説明

高荷重耐性ICカード

【課題】ICカードが、強い外力を受けると、ICモジュールのICチップと封止樹脂が破壊され易い問題を解決し、高荷重耐性のICカードを提供する。
【解決手段】ICチップ側面を低弾性率封止樹脂9で覆いICチップ回路面と滑らかに連続した、且つICチップとスルーホールとの間の領域に広がる形状の低弾性率封止樹脂9を位置させ、更にICチップ、ボンディングワイヤー、軟らかい封止樹脂、スルーホールを高弾性率封止樹脂2によって被覆することで、ICモジュールを保護し、同時に曲げられた状態で生じるICチップ側面近傍での応力集中を緩和し破壊、剥離を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICカードに用いるICモジュールに係わり、携帯時外力による物理的損傷を低減できる、信頼性のあるICモジュールの樹脂封止に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ICカードはセキュリティーの点で利点があり近年多く使用されている。機能を担うICモジュールはCOB(Chip・On・Board)の形態が一般的である。基板の片面に外部接続用端子が配線され、反対面にICチップがフェイスアップの形態で固定される。ICチップと端子とは基板のスルーホールを通ったボンディングワイヤーにより電気的に接続される。ICチップ、ボンディングワイヤー、スルーホールを封止樹脂が覆い、機能部位を保護する。
【0003】
ICモジュールはガラスエポキシ基板等の硬い基板を持ちいるため機能部位は或る程度保護されている。しかしながら使用状況は多様であり更なる信頼性が求められていて種々の試みが行われている(特許文献1)。しかし特許文献1では封止樹脂外縁に枠を設置することで損傷を回避しようとしているがICモジュールの縦横比の大きさから現実的とは言えない。
【0004】
ICカードは常時携帯使用することから機械的信頼性が要求される。財布等に格納し携帯するならば硬貨、付属部品との接触により変形する。このような外力はICカードの位置に関してランダムに作用すると考えられる。機械的信頼性に直接関与するのはICモジュールであり、ICモジュールに外力が作用し変形することで剥離、亀裂が生じ機能を喪失する。ICモジュールに作用する外力の位置も同様にランダムであると考えられる。
【0005】
ICモジュールの封止樹脂部分は数百ミクロン厚で1センチメートル弱の広がりである。外力の作用する状況を考えるとICモジュールは全体が一定の曲率で曲がるのではなく局所的に曲げられる。
【0006】
ICモジュールの破壊では、ICチップの破壊と封止樹脂の破壊の両方の破壊が観られる。上記のように局所的に曲げられることから、ICチップの破壊はICチップ中央近辺に外力が作用する場合と考えられる。この時ICチップ保護には高弾性率封止樹脂が有効である。封止樹脂の破壊はICチップ中央近辺以外の箇所に外力が作用する場合と考えられる。破壊箇所はICチップ側面近傍に比較的多く発生していることが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開W096/32696号(平成8年特許願第530878号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ICモジュールの破壊は、ICチップと封止樹脂の両方で発生しており、その解決が本発明の課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、これらの課題の解決のためなされるものである。
【0010】
上記の課題を解決するための手段として、ICチップ側面を低弾性率封止樹脂で覆いI
Cチップ回路面と滑らかに連続した、且つICチップとスルーホールとの間の領域に低弾性率封止樹脂を塗布し熱硬化させ、ICチップ、ボンディングワイヤー、低弾性率封止樹脂、スルーホールを高弾性率封止樹脂で被覆する。
【0011】
すなわち、請求項1の発明は、ICカードのICモジュールの樹脂封止において、先にICモジュールのICチップの前後左右の側面部を低弾性率樹脂で覆い、次に高弾性率樹脂を用いて前記前後左右の側面部に存する前記低弾性率樹脂を含めてICチップの周囲を覆いICモジュールを樹脂封止してなることを特徴とする高荷重耐性ICカードである。
【0012】
請求項2の発明は、前記ICチップの前後左右の側面部を低弾性率樹脂で覆う形状が、前記ICチップの両側面部の高さ寸法を半径とし、その側面部の頂点を始点とし、ICモジュールの基板に向けて開き角度90°の扇形状となる形状で、その側面部の横方向に扇形状の柱状なる空間をなしており、前記ICチップの前後左右の側面部に存するそれぞれの空間内を、前記低弾性率樹脂で連続塗布充填して覆うことを特徴とする請求項1に記載の高荷重耐性ICカードである。
【0013】
すなわち、ICカードへの外力に対しICチップを保護し、且つICチップ/封止樹脂界面に生じる応力集中を緩和し剥離を防止する必要がある。
【0014】
外力応力が集中する箇所をICモジュールに対して大きく3箇所と想定します、まず、ICモジュール上の、基板/ICチップ/封止樹脂と三層構造となっているICチップ部の中央部と、次に基板/封止樹脂の二層構造となっているICチップ部の前後左右の外側部と、最後にそれら二層構造と三層構造の境界部である。
【0015】
外力によって局所的に曲げられた場合、上記二層構造と三層構造との境界で応力集中が発生すると考えられる。
【0016】
一般に硬い樹脂では破断歪が小さく、軟らかい樹脂では大きい。このため封止樹脂の硬軟によって現象は異なる。以下、封止樹脂が硬い場合と軟らかい場合とに分けて記す。軟らかい封止樹脂ではICチップの角を起点として剪断歪が生じる。大きな外力であれば剪断歪による亀裂が進展し破壊に至ることが予想される。硬い封止樹脂ではICチップの角近傍でのICチップ/封止樹脂界面の剥離、更に角部分からの亀裂発生が予想される。いずれの場合でも、上記の破壊様式は荷重試験での知見と一致している。
【0017】
上記のことを鑑み本発明にいたったものである、すなわち本発明は、ICチップ側面を低弾性率封止樹脂覆いICチップ回路面と滑らかに連続した、且つICチップとスルーホールとの間の領域に低弾性率封止樹脂を塗布し熱硬化させ、ICチップ、ボンディングワイヤー、低弾性率封止樹脂、スルーホールを高弾性率封止樹脂で被覆するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、外力の作用に対し高耐性であり、信頼性の有るICカードを提供できる効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来の封止樹脂構造の説明図
【図2】本発明の封止樹脂構造の説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を示す。本発明によるICカードはICチップ側面を覆いICチップ回路面と滑らかに連続した、且つICチップとスルーホールとの間の領域に広が
る形状の低弾性率封止樹脂があり、ICチップ、ボンディングワイヤー、低弾性率封止樹脂、スルーホールを高弾性率封止樹脂が被覆する。
【0021】
以下に、本発明の具体的実施例について説明する。
【実施例1】
【0022】
図2に示すように、反対面とスルーホールによって導通可能な外部端子パターン配線を持つ厚さ100μmのガラスエポキシ基板にダイボンディング材によりICチップを接着固定し、ICチップ側面に沿ってシリンジから低弾性率封止樹脂を滴下しICチップ回路面とほぼ同じ高さとする。熱硬化処理後、ボンディングワイヤーによりICチップ回路と外部端子を接続する。最後にトランスファーモールド法により高弾性率封止樹脂で被覆した。荷重強度を比較するために、同じ条件で高弾性率封止樹脂のみで被覆した資料も作成した。その模式図を図1に示す。
【0023】
荷重試験は5mm厚シリコンゴム上にICモジュールを置き、外部端子側からICチップ側辺に沿ってアルミ製半径1.5mmの円筒形物体により押込み、機能喪失荷重を測定した。結果を表1に示す。本発明を実施した資料が優位であった。
【0024】
【表1】

【符号の説明】
【0025】
1…ICチップ
2…高弾性率封止樹脂
3…ボンディングワイヤー
4…スルーホール
5…ガラスエポキシ基板
6…外部端子パターン配線
7…ICチップ回路面
8…ICチップ研磨面
9…低弾性率封止樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICカードのICモジュールの樹脂封止において、先にICモジュールのICチップの前後左右の側面部を低弾性率樹脂で覆い、次に高弾性率樹脂を用いて前記前後左右の側面部に在する前記低弾性率樹脂を含めてICチップの周囲を覆いICモジュールを樹脂封止してなることを特徴とする高荷重耐性ICカード。
【請求項2】
前記ICチップの前後左右の側面部を低弾性率樹脂で覆う形状が、前記ICチップの両側面部の高さ寸法を半径とし、その側面部の頂点を始点とし、ICモジュールの基板に向けて開き角度90°の扇形状となる形状で、その側面部の横方向に扇形状の柱状なる空間をなしており、前記ICチップの前後左右の側面部に在するそれぞれの空間内を、前記低弾性率樹脂で連続塗布充填して覆うことを特徴とする請求項1に記載の高荷重耐性ICカード。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−208588(P2012−208588A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72151(P2011−72151)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】