説明

(メタ)アクリル酸エステルおよびその製造方法

【課題】レジスト組成物原料として有用な新規な(メタ)アクリル酸エステルの提供。
【解決手段】下記化学式に代表される新規なシアノ基含有(メタ)アクリル酸エステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料として有用な(メタ)アクリル酸エステル、およびその製造方法に関する。また、本発明は、この(メタ)アクリル酸エステルを使用した重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
シアノ基を有するメタクリル酸エステルを共重合した樹脂は、レジスト材料として用いた場合に、基板密着性、ドライエッチング耐性に優れることが、特許文献1に開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、レジスト材料として有用な(メタ)アクリル酸エステルの製造方法が開示されており、ケトン化合物をアルキル化し、これを単離することなく(メタ)アクリル酸エステル化する方法が知られている。なお、(メタ)アクリル酸エステル化とは、ある化合物を(メタ)アクリル酸エステルに変換することをいう。
【0004】
しかしながら従来の樹脂を用いたレジスト組成物では十分な感度、解像度、ドライエッチング耐性、またはラインエッジラフネスを満足できなかった。
【特許文献1】特開平11−352694号公報
【特許文献2】特開平10−182552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料、特に十分な感度および解像度を備えた上に、ドライエッチング耐性に優れ、また、ラインエッジラフネスの点でも優れるレジスト組成物の樹脂原料として有用な(メタ)アクリル酸エステル、およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、この(メタ)アクリル酸エステルを使用した重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定のシアノ基が結合した環構造を含有する新規な(メタ)アクリル酸エステルが、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料として有用であることを見出し、本発明に至った。また、このシアノ基含有(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明の第1の要旨は、下記式(1−1)〜(1−10)のいずれかで表される(メタ)アクリル酸エステルである。
【化1】

(式(1−1)〜(1−10)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【0007】
本発明の第2の要旨は、請求項1記載の(メタ)アクリル酸エステルを重合してなる重合体である。
【0008】
本発明の第3の要旨は、塩基存在下で下記式(2)で表されるカルボニル化合物とマロンジニトリルとを反応させ、その後(メタ)アクリル酸誘導体を作用させる工程を含む前記式(1−1)で表される(メタ)アクリル酸エステルの製造方法である。
本発明の第4の要旨は、前記の重合体を含むレジスト組成物である。
【化2】

【発明の効果】
【0009】
本発明は、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料、特に十分な感度および解像度を備えた上に、ドライエッチング耐性に優れ、また、ラインエッジラフネスの点でも優れるレジスト組成物の樹脂原料として有用な(メタ)アクリル酸エステル、およびその製造方法を提供することができる。また、本発明は、この(メタ)アクリル酸エステルを使用した重合体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
1.本発明の(メタ)アクリル酸エステル
本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸およびアクリル酸の総称を表す。
また、本発明の(メタ)アクリル酸エステルは、2つ以上の位置異性体、光学異性体を有する場合があるが、いずれかの異性体単独であってもよく、2つ以上の異性体の混合物であってもよい。
2.本発明の製造方法
本発明の(メタ)アクリル酸エステルは、塩基存在下でカルボニル化合物とマロンジニトリルとを反応させ、その後(メタ)アクリル酸誘導体を作用させることによって製造される。例えば、前記式(1−1)のRがメチル基であるメタクリル酸エステルは、前記式(2)で表されるカルボニル化合物を原料として以下のようにして製造される。その他の(メタ)アクリル酸エステルも同様にして製造される。反応スキーム中、Mは塩基由来の金属イオンである。
【化3】

カルボニル化合物とマロンジニトリルとを反応させる条件は、特に限定されないが、一般に塩基性条件下でマロンジニトリルの求核置換反応を行わせる。塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの金属水酸化物、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、メチルリチウム、エチルリチウムなどの有機リチウム化合物、ナトリウムエトキシド、ナトリウムメトキシドなどの金属アルコキシド、水素化ナトリウム、水素化リチウムなどの金属水素化物、メチルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムブロミド、ブチルマグネシウムブロミド、シアノメチルマグネシウムブロミドなどのグリニャール試薬、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。
使用する塩基の量としては、反応収率が高い点から、原料のカルボニル化合物に対して、0.1当量以上が好ましく、0.5当量以上がより好ましく、1当量以上がさらに好ましい。副反応抑制の観点から、10当量以下が好ましく、5当量以下が好ましく、2当量以下がさらに好ましい。
その際の反応溶媒としては、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテルなどのエーテル系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。また、これらの溶媒は、常法によりあらかじめ脱水しておくと高い反応収率が得られるため好ましい。また、反応剤のマロンジニトリルを溶媒として用いることもできる。原料の2−アダマンタノン等の溶解性が高い点から、テトラヒドロフランが好ましく、取り扱いが容易であることから、反応剤のマロンジニトリルを溶媒に用いることが好ましい。
反応剤のマロンジニトリルは、市販品を用いることができる。マロンジニトリルの使用量は、特に限定されないが、反応収率が高い点から原料カルボニル化合物に対して、1当量以上が好ましく、1.1当量以上がより好ましく、1.2当量以上がさらに好ましい。
反応温度は、特に限定されないが、用いる塩基によって適宜決めることが出来る。すなわち、n−ブチルリチウムなどの強い塩基を用いる場合には、副反応抑制の観点から0℃以下が好ましく、−30℃以下がより好ましい。また、反応速度が速くなる点で、−120℃以上が好ましく、−90℃以上がより好ましい。また、水酸化カリウムなどの比較的弱い塩基を用いる場合には、反応速度が速くなる点で、−40℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましい。また、副反応抑制の観点からは、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。また、必要に応じて、反応温度を反応中に変化させてもよい。
前記反応を行う場合は、塩基とマロンジニトリルの存在下に、原料のカルボニル化合物を添加することが好ましい。マロンジニトリルを塩基性条件で反応させる時間は、反応収率が高くなる点から15分以上が好ましく、30分以上がより好ましい。カルボニル化合物は、粉体のまま添加することもできるが、反応収率および取り扱いの容易さから、カルボニル化合物を溶媒に溶解し、滴下することが好ましい。カルボニル化合物を添加した後の反応時間は、反応収率の点から30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。
また、反応系内は、窒素やアルゴンなどの不活性ガスで置換しておくと、副反応が抑制されるため、好ましい。
また、得られた(メタ)アクリル酸エステルは、抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、再結晶など常法によって精製してもよいし、精製せずにそのまま(メタ)アクリル酸エステル化に供してもよい。
カルボニル化合物とマロンジニトリルとの反応の後は、(メタ)アクリル酸誘導体と反応させると(メタ)アクリル酸エステルが得られる。(メタ)アクリル酸誘導体としては、(メタ)アクリル酸クロリド、(メタ)アクリル酸ブロミドなどの(メタ)アクリル酸ハライド、および無水(メタ)アクリル酸などの酸無水物が挙げられる。
また、(メタ)アクリル酸エステルを製造する際には、重合が起こる場合があるため、重合禁止剤を添加することが好ましい。重合禁止剤としては、重合を抑制するものであれば特に限定されないが、ヒドロキノン、p−メトキシフェノール、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、フェノチアジン、ブチルヒドロキシトルエンなどが挙げられる。また、空気あるいは酸素を吹き込みながら反応を行うことも重合抑制に有効である。
また、得られた(メタ)アクリル酸エステルは、抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、再結晶など常法によって精製することが望ましい。
3.本発明の重合体および製造方法
本発明の重合体は、前記式(1−1)〜(1−10)のいずれかで表される(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含有する。
また、本発明の重合体は、3級エステルの4級炭素原子に、メチレン鎖を介した位置にシアノ基を有する。このような位置にシアノ基を有すると、耐熱性、光学特性、密着性などの諸性質も、成型材料、光学材料、レジストなどに用いた場合に好適である。
本発明の重合体は、単独重合体であっても、共重合体であってもよい。また、本発明の重合体を、他の重合体と混合したブレンドポリマーとして用いてもよい。
本発明の重合体を、共重合体として用いる場合には、本発明の(メタ)アクリル酸エステルと他の単量体とを共重合すればよい。他の単量体としては、目的に応じて任意の単量体が使用でき、共重合比も、目的に応じて適宜決めればよい。本発明の(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体は、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸n−プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸i−プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸n−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸i−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸t−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−n−プロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシ−n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸1−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル、(メタ)アクリル酸2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル、α−(トリ)フルオロメチルアクリル酸メチル、α−(トリ)フルオロメチルアクリル酸エチル、α−(トリ)フルオロメチルアクリル酸2−エチルヘキシル、α−(トリ)フルオロメチルアクリル酸n−プロピル、α−(トリ)フルオロメチルアクリル酸i−プロピル、α−(トリ)フルオロメチルアクリル酸n−ブチル、α−(トリ)フルオロメチルアクリル酸i−ブチル、α−(トリ)フルオロメチルアクリル酸t−ブチル、α−(トリ)フルオロメチルアクリル酸メトキシメチル、α−(トリ)フルオロメチルアクリル酸エトキシエチル、α−(トリ)フルオロメチルアクリル酸n−プロポキシエチル、α−(トリ)フルオロメチルアクリル酸i−プロポキシエチル、α−(トリ)フルオロメチルアクリル酸n−ブトキシエチル、α−(トリ)フルオロメチルアクリル酸i−ブトキシエチル、α−(トリ)フルオロメチルアクリル酸t−ブトキシエチル等の直鎖または分岐構造を持つ(メタ)アクリル酸エステル;
スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−ヒドロキシスチレン、p−t−ブトキシカルボニルヒドロキシスチレン、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシスチレン、3,5−ジメチル−4−ヒドロキシスチレン、p−t−ペルフルオロブチルスチレン、p−(2−ヒドロキシ−i−プロピル)スチレン等の芳香族アルケニル化合物;
(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸およびカルボン酸無水物;
エチレン、プロピレン、ノルボルネン、テトラフルオロエチレン、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、塩化ビニル、エチレン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルピロリドン等
が挙げられる。
また、本発明の重合体をレジスト材料として用いる場合には、本発明の(メタ)アクリル酸エステルと、下記式(16−1)〜(16−63)で表される単量体とを共重合することが、感度、解像度、ドライエッチング耐性などレジスト性能が優れる点から好ましい。中でも、解像度に優れる点では、下記式(16−1)、(16−2)、(16−4)、(16−16)で表される単量体が好ましく、ドライエッチング耐性に優れる点では、下記式(16−22)、(16−28)、(16−32)、(16−36)、(16−40)、(16−47)、(16−48)で表される単量体が好ましく、レジストパターン形状安定性に優れる点では、下記式(16−19)、(16−56)で表される単量体が好ましく、感度に優れる点では下記式(16−57)、(15−58)で表される単量体が好ましい。式中、Rは水素原子またはメチル基である。
【化4】

【化5】

【化6】

また、以上に例示された単量体は、必要に応じて1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明の重合体をレジスト組成物として用いる場合、重合体中の本発明の(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位の比率は、レジストパターン形状が良好であることから、2〜50モル%が好ましく、5〜30モル%がより好ましい。中でも、感度、解像度、ドライエッチング耐性、ラインエッジラフネス、密着といった性能に優れる点から本発明の(メタ)アクリル酸エステルと、前記式(16−1)〜(16−18)、(16−57)、(16−58)で表される単量体からなる群から選ばれる少なくとも一種の単量体と、前記式(16−23)〜(16−56)、(16−59)〜(16−63)で表される単量体からなる群から選ばれる少なくとも一種の単量体とを共重合することが好ましい。中でも、本発明の(メタ)アクリル酸エステルを5〜30モル%、前記式(16−1)〜(16−18)、(16−57)、(16−58)で表される単量体からなる群から選ばれる少なくとも一種の単量体を30〜70モル%、前記式(16−23)〜(16−56)、(16−59)〜(16−63)で表される単量体からなる群から選ばれる少なくとも一種の単量体を30〜65モル%の割合で共重合した3〜4元系共重合体が特に好ましい。
また、本発明の重合体において、各構成単位は任意のシーケンスを取り得る。したがって、本発明の重合体は、共重合体の場合、ランダム共重合体であっても、交互共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
また、本発明の重合体の質量平均分子量は特に限定されないが、1,000以上であることが好ましく、また、1,000,000以下であることが好ましい。本発明の重合体をレジスト材料として用いる場合には、重合体の質量平均分子量は、ドライエッチング耐性およびレジスト形状の点から、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましく、5,000以上であることが特に好ましい。また、本発明のレジスト用重合体の質量平均分子量は、レジスト溶液に対する溶解性および解像度の点から、100,000以下であることが好ましく、50,000以下であることがより好ましく、20,000以下であることが特に好ましい。
また、本発明の重合体は、本発明の(メタ)アクリル酸エステルを重合することによって製造できる。重合方法としては、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合が挙げられる。また、分子量、分子量分布や立体規則性を制御する必要がある場合には、リビング重合に代表される、精密重合と呼ばれる重合方法を用いてもよい。
一般に、重合体を得るための製造プロセスとしては、塊状重合プロセス、懸濁重合プロセス、乳化重合プロセス、気相重合プロセス、溶液重合プロセス等が存在する。これらの製造プロセスは、目的とする重合体の性質に応じて適宜決めればよい。例として、レジスト用共重合体を製造する場合を挙げると、光線透過率を低下させないために、重合反応終了後に残存する単量体を除去する必要があることと、共重合体の分子量を比較的低くする必要があること等から、前記プロセスの中でも、多くの場合、溶液重合プロセスが採用されている。さらに、溶液重合プロセスの中でも、製造バッチの違いによる平均分子量や分子量分布等の振れが小さく、再現性のある共重合体が簡便に得られることから、あらかじめ単量体、重合開始剤を有機溶剤に溶解させた単量体溶液を一定温度に保持した有機溶剤中に滴下する、いわゆる滴下重合法が、好適に用いられる。
また、本発明の重合体は、通常、重合開始剤の存在下で、本発明の(メタ)アクリル酸エステルを含むモノマー組成物を重合して得られる。このような重合開始剤を使用する重合では、まず重合開始剤のラジカル体が反応溶液中に生じ、このラジカル体を起点として単量体の連鎖重合が進行する。
本発明の重合体の製造に用いられる重合開始剤としては、熱により効率的にラジカルを発生するものが好ましい。このような重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;2,5−ジメチル−2,5−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン等の有機過酸化物などが挙げられる。
本発明の重合体を製造する際には、連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤を使用することにより、低分子量の重合体を製造する場合に重合開始剤の使用量を少なくすることができ、また、得られる重合体の分子量分布を小さくすることができる。
好適な連鎖移動剤としては、例えば、1−ブタンチオール、2−ブタンチオール、1−オクタンチオール、1−デカンチオール、1−テトラデカンチオール、シクロヘキサンチオール、2−メチル−1−プロパンチオール、2−メルカプトエタノール等が挙げられる。
重合開始剤の使用量は特に限定されないが、通常、使用する単量体全量に対して1〜20モル%が好ましい。また、連鎖移動剤の使用量は特に限定されないが、通常、使用する単量体全量に対して1〜20モル%が好ましい。
重合温度は特に限定されないが、通常、50℃以上であることが好ましく、150℃以下であることが好ましい。
滴下重合法において用いられる有機溶剤としては、用いる単量体、重合開始剤および得られる重合体、連鎖移動剤を併用する場合はその連鎖移動剤のいずれをも溶解できる溶剤が好ましい。このような有機溶媒としては、例えば、1,4−ジオキサン、イソプロピルアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン(以下「THF」とも言う。)、メチルイソブチルケトン、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下「PGMEA」とも言う。)、乳酸エチル等が挙げられる。
溶液重合等の方法によって製造された重合体溶液は、必要に応じて、1,4−ジオキサン、アセトン、THF、メチルイソブチルケトン、γ−ブチロラクトン、PGMEA、乳酸エチル等の良溶媒で適当な溶液粘度に希釈した後、メタノール、水等の多量の貧溶媒中に滴下して重合体を析出させることで精製してもよい。この工程は一般に再沈殿と呼ばれ、重合溶液中に残存する未反応の単量体や重合開始剤等を取り除くために非常に有効である。その析出物を濾別し、十分に乾燥して本発明の重合体を得る。また、濾別した後、乾燥せずに湿粉のまま使用することもできる。
【実施例】
【0011】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例、比較例において、(メタ)アクリル酸エステル、重合体の物性測定およびレジストの評価は以下の方法で行った。
1H、13C−NMRの測定>
日本電子(株)製、GSX−400型FT−NMR(商品名)を用いて、約5質量%のレジスト用重合体試料の重水素化クロロホルム、重水素化アセトンあるいは重水素化ジメチルスルホキシドの溶液を直径5mmφの試験管に入れ、測定温度40℃、観測周波数400MHz、シングルパルスモードにて、1H−NMRの場合は16回、13C−NMRの場合は64回の積算で行った。
<質量分析>
J&W Scientific製キャピラリーカラム:DB−5(長さ30m、内径0.32mm)を装着したヒューレット・パッカード製、5890シリーズIIガスクロマトグラフを用いて質量分析を行った。カラム温度は、初期値50℃で5min保持した後、10℃/minで250℃まで昇温、その後250℃で5分保持した。電子衝撃法にてイオン化したイオンを四重極マスフィルターを用いて質量分析を行った。
【0012】
<ガスクロマトグラフィー>
J&W Scientific製キャピラリーカラム:DB−5(長さ30m、内径0.32mm)を装着したヒューレット・パッカード製、5890シリーズIIガスクロマトグラフを用いて分析を行った。カラム温度は、初期値50℃で5min保持した後、10℃/minで250℃まで昇温、その後250℃で5分保持した。検出にはFID検出器を用いた。
<レジスト用重合体の重量平均分子量>
約20mgの重合体を5mLのTHFに溶解し、0.5μmメンブランフィルターで濾過して試料溶液を調製し、この試料溶液を東ソー製ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。この測定は、分離カラムは昭和電工社製、Shodex GPC K−805L(商品名)を3本直列にしたものを用い、溶剤はTHF、流量1.0mL/min、検出器は示差屈折計、測定温度40℃、注入量0.1mLで、標準ポリマーとしてポリスチレンを使用して測定した。
【0013】
<レジスト用重合体の平均共重合組成比(モル%)>
1H−NMRの測定により求めた。この測定は、日本電子(株)製、GSX−400型FT−NMR(商品名)を用いて、約5質量%のレジスト用重合体試料の重水素化クロロホルム、重水素化アセトンあるいは重水素化ジメチルスルホキシドの溶液を直径5mmφの試験管に入れ、測定温度40℃、観測周波数400MHz、シングルパルスモードにて、64回の積算で行った。
<レジスト組成物の調製>
製造したレジスト用重合体100部と、光酸発生剤であるトリフェニルスルホニウムトリフレート2部と、溶剤であるPGMEA700部とを混合して均一溶液とした後、孔径0.1μmのメンブランフィルターで濾過し、レジスト組成物溶液を調製した。
【0014】
<レジストパターンの形成>
調製したレジスト組成物溶液をシリコンウエハー上にスピンコートし、ホットプレートを用いて120℃、60秒間プリベークを行い、膜厚0.4μmのレジスト膜を形成した。次いで、ArFエキシマレーザー露光機(波長:193nm)を使用して露光した後、ホットプレートを用いて120℃、60秒間露光後ベークを行った。次いで、2.38質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いて室温で現像し、純水で洗浄し、乾燥してレジストパターンを形成した。
<感度>
ライン・アンド・スペース(L/S=1/1)を1/1の線幅に形成する露光量(mJ/cm2)を感度として測定した。
<解像度>
前記露光量で露光したときに解像されるレジストパターンの最小寸法(μm)を解像度とした。
【0015】
<ラインエッジラフネス>
マスクにおける0.20μmのレジストパターンを再現する最小露光量により得られた0.20μmのレジストパターンの長手方向の側端5μmの範囲について、日本電子製、JSM−6340F型電界放射形走査型電子顕微鏡(商品名)により、パターン側端があるべき基準線からの距離を50ポイント測定し、標準偏差を求めて3σを算出した。この値が小さいほど良好な性能であることを示す。
<実施例1>
式(1−1)で表される(メタ)アクリル酸エステル2.0g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2gをTHF8.0gに溶解し、窒素雰囲気下、攪拌しながら70℃で6時間加熱した。この溶液を1Lのメタノール中に滴下し、無色の沈殿を得た。これをろ過し、得られた粉末を、50℃の減圧乾燥機で24時間乾燥した。1.72gの下記式(3)で表される重合体を得た。
【化7】

<実施例2>共重合体A−1の合成
窒素導入口、攪拌機、コンデンサーおよび温度計を備えたフラスコに、窒素雰囲気下で、PGMEAを入れ、攪拌しながら湯浴の温度を80℃に上げた。前記式(1−1)で表される(メタ)アクリル酸エステル、2−メタクリロイルオキシ−2−メチルアダマンタン(以下、MAdMAという。)、下記式で表されるα−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン(以下、GBLMAという。)、
【化8】

PGMEAおよびAIBNを混合した単量体溶液を、滴下装置を用い、一定速度で6時間かけてフラスコ中へ滴下し、その後、80℃で1時間保持した。次いで、得られた反応溶液を約30倍量のメタノール中に攪拌しながら滴下し、無色の析出物の沈殿を得た。沈殿物に残存する単量体を取り除くために、得られた沈殿を濾別し、重合に使用した単量体に対して約30倍量のメタノール中で沈殿を洗浄した。そして、この沈殿を濾別し、減圧下50℃で約40時間乾燥した。式(1−1)/MAdMA/GBLMA=20/40/40(モル%)の組成の共重合体A−1を得た。
本発明によれば、新規な(メタ)アクリル酸エステルおよびその重合体を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明の重合体は、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂として有用である。特に、本発明の重合体を、DUVエキシマレーザーリソグラフィーあるいは電子線リソグラフィー等においてレジスト樹脂として用いた場合に、高感度、高解像度であり、ドライエッチング耐性、ラインエッジラフネスに優れているため、高精度の微細なレジストパターンを安定して形成することができる。そのため、本発明の重合体を用いたレジスト組成物は、DUVエキシマレーザーリソグラフィーあるいは電子線リソグラフィー、特にArFエキシマレーザー(波長:193nm)を使用するリソグラフィーに好適に用いることができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1−1)〜(1−10)のいずれかで表される(メタ)アクリル酸エステル。
【化1】

(式(1−1)〜(1−10)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【請求項2】
請求項1記載の(メタ)アクリル酸エステルを重合してなる重合体。
【請求項3】
塩基存在下で下記式(2)で表されるカルボニル化合物とマロンジニトリルとを反応させ、その後(メタ)アクリル酸誘導体を作用させる工程を含む前記式(1−1)で表される(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【化2】

【請求項4】
請求項2記載の重合体を含むレジスト組成物。


【公開番号】特開2006−22165(P2006−22165A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199767(P2004−199767)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】