が起こり、シリコンゴムの収縮、硬化する現象が起きる。これによって、高周波発熱体が収縮による被加熱物載置皿からの剥離と、硬化によるクラックが発生し、高周波発熱体としての機能が失われ、高周波加熱機器用調理器具としての耐久性、信頼性が劣るという課題を有していた。
【0014】
なお、マグネタイトの酸化は、空気中の酸素、調理中に発生する水蒸気の拡散、被加熱物載置皿の温度が高い状態で洗浄、冷却される際に用いられる水との接触、ゴム中の酸素原子との反応によって起こるものである。
【0015】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、高周波発熱体の昇温性能の向上を図り、被加熱物のおいしさと適度な焦げ目を両立させた調理状態を実現することができるとともに、高周波発熱体の剥離、クラックを防止し、優れた耐久性、信頼性を向上させることのできる高周波発熱体およびそれを用いた高周波加熱機器用調理器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記従来の課題を解決するために、本発明の高周波発熱体は、低温領域と高温領域で高周波吸収による発熱機構が異なる少なくとも2種の高周波吸収材料で構成したものである。
【0017】
これによって、高周波発熱体は低温領域と高温領域で発熱機構が異なるので広範囲の温度で高周波の吸収による優れた発熱性能を得ることができ、被加熱物載置皿の使用温度に短時間で昇温させることができるとともに、少なくとも2種の高周波吸収材料で構成されているので、どちらか一方が何らかの作用により高周波の吸収特性が劣化しても他方が劣化しなければ極端な発熱性能の低下を抑制することができ、長期に渡り高周波加熱器用調理器具として使用することができる。
【0018】
また、本発明の高周波加熱器用調理器具は、被加熱物を載置する有機気高分子を含む被
覆層が形成された金属製の被加熱物載置皿に、本発明の高周波発熱体を設けた構成としたものである。
【0019】
これによって、高周波発熱体は常に安定した高い昇温性能を有し、かつ、この高周波発熱体を設けた金属製の被加熱物載置皿が優れた熱伝導性を有するため、高周波発熱体で発熱した熱を効率よく被加熱物載置皿に熱伝達することができるので、短時間で被加熱物に適度な焦げ目を付けることできるとともに、被加熱物内部の水分の減少につながる被加熱物の過加熱が防止され、被加熱物のおいしさを実現することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の高周波発熱体およびこれを用いた高周波加熱機器用調理器具は、低温領域と高温領域で発熱機構が異なる高周波吸収材料を用いることにより、使用温度に短時間で昇温させることができる。
【0021】
また、高周波発熱体を複数の高周波吸収材料で構成することにより、どちらか一方の高周波吸収特性が劣化しても高周波発熱体の発熱性能の極端な低下を防止することができ、長期に渡り長期に渡り高周波加熱器用調理器具として使用することができる。
【0022】
さらに、被加熱物の過加熱を防止することができるので、おいしさと適度な焦げ目を両立させる新しい調理方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
第1の発明は、高周波発熱体を低温領域と高温領域で高周波吸収による発熱機構が異なる、少なくとも2種の高周波吸収材料とエラストマーで構成することにより、広範囲の温度で優れた発熱性能を得ることができ、被加熱物載置皿の使用温度に短時間で昇温させることができるとともに、少なくとも2種の高周波吸収材料で構成されているので、どちらか一方が何らかの作用により、高周波の吸収特性が劣化しても極端な発熱性能の低下を抑制することができ、長期に渡り高周波加熱器用調理器具として、使用することができる。
【0024】
第2の発明は、特に、第1の発明の発熱機構が異なる高周波吸収材料を磁性材料と半導体材料で構成することにより、低温領域では高周波の吸収特性が高い磁性材料の磁気損失による発熱作用で、高周波発熱体の温度の立ち上がりを速くすることができる。一方、高温領域では高周波発熱体が温度上昇し、キュリー温度近傍になると磁性材料の磁気損失が小さくなり発熱性能が低下するが、高温領域では高周波発熱体に含有している半導体材料の誘電損失、抵抗損失によって高周波を効率的に吸収して発熱するため、低温領域での速い昇温性能を高温領域においても維持することができ、高周波発熱体を設けた被加熱物載置皿からなる高周波加熱機器用調理器具を使用温度に短時間で昇温させることができる。
【0025】
第3の発明は、特に、第2の発明の半導体材料として粒子形状が針状のものを用いることにより、針状の粒子同士が接触した構造となるため、温度が上昇すると半導体としての特性により、針状の粒子を通じて渦電流が流れ、ジュール熱が発生する。このジュール熱が誘電損失による高周波の吸収・発熱に付加され、より高い昇温性能を得ることができる。
【0026】
第4の発明は、特に、第2の発明の半導体材料としてセラミックのウィスカーまたは繊維を用いることにより、第3の発明の効果に加え、半導体材料の粒子のアスペクト比を大きくすることができるので、高周波吸収材料の粒子同士の接触点が多くなり、その結果、高周波吸収材料の使用量を削減することができ、低コスト化が図れる。また、半導体材料がセラミックであるため、水や水蒸気、調理時に発生する油脂に含まれる酸やアルカリ成分に対する化学的安定性が高く、高周波発熱体の耐久性、信頼性を向上させることができ
る。
【0027】
第5の発明は、特に、第4の発明のセラミックのウィスカーまたは繊維として主成分が酸化亜鉛、炭化珪素、金属の薄膜層を形成したセラミック材料、シリコンとチタンまたはジルコニウムと炭素と酸素を含むセラミック材料の少なくとも1種を用いることにより、特にこれら材料の持つ誘電損失、半導体としての特性によって発現する適度な導電性が高周波の吸収に好適であり、高い高周波の昇温性能を得ることができる。
【0028】
第6の発明は、特に、第2の発明の磁性材料としてマグネタイトを用いることにより、キュリー温度が高いことと、高周波の吸収がより高いことに起因して、低温領域で優れた昇温性能を得ることができる。一方、200℃以上の高温雰囲気に長時間暴露されると、マグネタイトは酸化により構造変化を起こし、高周波の吸収特性が低下するため、昇温特性も低下するが、本発明の高周波発熱体に高温に安定な半導体材料を含有させることにより、低温領域での高周波の吸収を補うことができるので、高周波発熱体としての昇温性能の低下を抑制することができ、長期に渡り優れた昇温特性を実現することができる。
【0029】
第7の発明は、特に、第2〜第6のいずれか1つの発明のエラストマーとして、シリコンゴムまたはフッ素ゴムを用いることにより、それらが優れた耐熱性と耐化学薬品性を有するため、耐久性、信頼性の高い高周波発熱体を実現することができる。また、高周波吸収材料の粒子がエラストマーの中に分散した構造とすることができるので、外力や落下による機械的衝撃や冷熱の繰り返しによる熱衝撃を受けても、高周波発熱体の脱落や破壊を防止することができる。
【0030】
第8の発明は、高周波加熱機器用調理器具として、被加熱物を載置する有機気高分子を含む被覆層が形成された金属製の被加熱物載置皿に、被加熱物載置皿の被加熱物が載置されない面の一部に、特に第1〜第7のいずれか1つの発明の高周波発熱体を設けることにより、常に安定した高い昇温性能を実現することができる。また、高周波発熱体を設けた金属製の被加熱物載置皿が優れた熱伝導性を有するため、高周波発熱体で発熱した熱を効率よく被加熱物載置皿に伝達することができるので、短時間で被加熱物に適度な焦げ目を付けることできるとともに、被加熱物の過加熱が防止され、おいしさに必要な被加熱物内部の水分を保持でき、おいしさと適度な焦げ目を両立させた新しい調理方法を実現することができる。
【0031】
第9の発明は、特に、第8の発明の高周波発熱体において、金属製の被加熱物載置皿に設けられる高周波発熱体の面積を0.1m以下とすることにより、所定の消費電力の高周波で、被加熱物載置皿およびそれに載置した被加熱物を所定の温度に、短時間で昇温させることができ、調理時間の短縮化と省エネを図ることができる。
【0032】
第10の発明は、特に、第8または第9の発明の高周波発熱体の膜厚を0.5〜2mmとすることにより、膜厚が厚くなることによる被加熱物載置皿への熱伝達の低下と、高周波発熱体自身の熱容量の増加による昇温速度の低下を抑制することができるとともに、膜厚が薄いことによる高周波発熱体の高周波吸収特性の低下を抑制することができるので、高周波発熱体が高周波を吸収して発熱する熱を被加熱物載置皿や被加熱物に効率よく伝達させることができ、調理時間の短縮化と省エネを図ることができる。
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また各実施の形態特有の構成を適宜組み合わせることができる。
【0034】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における高周波発熱体を設けた高周波加熱機器用調理器具の断面図を示すものである。
【0035】
なお、本発明高周波加熱機器用調理器具として用いられる被加熱物載置皿は、従来例で述べた図4の形態が適用される。
【0036】
図1において、高周波加熱機器用調理器具1は、有機気高分子を含む被覆層が形成された金属製の被加熱物載置皿2と、被加熱物載置皿2の下面の一部に高周波発熱体3を設けた構成としている。また、被加熱物載置皿2の両端には、電子レンジなどの高周波加熱機器の庫内の所定の位置に配置するための固定部材4が取り付けられている。この固定部材4は、被加熱物載置皿2の位置決めの機能だけでなく、持ち運びや取り出しなどを行う際の取手の機能、また金属製の被加熱物載置皿2を高周波過熱機器内に配置し、高周波を給電した際のスパーク防止の機能を有するものである。
【0037】
図2は、高周波発熱体3の構造を示す模式図である。
【0038】
図2において、高周波発熱体3は、磁性材料の粒子5と半導体材料の粒子6とエラストマー7とからなり、磁性材料の粒子5と半導体材料の粒子6がエラストマー7の中に分散した構造となっている。
【0039】
高周波発熱体3として適用される磁性材料としては、Mn−Zn系、Mg−Zn系、Ni−Zn系、マグネタイト(Fe)の少なくとも1種を主成分とするものが挙げられ、特にその中でも、磁性損失による高周波の吸収に優れているマグネタイトが有用である。
【0040】
半導体材料の粒子6は、粒子の形状が針状であり、粒子の一部が他の粒子の一部と接触した状態で、エラストマー7の中に分散している。この粒子の形状が針状である半導体材料は、高周波の吸収に有利な誘電損失や抵抗損失の高いセラミック材料からなるウィスカー、繊維が適用される。特に、主成分が酸化亜鉛、炭化珪素、金属の薄膜層を形成した酸化チタンなどのセラミック材料、シリコン、チタンまたはジルコニウム、炭素、酸素を含むセラミック材料が有用である。
【0041】
エラストマー7の材料としては、250〜300℃の温度環境下での耐熱性、調味料や水蒸気などの耐化学薬品性に優れていることや機械的衝撃、熱衝撃に強いシリコンゴムやフッ素ゴムを主成分とするものが適用される。
【0042】
次に、本発明の高周波発熱体3の製造方法の一実施例について述べる。
【0043】
高周波吸収材料である磁性材料の粒子5と半導体材料の粒子6とエラストマー7をオープンロールやニーダーなどの混練加工装置を用い、磁性材料の粒子5と半導体材料の粒子6が、エラストマー7の中に均一に分散するまで混練し、その後、必要に応じて架橋剤を添加し、再度混練する。次に、これらの混練物の固まり、もしくはオープンロールでシート状に分出ししたものを必要量採取し、被加熱物載置皿2の被加熱物を載置しない面に配置してホットプレスで加圧接着、および一次加硫を行う。その後、必要に応じて二次加硫等の熱処理を行うことによって、高周波発熱体3を被加熱物載置皿2に形成した状態の本発明の高周波加熱機器用調理器具1が得られる。
【0044】
なお、混練の際に、高周波発熱体3のさらなる耐熱性を付与するための耐熱性剤、老化防止剤、柔軟性を付与するための油脂剤など必要に応じて添加してもよい。
【0045】
また、高周波発熱体3と被加熱物載置皿2との接着性を向上させるために、高周波発熱体3の接着面、あるいは被加熱物載置皿2の高周波発熱体3が設けられる面に、接着機能を有するプライマーを塗布し、そのプライマーを介して被加熱物載置皿2と高周波発熱体3を接着してもよいし、また、予め、磁性材料の粒子5と半導体材料の粒子6とエラストマー7の混練時に接着剤を添加しておいてもよい。
【0046】
図3は、本発明の高周波加熱機器用調理器具1が搭載される、高周波加熱調理器の断面図である。
【0047】
図3において、加熱室9は金属材料から構成された金属境界部である右側壁面10、左側壁面11、奥壁面12、上壁面13、底壁面14及び被加熱物を加熱室9内に出し入れする開閉壁面である開閉扉(図示せず)により略直方体形状に構成され、給電された高周波をその内部に実質的に閉じ込めるように形成している。底壁面14には断面が略四角形の絞り部15を設け、絞り部15の略中央部には、加熱室9内に給電する高周波の励振部16を設けている。
【0048】
高周波発生手段であるマグネトロン17は、加熱室9に給電する高周波を発生するものであり、マグネトロン17から発生した高周波を励振部16に導くために、マグネトロン17と励振部16間に導波管18を設けている。励振部16には導波管18内に延在し、導波管18を伝送してきた高周波と結合するアンテナ19を設け、このアンテナ19の一端は導波管タイプの指向性を有する放射アンテナとして、電波放射手段20と接続している。
【0049】
また、アンテナ19の他端は、電波放射手段20を回転駆動させる駆動手段であるモータ21の出力軸を挿入組立てしている。この電波放射手段20は、モータ21を駆動することで扇型の上面が絞り部15の底面と略平行面において回転駆動する。
【0050】
また、絞り部15の開口部には電波透過材料、たとえばガラス系やセラミックス系の材料からなる封口手段22を設けている。
【0051】
また、加熱室9の上部には、加熱ヒータ23が備えられ、奥壁面12の奥にはコンベクションヒータユニット(図示せず)が設けられ、被加熱物の高周波調理、グリル調理、オーブン調理の機能を有した構成となっている。
【0052】
高周波加熱機器用調理器具1は、加熱室9の右側壁面10、左側壁面11に設けられた係止手段であるレール部24に沿って加熱室9内に挿入され、取り付けられる。
【0053】
また、加熱室9には加熱室9内の温度を検出するサーミスタ25、被加熱物や高周波加熱機器用調理器具1などの温度を検出する赤外線センサ26が設けられている。
【0054】
次に、以上の構成からなる高周波加熱調理器を用い、本発明の高周波加熱機器用調理器具1の動作と作用について説明する。
【0055】
加熱室9内に、被加熱物を載置した高周波加熱機器用調理器具1をレール部24に係止し、開閉扉を閉めた状態で所定の指示操作を行うと、制御手段27によりマグネトロン17が動作して高周波が発生する。発生した高周波は、導波管18、励振部16を経て、電波放出手段20からセラミックなどで形成された封口手段22を通過して加熱室9内に給電される。
【0056】
加熱室9内に給電された高周波は、高周波加熱機器用調理器具1を構成する高周波発熱
体3に吸収され、熱に変換される。その熱が高周波加熱機器用調理器具1を構成する被加熱物載置皿2に伝達され、被加熱物載置皿2と接触している被加熱物が加熱される。
【0057】
一般的に、グリル調理を行う場合、被加熱物である調理物のおいしさと適した焦げ目を両立させようとすると、被加熱物の種類、量によって異なるが被加熱物載置皿を150〜300℃の温度に極めて短時間で昇温させる必要がある。
【0058】
従来、高周波発熱体の高周波吸収材料としてMn−Zn系の磁性材料が用いられるが、この磁性材料のキュリー温度は組成によって異なるが200〜300℃である。磁性材料の発熱機構は、主として材料の磁気損失によるものであり、低温領域での高周波の吸収特性が高く、半導体材料よりも昇温速度が優れている。しかし、キュリー温度(近傍)に到達すると、磁気相転移により磁気損失が小さくなり、高周波の吸収特性が低下することによって、キュリー温度以上の高温領域では昇温速度が著しく低下する。
【0059】
その結果、被加熱物に適度な焦げ目を付けるのに時間を要し、調理時間が長くなるとともに、被加熱物の過加熱状態が起こり、被加熱物の内部の水分量が減少し、おいしさが失われてしまう。
【0060】
一方、炭化珪素や酸化亜鉛などの半導体材料は、発熱機構が主として材料の誘電損失や抵抗損失であり、低温領域では昇温速度が磁性材料に比べて遅い。しかし、高温領域では誘電損失や抵抗損失による高周波の吸収特性が磁気損失による高周波の吸収特性より高く、高周波発熱体として高い温度に昇温させることができるとともに速い昇温速度を得ることができる。
【0061】
本発明の高周波発熱体3は、磁性材料と半導体材料の低温領域と高温領域で高周波吸収による発熱機構が異なることに着目し、それぞれの優れた高周波吸収特性を引き出し、低温領域、高温領域ともに優れた昇温性能を実現したものである。
【0062】
すなわち、本発明の高周波発熱体3は、発熱機構が異なる高周波吸収材料を磁性材料と半導体材料で構成することにより、低温領域では高周波の吸収特性が高い磁性材料の磁気損失による発熱作用で高周波発熱体の温度の立ち上がりを速くすることができる。一方、高温領域では高周波発熱体3が温度上昇し、キュリー温度近傍になると磁性材料の磁気損失が小さくなり発熱性能が低下するが、高温領域では高周波発熱体3含有している半導体材料が誘電損失、抵抗損失によって高周波を吸収して発熱するため、低温領域での速い昇温性能を高温領域においても維持することができ、広範囲の温度で優れた昇温性能を実現することができる。
【0063】
したがって、本発明の高周波発熱体3を被加熱物載置皿に設けることにより、使用温度に短時間で昇温させることができ、被加熱物のおいしさを保持し、適度な焦げ目を付けることができる。また、磁性材料、半導体材料のどちらか一方の高周波の吸収特性が何らかの作用により劣化しても極端な発熱性能の低下を抑制することができ、長期に渡り高周波加熱器用調理器具として使用することができる。
【0064】
また、本発明の高周波発熱体3は高周波吸収材料とエラストマー7で構成している。この構成によって、エラストマー7が、高周波吸収材料である磁性材料の粒子5と半導体の粒子6を保護し、かつ、被加熱物載置皿2との強固な接着を実現することができるので、外力や落下による機械的衝撃や冷熱の繰り返しによる熱衝撃に対して強くすることができ、高周波発熱体3の脱落や破壊を防止することができる。
【0065】
また、本発明の高周波発熱体3に用いられる半導体材料の粒子6の粒子の形状が針状で
あることも昇温速度を向上させる要因となっている。図2に示すように、針状の半導体材料の粒子6は、互いに他の粒子と接触し、それが連なった状態でエラストマー7の中に分散している。この構造が高周波の吸収特性を高くし、高周波発熱体3の昇温速度を速くしていると考えられる。
【0066】
上記理由は明確でないが、針状の半導体材料の粒子6は高周波の吸収による発熱が誘電損失だけでなく、粒子同士が接触した構造とすることにより温度の上昇によって半導体としての特性が発現し、針状の粒子を通じて渦電流が流れ、抵抗損失によるジュール熱が発生する。誘電損失による高周波の吸収・発熱にこのジュール熱が付加され、より高い昇温性能を得ることができると考えられる。
【0067】
本発明の高周波発熱体3に用いられる半導体材料としては、セラミックのウィスカーまたは繊維が有用である。半導体材料の粒子6のアスペクト比を大きくすることができるので高周波吸収材料の粒子同士の接触点が多くなり、その結果、高周波吸収材料の使用量を削減することができ、低コスト化が図れる。また、半導体材料がセラミックであるため、水や水蒸気、調理時に発生する油脂に含まれる酸やアルカリ成分に対する化学的安定性が高く、高周波発熱体の耐久性、信頼性を向上させることができる。
【0068】
また、半導体材料であるセラミックのウィスカーまたは繊維は、主成分が酸化亜鉛、炭化珪素、金属の薄膜層を形成したセラミック材料、シリコンとチタンまたはジルコニウムと炭素と酸素とを含むセラミック材料の少なくとも1種を用いることができる。これら材料は大きい誘電損失を有し、半導体としての特性によって発現する適度な導電性による抵抗損失が高周波の吸収に好適であり、高周波発熱体3の昇温性能を向上させることができる。
【0069】
磁性材料として、キュリー温度が500℃以上のマグネタイトがある。このマグネタイトは、300℃では磁気相転移が起こらないため、低温から高温領域まで速い昇温速度を有する。しかし、200℃以上の温度で酸化が急激に進行し、マグネタイトから高周波の吸収特性が低いヘマタイトに、結晶構造が変化する。したがって、高周波発熱体に用いられる高周波吸収材料をマグネタイト単独とした場合は、初期の高周波の吸収特性は高いが、酸化によって徐々に高周波の吸収特性が低下する方向に経時変化するため、高周波発熱体の昇温性能が徐々に低下し、使用時間が長くなるにつれ、被加熱物に適した焦げ目が得られなくなってしまう。
【0070】
また、エラストマーの種類、化学組成によるが、マグネタイトは、シリコンゴムなどのエラストマーの架橋反応を促進し、エラストマーの硬化による高周波発熱体の剥離、クラックが発生する。
【0071】
本発明では、高周波吸収材料として、磁性材料であるマグネタイトと半導体材料の少なくとも2種類を用いる。これにより、マグネタイトの量を少なくすることができるので、酸化による結晶構造が変化してもマグネタイトを単独で用いた場合よりも高周波の吸収特性の低下を抑制することができ、低温領域の昇温性能を僅かな低下に止めることができること、また、高温環境下で結晶構造が安定している半導体材料を共存させることにより、高周波の吸収を補うことができるので初期の優れた昇温性能を長期に渡り維持することができる。
【0072】
また、高周波発熱体3のマグネタイ粒子の量を少なくすることにより、シリコンゴムなどのエラストマー7との架橋反応の進行を緩慢にすることができるので、エラストマー7の硬化による高周波発熱体3の剥離、クラックの発生を防止することができ、高い耐久性を実現することができる。
【0073】
本発明の高周波発熱体3に用いるエラストマー7としては、シリコンゴムまたはフッ素ゴムがよい。これらのゴムは、高周波加熱機器用調理器具1として300℃の温度環境下での耐熱性、調味料や水蒸気などの耐化学薬品性、耐機械的衝撃性、耐熱衝撃性に優れているため、耐久性、信頼性の高い高周波発熱体3を実現することができる。
【0074】
また、本発明の高周波加熱機器用調理器具1は、被加熱物載置皿2が金属製の被加熱物載置皿2が優れた熱伝導性を有するため、高周波発熱体3で発熱した熱を効率よく被加熱物載置皿2に熱を伝達することができる。したがって、被加熱物載置皿2を150〜300℃の調理温度に短時間で昇温させることができ、被加熱物に適度な焦げ目を短時間で付けることができる。
【0075】
また、高周波加熱機器用調理器具1は、被加熱物の過加熱を防止することができるので、おいしさに必要な被加熱物内部の水分を保持でき、おいしさと適度な焦げ目を両立させた新しい調理方法を実現することができる。
【0076】
700〜1000Wの消費電力でマグネトロン17を動作させた場合、金属製の被加熱物載置皿2に設けられる高周波発熱体3の面積を0.1m以上とすると、被加熱物載置皿2の面積が大きくなるため、高周波加熱機器用調理器具1自体の熱容量が大きくなることや、表面積の増加による放熱面積の拡大によって放熱ロスが大きくなることにより、被加熱物載置皿2の昇温速度が遅くなり、被加熱物の最適な焦げ目、おいしさが得られなくなる。
【0077】
したがって、最適な焦げ目、おいしさを得るためには、高周波発熱体3の面積を0.1m以下とすることが望ましい。また、これによって、被加熱物載置皿2およびそれに載置した被加熱物を所定の温度に短時間で昇温させることができるので、調理時間の短縮化と省エネを図ることができる。
【0078】
また、高周波発熱体3の膜厚を2mm以上とすると、高周波発熱体3の熱容量が大きくなり、高周波発熱体3の昇温速度が遅くなること、また、高周波発熱体3の熱抵抗が大きくなり、高周波発熱体3の表面からの放熱ロスが大きくなることによって、被加熱物載置皿2へ熱伝導による熱伝達が低下し、被加熱物載置皿2の速い昇温速度が得られなくなる。また、膜厚が厚いことにより、コストが高くなる。一方、高周波熱発熱体3の膜厚を0.5mm以下にすると、高周波吸収材料の含有量が少なくなり、高周波の吸収効率が低下し、速い昇温速度が得られなくなる。
【0079】
したがって、高周波発熱体3が高周波を吸収して発熱する熱を被加熱物載置皿2や被加熱物に効率よく伝達させるには、高周波発熱体3の膜厚を0.5〜2mmの範囲とすることが望ましい。これによって、被加熱物載置皿2およびそれに載置した被加熱物を所定の温度に短時間で昇温させることができ、調理時間の短縮化と省エネを図ることができる。
【0080】
本発明の高周波発熱体3に用いられる高周波吸収材料の含有量は、20体積%以下にすると高周波の吸収特性が低下し、高周波発熱体として満足する昇温性能が得られない。また、また60体積%以上にするとエラストマー7との複合物が固くなり、ホットプレス時に複合物の流れが悪く、均一な膜厚の高周波発熱体3が得られないことや、高周波発熱体3の膜が固くなることから耐熱衝撃や耐機械的衝撃が低下し、落下や冷熱の繰り返しが起こると高周波発熱体3が破損する可能性がある。
【0081】
したがって、優れた昇温性能、耐久性、信頼性を確保するためには、被覆層が形成されたマグネタイトの粒子5の含有量を20〜60%の範囲とすることが望ましい。
【0082】
また、高周波吸収材料である磁性材料の粒子5と半導体材料の粒子6の比率は、特に限定されるものではなく、磁性材料の粒子5と半導体材料の粒子6の高周波の吸収特性や高周波加熱機器用調理器具1の寸法、重量による放熱量、熱容量に応じて最適な昇温性能を実現できるように設定されるものであり、特に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上のように本発明の高周波発熱体は、昇温性能に優れているので、調理機器の発熱体のみでなく、産業用乾燥機や加熱機の用途としても適用可能であり、また、高周波の吸収特性に優れていることから、冷却装置を付加し、電波シールデバイスとしても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施の形態1における高周波発熱体が設けられた高周波加熱機器用調理器具の断面図
【図2】本発明の実施の形態1における高周波発熱体の構造を示す模式図
【図3】本発明の高周波加熱機器用調理器具が搭載される高周波加熱調理器の断面図
【図4】従来の高周波発熱体が設けられた被加熱物載置皿の斜視図
【図5】従来の被加熱物載置皿の一部断面図
【符号の説明】
【0085】
1 高周波加熱機器用調理器具
2 被加熱物載置皿
3 高周波発熱体
5 磁性材料の粒子
6 半導体材料の粒子
7 エラストマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波を吸収して発熱する高周波発熱体において、低温領域と高温領域で高周波吸収による発熱機構が異なる少なくとも2種の高周波吸収材料とエラストマーで構成される高周波発熱体。
【請求項2】
発熱機構が異なる高周波吸収材料は、磁性材料と半導体材料で構成される請求項1に記載の高周波発熱体。
【請求項3】
半導体材料は、粒子形状が針状である請求項2に記載の高周波発熱体。
【請求項4】
半導体材料は、セラミックのウィスカーまたは繊維である請求項2に記載の高周波発熱体。
【請求項5】
セラミックのウィスカーまたは繊維は、主成分が酸化亜鉛、炭化珪素、金属の薄膜層を形成したセラミック材料、シリコンとチタンまたはジルコニウムと炭素と酸素を含むセラミック材料の少なくとも1種である請求項4に記載の高周波発熱体。
【請求項6】
磁性材料は、マグネタイトで構成される請求項2に記載の高周波発熱体。
【請求項7】
エラストマーは、シリコンゴムまたはフッ素ゴムを含む請求項2〜6のいずれか1項に記載の高周波発熱体。
【請求項8】
被加熱物を載置する有機気高分子を含む被覆層が形成された金属製の被加熱物載置皿と、前記被加熱物載置皿の被加熱物が載置されない面の一部に設けられた請求項1〜7のいずれか1項に記載の高周波発熱体とからなる高周波過熱機器用調理器具。
【請求項9】
金属製の被加熱物載置皿に設けられる高周波発熱体の面積は、0.1m以下とした請求項8に記載の高周波加熱機器用調理器具。
【請求項10】
金属製の被加熱物載置皿に設けられる高周波発熱体の膜厚は、0.5〜2mmとした請求項8または9に記載の高周波加熱機器用調理器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−78207(P2010−78207A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245841(P2008−245841)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】