説明

高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法

【課題】優れた重合性を有するN−ビニルカルボン酸アミドを低コストで得られる高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明のN−ビニルカルボン酸アミドの製造方法は、(A)N−ビニルカルボン酸アミドを50〜97質量%の量で含む粗N−ビニルカルボン酸アミドを、炭素数1〜3のアルコールに溶解する工程と、(B)前記工程(A)で得られた組成物に炭素数5〜10の脂肪族炭化水素を加えて、N−ビニルカルボン酸アミドの結晶を析出する工程と、(C)前記工程(B)で析出したN−ビニルカルボン酸アミドの結晶を分離する工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、優れた重合性を有するN−ビニルカルボン酸アミドを低コストで得られる高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法として、カルボン酸アミド、アセトアルデヒドおよびアルコールからN−(1−アルコキシエチル)カルボン酸アミドを合成し、これを熱分解または接触分解して製造する方法、カルボン酸アミドとアセトアルデヒドとからエチリデンビスカルボン酸アミドを合成し、これをカルボン酸アミドとN−ビニルカルボン酸アミドとに分解して製造する方法などが知られている。
【0003】
しかしながら、前者の製造方法では、得られたN−ビニルカルボン酸アミドに、カルボン酸アミド、N−(1−アルコキシエチル)カルボン酸アミドなどの未反応物が混入しており、後者の製造方法では、N−ビニルカルボン酸アミドとカルボン酸アミドとが等モル生成し、これらの混合物が得られる。N−ビニルカルボン酸アミドと、カルボン酸アミド、N−(1−アルコキシエチル)カルボン酸アミドとの物性、すなわち、沸点、溶解性などは極めて近似しており、N−ビニルカルボン酸アミドの分離は非常に困難であった。
【0004】
これに対して、種々のN−ビニルカルボン酸アミドの精製方法の開発が試みられている。例えば、未反応物との分離が困難な蒸留による精製に代えて、水および芳香族炭化水素による抽出分離が開示されている(特許文献1参照)。また、混合有機溶媒からの冷却晶析による方法(特許文献2参照)、無機塩水溶液および芳香族炭化水素を用いた抽出による方法(特許文献3参照)なども開示されている。
【0005】
しかしながら、いずれの方法によっても、充分に高純度のN−ビニルカルボン酸アミドは得られていなかった。
これに対して、特許文献4および特許文献5には、圧力晶析による精製方法が開示されている。この方法によれば、優れた重合性を有するN−ビニルアセトアミドが比較的高純度で得られる。
【0006】
しかしながら、この方法は設備投資のコストがかさむため、大規模なスケールでないと工業的に安価な製品が供給できないという問題があった。
【特許文献1】特開昭61−289069号公報
【特許文献2】特開昭63−132868号公報
【特許文献3】特開平2−188560号公報
【特許文献4】特開平7−089916号公報
【特許文献5】特開平7−089917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、優れた重合性を有するN−ビニルカルボン酸アミドを低コストで得られる高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、
特定のアルコールおよび特定の脂肪族炭化水素を用いた処理によって、高純度N−ビニ
ルカルボン酸アミドが製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりに要約される。
[1](A)N−ビニルカルボン酸アミドを50〜97質量%の量で含む粗N−ビニルカルボン酸アミドを、炭素数1〜3のアルコールに溶解する工程と、
(B)上記工程(A)で得られた組成物に炭素数5〜10の脂肪族炭化水素を加えて、N−ビニルカルボン酸アミドの結晶を析出する工程と、
(C)上記工程(B)で析出したN−ビニルカルボン酸アミドの結晶を分離する工程と、
を含むことを特徴とする高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【0010】
[2]上記工程(A)が、30〜100℃で、上記粗N−ビニルカルボン酸アミドを炭素数1〜3のアルコールに溶解することを特徴とする上記[1]に記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【0011】
[3]上記工程(B)が、−30〜40℃で、上記N−ビニルカルボン酸アミドの結晶を析出することを特徴とする上記[1]に記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【0012】
[4]上記工程(C)が、濾過により、上記N−ビニルカルボン酸アミドの結晶を分離することを特徴とする上記[1]に記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【0013】
[5]上記アルコールが、メタノールであることを特徴とする上記[1]または[2]に記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
[6]上記脂肪族炭化水素が、n−ヘキサンおよび/または石油エーテルであることを特徴とする上記[1]または[3]に記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【0014】
[7]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法により得られた高純度N−ビニルカルボン酸アミド。
[8]上記[7]に記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドを含む単量体を重合してなるN−ビニルカルボン酸アミド(共)重合体。
【0015】
[9]上記N−ビニルカルボン酸アミドが、N−ビニルアセトアミドであることを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれかに記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【0016】
[10]上記[9]に記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法により得られた高純度N−ビニルアセトアミド。
[11]上記[10]に記載の高純度N−ビニルアセトアミドを含む単量体を重合してなるN−ビニルアセトアミド(共)重合体。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた重合性を有するN−ビニルカルボン酸アミドを低コストで得られる高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について具体的に説明する。
<高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法>
本発明に係る高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法では、粗N−ビニルカルボン酸アミドを、特定のアルコールおよび特定の脂肪族炭化水素を用いて処理することにより、97質量%を超える高純度のN−ビニルカルボン酸アミドが得られる。
【0019】
工程(A)では、N−ビニルカルボン酸アミドを50〜97質量%の量で含む粗N−ビニルカルボン酸アミドを、炭素数1〜3のアルコールに溶解する。また、この溶解工程において、粗N−ビニルカルボン酸アミド中にアルコール不溶成分が存在する場合は、予め濾過により不溶成分を除去しておけばよい。
【0020】
本発明に用いられるN−ビニルカルボン酸アミドとしては、例えば、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−メチル−N−ビニルホルムアミドなどが挙げられる。これらのうちで、N−ビニルアセトアミドが好ましく、本発明により、97質量%を超える高純度のN−ビニルアセトアミドが得られる。
【0021】
本明細書において、粗N−ビニルカルボン酸アミドとは、不純物を含むN−ビニルカルボン酸アミドを意味する。
上記粗N−ビニルカルボン酸アミドは、いずれの製造方法によって得たものでもよい。例えば、カルボン酸アミド、アセトアルデヒドおよびアルコールからN−(1−アルコキ
シエチル)カルボン酸アミドを合成し、これを熱分解または接触分解して得たものであっ
てもよい(特開昭50−76015号公報参照)。また、カルボン酸アミドとアセトアルデヒドとからエチリデンビスカルボン酸アミドを合成し、これを熱分解して得たものであってもよい(特開昭61−106546号公報参照)。
【0022】
上記不純物としては、特に制限されないが、例えば、粗N−ビニルカルボン酸アミドの製造工程で混入しうる未反応物質などが挙げられる。上記不純物としては、より具体的には、例えば、炭素数5以下のアルコール、カルボン酸アミド、N−(1−アルコキシエチ
ル)カルボン酸アミド、エチリデンビスカルボン酸アミドなどが挙げられる。
【0023】
上記粗N−ビニルカルボン酸アミドは、N−ビニルカルボン酸アミドを50〜97質量%の量で含み、好ましくは70〜97質量%の量で含むことが望ましい。N−ビニルカルボン酸アミドが50質量%未満の量で含まれている場合は、N−ビニルカルボン酸アミドの回収率が低くなることがある。また、この場合は、得られたN−ビニルカルボン酸アミドは純度が低く、優れた重合性を示さない傾向にある。
【0024】
上記粗N-ビニルカルボン酸アミドに含まれるN−ビニルカルボン酸アミドの量が50
〜70質量%の範囲の場合は、そのまま本発明の製造方法に用いてもよいが、蒸留、抽出などの操作によって、N−ビニルカルボン酸アミドの含有量を多くした後、本発明の製造方法に用いてもよい。この操作によって、粗N-ビニルカルボン酸アミド中のアルコール
不溶成分を予め除去することもできる。これらの精製操作を行った後に、本発明の製造方法に用いることは、N−ビニルカルボン酸アミドの回収率が向上するため望ましく、また、純度、重合性の観点からも望ましい。
【0025】
前述した通り、工程(A)では炭素数1〜3のアルコールを使用する。炭素数が4以上のアルコールを使用すると、粗N−ビニルカルボン酸アミドが溶解しがたくなり、精製が困難となることがあるためである。
【0026】
上記炭素数1〜3のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコールが挙げられる。これらのアルコールは単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。これらのうちで、メタノールが好ましい。
また、N−(1−アルコキシエチル)カルボン酸アミドを経由して合成された粗N−ビニルカルボン酸アミドの場合には、副生するアルコールと同一種類のアルコールを用いることが、プロセスを簡略化できるため好ましい。
【0027】
上記アルコールの量は、粗N−ビニルカルボン酸アミドを溶解しうる最少量とすることが効率の点から好ましい。不純物も含めた粗N−ビニルカルボン酸アミド1質量部に対して、上記アルコールの量は、好ましくは0.01〜2質量部、より好ましくは0.1〜1質量部であることが望ましい。なお、この量には、前工程から混入しているアルコールがある場合は、その量も含まれる。上記範囲よりも少ないと、結晶析出の際に、不純物も含めて系全体が固化して分離精製できないことがあり、上記範囲よりもあまりに多いと、N−ビニルカルボン酸アミドが析出されないことがある。
【0028】
上記粗N-ビニルカルボン酸アミドを上記アルコールに溶解する際の温度は、好ましく
は30〜100℃、より好ましくは40〜100℃であることが望ましい。温度が上記範囲内にあると、溶解度が高くなり、溶解に用いる上記アルコールの量を減らすことができる。上記範囲よりも高い温度では、N−ビニルカルボン酸アミドが変性する可能性がある。
【0029】
また、工程(B)において、アルコール層と脂肪族炭化水素層との二層分離を促進するために、上記アルコールとともに、必要に応じて水を用いてもよい。この水は、粗N-ビ
ニルカルボン酸アミド、アルコールおよび水の全量に対して、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.1〜30質量%の量で含まれることが望ましい。上記範囲よりも水の量が多いと、N−ビニルカルボン酸アミドが析出されないことがあり、N−ビニルカルボン酸アミドが加水分解される傾向にある。
【0030】
なお、本発明の製造方法においては、原料槽、濾液槽、製品容器等は、窒素、乾燥空気などの雰囲気下にしておくことが望ましい。また、粗N−ビニルカルボン酸アミドに少量の硫酸マグネシウムなどの乾燥剤を添加してもよい。これにより、N−ビニルカルボン酸アミドが、空気中の水分を吸湿して徐々に加水分解することを抑制できる。
【0031】
なお、本発明の製造方法においては、粗N−ビニルカルボン酸アミドに塩基性化合物を添加しておくことが好ましい。N−ビニルカルボン酸アミドは、酸によって、水の共存下で加水分解される傾向にあるが、これを抑制できる。
【0032】
このような塩基性化合物としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、燐酸(水素)ナトリウム、酢酸ナトリウム等のナトリウム塩;炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カリウム、燐酸(水素)カリウム、酢酸カリウム等のカリウム塩;N−フェニル−α−ナフチルアミン、4,4’−ビス(α、α-ジメチルベンジル)ジフ
ェニルアミン、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N'−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N'−(1−メチルヘプチル)−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N'−シクロヘキシル
−p−フェニレンジアミン、N,N'−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N'−ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N'−ビス(1,4−ジメチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、N,N'−ビス(1−エチル−3−メチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−メチルヘプチル)−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N'−(p−トルエンスルホニル)−p−フェニレンジアミン等の芳香族アミ
ン類などが挙げられる。これらのうちで、ナトリウム塩が好ましく、炭酸水素ナトリウムがより好ましい。
【0033】
このような塩基性化合物は、粗N−ビニルカルボン酸アミドに対して、通常1〜100
00ppm、好ましくは10〜1000ppmの量で添加されることが望ましい。上記範囲よりも多い量を添加しても、無機塩類の場合には、充分に溶解されず、実際上添加に応じた効果を発揮しない傾向にあり、芳香族アミン類の場合には、本発明の製造工程で芳香族アミン類が完全に除去されず、得られたN−ビニルカルボン酸アミドの重合性が低下する傾向にある。また、上記範囲よりも少ない量を添加しても、安定剤としての効果が得られにくい傾向にある。
【0034】
工程(B)では、工程(A)で得られた組成物に炭素数5〜10の脂肪族炭化水素を加えて、N−ビニルカルボン酸アミドの結晶を析出する。ここで、上記組成物は、アルコールに溶解しているN−ビニルカルボン酸アミドおよび不純物、ならびにアルコールからなる。
【0035】
上記炭素数5〜10の脂肪族炭化水素としては、炭素数5〜10のアルカン、炭素数5〜10のシクロアルカンが好ましい。炭素数が4以下であるアルカンまたはシクロアルカンは常温で気体であるため、適用しがたい傾向にある。炭素数が11以上であるアルカンまたはシクロアルカンは沸点が高く、精製後に除去しがたい場合がある。
【0036】
上記炭素数5〜10のアルカンとしては、具体的には、例えば、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン;n−ヘキサン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン;2,3−ジメチルブタン、2,2−ジメチルブタン;n−ヘプタンおよびその異性体;n−オクタンおよびその異性体;n−ノナンおよびその異性体;n−デカンおよびその異性体等のアルカンおよびその異性体が挙げられる。
【0037】
上記炭素数5〜10のシクロアルカンとしては、具体的には、例えば、シクロペンタン;シクロヘキサン、メチルシクロペンタン;シクロヘプタンおよびその異性体;シクロオクタンおよびその異性体;シクロノナンおよびその異性体;シクロデカンおよびその異性体等のシクロアルカンおよびその異性体が挙げられる。
【0038】
これらの脂肪族炭化水素は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
これらのうちで、操作温度、および分離する際の粘性などを考慮すると、n−ヘキサンおよびその異性体、シクロヘキサンが好ましく、n−ヘキサンがより好ましい。また、石油エーテルなどの組成物も好ましく用いられ、n−ヘキサンおよび石油エーテルの混合物も好ましく用いられる。
【0039】
上記脂肪族炭化水素は、工程(A)で得られた組成物に含まれるアルコール1質量部に対して、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは2〜30質量部の量で用いることが望ましい。上記脂肪族炭化水素の量が上記範囲よりも少ない場合は、N−ビニルカルボン酸アミドが効率よく析出しない傾向にある。また、上記範囲よりも多い場合であっても、析出効率は高くなりにくい傾向がある。
【0040】
上記N−ビニルカルボン酸アミドの結晶を析出する際の温度は、好ましくは−30〜40℃、より好ましくは−25〜30℃、さらに好ましくは−20〜10℃であることが望ましい。上記範囲よりも高いと、N−ビニルカルボン酸アミドが析出しないことがある。
【0041】
上記N−ビニルカルボン酸アミドの結晶を析出する際は、アルコール層と脂肪族炭化水素層とが二層に分離していることが好ましい。二層に分離している場合には、N−ビニルカルボン酸アミドが溶解したアルコール層から、鱗片状のN−ビニルカルボン酸アミドの結晶が脂肪族炭化水素層に析出する。また、二層に分離した状態で溶液を冷却することで、より高純度のN−ビニルカルボン酸アミドが得られる。
【0042】
工程(C)では、工程(B)で析出したN−ビニルカルボン酸アミドの結晶を分離する。
上記N−ビニルカルボン酸アミドの結晶は、そのまま上記アルコールおよび上記脂肪族炭化水素を留去して分離してもよいが、効率よく分離するためには、濾過により分離することが好ましい。
【0043】
アルコール層と脂肪族炭化水素層とが二層に分離している場合も、アルコール層と脂肪族炭化水素層とを分離せずに、そのまま溶媒を留去して、または濾過により上記結晶を得てもよい。しかしながら、まず、アルコール層と脂肪族炭化水素層とを分離し、次いで、脂肪族炭化水素層から上記結晶を分離することが好ましい。上記結晶の分離方法としては、そのまま上記脂肪族炭化水素を留去して結晶を得てもよいが、不純物との分離の観点から、濾過により分離することがより好ましい。
【0044】
得られたN−ビニルカルボン酸アミドの純度をより高くするために、本発明の製造方法を繰り返して行ってもよい。また、水素添加反応などを行い、重合を阻害する物質を除去してもよい。
【0045】
上記アルコール層には、アルコール、カルボン酸アミド、N−(1−アルコキシエチル)カルボン酸アミド、エチリデンビスカルボン酸アミドなど、N−ビニルカルボン酸アミドの合成原料が含まれている。これらを粗N−ビニルカルボン酸アミドの製造工程、例えば、N−(1−アルコキシエチル)カルボン酸アミドの合成工程、エチリデンビスカルボン酸アミドの合成工程、あるいはN−(1−アルコキシエチル)カルボン酸アミドまたはエチリデンビスカルボン酸アミドからN−ビニルカルボン酸アミドを得る工程などに回送して再利用してもよい。また、上記アルコール層に残存しているN−ビニルカルボン酸アミドを、圧力晶析、冷却晶析または蒸留などによってさらに回収してもよい。
<N−ビニルカルボン酸アミド(共)重合体>
本発明に係るN−ビニルカルボン酸アミド(共)重合体は、上記の製造方法によって得られた高純度N−ビニルカルボン酸アミドを含む単量体を重合してなる。また、上記(共)重合体は、上記の製造方法によって得られた高純度N−ビニルアセトアミドを含む単量体を重合してなる(共)重合体、すなわち、N−ビニルアセトアミド(共)重合体であることが好ましい。本明細書において、N−ビニルカルボン酸アミド(共)重合体とは、N−ビニルカルボン酸アミドの単量体を重合して得られる単独重合体、またはN−ビニルカルボン酸アミドの単量体と他の単量体とを重合して得られる共重合体をいう。上記(共)重合体は水溶性であり、種々の用途に用いられる。
【0046】
上記他の単量体としては、(メタ)アクリル酸またはその塩、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸(イソ)プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(
メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸系モノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミ
ド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸またはその塩、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系モノマー;酢酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、p−メ
チルスチレン、p−メトキシスチレン、m−クロロスチレン等のスチレン系モノマー;メ
チルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ビニルベンジルエーテル等のビニルエーテル系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸またはその塩、フマル酸またはその塩、マレイン酸ジメチルエステル、フマル酸ジエチルエステル等のジカルボン酸系モノマー;アリルアルコール、アリルフェニルエーテル、アリルアセテート等のアリル系モノマー;(メ
タ)アクリロニトリル、塩化ビニル、エチレン、プロピレン等のモノマーなどが挙げられ
る。
【0047】
また、上記他の単量体は、単独で用いても、2種類以上組み合わせて用いてもよい。上記他の単量体の量は、共重合体の用途によって適宜決めればよいが、全単量体中、通常60質量%以下、好ましくは40質量%以下の量で用いることが望ましい。
<N−ビニルカルボン酸アミド(共)重合体の用途>
上記(共)重合体は、増粘効果、分散効果などの機能を利用して広い分野に好適に用いられる。以下に具体例を例示する。
【0048】
(1)工業用分散剤
例えば、無機・有機の各種粉末の分散剤として用いられる。より具体的には、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、炭酸カルシウム等の無機粉末;タルク、カオリン等の鉱物系粉末;カーボンブラック等の各種顔料粉末;ポリウレタン、ポリアクリル酸エステル、ポリエチレン等の樹脂粉末;ステアリン酸塩等の有機粉末などについて、水などの各種極性溶媒に対する分散剤として用いられる。
【0049】
(2)塗料、インキなどに用いる増粘剤・分散剤
例えば、塗料、インキなどについて、添料分散剤;粘度、レベリングなどの調整剤;濡れ性改良剤として用いられる。
【0050】
(3)水および油に用いる処理剤・採取剤
(4)化粧品
例えば、シャンプー、リンス、ローションなどの化粧品について、乳化安定剤、潤滑剤、乳化型化粧料(乳化剤として使用)、皮膜型パック剤、セット剤に用いられる。
【0051】
(5)トイレタリー製品
例えば、液体洗剤(衣料用、台所用、トイレ・タイル用)、歯磨き、クレンザー、柔軟仕上げ剤、工業用洗浄剤などの増粘剤として用いられる。
【0052】
(6)粘着剤およびその助剤
(7)メディカル分野
例えば、錠剤(徐放性薬剤)、腸溶性薬剤、パップ剤、プラスター剤等の貼付剤用の基材、外用軟膏剤、薬剤放出制御製剤、胃内浮遊徐放性製剤、粘膜投与製剤、外皮用組成物(医療用フィルム)、創傷被覆保護材、歯科用材料、口腔用吸収剤、歯間清掃具等において、薬剤の保持・徐放のために用いられるほか、消毒用オートクレーブで加熱されて反復使用される尿道カテーテル・浣腸器等の医療器具用潤滑剤、診断薬の粘度調整剤として用いられる。
【0053】
(8)吸水材、保水剤、シーリング剤、保冷剤
(9)その他
例えば、製紙用処理剤;芳香消臭剤;乾燥剤;発酵助剤;パッキン用材料、古壁等の剥離剤に用いられるほか、玩具、汗取り装身具、超音波探傷用接触媒質、超音波探触子、電池・センサー等の電解質支持体などの増粘剤として用いられる。
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例]
[実施例1]
N−(1−メトキシエチル)アセトアミドを350℃で熱分解し、低沸点物を留去して
、粗N−ビニルアセトアミド(N−ビニルアセトアミド86.6質量%、アセトアミド3.5質量%、およびN−(1−メトキシエチル)アセトアミド9.4質量%が含まれていた。)を得た。この粗N−ビニルアセトアミド50gにメタノール10gを加え、50℃に加熱して粗N−ビニルアセトアミドを溶解した。次いで、得られた溶液にn−ヘキサン200gを加え、10℃に冷却して結晶を析出させた。N−ビニルアセトアミドは白色の鱗片状の結晶として、上層のn−ヘキサン層に存在していた。下層のメタノール層を抜き出した後、濾過により結晶を回収した。得られた結晶は20.6gであり、純度は98.7%であった。
【0055】
[実施例2]
N−(1−メトキシエチル)アセトアミドを330℃で熱分解し、低沸点物を留去して、粗N−ビニルアセトアミド(N−ビニルアセトアミド85.2質量%、アセトアミド3.3質量%、およびN−(1−メトキシエチル)アセトアミド11.2質量%が含まれていた。)を得た。この粗N−ビニルアセトアミドを用いたほかは、実施例1と同様にして、N−ビニルアセトアミドの結晶を回収した。得られた結晶は16.3gであり、純度は99.1%であった。
【0056】
[実施例3]
n−ヘキサンの代わりに石油エーテルを用いたほかは、実施例1と同様にして、N−ビニルアセトアミドの結晶を析出させた。N−ビニルアセトアミドは白色の鱗片状の結晶として、上層の石油エーテル層に存在していた。メタノール層および石油エーテル層を分離せずに、N−ビニルアセトアミドの結晶を濾過し、極少量の冷メタノールで洗浄した。得られた結晶は13.9gであり、純度は98.3%であった。
【0057】
[比較例1]
n−ヘキサンを加えなかったほかは、実施例1と同様にして、N−ビニルアセトアミドの精製を試みた。しかしながら、粗N−ビニルアセトアミドを溶解した溶液を10℃に冷却しても結晶が析出せず、−5℃以下で結晶化したものの系全体が固化した。したがって、濾過などによって、N−ビニルアセトアミドの結晶を得ることはできなかった。
【0058】
[比較例2]
メタノール10gの代わりにn−ヘキサン200gを加えて粗N−ビニルアセトアミドを溶解しようとしたほかは、実施例1と同様にして、N−ビニルアセトアミドの精製を試みた。しかしながら、50℃に加熱しても、不純物を含む粗N−ビニルアセトアミドの融解層とn−ヘキサン層との二層に分離して粗N−ビニルアセトアミドは溶解せず、N−ビニルアセトアミドの結晶を得ることはできなかった。
【0059】
[実施例4]
実施例1で得られた高純度N−ビニルアセトアミド240gを純水160gに溶解し、連鎖移動剤としてチオグリコール酸1.2gを添加した後、水酸化ナトリウム水溶液でpH9〜10の範囲に中和し、モノマー原液を調製した。また、アゾビス系ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオナミジン)2塩酸塩(和光純薬製V−50、分子量271、開裂により2モル当量のラジカル種を発生する。)4.8gを純水395.2gに溶解し、開始剤溶液を調製した。上記モノマー原液は、重合を抑制するために、10℃以下に保管した。冷却管、温度計、撹拌装置および滴下装置付きの1リットルフラスコに水200gを入れ、窒素気流下にて、約100℃で加熱還流させた。ここに、上記モノマー原液と開始剤溶液とを同時に約1時間かけて滴下し、N−ビニルアセトアミドの重合を行った。得られたポリN−ビニルアセトアミド重合体の光散乱法による重量平均分子量は、45000であった。上記特許文献4、5に記載の圧力晶析で得られるN−ビニルアセトアミドと同等の重合性が得られた。
【0060】
上述したような特定のアルコールや脂肪族炭化水素を使用しない場合には、精製物が得られない、あるいは精製物の収率が悪く実用に供さない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)N−ビニルカルボン酸アミドを50〜97質量%の量で含む粗N−ビニルカルボン酸アミドを、炭素数1〜3のアルコールに溶解する工程と、
(B)前記工程(A)で得られた組成物に炭素数5〜10の脂肪族炭化水素を加えて、N−ビニルカルボン酸アミドの結晶を析出する工程と、
(C)前記工程(B)で析出したN−ビニルカルボン酸アミドの結晶を分離する工程と、
を含むことを特徴とする高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【請求項2】
前記工程(A)が、30〜100℃で、前記粗N−ビニルカルボン酸アミドを炭素数1〜3のアルコールに溶解することを特徴とする請求項1に記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【請求項3】
前記工程(B)が、−30〜40℃で、前記N−ビニルカルボン酸アミドの結晶を析出することを特徴とする請求項1に記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【請求項4】
前記工程(C)が、濾過により、前記N−ビニルカルボン酸アミドの結晶を分離することを特徴とする請求項1に記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【請求項5】
前記アルコールが、メタノールであることを特徴とする請求項1または2に記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【請求項6】
前記脂肪族炭化水素が、n−ヘキサンおよび/または石油エーテルであることを特徴とする請求項1または3に記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法により
得られた高純度N−ビニルカルボン酸アミド。
【請求項8】
請求項7に記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドを含む単量体を重合してなるN−ビニルカルボン酸アミド(共)重合体。
【請求項9】
前記N−ビニルカルボン酸アミドが、N−ビニルアセトアミドであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の高純度N−ビニルカルボン酸アミドの製造方法により得られた高純度N−ビニルアセトアミド。
【請求項11】
請求項10に記載の高純度N−ビニルアセトアミドを含む単量体を重合してなるN−ビニルアセトアミド(共)重合体。

【公開番号】特開2007−70356(P2007−70356A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220406(P2006−220406)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】