説明

高融点化合物の除去方法及び除去設備、並びに、溶媒回収方法及び溶媒回収設備

【課題】高融点添加剤の除去方法等を提供する。
【解決手段】低下剤除去ライン51は、熱交換器100と空気供給ライン101と洗浄液供給ライン102とを有する。洗浄液供給ライン102は洗浄液321を第1通過室111に供給する。空気供給ライン101は、高融点添加剤を含む乾燥処理後空気301と低融点添加剤を含む添加剤含有空気401とからなる混合空気402を第1通過室111に供給する。混合空気402と熱交換素子114との接触により、混合空気402から高融点添加剤を含む混合物が析出する。混合割合Mの調節により、混合空気402における高融点添加剤の融点MP1を洗浄液よりも低い温度に調節することが可能になるため、混合空気402中で混合物と洗浄液321とが接触すると、洗浄液321は析出物を溶解し、洗浄廃水320となる。低下剤除去ライン51は乾燥処理後空気301から高融点添加剤を容易に除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高融点化合物の除去方法及び除去設備、並びに、溶媒回収方法及び溶媒回収設備に関する。特に、溶液製膜方法で用いられる溶媒回収ラインの洗浄廃液に含まれる高融点添加剤の除去方法及び除去設備、並びに、溶媒回収方法及び溶媒回収設備に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフイルム(以下、フイルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学機能性フイルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フイルムは、高い強靭性、低い光学的異方性、そして、低いレターデーションを有し、更に安価であることから、液晶表示装置(LCD)の構成部材である偏光板の保護フイルム、光学補償フイルム、反射防止フイルムや視野角拡大フイルムなどに広く用いられている。
【0003】
フイルムの製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法とは、ポリマーをそのまま加熱溶解させた後、押出機で押し出してフイルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。しかし、膜厚精度を調整することが難しく、また、フイルム上に細かいスジ(ダイライン)ができるために、光学機能性フイルムへ使用することができるような高品質のフイルムを製造することが困難である。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含んだポリマー溶液(ドープ)を支持体上に流延して形成した流延膜が自己支持性を有するものとなった後、これを支持体から剥がして湿潤フイルムとし、さらに、この湿潤フイルムを乾燥させてフイルムとする方法である。溶融押出方法と比べて、光学等方性や厚み均一性に優れるとともに、含有異物の少ないフイルムを得ることができるため、光学機能性フイルムは、主に溶液製膜方法で製造されている。
【0004】
この溶液製膜方法は、セルローストリアセテートなどのポリマーをジクロロメタンや酢酸メチルを主溶媒とする混合溶媒に溶解した高分子溶液(以下、ドープと称する)を調製する。更に、このドープに所定の添加剤を混合し、流延ドープを調製する。流延ドープを流延ダイより流延ビードを形成させて、キャスティングドラムやエンドレスバンドなどの支持体上に流延して流延膜を形成する(以下、流延工程と称する)。その流延膜が支持体上で冷却され、自己支持性を有するものとなった後に、支持体から膜(以下、この膜を湿潤フイルムと称する)として剥ぎ取り、この湿潤フイルムを乾燥させた(以下、乾燥工程と称する)ものをフイルムとして巻き取る。
【0005】
また、乾燥工程では、乾燥室において湿潤フイルムに含まれる溶媒を蒸発させる。乾燥室内の雰囲気が溶媒を蒸発させる能力を一定に保つため、乾燥室の雰囲気に含まれる気体の溶媒を定期的に回収する必要がある。
【0006】
セルローストリアセテートフイルムの代表的な添加剤であるトリフェニルフォスフェート(以下、TPPと称する)は、フイルムに難燃性、透明性、耐水性、柔軟性及び非粘着性を付与する可塑剤としてはたらく。このTPPは高い沸点(399℃)であるにも関わらず、その一部が乾燥工程において溶媒と共に蒸発してしまうため溶媒回収ラインにおける冷却処理の際、溶媒の液化と共にTPPの析出が生じてしまう。溶媒回収ラインで析出したTPPは冷却処理を行う冷却設備や配管などに固着し、溶媒回収ラインの処理能力の低下を誘発する恐れがある。そのため、特許文献1では、溶媒回収ラインと共に、温水等を用いてこれら冷却設備や配管を定期的に洗浄する洗浄ラインを用いることにより、溶媒回収ラインに析出した添加剤を除去している。
【特許文献1】特開2003−165866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、セルロースエステル系フイルムのレターデーションは、プラスチックフイルムの中では低いものの、石英をはじめとする無機ガラスなどの他の光学材料と比較するとまだまだ高い。したがって、液晶表示装置の製造者等は、光学機能性フイルムとしてのポリマーフイルムについて、レターデーションの更なる低減化を切望していた。発明者及び出願人は、鋭意検討の結果、特定の化合物を添加するドープを用いて溶液製膜方法を行うと、レターデーションが極めて低いフイルムが得られることを見出した。
【0008】
ところが、この特定の化合物(以下、レターデーション低下剤と称する)を含むドープを用いて、溶液製膜方法を行うと、乾燥室において溶媒と共に蒸発したレターデーション低下剤を含む気体が溶媒回収ラインによって回収され、溶媒回収ライン内の熱交換器内でレターデーション低下剤が析出することがわかった。溶媒回収ライン内の配管やフィルタなどの閉塞の原因となる析出物を除去するためには、洗浄液などを用いて析出物を除去し、廃液として廃棄処分する必要がある。この洗浄液として、取り扱い性が容易な水を用いることが好ましいが、このレターデーション低下剤の融点は水の沸点よりも高く、温水を洗浄液として用いることができない。したがって、析出物の除去のために、100℃以上の熱風を用いて析出物を融解することとなる。しかしながら、冷却用などの水が通過する配管が張り巡らされる熱交換器において、100℃以上の熱風を析出物にあてる際には。この配管の破損を防ぐために溶媒回収ラインを停止しなければならず、結果として、この溶液製膜の生産効率が低くなり、レターデーションの低いフイルムの製造コストが高くなってしまう。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、レターデーションの低いフイルムを製造する場合における高融点添加剤の除去方法及び除去設備、並びに、溶媒回収方法及び溶媒回収設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の高融点化合物の除去方法は、融点がMP1の高融点化合物と融点がMP1より低い低融点化合物とを含む混合気体中にて、前記高融点化合物を含む物質とMP1よりも低い温度の洗浄液とを接触させることを特徴とする。
【0011】
前記混合気体に含まれる前記低融点化合物の混合割合が30重量%以上50重量%以下であることが好ましい。フイルムの原料であるポリマーと前記ポリマーを溶解する溶媒と前記高融点化合物を含む湿潤フイルムの乾燥により生成し、前記高融点化合物と前記溶媒とを含む乾燥後気体を回収し、前記低融点化合物を含む気体と前記乾燥後気体とを混ぜ、前記混合気体とし、前記乾燥後気体或いは前記混合気体を冷却して前記物質を析出することが好ましい。
【0012】
前記洗浄液が水であることが好ましい。前記高融点化合物が、前記フイルムのレターデーションを抑制するレターデーション低下剤であることが好ましい。前記高融点化合物が、n−フェニル−p−トルエンスルホアミドであり、前記低融点化合物が、ジフェノキシフェスフォリルオキシベンゼンと、ビス(2−エチルヘキシル)フタノールと、ジフェニルクレシルフォスフェートとビフェニルジフェニルホスフェートとのうちいずれか1つであることが好ましい。
【0013】
また、本発明の高融点化合物の除去方法は、上記の高融点化合物の除去を行い、前記接触により前記析出物を回収し、前記接触後に残留する気体から前記溶媒と前記低融点化合物とを回収し、この回収により前記残留する気体から不純物を取り除き、前記湿潤フィルムを乾燥するための乾燥前気体として回収することを特徴とする。
【0014】
本発明の高融点化合物の除去設備は、融点がMP1の高融点化合物と融点がMP1より低い低融点化合物とを含む混合気体中にて、前記高融点化合物を含む物質とMP1よりも低い温度の洗浄液とを接触させる接触装置を備えることを特徴とする。
【0015】
前記低融点化合物の混合割合が30重量%以上50重量%以下の前記混合気体をつくる混合装置を備えることが好ましい。フイルムの原料であるポリマーと前記ポリマーを溶解する溶媒と前記高融点化合物を含む湿潤フイルムの乾燥により生成し、前記高融点化合物と前記溶媒とを含む乾燥後気体を回収する気体回収装置と、前記低融点化合物を含む気体と前記乾燥後気体とを混ぜ、前記混合気体とする前記混合装置と、前記乾燥後気体或いは前記混合気体を冷却して前記物質を析出する冷却装置とを備えることが好ましい。前記接触装置が、前記析出物と水とを接触することが好ましい。
【0016】
本発明の溶媒回収設備は、上記の高融点化合物の除去設備と、前記接触により前記物質を回収する第1回収装置と、前記接触後に残留する気体から前記溶媒と前記低融点化合物とを回収する第2回収装置と、前記第2回収装置による回収後に残留する気体から不純物を取り除き、前記湿潤フィルムを乾燥するための乾燥前気体として回収する第3回収装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の添加剤の除去方法によれば、融点がMP1の高融点化合物と融点がMP1より低い低融点化合物とを含む混合気体中にて、前記高融点化合物を含む物質とMP1よりも低い温度の洗浄液とを接触させるため、レターデーション低下剤などの高融点化合物の融点よりも低い温度で、高融点化合物を含む析出物を容易に除去することが可能となる。従って、本発明により、析出物の除去に要するエネルギー量を減少させることが可能となる。
【0018】
更に、本発明の溶媒回収方法によれば、溶媒回収ラインを停止せずに析出物の除去が可能になるため、溶媒回収方法の稼動コストが抑えられ、結果として、溶液製膜方法の製造コストが抑えられる。したがって、本発明は、レターデーションが抑えられたフイルムの製造コストの低下に貢献することができる。
【0019】
また、本発明の添加剤の除去設備によれば、上記の高融点化合物の除去設備と、前記接触により前記物質を回収する第1回収装置と、前記接触後に残留する気体から前記溶媒と前記低融点化合物とを回収する第2回収装置と、前記第2回収装置による回収後に残留する気体から不純物を取り除き、前記湿潤フィルムを乾燥するための乾燥前気体として回収する第3回収装置とを備えるため、レターデーション低下剤などの高融点化合物などの融点よりも低い温度で、高融点化合物を含む析出物を容易に除去することが可能となる。
【0020】
更に、本発明の溶媒回収設備によれば、溶媒回収ラインを停止せずに析出物の除去が可能になるため、溶媒回収方法の稼動コストが抑えられ、結果として、溶液製膜方法の製造コストが抑えられる。したがって、本発明は、レターデーションが抑えられたフイルムの製造コストの低下に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0022】
(ポリマー)
本実施形態においては、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
また、ポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではない。
【0023】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0024】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは
0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0025】
セルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましいドープを作製することができる。特に非塩素系溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良いドープの作製が可能となる。
【0026】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良いが、リンターから得られたものが好ましい。
【0027】
セルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0028】
(溶媒)
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本明細書において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0029】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度など及びフイルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0030】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0031】
ドープには、以下に述べるレターデーション低下剤等の添加剤等を適宜添加しても良い。次に、これらの添加剤等について説明する。
【0032】
(剥離促進剤)
さらに、剥離時の荷重を小さくするために剥離剤をドープに添加することが好ましい。それらは、界面活性剤が有効でありリン酸系、スルフォン酸系、カルボン酸系、ノニオン系、カチオン系など特に限定されない。これらは、例えば特開昭61−243837号、特開2000−99847などに記載されている。
【0033】
なお、剥離剤に関しては、特開2003−055501号公報に、セルロースアシレート溶液の白濁を防止し、フイルム製造剥離性とフイルム面状を改良するため、非塩素系溶剤に溶解したセルロースアシレート溶液で、酸解離指数pKaが1.93〜4.5の多塩基酸部分エステル体、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩から選ばれる添加剤を含有するセルロースアシレート溶液について記載がある。
【0034】
さらに、特開2003−103545には、製造時における剥離性を改良し、フイルム面状を改良するとともに、耐久性面で問題のないフイルムを提供するため、共流延法二層以上のセルロースアシレートフイルムの製法で、非塩素系溶剤溶解され、いずれかの溶液中に酸解離指数pKa1.93〜4.50の多塩基酸の部分エステル体、そのアルカリ金属塩,アルカリ土類金属塩から選ばれる添加剤Aを含有し、添加剤Aを含有しない少なくとも一層以上の溶液中に酸解離指数pKaが4.50以上のアミン化合物、または実質的に揮散性を持たず、塩基性基1個当たりの分子量が200以下のアミン化合物である添加剤Bを含有するセルロースアシレートフイルムの製法についての記載がある。なお、本実施形態で好ましく用いられる剥離促進剤はクエン酸,クエン酸エステルなどが挙げられる。また、後述するが共流延を行う際には。剥離促進剤は支持体上に直接流延されるドープ中のみに含有させることが光学特性を悪化させることなく、流延膜の剥ぎ取り(以下、剥離性とも称する)を良好なものとすることができる。
【0035】
剥離促進剤は製造されるフイルム中のポリマーを100重量%とした場合に、1×10−4重量%以上1.0重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5×10−4重量%以上0.5重量%以下であり、最も好ましくは1×10−3重量%以上0.1重量%以下である。1×10−4重量%未満であると、流延膜の剥離性を良好なものとする効果が発現しないおそれがある。また、1.0重量%を超えると、フイルムの光学特性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0036】
(可塑剤)
前記可塑剤が、リン酸エステル、カルボン酸エステルであることが好ましい。また、前記可塑剤が、トリフェニルフォスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)、ジエチルヘキシルフタレート(DEHP)、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)、O−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートから選ばれたものであることがより好ましい。さらに、前記可塑剤が、(ジ)ペンタエリスリトールエステル類、グリセロールエステル類、ジグリセロールエステル類であることが好ましい。
【0037】
(紫外線吸収剤)
セルロースアシレートフイルムに好ましく使用される紫外線吸収剤について説明する。セルロースアシレートフイルムは、その高い寸法安定性から、偏光板または液晶表示用部材等に使用されるが、偏光板または液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。
【0038】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としての具体例を下記に列記するが、本発明はこれらに限定されない。2−(2´−ヒドロキシ−5´−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−3´−tert−ブチル−5´メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−3´−(3´´,4´´,5´´,6´´−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5´−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2´−ヒドロキシ−3´−tert−ブチル−5´−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)、(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N´−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。特に(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N´−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジンなどのヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイトなどの燐系加工安定剤を併用してもよい。
【0039】
また、その他にも旭電化 プラスチック用添加剤概要 「アデカスタブ」のカタログにある光安定剤も使用できる。チバ・スペシャル・ケミカルズのチヌビン製品案内にある光安定剤、紫外線吸収剤も使用できる。SHIPROKASEI KAISYAのカタログにあるSEESORB(商標登録)、SEENOX(商標登録)、SEETEC(商標登録)なども使用できる。城北化学工業のUV吸収剤、酸化防止剤も使用できる。共同薬品のVIOSORB(商標登録)、吉富製薬の紫外線吸収剤も使用できる。
【0040】
また、特開平6−148430号公報に記載の紫外線吸収剤も好ましく用いることができる。本発明で好ましく用いられる上記記載の紫外線吸収剤は、透明性が高く、偏光板や液晶素子の劣化を防ぐ効果に優れており、特に不要な着色がより少ないベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。
【0041】
なお、紫外領域の分光透過率に関しては、特開2003−043259号公報に、色再現性に優れ紫外線照射の耐久性にも優れた光学フイルム及び偏光板及び表示装置を得るために必要な、390nmにおける分光透過率が50%〜95%であり、かつ350nmにおける分光透過率が5%以下である光学フイルムについて記載されている。
【0042】
本実施形態において好ましく用いられる紫外線吸収剤には、ベンゾトリアゾール系化合物,ベンゾフェノン,トリアジン系化合物などが挙げられ、特に好ましくはベンゾトリアゾール系化合物が挙げられる。また、フイルム中のポリマーを100重量%とした場合に0.001重量%以上5重量%以下含有させることが好ましく、より好ましくは0.01重量%以上3重量%以下であり、最も好ましくは0.1重量%以上2重量%以下である。紫外線吸収剤含有量が0.001重量%未満であると、フイルムの紫外線照射による劣化を十分に防止できないおそれがある。また、5重量%を超えると、フイルムの光学特性を悪化させるおそれがある。
【0043】
(微粒子粉体)
本実施形態において、作製されたセルロースアシレートフイルムがハンドリングされる際に、傷が付いたり搬送性が悪化したりすることを防止するために、微粒子を添加することが一般に行われる。それらは、マット剤、ブロッキング防止剤あるいはキシミ防止剤と称されて、従来から利用されている。それらは、前述の機能を呈する素材であれば特に限定されないが、これらのマット剤の好ましい具体例は、無機化合物としては、ケイ素を含む化合物、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ストロングチウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化スズ・アンチモン、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等が好ましく、更に好ましくはケイ素を含む無機化合物や酸化ジルコニウムであるが、セルロースアシレートフイルムの濁度を低減できるので、二酸化ケイ素が特に好ましく用いられる。二酸化ケイ素の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R974、R812、200、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。酸化ジルコニウムの微粒子としては、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名で市販されているものが使用できる。
【0044】
有機化合物としては、例えば、シリコーン樹脂、弗素樹脂及びアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、中でも、シリコーン樹脂が好ましく用いられる。シリコーン樹脂の中でも、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、トスパール105、トスパール108、トスパール120、トスパール145、トスパール3120及びトスパール240(以上東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。
【0045】
本実施形態において好ましく用いられる微粒子粉体には、二酸化ケイ素,酸化チタンなどが挙げられ、特に好ましくは二酸化ケイ素が挙げられる。また、フイルム中のポリマーを100重量%とした場合に0.001重量%以上5重量%以下含有させることが好ましく、より好ましくは0.1重量%以上3重量%以下であり、最も好ましくは0.5重量%以上2重量%以下である。微粒子粉体含有量が0.001重量%未満であると、フイルムを巻き取った際のフイルム間の密着を十分に防止できないおそれがある。また、5重量%を超えると、フイルムの面状の平滑性が悪化するおそれがある。
【0046】
(レターデーション低下剤)
セルロースエステルフイルムのレターデーションを低下させるためのレターデーション低下剤として、融点が低いものであることが好ましい。融点が高いと、乾燥室において溶媒と共に蒸発した気体を冷却し、この冷却により析出する析出物の除去が困難になるためである。
【0047】
本実施形態において用いられるレターデーション低下剤として、フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)4,6−ビス(1,1−ジメチルプロピル)が挙げられる。特に、フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)4,6−ビス(1,1−ジメチルプロピル)は、TACとの親和性の点で優れているため、これを用いることが好ましい。
【0048】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本実施形態に適用することができる。また、溶媒および可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も 本実施形態に適用することができる。
【0049】
(溶液製膜工程)
本発明に係る添加剤除去設備に併設されるフイルム製造設備10を図1に示し、フイルム製造設備10並びにフイルムの製造方法の概要について説明する。
【0050】
フイルム製造設備10は、バンドゾーン11と乾燥ゾーン12とに分けられる。ドープ13が仕込まれている仕込みタンク14が、ポンプ15とフィルタ16とを介してフイルム製造設備10に接続している。また、仕込みタンク14には、撹拌棒17が取り付けられ、ドープ13を均一にする。前述したポリマーと溶媒とを混合し、ポリマーが溶媒へ溶解したものをドープ13とする。ドープ13には、レターデーション低下剤の他、可塑剤及び紫外線吸収剤などの添加剤を適宜混合してもよい。本発明において、ドープ13を調製する溶媒、レターデーション低下剤、その他添加剤は、市販品の溶媒に後述する溶媒回収ラインから回収された溶媒等を混合して使用することができる。溶媒の回収については、後述する。
【0051】
(バンドゾーン)
図1において、バンドゾーン11には、ローラ20、21に掛け渡された流延バンド22が設けられており、この流延バンド22は、図示しない駆動装置により回転する。流延バンド22の上には、流延ダイ23が設けられている。ドープ13は、仕込みタンク14からポンプ15により送液され、フィルタ16で不純物が除去された後に流延ダイ23に送られる。流延ダイ23は、ドープ13を流延バンド22上に流延する。ドープ13は流延バンド22で搬送されながら徐々に乾燥し、剥ぎ取りローラ24によって流延バンド22から剥ぎ取られフイルム25が形成される。さらに、フイルム25は、テンタ26により所定の幅に引き伸ばされ、搬送されながら乾燥される。
【0052】
(乾燥ゾーン)
テンタ26から乾燥ゾーン12に送られたフイルム25は、乾燥ゾーン12内で、複数のローラ27に巻き掛けられる。このフイルム25には所定の乾燥処理が施される。乾燥処理後のフイルム25は、巻き取り機28に巻き取られる。
【0053】
乾燥ゾーン12内は空調器30が接続される。この空調器30は、乾燥ゾーン12内の空気(以下、乾燥処理前空気と称する)300の温度、湿度や溶媒の濃度等の乾燥条件を所定の範囲内に保持する。この乾燥処理前空気300をフイルム25にあてることにより、フイルム25に乾燥処理が施される。この乾燥処理により、乾燥処理前空気300は、フイルム25に含まれる溶媒等を取り込み、乾燥処理後空気301となる。
【0054】
(乾燥処理前空気)
乾燥処理前空気300の成分としては、特に限定されるものではなく、通常の空気であればよい。乾燥処理前空気300の温度は、特に限定されるものではないが、フイルム25を均一に乾燥するためには、50℃〜160℃の範囲であることが好ましい。そして、乾燥ゾーン12内での乾燥処理を効率よく行うため、乾燥処理によりフイルム25から除去される溶媒の濃度が1000ppm以下の乾燥処理前空気300を用いることが好ましい。
【0055】
また、乾燥ゾーン12には、送風器32(図3)が配される。この送風器32は、流量調節装置を備え、この流量調節装置の操作により、乾燥ゾーン12内の乾燥処理後空気301を、後述する溶媒回収ラインへ所定の流量で供給する。この乾燥処理後空気301とは、フイルム25の乾燥処理によって生成する空気である。フイルム25の乾燥処理は、フイルム25に含まれる溶媒の蒸発を促して、溶媒を除去することを目的とする。しかしながら、実際の乾燥処理では、レターデーション低下剤やその他の添加剤等の一部が、溶媒と共に蒸発する。したがって、本明細書における乾燥処理後空気301とは、溶媒やレターデーション低下剤やその他の添加剤等を含む乾燥処理前空気300を指す。
【0056】
(溶媒回収ライン)
溶媒回収ライン48は、レターデーション低下剤除去ライン(以下、低下剤除去ラインと称する)51と、送風器52と、冷却器53と、前処理活性炭54と、除湿器55と、送風器56と、吸着層57〜59と、温度調節器60と、送風器62と、加熱器63とを備える。
【0057】
(レターデーション低下剤除去ライン)
低下剤除去ライン51は、配管64(図3)を介して、乾燥ゾーン12と接続する。送風器32(図3)によって乾燥ゾーン12から送り出された乾燥処理後空気301は、低下剤除去ライン51へ送られる。低下剤除去ライン51では、乾燥処理後空気301からレターデーション低下剤を取り除き、第1除去空気311を生成する。なお、低下剤除去ライン51の詳細は後述する。
【0058】
(送風器)
送風器52は、低下剤除去ライン51と、冷却器53とにそれぞれ配管を介して接続する。送風器52は、第1除去空気311をレターデーション低下剤除去ライン51から冷却器53に送る。
【0059】
(冷却器)
図2(A)のように、冷却器53には、第1除去空気311が通過するガス経路70が備えられ、ガス経路70には、所定の温度に保持される水(以下、冷水と称する)71を通す冷水配管72が取り付けられている。なお、図では冷水配管72は、1本のみを図示したが冷却効率の点からは、多数の冷水配管72が取り付けられていることが好ましい。なお、冷水71は、冷凍器(図示しない)で冷却され、約7℃の温度になる。第1除去空気311は、冷水配管72により温度が下がり、蒸発していた低融点添加剤等が液化し、冷却器53のガス経路70、冷水配管72の表面に付着する。この処理を冷却処理と称する。この冷却処理により、第1除去空気311から、添加剤の液化物と第2除去空気312とが生成する。なお、冷水71は、冷水配管72を通った後に、冷水戻り73となって冷凍器に送られ、再度冷凍器によって冷水として再生される。
【0060】
図2(B)に示すように、冷却器53のガス経路70内に洗浄水75を送液することにより、冷水配管72の表面に付着した低融点添加剤を溶解し、除去することができる。添加剤を溶解した洗浄水75は、洗浄廃水76として、洗浄廃水処理ラインへ送られる。洗浄廃水処理ラインへ送られた洗浄廃水76には洗浄廃水処理が施され、洗浄廃水76に含まれる添加剤などの不純物が除去される。この洗浄廃水処理によって、不純物が除去された洗浄廃水76は、洗浄水75として再利用される。この際に、低融点添加剤の種類によっては、洗浄水75に代えて、各種の有機溶媒、酸、アルカリを用いても良い。なお、洗浄水75の温度は、付着した低融点添加剤の融点より20℃以上、より好ましくは25℃以上であることが好ましい。
【0061】
更に、図1のように、冷却器53の下流側には、前処理活性炭54、除湿器55が配される。前処理活性炭54は、第2除去空気312に残留する添加剤等を取り除く。除湿器55は、第2除去空気312中に含まれる水分を取り除く。更に、第2除去空気312は、送風器56により吸着層57、58、59のいずれかに送られ、第2除去空気312中に含まれている溶媒が吸着層57、58、59によって吸着される。この処理を吸着処理と称する。この吸着層57〜59としては、活性炭を用いることが、耐久性の点から好ましい。なお、本発明において用いられる活性炭は、繊維状活性炭,粒状活性炭などを用いることができ、特に繊維状活性炭を用いると、消費エネルギーの点から効率良く溶媒の吸着除去を行うことができる。また、吸着剤には活性炭以外のゼオライト,シリカゲルなどを用いることもできる。
【0062】
なお、溶媒回収ライン48には、図示しない脱着ガス供給器が備えられる。脱着ガス供給器は、吸着層57〜59に脱着ガスを供給する。脱着ガスは、吸着層57〜59に吸着された溶媒,添加剤など(以下、吸着物と称する)を脱着する。脱着ガス65には、ヘリウム,窒素などが用いられる。吸着物は脱着ガス65と共に、凝縮器66に送られて吸着回収され、回収物67となる。回収物67は回収物処理装置に送られ精製液と廃水とに分離される。精製液は、成分調整装置に送液されて、ドープ調製用の溶媒(または溶液)として成分が調整されて再利用されること。このような溶媒の再利用は、溶液製膜を低コストで行うことを可能すると共に大気中への有機溶媒の放出を最小限にできるため環境保護の点からも好ましい。
【0063】
また、吸着処理後の第2除去空気312は、温度調節器60により所定の温度に調節され、温調空気313となる。温調空気313は、送風器62によって、低下剤除去ライン51を介して、加熱器63へ送られる。低下剤除去ライン51及び加熱器63では、温調空気313が所定の温度まで加熱され、乾燥処理前空気300となる。この乾燥処理前空気300は、図示しない送風器により乾燥ゾーン12へ送られる。
【0064】
(レターデーション低下剤除去ライン)
図3のように、低下剤除去ライン51は、熱交換器100と、空気供給ライン101と、洗浄液供給ライン102とを備える。
【0065】
(熱交換器)
次に、図3と図4を用いて、熱交換器100について説明する。熱交換器100は、断熱性を有する材料で箱状に形成される。熱交換器100は、第1通過室111と第2通過室112とを備える。断熱性を有する材料で形成される仕切板113は、第1通過室111と第2通過室112との境界に配される。この仕切板113は、第1通過室111と第2通過室112との間における気体の行き来を遮断する。また、熱交換器100は、略円盤状に形成される熱交換素子114を備える。熱交換素子114は、その一部が第1通過室111内に、残りが第2通過室112内に位置するように設けられる。熱交換素子114の中心には、駆動軸115が接続する。駆動軸115にはモータ116が接続する。モータ116により、熱交換素子114は、駆動軸115を中心にして所定の速度(1rpm以上10rpm以下)で回転する。モータ116による回転に伴い、熱交換素子114は第1通過室111と第2通過室112との略境界上を中心に回転する。
【0066】
(第1通過室)
第1通過室111は、配管64、空気供給ライン101及び配管120を介して、乾燥ゾーン12と接続する。第1通過室111と送風器52(図1)とは、配管121により接続する。送風器52は、配管121を介して、第1通過室111で生成した第1除去空気311を冷却器53に供給する。なお、第1通過室111には、第1通過室111で生成する洗浄廃液320を排出するための廃液配管122が設けられる。この廃液配管122は、後述する洗浄液供給ライン102に接続する。
【0067】
(第2通過室)
また、第2通過室112と送風器62(図1)とは、配管123で接続される。第2通過室112と乾燥ゾーン12とは、配管124を介して接続する。そして、配管124には加熱器63が設けられる。
【0068】
(熱交換素子)
熱交換素子114は、多数の通気孔を有する。この通気孔は、ハニカム構造状を構成するように、熱交換素子114に形成される。この通気孔は、配管120からの乾燥処理後空気301、後述する温調空気や後述する洗浄液を通過させる。そして、乾燥処理後空気301が通気孔を通過する際には、熱交換素子114により乾燥処理後空気301から熱が吸収され、後述する温調空気が通気孔を通過する際には、熱交換素子114により温調空気に熱が与えられる。なお、熱交換素子114の詳細については、特開2004−294052号公報に詳しく記載される。
【0069】
(空気供給ライン)
図3のように、空気供給ライン101は、添加剤溶液タンク130と加熱器131と混合装置132と混合割合制御手段133とを備える。添加剤溶液タンク130の下流側には、加熱器131と混合装置132とが順次配される。また、混合装置132は、前述した配管64と配管120とに接続するように設けられる。添加剤溶液タンク130と加熱器131とは、配管により接続され、この配管にはポンプやバルブが配される。また、加熱器131と混合装置132とは、配管により接続され、この配管にはポンプ135やバルブが配される。
【0070】
(添加剤溶液タンク)
添加剤溶液タンク130には、溶媒に低融点の添加剤(以下、低融点添加剤と称する)が溶解した液(以下、添加剤溶液と称する。)400が貯留する。添加剤溶液タンク130には、温調器130aが備え付けられている。温調器130aは、添加剤溶液タンク130に貯留する添加剤溶液400の温度を所望の範囲(50℃以上70℃以下)に保持する。溶媒回収処理の簡易化を考慮すると、添加剤溶液400に用いる溶媒として、フイルム製造設備10で用いられる溶媒と同一のものを用いることが好ましい。
【0071】
(低融点添加剤)
添加剤溶液400に含まれる低融点添加剤として、融点が後述する洗浄液321の沸点よりも低く、後述する混合空気402における混合割合Mの変化により、混合空気402におけるレターデーション低下剤の融点MP1を低下させ得る化合物を用いることができる。また、洗浄液321の沸点との差が10℃以上であることがより好ましい。更に、溶媒回収処理の簡易化を考慮すると、この低融点添加剤として、フイルム製造設備10で用いられる添加剤、特に、乾燥処理後空気301に含まれている添加剤を用いることが好ましい。
【0072】
このような低融点添加剤の具体例として、例えば、ジフェノキシフェスフォリルオキシベンゼン(TPP)と、ビス(2−エチルヘキシル)フタノール(DOP)、ジフェニルクレシルフォスフェート(CDP)、ビフェニルジフェニルホスフェート(BDP)などの他、ドープ13に用いる添加剤として前述した化合物を用いることもできる。
【0073】
(加熱器、ポンプ)
加熱器131は、混合割合制御手段133と接続する。混合割合制御手段133の制御の下、加熱器131は、添加剤溶液タンク130から送られてくる添加剤溶液400を所望の温度(50℃以上80℃以下)に加熱する。この加熱により添加剤溶液400から、溶媒や低融点添加剤を蒸発させて、添加剤含有空気401を生成する。ポンプ135は、混合割合制御手段133と接続する。混合割合制御手段133の制御の下、ポンプ135は、加熱器131で生成した添加剤含有空気401を混合装置132へ送る。こうして、混合割合制御手段133は、加熱器131とポンプ135を用いて、所定の蒸気圧に調整した添加剤含有空気401を混合装置132へ送ることができる。
【0074】
(混合装置)
混合装置132は、乾燥ゾーン12からの乾燥処理後空気301と加熱器131からの添加剤含有空気401とを滞留させる。混合装置132には、プロペラ137が備えられる。このプロペラ137は、図示しないモータと接続される。このモータにより、プロペラ137は、所定の速度で回転する。このプロペラ137の回転により、混合装置132内で乾燥処理後空気301と添加剤含有空気401とが攪拌混合され、混合空気402が生成する。プロペラ137の回転速度や、プロペラ137に設けられる羽の形状などは、乾燥処理後空気301と添加剤含有空気401とが十分に混合するように攪拌できるものが好ましい。
【0075】
混合装置132と熱交換器100との間を接続する配管120には、図示しないバルブやポンプ138が設けられる。このバルブやポンプ138は、混合割合制御手段133と接続する。混合割合制御手段133の制御の下、バルブやポンプ138は、混合空気402を所定の流量で熱交換器100へ供給する。
【0076】
(濃度センサ)
混合装置132は、濃度センサ132aを備える。濃度センサ132aは、混合装置132内における、低融点添加剤及びレターデーション低下剤の濃度を検出する。この濃度センサとして、ガスクロマトグラフィや液体クロマトグラフィなどを用いることができる。
【0077】
(混合割合制御手段)
混合割合制御手段133は、濃度センサ132aから混合空気402における低融点添加剤の含有量の混合割合Mを検出し、加熱器131やポンプ135等を操作して、混合割合Mを所望の範囲に保持する。この混合割合Mは、30重量%以上50重量%以下であることが好ましい。混合割合Mが30重量%以下である場合には、レターデーション低下剤の融点が100℃以上となり温水洗浄ができない。また、混合割合Mが50重量%を超える場合には、溶媒回収ライン48から乾燥ゾーン12へ供給される乾燥処理前空気300に低融点添加剤が残留し、この残留する低融点添加剤により後乾燥工程が汚染されるため好ましくない。なお、この混合割合Mは、混合空気402に含まれるレターデーション低下剤及び低融点添加剤の重量をx、yとするときに、y/(x+y)で与えられる割合である。具体的には、濃度センサ132aから読み取った検出値から、加熱器131やポンプ135を操作し、添加剤含有空気401の蒸気圧を調節する方法により混合割合Mを所望の値にすることができる。
【0078】
(洗浄液供給ライン)
洗浄液供給ライン102は、洗浄液タンク150と配管151と沈降装置152とを備える。洗浄液タンク150は、洗浄液321を貯留する。そして、洗浄液タンク150には、温調器150aを備える。温調器150aは、洗浄液タンク150に貯留する洗浄液321の温度を所定の範囲(洗浄液の融点より大きく洗浄液の沸点未満)に保持する。なお、洗浄液321の温度を、混合空気402に含まれる溶媒の融点より10℃以上混合空気402における融点MP1より30℃以下の範囲に保持することにより、第1通過室111において、レターデーション低下剤やその他の添加剤と溶媒とを個別に凝縮回収できるため好ましい。
【0079】
(洗浄液)
洗浄液321としては、第1通過室111での混合空気402の冷却によって析出する析出物を溶解できる程度のものであれば良く、具体的には、水を用いることが好ましい。
【0080】
(配管)
配管151は、洗浄液タンク150と第1通過室111とを接続する。この配管151にはポンプ151bやバルブが設けられる。配管151の第1通過室111側の先端には、流出口151aが設けられる。ポンプ151bやバルブの操作により、洗浄液タンク150に貯留する洗浄液321は、流出口151aから所定の流量で流出する。図示しない制御部と接続するスイング部153(図4)は配管151と接続し、制御部の制御の下、配管151の流出口151aを移動自在にし、第1通過室111の所望の位置に流出口151aを配することができる。なお、この配管151として、ジャケット付き配管を用いて、配管151を通過する洗浄液321の温度を所定の範囲(洗浄液の融点より高く洗浄液の沸点未満)に保持することが好ましい。
【0081】
(沈降装置)
沈降装置152は、第1通過室111に設けられる廃液配管122と接続する。沈降装置152は、第1通過室111からの洗浄廃液320を貯留する。沈降装置152は、廃棄タンク155と接続する。沈降装置152に貯留する洗浄廃液320には比重分離処理が施される。そして、この比重分離処理により洗浄廃液320中で沈降した沈降物323は、沈降装置152の排出口152aから廃棄タンク155に排出される。この沈降物323には、レターデーション低下剤が含まれる。沈降物323におけるレターデーション低下剤の純度の向上のため、この沈降物323に複数回の比重分離処理などやその他の濃縮処理を行ってもよい。このようにして得られるレターデーション低下剤は、ドープ調整用のレターデーション低下剤として再利用することができる。
【0082】
(レターデーション低下剤除去処理)
次に、乾燥処理後空気301からレターデーション低下剤を除去する低下剤除去処理について説明する。図1のように、仕込みタンク14中で、ポリマーと溶媒とを混合し、ポリマーが溶媒へ溶解したポリマー溶液をつくる。その後、ポリマー溶液に可塑剤及び紫外線吸収剤などの添加剤やレターデーション低下剤を添加して、ドープ13を調製する。フイルム製造設備10にて、このドープ13を用いて溶液製膜方法を行い、フイルム25を製造する。乾燥ゾーン12では、フイルム25に乾燥処理前空気300をあてて、フイルム25に乾燥処理を施す。この乾燥処理によって生成する乾燥処理後空気301は、送風器32により、混合装置132へ送られる。また、50℃以上70℃以下の範囲の温度の保持された添加剤溶液400が、加熱器131やポンプ135を介して、添加剤溶液タンク130から混合装置132へ送られる。
【0083】
混合割合制御手段133は、加熱器131やポンプ135を制御して、添加剤含有空気401の蒸気圧を調整する。こうして、レターデーション低下剤の融点MP1が所望の範囲に調節された混合空気402が混合装置132で生成される。この混合空気402は、ポンプ138を介して、所定の流量で、第1通過室111に流入する。混合空気402は、第1通過室111に流入し、熱交換素子114上に形成される孔を通過する。この通過の際、混合空気402は熱交換素子114に接触し、熱交換素子114は混合空気402の熱を奪い、混合空気402は冷却される。この混合空気402の冷却により、混合空気402に含まれるレターデーション低下剤を含む混合物が熱交換素子114に付着するとともに、混合空気402から第1除去空気311が生成する。第1除去空気311は熱交換素子114上に形成される孔を通過し、その後、送風器52によって、配管121を介して冷却器53へ送られる。
【0084】
なお、混合空気402が失った熱は、第1通過室111と第2通過室112とを交互に巡回する熱交換素子114を介して、熱交換素子114に形成される孔を通過する温調空気313に伝わる。こうして、熱交換素子114を介して、混合空気402と温調空気313との間で熱交換が行われる。その後、温調空気313は、加熱器63にて更に加熱され、乾燥処理前空気300として乾燥ゾーン12へ送られる。
【0085】
洗浄液321は、流出口151aから熱交換素子114へ流出する。このとき、スイング部153(図4)により、熱交換素子114の最外周から最内周にかけて洗浄液321を流出することができる。このとき、熱交換素子114に付着した混合物は、混合気体中にて、洗浄液321と接触する。このとき、流出する洗浄液321の温度が、熱交換器100内部におけるレターデーション低下剤の融点MP1よりも高いため、熱交換素子114に付着した混合物が洗浄液321に溶解する。すなわち、混合気体中の混合物に含まれるレターデーション低下剤の融点MP1は、洗浄液321の温度よりも低くなるため、レターデーション低下剤は、洗浄液321との接触により、洗浄液321に溶解する。そして、この混合物を溶解した洗浄液321は、洗浄廃液320となって、廃液配管122を介して沈降装置152へ送られる。
【0086】
冷却器53では、第1除去空気311と冷水配管72とが接触する。この接触により第1除去空気311には冷却処理が施され、第1除去空気311から低融点添加剤やその他の添加剤の液化物と第2除去空気312とが生成する。
【0087】
本発明であるレターデーション低下剤除去ライン51と冷却器53とを含む溶媒回収ライン48により、乾燥処理後空気301から混合空気402を生成し、この混合空気402を冷却する。そして、混合空気402の冷却により、水の沸点よりも高い融点のレターデーション低下剤を含み、温水(100℃未満の水)による溶解が可能な混合物が生成される。したがって、低下剤除去ライン51を含む溶媒回収ライン48は、各処理で生成される中間体の除去のために、停止することなく、乾燥処理後空気301からレターデーション低下剤と低融点添加剤とその他の添加剤と溶媒とに分離することができる。したがって、長時間の間連続的に効率よく、溶媒回収を行うことができる。
【0088】
上記実施形態では、混合空気402と熱交換素子114との接触により析出した混合物と洗浄液321とを混合空気402中で接触させると記載したが、これに限らず、乾燥処理後空気301と熱交換素子114とを接触させて、レターデーション低下剤を含む混合物を析出させ、その後に、第1通過室111への添加剤含有空気401の流入により、混合空気402を生成し、この混合空気402の中で混合物と洗浄液321とを接触しても良い。
【0089】
本発明の高融点化合物は、レターデーション低下剤の除去方法に限られない。このレターデーション低下剤に代えて、以下条件のいずれかを満たす化合物を、高融点化合物として用いることができる。
(1)バンドゾーン11や乾燥ゾーン12で溶媒とともに蒸発する物質。
(2)乾燥処理後空気301の冷却により析出する物質の融点が高温(90℃以上)である物質。
(3)低融点化合物との混合により融点が下がる物質。
【実施例1】
【0090】
以下、本発明について実施例1を挙げて説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。説明は本発明に係る実施例1で詳細に行い、本発明に係る実施例2〜4、及び比較例1〜3については、後に実験条件と結果とをまとめて表1に示す。
【0091】
次に、本発明の実施例を説明する。フイルム製造に使用したポリマー溶液(ドープ)の調製に際しての配合を下記に示す。
【0092】
[組成]
セルローストリアセテート(置換度2.94、粘度平均重合度305、含水率0.5重量%、ジクロロメタン溶液中6重量%の粘度 350mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.3mmである粉体) 100重量部
ジクロロメタン(第1溶媒) 390重量部
メタノール(第2溶媒) 60重量部
レターデーション低下剤(n−フェニル−p−トルエンスルホアミド)(化合物A)
12重量部
波長分散調整剤(2−ハイドロキシ−4オクトキシ−ベンゾフェノン) 0.8重量部
クエン酸エステル混合物(クエン酸、モノエチルエステル、ジエチルエステル、トリエチ
ルエステル混合物) 0.006重量部
微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05重量部
【0093】
[セルローストリアセテート]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有率が58ppm、Mg含有率が42ppm、Fe含有率が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンを15ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8重量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は160℃、結晶化発熱量は6.4J/gであった。このTACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたものである。以下の説明において、これを綿原料TACと称する。
【0094】
(1−1)ドープ仕込み
攪拌羽根を有する4000Lのステンレス製溶解タンクで前記複数の溶媒を混合してよく攪拌し、混合溶媒とした。なお、溶媒の各原料としては、すべてその含水率が0.5重量%以下のものを使用した。次に、TACのフレーク状粉体をホッパから徐々に添加した。TAC粉末は、溶解タンクに投入されて、最初は5m/秒の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌機及び中心軸にアンカー翼を有する攪拌機を周速1m/秒で攪拌する条件下で30分間分散した。分散開始時の温度は25℃であり、最終到達温度は48℃となった。さらに、全体が2000kgとなるように添加剤タンク送液量を調整しながら、予め調製された添加剤溶液を添加剤タンクに送液した。添加剤溶液の分散を終了した後に、高速攪拌は停止した。そして、アンカー翼の周速を0.5m/秒としてさらに100分間攪拌し、TACフレークを膨潤させて膨潤液を得た。膨潤終了までは窒素ガスにより溶解タンク内を0.12MPaになるように加圧した。この際の溶解タンクの内部は、酸素濃度が2vol%未満であり防爆上で問題のない状態を保った。また膨潤液中の水分量は0.3重量%であった。
【0095】
(1−2)溶解・濾過
膨潤液を溶解タンクからジャケット付配管に送液した。ジャケット付き配管で膨潤液を50℃まで加熱して、更に2MPaの加圧下で90℃まで加熱し、完全溶解した。このときの加熱時間は15分であった。次に溶解された液を温調器で36℃まで温度を下げ、公称孔径8μmの濾材を有する濾過装置を通過させドープ(以下、濃縮前ドープと称する)を得た。この際、濾過装置における1次側圧力は1.5MPa、2次側圧力を1.2MPaとした。高温にさらされるフィルタ、ハウジング及び配管はハステロイ(商品名)合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の伝熱媒体を流通させるジャケットを備えたものを使用した。
【0096】
(1−3)濃縮・濾過・脱泡・添加剤
このようにして得られた濃縮前ドープを80℃で常圧とされたフラッシュ装置内でフラッシュ蒸発させて、蒸発した溶媒を凝縮器で回収した。フラッシュ後のドープの固形分濃度は、21.8重量%となった。なお、凝縮された溶媒はドープ調製用溶媒として再利用すべく回収装置で回収した。再生装置で再生した後に溶媒タンクに送液した。回収装置,再生装置では、蒸留や脱水を行った。フラッシュ装置のフラッシュタンクには攪拌軸にアンカー翼を備えた攪拌機(図示しない)を設け、その攪拌機により周速0.5m/秒でフラッシュされたドープを攪拌して脱泡を行った。このフラッシュタンク内のドープの温度は25℃であり、タンク内におけるドープの平均滞留時間は50分であった。このドープを採取して25℃で測定した剪断粘度は、剪断速度10(秒−1)で450Pa・sであった。
【0097】
次に、このドープに弱い超音波を照射することにより泡抜きを実施した。その後にポンプを用いて1.5MPaに加圧した状態で、濾過装置を通過させた。濾過装置では、最初公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルタを通過させ、ついで同じく10μmの焼結繊維フィルタを通過させた。それぞれの1次側圧力は1.5MPa,1.2MPaであり、2次側圧力は1.0MPa,0.8MPaであった。濾過後のドープ温度を36℃に調整して2000Lのステンレス製仕込みタンク13内に原料ドープを送液して貯蔵した。仕込みタンク13は中心軸にアンカー翼を備えた攪拌機を有しており、周速0.3m/秒で常時攪拌を行った。なお、濃縮前ドープからドープを調製する際に、ドープ接液部には、腐食などの問題は全く生じなかった。
【0098】
(1−4)吐出・直前添加・流延・ビード減圧
図1に示すフイルム製造設備10を用いてフイルム25を製造した。仕込みタンク13内のドープ13を高精度のギアポンプで濾過装置へ送った。このギアポンプは、ポンプの1次側を増圧する機能を有しており、1次側の圧力が0.8MPaになるようにインバーターモータによりギアポンプの上流側に対するフィードバック制御を行い送液した。ギアポンプは容積効率99.2%、吐出量の変動率0.5%以下の性能であるものを用いた。また、吐出圧力は1.5MPaであった。そして、濾過装置を通ったドープ13を流延ダイ23に送液した。
【0099】
流延ダイ23は、幅が1.8mであり乾燥されたフイルム25の膜厚が80μmとなるように、流延ダイ23の吐出口でドープ13の流量を調整して流延を行った。また流延ダイ23の吐出口からのドープ13の流延幅を1700mmとした。ドープ13の温度を36℃に調整するために、流延ダイ23にジャケット(図示しない)を設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の入口温度を36℃とした。
【0100】
流延ダイ23とはすべて、製膜中には36℃に保温した。流延ダイ23は、コートハンガータイプのダイを用いた。流延ダイ23には、厚み調整ボルトが20mmピッチに設けられており、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を具備しているものを使用した。このヒートボルトは、予め設定したプログラムによりギアポンプの送液量に応じたプロファイルを設定することもでき、フイルム製造ライン20に設置した赤外線厚み計(図示しない)のプロファイルに基づいた調整プログラムによってフィードバック制御も可能な性能を有するものを用いた。端部20mmを除いたフイルムにおいては、50mm離れた任意の2点の厚み差は1μm以内であり、幅方向における厚みのばらつきが3μm/m以下となるように調整した。また、全体厚みは±1.5%以下に調整した。
【0101】
また、流延ダイ23の1次側には、この部分を減圧するための減圧チャンバ51を設置した。この減圧チャンバ51の減圧度は、流延ビードの前後で1Pa〜5000Paの圧力差が生じるように調整され、この調整は流延速度に応じてなされる。その際に、流延ビードの長さが20mm〜50mmとなるように流延ビードの両面側の圧力差を設定した。また、減圧チャンバ51は、流延部周囲のガスの凝縮温度よりも高い温度に設定できる機構を具備したものを用いた。ダイ吐出口におけるビードの前面部、背面部にはラビリンスパッキン(図示しない)を設けた。また、流延ダイのダイ吐出口の両端には開口部を設けた。さらに、流延ダイ23には、流延ビードの両縁の乱れを調整するためのエッジ吸引装置(図示しない)を取り付けた。
【0102】
(1−5)流延ダイ
流延ダイ23の材質は、熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下の析出硬化型のステンレス鋼を用いた。これは、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316製と略同等の耐腐食性を有するものであった。また、ジクロロメタン,メタノール,水の混合液に3ヶ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有していた。流延ダイ23の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは1.5mmに調整した。流延ダイ23のリップ先端の接液部の角部分については、Rはスリット全巾に亘り50μm以下になるように加工されているものを用いた。流延ダイ23内部でのドープ13の剪断速度は1(1/秒)〜5000(1/秒)の範囲であった。また、流延ダイ23のリップ先端には、溶射法によりWC(タングステンカーバイト)コーティングをおこない硬化膜を設けた。
【0103】
(1−6)金属支持体
支持体として幅2.1mで長さが70mのステンレス製のエンドレスバンドを流延バンド22として利用した。流延バンド22は、厚みが1.5mm、表面粗さが0.05μm以下になるように研磨した。その材質はSUS316製であり、十分な耐腐食性と強度を有するものを用いた。流延バンド22の全体の厚みムラは0.5%以下であった。流延バンド22は、2個の回転ローラ20,21により駆動させた。その際の流延バンド22の搬送方向における張力は1.5×105 N/m2 なるように調整した。また、流延バンド22と回転ローラ20,21との相対速度差が0.01m/分以下になるように調整した。このときに、流延バンド22の速度変動を0.5%以下とした。また1回転の幅方向の蛇行が、1.5mm以下に制限されるように流延バンド22の両端位置を検出して制御した。流延ダイ23の直下におけるダイリップ先端と流延バンド22との上下方向の位置変動は200μm以下にした。流延バンド22は、風圧変動抑制手段(図示しない)を有したベルトゾーン11内に設置した。この流延バンド22上に流延ダイ23からドープ13を流延した。
【0104】
回転ローラ20,21は、流延バンド22の温度調整を行うことができるように、内部に伝熱媒体を送液できるものを用いた。流延ダイ23側の回転ローラ21には5℃の伝熱媒体を流し、他方の回転ローラ20には乾燥のために40℃の伝熱媒体を流した。流延直前の流延バンド22中央部の表面温度は15℃であり、その両側端の温度差は6℃以下であった。なお、流延バンド22には、表面欠陥がないものが好ましく、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm〜30μmのピンホールは1個/m2以下、10μm未満のピンホールは2個/m2以下であるものを用いた。
【0105】
(1−7)流延乾燥
バンドゾーン11の温度は、温調設備を用いて35℃に保った。流延バンド22上に流延されたドープ13から形成された流延膜には、最初に流延膜に対して平行に流れる乾燥風を送り、流延膜を乾燥した。この乾燥風からの流延膜への総括伝熱係数は24kcal/(m2・hr・℃)であった。乾燥風の温度は、流延バンド22上部の上流側の送風口からは135℃の乾燥風を送風した。また下流側の送風口からは140℃の乾燥風を送風し、流延バンド22下部の送風口からは65℃の乾燥風を送風した。それぞれの乾燥風の飽和温度は、いずれも−8℃付近であった。流延バンド22上での乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、この酸素濃度を5vol%に保持するために空気を窒素ガスで置換した。また、バンドゾーン11内の溶媒を凝縮回収するために、凝縮器(コンデンサ)を設け、その出口温度を−10℃に設定した。
【0106】
流延後5秒間は乾燥風が、直接に流延ビード及び流延膜に当たらないように遮風板を設置して、流延ダイ23近傍の静圧変動を±1Pa以下に抑制した。流延膜52中の溶媒比率がフイルム25として剥ぎ取った。なお、この乾量基準による溶媒含有率は、サンプリング時におけるフイルム重量をx、そのサンプリングフイルムを乾燥した後の重量をyとするとき{(x−y)/y}×100で算出される値である。また剥取テンションは1×102N/m2あり、剥取不良を抑制するために流延バンド22の速度に対して剥取速度(剥取ローラドロー)は100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。剥ぎ取ったフイルム25の表面温度は15℃であった。流延バンド22上での乾燥速度は、平均60重量%(乾量基準溶媒)/分であった。乾燥により発生した溶媒ガスは−10℃の凝縮器66で凝縮液化して回収装置で回収した。回収された溶媒は、水分量が0.5%以下となるように調整した。また、溶媒が除去された乾燥風は、再度加熱して乾燥風として再利用した。フイルム25を渡り部のローラを介して搬送し、テンタ式乾燥機26に送った。この渡り部では送風機から40℃の乾燥風をフイルム25に送風した。なお、渡り部のローラで搬送している際に、フイルム25に約30Nのテンションを付与した。
【0107】
(1−8)テンタ搬送・乾燥・耳切
テンタ式乾燥機26に送られたフイルム25は、クリップでその両端を固定されながらテンタ式乾燥機26の乾燥ゾーン内を搬送され、この間に乾燥風により乾燥された。クリップは、20℃の伝熱媒体の供給により冷却した。クリップの搬送は、チェーンで行い、そのスプロケットの速度変動は0.5%以下であった。また、テンタ式乾燥機26内を3ゾーンに分け、それぞれのゾーンの乾燥風温度を上流側から90℃,110℃,120℃とした。乾燥風のガス組成は−10℃における飽和ガス濃度とした。テンタ式乾燥機26内での平均乾燥速度は120重量%(乾量基準溶媒)/分であった。テンタ式乾燥機26の出口ではフイルム25内の残留溶媒量が7重量%となるように、乾燥ゾーンの条件を調整した。テンタ式乾燥機26内では搬送しつつ幅方向に延伸も行った。なお、この延伸前のフイルム25の幅を100%としたとき、延伸後の幅が103%となるように延伸した。剥取ローラ24からテンタ式乾燥機26の入口に至るまでの延伸率(テンタ駆動ドロー)は102%とした。
【0108】
テンタ式乾燥機26内での延伸率は、クリップによる噛み込み開始位置から10mm以上離れた位置の任意の2点における各実質延伸率の差異が10%以下であり、かつ20mm離れた任意の2点の延伸率の差は5%以下であった。また、テンタ式乾燥機26の入口から出口までの長さに対する、クリップ挟持開始位置から挟持解除位置までの長さの割合は90%とした。テンタ式乾燥機26内で蒸発した溶媒は−10℃の温度で凝縮させ液化して回収した。凝縮回収用に凝縮器(コンデンサ)を設け、その出口温度は−8℃に設定した。そして凝縮溶媒は、含まれる水分量が0.5重量%以下に調整されて再使用された。そして、テンタ式乾燥機26からフイルム25として送り出した。
【0109】
テンタ式乾燥機26の出口から30秒以内にフイルム25の両端の耳切を耳切装置で行った。NT型カッターにより両側50mmの耳をカットし、カットした耳はカッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ35aに風送して平均80mm2 程度のチップに粉砕した。このチップは、再度ドープ調製用原料としてTACフレークと共にドープ製造の際の原料として利用した。テンタ式乾燥機26の乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。後述する乾燥室で高温乾燥させる前に、100℃の乾燥風が供給されている予備乾燥室(図示しない)でフイルム25を予備加熱した。
【0110】
(1−9)後乾燥・除電
フイルム25を乾燥ゾーン12で高温乾燥した。乾燥ゾーン12を4区画に分割して、上流側から120℃,130℃,130℃,130℃の乾燥風を送風器(図示しない)から給気した。フイルム25のローラ36aによる搬送テンションを100N/mとして、最終的に残留溶媒量が0.3重量%になるまで約10分間乾燥した。ローラ36aのラップ角度(フイルムの巻き掛け中心角)は、90度および180度とした。ローラ36aの材質はアルミ製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロム鍍金を施した。ローラ36aの表面形状はフラットなものとブラストによりマット化加工したものとを用いた。ローラ36aの回転によるフイルム位置の振れは、全て50μm以下であった。また、テンション100N/mでのローラ撓みは0.5mm以下となるように選定した。
【0111】
乾燥したフイルム25を第1調湿室(図示しない)に搬送した。乾燥ゾーン12と第1調湿室との間の渡り部には、110℃の乾燥風を給気した。第1調湿室には、温度50℃、露点が20℃の空気を給気した。さらに、フイルム25のカールの発生を抑制する第2調湿室(図示しない)にフイルム25を搬送した。第2調湿室では、フイルム25に直接90℃,湿度70%の空気をあてた。
【0112】
(1−10)ナーリング、巻取条件
調湿後のフイルム25は、冷却室で30℃以下に冷却した後に耳切装置(図示しない)で再度両端の耳切りを行った。搬送中のフイルム25の帯電圧は、常時−3kV〜+3kVの範囲となるように強制除電装置(除電バー)を設置した。さらにフイルム25の両端にナーリング付与ローラでナーリングの付与を行った。ナーリングはフイルム25の片側からエンボス加工を行うことで付与し、ナーリングを付与する幅は10mmであり、凹凸の高さがフイルム25の平均厚みよりも平均12μm高くなるようにナーリング付与ローラ66による押し圧を設定した。
【0113】
そして、フイルム25を巻取室に搬送した。巻取室38は、室内温度28℃,湿度70%に保持した。巻取室の内部には、フイルム25の帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVとなるようにイオン風除電装置(図示しない)も設置した。このようにして得られたフイルム(厚さ80μm)の製品幅は、1475mmとなった。巻取ローラの径は169mmのものを用いた。
【0114】
温調器130aは、添加剤溶液タンク130に貯留する添加剤溶液400の温度を範囲
(50℃以上80℃以下)に保持した。以下、添加剤溶液400の調製に際しての配合を下記に示す。
ジクロロメタン(第1溶媒) 390重量部
メタノール(第2溶媒) 60重量部
ジフェノキシフェスフォリルオキシベンゼン(化合物B) 12重量部
【0115】
混合割合制御手段133の制御の下、加熱器131、ポンプ135及び濃度センサ132aを用いて混合割合Mが50重量%の混合空気402を混合装置132内に生成した。このとき混合空気402におけるレターデーション低下剤の融点MP1は80℃であった。この混合空気402を第1通過室111へ送った。
【0116】
回転数5rpmで回転し、温度が60℃以上120℃以下に保持される熱交換素子114に、混合空気402が接触した。この接触により、混合空気402から、第1除去空気311と熱交換素子114の表面に付着する混合物とに分離した。第1除去空気311は、送風器52により、配管121を介して冷却器53に送られた。
【0117】
この混合物に、所望の温度(60℃以上95℃未満)に保持された洗浄液321を流出口111aから熱交換素子114へ流出した。洗浄液321として水を用いた。この洗浄液321の流下により、混合物は洗浄液321に溶解し、洗浄液321は洗浄廃液320となった。洗浄廃液320は、配管122を介して、沈降装置152へ送られた。沈降装置152では、洗浄廃液320に比重分離処理を施し、洗浄廃液320から洗浄液321と沈降物321に分離した。
【0118】
冷却器53では、略7℃に保持される冷水71を冷水配管72に流した。冷水配管72と第1除去空気311との接触により、冷水配管72の表面には低融点添加剤やその他の添加剤が液化し、付着した。こうして、第1除去空気311から低融点添加剤及びその他の添加剤が除去された。低融点添加剤等が除去された第1除去空気311は、第2除去空気312となって、前処理活性炭54へ送られた。また、冷却器53において、低融点添加剤等が付着した冷水配管72に略70℃の洗浄水75を送った。この洗浄水75は、冷水配管72に付着した低融点添加剤等を除去した。そして、除去された低融点添加剤等は、洗浄水75とともに洗浄廃水76となって洗浄廃水処理ラインへ送られた。洗浄廃水処理ラインへ送られた洗浄廃水76に洗浄廃水処理を施し、洗浄廃水76に含まれる添加剤などの不純物と洗浄水とに分離した。
【0119】
第2除去空気312は、前処理活性炭54、除湿器55、吸着層57〜59へ送り、各部において、第2除去空気312に残留する添加剤、水分、溶媒を取り除いた。更に、第2除去空気312は、温度調節器60により所定の温度に調節され、温調空気313となった。温調空気313は、送風器62によって、第2通過室112へ流入した。第2通過室112へ流入した温調空気313は、熱交換素子114に形成される孔を介して配管124へ送られた。温調空気313が孔を通過する際、混合空気402から奪った熱が熱交換素子114を介して、温調空気313に伝わった。更に、温調空気313は、加熱器63によって加熱され、乾燥処理前空気300として、乾燥ゾーン12へ送られた。
【0120】
比重分離処理により得られた沈降物323、及び洗浄排水処理で得た不純物について、ガスクロマトグラフィを用いた重量分析を行った結果、沈降物には、n−フェニル−p−トルエンスルホアミドが含まれ、不純物には、ジフェノキシフェスフォリルオキシベンゼンが含まれていることを確認した。
【実施例2】
【0121】
混合装置132において生成する混合空気402の混合割合Mを30重量%にした以外は、実施例1と同様にして、溶媒回収ライン48を稼動した。このとき混合空気402におけるレターデーション低下剤の融点MP1は90℃であった。比重分離処理により得られた沈降物323、及び洗浄排水処理で得た不純物について、ガスクロマトグラフィを用いた重量分析を行った結果、沈降物には、n−フェニル−p−トルエンスルホアミドが含まれ、不純物には、ジフェノキシフェスフォリルオキシベンゼンが含まれていることを確認した。
【0122】
<比較例1>
混合装置132において生成した混合空気402の混合割合Mを10重量%にした以外は、実施例1と同様にして、溶媒回収ライン48を稼動した。このとき混合空気402におけるレターデーション低下剤の融点MP1は100℃であった。比重分離処理により得られた沈降物323、及び洗浄排水処理で得た不純物について、ガスクロマトグラフィを用いた重量分析を行った結果、沈降物には、n−フェニル−p−トルエンスルホアミドが含まれ、不純物には、ジフェノキシフェスフォリルオキシベンゼンが含まれていることを確認した。
【0123】
<比較例2>
混合装置132において生成した混合空気402の混合割合Mを0重量%にした以外は、実施例1と同様にして、溶媒回収ライン48を稼動した。このとき混合空気402におけるレターデーション低下剤の融点MP1は102℃であった。比重分離処理により得られた沈降物323、及び洗浄排水処理で得た不純物について、ガスクロマトグラフィを用いた重量分析を行った結果、沈降物には、n−フェニル−p−トルエンスルホアミドが含まれ、不純物には、ジフェノキシフェスフォリルオキシベンゼンが含まれていることを確認した。
【0124】
<比較例3>
低融点添加剤として、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ペンチルフェノール(化合物E)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、溶媒回収ライン48を稼動した。このとき混合空気402におけるレターデーション低下剤の融点MP1は120℃であった。比重分離処理により得られた沈降物323、及び洗浄排水処理で得た不純物について、ガスクロマトグラフィを用いた重量分析を行った結果、沈降物には、n−フェニル−p−トルエンスルホアミドが含まれ、不純物には、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ペンチルフェノールが含まれていることを確認した。
【実施例3】
【0125】
低融点添加剤として、ビス(2−エチルヘキシル)フタノール(化合物C)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、溶媒回収ライン48を稼動した。このとき混合空気402におけるレターデーション低下剤の融点MP1は60℃であった。比重分離処理により得られた沈降物323、及び洗浄排水処理で得た不純物について、ガスクロマトグラフィを用いた重量分析を行った結果、沈降物には、n−フェニル−p−トルエンスルホアミドが含まれ、不純物には、ビス(2−エチルヘキシル)フタノールが含まれていることを確認した。
【実施例4】
【0126】
低融点添加剤として、ジフェニルクレシルフォスフェート(化合物D)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、溶媒回収ライン48を稼動した。このとき混合空気402におけるレターデーション低下剤の融点MP1は65℃であった。比重分離処理により得られた沈降物323、及び洗浄排水処理で得た不純物について、ガスクロマトグラフィを用いた重量分析を行った結果、沈降物には、n−フェニル−p−トルエンスルホアミドが含まれ、不純物には、ジフェニルクレシルフォスフェートが含まれていることを確認した。
【実施例5】
【0127】
低融点添加剤として、ビフェニルジフェニルホスフェート(化合物F)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、溶媒回収ライン48を稼動した。このとき混合空気402におけるレターデーション低下剤の融点MP1は70℃であった。比重分離処理により得られた沈降物323、及び洗浄排水処理で得た不純物について、ガスクロマトグラフィを用いた重量分析を行った結果、沈降物には、n−フェニル−p−トルエンスルホアミドが含まれ、不純物には、ビフェニルジフェニルホスフェートが含まれていることを確認した。
【0128】
(評価)
上記実施例1ないし5及び比較例1ないし3について、洗浄液321の温度を変えながら溶媒回収ライン48を稼動し、熱交換素子114に付着する混合物が洗浄されるか否かを調べた。混合物が洗浄されたか否かは、熱交換素子114の目視観察で判断した。熱交換素子114に付着する混合物を除去できた洗浄液321の温度のうち、最も低い温度を当該実施例における洗浄可能温度とし、この洗浄可能温度が100℃以上の場合は×、85℃以上100℃未満の場合は○、85℃未満の場合は◎とした。各実施例及び比較例における評価結果をまとめた表1を示す。
【0129】
【表1】

【0130】
各実施例における評価結果について表1に示す。
【0131】
本発明により、混合空気を精製することにより、高融点添加剤であるレターデーション低下剤を通常の融点よりも低温で析出・融解することができるため、従来の溶液製膜方法や溶液製膜設備とともに用いられていた溶媒回収方法や溶媒回収設備と同様にして、長時間において連続的に溶媒回収処理を行うことが可能となり。したがって、従来のフイルムよりもレターデーションの低いフイルムを、従来のフイルムと同様の製造コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】フイルム製造ライン及び溶媒回収ラインの概要を示す説明図である。
【図2】(A)は、第1除去空気が冷却器により冷却される様子の概要を示す説明図である。(B)は、洗浄水により配管に付着した添加物などを溶解する様子の概要を示す説明図である。
【図3】本発明のレターデーション低下剤除去ラインの概要を示す説明図である。
【図4】図3におけるIV−IV線断面図である。
【符号の説明】
【0133】
11 バンドゾーン
12 乾燥ゾーン
13 ドープ
25 フイルム
30 空調器
48 溶媒回収ライン
51 低下剤除去ライン
53 冷却器
60 温度調節器
75 洗浄水
76 洗浄廃水
100 熱交換器
101 空気供給ライン
102 洗浄液供給ライン
114 熱交換素子
131 加熱器
132 混合装置
132a 濃度センサ
133 混合割合制御手段
152 沈降装置
153 スイング部
155 廃棄タンク
300 乾燥処理前空気
301 乾燥処理後空気
311 第1除去空気
312 第2除去空気
313 温調空気
320 洗浄廃液
321 洗浄液
323 沈降物
400 添加剤溶液
401 添加剤含有空気
402 混合空気
M 混合割合
MP1 融点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点がMP1の高融点化合物と融点がMP1より低い低融点化合物とを含む混合気体中にて、前記高融点化合物を含む物質とMP1よりも低い温度の洗浄液とを接触させることを特徴とする高融点化合物の除去方法。
【請求項2】
前記混合気体に含まれる前記低融点化合物の混合割合が30重量%以上50重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の高融点化合物の除去方法。
【請求項3】
フイルムの原料であるポリマーと前記ポリマーを溶解する溶媒と前記高融点化合物を含む湿潤フイルムの乾燥により生成し、前記高融点化合物と前記溶媒とを含む乾燥後気体を回収し、
前記低融点化合物を含む気体と前記乾燥後気体とを混ぜ、前記混合気体とし、
前記乾燥後気体或いは前記混合気体を冷却して前記物質を析出することを特徴とする請求項1または2記載の高融点化合物の除去方法。
【請求項4】
前記洗浄液が水であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の高融点化合物の除去方法。
【請求項5】
前記高融点化合物が、前記フイルムのレターデーションを抑制するレターデーション低下剤であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の高融点化合物の除去方法。
【請求項6】
前記高融点化合物が、n−フェニル−p−トルエンスルホアミドであり、
前記低融点化合物が、ジフェノキシフェスフォリルオキシベンゼンと、ビス(2−エチルヘキシル)フタノールと、ジフェニルクレシルフォスフェートとビフェニルジフェニルホスフェートと
のうちいずれか1つであることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の高融点化合物の除去方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちいずれか1項記載の高融点化合物の除去を行い、
前記接触により前記析出物を回収し、
前記接触後に残留する気体から前記溶媒と前記低融点化合物とを回収し、
この回収により前記残留する気体から不純物を取り除き、前記湿潤フィルムを乾燥するための乾燥前気体として回収することを特徴とする溶媒回収方法。
【請求項8】
融点がMP1の高融点化合物と融点がMP1より低い低融点化合物とを含む混合気体中にて、前記高融点化合物を含む物質とMP1よりも低い温度の洗浄液とを接触させる接触装置を備えることを特徴とする高融点化合物の除去設備。
【請求項9】
前記低融点化合物の混合割合が30重量%以上50重量%以下の前記混合気体をつくる混合装置を備えることを特徴とする請求項8記載の高融点化合物の除去設備。
【請求項10】
フイルムの原料であるポリマーと前記ポリマーを溶解する溶媒と前記高融点化合物を含む湿潤フイルムの乾燥により生成し、前記高融点化合物と前記溶媒とを含む乾燥後気体を回収する気体回収装置と、
前記低融点化合物を含む気体と前記乾燥後気体とを混ぜ、前記混合気体とする前記混合装置と、
前記乾燥後気体或いは前記混合気体を冷却して前記物質を析出する冷却装置とを備えることを特徴とする請求項8または9記載の高融点化合物の除去設備。
【請求項11】
前記接触装置が、前記析出物と水とを接触することを特徴とする請求項8ないし10いずれか1項記載の高融点化合物の除去設備。
【請求項12】
請求項8ないし11のうちいずれか1項記載の高融点化合物の除去設備と、
前記接触により前記物質を回収する第1回収装置と、
前記接触後に残留する気体から前記溶媒と前記低融点化合物とを回収する第2回収装置と、
前記第2回収装置による回収後に残留する気体から不純物を取り除き、前記湿潤フィルムを乾燥するための乾燥前気体として回収する第3回収装置と
を備えることを特徴とする溶媒回収設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−105007(P2008−105007A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26282(P2007−26282)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】