説明

3点支持装置および3次元形状計測装置

【課題】高剛性で安定性のよい固定体接触支持と、低剛性で自由度の高いキネマティックマウント等を切り替え自在な3点支持装置を実現する。
【解決手段】被支持物体1を支持ベース2上に3点支持する3つの脚部3は、それぞれ、固定支柱12を被支持物体1の下面から突出する脚11に接触させて3点支持する高剛性の支持形態と、板バネを含む弾性支持手段14によって支持されたスラストベアリング15を脚11と一体であるフランジ13に接触させて、X、Y、ωX、ωY方向の4自由度をもつ低剛性で支持する支持形態とを有し、2つの支持形態をリフト機構であるベローズシリンダ16によって切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体露光装置等において精度の高い光学素子を支持する3点支持装置や、その光学素子を被検物として形状を計測する3次元形状計測装置に用いられる基準ミラーを取り付けたフレームや被検物など、1μm以下の変形が問題になるような被支持物体を支持する3点支持装置および3次元形状計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1μm以下の精度で光学素子や被検物等の被支持物体を保持または支持する公知の3点支持装置として、キネマティックマウントが挙げられる。キネマティックマウントは、被支持物体が搭載面の変形から受ける変形や、被支持物体の取り置きによる変形といった、形状変化を軽減し、変形前の被支持物体の形状の再現性を向上させる目的で考案された支持機構である。
【0003】
図6は一従来例によるキネマティックマウントの構成を示すもので、被支持物体201は、円錐状の凹部202およびV型溝203を有する底面との間に球体204〜206を介して3つの脚部207〜209により支持され、各脚部207〜209は支持ベース210に立設・固定される。第1の支持部は、支持ベース210に固定された第1の脚部207に設けられた円錐状の凹部207aと、被支持物体201の円錐状の凹部202と、円錐状の凹部202、207aに挿入される球体204から構成され、X、Y、Z方向の3方向に拘束し、各軸周りの回転成分ωX、ωY、ωZ方向の3自由度を持つ。第2の支持部は、支持ベース210に固定された第2の脚部208に設けられたV型溝208aと被支持物体201に設けられたV型溝203、およびV型溝203、208aに挿入される球体205から構成され、Y、Z方向の2方向に拘束し、X、ωX、ωY、ωZ方向の4自由度を持つ。第3の支持部は、支持ベース210に固定された第3の脚部209の上面209aと被支持物体201の下面に接触する球体206から構成され、X、Y、ωX、ωY、ωZ方向の5自由度を持ち、Z方向のみを拘束している。
【0004】
このように構成することで、例えば、支持ベース210に負荷されている荷重Fに変化があったり、熱分布状態が変化したりすることで、支持ベース210が被支持物体201に対して無視できない量で変形した場合でも、これに伴う被支持物体201の変形を無視できるレベルまで軽減することができる。また、被支持物体201をいったん取り外し、再びキネマティックマウント上に搭載した場合でも、被支持物体201の形状は初期状態からほとんど変化しない良好な再現性を得ることができる。
【0005】
次に、被支持物体の変形に対して良好な再現性を得る別の方法として、特許文献1に開示されている方法がある。これは、計測器で被検物の形状を計測する際に、被検物の持ち方や、載物台への載せ方による被検物の変形の影響を軽減するもので、例えば、図7に示す計測装置において、架台301上に、計測器303を保持する支柱302を立設し、架台301に支持されたスピンドル304の上端に、平面度が高く表面に給気穴306を有する載物台305を持つことで、搭載する面308aが平面である被検物308を載物台305に搭載後、圧縮空気供給部307から給気をして一旦被検物308を浮上させ、被検物308内部の歪を解放することで、載物台305上の被検物308を常に一定の状態に再現することができるように構成されている。
【特許文献1】特開2002−236013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図6に示した従来例によるキネマティックマウントでは3点の点接触による支持であるため、被支持物体を平面で支持した場合と比較すると、基本的に剛性を大きくとれない支持機構であるうえに、被支持物体と支持ベースの間には、1箇所の脚部あたり1個の球体が存在し、球体と被支持物体間、球体と支持ベースの双方が点接触であるから応力の集中する部分が弱く、点接触部の剛性が被支持物体と支持ベース間の剛性を支配する構成であるために剛性が小さくなるという未解決の課題があった。
【0007】
点接触部の剛性は、球体のヤング率や、球体の径を大きくすることで、向上は図れるが、特に被支持物体が、例えば1000kgを越す重量をもつような大重量物体を支持する場合、キネマティックマウントの各支持部の剛性を必要レベルにするためには、球体の径を極端に大型化する必要があり、物理寸法上、1箇所に球体1個の配置は実現が難しくなる。それに対する対策案として、1箇所あたりに1個ではなく、複数の球体を並べて用いることで、剛性を上げるという手法も考えられるが、1箇所あたりが複数点支持となり1点の支持ではなくなるために、面で支持した場合と同様に、複数点のどの位置を中心に荷重を受けるかのバラツキが発生し、再現性の劣化の原因となる。また、支持剛性が低くなると、例えば、計測装置の被検物の支持や、計測基準の構造体の支持に用いる場合、床からの振動や、装置の傾きによる重力加速度方向の変化など、外乱加速度の影響を受けやすくなり、計測精度の劣化の原因となる。
【0008】
また、図7に示した構成では、被検物を一旦空気によって浮上させて歪を解放することで、被検物の形状に再現性を得ることができ、計測中は面受けであるため剛性が強く、外乱加速度の影響も小さくすることができるが、被検物側に浮上するのに十分な面積をもった平面が必要になることや、計測中は面受けであるため、計測中の載物台の平面度の微小な変化は、そのまま被検物の形状を変化させてしまう可能性がある。
【0009】
加えて、被検物の取り置き時も、正確に決められた位置に被検物を搭載しないと、載物台の平面度の影響で、被検物の受け点が変化することになるため、被検物の取り置きの形状再現性も得られない可能性がある。
【0010】
本発明は、上記従来の技術の有する未解決の課題に鑑みてなされたものであり、被支持物体の歪を任意に解放することで形状変化を低減することが自在であり、しかも、キネマティックマウントよりも大きな支持剛性を得ることができる高性能で信頼性の高い3点支持装置および3次元形状計測装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明の3点支持装置は、支持ベースとの間に3つの脚部を介して被支持物体を支持する3点支持装置であって、少なくとも1つの脚部が、少なくともX、Y、Z方向の自由度を拘束する固定体による第1の支持機構と、X、Y、ωX、ωY方向の4自由度のうちの少なくとも1つを有する可動体による第2の支持機構と、前記第1および前記第2の支持機構を交互に不作動にするための切り替え手段とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
脚部の剛性を、固定体との接触による大きな剛性を有する支持形態から、被支持物体の剛性と比較して非常に小さな剛性の可動体による支持形態に切り替えて被支持物体内部の歪を解放したうえで、再び固定体との接触による大きな剛性の支持形態に戻すことにより、内部歪のない変形前の支持状態を大きな支持剛性で再現することができる。
【0013】
例えば、3つの脚部がそれぞれ被支持物体のX、Y、Z方向の3位置を高剛性で固定支持する状態から、総合的に6自由度拘束支持形態(キネマティックマウント)に切り替えるように構成することにより、X、Y、Z方向を固定した支持状態で被支持物体内部に発生した変形に起因する歪や、3つの脚部が固定されている支持ベースの変形の影響で発生した歪が、支持ベースと被支持物体の相対的な位置関係を変化させることなく解放される。このように歪を解消した状態で、再度3点の固定体接触による支持形態に切り替えることにより、被支持物体と支持ベースとの相対位置関係を変えることなく、被支持物体の変形前の形状を復元し、かつ、高剛性で安定した支持形態を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1に示すように、被支持物体1を、支持ベース2との間に3つの脚部3を介して支持する3点支持装置において、各脚部3は、固定体の接触によって水平2軸の方向であるX、Y方向および垂直1軸の方向であるZ方向に被支持物体1を拘束して支持する第1の支持機構(11、12)と、X、Y方向および、水平方向2軸周りの回転方向であるωX、ωY方向の計4自由度で移動可能な可動体の接触によって被支持物体1を支持する第2の支持機構(13〜15)と、前記第1および第2の支持機構による支持形態を交互に切り替える切り替え手段であるリフト機構16とを設ける。
【0015】
4自由度を有する第2の支持機構においては、例えば、X、Y方向のうちのY方向の自由度を拘束するXガイド等を付加することで、前記4自由度のうちの1〜3自由度を任意に拘束する構成に変更できる。
【実施例1】
【0016】
図1は実施例1による3点支持装置を示すもので、被支持物体1は、支持ベース2上に、3つの脚部3を介して3点支持されている。図2は、各脚部3の内部構成を拡大して示すもので、被支持物体1の底面から突出する例えば100mm以上の半径を持つ緩やかな球面の一部である球面部11aを備えた脚11と、支持ベース2に固定され、平面形状を有する平面座12aを備えた固定体である固定支柱12とからなる第1の支持機構においては、脚11が固定支柱12の平面座12aに接触支持され、被支持物体1は支持ベース2に対してX、Y、Z方向に拘束支持された極めて剛性の高い支持形態となる。
【0017】
各脚部3の第2の支持機構は、脚11を水平に一周囲むように、被支持物体1と一体に設けられたフランジ13に、リング状のハウジング14aを有する弾性支持手段14に支持された軸受手段であるスラストベアリング15を有し、スラストベアリング15は、2枚のリング状の平板15a、15bの間に挟まれた球体15cが保持器15dに保持された形で全周にわたって入っている。下側のリング状の平板15bの底面は、リング状のハウジング14aに固定され、ハウジング14aの底面は、リフト機構であるリング状のベローズシリンダ16に固定されている。ベローズシリンダ16は、2枚のリング状の平板16a、16bの間に、径方向寸法が異なる2つのベローズ状の筒16c、16dを溶接したもので、水平断面において二重管形状になっており、ベローズ状の筒16c、16dに挟まれた部分を空気室とし、給排気孔16eから、空気を出し入れすることで、Z方向に伸び縮みすることができる。ベローズシリンダ16は、支持ベース2に固定されており、ハウジング14aは、支持ベース2に固定されたスタンド14bに、Z方向のガイドとなる板バネ14cを介して連結されている。
【0018】
ベローズシリンダ16の給排気によって、ハウジング14aおよびスラストベアリング15を、板バネ14cの剛性が高いX、Y方向およびZ軸周りの回転方向であるωZ方向に拘束した状態でZ方向に移動させることが可能となる。
【0019】
ベローズシリンダ16に所定の圧力で給気を行い、ハウジング14aを上昇させると、脚11の球面部11aが、固定支柱12の平面座12aに点接触した状態から、スラストベアリング15の上方の平板15aの上面がフランジ13に当接され、この面を用いて、被支持物体1をリフトした状態になる。このリフトした状態では、被支持物体1は、支持ベース2上で、ベローズシリンダ16と、Z方向ガイドの板バネ14cと、スラストベアリング15等を含む可動体の接触によって拘束された状態となる。スラストベアリング15は、X、Y方向に、バネ性が無く転動するか、あるいは微小領域では、非常に柔軟なバネ性を示す。また、ベローズシリンダ16は、ωX、ωY方向に柔軟であり、Zガイドの板バネ14cも、ωX、ωYに柔軟であるため、リフトされた状態では、X、Y、ωX、ωY方向に柔軟でバネ性をもった支持形態となる。
【0020】
このように、各脚部3においては、ベローズシリンダ16への給気の有り無しによって、X、Y、Z方向の自由度を拘束する支持形態と、4自由度を有する支持形態を交互に切り替えることが可能である。
【0021】
3つの脚部3によって被支持物体1を図1に示すように3点支持した場合、3つの脚部3が給気を行っていない固定体の接触による支持形態では、被支持物体1に発生する変形は、解放することができない。例えば、被支持物体1を吊り上げて取り外し再び搭載した場合は、吊り上げた時の吊点位置は、支持点の位置と異なるために、吊り上げた状態の変形が発生し、再び搭載したときには、固定体の接触部の摩擦の影響で、被支持物体1は元の3点支持されていた状態には戻らず変形してしまう。また、被支持物体1を搭載した状態にて、支持ベース2が変形した場合も同様に固定体の接触部の摩擦の影響で、被支持物体1へ力が伝達するため、被支持物体1も変形してしまう。
【0022】
このような場合に、各脚部3に給気を行い、3点の支持を一旦4自由度の支持に切り替えることにより、被支持物体1の内部歪を解放することが可能となる。ただし、この状態では、支持剛性が大幅に低下した状態であるので、その後、再びX、Y、Z方向の自由度を拘束する支持に各脚部3を切り替えて、復元後の高剛性を維持する。
【0023】
ところで、図1の構成では、被支持物体の変形を支持剛性を落とすことなく、任意に解消することができるものの、各脚部を4自由度の支持に切り替えた時に、被支持物体には、支持ベースに対してX、Y、ωZ方向の3つの自由度が発生し、被支持物体の位置がずれてしまう可能性がある。以下に述べる実施例2は、このような不具合を解決するものである。
【実施例2】
【0024】
図3に示すように、被支持物体21は、支持ベース22上に構成の異なる3つの脚部23、24、25を介して支持されている。
【0025】
上記3つの脚部のうちの脚部25は、水平方2軸周りのωX、ωY方向と、垂直軸周りのωZ方向の、3つの自由度を有し、脚部24は、固定体の点接触にてX、Y、Z方向の3自由度を拘束する支持形態と、X、Y方向のうちの1軸方向およびωX、ωY方向の計3自由度方向に移動可能な可動体によって被支持物体21を支持する支持形態の、2種類の支持形態を有し、脚部23は、固定体の点接触にてX、Y、Z方向の3自由度を拘束する支持形態と、X、Y方向およびωX、ωY方向の計4自由度方向に移動可能な可動体によって被支持物体21を支持する支持形態の、2種類の支持形態を有することにより、被支持物体21の支持形態を、3点がそれぞれX、Y、Z方向の3自由度を拘束支持する状態と、3点の異なる支持形態の組み合わせにて総合的に6自由度拘束支持形態(キネマティックマウント)となる状態に切り替えることが自在である。
【0026】
脚部23は、実施例1の脚部3と、まったく同一構造であり、その内部を構成する部材は同じであるから同一符号で表わし、説明は省略する。脚部23の給気時の被支持物体21をリフトした状態では、X、Y、ωX、ωY方向に柔軟なバネ性をもった4自由度の支持形態となる。
【0027】
脚部24は、実施例1の脚部3のスラストベアリング15に、前記4自由度のうちのY方向の自由度を拘束するXガイド17を設けた以外は、まったく同じ構造である。すなわち、スラストベアリング15には、リング状の平板15aと15bの間に、Xガイド17を構成する板バネ17a、17bがスペーサ17cを間に挟む形で固定されている。このように構成することで、スラストベアリング15のリング状の平板15aと15bの相対的な動きに対する剛性が、動く方向によって異なり、X方向には小さな剛性を示すのに対し、Y方向には、大きな剛性を示す。また、Z方向には、球体15cの剛性と比較して、小さな剛性を示す。Xガイド17のバネ機構を追加することによって、ベローズシリンダ16に、所定の圧力の空気を供給すると、脚部24はスラストベアリング15を介して、被支持物体21をリフトすることができるが、スラストベアリング15の可動方向が、Y方向には拘束されているために、給気時の被支持物体21をリフトした状態では、X、ωX、ωY方向に柔軟なバネ性をもった、3自由度の支持形態となる。
【0028】
脚部25は、被支持物体21と一体である脚18を有し、その先端は球面形状18aとなっている。受け座19は、円錐状の凹部19aをもっており、両者を組み合わせることで、X、Y、Z方向の3つの自由度を拘束し、ωX、ωY、ωZ方向には可動である転動体を構成する。
【0029】
支持ベース22上に被支持物体21を支持した状態において、脚部23、24への給気の有無によって、支持剛性の大きい3点の固定体の接触による支持形態と、支持剛性は小さいが、被支持物体内部の歪を解放できる6自由度拘束支持形態であるキネマティックマウントに切り替えることが可能となる。
【0030】
3点支持の固定体の接触による支持形態では、例えば、被支持物体21を吊り上げて取り外し再び搭載した場合、吊り上げた時の吊点位置は、支持点の位置と異なるために、吊り上げた状態の変形が発生し、再び搭載しただけでは、固定体の接触支持部の摩擦の影響で元の状態には戻らず、被支持物体21は変形している。また、被支持物体21を搭載した状態にて、支持ベース22が変形した場合も同様に固定体の接触支持部の摩擦の影響で、被支持物体21へ力が伝達するため、被支持物体21も変形してしまう。そのような場合に、脚部23、24に給気を行い、一時的に6自由度拘束支持形態に切り替えることにより、被支持物体21内部の歪を解放する。その後、再び各支持部をX、Y、Zの3自由度拘束の固定体の接触支持に切り替えることにより、高剛性の支持状態を維持することができる。また、脚部23、24へ給気した時も、被支持物体21は、キネマティックマウントによって支持ベース22に対して6自由度拘束された状態であるため、被支持物体21の位置関係は支持ベース22に対してずれることがない。
【実施例3】
【0031】
図5は実施例3による3次元形状計測装置を示すもので、吸振部材101を介して床面に支持された測定台102上の被測定物103の被測定面に沿って、触針であるプローブ104を移動させ、プローブ104の3次元位置と、測定基準である基準ミラー105a〜105cとの相対距離を計測することで被測定物103の表面形状を計測する。被測定物103を搭載する測定台102と、基準ミラー105a〜105cを保持するフレーム106とは、計測中はその相対間距離を常に一定に保つ必要があり構造上連結されていなければならない。しかし、同時に、各基準ミラー105a〜105c自体は、被測定物103の取り外し等に発生する測定台102の変形の影響を受けて変形しないことが必要となる。このために、基準ミラー105a〜105cを支持するフレーム106の支持構造に、実施例2による3点支持装置を用いることで、フレーム106に歪が生じた際には、支持形態をキネマティックマウントに切り替えて、フレーム106と測定台102の間の相対移動を可能にすることで歪を解放し、フレーム106をもとの安定形状に復帰させる。そして、再び高剛性の固定体接触支持に切り替える。
【0032】
測定中は、被測定物103を搭載する測定台102と基準ミラー105a〜105cを保持するフレーム106とが構造上連結された状態を維持し、床からの振動や、装置の傾きによる重力加速度方向の変化など、外乱加速度の影響を基準ミラー105a〜105cが受けにくく、その相対間距離を常に一定に保つことができるため、高精度な3次元形状計測が可能となる。
【0033】
同様に被測定物103の支持構造にも、実施例2による3点支持装置を用いて、被測定物103の測定台102への取り置き後、一時的に支持形態をキネマティックマウントに切り替えて、被測定物103と測定台102の間の相対移動を可能にすることで、被測定物103の取り置き時に発生した歪を解放する。その後、再び支持形態を元に戻すことで、形状測定時は支持剛性の大きい3点の固定体接触による支持形態で支持する。このようにして、形状変化のない状態で被測定物103を支持し、同時に外乱加速度等の影響を受けることなく、極めて高精度で安定した3次元形状計測が可能となる。
【0034】
図5の3次元形状計測装置の駆動部は、床面に支持された定盤110上にYスライド111、転動ガイド112、回転モーター(不図示)に連結された送りねじ113を有する。Yスライド111上には、Xスライド114、転動ガイド115、送りねじ116、回転モーター117が設けられる。さらに、Xスライド114上には、Zスライド118、Zスライドガイド119、送りねじ120、回転モーター121が設けられている。Zスライド118の先端には、接触式のプローブ104を支持するハウジング130が固定されている。
【0035】
接触式のプローブ104は、被測定物103の表面のZ方向高さを測定するためのものであり、ハウジング130に対して平行板バネ131a〜131dを介してZ方向のみ移動可能に支持されている。プローブ104の下端には、形状精度が高いことが保証されている球であるマスターボール104aが取り付けられており、上部には、ミラー104bが設けられている。Zスライド118のプローブ104の直上方の位置には、レーザー干渉計134が設けられており、Z基準ミラー105cとプローブ104上部のミラー104bとの距離Z1を計測する。ハウジング130には、ミラー104bの位置を検出する変位センサー132が取り付けられており、ハウジング130に対するプローブ104の相対変位を検出する。プローブ104を被測定物103の表面上に接触させた状態にて、X、Yスライド111、114を駆動し、被測定物103の表面上を走査する際、Zスライド118の位置を制御することで、プローブ104の被測定物103への押し付け圧を一定にすることが可能となる。また、Zスライド118の先端部には、Zスライド118のX方向の距離を測定するためのレーザー干渉計135、136が設けられており、Zスライド118上下の2箇所とX基準ミラー105aとの距離X1、X2を測定する。Y方向においても同様なレーザー干渉計(不図示)が設けられており、Zスライド118の上下2箇所と、Y基準ミラー105bとの間の距離Y1、Y2を測定する。X、Y、Zの基準ミラー105a〜105cは、一つの構造体であるフレーム106に保持されており、フレーム106は、測定台102に対して、図4に示した脚部23〜25と同じ構成の支機構材による3点支持装置107によって支持されている。また、被測定物103も同様の3点支持装置108によって、測定台102に支持されている。
【0036】
被測定物103の表面をプローブ104が、被測定物103への押し付け圧を一定に保ちながら走査した時の、距離Z1と距離X1、X2、Y1、Y2を同時に測定することで、被測定物103に接触しているマスターボール104aのX、Y、Zの基準ミラー105a〜105cからの相対距離を正確に知ることができる。この位置情報には、被測定物103の表面の3次元形状の他に、例えば、フレーム106や、測定台102、Zスライド118等のさまざまな周波数成分を持った構造体の固有振動数が原因のノイズが混入している。しかし、それらのノイズは時間的な周波数をもった成分であり、被測定物103の表面の3次元形状は、時間的な周波数を持っていない成分であるため、所定の時間に平均化を行うことによって、周波数成分のみのキャンセルが可能であり、被測定物103の表面の3次元形状のみを抽出することが可能である。
【0037】
この3次元形状計測装置においては、被測定物103の表面形状は、フレーム106に保持された基準ミラー105a〜105cからのマスターボール104aの位置情報から求められる。ゆえに、基準ミラーを支持するフレーム106の変形は、被測定物103の測定形状誤差要因になるため、フレーム106は常に同一の形状を保つことが望まれる。また、計測中の、被測定物103とフレーム106の相対変位の変化も誤差の要因となるため、測定中は、フレーム106と測定台102は強固に連結されてフレーム106と測定台102間の固有振動数もなるべく高くとることが望ましい。また、測定台102に搭載される被測定物103は、様々な形状、重量を持っており、様々な被測定物を搭載する度に、測定台102の変形状態が変わる。この問題に対処するために、本実施例では、基準ミラーを支持するフレーム106は測定台102に対し、実施例2と同様の3点支持装置107を用いて支持されている。
【0038】
すなわち、脚部23、25への給気の有無によって、フレーム106の支持形態は、支持剛性の大きい3点の固定体接触による支持形態と、被支持物体内部の歪を解放できる3点の6自由度拘束支持形態(キネマティックマウント)に切り替えることができる。被測定物103を測定台102へ搭載後、脚部23、24への給気を行い、6自由度拘束支持にすることで、測定台102の変形の影響等でフレーム106に発生した歪を解放した後、脚部23、24の排気を行い、形状測定時は支持剛性の大きい3点の固定体の接触支持に切り替える。
【0039】
また、被測定物103も同様に、実施例2と同様の3点支持装置108を用いて支持されているため、測定台102への取り置き時の歪を解放し、形状測定時は支持剛性の大きい3点の固定体接触支持で支持することができる。
【0040】
このようにして、基準ミラー105a〜105cを支持するフレーム106および被測定物103の形状の再現性の向上を図り、同時に、常時キネマティックマウントで支持した場合と比較して計測中のフレーム106等の支持剛性を大きくとることができ、測定時の構造体の固有振動数が原因のノイズ周波数を高く、振幅を小さくすることが可能となる。その結果、計測精度の向上と、ノイズ平均化のためのデータサンプリング時間の短縮による測定時間の短縮等に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1による3点支持装置を示すもので、(a)はその平面図、(b)は各脚部のみを断面で示す立面図である。
【図2】図1の脚部の内部構成を示す断面図である。
【図3】実施例2による3点支持装置を示すもので、(a)はその平面図、(b)は各脚部のみを断面で示す立面図である。
【図4】図3の各脚部の内部構成を示す図である。
【図5】実施例3による3次元形状計測装置を示す模式図である。
【図6】一従来例によるキネマティックマウントを示す図である。
【図7】別の従来例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1、21 被支持物体
2、22 支持ベース
3、23、24、25 脚部
11、18 脚
12 固定支柱
13 フランジ
14 弾性支持手段
14a ハウジング
14b スタンド
14c 板バネ
15 スラストベアリング
15a、15b 平板
15c 球体
15d 保持器
16 ベローズシリンダ
17 Xガイド
19 受け座
102 測定台
103 被測定物
104 触針
105a〜105c 基準ミラー
106 フレーム
107、108 3点支持装置
110 定盤
111 Yスライド
114 Xスライド
118 Zスライド
134〜136 レーザー干渉計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持ベースとの間に3つの脚部を介して被支持物体を支持する3点支持装置であって、少なくとも1つの脚部が、少なくともX、Y、Z方向の自由度を拘束する固定体による第1の支持機構と、X、Y、ωX、ωY方向の4自由度のうちの少なくとも1つを有する可動体による第2の支持機構と、前記第1および前記第2の支持機構を交互に不作動にするための切り替え手段とを備えていることを特徴とする3点支持装置。
【請求項2】
支持ベースとの間に3つの脚部を介して被支持物体を支持する3点支持装置であって、第1の脚部が、少なくともX、Y、Z方向の自由度を拘束する固定体による支持形態と、X、Y、ωX、ωY方向の4自由度を有する可動体による支持形態とを交互に切り替え自在であり、第2の脚部が、少なくともX、Y、Z方向の自由度を拘束する固定体による支持形態と、X、Y方向のいずれか一方およびωX、ωY方向の3自由度を有する可動体による支持形態とを交互に切り替え自在であり、第3の脚部が、ωX、ωY、ωZ方向の3自由度を有する転動体による支持形態を有することを特徴とする3点支持装置。
【請求項3】
前記可動体が、2枚の平板の間に複数の球体を有する軸受手段と、前記軸受手段を弾力的に支持する弾性支持手段とを備えていることを特徴とする請求項1または2記載の3点支持装置。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1項記載の3点支持装置と、測定台と、触針とを有し、前記3点支持装置を介して前記測定台上に被測定物を支持し、前記被測定物の被測定面に前記触針を接触させ、前記被測定面に沿って移動させながら前記触針の3次元位置を計測することを特徴とする3次元形状計測装置。
【請求項5】
請求項1ないし3いずれか1項記載の3点支持装置と、被測定物を支持する測定台と、触針と、前記触針の3次元位置を計測するための測定基準を有するフレームとを有し、前記3点支持装置を介して前記測定台上に前記フレームを支持し、前記被測定物の被測定面に前記触針を接触させ、前記被測定面に沿って移動させながら前記触針の3次元位置を計測することを特徴とする3次元形状計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−78187(P2006−78187A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259203(P2004−259203)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】