説明

高耐久性を有する高分子電解質組成物

【課題】高温低加湿条件下(例えば、運転温度100℃で、50℃加湿(湿度12RH%に相当))でも高耐久性を有する、高分子電解質組成物等を提供する。
【解決手段】イオン交換容量が0.5〜3.0ミリ当量/gの高分子電解質(A成分)とチオエーテル基を有する化合物(B成分)とを含有し、前記A成分と前記B成分の質量比(A/B)が60/40〜99.99/0.01であり、かつ前記B成分を主体とする樹脂(X成分)が島状に分散しており、かつ下記式[1]を満たす高分子電解質組成物。
0(%)≦粒子径が10μm以上のX成分の積算量(体積基準)≦5(%) [1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質組成物及びそれからなる固体高分子電解質型燃料電池用の電解質膜として好適な、高分子電解質膜等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電池内で、水素、メタノール等を電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを、直接、電気エネルギーに変換して取り出すものであり、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。特に、固体高分子電解質型燃料電池は、他と比較して低温で作動することから、自動車代替動力源、家庭用コジェネレーションシステム、携帯用発電機等として期待されている。
このような固体高分子電解質型燃料電池は、電極触媒層とガス拡散層とが積層されたガス拡散電極がプロトン交換膜の両面に接合された膜電極接合体を少なくとも備えている。ここでいうプロトン交換膜は、高分子鎖中にスルホン酸基、カルボン酸基等の強酸性基を有し、プロトンを選択的に透過する性質を有する材料である。このようなプロトン交換膜としては、化学的安定性の高いナフィオン(登録商標、デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系プロトン交換膜が好適に用いられる。
【0003】
燃料電池の運転時においては、アノード側のガス拡散電極に燃料(例えば、水素)、カソード側のガス拡散電極に酸化剤(例えば、酸素や空気)がそれぞれ供給され、両電極間が外部回路で接続されることにより、燃料電池の作動が実現される。具体的には、水素を燃料とした場合、アノード触媒上で水素が酸化されてプロトンが生じる。このプロトンは、アノード触媒層内のプロトン伝導性ポリマーを通った後、プロトン交換膜内を移動し、カソード触媒層内のプロトン伝導性ポリマーを通ってカソード触媒上に達する。一方、水素の酸化によりプロトンと同時に生じた電子は、外部回路を通ってカソード側ガス拡散電極に到達する。カソード触媒上では、上記プロトンと酸化剤中の酸素とが反応して水が生成される。そして、このとき電気エネルギーが取り出される。
この際、プロトン交換膜は、ガスバリア隔壁としての役割も果たす必要がある。プロトン交換膜のガス透過率が高いと、アノード側水素のカソード側へのリークおよびカソード側酸素のアノード側へのリーク、すなわち、クロスリークが発生して、いわゆるケミカルショートの状態となって良好な電圧が取り出せなくなる。
【0004】
このような固体高分子電解質型燃料電池は、高出力特性を得るために80℃近辺で運転されるのが通常である。しかしながら、自動車用途として用いる場合には、夏場の自動車走行を想定して、高温低加湿条件下(運転温度100℃付近で、50℃加湿(湿度12RH%に相当))でも燃料電池の運転が可能であることが望まれている。ところが、従来のパーフルオロ系プロトン交換膜を用いて高温低加湿条件下で燃料電池を長時間運転すると、プロトン交換膜にピンホールが生じ、クロスリークが発生するという問題があった。即ち、十分な耐久性が得られていない。
パーフルオロ系プロトン交換膜の耐久性を向上させる方法として、フィブリル状のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いて補強する方法(特許文献1,2)、延伸処理したPTFE多孔膜を用いて補強する方法(特許文献3)、無機粒子を添加して補強する方法(特許文献4,5,6)が開示されている。
一方、特許文献7ではポリフェニレンスルフィド粒子を含むプロトン交換膜が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭53−149881号公報
【特許文献2】特公昭63−061337号公報
【特許文献3】特開平08−162132号公報
【特許文献4】特開平06−111827号公報
【特許文献5】特開平09−219206号公報
【特許文献6】米国特許第5523181号明細書
【特許文献7】国際公開番号WO2005/103161公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1〜6に開示された方法には、上記問題を解決するに充分な耐久性を実現する観点から、なお改善の余地があった。
また、上記特許文献7に開示された方法では、ポリフェニレンスルフィドを主体とする粗大粒子がプロトン交換膜に存在する場合があった。このような粗大粒子が存在する場合、ポリフェニレンスルフィドを主体とする樹脂が不均一に分散したまだらな膜が形成される場合があり、所望の効果を得る観点からなお改善の余地があった。
本発明の目的は、例えば高温低加湿条件下(例えば、運転温度100℃で、50℃加湿(湿度12RH%に相当))でも高耐久性を有する、高分子電解質膜等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、高分子電解質(A成分)とチオエーテル基を有する化合物(B成分)とを含有し、かつ前記B成分を主体とする樹脂を島状に分散させると共に、当該島状に分散した樹脂の粒子径を制御した高分子電解質組成物が、上記の目的が達成できることを見出した。この理由としては、次のようなことが考えられる。
燃料電池を長期間運転すると電極触媒の白金が高分子電解質膜中に溶出、析出することがある。その溶出、析出した白金上で過酸化水素及びそれに起因する過酸化物ラジカルが発生し、この過酸化物ラジカルにより電解質成分が劣化する。ポリフェニレンスルフィド樹脂は、白金を還元又は吸着して不活性化する効果があり、白金上での過酸化水素及びそれに起因する過酸化物ラジカルの発生を抑制することで、耐久性を向上させていると推定される。ポリフェニレンスルフィド樹脂を主体とする樹脂の粒子径を小さくすることは、表面積、つまりは反応面積を大きくすることとなり、その効果はより増大すると考えられる。
【0008】
即ち本発明は、以下の通りである。
1.イオン交換容量が0.5〜3.0ミリ当量/gの高分子電解質(A成分)とチオエーテル基を有する化合物(B成分)とを含有し、前記A成分と前記B成分の質量比(A/B)が60/40〜99.99/0.01であり、かつ前記B成分を主体とする樹脂(X成分)が島状に分散しており、かつ下記式[1]を満たす高分子電解質組成物。
0(%)≦粒子径が10μm以上のX成分の積算量(体積基準)≦5(%) [1]
2.前記B成分がポリフェニレンスルフィド樹脂である上記1に記載の高分子電解質組成物。
3.前記A成分がパーフルオロカーボン高分子化合物であり、該パーフルオロカーボン高分子化合物が、下記一般式[2]で表される構造単位を有する上記1又は2のいずれか一項に記載の高分子電解質組成物。
−[CFCX−[CF−CF(−O−CF−CF(CF))−O−(CFR−(CFR−(CF−X)]− [2]
式中、X、XおよびXはそれぞれ独立にハロゲン元素または炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、0≦b≦8、cは0または1であり、d、eおよびfはそれぞれ独立に0以上6以下の範囲の数(ただし、d+e+fは0に等しくない)、RおよびRはそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基、XはCOOZ、SOZ、POまたはPOHZである。ここで、Zは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子またはアミン類(NH、NH、NH、NHR、NR)である。また、R、R、RおよびRは、アルキル基またはアレーン基である。
【0009】
4.該高分子電解質組成物がさらに、ポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)及び/又はエポキシ基含有化合物(D成分)を含有し、当該C成分と当該D成分との質量比(C/D)が0/100〜100/0であり、かつ当該C成分と当該D成分の合計質量が該高分子電解質組成物中に占める割合が0.01〜20質量%である上記1〜3のいずれか一項に記載の高分子電解質組成物。
5.前記X成分の平均粒子径が0.01〜2.0μmである上記1〜4のいずれか一項に記載の高分子電解質組成物。
6.前記X成分の粒子径1μm未満の成分(R1)と粒子径1μm以上の成分(R2)との積算量比(R1/R2)(体積基準)が、20/80〜99/1である上記1〜5のいずれか一項に記載の高分子電解質組成物。
7.上記1〜6のいずれか一項に記載の高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜。
【0010】
8.イオン交換容量が0.5〜3.0ミリ当量/gの高分子電解質(A成分)とチオエーテル基を有する化合物(B成分)とが、1種類以上のプロトン性溶媒に溶解又は分散しており、A成分とB成分の合計質量%が0.5〜30質量%であり、かつ前記A成分と前記B成分の質量比(A/B)が60/40〜99.99/0.01である高分子電解質組成物溶液又は分散液を調整し、これをキャストし、更に溶媒を除去して成膜することを含む高分子電解質膜の製造方法。
9.前記A成分がパーフルオロカーボン高分子化合物、前記B成分がポリフェニレンスルフィド樹脂であるとき、
1)パーフルオロカーボン高分子化合物前駆体にポリフェニレンスルフィド樹脂を混合し、溶融押し出して成形物を得る工程、
2)工程1)で得られた成形物を加水分解処理し、更に酸処理を行って前記パーフルオロカーボン高分子化合物前駆体をパーフルオロカーボン高分子化合物に変換する工程、
3)工程2)で酸処理された成形物を、前記パーフルオロカーボン高分子化合物の溶媒に溶解及び/又は懸濁させて溶液又は懸濁液を得る工程、
4)工程3)で得られた溶液又は懸濁液をキャストし、更に溶媒を除去して成膜する工程、
を含む上記8に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【0011】
10.前記押出成形工程1)に、更にポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)及び/又はエポキシ基含有化合物(D成分)を含む上記9に記載の高分子電解質膜の製造方法。
11.前記溶解工程3)の後に、更に4)前記溶解工程3)で得られた溶液又は分散液を濾過し粗大粒子成分を除去する工程を含む上記9又は10に記載の高分子電解質膜の製造方法。
12.上記8〜11のいずれか一項に記載の製造方法により得られる高分子電解質膜。
13.さらに無機材又は有機材からなる補強材料を含有する上記7又は12に記載の高分子電解質膜。
14.補強材料が繊維状物である上記13に記載の高分子電解質膜。
15.補強材料が連続した支持体である上記14に記載の高分子電解質膜。
16.上記7、12〜15のいずれか一項に記載の高分子電解質膜からなる膜電極接合体。
17.導電性粒子上に電極触媒粒子が担持された複合粒子と、イオン交換容量が0.5〜3.0ミリ当量/gの高分子電解質(A成分)とチオエーテル基を有する化合物(B成分)とから構成され、該複合粒子の含有率が20〜95質量%であり、前記A成分と前記B成分の質量比(A/B)が60/40〜99.99/0.01であり、かつ前記B成分を主体とする樹脂(X成分)が島状に分散しており、かつ下記式[1]を満たす電極触媒層。
0(%)≦粒子径が10μm以上のX成分の積算量(体積基準)≦5(%) [1]
18.前記B成分がポリフェニレンスルフィド樹脂である上記17に記載の電極触媒層。
【0012】
19.前記A成分がパーフルオロカーボン高分子化合物であり、該パーフルオロカーボン高分子化合物が、下記一般式[2]で表される構造単位を有する上記17又は18のいずれか一項に記載の電極触媒層。
−[CFCX−[CF−CF(−O−CF−CF(CF))−O−(CFR−(CFR−(CF−X)]− [2]
式中、X、XおよびXはそれぞれ独立にハロゲン元素または炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、0≦b≦8、cは0または1であり、d、eおよびfはそれぞれ独立に0以上6以下の範囲の数(ただし、d+e+fは0に等しくない)、RおよびRはそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基、XはCOOZ、SOZ、POまたはPOHZである。ここで、Zは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子またはアミン類(NH、NH、NH、NHR、NR)である。また、R、R、RおよびRは、アルキル基またはアレーン基である。
20.該電極触媒層に、さらに、ポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)及び/又はエポキシ基含有化合物(D成分)を含有し、当該C成分と当該D成分との質量比(C/D)が0/100〜100/0であり、かつ当該C成分と当該D成分の合計質量が該電極触媒層中に占める割合が0.01〜20質量%である上記17〜19のいずれか一項に記載の電極触媒層。
【0013】
21.イオン交換容量が0.5〜3.0ミリ当量/gの高分子電解質(A成分)とチオエーテル基を有する化合物(B成分)とが、1種類以上のプロトン性溶媒に溶解又は分散しており、A成分とB成分の合計質量%が0.5〜30質量%であり、かつ前記A成分と前記B成分の質量比(A/B)が60/40〜99.99/0.01である電解質ポリマー溶液又は分散液を準備し、導電性粒子上に電極触媒粒子が担持された複合粒子を該電解質ポリマー溶液又は分散液に対して1〜100質量%の割合で分散させた電極触媒組成物を調製し、これを乾燥し、固化することを含む電極触媒層の製造方法。
22.上記21に記載の製造方法により得られる電極触媒層。
23.イオン交換容量が0.5〜3.0ミリ当量/gの高分子電解質(A成分)とチオエーテル基を有する化合物(B成分)とが、1種類以上のプロトン性溶媒に溶解又は分散しており、A成分とB成分の合計質量%が0.5〜30質量%であり、かつ前記A成分と前記B成分の質量比(A/B)が60/40〜99.99/0.01である電解質ポリマー溶液又は分散液。
24.前記B成分を主体とする樹脂(X成分)が平均粒子径0.01〜2.0μmで分散している上記23に記載の電解質ポリマー溶液又は分散液。
【0014】
25.前記A成分がパーフルオロカーボン高分子化合物であり、該パーフルオロカーボン高分子化合物が、下記一般式[2]で表される構造単位を有する上記23又は24に記載の電解質ポリマー溶液又は分散液。
−[CFCX−[CF−CF(−O−CF−CF(CF))−O−(CFR−(CFR−(CF−X)]− [2]
式中、X、XおよびXはそれぞれ独立にハロゲン元素または炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、0≦b≦8、cは0または1であり、d、eおよびfはそれぞれ独立に0以上6以下の範囲の数(ただし、d+e+fは0に等しくない)、RおよびRはそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基、XはCOOZ、SOZ、POまたはPOHZである。ここで、Zは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子またはアミン類(NH、NH、NH、NHR、NR)である。また、R、R、RおよびRは、アルキル基またはアレーン基である。
26.上記23〜25のいずれか一項に記載の電解質ポリマー溶液又は分散液からなる電極触媒層。
27.上記17〜20、22、26のいずれか一項に記載の電極触媒層からなる膜電極接合体。
28.上記16又は27に記載の膜電極接合体からなる固体高分子電解質型燃料電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明の高分子電解質組成物は、良好な耐久性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
(高分子電解質(A成分))
本実施の形態において用いられる高分子電解質(A成分)としては、例えば、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物や、分子内に芳香環を有する炭化水素系高分子化合物にイオン交換基を導入したものなどが好ましい。
分子内に芳香環を有する炭化水素系高分子化合物としては、具体的には、例えば、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリチオエーテルエーテルスルホン、ポリチオエーテルケトン、ポリチオエーテルエーテルケトン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサジノン、ポリキシリレン、ポリフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセン、ポリシアノゲン、ポリナフチリジン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、芳香族ポリアミド、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0017】
中でも、分子内に芳香環を有する炭化水素系高分子化合物としては、耐熱性や耐酸化性、耐加水分解性の観点から、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリチオエーテルエーテルスルホン、ポリチオエーテルケトン、ポリチオエーテルエーテルケトン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサジノン、ポリキシリレン、ポリフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセン、ポリシアノゲン、ポリナフチリジン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミドが好ましい。なお、これらに導入するイオン交換基は、例えば、スルホン酸基、スルホンイミド基、スルホンアミド基、カルボン酸基、リン酸基などが好ましく、特にスルホン酸基が好ましい。
【0018】
本実施の形態で用いられる高分子電解質(A成分)としては、化学的安定性の観点から、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物が好適である。
イオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物としては、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、パーフルオロカーボンカルボン酸樹脂、パーフルオロカーボンスルホンイミド樹脂、パーフルオロカーボンスルホンアミド樹脂、パーフルオロカーボンリン酸樹脂、又はこれら樹脂のアミン塩、金属塩等が挙げられる。
より具体的には、下記一般式[2]で表される重合体が挙げられる。
−[CFCX−[CF−CF(−O−(CF−CF(CF))−O−(CFR−(CFR−(CF−X)]− [2]
(式中、X、XおよびXは、それぞれ独立にハロゲン元素または炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基である。aおよびgは、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1である。bは0以上8以下の整数である。cは0または1である。d、eおよびfは、それぞれ独立に0以上6以下の整数(ただし、d+e+fは0に等しくない)である。RおよびRは、それぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基である。XはCOOZ、SOZ、POまたはPOHZである。)
【0019】
ここで、Zは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子またはアミン類(NH、NH、NH、NHR、NR)である。また、R、R、RおよびRは、アルキル基またはアレーン基である。
中でも、下記一般式[3]又は[4]で表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーもしくはその金属塩が特に好ましい。
−[CFCF−[CF−CF(−O−CF−CF(CF))−O−(CF−SOX]]− [3]
(式中、aおよびdは、0≦a<1、0≦d<1、a+d=1である。bは1以上8以下の整数である。cは0以上10以下の整数である。Xは水素原子またはアルカリ金属原子である。)
−[CFCF−[CF−CF(−O−(CF−SOY)]− [4]
(式中、eおよびgは、0≦e<1、0≦g<1、e+g=1である。fは0以上10以下の整数である。Yは水素原子またはアルカリ金属原子である。)
【0020】
本実施の形態において用いられるイオン交換基を有するパーフルオロカーボン高分子化合物は、例えば、下記一般式[5]に示される前駆体ポリマーを重合した後、アルカリ加水分解、酸処理等を行って製造することができる。
−[CFCX−[CF−CF(−O−(CF−CF(CF))−O−(CFR−(CFR−(CF−X)]− [5]
(式中、X、XおよびXは、それぞれ独立にハロゲン元素または炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基である。aおよびgは0≦a<1、0<g≦1、a+g=1である。bは0以上8以下の整数である。cは0または1である。d、eおよびfはそれぞれ独立に0以上6以下の整数(ただし、d+e+fは0に等しくない)である。RおよびRはそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基である。XはCOOR、CORまたはSOである。ここで、Rは炭素数1〜3の炭化水素系アルキル基である。Rはハロゲン元素である。)
【0021】
上記前駆体ポリマーは、例えば、フッ化オレフィン化合物とフッ化ビニル化合物とを共重合させることにより製造し得る。
ここで、フッ化オレフィン化合物としては、例えば、CF=CF,CF=CFCl,CF=CCl等が挙げられる。
また、フッ化ビニル化合物としては、例えば、CF=CFO(CF−SOF,CF=CFOCFCF(CF)O(CF−SOF,CF=CF(CF−SOF,CF=CF(OCFCF(CF))−(CFz−1−SOF,CF=CFO(CF−COR,CF2=CFOCFCF(CF)O(CF−COR,CF=CF(CF−COR,CF=CF(OCFCF(CF))−(CF−COR(Zは1〜8の整数を、Rは炭素数1〜3の炭化水素系アルキル基を表す)等が挙げられる。
【0022】
そして、上記のような前駆体ポリマーは、公知の手段により合成することができる。このような合成方法としては、特に限定されるものではないが、以下のような方法を挙げることができる。
(i)含フッ素炭化水素などの重合溶媒を使用し、この重合溶媒に充填溶解した状態でフッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスとを反応させて重合が行われる方法(溶液重合)。上記含フッ素炭化水素としては、例えば、トリクロロトリフルオロエタン、1、1、1、2、3、4、4、5、5、5−デカフロロペンタンなど、「フロン」と総称される化合物群を好適に使用することができる。
(ii)含フッ素炭化水素などの溶媒を使用せず、フッ化ビニル化合物そのものを重合溶剤として用いてフッ化ビニル化合物の重合が行われる方法(塊状重合)。
(iii)界面活性剤の水溶液を重合溶媒として用い、この重合溶媒に充填溶解した状態でフッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスとを反応させて重合が行われる方法(乳化重合)。
(iv)界面活性剤およびアルコールなどの助乳化剤の水溶液を用い、この水溶液に充填乳化した状態でフッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスとを反応させて重合が行われる方法(ミニエマルジョン重合、マイクロエマルジョン重合)。
(v)懸濁安定剤の水溶液を用い、この水溶液に充填懸濁した状態でフッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスとを反応させて重合が行われる方法(懸濁重合)。
【0023】
本実施の形態においては、前駆体ポリマーの重合度の指標としてメルトマスフローレート(以下「MFR」と略称する)を使用することができる。本実施の形態において、前駆体ポリマーのMFRは、0.01以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.3以上が更に好ましい。MFRの上限は限定されないが、100以下が好ましく、10以下がより好ましく、5以下が更に好ましい。MFRを0.01以上100以下とすることにより、成膜等の成型加工を良好に行うことができる。
以上の様にして作製された前駆体ポリマーは、塩基性反応液体中で加水分解処理され、温水などで十分に水洗され、酸処理される。この酸処理によってパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂前駆体はプロトン化され、SOH体となる。
本実施の形態に使用する高分子電解質(A成分)のイオン交換容量を3.0ミリ当量/g以下とすることは、得られた高分子電解質膜が燃料電池運転中の高温高加湿下で膨潤が低減されるため好ましい。膨潤が低減されることは、強度の低下や、しわが発生して電極から剥離したりするなどの問題、更には、ガス遮断性が低下する問題を低減し得る。逆に、イオン交換容量を0.5ミリ当量/g以上とすることは、得られた高分子電解質膜を備えた燃料電池の発電能力を良好に維持し得る。高分子電解質(A成分)のイオン交換容量は、0.5〜3.0ミリ当量/gが好ましく、より好ましくは0.65〜2.0ミリ当量/g、更に好ましくは0.8〜1.5ミリ当量/gである。
【0024】
(チオエーテル基を有する化合物(B成分))
本実施の形態において用いられるチオエーテル基を有する化合物(B成分)としては、−(R−S)−(Sはイオウ原子、Rは炭化水素基、nは1以上の整数)の化学構造を含む化合物であって、例えば、ジメチルチオエーテル、ジエチルチオエーテル、ジプロピルチオエーテル、メチルエチルチオエーテル、メチルブチルチオエーテルのようなジアルキルチオエーテル、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロアピランのような環状チオエーテル、メチルフェニルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、ジフェニルスルフィド、ジベンジルスルフィドのような芳香族チオエーテル等が挙げられる。これらは単量体で用いても良いし、例えばポリフェニレンスルフィド(PPS)のような重合体で用いるのが好ましい。
チオエーテル基を有する化合物(B成分)は、耐久性の観点からn≧10の重合体(オリゴマー、ポリマー)であることが好ましく、n≧1,000の重合体であることがより好ましい。
【0025】
(ポリフェニレンスルフィド樹脂)
本実施の形態において用いられるチオエーテル基を有する化合物(B成分)としては、化学的安定性の観点から、ポリフェニレンスルフィド樹脂が好適である。
ポリフェニレンスルフィド樹脂は、パラフェニレンスルフィド骨格を好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上有するポリフェニレンスルフィドである。
上記ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法は、上記の条件を満足する限り限定されるものではない。上記ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法としては、例えば、ハロゲン置換芳香族化合物(p−ジクロルベンゼン等)を硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、極性溶媒中でハロゲン置換芳香族化合物を硫化ナトリウムあるいは硫化水素ナトリウムと水酸化ナトリウムの存在下で重合させる方法、または極性溶媒中でハロゲン置換芳香族化合物を硫化水素と水酸化ナトリウムあるいはナトリウムアミノアルカノエートの存在下で重合させる方法、p−クロルチオフェノールの自己縮合等が挙げられる。中でもN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp−ジクロルベンゼンを反応させる方法が適当である。
【0026】
なお、上記ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法は、具体的には、米国特許第2513188号明細書、特公昭44−27671号公報、特公昭45−3368号公報、特公昭52−12240号公報、特開昭61−225217号公報、米国特許第3274165号明細書、英国特許第1160660号明細書、特公昭46−27255号公報、ベルギー特許第29437号明細書、特開平5−222196号公報、等に記載された方法や、これら文献内で例示された先行技術の方法を用いることが出来る。
上記ポリフェニレンスルフィド樹脂の、塩化メチレンによるオリゴマー抽出量としては、通常0.001重量%以上0.9重量%以下、好ましくは0.001重量%以上0.8重量%以下、より好ましくは0.001重量%以上0.7重量%以下である。
ここで、塩化メチレンによるオリゴマー抽出量が上記範囲にあるということは、ポリフェニレンスルフィド樹脂中におけるオリゴマー(約10〜30量体)の量が少ないことを意味する。上記オリゴマー抽出量を上記範囲に設定すると、製膜時にブリードアウトが発生し難くなるので好ましい。
【0027】
なお、塩化メチレンによるオリゴマー抽出量の測定は以下の方法により行うことができる。すなわち、ポリフェニレンスルフィド粉末5gを塩化メチレン80mlに加え、4時間ソクスレー抽出を実施した後、室温まで冷却し、抽出後の塩化メチレン溶液を秤量瓶に移す。更に、上記の抽出に使用した容器を塩化メチレン合計60mlを用いて、3回に分けて洗浄し、該洗浄液を上記秤量瓶中に回収する。次に、約80℃に加熱して、該秤量瓶中の塩化メチレンを蒸発させて除去し、残渣を秤量し、この残渣量よりポリフェニレンスルフィド中に存在するオリゴマー量の割合を求めることができる。
また、上記ポリフェニレンスルフィド樹脂の有する−SX基(Sはイオウ原子、Xはアルカリ金属または水素原子である)の含有量としては、通常10μmol/g以上10,000μmol/g以下、好ましくは15μmol/g以上10,000μmol/g以下、より好ましくは20μmol/g以上10,000μmol/g以下である。
【0028】
−SX基濃度が上記範囲にあるということは、反応活性点が多いことを意味する。−SX基濃度が上記範囲を満たすポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることで、本実施の形態の高分子電解質(A成分)との混和性が向上することにより分散性が向上し、高温低加湿条件下でより高い耐久性が得られると考えられる。
なお、−SX基の定量は以下の方法により行うことができる。すなわち、ポリフェニレンスルフィド粉末を予め120℃で4時間乾燥した後、この乾燥ポリフェニレンスルフィド粉末20gをN−メチル−2−ピロリドン150gに加えて粉末凝集塊がなくなるように室温で30分間激しく撹拌混合しスラリー状態にする。
かかるスラリーを濾過した後、毎回約80℃の温水1リットルを用いて7回洗浄を繰り返す。得た濾過ケーキを純水200g中に再度スラリー化した後、1Nの塩酸を加えて該スラリーのPHを4.5に調整する。次に、25℃で30分間撹拌して、濾過した後、約80℃の温水1リットルを用いて6回洗浄を繰り返す。得られた濾過ケーキを純水200g中に再度スラリー化し、次いで、1Nの水酸化ナトリウムにより滴定し、消費した水酸化ナトリウム量よりポリフェニレンスルフィド中に存在する−SX基の量を求める。
【0029】
塩化メチレンによるオリゴマー抽出量が0.001重量%以上0.9重量%以下であり、かつ−SX基が10μmol/g以上10,000μmol/g以下であるポリフェニレンスルフィドの具体的な製造方法としては、例えば、特開平8−253587号公報の実施例1および2に記載された製造方法(段落番号0041〜0044)、特開平11−106656号公報の合成例1および2に記載された製造方法(段落番号0046〜0048)等が挙げられる。
上記B成分(ポリフェニレンスルフィド)の320℃における溶融粘度(フローテスターを用いて、300℃、荷重196N、L/D(L:オリフィス長、D:オリフィス内径)=10/1で6分間保持した値)としては、成形加工性の観点から、好ましくは1〜10,000ポイズであり、さらに好ましくは100〜10,000ポイズである。
【0030】
また、上記B成分としては、ポリフェニレンスルフィドに酸性官能基を導入したものも好適に用いることが出来る。導入する酸性官能基としては、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、マレイン酸基、無水マレイン酸基、フマル酸基、イタコン酸基、アクリル酸基、メタクリル酸基が好ましく、スルホン酸基が最も好ましい。
なお、酸性官能基の導入方法は特に限定されず、一般的な方法を用いて実施される。例えば、スルホン酸基の導入については、無水硫酸、発煙硫酸などのスルホン化剤を用いて公知の条件で実施することが出来る。例えば、K.Hu,T.Xu,W.Yang,Y.Fu,Journal of Applied Polymer Science,Vol.91,や、E.Montoneri,Journal of Polymer Science:PartA:Polymer Chemistry,Vol.27,3043−3051(1989)に記載の条件で実施できる。
また、導入した酸性官能基を金属塩またはアミン塩に置換したものも好適に用いられる。金属塩としてはナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩が好ましい。
【0031】
(A成分とB成分の質量比)
本実施の形態において、上記A成分と上記B成分との質量比(A/B)は、(A/B)=60/40〜99.99/0.01であり、(A/B)=70/30〜99.95/0.05が好ましく、(A/B)=80/20〜99.9/0.1がさらに好ましく、(A/B)=90/10〜99.5/0.5が最も好ましい。A成分の質量比を60以上とすることにより、良好なイオン伝導性が実現され得、良好な電池特性が実現され得る。一方、B成分の質量比を40以下とすることにより、高温低加湿条件での電池運転における耐久性が良好になる。
【0032】
(積算量)
本実施の形態では、チオエーテル基を有する化合物(B成分)を主体とする樹脂(X成分)が少なくとも島状に分散している。ここで、「島状に分散している」とは、いわゆる海島構造の島部分を形成して分散していることを意味する。
ここで、島状に分散しているX成分について、粒子径が10μm以上のX成分の積算量(体積基準)としては0(%)〜5(%)であり、0(%)〜4(%)がより好ましく、0(%)〜3(%)がさらに好ましく、0(%)〜2(%)が特に好ましく、0(%)〜1(%)が最も好ましい。上記積算量を5%以下とすることにより、高分子電解質膜の耐久性を非常に向上させ得る。
また、本実施の形態において「チオエーテル基を有する化合物(B成分)を主体とする樹脂(X成分)」とは、主成分であるチオエーテル基を有する化合物(B成分)を50質量%以上100質量%以下、より好ましくは60質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは70質量%以上100質量%以下、特に好ましくは80質量%以上100質量%以下含む樹脂のことを意味する。
【0033】
本実施の形態において、上記「粒子径が10μm以上のX成分の積算量(体積基準)」を調整する方法としては、溶融混練時に高せん断を与えて粉砕及び微分散させる方法、成膜前の溶液を濾過し粗大粒子を除去する方法、等が挙げられる。
なお、本実施の形態における積算量(体積基準)は、以下のような二通りの方法で定義される。
第一の方法は、高分子電解質組成物を後述する方法で溶解及び/又は懸濁し、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて、その溶液中の粒子の体積基準の粒度分布を測定する。
全粒子体積を100として、その粒度分布における粒子径10μm以上の粒子が占める体積の比を、積算量(体積基準)とする。
【0034】
第二の方法は、後述する方法で作製した高分子電解質膜から超薄切片を作製し、常法により四酸化ルテニウム等の染色剤で染色し、透過型電子顕微鏡で観察し、染色されている相の粒子径をとる。超薄切片において、任意の20×20μm四方の視野を直接、あるいはネガより写真に焼き付けた後、画像解析装置に読み込み、各粒子が球形であると仮定して球換算径を粒子径とする。全粒子体積を100として、体積基準の粒度分布における粒子径10μm以上の粒子が占める体積の比を、積算量(体積基準)とする。ただし、写真から画像解析装置に入力する際に染色境界が不明瞭な場合には写真のトレースを行い、この図を用いて画像解析装置に入力を行う。
【0035】
(平均粒子径)
さらに、本実施の形態では、分散性が向上することで高寿命化等の効果を良好に実現させる観点から、X成分の平均粒子径は、0.01〜2.0μmであることが好ましく、0.01〜1.0μmがより好ましく、0.01〜0.5μmがさらに好ましく、0.01〜0.1μmが最も好ましい。
本実施の形態において、上記「X成分の平均粒子径が0.01〜2.0μm」を調整する方法としては、溶融混練時に高せん断を与えて粉砕及び微分散させる方法、成膜前の溶液を濾過し粗大粒子を除去する方法、等が挙げられる。
なお、本実施の形態における平均粒子径は、以下のような二通りの方法で定義される。
第一の方法は、高分子電解質組成物を後述する方法で溶解及び/又は懸濁し、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径(体積基準の頻度分布を算術平均した値)を、その溶液中の粒子の平均粒子径とする。
第二の方法は、後述する方法で作製した高分子電解質膜から薄切片を作製し、常法により四酸化ルテニウム等の染色剤で染色し、透過型電子顕微鏡で観察し、染色されている相の粒子径をとる。薄切片において、任意の20×20μmの視野を直接、あるいはネガより写真に焼き付けた後、画像解析装置に読み込み、各粒子が球形であると仮定して球換算径を粒子径とする。このときの平均粒子径は、体積基準の頻度分布を算術平均した値とする。ただし、写真から画像解析装置に入力する際に染色境界が不明瞭な場合には写真のトレースを行い、この図を用いて画像解析装置に入力を行う。
【0036】
(積算量比)
本実施の形態では、チオエーテル基を有する化合物(B成分)を主体とする樹脂(X成分)の1μm未満の成分(R1)と1μm以上の成分(R2)との積算量比(体積基準)(R1/R2)が、20/80〜99/1であることが好ましい。分散性が向上することで高寿命化等の本実施の形態の効果が得られることから、30/70〜99/1がより好ましく、40/60〜99/1がさらに好ましく、50/50〜99/1が最も好ましい。
本実施の形態において、上記「積算量比(R1/R2)(体積基準)が20/80〜99/1」を調整する方法としては、溶融混練時に高せん断を与えて粉砕及び微分散させる方法、成膜前の溶液を濾過し粗大粒子を除去する方法、等が挙げられる。
なお、本実施の形態における積算量比(体積基準)は以下のような二通りの方法で定義される。
第一の方法は、高分子電解質組成物を後述する方法で溶解及び/又は懸濁し、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて、その溶液中の粒子の体積基準の粒度分布を測定する。全粒子体積を100として、その粒度分布における粒子径1μm未満の粒子が占める体積の比をR1、粒子径1μm以上の粒子が占める体積の比をR2(=100−R1)とし、それらの比(R1/R2)を本実施の形態における積算量比(体積基準)とする。
【0037】
第二の方法は、後述する方法で作製した高分子電解質膜から超薄切片を作製し、常法により四酸化ルテニウム等の染色剤で染色し、透過型電子顕微鏡で観察し、染色されている相の粒子径をとる。超薄切片において、任意の20×20μm四方の視野を直接、あるいはネガより写真に焼き付けた後、画像解析装置に読み込み、各粒子が球形であると仮定して球換算径を粒子径とする。全粒子体積を100として、体積基準の粒度分布における粒子径1μm未満の粒子が占める体積の比をR1、粒子径1μm以上の粒子が占める体積の比をR2(=100−R1)とし、それらの比(R1/R2)を本実施の形態における積算量比(体積基準)とする。ただし、写真から画像解析装置に入力する際に染色境界が不明瞭な場合には写真のトレースを行い、この図を用いて画像解析装置に入力を行う。
本実施の形態の高分子電解質組成物は、更に、ポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)及び/又はエポキシ基含有化合物(D成分)を含有することができる。ポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)及び/又はエポキシ基含有化合物(D成分)は、相溶化剤として機能して上記X成分の分散性を向上させ得、その結果、高分子電解質組成物の耐久性がさらに向上するというメリットがある。
【0038】
(ポリフェニレンエーテル樹脂(C成分))
本実施の形態で用いられるポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)は、所謂ポリフェニレンエーテル樹脂であれば特に限定されないが、下記一般式[6]であらわされる構造単位を70モル%以上、好ましくは90モル%以上含有するフェノール単独重合体または共重合体が好ましい。
【化1】


(ここで、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ、水素、ハロゲン、炭素数が1〜7の直鎖または分岐鎖状低級アルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、または少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群から選択されるものである。これらは互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0039】
このポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)の具体的な例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと他の1価フェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)、2,6−ジメチルフェノールと2価のフェノール類(例えば、3,3’,5,5’−テトラメチルビスフェノールA)との共重合体、等が挙げられる。
これらの中でも、生産性の観点から、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、2,6−ジメチルフェノールと3,3’,5,5’−テトラメチルビスフェノールAとの共重合体が好ましい。
上記C成分は、変性を行いやすいという観点から、分子鎖末端にフェノール性水酸基を有していることが好ましく、その位置は片末端であっても両末端であってもよい。
【0040】
また、上記C成分の還元粘度(0.5g/dl,クロロホルム溶液,30℃測定)は、取り扱い性の観点から、0.05〜2.0dl/gの範囲であることが好ましく、0.10〜0.8dl/gの範囲であることがさらに好ましい。
上記C成分の製造方法については、特に限定されない。上記C成分の製造方法としては、例えば、米国特許第3306874号明細書に記載されているような、第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、例えば2,6−キシレノールを酸化重合することにより製造する方法や、米国特許第3306875号明細書、同第3257357号明細書、同第3257358号明細書、特公昭52−17880号公報、特開昭50−51197号公報、特開昭63−152628号公報等に記載された製造方法を採用することができる。
【0041】
上記C成分としては、ポリフェニレンエーテル樹脂に酸性官能基や反応性官能基が導入されたポリフェニレンエーテル樹脂が好ましい。このような官能基を導入することで、上記A成分と当該C成分との混和性が向上し、上記A成分中への当該C成分の分散性が向上し得る。また、特に酸性官能基を導入した場合、本実施の形態の高分子電解質膜において、プロトン伝導度に関与する官能基が増加することとなり、高いプロトン伝導度が発現できるので好ましい。
導入する酸性官能基としては、例えば、スルホン酸基、リン酸基、スルホンイミド基、カルボン酸基、マレイン酸基、無水マレイン酸基、フマル酸基、イタコン酸基、アクリル酸基およびメタクリル酸基が好ましく、強酸基であるスルホン酸基およびリン酸基がさらに好ましく、スルホン酸基が最も好ましい。また、導入する反応性官能基としては、エポキシ基、オキサゾニル基、アミノ基、イソシアネート基およびカルボジイミド基などが好ましく、エポキシ基が特に好ましい。さらに、上記各種官能基を2種以上導入してもよい。
中でも、ポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)として、エポキシ基が導入されたエポキシ変性ポリフェニレンエーテル樹脂を用いた場合、上記A成分中への当該C成分の分散性がより向上し、その結果、高分子電解質組成物の耐久性が、さらに向上し得る。
【0042】
ここで、酸性官能基や反応性官能基の導入方法は特に限定されない。酸性官能基や反応性官能基は、一般的な方法を用いて導入できる。例えばスルホン酸基の導入方法としては、無水硫酸、発煙硫酸などのスルホン化剤を用いる方法が挙げられる。例えば、C.Wang,Y.Huang,G.Cong,Polymer Journal,Vol.27,No.2,173−178(1995)およびJ.Schauer,W.Albrecht, T.Weigel,Journal of Applied Polymer Science,Vol.73,161−167(1999)に記載の条件が採用し得る。
また、導入した酸性官能基を金属塩またはアミン塩に置換したものも好適に用いられる。金属塩としてはナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩が好ましい。
なお、本実施の形態において、このようなエポキシ変性ポリフェニレンエーテル樹脂の製造方法としては特に限定されない。高分子電解質(A成分)及びポリフェニレンスルフィド樹脂(B成分)と共にポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)と、後述するエポキシ樹脂を混合した後に、ポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)とエポキシ樹脂とを反応させる方法も、採用し得る。
【0043】
(エポキシ基含有化合物(D成分))
本実施の形態で用いられるエポキシ基含有化合物(D成分)は、エポキシ基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、エポキシ基を含有する低分子化合物、エポキシ基を有する不飽和モノマーの単独重合体または共重合体、及びエポキシ樹脂などが挙げられる。高分子化合物の方が高温での取り扱いが容易なことから、エポキシ基を有する不飽和モノマーの単独重合体または共重合体及びエポキシ樹脂が好ましい。
上記エポキシ基を含有する低分子化合物としては、200℃で固体か液体であるものが好ましい。具体的には、例えば、1,2−エポキシ−3−フェノキシプロパン、N−(2,3−エポキシプロピル)フタルイミド、3,4−エポキシテトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキサイド、グリシジル4−ノニルフェニルエーテル、グリシジルトシレート、グリシジルトリチルエーテルなどが挙げられる。
【0044】
エポキシ基を有する不飽和モノマーの単独重合体または共重合体を構成する、エポキシ基を有する不飽和モノマーとしては、エポキシ基を有する不飽和モノマーであれば別に制限されず、例えば、グリシジルメタアクリレート、グリシジルアクリレート、ビニルグリシジルエーテル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、グリシジルイタコネート等が挙げられる。これらの中でもグリシジルメタアクリレートが好ましい。
エポキシ基を有する不飽和モノマーの共重合体の場合、上記エポキシ基を有する不飽和モノマーと共重合する他の不飽和モノマーとしては、スチレン等のビニル芳香族化合物、アクリロニトリル等のシアン化ビニルモノマー、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル等が好ましい。これら共重合可能な不飽和モノマーを共重合して得られる共重合体の例として、例えば、スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−アクリロニトリル共重合体等が挙げられる。
中でも、エポキシ基を有する不飽和モノマーとスチレンモノマーとを含む共重合体は、上記C成分との親和性に特に優れ、C成分の分散性を特に向上させるので好ましい。分散性向上の観点から、スチレンモノマーを少なくとも65質量%以上含むことが好ましい。また、エポキシ基を有する不飽和モノマーを0.3〜20質量%含むことが好ましく、1〜15質量%含むことがさらに好ましくは、3〜10質量%含むことが特に好ましい。
【0045】
更に、上記エポキシ樹脂としては、例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ヒンダトイン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂およびフェノールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。これらから選ばれる1種または2種以上を混合して用いることもできる。その中でも、ポリフェニレンエーテル樹脂との相溶性の観点から、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましく、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が特に好ましい。
本実施の形態では、ポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)とエポキシ樹脂をあらかじめ混合、反応させて添加することができる。即ち、ポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)として、ポリフェニレンエーテル樹脂とエポキシ樹脂とが反応して得られたエポキシ変性ポリフェニレンエーテル樹脂を用いることができる。勿論、高分子電解質(A成分)及びチオエーテル基を有する化合物(B成分)と共に、ポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)とエポキシ樹脂を混合し、その後、ポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)とエポキシ樹脂とを反応させてもよい。
ポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)としてエポキシ変性ポリフェニレンエーテル樹脂を用いることにより分散性が向上し、その結果、高分子電解質組成物の耐久性はさらに向上する。
【0046】
(C成分とD成分の質量比)
上記C成分と上記D成分の質量比(C/D)としては、(C/D)=0/100〜100/0であることが好ましい。さらに好ましくは(C/D)=20/80〜80/20、最も好ましくは(C/D)=30/70〜70/30の質量比である。(C/D)値がこのような範囲に設定されることにより、X成分の分散性向上というメリットがある。
(C成分とD成分の合計質量)
また、上記C成分と上記D成分の合計質量が、高分子電解質膜中に占める割合としては、0.01〜20質量%であることが好ましい。イオン伝導性と耐久性(分散性)のバランスの観点から、0.05〜10wt%がより好ましく、0.1〜5wt%がさらに好ましい。
本実施の形態の高分子電解質組成物の製造方法としては、前述の成分を混合することで得られるわけであるが、その方法は特に限定されず、一般的な高分子電解質組成物の混合方法が好適に適用できる。
【0047】
(高分子電解質膜の作製方法)
次に、本実施の形態の高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜の作製方法について説明する。本発明の高分子電解質組成物は、製膜して高分子電解質膜として用いることが出来る。製膜手段は特に限定されず、一般的な高分子組成物の製膜方法が好適に適用できる。
例えば、高分子電解質(A成分)とチオエーテル基を有する化合物(B成分)を、1種類以上のプロトン性溶媒に溶解又は分散させて、これを剥離性基材に塗布し、乾燥し、固化して剥離性基材から剥離することで本発明の高分子電解質組成物を得ることが出来る。
また、A成分がパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、B成分がポリフェニレンスルフィド樹脂であるとき、粒子分散性向上の観点から、以下の1)〜4)の各工程を含む製造方法であることが好ましい。
1)パーフルオロカーボン高分子化合物前駆体にポリフェニレンスルフィド樹脂を混合し、溶融押し出して成形物を得る工程、
2)工程1)で得られた成形物を加水分解処理し、更に酸処理を行って前記パーフルオロカーボン高分子化合物前駆体をパーフルオロカーボン高分子化合物に変換する工程、
3)工程2)で酸処理された成形物を、前記パーフルオロカーボン高分子化合物の溶媒に溶解及び/又は懸濁させて溶液又は懸濁液を得る工程、
4)工程3)で得られた溶液又は懸濁液をキャストし、更に溶媒を除去して成膜する工程。
【0048】
(混合、溶融押し出し)
パーフルオロカーボン高分子化合物前駆体とポリフェニレンスルフィド樹脂(B成分)を混合する方法、さらにポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)及び/又はエポキシ基含有化合物(D成分)を混合する方法としては、特に限定されない。一般的な高分子組成物の混合方法が適用できる。例えば、このような混合は、ブラベンダー、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機などを用い、従来公知の技術によって達成される。
混合後、溶融押し出しを行う方法としては、押出機を用いる方法が挙げられる。この際に用いられる押出機は特に限定されず、一般的な押出機を適用できる。中でも、ニーディングブロックをスクリューの任意の位置に組み込むことが可能な二軸以上の多軸押出機を用いると、混合と溶融押し出しとが好適に実施される。
用いるスクリューの全ニーディングブロック部分を実質的に(L/D)≧1.5、さらに好ましくは(L/D)≧5(ここで、Lはニーディングブロックの合計長さ、Dはニーディングブロックの最大外径を表す)に組み込み、かつ、(π・D・N/h)≧50(ここで、π=3.14、D=メタリングゾーンに相当するスクリュー外径、N=スクリュー回転数(回転/秒)、h=メタリングゾーンの溝深さ)を満たす。これらの押出機は、原料の流れ方向に対し上流側に第一原料供給口、これより下流に第二原料供給口を有し、必要に応じて、第二原料供給口より下流にさらに1つ以上の原料供給口を設けてもよく、さらに必要に応じて、これら原料供給口の間に真空ベント口を設けてもよい。
【0049】
以上の様にして作製された混合物は、ノズル、ダイなどで押し出し成型する。この成型方法、成型体の形状は、特に限定されるものではないが、後述の加水分解処理および酸処理において処理を早めるには、成型体が0.5cm以下のペレット状であることが好ましい。
なお、パーフルオロカーボン高分子化合物前駆体の代わりに高分子電解質(A成分)を用いた場合には、混練後に後述する加水分解処理及び酸処理を行うことにより、イオン交換基を有する形態に変換する工程を省略して本実施の形態の高分子電解質組成物を得ることができる。
また、高分子電解質(A成分)またはその前駆体ポリマーの溶液とチオエーテル基を有する化合物(B成分)、さらにポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)及び/又はエポキシ基含有化合物(D成分)の各溶液を混合して溶液を作成して、本実施の形態の高分子電解質組成物を得ることができる。
【0050】
(加水分解処理、酸処理)
上記溶融押し出しの後に得られる成形物は、引き続き塩基性反応液体中に浸漬され、加水分解される。この加水分解処理により、上記高分子電解質前駆体は高分子電解質(A成分)に変換される。
この加水分解処理に使用する反応液は、特に限定されるものではないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液が好ましい。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の含有量は限定されないが、10〜30質量%以下である事が好ましい。上記反応液体は、メチルアルコール、エチルアルコール、アセトン、DMSO、DMAC、DMF等の膨潤性有機化合物を含有する事が好ましい。また膨潤性の有機化合物の含有率は、1〜30質量%以下であることが好ましい。
【0051】
処理温度は溶媒種、溶媒組成などによって異なるが、高くするほど、処理時間は短くできる。処理温度が高すぎると高分子電解質前駆体が溶解し、取り扱いが難しくなるため、20〜160℃で行われる事が好ましい。また、高い伝導度を得る上で、加水分解によりSOHに転換しうる官能基を全て加水分解処理することが好ましい。従って、処理時間は長いほど好ましい。しかし、長すぎると生産性が低下するため、0.5〜48時間が好ましい。
上記成形物は、前記塩基性反応液体中で加水分解処理された後、温水などで十分に水洗され、その後、酸処理が行われる。
酸処理に使用する酸は、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸類やシュウ酸、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸類であれば、特に限定されない。この酸処理によって高分子電解質前駆体はプロトン化され、SOH体となる。
【0052】
(溶解又は懸濁)
上記のように酸処理された上記成形物(プロトン化された高分子電解質を含む成形物)は、上記A成分を溶解又は懸濁させ得る溶媒(樹脂との親和性が良好な溶媒)に溶解又は懸濁される。このような溶媒としては、例えば、水やエタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、グリセリンなどのプロトン性有機溶媒や、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性溶媒等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。特に、1種の溶媒を用いる場合、水単独が好ましい。また、2種類以上を併用する場合、水とプロトン性有機溶媒との混合溶媒が特に好ましい。
溶解又は懸濁する方法は、特に限定されない。例えば、まず、総固形分濃度が1〜50質量%となるような条件下、高分子電解質(A成分)及びチオエーテル基を有する化合物(B成分)を、例えば、水とプロトン性有機溶媒との混合溶媒に加える。次に、この組成物を必要に応じてガラス製内筒を有するオートクレーブ中に入れ、窒素などの不活性気体で内部の空気を置換した後、内温が50℃〜250℃の条件下、1〜12時間加熱、攪拌する。これにより、溶解液又は懸濁液が得られる。なお、この際の総固形分濃度は高いほど収率上好ましいが、濃度を高めると未溶解物が生じるため、1〜50質量%が好ましく、より好ましくは3〜40質量%、さらに好ましくは5〜30質量%である。
【0053】
プロトン性有機溶媒を用いる場合、水とプロトン性有機溶媒の混合比は、溶解方法、溶解条件、高分子電解質の種類、総固形分濃度、溶解温度、攪拌速度等に応じて適宜選択できる。水に対するプロトン性有機溶媒の質量の比率は、水1に対してプロトン性有機溶媒
0.1〜10が好ましく、特に好ましくは水1に対して該有機溶媒0.1〜5である。
なお、このような溶液又は懸濁液には、乳濁液(液体中に液体粒子がコロイド粒子あるいはそれより粗大な粒子として分散して乳状をなすもの)、懸濁液(液体中に固体粒子がコロイド粒子あるいは顕微鏡で見える程度の粒子として分散したもの)、コロイド状液体(巨大分子が分散した状態)、ミセル状液体(多数の小分子が分子間力で会合して出来た親液コロイド分散系)等の1種又は2種以上が含まれる。
また、このような溶液又は懸濁液は、濃縮することが可能である。濃縮の方法としては特に限定されない。例えば、加熱し、溶媒を蒸発させる方法や、減圧濃縮する方法等がある。その結果得られる塗工溶液の固形分率は、高すぎると粘度が上昇し、取り扱い難くなり、また低すぎると生産性が低下するため、最終的な塗工溶液の固形分率は0.5〜50質量%が好ましい。
【0054】
(濾過)
以上により得られた溶液又は懸濁液は、粗大粒子成分を除去する観点から、濾過されることがより好ましい。
濾過方法は、特に限定されず、従来行われている一般的な方法が適用できる。例えば、通常使用されている定格濾過精度を有する濾材を加工したフィルターを用いて、加圧濾過する方法が代表的に挙げられる。フィルターについては、90%捕集粒子径が粒子の平均粒子径の10倍〜100倍の濾材を使用することが好ましい。この濾材は濾紙でも良いし、金属焼結フィルターのような濾材でも良い。特に濾紙の場合は、90%捕集粒子径が粒子の平均粒子径の10〜50倍であることが好ましい。金属焼結フィルターの場合は、90%捕集粒子径が粒子の平均粒子径の50〜100倍であることが好ましい。当該90%捕集粒子径を平均粒径の10倍以上に設定することは、送液するときに必要な圧力が高くなりすぎることを抑制したり、フィルターが短期間で閉塞してしまうことを抑制し得る。一方、平均粒径の100倍以下に設定することは、フィルムで異物の原因となるような粒子の凝集物や樹脂の未溶解物を良好に除去する観点から好ましい。
なお、濾過後の溶液又は懸濁液は後述するキャストする前処理として真空脱泡法や遠心分離法等で気泡を除去することが膜厚を制御する上で好ましい。更に気泡が抜けやすくするため、膜厚の均一化のために、水よりも沸点の高い高沸点溶媒を添加することも可能である。
【0055】
(キャスト)
上記溶液又は懸濁液をキャストする方法としては、公知の塗工方法を用いることができる。より具体的には、シャーレに流し込み製造する方法、厚みが均一になるようにブレード、エアナイフ、リバースロールといった機構を有するブレードコーター、グラビアコーター、コンマコーター、又はディップコーター等の公知の塗工塗工装置を用いる方法が挙げられる。また、塗工溶液をダイから押し出してキャストする方法も採用することが可能である。
キャスト時に用いる基材としては、例えば、一般的なポリマーフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリアラミド、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート等)、金属箔、アルミナ、ケイ素等の基板、特許文献3に記載の延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜等が挙げられる。
尚、キャストする前の処理として、上記溶液又は懸濁液は真空脱泡法により気泡を除去する処理が施されることが、厚みを制御する観点から好ましい。
【0056】
(溶媒の除去)
上記キャスト後、溶媒を除去する方法としては、例えば、室温〜200℃で加熱乾燥する方法や、減圧処理を施す方法等が挙げられる。これらは組み合わせることが可能である。なお、加熱乾燥の温度が高すぎたり、急加熱したりすると、乾燥時の気泡や厚みむらを生じ、均一な厚み精度を有する正常な高分子電解質膜が得られない場合がある。また、乾燥温度が低すぎると、乾燥時間が長くなり、生産性が低下する場合がある。
また、加熱乾燥をする場合は、段階的に昇温させ溶媒を除去することも可能である。初段で厚みなどが均一な高分子電解質膜を得て、その後更に高い温度で加熱する方法も可能
である。この方法を用いると初段の乾燥温度を低くし、乾燥時間を長くすることで、乾燥斑がなく、平面性の高い高分子電解質膜を得ることができる。
【0057】
(熱処理)
このようにして得られた高分子電解質膜は、必要に応じて引き続き熱処理が施される。熱処理により結晶物部分と高分子固体電解質部分とが強固に接着され、その結果、機械的強度が安定化され得る。熱処理温度は、好ましくは120℃以上300℃以下、更に好ましくは140℃以上250℃以下、最も好ましくは160℃以上230℃以下である。熱処理温度を120℃以上とすることは、結晶物部分と電解質組成物部分との間の密着力向上に寄与し得る。一方、熱処理温度を300℃以下とすることは、高分子電解質膜の特性を維持する観点から好適である。熱処理の時間は、熱処理温度にもよるが、好ましくは5分以上3時間以下、更に好ましくは10分以上2時間以下である。
【0058】
(洗浄)
上記高分子電解質膜は、必要に応じて引き続き酸及び/又は水を用いた洗浄処理が施される。
酸による洗浄を行なうことは、高分子電解質膜中のイオン交換基にイオン結合した金属イオン、有機物イオンを除去し、イオン交換能を向上させる観点から好適である。よって、酸で洗浄しなくても充分なイオン交換能が得られる場合には、酸で洗浄する必要はない。
ここで、酸による洗浄に使用される酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、過酸化水素、ホスホン酸、ホスフィン酸等の無機酸;
酒石酸、シュウ酸、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、アスパラギン酸、アミノ安息香酸、アミノエチルホスホン酸、イノシン、グリセリンリン酸、ジアミノ酪酸、ジクロロ酢酸、システイン、ジメチルシステイン、ニトロアニリン、ニトロ酢酸、ピクリン酸、ピコリン酸、ヒスチジン、ビピリジン、ピラジン、プロリン、マレイン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、トリクロロ酢酸等の有機酸;
が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を併用することができる。更に、これらの無機酸や有機酸は、水、メチルエチルケトン、アセトニトリル、炭酸プロピレン、ニトロメタン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、メタノール、エタノール、アセトン等との混合液として使用してもよい。
【0059】
また、これらの酸は、25℃でのpHとして2以下のものが好ましい。また洗浄の温度は0〜160℃まで使用できるが、低すぎると反応時間が長くなり、高すぎれば、取り扱いが困難となるため好ましくない。また高温での酸洗には耐酸性のあるオートクレーブを使用することが好ましい。
また、水による洗浄もまた必要に応じて行われ、特に酸による洗浄を行った場合には膜中に残留する酸を除去する目的で行われるが、酸による洗浄を行わない場合でも膜中の不純物の除去を目的に実施することができる。
洗浄に使用する溶媒は水のほか、pH1〜7の各種の有機溶媒が使用できる。洗浄に水を使用する場合、充分な量の伝導度0.06S/cm以下の純水を用いることが好ましく、水洗水のpHが6〜7になるまで充分に行われるのが好ましい。
【0060】
(延伸)
本実施の形態において、上記記載の製法と併せて、横1軸延伸、同時2軸延伸または逐次2軸延伸を実施することによって延伸配向を付与することができる。このような延伸処理により、本発明のプロトン交換膜の力学物性を向上させることができるので好ましい。
上記の延伸処理は、横(TD)方向に1.1〜6.0倍、縦(MD)方向に1.0〜6.0倍で実施することが好ましく、より好ましくは横方向に1.1〜3.0倍、縦方向に1.0〜3.0倍、さらに好ましくは横方向に1.1〜2.0倍、縦方向に1.0〜2.0倍である。面積延伸倍率としては1.1〜36倍が好ましい。
【0061】
(補強材料)
本実施の形態において、上記記載の製法と併せて、無機材ないし有機材または有機無機ハイブリッド材からなる補強材料を添加することによる補強や、架橋による補強等を施すこともできる。補強材料は繊維状物でもよいし、粒子状物質でもよいし、薄片状物質でもよい。また、多孔膜、メッシュおよび不織布などの連続した支持体でもよい。本実施の形態において、補強材料の添加による補強を実施することで、力学強度および乾湿寸法変化を容易に向上させることができる。特に繊維状物または上述の連続した支持体を補強材料に用いると補強効果が高い。また、補強しない層と上記補強層した層を任意の方法で多層状に積層したものも好ましい。
補強材料は、溶融混練時に同時に添加、混合してもよいし、溶液又は懸濁液を含浸してもよいし、製膜後の膜と積層してもよい。
【0062】
補強材料として用いる無機材は補強効果のあるものであれば特に限定されず、例えばガラス繊維、炭素繊維、セルロース繊維、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、タルク、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ藻土、ケイ砂、鉄フェライト、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、およびカーボンナノホーン等が挙げられる。補強材として用いる有機材もまた補強効果のあるものであれば特に限定されず、例えばポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリチオエーテルスルホン、ポリチオエーテルエーテルスルホン、ポリチオエーテルケトン、ポリチオエーテルエーテルケトン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサジノン、ポリキシリレン、ポリフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセン、ポリシアノゲン、ポリナフチリジン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂、ポリスチレン−水素添加されたポリブタジエン−ポリスチレンブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリエステル、ポリアリレート、液晶ポリエステル、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、セルロース、ポリケトン、ポリアセタール、ポリプロピレンおよびポリエチレンなどが挙げられる。有機無機ハイブリッド材もまた補強材として用いることができ、例えば、POSS(Polyhedral Oligomeric Silsesquioxanes)やシリコーンゴム等のシルセスキオキサン構造やシロキサン構造を有した有機ケイ素高分子化合物などが挙げられる。
【0063】
(膜厚)
本実施の形態において、高分子電解質膜の厚みには限定はないが、1μm以上500μm以下であることが好ましく、より好ましくは2μm以上100μm以下、最も好ましくは5μm以上50μm以下である。膜厚を1μm以上とすることは、水素と酸素の直接反応のような不都合を低減し得る点、燃料電池製造時の取り扱い時や燃料電池運転中に差圧・歪み等が生じても、膜の損傷等が発生しにくいという点で好ましい。一方、膜厚を500μm以下とすることは、イオン透過性を維持し、固体高分子電解質膜としての性能を維持する観点から好ましい。
【0064】
(EW)
本実施の形態において、高分子電解質膜の当量質量EW(プロトン交換基1当量あたりのプロトン交換膜の乾燥質量グラム数)には限定はないが、333以上2000以下が好ましく、より好ましくは400以上1500以下、最も好ましくは500以上1200以下である。より低いEW、つまりプロトン交換容量の大きいプロトン伝導性ポリマーを用いることにより、高温低加湿条件下においても優れたプロトン伝導性を示し、燃料電池に用いた場合、運転時に高い出力を得ることができる。
【0065】
(電極触媒層)
本実施の形態の電極触媒層は、導電性粒子上に電極触媒粒子が担持された複合粒子と、高分子電解質(A成分)とチオエーテル基を有する化合物(B成分)とから構成されることを特徴とする。
電極触媒は、アノードでは燃料(例えば水素)を酸化して容易にプロトンを生ぜしめ、カソードではプロトン及び電子と酸化剤(例えば酸素や空気)を反応させて水を生成させる触媒である。電極触媒の種類には制限がないが、水素の酸化反応及び酸素の還元反応を促進する金属であれば良く、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム、およびこれらの合金等が挙げられ、その中では白金が好ましく用いられる。CO等の不純物に対する白金の耐性を強化するために、白金にルテニウム等を添加又は合金化した電極触媒が好ましく用いられる場合もある。
【0066】
導電性粒子としては、導電性を有するものであれば何でもよく、例えばファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、各種金属が用いられる。これら導電性粒子の粒子径としては、好ましくは10オングストローム〜10μm、より好ましくは50オングストローム〜1μm、最も好ましくは100〜5000オングストロームである。電極触媒粒子の粒子径は限定されないが、10〜1000オングストロームが好ましく、より好ましくは10〜500オングストローム、最も好ましくは15〜100オングストロームである。
複合粒子としては、導電性粒子に対して電極触媒粒子が、好ましくは1〜99質量%、より好ましくは10〜90質量%、最も好ましくは30〜70質量%に担持されていることが好ましい。具体的には、田中貴金属工業(株)製TEC10E40E等のPt触媒担持カーボンが好適な例として挙げられる。
【0067】
本実施の形態において、複合粒子の含有率は、20〜95質量%であり、好ましくは40〜90質量%、より好ましくは50〜85質量%、最も好ましくは60〜80質量%である。
電極面積に対する電極触媒の担持量としては、電極触媒層を形成した状態で、好ましくは0.001〜10mg/cm、より好ましくは0.01〜5mg/cm、最も好ましくは0.1〜1mg/cmである。
本実施の形態において、電極触媒層の厚みとしては、好ましくは0.01〜200μm、より好ましくは0.1〜100μm、最も好ましくは1〜50μmである。
本実施の形態において、電極触媒層の空隙率としては特に限定されないが、好ましくは10〜90体積%、より好ましくは20〜80体積%、最も好ましくは30〜60体積%以下である。
また、撥水性の向上のため、本発明の高耐久性電極触媒層がさらにポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFE)を含有する場合がある。この場合、PTFEの形状としては特に限定されないが、定形性のものであれば構わず、粒子状、繊維状であることが好ましく、これらが単独で使用されても混合して使用されていても構わない。
【0068】
本実施の形態において、電極触媒層にPTFEを含有する場合の含有率としては、電極触媒層の全質量に対し、好ましくは0.001〜20質量%、より好ましくは0.01〜10質量%、最も好ましくは0.1〜5質量%である。
また、親水性向上のため、本発明の高耐久性電極触媒層が、さらに金属酸化物を含有する場合がある。この場合、金属酸化物としては特に限定はないが、Al、B、MgO、SiO、SnO、TiO、V、WO、Y、ZrO、Zr及びZrSiOからなる群から選ばれた少なくとも1つを構成要素とする金属酸化物であることが好ましい。中でもAl、SiO、TiO、ZrOであることが好ましく、SiOが特に好ましい。
【0069】
本実施の形態において、電極触媒層が金属酸化物を含有する場合の含有率としては、電極触媒層の全質量に対し、好ましくは0.001〜20質量%、より好ましくは0.01〜10質量%、最も好ましくは0.1〜5質量%である。金属酸化物の形態としては、粒子状や繊維状といったものを用いても構わないが、特に非定形であることが望ましい。ここで言う非定形とは、光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察しても、粒子状や繊維状の金属酸化物が観察されないことを言う。特に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電極触媒層を数10万倍までに拡大して観察しても、粒子状や繊維状の金属酸化物は観察されない。また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて電極触媒層を数10万倍〜数100万倍に拡大して観察しても、明確に粒子状や繊維状の金属酸化物は観察することができない。このように現状の顕微鏡技術の範囲内では、金属酸化物の粒子状や繊維状を確認することができないことを指す。
【0070】
(電極触媒層の製造方法)
次に本実施の形態の電極触媒層の製造方法について説明する。
本実施の形態の電極触媒層は、例えば、イオン交換容量が0.5〜3.0ミリ当量/gの高分子電解質(A成分)とチオエーテル基を有する化合物(B成分)とが、1種類以上のプロトン性溶媒に溶解又は分散しており、A成分とB成分の合計質量%が0.5〜30質量%であり、かつ前記A成分と前記B成分の質量比(A/B)が60/40〜99.99/0.01である電解質ポリマー溶液を準備し、この電解質ポリマー溶液中に上記複合粒子を分散させた電極触媒組成物溶液又は分散液を調製し、これを高分子電解質膜上又はPTFEシート等の他の基材上に塗布した後、乾燥、固化して製造することができる。尚、本発明において電極触媒組成物溶液又は分散液の塗布は、スクリーン印刷法、スプレー法等の一般的に知られている各種方法を用いることが可能である。
【0071】
該電極触媒組成物溶液又は分散液は、必要に応じてさらに溶媒を添加されて使用される。用いることができる溶媒としては水、アルコール類(エタノール、2−プロパノール、エチレングリコール、グリセリン等)、フロン等の単独溶媒又は複合溶媒が挙げられる。このような溶媒の添加量としては、電極触媒組成物溶液又は分散液の全質量に対し、好ましくは0.1〜90質量%、より好ましくは1〜50質量%、最も好ましくは5〜20質量%であることが望ましい。
また一方、ガス拡散層と電極触媒層が積層したBASF社製ELAT(登録商標)のようなガス拡散電極に、該電解質ポリマー溶液を塗布もしくは浸漬・塗布せしめた後に、乾燥、固化することによっても本実施の形態の電極触媒層を得ることができる。
またさらに、電極触媒層を作製後に塩酸等の無機酸に浸漬を行う場合がある。酸処理の温度としては、好ましくは5〜90℃、より好ましくは10〜70℃、最も好ましくは2
0〜50℃である。
【0072】
(電解質ポリマー溶液又は分散液)
本実施の形態の電解質ポリマー溶液又は分散液は、高分子電解質(A成分)とチオエーテル基を有する化合物(B成分)とが、1種類以上のプロトン性溶媒に溶解又は分散していることを特徴とする。
本実施の形態において、該電解質ポリマー溶液又は分散液中に占めるA成分とB成分の合計質量としては、0.5〜30質量%であり、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜29質量%、さらに好ましくは3〜28質量%である。
さらに、本実施の形態では、分散性が向上することで高寿命化等の効果を良好に実現させる観点から、X成分の平均粒子径は、0.01〜2.0μmであることが好ましく、0.01〜1.0μmがより好ましく、0.01〜0.5μmがさらに好ましく、0.01〜0.1μmが最も好ましい。
【0073】
(膜電極接合体)
本実施の形態の高分子電解質膜は、膜電極接合体、乃至固体高分子電解質型燃料電池の構成部材として使用することができる。高分子電解質膜の両面にアノードとカソードの2種類の電極触媒層が接合したユニットは、膜電極接合体(以下「MEA」と略称することがある)と呼ばれる。電極触媒層のさらに外側に一対のガス拡散層を対向するように接合
したものについても、MEAと呼ばれる場合がある。本発明の電極触媒層は、アノード触媒層及び/又はカソード触媒層として使用される。
【0074】
(固体高分子電解質型燃料電池)
基本的には、上記MEAのアノードとカソードを高分子電解質積層膜の外側に位置する電子伝導性材料を介して互いに結合させると、作動可能な固体高分子形燃料電池を得ることができる。この際、必要に応じてアノード触媒層とカソード触媒層のそれぞれの外側表面にガス拡散層をセットする。ガス拡散層としては、市販のカーボンクロスもしくはカーボンペーパーを用いることができる。前者の代表例としては、BASF社製カーボンクロスE−tek,B−1が挙げられ、後者の代表例としては、CARBEL(登録商標、日本国ジャパンゴアテックス(株))、日本国東レ社製TGP−H、米国SPECTRACORP社製カーボンペーパー2050等が挙げられる。当業者には固体高分子形燃料電池の作成方法は周知である。固体高分子形燃料電池の作成方法は、例えば、FUEL CELL HANDBOOK(VAN NOSTRAND REINHOLD、A.J.APPLEBY et.al、ISBN 0−442−31926−6)、化学One Point,燃料電池(第二版),谷口雅夫,妹尾学編,共立出版(1992)等に詳しく記載されている。
【0075】
電子伝導性材料としては、その表面に燃料や酸化剤等のガスを流すための溝を形成させたグラファイトまたは樹脂との複合材料、金属製のプレート等の集電体を用いる。上記MEAがガス拡散層を有さない場合、MEAのアノードとカソードのそれぞれの外側表面にガス拡散層を位置させた状態で単セル用ケーシング(例えば、米国エレクトロケム社製 PEFC単セル)に組み込むことにより固体高分子形燃料電池が得られる。
高電圧を取り出すためには、上記のような単セルを複数積み重ねたスタックセルとして燃料電池を作動させる。このようなスタックセルとしての燃料電池を作成するためには、複数のMEAを作成してスタックセル用ケーシング(例えば、米国エレクトロケム社製 PEFCスタックセル)に組み込む。このようなスタックセルとしての燃料電池においては、隣り合うセルの燃料と酸化剤を分離する役割と隣り合うセル間の電気的コネクターの役割を果たすバイポーラプレートと呼ばれる集電体が用いられる。
燃料電池の運転は、一方の電極に水素を、他方の電極に酸素または空気を供給することによって行われる。燃料電池の作動温度は高温であるほど触媒活性が上がるために好ましい。通常は、水分管理が容易な50〜80℃で作動させることが多いが、80℃〜150℃で作動させることもできる。
【実施例】
【0076】
以下、本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
尚、本実施の形態に用いられる評価法および測定法は以下のとおりである。
(膜厚)
高分子電解質膜を23℃、50RH%の恒温室で1時間以上放置した後、膜厚計(東洋精機製作所:B−1)を用いて測定した。
(イオン交換容量)
イオン交換基の対イオンがプロトンの状態となっている高分子電解質膜、およそ2〜20cmを、25℃、飽和NaCl水溶液30mlに浸漬し、攪拌しながら30分間放置した。次いで、飽和NaCl水溶液中のプロトンを、フェノールフタレインを指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定した。中和後に得られた、イオン交換基の対イオンがナトリウムイオンの状態となっている高分子電解質膜を、純水ですすぎ、更に真空乾燥して秤量した。中和に要した水酸化ナトリウムの物質量をM(mmol)、イオン交換基の対イオンがナトリウムイオンの高分子電解質膜の重量をW(mg)とし、下記式より当量重量EW(g/eq)を求めた。
EW=(W/M)−22
更に、得られたEW値の逆数をとって1000倍することにより、イオン交換容量(ミリ当量/g)を算出した。
【0077】
(積算量)
高分子電解質膜を溶解及び/又は懸濁させた溶液を水で希釈し分散させたサンプルについて、粒子径が10μm以上のX成分の積算量(体積基準)を測定した。測定装置としては、堀場製作所社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA−950)を用いた。測定値は全て、屈折率1.33を使用した計算結果として記載した。積算量(体積基準)は、全粒子体積を100として、その粒度分布における粒子径10μm以上の粒子が占める体積の比を記載した。
【0078】
(OCV加速試験)
高温低加湿条件下における高分子電解質膜の耐久性を加速的に評価するため、以下のようなOCV加速試験を実施した。ここで言う「OCV」とは、開回路電圧(Open Circuit Voltage)を意味する。このOCV加速試験は、OCV状態に保持することで高分子電解質膜の化学的劣化を促進させることを意図した加速試験である。(OCV加速試験の詳細は、平成14年度新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「固体高分子形燃料電池の研究開発(膜加速評価技術の確立等に関するもの)」旭化成(株)成果報告書p.55〜57に記載されている。)
まず、アノード側ガス拡散電極とカソード側ガス拡散電極を向い合わせ、電極触媒層を介して高分子電解質膜を挟み込み、評価用セルに組み込んだ。ガス拡散電極としては、BASF社製ガス拡散電極ELAT(登録商標)(Pt担持量0.4mg/cm、以下同じ)を用いた。なお、電極触媒層は、ガス拡散電極の表面に、5質量%のパーフルオロスルホン酸ポリマー溶液SS−910(旭化成(株)製、当量質量(EW):910、溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)を塗布した後、大気雰囲気中、140℃で乾燥・固定化して形成した。ポリマー担持量は0.8mg/cmであった。
この評価用セルを評価装置((株)東陽テクニカ社製燃料電池評価システム890CL)にセットして昇温した後、アノード側に水素ガス、カソード側に空気ガスを200cc/minで流してOCV状態に保持した。ガス加湿には水バブリング方式を用い、水素ガス、空気ガスともに加湿してセルへ供給した。
試験条件としては、セル温度100℃で行った。ガス加湿温度は50℃(湿度12%RHに相当)とし、また、アノード側とカソード側の両方を無加圧(大気圧)とした。
【0079】
(1)フッ素溶出速度の測定
単セル特性試験中のアノード排ガスおよびカソード排ガスと共に排出される排水を、それぞれ所定時間捕捉回収した後、秤量した。メディトリアル(株)製ベンチトップ型pHイオンメーター920Aplusに同フッ素複合電極9609BNionplusを取り付け、アノード排水中およびカソード排水中のフッ素イオン濃度を測定し、以下の式からフッ素溶出速度Gを導出した。
G=(Wa×Fa+Wc×Fc)/(T×A)
G:フッ素溶出速度(μg/Hr/cm
Wa:捕捉回収したアノード排水の重量(g)
Fa:アノード排水中のフッ素イオン濃度(ppm)
Wc:捕捉回収したカソード排水の重量(g)
Fc:カソード排水中のフッ素イオン濃度(ppm)
T:排水を捕捉回収した時間(Hr)
A:MEAの電極面積(cm
【0080】
(2)クロスリーク量の測定
試験開始から10時間ごとに、高分子電解質膜にピンホールを生じたか否かを調べるため、GTRテック(株)製フロー式ガス透過率測定装置GTR−100FAを用いて水素ガス透過率を測定した。評価セルのアノード側を水素ガスで0.15MPaに保持した状態で、カソード側にキャリアガスとしてアルゴンガスを10cc/minで流した。評価セル中をクロスリークによりアノード側からカソード側に透過してきた水素ガスを。キャリアガスとともにガスクロマトグラフG2800に導入し、水素ガスの透過量を定量化した。水素ガス透過量をX(cc)、補正係数をB(=1.100)、高分子電解質膜の膜
厚T(cm)、水素分圧をP(cmHg)、高分子電解質膜の水素透過面積をA(cm)、測定時間をD(sec)とした時の水素ガス透過率L(cc×cm/cm/sec/cmHg)は、下記式から計算される。
L=(X×B×T)/(P×A×D)
水素ガス透過率が1×10−7(cc×cm/cm/sec/cmHg)以上になった時点をセル寿命とし、そこで試験を終了した。
【0081】
[実施例1]
テトラフルオロエチレン、及びCF=CFO(CF−SOFから得られたパーフルオロスルホン酸樹脂前駆体(加水分解・酸処理後のEW:730 MFR:3)と、ポリフェニレンスルフィド(シグマアルドリッチジャパン(株)製、310℃での溶融粘度275ポイズ)との質量比を95/5とし、温度280〜310℃、スクリュー回転数200rpmに設定した二軸押出機(ZSK−40;WERNER&PFLEIDERER社製、ドイツ国)を用い、押出機の第一原料供給口より供給して溶融混練し、ストランドダイを通して溶融押し出しを行い、直径約2mm、長さ約2mmの円筒状のペレットに成形した。
このペレットを、水酸化カリウム(15質量%)とメチルアルコール(50質量%)を溶解した水溶液中に、80℃で20時間接触させて、加水分解処理を行った。その後、60℃水中に5時間浸漬した。次に60℃の2N塩酸水溶液に1時間浸漬させる処理を、毎回塩酸水溶液を更新して5回繰り返した後、イオン交換水で水洗、乾燥した。これにより、スルホン酸基(SOH)を有するペレットを得た。
【0082】
このペレットをエタノール水溶液(水:エタノール=50.0:50.0(質量比))とともに5リットルオートクレーブ中に入れて密閉し、翼で攪拌しながら160℃まで昇温して5時間保持した。その後、オートクレーブを自然冷却して、固形分濃度5質量%の均一な溶液を作製した。
この溶液120.0gにジメチルアセトアミドを25.0gと、5質量%のパーフルオロスルホン酸ポリマー溶液(旭化成(株)製、EW=720、溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)80.0gとを加えて攪拌し、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(A成分)とポリフェニレンスルフィド樹脂(B成分)との質量比(A/B)が97/3となるように調整した。この混合溶液をさらに80℃にて減圧濃縮して、キャスト溶液を得た。
【0083】
このキャスト溶液をテトラフルオロエチレンフィルム上にドクターブレードを用いて、キャストした。次に、オーブンに入れて60℃で30分予備乾燥した後、80℃で30分乾燥させて溶媒を除去し、さらに160℃で1時間熱処理を行い、膜厚約50μmの高分子電解質膜を得た。次に、60℃の2N塩酸水溶液に3時間浸漬した後、イオン交換水で水洗、乾燥して高分子電解質膜(EW:735、イオン交換容量:1.36)を得た。この膜の粒子径が10μm以上のX成分積算量(体積基準)は、3%であった。
この高分子電解質膜のOCV加速試験を行ったところ、開始から50時間までの排水中のフッ素溶出速度の平均値は0.20(μg/Hr/cm)と非常に低い値を示した。セル寿命は300時間を越え、非常に優れた耐久性を示した。クロスリーク量を含めた結果を表1に示す。
【0084】
[実施例2]
テトラフルオロエチレン、及びCF=CFO(CF−SOFから得られたパーフルオロスルホン酸樹脂前駆体(加水分解・酸処理後のEW:730 MFR:3)と、ポリフェニレンスルフィド(シグマアルドリッチジャパン(株)製、310℃での溶融粘度275ポイズ)との質量比を90/10とした以外は実施例1と同様にして、固形分濃度5質量%の均一な溶液を作製した。
この溶液100.0gにジメチルアセトアミドを25.0gと、5質量%のパーフルオ
ロスルホン酸ポリマー溶液(旭化成(株)製、EW=720、溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)100.0gとを加えて攪拌し、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(A成分)とポリフェニレンスルフィド樹脂(B成分)との質量比(A/B)が95/5となるように調整した。この混合溶液をさらに80℃にて減圧濃縮して、キャスト溶液を得た。
【0085】
このキャスト溶液をアドバンテック東洋(株)製のステンレスラインホルダーKS−47に、MILLIPORE社のメンブレンフィルターAN1H04700(孔径10.0μm)をセットして、加圧濾過を行った。
濾過後の溶液を用いて、実施例1と同様にしてキャストし、膜厚約50μmの高分子電解質膜を得た。次に、60℃の2N塩酸水溶液に3時間浸漬した後、イオン交換水で水洗、乾燥して高分子電解質膜(EW:745、イオン交換容量:1.34)を得た。この膜の粒子径が10μm以上のX成分積算量(体積基準)は、1%であった。
この高分子電解質膜のOCV加速試験を行ったところ、開始から50時間までの排水中のフッ素溶出速度の平均値は0.10(μg/Hr/cm)と非常に低い値を示した。セル寿命は300時間を越え、非常に優れた耐久性を示した。クロスリーク量を含めた結果を表1に示す。
【0086】
[実施例3]
テトラフルオロエチレン、及びCF=CFO(CF−SOFから得られたパーフルオロスルホン酸樹脂前駆体(加水分解・酸処理後のEW:730 MFR:3)と、ポリフェニレンスルフィド(シグマアルドリッチジャパン(株)製、310℃での溶融粘度275ポイズ)と、ポリフェニレンエーテル(2,6−キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度0.51、ガラス転移温度(Tg)が209℃)と、エポキシ基含有化合物(大日本インキ化学工業(株)製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂N−660)との質量比を90/7/1/2とした以外は実施例1と同様にして、固形分濃度5質量%の均一な溶液を作製した。
【0087】
この溶液142.9gにジメチルアセトアミドを25.0gと、5質量%のパーフルオロスルホン酸ポリマー溶液(旭化成(株)製、EW=720、溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)57.1gとを加えて攪拌し、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(A成分)とポリフェニレンスルフィド樹脂(B成分)とポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)とエポキシ基含有化合物(D成分)との質量比が92.9/5/0.7/1.4となるように調整した。この混合溶液をさらに80℃にて減圧濃縮して、キャスト溶液を得た。
このキャスト溶液を用いて、実施例2と同様にして加圧濾過を行った後にキャストを行い、膜厚約50μmの高分子電解質膜を得た。次に、60℃の2N塩酸水溶液に3時間浸漬した後、イオン交換水で水洗、乾燥して高分子電解質膜(EW:750、イオン交換容量:1.33)を得た。この膜の粒子径が10μm以上のX成分積算量(体積基準)は、1%であった。
この高分子電解質膜のOCV加速試験を行ったところ、開始から50時間までの排水中のフッ素溶出速度の平均値は0.07(μg/Hr/cm)と非常に低い値を示した。セル寿命は300時間を越え、非常に優れた耐久性を示した。クロスリーク量を含めた結果を表1に示す。
【0088】
[比較例1]
テトラフルオロエチレンとCF=CFO(CF−SOFとから得られたパーフルオロスルホン酸樹脂前駆体(加水分解・酸処理後のEW:730 MFR:3)を単独で用いた以外は実施例1と同様にして、固形分濃度5質量%の均一な溶液を作製した。
この溶液200.0gにジメチルアセトアミドを25.0g加えて攪拌し、さらに80℃にて減圧濃縮して、キャスト溶液を得た。
このキャスト溶液を用いて、実施例1と同様にしてキャストし、膜厚約50μmの高分子電解質膜を得た。次に、60℃の2N塩酸水溶液に3時間浸漬した後、イオン交換水で水洗、乾燥して高分子電解質膜(EW:730、イオン交換容量:1.37)を得た。
この高分子電解質膜のOCV加速試験を行ったところ、開始からセル寿命までの排水中のフッ素溶出速度の平均値は9.07(μg/Hr/cm)と非常に高い値を示した。セル寿命は45時間で、十分な耐久性が得られなかった。クロスリーク量を含めた結果を表1に示す。
【0089】
[比較例2]
特許文献7の実施例10に開示された方法に基づき、パーフルオロスルホン酸樹脂とポリフェニレンスルフィドとポリフェニレンエーテルとエポキシ基含有化合物との質量比が90/7/1/2、膜厚約50μmの高分子電解質膜を以下のように製造した。
テトラフルオロエチレンとCF=CFO(CF−SOFとから得られたパーフルオロスルホン酸樹脂前駆体(加水分解・酸処理後のEW:730 MFR:3)と、ポリフェニレンスルフィド(シグマアルドリッチジャパン(株)製、310℃での溶融粘度275ポイズ)、ポリフェニレンエーテル(2,6−キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度0.51、ガラス転移温度(Tg)が209℃)、エポキシ基含有化合物(大日本インキ化学工業(株)製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂N−660)の質量比を90/7/1/2とし、温度280〜310℃、スクリュー回転数200rpmに設定した二軸押出機(ZSK−40;WERNER&PFLEIDERER社製、ドイツ国)を用い、押出機の第一原料供給口より供給して溶融混練し、Tダイ押出機を用いて溶融押出して50μm厚のフィルムに成形した。このフィルムを、水酸化カリウム(15質量%)とジメチルスルホキシド(30質量%)を溶解した水溶液中に、60℃で4時間接触させて、アルカリ加水分解処理を行った。その後、60℃水中に4時間浸漬した。次に60℃の2N塩酸水溶液に3時間浸漬した後、イオン交換水で水洗、乾燥して高分子電解質膜(EW:810、イオン交換容量:1.23)を得た。この膜の粒子径が10μm以上のX成分積算量(体積基準)は、7%であった。
この高分子電解質膜のOCV加速試験を行ったところ、開始からセル寿命までの排水中のフッ素溶出速度の平均値は0.90(μg/Hr/cm)と低い値を示した。しかしながら、セル寿命は194時間で、十分な耐久性が得られなかった。クロスリーク量を含めた結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
[実施例4]
テトラフルオロエチレン、及びCF=CFO(CF−SOFから得られたパーフルオロスルホン酸樹脂前駆体(加水分解・酸処理後のEW:730 MFR:3)と、ポリフェニレンスルフィド(シグマアルドリッチジャパン(株)製、310℃での溶融粘度275ポイズ)との質量比を95/5とし、温度280〜310℃、スクリュー回転数200rpmに設定した二軸押出機(ZSK−40;WERNER&PFLEIDERER社製、ドイツ国)を用い、押出機の第一原料供給口より供給して溶融混練し、ストランドダイを通して溶融押し出しを行い、直径約2mm、長さ約2mmの円筒状のペレットに成形した。
このペレットを、水酸化カリウム(15質量%)とメチルアルコール(50質量%)を溶解した水溶液中に、80℃で20時間接触させて、加水分解処理を行った。その後、60℃水中に5時間浸漬した。次に60℃の2N塩酸水溶液に1時間浸漬させる処理を、毎回塩酸水溶液を更新して5回繰り返した後、イオン交換水で水洗、乾燥した。これにより、スルホン酸基(SOH)を有するペレットを得た。
【0092】
このペレットをエタノール水溶液(水:エタノール=50.0:50.0(質量比))とともに5リットルオートクレーブ中に入れて密閉し、翼で攪拌しながら160℃まで昇温して5時間保持した。その後、オートクレーブを自然冷却して、固形分濃度5質量%の均一な溶液を作製した。
この溶液120.0gにジメチルアセトアミドを25.0gと、5質量%のパーフルオロスルホン酸ポリマー溶液(旭化成(株)製、EW=720、溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)80.0gとを加えて攪拌し、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(A成分)とポリフェニレンスルフィド樹脂(B成分)との質量比(A/B)が97/3となるように調整した。この混合溶液をさらに80℃にて減圧濃縮して、電解質ポリマー溶液を得た。この電解質ポリマー溶液の粒子径が10μm以上のX成分積算量(体積基準)は、3%であった。
【0093】
このようにして得られた電解質ポリマー溶液を用いて、以下のように電極触媒層を製造した。
Pt担持カーボン(日本国田中貴金属(株)社製TEC10E40E、Pt36.4質量%)0.70gに対し、固形分が20%になるように、上記電解質ポリマー溶液を2.76g、エタノールを1.53g添加した後、超音波ホモジナイザーで1分間混合して電極触媒組成物を得た。この電極触媒組成物をスクリーン印刷法にてPTFEシート上に塗布した。塗布後、室温下で1時間、空気中160℃にて1時間、乾燥した。このようにして、厚み10μm程度の高耐久性電極触媒層を得た。これらの高耐久性電極触媒層のうち、Pt担持量が0.15mg/cmのものをアノード触媒層とし、Pt担持量が0.30mg/cmのものをカソード触媒層とした。
【0094】
一方、電解質ポリマー溶液を用いて、高耐久性高分子電解質膜を以下のように製造する。
35.3gのパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(ポリマー比 5質量%、溶媒組成比 水:エタノール=50.0:50.0(質量比)、旭化成ケミカルズ(株)製)を直径15cmのガラスシャーレに均一に広げ、ホットプレート上で80℃×2時間乾燥し、さらにこれを熱風オーブン中で180℃,1時間の加熱処理を行った。冷却後、膜をシャーレから引き剥がし、25℃の2N塩酸水溶液(和光純薬製)中に8時間浸漬し、酸洗した後、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後25℃35%RHの環境下で乾燥した。このようにして、透明で均一な厚さ50μmの高耐久性高分子電解質膜を得た。
このようにして得た高耐久性高分子電解質膜を、上記のアノード触媒層とカソード触媒層を向い合わせて、その間に挟み込み、180℃、面圧0.1MPaでホットプレスすることにより、アノード触媒層とカソード触媒層を高分子電解質膜に転写、接合してMEAを作製した。ガス拡散層としては、BASF社製LT1400Wを用い、これらを評価用セルに組み込んだ。
【0095】
評価用セルを評価装置((株)東陽テクニカ社製燃料電池評価システム890CL)にセットして昇温した後、アノード側に水素ガスを50cc/min、カソード側に空気ガスを150cc/minで流し、OCV状態と0.3A/cmの状態を3時間ずつ保持する起動停止試験を行った。ガス加湿には水バブリング方式を用い、水素ガス、空気ガスともに加湿してセルへ供給した。セル温度は80℃、ガス加湿温度は50℃とし、また、アノード側とカソード側の両方を無加圧(大気圧)とした。
この膜電極接合体のOCV加速試験を行ったところ、開始から50時間までの排水中のフッ素溶出速度の平均値は1.22(μg/Hr/cm)と非常に低い値を示した。セル寿命は100時間を越え、非常に優れた耐久性を示した。クロスリーク量を含めた結果を表2に示す。
【0096】
[実施例5]
テトラフルオロエチレン、及びCF=CFO(CF−SOFから得られたパーフルオロスルホン酸樹脂前駆体(加水分解・酸処理後のEW:730 MFR:3)と、ポリフェニレンスルフィド(シグマアルドリッチジャパン(株)製、310℃での溶融粘度275ポイズ)との質量比を90/10とした以外は実施例1と同様にして、固形分濃度5質量%の均一な溶液を作製した。
この溶液100.0gにジメチルアセトアミドを25.0gと、5質量%のパーフルオ
ロスルホン酸ポリマー溶液(旭化成(株)製、EW=720、溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)100.0gとを加えて攪拌し、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(A成分)とポリフェニレンスルフィド樹脂(B成分)との質量比(A/B)が95/5となるように調整した。この混合溶液をさらに80℃にて減圧濃縮して、電解質ポリマー溶液を得た。
この電解質ポリマー溶液をアドバンテック東洋(株)製のステンレスラインホルダーKS−47に、MILLIPORE社のメンブレンフィルターAN1H04700(孔径10.0μm)をセットして、加圧濾過を行った。この電解質ポリマー溶液の粒子径が10μm以上のX成分積算量(体積基準)は、1%であった。
この溶液を用いて、実施例6と同様にして電極触媒層と膜電極接合体を作製した。
この膜電極接合体のOCV加速試験を行ったところ、開始から50時間までの排水中のフッ素溶出速度の平均値は1.15(μg/Hr/cm)と非常に低い値を示した。セル寿命は100時間を越え、非常に優れた耐久性を示した。クロスリーク量を含めた結果を表2に示す。
【0097】
[実施例6]
テトラフルオロエチレン、及びCF=CFO(CF−SOFから得られたパーフルオロスルホン酸樹脂前駆体(加水分解・酸処理後のEW:730 MFR:3)と、ポリフェニレンスルフィド(シグマアルドリッチジャパン(株)製、310℃での溶融粘度275ポイズ)と、ポリフェニレンエーテル(2,6−キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度0.51、ガラス転移温度(Tg)が209℃)と、エポキシ基含有化合物(大日本インキ化学工業(株)製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂N−660)との質量比を90/7/1/2とした以外は実施例6と同様にして、固形分濃度5質量%の均一な溶液を作製した。
【0098】
この溶液142.9gにジメチルアセトアミドを25.0gと、5質量%のパーフルオロスルホン酸ポリマー溶液(旭化成(株)製、EW=720、溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)57.1gとを加えて攪拌し、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(A成分)とポリフェニレンスルフィド樹脂(B成分)とポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)とエポキシ基含有化合物(D成分)との質量比が92.9/5/0.7/1.4となるように調整した。この混合溶液をさらに80℃にて減圧濃縮して、電解質ポリマー溶液を得た。
この電解質ポリマー溶液をアドバンテック東洋(株)製のステンレスラインホルダーKS−47に、MILLIPORE社のメンブレンフィルターAN1H04700(孔径10.0μm)をセットして、加圧濾過を行った。この電解質ポリマー溶液の粒子径が10μm以上のX成分積算量(体積基準)は、1%であった。
この溶液を用いて、実施例4と同様にして電極触媒層と膜電極接合体を作製した。
この膜電極接合体のOCV加速試験を行ったところ、開始から50時間までの排水中のフッ素溶出速度の平均値は1.09(μg/Hr/cm)と非常に低い値を示した。セル寿命は100時間を越え、非常に優れた耐久性を示した。クロスリーク量を含めた結果を表2に示す。
【0099】
[比較例3]
テトラフルオロエチレンとCF=CFO(CF−SOFとから得られたパーフルオロスルホン酸樹脂前駆体(加水分解・酸処理後のEW:730 MFR:3)を単独で用いた以外は実施例4と同様にして、固形分濃度5質量%の均一な溶液を作製した。
この溶液を用いて、実施例4と同様にして電極触媒層と膜電極接合体を作製した。
この膜電極接合体のOCV加速試験を行ったところ、開始から50時間までの排水中のフッ素溶出速度の平均値は8.50(μg/Hr/cm)と非常に高い値を示した。セル寿命は52時間で、十分な耐久性が得られなかった。クロスリーク量を含めた結果を表2に示す。
【0100】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の高耐久性を有する高分子電解質組成物は、高い化学的安定性を有し、高温低加湿条件下(例えば、運転温度100℃で、50℃加湿(湿度12RH%に相当))で長期間運転を行ってもフッ素イオンの排出が少なく高耐久性を有する、高分子電解質膜等を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換容量が0.5〜3.0ミリ当量/gの高分子電解質(A成分)とチオエーテル基を有する化合物(B成分)とを含有し、前記A成分と前記B成分の質量比(A/B)が60/40〜99.99/0.01であり、かつ前記B成分を主体とする樹脂(X成分)が島状に分散しており、かつ下記式[1]を満たす高分子電解質組成物。
0(%)≦粒子径が10μm以上のX成分の積算量(体積基準)≦5(%) [1]
【請求項2】
前記B成分がポリフェニレンスルフィド樹脂である請求項1に記載の高分子電解質組成物。
【請求項3】
前記A成分がパーフルオロカーボン高分子化合物であり、該パーフルオロカーボン高分子化合物が、下記一般式[2]で表される構造単位を有する請求項1又は2のいずれか一項に記載の高分子電解質組成物。
−[CFCX−[CF−CF(−O−CF−CF(CF))−O−(CFR−(CFR−(CF−X)]− [2]
式中、X、XおよびXはそれぞれ独立にハロゲン元素または炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、0≦b≦8、cは0または1であり、d、eおよびfはそれぞれ独立に0以上6以下の範囲の数(ただし、d+e+fは0に等しくない)、RおよびRはそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基、XはCOOZ、SOZ、POまたはPOHZである。ここで、Zは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子またはアミン類(NH、NH、NH、NHR、NR)である。また、R、R、RおよびRは、アルキル基またはアレーン基である。
【請求項4】
該高分子電解質組成物がさらに、ポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)及び/又はエポキシ基含有化合物(D成分)を含有し、当該C成分と当該D成分との質量比(C/D)が0/100〜100/0であり、かつ当該C成分と当該D成分の合計質量が該高分子電解質組成物中に占める割合が0.01〜20質量%である請求項1〜3のいずれか一項に記載の高分子電解質組成物。
【請求項5】
前記X成分の平均粒子径が0.01〜2.0μmである請求項1〜4のいずれか一項に記載の高分子電解質組成物。
【請求項6】
前記X成分の粒子径1μm未満の成分(R1)と粒子径1μm以上の成分(R2)との積算量比(R1/R2)(体積基準)が、20/80〜99/1である請求項1〜5のいずれか一項に記載の高分子電解質組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜。
【請求項8】
イオン交換容量が0.5〜3.0ミリ当量/gの高分子電解質(A成分)とチオエーテル基を有する化合物(B成分)とが、1種類以上のプロトン性溶媒に溶解又は分散しており、A成分とB成分の合計質量%が0.5〜30質量%であり、かつ前記A成分と前記B成分の質量比(A/B)が60/40〜99.99/0.01である高分子電解質組成物溶液又は分散液を調整し、これをキャストし、更に溶媒を除去して成膜することを含む高分子電解質膜の製造方法。
【請求項9】
前記A成分がパーフルオロカーボン高分子化合物、前記B成分がポリフェニレンスルフィド樹脂であるとき、
1)パーフルオロカーボン高分子化合物前駆体にポリフェニレンスルフィド樹脂を混合し、溶融押し出して成形物を得る工程、
2)工程1)で得られた成形物を加水分解処理し、更に酸処理を行って前記パーフルオロカーボン高分子化合物前駆体をパーフルオロカーボン高分子化合物に変換する工程、
3)工程2)で酸処理された成形物を、前記パーフルオロカーボン高分子化合物の溶媒に溶解及び/又は懸濁させて溶液又は懸濁液を得る工程、
4)工程3)で得られた溶液又は懸濁液をキャストし、更に溶媒を除去して成膜する工程、
を含む請求項8に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項10】
前記押出成形工程1)に、更にポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)及び/又はエポキシ基含有化合物(D成分)を含む請求項9に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項11】
前記溶解工程3)の後に、更に4)前記溶解工程3)で得られた溶液又は分散液を濾過し粗大粒子成分を除去する工程を含む請求項9又は10に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか一項に記載の製造方法により得られる高分子電解質膜。
【請求項13】
さらに無機材又は有機材からなる補強材料を含有する請求項7又は12に記載の高分子電解質膜。
【請求項14】
補強材料が繊維状物である請求項13に記載の高分子電解質膜。
【請求項15】
補強材料が連続した支持体である請求項14に記載の高分子電解質膜。
【請求項16】
請求項7、12〜15のいずれか一項に記載の高分子電解質膜からなる膜電極接合体。
【請求項17】
導電性粒子上に電極触媒粒子が担持された複合粒子と、イオン交換容量が0.5〜3.0ミリ当量/gの高分子電解質(A成分)とチオエーテル基を有する化合物(B成分)とから構成され、該複合粒子の含有率が20〜95質量%であり、前記A成分と前記B成分の質量比(A/B)が60/40〜99.99/0.01であり、かつ前記B成分を主体とする樹脂(X成分)が島状に分散しており、かつ下記式[1]を満たす電極触媒層。
0(%)≦粒子径が10μm以上のX成分の積算量(体積基準)≦5(%) [1]
【請求項18】
前記B成分がポリフェニレンスルフィド樹脂である請求項17に記載の電極触媒層。
【請求項19】
前記A成分がパーフルオロカーボン高分子化合物であり、該パーフルオロカーボン高分子化合物が、下記一般式[2]で表される構造単位を有する請求項17又は18のいずれか一項に記載の電極触媒層。
−[CFCX−[CF−CF(−O−CF−CF(CF))−O−(CFR−(CFR−(CF−X)]− [2]
式中、X、XおよびXはそれぞれ独立にハロゲン元素または炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、0≦b≦8、cは0または1であり、d、eおよびfはそれぞれ独立に0以上6以下の範囲の数(ただし、d+e+fは0に等しくない)、RおよびRはそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基、XはCOOZ、SOZ、POまたはPOHZである。ここで、Zは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子またはアミン類(NH、NH、NH、NHR、NR)である。また、R、R、RおよびRは、アルキル基またはアレーン基である。
【請求項20】
該電極触媒層に、さらに、ポリフェニレンエーテル樹脂(C成分)及び/又はエポキシ基含有化合物(D成分)を含有し、当該C成分と当該D成分との質量比(C/D)が0/100〜100/0であり、かつ当該C成分と当該D成分の合計質量が該電極触媒層中に占める割合が0.01〜20質量%である請求項17〜19のいずれか一項に記載の電極触媒層。
【請求項21】
イオン交換容量が0.5〜3.0ミリ当量/gの高分子電解質(A成分)とチオエーテル基を有する化合物(B成分)とが、1種類以上のプロトン性溶媒に溶解又は分散しており、A成分とB成分の合計質量%が0.5〜30質量%であり、かつ前記A成分と前記B成分の質量比(A/B)が60/40〜99.99/0.01である電解質ポリマー溶液又は分散液を準備し、導電性粒子上に電極触媒粒子が担持された複合粒子を該電解質ポリマー溶液又は分散液に対して1〜100質量%の割合で分散させた電極触媒組成物を調製し、これを乾燥し、固化することを含む電極触媒層の製造方法。
【請求項22】
請求項21に記載の製造方法により得られる電極触媒層。
【請求項23】
イオン交換容量が0.5〜3.0ミリ当量/gの高分子電解質(A成分)とチオエーテル基を有する化合物(B成分)とが、1種類以上のプロトン性溶媒に溶解又は分散しており、A成分とB成分の合計質量%が0.5〜30質量%であり、かつ前記A成分と前記B成分の質量比(A/B)が60/40〜99.99/0.01である電解質ポリマー溶液又は分散液。
【請求項24】
前記B成分を主体とする樹脂(X成分)が平均粒子径0.01〜2.0μmで分散している請求項23に記載の電解質ポリマー溶液又は分散液。
【請求項25】
前記A成分がパーフルオロカーボン高分子化合物であり、該パーフルオロカーボン高分子化合物が、下記一般式[2]で表される構造単位を有する請求項23又は24に記載の電解質ポリマー溶液又は分散液。
−[CFCX−[CF−CF(−O−CF−CF(CF))−O−(CFR−(CFR−(CF−X)]− [2]
式中、X、XおよびXはそれぞれ独立にハロゲン元素または炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、0≦b≦8、cは0または1であり、d、eおよびfはそれぞれ独立に0以上6以下の範囲の数(ただし、d+e+fは0に等しくない)、RおよびRはそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基、XはCOOZ、SOZ、POまたはPOHZである。ここで、Zは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子またはアミン類(NH、NH、NH、NHR、NR)である。また、R、R、RおよびRは、アルキル基またはアレーン基である。
【請求項26】
請求項23〜25のいずれか一項に記載の電解質ポリマー溶液又は分散液からなる電極触媒層。
【請求項27】
請求項17〜20、22、26のいずれか一項に記載の電極触媒層からなる膜電極接合体。
【請求項28】
請求項16又は27に記載の膜電極接合体からなる固体高分子電解質型燃料電池。

【公開番号】特開2008−235265(P2008−235265A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40609(P2008−40609)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】