説明

高速での放電機械加工のためのワイヤー

【課題】電極ワイヤーに関し、より高い放電加工速度を達成する。
【解決手段】拡散亜鉛合金コーティング層17でコートされた非合金化銅コア16を有する放電加工電極ワイヤーであって、拡散亜鉛合金コーティング層17の厚みEは、ワイヤー径の10%以上である。コーティング層17は、任意で、薄い、亜鉛、銅、ニッケル、銀又は金の表面接触膜21を配されている。当該電極ワイヤーの全体的な導電率は、65%IACSから75%IACSまでである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電部品を切断又は仕上げるための放電加工機のための電極ワイヤーに関する。
【背景技術】
【0002】
放電加工は、導電ワイヤーと機械加工される部品との間のスパークを生成することにより導電部品を機械加工するのに用いられている。この導電ワイヤーは、その部品の近傍を長手方向へと移動し、且つ、そのワイヤー又はその部品のいずれかの移動の結果として、その部品に対する横断方向へも徐々に移動する。
【0003】
そのスパークは、その部品とそのワイヤーとを徐々に侵食する。そのワイヤーの長手方向の動きは、常に、そのワイヤーが壊れるのを防止するのに十分な、スパーキング領域におけるワイヤー径を維持する。その横断方向におけるワイヤーと部品との相対的な移動は、適切に、その部品を切断するか、或いは、その表面を処理する。
【0004】
放電加工機は、水などの誘電体で充填されたスパーキング領域において機械加工される部品の近傍で一本のワイヤーを保持し且つ伸張する手段、スパーキング領域において長手方向にそのワイヤーを移動する手段、そのワイヤーと機械加工される部品との間にスパーキング電流を生成する手段、及びそのワイヤーとその部品とをそのワイヤーの長手方向を横切るように相対的に移動させる手段、を有している。
【0005】
現在、多くの放電加工ワイヤーが存在しており、主に二つの主要なファミリーに分類される。
【0006】
第1ファミリーのワイヤーは、例えば、銅、真鍮、タングステン又はモリブデンで構成される、ほぼ均一な横方向の構造を有する。選択された合金は、導電性及び機械的強度の要件を満たす必要がある。導電性は、スパーキング領域にエネルギーを供給するのに必要である。機械的強度は、スパーキング領域でのワイヤーの破断を阻止するのに必要である。可能であれば、ワイヤーがエロージョンに対して良好な挙動を有するように、つまり、ワイヤーが速いエロージョンを生じさせるように、合金が選択される。ワイヤーの最大エロージョン速度は、制限速度であり、その制限速度を超えて、スパーキングエネルギーが、エロージョンを加速させようとして増加させられると、ワイヤーが破断する。
【0007】
一般的法則として、各ワイヤー構造は、機械加工速度、機械加工精度、及び表面状態を与える。
【0008】
従って、35〜37%の亜鉛を含有する真鍮ワイヤーが提案されており、経済的に許容可能な妥協点を構成しているが、コストに見合って比較的低いエロージョン速度を構成している。
【0009】
放電加工ワイヤーの第2のファミリーは、コートされたワイヤー、つまり、全体的に均一な金属又は合金層である表面層でコートされた金属コアで構成されるワイヤーを含む。これらワイヤーを用いた放電加工中、ワイヤーの表面と部品の表面との間の、水などの誘電体を介して形成された電気アークは、ワイヤーの中心に到達してはならず、到達すれば、そのワイヤーは破断するであろう。消えていくのは、そのワイヤーのコーティングである。
【0010】
コートされたワイヤーの利点は、ワイヤーのコアが、その電気的特性及び機械的特性に応じて選択され得るという点、及び、そのコーティングが、そのエロージョン特性及びその接触抵抗に応じて選択され得るという点である。
【0011】
従って、仏国特許発明第2,418,699号明細書は、銅、カドミウム、スズ、鉛、ビスマス又はアンチモンの合金で、銅又は真鍮のコアをコートすることを提唱する。この文献が教示しているのは、そのコーティングが加工速度を向上させるということである。この文献の実施例は、180μmである全体の径に関して、約15μm厚のコーティングでコートされた銅コアである。
【0012】
しかしながら、時折見出されるのは、上述の種類の放電加工ワイヤーが最適な加工速度を達成せず、且つ、加工速度のさらなる向上に関する要求が存在するということである。
【0013】
合金コーティングでコートされた銅ベースのコアを有するワイヤーを用いた現在の放電加工技術において、常に推奨されているのは、ワイヤーの機械的特性を向上させるために、銅合金又はマイクロ合金を使用するということである。コアの機械的特性、ひいてはワイヤー全体としての機械的特性を向上させることの利点は、ひずみ矯正アニーリングなく、放電加工機を通過し得る直線状のワイヤーを取得するのに非常に重要であり、且つ、常に考慮されているのは、このことは、放電加工中、ワイヤーの破断のリスクを減少させるということである。
【0014】
銅合金及びマイクロ合金の詳細は、特に、タイトルが「Les proprietes du cuivre et de ses alliages」、Centre d'Information du Cuivre、Laitons et Alliages、パリ、1992年の文献に述べられている。これらの特性を以下の表に記載している:
【0015】
【表1】

銀以外の他の金属例えば、カドミウムやスズを加えることは、銅の機械的特性を著しく向上させるが、導電性を悪化させる。
【0016】
従って、欧州特許出願公開第0,526,361号明細書は、銅又は銅合金を有する金属コアの周囲に亜鉛を含有する外部金属層を有する放電加工電極を設けることを教示している。要求される目的の一つは、ワイヤーの高い機械強度を取得することである。当業者に明らかなのは、この場合に用いる銅は、銅のマイクロ合金であるということである。上述の文献は、鉄、コバルト、チタン、リン、マンガン、クロム、ジルコニウム、アルミニウム、スズ、ニッケルなどの一つ以上の要素でこの銅をドープすることをさらに推奨している。また、この文献は、合金を用いることを推奨しており、この文献で述べられたただ一つの例は、CuZn20の真鍮製のコアを有するワイヤーである。
【0017】
米国特許第4,977,303号明細書は、亜鉛でコートされた銅コアであり、その後その亜鉛をその銅に拡散させるために熱処理を施された銅コアを有するワイヤーの製造に関して教示する。この文献において、当業者が認識することは、用いられている銅は、合金化されていない純粋な銅ではないということである。なぜなら、図4は、11μmの深さから、拡散層を過ぎたコアにおける銅の濃度を示しており、亜鉛の濃度が0である一方で、銅は、明らかに100%未満であるからである。
【0018】
米国特許出願公開第2001/0050269号明細書は、コアで単独で銅を使用することに反対している。なぜなら、高温での機械的強度が十分でないためである。
【0019】
上述の文献は、合金化されていない銅、つまり高純度の銅を使用することを教示も示唆もしていない。
【0020】
本発明は、高速のエロージョンを得るために、放電加工ワイヤーの構造を最適化しようとして検討した結果である。
【0021】
このことを考慮しながら、欧州特許出願公開第0,185,492号明細書から得られた第1の観察は、銅メッキされたスチールコア上にある亜鉛合金のコーティングの厚みを増大させることは、放電加工速度に対して有益であるが、200μmの全径に関して15μm厚を超えていない。
【0022】
上記で引用した欧州特許出願公開第0,526,361号明細書は、機械加工部品の良好な表面品質を組み合わせて、長い電極寿命に関して検討している。この文献は、ワイヤーの径と共に表面金属層の厚みを増大させることを教示している。1mm径のワイヤーに関して、表面層の厚みは、好ましくは10〜100μmである。このことは、1〜10%となる相対的な表面層の厚みに対応している。この文献に記載されている唯一の例は、0.25mmの全径を有するワイヤーであって、相対的な厚みが8%である20μm厚の金属表面層を有するワイヤーである。上述の文献において、電極ワイヤーの径の10%を超える表面層の相対的な厚みを設けることは教示されていない。
【0023】
第2の観察では、いくつかの放電加工機において、その機械加工速度は、表面層の金属が、その外部における亜鉛の銅を含有する下部層への熱拡散により得られた真鍮である場合、時折さらに増大させられ得る。
【0024】
この観察は米国特許第4,977,303号明細書に由来しており、ここでは、銅合金又はマイクロ合金(図4参照)が、熱拡散の後に線引きを行うことにより得られる銅及び亜鉛の合金の厚い層でコートされる、放電加工ワイヤーを提案している。この銅及び亜鉛合金の拡散合金層は、約1μm厚の酸化層で覆われている。この文献は、22μmに等しい、表面金属層の絶対厚を示しているが、ワイヤーの径と比較した表面層の相対的な厚みに関しては示していない。
【0025】
しかしながら、α及びβフェーズの拡散亜鉛銅合金の表面層を有するワイヤーにおいて、37%亜鉛を含有する真鍮コア上の表面層の厚みを増大させることは、機械加工速度を低下させる傾向にあり、このことは、必要とされていることの反対である、ということが見出された。従って、切断試験は、第1に37%亜鉛を含有する均一な真鍮構造を有するワイヤーにより、また、第2に熱拡散処理により製造された亜鉛銅合金の表面層で覆われた37%亜鉛を含有する真鍮コアを有するワイヤーにより、50mmスチール部品において行われた。ワイヤーの径及び機械加工条件は同一であり、相対的な機械加工速度(mm/分)は、それぞれ、均一ワイヤーに関しては98であり、表面層を有するワイヤーでは67であって、このことは、表面層の否定的な効果を示している。
【0026】
また、表面層の亜鉛含量を増加させることは、放電加工の効率を向上させるということが見出された。この表面層は、より硬く且つより強固であるβフェーズ又はγフェーズを有している。しかしながら、表面層の厚みを増大させることは可能ではない。なぜなら、ワイヤーは、特にコアが合金化されていない銅で出来ている場合、脆弱となり且つ引抜きにくくなるためである。
【0027】
その上、これまでのところ、機械加工中、放電加工ワイヤーの表面層において放電加工機が生み出すクレーターの寸法を超えて表面金属合金層の厚みを増大させることに有用性が見出されていない。これらクレーターの寸法は、米国特許4,977,303号明細書に示されたように約5μmである。従って、通常のワイヤー径の10%の相対的な厚みを超えて表面層の厚みを増大させることが有益となり得ることを認識することはこれまで不可能だったのであり、合金化されていない銅のコアと厚い表面層とを組み合わせることが有益となり得ることを認識することは更に不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】仏国特許発明第2,418,699号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0,526,361号明細書
【特許文献3】米国特許第4,977,303号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2001/0050269号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0,185,492号明細書
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】Les proprietes du cuivre et de ses alliages、Centre d'Information du Cuivre、Laitons et Alliages、Paris, 1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明により解決される問題は、一定の機械加工条件の下、一定の径に関して、放電加工機械加工速度を有意に増大させる新規の放電加工電極ワイヤー構造をデザインすることである。
【0031】
本発明の目的は、この種の電極ワイヤーの製造方法及び機械加工速度を増大させる機械加工方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
上述及びその他の目的を達成するため、本発明は、コアが合金化されていない銅で製造されている場合、拡散真鍮表面層の相対的な厚みを増大させることが、機械加工速度の有意な増大をもたらすという驚くべき観察に由来する。従って、本発明は、拡散亜鉛合金のコーティング層でコートされた金属コアを有する放電加工機械加工電極ワイヤーを提供し:
このコアは、合金化されてない銅製であり;
このコーティング層は、拡散銅亜鉛合金製であり;
銅亜鉛合金のコーティング層の相対的な厚みは、電極ワイヤーの径の10%より大きい。
【0033】
この種の放電加工電極構造は、特に、その発電機がより大きな電力を供給するところの放電加工機での使用に良好に適しており、より厚い表面層の存在の有益性を得られるようにする。
【0034】
例えば、20μm以上の厚みEのコーティング層を有する、0.2mmの径Dの電極ワイヤーにおいて良好な結果が得られ;0.25mmに等しい径Dの電極ワイヤーに関して、コーティング層の厚みEは、有利には、25μm以上であってもよく;0.30mmに等しい径Dの電極ワイヤーに関して、コーティング層の厚みEは、有利には、30μm以上であってもよく;0.33mmに等しい径Dの電極ワイヤーに関して、コーティング層の厚みEは、有利には、33μm以上であってもよく;0.35mmに等しい径Dの電極ワイヤーに関して、コーティング層の厚みEは、有利には、35μm以上であってもよい。全ての場合において、同じ径を有する真鍮又は亜鉛メッキ真鍮ワイヤーに比較して、約30%の放電加工速度の増大が観察される。
【0035】
コアを構成する銅は、非合金化銅であって、その純度は、仏国規格NF A51050にて規定される。本発明によると、この銅は、以下の推奨された銅のファミリーから好ましく選択されたものであって、仏国規格NF A51050で使用される参照記号により指定されており、対応するISO参照記号を括弧内に示す:Cu−al(Cu−ETP);Cu−a2(Cu−FRHC);Cu−C1(Cu−OF);Cu−c2(Cu−OFE)。
【0036】
実用上、この非合金化銅は、その導電性に応じて選択されてもよい。推奨される非合金化銅は、約100%IACSの導電率、つまり、20℃において、58Mシーメンス/mの導電性を有している。20℃において、線引き(wire drawing)の結果として加工硬化された非合金化銅コアの導電性は、99%IACSのオーダーである。
【0037】
線引きの結果として加工硬化された非合金化銅コアの高い導電性は、放電加工中、電極ワイヤーの過熱を防止し、その結果、銅マイクロ合金とは異なり、電極ワイヤーが破断するのを防止する。
【0038】
本発明の第2の態様は、放電加工性能に対する電極ワイヤーの全体的な導電性の影響を明らかにしており、電気的エネルギーがさらに強力な発電機により供給されるという想定の下で、機械加工速度を増大させるためにこの影響を利用している。
【0039】
この電極ワイヤーの全体的な導電率は、ワイヤーの断面における、コア及びコーティング層の個々の面積により乗算される、コア及びコーティング層の導電率の合計である。本発明による電極ワイヤーは、少なくとも60%IACSの導電率(アニールされた純粋銅の標準化された導電性の60%)を有している。このことに失敗すると、放電加工速度が徐々に減少することが観察される。
【0040】
より正確には、電極ワイヤーの全体的な導電率は、有利的には、65%〜75%IACSの範囲であってもよいことが観測されている。
【0041】
65%IACSより低いと、電極ワイヤーが不十分な導電性を有するため、最適な放電加工切断性能が達成されない。このワイヤーは、スパーキング領域における加熱の結果としてより容易に破断する。このことは、極度のジュール効果により、且つ、低い熱伝導に関連した減少された冷却性により生じる。
【0042】
必要とされる電極ワイヤーのタイプは、75%IACS以上のものでは得られない。なぜなら、その電極ワイヤーは、拡散層の厚みを、電極ワイヤーの径の10%以下に減少させる必要があるためである。このことに失敗すると、ワイヤーは、強固且つ脆弱となりすぎ、製作中、引き抜かれないようにしなければならない。
【0043】
電極ワイヤーに関して推奨される全体的な導電率は、69%IACSのオーダーであって、0.33mmの電極ワイヤーに関する約35μm厚の拡散層に対応しており、これは、約11%の相対的な厚みである。この場合、温度に対する電極ワイヤーの全体的な抵抗の変動係数βは、0.0034°K−1である。ワイヤーの抵抗R(T)は、関連する温度Tにおけるワイヤーの抵抗をR(T)とし、参照温度Tにおける抵抗をRとした際、R(T)/R=1+β(T−T)で示される法則に従って、温度による影響を受けることを忘れてはならない。
【0044】
11%の相対的な厚みの値、及び69%IACSの全体的な導電率は、約0.2mm〜約0.35mm径のワイヤーの範囲で良好な結果をもたらす。
【0045】
オペレーターは、電気ワイヤーの製造中、上述の導電率の値を得るべく、二つのパラメーターを利用可能である。:初期的に堆積される亜鉛層の厚み、並びに、亜鉛及び銅の拡散をもたらす熱処理の程度である。オペレーターは、これら二つのパラメーターの適切な選択に関して問題を有さないであろう。
【0046】
上述の考慮及び全体的な導電率の値は、非合金化銅のコア上に、径の10%以上の厚みを有する亜鉛銅合金の表面層を有する電極ワイヤーの製造に首尾よく適用される。
【0047】
また、それらは、例えば、非合金化銅コア又は他の金属若しくは合金のコア上に、より薄い表面層、その他の金属若しくは合金の表面層、複数の表面層群を有する、異なる構造の電極ワイヤーの製造にも有利的に適用され得る。
【0048】
本発明によるワイヤーの有利で予想外の特性は、実験により確認されてきた。Charmilles Robofil 2020のマシンは、全て同じ径(0.25mm)を有する以下のワイヤー群を用いた、Z 160 CDV12スチール製の50mm高の部品の比較的な機械加工のために用いられた:
【0049】
【表2】

各ワイヤーに関する放電加工速度及び機械的な引張強度は、機械加工領域への水の注入圧力を徐々に減少させることにより、次第により困難となる条件において、機械加工を行うことによって、同時に試験された。
【0050】
より薄い非合金化銅表面層を有するワイヤー1は、最大水注入圧にて145mm/分の機械加工速度をもたらし、この水注入圧力が約3.2バールを下回ったときに破断した。
【0051】
11%の厚みの非合金化銅表面層を有する、本発明によるワイヤー2は、168mm/分より大きな機械加工速度をもたらし、水注入圧力が約4バールを下回ったときに破断した。
【0052】
16%厚みの非合金化銅表面層を有するワイヤー3は、171mm/分というより高い機械加工速度をもたらしたが、水注入圧が約8バールを下回るとすぐに破断した。この種の16%の表面層は、これを超えないことが好ましい上限を構築するものとみなされてもよい。
【0053】
合金化銅コアを有するワイヤー4及び5は、それぞれ、165mm/分、161mm/分という機械加工速度をもたらしたが、水注入圧が約5バールを下回るとすぐに破断した。
【0054】
上述の試験は、本発明によるワイヤーの利点及び予期していなかった特性を示している:明らかではないが、通常高温にて良好である、合金化銅コアを有するワイヤーは、望ましくない冷却条件下で機械加工が行われた場合、非合金化銅コアを有するワイヤーよりもより脆弱であった。
【0055】
上述に規定した電極ワイヤーの製作は、以下のステップを有していてもよい:
a.製造されるワイヤーの径よりも大きな径の非合金化銅コアワイヤーを設け;
b.適当な厚みまで、純粋な亜鉛でこのコアワイヤーを覆い;
c.コーティング層を形成するように、このコートされたコアワイヤーを拡散熱処理し;
d.この電極ワイヤーが最終径となるよう引抜き、このコーティング層が、その電極ワイヤーの最終径の10%よりも大きくなるようにする。
【0056】
ステップb中、亜鉛は、好適には、この銅コアワイヤー上に電解的に堆積される。
【0057】
拡散ステップ(c)の後、或いは、引抜きステップ(d)の後、電極ワイヤーは、薄接触表面層でさらに覆われてもよく、その材料は、例えば、亜鉛、銅、ニッケル、銀又は金である。このことは、特に、電解析出にて達成されてもよい。
【発明の効果】
【0058】
本発明によると、上述の電極ワイヤーは、有利的には、部品を放電加工するために用いられ得る。この場合、スパーキング電気的エネルギーの生成に発電機を用いる機械において、この発電機は、電極ワイヤーを破断することなくその電極ワイヤーの機械加工能力に適合する最大スパーキングエネルギーを産生するように設定され、これにより機械加工速度を増大させる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】ワイヤーを用いた放電加工機に関する概略的な正面図である。
【図2】図1の機械における放電加工工程を示した平面図である。
【図3】図1及び図2の機械加工された部品に関する平面図である。
【図4】本発明の電極ワイヤーの一つの実施例の拡大スケールに対する概略斜視図である。
【図5】本発明の電極ワイヤーの好適実施例に関する断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本発明のその他の目的、特徴及び利点は、添付した図面に関連して与えられる、本発明の特定の実施例に関する以下の記述から明らかになるであろう:
(好適実施例に関する記述)
最初に図1乃至3を参照すると、電極ワイヤーを用いた放電加工機が示されている。図1に示した放電加工機は、本質的に、水などの誘電体を含有するマシーニングエンクロージャー1、滑車2及び3並びに電極ワイヤー4を保持し且つマシーニングエンクロージャー1内部のスパーキング領域5において電極ワイヤー4を伸張するワイヤーガイド20及び30などの手段、部品支持体6、並びに、スパーキング領域5における電極ワイヤー4に対して部品支持体6を移動させる手段7を備えている。部品支持体6により保持されている機械加工される部品8は、スパーキング領域5に置かれている。ワイヤーガイド20、30は、機械加工される部品8の両側に存在し、正確に電極ワイヤー4をガイドする。そのため、それらは、機械加工される部品8に近接して配置され、それらの径は、電極ワイヤー4の径よりも若干大きいのみであって、例えば、250μmの径の電極ワイヤー4に関しては、254μmの径である。電極ワイヤー4は、スパーキング領域5において、矢印9により示されたように、長手方向に移動され、機械加工される部品8に面する。電動機10は、一方で、ライン18により電極ワイヤー4に電気的に接続され、滑車2とワイヤーガイド20との間の、エンクロージャー1内の誘電体に電極ワイヤー4が入るときに電極ワイヤー4に触れるコンタクト18aに電気的に接続され、また、他方で、ライン19により、機械加工される部品8に接続され、機械加工される部品8と電極ワイヤー4との間に投射される電気アークを生じさせるのに適した電気的エネルギーをスパーキング領域5において発生させる。
【0061】
この機械は、機械加工のステップに応じて、電気的エネルギー、電極ワイヤー4の移動速度、及び機械加工される部品8の移動を適応させるためのコントロール手段を備えている。
【0062】
図2で示したように、機械加工される部品を、矢印11に示した横断方向へ移動させることにより、放電加工工程は、電極ワイヤー4を、導電体である機械加工される部品の塊に徐々に入り込ませて、スロット12を生じさせる。その後、機械加工される部品8を矢印13の方向へ移動させることにより、垂直方向への切断が行われ、最終的に図3に示した、第1機械加工ファセット14及び第2機械加工ファセット15を有する部品を生成する。
【0063】
明らかに、発電機10の手段により高い電気エネルギーを生成することは、迅速なスパーキングを可能とし、それにより、迅速な機械加工のための、電極ワイヤー4に対する、機械加工される部品のより速い移動を可能とする。事実、部品の移動は、過剰とならないよう、スパークにより生成されるエロージョンの後を追わなければならない。過剰に低いスピードは、機械加工速度を低下させる。過剰に高いスピードは、ワイヤーと部品との接触を生じさせ、その結果として生じる短絡回路は、この機械を停止させる。
【0064】
しかしながら、その電気エネルギーは、機械加工領域において、ワイヤーを加熱し、このエネルギーを増加することは、同時に、ワイヤーの破断のリスクを増大させることとなる。従って、電極ワイヤーの一定の構造に関して、最大機械加工速度は、電極ワイヤーの破断を生じさせるであろうエネルギーよりも若干低い電気エネルギーにて得られる。
【0065】
ここで、再び、本発明のアイディアを導く試験について検討する。
【0066】
放電加工試験は、切断設定E3を用いたCharmilles Robofil 2020の機械において50mm高のスチール部品において行われた。
【0067】
第1比較試験は、一方で、37%亜鉛を含有する真鍮電極ワイヤーにおいて行われ、他方では、拡散熱処理により得られたα及びβフェーズの銅亜鉛合金の8μm厚の層で覆われた、37%亜鉛を含有する真鍮コアを有する電極ワイヤーにおいて行われた。この二つの電極ワイヤーは、0.25mmという同じ最終径を有していた。この真鍮電極ワイヤーは、98という相対的な機械加工速度を達成し、一方で、拡散亜鉛銅合金で覆われた真鍮コアを有する電極ワイヤーは、67という相対的な機械加工速度を達成した。
【0068】
第2比較試験は、一方で、α及びβフェーズの拡散亜鉛銅合金の20μm厚のコーティング層を有する銅亜鉛合金のコアの電極ワイヤーを用い、他方では、拡散亜鉛銅合金の14μm厚の層でコートされた非合金化銅コアを有する電極ワイヤーを用いて行われた。これら二つの電極ワイヤーは、それぞれ、109及び125という相対的な機械加工速度を達成した。このことは、非合金化銅コアに関する利点を示しており、非合金化銅コアは、コーティング層がより薄い場合でさえ、真鍮コアよりもより速く機械加工する。
【0069】
第3試験は、非合金化銅コアを有する、0.25mm径の三つの電極ワイヤーであって、それぞれ、11μm、14μm及び28μm厚の拡散亜鉛銅合金のコーティング層を有する電極ワイヤーを用いた。得られた相対的な機械加工速度は、それぞれ、115、125及び133であった。同じスパーキングパワーに関して、より厚い拡散層は、非合金化銅コアを有する電極ワイヤーの場合、切断性が加速することが分かった。
【0070】
本発明は、これらの結果を利用して、図4において拡大して示したような特定の電極ワイヤーを用いることにより、より高い機械加工速度を達成する。本発明による電極ワイヤーは、電極ワイヤーの径Dの10%よりも大きい厚みEを有する拡散亜鉛銅合金の層17でコートされた非合金化銅コア16を備えている。
【0071】
コーティング層の厚みEを有意に増大させることは有益である可能性がある。しかしながら、電極ワイヤーの所望の最終的な寸法を得るための引抜き中のこの金属の相対的な変形許容性における限界が存在する:コーティング層の厚みが大き過ぎると、引抜き中のワイヤー破断のリスクをもたらし、電極ワイヤーの製造及び使用特性に影響を与える。コーティング層の相対的な厚みが、最終的な径Dの約16%よりも小さい場合、依然として引抜きは簡単に行える。同時に、コーティング層の厚みEが大き過ぎると、不十分な導電性に起因して、ワイヤーの脆弱性をもたらす。
【0072】
コアとコーティング層とのインターフェースは、ワイヤー引抜き工程により全体的に変形され、必然的にその滑らかな特性を消失させ、若干不規則なものとなる。この不規則性は、放電加工工程に関して問題ではない。
【0073】
接触表面層21は、電極ワイヤー4とコンタクト18aとの間の導電性を向上させ、且つスパーキングをより安定的にするため、電極ワイヤーに有利に加えられてもよく、例えば、亜鉛、銅、ニッケル、銀又は金である。
【0074】
銅の厚い層は、放電加工速度を有意に低下させる。この問題を阻止すべく、この銅層は、極度に薄くすべきであり、例えば、0.5μm厚未満とする。
【0075】
ニッケル層は、1μmのオーダーの厚みにおいて、連続的とするには脆弱過ぎる。
【0076】
約1μmの亜鉛層は、有用である。不連続であっても、この層は、電気的接触及びスパーキングの安定性を予期せず向上させる。
【0077】
電極ワイヤーの表面は、製造工程のステップでもたらされる、酸化薄層で覆われていてもよい。この層を消失させることは必要ではないが、可能である。この層は、均一でもあっても不均一であってもよい。
【0078】
電極ワイヤーの表面は、ヒビが機械加工速度を低下させることがなければ、ヒビ割れていてもよい。
【0079】
本発明に従って得られた電極ワイヤーは、一般的に、黄−茶色である。
【0080】
電極ワイヤーの表面は、比較的清潔でなければならず、ワイヤー引抜き潤滑剤やその他のソイリング(soiling)の跡がほとんどないようにしなければならない。
【0081】
上述に規定した電極ワイヤーに関して、コーティング層がα及びβ及び/又はβ’フェーズの不均一な混合を持つ銅亜鉛合金である場合、向上された放電加工特性が得られる。重量当たりの亜鉛の含量は、35%〜57%であって、好ましくは、35%〜50%である。基準を満たした試験した電極ワイヤーは、45.7%、41.5%、35.4%の亜鉛含量であって、酸素含量は、亜鉛若しくは銅の酸化物の形で0.5%であった。表面層に存在するフェーズは、銅亜鉛ダイアグラムにおけるα、β及びβ’フェーズであった。
【0082】
図5は、本発明のワイヤーに関する好適実施例における表面層の構造に関する断面を概略的に示している。この構造は、表面層の一部がコアから外部表面のところまでフェーズβ又はβ’として結晶化され、一方で、その他の領域が、一のフェーズが他のフェーズの基盤内にあるという混合物で構成されているという意味で、不均一である。
【0083】
従って、この図では、非合金化銅コア16と、ワイヤー4の直径の10%より大きい厚みを有する銅亜鉛合金のコーティング17とが存在することが見て取れる。領域17aは、大きなβフェーズ結晶であって、数μmから10μm以上のサイズTを有していてもよい。領域17bは、フェーズα及びβの混合された領域であって、例えば、この図面の右上隅のボックスに拡大図で示されるように、フェーズβの微小領域であって、例えば、1μmから数μmのものが、αフェーズの基盤内に分布している。逆に、領域17cでは、αフェーズの微小領域が、βフェーズの基盤内に分布しているのが分かる。領域17dは、βフェーズの表面層とαフェーズ及びβフェーズの底部混合層との組み合わせである。
【0084】
この種の不均一な構造は、コーティング層の製造の間における、熱拡散条件(急速な加熱及び適切な拡散時間)の適切な選択によって得られる。
【0085】
所望のフェーズの混合物を取得するのに必要な長さの加熱が継続される。
【0086】
この構造の利点は、特に、推測的に望ましくないとされるβフェーズの存在にもかかわらず、亜鉛含量を増加させそれによって放電加工速度を増大させることが可能であるという結果を用いて、ワイヤーの引き抜きを促進することを含む。
【0087】
本発明の電極ワイヤーは、以下のステップを有する方法により製造されてもよい:
a.製造されるワイヤーの径Dよりも大きな径D1の非合金化銅コアワイヤーを設け;
b.最終的な厚みを後で作れるように、適当な厚みまで、純粋な亜鉛でこのコアワイヤーを覆い;
c.コーティング層17を形成するように、このコートされたコアワイヤーを拡散処理し;
d.この電極ワイヤーが最終径Dとなるように引抜き、このコーティング層17が、この電極ワイヤーの最終径Dの10%よりも大きい厚みEを有するようにする。
【0088】
本発明は、明示的に記述した実施例に限定されるものではなく、請求項の範囲内に含まれるこれらの変形及び一般化を包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡散亜鉛合金のコーティング層でコートされた金属コアを有する放電加工電極ワイヤーであって:
前記コアは、非合金化銅であり、
前記コーティング層は、拡散銅亜鉛合金であり、
前記銅亜鉛合金の前記コーティング層の厚みは、当該電極ワイヤーの径の10%よりも大きく、
当該電極ワイヤーの全体的な導電率は、65%IACSから75%IACSまでである、
ことを特徴とする電極ワイヤー。
【請求項2】
前記コーティング層の前記厚みは、当該電極ワイヤーの前記径の16%以下であることを特徴とする請求項1に記載の電極ワイヤー。
【請求項3】
当該電極ワイヤーの全体的な導電率は、69%IACSであることを特徴とする請求項1に記載の電極ワイヤー。
【請求項4】
前記コアを構成している非合金化銅は、Cu−al(Cu−ETP);Cu−a2(Cu−FRHC);Cu−C1(Cu−OF);Cu−c2(Cu−OFE)なる推奨される銅のファミリーから選択されている(仏国標準規格NF A51050で用いられる参照であり、括弧内は、対応するISOの参照である。)ことを特徴とする請求項1に記載の電極ワイヤー。
【請求項5】
0.20mmの電極ワイヤーの径に関して、前記コーティング層の厚みは、20μm以上であり、
0.25mmの電極ワイヤーの径に関して、前記コーティング層の厚みは、25μm以上であり、
0.30mmの電極ワイヤーの径に関して、前記コーティング層の厚みは、30μm以上であり、
0.33mmの電極ワイヤーの径に関して、前記コーティング層の厚みは、33μm以上であり、
0.35mmの電極ワイヤーの径に関して、前記コーティング層の厚みは、35μm以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の電極ワイヤー。
【請求項6】
前記コーティング層は、α並びにβ及び/又はβ’フェーズの混合物である銅亜鉛合金であり、該亜鉛含量は、重量当たり35以上57%以下であることを特徴とする請求項1に記載の電極ワイヤー。
【請求項7】
前記コーティング層は、α並びにβ及び/又はβ’フェーズの不均一な混合物であることを特徴とする請求項6に記載の電極ワイヤー。
【請求項8】
前記コーティング層は、亜鉛、銅、ニッケル、銀又は金の薄接触表面層にてコートされていることを特徴とする請求項1に記載の電極ワイヤー。
【請求項9】
請求項1に記載の放電加工電極ワイヤーの製造方法であって:
a.製造される前記電極ワイヤーの径よりも大きな径の非合金化銅コアワイヤーを設け;
b.適当な厚みに、純粋な亜鉛で前記コアワイヤーをコートし;
c.コーティング層を形成するように、前記のコートされたコアワイヤーを拡散熱処理し;且つ
d.前記のコートされたコアワイヤーを最終径へと引抜く;
ステップを有し、前記コーティング層は、前記電極ワイヤーの最終径の10%よりも大きい厚みを有していることを特徴とする方法。
【請求項10】
前記ステップ(b)において、前記亜鉛は、電解的に、前記銅コアワイヤー上に堆積されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記の拡散熱処理は、α並びにβ及び/又はβ’フェーズの不均一な混合物を得るように、適切な時間の急速加熱により実行されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記電極ワイヤーは、前記拡散ステップ(c)又は前記引抜きステップ(d)の後に、亜鉛、銅、ニッケル、銀又は金の薄接触表面層で覆われることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項13】
スパーキング電気エネルギーを発生するように発電機を使用する機械で、放電加工により部品を機械加工する、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の電極ワイヤーの使用であって:前記発電機は、前記電極ワイヤーを破断することなく、前記電極ワイヤーの機械加工能力に適合する最大スパーキングエネルギーを生成するように設定され、これにより、機械加工速度を増大させることを特徴とする、使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−99832(P2010−99832A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285170(P2009−285170)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【分割の表示】特願2003−554372(P2003−554372)の分割
【原出願日】平成14年12月20日(2002.12.20)
【出願人】(599061589)
【氏名又は名称原語表記】THERMOCOMPACT
【Fターム(参考)】