説明

高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜

本発明において、高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜、並びにこれらの膜の製造方法及び使用方法を開発した。架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、(1)まず、ポリマー骨格中において、複素環式イミド窒素に対してオルト位の懸垂官能基(例えば−OH又は−SH)、及び架橋性官能基を含むポリイミドポリマーを合成し;(2)これらのポリマーからポリイミド膜を製造し;(3)窒素のような不活性雰囲気下又は真空下において加熱することによって、ポリイミド膜をポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾール膜に転化させ;そして(4)最後に、架橋処理、好ましくはUV放射によって、膜を高性能架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾール膜に転化させる;ことによって製造される。この膜は任意の好都合な形態に作り上げることができる。本発明の高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、種々の液体、気体、及び蒸気の分離のために好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜、並びにこれらの膜の製造方法及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]過去30〜35年の間に、ポリマー膜ベースの気体分離プロセスの最新技術は急速に進歩した。膜ベースの技術は、従来の分離法と比較して低い設備コストと高いエネルギー効率という利点を両方とも有する。膜気体分離は、石油生産業者及び精製業者、化学会社、及び産業用ガス供給業者にとって特別な関心の対象となっている。天然ガス及びバイオガスからの二酸化炭素除去並びに原油増進回収、並びにアンモニアパージガス流中の窒素、メタン、及びアルゴンからの水素除去など幾つかの分野への応用は商業的成功を収めている。例えば、UOPのSeparex酢酸セルロースポリマー膜は、現在、天然ガスからの二酸化炭素除去に関して国際的なマーケット・リーダーである。
【0003】
[0003]商業的な気体分離用途において最も通常的に用いられている膜はポリマーで非多孔質のものである。分離は溶液拡散メカニズムに基づく。このメカニズムは、透過ガスと膜ポリマーとの分子スケールの相互作用を含む。このメカニズムは、2つの対抗する面を有する膜において、それぞれの成分を1つの表面において膜に吸着させ、気体濃度勾配によって移動させ、反対側の表面において脱着させると考えられている。この溶液拡散モデルによれば、気体の所定の対(例えばCO/CH、O/N、H/CH)の分離における膜性能は、透過係数(以下、Pと略す)及び選択率(αA/B)の2つのパラメーターによって定まる。Pは、気体の流束と膜の選択表面薄層の厚さを掛け合わせ、膜を横切る圧力差で除したものである。αA/Bは、2種類の気体の透過係数の比(αA/B=P/P)であり、ここでPは透過性のより高い気体の透過率であり、Pは透過性のより低い気体の透過率である。気体は、高い溶解度係数、高い拡散係数のため、或いは両方の係数ともに高いために高い透過係数を有する可能性がある。一般に、気体の分子サイズが増加すると、拡散係数は減少し、一方、溶解度係数は増加する。より高い透過率は所定体積の気体を処理するのに必要な膜領域の寸法を減少させ、それによって膜ユニットの設備コストを減少させるため、また、より高い選択率はより高い純度の生成物気体をもたらすため、高性能ポリマー膜においては高い透過率及び高い選択率が望ましい。
【0004】
[0004]ポリマーは、低いコスト、良好な透過率、機械的安定性、及び加工容易性などの気体分離のために重要な種々の範囲の特性を与える。高いガラス転移温度(T)、高い融点、及び高い結晶化度を有するポリマー材料が好ましい。ガラス質のポリマー(即ちそれらのTよりも低い温度におけるポリマー)はより剛性のポリマー骨格を有し、したがって水素及びヘリウムのような小さめの分子をより迅速に通過させるが、その一方で、炭化水素のような大きめの分子は、剛性のより低い骨格を有するポリマーと比較してよりゆっくりとガラス質のポリマーを通過する。しかしながら、透過性のより高いポリマーは、一般に透過性のより低いポリマーよりも選択率が低い。透過率と選択率との間には常に一般的なトレードオフ(所謂ポリマー上限限界)が存在する。過去30年にわたって、この上限によってもたらされる制限を克服することに大きな研究努力が向けられている。種々のポリマー及び方法が用いられたが、それほど大きくは成功していない。更に、伝統的なポリマー膜は、熱安定性及び汚染抵抗性に関する制約も有する。
【0005】
[0005]酢酸セルロース(CA)のガラス質ポリマー膜は、気体分離において広く用いられている。現在は、かかるCA膜は、二酸化炭素の除去などの天然ガスの改質のために商業的に用いられている。CA膜は多くの有利性を有するが、これらは、選択率、透過率などの数多くの特性、並びに化学的、熱的、及び機械的安定性が制限される。ポリマー膜の性能は速やかに劣化する可能性があることが分かっている。膜性能の消失の主たる原因は、膜表面上での液体の凝縮である。凝縮は、膜生成物気体の算出される露点に基づいて運転に十分な露点の余裕を与えることによって抑止することができる。水及び重質炭化水素を天然ガス流から除去し、それによって流れの露点を低下させるために、モレキュラーシーブを用いる再生可能な吸着システムであるUOPのMemGuardシステムが開発された。予備処理システムによる重質炭化水素の選択的な除去によって、膜の性能が著しく改善され得る。これらの予備処理システムはこのような機能を有効に果たすことができるが、コストが非常に高い。幾つかのプロジェクトにおいては、予備処理システムのコストは、供給流の組成によって全コスト(予備処理システム及び膜システム)の10〜40%の高さであった。予備処理システムのコストを減少させるか又は予備処理システム自体を完全に排除すると、天然ガス改質のための膜システムのコストが大きく減少するであろう。他方において、ここ数年においては、大型の沖合天然ガス改質プロジェクトに益々多くの膜システムが適用されている。沖合プロジェクトのためには、設置面積が大きな制約となる。したがって、沖合プロジェクトのためには設置面積を減少させることが非常に重要である。予備処理システムの設置面積もまた、全膜システムの設置面積の10〜50%超の非常に高いものである。膜システムから予備処理システムを除去することは、特に沖合プロジェクトに対して大きな経済的影響を有する。
【0006】
[0006]膜の選択率、透過率、及び熱安定性を向上させるために、ポリイミド(PI)、ポリ(トリメチルシリルプロピン)(PTMSP)、及びポリトリアゾールのような高性能ポリマーが開発されている。これらのポリマー膜材料は、CO/CH、O/N、H/CH、及びプロピレン/プロパン(C/C)のような気体の対を分離するための有望な特性を示している。しかしながら、現在のポリマー膜材料は、それらの生産性−選択率の二律背反関係の点で限界に達している。更に、ガラス質の溶液拡散膜を用いることに基づく気体分離プロセスは、しばしばCO又はCのような吸着した浸透分子による剛性のポリマーマトリクスの可塑化を受ける。供給気体混合物が凝縮性の気体を含む場合には、膜構造の膨潤によって示されるポリマーの可塑化、及び供給流中の全ての成分の透過率の大きな増加が、可塑化圧力より高い圧力で起こる。
【0007】
[0007]芳香族ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、及びポリベンゾイミダゾール(PBI)は、平坦な堅い剛体棒状のフェニレン−複素環式環単位を有する非常に熱安定性の梯子状のガラス質ポリマーである。かかるポリマー中の堅い剛性の環単位は効率的に充填され、高い透過率及び高い選択率の両方を有するポリマー膜のために望ましい、非常に小さい浸透剤が接近可能な自由体積要素が残留する。しかしながら、高い熱安定性及び化学安定性を有するこれらの芳香族PBO、PBT、及びPBIポリマーは、通常の有機溶媒中で可溶性が低く、このために最も実用的な溶媒キャスト法によってポリマー膜を製造するための一般的なポリマー材料として用いることができない。ポリマー骨格中において複素環式イミド窒素に対してオルト位の懸垂官能基(pendant functional groups)を含む可溶性芳香族ポリイミドを芳香族ポリベンゾオキサゾール(PBO)又はポリベンゾチアゾール(PBT)に熱転化することによって、溶媒キャスト法によってPBO又はPBTポリマーから直接得ることが困難又は不可能であるPBO又はPBTポリマー膜を生成させる代替法を提供することができる(Tullos et al., MACROMOLECULES, 32, 3598 (1999))。
【0008】
[0008]他方において、SAPO−34及び炭素モレキュラーシーブ膜のような幾つかの無機モレキュラーシーブ膜は、気体分離に関してポリマー膜よりも遙かに高い透過率及び選択率を与えるが、高コストであり、機械的安定性が劣っており、大規模製造が困難である。したがって、改良された分離特性を有するコスト的に有効な代わりの膜を提供することが未だに非常に望ましい。
【0009】
[0009]米国特許第5,409,524号明細書では、膜を加熱してポリマー中の過剰の自由体積を緩和することによって数多くの異なるポリマー膜が処理されている。これは、ポリマーの透過率を低下させる傾向を有する。膜の加熱は60〜300℃の温度範囲であった。次に、酸素の存在下で膜にUV放射線を照射して、表面を少なくとも部分的に酸化している。処理したと報告されている膜の1つはポリベンゾオキサゾール膜であった。ポリベンゾオキサゾールポリマーは一工程の重縮合合成手順によって製造し、このポリベンゾオキサゾールポリマーから製造された膜を180℃において熱処理している。膜フィルムは、12.25Barrerから9.11Barrerへの25%の透過率の減少、及び5.34から6.21への15%の酸素/窒素選択率の増加を示していた。これらの条件によって、異なる出発材料並びに非常により高い膜処理温度を用いる本発明と比較して、選択率の僅かな増加しか得られていない。
【0010】
[0010]SCIENCE誌の最近の号において、気体分離のための新しいタイプの高透過性ポリベンゾオキサゾールポリマー膜が報告された(Ho Bum Parkら, SCIENCE 318, 254 (2007))。これらのポリベンゾオキサゾール膜は、複素環式イミド窒素に対してオルト位の懸垂ヒドロキシル基を含むヒドロキシ含有ポリイミドポリマー膜を高温熱転位することによって得られる。これらのポリベンゾオキサゾールポリマー膜は、通常のポリマー膜よりも100倍良好で、幾つかの無機モレキュラーシーブ膜のものと同等の非常に高いCO透過率(>1000Barrer)を示したが、CO/CH選択率は商業的な酢酸セルロース膜と同等であった。これらの膜を商業的に用いるためには向上した選択率が必要である。本発明者らは、微量酸ドーパント(例えばHCl及びHPO)を加えることによってこれらのポリベンゾオキサゾールポリマー膜の選択率を増加させようと試みた。しかしながら、これらのポリベンゾオキサゾールポリマー膜中での微量酸ドーパントの安定性は商業的使用のための重要な課題である。
【0011】
[0011]米国特許出願公開第2008/0300336号(A1)においては、UV架橋を用いることによって膜の透過率及び選択率を向上させるように機能するモレキュラーシーブを含む特定の混合マトリクス膜の特性を向上させることに成功したことが報告された。しかしながら、ここで報告されている向上したレベルの特性を得るためには、ポリマーを架橋し且つモレキュラーシーブを加えることの両方が必要であった。モレキュラーシーブを分散させる必要性を回避し且つポリマーとモレキュラーシーブとの間の接着性の欠如によって引き起こされる問題を排除することの両方のために、モレキュラーシーブを含まない改良されたポリマー膜を与えることが非常に望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,409,524号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0300336号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Tullos et al., MACROMOLECULES, 32, 3598 (1999)
【非特許文献2】Ho Bum Park et al., SCIENCE 318, 254 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
[0012]本発明は、以下の特性/有利な点(即ち、加工容易性、高い選択率及び高い透過速度又は流束の両方、高い熱安定性、並びに溶媒膨潤、可塑化、及び炭化水素汚染物質に対する抵抗性による長時間にわたって安定な流束及び保持された選択率)を有する新しいタイプの高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜、並びにかかる膜の製造手段を提供することによって、従来技術のポリマー膜及び無機モレキュラーシーブ膜の両方の問題を解決する。これらの膜は、架橋ポリイミド膜と比較して非常に良好な透過率、及び未架橋のポリベンゾオキサゾール膜と比較して非常に良好な選択率を与える。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[0013]本発明は、高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜、並びにこれらの膜の製造方法及び使用方法に関する。
[0014]高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、ポリマー骨格中のUV架橋性の官能基及び複素環式イミド窒素に対してオルト位の懸垂官能基(例えば−OH又は−SH基)の両方を含む架橋性ポリイミドポリマーから、熱転化とそれに続いて行われるUV照射によって製造される。本発明において記載する高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー鎖セグメントを含み、これらのポリマー鎖セグメントの少なくとも一部は、UV放射線に曝露することによって場合によっては直接共有結合を介して互いに架橋されている。ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜の架橋によって、大きく向上した膜選択率並びに化学安定性及び熱安定性が膜に付与される。
【0016】
[0015]架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、加工容易性、高い選択率、高い透過速度又は流束、高い熱安定性、並びに溶媒膨潤、可塑化、及び炭化水素汚染物質に対する抵抗性による長時間にわたって安定な流束及び保持された選択率という利点を伴って、従来技術のポリマー膜及び無機モレキュラーシーブ膜の両方の問題を解決する。
【0017】
[0016]高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜を製造する方法は、(1)まず、ポリマー骨格中において、複素環式イミド窒素に対してオルト位の懸垂官能基(例えば−OH又は−SH)及びUV架橋性官能基(例えばカルボニル基)を含む芳香族ポリイミドポリマーを合成し;(2)工程(1)において合成した芳香族ポリイミドポリマーからポリイミド膜を製造し;(3)アルゴン、窒素のような不活性雰囲気下又は真空下において300℃〜600℃の間で加熱することによって、ポリイミド膜をポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾール膜に転化させ;そして(4)最後に、UV放射線に曝露することによって、ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾール膜を架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜に転化させる;ことを含む。幾つかの場合においては、UV放射線への曝露の後に膜後処理工程を加えて、架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜の選択層表面を、ポリシロキサン、フルオロポリマー、熱硬化性シリコーンゴム、又はUV放射線硬化性エポキシシリコーンのような高透過性材料の薄層で被覆することができる。
【0018】
[0017]架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、多孔質の支持体層の頂部上に支持されている薄い非多孔質の密な選択層を有する非多孔質の対称構造又は非対称構造のいずれかを有することができる。これらの膜は、平坦シート(又は渦巻き型)、ディスク、チューブ、中空繊維、又は薄膜複合体のような任意の好都合な形態に形成することができる。
【0019】
[0018]本発明は、架橋ポリベンゾオキサゾールポリマー膜又は架橋ポリベンゾチアゾールポリマー膜のいずれかを用いて、複数の気体又は液体の混合物から少なくとも1種類の気体又は液体を分離する方法を提供する。本方法は、少なくとも1種類の気体又は液体に対して透過性の架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜を用意すること;架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜の一面上に複数の気体又は液体の混合物を接触させて、少なくとも1種類の気体又は液体を架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜を透過させること;及び、膜の反対側から、膜を透過した少なくとも1種類の気体又は液体の部分である透過気体又は液体組成物を取り出すこと、を含む。
【0020】
[0019]高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、種々の液体、気体、及び蒸気の分離(逆浸透による水の脱塩など)、非水性液体の分離(ガソリン及びディーゼル燃料の深度脱硫など)、エタノール/水の分離、水性/有機混合物のパーベーパレーション脱水、CO/CH、CO/N、H/CH、O/N、HS/CH、オレフィン/パラフィン、イソ/n−パラフィンの分離、並びに他の軽質気体混合物の分離のために好適であるだけでなく、触媒反応及び燃料電池用途のような他の用途のために用いることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[0020]1999年に、Tullosらは複素環式イミド窒素に対してオルト位の懸垂ヒドロキシル基を含む一連のヒドロキシ含有ポリイミドポリマーを合成したことを報告した。これらのポリイミドは、窒素下又は真空下において350℃〜500℃の間で加熱するとポリベンゾオキサゾールへの熱転化を受けることが見出された(Tullos et al., MACROMOLECULES, 32, 3598 (1999))。SCIENCEの最近の号では、Tullosらによって報告されたポリベンゾオキサゾールポリマー材料は、良好に構成された形態を有して調整されている自由体積要素を有しているという更なる研究が報告された。熱駆動セグメント転位を用いて、これらのポリベンゾオキサゾールポリマー材料における独特の微細構造を規則正しく調整して、気体分離用のポリベンゾオキサゾールポリマー膜を製造するためのルートを提供することができる。Ho Bum Park et al., SCIENCE, 318, 254 (2007)を参照。これらのポリベンゾオキサゾールポリマー膜は、通常のポリマー膜よりも100倍良好で、幾つかの無機モレキュラーシーブ膜のものと同等の非常に高いCO透過率(>1000Barrer)を示したが、CO/CH分離用の幾つかの小孔無機モレキュラーシーブ膜のものよりも低いCO/CH選択率を示した。
【0022】
[0021]本発明は、新規な高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜、並びにこれらの膜の製造方法及び使用方法を包含する。
[0022]本発明は、加工容易性、高い選択率と高い透過速度又は流束の両方、高い熱安定性、並びに炭化水素汚染物質に曝露することによる溶媒膨潤、可塑化、及び劣化に対して抵抗性を有することによる長時間にわたって安定な流束及び保持された選択率という特性/有利な点を有する新しいタイプの高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜、並びにこれらの膜を提供することによって、従来技術のポリマー膜及び無機モレキュラーシーブ膜の両方の問題を解決するものである。
【0023】
[0023]本発明において記載する高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、熱転化及びそれに続くUV照射によって、ポリマー骨格中のUV架橋性官能基(例えばカルボニル基)及び複素環式イミド窒素に対してオルト位の懸垂官能基(例えば−OH又は−SH)の両方を含む架橋性ポリイミドポリマーから製造される。膜はポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー鎖セグメントを含み、これらのポリマー鎖セグメントの少なくとも一部は、UV放射線に曝露することによって直接共有結合によって互いに架橋されている。ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜の架橋によって、大きく向上した膜選択率、並びに化学安定性及び熱安定性が膜に付与される。
【0024】
[0024]本発明は、(1)まず、ポリマー骨格中において、複素環式イミド窒素に対してオルト位の懸垂官能基(例えば−OH又は−SH)及びUV架橋性官能基(例えばカルボニル基)を含む芳香族ポリイミドポリマーを合成し;(2)工程(1)において合成した芳香族ポリイミドポリマーからポリイミド膜を製造し;(3)アルゴン、窒素のような不活性雰囲気下又は真空下において300℃〜600℃の間で加熱することによって、ポリイミド膜をポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾール膜に転化させ;そして(4)最後に、UV放射線に曝露することによって、ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾール膜を架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜に転化させる;ことによって、これらの高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜を製造する方法を提供する。幾つかの場合においては、UV照射の後に膜後処理工程を加えて、架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜の選択層表面を、ポリシロキサン、フルオロポリマー、熱硬化性シリコーンゴム、又はUV放射線硬化性エポキシシリコーンのような高透過性材料の薄層で被覆することができる。
【0025】
[0025]架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜を製造するために本発明において用いるポリベンゾオキサゾールタイプ及びポリベンゾチアゾールタイプのポリマー膜は、アルゴン、窒素のような不活性雰囲気下又は真空下において300℃〜600℃の間で加熱することによるポリイミド膜の熱転化によって製造される。ポリイミド膜は、溶液キャスト又は溶液紡糸法によって、ポリマー骨格中のUV架橋性官能基(例えばカルボニル基)及び複素環式イミド窒素に対してオルト位の懸垂官能基(例えば−OH又は−SH)を有する可溶性ポリイミドから製造される。複素環式イミド窒素に対してオルト位の懸垂官能基(例えば−OH又は−SH)を有するポリイミドを熱転化させると、不可逆的分子転位によってポリベンゾオキサゾール(懸垂官能基が−OH基である場合)又はポリベンゾチアゾール(懸垂官能基が−SH基である場合)が形成され、該熱転化は二酸化炭素の消失を伴うが、他の揮発性副生成物は発生しない。ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマーは、式(I):
【0026】
【化1】

【0027】
(ここで、式(I)のXは、ポリベンゾオキサゾールに関してはOであり、ポリベンゾチアゾールに関してはSである。)
の繰り返し単位を含む。
【0028】
[0026]本発明において高性能架橋ポリベンゾオキサゾールタイプ及びポリベンゾチアゾールタイプの膜を製造するために用いる、複素環式イミド窒素に対してオルト位の懸垂官能基を含むUV架橋性ポリイミドポリマーは、式(II):
【0029】
【化2】

【0030】
(ここで、式(II)のX1は
【0031】
【化3】

【0032】
又はこれらの混合物であり;式(II)のX2は、X1と同じであるか、或いは
【0033】
【化4】

【0034】
又はこれらの混合物から選択され;式(II)の−Y−は
【0035】
【化5】

【0036】
又はこれらの混合物であり;−Z−、−Z’−、及び−Z”−は、独立して、−O−又は−S−であり;−R−は
【0037】
【化6】

【0038】
又はこれらの混合物である。)
の複数の第1の繰り返し単位を含む。
[0027]本発明の一態様においては、式(II)の好ましいX1及びX2が同一である場合には、これらは、
【0039】
【化7】

【0040】
又はこれらの混合物の群から選択され;式(II)のYは
【0041】
【化8】

【0042】
又はこれらの混合物の群から選択される。
[0028]本発明の他の態様においては、式(II)のX1は
【0043】
【化9】

【0044】
又はこれらの混合物の群から選択され;式(II)のX2は
【0045】
【化10】

【0046】
又はこれらの混合物の群から選択され;式(II)のYは
【0047】
【化11】

【0048】
又はこれらの混合物の群から選択される。
[0029]本発明において高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾール膜を製造するために用いる好ましいポリイミドポリマーの幾つかとしては、ポリ[3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン](ポリ(BTDA−APAF))、ポリ[4,4’−オキシジフタル酸無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン](ポリ(ODPA−APAF))、ポリ(3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物−3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル)(ポリ(BTDA−HAB))、ポリ[3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン](ポリ(DSDA−APAF))、ポリ(3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(ポリ(DSDA−APAF−HAB))、ポリ[2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物−3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン](ポリ(6FDA−BTDA−APAF))、ポリ[4,4’−オキシジフタル酸無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル](ポリ(ODPA−APAF−HAB))、ポリ[3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル](ポリ(BTDA−APAF−HAB))、及びポリ(4,4’−ビスフェノールA二無水物−3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン](ポリ(BPADA−BTDA−APAF))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
[0030]本発明において架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜を製造するために用いる、ポリマー骨格中においてUV架橋性官能基及び複素環式イミド窒素に対してオルト位の懸垂官能基(例えば−OH又は−SH)を含むポリイミドは、ポリ(アミド酸)を形成し、次に溶液イミド化又は熱イミド化を行うことを含む2工程プロセスによって、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)又はN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)のような極性溶媒中でジアミン及び二無水物から合成される。脱水剤として無水酢酸を用い、溶液イミド化反応のためのイミド化触媒としてピリジン(又はトリエチルアミン)を用いる。これらのポリマーの製造に関するより多くの情報は、Tullos et al., MACROMOLECULES, 32, 3598 (1999)で入手することができる。
【0050】
[0031]本発明において高性能架橋ポリベンゾオキサゾールタイプ又はポリベンゾチアゾールタイプの膜を製造するために用いるポリイミド膜は、均一なポリイミド溶液を清浄なガラスプレートの頂面上にキャストし、溶媒をプラスチックカバーの内部で室温において少なくとも12時間ゆっくりと蒸発させることによって、ポリマー骨格中において、UV架橋性官能基及び複素環式イミド窒素に対してオルト位の懸垂官能基(例えば−OH又は−SH)を含むポリイミドポリマーから、非多孔質対称薄膜形態を有する膜に成形することができる。次に、膜をガラスプレートから取り外し、室温において24時間、次に真空下200℃において少なくとも48時間乾燥させる。
【0051】
[0032]ポリイミドポリマーを溶解するために用いる溶媒は、主として、ポリマーを完全に溶解するそれらの能力、及び膜形成工程における溶媒の除去しやすさのために選択される。溶媒の選択における他の考慮事項としては、低い毒性、低い腐食活性、低い環境危険ポテンシャル、入手容易性、及びコストが挙げられる。本発明において用いるための代表的な溶媒としては、ポリマー膜を形成するために通常用いられている殆どのアミド溶媒、例えばN−メチルピロリドン(NMP)及びN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、塩化メチレン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トルエン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、これらの混合物、当業者に公知の他のもの、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0052】
[0033]本発明において高性能架橋ポリベンゾオキサゾールタイプ又はポリベンゾチアゾールタイプの膜を製造するために用いるポリイミド膜はまた、ポリイミドポリマーを溶媒中に溶解させてポリイミド材料の溶液を形成し;多孔質膜支持体(例えば無機セラミック材料から製造される支持体)をこの溶液と接触させ;次に溶媒を蒸発させて、支持体層上にポリイミドポリマー材料を含む薄い選択層を与える;工程を含む方法によって製造することもできる。
【0053】
[0034]ポリイミド膜はまた、転相(phase inversion)を行い、次に炭化水素又はエーテルのような疎水性有機化合物である少なくとも1種類の乾燥剤を用いることで直接空気乾燥することによって、平坦なシート又は中空繊維の形態を有する非対称膜として製造することもできる(米国特許第4,855,048号明細書を参照)。ポリイミド膜はまた、転相を行い、次に溶媒交換を行うことによって、平坦なシート又は中空繊維の形態を有する非対称膜として製造することもできる。
【0054】
[0035]ポリイミド膜は、次にアルゴン、窒素のような不活性雰囲気下又は真空下において、300℃〜600℃、好ましくは400℃〜500℃、最も好ましくは400℃〜450℃の間で加熱することによって、ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜に転化させる。この加熱工程のための加熱時間は30秒間〜2時間の範囲である。より好ましい加熱時間は30秒間〜1時間である。次に、所定距離からのUVランプを用い、求める分離特性に基づいて選択した所定の時間、ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜をUV架橋することによって、架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜を形成する。例えば、架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜は、1.9cm(0.75インチ)の膜表面からUVランプまでの距離及び30分間の照射時間を用い、50℃未満において、UVランプから発生させた254nmの波長のUV光を用いてUV放射線に曝露することによって、ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜から製造することができる。ここで記載するUVランプは、Ace Glass Incorporatedから入手可能な12Wの電源による低圧の水銀アーク液浸UV石英12Wランプである。架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜における架橋度を最適化することによって、向上した透過特性及び環境安定性と共に、膜を広範囲の気体及び液体分離に適するように調整することが促進される。架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜の架橋度は、UVランプと膜表面との間の距離、UV照射時間、UV光の波長及び強度などを調節することによって制御することができる。好ましくは、UVランプから膜表面までの距離は、12W〜450Wの低圧又は中圧水銀アークランプから与えられるUV光を用いる場合には0.8〜25.4cm(0.3〜10インチ)の範囲であり、UV照射時間は0.5分間〜1時間の範囲である。より好ましくは、UVランプから膜表面までの距離は、12W〜450Wの低圧又は中圧水銀アークランプから与えられるUV光を用いる場合には1.3〜5.1cm(0.5〜2インチ)の範囲であり、UV照射時間は0.5〜40分間の範囲である。
【0055】
[0036]幾つかの場合においては、架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜を形成した後に膜の後処理工程を加えて、ポリシロキサン、フルオロポリマー、熱硬化性シリコーンゴム、又はUV放射線硬化性エポキシシリコーンのような高透過性材料の薄層を付与することができる。被覆によって、表面の細孔及び空孔を含む他の欠陥が充填される(米国特許第4,230,463号明細書;同第4,877,528号明細書;同第6,368,382号明細書を参照)。
【0056】
[0037]本発明の高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、多孔質支持体層の頂部上に支持されている薄い非多孔質で高密度の選択層を有する非多孔質対称構造又は非対称構造のいずれかを有することができる。多孔質支持体は、同じ架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー材料、又は高い熱安定性を有する異なるタイプの有機又は無機材料から構成することができる。本発明の高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、平坦シート(又は渦巻き型)、ディスク、チューブ、中空繊維、又は薄膜複合体のような任意の好都合な形態に形成することができる。
【0057】
[0038]本発明は、架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜を用いて複数の気体又は液体の混合物から少なくとも1種類の気体又は液体を分離する方法であって、(a)少なくとも1種類の気体又は液体に対して透過性の架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜を与え;(b)架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜の一面に混合物を接触させて、少なくとも1種類の気体又は液体を、架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜を透過させ;そして(c)膜の反対側から、膜を透過した少なくとも1種類の気体又は液体の部分を含む透過気体又は液体組成物を取り出す;ことを含む上記方法を提供する。
【0058】
[0039]これらの高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、液相又は気相の特定の種の精製、分離、又は吸着において特に有用である。複数の気体の対の分離に加えて、これらの高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、例えば、例えば医薬及びバイオテクノロジー産業において逆浸透によって水を脱塩するためか又はタンパク質若しくは他の熱的に不安定な化合物を分離するために用いることができる。高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜はまた、発酵槽及びバイオリアクターにおいて、気体を反応容器中に移し、及び細胞培地を容器から取り出すために用いることができる。更に、高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、空気流又は水流から微生物を除去するため、水精製のため、連続発酵/膜パーベーパレーションシステムにおけるエタノール製造のため、及び空気流又は水流中の微量の化合物又は金属塩を検出又は除去するために用いることができる。
【0059】
[0040]本発明の架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、空気清浄、石油化学、精油所、及び天然ガス産業における気体分離プロセスにおいて特に有用である。このような分離の例としては、窒素又は酸素のような大気気体からの揮発性有機化合物(例えばトルエン、キシレン、及びアセトン)の分離、並びに空気からの窒素の回収が挙げられる。かかる分離の更なる例は、天然ガスからのCO又はHSの分離、アンモニアパージガス流中のN、CH、及びArからのHの分離、精油所におけるHの回収、オレフィン/パラフィンの分離、例えばプロピレン/プロパンの分離、及びイソ/n−パラフィンの分離のためである。ここで記載する架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜を用いて、分子サイズが異なる複数の気体の任意の所定の対又は群、例えば窒素と酸素、二酸化炭素とメタン、水素とメタン、或いは一酸化炭素、ヘリウム、及びメタンを分離することができる。2種類より多い気体を第3の気体から取り出すことができる。例えば、ここで記載する膜を用いて未加工の天然ガスから選択的に取り出すことができる気体成分の幾つかとしては、二酸化炭素、酸素、窒素、水蒸気、硫化水素、ヘリウム、及び他の微量気体が挙げられる。選択的に残留させることができる気体成分としては炭化水素ガスが挙げられる。透過性成分が、二酸化炭素、硫化水素、及びこれらの混合物からなる群から選択される酸成分であり、これを天然ガスのような炭化水素混合物から取り出す場合には、1つのモジュール、又は少なくとも並列的に稼働する少なくとも2つのモジュール若しくは直列のモジュールを用いて酸成分を取り出すことができる。例えば、1つのモジュールを用いる場合には、供給気体の圧力は275kPa〜2.6MPa(25〜4000psi)の範囲にすることができる。膜を横切る差圧は、用いる特定の膜、導入流の流速、及び圧縮が所望の場合には圧縮機が透過液流を圧縮する有効性のような多くのファクターによって0.7barのような低さ、或いは145barのような高さ(10psi、又は2100psiのような高さ)の範囲にすることができる。145bar(2100psi)より高い差圧は膜を破損する可能性がある。差圧がより低いと、より多いモジュール、より多い時間、及び中間生成物流の圧縮が必要な可能性があるので、少なくとも7bar(100psi)の差圧が好ましい。プロセスの運転温度は、供給流の温度及び雰囲気温度条件によって変化させることができる。好ましくは、本発明の膜の有効運転温度は−50℃〜150℃の範囲である。より好ましくは、本発明の膜の有効運転温度は−20℃〜100℃の範囲であり、最も好ましくは、本発明の膜の有効運転温度は25℃〜100℃の範囲である。
【0060】
[0041]架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、化学、石油化学、医薬、及び関連産業において、有機物の蒸気を気体流から取り出すための気体/蒸気分離プロセスにおいて、例えば清浄空気規制を満足するため、或いは価値のある化合物(例えば、塩化ビニルモノマー、プロピレン)を回収することができるように製造プラントにおけるプロセス流中の揮発性有機化合物を回収するためのオフガス処理において特に有用である。これらの架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜を用いることができる気体/蒸気分離プロセスの更なる例は、石油及びガス精製所における水素からの炭化水素蒸気の分離、天然ガスの炭化水素露点調節(即ち、炭化水素の露点を考えられる最も低い排出パイプライン温度よりも低く低下させて、液体炭化水素がパイプライン内で分離しないようにすること)のため、ガスエンジン及びガスタービン用の燃料ガスにおけるメタン価を制御するため、及びガソリン回収のためである。架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、特定の気体に強く吸着して膜を横切るそれらの移動を促進させる種(例えばOに関してはコバルトポルフィリン又はフタロシアニン、或いはエタンに関しては銀(I))を含有し得る。
【0061】
[0042]架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、天然ガスの改質(例えば天然ガスからのCOの除去)のために十分な露点の余裕を与えるために高温において運転することができる。架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、天然ガスの改質のための単一段階膜か或いは2段階膜システムにおける第1及び/又は第2段階膜としてのいずれかで用いることができる。本発明の高い選択率、高い透過率、並びに高い熱安定性及び化学安定性を有する高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜により、高コストの予備処理システムを用いずに膜を運転することができる。したがって、架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜システムを含む新しいプロセスにおいては、吸着剤MemGuardシステムのような高コストの膜予備処理システムは必要ないであろう。予備処理システムが排除され且つ膜面積が大きく減少するので、この新しいプロセスは、大きな設備コストの節約を達成し、既存の膜の設置面積を減少させることができる。
【0062】
[0043]これらの架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜はまた、パーベーパレーションによる液体混合物の分離において、例えば水性流出液又はプロセス流体のような水からの有機化合物(例えば、アルコール、フェノール類、塩素化炭化水素、ピリジン類、ケトン)の除去において用いることもできる。エタノール選択性である架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜を用いると、発酵プロセスによって得られる比較的希薄なエタノール溶液(5〜10%のエタノール)におけるエタノール濃度が増加するであろう。これらの架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜を用いる他の液相分離の例は、米国特許第7,048,846号明細書(その全部を参照により本明細書中に援用する)に記載されているプロセスと同様のパーベーパレーション(pervaporation)膜プロセスによるガソリン及びディーゼル燃料の深度脱硫である。イオウ含有分子に対して選択性である架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜を用いると、流動接触分解(FCC)及び他のナフサ炭化水素流からイオウ含有分子が選択的に除去されるであろう。更なる液相の例としては、例えば有機化合物の異性体を分離するために他の有機成分から1種類の有機成分を分離することが挙げられる。架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜を用いて分離することができる複数の有機化合物の混合物としては、酢酸エチル−エタノール、ジエチルエーテル−エタノール、酢酸−エタノール、ベンゼン−エタノール、クロロホルム−エタノール、クロロホルム−メタノール、アセトン−イソプロピルエーテル、アリルアルコール−アリルエーテル、アリルアルコール−シクロヘキサン、ブタノール−酢酸ブチル、ブタノール−1−ブチルエーテル、エタノール−エチルブチルエーテル、酢酸プロピル−プロパノール、イソプロピルエーテル−イソプロパノール、メタノール−エタノール−イソプロパノール、及び酢酸エチル−エタノール−酢酸が挙げられる。
【0063】
[0044]架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、水からの有機分子(例えばパーベーパレーションによる水からのエタノール及び/又はフェノール)の分離、及び水からの金属及び他の有機化合物の除去のために用いることができる。
【0064】
[0045]架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、天然ガスからの二酸化炭素の除去などの気体混合物の分離のための直接的な利用分野を有する。膜は、天然ガス中のメタンよりも速い速度で二酸化炭素を通過させて拡散させることができる。二酸化炭素は、より高い可溶性、より高い拡散性、又は両方のために、メタンよりも高い透過速度を有する。したがって、膜の透過側で二酸化炭素が富化し、膜の供給(又は排斥)側でメタンが富化する。
【0065】
[0046]架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜はまた、オレフィン分解用途のためにパラフィン/オレフィン流中のオレフィンを濃縮するための直接的な利用分野も有する。例えば、架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、プロピレン/プロパンを分離するために用いて、プロパンからプロピレン及びイソブタンからイソブチレンを製造するための接触脱水素反応における流出流の濃度を増加させることができる。したがって、ポリマーグレードのプロピレンを得るために必要なプロピレン/プロパン分離器の段数を減少させることができる。架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜に関する他の用途は、軽質パラフィン異性化、及びナフサ分解器供給原料中のn−パラフィン(これはその後にエチレンに転化させることができる)の濃度を増加させるプロセスであるMaxEneにおいてイソパラフィンとn−パラフィンを分離するためである。
【0066】
[0047]架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜の更なる用途は、特定の物質の選択的除去によって平衡限界反応の収量を増加させるための化学反応器内の分離器である。
【0067】
[0048]要約すると、本発明の高性能架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜は、逆浸透による水の脱塩のような種々の液体、気体、及び蒸気の分離、ガソリン及びディーゼル燃料の深度脱硫のような非水性液体の分離、エタノール/水の分離、水性/有機混合物のパーベーパレーション脱水、CO/CH、CO/N、H/CH、O/N、HS/CH、オレフィン/パラフィン、イソ/n−パラフィンの分離、及び他の軽質気体混合物の分離のために好適である。
【実施例】
【0068】
[0049]以下の実施例は、本発明の1以上の好ましい態様を示すために与えるものであるが、その限定された態様ではない。数多くの変更を以下の実施例に対して行うことができ、これは本発明の範囲内にある。
【0069】
実施例1:
ポリ(BTDA−APAF)ポリイミドの合成:
[0050]ポリ(アミド酸)を形成し、次に溶液イミド化プロセスを行うことを含む2工程プロセスによって、ポリマー骨格中においてUV架橋性カルボニル基及び複素環式イミド窒素に対してオルト位の懸垂OH官能基を含む芳香族ポリ[3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン](ポリ(BTDA−APAF))ポリイミドを、NMP極性溶媒中において2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(APAF)及び3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)から合成した。脱水剤として無水酢酸を用い、溶液イミド化反応のためのイミド化触媒としてピリジンを用いた。例えば、窒素入口及びメカニカルスターラーを取り付けた250mLの三つ口丸底フラスコに、10.0g(27.3ミリモル)のAPAF及び40mLのNMPを充填した。APAFが完全に溶解したら、40mLのNMP中のBTDA(8.8g、27.3ミリモル)の溶液をフラスコ内のAPAF溶液に加えた。反応混合物を雰囲気温度において24時間機械的に撹拌して、粘稠なポリ(アミド酸)溶液を得た。次に、10mLのNMP中の11.1gの無水酢酸を撹拌下で反応混合物にゆっくりと加え、次に10mLのNMP中の8.6gのピリジンを反応混合物に加えた。反応混合物を80℃において更に1時間機械的に撹拌して、ポリ(BDTA−APAF)ポリイミドを得た。反応混合物を大量のメタノール中にゆっくりと沈殿させることによって、微細繊維の形態のポリ(BTDA−APAF)ポリイミド生成物を回収した。次に、得られたポリ(BTDA−APAF)ポリイミド繊維をメタノールで十分にすすぎ、真空オーブン中150℃において24時間乾燥した。
【0070】
実施例2:
ポリ(ODPA−APAF)ポリイミドの合成:
[0051]ポリ(アミド酸)を形成し、次に溶液イミド化プロセスを行うことを含む2工程プロセスによって、ポリマー骨格中において複素環式イミド窒素に対してオルト位の懸垂−OH官能基を含む芳香族ポリ[4,4’−オキシジフタル酸無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン](ポリ(ODPA−APAF))ポリイミドを、NMP極性溶媒中において4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA)及び2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(APAF)から合成した。脱水剤として無水酢酸を用い、溶液イミド化反応のためのイミド化触媒としてピリジンを用いた。例えば、窒素入口及びメカニカルスターラーを取り付けた250mLの三つ口丸底フラスコに、10.0g(27.3ミリモル)のAPAF及び20mLのNMPを充填した。APAFが完全に溶解したら、35mLのNMP中のODPA(8.88g、27.3ミリモル)の溶液をフラスコ内のAPAF溶液に加えた。反応混合物を雰囲気温度において24時間機械的に撹拌して、粘稠なポリ(アミド酸)溶液を得た。次に、10mLのNMP中の11.1gの無水酢酸を撹拌下で反応混合物にゆっくりと加え、次に10mLのNMP中の8.6gのピリジンを反応混合物に加えた。反応混合物を80℃において更に1時間機械的に撹拌して、ポリ(ODPA−APAF)ポリイミドを得た。反応混合物を大量のメタノール中にゆっくりと沈殿させることによって、微細繊維の形態のポリ(ODPA−APAF)ポリイミド生成物を回収した。次に、得られたポリ(ODPA−APAF)ポリイミド繊維をメタノールで十分にすすぎ、真空オーブン中150℃において24時間乾燥した。
【0071】
実施例3:
ポリ(BTDA−APAF)ポリマー膜の製造:
[0052]ポリ(BTDA−APAF)ポリマー膜を以下のようにして製造した。実施例1で合成した4.0gのポリ(BTDA−APAF)ポリイミドを、12.0gのNMP及び12.0gの1,3−ジオキソランの溶媒混合物中に溶解した。混合物を2時間機械的に撹拌して、均一なキャスティングドープを形成した。得られた均一なキャスティングドープを一晩脱気した。ポリ(BTDA−APAF)ポリマー膜を、ドクターナイフを用いて20ミルのギャップで清浄なガラスプレート上において気泡のないキャスティングドープから製造した。次に、膜をガラスプレートと一緒に真空オーブン中に配置した。真空オーブンの真空度及び温度をゆっくりと上昇させることによって溶媒を除去した。最後に、膜を真空下200℃において少なくとも48時間乾燥して残留溶媒を完全に除去して、ポリ(BTDA−APAF)ポリマー膜を形成した。
【0072】
実施例4:
ポリベンゾオキサゾールポリマー膜PBO(BTDA−APAF−450C)(PBO(BTDA−APAF)と略す)の製造:
[0053]実施例3において製造したポリ(BTDA−APAF)ポリマー膜を、N流下において5℃/分の加熱速度で50℃から450℃に加熱することによって、ポリベンゾオキサゾールポリマー膜PBO(BTDA−APAF−450C)を製造した。膜を450℃において1時間保持し、次にN流下において5℃/分の冷却速度で50℃に冷却した。
【0073】
実施例5:
架橋PBO(BTDA−APAF−450C)ポリベンゾオキサゾールポリマー膜(架橋PBO(BTDA−APAF−450C)と略す)の製造:
[0054]実施例4において製造したPBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜を、UVランプから発生させた254nmの波長のUV光を用い、1.9cm(0.75インチ)の膜表面からUVランプへの距離及び20分間の照射時間で、50℃においてUV放射線に曝露することによってUV架橋することにより、架橋PBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜を製造した。用いたUVランプは、Ace Glass Incorporatedからの12Wの電源による低圧の水銀アーク液浸UV石英12Wランプであった。
【0074】
実施例6:
ポリ(ODPA−APAF)ポリマー膜の製造:
[0055]実施例3に記載したものと同様の手順を用いて、しかしながら本実施例においては実施例2において合成したポリ(OTDA−APAF)ポリイミドを用いてポリ(ODPA−APAF)ポリマー膜を製造した。
【0075】
実施例7:
ポリベンゾオキサゾールポリマー膜PBO(ODPA−APAF−450C)(PBO(ODPA−APAF−450C)と略す)の製造:
[0056]実施例4に記載のものと同様の手順を用いて、実施例6において製造したポリ(ODPA−APAF)ポリマー膜を加熱することによって、ポリベンゾオキサゾールポリマー膜PBO(ODPA−APAF−450C)を製造した。
【0076】
実施例8:
ポリベンゾオキサゾールポリマー膜PBO(ODPA−APAF−400C)(PBO(ODPA−APAF−400C)と略す)の製造:
[0057]実施例6において製造したポリ(ODPA−APAF)ポリマー膜を、N流下において5℃/分の加熱速度で50℃から400℃に加熱することによって、ポリベンゾオキサゾールポリマー膜PBO(ODPA−APAF−400C)を製造した。膜を400℃において1時間保持し、次にN流下において5℃/分の加熱速度で50℃に冷却した。
【0077】
実施例9:
架橋PBO(ODPA−APAF−450C)ポリベンゾオキサゾールポリマー膜(架橋PBO(ODPA−APAF−450C)と略す)の製造:
[0058]実施例7において製造したPBO(ODPA−APAF−450C)ポリマー膜を、UVランプから発生させた254nmの波長のUV光を用い、1.9cm(0.75インチ)の膜表面からUVランプへの距離及び20分間の照射時間で、50℃においてUV放射線に曝露することによってUV架橋することにより、架橋PBO(ODPA−APAF−450C)ポリマー膜を製造した。用いたUVランプは、Ace Glass Incorporatedからの12Wの電源による低圧の水銀アーク液浸UV石英12Wランプであった。
【0078】
実施例10:
架橋PBO(ODPA−APAF−400C)ポリベンゾオキサゾールポリマー膜(架橋PBO(ODPA−APAF−400C)と略す)の製造:
[0059]実施例8において製造したPBO(ODPA−APAF−400C)ポリマー膜を、UVランプから発生させた254nmの波長のUV光を用い、1.9cm(0.75インチ)の膜表面からUVランプへの距離及び20分間の照射時間で、50℃においてUV放射線に曝露することによってUV架橋することにより、架橋PBO(ODPA−APAF−400C)ポリマー膜を製造した。用いたUVランプは、Ace Glass Incorporatedからの12Wの電源による低圧の水銀アーク液浸UV石英12Wランプであった。
【0079】
実施例11:
PBO(BTDA−APAF−450C)及び架橋PBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜のCO/CH分離性能:
[0060]実施例4において製造したPBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜、及び実施例5において製造した架橋PBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜を、それぞれ50℃及び100℃の試験温度下でCO/CH分離に関して試験した(表1)。表1から、PBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜は高いCO透過性(PCO2=50℃の試験温度において535.9Barrer)、及び中程度のCO/CH選択率(50℃の試験温度において26.0)を示したことが分かる。架橋の後、架橋PBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜は、50℃及び100℃の試験温度の両方においてそれぞれPBO(BTDA−APAF−450C)膜と比較してCO/CH選択率(50℃の試験温度において48.4)の著しい増加を示した。
【0080】
【表1】

【0081】
実施例12:
PBO(BTDA−APAF−450C)及び架橋PBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜のH/CH分離性能:
[0061]実施例4において製造したPBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜、及び実施例5において製造した架橋PBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜を、50℃の試験温度下でH/CH分離に関して試験した(表2)。表2から、架橋PBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜は133の高いH/CH選択率を示し、これはPBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜の値よりも3倍超高いものであったことが分かる。これらの結果は、架橋PBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜がH/CH分離のための良好な候補材料であることを示唆している。
【0082】
【表2】

【0083】
実施例13:
PBO(BTDA−APAF−450C)及び架橋PBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜のプロピレン/プロパン分離性能:
[0062]実施例4において製造したPBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜、及び実施例5において製造した架橋PBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜を、50℃の試験温度下でプロピレン/プロパン分離に関して試験した(表3)。表3から、PBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜のプロピレン/プロパン選択率は、UV放射線によって膜を架橋した後に12.6から19.1に増加したことが分かる。これらの結果は、架橋PBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜はまた、プロピレン/プロパン分離のための良好な候補材料でもあることを示唆している。
【0084】
【表3】

【0085】
実施例14:
PBO(ODPA−APAF−450C)及び架橋PBO(ODPA−APAF−450C)ポリマー膜のCO/CH分離性能:
[0063]それぞれ実施例7及び実施例9において製造したPBO(ODPA−APAF−450C)及び架橋PBO(ODPA−APAF−450C)ポリマー膜を、50℃において、690kPaの純ガス圧力下でCO/CH分離に関して試験した(表4)。表4から、450℃において熱処理することによってポリ(ODPA−APAF)ポリイミド膜から製造されたPBO(ODPA−APAF−450C)ポリマー膜は、同じ試験条件下で通常の酢酸セルロースポリマー膜よりも50倍高い545BarrerのCO透過率(PCO2)を示したことが分かる。しかしながら、このPBO(ODPA−APAF−450C)ポリマー膜のCO/CH選択率(αCO2/CH4=22)は、通常の酢酸セルロースポリマー膜と同等である。架橋の後、架橋PBO(ODPA−APAF−450C)ポリマー膜は、未架橋のPBO(ODPA−APAF−450C)膜と比較して二倍のCO/CH選択率(αCO2/CH4=45)を示した。架橋PBO(ODPA−APAF−450C)ポリマー膜のCO透過率(PCO2)は、なお通常の酢酸セルロースポリマー膜のものよりも15倍超高い。
【0086】
【表4】

【0087】
実施例15:
PBO(ODPA−APAF−400C)及び架橋PBO(ODPA−APAF−400C)ポリマー膜のCO/CH分離性能:
[0064]それぞれ実施例8及び実施例10において製造したPBO(ODPA−APAF−400C)及び架橋PBO(ODPA−APAF−400C)ポリマー膜を、50℃において、690kPaの純ガス圧力下でCO/CH分離に関して試験した(表5)。表5から、400℃において熱処理することによってポリ(ODPA−APAF)ポリイミド膜から製造されたPBO(ODPA−APAF−400C)ポリマー膜は、同じ試験条件下で通常の酢酸セルロースポリマー膜よりも13倍高い143BarrerのCO透過率(PCO2)を示したことが分かる。このPBO(ODPA−APAF−400C)ポリマー膜のCO/CH選択率(αCO2/CH4=32)は、通常の酢酸セルロースポリマー膜のものよりも45%高い。架橋の後、架橋PBO(ODPA−APAF−400C)ポリマー膜は、未架橋のPBO(ODPA−APAF−400C)膜と比較して更に増加したCO/CH選択率(αCO2/CH4=45)を示した。架橋PBO(ODPA−APAF−400C)ポリマー膜のCO透過率(PCO2)は、なお通常の酢酸セルロースポリマー膜のものよりも8倍高い。
【0088】
【表5】

【0089】
比較例:
[0065]5つのプロセスシミュレーション実施例を検討して、高気体透過性の架橋ポリベンゾオキサゾールポリマー膜を商業的に入手できる膜と比較した。比較例1は、現在商業的に入手できる膜を用いた単一段階システムであった。比較例2及び3は、表1に示す高気体透過性架橋PBO(BTDA−APAF−450C)膜を用いた単一段階システムであった。比較例1及び2は50℃の供給流温度において運転した。運転中に膜表面上で液体が凝縮することを抑止するのに十分な露点の余裕を得るために、これらの2つの例においては、UOP LLCによって開発されたモレキュラーシーブを用いるMemGuardと呼ばれる予備処理再生可能な吸着剤システムを適用した。比較例3は、架橋ポリベンゾオキサゾールポリマー膜の高い熱安定性及び機械安定性のために、100℃の高い供給流温度において運転した。高温において膜システムを運転することによって十分な露点の余裕が与えられたので、比較例3においては予備処理システムは必要でなかった。
【0090】
[0066]天然ガス流からの炭化水素の回収を向上させるために、二段階膜システムを検討した。比較例4においては、第1及び第2段階の両方に関して商業的に入手できる膜を用いた。比較例4に関してはMemGuardのような予備処理システムが必要であろう。比較例5においては、第1及び第2段階膜の両方に関して、高気体透過性架橋PBO(BTDA−APAF−450C)膜を用いた。比較例5においては、第1段階を昇温温度において運転して、生成ガスのために十分な露点マージンを与えた。比較例5に関しては予備処理システムは必要ではなかった。比較例5の第2段階は、膜の選択率を増加させて炭化水素消失を減少させるために、50℃の供給流温度において運転した。重質炭化水素が第2段階供給流に達するのは困難であるので、MemGuardのような予備処理ユニットは必要ではなかった。
【0091】
[0067]比較例1、2、及び3においては、8%のCOを有する天然ガス供給流を想定した。COに関する製品規格は2%である。比較例1においては、商業的に入手できる膜が現在の天然ガス改質市場において代表的な性能を有する膜であるとみなした。比較例2及び3においては、架橋PBO(BTDA−APAF−450C)(表1に示す)膜を用いて、200mmの厚さを有する膜を製造した。新規な高気体透過性架橋PBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜の透過率は、密な膜に関して測定された透過率を基準として50℃において0.030m(STP)/m・h・kPaであり、100℃において0.044m(STP)/m・h・kPaであると仮定し、選択率は50℃において44であり、100℃において15である(これは表1に示す選択率よりも低い)と仮定した。比較例1、2、及び3に関して、上記の性能を基準とするプロセスシミュレーションを行った。結果を表6に示す。
【0092】
【表6】

【0093】
[0068]上記の例を比較することによって、比較例2は比較例1と比べて大きなコストの節約(59.8%少ない膜面積しか必要でない)及びより高い炭化水素回収率(7.4%高い)を示したことが分かる。比較例3は、膜面積を節約(82.6%)することができるだけでなく、僅かに低い炭化水素回収率で高コストのMemGuard予備処理システムを排除することもできる。新規な高気体透過性及び高選択性の架橋ポリベンゾオキサゾールポリマー膜システムによって、膜システムのコスト、及び大規模の沖合ガス処理プロジェクトのために非常に重要な設置面積は大きく減少することが期待される。
【0094】
[0069]比較例4及び5において示すように、二段階膜システムを運転することによって炭化水素回収率を増加させることができる。比較例4においては、両方の段階において、比較例1におけるものと同等の性能データを有する商業的に入手できる膜を適用した。比較例4においては、第1段階及び第2段階の両方に関して架橋PBO(BTDA−APAF−450C)ポリマー膜を用いた。第1段階は、MemGuardシステムを排除するために昇温温度において運転した。第2段階は、選択率を増加させるためにより低い温度において運転した。比較例3及び4における天然ガス供給流は45%COに変化し(二段階システムに関してはより重要である)、これらの2つの例におけるCOに関する製品規格は8%と見なされた。表7に、比較例4及び5に関するシミュレーションの結果を示す。
【0095】
【表7】

【0096】
[0070]表7から、比較例4及び比較例5は非常に類似した炭化水素回収率を有することが分かる。第1段階膜に関する高温運転のために、比較例5ではMemGuardシステムのような予備処理(これは比較例4の全コストの10〜40%である)は必要ない。同時に、比較例4から比較例5へ、第1段階膜の面積は79.5%減少し、第2段階膜の面積は59.2%減少する。比較例5は比較例4と比べて大きな設備コストの節約(>50%)及び設置面積の節約(>50%)を与えると期待することができる。唯一の欠点は、圧縮機が僅かに大きくなることである。表7は、比較例4から比較例5へ馬力が7.5%増加することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)まず、ポリマー骨格中において、複素環式イミド窒素に対してオルト位の懸垂−OH又は−SH基、及び架橋性官能基を含むポリイミドポリマーを提供又は合成すること;
(b)ポリイミドポリマーからポリイミド膜を製造すること;
(c)不活性雰囲気下又は真空下において、300℃〜600℃に30秒間〜1時間加熱する第1の転化工程を含む工程で、ポリイミド膜をポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾール膜に転化させること;及び
(d)ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾール膜を架橋処理にかける第2の転化工程を行うこと;
を含む、架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜の製造方法。
【請求項2】
架橋処理が化学的架橋及びUV放射からなる群から選択される、請求項1に記載の架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜の製造方法。
【請求項3】
架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜の選択層の表面を、ポリシロキサン、フルオロポリマー、熱硬化性シリコーンゴム、及びUV放射線硬化性エポキシシリコーンからなる群から選択される高透過性材料の薄層で被覆することを更に含む、請求項1に記載の架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜の製造方法。
【請求項4】
ポリイミドポリマーが、式(II):
【化1】

(ここで、式(II)のX1は
【化2】

又はこれらの混合物であり;式(II)のX2は、X1と同じか、或いは
【化3】

又はこれらの混合物から選択され;式(II)の−Y−は
【化4】

又はこれらの混合物であり;−Z−、−Z’−、及び−Z”−は、独立して、−O−又は−S−であり;−R−は
【化5】

又はこれらの混合物である。)
の複数の繰り返し単位を有する、請求項1に記載の架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜の製造方法。
【請求項5】
式(II)のX1及びX2が同一であり、
【化6】

及びこれらの混合物の群から選択され;式(II)のYが
【化7】

及びこれらの混合物の群から選択される、請求項1に記載の架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜の製造方法。
【請求項6】
式(II)のX1が
【化8】

又はこれらの混合物の群から選択され;式(II)のX2が
【化9】

又はこれらの混合物の群から選択され;式(II)のYが
【化10】

又はこれらの混合物の群から選択される、請求項1に記載の架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜の製造方法。
【請求項7】
ポリイミドポリマーが、ポリ[3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン](ポリ(BTDA−APAF))、ポリ(3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物−3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノ−ビフェニル)(ポリ(BTDA−HAB))、ポリ[3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン](ポリ(DSDA−APAF))、ポリ(3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(ポリ(DSDA−APAF−HAB))、ポリ[2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物−3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン](ポリ(6FDA−BTDA−APAF))、ポリ[4,4’−オキシジフタル酸無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン](ポリ(ODPA−APAF))、ポリ[4,4’−オキシジフタル酸無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル](ポリ(ODPA−APAF−HAB))、ポリ[3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン−3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル](ポリ(BTDA−APAF−HAB))、及びポリ(4,4’−ビスフェノールA二無水物−3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン](ポリ(BPADA−BTDA−APAF))からなる群から選択される、請求項1に記載の架橋ポリベンゾオキサゾール及びポリベンゾチアゾールポリマー膜の製造方法。
【請求項8】
(a)請求項1〜7のいずれかに記載の方法にしたがって、少なくとも1種類の気体又は液体に対して透過性の架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜を供給すること;
(b)架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜の一面上に複数の気体又は液体の混合物を接触させて、少なくとも1種類の気体又は液体を架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜を透過させること;及び
(c)膜の反対側から、膜を透過した少なくとも1種類の気体又は液体の部分である透過気体又は液体組成物を取り出すこと;
を含む、架橋ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾチアゾールポリマー膜を用いて複数の気体又は液体の混合物から少なくとも1種類の気体又は液体を分離する方法。
【請求項9】
複数の気体が、CO/CH、CO/N、H/CH、O/N、HS/CH、オレフィン/パラフィン、及びイソパラフィン/n−パラフィンからなる群から選択される混合物である、請求項8に記載の複数の気体又は液体の混合物から少なくとも1種類の気体又は液体を分離する方法。
【請求項10】
複数の気体又は液体が、メタン、並びに二酸化炭素、酸素、窒素、水蒸気、硫化水素、ヘリウム、及び他の微量ガスからなる群から選択される少なくとも1種類の気体成分を含む天然ガスを含む、請求項8に記載の方法

【公表番号】特表2012−521871(P2012−521871A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502061(P2012−502061)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/024855
【国際公開番号】WO2010/110975
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(598055242)ユーオーピー エルエルシー (182)
【Fターム(参考)】