説明

高段差基板向け保護膜用塗布組成物

【課題】 MEMS製造における基板の加工工程において、基板の保護膜、特にシリコンのエッチング時のウエハおよび/またはデバイス面を保護するために用いられる保護膜を作製するための塗布組成物を提供する。
【解決手段】 水溶性樹脂を有機溶媒に溶解させた半導体素子保護膜用塗布組成物であって、水溶性樹脂は分子量900000〜2000000の水溶性樹脂(A)と、分子量45000〜120000の水溶性樹脂(B)とを含み、水溶性樹脂(A):水溶性樹脂(B)の質量比で1:3〜1:9と、水溶性樹脂(A)と水溶性樹脂(B)とを合わせた水溶性樹脂の濃度が20〜28質量%となるように溶解させた半導体素子保護膜用塗布組成物。水溶性樹脂が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、および水溶性セルロース誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS製造における基板の加工工程において、基板の保護膜、特にシリコンのエッチング時のウエハおよび/またはデバイス面を保護するために用いられる保護膜を作製するための塗布組成物である。
【背景技術】
【0002】
表面に半導体素子が形成されたウエハを保管・輸送する際に損傷、汚染を防止する方法が提案されている。すなわち、半導体素子はウエハに様々な加工、積層を通してチップを作製する工程と、さらに作製されたチップを切断し、リードフレームに固定し、パッケージングする組立工程がある。これらの工程は連続して行われる場合と異なる立地で行われる場合がある。異なる立地で工程が行われる場合は、ウエハおよびチップを搬送しなければならないが、この搬送中に半導体素子が形成されたウエハ損傷防止のため、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性樹脂を水に溶解した水溶液を塗布・乾燥し被膜を形成させて保護する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
半導体の集積回路は、半導体材料若しくは絶縁材料の表面または半導体材料の内部に、トランジスターその他の回路素子を生成させ、かつ、不可分の状態にした製品であって、電子回路の機能を有するように設計したものをいう。その半導体の集積回路はウエハ状態で加工される場合、薄膜(数nm〜数μm)程度の平面を加工するプロセスで作製され、面内段差も小さい。
一方、MEMS(メムス、Micro Electro MechanicalSystems)は、機械要素部品、センサー、アクチュエータ、電子回路を一つのシリコン基板、有機材料などの上に集積化したデバイスであり、立体形状を形成する。
【0004】
この立体形状を形成するために、最近までは、サーフェイスマイクロマシニングと称される技術が主流であった。すなわち、薄膜(数nm〜数μm程度)を加工し、成膜・リソグラフィ・エッチングの繰り返しでMEMSデバイスを作製する技術で、集積回路作製技術に犠牲層エッチングを付加したものであり、集積回路作製が主体となる技術である。
しかしながら、近年はバルクマイクロマシニングと称される技術が主流でとなってきている。ウエハに厚膜(数十μm以上)もしくは高段差(数十μm以上)を形成してMEMSデバイスを作製する技術である。最近ではボッシュ法等のICP−RIEによるエッチングが可能となったため、シリコンを垂直に深掘りエッチングすることができるようになった。
【0005】
したがって、MEMS作製、特にバルクマイクロマシニングによる深堀りエッチングによって形成される工程は、半導体集積回路製造工程とは大きく異なる。シリコンウエハを加工して製造されるMEMSデバイスは、多くの場合シリコンウエハ表裏両面の加工を行う。
最初に、シリコンウエハのエッチング方法について述べる。
ウエハ面の一方(ウエハ表面)をデバイス面として作製する場合、デバイス面は金属、酸化膜、窒化膜等が形成されている。これに対しデバイスとの反対のシリコン面(ウエハ裏面)は、異方性エッチング等により、シリコンを数十乃至数百μmの加工(主にシリコンのホール、または空洞形状)を施す。
この加工を行なう際は、通常はKOH(水酸化カリウム)水等のアルカリ水溶液を用いて、シリコンの各結晶面に対するエッチング速度の違いを利用して、ホール形状を作製している。
【0006】
しかし近年、MEMSデバイスの軽薄短小化に伴い、新たにSF(六フッ化硫黄)およびC(オクタフルオロシクロブタン)等のプラズマでシリコンウエハをエッチングしてホール形状を作製するボッシュ法が盛んになってきている。
このボッシュ法では、エッチング装置内にウエハを搬送し、エッチングを施し、ウエハが取り出される。この場合、デバイス面が下になるため、搬送アーム等にデバイス面が当たるとデバイス部分に損傷を起こし、不良品となるため歩留まりが低下する。そこで、一時的にこのデバイス面を保護し、使用後は簡単に除去できる保護膜が望まれる。
【0007】
また、各装置内をロボットアーム等で自動搬送される場合は、保護膜は表面の平滑性が要求される。凹凸のない平坦な膜でないと、ウエハが所定の位置に設置されない、または搬送中にウエハが落下するなどの恐れがある。
さらにボッシュ法によるエッチング装置では、ウエハは静電チャックによる吸着で固定されるが、実際のエッチング時には、ウエハと静電チャックの間にヘリウムガスを流して、ウエハ表面の熱を逃がしている。この際、静電チャックに接するウエハ表面が平坦でない場合、ヘリウムガスの流出量が大きくなり、エッチング装置内のウエハが静電チャックでしっかり固定できない。ウエハが十分固定できない場合は、エッチング中にウエハが動くため、精度の良いエッチングができなくなるという問題が発生する。そのため、通常はヘリウムのリーク量の上限値を設定して、この値を超えるとエッチング装置の安全装置が働き、エッチング工程の処理が進まない仕組みになっている。したがって、ヘリウムのリーク量が設定値以下になるような保護膜の表面平滑性が要求される。
先にも述べたとおりシリコンウエハを加工して製造されるMEMSデバイスは、ウエハの裏表両面にエッチングを施す場合が多い。
【0008】
すなわち、ウエハの片面をKOH等のアルカリ水、もしくはボッシュ法によるドライエッチングでシリコンウエハの深掘りエッチングを行って高段差形状を作製し、次に反対面をエッチングする工程である。そのため、片面に段差のあるウエハを、ボッシュ法によるシリコンエッチング装置を用いてもう一方の面のシリコンエッチング加工を行う場合、段差を保護し、かつ平坦にできる保護膜が必要である。そのため、数十乃至数百μmの深さの段差形状を覆う保護膜が必要である。
【0009】
この段差形状の保護においては、搬送する面、すなわち装置内で下側になる面の保護が必要である。この保護に関しては、段差部分を完全に埋め込み、保護膜形成後のウエハ表面が完全に平らであるものが理想的である。しかしながら、この保護膜に求められる要求は、段差上部の角の部分を保護し、搬送等でデバイス部がダメージを受けなければ良い。したがって、求められる保護性能は、段差を完全に埋め込まなくてもよいが、段差上部の角を十分な膜厚で保護し、かつ保護膜の表面が平滑であることである。
【0010】
また、段差被覆性に加えて大事なことは、膜にクラックが発生しないことである。膜にクラックが発生する場合、クラックが入った箇所の一部が装置内に落下または付着し、装置を汚染する原因になるためである。また、クラックのある箇所から、膜が一部剥げ落ちると本来必要とされるデバイスの保護ができない。そのため、クラックの発生は避ける必要がある。
さらに、保護膜は目的の加工工程を行った後は、除去が必要である。この除去に関しては、デバイスへのダメージを与えること無く除去する必要があるため、なるべく多くの除去方法が存在することが望ましい。その除去方法には、有機溶媒、水から構成される薬液によるウエット除去による方法、酸素プラズマ等によるドライエッチングによる方法がある。そしてデバイスによっては、酸素プラズマの影響によるデバイスに対する酸化の影響から、ドライエッチング除去が好まれず、ウエット除去が好まれる場合がある。そのウエット除去を行う場合には、デバイスへのダメージ低減から、有機溶媒のみ、あるいは水のみで除去する方法が望ましく、デバイスの種類によって選択できることが望ましい。
このような水および有機溶媒による保護膜の除去が可能な樹脂としては、水溶性樹脂が考えられる。
そこで以下の特性を持つ保護膜が望ましい。簡単に平滑な膜の形成ができ、使用後に膜の除去が容易である。特に使用後は、酸素プラズマエッチング、または水、有機溶媒によるウエット除去が可能である。段差形状の上部角の部分の保護性能が十分ある。クラックが発生しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−106981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、これまで述べたように、MEMS製造時の基板の保護膜、特にシリコンウエハのエッチング時のデバイス面の保護膜としては、以下の特性を満たす膜を得ることができる半導体素子保護膜用塗布組成物を提供することである。
すなわち、容易に平坦な膜の形成ができ、かつ高段差形状を有する基板(高段差基板)の段差を被覆し、かつウエハ上の膜が平坦であること。使用後に膜の除去が容易であり特に使用後は、酸素プラズマエッチング、または水、有機溶媒によるウエット除去が可能であること。さらにデバイス面を十分保護するために、50μm深さの段差を保護膜が被覆でき、膜にクラックが入らないことであり、これらの要求を満たす半導体素子保護膜用塗布組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明は第1観点として、水溶性樹脂を有機溶媒に溶解させた半導体素子保護膜用塗布組成物であって、水溶性樹脂は分子量900000〜2000000の水溶性樹脂(A)と、分子量45000〜120000の水溶性樹脂(B)とを含み、水溶性樹脂(A):水溶性樹脂(B)の質量比で1:3〜1:9と、水溶性樹脂(A)と水溶性樹脂(B)とを合わせた水溶性樹脂の濃度が20〜28質量%となるように溶解させた半導体素子保護膜用塗布組成物、
第2観点として、水溶性樹脂が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、および水溶性セルロース誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種であること特徴とする第1観点に記載の半導体素子保護膜用塗布組成物、
第3観点として、水溶性樹脂が、ポリビニルピロリドンであること特徴とする第1観点に記載の半導体素子保護膜用塗布組成物、及び
第4観点として、有機溶媒が、低級アルコール、グリコール、グリコールエーテル、アミド結合を有するアミド系溶媒、乳酸エステル、およびジメチルスルオキサイドからなる群から選ばれた少なくとも1種であること特徴とする第1観点に記載の半導体素子保護膜用塗布組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の高分子量体と低分子量体を混合した水溶性樹脂溶液を用いることにより、段差上部の角の部分の保護が可能で、4インチ段差ウエハ上に平滑な膜を形成することが可能である。
さらに、塗膜は真空状態においてもクラックが発生せず、装置汚染を起こすことは無い。
さらに、ウエハ搬送および加工後はこの水溶性樹脂膜を容易に除去することができる。すなわち、水に溶解させて除去することができる。また、有機溶媒に溶解させて除去することができる。さらに硫酸・過酸化水素水による除去することができる。
【0015】
また、上記液体による除去方法以外にも、酸素などのプラズマ等のガスによるエッチングまたはアッシングにて除去することができる。
【0016】
本願発明は水溶性樹脂を有機溶剤に溶解したことにより、種々の方法で当該保護膜の除去が可能になる。この水溶性樹脂は高分子量と低分子量の水溶性樹脂を上述の割合で組み合わせることにより、塗布した際の被覆性、特に高い段差を有する基板をクラック(耐クラック性)なく、気泡を残さず(平滑性)に、段差上部の角を十分な膜厚で被覆する(段差被覆性)ことができるものである。特に、深さ0.1〜50μm、線幅10〜1000μmの段差を有する基板に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは鋭意研究した結果、水溶性樹脂の高分子量体と低分子量体を混合することに得られた溶液組成物を用いることによって上記の課題が達成できることを見いだし、本発明を成したものである。
【0018】
すなわち本発明は、以下に記載の水溶性樹脂を有機溶媒に溶解させた半導体素子保護膜用塗布組成物の発明に関する。
水溶性樹脂を有機溶媒に溶解させた半導体素子保護膜用塗布組成物であって、水溶性樹脂は分子量900000〜2000000の水溶性樹脂(A)と、分子量45000〜120000の水溶性樹脂(B)とを含み、水溶性樹脂(A):水溶性樹脂(B)の質量比で1:3〜1:9と、水溶性樹脂(A)と水溶性樹脂(B)とを合わせた水溶性樹脂の濃度が20〜28質量%となるように溶解させた半導体素子保護膜用塗布組成物である。
水溶性樹脂は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、および水溶性セルロース誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種であり、好ましくはポリビニルピロリドンである。
【0019】
さらに水溶性樹脂を溶解させる溶媒としては有機溶媒を用いる。有機溶媒が、低級アルコール、グリコール、グリコールエーテル、アミド結合を有するアミド系溶媒、乳酸エステル、およびジメチルスルオキサイドからなる群から選ばれた少なくとも1種である。溶解させる溶媒として具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、シクロヘキサノール等の低級アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテルなどの水酸基(−OH)含有有機溶媒が挙げられる。
【0020】
また、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−ビニルピロリドン等のアミド結合(−CO−N<)を有するアミド系溶媒が挙げられる。さらには、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等の乳酸エステル、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、メチレンクロライドなども使用できる。
なお、これらの有機溶媒は混合しても用いることができる。また、有機溶媒中には 吸水する程度の水の含有は可能であるが、好ましくは無いほうが良い。膜厚1μm以上の塗布膜を形成するためには、高分子量の水溶性樹脂を用いるか、または水溶性樹脂の濃度を高くする必要があるため、上記の良溶媒が望ましい。必要により、水溶性樹脂を溶解した溶液中には、溶液の塗布性を良くするため、界面活性剤などの塗布性改良剤を添加しても良い。
【0021】
塗布組成物の分子量に関しては、水溶性樹脂溶液を用いた塗布膜がクラックを発生せず、パターン段差上部の角を被覆し、ウエハ表面に気泡跡などがなく平滑となる必要があるため、高分子量体と低分子量体を溶解させた組成物が望ましい。高分子量体に関しては、重量平均分子量90万〜200万以下の水溶性樹脂(A)と、低分子量体に関しては、重量平均分子量4.5万〜12万以下の水溶性樹脂(B)であるものが望ましい。
水溶性樹脂(A)と水溶性樹脂(B)は同一の水溶性樹脂を用いることも、異なる水溶性樹脂を組み合わせることもできる。
【0022】
本願発明の半導体素子保護膜用塗布組成物は、水溶性樹脂(A)と水溶性樹脂(B)はそれぞれを有機溶媒に溶解させて製造する方法、水溶性樹脂(A)の有機溶媒溶液と水溶性樹脂(B)の有機溶媒溶液とを混合させる方法で得られる。
水溶性樹脂(A)と水溶性樹脂(B)を有機溶媒に溶解させて製造する方法では、水溶性樹脂(A)を先に添加することも、水溶性樹脂(B)を先に添加することも、両者を同時に添加することもできる。
水溶性樹脂(A)の有機溶媒溶液と水溶性樹脂(B)の有機溶媒溶液とを混合させる方法を用いる場合は、例えば水溶性樹脂(A)の有機溶媒溶液の濃度が2〜7質量%、好ましくは3〜5質量%とすることができる。水溶性樹脂(B)の有機溶媒溶液の濃度が11質量%〜27質量%、好ましくは9〜25質量%とすることができる。
そして、水溶性樹脂(A)と水溶性樹脂(B)を合わせた樹脂の有機溶媒中での合計濃度は20〜28質量%とすることができる。これより濃度が低いと、段差被覆性が不十分でかつクラックが入り、これより濃度が高いと、気泡跡が発生して、平滑性に問題がある。
半導体素子保護膜用塗布組成物は粘度が200〜2000mPa・s、好ましくは300〜1000mPa・sとすることができる。本願発明の半導体素子保護膜用塗布組成物は上記水溶性樹脂以外に必要に応じて、溶液の塗布性を良くするため、界面活性剤などの塗布性改良剤を添加剤として加えることができる。
【0023】
本願発明の半導体素子保護膜用塗布組成物は、半導体基板上にスピンコーター等の装置を用いて塗布する。塗布後、50〜250℃で30秒〜30分間の焼成工程を経て保護膜が得られる。この焼成には、ホットプレートまたはオーブン等の装置を用いて行われる。得られた保護膜の膜厚は5〜25μm程度である。
【0024】
また、水溶性樹脂の分子量の分析に関しては、GPC分析法の例を以下にあげるが、水溶性樹脂の分子量が分析できる方法であれば、これに限定されるものではない。以下にポリビニルピロリドン水溶液中のポリビニルピロリドンの分子量の測定方法の例を示す。DMFはジメチルホルムアミドを示す。
【0025】
カラム:昭和電工株式会社製、商品名Shodex GCP KD−806M
溶離液:DMF(DMF中に1.0mMのLiBrを含有)
速度:1.0mL/min
検知器:RI
カラム温度:27℃
【実施例】
【0026】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
<保護膜用の樹脂溶液の準備>
・水溶性樹脂(A)
ポリビニルピロリドン(BASF社製品、商品名Luvitec、K90、重量平均分子量120万〜200万)を準備した。
・水溶性樹脂(B)
ポリビニルピロリドン(BASF社製品、商品名Luvitec、K30、重量平均分子量4.5万〜5.5万)を準備した。
・水溶性樹脂(C)
ポリビニルピロリドン(BASF社製品、商品名Luvitec、K17、重量平均分子量7000〜11000)を準備した。
【0027】
水溶性樹脂(A)〜(C)の粉末を表1記載の通りに所定の質量比でプロピレングリコールモノメチルエーテル(以下PGME)に溶解し樹脂溶液を作製し半導体素子保護膜用塗布組成物とした。表1には水溶性樹脂(A)〜(C)のPGMEへの添加量と、水溶性樹脂(A)〜(C)の合計量のPGME溶液中での質量濃度を示した。
【0028】
<保護膜の平滑性試験>
50μm深さ(線幅50μm)のL/S段差を持つ段差4インチシリコンウエハを用い、先に準備した各種の半導体素子保護膜用塗布組成物を用いて塗布試験を行った。
塗布条件は、温度23℃でスピンコート法にて、500rpmで15秒、次いで1000rpmで30秒間回転させ、塗布し、100℃で2分、140℃で2分間の順で加熱焼成し保護膜を形成した。
観察は、得られた保護膜を目視および光学顕微鏡にて気泡跡の有無で判断した。気泡跡無しは記号(○)で、気泡跡有りは記号(×)で示した。
【0029】
<保護膜のクラック試験>
上記の得られた保護膜をサンプルとして蒸着器(HITACHI ION SPUTTER E1045)に入れ、器内部の圧力を常圧から6Paまで下げ、1分間保持して、サンプルを取り出し後、クラックの有無を走査型電子顕微鏡SEM(日立製作所製S4800)にて観察した。クラック無しの場合は記号(○)で、クラック有りの場合は記号(×)で示した。
【0030】
<保護膜の段差被覆性試験>
50μm深さ(線幅50μm)のL/S段差を持つ3×3cm角チップを準備し、これに保護膜の平滑性試験と同じ条件で半導体素子保護膜用塗布組成物の塗布・ベークを行った。
【0031】
段差被覆性の観察は、塗布された基板を切断し断面観察用の走査型電子顕微鏡SEM (S4800)を用いて行い、段差上部の角の被覆性で判断した。角の被覆十分である場合は記号(○)で、角の被覆不十分である場合は記号(×)で示した。
【0032】
それらの試験結果を表2に示した。
〔表1〕
表1
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
水溶性樹脂(A) 水溶性樹脂(B) 水溶性樹脂(C) 全水溶性樹脂
質量(g) 質量(g) 質量(g) 濃度(%)
実施例1 3 20 ―― 23
実施例2 3 25 ―― 28
実施例3 5 15 ―― 20
実施例4 5 20 ―― 25
比較例1 3 10 ―― 13
比較例2 3 15 ―― 18
比較例3 3 30 ―― 33
比較例4 3 35 ―― 38
比較例5 5 10 ―― 15
比較例6 5 25 ―― 30
比較例7 8 10 ―― 18
比較例8 8 15 ―― 23
比較例9 8 20 ―― 28
比較例10 8 25 ―― 33
比較例11 10 5 ―― 15
比較例12 10 10 ―― 20
比較例13 10 15 ―― 25
比較例14 5 ―― 10 15
比較例15 5 ―― 20 25
比較例16 5 ―― 30 35
比較例17 5 ―― 40 45
比較例18 10 ―― ―― 10
比較例19 ―― 20 ―― 20
比較例20 ―― 25 ―― 25
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【0033】
〔表2〕
表2
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粘度 膜厚 クラック試験 平滑試験 被覆試験
(mPa・s) (μm)
実施例1 330 8.5 ○ ○ ○
実施例2 690 13.6 ○ ○ ○
実施例3 510 8.3 ○ ○ ○
実施例4 960 13.9 ○ ○ ○
比較例1 100 3.1 ○ ○ ×
比較例2 170 5.3 ○ ○ ×
比較例3 1400 20.9 × × ×
比較例4 3430 33.5 × × ×
比較例5 290 5.1 ○ ○ ×
比較例6 1830 20.0 ○ × ○
比較例7 1000 9.3 ○ × ○
比較例8 1880 15.3 ○ × ○
比較例9 3320 24.4 ○ × ○
比較例10 6850 39.4 ○ × ○
比較例11 1400 9.0 ○ × ○
比較例12 1700 11.1 ○ × ○
比較例13 4500 25.4 ○ × ○
比較例14 170 4.3 ○ ○ ×
比較例15 340 9.5 × ○ ○
比較例16 990 19.8 × × ○
比較例17 4260 43.0 × × ○
比較例18 830 4.7 ○ × ○
比較例19 60 4.3 ○ ○ ×
比較例20 140 8.4 × ○ ×
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
水溶性樹脂を高分子量/低分子量範囲の上述範囲の組み合わせによりで十分な特性を示した。
【0034】
また、水溶性樹脂を高分子量/低分子量範囲の上述範囲を超える範囲の水溶性樹脂を組み合わせた場合や、高分子量/低分子量範囲の水溶性樹脂を組み合わせなかった場合は十分な性能が得られない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、水溶性樹脂の高分子量体と低分子量体の両方を特定の割合で有機溶媒に溶解した溶液による塗布組成物を用いることによって段差ウエハ上に平滑な保護膜を形成することができ、ウエハ搬送および加工に際し、ウエハ上の素子が損傷を受ける心配がなくなる。また保護膜は水または有機溶媒で容易に除去でき、ウエハ上に何ら痕跡も残さないので、その後の工程においても、ウエハ上の素子の使用に支障をきたすことがない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性樹脂を有機溶媒に溶解させた半導体素子保護膜用塗布組成物であって、水溶性樹脂は分子量900000〜2000000の水溶性樹脂(A)と、分子量45000〜120000の水溶性樹脂(B)とを含み、水溶性樹脂(A):水溶性樹脂(B)の質量比で1:3〜1:9と、水溶性樹脂(A)と水溶性樹脂(B)とを合わせた水溶性樹脂の濃度が20〜28質量%となるように溶解させた半導体素子保護膜用塗布組成物。
【請求項2】
水溶性樹脂が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、および水溶性セルロース誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種であること特徴とする請求項1に記載の半導体素子保護膜用塗布組成物。
【請求項3】
水溶性樹脂が、ポリビニルピロリドンであること特徴とする請求項1に記載の半導体素子保護膜用塗布組成物。
【請求項4】
有機溶媒が、低級アルコール、グリコール、グリコールエーテル、アミド結合を有するアミド系溶媒、乳酸エステル、およびジメチルスルオキサイドからなる群から選ばれた少なくとも1種であること特徴とする請求項1に記載の半導体素子保護膜用塗布組成物。

【公開番号】特開2011−29422(P2011−29422A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173918(P2009−173918)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】