説明

高強度極細鋼線の耐撚線断線性回復方法

【課題】パテンティング後の伸線加工真歪みで3.0以上または3000MPa以上の引張強さを有し、長手方向に連続的に進行する高強度極細鋼線に対し、一方向に捻回後、元の形状に復帰または反対方向に同様に捻回する動作を、繰り返すことを特徴とする高強度極細鋼線の耐撚線断線性回復方法。
【解決手段】処理対象となる極細鋼線を繰り出すための元線ボビン1、鋼線が脱線しないよう案内するガイドローラー2を内蔵しつつ回転し、鋼線に所定の捻回を加えるツイスター3、中間リール4を基本構成とし、中間リールに適当な回数巻き付け後、次の逆回転するツイスターを通過することで、鋼線には、初めとは逆の方向の捻回が加えられる。この構成の基本単位を所定の数、および互いの位置と時間あたりの回転数および巻き取り装置の速度を調整して通過することにより、鋼線に所定の捻回が付与されるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤ、ベルトコード、高圧ホース等、ゴムおよび有機材料の補強用に使用されているスチールコードなどの高強度極細鋼線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、極細鋼線は熱間圧延後、調整冷却された直径4.0〜5.5mm程度の高炭素線材を、鋼線の延性劣化に応じて中間パテンティングと乾式による一次伸線加工後を繰り返し、目標とする引張強さに応じた線径で最終パテンティング後、ブラスめっき処理を施し、湿式伸線を行って得られる。
【0003】
この様にして製造された極細鋼線をタイヤ、ベルトコード、高圧ホース等の補強材として使用するために、通常撚り線加工が行われる。撚り線加工時には、極細鋼線を複数本高速で寄り合わせるため、個々の極細鋼線には断線に耐える高い靱延性が求められる。
【0004】
この様な要望に対し、従来より極細鋼線の開発がなされている。例えば特許文献1には、2450MPa以上の引張強さの直径0.5mm以下の鋼線について、Mn含有量を規定してパテンティング時の過冷組織の発生を抑制し、C、Si、Mnの含有量を規定することで線材の強度および靱延性を向上させて、撚り線断線の減少を図る技術が開示されている。
【0005】
しかし近年、タイヤの軽量化・高性能化に伴い、スチールコードのハイテンション化が急速に進展し、引張強さで3000MPa以上のものが主流になってきている。鋼線の引張強さが高くなると、一般に延性が低下し、デラミネーションと呼ばれる縦割れが発生し、撚り線加工中に断線し易くなる傾向がある。
【0006】
そこで、近年では引張強さで3000MPaを越えるような高強度でも延性を確保し、断線しにくい極細鋼線を得るために、種々の開発がなされている。
【0007】
例えば、特許文献2では、パテンティングの際の加熱温度上限を規定し、冷却段階開始以降パーライト変態前に線材の表層部温度がその内部温度よりも低くなる時期を設け、表層部の平均パーライトノジュールサイズが内部よりも0.3μm以上小さい組織とすることで鋼線の捻回特性を向上させる技術を提案している。
【0008】
また、特許文献3では、パテンティング時のオーステナイト化温度からの強制冷却段階において、一度500〜560℃まで冷却した後、復熱させてからパーライト変態を行わせることで、伸線材の横断面におけるフェライト粒の長軸長さ(Da)、短軸長さ(Db)の積(Da×Db)を一定値以下に制御し、高強度材での縦割れを抑制する技術を提案している。
【0009】
特許文献4では、鋼線に含まれるボイドの最大径を鋼線のせん断降伏応力との関係で上限を規定し、かつ表層の引張残留応力値とその周方向のバラツキの上限値をそれぞれ規定することで耐デラミネーション特性に優れた鋼線を製造する技術を提案している。
【0010】
特許文献5には、最終パテンティング材の強度と初析フェライト/セメンタイトの面積率、およびパテンティング後の伸線加工方法を規定することで、鋼線表面の引張残留応力を線径に応じた値以下に抑え、デラミネーションを抑制する技術を提案している。
【0011】
しかし、本発明者らの検討によれば、3000MPa超の高強度材の場合、上述の従来技術をもってしても、捻回特性の向上、縦割れおよびデラミネーションの抑制などの効果は十分ではなかった。また、従来技術はいずれも鋼材の成分設計からパテンティングおよび伸線方法を含めた技術であり、伸線後の歪時効等により耐撚線断線性が劣化した極細鋼線の延性回復を意図したものではない。
【0012】
【特許文献1】特開昭60−204865号公報
【特許文献2】特開平11−241280号公報
【特許文献3】特開平11−199978号公報
【特許文献4】特開2001−279380号公報
【特許文献5】特開2001−279381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記の様な事情に鑑みてなされたものであり、パテンティング後の伸線加工歪みで3.0以上および3000MPa以上の引張強さを有し、伸線後に歪み時効等により延性が劣化した極細鋼線に対し、その耐撚線断線性を回復させる方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、パテンティング後の伸線加工歪みで3.0以上および3000MPa以上の引張強さを有し、伸線後に歪み時効等により延性が劣化した高強度極細鋼線について、その耐撚線断線性を回復させる方法について鋭意研究し、その結果、高強度極細鋼線の線径の1000倍の長さにつき2〜20回の正方向への捻回を施した後、線径の1000倍の長さにつき2〜20回の逆方向への捻回を行い、前記正方向への捻回および前記逆方向への捻回を繰り返し行うことによって、高強度極細鋼線の耐撚線断線性を回復させることができることを見出して、本発明を完成した。
【0015】
本発明の要旨は以下のとおりである。
【0016】
(1) 質量%で、C:0.75〜1.1%、Si:0.5〜2.0%、Mn:0.2〜2.0%Al:0.005%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼線材を、750℃〜1100℃でのオーステナイト化後、パテンティング処理し、ダイスのアプローチ角度:6〜20°ダイスのベアリング長さ:0.1〜0.7D(D:ダイス径)の条件を満たすダイスを用いて伸線加工歪みが3.0以上の冷間伸線加工を行って得られる、引張強さが3000MPa以上である高強度極細鋼線に、線径の1000倍の長さにつき2〜20回の正方向への捻回を施した後、線径の1000倍の長さにつき2〜20回の逆方向への捻回を行い、前記正方向への捻回および前記逆方向への捻回を繰り返し行って、前記正方向への捻回および前記逆方向への捻回の累積捻回量をそれぞれ2回以上200回未満とし、前記正方向への捻回の累積捻回量と前記逆方向への捻回の累積捻回量との差を50回未満とすることを特徴とする高強度極細鋼線の耐撚線断線性回復方法。
【0017】
(2)正方向への捻回の回数と、それに続く逆方向への捻回の回数を同じにすることを特徴とする上記(1)に記載の高強度極細鋼線の耐撚線断線性回復方法。
【0018】
(3)先の正方向への捻回に続く逆方向への捻回の回数が、前記先の正方向への捻回の回数を超え、更に、前記逆方向に続く後の正方向への捻回の回数が、前記逆方向への捻回の回数と前記先の正方向への捻回の回数との差を超えることを特徴とする上記(1)に記載の高強度極細鋼線の耐撚線断線性回復方法。
【0019】
(4)先の正方向への捻回に続く逆方向への捻回の回数が、前記先の正方向への捻回の回数の2倍であり、更に、前記逆方向に続く後の正方向への捻回の回数が、前記逆方向への捻回の回数と前記先の正方向への捻回の回数との差の2倍であることを特徴とする上記(3)に記載の高強度極細鋼線の耐撚線断線性回復方法。
【0020】
(5)正方向への捻回および逆方向への捻回を、それぞれ、1〜10回施すことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の高強度極細鋼線の耐撚線断線性回復方法。
【0021】
(6)正方向への捻回および逆方向への捻回を、捻り降伏点歪みの50〜95%として行うことを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の高強度極細鋼線の耐撚線断線性回復方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、パテンティング後の伸線加工歪みで3.0以上および3000MPa以上の引張強さを有し、伸線後の歪み時効等により耐撚線断線性が劣化し、撚り線加工が不能になった極細鋼線の延性を回復させることができ、これにより、特に、引張強さで3000MPa以上の極細鋼線の撚り線加工が可能となるため、産業上の貢献が極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図を参酌して本発明を行う方法について説明する。
【0024】
図1は、本発明に係る繰り返し捻回装置の基本動作説明図である。図1に示したように、本発明は処理対象となる極細鋼線を繰り出すための元線ボビン1、鋼線が脱線しないよう案内するガイドローラー2を内蔵しつつ回転し、鋼線に所定の捻回を加えるツイスター(撚り機)3a、中間リール4を基本構成とする装置内を通材することによって実現される。図1は、正方向と逆方向への捻回を、中間リールを介して設置された2台のツイスター3a、3bによってそれぞれ与えるものである。ツイスターを1台とする場合には、元線ボビン及び中間リールを、繰り出しと巻き取りが可能な構造とし、正方向への捻回と逆方向への捻回を1台のツイスターで交互に行うことも可能である。
【0025】
正回転するツイスターを通過して正方向への捻回が与えられた後、中間リール4に適当な回数巻き付けられる。中間リールに巻き付いている極細鋼線はその摩擦力によって極細線周方向の動きが固定されるため、極細鋼線に捻回が付与される。中間リール4の後、次の逆回転するツイスター3bを通過することで、鋼線には、初めとは逆の方向の捻回が加えられる。この構成の基本単位を所定の数通過することにより、鋼線に所定の捻回を与えることが出来る。所定の捻回が与えられた極細鋼線は最終的に巻取機5に巻き取られる。
【0026】
図1に示した構成の装置を線の進行方向に所定の捻回が与えられるように互いの位置と時間あたりの回転数および巻き取り装置の速度を調整して本発明の方法が実現される。
【0027】
つぎに、本発明に係わる処理対象材である極細鋼線の成分、引張強さおよび伸線加工歪みを限定した理由について説明する。
【0028】
本発明の対象とする鋼の成分の限定理由について述べる。以下%は全て質量%である。
【0029】
C:0.75〜1.1%、
Cはパテンティング処理後の引張強さの増加および伸線加工硬化率を高める効果があり、より少ない伸線加工歪で鋼線の引張強さを高めることができる。0.75%未満では合金元素を添加してもパテンティング処理後の引張強さが低く、また、伸線加工硬化率も小さいため高強度鋼線が得られない。一方、1.1%を越えるとパテンティング処理時に初析セメンタイトがオーステナイト粒界に析出して伸線加工性が劣化し伸線加工工程で断線が発生し易くなるため0.75〜1.1%の範囲に限定した。
【0030】
Si:0.5〜2.0%、
Siはパーライト中のフェライトを強化させるためと鋼の脱酸のために必要であり、更に熱による強度低下の抑制に極めて有効な元素である。0.5%未満では上記の効果が期待できない。一方2.0%を越えると熱間圧延工程で表面脱炭が発生し易くなるため、0.5〜2.0%の範囲に制限した。
【0031】
Mn:0.2〜2.0%、
Mnは脱酸、脱硫のために必要であるばかりでなく、鋼の焼入性を向上させパテンティング処理後の引張強さを高めるために有効な元素であるが、0.2%未満では上記の効果が得られない。一方、2.0%を越えると上記の効果が飽和し、さらにパテンティング処理時のパーライト変態を完了させるための処理時間が長くなりすぎて生産性が低下するため、0.2〜2.0%の範囲に限定した。
【0032】
Al:0.005%以下、
Alは0.005%を越えると鋼中の介在物の中で最も硬質なAl2 O3 系介在物が生成しやすくなり、それが起点となって伸線加工あるいは撚り線加工の際の断線原因となるため、0.005%以下に制限した。
【0033】
極細鋼線の引張強度が3000MPa未満、かつ伸線加工歪みが3.0未満の場合、鋼線の耐撚線断線性は劣化しないため、本発明を適用する必要がない。したがって、引張強度が3000MPa以上または伸線加工歪みを3.0以上とした。なお、伸線加工歪みは、伸線後の鋼線の断面積をS、伸線前の鋼線の断面積をS0とすると、ln(S0/S)で定義される値である。
【0034】
つぎに、パテンティング条件、および鋼線材の伸線に用いるダイス形状を限定した理由を説明する。
【0035】
パテンティング時の加熱温度を750℃未満とした場合、オーステナイト化する為に要する時間が長くなり、生産性が低下するため、加熱温度を750℃以上に限定した。また、加熱温度を1100℃を越えて設定した場合、オーステナイト結晶粒が極端に粗大化し、鋼線の延性を著しく低下させるため、加熱温度を1100℃以下に限定した。
【0036】
伸線に用いるダイスのアプローチ角度を6°未満、または20°が越える場合、およびダイスのベアリング長さが0.1D未満、または0.7Dを越える場合、伸線後の横断面内での特性のバラツキが大きく、線材の延性を著しく低下させるため、上記の限定を付けた。
【0037】
つぎに、本発明装置の動作の限定理由について説明する。線径の1000倍の長さあたりの捻回量が2回未満の場合、鋼線の耐撚線断線性を改善する効果がなく、断線回数の低減効果が発現しないため、有効な捻回量を線径の1000倍の長さあたり2回以上と規定した。
また、線径の1000倍の長さあたりの1回の捻回量が20回を越える場合、または、最終的な一方向への累積捻回量が200回を越える場合、また、正逆方向への捻回量の差異が50回を越える場合、鋼線の耐撚線断線性は改善されるものの、引張強度が低下するため、発明の範囲から除外した。
【0038】
次に、正方向への捻回の回数と、それに続く逆方向への捻回の回数を同じにした理由について述べる。自然形状からの回転が正方向と逆方向で同じ場合、どちらかの方向に回転を加えた後、拘束を開放するだけで自然形状に復帰させることが出来るため、必要なツイスターの数が少なく、装置構成を簡便にすることが出来る。このため、自然形状からの正逆方向の回転を同じに規定した。
【0039】
次に、先の正方向への捻回に続く逆方向への捻回の回数が、前記先の正方向への捻回の回数を超え、更に、前記逆方向に続く後の正方向への捻回の回数が、前記逆方向への捻回の回数と前記先の正方向への捻回の回数との差を超える回転とした理由について述べる。
自然形状からの両方向へ変形を与えることができ、自然形状からの捻回が1方向だけの時と比較して、線癖が改善されやすくなるため、このように規定した。
【0040】
次に、先の正方向への捻回に続く逆方向への捻回の回数が、前記先の正方向への捻回の回数の2倍であり、更に、前記逆方向に続く後の正方向への捻回の回数が、前記逆方向への捻回の回数と前記先の正方向への捻回の回数との差の2倍とした理由について述べる。
自然形状からの両方向へ均等に変形を与えることができ、前項の場合よりも更に線癖が改善されやすくなるため、このように規定した。
【0041】
次に、正方向への捻回および逆方向への捻回を、それぞれ、1〜10回に規定した理由について述べる。正逆の繰り返しを11回以上行った場合、鋼線の耐撚線断線性は改善されるものの、引張強度が低下するため、発明の範囲から除外した。
【0042】
次に、正方向への捻回および逆方向への捻回を、捻り降伏点歪みの50〜95%に限定した理由について説明する。捻り降伏点歪みの50%未満の捻回を行っても、耐撚り線断線性改善の効果が発現しないため、範囲から除外した。また、捻り降伏点歪みの95%を越える捻回を行うと、鋼線の耐撚線断線性は改善されるものの、引張強度が低下するため、発明の範囲から除外した。
【0043】
なお、ここでの捻り降伏点は、捻回後、チャックを開放したときに残存する自然形状からの塑性変形分の捻回角をθ、線径をDとしたとき、θ/1000D=0.002となる捻回量で定義する。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明の実施の態様の一例を示す。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
極細鋼線は5.5φの熱間圧延材を用い、3.5〜1.6mmまで乾式伸線加工した鉄線を750℃〜1100℃、望ましくは850℃〜1000℃でのオーステナイト化後、パテンティング処理し、ダイスのアプローチ角度:6〜20°ダイスのベアリング長さ:0.1〜0.7D(D:ダイス径)の条件を満たすダイスを用いて0.35mmまで湿式伸線、または乾式伸線を2.0〜0.9mmまで乾式伸線加工した鉄線に対して同様のパテンティング処理を行い0.2mmまで湿式伸線使用して製造した。成分組成を表1に示す。
【0046】
表1において、鋼種A、B、CはC、Si、Mn、Alの各成分が適切であるため、製鋼のプロセスを阻害せず、伸線時の断線トラブルが少なく、かつ熱処理時の生産性を妨げることなく極細線まで製造することが出来る例である。
【0047】
鋼種DはC含有量が不足しているため、本発明に規定する強度に到達することが出来ない例である。鋼種Eは逆にC含有量が過剰なため、パテンティング処理時に初析セメンタイトが、オーステナイト粒界に析出して伸線加工性が劣化し伸線加工工程で断線が発生し易くなる例である。
【0048】
鋼種FはSi含有量が過剰なため、熱間圧延工程で表面脱炭が発生し易く、スチールコードの疲労寿命特性を著しく低下させるため不適となる例である。
【0049】
鋼種GはMn含有量が過剰なため、パテンティング処理時のパーライト変態を完了させるための処理時間が長くなりすぎ、生産性が低下するため不適となる例である。
【0050】
鋼種HはAl含有量が過剰なため、鋼中の介在物の中で最も硬質なAl系介在物が生成しやすくなり、それが起点となって伸線加工あるいは撚り線加工の際の断線原因となるため不適となる例である。
【0051】
種々の引張り度(TS)、伸線加工歪の極細線に対し、本発明装置で、1000dあたりの捻回数、捻回の繰り返し数、を種々の水準でそれぞれ重量が100kgのリールを2リール分、計200kg採取し、耐撚線断線性を評価した。なお、1000dとは、線径の1000倍の長さを意味する。
【0052】
耐撚線断線性の定義および評価装置について説明する。
【0053】
図2は耐撚線断線性評価装置、評価方法に関する説明図である。鋼線撚り線断線性評価装置は、図2に示すように、2本の極細鋼線をある一定の張力を保ちながら一定の角度で連続的に撚り合わせることで、実際の撚り線加工工程を模擬している。
【0054】
高強度極細鋼線は速度計6a、6bとテンションメーター7a、7bを有する2台のペイオフリール8a、8bより一定速度の100m/minで繰り出される。また、テンションメーター7a、7bにより線張力を高強度極細鋼線単線の9.5〜10.5%の範囲で制御している。
【0055】
2本の鋼線は1000回転/分の一定速度で回転するツイスター(撚り機)9により寄り合わされる。ツイスター内のボビンによる撚り線の巻取速度は、側方より撚り線の結び目を制御カメラ11で高速度撮影し、その位置がある範囲内で一定になるように制御されている、2本の元線と撚り線は互いに120°をなすように装置が設置されている。
【0056】
1リール当たりの重量が100kgの極細鋼線を2リール用いて、上記の装置で撚り線を実施し、200kgあたりの耐撚線断線回数を計数する。これを、正方向への捻回および逆方向への捻回を施す本発明の方法を適用した場合と、適用しない場合とで行い、両者を比較して、本発明の方法を適用した場合の耐撚り線断線回数が、本発明の方法を適用しない場合の耐撚り線断線回数の何倍になったかを調べる。この耐撚線断線回数の比が1.0倍を下回れば、本発明を適用した極細鋼線の耐撚線断線性が向上したことになる。
【0057】
結果を表2に示す。本発明例1〜10は対象となる極細鋼線の伸線加工歪、引張強さ、線径の1000倍の長さあたりの捻回数、捻回の繰り返しセット数が全て適切であるため、本発明に係る装置に通材しなかった時と比較して、明確に耐撚線断線性が向上している例である。
【0058】
比較例11〜13は元の極細鋼線の特性が真歪みで3.0未満、かつ3000MPa未満であったために、本発明の効果を発現しなかった例である。元より極細鋼線の耐撚線断線性が高いため、本発明品を通材してもそれが変化しなかった。
【0059】
比較例14、15は、線径の1000倍の長さに対する捻回数が2回未満であったため、耐撚線断線性の改善効果が発現しなかった例である。
【0060】
比較例16、17は、線径の1000倍の長さに対する1回の捻回数が20回を越えているため、耐撚線断線性の回復は見られるものの、引張強さが低下してしまう例である。
【0061】
比較例18、19は、一方向への累積捻回数が200回を越えているため、耐撚り線断線性は向上しても、処理後の引張強さが低下してしまった例である。
【0062】
比較例20は正逆方向の累積捻回量の差異が50回を越えているため、耐撚り線断線性は向上しても、処理後の引張強さが低下してしまった例である。処理後の引張強さが低下している例である。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る繰り返し捻回装置の基本動作説明図である。
【図2】耐撚線断線性評価装置、評価方法に関する説明図である。
【符号の説明】
【0066】
1 元線ボビン
2 ガイドローラー
3a、3b ツイスター
4 中間リール
5 巻取機
6a、6b 速度計
7a、7b テンションメーター
8a、8b ペイオフリール
9 ツイスター
10 ボビン
11 制御用カメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.75〜1.1%、Si:0.5〜2.0%、Mn:0.2〜2.0%Al:0.005%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼線材を、750℃〜1100℃でのオーステナイト化後、パテンティング処理し、ダイスのアプローチ角度:6〜20°、ダイスのベアリング長さ:0.1〜0.7D(D:ダイス径)の条件を満たすダイスを用いて伸線加工歪みが3.0以上の冷間伸線加工を行って得られる、引張強さが3000MPa以上である高強度極細鋼線に、線径の1000倍の長さにつき2〜20回の正方向への捻回を施した後、線径の1000倍の長さにつき2〜20回の逆方向への捻回を行い、前記正方向への捻回および前記逆方向への捻回を繰り返し行って、前記正方向への捻回および前記逆方向への捻回の累積捻回量をそれぞれ2回以上200回未満とし、前記正方向への捻回の累積捻回量と前記逆方向への捻回の累積捻回量との差を50回未満とすることを特徴とする高強度極細鋼線の耐撚線断線性回復方法。
【請求項2】
正方向への捻回の回数と、それに続く逆方向への捻回の回数を同じにすることを特徴とする請求項1に記載の高強度極細鋼線の耐撚線断線性回復方法。
【請求項3】
先の正方向への捻回に続く逆方向への捻回の回数が、前記先の正方向への捻回の回数を超え、更に、前記逆方向に続く後の正方向への捻回の回数が、前記逆方向への捻回の回数と前記先の正方向への捻回の回数との差を超えることを特徴とする請求項1に記載の高強度極細鋼線の耐撚線断線性回復方法。
【請求項4】
先の正方向への捻回に続く逆方向への捻回の回数が、前記先の正方向への捻回の回数の2倍であり、更に、前記逆方向に続く後の正方向への捻回の回数が、前記逆方向への捻回の回数と前記先の正方向への捻回の回数との差の2倍であることを特徴とする請求項3に記載の高強度極細鋼線の耐撚線断線性回復方法。
【請求項5】
正方向への捻回および逆方向への捻回を、それぞれ、1〜10回施すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高強度極細鋼線の耐撚線断線性回復方法。
【請求項6】
正方向への捻回および逆方向への捻回を、捻り降伏点歪みの50〜95%として行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の高強度極細鋼線の耐撚線断線性回復方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−248321(P2008−248321A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91153(P2007−91153)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】