説明

高齢者安否確認システム

【課題】 居住者のプライバシーを犯すことなく生活状況から健康状態を推定し、自動的に看護者へ通報し得る安価な高齢者安否確認システムの提供。
【解決手段】 家屋の各部屋に取り付けられ居住者の動きを検出するヒトセンサー1と、家屋の各種設備に付設された機器センサー5と、該ヒトセンサー1及び機器センサー5の出力をデータとして取り込み、そのデータから居住者の健康状況を推定し遠隔看護者へのレポートを作成する制御装置2と、該制御装置2が作成したレポートを電話回線3に出力するモデム部4を具備する高齢者安否確認システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者等を遠隔地より看護し得る安否確認システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高年齢化と核家族化が進むにつれて一人暮らしの老人が年々増加しつつあり、その弊害として、具合が悪くなったり、怪我を負ったりしても、一人で医者へ出向くことができず、時には電話を掛けることもままならない場合もある為に、放置して状態を悪化させたり、中には死亡後何日も放置されるといった例も少なくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
今日、その様な場合に備えたセキュリティーシステムも存在するが、ビデオカメラで逐次監視される様な印象を与える他、比較的大掛かりである為にその価格は数百万円とも言われ、一般の人々が容易に設置できるものではなく実用性に乏しいものであった。
【0004】
本発明は、上記実情に鑑みて成されたものであって、居住者のプライバシーを犯すことなく生活状況から健康状態を推定し、自動的に看護者へ通報し得る安価な高齢者安否確認システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために成された本発明による高齢者安否確認システムは、家屋の各部屋に取り付けられ居住者の動きを検出するヒトセンサーと、該ヒトセンサーの出力を取り込みその出力から居住者の健康状況を推定し遠隔看護者への送信するレポートを作成する制御装置と、該制御装置が作成したレポートを電話回線に出力するモデム部を具備することを特徴とする。上記構成に加えて、家屋の各種設備の動作状況を検知する機器センサーを付設し、その出力によるデータを制御に用いる場合もある。
【0006】
前記制御装置の構成要素として、前記ヒトセンサー及び機器センサーの出力によるデータから居住者の通常の生活パターンの目安たる動作マニュアルを構築・修正するパターン形成部と、該動作マニュアルと一定期間における実際の生活パターンとを比較しその結果に基いてレポートを作成する判定部を具備することが望ましく、居住者のプライバシーを保護するには、前記ヒトセンサーとして焦電センサーを用いたり、前記ヒトセンサー及び機器センサーと制御装置の間に秘話措置を施した通信方式のワイヤレスモデムを介在したりすることが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明による高齢者安否確認システムは、焦電センサー等を利用して極めて安価に構築することができるにも関わらず、居住者に不快感を持たせること無く正確に安否を確認することができる。又、機器センサーを付加しその動作を監視することによって、普段の生活に密接に関わった形での安否確認が可能となりその正確さを高めることができる。更にヒトセンサーとして焦電センサーを選択することによって、居住者の移動、静止を適格に、且つ居住者の生活状況をこと細かく覗き見ることなく安否を確認できる。その上、前記ヒトセンサー及び機器センサーと制御装置の間に秘話措置を施した通信方式のワイヤレスモデムを介在したことにより、万が一外部で無線信号が受信されたとしても居住者の生活を覗き見られるおそれがない。この様に、本システムは、被看護者の気持ちを重視した上で確実な安否確認を可能とした最も好ましい形態のシステムの一つであり、その価格の安さとも相俟って極めて高い実用効果を上げることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明による高齢者安否確認システムの実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、一般的な家屋に用いる場合のハードウエア構成の一例を示したものである。このシステムは、居住者の動きを検出するヒトセンサー1と、家屋の各種設備に付設された機器センサー5と、該ヒトセンサー1及び機器センサー5の出力をデータとして取り込みそのデータから居住者の健康状況を推定し遠隔看護者へのレポートを作成する制御装置2と、該制御装置2が作成したレポートを電話回線3に出力するモデム部4より構成される。
【0009】
このシステムは、家屋の各部屋に、居住者の動きを検出するヒトセンサー1として焦電センサーを設置し、家屋の各種設備には機器センサー5として、扉には磁気を利用して扉の開閉を検出する近接スイッチ、照明には所謂光センサー、こたつやテレビ等の電気機器には磁界を検出する電流センサーを付設する。前記焦電センサーは、各部屋のほぼ全域を検出エリアとし、且つ太陽光や白熱灯或いはペットの存在など外乱を排除すべく人体(体温37℃)から放射される赤外線エネルギーが最大となる波長を応答波長とするものを選択することが好ましい。
【0010】
各ヒトセンサー1の主な機能は、居住者の移動と存在状況を常に把握するための在室検知機能と、外からの侵入者に対する警報機能である。そもそも、ヒトセンサー1たる焦電センサーは、検出エリア内の温度変化を検知して所定時間パルス状の電荷を発生し、その検出エリアのどこかで温度変化が存在する限りその都度パルスを出力する。この温度変化が即ち居住者の動作を示すものであって、居住者が一定時間静止するとその時間内における相対的な温度変化が検出できなくなってパルスの発生を停止する。該焦電センサーの使用に当たっては、人体から出る赤外線を断続的にセンサーへ入力すべく、部屋の形状や廊下の長さ等に応じて面分割の態様が異なるフレネルレンズ等を用いることが効果的であり、そうすることによりSN比を改善することができる。
【0011】
上記焦電センサーそれぞれの検出エリアが屋内の各部屋及び廊下に隙間なく設定されると、例えば図2に示す間取りの場合には、図3の如くセンサー出力のパルス幅によって相隣接する部屋のヒトセンサー1について出力の重複部分が生じる。この重複部分の存在によって相隣接する部屋或いは廊下間における移動の経過を正確に認識できることとなり、この重複部分が発生せずいきなり他の部屋で人物の存在を検出した際には、他人の侵入或いはシステム異常を疑うこととなり、遠隔看護者等へ警報を発する一つの条件となる。
【0012】
前記各センサー1,5の出力は、各部屋毎に設置された情報収集ターミナル9に送られ、該情報収集ターミナル9は、送られてきた情報を内蔵する(図10参照)RS232Cインターフェース10及びワイヤレスモデム8を介して制御装置2へ送信する。該ワイヤレスモデム8は、制御装置2に付設される親機と、各部屋の情報収集ターミナル9に内蔵される子機が存在し、各子機には、親機がそれぞれの子機を特定できるように異なるIDが設定されている。また、このワイヤレスモデム8は、居住者のプライバシーを保護すべく、データの各ビットを疑似ノイズ化する(複数チップのコードでさらに拡散変調する)スペクトラム拡散通信方式が採られている。
【0013】
前記制御装置2は、図9の如くパターン形成部6と判定部7を具備し、常に起動されている。前記パターン形成部6は、定期的に前記センサー1,5からの情報を取得し、その情報をデータとしてファイルに記録すると共に、前記ヒトセンサー1及び機器センサー5の出力によるデータから居住者の通常の生活パターンの目安たる動作マニュアルを構築する。又、前記判定部7は、該動作マニュアルと、時間、日、月又は年単位の一定期間における実際の生活パターンとを比較しその結果に基いて近親者或いは民生委員等の遠隔看護者へ送信する為のレポートを作成する。
【0014】
各センサー1,5からのデータを取得する手段として、例えば、いずれかのセンサーのステータスが変化する度に、センサーの名称、設置されている場所、日時及びセンサーのステータス(on/off)を取得する手段が挙げられる。取得したデータはテーブル化して蓄積し、蓄積したデータ群及び新規に入力したデータから所定の判断アルゴリズムにより前記動作マニュアルを構築する。例えば、各部屋毎に各スイッチの一日当たりのon時間をカウントして蓄積した過去のデータの平均値及び日常的に生じるon時間の偏差が動作マニュアルであり、該平均値と当日のon時間との差が前記偏差以上であれば異常と判断するといった処理が判定部の動作である。また、前記機器センサー5のうち、テレビ、照明、玄関の扉、施錠を検出するセンサーのいずれかが一日中何の情報も送出しなければ、何等かの異常があると判断する。これは、前記センサーは、一日のうちに必ず何等かの情報を送出するという実績を動作マニュアルとしたものである。その他、緊急事態に値する状況において制御装置2で構築される文を幾つか列挙すると、「浴室に長時間いらっしゃるようです。」、「トイレに長時間いらっしゃるようです。」等が挙げられる。
【0015】
この様な動作マニュアルは、居住者の健康状態にも日常の積み重ねによって何等かの変化があるという立場をとれば、日々データの蓄積による学習によって修正されるべきものである。該動作マニュアルの構築・修正を行う判断アルゴリズムとして、ニューラルネットワーク等を応用した場合には、学習を重ねることによって正常な領域及び異常な領域がより正確に構築・修正されていくと共に、人間の思考と同様に正常とも異常とも判断できない所謂グレーゾーンが生じる。因みに、このシステムにおいてグレーゾーンを検出した場合には、「状況が把握できません。」等のレポートを出力し、遠隔看護者の判断に委ねることとなる。
【0016】
前記判定部7により判断された事項は、音声又は文書より成るレポートとして構築される。音声によるレポートは、図6の如く、居住者の状態を表現するものとして考え得る全ての文節の音声を音源ボード11を介してPCM(pulse−code−modulation)データに変換し、ディジタルデータとして制御装置2の記憶媒体に保存しておき、前記判定部7の判断に応じて適当な文節のPCMデータを引き出し、且つそれらを並び変えて、例えばその日一日のデータから判断できる居住者の状態を要約した「いつもと変わり在りません。」或いは「いつもと違った様子が在ります。」などの文を構築し、更に、その日に特別な行動があれば、「〇〇時から××時まで外出されたようです。」或いは「本日は一日中冷蔵庫を開閉されていません。」等の文を構築しモデム部4を介して変調し電話回線3へ送出される。
【0017】
一方、書面によるレポートは、居住者の状態を表現するものとして考え得る全ての文節を、テキストデータとして制御装置2の記憶媒体に保存しておき、前記判定部7の判断に応じて適当な文節のテキストデータを引き出し、且つそれらを並び変えて、例えばその日一日のデータから判断できる居住者の状態を要約した文として構築し、図4を例とする所定の様式にて表示したものである。又、書面による場合は、図5の如く蓄積したデータを一覧テーブル形式で出力することもでき、必要に応じてディスプレイ画面に出力することもできる。尚、前記制御装置2にテキストデータを音声化するツールを備えておけば、音声によるレポートを構築するに当たっても前記テキストデータを利用することができるので、特別にPCMデータ等を保存しておく必要はない。
【0018】
前記モデム部4は、所定の端末機器により制御装置2から受け取ったディジタルデータをスピーカーによって音声に再生し、該音声を受話器で拾って電話回線3へ送出する一方、受話器から流れてくる音声或いはDTMF(Dual Tone Multiple Frequency)信号をマイクで拾い、且つこれをディジタルデータに変換して制御装置2の制御に利用し得る音響カプラ方式を採っても良いし、制御装置2からモデムへ直接PCMデータ或いはテキストデータを入力し、該モデムで電話回線3に送り出せるアナログの電気信号に変調する一方、該電話回線3を介して受け取った信号を、ディジタルデータに復調し制御装置2へ直接入力するといったものであっても良い。
【0019】
又、該制御装置2が作成したレポートの外部への送出は、日々決まった時間に自動的に行っても良いし、懸念すべきデータが存在するときに自動的に送出するようにしても良く、それらの他に遠隔看護者から適宜データを要求すればより抜け目なく安否を確認することができる。
【0020】
本実施の形態は以上の如く構成され、各ヒトセンサー1のon/offから居住者の移動状況を追うと共に、それに加えて機器センサー5のon/offから居住者の作業状況を追うことで、日常の生活パターンと日頃の運動能力を把握し、そして日々居住者が通常どおりの生活をしているか否かを判断し、更には、通常どおり運動能力を維持しているが否かを推測することができる。しかもこのシステムは、ヒトセンサー1として焦電センサーを用いることで映像を入力することなく居住者の動きを検知することができるので、常に他人に覗かれているという不快感が少なからず取り除かれ、逆に常に誰かが看ていてくれているという心強さを与えることができる。
【0021】
しかしながら、中には高齢者が複数で居住していることも考えられるので、CCDカメラ12や赤外線カメラの使用を余儀無くされる場合があり、その際には、居住者の存在を認識し得る必要最小限度の解像度を有するカメラを用いて、例えば図7のような画像処理部を制御装置2に付設する場合もある。図8の如く現状の画像信号を入力し(赤外線カメラの場合は更に特定の色を抽出)、予め居住者の面積の上限と下限を予め設定した上で、該画像信号を2値データ化し、該画像から人物らしき物を抽出してその面積を算出し、前記設定値と比較することによって居住者を特定する。その際、居住者の面積として設定されている値と大幅に異なる面積が得られた場合には、他人の侵入或いはシステム異常を疑うこととなり、遠隔看護者等へ警報を発する一つの条件となる。
【0022】
次に、重心(図心)の座標を測定し、先に取得し保存してある過去の状況画像の重心と比較して居住者の動作の有無を判定すると共に、現状の画像を保存画像として更新する。隣接する部屋或いは廊下間における移動の経過を認識する処理は、前記焦電センサーを使用した場合と同様であり、前記保存画像と離隔した位置でいきなり人物の存在を検出した際において、他人の侵入或いはシステム異常を疑うこととなる点も先の焦電センサーによる場合と同様である。
【0023】
しかしながら、カメラで画像を取得することにより、居住者のプライバシーを損なう点も多々あるので、居住者の識別が困難な程度の解像度しか持っていないカメラを選択して、ヒトセンサー1の補助的存在として付設利用することによって居住者のプライバシーを最大限に保護することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による高齢者安否確認システムの一例を示すブロック図である。
【図2】高齢者が居住する家屋の一例を示す間取り図である。
【図3】図2の間取りにおいて居住者が移動した際のヒトセンサーの動作の一例を示すタイミングチャートである。
【図4】遠隔看護者へ送信される書面レポートの一例を示すレイアウト図である。
【図5】機器センサーの動作により作成される一覧テーブルの一例を示すレイアウト図である。
【図6】制御装置における音声の入出力体系の一例を示すブロック図である。
【図7】画像処理部の一例を示すブロック図である。
【図8】画像処理の一例を示すフローチャートである。
【図9】制御装置の一例を示すブロック図である。
【図10】情報収集ターミナルの一例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0025】
1 ヒトセンサー
2 制御装置
3 電話回線
4 モデム部
5 機器センサー
6 パターン形成部
7 判定部
8 ワイヤレスモデム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家屋の各部屋に取り付けられ居住者の動きを検出するヒトセンサー(1)と、該ヒトセンサー(1)の出力を取り込みその出力から居住者の健康状況を推定し遠隔看護者へ送信するレポートを作成する制御装置(2)と、該制御装置(2)が作成したレポートを電話回線(3)に出力するモデム部(4)を具備し、
前記制御装置(2)に、前記ヒトセンサー(1)の出力によるデータから居住者の通常の生活パターンの目安たる動作マニュアルを構築・修正するパターン形成部(6)と、該動作マニュアルと一定期間における実際の生活パターンとを比較しその結果に基づいてレポートを作成する判定部(7)を具備し、
前記パターン形成部(6)は、いずれかのセンサーのステータスが変化する度に、センサーの名称、設置されている場所、日時及びセンサーのon/offを取得し、取得したデータはテーブル化して蓄積すると共に、蓄積したデータ群及び新規に入力したデータから前記動作マニュアルを構築し、
前記動作マニュアルは、各部屋毎に設けられた各センサーの一日当たりのon時間をカウントして蓄積した過去のデータの平均値及び日常的に生じるon時間の偏差であり、前記判定部(7)は、前記平均値と当日のon時間との差が前記偏差値以上であれば異常と判断する処理を行うことを特徴とする高齢者安否確認システム。
【請求項2】
家屋の各部屋に取り付けられ居住者の動きを検出するヒトセンサー(1)と、家屋の各種設備に付設された機器センサー(5)と、該ヒトセンサー(1)及び機器センサー(5)の出力をデータとして取り込み、そのデータから居住者の健康状況を推定し遠隔看護者へのレポートを作成する制御装置(2)と、該制御装置(2)が作成したレポートを電話回線(3)に出力するモデム部(4)を具備し、
前記制御装置(2)に、前記ヒトセンサー(1)及び機器センサー(5)の出力によるデータから居住者の通常の生活パターンの目安たる動作マニュアルを構築・修正するパターン形成部(6)と、該動作マニュアルと一定期間における実際の生活パターンとを比較しその結果に基づいてレポートを作成する判定部(7)を具備し、
前記パターン形成部(6)は、いずれかのセンサーのステータスが変化する度に、センサーの名称、設置されている場所、日時及びセンサーのon/offを取得し、取得したデータはテーブル化して蓄積すると共に、蓄積したデータ群及び新規に入力したデータから前記動作マニュアルを構築し、
前記動作マニュアルは、各部屋毎に設けられた各センサーの一日当たりのon時間をカウントして蓄積した過去のデータの平均値及び日常的に生じるon時間の偏差であり、前記判定部(7)は、前記平均値と当日のon時間との差が前記偏差値以上であれば異常と判断する処理を行うことを特徴とする高齢者安否確認システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−18525(P2007−18525A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222409(P2006−222409)
【出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【分割の表示】特願2005−313625(P2005−313625)の分割
【原出願日】平成8年9月12日(1996.9.12)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【出願人】(591020445)立山科学工業株式会社 (71)
【出願人】(591082915)株式会社立山システム研究所 (8)
【Fターム(参考)】